説明

非水系電解質リチウムイオン二次電池

【課題】 高容量正極を用いて初回充放電での不可逆容量によるエネルギー密度の低下を最小限に抑えた高エネルギー密度を有する非水系電解質リチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】 SiおよびSi酸化物およびCから選択される少なくとも1種以上からなる負極の活物質1固有の初回不可逆容量によって消費される正極の活物質4を、より高容量な一般式Li3-xxN(MはCo、Ni、Cuから選ばれる1種以上の遷移金属であり、0≦x≦0.8)で表されるリチウム含有複合窒化物にし、初回放電以降の充放電に利用されない正極の活物質4の重さを低減することで、高エネルギー密度をもつ非水系電解質リチウムイオン二次電池を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極に高容量活物質を用い、高エネルギー密度を有する非水系電解質リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話やノートパソコン等のモバイル機器の普及により、その電力源となる二次電池の役割が重要視されている。これらの二次電池には小型・軽量でかつ高容量であり、充放電を繰り返しても、劣化しにくい性能が求められ、現在はリチウムイオン二次電池が最も多く利用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極には、主として黒鉛やハードカーボン等の炭素(C)が用いられている。Cは、充放電サイクルを良好に繰り返すことができるものの、すでに理論容量付近まで容量を使用していることから、今後大幅な容量向上は期待出来ない。その一方で、リチウムイオン二次電池の容量向上の要求は強く、炭素よりも高容量、すなわち高エネルギー密度を有する負極材料の検討が行われている。
【0004】
高エネルギー密度を実現可能な負極材料として、たとえばケイ素(Si)が挙げられる。実際に負極活物質として用いられることが、非特許文献1に記載されている。
【0005】
Siを用いた負極は、単位体積当りのリチウムイオンの吸蔵放出量が多く、高容量であるものの、リチウムイオンが吸蔵放出される際に電極活物質自体の膨脹収縮が大きいために微粉化が進行し、初回充放電における不可逆容量が大きく、正極側に充放電に利用されない部分ができる。また、充放電サイクル寿命が短いという問題点がある。
【0006】
Siを用いた初回不可逆容量の低減、及び充放電サイクル寿命の改善対策として、Si酸化物を負極活物質として用いる方法が特許文献1で提案されている。特許文献1においては、Si酸化物を活物質として用いることにより活物質単位重量あたりの体積膨張収縮を減らすことができるためサイクル特性の向上が確認されている。一方、酸化物の導電性が低いため、集電性が低下し、充放電における不可逆容量が大きいという問題点を有していた。
【0007】
さらに容量及び充放電サイクル寿命の改善対策として、SiおよびSi酸化物に炭素材料を複合化させた粒子を活物質として用いる方法が特許文献2で提案されている。これによりサイクル特性の向上が確認されたもののまだ不十分であり、また初回充放電効率の改善は不十分である。
【0008】
この初回不可逆容量の対応策として、不可逆容量分を予め電気化学的に充電しておく電極化成法や負極に金属リチウムを貼り付けて不可逆容量を補う方法などが試みられている。
【0009】
電極化成法は、通電電気量を制御することで目的に応じた量の化成が可能な点が優れているが、一度電極を充電した後に再び電池として組み直すため煩雑で生産性も極めて悪い。
【0010】
金属リチウム貼付け法は電解液を注液することで短絡状態にある酸化物と金属リチウム間で自動的にLiの移動を行うというものである。ところが、この方法の場合、極板形態によってはLiの移動が不十分で金属リチウムが残存し、特性ばらつきの発生や安全性に問題が生じるなどの品質上に問題がある。
【0011】
他に、この初回不可逆容量の対応策として、負極にSi酸化物と一般式Li3-xxN(Mは遷移金属であり、0≦x≦0.8)で表されるリチウム含有複合窒化物との混合活物質を用いる非水系電解質リチウムイオン二次電池が特許文献3で提案されている。リチウム含有複合窒化物でSi酸化物の不可逆容量を補う点で優れているが、リチウム含有複合窒化物の重量あたりの容量が約800mAh/gとSi酸化物と比べて小さく、Si酸化物のみを負極活物質に用いた場合の電池のエネルギー密度に比べて、電池としてのエネルギー密度は小さくなるという問題がある。
【0012】
高エネルギー密度を実現可能な負極材料としてSiを用いることで電池としてのエネルギー密度は大きくなるが、電池全体の重さでは正極のほうが占める割合が大きく、正極側の高容量化も求められる。
【0013】
【特許文献1】特許第2997741号公報
【特許文献2】特開2004−139886号公報
【特許文献3】特開2000−164207号公報
【非特許文献1】リー(Li)他4名、A High Capacity Nano−Si Composite Anode Material for Lithium Rechargeable Batteries、Electrochemical and Solid−State Letters、 第2巻、 第11号、 p547−549 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、従来技術においては、初回充放電における不可逆容量が大きく、正極側に充放電に利用されない部分ができ、また、充放電サイクル寿命が短いという課題、充放電における不可逆容量が大きいという課題、特性ばらつきの発生や安全性に問題が生じるなどの品質上の課題、さらにエネルギー密度が小さいという課題等があった。
【0015】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的は、高容量正極を用いて初回充放電での不可逆容量によるエネルギー密度の低下を最小限に抑えた高エネルギー密度を有する非水系電解質リチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記のような課題を解決するために、本発明は、高容量の正極に、
一般式Li3-xxN(MはCo、Ni、Cuから選ばれる1種以上の遷移金属であり、0≦x≦0.8)で表されるリチウム含有複合窒化物を含む非水系電解質リチウムイオン二次電池としている。xとしては、0≦x≦0.5がより好ましく、さらに好ましい範囲は、0.4≦x≦0.5である。
【0017】
また、正極活物質にそのリチウム含有複合窒化物とリチウム吸蔵放出可能な酸化物を混合活物質として用い、負極活物質にリチウムを吸蔵放出可能なSiおよびSi酸化物およびCから選択される少なくとも1種以上からなる混合活物質を含む非水系電解質リチウムイオン二次電池としている。Si酸化物としては、二酸化ケイ素(SiO2)が例示される。
【0018】
正極活物質に含まれるリチウム吸蔵放出可能な酸化物の単位重さあたりの充放電容量をA、Li放出電位をA’とし、また、リチウム含有複合窒化物の単位重さあたりの充放電容量をB、Li放出電位をB’としたとき、A<BかつA’>B’を満足する非水系電解質リチウムイオン二次電池としている。
【0019】
負極活物質の初回不可逆容量に相当するLi量をαとし、初回充電時にリチウム含有複合窒化物が放出するLi量をγとするとき、負極活物質と前記リチウム含有複合窒化物の重量比を、α≧γを満足するように選択する非水系電解質リチウムイオン二次電池としている。これにより、不可逆容量に使用される正極活物質の重さを軽量化する。よって、電池のエネルギー密度が上昇する。
【0020】
負極活物質の初回充電容量をY、リチウム吸蔵放出可能な酸化物とリチウム含有複合窒化物の初回充電容量の合計をZとするとき、これらの関係がZ≦Yとなる非水系電解質リチウムイオン二次電池としている。これにより、正極中の活物質全て充放電に使い、高エネルギー密度を実現できる。
【0021】
リチウム吸蔵放出可能な酸化物としては、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム等が例示される。また、負極の活物質層中には、必要に応じて導電性を付与するため、カーボンブラックやアセチレンブラック等を混合してもよい。生成した負極活物質層の電極密度は0.5g/cm3以上2.0g/cm3以下であるとよい。
【0022】
また、電池に用いる非水系電解液としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1、2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1、3‐ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1、3−プロパンサルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、などの非プロトン性有機溶媒を一種又は二種以上を混合して、これらの有機溶媒に溶解するリチウム塩を溶解させて用いることができる。
【0023】
これらの有機溶媒に溶解するリチウム塩としては、例えばLiPF6、LiAsF6、LiAlCl4、LiClO4、LiBF4、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiN(CCF3SO22、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類などがあげられる。また、電解液に代えてポリマー電解質、固体電解質を用いてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、SiおよびSi酸化物およびCから選択される少なくとも1種以上からなる負極活物質固有の初回不可逆容量によって消費される正極活物質を、より高容量な一般式Li3-xxN(MはCo、Ni、Cuから選ばれる1種以上の遷移金属であり、0≦x≦0.8)で表されるリチウム含有複合窒化物にし、初回放電以降の充放電に利用されない正極活物質の重さを低減することで、高エネルギー密度をもつ非水系電解質リチウムイオン二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、本発明の非水系電解質リチウムイオン二次電池の断面図である。図1に示すように本発明の非水系電解質二次電池は銅箔などの負極集電体2上に形成した負極の活物質層1からなる負極3とアルミニウム箔などの正極集電体5上に形成した正極の活物質層4からなる正極6がセパレータ7を介して対向配置されている構造となっている。セパレータ7としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、フッ素樹脂等の多孔性フィルムを用いることができる。負極3と正極6から、それぞれ電極端子取り出しのための負極リードタブ9、正極リードタブ10が引き出され、それぞれの先端を除いて、ラミネートフィルムなどの外装フィルム8を用いて外装する。
【0027】
負極の材料構成は、リチウムを吸蔵放出可能なSiおよびSi酸化物およびCから選択される少なくとも1種以上からなる負極活物質、およびバインダ樹脂からなり、これらを混合した合剤によって負極の活物質層1が形成される。これら合剤は溶剤で混練したペーストを銅箔等の金属箔上に塗布して圧延加工した塗布型極板や直接プレスして加圧成形極板にするなどの製法で周知の形態に加工することができ、具体的には、Si粉末、Si酸化物粉末、C粉末と、バインダ樹脂としてポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂に代表される熱硬化性を有する結着剤とをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶剤に分散させ混練し、金属箔からなる負極集電体2の上に塗布し、高温雰囲気で乾燥することにより形成される。
【0028】
前述のように、負極の活物質層1中には、必要に応じて導電性を付与するため、カーボンブラックやアセチレンブラック等を混合してもよい。生成した負極の活物質層1の電極密度は0.5g/cm3以上2.0g/cm3以下であるとよい。電極密度が低い場合は放電容量の絶対値が小さく、従来の炭素材料に対するメリットが得られない。逆に高い場合、電極に電解液を含浸させることが難しく、やはり放電容量が低下する。金属箔からなる負極集電体2の厚みは、強度を保てるような厚みとすることが好ましいことから、4〜100μmであることが好ましく、エネルギー密度を高めるためには、5〜30μmであることがさらに好ましい。
【0029】
正極の材料構成は、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム等のリチウム吸蔵放出可能な酸化物と一般式Li3-xxN(MはCo、Ni、Cuから選ばれる1種以上の遷移金属であり、0≦x≦0.8)で表されるリチウム含有複合窒化物からなる正極活物質、導電性を付与するためのカーボンブラックやアセチレンブラック等の導電剤、およびバインダ樹脂からなり、これらを混合した合剤によって正極の活物質層4が形成される。
【0030】
具体的には、リチウム吸蔵放出可能な酸化物粉末、リチウム含有複合窒化物粉末、導電剤粉末と、バインダ樹脂としてポリフッ化ビリニデン、ビリニデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビリニデンフルオライド−テトラフルオロチレン共重合体、ポリテトラフルオロチレンに代表されるバインダ樹脂とをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、脱水トルエン等の溶剤に分散させ混練し、金属箔からなる正極集電体5の上に塗布し、高温雰囲気で乾燥することにより形成される。生成した正極活物質層4の電極密度は2.0g/cm3以上3.0g/cm3以下であるとよい。電極密度が低い場合は放電容量の絶対値が小さなる。また、逆に高い場合、電極に電解液を含浸させることが難しく、やはり放電容量が低下する。金属箔からなる正極集電体5の厚みは、強度を保てるような厚みとすることが好ましいことから、4〜100μmであることが好ましく、エネルギー密度を高めるためには、5〜30μmであることがさらに好ましい。
【0031】
また、電池に用いる電解液としては、前述の通り、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1、2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1、3‐ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1、3−プロパンサルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、などの非プロトン性有機溶媒を一種又は二種以上を混合して使用し、これらの有機溶媒に溶解するリチウム塩を溶解させる。
【0032】
リチウム塩としては、前述のように、例えばLiPF6、LiAsF6、LiAlCl4、LiClO4、LiBF4、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiN(CCF3SO22、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類などがあげられる。また、電解液に代えてポリマー電解質、固体電解質を用いてもよい。
【0033】
また、上記のようにして製造される非水系電解質二次電池の、放電終止電圧値は1.5V以上2.7V以下であることが望ましい。放電終止電圧値が低くなる程充放電の繰り返しによる放電容量の劣化が大きくなる問題がある。1.5V以下とするのは回路設計上の難易度も高い。また2.7V以上の場合放電容量の絶対値が小さく従来の炭素材料に対するメリットが得られない。
【0034】
本発明の電池では、SiおよびSi酸化物およびCから選択される少なくとも1種以上からなる負極活物質固有の初回不可逆容量によって消費される正極活物質を、より高容量なリチウム含有複合窒化物にし、初回放電以降の充放電に利用されない正極活物質の重さを低減することで、高エネルギー密度をもつ非水系電解質二次電池を得ることができる。
【0035】
初回の充電操作によって、正極から負極中の負極活物質へLiが供給される。次の初回放電において、負極活物質から正極へ戻るLiは不足分(不可逆容量分)が生じるため、正極全体にLiは供給されなくなり、正極中に充放電に関係ない余分な活物質が生じる。そこで、あらかじめ正極中に初回不可逆容量分に相当する量、または、その一部分に相当する量の、リチウム吸蔵放出可能な酸化物よりも単位重さあたりの容量の大きいリチウム含有複合窒化物を含ませることにより、余分な活物質の重さを、リチウム吸蔵放出可能な酸化物のみの時に比べて軽くする。結果、電池の単位重さあたりエネルギー密度は上昇することになる。
【0036】
リチウム吸蔵放出可能な酸化物のLi吸蔵放出の電位がリチウム含有複合窒化物のLi吸蔵放出電位より低いと、リチウム吸蔵放出可能な酸化物をリチウム含有複合窒化物に置き換える利得はなく、エネルギー密度の低い電池になり、従来の電池に対してメリットが得られない。
【0037】
放電電圧を1.5〜2.7Vとし、正極中に不可逆容量分以上のリチウム含有複合窒化物を混合すると、初回充電した後の初回放電時において、Liを受け入れる正極中のリチウム吸蔵放出可能な酸化物が足りなくなり、電池としての容量が下がってしまい、エネルギー密度が下がる。
【0038】
正極中のリチウム含有複合窒化物は初回充電時においてLiを放出する。負極活物質の初回充電容量をY、リチウム吸蔵放出可能な酸化物とリチウム含有複合窒化物の初回充電容量の合計をZとするとき、これらの関係がZ≦Yの条件であると負極活物質特有の高容量化の効果が得られる。一方、Z>Yであると正極中のリチウム吸蔵放出可能な酸化物の容量を完全には生かせなくなり、電池のエネルギー密度が低下する。
【0039】
さらに、リチウム含有複合窒化物は、その原材料がLiと、Co、Ni、Cuから選ばれる1種以上の遷移金属、並びにNであり、コスト的にも特に問題はない。また、金属リチウムに比べて他の物質と反応せず安定なため、作業上の制御性、安全性で優れている。
【実施例】
【0040】
本発明は負極の活物質としてSi、SiO2、Cから選択される少なくとも1種以上を用いるが、本実施例では、その代表としてそれぞれのモル比を1:1:0.8としたものを用いた。
【0041】
Si粉末、SiO2粉末、C粉末は試薬として市販されているものが有り、この粉末を入手して用いた。
【0042】
事前に使用する酸化物Si、SiO2、C複合体負極の充放電性能を確認(金属リチウムを対極としたモデルセルにより2.0Vから0.02Vの間で容量特性の確認)したところ、最初の充電でSi、SiO2、C複合体は約2500mAh/g分のLiを吸蔵したが、次の放電で約1650mAh/gしか放電せず、約850mAh/gの不可逆容量を有した。この値がαになり、充電容量に対して約34%の容量が不可逆容量、すなわちαとなる。
【0043】
正極に含まれるリチウム吸蔵放出可能な酸化物について、本実施例では、代表的なものとして、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウムを用いた。これらの材料は粉末試薬として市販されており、これらの粉末を入手して使用した。それぞれの充放電性能を確認(金属リチウムを対極としたモデルセルにより4.3V〜3.0Vの間で容量特性の確認)したところ、ニッケル酸リチウムは約200mAh/g、マンガン酸リチウムは約120mAh/g、コバルト酸リチウムは150mAh/gを示し、充放電電位はそれぞれ3.8V付近、4.0V付近、3.7V付近であった。
【0044】
一般式Li3-xxN(MはCo、Ni、Cuから選ばれる1種以上の遷移金属、0≦x≦0.8)で表されるリチウム含有複合窒化物の市販品はなく、以下に示すように別途合成した。
【0045】
市販試薬の窒化リチウム粉末と市販試薬の遷移金属粉末を所定量で混合し、窒素雰囲気中で8時間焼成し、目的のリチウム含有複合窒化物の焼結体を得た。さらにこれを粉砕してリチウム含有複合窒化物粉末とした。なお、混合から粉砕までの工程は低湿度(露点−30℃以下)の高純度窒素雰囲気中で行った。得られたリチウム含有複合窒化物の粉末X線回折測定結果は窒化リチウムと同じ六方晶パターンが現れており、不純物ピークもなく、目的のリチウム含有複合窒化物ができていることを確認した。
【0046】
次に、リチウム含有複合窒化物の1.4V〜0.0Vにおける充放電性能の確認(金属リチウムを対極としたモデルセルによる容量特性の確認)をした。本実施例ではその代表例として、遷移金属はCo、Ni、Cuとしx=0.4とした。充放電性能はLi2.6Co0.4Nで約800mAh/g、Li2.6Ni0.4Nで約500mAh/g、Li2.6Cu0.4Nで約600mAh/gを示した。この値がそれぞれのγとなる。また、充放電電位は1.3V付近であった。よって、リチウム吸蔵放出可能な酸化物に比較して、リチウム含有複合窒化物のほうが充電容量が大きいため、正極にリチウム含有複合窒化物を用いると高容量な電池が提供できるが、リチウム含有複合窒化物の充放電電位が低いため初回放電に関与すると電池のエネルギー密度が低くなる。
【0047】
本実施例で用いたリチウム含有複合窒化物において、遷移金属をCo、Ni、Cuとし、x=0.5とした場合でも結果は同等であった。
【0048】
本実施例においては、リチウム含有複合窒化物とリチウム吸蔵放出可能な酸化物の関係はリチウム含有複合窒化物の単位重さあたりの充放電容量をB、Li放出電位をB’としたとき、A<BかつA’>B’を満足するものである。
【0049】
負極の活物質層はSi、SiO2、C複合体物質粒子に、バインダとしてポリイミド、溶剤としてNMPを混合した電極材を10μmの銅箔の上に塗布し、125℃、5分間乾燥した後、ロールプレスにて圧縮成型を行い、再度乾燥炉にて350℃、30分間、N2雰囲気中で乾燥処理を行い作製した。この銅箔上に形成された活物質層を30×28mmに打ち抜き負極とし、電荷取り出しのためのニッケルからなる負極リードタブを超音波により融着した。
【0050】
正極の活物質層については、上記リチウム吸蔵放出可能な酸化物と上記リチウム含有複合窒化物からなる活物質粒子、バインダとしてポリフッ化ビニリデン、溶剤としてNMPを混合した電極材を20μmのアルミ箔の上に塗布し、125℃、5分間乾燥処理を行い作製した。アルミ箔上に形成された活物質層を30×28mmに打ち抜き正極とし、電荷取り出しのためのアルミからなる正極リードタブを超音波により融着した。負極、セパレータ、正極の順に、活物質層がセパレータと対面するように積層した後、ラミネートフィルムをはさみ、電解液を注液し、真空下にて封止することによりラミネート型電池を作製した。なお電解液には、ECと、DECと、EMCとの体積比3:5:2の混合溶媒に1mol/LのLiPF6を溶解したものを用いた。
【0051】
このラミネート型電池を作製する際、正極の充電容量と負極の充電容量の比は、Si、SiO2、C複合体負極の初回充電容量をY、リチウム吸蔵放出可能な酸化物とリチウム含有複合窒化物の初回充電容量の合計をZとおいたとき、これらの関係がZ≦Yを満足するようにY:Z=1.00:1.00(実施例1、5、9、13、17、21、25、29、33)、Y:Z=1.10:1.00(実施例2、6、10、14、18、22、26、30、34)、Y:Z=1.16:1.00(実施例3、7、11、15、19、23、27、31、35)、Y:Z=1.22:1.00(実施例4、8、12、16、20、24、28、32、36)とした。また、Si、SiO2、C複合体負極の初回不可逆容量に相当するLi量をαとし、初回充電時にリチウム含有複合窒化物Li2.60.4N(MはCo、Ni、Cuのいずれか)が放出するLi量をγとするとき、α=γとした。α=γとするのに、負極活物質とリチウム含有複合窒化物の重量比を選択した。
【0052】
以上のように作製した電池の充放電試験は3mAの定電流で、その充電終止電圧を4.2 V、その放電終止電圧を2.5 Vとして行った。表1、表2、表3はこの試験における電池の初回と二回目の充電時の正極活物質と負極活物質の総量あたりのエネルギー密度を示し、それぞれ、リチウム含有複合窒化物が、表1ではLi2.6Co0.4N、表2ではLi2.6Ni0.4N、そして表3ではLi2.6Cu0.4Nの場合である。初回のエネルギー密度と二回目のエネルギー密度の差が小さく、Si、SiO2、C複合体の不可逆容量によるエネルギー密度の低下を最小限に抑えられていることがわかる。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
また、本発明の電池において、Si、SiO2、C複合体負極の初回不可逆容量に相当するLi量をαとし、初回充電時Li2.60.4N(MはCo、Ni、Cuのいずれか)が放出するLi量をγとするときα>γとした場合でも、エネルギー密度の低下を抑えることができ、表4にα=2γ、表5にα=3γの結果を示す。その際のリチウム含有複合窒化物は、代表としてLi2.6Co0.4Nを用いた。この電池の充放電試験は3mAの定電流で、その充電終止電圧を4.2V、その放電終止電圧を2.5Vとして行った。α>γとするために、負極活物質とリチウム含有複合窒化物の重量比を選択した。
【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
本発明の電池において、二回目充電時の負極の活物質の重量あたりの容量はY、Zの比により決まり、これまでの代表として実施例1〜4の二回目充電時の負極の活物質の重量あたりの容量を表6に示す。
【0060】
【表6】

【0061】
現在実用化されているリチウムイオン電池の負極の炭素材料が300〜370mAh/g程度の容量密度であることを考えると本発明の電池は極めて高容量であり、よって、高エネルギー密度の電池を実現したことになる。
【0062】
さらに、本実施例で用いたリチウム含有複合窒化物において、遷移金属をCo、Ni、Cuとし、x=0とした場合では、リチウム含有複合窒化物の重さあたりの容量は増加し、約1500mAh/gとなる。本実施例で示したLi2.6Co0.4Nの場合に比べて2倍の効果が得られる。
【0063】
(比較例)
本発明との比較のため、本発明の電池に換えて、Z≦Yを満足しないY:Zの組み合わせ、すなわちZ>YとなるY:Z=0.50:1.00:(比較例1、5、9)、Y:Z=0.75:1.00(比較例2、6、10)、Y:Z=0.80:1.00(比較例3、7、11)、Y:Z=0.90:1.00(比較例4、8、12)となるように正極と負極の重量比を選択して、電池を試作し充放電試験を行った。この充放電試験は3mAの定電流で、その充電終止電圧を4.2V、その放電終止電圧を2.5Vとして行った。このとき、α=γとし、リチウム含有複合窒化物は、代表としてLi2.6Co0.4Nを用いた。表7に以上の結果を示す。初回充電時のエネルギー密度と二回目充電時のエネルギー密度が非常に小さくなることがわかる。
【0064】
【表7】

【0065】
次に、本発明の電池に換えて、α≧γを満足しないα<γとなる2α=γ、5α=2γの条件になるよう負極活物質とリチウム含有複合窒化物の重量比を選択し、電池を試作し充放電試験を行った。この充放電試験は3mAの定電流で、その充電終止電圧を4.2V、その放電終止電圧を2.5Vとして行った。このとき、Z≦Yの条件でリチウム含有複合窒化物は、代表としてLi2.6Co0.4Nを用いた。表8、表9にそれぞれ、2α=γ、5α=2γのときの結果を示す。二回目充電時のエネルギー密度が非常に低くなる。
【0066】
【表8】

【0067】
【表9】

【0068】
さらに、比較のためにSi、SiO2、C複合体を負極活物質とし、リチウム吸蔵放出可能な酸化物のみを正極活物質として組み合わせた電池を試作し(比較例37ないし48)、充放電試験を行った。表10はこの試験における電池の初回と二回目の充電時の正極活物質と負極活物質の総量あたりのエネルギー密度を示す。初回充電時と二回目充電時のエネルギー密度の差が大きく、また、二回目の充電時のエネルギー密度も小さい。
【0069】
【表10】

【0070】
このように、Si、Si酸化物とCから選択される少なくとも1種以上からなる負極活物質固有の初回不可逆容量によって消費される正極活物質を、より高容量なリチウム含有複合窒化物にし、初回放電以降の充放電に利用されない正極活物質の重さを低減することで、高エネルギー密度をもつ非水系電解質二次電池を得ることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の非水系電解質リチウムイオン二次電池の断面図。
【符号の説明】
【0072】
1 負極の活物質層
2 負極集電体
3 負極
4 正極の活物質層
5 正極集電体
6 正極
7 セパレータ
8 外装フィルム
9 負極リードタブ
10 正極リードタブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質に
一般式:Li3-xx
(MはCo、Ni、Cuから選ばれる1種以上の遷移金属であり、0≦x≦0.8)
で表されるリチウム含有複合窒化物を含むことを特徴とする非水系電解質リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
正極活物質に前記リチウム含有複合窒化物とリチウム吸蔵放出可能な酸化物を混合活物質として用い、負極活物質にリチウムを吸蔵放出可能なSiおよびSi酸化物およびCから選択される少なくとも1種以上からなる混合活物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質に含まれるリチウム吸蔵放出可能な酸化物の単位重さあたりの充放電容量をA、Li放出電位をA’とし、また、前記リチウム含有複合窒化物の単位重さあたりの充放電容量をB、Li放出電位をB’としたとき、A<BかつA’>B’を満足することを特徴とする請求項2に記載の非水系電解質リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質の初回不可逆容量に相当するLi量をαとし、初回充電時に前記リチウム含有複合窒化物が放出するLi量をγとするとき、前記負極活物質と前記リチウム含有複合窒化物の重量比を、α≧γを満足するように選択することを特徴とする請求項2ないし3のいずれか1項に記載の非水系電解質リチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質の初回充電容量をY、前記リチウム吸蔵放出可能な酸化物と前記リチウム含有複合窒化物の初回充電容量の合計をZとするとき、これらの関係がZ≦Yとなることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の非水系電解質リチウムイオン二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−102841(P2010−102841A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270601(P2008−270601)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】