説明

非水系空気電池及びその触媒

【課題】高容量のエネルギーを放電可能な非水系空気電池を提供する。
【解決手段】非水系空気電池は、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を負極活物質とする負極と酸素を正極活物質とする正極とを非水電解質を介して配置した非水系空気電池であって、前記正極は、ポルフィリン環を有する電子供与性のドナー(D)とフラーレン誘導体である電子受容性のアクセプタ(A)とを導電性のスペーサを介して連結したドナー・アクセプタ分子を含むものである。例えば、ドナー・アクセプタ分子としてはトリフェニルポルフィニルビチエニルフラーレンなどが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系空気電池及びその触媒に関し、詳しくはリチウムイオンを吸蔵放出する材料を負極活物質とする負極と酸素を正極活物質とする正極とを非水電解質を介して配置した非水系空気電池及びその触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や電子メール端末などの携帯型情報機器の市場が急速に拡大しつつある。また、環境問題やエネルギ危機の観点からハイブリッド車や電気自動車が注目を浴びつつある。こうした背景を踏まえ、高エネルギの蓄電デバイスの開発が進められている。
【0003】
リチウムは、標準還元電位が−3.05Vであり、電気化学列で最も卑な金属である。このため、リチウムを負極とする蓄電デバイスの動作電圧は高く、高エネルギーとなる。また、リチウムの原子量は金属中で最も小さいため、その理論容量は3862mAh/gと非常に大きい。したがって、リチウムを負極に用いるとエネルギー密度の高い蓄電デバイスを得ることが可能となる。
【0004】
一方、負極活物質に金属を用い、正極活物質に空気中の酸素を用いる充放電可能な空気電池が知られている。こうした空気電池では、正極活物質である酸素を電池内に内蔵する必要がないため高容量化が期待される。リチウムを負極活物質とする空気電池では、正極において酸素の電気化学反応が起こり、放電時にリチウム過酸化物やリチウム酸化物が生成し、充電時にこれらの酸化物が分解して酸素ガスが生成する。このような正極での酸素の酸化還元反応を促進するために、正極には触媒を含めることが多い。例えば特許文献1には、触媒としてコバルトフタロシアニンやコバルトポルフィリンを正極表面に担持させることが記載されている。また、非特許文献1には電解二酸化マンガンを担持させることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−286414号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ、128巻、1390−1393頁、2006年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの触媒を用いた空気電池では、触媒の性能が十分でなく、高容量のエネルギを得ることは難しかった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、高容量のエネルギーを放電可能な非水系空気電池及びその触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、トリフェニルポルフィリンとフラーレンC60にピロリジンを縮環したフラーレン誘導体とをビチオフェンで連結した化合物を還元触媒として非水系空気電池の正極に添加したところ、他の還元触媒(電解二酸化マンガンやテトラフェニルポルフィリンなど)を添加した場合に比べて格段に高容量のエネルギーを放電することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の非水系空気電池は、チウムイオンを吸蔵放出する材料を負極活物質とする負極と酸素を正極活物質とする正極とを非水電解質を介して配置した非水系空気電池であって、前記正極は、ポルフィリン環を有する電子供与性のドナー(D)とフラーレン誘導体である電子受容性のアクセプタ(A)とを導電性のスペーサを介して連結したドナー・アクセプタ分子を含むものである。
【0009】
また、本発明の非水系空気電池用触媒は、還元反応を促進する能力を有し非水系空気電池の正極に添加される触媒であって、ポルフィリン環を有する電子供与性のドナー(D)とフラーレン誘導体である電子受容性のアクセプタ(A)とを導電性のスペーサを介して連結したドナー・アクセプタ分子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の非水系空気電池によれば、従来の還元触媒を正極に添加した場合に比べて、格段に高容量のエネルギーを放電することができる。このような効果が得られる理由は定かではないが、アクセプタであるフラーレン誘導体は、リチウムイオンをその球殻内に取り込むだけでなく表面上で酸素の還元に寄与し、また、ドナーであるポルフィリン環も酸素の還元に寄与し、両者の相乗効果により高エネルギ密度が実現されたと推定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の非水系空気電池において、負極は、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を負極活物質として含んでいる。ここで、リチウムイオンを吸蔵放出する材料としては、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、金属酸化物、金属硫化物、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えばアルミニウムやスズ、マグネシウム、インジウム、カルシウムなどとリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、例えばスズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物などが挙げられる。金属硫化物としては、例えばスズ硫化物やチタン硫化物などが挙げられる。リチウムイオンを吸蔵放出する炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。
【0012】
本発明の非水系空気電池において、正極は、酸素を正極活物質とする。なお、大気に含まれる酸素を利用するため、電池内に酸素を内蔵する必要はない。正極は、還元触媒として、ポルフィリン環を有する電子供与性のドナー(D)とフラーレン誘導体である電子受容性のアクセプタ(A)とを導電性のスペーサを介して連結したドナー・アクセプタ分子を含んでいる。こうしたドナー・アクセプタ分子のうち、ドナー(D)は、例えばポルフィリン、シトポルフィリン、ウロポルフィリン、コプロポルフィリン、ヘマトポルフィリン、メソポルフィリン、プロトポルフィリン、ロドポルフィリン、フィロポルフィリン、エチオポルフィリン、ピロポルフィリン、ジュウテロポルフィリン、クロリン、バクテリオポルフィリン、イソバクテリオクロリン、ポルフィリノゲン、ホルビン、フィトポルフィリン、ポルフィラジン、フタロシアニンなどが挙げられ、これらは無置換であってもよいし、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等)やアルキニル基(例えばビニル基やアリル基等)、アリール基(例えばフェニル基やトリル基等)などの置換基を有していてもよい。このうち、入手しやすさ等を考慮すると、トリフェニルポルフィリンが好ましい。また、こうしたポルフィリン環は金属イオンを持たないポルフィリンであってもよいし、MgやNiなどの金属イオンを持つポルフィリン金属錯体であってもよい。アクセプタ(A)は、例えばC60,C70,C74,C76,C78,C80,C82,C84,C90又はC96のフラーレン骨格に含窒素複素環及び炭化水素環の少なくとも一方が縮環したフラーレン誘導体であることが好ましく、スペーサは、縮環した含窒素複素環又は炭化水素環縮とドナーとを連結していることが好ましい。フラーレン骨格としては、フラーレンC60が製造コストが安いという理由から好ましい。含窒素複素環としては、合成しやすさの点からピロリジン環が好ましい。ピロリジン環の窒素は、無置換でもよいし、前出と同様のアルキル基やアルキニル基、アリール基などの置換基を有していてもよい。また、炭化水素環としては、例えばシクロプロパン環等の飽和炭化水素環やシクロヘキセン環等の不飽和炭化水素環などが挙げられる。なお、含窒素複素環や炭化水素環が複数縮環している場合には、そのうちの一つとドナーとがスペーサによって連結されていればよい。また、縮環している含窒素複素環や炭化水素環は、その環上に前出のアルキル基やアルキニル基、アリール基のほか、エステル基などの置換基を有していてもよい。スペーサとしては、導電性を有していれば特に限定されないが、例えば、ビチオフェン、テトラチオフェン、ヘキサチオフェン、オクタチオフェン、3−ヘキシルビチオフェン、3−ブチルビチオフェン、3−オクチルビチオフェンなどの複数個のチオフェン環が結合したものが挙げられる。なお、各チオフェン環は、その環上に前出のアルキル基やアルキニル基、アリール基などの置換基を有していてもよいし、炭化水素環が縮環していてもよい。ドナー・アクセプタ分子を金属ニッケル又はニッケル酸化物などのニッケル系の還元触媒と共に用いると、非水系空気電池の放電容量が著しく増大するので好ましい。
【0013】
本発明の非水系空気電池において、正極は、導電材を含んでいてもよい。導電材としては、導電性を有する材料であれば特に限定されない。例えば、ケッチェンブラックやアセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類でもよいし、鱗片状黒鉛のような天然黒鉛や人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類でもよいし、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類でもよいし、銅や銀、ニッケル、アルミニウムなどの金属粉末類でもよいし、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料でもよい。また、これらを単体で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0014】
本発明の非水系空気電池において、正極は、バインダを含んでいてもよい。バインダとしては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0015】
本発明の非水系空気電池において、正極は、例えばドナー・アクセプタ分子と導電材とバインダとを混合したあと、集電体にプレス成形して形成してもよい。このとき、ドナー・アクセプタ分子の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば導電材100重量部に対して3〜10重量部としてもよい。混合方法としては、N−メチルピロリドンなどの溶媒中で湿式混合してもよいし、乳鉢などを使って乾式混合してもよい。集電体としては、特に限定するものではないが、例えば、InSnO2,SnO2,ZnO,In22などの透明導電材、フッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)、錫ドープ酸化インジウム(In23:Sn)、ZnO,Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)などの不純物がドープされたそれらの材料等の単層又は積層層を、ガラスや高分子状に形成させたものを用いることができる。その膜厚は、特に限定されるものではないが、3nmから10μm程度が好ましい。なお、ガラスや高分子の表面がフラットなものでもよいし、表面に凹凸を有しているものでもよい。また、集電板として、ステンレス鋼やアルミニウム、銅、ニッケルなどの金属板や金属メッシュを用いることもできる。このうち、ニッケルメッシュを用いることが非水系空気電池の放電容量を著しく増大させる点で好ましい。
【0016】
本発明の非水系空気電池において、非水電解質については、特に限定されるものではないが、支持塩を含む電解液やゲル電解質、固体電解質などを用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6,LiClO4,LiBF4,Li(CF3SO22N,(C254NBF4,(C494NBF4,(C254NPF6、(C494NPF6などの公知の支持塩を用いることができる。また、支持塩としては、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミドや1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどのイオン性液体を用いることもできる。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。電解液の溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)など従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。ゲル電解質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子類またはアミノ酸誘導体やソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質が挙げられる。固体電解質としては、無機固体電解質や有機固体電解質などが挙げられる。無機固体電解質としては、例えば、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などがよく知られている。なかでも、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、xLi3PO4−(1−x)Li4SiO4、Li2SiS3、Li3PO4−Li2S−SiS2、硫化リン化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリホスファゼン、ポリエチレンスルフィド、ポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0017】
本発明の非水系空気電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水系空気電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0018】
本発明の非水系空気電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。本発明の非水系空気電池の一例を図1に模式的に示す。この非水系空気電池10は、リチウム金属箔からなる負極14とドナー・アクセプタ分子16aを含む正極16とを非水電解液18を介して離間して配置したものである。このうち、正極16は、ドナー・アクセプタ分子16aのほか導電材16bやバインダ16cを混合したあと集電体であるニッケルメッシュ16dにプレス成形して作製されている。また、正極16は、酸素と接触するようになっている。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
ドナー・アクセプタ分子として、トリフェニルポルフィリンとピロリジン環が縮環したフラーレンC60とをビチオフェンで連結したトリフェニルポルフィニルビチエニルフラーレン(下記化1参照)を以下のようにして合成した。すなわち、まず、フラーレンC60(アルドリッチ製)100mgをトルエン100mLに室温にて溶解させ、滴下ロート、冷却管及びアルゴン導入管を備えた200mLの三ツ口フラスコに移した。次に、N−メチルグリシン(アルドリッチ製)24.8mgを加え、続いてトリフェニルポルフィニルビチオフェンアルデヒド488mgを溶解したジメチルホルムアミド(DMF)10mLを滴下ロートより滴下した。滴下終了後、直ちに加熱してトルエンを還流させ、反応させた。15時間還流後、トルエンとDMFを脱気・除去し、得られた固形物を再びトルエンに溶解させ、シリカゲルクロマトグラフに通して、未反応のフラーレンC60及び不純物を除去して目的物を得た。得られた黒色の粉末をトルエンに溶解してUV−VISスペクトルを測定したところ、図2に示すように、421nm,656nmにポルフィリン環に由来するピーク、367nmにビチオフェンに基づくピーク及び310nmにフラーレンに由来するピークが観測されたため、目的とするドナー・アクセプタ分子が得られたと判断した(図4参照)。
【化1】

【0020】
なお、トリフェニルポルフィニルビチオフェンアルデヒドは以下のようにして合成した。まず、ベンズアルデヒド983mgとピロール829mgとビチオフェンアルデヒド601mgとをプロピオン酸150mL中に入れ、140℃で3時間反応させた。反応終了後の溶液をクロマトグラフにかけて分離することにより、トリフェニルポルフィニルビチオフェン540mgを得た。一方、これとは別に、DMF640mgを含むサンプル瓶にオキシ塩化リン(アルドリッチ製)340mgをグローブボックス内でゆっくりと滴下して反応させた。この溶液150μLにジクロロエタン10mLを加え、滴下ロート、冷却管及びアルゴン導入管を備えた100mLの三ツ口フラスコに移した。そして、先ほど合成したトリフェニルポルフィニルビチオフェン153.3mgを溶解したジクロロエタン50mLを滴下ロートよりフラスコ内にゆっくりと室温下、滴下した。滴下終了後、直ちにオイルバスでフラスコを50℃まで加熱し、50℃にて3時間撹拌を続けることで、トリフェニルポルフィニルビチエニルアルデヒドを得た。
【0021】
正極は、次のようにして作成した。ケッチェンブラック(デグサ製の商品名プリンテックス)146mg、上記化1のトリフェニルポルフィニルビチオニルフラーレンを10mg、テフロンパウダ(ダイキン工業製,テフロンは登録商標)を12mgを乾式で乳鉢を用いて練り合わせてシート状の正極部材を得た。この正極部材6mgをSUS304のステンレスメッシュに圧着して正極とした。
【0022】
負極には、直径10mm,厚さ0.5mmの金属リチウム(本城金属製)を用いた。図3に模式図を示す北斗電工製のF型電気化学セルに、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で正極と負極をセットし、1Mのリチウムヘキサフルオロホスフェートのエチレンカーボネート・ジエチルカーボネート溶液(富山薬品製)を電解液として5mL注入した。なお、F型電気化学セルのガス溜めにはドライ酸素を充填し、非水系空気電池を得た。このF型電気化学セルでは、正極と負極とは図示しない樹脂を介して電気的に絶縁されている。
【0023】
このようにして組み立てたF型電気化学セルを北斗電工製の充放電装置(型名HJ1001SM8A)に接続し、正極と負極との間で0.1mAの電流を流して開放端電圧が1.8Vまで放電した。そうしたところ、正極部材重量あたりの放電容量は5272mAh/gであった。
【0024】
[比較例1]
実施例1のトリフェニルポルフィニルビチエニルフラーレン(化1参照)の代わりに、電解二酸化マンガン(三井高山製)を用いて正極部材を作製した。すなわち、ケッチェンブラック(デグサ製プリンテックス)を220mg、電解二酸化マンガン10mg、テフロンパウダ(ダイキン工業製)を10mg使用してシート状の正極部材を作製した以外は、実施例1と同様にして非水系空気電池を組み立てた。このときの正極部材重量あたりの放電容量は2789mAh/gであった(図5参照)。
【0025】
[実施例2]
実施例1のトリフェニルポルフィニルビチエニルフラーレン(化1参照)の代わりに、下記化2に示すトリフェニルポルフィニルビチエニルフラーレンジエチルエステルを用いた以外は、実施例1と同様にして非水系空気電池を組み立てた。この非水系空気電池につき、正極と負極との間で0.1mAの電流を流して開放端電圧が2Vになるまで放電したところ、正極部材重量あたりの放電容量は4065mAh/gであった(図6参照)。
【化2】

【0026】
なお、化2の化合物は、実施例1のフラーレンC60の代わりにフラーレンC60のジエチルエステルを用いることにより得た。ここで、フラーレンC60のジエチルエステルは、公知文献(ケミッシェ・ベリヒテ(Chemische Berichte)、126巻、1957−1959頁、1993年)にしたがって合成した。すなわち、まず、フラーレンC60210mgをトルエン100mLに溶解した後、冷却管及びアルゴン導入管を備えた100mLの三ツ口フラスコに移し、これに水素化ナトリウム(30%流動パラフィン添加)99mgとブロモマロン酸ジエチル)104mgを加え、室温にて6.5時間撹拌して反応させた。続いて、2N硫酸を8滴滴下し、無水硫酸マグネシウムを加えて1時間放置し、脱水した。最後に反応溶液をエバポレータで濃縮した後、シリカゲルクロマトグラフで分離して、フラーレンC60のジエチルエステルを得た。
【0027】
[実施例3]
ステンレスメッシュの代わりにニッケルメッシュ(ニラコ製)を用いた以外は、実施例1と同様にして非水系空気電池を作製した。この非水系空気電池の正極部材重量あたりの放電容量を測定したところ、14560mAh/gであった。この結果から、ドナー・アクセプタ分子は、ニッケルと併用すると、ニッケルと併用しなかった場合(実施例1)に比べて、放電容量が著しく増大することがわかった。
【0028】
[比較例2]
還元触媒として、ドナー・アクセプタ分子であるトリフェニルポルフィニルビチエニルフラーレン(化2参照)の代わりに、ドナー分子であるテトラフェニルポルフィリン(アルドリッチ製)を用いた以外は、実施例3と同様にして非水系空気電池を作製した。この非水系空気電池の正極部材重量あたりの放電容量を測定したところ、5944mAh/gであった(図7参照)。
【0029】
[比較例3]
還元触媒として、ドナー・アクセプタ分子であるトリフェニルポルフィニルビチエニルフラーレン(化2参照)の代わりに、アクセプタ分子であるフラーレンC60(東京化成工業製)を用いた以外は、実施例3と同様にして非水系空気電池を作製した。この非水系空気電池の正極部材重量あたりの放電容量を測定したところ、7552mAh/gであった(図7参照)。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の非水系空気電池は、主に電気化学産業に利用可能であり、例えばハイブリッド車や電気自動車の動力源、携帯電話やパソコンなど民生用家電機器の電源、ロードレベリング(負荷平準化)などへの電気化学的デバイスに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の非水系空気電池の模式図である。
【図2】実施例1のドナー・アクセプタ分子のUVスペクトルのチャートである。
【図3】F型電気化学セルの模式図である。
【図4】実施例1の時間に対する開放端電圧の変化を表すグラフである。
【図5】比較例1の時間に対する開放端電圧の変化を表すグラフである。
【図6】実施例2の時間に対する開放端電圧の変化を表すグラフである。
【図7】比較例2,3の時間に対する開放端電圧の変化を表すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
10 非水系空気電池、14 負極、16 正極、16a ドナー・アクセプタ分子、16b 導電材、16c バインダ、16d ニッケルメッシュ、18 電解液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵放出する材料を負極活物質とする負極と酸素を正極活物質とする正極とを非水電解質を介して配置した非水系空気電池であって、
前記正極は、ポルフィリン環を有する電子供与性のドナー(D)とフラーレン誘導体である電子受容性のアクセプタ(A)とを導電性のスペーサを介して連結したドナー・アクセプタ分子を含む、
非水系空気電池。
【請求項2】
前記ドナー・アクセプタ分子のうち、前記アクセプタ(A)は、C60,C70,C74,C76,C78,C80,C82,C84,C90又はC96のフラーレン骨格に含窒素複素環及び炭化水素環の少なくとも一方が縮環したフラーレン誘導体であり、前記スペーサは、複数個のチオフェン環が結合して構成され前記含窒素複素環又は前記炭化水素環と前記ドナーとを連結するものである、
請求項1に記載の非水系空気電池。
【請求項3】
前記ドナー・アクセプタ分子のうち、前記アクセプタ(A)は、C60,C70,C74,C76,C78,C80,C82,C84,C90又はC96のフラーレン骨格にピロリジン環が縮環したフラーレン誘導体であり、前記スペーサは、複数個のチオフェン環が結合して構成され前記ピロリジン環と前記ドナーとを連結するものである、
請求項2に記載の非水系空気電池。
【請求項4】
前記正極は、前記ドナー・アクセプタ分子とニッケルとを併用したものである、
請求項1〜3のいずれかに記載の非水系空気電池。
【請求項5】
還元反応を促進する能力を有し、非水系空気電池の正極に添加される非水系空気電池用触媒であって、
ポルフィリン環を有する電子供与性のドナー(D)とフラーレン誘導体である電子受容性のアクセプタ(A)とを導電性のスペーサを介して連結したドナー・アクセプタ分子である、非水系空気電池用触媒。
【請求項6】
前記ドナー・アクセプタ分子のうち、前記アクセプタ(A)は、C60,C70,C74,C76,C78,C80,C82,C84,C90又はC96のフラーレン骨格に含窒素複素環及び炭化水素環の少なくとも一方が縮環したフラーレン誘導体であり、前記スペーサは、複数個のチオフェン環が結合して構成され前記含窒素複素環又は前記炭化水素環と前記ドナーとを連結するものである、
請求項5に記載の非水系空気電池用触媒。
【請求項7】
前記ドナー・アクセプタ分子のうち、前記アクセプタ(A)は、C60,C70,C74,C76,C78,C80,C82,C84,C90又はC96のフラーレン骨格にピロリジン環が縮環したフラーレン誘導体であり、前記スペーサは、複数個のチオフェン環が結合して構成され前記ピロリジン環と前記ドナーとを連結するものである、
請求項6に記載の非水系空気電池用触媒。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−300273(P2008−300273A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146762(P2007−146762)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】