説明

非水電解液一次電池

【課題】 優れた重負荷パルス放電特性を有しつつ、比較的軽負荷での定率放電が長期にわたって可能で、長期信頼性に優れた非水電解液一次電池を提供する。
【解決手段】 活物質および導電助剤を含有する2つの正極合剤層が、集電体を介して積層されてなる正極を有する非水電解液一次電池であって、上記2つの正極合剤層は、導電助剤含有率が異なっており、且つ、少なくとも、高導電助剤含有率の正極合剤層は、負極と対向するように配置されていることを特徴とする非水電解液一次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液一次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現行の非水電解液一次電池では、例えば、比較的軽負荷で、長期間継続して使用されるような機器の駆動電源としての用途に対応した高容量タイプのもの(特許文献1など)がある一方、パルス放電などが要求される機器用のように瞬間的に重負荷がかかるような用途に対応したタイプのもの(特許文献2など)もある。ところが、カメラの電源用電池のように、重負荷のパルス放電(フラッシュ用)と、比較的軽負荷での長期間にわたる定率放電(フラッシュ以外の駆動用)の両者が要求される場合もある。
【0003】
【特許文献1】特開2000−315497号公報
【特許文献2】特開昭59−78460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非水電解液一次電池の重負荷パルス放電特性を向上させる方法としては、例えば、(1)電極の面積を大きくする、(2)セパレータを改良する、ことが挙げられる。ところが、従来の軽負荷用途に適した高容量タイプの非水電解液一次電池において、上記(1)や(2)の方法で重負荷パルス放電特性を向上させて、上述のカメラ用駆動電源などに適した電池としようとしても、以下のような問題がある。
【0005】
すなわち、(1)の方法では、例えば、電極を巻回電極体としたりするなどして対応しているが、このように巻回電極体とする場合でも、電池内容積には限りがあることから、電極を重負荷パルス放電特性に好適な構成としつつ、軽負荷での長期間定率放電に対応できる容量を確保するのには限界がある。また、(2)の方法でも、セパレータの改良の結果、これらの厚みの減少する必要が生じる場合が多い。そのため、生産時および長期間保存時に短絡が生じる危険性が高まり、長期信頼性が損なわれる問題がある。このように、従来の手法では、良好な重負荷パルス放電特性を有しながら、比較的軽負荷での定率放電が長期にわたって可能な電池を提供することは困難である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた重負荷パルス放電特性を有しつつ、比較的軽負荷での定率放電が長期にわたって可能で、長期信頼性に優れた非水電解液一次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得た本発明の非水電解液一次電池は、活物質および導電助剤を含有する2つの正極合剤層が、集電体を介して積層されてなる正極を有するものであって、上記2つの正極合剤層は、導電助剤含有率が異なっており、且つ、かかる2つの正極合剤層のうち、少なくとも、高導電助剤含有率の正極合剤層は、負極と対向するように配置されていることを特徴とするものである。
【0008】
すなわち、重負荷パルス放電特性に優れた非水電解液一次電池とするには、正極合剤層の導電性が高いことが好ましい一方、比較的軽負荷での定率放電特性を確保する上では、重負荷パルス放電特性を向上させるほどの導電性は正極合剤層に要求されない。寧ろ、正極合剤層の導電性を向上させるべく導電助剤含有率を高めると、正極合剤層中の活物質含有率を低減せざるを得ず、これにより容量低下が引き起こされ、長期間にわたる軽負荷での定率放電ができなくなってしまう。
【0009】
本発明の非水電解液一次電池では、重負荷パルス放電が要求された場合に作用し得る高導電助剤含有率の正極合剤層(高導電性の正極合剤層)と、比較的軽負荷での定率放電を長期にわたって達成し得る低導電助剤含有率の正極合剤層(活物質含有率が高く、高容量の正極合剤層)とが、集電体を介して積層されてなる構成の正極を用いることで、重負荷パルス放電特性と、軽負荷の定率放電の継続性を高度に両立させている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、重負荷パルス放電特性と、比較的軽負荷での定率放電の長期にわたる継続性の両者に優れた非水電解液一次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の非水電解液一次電池の構成を詳細に説明する。
【0012】
本発明の電池に係る正極は、活物質および導電助剤を含有し、これらがバインダで結着されてなる2つの正極合剤層が、集電体の両面に形成されてなるものである。これら2つの正極合剤層は、その導電助剤含有率が異なっており、導電助剤の含有率がより高い層(すなわち、高導電助剤含有率の正極合剤層)が、重負荷パルス放電の際に作用し、導電助剤の含有率がより低い層(すなわち、低導電助剤含有率の正極合剤層)が、比較的軽負荷での定率放電の際に作用する。そして、これら2つの正極合剤層は、間に介在する集電体によって並列接続されており、要求される放電に好適に対応できる側の正極合剤層が作用できるように構成されている。
【0013】
本発明に係る正極に使用できる正極活物質としては、例えば、二酸化マンガン(MnO)、マンガン酸リチウム、フッ化カーボン、チタン酸リチウム、二硫化鉄、酸化銅などが挙げられる。
【0014】
高導電助剤含有率の正極合剤層と低導電助剤含有率の正極合剤層とは、同じ活物質を含有していてもよいが、各層が異なる活物質を含有していても構わない。高導電助剤含有率の正極合剤層と、低導電助剤含有率の正極合剤層とが、同じ活物質を含有する場合には、例えば、高導電助剤含有率の正極合剤層が優位に作用する放電(重負荷パルス放電)により、該層において容量の消費が進み電位が優先的に低下したとしても、集電体を介して存在している低導電助剤含有率の正極合剤層との電位の均一化が生じ、高導電助剤含有率の正極合剤層の電位が上昇(回復)する。この作用により重負荷パルス放電特性が向上する。
【0015】
他方、高導電助剤含有率の正極合剤層と低導電助剤含有率の正極合剤層とが異なる活物質を含有している場合には、高導電助剤含有率の正極合剤層が含有する活物質が、低導電助剤含有率の正極合剤層の含有する活物質よりも、低電位であることが好ましい。このような構成とすることにより、比較的軽負荷での放電が要求される際に、電位の高い低導電助剤含有率の正極合剤層がより優位に作用して効率的な放電が達成される。重負荷での放電が要求される際にも、放電当初は電位の高い低導電助剤含有率の正極合剤層が優位に作用して放電がされるが、放電に伴い該合剤層の放電容量をほとんど消費できずに大幅な電位の低下が生じ、電位の低い高導電助剤含有率の正極合剤層の電位まで達すると、高導電助剤含有率の正極合剤層が優位に作用して効率的な放電が達成される。このような構成とするための、高導電助剤含有率の正極合剤層が含有する活物質と、低導電助剤含有率の正極合剤層が含有する活物質との組み合わせとしては、例えば、マンガン酸リチウム/二酸化マンガン、チタン酸リチウム/二酸化マンガン、チタン酸リチウム/マンガン酸リチウム、チタン酸リチウム/二硫化鉄、チタン酸リチウム/酸化銅(以上、高導電助剤含有率の正極合剤層に係る活物質/低導電助剤含有率の正極合剤層に係る活物質、を意味する)などが挙げられる。これらの電位差は金属Li基準の電位により比較できる。例えばマンガン酸リチウム(LiMn)は3.5Vで、二酸化マンガン(MnO)は3.6Vであり、また、それぞれの理論電気容量は、マンガン酸リチウムが202mAh/gで、二酸化マンガンが308mAh/gである。
【0016】
また、上記のように、高導電助剤含有率の正極合剤層に、低導電助剤含有率の正極合剤層が含有する活物質よりも、低電位の活物質を含有させることに加えて、高導電助剤含有率の正極合剤層に用いる活物質を、二次電池の正極材料として使用可能である活物質であり、例えば、Liイオンを用いた電池においては、Liイオンの吸蔵・放出が可能なサイトを有するものとすることも推奨される。高導電助剤含有率の正極合剤層にこのような活物質を用いた場合には、例えば、高導電助剤含有率の正極合剤層が優位に作用する放電(重負荷パルス放電)により、該層において容量の消費が進んだとしても、該層に取り込まれたLiイオンが、集電体を介して存在している低導電助剤含有率の正極合剤層側に移動することで、高導電助剤含有率の正極合剤層が充電される。よって、高導電助剤含有率の正極合剤層の理論的な電気容量以上に、重負荷パルス放電が可能となる。
【0017】
高導電助剤含有率の正極合剤層において、上記の充電効果を確保するための活物質としては、例えば、従来公知の非水二次電池において正極活物質として用いられている各種化合物が使用できる。具体的には、マンガン酸リチウム、チタン酸リチウムなどのリチウム複合酸化物が挙げられる。そして、高導電助剤含有率の正極合剤層に上記活物質を使用する場合における、高導電助剤含有率の正極合剤層の活物質と、低導電助剤含有率の正極合剤層の活物質との組み合わせとしては、マンガン酸リチウム/二酸化マンガン、チタン酸リチウム/二酸化マンガン、チタン酸リチウム/マンガン酸リチウム(以上、高導電助剤含有率の正極合剤層に係る活物質/低導電助剤含有率の正極合剤層に係る活物質、を意味する)などが挙げられる。
【0018】
正極合剤層における導電助剤としては、例えば、鱗片状黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラックなどが挙げられ、これらを1種単独で、または2種以上を同時に使用することができる。上記2つの正極合剤層は、いずれも同じ種類の導電助剤を含有していてもよく、互いに異なる種類の導電助剤を含有していても構わない。
【0019】
正極合剤層におけるバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、六フッ化プロピレンの重合体などのフッ素樹脂などが挙げられる。
【0020】
各正極合剤層における活物質含有率は、各正極合剤層の全構成成分量を100質量%としたとき、例えば、73質量%以上、より好ましくは80質量%以上であって、91質量%以下、より好ましくは87質量%以下とすることが望ましい。各正極合剤層における活物質含有率が小さすぎると、電池容量の低下を引き起こしてしまうことがあり、多すぎると、他の構成成分量が低下するため、それに伴う不都合が生じることがある。
【0021】
高導電助剤含有率の正極合剤層における導電助剤含有率は、該層の全構成成分量を100質量%としたとき、例えば、7質量%以上、より好ましくは10質量%以上であって、25質量%以下、より好ましくは20質量%以下とすることが、また、低導電助剤含有率の正極合剤層における導電助剤含有率は、該層の全構成成分量を100質量%としたとき、例えば、2質量%以上、より好ましくは3質量%以上であって、7質量%以下、より好ましくは5質量%以下とすることが望ましく、このような導電助剤含有率を満足しつつ、高導電助剤含有率の正極合剤層の方が、低導電助剤含有率の正極合剤層よりも、導電助剤含有率が高くなるようにすればよい。各正極合剤層における導電助剤含有率が小さすぎると、正極合剤層の導電性が不十分となることがあり、多すぎると、他の構成成分量が低下するため、それに伴う不都合が生じることがある。また、高導電助剤含有率の正極合剤層と、低導電助剤含有率の正極合剤層の導電助剤含有率の差は、例えば、低導電助剤含有率の正極合剤層における導電助剤含有率(質量基準)に対して、高導電助剤含有率の正極合剤層における導電助剤含有率(質量基準)が、2〜10倍程度であることが好ましい。
【0022】
各正極合剤層におけるバインダ含有率は、各正極合剤層の全構成成分量を100質量%としたとき、例えば、2質量%以上、より好ましくは3質量%以上であって、8質量%以下、より好ましくは5質量%以下とすることが望ましい。各正極合剤層におけるバインダ含有率が小さすぎると、活物質や導電助剤などの結着が不十分となることがあり、多すぎると、他の構成成分量が低下するため、それに伴う不都合が生じることがある。
【0023】
低導電助剤含有率の正極合剤層は、比較的軽負荷での放電が長期間にわたって可能であることが要求されるため、それに見合った電気容量を備えていることが好ましく、他方、高導電助剤含有率の正極合剤層においても、1回の重負荷パルス放電では、さほどの容量が要求されなくても、ある程度の回数の放電が可能なように、それに見合った電気容量を備えていることが望ましい。このように、重負荷パルス放電用の容量と、軽負荷での長期間放電用の容量をバランスよく確保するには、例えば、高導電助剤含有率の正極合剤層の電気容量に対して、低導電助剤含有率の正極合剤層の電気容量が、1.0倍以上、より好ましくは2倍以上であって、10倍以下、より好ましくは8倍以下であることが推奨される。なお、本発明でいう電気容量は、理論容量を意味している。
【0024】
高導電助剤含有率の正極合剤層の厚みは、例えば、0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上であって、1.0mm以下、より好ましくは0.7mm以下であることが望ましい。また、低導電助剤含有率の正極合剤層の厚みは、例えば、0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上であって、2.0mm以下、より好ましくは1.5mm以下であることが望ましい。これらの2つの正極合剤層の厚みは、上記の電気容量比を満足させつつ、上記の好適厚みから選択することが推奨される。
【0025】
正極に用いる集電体としては、例えば、SUS316、SUS430、SUS444などのステンレス鋼を素材とするものが挙げられ、その形態としては、平織り金網、エキスパンドメタル、ラス網、パンチングメタル、金属発泡体、箔(板)などが例示できる。集電体の厚みとしては、例えば、0.05mm〜0.2mmであることが好ましい。このような集電体の表面には、カーボンペーストや銀ペーストなどのペースト状導電材を塗布しておくことも望ましい。
【0026】
正極は、正極活物質に、導電助剤やバインダを配合し、必要に応じて水などを添加してなる正極合剤(スラリー)を、ロールなどを用いて圧延するなどして予備シート化し、これを乾燥・粉砕したものを再度ロール圧延などしてシート形状に成形したもの(すなわち、正極合剤層となるシート)を、集電体にプレスなどして圧着することで製造できる。
【0027】
本発明に係る負極は、例えば、負極活物質であるリチウム箔と、負極集電体である金属箔とで構成される。リチウム箔の材料としてはリチウム金属のみならず、リチウム−アルミニウムなどのリチウム合金を挙げることができる。特に、負極活物質には、リチウム金属箔とアルミニウムの薄箔とを貼り合わせてなる積層体を用い、アルミニウムの薄箔側を高導電助剤含有率の正極合剤層側に配置することが好ましい。リチウム金属箔とアルミニウム箔との積層体は、電池内で後記の非水電解液と触れることで、その界面においてリチウム−アルミニウム合金を生成する。よって、リチウム金属箔とアルミニウム薄箔との積層体を用いると、電池内において、リチウム金属箔表面でリチウム−アルミニウム合金が生成するが、このとき、リチウム−アルミニウム合金が微粉化するため、リチウム金属箔の上記合金含有面では、その比表面積が増大する。従って、この合金含有面を高導電助剤含有率の正極合剤層との対向面とすることで、より効率よく放電できるようになる。なお、リチウム箔の厚みとしては、例えば、0.1mm〜1mmであることが好ましい。また、上記のリチウム金属箔とアルミニウムの薄箔との積層体を用いる場合には、リチウム金属箔の厚みを0.1mm〜1mmとし、アルミニウムの薄箔の厚みを0.005mm〜0.05mmとすることが望ましい。
【0028】
負極集電体の素材としては、銅、ニッケル、鉄、ステンレスなどを挙げることができる。負極集電体の厚み分だけ外装缶の内部体積が減少するため、負極集電体の厚み寸法は可及的に小さいことが好ましく、具体的には、例えば、0.1mm以下とすることが推奨される。すなわち、負極集電体が厚すぎると、負極活物質であるリチウム箔などの仕込み量を少なくせざるを得ず、電池容量の低下を招く虞がある。また、負極集電体が薄すぎると、破れやすくなるため、負極集電体の厚みは、0.005mm以上とすることが望ましい。また、負極集電体は、その幅がリチウム箔の幅と同じか、それよりも広いことが好ましく、また、その面積が、リチウム箔の面積の100〜130%であることが好ましい。負極集電体の面積を上記のようにすることによって、負極集電体の幅がリチウム箔の幅と同じかまたは広く、長さが長くなるため、負極集電体の周囲に沿ってリチウム箔が切れて電気的接続が断たれることを防ぐことができる。
【0029】
本発明の非水電解液一次電池の形態の一例(縦断側面図)を図1に示す。図1において、非水電解液一次電池1は、上方開口部を有する有底円筒状の外装缶2と、外装缶2内に装填された正極と負極とをセパレータを介して巻回してなる巻回電極体3と、非水電解液(以下、単に「電解液」という)と、外装缶2の上方開口部を封止する封口構造を有している。言い換えれば、図1の非水電解液一次電池1は、外装缶2と外装缶2の上方開口部を封止する封口構造とで囲まれる空間内に、正極と負極とをセパレータを介して巻回してなる巻回電極体3や電解液といった発電要素を有するものである。上記外装缶2は、鉄やステンレス鋼などを素材とする。
【0030】
封口構造は、外装缶2の上方開口部の内周縁に固定された蓋板8と、蓋板8の中央部に開設された開口に、ポリプロピレンなどを素材とする絶縁パッキング9を介して装着された端子体10と、蓋板8の下部に配置された絶縁板11とを有している。絶縁板11は、円盤状のベース部12の周縁に環状の側壁13を立設した上向きに開口する丸皿形状に形成されており、ベース部12の中央にはガス通口14が開設されている。蓋板8は、側壁13の上端部に受け止められた状態で、外装缶2の上方開口部の内周縁に、レーザー溶接で固定するか、またはパッキングを介したクリンプシールで固定されている。電池内圧が急激に上昇したときの対策として、蓋板8または外装缶2の缶底2aには、薄肉部(ベント)を設けることができる。正極4と端子体10の下面とは、正極リード体15で接続されている。また、負極5に取り付けられた負極リード体16は、外装缶2の上部内面に溶接されている。
【0031】
図2には、図1に示した非水電解液一次電池の横断平面図を示している。図2に示すように、巻回電極体3は、正極4と負極5とを、セパレータ6を介して巻回してなるものであり、全体として略円柱形状に形成されている。図2に示す非水電解液一次電池では、正極4は、高導電助剤含有率の正極合剤層20と、低導電助剤含有率の正極合剤層21とが、集電体22を介して積層されてなる構造を有している。また、負極5は、リチウム箔25と集電体26が積層されてなる構造を有している。27は、正極4側表面にリチウム−アルミニウム合金を有するリチウム金属箔であり、リチウム金属箔とアルミニウム箔との積層体を用い、電池1内で電解液に触れさせてリチウム−アルミニウム合金を形成させたものである。ここで、図2中、Cは巻回電極体3の巻回中心部、Sは巻回電極体3における正極4の巻回始端部、Eは巻回電極体3の巻回終端部である(詳しくは、後述する)。なお、図1および図2では、本発明の電池が円筒形である場合を示しているが、本発明の電池は円筒形以外の筒形(例えば、角筒形)であってもよい。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装材として使用したラミネート電池とすることもできる。更に、電極体としても、図1や図2に示す巻回電極体ではなく、正極と負極とがセパレータを介して1回または複数回にわたって積層されてなる積層電極体であってもよい。なお、図1および図2では、各構成要素を概略的に示しており、例えば、各構成要素の厚みの関係は、必ずしもこれらの図の通りでなくてもよい(後記の図3や図4においても、同じ)。
【0032】
本発明で用い得るセパレータとしては、従来公知の非水電解液一次電池で用いられているセパレータ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン製の不織布や微孔性フィルムが使用できる。例えば、PE製の微孔性フィルムとしては、旭化成社製「ハイポア(商品名)」、東燃化学社製「セティーラ(商品名)」などが使用できる。
【0033】
本発明の非水電解液一次電池に係る電解液としては、有機溶媒などの非水系溶媒に電解質としてLiBF、LiPF、LiClO、LiCFSOなどを溶解して調製したものが挙げられる。その溶媒としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状エステルにジメトキシエタンなどの鎖状エーテル、ジメチルカーボネートなどの鎖状エステルを混合したものが例示できる。電解液中の電解質の濃度としては0.3〜1.5mol/lが好ましい。
【0034】
巻回電極体3は、例えば、図3および図4に示すような手順で作製することができる。なお、図3(拡大図を除く)および図4では、リチウム金属箔−アルミニウム箔積層体28は簡略化して単層構造のように示しているが、実際には、図3の拡大図のように、リチウム金属箔28aとアルミニウム箔28bとの積層体であり、電池内に装填されて電解液と接触することで、セパレータ6側表面(正極4との対向面)にリチウム−アルミニウム合金が形成されたリチウム金属箔(図2中、27)となる。まず、図3に示すように、負極集電体26の長さ方向の中央部の上面に、熱溶融性のテープ31、次いでセパレータ6を載置する。
【0035】
次いで、この状態からテープ31を加熱して、該テープ31を介して負極集電体26にセパレータ6を不離一体的に溶融固着させる。テープ31には、片面または両面の粘着テープを用いることができる。次に、セパレータ6の固着部分を挟む負極集電体26の長さ方向の前後位置に、リチウム金属箔25および積層体28を圧着固定する。換言すれば、負極集電体26の片側面に、負極活物質であるリチウム金属箔25および積層体28の無い負極集電体26が露出する部分を設け、この露出部分30にセパレータ6を固着する。このようにして、負極集電体26、リチウム金属箔25、リチウム金属箔−アルミニウム箔積層体、およびセパレータ6が不離一体的に結合された積層体32を得ることができる。
【0036】
次に図4(a)に示すように、巻回芯33の横割溝35の間に積層体32を挿入する。ここでは、先の露出部分30、つまりテープ31によるセパレータ6の固着部分が、巻回芯33の横割溝35の間に来るように位置合わせする。巻回芯33を一方向(図4では時計まわり方向)に半周程度回転させて、図4(b)に示すように積層体32を巻回芯33の外周面に巻き付ける。次に、正極合剤層20、21と集電体22とからなる正極4を、巻回始端部S側(図2参照)が巻回芯33側となるようにセパレータ6上に載置して、積層体32と共に、巻回芯33で巻回する。積層体32と正極4とを巻回芯で巻き取ったのち、該巻回芯31を巻回中心部C(図2参照)から抜き取り、最後に負極集電体26の巻回終端部E(図2参照)を固定テープで固定する。このようにして、図2に示すように、露出部分30を巻回中心部Cとして、正極4と負極5とをセパレータ6を介して巻回してなる巻回電極体3を得ることができる。
【0037】
なお、負極集電体を予め巻回芯に1周程度巻き込んだ後、負極を構成するリチウム金属箔およびリチウム金属箔−アルミニウム箔積層体とセパレータとを重ねて正極を包み込むようにして折り返した電極群を挿入し、巻回して巻回電極体としても構わない。この場合、負極集電体にはリチウム金属箔およびリチウム金属箔−アルミニウム箔積層体は全く圧着されていないことになる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、本実施例で使用する「%」は、特に断らない限り質量基準(質量%)である。
【0039】
実施例1
[正極の作製]
まず、以下の手順で、高導電助剤含有率の正極合剤層を形成するための正極合剤(質量比で、固形分:水分=100:30のもの)を調製し、該正極合剤層とするための正極合剤シートを作製した。カーボンブラック:10%とマンガン酸リチウム(LiMn):85%とを、プラネタリーミキサーを用いて乾式で5分間混合した後、水を固形分の20%(質量比)となるように添加して5分間混合した。PVDFディスパージョン(ダイキン工業社製「D−1」)を、固形分が、正極合剤の固形分で5%に当たる量だけ用意し、これを残りの水で希釈して、上記の混合物に添加し、5分間混合して高導電助剤含有率の正極合剤層形成用の正極合剤を得た。
【0040】
上記の正極合剤を、直径:250mmの2本ロールを用い、ロール温度を125±5℃に調整し、プレス圧:7トン/cm、ロール間隔:0.4mm、回転速度:10rpmの条件で、ロール圧延してシート化した。ロールを通過した正極合剤(予備シート)を105±5℃で残水分が2%以下になるまで乾燥した。次いで乾燥後の予備シートを粉砕機で粉砕した。この際、上記予備シートが、元の見かけ体積の2倍以上になるまで粉砕した。粉砕後の粒子径は、大部分が1mm以下であり、バインダとして添加したPVDFも1mm以下の長さの繊維状に切断されていた。粉砕後の材料について、再度ロールによるシート化を行った。ロールの間隔は0.6±0.05mmに調整し、ロール温度:125±10℃、プレス圧:7トン/cm、回転速度:10rpmの条件でシート化して高導電助剤含有率の正極合剤層となる正極合剤シートを得た。得られた正極合剤シートは、厚みが0.5mmで、電気容量(理論値)は約350mAhである。この正極合剤シートを裁断して、幅:37mm、長さ:51mmのシート(図2中、20)を得た。
【0041】
次に、以下の手順で、低導電助剤含有率の正極合剤層を形成するための正極合剤(質量比で、固形分:水分=100:30のもの)を調製し、該正極合剤層とするための正極合剤シートを作製した。カーボンブラック:3%と二酸化マンガン(東ソー社製):92%とを、プラネタリーミキサーを用いて乾式で5分間混合した後、水を固形分の20%(質量比)となるように添加して5分間混合した。PVDFディスパージョン(ダイキン工業社製「D−1」)を、固形分が、正極合剤の固形分で5%に当たる量だけ用意し、これを残りの水で希釈して、上記の混合物に添加し、5分間混合して低導電助剤含有率の正極合剤層形成用の正極合剤を得た。
【0042】
上記の正極合剤を、直径:250mmの2本ロールを用い、ロール温度を125±5℃に調整し、プレス圧:7トン/cm、ロール間隔:0.4mm、回転速度:10rpmの条件で、ロール圧延してシート化した。ロールを通過した正極合剤(予備シート)を105±5℃で残水分が2%以下になるまで乾燥した。次いで乾燥後の予備シートを粉砕機で粉砕した。この際、上記予備シートが、元の見かけ体積の2倍以上になるまで粉砕した。粉砕後の粒子径は、大部分が1mm以下であり、バインダとして添加したPVDFも1mm以下の長さの繊維状に切断されていた。粉砕後の材料について、再度ロールによるシート化を行った。ロールの間隔は0.6±0.05mmに調整し、ロール温度:125±10℃、プレス圧:7トン/cm、回転速度:10rpmの条件でシート化して低導電助剤含有率の正極合剤層となる正極合剤シートを得た。得られた正極合剤シートは、厚みが1.5mmで、電気容量(理論値)は約2150mAhである。この正極合剤シートを裁断して、幅:37mm、長さ:62mmのシート(図2中、21)を得た。
【0043】
正極集電体には、ステンレス鋼(SUS316)製のエキスパンドメタルを用いた。このエキスパンドメタルを、幅:34mm、長さ:56mmに切断し、長さ方向の中央部に、厚み:0.1mm、幅;3mmのステンレス鋼製のリボンを正極リード体として抵抗溶接により取り付けた。更にこのエキスパンドメタルに、カーボンペースト(日本黒鉛社製)を、網の目をつぶさない程度に塗布した後、105±5℃の温度で乾燥して正極集電体とした。なお、カーボンペーストの塗布量は、乾燥後の塗布量で5mg/cmとなるようにした。
【0044】
次に、高導電助剤含有率の正極合剤シートと低導電助剤含有率の正極合剤シートの間に正極集電体を介在させた状態で、長さ方向の片端部のみを固定して三者を一体化した。具体的には、高導電助剤含有率の正極合剤シートと低導電助剤含有率の正極合剤シートを、長さ方向の片端を揃えると共に、正極集電体の端部が、2枚の正極合剤シートの、両者を揃えた片端部からはみ出ないようにセットし、その状態で、2枚の正極合剤シートの、両者を揃えた片端部から5mmの箇所をプレスにより圧着することで、三者を一体化した。その後、2枚の正極合剤シートと正極集電体とを一体化したものを250±10℃で6時間熱風乾燥して正極を得た。
【0045】
[負極の作製]
負極は、幅:39mm、長さ:170mm、厚み:0.01mmの銅箔(負極集電体)上に、幅:37mm、長さ:87mmで、厚み:0.30mmのリチウム金属箔に厚み:0.006mmのアルミニウム箔を貼り合わせた積層体と、幅:37mm、長さ:50mmで、厚み:0.3mmのリチウム金属箔とを配置して構成した。この際、リチウム金属箔とアルミニウム箔の積層体については、リチウム金属箔側が銅箔側になるようにした。まず、リチウム金属箔に、幅:3mm、長さ:20mm、厚み:0.1mmのニッケル製の負極リード体を圧着した。その後、上記の2枚の積層体を、図3に示すように、離間させた状態で上記銅箔上に配置して、負極を作製した。
【0046】
[巻回電極体の作製]
セパレータとして、幅:44mm、長さ:170mm、厚み:20μmの微孔性ポリエチレンフィルム[旭化成社製「ハイポア」(商品名)]を用い、図3に示すように、負極の銅箔上に、接着テープを介してセパレータを貼り付けた。これを2つ割の直径:3.5mmの巻回芯に挟み、1周巻いた[図4の(a)、(b)]。次いで、負極をセパレータと共に1周巻き込んだ後、正極の固定した側を巻回芯側に載置して巻回した。巻回終了後は、銅箔が最外周を覆う形となった。以上により、図2に示すような巻回電極体を得た。
【0047】
[電池組み立て]
非水電解液一次電池の組み立て工程を、図1を参照して説明する。ニッケルメッキした鉄缶からなる有底円筒形の外装缶2の内底部2aに、厚み:0.2mmのポリプロピレン製の絶縁板を挿入し、その上に巻回電極体3を、正極リード体15が上側を向く姿勢で挿入した。巻回電極体3の負極リード体16を外装缶2の内面に抵抗溶接し、正極リード体15は、絶縁板11を挿入した後に、端子板10の下面に抵抗溶接した。この時点で絶縁抵抗を測定し、短絡がないことを確認した。
【0048】
電解液には、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合溶媒(体積比で1:2)に、LiClOを0.5mol/lの濃度で溶解させた非水系の溶液を用意し、これを外装缶2内に3.5ml注入した。注入は3回に分け、最終工程で減圧しつつ全量を注入した。電解液の注入後、蓋板8を外装缶2の上方開口部に嵌合し、レーザー溶接により外装缶2の開口端部の内周部と蓋板8の外周部とを溶接して外装缶2の開口部を封口した。
【0049】
[後処理(予備放電、エージング)]
封口した電池を、1Ωの抵抗で30秒間予備放電し、70℃で6時間保管した後、1Ωの定抵抗で1分間、2次予備放電を行った。予備放電後の電池を、室温で7日間エージングし、開路電圧を測定して安定電圧が得られていることを確認して、外径:17mm、総高:45mmの非水電解液一次電池を得た。この電池における正極の電気容量(理論値)は2500mAhであった。
【0050】
比較例1
実施例1の低導電助剤含有率の正極合剤層形成用の正極合剤シート作製方法と同じ方法で、厚みが1.0mmの正極合剤シートを作製した。この正極合剤シートから、長さが51mm、幅が37mmの内周用の正極合剤シート(図2中、20に相当)と、長さが62mm、幅が37mmの外周用の正極合剤シート(図2中、21に相当)を得た。これらの正極合剤シートを、高導電助剤含有率の正極合剤層形成用の正極合剤シートおよび低導電助剤含有率の正極合剤層形成用の正極合剤シートの代わりに用いた他は、実施例1と同様にして非水電解液一次電池を作製した。この電池における正極の電気容量(理論値)は2600mAhであった。
【0051】
比較例2
実施例1の高導電助剤含有率の正極合剤層形成用の正極合剤シート作製方法と同じ方法で、厚みが1.0mmの正極合剤シートを作製した。この正極合剤シートから、長さが51mm、幅が37mmの内周用の正極合剤シート(図2中、20に相当)と、長さが62mm、幅が37mmの外周用の正極合剤シート(図2中、21に相当)を得た。これらの正極合剤シートを、高導電助剤含有率の正極合剤層形成用の正極合剤シートおよび低導電助剤含有率の正極合剤層形成用の正極合剤シートの代わりに用いた他は、実施例1と同様にして非水電解液一次電池を作製した。この電池における正極の電気容量(理論値)は1700mAhであった。
【0052】
実施例および比較例の各電池について、以下のパルス放電試験と、定率放電試験を行った。結果を表1に示す。
【0053】
<パルス放電試験>
上記の各電池について、20℃で、ベース放電電流を20μAとし、5分間隔で1Aのパルス電流を3秒間放電するパルス放電を行い、1Aのパルス電流が流れた時点の電圧が2.0V以下に低下するまでに要するパルス放電の回数を測定した。なお、各電池の試料数は5個とし、その平均値を各実施例、比較例のパルス放電容量とした。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から分かるように、実施例1の非水電解液一次電池は、電池内の正極理論容量が大きい比較例1の電池よりもパルス放電回数が多く重負荷パルス放電特性が優れていた。また、重負荷特性に優れる正極を用いた比較例2の電池よりもパルス放電回数が多く重負荷パルス放電特性が優れていた。
【0056】
なお、実施例1の電池100個について、20℃で30日間保管した後の開路電圧を測定したところ、3.24Vを下回るものが発生せず、長期信頼性を満足する電池であることが確認できた。
【0057】
更に、実施例および比較例の各電池について、20℃で、5mAの定電流放電を行い、2.0V以下に電圧が低下するまでの放電容量を、正極理論容量で割ることによって、利用率を求めたところ、いずれの電池も95%以上であり、定率放電特性については、各電池間に差は見られなかった。
【0058】
このように、実施例1の非水電解液一次電池は、重負荷パルス放電特性が優れているのみならず、比較的軽負荷での定率放電特性についても、従来の非水電解液一次電池(比較例1の電池)と同等程度に良好であり、また、優れた長期信頼性も保持している。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の非水電解液一次電池の一例を示す縦断側面図である。
【図2】本発明の非水電解液一次電池の一例を示す横断平面図である。
【図3】本発明の非水電解液一次電池に係る巻回電極体の作製方法を説明するための図である。
【図4】本発明の非水電解液一次電池に係る巻回電極体の作製方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0060】
1 非水電解液一次電池
2 外装缶
3 巻回電極体
4 正極
5 負極
6 セパレータ
20 高導電助剤含有率の正極合剤層
21 低導電助剤含有率の正極合剤層
22 正極集電体
25 リチウム金属箔
26 負極集電体
27 リチウム−アルミニウム合金含有リチウム金属箔
28 リチウム金属箔−アルミニウム箔積層体
28a リチウム金属箔
28b アルミニウム箔
31 テープ
33 巻回芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質および導電助剤を含有する2つの正極合剤層が、集電体を介して積層されてなる正極を有する非水電解液一次電池であって、
上記2つの正極合剤層は、導電助剤含有率が異なっており、且つ、
少なくとも、高導電助剤含有率の正極合剤層は、負極と対向するように配置されていることを特徴とする非水電解液一次電池。
【請求項2】
上記負極は、少なくとも上記高導電助剤含有率の正極合剤層との対向面にリチウム−アルミニウム合金を含有するリチウム金属箔を有する請求項1に記載の非水電解液一次電池。
【請求項3】
高導電助剤含有率の正極合剤層の電気容量に対して、低導電助剤含有率の正極合剤層の電気容量が、1.0〜10倍である請求項1または2に記載の非水電解液一次電池。
【請求項4】
高導電助剤含有率の正極合剤層が、低導電助剤含有率の正極合剤層の含有する活物質よりも低電位の活物質を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解液一次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−216352(P2006−216352A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27488(P2005−27488)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】