説明

非水電解液二次電池、その製造方法、及び評価方法

【課題】皮膜形成による効果を確実に発現することができる非水電解液二次電池を提供することである。
【解決手段】本発明にかかる非水電解液二次電池は、正極と負極と非水電解液とを備える。負極はリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜を備える。そして、XAFS法により測定した際の皮膜の3配位構造に起因するピーク強度をαとし、XAFS法により測定した際の皮膜の4配位構造に起因するピーク強度をβとした場合、負極表面に形成された皮膜がα/(α+β)≧0.4の条件を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液二次電池、非水電解液二次電池の製造方法、及び非水電解液二次電池の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池の一つにリチウム二次電池がある。リチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極および負極の間を、非水電解液中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
特許文献1には、保存特性や出力特性等の電池特性が優れた非水電解液二次電池に関する技術が開示されている。特許文献1に開示されている非水電解液二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解液とを備える。そして、非水電解液として、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩およびアセトニトリルを含有し、アセトニトリルの含有量は、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩の含有量に対して0.6質量%〜1.0質量%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−34893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解液二次電池は、高温環境下で使用した場合など、使用する環境によっては電池特性が低下するという問題がある。つまり、非水電解液二次電池は、使用する環境の影響を受けて電池の容量維持率が低下したり、また電極の内部抵抗が増加したりするという問題がある。
【0006】
上記問題を解決するために特許文献1では、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を非水電解液に添加し、LiBOBに由来する皮膜を負極に形成している。また、特許文献1では非水電解液に添加するLiBOBの添加量について規定している。しかしながら、負極に形成されるLiBOBに由来する皮膜の状態は皮膜生成条件等により変化する。よって、LiBOBの添加量を規定したとしても、形成される皮膜の状態により、皮膜形成による効果は変化してしまう。
【0007】
上記課題に鑑み本発明の目的は、皮膜形成による効果を確実に発現することができる非水電解液二次電池、非水電解液二次電池の製造方法、及び非水電解液二次電池の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる非水電解液二次電池は、正極と負極と非水電解液とを備える。前記負極はリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜を備え、XAFS法により測定した前記皮膜の3配位構造に起因するピークの強度をαとし、前記XAFS法により測定した前記皮膜の4配位構造に起因するピークの強度をβとした場合、前記皮膜がα/(α+β)≧0.4の条件を満たす。
【0009】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、前記皮膜は、α/(α+β)≧0.49の条件を満たしてもよい。
【0010】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、前記皮膜は、α/(α+β)≧0.7の条件を満たしてもよい。
【0011】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、前記皮膜は、α/(α+β)≧0.79の条件を満たしてもよい。
【0012】
また、前記XAFS法による測定において、前記皮膜の3配位構造はX線のエネルギーが194eV近傍のピークを用いて検出され、前記皮膜の4配位構造はX線のエネルギーが198eV近傍のピークを用いて検出されてよもよい。
【0013】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法は、正極と負極と非水電解液とを備える非水電解液二次電池の製造方法であって、前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.05mol/kg未満となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加し、前記非水電解液二次電池を充電および放電する処理を所定の回数行なうコンディショニング処理を実施する。
【0014】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.04mol/kg未満となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加してもよい。
【0015】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.025mol/kg以下となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加してもよい。
【0016】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.01mol/kg以下となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加してもよい。
【0017】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記コンディショニング処理における充電レートおよび放電レートを1.0C以下としてもよい。
【0018】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記コンディショニング処理における充電レートおよび放電レートを0.1C以上1.0C以下としてもよい。
【0019】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記コンディショニング処理における充電処理および放電処理の回数をそれぞれ3回としてもよい。
【0020】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記コンディショニング処理を実施して前記負極にリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜を形成する際、XAFS法により測定した前記皮膜の3配位構造に起因するピークの強度をαとし、前記XAFS法により測定した前記皮膜の4配位構造に起因するピークの強度をβとした場合、前記皮膜がα/(α+β)≧0.4の条件を満たすように前記皮膜を形成してもよい。
【0021】
本発明にかかる非水電解液二次電池の評価方法は、正極と負極と非水電解液とを備える非水電解液二次電池の評価方法であって、XAFS法を用いて、前記負極に形成されたリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜の3配位構造に起因するピークの強度αを測定し、前記XAFS法を用いて、前記皮膜の4配位構造に起因するピークの強度βを測定し、前記皮膜がα/(α+β)≧0.4を満たすか否かに基づき非水電解液二次電池を評価する。
【0022】
本発明にかかる非水電解液二次電池の評価方法において、前記皮膜がα/(α+β)≧0.49を満たすか否かに基づき非水電解液二次電池を評価してもよい。
【0023】
本発明にかかる非水電解液二次電池の評価方法において、前記皮膜がα/(α+β)≧0.7を満たすか否かに基づき非水電解液二次電池を評価してもよい。
【0024】
本発明にかかる非水電解液二次電池の評価方法において、前記皮膜がα/(α+β)≧0.79を満たすか否かに基づき非水電解液二次電池を評価してもよい。
【0025】
本発明にかかる非水電解液二次電池の評価方法では、前記XAFS法による測定において、前記皮膜の3配位構造がX線のエネルギーが194eV近傍のピークを用いて検出され、前記皮膜の4配位構造がX線のエネルギーが198eV近傍のピークを用いて検出されてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、皮膜形成による効果を確実に発現することができる非水電解液二次電池、非水電解液二次電池の製造方法、及び非水電解液二次電池の評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】非水電解液のLiBOB濃度とリチウム二次電池の電池特性との関係を示すグラフである。
【図2】コンディショニング処理を実施していないリチウム二次電池の負極表面と、コンディショニング処理を実施したリチウム二次電池の負極表面をXAFS法により測定した結果である。
【図3】リチウム二次電池の負極表面をXAFS法により測定した結果である(非水電解液のLiBOB濃度を変化させた場合)。
【図4】リチウム二次電池の負極表面をXAFS法により測定した結果であり、非水電解液のLiBOB濃度と3配位構造比率Xとの関係を示す。
【図5】非水電解液におけるLiBOB濃度を変化させた際の、3配位構造比率、抵抗増加率、および容量維持率の関係を示す表である。
【図6】コンディショニング処理の条件(充放電レート)を変化させた際の、3配位構造比率、抵抗増加率、および容量維持率の関係を示す表である。
【図7】コンディショニング処理の条件(サイクル数)を変化させた際の、3配位構造比率、抵抗増加率、および容量維持率の関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態にかかる非水電解液二次電池(以下、リチウム二次電池)は、正極と、負極と、非水電解液とを少なくとも備える。
【0029】
<正極>
正極は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等を用いることができる。また、LiCoO、LiMn、LiNiOを任意の割合で混合した材料を用いてもよい。例えば、これらの材料を等しい割合で混合したLiNi1/3Co1/3Mn1/3を用いることができる。
【0030】
また、正極は、導電材を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0031】
本実施の形態にかかるリチウム二次電池の正極は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の正極合剤を正極集電体に塗布して乾燥することによって作製することができる。ここで、溶媒としては、例えばNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。また、正極集電体として、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。
【0032】
<負極>
負極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いることができる。そして、正極と同様に、負極活物質と、溶媒と、バインダーとを混練し、混練後の負極合剤を負極集電体に塗布して乾燥することによって負極を作製することができる。ここで、負極集電体として、例えば銅やニッケルあるいはそれらの合金を用いることができる。
【0033】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0034】
また、本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、非水電解液にリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を添加する。例えば、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.05mol/kg未満となるように、非水電解液にLiBOBを添加する。このように、非水電解液にLiBOBを添加することで、リチウム二次電池の電池特性を向上させることができる。このとき、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.04mol/kg以下となるように、より好ましくは0.025mol/kg以下となるように、より好ましくは0.01mol/kg以下となるように、非水電解液にLiBOBを添加してもよい。
【0035】
<セパレータ>
また、本実施の形態にかかるリチウム二次電池は、セパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することができる。
【0036】
<リチウム二次電池>
以下、捲回電極体を備えるリチウム二次電池を例にして説明する。本実施の形態にかかるリチウム二次電池は、長尺状の正極シート(正極)と長尺状の負極シート(負極)とが長尺状のセパレータを介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)が、非水電解液とともに、当該捲回電極体を収容し得る形状の容器に収容されている。
【0037】
容器は、上端が開放された扁平な直方体状の容器本体と、その開口部を塞ぐ蓋体とを備える。容器を構成する材料としては、アルミニウム、スチール等の金属材料が好ましい。あるいは、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形した容器であってもよい。容器の上面(つまり、蓋体)には、捲回電極体の正極と電気的に接続される正極端子および捲回電極体の負極と電気的に接続される負極端子が設けられている。容器の内部には、扁平形状の捲回電極体が非水電解液と共に収容されている。
【0038】
正極シートは、箔状の正極集電体の両面に正極活物質を含む正極合剤層が保持された構造を有している。負極シートも正極シートと同様に、箔状の負極集電体の両面に負極活物質を含む負極合剤層が保持された構造を有している。捲回電極体を作製する際は、正極シートおよび負極シートを、セパレータを介して積層する。そして、このように重ね合わせた積層体を捲回し、得られた捲回体を側面方向から押しつぶして扁平状の捲回電極体を作製する。
【0039】
そして、捲回電極体の両端部の正極シートおよび負極シートが露出した部分(正極合剤層および負極合剤層がない部分)に、正極リード端子および負極リード端子をそれぞれ設け、上述の正極端子および負極端子とそれぞれ電気的に接続する。このようにして作製した捲回電極体を容器本体に収容し、容器本体内に非水電解液を注液する。そして、蓋体を用いて容器本体の開口部を封止することにより、本実施形態にかかるリチウム二次電池を作製することができる。
【0040】
<コンディショニング処理>
上記の方法で作製したリチウム二次電池にコンディショニング処理を実施する。コンディショニング処理は、リチウム二次電池の充電および放電を所定の回数繰り返すことで実施することができる。例えば、コンディショニング処理は、20℃の温度条件下において0.1Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電する操作と、0.1Cの放電レートで3.0Vまで定電流定電圧放電させる操作をそれぞれ3回繰り返すことで実施することができる。なお、コンディショニング処理はこの条件に限定されることはなく、充電レート、放電レート、充放電の設定電圧は任意に設定することができる。本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、コンディショニング処理を実施することにより、負極表面にリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)に由来する皮膜を形成することができる。この皮膜は、コンディショニング処理を実施した際、非水電解液に添加されたLiBOBが負極表面に析出することで形成される。
【0041】
<負極の評価方法>
XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)法による測定を実施することで、コンディショニング処理後のリチウム二次電池の負極を評価することができる。つまり、負極表面に形成されたLiBOBに由来する皮膜として、ホウ素の配位数が3配位である皮膜(3配位構造皮膜)と、ホウ素の配位数が4配位である皮膜(4配位構造皮膜)とが混在している。本実施の形態では、XAFS法を用いることで、この3配位構造皮膜と4配位構造皮膜の比率を求めることができる。
【0042】
XAFS法による測定には、負極最表面のホウ素を分析するために、エネルギーの低い軟X線を用いる。3配位構造(つまり、3配位のホウ素)の検出には194eV近傍のピークを用い、4配位構造(つまり、4配位のホウ素)の検出には198eV近傍のピークを用いる。そして、3配位構造のピーク強度αと4配位構造のピーク強度βとから、3配位構造の比率X=α/(α+β)を求める。
【0043】
本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、負極表面に形成されるLiBOBに由来する3配位構造皮膜の比率をX≧0.4とする。このように、3配位構造皮膜の比率をX≧0.4とすることで、リチウム二次電池の電池特性を向上させることができる。更に、3配位構造皮膜の比率をX≧0.49、より好ましくはX≧0.7、より好ましくはX≧0.79とすることで、リチウム二次電池の電池特性をより向上させることができる。なお、本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、3配位構造皮膜の比率がX=1である場合に、リチウム二次電池の電池特性が最も向上する。
【0044】
上記のような皮膜を形成するために、非水電解液におけるLiBOB濃度を0.05mol/kg未満とする。例えば、3配位構造皮膜の比率をX≧0.4とするためには、非水電解液におけるLiBOB濃度を0.04mol/kg以下とする。また、3配位構造皮膜の比率をX≧0.49とするためには、非水電解液におけるLiBOB濃度を0.025mol/kg以下とする。また、3配位構造皮膜の比率をX≧0.7とするためには、非水電解液におけるLiBOB濃度を0.01mol/kg以下とする。
【0045】
また、本実施の形態では、負極表面に形成されたLiBOBに由来する皮膜が、α/(α+β)≧0.4を満たすか否かに基づき非水電解液二次電池を評価することができる。つまり、負極表面に形成された皮膜がα/(α+β)≧0.4の条件を満たす場合は、リチウム二次電池の電池特性が優れていると判断することができる。
【0046】
リチウム二次電池は、高温環境下で使用した場合など、使用する環境によっては電池特性が低下するという問題があった。つまり、リチウム二次電池は、使用する環境の影響を受けて電池の容量維持率が低下したり、また電極の内部抵抗が増加したりするという問題があった。
【0047】
この問題を解決するために特許文献1では、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を非水電解液に添加し、LiBOBに由来する皮膜を負極に形成している。また、特許文献1では非水電解液に添加するLiBOBの添加量について規定している。しかしながら、負極に形成されるLiBOBに由来する皮膜の状態は皮膜生成条件等により変化する。よって、LiBOBの添加量を規定したとしても、形成される皮膜の状態により、皮膜形成による効果は変化してしまう。このため、非水電解液にLiBOBを添加したとしても、場合によっては皮膜形成による電池特性向上の効果が発現しないおそれもある。
【0048】
つまり、リチウムビスオキサレートボレート(LiB(C)は、ホウ素を中心としたオキサラト錯体による4配位構造であり、下記の反応により、4配位構造の劣化生成物であるLiFOB(=LiFB(C))やLiBFなどに分解し、また(COOH)を生成する場合がある。なお、劣化生成物の存在はNMR測定により確認されている。そして、この劣化生成物(LiFOB、LiBF)や(COOH)はリチウム二次電池における容量維持率の低下や電極の内部抵抗の増加の原因となり、電池特性を劣化させる場合がある。よって、非水電解液にLiBOBを添加したとしても、場合によっては皮膜形成による電池特性向上の効果が発現しないおそれもある。
【0049】
【化1】

【化2】

【化3】

【0050】
本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、非水電解液にLiBOBを添加すると共に、負極表面に形成されるLiBOBに由来する3配位構造皮膜の比率をX≧0.4とすることで、電池特性を向上させることができる。すなわち、LiBOB由来の3配位構造皮膜が負極表面を被覆することで、例えばLiイオンの吸蔵や放出に関与する反応場を増加させることができ、また反応に必要な活性化エネルギーを低下させる(つまり、反応を促進させる)ことができると推測することができる。以下に、負極表面に形成されているLiBOBに由来する3配位構造皮膜の推測される構造式を示す。なお、本実施の形態において、3配位構造皮膜の構造式は下記に限定されることはなく、ホウ素の配位数が3配位である皮膜であればどのような構造であってもよい。
【0051】
【化4】

【0052】
また、LiBOB由来の3配位構造皮膜は、非水電解液中に負極を浸すだけでは形成されない。3配位構造皮膜を負極表面に形成するためには、所定の条件でコンディショニング処理を実施する必要がある。例えば、1.7V(vs Li/Li)を超える電位を印加することで、3配位構造皮膜を負極表面に形成することができる。
【0053】
また、負極表面にLiBOBに由来する3配位構造皮膜および4配位構造皮膜が存在するか否かについては、以下の方法を用いることで検証することができる。(1)まず、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法を用いて、ホウ素原子が存在するか確認する。(2)次に、イオンクロマトグラフを用いて、(COOH)が存在するか確認する。(3)最後に、XAFS法を用いて、3配位のホウ素のピーク(194eV近傍)と4配位のホウ素のピーク(198eV近傍)が存在するか確認する。
【0054】
そして、ICP発光分光分析法によりホウ素原子の存在が確認され、イオンクロマトグラフにより(COOH)の存在が確認され、更にXAFS法により3配位のホウ素のピークと4配位のホウ素のピークが確認された場合は、LiBOBに由来する3配位構造皮膜および4配位構造皮膜が存在するといえる。ここで、(COOH)は、上記で説明したように、LiBOBが4配位の劣化生成物に分解する際に生成される。よって、(COOH)の存在の有無は、LiBOBが存在することの手がかりとなる。
【0055】
以上で説明した本実施の形態にかかる発明により、皮膜形成による効果を確実に発現することができる非水電解液二次電池、非水電解液二次電池の製造方法、及び非水電解液二次電池の評価方法を提供することができる。
【実施例】
【0056】
次に、本発明の実施例について説明する。
<正極の作製>
正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3を、導電材としてアセチレンブラック(AB)を、バインダーとしてPVDFを、それぞれの質量比が90:8:2となるように調整した。そして、調整したこれらの材料をNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液と混合して混練した。そして、混練後の正極合剤を厚さ15μmの長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に帯状に塗布して乾燥することにより、正極集電体の両面に正極合剤層が設けられた正極シートを作製した。正極合剤の塗布量は、両面合わせて約11.8mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、正極合剤層の密度が約2.3g/cmとなるようにプレスした。
【0057】
<負極の作製>
負極活物質としての天然黒鉛粉末と、SBRと、CMCとを、これらの材料の質量比が98.6:0.7:0.7となるように水に分散させて負極合剤を調製した。この負極合剤を厚さ10μmの長尺状の銅箔(負極集電体)の両面に塗布して乾燥することにより、負極集電体の両面に負極合剤層が設けられた負極シートを作製した。負極合剤の塗布量は、両面合わせて約7.5mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、負極合剤層の密度が約1.0g/cm〜1.4g/cmとなるようにプレスした。
【0058】
<リチウム二次電池>
上記のようにして作製した正極シートおよび負極シートを2枚のセパレータ(多孔質ポリエチレン製の単層構造のものを使用した。)を介して積層して捲回し、その捲回体を側面方向から押しつぶして扁平状の捲回電極体を作製した。この捲回電極体を非水電解液とともに箱型の電池容器に収容し、電池容器の開口部を気密に封口した。
【0059】
非水電解液としては、ECとEMCとDMCとを3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを約1mol/kgの濃度で含有させたものを使用した。また、非水電解液におけるLiBOB濃度が0〜0.1mol/kgとなるようにLiBOBを添加した。このようにしてリチウム二次電池を組み立てた。その後、20℃の温度条件下において0.1Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電する操作と、0.1Cの放電レートで3.0Vまで定電流定電圧放電させる操作を3回繰り返してコンディショニング処理を行ない、試験用リチウム二次電池を得た。
【0060】
<低温反応抵抗の測定>
上記のようにして作製したリチウム二次電池について、低温反応抵抗の測定を実施した。低温反応抵抗の測定は次のようにして実施した。まず、コンディショニング処理後のリチウム二次電池をSOC(State of Charge)60%の充電状態に調整した。その後、−30℃の温度条件下において周波数10mHz〜1MHzにて交流インピーダンス法により反応抵抗を測定した。低温反応抵抗の測定は、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0〜0.1mol/kgのリチウム二次電池について実施した。
【0061】
<容量維持率の測定>
また、上記のようにして作製したリチウム二次電池に対して保存耐久試験を実施し、容量維持率を測定した。保存耐久試験は、コンディショニング処理後のリチウム二次電池をSOC80%の充電状態に調整し、その後、60℃の環境下で1ヶ月間放置することで実施した。また、容量維持率の測定は次のようにして実施した。
【0062】
保存耐久試験前の放電容量を放電容量A、保存耐久試験後の放電容量を放電容量Bとして、下記の式を用いて容量維持率を求めた。
容量維持率(%)=(放電容量B/放電容量A)×100
なお、放電容量Aおよび放電容量Bは、次のようにして算出した。まず、20℃の温度環境下で、各リチウム二次電池について電流密度0.2mA/cmの定電流で、電池電圧が上限電圧値4.2Vから下限電圧値3.0Vに至るまで放電を行なった。このときの放電電気量(mAh)を、各リチウム二次電池内の正極活物質の質量(g)で除して、放電容量Aおよび放電容量Bを算出した。
【0063】
<LiBOB濃度と電池特性との関係>
図1に、上記のようにして作製したリチウム二次電池におけるLiBOB濃度と電池特性(容量維持率および低温反応抵抗)との関係を示す。図1に示すように、低温反応抵抗は、非水電解液におけるLiBOBの濃度と比例関係にあった。つまり、低温反応抵抗は、非水電解液におけるLiBOBの濃度が増加するにつれて、大きくなる傾向があった。これは、LiBOBの濃度が増加すると、高抵抗の4配位の劣化生成物(LiFOB、LiBF)や(COOH)が負極表面により多く析出するためであると推測することができる。
【0064】
また、容量維持率については、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.05mol/kgのときに、容量維持率が最も高くなった。つまり、LiBOBの濃度が0.05mol/kgよりも低くなるにつれて、容量維持率が低下した。また、LiBOBの濃度が0.05mol/kgよりも高くなるにつれて、容量維持率が低下した。
【0065】
リチウム二次電池は、容量維持率がより高く、また低温反応抵抗がより低いほうが電池特性がよいといえる。よって、図1の結果から、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.05mol/kg未満の場合に、電池特性が向上するといえる。
【0066】
<XAFS法による負極表面の評価>
上記のようにして作製したリチウム二次電池の負極表面をXAFS法により測定し、負極表面に形成されたLiBOBに由来する3配位構造皮膜の割合を調べた。XAFS法では、X線を試料に入射させて、試料に照射する前のX線の強度と、試料を透過した後のX線の強度とを測定する。ここで、入射するX線のエネルギーは変化させる必要がある。本明細書に記載しているXAFS法による測定は、佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターのBL−12を用いて実施した。今回の測定では、B−K端(190〜210eV)を測定することから、ミラーとしてM22を使用した。M22のエネルギー範囲は、180〜550eVである。また、スリットの条件は、S1:10μm、S2:10μmとした。
【0067】
また、191〜210eVまでの区間を測定する際、次に示すエネルギー間隔毎に1秒間積算してデータを得た。エネルギー間隔は、191〜192eVでは0.5eV刻み、192〜196eVでは0.1eV刻み、196〜203eVでは0.2eV刻み、203〜205eVでは0.5eV刻み、205〜210eVでは1.0eV刻みとした。つまり、3配位のホウ素の検出には194eV近傍のピークを用い、4配位のホウ素の検出には198eV近傍のピークを用いるため、エネルギーが192eV〜230eVの範囲でエネルギー間隔を比較的細かくした。
【0068】
測定に際し、水分による試料の変質を抑制するために、リチウム二次電池の解体作業は露点が−80℃以下のグローブボックス中で行なった。また、試料を測定装置BL−12に導入する際は、試料が大気に触れないようにするためにグローブボックス中で大気非開放試料搬送装置に試料を設置し、その後、大気非開放試料搬送装置を用いて試料を測定装置BL−12に導入した。
【0069】
得られたX線吸収スペクトルについて、191〜192eVの範囲のデータに基づきベースラインを作成した。その後、4配位構造に由来するピーク(197〜199eV)と3配位構造に由来するピーク(193〜194eV)のピーク値からベースラインを引き、各々のピーク強度を得た。得られた3配位構造のピーク強度αと4配位構造のピーク強度βとを用いて、3配位構造の比率X=α/(α+β)を求めた。
【0070】
まず、コンディショニング処理を実施していないリチウム二次電池の負極表面(つまり、負極を非水電解液に含浸させたのみ)と、コンディショニング処理を実施したリチウム二次電池の負極表面をXAFS法により測定した結果を図2に示す。図2に示すように、コンディショニング処理を実施したリチウム二次電池では、負極表面に3配位構造に起因するピークが現れた。これに対して、コンディショニング処理を実施していないリチウム二次電池では、3配位構造に起因するピークを確認することができなかった。なお、4配位構造に起因するピークについては、コンディショニング処理の有無に関係なく確認することができた。図2に示した結果から、3配位構造皮膜を負極表面に形成するためには、コンディショニング処理が必要であることがわかった。
【0071】
次に、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.01mol/kg、0.025mol/kg、0.05mol/kgのリチウム二次電池の負極表面を、XAFS法により測定した結果を図3に示す。図3に示すように、LiBOBの濃度が増加するにつれて、4配位構造に起因するピークの強度が増加した。
【0072】
更に、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.01mol/kg、0.015mol/kg、0.025mol/kg、0.05mol/kg、0.1mol/kgのリチウム二次電池の負極表面を、XAFS法により測定した結果を図4に示す。図4に示すように、LiBOBの濃度が低下するにつれて、3配位構造皮膜の比率Xが増加した。
【0073】
ここで、図1に示したLiBOB濃度と電池特性との関係では、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.05mol/kg未満の場合に、電池特性が向上するという結果を得ることができた。よって、図1および図4に示す結果から、3配位構造皮膜の比率Xが0.4以上の場合に、リチウム二次電池の電池特性が向上するといえる。なお、3配位構造皮膜の比率Xを0.4とするためには、非水電解液におけるLiBOBの濃度を0.05mol/kg未満、より好ましくは0.4mol/kg以下とする。
【0074】
<保存耐久試験によるリチウム二次電池の評価>
次に、上記のようにして作製したリチウム二次電池に対してより厳しい保存耐久試験を実施し、抵抗増加率と容量維持率とを測定した。保存耐久試験は、コンディショニング処理後のリチウム二次電池をSOC80%の充電状態に調整し、その後、60℃の環境下で6ヶ月間放置することで行なった。容量維持率の測定は上記で説明した方法を用いて行なった。また、抵抗増加率の測定は下記の方法を用いて行なった。
【0075】
保存耐久試験を行なう前に、各リチウム二次電池について初期抵抗値(内部抵抗値)を測定した。内部抵抗値の測定は、各リチウム二次電池をSOC50%の状態に調整し、0.12A、0.4A、1.2A、2.4A、4.8Aの電流を流して10秒後の電池電圧を測定した。各リチウム二次電池に流した電流と電圧とを直線近似し、その傾きから内部抵抗値(IV抵抗値)を求めた。また、保存耐久試験後に、初期抵抗値を測定した場合と同様の方法で、内部抵抗値(IV抵抗値)を求めた。そして、初期抵抗値を抵抗値R0、保存耐久試験後の抵抗値を抵抗値Raとして、次の式を用いて抵抗増加率を算出した。
抵抗増加率(%)={(抵抗値Ra−抵抗値R0)/抵抗値R0}×100
【0076】
図5に、非水電解液におけるLiBOBの濃度を変化させた際の、3配位構造比率、抵抗増加率、および容量維持率の関係を示す。図5に示すように、非水電解液におけるLiBOBの濃度を0.01mol/kgとした場合(実施例1)は、3配位構造比率Xが0.7であった。この場合の抵抗増加率は68%、容量維持率は91%であり、優れた電池特性を示した。また、非水電解液におけるLiBOBの濃度を0.015mol/kgとした場合(実施例2)は、3配位構造比率Xが0.58であった。この場合の抵抗増加率は70%、容量維持率は92%であり、この場合も優れた電池特性を示した。また、非水電解液におけるLiBOBの濃度を0.025mol/kgとした場合(実施例3)は、3配位構造比率Xが0.49であった。この場合の抵抗増加率は70%、容量維持率は90%であり、この場合も優れた電池特性を示した。
【0077】
一方、非水電解液におけるLiBOBの濃度を0.05mol/kgとした場合(実施例4)は、3配位構造比率Xが0.37であった。この場合の抵抗増加率は90%、容量維持率は77%であり、電池特性が劣化していた。また、非水電解液におけるLiBOBの濃度を0.1mol/kgとした場合(実施例5)は、3配位構造比率Xが0.36であった。この場合の抵抗増加率は100%、容量維持率は70%であり、電池特性が更に劣化していた。このように、非水電解液におけるLiBOBの濃度を増加させると電池特性の向上効果が低減することから、LiBOB由来の4配位構造皮膜は電池特性の向上に関与していないと推測できる。
【0078】
なお、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.05mol/kgである実施例4では容量維持率が77%となり、図1に示した結果と異なる。これは、図1に示した場合の保存耐久試験の期間は1ヶ月間であるのに対して、実施例4の保存耐久試験の期間はこれよりも長い6ヶ月間であることに起因する。
【0079】
以上の結果から、負極表面に形成されるLiBOBに由来する3配位構造皮膜の比率を、X≧0.4とすることで、リチウム二次電池の電池特性を向上させることができた。特に、3配位構造皮膜の比率をX≧0.49とすることで、より好ましくはX≧0.58とすることで、より好ましくはX≧0.7とすることで、リチウム二次電池の電池特性を向上させることができた。
【0080】
ここで、3配位構造皮膜の比率をX≧0.49とするためには、非水電解液におけるLiBOB濃度を0.025mol/kg以下とする。また、3配位構造皮膜の比率をX≧0.58とするためには、非水電解液におけるLiBOB濃度を0.015mol/kg以下とする。また、3配位構造皮膜の比率をX≧0.7とするためには、非水電解液におけるLiBOB濃度を0.01mol/kg以下とする。
【0081】
<コンディショニング処理の条件と電池特性1>
次に、コンディショニング処理の条件と電池特性との関係を調べるために、次のような実験を行なった。実験には、上記のようにして作製したリチウム二次電池(非水電解液のLiBOB濃度を0.015mol/kgとした)を用いた。コンディショニング処理の条件は、所定の充電レート(0.1C、1.0C、5.0C)で4.1Vまで定電流定電圧で充電する操作と、所定の放電レート(0.1C、1.0C、5.0C)で3.0Vまで定電流定電圧放電させる操作を3回繰り返した。
【0082】
図6に、コンディショニング処理の条件(充放電レート)を変化させた際の、3配位構造比率、抵抗増加率、および容量維持率の関係を示す。図6に示すように、充放電レートが0.1Cの場合(実施例6)は、3配位構造比率Xが0.79であった。この場合の抵抗増加率は68%、容量維持率は92%であり、優れた電池特性が得られた。特に、3配位構造比率Xが0.79以上の場合は、負極板の面内および断面方向におけるLiBOB由来皮膜の均一性が向上するため電池特性が向上すると推測される。また、充放電レートが1.0Cの場合(実施例7)は、3配位構造比率Xが0.63であった。この場合の抵抗増加率は70%、容量維持率は90%であり、優れた電池特性が得られた。
【0083】
一方、充放電レートが5.0Cの場合(実施例8)は、3配位構造比率Xが0.33であった。この場合の抵抗増加率は110%、容量維持率は67%であり、十分な電池特性は得られなかった。なお、リチウム二次電池の最低限の電池特性として、例えば抵抗増加率が70%よりも小さく、且つ容量維持率が72%よりも大きいという条件を満たす必要がある。
【0084】
図6に示した結果より、コンディショニング処理を実施する際の充放電レートが小さい程、3配位構造比率Xが増加した。これは、コンディショニング処理を実施する際の充放電レートが小さい程、負極表面でのLiBOBの分解反応が促進されるためであると考えられる。
【0085】
<コンディショニング処理の条件と電池特性2>
更に、コンディショニング処理の条件と電池特性との関係を調べるために、次のような実験を行なった。実験には、上記のようにして作製したリチウム二次電池(非水電解液のLiBOB濃度を0.015mol/kgとした)を用いた。コンディショニング処理の条件は、充電レート1.0Cで4.1Vまで定電流定電圧で充電する操作と、放電レート1.0Cで3.0Vまで定電流定電圧放電させる操作を所定の回数(1回、3回、10回)繰り返した。
【0086】
図7に、コンディショニング処理の条件(サイクル数)を変化させた際の、3配位構造比率、抵抗増加率、および容量維持率の関係を示す。図7に示すように、サイクル数が1回の場合(実施例9)は、3配位構造比率Xが0.30であった。この場合の抵抗増加率は106%、容量維持率は65%であり、十分な電池特性は得られなかった。サイクル数が3回の場合(実施例10)は、3配位構造比率Xが0.61であった。この場合の抵抗増加率は69%、容量維持率は91%であり、優れた電池特性が得られた。また、サイクル数が10回の場合(実施例11)は、3配位構造比率Xが0.35であった。この場合の抵抗増加率は102%、容量維持率は71%であり、十分な電池特性は得られなかった。
【0087】
図7に示した結果より、コンディショニング処理を実施する際のサイクル数が少ない場合(1回)や多い場合(10回)には、3配位構造比率Xが低くなり、優れた電池特性が得られなかった。コンディショニング処理を実施する際のサイクル数が適度である場合(3回)には、3配位構造比率Xが大きくなり、優れた電池特性が得られた。
【0088】
以上の結果から、充放電レートを小さくした方が3配位構造皮膜の比率Xを増加させることができることがわかった。具体的には、コンディショニング処理の際の充放電レートを1.0C以下とすることで、3配位構造皮膜の比率Xを増加させることができる。ここで、充放電レートを小さくし過ぎるとコンディショニング処理に時間がかかる。よって、最も効率的にコンディショニング処理を実施するには、充放電レートを0.1C以上1.0C以下とする。また、最も効率的にコンディショニング処理を実施するには、コンディショニング処理のサイクル数を3回とする。
【0089】
以上、本発明を上記実施形態および実施例に即して説明したが、上記実施形態および実施例の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と非水電解液とを備える非水電解液二次電池であって、
前記負極はリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜を備え、XAFS法により測定した前記皮膜の3配位構造に起因するピークの強度をαとし、前記XAFS法により測定した前記皮膜の4配位構造に起因するピークの強度をβとした場合、前記皮膜がα/(α+β)≧0.4の条件を満たす、
非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記皮膜は、α/(α+β)≧0.49の条件を満たす、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記皮膜は、α/(α+β)≧0.7の条件を満たす、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記皮膜は、α/(α+β)≧0.79の条件を満たす、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記XAFS法による測定において、前記皮膜の3配位構造はX線のエネルギーが194eV近傍のピークを用いて検出され、前記皮膜の4配位構造はX線のエネルギーが198eV近傍のピークを用いて検出される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
正極と負極と非水電解液とを備える非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.05mol/kg未満となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加し、
前記非水電解液二次電池を充電および放電する処理を所定の回数行なうコンディショニング処理を実施する、
非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.04mol/kg未満となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加する、請求項6に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.025mol/kg以下となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加する、請求項6に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.01mol/kg以下となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加する、請求項6に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記コンディショニング処理における充電レートおよび放電レートを1.0C以下とする、請求項6乃至9のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項11】
前記コンディショニング処理における充電レートおよび放電レートを0.1C以上1.0C以下とする、請求項6乃至9のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項12】
前記コンディショニング処理における充電処理および放電処理の回数をそれぞれ3回とする、請求項6乃至11のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記コンディショニング処理を実施して前記負極にリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜を形成する際、XAFS法により測定した前記皮膜の3配位構造に起因するピークの強度をαとし、前記XAFS法により測定した前記皮膜の4配位構造に起因するピークの強度をβとした場合、前記皮膜がα/(α+β)≧0.4の条件を満たすように前記皮膜を形成する、請求項6乃至12のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項14】
正極と負極と非水電解液とを備える非水電解液二次電池の評価方法であって、
XAFS法を用いて、前記負極に形成されたリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜の3配位構造に起因するピークの強度αを測定し、
前記XAFS法を用いて、前記皮膜の4配位構造に起因するピークの強度βを測定し、
前記皮膜がα/(α+β)≧0.4を満たすか否かに基づき非水電解液二次電池を評価する、
非水電解液二次電池の評価方法。
【請求項15】
前記皮膜がα/(α+β)≧0.49を満たすか否かに基づき非水電解液二次電池を評価する、請求項14に記載の非水電解液二次電池の評価方法。
【請求項16】
前記皮膜がα/(α+β)≧0.7を満たすか否かに基づき非水電解液二次電池を評価する、請求項14に記載の非水電解液二次電池の評価方法。
【請求項17】
前記皮膜がα/(α+β)≧0.79を満たすか否かに基づき非水電解液二次電池を評価する、請求項14に記載の非水電解液二次電池の評価方法。
【請求項18】
前記XAFS法による測定において、前記皮膜の3配位構造はX線のエネルギーが194eV近傍のピークを用いて検出され、前記皮膜の4配位構造はX線のエネルギーが198eV近傍のピークを用いて検出される、請求項14乃至17のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−97973(P2013−97973A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238845(P2011−238845)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】