説明

非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法、ならびに該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池

【課題】工業的生産工程において安定的に製造でき、初期放電容量が高くかつ低抵抗な非水系電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】NiCoMn化合物を、溶媒中で平均粒径が0.1〜1μmとなるまで粉砕混合し、スラリーを噴霧乾燥し、平均粒径が2〜6μmである、NiCoMn化合物の混合原料を得て、300〜800℃で熱処理し、Li化合物と混合・焼成して、LiNiCoMn複合酸化物を得て、水洗・真空乾燥して、一般式:LiwNixCoyMnz2(ただし、0.95≦w≦1.30、x=z、x+y+z=1、0.3≦x≦0.45、0.1≦y≦0.4、0.3≦z≦0.45)で表され、3aサイトのLi以外の金属イオンの占有率が5%以下、3bサイトのNiCoMn以外の金属イオンの占有率が10%以下、平均粒径が2〜6μmである、層状構造の六方晶系LiNiCoMn複合酸化物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器ないしは自動車の電源として有用な非水系電解質二次電池とその正極材料に関し、特に、リチウム二次電池とその正極材料として有用なリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パソコンなどの携帯機器の普及にともない、高いエネルギ密度を有する小型、軽量な二次電池が必要とされている。また、自動車分野でも、電気自動車やハイブリッド自動車の普及にともない、そのモータ駆動用の電源として、安価、かつ高容量で、サイクル特性および出力特性が良好な大型の二次電池が要求されつつある。このような要求を満たす二次電池としては、非水系電解質二次電池の一種であるリチウム二次電池があり、その研究開発が現在も盛んに行われている。
【0003】
リチウム二次電池は、負極、正極、および非水系電解質により構成される。それぞれの材料としては、リチウムイオンを移動し、かつ、電荷の授受により充放電可能である材料が用いられる。このうち、負極材料には、リチウム金属、リチウム合金、金属酸化物、あるいはグラファイトなどの炭素材料が用いられている。また、非水系電解質としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム (LiPF6)などのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものが使用されている。
【0004】
一方、正極材料としては、リチウム金属複合酸化物が使用されている。このうち、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)は、その合成が比較的容易であり、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギ密度を有する電池材料として期待され、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための研究開発が盛んに行われるなど、その実用化が進められている。
【0005】
しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物は、主原料であるコバルト化合物が高価であるため、電池のコストアップの原因となっている。リチウム二次電池の適用を、携帯機器用の小型電池だけでなく、電力貯蔵、電気自動車などに用いる大型二次電池にまで拡大するためには、より安価な正極材料を提供する必要がある。
【0006】
このため、リチウム二次電池用の正極材料として、コバルトより安価な材料を用いる、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)やリチウムマンガン複合酸化物(LiMnO2)が着目されている。
【0007】
このうち、リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物よりも高い容量が期待でき、かつ、同様の高い電池電圧を示すことから、開発が盛んに行なわれている。
【0008】
ただし、リチウムニッケル複合酸化物を正極材料に用いたリチウム二次電池には、リチウムコバルト複合酸化物を用いたリチウム二次電池との比較で、1)サイクル特性が劣る、2)高温環境下での使用ないしは保存時に、電池性能が比較的損なわれやすい、3)高温環境下での安全性に劣る、という問題があり、これらの改善が求められている。
【0009】
一方、リチウムマンガン複合酸化物は、リチウムニッケル複合酸化物よりも高い安全性が期待でき、リチウムコバルト複合酸化物を用いたリチウム二次電池と同様に高い電圧を示すことから、開発が盛んに行なわれている。
【0010】
しかしながら、リチウムマンガン複合酸化物を正極材料に用いたリチウム二次電池には、1)充放電に伴い、マンガンが電解液中に溶解し、充放電特性を悪化させてしまう、2)放電容量がリチウムコバルト複合酸化物の2/3と少ない、という問題があり、同様にその改善が求められている。
【0011】
これらの改善を図ることを目的として、リチウム金属複合酸化物について種々の提案がなされている。たとえば、特開平8−213015号公報では、リチウム二次電池の自己放電特性やサイクル特性を向上させることを目的として、LiXNiaCobC2(0.8≦x≦1.2、0.01≦a≦0.99、0.01≦b≦0.99、0.01≦c≦0.3、0.8≦a+b+c≦1.2、MはAl、V、Mn、Fe、CuおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物が提案されている。このリチウム金属複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物に比べて充電容量、放電容量がともに高く、かつ、LiNiO2で示されるリチウムニッケル複合酸化物との比較では、サイクル特性も改善されている。しかしながら、この材料は、基本的にはコバルトとニッケルを組み合わせ、これらの元素の電位的な特徴を残したまま第3の元素を添加し、結晶構造の安定化などを図ろうとするものであり、その改良としてはなお不十分なものであった。
【0012】
一方、特開平9-298061号公報には、リチウムニッケル複合酸化物について、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果により得られるリチウムサイト(3aサイト)および遷移金属サイト(3bサイト)の占有率および格子定数と、放電容量および充放電サイクル特性に相関関係を見出し、層状岩塩型構造を持ち、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果による格子定数、3bサイトにおけるリチウムの占有率、3aサイトにおけるニッケルの占有率が特定の範囲にある場合に、リチウムとニッケルが他サイトを適度に占有し、結晶構造が安定化するため、正極材料として、安定、かつ大きな放電容量や優れたサイクル特性が得られることが記載されている。
【0013】
また、特開平10−270043号公報には、LiCoxNi1-x2(0<x≦0.2)において、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果による3aサイトのリチウムイオン(Li+)以外の金属イオンのサイト占有率が2%以下である化学量論性に優れたリチウムニッケル複酸化物は、正極材料として、電池の不可逆容量を小さくでき、サイクル特性を向上させうることが記載されている。
【0014】
さらに、特開2001−68113号公報には、LiXNi1-Y-QCoQYZ(0≦X≦1.1、0<Y+Q<0.5、0<Y<0.5、0<Q<0.5、1.8≦Z≦2.2、MはSi、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Pd、Sn、Te、Hf、W、Ir、Pt、Pbのいずれかを含む1種類以上の元素)において、その層構造中の遷移金属主体層(3bサイト)におけるリチウム占有率を0.5%以上15%以下とすることにより、放電容量が大きく安全性に優れ、動作温度範囲の広い正極活物質として用いうることが記載されている。なお、この文献では、3bサイトにおけるリチウム占有率が0.5%未満である場合、特に満充電時など電圧が高い状態で、環境温度が高くなった場合や電池が内部短絡を起こしたような場合に、3bサイトのニッケル、コバルト、元素Mと、3aサイトのリチウムが自由混合を起こし、これらがランダムに配列した岩塩構造に変化するために、電池が発熱したり、極端な場合には発煙や発火が見られたりすることが指摘されている。
【0015】
これらの提案は、いずれも粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果によるリチウムサイトおよびニッケルを主体とする遷移金属サイトにおけるサイト占有率を特定の範囲とするものであるが、本来的にリチウムニッケル複合酸化物が有する結晶構造の不安定性に起因するサイクル特性および安全性の問題を十分に解決しようとするものではない。
【0016】
これらとは別に、特開2007−273108号公報では、主成分としてニッケルを、副成分として他の遷移金属元素などから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するニッケル水酸化物またはニッケルオキシ水酸化物を、大気雰囲気下で焙焼してニッケル酸化物を調製し、このニッケル酸化物とリチウム化合物を混合したのち、酸素雰囲気下で焼成して得た、LiNi1-aa2(Mは、Ni以外の遷移金属元素、2族元素または13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0.01≦a≦0.5である。)で表される焼成粉末を、スラリー濃度と特定の関係を満足する時間以内で水洗するリチウムニッケル複合酸化物粉末の製造方法が提案されている。この提案では、所定の条件で水洗処理を行なうことで、水洗処理後の比表面積が特定の範囲内となり、高容量、かつ安価で熱安定性に優れた正極活物質が得られるとされている。しかしながら、この提案によって熱安定性は改善されているものの、必ずしも十分とはいえず、さらなる改善が求められている。
【0017】
一方、コバルト、ニッケル、マンガンのいずれかを主体とするリチウム金属複合酸化物とは別に、リチウムニッケル複合酸化物より優れた熱安定性と高い安全性を得る目的で、ニッケル、コバルト、マンガンを組み合わせたリチウム金属複合酸化物が提案されている。たとえば、特開2003−17052号公報では、Li[LiX(APQR1-X]O2(A、BおよびCはそれぞれ異なる3種の遷移金属元素、−0.1≦X≦0.3、0.2≦P≦0.4、0.2≦Q≦0.4、0.2≦R≦0.4)で表されるニッケル、コバルト、マンガンを同比率で含む正極活物質が提案されている。この提案では、水溶液中に不活性ガスである窒素やアルゴンなどをバブリングして溶存酸素を除去するか、または還元剤をあらかじめ水溶液中に添加するなどの方法を付加した共沈法により、原子レベルで3種の元素を均一に混合した大粒径、高密度の複合水酸化物または複合酸化物が得られるとされている。しかしながら、共沈法では、マンガンの価数制御が難しいため、不活性雰囲気にて晶析を行わざるを得ない。このような工程を工業的規模での生産に適用することは、気液の混合効率を勘案するに必ずしも効率的であるとはいえず、場合によっては、雰囲気が制御できずに安定的な生産が図れなくなることが懸念される。
【0018】
また、特開2008−257992号公報では、一般式:LiNixCoyMnz2(ただし、x=z、x+y+z=1、0.3≦x≦0.45、0.1≦y≦0.4、0.3≦z≦0.45)で表され、かつ、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であって、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果による、3bサイトにおけるニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が5%以下である正極活物質が提案されている。また、その製造方法として、ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物を、溶媒中で0.1μm以下に粉砕混合し、得られた化合物スラリーを噴霧乾燥して得た混合物原料とリチウム化合物とを混合して、熱処理する方法が提案されている。この提案では、従来の粉末混合焼成では困難であった3種の元素を組み合わせるリチウムニッケルマンガン複合酸化物の単相の合成を可能とすることにより、良好な電池特性をもたらす正極活物質を得ることを可能としている。しかしながら、金属化合物を溶媒中で0.1μm以下の微粉まで粉砕して混合することは容易でなく、工業的規模で製造する場合には、生産性に問題がある。また、正極活物質の電池容量についても、さらなる改善の余地があるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平8−213015号公報
【特許文献2】特開平9−298061号公報
【特許文献3】特開平10−270043号公報
【特許文献4】特開2001−68113号公報
【特許文献5】特開2007−273108号公報
【特許文献6】特開2003−17052号公報
【特許文献7】特開2008−257992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の主目的は、工業的規模の生産工程において安定的に製造でき、初期放電容量が高く、かつ低抵抗である非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記課題を解決するため、熱安定性に優れた、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物について検討を重ねた結果、粉末X線回折パターンのリートベルト解析により得られるサイト占有率が特定範囲となるようにすることで、原子レベルで元素を確実に規則配列させることができ、充放電時のリチウムイオンの脱離挿入に伴い、2価と4価のレドックス(酸化還元)反応を生じるニッケルイオンが確保され、優れた電池特性が得られる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することができるとの知見を得た。
【0022】
また、正極活物質粒子の表面に存在する余剰のリチウム化合物が電池容量に影響を及ぼしており、この余剰のリチウム化合物を除去することで、正極活物質の電池容量が改善されるとの知見も得た。
【0023】
さらに、金属化合物を溶媒中で特定の粒径範囲まで粉砕混合し、得られたスラリーを噴霧乾燥させて得た混合原料とリチウム化合物との混合物を焼成することで、工業的規模の生産工程において、容易に単相のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られること、焼成後に水洗することで粒子表面の余剰のリチウム化合物を容易に除去できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0024】
すなわち、本発明は、一般式:LiwNixCoyMnz2(ただし、0.95≦w≦1.05、x=z、x+y+z=1、0.3≦x≦0.45、0.1≦y≦0.4、0.3≦z≦0.45)で表され、かつ、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法にかかる。
【0025】
特に、本発明の第1の態様にかかる製造方法は、
ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物を、溶媒中で平均粒径が0.1μmを超えて1μm以下の範囲内の大きさとなるまで粉砕混合し、得られた化合物スラリーを噴霧乾燥して、平均粒径が2μm〜6μmの範囲内にある、ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物の混合原料を得る工程と、
得られた混合原料とリチウム化合物とを混合し、得られた混合物を焼成して、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得る工程と、
得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を水洗し、真空乾燥する工程と、を備えることを特徴とする。
【0026】
なお、この態様において、好ましくは、前記混合原料を300℃〜800℃で熱処理する工程をさらに備え、熱処理後の該混合原料と前記リチウム化合物とを混合するようにする。
【0027】
一方、本発明の第2の態様にかかる製造方法は、
ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、およびリチウム化合物を、溶媒中で平均粒径が0.1を超えて1μm以下の範囲内の大きさとなるまで粉砕混合し、得られた化合物スラリーを噴霧乾燥して、平均粒径が2μm〜6μmの範囲内にある、ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、およびリチウム化合物の混合物を得る工程と、
得られた混合物を焼成して、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得る工程と、
得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を水洗し、真空乾燥する工程と、を備えることを特徴とする。
【0028】
いずれの態様でも、好ましくは、前記水洗工程において、スラリー濃度が500g/L〜2000g/Lの範囲内となるように、前記得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を水と混合したのち、15分〜1時間、撹拌し、その後、濾過するようにする。
【0029】
なお、前記ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物のそれぞれが、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、酢酸塩の群から選ばれる1種以上であることが好ましい。一方、前記リチウム化合物が、水酸化物および炭酸塩から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0030】
また、前記混合物の焼成工程を、900℃〜1100℃の範囲内の温度、空気気流中または酸素気流中、かつ1時間以上の条件で行なうことが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法により、一般式:LiwNixCoyMnz2(ただし、0.95≦w≦1.05、x=z、x+y+z=1、0.3≦x≦0.45、0.1≦y≦0.4、0.3≦z≦0.45)で表され、かつ、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であって、粉末X線回折パターンのリートベルト解析により得られる3aサイトにおけるリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が5%以下であり、かつ、3bサイトにおけるニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が10%以下であり、平均粒径が2μm〜6μmである、非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
【0032】
かかる正極活物質を、たとえば2032型コイン電池の正極における正極材料として用いた場合に、当該電池の初期放電容量が180mAh/g以上となり、かつ、正極抵抗が6.5Ω以下となり、高容量かつ安全性の高い電池特性が得られる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法によれば、従来の粉末混合焼成では困難であった3種の遷移金属元素を組み合わせたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の単相の合成を、工業的規模の生産工程において、容易に安定的に製造することができる。また、得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材料として用いることで、初期放電容量が高く、低抵抗であり、電気特性に優れた非水系電解質二次電池が得られる。
【0034】
このように、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、携帯機器用の小型二次電池の生産のみならず、電気自動車などの大型二次電池の生産に対しても、工業的規模で安定的に供給され、正極材料として、これらの非水系電解質二次電池に、優れた電池特性を付与するものであるから、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】電池評価に用いたコイン電池の断面である。
【図2】インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明による非水系電解質二次電池すなわちリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解質など、一般のリチウム二次電池と同様の要素により構成される。特に、本発明の特徴は、その正極における正極材料として用いられる正極活物質であるリチウム金属複合酸化物の構造およびそのような正極活物質を得るための製造方法にある。以下、本発明のリチウム二次電池の実施形態について、正極活物質の製造方法、正極活物質の構造を含む正極について詳述したのち、負極、その他の構成要素、用途などについて、順に説明する。
【0037】
1.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法:
電池の充放電反応は、リチウムと複合酸化物を形成する遷移金属が、レドックス反応を起こすことで生じているため、同じ組成の物質でも、原子同士が規則正しく並んでいる結晶性がより良好な単相構造を有している方が、充放電時の電荷バランスが安定しやすく、遷移金属のレドックス反応の利用率が高くなると考えられる。
【0038】
しかしながら、いずれかの遷移金属を主成分として含むものとは異なり、2種類以上の遷移金属元素のそれぞれが相当程度まで入っているリチウム金属複合酸化物、特に本発明の対象である、3種以上の遷移金属を含むリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を合成しようとすると、単純に原料であるそれぞれの化合物を混合および焼成しても、原子同士が規則正しく並んだ結晶性の良好な単相構造を有する正極活物質を合成することは容易でない。
【0039】
このため、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法においては、特定範囲の大きさまで、原料化合物を湿式で粉砕混合することにより、原料化合物が均一に分散および混合したスラリーとし、このスラリーを噴霧乾燥することにより、ニッケル、コバルト、マンガン、あるいはさらにリチウムが均一に混合した球状二次粒子を得ている。この均一な混合二次粒子を原材料として用いることにより、組成の均一な結晶性の良好な層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることができる。
【0040】
より具体的には、本発明の製造方法では、ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物を、溶媒中で平均粒径0.1〜1μmに粉砕混合し、得られた化合物スラリーを噴霧乾燥させて、ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物の混合原料を得て焼成することで、容易に結晶性の良好な単相からなる正極活物質の合成を可能としている。
【0041】
また、正極活物質の電池特性、特に電池容量に対しては、結晶性のみならず正極活物質粒子の表面が大きく影響する。すなわち、粒子の表面にリチウム化合物などの不純物が付着していると、正極活物質からのリチウムイオンの挿脱が阻害され、十分な電池容量を得ることができない。したがって、粒子の表面に付着しているリチウム化合物などの不純物を水洗で除去することも重要である。
【0042】
以下、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法について、工程ごとに詳細に説明する。
【0043】
1−a)工程1(混合原料を得る工程):
工程1は、ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物からなる原料化合物から、これらの化合物の混合原料を得る工程である。特に、本発明では、これらの原料化合物を、特定範囲の大きさまで湿式で粉砕混合する、具体的には、溶媒中で平均粒径が0.1μmを超えて1μm以下の範囲内の大きさとなるまで粉砕混合する。その後、得られた化合物スラリーを噴霧乾燥させて、ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物の混合原料を得ている。
【0044】
上記のように、本工程で微細な原料化合物粒子からなる混合原料を得ることで、結晶性の良い単相のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の合成が可能となる。結晶性の良い単相粒子を得るためには、微細な原料化合物粒子を焼成することが有利である。しかしながら、溶媒中での粉砕混合では、ビーズミルなどのメディアを用いた湿式の粉砕混合機が用いられるが、原料化合物の平均粒径を0.1μm以下にするためは、メディア径を小さくする必要がある。メディア径が小さすぎるメディアでは粉砕力が低下するため、必要以上に機械エネルギが必要となり、さらには目的粒径に達するまでに、かなりの長時間を要することになる。よって、その平均粒径を0.1μm以下とすることは高コスト要因となり、現実的ではない。また、メディア径が小さくなると、メディアが研磨されやすくなり、得られる混合原料にコンタミの問題も生じる可能性がある。
【0045】
一方、原料化合物の平均粒径が1μmを超えると、化合物スラリーの粘度が低くなり、比重差により分離してしまうため、均質なスラリーを得ることができない。また、得られた混合原料を焼成しても、結晶性の良い単相のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることはできない。
【0046】
また、非水系電解質二次電池用正極活物質は、略球状の二次粒子により構成されることが好ましいが、原料化合物粒子の平均粒径が1μmを超えると、これに起因して、粉砕混合後に得られる二次粒子からなる混合原料粒子の形状が略球状とならずに不定形粒子の存在数が増加し、ひいては最終的に得られる正極活物質の二次粒子においても、不定形粒子の存在数が増加して、電極を塗工する際の電極ペーストの粘度を著しく増加させ塗工不良を生じ、あるいは電極の充填性を悪化させる原因となるため好ましくない。なお、この場合の「略球状」とは、真球である必要はなく、断面形状が楕円形のもの、表面に多少の凹凸があるもの、それらが一部変形したもの、それらが一部付着したものも包含するものと解釈される。
【0047】
原料化合物を、平均粒径が0.1μmを超えて1μm以下の範囲内の大きさとなるまで粉砕混合し、得られた化合物スラリーを噴霧乾燥させることで、微細で粒径分布が狭く、略球状の二次粒子からなる混合原料を得ることができ、その混合原料を用いて焼成することで、結晶性の良い単相からなり、略球状の二次粒子から構成される、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることができる。
【0048】
ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物としては、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、酢酸塩の群から選ばれる1種以上を使用することができる。ただし、必ずしも、これらの塩に限定されることはなく、他の塩類であっても、溶媒に溶解しない塩であれば使用することができる。
【0049】
溶媒は、容易に揮発するものであれば、特に限定されないが、水、有機溶媒、あるいはその混合液が好ましく、不燃性である水が特に好ましい。不純物の混入を防止するため、水には純水などを用いることが好ましい。
【0050】
原料化合物の平均粒径および化合物スラリーの粘度の調整方法としては、原料化合物を溶媒中に分散した後、ビーズミルなどを用いるメディア撹拌型の粉砕混合機などを使用して、湿式で粉砕混合する方法が用いられる。ビーズミルの大きさについては特に限定されるものではなく、原料化合物の平均粒径を上記範囲に粉砕可能で必要な生産量を確保できるだけの大きさであれば良い。なお、粉砕メディアについても、特にビーズミルに限定されず、たとえば、直径1mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下の、ガラス、アルミナ、ジルコニアなどのボールミルなども用いることができる。
【0051】
化合物スラリーの粘度としては、30mPa・s〜500mPa・sの範囲内とすることが好ましい。化合物スラリーの粘度が500mPa・sを超えると、ノズルが閉塞しやすくなり、また送液速度が遅くなって生産性が低下する。したがって、化合物スラリーの粘度を可能な限り低くする方が望ましいが、スラリーの粘度が30mPa・s未満となってしまうと、噴霧乾燥したときに、得られる混合原料の二次粒子において、バルーン状の粒子やドーナッツ状の粒子が生成し、これに起因して最終的に得られる正極活物質の二次粒子でも、略球状の粒子が得られず、電極の充填性を悪化させる原因となる。なお、化合物スラリーの粘度を最適範囲に調整するために、使用する溶媒に応じた各種分散剤(高分子型、界面活性剤型、無機型)を使用することもできる。
【0052】
化合物スラリーの濃度としては、スラリー調整後のスラリーの粘度が適切に制御されていれば、特に限定されないが、化合物スラリー濃度が低すぎると、蒸発させる溶媒量が膨大になるため、スラリー供給量を大幅に減らすか、もしくは噴霧乾燥設備の乾燥塔を数倍に大きくすることが必要となり、生産性が低下してしまう。一方、化合物スラリー濃度が高すぎると、スラリーの粘度が高くなり、ノズルの閉塞が起こりやすくなるなどの問題が生じるので、それらを勘案して適宜選択される。たとえば、化合物スラリーの濃度としては、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは7.5〜30質量%である。
【0053】
噴霧乾燥に用いるノズルは、特に限定されるものではなく、三流体ノズルもしくは四流体ノズルが使用できる。また、噴霧乾燥の条件については、通常用いられている範囲内から容易に選択することができる。
【0054】
一次粒子が凝集して形成される二次粒子により構成される、混合原料の粒子径は、最終的に得られるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の粒子径と同等であるため、平均粒径が2μm〜6μmの範囲内となるように調製することが好ましい。噴霧乾燥後の混合原料の粒子径は、原料化合物の平均粒径、スラリーの粘度および濃度、噴霧エアーの流速などを考慮して、噴霧条件を調整することにより、容易に制御することができる。
【0055】
工程1における別の態様として、原料化合物と所望量のリチウム化合物を溶媒中で粉砕混合し、ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、およびリチウム化合物の混合物を得るようにしてもよい。前記原料化合物とリチウム化合物を溶媒中で粉砕混合することで、混合原料とリチウム化合物を混合して混合物を得る工程が省略されるとともに、後工程で行われる焼成により、均一性のより高いリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることができるため好ましい。この場合、リチウム化合物として、溶媒に難溶性の化合物が選択されるが、溶媒として水を用いた場合には、炭酸リチウムを用いることが好ましい。
【0056】
1−b)工程2(混合原料の熱処理工程):
工程2は、混合原料にリチウム化合物を含有しない場合に適用されるものであり、工程1で得られた、ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物からなる混合原料を、300℃〜800℃の温度で熱処理し、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得るものである。
【0057】
工程2における熱処理を経なくても、均一な組成、結晶性の良いリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることはできるが、工程2を行うことで、後工程である工程3における焼成時の炉内雰囲気を安定させやすくなり、安定的に結晶性の良いリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を製造することができる。
【0058】
工程2における熱処理において、熱処理温度が800℃を超えると、粒子の焼結、粒成長が進みすぎるため、工程3における焼成時にリチウム化合物との反応が進みにくくなり、均一な組成、結晶性の良いリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることができなくなる。一方、熱処理温度が300℃未満では、混合原料からニッケルコバルトマンガン複合酸化物への転換が十分ではなく、熱処理の効果が十分に得られない。
【0059】
熱処理の雰囲気は、混合原料がニッケルコバルトマンガン複合酸化物へ転換可能な雰囲気であればよく、通常は、酸化性雰囲気が好ましく、大気雰囲気がより好ましい。また、熱処理に起因して原料化合物の熱分解反応によりガスが発生するため、雰囲気にはこのガスを排出するために必要な量の気流が流れていればよい。
【0060】
熱処理時間は、少なくとも1時間が好ましく、より好ましくは10〜15時間である。1時間未満では、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物への転換が十分に行われない場合がある。
【0061】
熱処理に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、必要量の酸化性雰囲気の気流中で加熱できるものであればよいが、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉が好適に用いられる。
【0062】
1−c)工程3(リチウム金属複合酸化物の合成工程):
工程3は、工程1で得られた混合原料もしくは工程2を経て得られたニッケルコバルトマンガン複合酸化物と、リチウム化合物とを混合して、得られた混合物を焼成して、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得るものである。
【0063】
混合原料もしくはニッケルコバルトマンガン複合酸化物とリチウム化合物の混合比は、ニッケル、コバルト、マンガンの合計の原子数(Me)に対するリチウムの原子数(Li)の比(Li/Me)が実質的に、すなわち、最終的に得られるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子中のLi/Me原子数比が0.95〜1.30の範囲内となるように混合する。
【0064】
後述する焼成後の工程4における水洗により、Li/Meが若干低下する。このため、その低下量の分、たとえば原子数比で0.02程度を見込んで混合することにより、最終的に得られるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子中のLi/Meを上記範囲内とすることができる。
【0065】
なお、工程1でリチウム化合物がすでに混合されて混合物となっている場合は、リチウム化合物と混合することなく、そのまま焼成することができるが、Li/Me原子数比を調整するために、工程1で得られた混合物にリチウム化合物をさらに添加してもよい。
【0066】
工程3で混合されるリチウム化合物は、特に限定されないが、水酸化リチウム、炭酸リチウムを用いることが好ましい。
【0067】
混合原料もしくはニッケルコバルトマンガン複合酸化物とリチウム化合物は、焼成前に、これらを十分混合しておくことが好ましい。混合には、一般的な混合機を使用することができ、たとえば、シェーカーミキサー、レーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いて、混合原料もしくはニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子の二次粒子としての形骸が破壊されない程度において、リチウム化合物と十分に混合すると良い。
【0068】
焼成温度は、900℃〜1100℃の範囲内で行うことがより好ましい。焼成温度が900℃未満であると、リチウム化合物との反応が十分に進まず、所望の層状構造を持ったリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を合成することが困難になるため、好ましくない。一方、焼成温度が1100℃を超えると、結晶構造が乱れ始め、また異常粒成長を生じることから、好ましくない。熱処理温度を900℃〜1100℃の範囲内にすることで、乱れの少ない結晶構造を実現でき、優れた電気特性を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得ることができる。
【0069】
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とするが、大気雰囲気ないし酸素雰囲気とすることが好ましい。また、熱処理工程と同様に、雰囲気は気流中とすることが好ましい。コスト面を考慮すると、空気気流中で行なうことが、特に好ましい。酸化性雰囲気でない場合には、酸化が十分になされず、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の結晶性が十分に高くならない場合がある。
【0070】
焼成時間は、少なくとも1時間以上とすることが好ましく、より好ましくは、5時間〜15時間である。1時間未満では、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の生成が十分に行われないことがある。
【0071】
焼成に用いられる炉は、特に限定されず、空気気流中または酸素気流中で加熱できるものであればよいが、ガスの発生がない電気炉が好ましく、管状炉、マッフル炉などの静置炉やプッシャー炉、ローラーハースキルン、ロータリーキルンなどの連続炉が使用できる。
【0072】
1−d)工程4(水洗工程):
工程4は、工程3で得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を水洗し、真空乾燥するものである。焼成後のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の表面には、余剰のリチウム化合物および不純物が付着しており、これらによって、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が本来的に持っている電池特性、特に電池容量を十分に発揮できない状態となっている。工程4で水洗することにより、余剰のリチウム化合物および不純物を除去することができ、結晶構造を維持したまま、電池特性の改善を図ることができる。
【0073】
スラリー濃度が500g/L〜2000g/Lの範囲内となるように、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物と水とを混合して水洗スラリーを得る。水洗は、この水洗スラリーを、15分〜1時間、撹拌し、濾過することにより行う。
【0074】
水洗スラリーのスラリー濃度が500g/L未満の場合、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子から過剰にリチウムが溶出し、非水系電解質二次電池用正極活物質の電気特性が悪化してしまうことがある。一方、スラリー濃度が2000g/Lを超えると、水洗スラリーの粘度が高すぎて、均一撹拌が難しくなり、十分な効果が得られない。
【0075】
また、撹拌時間が15分間より短いと、撹拌が均一にならないことがあり、1時間より長くても、余剰リチウムの溶出はある程度で飽和するため、それ以上の時間の撹拌は生産性を悪化させるにすぎない。
【0076】
2.非水系電解質二次電池用正極活物質:
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、 結晶構造も表現する一般式において、[Liw3a[NixCoyMnz3b[O26c(ただし、[ ]の添え字はサイトを示し、0.95≦w≦1.30、x=z、x+y+z=1、0.3≦x≦0.45、0.1≦y≦0.4、0.3≦z≦0.45なる条件を満たす)で表され、かつ、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であって、粉末X線回折パターンのリートベルト解析より得られる、リチウムサイトである3aサイトにおけるリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が5%以下であり、かつ、3bサイトにおけるニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が10%以下であり、平均粒径が2μm〜6μmであることを特徴とするものである。
【0077】
また、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の粉末を構成する粒子は、一次粒子が凝集して構成される略球状の二次粒子から主としてなり、比表面積は0.5m2/g〜1.5m2/gの範囲内で、タップ密度は1.5g/cm3〜2.0g/cm3の範囲内にある。
【0078】
本発明の正極活物質において、上記の一般式におけるwの値は、0.95≦w≦1.30である。すなわち、前述したLi/Me原子数比が0.95〜1.30の範囲内である。リチウムの原子数が少なく、Li/Me原子数比が0.95未満であると、正極活物質における3aサイトのリチウムイオン以外の金属イオンのサイト占有率が5%を超えてしまうとともに、この正極活物質を正極材料として用いた非水系電解質二次電池の初期放電容量が、期待される容量を下回ってしまう。一方、リチウムの原子数が多く、Li/Me原子数比が1.30を超えると、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物中においてリチウムが過剰に増加し、二次粒子同士の焼結による凝集が進み、粗大な粒子が発生し、タップ密度が低下する場合がある。さらに、正極活物質における3bサイトのニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が10%を超えてしまう。
【0079】
粉末X線回折パターンのリートベルト解析により得られる各サイトの占有率が上記範囲を外れて、3aサイトのリチウムイオン以外の金属イオンのサイト占有率が5%を超え、もしくは3bサイトのニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が10%を超えると、電気化学的に移動可能なリチウムの総量が減少すること、もしくは電気化学的にレドックス(酸化還元)反応に寄与する2価、3価のニッケルが価数バランスをとるために酸化して価数が上がるため、放電容量が小さくなる。さらに、そのいずれの占有率も上記範囲を外れると、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物中の2価のニッケルイオンが減り、3価のニッケルイオンが増えて、さらに放電容量が小さくなるとともに、サイクル特性の悪化および正極抵抗の上昇が生じてしまう。
【0080】
本発明では、正極活物質を構成する二次粒子の平均粒径も2μm〜6μmの範囲内に規制されるが、本発明の正極活物質において、その平均粒径が2μm未満となると、タップ密度が低下して、正極としたときの充填密度が低下し、電池の体積あたりの容量が低下したり、電極ペースト練合時にペースト粘度が高くなり、塗工できない不具合を生じたりする。一方、その平均粒径が6μmを超えると、比表面積が小さくなって、正極抵抗が増加するので、二次電池における出力特性が悪化してしまう。塗工性、電極密度、反応抵抗を勘案すると、平均粒径は3〜6μmが好ましく、さらには4〜6μmが好ましく、より好ましくは5〜6μmである。
【0081】
3.非水系電解質二次電池:
本発明による非水系電解質二次電池すなわちリチウムイオン二次電池は、正極、負極、非水電解質など、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。以下、本発明のリチウムイオン二次電池の実施形態について、その構成要素、用途などの項目に分けて詳しく説明するが、以下の実施形態は例示にすぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載の実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0082】
3−a)正極:
正極は、本発明の正極活物質、導電材および結着剤を含んだ正極合材から形成される。詳しくは、粉末状の正極活物質、導電材を混合し、それに結着剤を加え、必要に応じて、粘度調整などのための溶剤をさらに添加して、正極合材ペーストを調整し、その正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布、乾燥、必要に応じて加圧することにより、シート状の正極を作製する。
【0083】
導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
【0084】
結着剤は、活物質粒子を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、その他の適切な材料を用いることができる。必要に応じて正極合材に添加する溶剤、つまり、活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0085】
また、活性炭を、電気二重層容量を増加させるために添加することができる。
【0086】
上記の正極活物質、導電材、および結着剤を混合し、必要に応じて、上記の活性炭、溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを調製する。正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウム二次電池の性能を決定する重要な要素となりうる。正極合材の固形分の全体(溶剤を除く意味)を100質量%とした場合、一般のリチウム二次電池の正極と同様、それぞれ、正極活物質は60〜95質量%、導電材は1〜20質量%、結着剤は1〜20質量%とすることが望ましい。
【0087】
たとえば、アルミニウムなどの金属箔集電体の表面に、充分に混練した上記の正極合材ペーストを塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、必要に応じて、その後に電極密度を高めるべくロールプレスなどにより圧縮することにより、正極をシート状に形成することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などを行い、電池の作製に供することができる。
【0088】
3−b)負極:
負極には、金属リチウム、リチウム合金など、また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して、形成したものを使用する。このとき、負極活物質として、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極と同様に、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素樹脂などを、これら負極活物質および結着剤を分散させる溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0089】
3−c)セパレータ:
正極と負極の間にはセパレータを挟み装填する。セパレータは、正極と負極とを分離し電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い微多孔膜を用いることができる。
【0090】
3−d)非水系電解質:
非水電解質は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。支持塩としては、LiPF6、LiBF4 、LiClO4 、LiASF6 、LiN(CF3 SO22 など、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水電解質は、ラジカル補足剤、界面活性剤や難燃剤などを含んでいてもよい。
【0091】
以上のように構成される本発明の非水系電解質二次電池であるが、その形状は円筒型、積層型など、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リードなどを用いて接続し、この電極体に上記の非水電解質を含浸させ、電池ケースに密閉して電池を完成させる。本発明の非水系電解質二次電池においては、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材料として用いた正極を備えており、3.0〜4.5Vの電位で充放電を行なうことで、リチウムコバルト複合酸化物よりも大きな放電容量を示し、かつ、リチウムニッケル複合酸化物よりも安全性がきわめて高い非水系電解質二次電池が工業的に実現可能となる。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
硫酸ニッケルや硫酸コバルト原料から晶析法を用いて作製した水酸化ニッケル、水酸化コバルトおよび市販の炭酸マンガン六水和物(MnCO3・6H2O:和光純薬工業株式会社製)をニッケル、コバルト、マンガンのモル比で1:1:1となるように秤量し、これに純水を加えて、固形分濃度が15質量%である化合物スラリーを調製した。
【0093】
このスラリーを攪拌しながら、メディアとして大きさが0.3mmのビーズルミルを使用し、循環式メディア攪拌型湿式粉砕器(アシザワ・ファインテック株式会社製、LMZ−4)を用いて、スラリー中の固形分の平均粒子径が0.3μmになるまで粉砕し、その後、粉砕混合後のスラリーを用いて、三流体ノズル噴霧型のスプレードライヤー(藤崎電機株式会社製、MDL−050−M)を用いて、噴霧乾燥を行なった(工程1)。
【0094】
得られた混合原料を仕込みのLi/Me原子数比が1.05となるように、市販の炭酸リチウム(LiCO3:FMC社製)と前記混合原料を秤量、混合した後に、焼成炉(入江製作所製、プログラム電気マッフル炉)を用いて、空気気流中、1000℃、10時間の条件で焼成を行なった(工程3)。
【0095】
得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を、スラリー濃度1000g/Lとなるように30℃の純水と混合し、30分間、撹拌した後、濾過し、180℃にて真空乾燥を行って、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た(工程4)。
【0096】
その結果、平均粒径が5.8μm、比表面積が0.7m2/g、タップ密度が1.7g/cm3である、略球状の二次粒子が得られた。なお、粒度分布の測定は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製 マイクロトラックHRA)により行い、比表面積は窒素吸着式BET法測定機(ユアサアイオニックス株式会社製 カンタソーブQS−10)により測定し、タップ密度測定はJIS R 1628により測定した。なお、水洗時の水温を20〜50℃の範囲で変化させて、同様に正極活物質を得たところ、かかる水温の影響は小さく、いずれの条件においても同様の結果が得られることを確認した。
【0097】
また、ICP質量分析装置(VARIAN社製、725−ES)を用いて、得られた正極活物質の組成を分析したところ、Li1.04Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であることが確認された。
【0098】
さらに、粉末X線回折装置(PANalytical社製、X‘Prt PRO)を用いて、得られた正極活物質について、Cu−Kα線による粉末X線回折で分析したところ、六方晶の層状結晶リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物単相であることが確認された。
【0099】
得られた粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果により、3aサイトにおけるリチウムイオンのサイト占有率(Li席占有率)が98.1%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.9%で、一方、3bサイトにおけるニッケル、コバルト、マンガンのサイト占有率(Me席占有率)が95.5%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が4.5%であった。
【0100】
得られた正極活物質を用いて、以下のよう電池を作製し、充放電容量を測定した。得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、得られた正極合材をアルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、100MPaの圧力で直径11mmにプレス成形して正極を得た。作製した正極を真空乾燥機中120℃で一晩乾燥し、この正極を用いて、図1に示す2032型コイン電池をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で組み立てた。
【0101】
負極には、直径17mm、厚さ1mmのリチウム金属を用い、電解液には1MのLiClO4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液を用いた。セパレータには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。
【0102】
なお、コイン電池は、組み立て後、開回路電圧が安定した後、電流密度0.1mA/cm2で充電および放電の終止電圧をそれぞれ4.5Vおよび3.0Vとして、充放電試験を行なった。さらに、交流インピーダンス法により、充電電位4.0Vのときの正極抵抗を見積もった。測定にはソーラトロン(Solartron)社製の周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタットを使用した。得られたプロットは、図2に示すように、等価回路を用いてフィッティングし、溶液抵抗、負極抵抗、正極抵抗に近似した。
【0103】
工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の平均粒径、正極活物質のLi/Me比、Li席占有率、Me席占有率、初期放電容量および工程4における水洗による初期放電容量の改善率(対応する比較例との比較)、正極抵抗値のそれぞれを評価結果として表2に、それぞれ示す。
【0104】
(実施例2)
仕込みのLi/Me比を1.00とした以外は、実施例1と同様にして、Li0.99Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は、六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が98.4%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.6%で、Me席占有率は96.8%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が3.2%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0105】
(実施例3)
仕込みのLi/Me比を0.95とした以外は、実施例1と同様にして、Li0.95Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物が、六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることを確認した。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が97.7%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が2.3%で、Me席占有率は97.4%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が2.6%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0106】
(実施例4)
工程3における焼成温度を900℃とした以外は、実施例1と同様にして、Li1.05Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は、六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が98.2%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.8%で、Me席占有率は94.2%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が5.8%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0107】
(実施例5)
工程3における焼成温度を1100℃とした以外は、実施例1と同様にして、Li1.03Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに評価した。得られた焼成物は、六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認された。また,粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が97.6%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が2.4%で、Me席占有率は93.7%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が6.3%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0108】
(実施例6)
工程2を追加し、工程2において空気気流中500℃、2時間の熱処理を行い、炭酸リチウムを工程2の熱処理後に混合した以外は、実施例1と同様にして、Li1.04Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は、六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認された。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が98.6%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.4%で、Me席占有率は95.2%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が4.8%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0109】
(実施例7)
工程1において水酸化ニッケル、水酸化コバルト、酸化マンガン、および炭酸リチウムを、Li/Me原子数比で1.05となるように混合粉砕して、スラリーを調整した以外は、実施例1と同様にして、Li1.05Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は、六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が98.9%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.1%で、Me席占有率は95.4%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が4.6%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0110】
(比較例1)
工程4の水洗処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、Li1.06Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が98.7%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.3%で、Me席占有率は94.2%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が5.8%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0111】
(比較例2)
工程4の水洗処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして、Li1.01Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が98.9%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.1%で、Me席占有率は95.4%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が4.6%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0112】
(比較例3)
工程4の水洗処理を行わなかった以外は、実施例3と同様にして、Li0.97Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が98.2%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.8%で、Me席占有率は96.7%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が3.3%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0113】
(比較例4)
工程4の水洗処理を行わなかった以外は、実施例4と同様にして、Li1.06Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が98.9%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.1%で、Me席占有率は93.6%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が6.4%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0114】
(比較例5)
工程4の水洗処理を行わなかった以外は、実施例5と同様にして、Li1.04Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が98.3%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.7%で、Me席占有率は92.8%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が7.2%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0115】
(比較例6)
工程4の水洗処理を行わなかった以外は、実施例6と同様にして、Li1.06Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が99.0%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が1.0%で、Me席占有率は94.2%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が5.8%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0116】
(比較例7)
工程4の水洗処理を行わなかった以外は、実施例7と同様にして、Li1.05Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が99.4%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が0.6%で、Me席占有率は94.6%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が5.4%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0117】
(比較例8)
化合物スラリーを固形分濃度10質量%に調製したこと、仕込みのLi/Me比を1.32としたこと、工程2において空気気流中800℃、2時間の熱処理を行い、炭酸リチウムを工程2の熱処理後に混合したこと、工程4の水洗処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、Li1.26Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンをリートベルト解析した結果より、Li席占有率が99.5%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が0.5%で、Me席占有率は88.2%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が11.8%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0118】
(比較例9)
化合物スラリーを固形分濃度10質量%に調製したこと、仕込みのLi/Me比を0.90としたこと、工程2において空気気流中800℃、2時間の熱処理を行い、炭酸リチウムを工程2の熱処理後に混合したこと、工程4の水洗処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、Li0.89Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンの結果をリートベルト解析した結果より、Li席占有率が94.8%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が5.2%で、Me席占有率は98.9%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が1.1%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0119】
(比較例10)
化合物スラリーを固形分濃度10質量%に調製したこと、仕込みのLi/Me比を1.10としたこと、工程2において空気気流中500℃、2時間の熱処理を行い、炭酸リチウムを工程2の熱処理後に混合したこと、工程3における焼成温度を800℃としたこと、工程4の水洗処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、Li1.10Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに評価した。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンの結果をリートベルト解析した結果より、Li席占有率が97.3%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が2.7%で、Me席占有率は94.2%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が5.8%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0120】
(比較例11)
化合物スラリーを固形分濃度10質量%に調製したこと、仕込みのLi/Me比を1.10としたこと、工程2において空気気流中500℃、2時間の熱処理を行い、炭酸リチウムを工程2の熱処理後に混合したこと、工程3における焼成温度を1150℃としたこと、工程4の水洗処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、Li1.08Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンの結果をリートベルト解析した結果より、Li席占有率が99.1%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が0.9%で、Me席占有率は89.1%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が10.9%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0121】
(比較例12)
化合物スラリー中の固形分の平均粒子径が1.2μmであること以外は、実施例1と同様にして、Li1.05Ni0.33Co0.33Mn0.332で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を得るとともに、その評価を行った。得られた焼成物は六方晶系の層状構造を有する所望の正極活物質であることが確認できた。また、粉末X線回折パターンの結果をリートベルト解析した結果より、Li席占有率が96.8%、すなわちリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が3.2%で、Me席占有率は97.5%、すなわちニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が2.5%であった。工程中の各条件を表1に、得られた正極活物質の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
表2から明らかなように、水洗を行った実施例1〜7の電池は、初期放電容量が改善され高い電池容量と低い正極抵抗を有していることがわかる。一方、水洗を行っていない以外は実施例1〜7と同様に製造を行った比較例1〜7の電池は、初期放電容量が低く、高い電池容量が得られておらず、焼成後の水洗による効果は明らかである。
【0125】
さらに、焼成後の水洗を行っていない比較例8〜11から以下の傾向が明らかである。すなわち、Li/Me原子数比が本発明の範囲より高くなると(比較例8)、Me席のニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が10%を超え、電池容量が低くなる。一方、Li/Me原子数比が本発明の範囲より低くなると(比較例9)、電池容量が低く、正極抵抗が高くなる。また、焼成を本発明の温度範囲外で行うと(比較例10、11)、電池容量が低く、正極抵抗が高くなる。さらに、比較例12より、原料化合物の平均粒径が1μmを超えると、水洗処理を行った場合でも、電池容量が低くなることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定されるものではない。工業的規模で安定して生産され、かつ、安全性が優れているという本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質およびこれを用いた二次電池のメリットを活かせば、本発明は、多量の正極活物質を利用する、電気自動車やハイブリッドカー用電源などの用途における大型の二次電池に好適に適用される。
【符号の説明】
【0127】
1 リチウム金属負極
2 セパレータ(電解液含浸)
3 正極(評価用電極)
4 ガスケット
5 負極缶
6 正極缶
7 集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:LiwNixCoyMnz2(ただし、0.95≦w≦1.05、x=z、x+y+z=1、0.3≦x≦0.45、0.1≦y≦0.4、0.3≦z≦0.45)で表され、かつ、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の製造方法であって、
ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物を、溶媒中で平均粒径が0.1μmを超えて1μm以下の範囲内の大きさとなるまで粉砕混合し、得られた化合物スラリーを噴霧乾燥して、平均粒径が2μm〜6μmの範囲内にある、ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物の混合原料を得る工程と、
得られた混合原料とリチウム化合物とを混合し、得られた混合物を焼成して、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得る工程と、
得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を水洗し、真空乾燥する工程と、
を備えることを特徴とする、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記混合原料を300℃〜800℃で熱処理する工程をさらに備え、熱処理後の該混合原料と前記リチウム化合物とを混合することを特徴とする、請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
一般式:LiwNixCoyMnz2(ただし、0.95≦w≦1.05、x=z、x+y+z=1、0.3≦x≦0.45、0.1≦y≦0.4、0.3≦z≦0.45)で表され、かつ、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の製造方法であって、
ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、およびリチウム化合物を、溶媒中で平均粒径が0.1を超えて1μm以下の範囲内の大きさとなるまで粉砕混合し、得られた化合物スラリーを噴霧乾燥して、平均粒径が2μm〜6μmの範囲内にある、ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、およびリチウム化合物の混合物を得る工程と、
得られた混合物を焼成して、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得る工程と、
得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を水洗し、真空乾燥する工程と、
を備えることを特徴とする、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記水洗工程において、スラリー濃度が500g/L〜2000g/Lの範囲内となるように、前記得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を水と混合したのち、15分〜1時間、撹拌し、その後、濾過することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル化合物、コバルト化合物、およびマンガン化合物のそれぞれが、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、酢酸塩の群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記リチウム化合物が、水酸化物および炭酸塩から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記混合物の焼成工程を、900℃〜1100℃の範囲内の温度、空気気流中または酸素気流中、かつ1時間以上の条件で行なうことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法で得られ、一般式:LiwNixCoyMnz2(ただし、0.95≦w≦1.30、x=z、x+y+z=1、0.3≦x≦0.45、0.1≦y≦0.4、0.3≦z≦0.45)で表され、かつ、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であって、粉末X線回折パターンのリートベルト解析により得られる3aサイトにおけるリチウム以外の金属イオンのサイト占有率が5%以下であり、かつ、3bサイトにおけるニッケル、コバルト、マンガン以外の金属イオンのサイト占有率が10%以下であり、平均粒径が2μm〜6μmであることを特徴とする、非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項9】
2032型コイン電池の正極における正極材料として用いた場合に、当該電池の初期放電容量が180mAh/g以上となり、かつ、正極抵抗が6.5Ω以下となることを特徴とする、請求項8に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項10】
請求項8または9に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材料として用いた正極を備える、非水系電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−238416(P2011−238416A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107774(P2010−107774)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】