説明

非水電解液、それを用いた電気化学素子、及びそれに用いられるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物

【課題】本発明は、高温サイクル後の低温特性を改善できる非水電解液、それを用いた電気化学素子、及び電気化学素子に用いられる新規なトリアルキルシリルオキシ基含有化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】一般式(I)で表されるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物の少なくとも1種が非水電解液中に0.01〜10質量%含有されていることを特徴とする非水電解液及び電気化学素子。


(式中、Xは直鎖又は分枝のアルキレン基、置換基を有する直鎖又は分枝のアルキレン基、直鎖又は分枝のアルケニレン基、直鎖又は分枝のアルキニレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、又はエーテル結合を含む2価の連結基を表し、R〜Rは直鎖又は分枝のアルキル基であり、Rは直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基、ホルミル基、直鎖又は分枝のアシル基、直鎖又は分枝のアルコキシカルボニル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液、それを用いた電気化学素子、及び電気化学素子等に用いられる新規なトリアルキルシリルオキシ基含有化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学素子、特にリチウム二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の小型電子機器、電気自動車や電力貯蔵用等の電源として広く使用されている。これらの電子機器や自動車は、真夏の高温下や極寒の低温下等広い温度範囲で使用される可能性があるため、広い温度範囲でバランス良く充放電サイクル特性を向上させることが求められている。
特に地球温暖化防止のため、CO2排出量を削減することが急務となっており、リチウム二次電池やキャパシタなどの電気化学素子からなる蓄電装置を搭載した環境対応車の中でも、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、バッテリー電気自動車(BEV)の早期普及が求められている。しかしながら自動車は移動距離が長いため、熱帯の非常に暑い地域から極寒の地域まで幅広い温度範囲の地域で使用される可能性がある。従って、これらの車載用の電気化学素子は、高温から低温まで幅広い温度範囲で使用しても電気化学特性が劣化しないことが要求されている。
尚、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0003】
リチウム二次電池は、主にリチウムを吸蔵放出可能な材料を含む正極及び負極、リチウム塩と非水溶媒からなる非水電解液から構成され、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が使用されている。
また、負極としては、金属リチウム、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物(金属単体、酸化物、リチウムとの合金等)や炭素材料が知られており、特にリチウムを吸蔵及び放出することが可能なコークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素材料を用いたリチウム二次電池が広く実用化されている。
【0004】
例えば、天然黒鉛や人造黒鉛等の高結晶化した炭素材料を負極材料として用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の溶媒が充電時に負極表面で還元分解することにより発生した分解物やガスが電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、サイクル特性の低下を生じることが分かっている。また、非水溶媒の分解物が蓄積すると、負極へのリチウムの吸蔵及び放出がスムーズにできなくなり、特に高温サイクル後の低温特性が低下しやすくなる。
更に、リチウム金属やその合金、スズ又はケイ素等の金属単体や酸化物を負極材料として用いたリチウム二次電池は、初期の容量は高いもののサイクル中に微粉化が進むため、炭素材料の負極に比べて非水溶媒の還元分解が加速的に起こり、電池容量やサイクル特性のような電池性能が大きく低下することが知られている。また、これらの負極材料の微粉化や非水溶媒の分解物が蓄積すると、負極へのリチウムの吸蔵及び放出がスムーズにできなくなり、特に高温サイクル後の低温特性が低下しやすくなる。
一方、正極として、例えばLiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePO等を用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の非水溶媒が充電状態で高温になった場合に、正極材料と非水電解液との界面において、局部的に一部酸化分解することにより発生した分解物やガスが電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、やはりサイクル特性等の電池性能の低下を生じることが分かっている。
【0005】
以上のように、正極上や負極上で非水電解液が分解するときの分解物やガスにより、リチウムイオンの移動が阻害されたり、電池が膨れたりすることで電池性能が低下していた。そのような状況にも関わらず、リチウム二次電池が搭載されている電子機器の多機能化はますます進み、電力消費量が増大する流れにある。そのため、リチウム二次電池の高容量化はますます進んでおり、電極の密度を高めたり、電池内の無駄な空間容積を減らす等、電池内の非水電解液の占める体積が小さくなっている。従って、少しの非水電解液の分解で、高温サイクル後の低温特性が低下しやすい状況にある。
特許文献1には、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、酢酸トリメチルシリルやエチレングリコールビス(トリメチルシリルエーテル)などのようなトリアルキルシリル基が酸素(O)を介してケイ素以外の原子と結合した化合物とを含む電解液が開示され、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうち少なくとも1種を含む材料を含有する負極を使用した電池において23℃環境下でのサイクル特性が向上できることが示されている。
また、特許文献2には、2−ブチン−1,4−ジオール ジアセテートを非水電解液中に1体積%配合したリチウムイオン二次電池において、20℃及び60℃のサイクル特性を向上できることが開示されている。更に特許文献3には、2−ブチン−1,4−ジオール ジメタンスルホネートを電解液に対して1重量%添加したリチウムイオン二次電池において、20℃のサイクル特性が向上することが開示されている。
【0006】
また、リチウム一次電池として、例えば、二酸化マンガンやフッ化黒鉛を正極とし、リチウム金属を負極とするリチウム一次電池が知られており、高いエネルギー密度であることから広く使用されているが、長期保存中の内部抵抗の増加を抑制し、高温や低温での放電負荷特性を向上させることが求められている。
さらに、近年、電気自動車用又はハイブリッド電気自動車用の新しい電源として、出力密度の点から、活性炭等を電極に用いる電気二重層キャパシタ、エネルギー密度と出力密度の両立の観点から、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの蓄電原理を組み合わせた、ハイブリッドキャパシタ(リチウムの吸蔵・放出による容量と電気二重層容量の両方を活用する非対称型キャパシタ)と呼ばれる蓄電装置の開発が行われ、高温サイクル後の低温特性の向上が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−123097号公報
【特許文献2】特開2001−256995号公報
【特許文献3】特開2000−195545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高温サイクル後の低温特性を改善できる非水電解液、それを用いた電気化学素子、及び電気化学素子に用いられる新規なトリアルキルシリルオキシ基含有化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来技術の非水電解液の性能について詳細に検討した。その結果、特許文献1の酢酸トリメチルシリルのようなトリアルキルシリルオキシ基に直接カルボニル基が結合した化合物や、エチレングリコールビス(トリメチルシリルエーテル)のような炭化水素基を介して2つのトリアルキルシリルオキシ基を結合した化合物あるいは、特許文献2の2−ブチン−1,4−ジオール ジアセテート、特許文献3の2−ブチン−1,4−ジオール ジメタンスルホネートなどのように炭化水素基を介して同一の官能基を2つ有する化合物を添加した非水電解液では、高温サイクル後の低温特性については、顕著な効果が得られなかった。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、トリアルキルシリルオキシ基と炭化水素基を介してホルミルオキシ基(−OC(=O)H)、アシルオキシ基(−OC(=O)−R)、アルコキシカルボニルオキシ基(−OC(=O)−O−R)、アルカンスルホニルオキシ基(−OS(=O)−R)から選ばれる特定の官能基を結合したトリアルキルシリルオキシ基含有化合物を非水電解液に添加することで、高温サイクル後の低温特性を改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(3)を提供するものである。
(1)非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、下記一般式(I)で表されるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物の少なくとも1種が非水電解液中に0.01〜10質量%含有されていることを特徴とする非水電解液。
【0011】
【化1】

(式中、Xは炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、置換基を有する炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルケニレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルキニレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、又はエーテル結合を含む炭素数2〜8の2価の連結基を表し、R〜Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基、ホルミル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアシル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルコキシカルボニル基を表す。)
【0012】
(2)正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた電気化学素子であって、該非水電解液中に前記(I)で表されるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物の少なくとも1種を非水電解液中に0.01〜10質量%含有することを特徴とする電気化学素子。
【0013】
(3)下記一般式(II)で表されるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物。
【0014】
【化2】

(式中、Xは炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、置換基を有する炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルケニレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルキニレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、又はエーテル結合を含む炭素数2〜8の2価の連結基を表し、R〜Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基、ホルミル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアシル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルコキシカルボニル基を示す。
ただし、Xが−CR10−C≡C−CR1112−の場合、R〜R12は炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基である。また、Xが炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、置換基を有する炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝の置換基を有するアルキレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルケニレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基及びエーテル結合を含む炭素数2〜8の2価の連結基の場合、R〜Rはメチル基、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基である。))
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温サイクル後の低温特性を改善できる非水電解液、及びそれを用いた電気化学素子並びに医薬、農薬、電子材料、高分子材料等の中間原料、又は電池材料として有用なトリアルキルシリルオキシ基含有化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、非水電解液、それを用いた電気化学素子、及び電気化学素子に用いられる新規なトリアルキルシリルオキシ基含有化合物に関する。
【0017】
〔非水電解液〕
本発明の非水電解液は、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、下記一般式(I)で表されるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物の少なくとも1種が非水電解液中に0.01〜10質量%含有されていることを特徴とする。
【0018】
【化3】

(式中、Xは炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、置換基を有する炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルケニレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルキニレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、又はエーテル結合を含む炭素数2〜8の2価の連結基を表し、R〜Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基、ホルミル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアシル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルコキシカルボニル基を示す。ただし、Xが置換基を有するアルキレン基の場合、Xは−CHCH(OR13)−CH−、又は−CHCR14(CHOR15)−CH−であり、R13およびR15は炭素数3〜12の直鎖又は分枝のアルキルシリル基、炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基、ホルミル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアシル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルコキシカルボニル基であり、R14は炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基を表す。)
【0019】
前記一般式(I)で表されるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物を添加した本発明の非水電解液は、高温サイクル後の低温特性を改善することができる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
酢酸トリメチルシリルのようなトリアルキルシリルオキシ基に直接カルボニル基が結合した化合物は、過度に分解して抵抗の高い被膜を負極上に形成し、高温サイクル後の低温特性が低下する問題がある。また、エチレングリコールビス(トリメチルシリルエーテル)のような炭化水素基を介して2つのトリアルキルシリルオキシ基を結合した化合物、あるいは、2−ブチン−1,4−ジオール ジアセテートなどのような炭化水素基を介して同一の官能基を2つ有する化合物は、被膜が緻密化しやすい為、高温サイクル後の低温特性を改善する効果が弱い。本願発明のトリアルキルシリルオキシ基含有化合物は、炭化水素基を介してトリアルキルシリルオキシ基とホルミルオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アルカンスルホニルオキシ基から選ばれる特定の官能基を結合した構造であり、2つの異なる官能基に由来した成分を含む為、被膜が過度に緻密化することが抑制される。更には、本願発明のトリアルキルシリルオキシ基含有化合物は、正極にも保護被膜を形成し、特に高温サイクルにおいて、正極上で電解液が分解されることを抑制できるため、高温サイクル後の正極の抵抗増加が抑制される。従って、高温サイクル後の低温特性が顕著に改善されると考えられる。特に、トリアルキルシリルオキシ基と特定の官能基との間の炭素鎖がアルキニレン基の場合、あるいは、特定の官能基がアルカンスルホニルオキシ基の場合、正極での電解液の分解が一段と抑制されるため、高温サイクル後の低温特性が更に改善する。
【0020】
一般式(I)において、置換基R〜R3における炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基等が好ましい。これらの中でもメチル基、エチル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0021】
一般式(I)において、直鎖のアルキレン基Xとしては、エチレン基、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基等が好ましい。
【0022】
一般式(I)において、分枝のアルキレン基Xとしては、プロパン−1,2−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、2−メチルプロパン−1,2−ジイル基、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジイル基等が好ましい。
【0023】
一般式(I)において、Xであるアルケニレン基としては、2−ブテン−1,4−ジイル基、2−ペンテン−1,5−ジイル基、3−ヘキセン−1,6−ジイル基、3−ヘキセン−2,5−ジイル基、2,5−ジメチル−3−ヘキセン−2,5−ジイル基等が好ましい。
また、Xであるアルキニレン基としては、2−ブチン−1,4−ジイル基、2−ペンチン−1,5−ジイル基、3−ヘキシン−1,6−ジイル基、3−ヘキシン−2,5−ジイル基、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジイル基等が好ましい。
【0024】
一般式(I)において、Xである炭素数3〜8のシクロアルキレン基としては、シクロプロパン−1,2−ジイル基、シクロブタン−1,2−ジイル基、シクロブタン−1,3−ジイル基、シクロペンタン−1,2−ジイル基、シクロペンタン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,2−ジイル基、シクロヘキサン−1,4−ジイル基、シクロヘプタン−1,2−ジイル基、シクロヘプタン−1,4−ジイル基、シクロオクタン−1,2−ジイル基、シクロオクタン−1,5−ジイル基等が好ましい。
【0025】
一般式(I)において、Xである炭素数6〜12のアリーレン基としては、ベンゼン−1,2−ジイル基、ベンゼン−1,3−ジイル基、ベンゼン−1,4−ジイル基、tert−ブチルベンゼン−2,3−ジイル基、tert−ブチルベンゼン−2,4−ジイル基、tert−ブチルベンゼン−2,5−ジイル基、tert−ブチルベンゼン−2,6−ジイル基、tert−ブチルベンゼン−3,4−ジイル基、tert−ブチルベンゼン−3,5−ジイル基、1,4−ジ−tert−ブチルベンゼン−2,5−ジイル基等が好ましい。
【0026】
一般式(I)において、Xであるエーテル結合を含む炭素数2〜8の2価の連結基としては、−CHCHOCHCH−、−CHCHOCHCHOCHCH−、−CHCHOCHCHOCHCHOCHCH−、−CHCHCHOCHCHCH−等が好ましい。
【0027】
これらの中でも、高温サイクル後の低温特性向上の観点から、Xとしては、エチレン基、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基等の炭素数2〜5のアルキレン基、2−ブテン−1,4−ジイル基等の炭素数4〜6のアルケニレン基、又は2−ブチン−1,4−ジイル基等の炭素数4〜6のアルキニレン基が好ましく、2−ブテン−1,4−ジイル基等のアルケニレン基、2−ブチン−1,4−ジイル基等のアルキニレン基がより好ましく、2−ブチン−1,4−ジイル基が特に好ましい。
【0028】
一般式(I)において、置換基Rである炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基としては、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、プロパンスルホニル基、ブタンスルホニル基、ペンタンスルホニル基、ヘキサンスルホニル基等が好ましい。これらの中でも、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、プロパンスルホニル基が更に好ましく、メタンスルホニル基が特に好ましい。
また、前記アルカンスルホニル基の水素原子が1つ以上フッ素原子で置換されていてもよい。具体的には、トリフルオロメタンスルホニル基や2,2,2−トリフルオロエタンスルホニル基などが好ましい。
【0029】
一般式(I)において、置換基Rである炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基等が好ましい。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基が更に好ましく、アセチル基が特に好ましい。
【0030】
一般式(I)において、置換基Rである炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が好ましい。これらの中でも、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が更に好ましく、メトキシカルボニル基が特に好ましい。
【0031】
一般式(I)で表されるトリアルキルシリルオキシ含有化合物としては、具体的にXがエチレン基の場合、好適には、2−(トリメチルシリルオキシ)エタン−1−イル メタンスルホネート、2−(トリメチルシリルオキシ)エタン−1−イル エタンスルホネート、2−(トリメチルシリルオキシ)エタン−1−イル トリフルオロメタンスルホネート、2−(トリメチルシリルオキシ)エタン−1−イル ホルメート、2−(トリメチルシリルオキシ)エタン−1−イル アセテート、メチル 2−(トリメチルシリルオキシ)エタン−1−イル カーボネートなどが挙げられる。
また、Xが前記段落〔0021〕〜〔0027〕記載のそれぞれの場合についても上記と同様に対応するトリアルキルシリル基含有化合物が好適に挙げられる。
【0032】
ただし、本発明は以上の例示に何ら制限されるものではない。
【0033】
前記化合物の中でも、
2−(トリメチルシリルオキシ)エタン−1−イル メタンスルホネート、3−(トリメチルシリルオキシ)プロパン−1−イル メタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)ブタン−1−イル メタンスルホネート、5−(トリメチルシリルオキシ)ペンタン−1−イル メタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブテン−1−イル メタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル メタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル トリフルオロメタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル ホルメート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル アセテート、メチル 4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル カーボネート、2−(トリメチルシリルオキシ)フェニル メタンスルホネート、から選ばれる1種以上が更に好ましく、
4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブタン−1−イル メタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブテン−1−イル メタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)ブチン−1−イル トリフルオロメタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)ブチン−1−イル メタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)ブチン−1−イル ホルメート、
4−(トリメチルシリルオキシ)ブチン−1−イル アセテート、メチル 4−(トリメチルシリルオキシ)ブチン−1−イル カーボネート、2−(トリメチルシリルオキシ)フェニル メタンスルホネート、から選ばれる1種以上が特に好ましい。
【0034】
本発明の非水電解液において、非水電解液中に含有される前記一般式(I)で表される少なくとも1種の化合物の含有量は、10質量%を超えると、電極上に過度に被膜が形成されるため高温サイクル後の低温特性が低下する場合があり、また、0.01質量%に満たないと被膜の形成が十分でないために、高温サイクル後の低温特性を改善する効果が得られなくなる場合がある。したがって、該化合物の含有量の下限は、非水電解液の質量に対して0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、1質量%以上が最も好ましい。また、その上限は10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましく、3質量%以下が最も好ましい。
【0035】
本発明の非水電解液において、非水電解液中に含有される前記一般式(I)の化合物は、単独で用いても高温サイクル後の低温特性は向上するが、以下に述べる非水溶媒、電解質塩、さらにその他の添加剤を組み合わせることにより、高温サイクル後の低温特性が相乗的に向上するという特異な効果を発現する。その理由は、必ずしも明確ではないが、前記一般式(I)の化合物と、これらの非水溶媒、電解質塩、さらにその他の添加剤の構成元素を含有するイオン伝導性の高い混合被膜が形成されるためと考えられる。
【0036】
〔非水溶媒〕
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類、アミド類、リン酸エステル類、スルホン類、ラクトン類、ニトリル類、S=O結合含有化合物、無水カルボン酸、芳香族化合物等が挙げられる。
環状カーボネート類としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、トランスまたはシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)等が挙げられる。これらの中でも、炭素−炭素二重結合またはフッ素原子を含有する環状カーボネートを少なくとも1種を使用すると高温サイクル後の低温特性を改善する効果が一段と向上するので好ましく、炭素−炭素二重結合を含む環状カーボネートとフッ素原子を含有する環状カーボネートを両方含むことが特に好ましい。炭素−炭素二重結合を含有する環状カーボネートとしては、VC、VEC、フッ素原子を含有する環状カーボネートとしては、FEC、DFECが好ましい。
これらの溶媒は1種類で使用してもよいが、2種類以上を組み合わせて使用した場合は、高温サイクル後の低温特性を改善する効果がさらに向上するので好ましく、3種類以上が特に好ましい。これらの環状カーボネートの好適な組合せとしては、ECとPC、ECとVC、PCとVC、FECとVC、FECとEC、FECとPC、FECとDFEC、DFECとEC、DFECとPC、DFECとVC、DFECとVEC、ECとPCとVC、ECとFECとPC、ECとFECとVC、ECとVCとVEC、FECとPCとVC、DFECとECとVC、DFECとPCとVC、FECとECとPCとVC、DFECとECとPCとVC等が挙げられる。前記の組合せのうち、より好ましくはECとVC、FECとPC、DFECとPC、ECとPCとVC、ECとFECとPC、ECとFECとVC、ECとVCとVEC等の組合せが挙げられる。
環状カーボネートの含有量は、特に制限はされないが、非水溶媒の総容量に対して、10〜40容量%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が10容量%未満であると電解液の電気伝導度が低下し、電池の内部抵抗が増加する場合があり、40容量%を超えると高温サイクル後の低温特性を改善する効果が低下する場合があるので上記範囲であることが好ましい。
【0037】
鎖状カーボネート類としては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート等の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート等の対称鎖状カーボネートが挙げられる。
また、非対称鎖状カーボネートを含むことが好ましく、非対称鎖状カーボネートと対称鎖状カーボネートを併用することがより好ましい。また、鎖状カーボネートに含まれる非対称鎖状カーボネートの割合が50容量%以上であることが好ましい。非対称鎖状カーボネートとしては、メチル基を有するものが好ましく、MECが最も好ましい。
これらの鎖状カーボネート類は1種類で使用してもよいが、2種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。
上記の鎖状カーボネートの組合せや組成の範囲であると、高温サイクル後の低温特性を改善する効果が向上する傾向があるので好ましい。
鎖状カーボネートの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総容量に対して、60〜90容量%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60容量%未満であると電解液の粘度が上昇し、90容量%を超えると電解液の電気伝導度が低下し、高温サイクル特性等の電気化学特性が低下する場合があるので上記範囲であることが好ましい。
環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の割合は、高温サイクル後の低温特性の向上の観点から、環状カーボネート類:鎖状カーボネート類(容量比)が10:90〜40:60が好ましく、15:85〜35:65がより好ましく、20:80〜30:70が特に好ましい。
【0038】
その他の非水溶媒としては、プロピオン酸メチル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸ブチル、ピバリン酸ヘキシル、ピバリン酸オクチル、シュウ酸ジメチル、シュウ酸エチルメチル、シュウ酸ジエチル等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等の鎖状エーテル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル等のリン酸エステル類、スルホラン等のスルホン類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、α−アンゲリカラクトン等のラクトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル等のニトリル類、1,3−ブタンスルトン、1,4−ブタンスルトン等のスルトン化合物、エチレンサルファイト、ヘキサヒドロベンゾ[1,3,2]ジオキサチオラン−2−オキシド(1,2−シクロヘキサンジオールサイクリックサルファイトともいう)、5−ビニル−ヘキサヒドロ1,3,2−ベンゾジオキサチオール−2−オキシド等の環状サルファイト化合物、メタンスルホン酸2−プロピニル等のスルホン酸エステル化合物、ジビニルスルホン、1,2−ビス(ビニルスルホニル)エタン、ビス(2−ビニルスルホニルエチル)エーテル等のビニルスルホン化合物等から選ばれるS=O結合含有化合物、無水酢酸、無水プロピオン酸等の鎖状のカルボン酸無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸等の環状のカルボン酸無水物、シクロヘキシルベンゼン、フルオロシクロヘキシルベンゼン化合物(1−フルオロ−2−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン)、tert−ブチルベンゼン、tert−アミルベンゼン、1−フルオロ−4−tert−ブチルベンゼン等の分枝アルキル基を有する芳香族化合物や、ビフェニル、ターフェニル(o−、m−、p−体)、ジフェニルエーテル、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン(o−、m−、p−体)、2,4−ジフルオロアニソール、ターフェニルの部分水素化物(1,2−ジシクロヘキシルベンゼン、2−フェニルビシクロヘキシル、1,2−ジフェニルシクロヘキサン、o−シクロヘキシルビフェニル)等の芳香族化合物が好適に挙げられる。
【0039】
上記の非水溶媒は通常、適切な物性を達成するために、混合して使用される。その組合せは、例えば、環状カーボネートのみの組み合わせ、鎖状カーボネートのみの組み合わせ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類とラクトン類との組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類と鎖状エステル類との組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類とエーテル類の組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類とS=O結合含有化合物との組合せ等が挙げられる。
これらの中でも、少なくとも環状カーボネート類と鎖状カーボネート類を組合せた非水溶媒を用いると、高温サイクル後の低温特性を改善する効果を向上するために好ましい。より具体的には、EC、PC、VC、VEC、FECから選ばれる1種以上の環状カーボネート類と、DMC、MEC、DECから選ばれる1種以上の鎖状カーボネート類との組合せが挙げられる。
【0040】
〔電解質塩〕
本発明に使用される電解質としては、LiPF、LiBF、LiClO等のLi塩、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCF3SO3、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso−C7、LiPF(iso−C7)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF(SONLi、(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SOである。これらの電解質塩は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
これらの電解質塩の好適な組合せとしては、LiPFを含み、かつ窒素原子またはホウ素原子を含むリチウム塩を含有することが好ましい。窒素原子またはホウ素原子を含むリチウム塩としては、LiBF、LiN(SOCF及びLiN(SOから選ばれる少なくとも1種が好ましい。好ましくは、LiPFとLiBFとの組合せ、LiPFとLiN(SOCFとの組合せ、LiPFとLiN(SOとの組合せ等が挙げられる。LiPF:[LiBFまたはLiN(SOCFまたはLiN(SO] (モル比)が70:30よりもLiPFの割合が低い場合、及び99:1よりもLiPFの割合が高い場合には高温サイクル後の低温特性を改善する効果が低下する場合がある。したがって、LiPF:[LiBF またはLiN(SOCFまたはLiN(SO] (モル比)は、70:30〜99:1の範囲が好ましく、80:20〜98:2の範囲がより好ましい。上記範囲の組合せで使用することにより、高温サイクル後の低温特性を改善する効果を更に向上させることができる。
【0042】
電解質塩は任意の割合で混合することができるが、LiPFと組み合わせて使用する場合のLiBF、LiN(SOCF及びLiN(SOを除く他の電解質塩が全電解質塩に占める割合(モル分率)は、0.01%に満たないと高温サイクル後の低温特性を改善する効果が乏しく、45%を超えると高温サイクル後の低温特性が低下する場合がある。したがって、その割合(モル分率)は、好ましくは0.01〜45%、より好ましくは0.03〜20%、更に好ましくは0.05〜10%、最も好ましくは0.05〜5%である。
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が最も好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましく、1.2M以下が最も好ましい。
【0043】
電気二重層キャパシタ用電解質としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートなど従来公知の4級アンモニウム塩を用いることができる。
【0044】
〔非水電解液の製造〕
本発明の非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩及び該非水電解液の質量に対して前記一般式(I)から選ばれる少なくとも1種の化合物を0.01〜10質量%溶解することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒、及び非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0045】
本発明の非水電解液は、リチウム一次電池及びリチウム二次電池用電解液として好適に使用することができる。更に、本発明の非水電解液は、電気二重層キャパシタ用電解液やハイブリッドキャパシタ用電解液としても使用できる。これらの中でも、本発明の非水電解液は、リチウム二次電池用として用いることが最も適している。
【0046】
〔第1の電気化学素子(リチウム電池)〕
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池及びリチウム二次電池を総称する。本発明のリチウム電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液からなる。非水電解液以外の正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
例えば、リチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン、およびニッケルから1種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiCo1−xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn3/2、LiCo0.98Mg0.02等が挙げられる。また、LiCoOとLiMn、LiCoOとLiNiO、LiMnとLiNiOのように併用してもよい。
【0047】
また、過充電時の安全性やサイクル特性を向上したり、4.3V以上の充電電位での使用を可能にするために、リチウム複合金属酸化物の一部は他元素で置換してもよい。例えば、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも1種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、またはこれらの他元素を含有する化合物を被覆することもできる。
これらの中では、LiCoO、LiMn、LiNiOのような満充電状態における正極の充電電位がLi基準で4.3V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物が好ましく、LiCo1−x(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cuから表される少なくとも1種類以上の元素、0.001≦x≦0.05)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn3/2のような4.4V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物がより好ましい。高充電電圧のリチウム複合金属複合酸化物を使用すると、充電時における電解液との反応により高温サイクル後の低温特性を改善する効果が低下しやすいが、本発明に係るリチウム二次電池ではこれらの電池特性の低下を抑制することができる。
【0048】
更に、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。特にFe、Co、NiおよびMnから選ばれる少なくとも1種以上含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W及びZr等から選ばれる1種以上の元素で置換したり、またはこれらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することが好ましく、特に、非晶質の炭素で被覆したものが好ましい。
これらの中では、少なくとも鉄またはマンガンを含むものが好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0049】
また、リチウム一次電池用正極としては、CuO、Cu2O、Ag2O、Ag2CrO4、CuS、CuSO4、TiO2、TiS2、SiO2、SnO、V25、V612、VOx、Nb25、Bi23、Bi2Pb25,Sb23、CrO3、Cr23、MoO3、WO3、SeO2、MnO2、Mn23、Fe23、FeO、Fe34、Ni23、NiO、CoO3、CoOなどの、一種もしくは二種以上の金属元素の酸化物あるいはカルコゲン化合物、SO2、SOCl2などの硫黄化合物、一般式(CFxnで表されるフッ化炭素(フッ化黒鉛)などが挙げられる。中でも、MnO2、V25、フッ化黒鉛などが好ましい。
【0050】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類等が挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類を適宜混合して用いてもよい。導電剤の正極合剤への添加量は、1〜10質量%が好ましく、特に2〜5質量%が好ましい。
【0051】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレンプロピレンジエンターポリマー等の結着剤と混合し、これに1−メチル−2−ピロリドン等の高沸点溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製のラス板等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
正極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.5g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは2g/cm以上であり、さらに好ましくは、3g/cm以上であり、特に好ましくは、3.6g/cm以上である。なお、上限としては、4g/cm以下が好ましい。
【0052】
負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料(人造黒鉛や天然黒鉛等のグラファイト類)、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物等を1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
リチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料としては、易黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などが好ましい。
これらの中では、リチウムイオンの吸蔵及び放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用することが更に好ましく、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm(ナノメータ)以下、特に0.335〜0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが特に好ましい。
複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合或いは結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、例えば鱗片状天然黒鉛粒子に圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、球形化処理を施した黒鉛粒子を用いることにより、負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cmの密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上となると、正極から溶出した金属イオンが黒鉛粒子表面のLiイオンの吸蔵及び放出サイトを塞いで高温サイクル後の低温特性が低下しやすくなるが、本願発明の電解液を使用すると、上記の効果が一段と向上するので好ましく、0.05以上となることが更に好ましく、0.1以上となることが特に好ましい。また、過度に処理し過ぎて結晶性が低下し電池の放電容量が低下する場合があるので、上限は0.5以下が好ましく、0.3以下が更に好ましい。
また、高結晶性の炭素材料は低結晶性の炭素材料によって被膜されていると、高温サイクル後の低温特性が良好となるので好ましい。高結晶性の炭素材料を使用すると、充電時において非水電解液と反応しやすく、負極上にリチウム金属が析出しやすくなるため、高温サイクル後の低温特性が低下する場合があるが、本発明に係るリチウム二次電池では上記の特性が良好となる。
【0053】
また、負極活物質としてのリチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物としては、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、Al、Ga、In、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Mg、Sr、Ba等の金属元素を少なくとも1種含有する化合物が挙げられる。これらの金属化合物は単体、合金、酸化物、窒化物、硫化物、硼化物、リチウムとの合金等、何れの形態で用いてもよいが、単体、合金、酸化物、リチウムとの合金の何れかが高容量化できるので好ましい。中でも、Si、Ge及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するものが好ましく、Si及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素を含むものが電池を高容量化できるので特に好ましい。
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
また、リチウム一次電池用負極活物質としては、リチウム金属、あるいはリチウム合金が使用される。
【0054】
負極活物質に黒鉛を用いた場合、負極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.4g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは、1.6g/cm以上であり、特に好ましくは、1.7g/cm以上である。なお、上限としては、2g/cm以下が好ましい。
【0055】
リチウム電池の構造には特に限定はなく、単層または複層のセパレータを有するコイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート式電池等を適用できる。
電池用セパレータのとしては、特に制限はされないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの単層または積層の多孔性フィルム、織布、不織布等を使用できる。
【0056】
本発明におけるリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にも高温サイクル後の低温特性を改善する効果に優れ、更に、4.4V以上においても特性は良好である。放電終止電圧は、通常2.8V以上、更には2.5V以上とすることが出来るが、本願発明におけるリチウム二次電池は、2.0V以上とすることが出来る。電流値については特に限定されないが、通常0.1〜3Cの範囲で使用される。また、本発明におけるリチウム電池は、−40〜100℃、好ましくは−30〜80℃で充放電することができる。
【0057】
本発明においては、リチウム電池の内圧上昇の対策として、電池蓋に安全弁を設けたり、電池缶やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を電池蓋に設けることができる。
【0058】
〔第2の電気化学素子(電気二重層キャパシタ)〕
電解液と電極界面の電気二重層容量を利用してエネルギーを貯蔵する電気化学素子である。本発明の一例は、電気二重層キャパシタである。この電気化学素子に用いられる最も典型的な電極活物質は、活性炭である。二重層容量は概ね表面積に比例して増加する。
【0059】
〔第3の電気化学素子〕
電極のドープ/脱ドープ反応を利用してエネルギーを貯蔵する電気化学素子である。この電気化学素子に用いられる電極活物質として、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化銅等の金属酸化物や、ポリアセン、ポリチオフェン誘導体等のπ共役高分子が挙げられる。これらの電極活物質を用いたキャパシタは、電極のドープ/脱ドープ反応にともなうエネルギー貯蔵が可能である。
【0060】
〔第4の電気化学素子(リチウムイオンキャパシタ)〕
負極であるグラファイト等の炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵する電気化学素子である。リチウムイオンキャパシタ(LIC)と呼ばれる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気ニ重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。電解液には少なくともLiPFなどのリチウム塩が含まれる。
【0061】
〔トリアルキルシリルオキシ基含有化合物〕
本発明の新規化合物であるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物は、下記一般式(II)で表される。
【0062】
【化4】

(式中、Xは炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、置換基を有する炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルケニレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルキニレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、又はエーテル結合を含む炭素数2〜8の2価の連結基を表し、R〜Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基、ホルミル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアシル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルコキシカルボニル基を示す。
ただし、Xが−CR10−C≡C−CR1112−の場合、R〜R12は炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基である。また、Xが炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝の置換基を有するアルキレン基、置換基を有する炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルケニレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、及びエーテル結合を含む炭素数2〜8の2価の連結基の場合、R〜Rはメチル基、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基である。)
【0063】
一般式(II)において、置換基R8である炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基、ホルミル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアシル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルコキシカルボニル基については、前述した一般式(I)において説明しているので、この欄では重複を避けるために省略する。この場合において、一般式(I)の置換基Rは、一般式(II)の置換基R8と読み替える。
また、同様に前述した一般式(I)の置換基R1、R及びRは、それぞれ一般式(II)の置換基R、R及びRと読み替える。
【0064】
なお、上記一般式(II)で表される新規化合物の置換基の好ましい態様については、一般式(I)の好ましい態様と同義である。
【0065】
(トリアルキルシリルオキシアルキニレンメタンスルホネート化合物)
トリアルキルシリルオキシアルキニレンメタンスルホネート化合物の製造方法は特に限定されない。例えば、ヒドロキシアルキニレンメタンスルホネートとトリアルキルシリルハライドとを、溶媒の存在下又は不存在下、塩基の存在下で、エーテル化反応させることにより合成することができる。
なお、原料となるヒドロキシアルキニレンメタンスルホネートは既存の汎用的手法により合成することができる。例えば、新実験化学講座第14巻(丸善)1793〜1798ページに記載されている方法が適用できる。
【0066】
前記方法に用いるトリアルキルシリルハライドの使用量は、ヒドロキシアルキニレンメタンスルホネート1モルに対して、好ましくは0.9〜10モル、より好ましくは1〜3モル、更に好ましくは1〜1.5モルである。
【0067】
使用できるトリアルキルシリルハライドとしては、トリメチルシリルクロリド、トリエチルシリルクロリド、tert−ブチルジメチルシリルクロリド、トリメチルシリルブロミド、トリエチルシリルブロミド等が挙げられる。これらの中では、工業的には安価なトリメチルシリルクロリド、トリエチルシリルクロリド等のトリアルキルシリルクロリドが好ましい。
【0068】
溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に限定されない。使用できる溶媒としては、脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素、エーテル類、ニトリル類、スルホキシド類、ニトロ化合物類の他、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、酢酸エチル、ジメチルカーボネート等のエステル類、又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中では、特にトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好適に使用できる。
【0069】
前記溶媒の使用量は、ヒドロキシアルキニレンメタンスルホネート1質量部に対して、好ましくは0〜30質量部、より好ましくは1〜15質量部である。
塩基としては、無機塩基及び有機塩基のいずれも使用することができる。使用できる塩基としては、無機塩基及び有機塩基が挙げられる。
前記塩基の使用量は、副生物を抑制する観点から、ヒドロキシアルキニレンメタンスルホネート1モルに対して、好ましくは0.8〜5モル、より好ましくは1〜3モルであり、更に好ましくは1〜1.5モルである。
【0070】
上記反応において、反応温度の下限は−20℃以上が好ましく、反応性を低下させないために−10℃以上がより好ましい。また、副反応や生成物の分解を抑制する観点から、反応温度の上限は80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
また、反応時間は前記反応温度やスケールにより適宜変更しうるが、反応時間が短すぎると未反応物が残り、逆に反応時間が長すぎると生成物の分解や副反応の恐れが生じるため、好ましくは0.1〜12時間であり、より好ましくは0.2〜6時間である。
【実施例】
【0071】
〔合成例〕
以下、本発明のトリアルキルシリルオキシ基含有化合物の合成例、及びそれを用いた電解液の実施例を示すが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
合成例1〔4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル メタンスルホネートの合成〕
2−ブチンジオール17.22g(0.20mol)とトリエチルアミン6.07g(60mmol)を酢酸エチル200mLとテトラヒドロフラン50mlの混合溶媒に溶解させ、メタンスルホニルクロリド6.87g(60mmol)を5〜10℃で15分かけて滴下した。室温で3時間反応を行い、反応液を2回水洗した後、有機層を分離し、濃縮した。濃縮物をカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルC−200、トルエン/酢酸エチル=3/2溶出)にて精製し、4−ヒドロキシ−2−ブチン−1−イル メタンスルホネート6.70g(メタンスルホニルクロリド基準:68%収率)得た。
4−ヒドロキシ−2−ブチン−1−イル メタンスルホネート5.00g(30.4mmol)、トリエチルアミン3.69g(36.5mmol)を酢酸エチル100mlに溶解させ、トリメチルシリルクロリド3.30g(33.5mmol)を5〜10℃で10分かけて滴下した。室温で2時間反応を行い、反応液を2回水洗した後、有機層を分離し、濃縮した。濃縮物を減圧蒸留にて精製し、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル メタンスルホネートを6.70g(収率51%)得た。
得られた4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル メタンスルホネートについて、H−NMR及び質量分析の測定を行い、その構造を確認した。
結果を以下に示す。
(1)1H−NMR(300 MHz, CDCl): 4.88-4.90 (m, 2 H), 4.33-4.36 (m, 2 H), 3.11 (s, 1 H) , 0.17 (s, 9 H).
(2)質量分析: MS(CI) [M+1] = 237.
【0073】
以下、本発明の非水電解液を用いた実施例を示す。
実施例1〜9、比較例1〜4
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
LiCoO(正極活物質);94質量%、アセチレンブラック(導電剤);3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);3質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜いて正極シートを作製した。正極の集電体を除く部分の密度は3.6g/cmであった。また、人造黒鉛(d002=0.335nm、負極活物質)95質量%を、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤)5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜いて負極シートを作製した。負極の集電体を除く部分の密度は1.7g/cmであった。そして、正極シート、微孔性ポリエチレンフィルム製セパレータ、負極シートの順に積層し、表1に記載の組成の非水電解液を加えて、2032型コイン電池を作製した。
【0074】
〔高温サイクル試験後の低温特性の評価〕
初期の放電容量
上記の方法で作製したコイン電池を用いて、25℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で、終止電圧4.2Vまで3時間充電し、0℃に恒温槽の温度を下げ、1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電して、初期の0℃での放電容量を求めた。
高温サイクル試験
次に、このコイン電池を60℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で終止電圧4.2Vまで3時間充電し、次に1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電することを1サイクルとし、これを100サイクルに達するまで繰り返した。
高温サイクル後の放電容量
更にその後、初期の放電容量の測定と同様にして、高温サイクル後の0℃の放電容量を求めた。
高温サイクル試験後の低温特性
高温サイクル後の低温特性を下記の0℃放電容量の維持率より調べた。
高温サイクル後の0℃放電容量維持率(%)=(高温サイクル後の0℃の放電容量/初期の0℃の放電容量)×100
電池の作製条件及び電池特性を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例10、比較例5
実施例2、比較例1で用いた負極活物質に変えて、Si(負極活物質)を用いて、負極シートを作製した。Si;80質量%、アセチレンブラック(導電剤);15質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜いて負極シートを作製したことの他は、実施例2、比較例1と同様にコイン電池を作製し、電池評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
実施例11、比較例6
実施例2、比較例1で用いた正極活物質に変えて、非晶質炭素で被覆したLiFePO(正極活物質)を用いて、正極シートを作製した。非晶質炭素で被覆したLiFePO;90質量%、アセチレンブラック(導電剤);5質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜いて正極シートを作製したこと、充電終止電圧を3.6V、放電終止電圧を2.0Vとしたことの他は、実施例2、比較例1と同様にコイン電池を作製し、電池評価を行った。結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
上記実施例1〜9のリチウム二次電池は何れも、本発明のトリアルキルシリルオキシ基含有化合物を添加しない比較例1、トリアルキルシリルオキシ基に直接カルボニル基が結合した化合物である酢酸トリメチルシリルを添加した比較例2、炭化水素基を介して2つのトリアルキルシリルオキシ基を結合した化合物であるエチレングリコールビス(トリメチルシリルエーテル)を添加した比較例3、炭化水素基を介して同一の官能基を2つ有する化合物である2−ブチン−1,4−ジオール ジアセテートを添加した比較例4のリチウム二次電池に比べ、高温サイクル後の低温特性が大幅に向上している。炭化水素基を介してトリアルキルシリルオキシ基とアルキルカルボニルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基から選ばれる特定の官能基を結合したトリアルキルシリルオキシ基含有化合物を添加した非水電解液を使用することにより、予想し得ない特異的な効果がもたらされることが分かった。
また、実施例10と比較例5の対比、実施例11と比較例6の対比から、正極にリチウム含有オリビン型リン酸鉄塩を用いた場合や、負極にSiを用いた場合にも同様な効果がみられる。従って、本発明の効果は、特定の正極や負極に依存した効果でないことは明らかである。
【0081】
また、本願発明のトリアルキルシリルオキシ基含有化合物を含む非水電解液を使用したリチウム一次電池は長期保存後の低温及び高温での放電性能に優れることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の非水電解液を用いたリチウム電池は、高温サイクル後の低温特性に優れ、長期にわたり優れた電気化学性能を維持することができる。
また、本発明の新規なトリアルキルシリルオキシ基含有化合物は、医薬、農薬、電子材料、高分子材料等の中間原料、又は電池材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、下記一般式(I)で表されるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物の少なくとも1種が非水電解液中に0.01〜10質量%含有されていることを特徴とする非水電解液。
【化1】

(式中、Xは炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、置換基を有する炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルケニレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルキニレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、又はエーテル結合を含む炭素数2〜8の2価の連結基を表し、R〜Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基、ホルミル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアシル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルコキシカルボニル基を表す。)
【請求項2】
一般式(I)で表されるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物が、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブタン−1−イル メタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブテン−1−イル メタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル メタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル トリフルオロメタンスルホネート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル ホルメート、4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル アセテート、メチル 4−(トリメチルシリルオキシ)−2−ブチン−1−イル カーボネート、2−(トリメチルシリルオキシ)フェニル メタンスルホネートから選ばれる1種以上である請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた電気化学素子であって、該非水電解液中に前記一般式(I)で表されるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物の少なくとも1種を非水電解液中に0.01〜10質量%含有することを特徴とする電気化学素子。
【請求項4】
下記一般式(II)で表されるトリアルキルシリルオキシ基含有化合物。
【化2】

(式中、Xは炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、置換基を有する炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルケニレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルキニレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、又はエーテル結合を含む炭素数2〜8の2価の連結基を表し、R〜Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基、ホルミル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアシル基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルコキシカルボニル基を示す。
ただし、Xが−CR10−C≡C−CR1112−の場合、R〜R12は炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基である。また、Xが炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、置換基を有する炭素数2〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基、炭素数2〜6の直鎖又は分枝の置換基を有するアルキレン基、炭素数4〜8の直鎖又は分枝のアルケニレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜14のアリーレン基、及びエーテル結合を含む炭素数2〜8の2価の連結基の場合、R〜Rはメチル基、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルカンスルホニル基である。)

【公開番号】特開2011−134705(P2011−134705A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259877(P2010−259877)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】