説明

非水電解液二次電池

【課題】シャットダウン効果と、ハイレートでの入出力特性とを両立した非水電解液二次電池の提供
【解決手段】
この非水電解液二次電池は、正極活物質を含む正極活物質層を備える正極と、負極活物質を含む負極活物質層を備える負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解液とを備えている。ここで、負極活物質層は、105℃〜135℃の温度範囲に融点を有する樹脂を0.15質量%〜2.0質量%含んでいる。また、セパレータは105℃〜135℃の範囲に融点を有する樹脂からなる層を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液二次電池に関する。なお、本明細書において「二次電池」とは、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等の繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいう。また、本明細書において「リチウムイオン電池」は、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電子の移動により充放電が実現される二次電池をいう。さらに、本明細書において「活物質」は、二次電池において電荷担体となる化学種(例えば、リチウムイオン電池ではリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および離脱)可能な物質をいう。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に代表される非水電解液二次電池は、車両搭載用電源あるいはパソコンや携帯端末等の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。
この非水電解液二次電池において、正極と負極との間に介在されるセパレータは、電池およびこの電池が搭載された機器の安全性を確保する目的から、正極および負極の接触による短絡を防止する役割(短絡防止機能)を備えている。また、この短絡防止機能に加えて、電池内が一定の温度域(典型的には該セパレータの融点または軟化点)に達した際に、イオン伝導パスを遮断することで抵抗を増大させる。そしてこの抵抗増大により充放電を停止し、電池の熱暴走を防ぐ機能(シャットダウン機能)も備えている。一般的なセパレータは、構成材料であるポリオレフィン等の樹脂の融点がシャットダウン温度となっており、この温度に到達すると、セパレータの微細な空孔が溶融または軟化によって閉塞し、抵抗が増大されるものである。
【0003】
このような非水電解液二次電池について、例えば、特許文献1には、負極中に熱吸収材として融点が90〜130℃で、融解熱が30J/g以上の高分子化合物を含むようにした構成が提案されている。かかる構成により、たとえ電池が短絡してジュール熱が発生しても、熱吸収材の融解熱として吸熱され、電池温度が上昇するのを抑制できることが開示されている。
また、特許文献2には、正極と、負極と、セパレータのいずれかに融点が65℃以上100℃未満、および融解熱が吸熱である吸熱剤を添加した構成のリチウムイオン電池が提案されている。かかる構成によると、電池内の異常発熱が大きい場合にも、セパレータ全体でシャットダウンが確実に実行されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−064548号公報
【特許文献2】特開2009−238705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウムイオン電池は、高出入力密度、高エネルギー密度の実現が可能であることから、とりわけEV用、PHEV用の車載用電源等としての大型電池の充実が強く望まれている。しかしながら、このような大型電池は、その高エネルギー密度構造が故に電池の放熱性が他に比べて劣ってしまう。そのため、過充電等によって電池内部の温度が急激に上昇した場合でも、熱暴走に至ることなく、確実に安全性を確保することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示される非水電解液二次電池は、正極活物質を含む正極活物質層を備える正極と、負極活物質を含む負極活物質層を備える負極と、上記正極と上記負極との間に介在するセパレータと、非水電解液とを備えている。
ここで、負極活物質層は、105℃〜135℃の温度範囲に融点を有する樹脂Aを0.15質量%〜2.0質量%の割合で含んでいる。セパレータは105℃〜135℃の範囲に融点を有する樹脂Bを含んでいる。
かかる構成によれば、非水電解液二次電池の反応抵抗を低く抑えつつ、何らかの異常によって非水電解液二次電池が異常に発熱した場合に、電池の熱暴走を防ぐ効果(シャットダウン効果)を得ることができる。
【0007】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、上記樹脂A,Bはポリエチレンであり得る。ポリエチレンは、分子量や分子構造、密度などを調整することにより、融点を例えば105℃〜135℃の温度範囲内で所望の値に容易に調整することができ、また、入手や加工も容易である。そしてコストも比較的安い。したがって、ここに開示される樹脂A,Bとして望ましい材料であるといえる。
【0008】
また、セパレータは多層構造である場合には、樹脂Bは、多層構造における内部層を形成していてもよい。この場合、セパレータは、シャットダウンにより上記樹脂Bからなる内部層が溶融しても、外部層は融けずにセパレータの形態を保ち得る。このため、シャットダウン時においても、正極と負極との間で短絡が生じることが回避される。
【0009】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、上記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物を主成分として含んでいるとよい。ここに開示される非水電解液二次電池は、正極活物質としてこのようなリチウム遷移金属酸化物を主成分として含むことで、高エネルギー密度等の特性を備えつつ、上記のとおりの良好なシャットダウン特性をも兼ね備える。したがって、安全性の高い大型二次電池が実現されることになる。
【0010】
また、ここで開示される非水電解液二次電池は、上記のとおり、本来の電池性能を大きく損ねることなく優れたシャットダウン特性を有し、安全性能および信頼性が高められている。そのため、特に、ハイレートでの入出力特性が求められる動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として好適であり、この非水電解液二次電池を備える車両(例えば自動車)の提供が可能とされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池の全体構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、図1中のII−II断面を示す断面図である。
【図3】図3は、捲回電極体の模式図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池を搭載した車両を示す模式図である。
【図5】図5は、Cole−Coleプロット(ナイキスト・プロット)の典型的な図である。
【図6】図6は、サンプル1〜サンプル4について直流抵抗を評価したグラフである。
【図7】図7は、負極活物質層とセパレータとに含まれるPE(樹脂A,B)の合計重量(mg/cm)と、負極活物質層およびセパレータを高温雰囲気にさらして試験用セルを構築した場合の直流抵抗(mΩ)との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の割合(質量%)と、負極活物質層およびセパレータを高温雰囲気にさらさずに試験用セルを構築した場合の−30℃における反応抵抗(mΩ)との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例および比較例の試験用セルの抵抗値とポリエチレンの融点との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、ここで開示される非水電解液二次電池の典型的な一実施形態として、リチウムイオン電池の一構造を例に本発明を説明する。その後、かかる構造例を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池を説明する。なお、同じ作用を奏する部材、部位には適宜に同じ符号を付している。また、各図面は模式的に描かれたものであり、必ずしも実物を反映するものではない。各図面は、一例を示すのみであり、特に言及しない限り本発明を限定するものではない。
【0013】
≪リチウムイオン電池の構造≫
図1は、リチウムイオン電池100の外観を示す斜視図である。図2は、図1におけるリチウムイオン電池100のII−II断面図である。このリチウムイオン電池100は、図2に示すように、捲回電極体200と電池ケース300とを備えている。図3は、捲回電極体200の構成を説明するための模式図である。
捲回電極体200は、図3に示すように、正極シート220、負極シート240および2枚のセパレータ262、264を有している。正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264は、それぞれ帯状のシート材である。
【0014】
ここに開示されるリチウムイオン電池100において、正極(正極シート220)は、帯状の正極集電体221の表面に図示しない正極活物質を含む正極活物質層223を備えている。また、負極(負極シート240)は、帯状の負極集電体241の表面に図示しない負極活物質を含む負極活物質層243を備えている。そして上記正極と上記負極との間には、セパレータ262、264が介在する。ここで、上記負極活物質層243は、105℃〜135℃の温度範囲に融点を有する樹脂Aを0.15質量%〜2.0質量%含んでいる。また、セパレータ262、264は105℃〜135℃の範囲に融点を有する樹脂Bを有している。以下、かかるリチウムイオン電池100をより詳しく説明する。
【0015】
≪正極(正極シート)≫
正極シート220の正極集電体221としては、正極に適する金属箔が好適に使用され得る。例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。この例において、具体的には、正極集電体221には、厚さが凡そ15μmの帯状のアルミニウム箔が用いられている。この正極集電体221には、幅方向の片側縁端部に沿って未塗工部222が設定されている。図示した例では、正極活物質層223は、図3に示すように、正極集電体221に設定された未塗工部222を除いて、正極集電体221の両面に保持されている。
【0016】
≪正極活物質層≫
正極活物質層223は、正極活物質を含む正極活物質層形成用ペーストを正極集電体221に塗工することによって形成することができる。即ち、例えば正極活物質と導電材とバインダとを適切な溶媒に分散させてなる正極活物質層形成用ペーストを調製する。調製した該ペーストを正極集電体221に塗布し、乾燥させた後、圧縮(プレス)することによって正極活物質層223を形成し得る。特に限定するものではないが、正極活物質100質量部に対する導電材の使用量は、例えば1〜20質量部(好ましくは5〜15質量部)とすることができる。また、正極活物質100質量部に対するバインダの使用量は、例えば0.5〜10質量部とすることができる。なお、正極活物質層223の形成方法は、公知の方法を適用でき、ここでは、本発明を特徴付けるものではないため、より詳細な説明は省略する。
【0017】
≪正極活物質≫
正極活物質としては、非水電解液二次電池(代表的には、リチウムイオン電池)の正極活物質として使用可能な各種の物質を特に限定なく用いることができる。正極活物質の例を挙げると、例えば、LiNiCoMnO(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物;いわゆる三元系)、LiNiO(ニッケル酸リチウム)、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiMn(マンガン酸リチウム)、LiFePO(リン酸鉄リチウム)、LiMnO及びその固溶体等の各種のリチウム遷移金属酸化物を主成分とするものが挙げられる。ここで、LiMnは、例えば、スピネル構造を有している。また、LiNiO或いはLiCoOは層状の岩塩構造を有している。また、例えば、LiFePOはオリビン構造を有している。これらの材料の粒径や、カーボン膜で被覆する等といった付加的な態様は、所望の特性に応じて適宜に選択することができる。
【0018】
そして、ここに開示された発明は、とりわけ大容量のリチウムイオン電池として実現されることでその効果がいかんなく発揮されることから、正極活物質としては、例えば、大容量のリチウムイオン電池の正極活物質として利用が検討されている、一般式:LiNi1/3Co1/3Mn1/3で表されるリチウム遷移金属酸化物を主成分として含むことができる。なお、ここに開示される発明において、「主成分として含む」とは、50質量%以上で含まれることを意味し、典型的には70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり得る。
【0019】
≪導電材≫
導電材としては、例えば、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末などのカーボン粉末を用いることができる。これらは、一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
【0020】
≪バインダ≫
また、バインダは、正極活物質層223に含まれる正極活物質と導電材の各粒子を結着させたり、これらの粒子と正極集電体221とを結着させたりする働きを有する。かかるバインダとしては、使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマーを用いることができる。例えば、水性溶媒を用いた正極活物質層形成用ペーストにおいては、セルロース系ポリマー(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)など)、フッ素系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)など)、ゴム類(酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)など)などの水溶性または水分散性ポリマーを好ましく採用することができる。また、非水溶媒を用いた正極活物質層形成用ペーストにおいては、ポリマー(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリルニトリル(PAN)など)を好ましく採用することができる。
【0021】
≪溶媒、増粘剤≫
溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒のいずれも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。上記バインダとして例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、正極活物質層形成用ペーストの増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0022】
正極活物質層全体に占める正極活物質の質量割合は、凡そ50質量%以上(典型的には50〜95質量%)であることが好ましく、通常は凡そ70〜95質量%(例えば75〜90質量%)であることがより好ましい。また、正極活物質層全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20質量%とすることができ、通常は凡そ2〜15質量%とすることが好ましい。バインダを使用する組成では、正極活物質層形成用ペースト全体に占めるバインダの割合を例えば凡そ1〜10質量%とすることができ、通常は凡そ2〜5質量%とすることが好ましい。
【0023】
≪負極≫
負極シート240は、図3に示すように、帯状の負極集電体241の表面に負極活物質(図示せず)を含む負極活物質層243を備えている。負極集電体241には、負極に適する金属箔が好適に使用され得る。例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。この例において、具体的には、負極集電体241には、所定の幅を有し、厚さが凡そ10μmの帯状の銅箔を用いている。このような負極集電体241には、幅方向の片側縁端部に沿って未塗工部242が設定されている。負極活物質層243は、負極集電体241に設定された未塗工部242を除いて、負極集電体241の両面に形成されている。
【0024】
≪負極活物質層243≫
ここに開示される負極活物質層243は、負極活物質を含むとともに、105℃〜135℃の温度範囲に融点を有する樹脂Aを含んでいる。この実施形態では、負極活物質層243には、負極活物質としての負極活物質粒子、上記樹脂A、増粘剤、バインダなどが含まれている。
【0025】
≪負極活物質≫
負極活物質としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる材料の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。より具体的には、負極活物質は、例えば、天然黒鉛、非晶質の炭素材料でコートした天然黒鉛、黒鉛質(グラファイト)、難黒鉛化炭素質(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質(ソフトカーボン)、または、これらを組み合わせた炭素材料でもよい。また、例えば、Si、Ge、Sn、Pb、Al、Ga、In、As、Sb、Bi等を構成金属元素とする金属化合物(好ましくは金属酸化物)などとしても良い。また、負極活物質粒子として、LTO(チタン酸リチウム)を用いることも提案されている。また、金属化合物からなる負極活物質については、例えば、炭素被膜によって、金属化合物の表面を充分に被覆し、導電性に優れた粒状体として用いてもよい。この場合、負極活物質層に導電材を含有させなくてもよいし、従来よりも導電材の含有率を低減させてもよい。これらの負極活物質の付加的な態様や、粒径等の形態は、所望の特性に応じて適宜に選択することができる。
【0026】
≪バインダ≫
負極活物質層243のバインダには、上記正極活物質層223のバインダとして例示したポリマー材料等を用いることができる。負極活物質層243は、例えば、上述した負極活物質粒子とバインダを溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた負極活物質層形成用ペーストを作製し、負極集電体241に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。かかる負極活物質層243は、負極活物質粒子同士および負極活物質粒子と負極集電体とが、バインダによって結合している。そして、このように形成された負極活物質層243には、負極活物質粒子の間に電解液が染み込み得る空隙が形成されている。
【0027】
≪溶媒、増粘剤、導電材≫
溶媒としては、上記正極活物質層223で用いる水性溶媒および非水溶媒のいずれも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。また、上記正極活物質層223のバインダとして例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、負極活物質層形成用ペーストの増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
また、特に限定するものではないが、負極活物質層243には、導電材が含まれていてもよい。この場合、使用する負極活物質100質量部に対する導電材の使用量は、例えば、およそ1〜30質量部(好ましくは、およそ2〜20質量部、例えば5〜10質量部程度)とすることができる。また、負極活物質100質量部に対するバインダの使用量は、例えば0.5〜10質量部とすることができる。
【0028】
<負極活物質層に含まれる樹脂A>
上述したように負極活物質層243には、融点が105℃〜135℃の樹脂Aが含まれている。樹脂Aとしては、その融点が105℃〜135℃のものであればその組成等は特に制限されることなく用いることができる。当該樹脂Aは、負極活物質層243の温度が高くなった場合に、溶融し、負極活物質層243の空隙を塞ぐ。これにより、負極活物質層243中で、リチウムイオンの移動を制限し、電池の反応を制限する(負極活物質層243におけるシャットダウン)。
なお、当該樹脂Aの融点が105℃よりも低いと、負極活物質層243を形成する際の乾燥工程において、樹脂Aが溶融するなどして、リチウムイオン電池の直流抵抗(IV抵抗)が高くなる場合がある。また、樹脂Aの融点が135℃よりも高いと、負極活物質層243の温度が異常に高くなった際に溶融が遅れるので、負極活物質層243におけるシャットダウンの機能が低下する。
【0029】
かかる樹脂Aとしては、例えば、ポリオレフィン系樹脂のなかから所望の融点および諸特性を有する樹脂を適宜選択して用いることができる。このような樹脂Aとしては、融点の調整が比較的容易で入手しやすいポリエチレン(PE)を用いることが好ましい。例えば、ポリエチレンは、分子量や分子構造により密度が変化し、この密度を調整することによって、融点を所望の温度に制御することができる。また、このような樹脂は、負極活物質層243中に凡そ0.15質量%〜2.0質量%となるよう配合するとよい。
【0030】
負極活物質層243中の該樹脂Aの含有量は、0.15質量%未満であっても高温加熱時の抵抗を高める効果が得られるものの、凡そ0.15質量%以上とすることでその効果は飛躍的に向上する。また、負極活物質層243において樹脂Aの含有量が多すぎると、リチウムイオン電池100の反応抵抗が高くなる。例えば、負極活物質層243中の樹脂Aの含有量が3.0質量%よりも多いと、−30℃程度の低温環境において、リチウムイオン電池100の反応抵抗が顕著に悪くなる。自動車の車載用のリチウムイオン電池100では、このような低温環境での反応抵抗を低く抑えることが望ましい。このため、負極活物質層243中の樹脂Aの含有量は、凡そ2.0質量%以下にするとよい。これにより、リチウムイオン電池100の反応抵抗を低く維持することができる。
【0031】
≪セパレータ262、264≫
セパレータ262、264は、図2または図3に示すように、正極シート220と負極シート240とを絶縁するとともに、電解質の移動を許容する部材である。したがって、代表的には、セパレータは、リチウムイオンが移動できる程度の微細な細孔を有する多孔質体、不織布状体、布状体等とすることができる。また、この要件を満たすものであれば、本質的にはセパレータを構成する材料は特に限定されない。このような材料としては、例えば、ポリオレフィンから所望の特性を有するものを選択して用いることができる。具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂を例示することができる。
【0032】
図2に示す例では、セパレータ262、264は、帯状(シート状)の部材であり、負極活物質層243の幅b1は、正極活物質層223の幅a1よりも少し広い。さらにセパレータ262、264の幅c1、c2は、負極活物質層243の幅b1よりも少し広い(c1、c2>b1>a1)。そして、負極活物質層243が正極活物質層223を覆うように対向しており、セパレータ262、264は、負極活物質層243と正極活物質層223との間に介在しており、負極活物質層243を覆うように重ねられている。
【0033】
セパレータ262、264は、105℃〜135℃の範囲に融点を有する樹脂Bを含んでいる。樹脂Bを除くセパレータを構成する材料の融点は、樹脂Bと比較して高く設定されている。したがって、リチウムイオン電池100は、何らかの要因によって発熱し、セパレータ262、264の温度が樹脂Bの融点に達すると、セパレータ262、264に含まれた樹脂Bが溶融する。溶融した樹脂Bは、セパレータ262、264の微細な細孔を塞ぎ、電荷担体であるリチウムイオンのイオン伝導パスを遮断(シャットダウン)する。したがって、例えば電池の異常加熱を防ぐことができる。
【0034】
なお、セパレータ262、264に含まれる樹脂Bの融点と、上記の負極活物質層243に含まれる樹脂Aの融点とは、概ね同じ温度範囲に設定されている。かかる樹脂Aと樹脂Bの融点は、それぞれ独立して決定することができる。例えば、負極活物質層243に含まれる樹脂Aの融点とセパレータ262、264に含まれる樹脂Bの融点とは同じでも良い。また、負極活物質層243に含まれる樹脂Aの融点を、セパレータ262、264に含まれる樹脂Bの融点よりも高くしてもよい。また、その逆に、負極活物質層243に含まれる樹脂Aの融点を、セパレータ262、264に含まれる樹脂Bの融点よりも低くしてもよい。
【0035】
セパレータ262、264に含まれる樹脂Bには、負極活物質層243に含まれる樹脂Aと同じ樹脂を用いることができる。また、負極活物質層243に含まれる当該樹脂Aと、セパレータ262、264に含まれる樹脂Bは、異なる樹脂を用いても良い。例えば、樹脂A、Bは、融点の調整や、入手および取り扱いが容易な点などから、いずれもポリエチレンであることが好ましい。
【0036】
また、この実施形態では、図示は省略するが、セパレータ262、264は多層構造であり、樹脂Bは、多層構造における内部層を形成している。なお、ここで多層構造とは、2層以上の積層構造を意味し、代表的には3層以上とすることができる。例えば、セパレータ262、264は、3層構造である場合、微小な孔を多数有する多孔質ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン(PP))からなるシート材を外部層とし、融点が105℃〜135℃の樹脂B(例えば、ポリエチレン(PE))からなる層を内部層としているとよい(PP/PE/PP)。また、セパレータ262、264は、2層構造としてもよく、例えば、ポリプロピレンの多孔質のシートを基材とし、ポリエチレンの多孔質のシートを重ねてもよい。
【0037】
この場合、リチウムイオン電池100が発熱した場合には、セパレータ262、264は、低融点樹脂からなる内部層(例えば、ポリエチレン(PE))が溶融する。かかる内部層が溶融しても、外部層(例えば、ポリプロピレン(PP))は溶融せずに残るので、セパレータ262、264は形状を維持し得る。そして、内部層が溶融することによって、セパレータ262、264によるシャットダウンが進行するので、電池反応に伴うリチウムイオン電池100の発熱が抑えられ、更なる温度上昇の危険性を低減できる。
【0038】
一方で、セパレータ262、264は、シート状の部材に代えて、例えば、正極活物質層223または負極活物質層243の表面に形成された絶縁性を有する粒子の層を外部層と、上記低融点樹脂からなる粒子の層(もしくはシート)を内部層とするなどして構成してもよい。ここで、絶縁性を有する粒子としては、絶縁性を有する無機フィラー(例えば、金属酸化物、金属水酸化物などのフィラー)、あるいは、絶縁性を有する樹脂粒子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの粒子)で構成してもよい。この場合、かかる絶縁性を有する粒子の層(セパレータ)に、融点が105℃〜135℃の樹脂Bを含ませてもよい。また、例えば、かかる絶縁性を有する粒子の層(セパレータ)に、融点が105℃〜135℃の樹脂Bの層を重ねてもよい。
【0039】
≪電池ケース300≫
図1に示した例では、電池ケース300は、いわゆる角型の電池ケースであり、容器本体320と、蓋体340とを備えている。容器本体320は、有底四角筒状を呈しており、一側面(上面)が開口した扁平な箱型の容器である。蓋体340は、この容器本体320の開口(上面の開口)に取り付けられて当該開口を塞ぐ部材である。
【0040】
車載用の二次電池では、車両の燃費を向上させるため、重量エネルギー効率(単位重量当りの電池の容量)を向上させることが望まれる。このため、この実施形態では、電池ケース300を構成する容器本体320と蓋体340は、アルミニウム、アルミニウム合金などの軽量金属が採用されている。これにより重量エネルギー効率を向上させることができる。
【0041】
電池ケース300は、捲回電極体200を収容する空間として、扁平な矩形の内部空間を有している。また、図2に示すように、電池ケース300の扁平な内部空間は、捲回電極体200よりも横幅が少し広い。この実施形態では、電池ケース300は、有底四角筒状の容器本体320と、容器本体320の開口を塞ぐ蓋体340とを備えている。また、電池ケース300の蓋体340には、正極端子420および負極端子440が取り付けられている。正極端子420および負極端子440は、電池ケース300(蓋体340)を貫通して電池ケース300の外部に出ている。また、蓋体340には図示しない注液孔と安全弁とが設けられている。
【0042】
捲回電極体200は、図3に示すように、正極活物質層223が形成された正極シート220と、負極活物質層243が形成された負極シート240とを2枚の長尺状のセパレータ262、264と共に重ね合わせて捲回軸WLを中心にして捲回し、得られた電極体200を軸に直交する一の方向に扁平に押し曲げられている。図3に示す例では、正極集電体221の未塗工部222と負極集電体241の未塗工部242は、それぞれセパレータ262、264の両側において、断面略楕円渦巻き状に露出している。この実施形態では、略楕円の短軸方向にある未塗工部222、242を略楕円中心付近に寄せ、それぞれ正極端子420および負極端子440の先端部に溶接して電気的に接合させている。この際、それぞれの材質の違いから、正極端子420と正極集電体221の溶接には、例えば、超音波溶接が用いられる。また、負極端子440と負極集電体241の溶接には、例えば、抵抗溶接が用いられる。
【0043】
捲回電極体200は、扁平に押し曲げられた状態で、蓋体340に固定された電極端子420、440に取り付けられる。かかる捲回電極体200は、図2に示すように、捲回軸WLが横倒しとなる姿勢で容器本体320の扁平な内部空間に収容される。容器本体320は、捲回電極体200が収容された後、蓋体340によって塞がれる。蓋体340と容器本体320の合わせ目は、例えば、レーザ溶接によって溶接されて封止されている。このように、この例では、捲回電極体200は、蓋体340(電池ケース300)に固定された電極端子420、440によって、電池ケース300内に位置決めされている。
【0044】
≪電解液≫
その後、蓋体340に設けられた注液孔(図示せず)から電池ケース300内に電解液が注入される。電解液は、水を溶媒とせず、非水溶媒とこの溶媒に可溶のリチウム塩とを含む、いわゆる非水電解液が好ましく用いられる。かかる非水電解液としては、ポリマーが添加された固体状(ゲル状)のものであってもよい。
非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等の、一般にリチウムイオン電池の電解質に使用し得るものとして知られている非水溶媒から選択される一種または二種以上を用いることができる。
【0045】
リチウム塩としては、LiPF,LiBF,LiN(SOCF,LiN(SO,LiCFSO,LiCSO,LiC(SOCF,LiClO等の、リチウムイオン電池の電解液において支持電解質として機能し得ることが知られている各種のリチウム塩から選択される一種または二種以上を用いることができる。リチウム塩の濃度は特に制限されず、例えば従来のリチウムイオン電池で使用される電解質と同様とすることができる。通常は、支持電解質(リチウム塩)を凡そ0.1mol/L〜5mol/L(例えば凡そ0.8mol/L〜1.5mol/L)程度の濃度で含有する非水電解質を好ましく使用することができる。
この例では、電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(例えば、体積比1:1程度の混合溶媒)にLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた電解液が用いられている。その後、注液孔に金属製の封止キャップを取り付けて(例えば溶接して)電池ケース300を封止する。なお、電解液は、ここで例示された電解液に限定されない。例えば、従来からリチウムイオン電池に用いられている非水電解液は適宜に使用することができる。
【0046】
以上の構成のリチウムイオン電池100においては、過充電等において、例えば、電極(ここでは負極(負極シート240))の温度が異常に上昇を始める場合がある。この場合、負極活物質層243に含まれる樹脂Aの融点に達した際に、該樹脂Aが負極活物質粒子の表面を被覆することによって抵抗を増大させる。また、負極活物質層243中の空隙を塞ぎ、電解液の移動を制限する。これにより、負極活物質層243における電池反応をシャットダウンすることができる。
【0047】
したがって、負極(負極シート240)に起因して電池に不具合が発生するのを未然に防ぐことができる。また、大型電池などの場合には、負極において樹脂Aが溶融する間にも、リチウムイオン電池100内の温度はゆっくりと上昇し得る。この際、このリチウムイオン電池100においては、セパレータ262、264に、105℃から135℃の温度範囲に融点を有する樹脂Bが含まれている。このため、セパレータ262、264の温度が、当該樹脂Bの融点に達した際に、該樹脂Bが溶融し、セパレータ262、264の微細な細孔を塞ぐ。これによって、正極(正極シート220)と負極(負極シート240)との間のイオン電導をシャットダウンすることができる。したがって、セパレータ262、264においてもリチウムイオン電池100に不具合が発生するのを未然に防ぐことができる。
【0048】
また、これら負極(負極シート240)とセパレータ262、264における抵抗の増大は、それぞれが単独でシャットダウンした場合の抵抗の増大幅を合わせたものよりも大きくなる。すなわち、リチウムイオン電池100によれば、負極活物質層243とセパレータ262、264とに、それぞれ105℃〜135℃の温度範囲に融点を有する樹脂A,Bが含まれている。この場合、負極活物質層243、あるいは、セパレータ262、264のいずれか一方に、105℃〜135℃の温度範囲に融点を有する樹脂が含まれている場合に比べて、より高いシャットダウン効果が得られるのはもちろんのこと、負極活物質層243およびセパレータ262、264の両者でシャットダウンを行うことにより、その効果は相乗的に高められる。したがって、より安全性および信頼性が向上されたリチウムイオン電池100が実現される。
【0049】
さらに、この実施形態では、負極活物質層243とセパレータ262、264とに、それぞれ105℃〜135℃の温度範囲に融点を有する樹脂A,Bが含まれている。そして、負極活物質層243およびセパレータ262、264の両者でシャットダウンを行い、その効果は相乗的に高められる。このため、同等の効果を得る場合には、負極活物質層243、あるいは、セパレータ262、264のいずれか一方に、105℃〜135℃の温度範囲に融点を有する樹脂が含まれている場合に比べて、樹脂A,Bの使用量を少なく抑えることができる。これにより、リチウムイオン電池100の直流抵抗を低く抑えつつ、異常発熱時における高いシャットダウン性能を確保することができる。
【0050】
図4は、一実施形態に係るリチウムイオン電池100を搭載した車両を示す断面模式図である。上記のリチウムイオン電池100は単電池としてだけではなく、複数個を接続して組み合わせた組電池1000等とすることで、車両1に搭載される電池として適した性能を有するものであり得る。また、負極活物質として、SiO等の金属酸化物等を採用することもでき、より高容量化を実現することができる。
【0051】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池を評価した評価試験を説明する。
【0052】
<試験用セルの準備>
以下のようにして、試験用セル(ここでは、ラミネート型セル)を構築した。
【0053】
<負極活物質層形成用ペーストの調製>
すなわち、試験用セルの負極を作製するため負極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストとしては、上述した樹脂Aとしてのポリエチレン樹脂が入っていないペースト(A)と、上述した樹脂Aとしてのポリエチレン樹脂が入ったペースト(B)の二通りのペーストを用意した。
すなわち、該ペースト(A)は、負極活物質としてのグラファイトと、バインダとしてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、バインダとしてのスチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)との質量比が98:1:1(負極活物質:CMC:SBR=98:1:1)となるようにイオン交換水と混合することにより調製した。
【0054】
また、ペースト(B)では、当該ペースト(A)に樹脂Aとなる、融点が130℃で平均粒径が20μmのポリエチレン樹脂粒子(PE)を加えた。すなわち、ペースト(B)では、負極活物質としてのグラファイトと、バインダとしてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、バインダとしてのスチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)と、樹脂AとしてのPEとの質量比が98:1:1:1(負極活物質:CMC:SBR:樹脂A=98:1:1:1)となるようにイオン交換水と混合することにより調製した。
【0055】
<負極の作成>
これらのペースト(A)および(B)を、各々負極集電体としての銅箔(厚さ10μm)の両面に塗布し乾燥させた。乾燥後、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばすことにより厚さ100μmに成形し、負極活物質層が約5.0cm×5.0cmの正方形となるように打ち抜き、負極(負極シート)(A)および(B)とした。この際、負極集電体へのペースト(A)および(B)の塗布量は、ペースト(A)および(B)が乾燥した後において、負極集電体の単位面積あたりに、(樹脂Aを除く)負極活物質層が13mg/cmになるように設定されている。このように、ここでは、樹脂Aが含まれていない負極活物質層を備えた負極シート(A)と、樹脂Aを含む負極活物質層を備えた負極シート(B)とを用意した。
【0056】
<正極の作製>
次に、正極における正極活物質層を形成するにあたり正極活物質層形成用ペーストを調製した。該ペーストは、正極活物質としての三元系のリチウム遷移金属酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、これら材料の質量比が91:6:3となるようにイオン交換水と混合することにより調製した。次いで、該正極活物質層形成用ペーストを正極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ15μm)の両面に塗布して乾燥させた。乾燥後、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばすことにより厚さ110μmに成形し、そして、正極活物質層が約4.8cm×4.8cmの正方形となるように打ち抜き、正極集電体の表面に正極活物質層を備えた正極(正極シート)を作製した。この際、正極集電体への正極活物質層形成用ペーストの塗布量は、正極活物質層形成用ペーストが乾燥した後において、正極集電体の単位面積あたりに、正極活物質層が25mg/cmになるように設定されている。
【0057】
<セパレータ>
セパレータとしては、ポリプロピレン(PP)の単層構造のセパレータ(C)と、PP/PE/PPの三層構造のセパレータ(D)の二通りを用意した。すなわち、セパレータ(C)は、融点が170℃のポリプロピレン(PP)からなり、厚さ25μmの多孔質のシートを用いた。セパレータ(D)は、全体の厚さが25μmで、融点が170℃のポリプロピレン(PP)と、融点が130℃のポリエチレン(PE)との3層構造(PP/PE/PP)の多孔質のシートを用いた。なお、セパレータ(D)には、PEが、35質量%含まれている。
【0058】
<試験用セルの組み立て>
上記で作製した負極と、正極と、セパレータとを用いて、試験用のラミネート型セル(リチウムイオン電池)を構築した。すなわち、セパレータを間に介して、正極シートと負極シートとを積層して電極体を作製した。そして、電極体を非水電解液とともにラミネート製の袋状電池容器に収容し、封口して試験用セルを構築した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)の3:4:3(体積比)混合溶媒に、リチウム塩としての1mol/LのLiPF(LPFO)を溶解させたものを用いた。
【0059】
また、試験において、必要に応じて、上記で作製した負極(A)および(B)、ならびにセパレータ(C)および(D)を、高温雰囲気(ここでは、負極活物質層に含まれる樹脂Aと、セパレータに含まれる樹脂Bが溶融し得る雰囲気)に所定時間さらし、上記と同様に、試験用のラミネート型セル(リチウムイオン電池)を構築した。これにより、電池が異常に発熱して高温にさらされた状態を模した試験用セルが得られる。
【0060】
≪サンプル1〜4≫
ここで、サンプル1は、樹脂Aが含まれていない負極活物質層を備えた負極(A)と、ポリプロピレン(PP)の単層構造のセパレータ(C)とが用いられている。
また、サンプル2は、樹脂Aが含まれていない負極活物質層を備えた負極(A)と、PP/PE/PPの三層構造のセパレータ(D)とが用いられている。
また、サンプル3は、樹脂Aを含む負極活物質層を備えた負極(B)と、ポリプロピレン(PP)の単層構造のセパレータ(C)とが用いられている。
また、サンプル4は、樹脂Aを含む負極活物質層を備えた負極(B)と、PP/PE/PPの三層構造のセパレータ(D)とが用いられている。
【0061】
また、サンプル1〜4は、上記で作製した負極(A)および(B)、ならびにセパレータ(C)および(D)を、130℃の雰囲気に1分間さらし、電池が異常に発熱して高温にさらされた状態を模した試験用セルを得ている。
【0062】
ここでは、上記サンプル1〜4の試験用セルについて直流抵抗を測定した。ここで、直流抵抗は、交流インピーダンス測定法に基づいて測定した。図5は、交流インピーダンス測定法における、Cole−Coleプロット(ナイキスト・プロット)の典型例を示す図である。図5に示すように、交流インピーダンス測定法における等価回路フィッティングによって得られるCole−Coleプロットを基に、直流抵抗(Rsol)と、反応抵抗(Rct)を算出することができる。ここで、反応抵抗(Rct)は、下記の式で求めることができる。
Rct=(Rsol+Rct)−Rsol
【0063】
<直流抵抗>
このような測定、および、直流抵抗(Rsol)と反応抵抗(Rct)の算出は、予めプログラムされた市販の装置を用いて実施できる。かかる装置としては、例えば、Solartron社製の電気化学インピーダンス測定装置がある。ここでは、25℃の温度環境で、SOC40%(定格容量の凡そ40%の充電状態)に調整された試験用セルを基に、10−3Hz〜10Hzの周波数範囲で複素インピーダンス測定を行なった。そして、図5で示すように、ナイキスト・プロットの等価回路フィッティングによって得られる直流抵抗(Rsol)を「直流抵抗」とした。
【0064】
<−30℃における反応抵抗>
また、後述するように、「−30℃における反応抵抗」についても評価している。この場合、−30℃の温度環境で、SOC40%(定格容量の凡そ40%の充電状態)に調整された試験用セルを基に、10−3Hz〜10Hzの周波数範囲で複素インピーダンス測定を行なった。そして、図5で示すように、ナイキスト・プロットの等価回路フィッティングによって得られる反応抵抗(Rct)を「−30℃における反応抵抗」とした。
【0065】
図6は、サンプル1〜サンプル4について直流抵抗を評価したグラフである。図6に示すように、サンプル4は、サンプル1〜サンプル3に比べて、直流抵抗が飛躍的に向上している。すなわち、サンプル1〜4は、上記で作製した負極(A)および(B)、ならびにセパレータ(C)および(D)を、130℃の雰囲気に1分間さらし、電池が異常に発熱して高温にさらされた状態を模した試験用セルを得ている。この場合、サンプル4では、負極活物質層に樹脂Aが含まれており、かつ、セパレータに樹脂Bが含まれているので、かかる樹脂A,Bの作用によって、直流抵抗が飛躍的に向上したものと考えられる。
【0066】
詳しくは、サンプル1は負極およびセパレータにPEを全く含まない。このため、サンプル1では、高温下にさらされた場合でも、高温下にさらされていない場合でも、概ね同じ直流抵抗(100mΩ弱)を示す結果が得られた。
【0067】
サンプル2は、PEを内部層に有するセパレータ(D)を備えている。サンプル2では、高温下にさらされることによってセパレータ中のPE(樹脂B)が溶融している。このため、正極と負極との間で、イオン伝導パスが遮断され(制限され)、抵抗が300mΩ弱にまで増大した。
【0068】
サンプル3は、PEを含む負極(B)を備えている。サンプル3では、高温下にさらされることによって、負極活物質層中のPE(樹脂A)が溶融している。このため、抵抗が200mΩ弱まで増大し、サンプル2よりは劣るもののシャットダウン効果が得られた。
【0069】
サンプル4は、PEを含む負極(B)とPEを内部層に有するセパレータ(D)の両方を備えている。サンプル4では、高温下にさらされることで負極活物質層およびセパレータ中のPE(樹脂A,樹脂B)がそれぞれ溶融している。このため、抵抗が600mΩ強と大幅に増大した。さらに、サンプル4の抵抗増加分は、サンプル2とサンプル3の抵抗増加分を合わせた値より遥かに大きい。このため、負極活物質層およびセパレータ中のPE(樹脂A,樹脂B)がそれぞれ溶融していることによって、相乗効果によって、より大きなシャットダウン効果が得られると考えられる。この結果、サンプル4のように、負極活物質層およびセパレータ中のPE(樹脂A,樹脂B)を備えた形態では、リチウムイオン電池が異常に発熱した場合でも、十分に直流抵抗が増大され、速やかに電池反応が抑えられる。
【0070】
≪サンプル5〜サンプル25≫
次に、サンプル5〜25について説明する。サンプル5〜サンプル25は、それぞれ負極活物質層中の樹脂Aの量と、セパレータ中の樹脂Bの量を変えた試験用セルである。表1は、サンプル5〜25について、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の重量(mg/cm)とその割合(質量%)、セパレータに含まれるPE(樹脂B)の重量(mg/cm)、負極活物質層とセパレータとに含まれるPE(樹脂A,B)の合計重量(mg/cm)、負極活物質層およびセパレータを高温雰囲気にさらして試験用セルを構築した場合の直流抵抗(mΩ)、負極活物質層およびセパレータを高温雰囲気にさらさずに試験用セルを構築した場合の−30℃における反応抵抗(mΩ)をそれぞれ示している。
【0071】
【表1】

【0072】
図7は、表1に示されるサンプル5〜25の負極活物質層とセパレータとに含まれるPE(樹脂A,B)の合計重量(mg/cm)と、負極活物質層およびセパレータを高温雰囲気にさらして試験用セルを構築した場合の直流抵抗(mΩ)との関係を示している。また、図7中に「PE0.15質量%」として示した線は、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の割合(質量%)が0.15質量%の3つのサンプル(7,14,21)に係るマーカーを結ぶ線である。図7に示すように、負極活物質層とセパレータとに含まれるPE(樹脂A,B)の合計重量(mg/cm)が同程度である場合においては、負極活物質層中のPE(樹脂A)の割合(質量%)が高くなれば、負極活物質層およびセパレータを高温雰囲気にさらして試験用セルを構築した場合の直流抵抗(mΩ)が高くなる。特に、負極活物質層中のPE(樹脂A)の割合(質量%)が凡そ0.15質量%以上であれば、負極活物質層中のPE(樹脂A)の割合(質量%)が凡そ0.15質量%未満の場合よりも、上記直流抵抗(mΩ)が確実に高くなる。
【0073】
例えば、サンプル5、6は、PE(樹脂A,B)の合計重量(mg/cm)が、それぞれ0.25(mg/cm)、0.261(mg/cm)であり、かつ、PE(樹脂A)の割合(質量%)が0(質量%)、0.10(質量%)である。この場合、上記直流抵抗は、216.5(mΩ)、254.3(mΩ)であった。これに対して、サンプル7、8は、PE(樹脂A,B)の合計重量(mg/cm)が、それぞれ0.266(mg/cm)、0.271(mg/cm)であり、かつ、PE(樹脂A)の割合(質量%)が凡そ0.15(質量%)、0.2(質量%)である。この場合、上記直流抵抗は、474.2(mΩ)、504.2(mΩ)であった。
【0074】
表1および図7に示すように、負極活物質層とセパレータとに含まれるPE(樹脂A,B)の合計重量(mg/cm)が同程度である場合においては、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の割合(質量%)が0.15(質量%)未満である場合に比べて、凡そ0.15(質量%)〜2.0(質量%)である場合に、上記直流抵抗を大幅に向上させることができる。
【0075】
また、図8は、サンプル5〜25について、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の割合(質量%)と、負極活物質層およびセパレータを高温雰囲気にさらさずに試験用セルを構築した場合の−30℃における反応抵抗(mΩ)との関係を示している。図8に示すように、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の割合が凡そ2.0(質量%)程度以下である場合には、試験用セルの−30℃における反応抵抗(mΩ)は、凡そ650(mΩ)程度未満に抑えられている。これに対して、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の割合が凡そ3.0(質量%)程度に大きくなると、試験用セルの−30℃における反応抵抗(mΩ)は、800(mΩ)程度となる。このように、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の割合が大きくなりすぎると、電池の特に低温環境における反応抵抗が大きくなる。このため、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の割合は、ある程度低く抑えられていることが望ましい。例えば、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の割合が凡そ2.0(質量%)程度以下であるとよい。
【0076】
また、図9は、樹脂Aを含む負極活物質層を備えた負極シート(B)と、PP/PE/PPの三層構造のセパレータ(D)とが用いられている。ただし、負極活物質層に含有させるPE(樹脂A)と、セパレータに含有させるPE(樹脂B)について、融点が94℃〜135℃の間の5種類を用意した。さらに、これらをそれぞれ負極活物質層中に含まれるPE(樹脂A)の割合が0.5(質量%)である場合と、2.0(質量%)である場合の2通りを用意し、計10通りの負極(負極シート)を用意した。そして、各負極シートを用いて試験用セルを作成し、それぞれ25℃でのIV抵抗(直流抵抗)を測定した。ここでは、セルの組み立て前の負極およびセパレータの高温雰囲気にさらさないものとした。
【0077】
図9は、これら10通りの試験用セルについて、樹脂A,Bの融点と、25℃における直流抵抗との関係を示すグラフである。図9に示すように、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の割合(質量%)が同程度である場合には、負極活物質層とセパレータに含ませた樹脂A,Bの融点が凡そ100℃未満であると、25℃でのIV抵抗(直流抵抗)が高い。これに対して、負極活物質層とセパレータに含ませた樹脂A,Bの融点が105℃以上であると、25℃でのIV抵抗(直流抵抗)が低く抑えられる。
【0078】
これについて、本発明者は、負極活物質層を形成する際の乾燥工程において、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)が高温の乾燥雰囲気にさられる。この際、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)の融点が100℃程度に低いと、負極活物質層に含まれるPE(樹脂A)が若干溶ける。溶けたPE(樹脂A)は、負極活物質の表面に付着するなどして、評価用セルの25℃でのIV抵抗(直流抵抗)を上昇させる要因になると考えられる。このように、負極活物質層とセパレータに含ませた樹脂A,Bの融点(特に、負極活物質層に含まれる樹脂Aの融点)は、凡そ105℃以上であることが好ましい。
【0079】
以上の評価を勘案すると、例えば、図3に示すように、リチウムイオン電池100(非水電解液二次電池)は、正極活物質を含む正極活物質層223を備える正極シート220(正極)と、負極活物質を含む負極活物質層243を備える負極シート240(負極)と、正極シート220と負極シート240との間に介在するセパレータ262、264と、非水電解液とを備えている。この場合、負極活物質層は、105℃〜135℃の温度範囲に融点を有する樹脂Aを0.15質量%〜2.0質量%の割合で含んでいるとよい。また、セパレータは、105℃〜135℃の範囲に融点を有する樹脂Bを含んでいるとよい。さらに、この場合、負極活物質層に含ませるPE(樹脂A)の量は0.15質量%以上2質量%以下であるとよい。かかる構成によれば、非水電解液二次電池の反応抵抗を低く抑えつつ、何らかの異常によって非水電解液二次電池が異常に発熱した場合に、電池の熱暴走を防ぐ効果(シャットダウン効果)を得ることができる。
【0080】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
上述したように、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池は、電池が異常発熱した場合に非常に高い抵抗を示し、本来の電池性能を大きく損ねることなく優れたシャットダウン効果を奏する。したがって、特に、ハイレートでの入出力特性が求められる非水電解液二次電池(代表的には、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車を含む)の車両駆動電源用の二次電池)として好適に使用することができる。この場合、例えば、図4に示すように、複数個のリチウムイオン電池100を接続して組み合わせた組電池1000の形態で、自動車などの車両1のモータ(電動機)を駆動させる車両駆動用電池として好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0082】
1 車両
100 リチウムイオン電池
200 捲回電極体
220 正極シート
221 正極集電体
222 未塗工部
223 正極活物質層
240 負極シート
241 負極集電体
242 未塗工部
243 負極活物質層
262、264 セパレータ
300 電池ケース
320 容器本体
340 蓋体
420 正極端子
440 負極端子
1000 組電池
WL 捲回軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極活物質層を備える正極と、負極活物質を含む負極活物質層を備える負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記負極活物質層は、105℃〜135℃の温度範囲に融点を有する樹脂Aを0.15質量%〜2.0質量%含み、
前記セパレータは、105℃〜135℃の範囲に融点を有する樹脂Bを含む、非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記樹脂Aおよび前記樹脂Bはポリエチレンである、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記セパレータは多層構造であり、前記樹脂Bは、前記多層構造における内部層を形成している、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物を主成分として含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載される非水電解液二次電池を備えた、車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−73680(P2013−73680A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209456(P2011−209456)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】