説明

非水系電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法、並びに非水系電解質二次電池

【課題】 非水系電解質二次電池用の正極活物質で、高い充放電熱容量と高いサイクル耐久特性という2つの特性を両立させたリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質を提供する。
【解決手段】 リチウムニッケル複合酸化物一次粒子が凝集した二次粒子から構成される正極活物質であって、一次粒子の組成が化学式LiNi1−x−yCo(MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08、0.97≦z≦1.10である)で表されると共に、一次粒子の表面に無機リチウム化合物の被覆層を有するか、又は二次粒子の内部に空隙を有し、その被覆層又は空隙の面積占有率が二次粒子断面積の2.5〜9%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池に使用される正極活物質とその製造方法、並びに、その正極活物質を用いた非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有し、小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。このような二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は負極と正極及び電解液等で構成され、負極及び正極の活物質としてリチウムを脱離又は挿入することが可能な材料が用いられている。
【0003】
特に、正極活物質としてリチウムコバルト系複合酸化物(LiCoO)を用いたリチウムイオン二次電池については、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発が数多く行われてきており、既にさまざまな成果が得られている。具体的には、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する二次電池として期待され、携帯電子機器などの分野で実用化が進んでいる。
【0004】
最近は、携帯電子機器用の小型二次電池だけではなく、電力貯蔵用や電気自動車用などの大型二次電池として、リチウムイオン二次電池を適用することへの期待も高まってきている。しかし、その正極物質であるリチウムコバルト系複合酸化物は、希産で高価なコバルトを用いているため、汎用の安価な二次電池用としては高価格とならざるを得ない。そのため、より安価な正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の製造が強く求められている。
【0005】
こうした求めに応じるものとして、コバルトよりも安価なマンガンを用いたリチウムマンガン系複合酸化物(LiMn)や、ニッケルを用いたリチウムニッケル系複合酸化物(LiNiO)を正極活物質とするリチウムイオン二次電池が提案されている。
【0006】
上記リチウムマンガン系複合酸化物は、その原料が安価であるうえ、熱安定性、特に発火などについての安全性に優れるため、リチウムコバルト系複合酸化物の有力な代替材料であるといえる。しかしながら、理論容量がリチウムコバルト系複合酸化物のおよそ半分程度しかないため、年々高まるリチウムイオン二次電池の高容量化の要求に応えるのが難しいという欠点を持っている。また、45℃以上では自己放電が激しく、充放電寿命も低下するという欠点もある。
【0007】
また、上記リチウムニッケル系複合酸化物は、リチウムコバルト系複合酸化物とほぼ同じ理論容量を持ち、リチウムコバルト系複合酸化物よりもやや低い電池電圧を示す。このため、電解液の酸化による分解が問題になり難く、より高い容量が期待できるものの、サイクル特性に劣るという問題がある。この問題を解決するため、ニッケルの一部を他の元素で置換したリチウムニッケル系複合酸化物を正極活物質として用いるリチウムイオン二次電池が提案されている。
【0008】
例えば非特許文献1には、サイクル特性を向上させるために、リチウムニッケル系複合酸化物のニッケルの一部をコバルトに置換する方法が提案されている。この方法は、リチウムコバルト系複合酸化物ではリチウムの脱挿入に伴う膨張収縮がリチウムニッケル系複合酸化物の単位格子とは逆の挙動を示す性質を利用して、充放電によるリチウムの脱挿入により繰り返されるリチウムニッケル系複合酸化物の単位格子の膨張収縮を抑制し、この膨張収縮を起因とする一次粒子間の粒界でのクラック発生による二次粒子内の導電性の低下、更には二次粒子の微細化による活物質と極板間の導電性の低下による抵抗の増大を防止し、もってサイクル特性を向上させようとするものである。
【0009】
また、特許文献1には、高温環境下での保存や使用に際して良好な電池性能を維持することのできる正極活物質として、LiNiCo(但し、0.05≦w≦1.10、0.5≦x≦0.995、0.005≦z≦0.20、x+y+z=1である)で表されるリチウムニッケル系複合酸化物、即ちコバルトとホウ素が添加されたリチウムニッケル系複合酸化物が提案されている。
【0010】
また、特許文献2では、リチウムイオン二次電池の自己放電特性やサイクル特性を向上させることを目的として、LiNiCo(但し、MはAl、V、Mn、Fe、Cu及びZnから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.8≦x≦1.2、0.01≦a≦0.99、0.01≦b≦0.99、0.01≦c≦0.3、0.8≦a+b+c≦1.2である)で表されるリチウムニッケル系複合酸化物が提案されている。
【0011】
こうしたニッケルの一部を他の元素で置換したリチウムニッケル系複合酸化物を正極活物質として用いた場合、リチウムコバルト系複合酸化物に比べて充電容量及び放電容量ともに高くなり、サイクル特性も改善される。しかしながら、充放電によるリチウムの脱挿入に伴う結晶格子の膨張収縮を完全になくすことは不可能であり、サイクル特性の改善にも限界があるとされている。
【0012】
一方、粒子構造面からリチウム複合酸化物の特性改善を試みる技術も提案されている。例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5及び特許文献6では、粒径0.1μm〜2μm程度の一次粒子が5〜30μm程度に凝集した二次粒子は高容量とサイクル耐久性とを両立でき、加えて工業的に製造する上での取り扱いに優れるといった点で、非水系電解質二次電池の正極活物質として適していることを開示している。
【0013】
しかし、上記した二次粒子は、特許文献7に開示されているように、X線回折図形のリートベルト解析から得られる3aサイトのリチウム以外の金属イオンによるサイト占有率が3%以下であり、粒径が0.1〜1μmである一次粒子が複数集合して二次粒子を形成する正極活物質のように、結晶構造と粉体構造を両立した粒子設計が不可欠である。
【0014】
また、携帯電子機器等に用いる小型二次電池に対する高容量化の要求は高まる一方であり、単位体積当たりの充填密度が高く、且つ高特性を有する正極活物質粉体が求められている。そのためには、二次粒子の形状は球状あるいは楕円球状であり、タップ密度が高いことも重要な特性となっている。
【0015】
粒径0.1μmから1μm程度の一次粒子と、その凝集体である二次粒子からなる基本構造に立脚した上で、サイクル特性等を改善する提案として、二次粒子内の細孔分布や空隙率を制御する技術も公開されている。ただし、この技術は二次粒子内への電解液の拡散に注目して開発されたものであって、リチウム脱挿入に伴う一次粒子の膨張収縮による影響を抑制するという視点でなされたものではない。
【0016】
例えば、特許文献8では、1次粒子がLiNiOあるいはNiの一部をCoで置換したLiNi1−xCo(但し、x=0.05〜0.10)であって、その二次粒子径が3〜30μmの範囲内にあり、細孔体積の80%以上が50nm以下の細孔半径を有し、且つ平均細孔半径が3〜10nmの範囲内にあるものを非水リチウム二次電池用正極活物質として使用することが提案されている。これにより、初期容量の再現性を確保でき、サイクルによる容量低下を抑制することができるとしている。
【0017】
しかしながら、これまで報告されている限りでは、上記LiNiOやLiNi1−xCoを正極活物質に用いた非水系電解質二次電池は、電池の充電状態での高温保存試験を行うことによって電池性能が著しく劣化するという問題を十分解決できていないという指摘がなされている。
【0018】
また、この問題を解決するものとして、特許文献9には、リチウムニッケル複合酸化物を主成分とし、炭素材からなる導電材と、結着剤と、リチウムニッケル複合酸化物を支持して導電性を付与する平板とで構成される非水系電解質電池用正極板において、LiNi1−y(但し、MはCo、Mn、Cr、Fe、Mg、Alの1種類以上であり、1.10≧x≧0.98、y:0.95≧y≧0.7である)で表され、粒径2μm以下の一次粒子が集合した球状もしくは楕円球状の粒子であるリチウムニッケル系複合酸化物を正極活物質として用いることが提案されている。
【0019】
尚、上記特許文献9の正極活物質であるリチウムニッケル系複合酸化物は、次の物性を備えるものとされている。即ち、1)30Å以下の細孔半径を有する空間体積が全空間体積に対して10%以下、2)30Å以下の細孔半径を有する空間の総体積が0.002cm/g以下、3)窒素ガス吸着により測定されるBET比表面積が0.15〜0.3m/g、4)平均粒子径が10〜16μm、5)タップ密度が2.0〜3.0g/cm、6)細孔の空間体積が0.0015〜0.06cm/gとされている。
【0020】
しかしながら、上記したリチウムニッケル系複合酸化物を正極活物質とする特許文献9のリチウムイオン二次電池では、活物質1g当たりの初期容量(上記特許文献9では活物質利用率として表示されている)が170mAh/g台と低く、近時の高容量化の要求を満たしてはいない。
【0021】
また、特許文献10では、複数個の一次粒子が凝集して二次粒子を形成し、該二次粒子の断面において一次粒子同士が結合している長さが該一次粒子の断面における全周の長さに対して10〜70%であり、該二次粒子の空隙率が2.5〜35%であるLiMnNiCo(但し、1≦a≦1.2、0≦x≦0.65、0.35≦y<0.5、0≦z≦0.65、x+y+z=1)の複合酸化物の層構造を有する結晶からなる正極材料を開示している。
【0022】
しかしながら、特許文献10の実施例によれば、電池の放電容量は25℃で約150mAh/gであり、近時の要望に応えうるものとなっていない。尚、上記特許文献10では、Li以外の金属元素のうちNiが50%を超えると、膨張収縮による影響が抑制できないとしている。
【0023】
【特許文献1】特開平8−45509号公報
【特許文献2】特開平8−213015号公報
【特許文献3】特開平7−183047号公報
【特許文献4】特開平9−129230号公報
【特許文献5】特開平10−72219号公報
【特許文献6】特開2006−310181号公報
【特許文献7】特開2000−30693号公報
【特許文献8】特開平8−7894号公報
【特許文献9】特開平11−135119号公報
【特許文献10】特開2005−5105号公報
【非特許文献1】A.Ueda and T.Ohzuka, J. Electrochem. Soc., 141, No.8, 2010(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
近年、携帯電子機器等に用いる小型二次電池に対する高容量化と長寿命化の要求は高まる一方であり、また上記したようにリチウムイオン二次電池を大型二次電池に用いようという動きも盛んであり、中でもハイブリッド自動車用や電気自動車用の電源としての期待が大きい。自動車用の電源として用いる場合、自動車の耐用年数に相当する寿命特性が電池にも要求されるため、従前に増して高容量とサイクル耐久性を両立した非水系電解質二次電池が望まれている。
【0025】
本発明は、かかる従来からの事情に鑑みてなされたものであって、高い充放電熱容量と高いサイクル耐久特性という2つの特性を両立させた非水系電解質二次電池を実現し得る正極活物質、特にリチウムニッケル系複合酸化物からなる正極活物質と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するため、本発明者は種々検討を重ねた結果、二次粒子内への電解液の拡散に注目して開発された正極活物質において、その表面に特定の化合物層を設けた一次粒子にて特定の細孔構造を有する二次粒子を形成した正極活物質は、従来よりも高いサイクル耐久性と高い初期放電容量を有することを見出した。また、この正極活物質を水洗して上記化合物層を除去し、二次粒子の細孔構造を更に改良した正極活物質は、更に高いサイクル特性と初期放電容量を有することを見出し、本発明を完成したものである。
【0027】
即ち、本発明が提供する第1の正極活物質(以下、正極活物質Aと称する)は、平均粒径0.1〜2μmの層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の凝集により形成された二次粒子から構成される非水系電解質二次電池の正極活物質であって、リチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の組成が下記化学式3で表されると共に、該一次粒子の表面に無機リチウム化合物の被覆層を有し、該被覆層が占める面積割合が二次粒子断面積の2.5〜9%であることを特徴とする。
【0028】
【化3】

(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08、0.97≦z≦1.10である)
【0029】
上記本発明の正極活物質Aにおいて、前記被覆層を形成する無機リチウム化合物は硫酸リチウムであることが好ましい。また、上記本発明の正極活物質Aは、タップ密度が2.0〜2.5g/ccであることが好ましい。
【0030】
本発明が提供する正極活物質Aの製造方法は、NiとCoとM(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素である)とがモル比で1−x−y:x:y(但し、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08である)となるように固溶している金属複合酸化物に、リチウム含有化合物と硫酸基の割合が1.6〜4.3重量%となるように硫酸化合物とを混合し、その混合物を700〜800℃で4〜50時間保持することを特徴とする。ここで、前記硫酸化合物は、Li、Ni、Co、Mn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の金属の硫酸塩あるいは硫酸塩水和物であることが好ましい。
【0031】
また、本発明が提供する正極活物質Aの別の製造方法は、NiとCoとM(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素である)とがモル比で1−x−y:x:y(但し、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08である)となるように固溶し、且つ硫酸基を1.6〜4.3重量%の割合で含む金属複合酸化物に、リチウム含有化合物を混合し、その混合物を700〜800℃で4〜50時間保持することを特徴とする。
【0032】
次に、本発明が提供する第2の正極活物質(以下、正極活物質Bと称する)は、平均粒径0.1〜2μmの層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の凝集により形成された二次粒子から構成される非水系電解質二次電池の正極活物質であって、リチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の組成が下記化学式4で表されると共に、該二次粒子の内部に空隙を有し、該空隙が占める面積割合が二次粒子断面積の2.5〜9%であることを特徴とする。
【0033】
【化4】

(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08、0.97≦z≦1.10である)
【0034】
上記本発明の正極活物質Bにおいては、タップ密度が2.2〜2.7g/ccであることが好ましい。また、上記本発明の正極活物質Bの製造方法は、上記した本発明の正極活物質Bを極性溶媒と接触させ、無機リチウム化合物の被覆層を溶解除去することを特徴とするものであり、その際に用いる極性溶媒としては水を用が好ましい。
【0035】
また、本発明は、上記した正極活物質A又は正極物質Bを用いたことを特徴とする非水系電解質二次電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、高い充放電初期容量を有すると同時にサイクル耐久性にも優れた非水系電解質二次電池用の正極活物質、即ち正極物質A及びBを提供することができる。特に本発明の正極活物質Bは、ノート型パーソナルコンピューターや携帯電話端末などの小型携帯電子機器の電源用、あるいは電気自動車の電源用として好適である。尚、電気自動車とは、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の燃焼機関と併用する、いわゆるハイブリッド車も含む。
【0037】
また、本発明の正極活物質Aは、正極活物質Bを得るための中間生成物でもあるが、同時に単独で非水系電解質二次電池用の正極活物質として使用することができ、正極活物質Bには及ばないものの、従来の正極活物質よりも高い充放電容量を有し且つサイクル特性にも優れているため、小型携帯電子機器の電源用として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
まず、本発明の正極活物質Bについて説明する。正極活物質Bは、下記化学式5で表され、平均粒径が0.1〜1μmの層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の凝集により形成された二次粒子から構成されている。しかも、正極活物質Bは二次粒子内部に空隙を有し、二次粒子の断面電子顕微鏡観察像による空隙の占める面積割合が二次粒子の断面積の2.5〜9%であることを特徴とするものである。
【0039】
【化5】

(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08、0.97≦z≦1.10である)
【0040】
リチウムニッケル系複合酸化物が正極活物質として良好に機能するには、リチウムの脱挿入が円滑に行われることが重要である。そのためには、結晶構造が完璧な層状構造に近づくことが求められ、3aサイトのリチウム席占有率が98%以上となることが望ましい。この結晶性を達成するためには、リチウムニッケル系複合酸化物の組成は、上記化学式5に示すLiNi1−x−yCo(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08、0.97≦z≦1.10である)の組成であることが好ましい。
【0041】
リチウムイオン二次電池では、充電に伴いリチウムが正極活物質の結晶格子から脱離して一次粒子が収縮し、放電の際にはリチウムが正極活物質の結晶格子内に挿入されて一次粒子が膨張する。この収縮と膨張を繰り返していると、一次粒子同士が解離してしまい、最終的には二次粒子の割れに繋がって電池特性の劣化を招く。本発明では正極活物質Bの二次粒子内に空隙を設けることによって、この充放電の際の膨張と収縮を緩和し、一次粒子同士の完全な解離を抑制して、二次粒子の割れを防止することができる。
【0042】
ただし、上記正極活物質の二次粒子に空隙が導入されると、二次粒子の密度が低下してタップ密度も低下し、二次電池を構成する際の活物質充填量が低下する結果、リチウムイオン二次電池の充放電容量を低下させる恐れがある。従って、正極活物質として好ましいタップ密度2.2g/cc以上を達成するためには、二次粒子の断面電子顕微鏡観察像により求めた空隙の占める面積割合を二次粒子断面積の9%以下とすることが好ましい。ただし、空隙の面積割合が少なすぎると、粒子の膨張収縮分を十分に吸収できないので、空隙の占める面積割合を二次粒子断面積の2.5%以上とすることが好ましく、この場合のタップ密度は2.7g/cc以下となる。
【0043】
次に、本発明の正極活物質Aについて説明する。正極活物質Aは、平均粒径が0.1〜2μmの層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の凝集により形成された二次粒子からなり、そのリチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の組成が下記化学式6で表される。そして、正極活物質Aは、その一次粒子の表面に無機リチウム化合物の被覆層を有し、二次粒子の断面電子顕微鏡観察像において被覆層の占める面積割合が二次粒子の断面積の2.5〜9%であることを特徴とするものである。
【0044】
【化6】

(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08、0.97≦z≦1.10である)
【0045】
上記したように、正極活物質Aは正極活物質Bを製造する過程での中間生成物である。しかし、正極活物質Aを用いて作製したリチウムイオン二次電池も、上記正極活物質Bを用いたリチウムイオン二次電池には及ばないものの、従来のリチウムイオン二次電池よりも高い充放電容量とサイクル耐久性が得られるため、正極活物質Aもまた優れた正極活物質といえる。
【0046】
正極活物質Aにおける無機リチウム化合物の被覆層の役割は、上述したリチウムの脱挿入の繰り返しに伴う正極活物質の一次粒子の膨張収縮を緩和して、一次粒子同士の解離を抑制し、更には二次粒子の割れを防ぎ、もってサイクル耐久特性を向上させるものである。しかし、正極活物質Aの膨張収縮の緩和機能は、正極物質Bの空隙には及ばないと言える。
【0047】
一次粒子の表面に形成された被覆層の存在形態は、二次粒子を構成する一次粒子と一次粒子の間に厚さ数nmから数十nm程度でほぼ均一に存在することが望ましい。ただし、被覆層が厚すぎると、一次粒子同士の接合を完全に遮断してしまい、リチウムイオンの拡散を阻害するため好ましくない。また、薄すぎると被覆層としての効果が期待できない。そのため、一次粒子の平均粒径が0.1μmから2μm程度である電池特性に優れたリチウムニッケル複合酸化物の場合には、被覆層の占める面積割合は、二次粒子の断面電子顕微鏡観察像において、二次粒子断面積の2.5〜9%の範囲に制御されていることが好ましい。
【0048】
また、被覆層を有する正極活物質Aを用いる場合には、二次電池の充放電容量の低下を防止するため、正極活物質Aのタップ密度は2〜2.5g/ccとすることが望ましい。正極活物質Aにおける被覆層の面積割合を上記のごとく二次粒子断面積の2.5〜9%の範囲内に制御すれば、正極活物質Aのタップ密度を上記した2〜2.5g/ccの範囲内に納めることができる。
【0049】
被覆層の化学形態としては、正極活物質としてリチウムの脱挿入を阻害しない形態が望ましく、酸化リチウム、水酸化リチウム、硫酸リチウムなどの無機リチウム化合物が好ましい。その中でも、製造しやすさの観点から、また結晶性の制御の点からも、硫酸リチウムが最も好適である。
【0050】
尚、上記した正極物質A及び正極物質Bにおいて、平均粒径0.1〜2μmの層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル系複合酸化物の一次粒子を用いる理由は、容易に特性の良いリチウムイオン二次電池を得ることが可能となるからである。
【0051】
次に、上記した正極活物質A及びBの製造方法について説明する。まず、正極活物質Aを製造する第1の方法は、NiとCoとM(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素である)とがモル比で1−x−y:x:y(但し、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08)となるように固溶している金属複合酸化物を製造し(第1a工程)、この金属複合酸化物にリチウム源となるリチウム含有化合物と硫酸化合物とを混合し、その混合物を700〜800℃で4〜50時間保持する(第2a工程)。
【0052】
得られる正極活物質Aの被覆層の面積割合は、硫酸化合物の添加量により調整することができる。具体的には、焼成条件等にもよるが、被覆層の面積割合を二次粒子断面積の2.5〜9%に制御するためには、硫酸化合物の添加量を硫酸基として0.7〜3.1%の範囲内に調整することが好ましい。
【0053】
また、正極物質Aの第2の製造方法として、NiとCoとM(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素である)とがモル比で1−x−y:x:y(但し、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08)となるように固溶し、且つ硫酸基を1.6〜4.3重量%の割合で含む金属複合酸化物を製造し(第1b工程)、この硫酸基を含む金属複合酸化物にリチウム源のリチウム含有化合物を混合して、その混合物を700〜800℃で4〜50時間保持する(第2b工程)こともできる。
【0054】
この第2の製造方法においても、正極活物質Aの被覆層の面積割合は、硫酸化合物の添加量により調整することができるが、この方法の場合は金属複合酸化物中の硫酸基を1.6〜4.3%の範囲内に調節することにより、被覆層の面積割合を2.5〜9%にすることが可能である。
【0055】
上記リチウム含有化合物としては、従来からリチウムニッケル系複合酸化物の製造にリチウム源として使用されているものでよく、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、過酸化リチウムなどを好適に用いることができる。また、上記硫酸化合物としては、リチウムニッケル系複合酸化物を形成する金属イオンを陽イオンとする化合物、具体的にはLi、Ni、Co、Mn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の金属の硫酸塩あるいは硫酸塩水和物が好ましい。
【0056】
上記の第1あるいは第2の製造方法により、平均粒径0.1〜2μmの層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル系複合酸化物で且つ上記化学式6を有し、その表面に無機リチウム化合物の被覆層を有する一次粒子が凝集した二次粒子から構成される正極物質Aが得られる。
【0057】
更に、この正極活物質Aを極性溶媒とを接触させて、無機リチウム化合物の被覆層を溶解除去することによって(第3工程)、平均粒径0.1〜2μmの層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル系複合酸化物で且つ上記化学式5を有する一次粒子が凝集した二次粒子から構成され、その二次粒子内に空隙を有する正極活物質Bを製造することができる。また、上記極性溶媒としては、水を用いることが好ましい。尚、正極活物質Bの空隙の面積割合は、その製造に用いた正極活物質Aの被覆層の面積割合と実質的に同じである。
【0058】
更に具体的な製造方法について、無機リチウム化合物の被覆層を硫酸リチウムで構成する場合を例として説明する。一般的な中和晶析法により、上記第1の方法では、NiとCoとM(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素である)のモル比が1−x−y:x:y(但し、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08)である金属複合水酸化物を合成し、焙焼して金属複合酸化物を得る。
【0059】
この金属複合酸化物に、所定量の硫酸リチウムや硫酸ニッケル等のリチウムニッケル系複合酸化物を形成する金属イオンを陽イオンとする硫酸塩又は硫酸塩水和物と、リチウム源である水酸化リチウムとを混合する。混合物を熱処理することにより、1次粒子表面に硫酸リチウムの被覆層を有する正極物質Aが得られる。尚、上記熱処理条件は700℃〜800℃で4時間以上保持することが好ましいが、730〜760℃で16〜48時間保持することが更に好ましい。
【0060】
その後、得られた正極活物質Aを常温の水中に投入し、30分〜1時間撹拌して硫酸リチウムの被覆層を溶解除去した後、固液分離し、乾燥して正極活物質Bを得る。上記した被覆層を溶解する際の温度範囲と接触時間は、正極活物質A中のリチウム化合物の被覆層を効率よく且つ確実に除去でき、所定の空隙が得られる好ましい条件である。
【0061】
また、上記金属複合酸化物を製造する際に、上記第2の方法では、硫酸ニッケル等のリチウムニッケル系複合酸化物を形成する金属イオンを陽イオンとする硫酸塩及び硫酸塩水和物を原料として用いることで、硫酸基を有する金属複合酸化物を得ることができる。この金属複合酸化物は既に硫酸基を含むので、更に硫酸化合物を添加せず、リチウム源であるリチウム含有化合物のみを混合し、熱処理することによって同様に正極活物質Aを得ることができる。更に、この正極物質Aを水と接触させて、正極物質Bを得ることができる。
【0062】
このようにして得られた本発明の正極活物質A及びBは、3aサイトのリチウム席占有率が98%以上で有り、且つ二次粒子内に所定の面積割合の被覆層あるいは空隙を有するため、リチウム二次電池用として高い充放電容量と同時に高いサイクル耐久性を備えるものである。
【0063】
次に、本発明の正極活物質A、Bを用いた非水系電解質二次電池、具体的にはリチウムイオン二次電池について、図1を参照して説明する。リチウムイオン二次電池は、正極1と負極2とをセパレータ3を介して積層させて電極体とし、この電極体に非水電解液を含浸させる。正極集電体4は正極缶5に当接させ、負極集電体6は負極缶7に当接させ、正極缶5と負極缶7はガスケット8を介して封止される。尚、正極集電体4と負極集電体6を、外部に通ずる端子集電用リード等を用いて接続する場合もある。また、リチウム二次電池の形状は、図1に示すコイン型のほか、円筒型、積層型など種々のものがある。
【0064】
上記正極は、例えば次のようにして作製する。まず、粉末状の正極活物質と導電材と結着剤を混合し、更に必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質の含有量を60〜95質量%、導電材の含有量を1〜20質量%、結着剤の含有量を1〜20質量%とすることが好ましい望ましい。
【0065】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもある。このようにしてシート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供する。ただし、正極の作製方法は、上記例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0066】
正極の作製に用いる導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。また、結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0067】
必要に応じて、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0068】
上記負極の製造は、金属リチウム、リチウム合金などと、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材とする。この負極合材を銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して負極とする。
【0069】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。結着剤としては、正極と同様に、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができる。これらの活物質及び結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0070】
上記セパレータは、正極と負極とを分離し且つ電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な穴を多数有する膜を用いることができる。繊維から成る薄膜を用いることもできる。
【0071】
上記非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSOなど、及びそれらの複合塩を用いることができる。更に、非水系電解液は、ラジカル補足剤、界面活性剤及び難燃剤などを含んでいてもよい。
【0072】
また、有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物;リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【実施例】
【0073】
[実施例1]
硫酸ニッケル水和物、硫酸コバルト水和物、硫酸アルミニウムを、モル比でNi:Co:Alの割合が0.82:0.15:0.03になるように混合し、水で溶解して混合金属硫酸塩溶液を調整した。この混合金属硫酸塩溶液を、苛性ソーダ水溶液とアンモニア水から調製したアルカリ性中和溶液と共に、撹拌機を有する反応槽にアルカリ性中和溶液を定量的に供給しながら撹拌して、混合金属水酸化物のスラリーを得た。得られたスラリーを固液分離し、回収した混合金属水酸化物を大気中にて700℃で6時間焙焼することにより、Ni−Co−Al系金属複合酸化物を得た。
【0074】
得られたNi−Co−Al系金属複合酸化物を、硫酸リチウムを焼成後のリチウム酸化物中に硫酸基量として0.9重量%になるように添加した水酸化リチウム粉末と混合した後、酸素雰囲気において745℃で16時間焼成することにより、一次粒子表面に硫酸リチウムの被覆層を有する試料1のLi−Ni系複合酸化物を製造した。
【0075】
得られた試料1のLi−Ni系複合酸化物について、化学分析により組成を確認し、タップ密度を測定した。また、XRD測定を行なって六方晶の層状化合物が形成されていることを確認し、リートベルト解析法によりフィッティングを行なってリチウム席占有率を算出した。
【0076】
更に、上記試料1のLi−Ni系複合酸化物を少量分取して樹脂に包埋し、アルゴンイオンを用いた断面加工装置であるクロスセクションポリッシャー(日本電子株式会社製、SM−09010)により粉体の断面出しを行った後、高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−4700)により加速電圧3kVの電子ビームにより断面観察を行い、一次粒子径を求めると共に、画像解析により被覆層の面積占有率を算出した。
【0077】
次に、上記試料1のLi−Ni系複合酸化物について、正極活物質Aとしての初期放電容量評価を実施した。即ち、正極活物質Aの粉末70質量%にアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)20質量%及びPTFE(ダイキン工業株式会社製)10質量%を混合し、ここから150mgを取り出してペレット(直径11mm、圧力100MPa)を作製して正極とした。負極としてリチウム金属を用い、電解液には1MのLiClOを支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で、図1に示すような2032型のコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0078】
作製した電池は24時間程放置し、開回路電圧(OCV;Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.5mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量とし、1時間の休止後カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。更に、この充放電サイクルを100回繰り返した後の容量維持率を求め、サイクル耐久性として評価した。以上の結果を、試料1として下記表1にまとめて示した。
【0079】
[実施例2]
上記実施例1と同様にしてLi−Ni系複合酸化物を製造したが、添加する硫酸リチウム量を焼成後のリチウム酸化物中の硫酸基量が1.2重量%(試料2)、1.9重量%(試料3)、2.6重量%(試料4)となるように変化させた。
【0080】
得られた試料2〜4の各Li−Ni系複合酸化物について、上記実施例1と同様に、化学分析、XRD測定、断面観察を行なうと共に、正極活物質Aとしての電池評価を行い、その結果を下記表1にまとめて示した。
【0081】
[実施例3]
上記実施例1と同様にしてLi−Ni系複合酸化物を製造したが、添加する硫酸化合物を硫酸ニッケルに変更した。得られた試料5のLi−Ni系複合酸化物について、上記実施例1と同様に、化学分析、XRD測定、断面観察を行なうと共に、正極活物質Aとしての電池評価を行い、その結果を下記表1にまとめて示した。
【0082】
[実施例4]
硫酸ニッケル水和物、硫酸コバルト水和物、硫酸アルミニウムを、モル比でNi:Co:Alの割合が0.82:0.15:0.03になるように混合し、水で溶解して混合金属硫酸塩溶液を調整した。この混合金属硫酸溶液を、苛性ソーダ水溶液とアンモニア水から調製したアルカリ性中和溶液と共に、撹拌機を有する反応槽にアルカリ性中和溶液を定量的に供給しながら撹拌して、混合金属水酸化物のスラリーを得た。
【0083】
得られたスラリーを固液分離し、回収した混合金属水酸化物に硫酸ニッケル水溶液を所定量添加して含浸させた後、大気中にて700℃で6時間焙焼することにより、硫酸基を含むNi−Co−Al系金属複合酸化物を得た。
【0084】
得られたNi−Co−Al系金属複合酸化物を、水酸化リチウム粉末と混合した後、酸素雰囲気において730℃で48時間焼成することにより、一次粒子表面に硫酸リチウムの被覆層を有する試料6のLi−Ni系複合酸化物を製造した。得られた試料6のLi−Ni系複合酸化物について、上記実施例1と同様に、化学分析、XRD測定、断面観察を行なうと共に、正極活物質Aとしての電池評価を行い、その結果を下記表1にまとめて示した。
【0085】
[比較例1]
硫酸ニッケル水和物、硫酸コバルト水和物、硫酸アルミニウムを、モル比でNi:Co:Alの割合が0.82:0.15:0.03になるように混合し、水で溶解して混合金属硫酸塩溶液を調整した。この混合金属硫酸援用液を、苛性ソーダ水溶液とアンモニア水から調製したアルカリ性中和溶液と共に、撹拌機を有する反応槽にアルカリ性中和溶液を定量的に供給しながら撹拌して、混合金属水酸化物のスラリーを得た。得られたスラリーを固液分離し、回収した混合金属水酸化物を大気中にて700℃で6時間焙焼することにより、Ni−Co−Al系金属複合酸化物を得た。
【0086】
得られたNi−Co−Al系金属複合酸化物を、水酸化リチウム粉末と混合した後、酸素雰囲気において745℃で16時間焼成することにより、試料7のLi−Ni系複合酸化物を製造した。得られた試料7のLi−Ni系複合酸化物について、上記実施例1と同様に、化学分析、XRD測定、断面観察を行なうと共に、正極活物質としての電池評価を行い、その結果を下記表1にまとめて示した。
【0087】
[比較例2]
上記実施例1と同様にしてLi−Ni系複合酸化物を製造したが、添加する硫酸リチウム量を焼成後のリチウム酸化物中に硫酸基量として3.5重量%となるように過剰に添加した。得られた試料8のLi−Ni系複合酸化物について、上記実施例1と同様に、化学分析、XRD測定、断面観察を行なうと共に、正極活物質としての電池評価を行い、その結果を下記表1にまとめて示した。
【0088】
【表1】

【0089】
上記表1から分るように、本発明による試料1〜6のLi−Ni系複合酸化物(正極活物質A)は、いずれも高い充放電初期容量を有すると共に優れたサイクル耐久性を備えている。一方、比較例のLi−Ni系複合酸化物は、試料7では無機リチウム化合物の被覆層が少ないため100サイクル後の容量維持率が低くなり、試料8では無機リチウム化合物の被覆層の面積占有率が多いために充放電初期容量及びサイクル耐久性ともに若干低下している。
【0090】
[実施例5]
硫酸ニッケル水和物、硫酸コバルト水和物、硫酸アルミニウムを、モル比でNi:Co:Alの割合が0.82:0.15:0.03になるように混合し、水で溶解して混合金属硫酸塩溶液を調整した。この混合金属硫酸塩溶液を、苛性ソーダ水溶液とアンモニア水から調製したアルカリ性中和溶液と共に、撹拌機を有する反応槽にアルカリ性中和溶液を定量的に供給しながら撹拌して、混合金属水酸化物のスラリーを得た。得られたスラリーを固液分離し、回収した混合金属水酸化物を大気中にて700℃で6時間焙焼することにより、Ni−Co−Al系金属複合酸化物を得た。
【0091】
得られたNi−Co−Al系金属複合酸化物を、硫酸リチウムを焼成後のリチウム酸化物中に硫酸基量として0.9重量%になるように添加した水酸化リチウム粉末と混合した後、酸素雰囲気において745℃で16時間焼成することにより、一次粒子表面に硫酸リチウムの被覆層を有するLi−Ni系複合酸化物を製造した。このLi−Ni系複合酸化物に水を加えてスラリー化し、常温にて撹拌して被覆層を溶解除去した後、固液分離して試料10のリチウムニッケル系複合酸化物を得た。
【0092】
得られた二次粒子内部に空隙を有する試料10のLi−Ni系複合酸化物について、化学分析により組成を確認し、タップ密度を測定した。また、XRD測定を行なって六方晶の層状化合物が形成されていることを確認し、リートベルト解析法によりフィッティングを行なってリチウム席占有率を算出した。
【0093】
更に、上記試料10のLi−Ni系複合酸化物を少量分取して樹脂に包埋し、アルゴンイオンを用いた断面加工装置であるクロスセクションポリッシャー(日本電子株式会社製、SM−09010)により粉体の断面出しを行った後、高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−4700)を用いて加速電圧3kVの電子ビームにより断面観察を行い、一次粒子径を求めると共に、画像解析により空隙の面積占有率を算出した。
【0094】
次に、上記試料10のLi−Ni系複合酸化物について、正極活物質Bとしての初期放電容量評価を実施した。即ち、正極活物質Bの粉末70質量%にアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)20質量%及びPTFE(ダイキン工業株式会社製)10質量%を混合し、ここから150mgを取り出してペレット(直径11mm、圧力100MPa)を作製して正極とした。負極としてリチウム金属を用い、電解液には1MのLiClOを支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で、図1に示すような2032型のコイン電池を作製した。
【0095】
作製した電池は24時間程放置し、開回路電圧(OCV;Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.5mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量とし、1時間の休止後カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。更に、この充放電サイクルを100回繰り返した後の容量維持率を求め、サイクル耐久性として評価した。以上の結果を、試料10として下記表2にまとめて示した。
【0096】
[実施例6]
上記実施例5と同様にしてLi−Ni系複合酸化物を製造したが、添加する硫酸リチウム量を焼成後のリチウム酸化物中の硫酸基量が1.2重量%(試料11)、1.9重量%(試料12)、2.6重量%(試料13)となるように変化させた。
【0097】
得られた試料11〜13の各Li−Ni系複合酸化物について、上記実施例5と同様に、化学分析、XRD測定、断面観察を行なうと共に、正極活物質Bとしての電池評価を行い、その結果を下記表2にまとめて示した。また、試料13の正極活物質Bの二次粒子について、電子顕微鏡による断面観察写真を図2に示した。
【0098】
[実施例7]
上記実施例5と同様にしてLi−Ni系複合酸化物を製造したが、添加する硫酸化合物を硫酸ニッケルに変更した。得られた試料14のLi−Ni系複合酸化物について、上記実施例5と同様に、化学分析、XRD測定、断面観察を行なうと共に、正極活物質Bとしての電池評価を行い、その結果を下記表2にまとめて示した。
【0099】
[実施例8]
硫酸ニッケル水和物、硫酸コバルト水和物、硫酸アルミニウムを、モル比でNi:Co:Alの割合が0.82:0.15:0.03になるように混合し、水で溶解して混合金属硫酸塩溶液を調整した。この混合金属硫酸塩溶液を、苛性ソーダ水溶液とアンモニア水から調製したアルカリ性中和溶液と共に、撹拌機を有する反応槽にアルカリ性中和溶液を定量的に供給しながら撹拌して、混合金属水酸化物のスラリーを得た。
【0100】
得られたスラリーを固液分離し、回収した混合金属水酸化物に硫酸ニッケル水溶液を所定量添加して含浸させた後、大気中にて700℃で6時間焙焼することにより、硫酸基を含むNi−Co−Al系金属複合酸化物を得た。
【0101】
得られたNi−Co−Al系金属複合酸化物を、水酸化リチウム粉末と混合した後、酸素雰囲気において730℃で48時間焼成することにより、一次粒子表面に硫酸リチウムの被覆層を有するLi−Ni系複合酸化物を製造した。このLi−Ni系複合酸化物に水を加えてスラリー化し、常温にて撹拌して被覆層を溶解除去した後、固液分離して試料15のリチウムニッケル系複合酸化物を得た。
【0102】
得られた二次粒子内部に空隙を有する試料15のLi−Ni系複合酸化物について、上記実施例5と同様に、化学分析、XRD測定、断面観察を行なうと共に、正極活物質Bとしての電池評価を行い、その結果を下記表2にまとめて示した。
【0103】
[比較例3]
硫酸ニッケル水和物、硫酸コバルト水和物、硫酸アルミニウムを、モル比でNi:Co:Alの割合が0.82:0.15:0.03になるように混合し、水で溶解して混合金属硫酸塩溶液を調整した。この混合金属硫酸援用液を、苛性ソーダ水溶液とアンモニア水から調製したアルカリ性中和溶液と共に、撹拌機を有する反応槽にアルカリ性中和溶液を定量的に供給しながら撹拌して、混合金属水酸化物のスラリーを得た。得られたスラリーを固液分離し、回収した混合金属水酸化物を大気中にて700℃で6時間焙焼することにより、Ni−Co−Al系金属複合酸化物を得た。
【0104】
得られたNi−Co−Al系金属複合酸化物を、水酸化リチウム粉末と混合した後、酸素雰囲気において745℃で16時間焼成することにより、Li−Ni系複合酸化物を製造した。このLi−Ni系複合酸化物に水を加えてスラリー化し、撹拌した後に固液分離して試料16のLi−Ni系複合酸化物を得た。
【0105】
得られた試料16のLi−Ni系複合酸化物について、上記実施例5と同様に、化学分析、XRD測定、断面観察を行なうと共に、正極活物質としての電池評価を行い、その結果を下記表2にまとめて示した。
【0106】
[比較例4]
上記実施例5と同様にしてLi−Ni系複合酸化物を製造したが、添加する硫酸リチウム量を焼成後のリチウム酸化物中に硫酸基量として3.5重量%となるように過剰に添加した。得られた試料17のLi−Ni系複合酸化物について、上記実施例5と同様に、化学分析、XRD測定、断面観察を行なうと共に、正極活物質としての電池評価を行い、その結果を下記表2にまとめて示した。
【0107】
【表2】

【0108】
上記表2から分るように、本発明による試料10〜15のLi−Ni系複合酸化物(正極活物質B)は、いずれも高い充放電初期容量を有すると共に優れたサイクル耐久性を備えている。一方、比較例のLi−Ni系複合酸化物では、試料16は空隙の面積占有率が少な過ぎるため100サイクル後の容量維持率が低くなり、試料17は空隙の面積占有率が多すぎるために充放電初期容量及びサイクル耐久性ともに若干低下している。
【0109】
尚、上記した本発明の実施例1〜8ではニッケル(Ni)の一部をコバルト(Co)とアルミニウム(Al)で置換したリチウムニッケル系複合酸化物の正極物質について述べたが、アルミニウムの代わりにマンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、若しくはこれらとAlを含めた2種以上の元素で置換したリチウムニッケル系複合酸化物の正極物質についても、上記と同様に製造することができ、且つ上記とほぼ同様の充放電初期容量及びサイクル耐久性を得ることができた。




【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】一般的なリチウムイオン二次電池を模式的に示した断面図である。
【図2】実施例6で得られた試料13のLi−Ni系複合酸化物からなる正極活物質Bの二次粒子の電子顕微鏡による断面観察写真である。
【符号の説明】
【0111】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 正極
5 正極缶
6 負極集電体
7 負極缶
8 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径0.1〜2μmの層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の凝集により形成された二次粒子から構成される非水系電解質二次電池の正極活物質であって、リチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の組成が下記化学式1で表されると共に、該一次粒子の表面に無機リチウム化合物の被覆層を有し、該被覆層が占める面積割合が二次粒子断面積の2.5〜9%であることを特徴とする正極活物質。
【化1】

(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08、0.97≦z≦1.10である)
【請求項2】
前記被覆層を形成する無機リチウム化合物が硫酸リチウムであることを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
タップ密度が2.0〜2.5g/ccであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質の製造方法であって、NiとCoとM(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素である)とがモル比で1−x−y:x:y(但し、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08である)となるように固溶している金属複合酸化物に、リチウム含有化合物と硫酸基の割合が1.6〜4.3重量%となるように硫酸化合物とを混合し、その混合物を700〜800℃で4〜50時間保持することを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記硫酸化合物が、Li、Ni、Co、Mn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の金属の硫酸塩あるいは硫酸塩水和物であることを特徴とする、請求項4に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質の製造方法であって、NiとCoとM(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素である)とがモル比で1−x−y:x:y(但し、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08である)となるように固溶し、且つ硫酸基を1.6〜4.3重量%の割合で含む金属複合酸化物に、リチウム含有化合物を混合し、その混合物を700〜800℃で4〜50時間保持することを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項7】
平均粒径0.1〜2μmの層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の凝集により形成された二次粒子から構成される非水系電解質二次電池の正極活物質であって、リチウムニッケル系複合酸化物一次粒子の組成が下記化学式2で表されると共に、該二次粒子の内部に空隙を有し、該空隙が占める面積割合が二次粒子断面積の2.5〜9%であることを特徴とする正極活物質。
【化2】

(但し、MはMn、Mg、Nb、Ti、Al、Znから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0.10≦x≦0.21、0.01≦y≦0.08、0.97≦z≦1.10である)
【請求項8】
タップ密度が2.2〜2.7g/ccであることを特徴とする、請求項7に記載の正極活物質。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の正極活物質の製造方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質を極性溶媒と接触させ、無機リチウム化合物の被覆層を溶解除去することを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記極性溶媒として水を用いることを特徴とする、請求項9に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか若しくは請求項7又は8に記載の正極活物質を用いたことを特徴とする非水系電解質二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−80394(P2010−80394A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250248(P2008−250248)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】