説明

非水電解液及びそれを用いた電気化学素子

【課題】本発明は、低温サイクル特性を向上できる非水電解液及びそれを用いた電気化学素子を提供することを目的とする。
【解決手段】非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、非水電解液に対して、下記一般式(I)で表されるビニルエステル誘導体を0.1〜5質量%含有し、更に構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を0.1〜5質量%含有することを特徴とする非水電解液及び電気化学素子。


(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温サイクル特性を向上できる非水電解液及びそれを用いた電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学素子、特にリチウム二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等電子機器の電源、電気自動車や電力貯蔵用等の電源として広く使用されている。これらの電子機器や自動車は、真夏の高温下や極寒の低温下等の広い温度範囲で使用される可能性があるため、広い温度範囲でバランス良くサイクル特性を向上させることが求められている。
リチウム二次電池は、主にリチウムを吸蔵及び放出可能な材料を含む正極及び負極、リチウム塩と非水溶媒からなる非水電解液から構成され、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が使用されている。
また、負極としては、金属リチウム、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物(金属単体、酸化物、リチウムとの合金等)や炭素材料が知られており、特にリチウムを吸蔵及び放出することが可能なコークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素材料を用いたリチウム二次電池が広く実用化されている。
【0003】
例えば、天然黒鉛や人造黒鉛等の高結晶化した炭素材料を負極材料として用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の溶媒が充電時に負極表面で還元分解することにより発生した分解物やガスが電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、サイクル特性の低下を生じることが知られている。また、非水溶媒の分解物が蓄積すると、負極へのリチウムの吸蔵及び放出がスムーズに出来なくなり、特に低温でのサイクル特性が低下しやすくなる。
更に、リチウム金属やその合金、スズ又はケイ素等の金属単体や酸化物を負極材料として用いたリチウム二次電池は、初期の容量は高いもののサイクル中に微粉化が進むため、炭素材料の負極に比べて非水溶媒の還元分解が加速的に起こり、電池容量やサイクル特性のような電池性能が大きく低下することが知られている。また、これらの負極材料の微粉化や非水溶媒の分解物が蓄積すると、負極へのリチウムの吸蔵及び放出がスムーズにできなくなり、特に低温でのサイクル特性が低下しやすくなる。
一方、正極として、例えばLiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePOを用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の非水溶媒が充電状態になった場合に、正極材料と非水電解液との界面において、局部的に一部酸化分解することにより発生した分解物やガスが電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、やはりサイクル特性のような電池性能の低下を生じることが知られている。
【0004】
以上のように、正極上や負極上で非水電解液が分解するときの分解物やガスにより、リチウムイオンの移動を阻害したり、電池が膨れたりすることで電池性能を低下させていた。そのような状況にも関わらず、リチウム二次電池が搭載されている電子機器の多機能化はますます進み、電力消費量が増大する流れにある。そのため、リチウム二次電池の高容量化はますます進んでおり、電極の密度を高めたり、電池内の無駄な空間容積を減らす等、電池内の非水電解液の占める体積が小さくなっている。従って、少しの非水電解液の分解で、低温での電池の性能が低下しやすい状況にある。
特許文献1には、酢酸ビニルを非水電解液中に添加したリチウムイオン二次電池において、20℃のサイクル特性を向上できることが開示されている。また、特許文献2には、エチレンサルファイトを電解液中に添加したリチウムイオン二次電池において、初回充放電効率及びサイクル特性を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−273724号公報
【特許文献2】特開2002−270230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低温サイクル特性を向上できる非水電解液及びそれを用いた電気化学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の非水電解液の性能について詳細に検討した。その結果、前記特許文献の非水電解液では、低温サイクル特性に対して顕著な効果は得られなかった。
そこで、本発明者らは、ビニルエステル誘導体及び構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を組み合わせて非水電解液に添加することにより、低温サイクル特性を向上しうることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(2)を提供するものである。
(1)非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、非水電解液に対して、下記一般式(I)で表されるビニルエステル誘導体を0.1〜5質量%含有し、更に構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を0.1〜5質量%含有することを特徴とする非水電解液。
【0009】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を示す。)
【0010】
(2)正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた電気化学素子であって、非水電解液に対して、前記一般式(I)で表されるビニルエステル誘導体を0.1〜5質量%含有し、更に構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を0.1〜5質量%含有することを特徴とする電気化学素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温サイクル特性を向上できる非水電解液及びそれを用いた電気化学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、非水電解液及びそれを用いた電気化学素子に関する。
【0013】
〔非水電解液〕
本発明の非水電解液は、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、非水電解液に対して、前記一般式(I)で表されるビニルエステル誘導体を0.1〜5質量%含有し、更に構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を0.1〜5質量%含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の、ビニルエステル誘導体と構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物の組み合わせにおいて、それぞれを0.1〜5質量%の濃度で含有させた非水電解液が、低温サイクル特性を大幅に改善できる理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
ビニルエステル誘導体または構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を単独で添加した非水電解液では、負極上で前記の添加剤が還元されて添加剤由来の保護被膜が形成される。この被膜は、負極の抵抗を増加させる要因となり、低温サイクルを繰り返すと負極表面にLiが析出してしまう。その結果、セパレータと負極との距離が広がり、サイクル特性が低下する問題点があった。
しかしながら、ビニルエステル誘導体と構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を組み合わせて用いることによって形成される混合被膜が、負極とセパレータとの密着性を向上させることでLiの挿入及び脱離がスムースになり、Liの析出が抑制され低温サイクル特性が改善する特異的な効果をもたらしていることが判明し、本発明に至った。更に、構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物の中でも、環状骨格あるいは炭素−炭素三重結合を構造中に含むと上記の効果がより一層高まることがわかった。
【0015】
本発明の非水電解液に含まれるビニルエステル誘導体は、下記一般式(I)で表されるものが好ましい。
【0016】
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を示す。)
【0017】
前記一般式(I)において、置換基Rとしては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましい。
これらの中でも、低温サイクル特性向上の観点から、Rとしては、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0018】
前記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニルが好ましい。上記化合物の中でも、低温サイクル特性向上の観点から、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルがより好ましく、酢酸ビニルが特に好ましい。
【0019】
本発明の非水電解液に含まれる構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物は、下記一般式(II)〜(IV)で表されるものが好ましい。
【0020】
【化3】

(式中、R2及びR3は炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を示す。R2及びR3は互いに結合して環を形成しても良い。)
【0021】
【化4】

(式中、Rは炭素数3〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基を示す。)
【0022】
【化5】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜3の直鎖又は分枝のアルキレン基を示す。)
【0023】
前記一般式(II)において、置換基R2及びR3としては、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましい。
【0024】
前記一般式(II)で表される化合物の具体例としては、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、1−エチルエチレンサルファイト、1,2−ジメチルエチレンサルファイト、1,2−シクロヘキサンジオールサイクリックサルファイトが好ましい。上記化合物の中でも、低温サイクル特性向上の観点から、エチレンサルファイト、1,2−シクロヘキサンジオールサイクリックサルファイトがより好ましく、エチレンサルファイトが特に好ましい。
【0025】
前記一般式(III)において、置換基Rとしては、炭素数3〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基が好ましく、炭素数3〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基としては、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基、2−メチルプロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、ブタン−2,4−ジイル基が好ましい。
これらの中でも、低温サイクル特性向上の観点から、プロピレン基、ブチレン基がより好ましく、プロピレン基が特に好ましい。
【0026】
前記一般式(III)で表される化合物の具体例としては、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,5−ペンタンスルトン、1−メチル−1,3−プロパンスルトン、2−メチル−1,3−プロパンスルトン、3−メチル−1,3−プロパンスルトン、1,2−ジメチル−1,3−プロパンスルトン、2,3−ジメチル−1,3−プロパンスルトン、1,3−ジメチル−1,3−プロパンスルトンが好ましい。上記化合物の中でも、低温サイクル特性向上の観点から、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンがより好ましく、1,3−プロパンスルトンが特に好ましい
【0027】
前記一般式(IV)において、置換基Rとしては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましい。
これらの中でも、低温サイクル特性向上の観点から、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0028】
前記一般式(IV)において、置換基Rとしては、炭素数1〜3の直鎖又は分枝のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜3の直鎖又は分枝のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、−C(CH−、−CH(CH)−、−C(CHCH−、−CH(CH)CH−が好ましい。
これらの中でも、低温サイクル特性向上の観点から、メチレン基、エチレン基がより好ましく、メチレン基が特に好ましい。
なお、本明細書において、アルキレン基とは、メチレン基も含む概念として用いる。
【0029】
前記一般式(IV)で表される化合物の具体例としては、メタンスルホン酸2−プロピニル、エタンスルホン酸2−プロピニル、プロパンスルホン酸2−プロピニル、メタンスルホン酸2−ブチニル、メタンスルホン酸2−ペンチニル、メタンスルホン酸1,1−ジメチル−2−プロピニル、メタンスルホン酸1−メチル−2−プロピニルが好ましい。上記化合物の中でも、低温サイクル特性向上の観点から、メタンスルホン酸2−プロピニル、メタンスルホン酸1,1−ジメチル−2−プロピニルがより好ましく、メタンスルホン酸2−プロピニルが特に好ましい。
【0030】
本発明の非水電解液において、非水電解液に含有される前記一般式(I)で表されるビニルエステル誘導体の含有量は、非水電解液に対して0.1〜5質量%である。該含有量が5質量%を超えると、電極上に過度に被膜が形成されるため低温サイクル特性が低下する場合があり、また0.1質量%に満たないと被膜の形成が十分でないために、低温サイクル特性の改善効果が得られない場合がある。該含有量は、非水電解液に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、その上限は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物の含有量は、非水電解液に対して0.1〜5質量%である。該含有量が5質量%を超えると、電極上に過度に被膜が形成されるため低温サイクル特性が低下する場合があり、また0.1質量%に満たないと被膜の形成が十分でないために、低温サイクル特性の改善効果が得られない場合がある。該含有量は、非水電解液に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、その上限は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。該化合物は1種類で使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用した場合、低温サイクル特性が更に向上するのでより好ましい。
本発明の非水電解液において、前記一般式(I)で表されるビニルエステル誘導体と構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を組み合わせて添加することにより低温サイクル特性は向上するが、以下に述べる非水溶媒、電解質塩、更にその他の添加剤を組み合わせることにより、低温サイクル特性が相乗的に向上するという特異な効果を発現する。その理由は明らかではないが、これらの非水溶媒、電解質塩、さらにその他の添加剤の構成元素を含有するイオン伝導性の高い混合被膜が形成されるためと考えられる。
【0031】
〔非水溶媒〕
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類、アミド類、リン酸エステル類、スルホン類、ラクトン類、ニトリル類、構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物以外のS=O結合含有化合物等が挙げられる。
環状カーボネート類としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、トランス又はシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)等が挙げられる。これらの中でも、PCを含むと低温サイクル特性が向上するのでより好ましい。
【0032】
これらの溶媒は1種類で使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用した場合は、低温サイクル特性が更に向上するので好ましく、3種類以上が特に好ましい。これらの環状カーボネートの好適な組合せとしては、ECとPC、ECとVC、PCとVC、FECとVC、FECとEC、FECとPC、FECとDFEC、DFECとEC、DFECとPC、DFECとVC、DFECとVEC、ECとPCとVC、ECとFECとPC、ECとFECとVC、ECとVCとVEC、FECとPCとVC、DFECとECとVC、DFECとPCとVC、FECとECとPCとVC、DFECとECとPCとVC等が挙げられる。前記の組合せのうち、より好ましくはECとPC、FECとPC、DFECとPC、ECとFECとPC等の組合せが挙げられる。
環状カーボネートの含有量は、特に制限はされないが、非水溶媒の総容量に対して、10容量%〜40容量%の範囲で用いるのが好ましい。含有量が10容量%未満であると非水電解液の伝導度が低下し、低温サイクル特性が低下する傾向があり、40容量%を超えると非水電解液の粘性が高くなるため低温サイクル特性が低下する傾向があるので上記範囲であることが好ましい。
【0033】
鎖状カーボネート類としては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート等の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート等の対称鎖状カーボネートが挙げられる。
中でも、メチル基を有する鎖状カーボネートを含むことが好ましく、DMC、MEC、MPC、MIPCのうちの少なくとも一種を含むことが更に好ましく、DMC、MECのうちの少なくとも一種を含むことが特に好ましい。更には非対称鎖状カーボネートを含むことが好ましく、非対称鎖状カーボネートと対称鎖状カーボネートを併用することがより好ましい。また、鎖状カーボネートに含まれる非対称鎖状カーボネートの割合が50容量%以上であることが好ましい。
これらの鎖状カーボネート類は1種類で使用してもよいが、2種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。
上記の鎖状カーボネートの組合せや組成の範囲であると、低温サイクル特性が向上する傾向があるので好ましい。
鎖状カーボネートの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総容量に対して、60〜90容量%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60容量%未満であると電解液の粘度が上昇し、90容量%を超えると電解液の電気伝導度が低下し、負荷特性等の電気化学特性が低下する場合があるので上記範囲であることが好ましい。
環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の割合は、低温サイクル特性向上の観点から、環状カーボネート類:鎖状カーボネート類(容量比)が10:90〜40:60が好ましく、15:85〜35:65がより好ましく、20:80〜30:70が特に好ましい。
【0034】
その他の非水溶媒としては、プロピオン酸メチル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸ブチル、ピバリン酸ヘキシル、ピバリン酸オクチル、シュウ酸ジメチル、シュウ酸エチルメチル、シュウ酸ジエチル等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等の鎖状エーテル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル等のリン酸エステル類、スルホラン等のスルホン類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、α−アンゲリカラクトン等のラクトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリル等のニトリル類、1,2−エタンジオール ジメタンスルホネート、1,2−プロパンジオール ジメタンスルホネート、1,3−プロパンジオール ジメタンスルホネート、1,4−ブタンジオール ジメタンスルホネート、1,5−ペンタンジオール ジメタンスルホネート等のジスルホン酸エステル化合物、ジビニルスルホン、1,2−ビス(ビニルスルホニル)エタン、ビス(2−ビニルスルホニルエチル)エーテル等のビニルスルホン化合物等から選ばれるS=O結合含有化合物、無水酢酸、無水プロピオン酸等の鎖状のカルボン酸無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸等の環状のカルボン酸無水物、シクロヘキシルベンゼン、フルオロシクロヘキシルベンゼン化合物(1−フルオロ−2−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン)、tert−ブチルベンゼン、tert−アミルベンゼン、1−フルオロ−4−tert−ブチルベンゼン等の分枝アルキル基を有する芳香族化合物や、ビフェニル、ターフェニル(o−、m−、p−体)、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、ナフタレン、ジフェニルエーテル、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン(o−、m−、p−体)、アニソール、2,4−ジフルオロアニソール、ターフェニルの部分水素化物(1,2−ジシクロヘキシルベンゼン、2−フェニルビシクロヘキシル、1,2−ジフェニルシクロヘキサン)等の芳香族化合物が好適に挙げられる。
【0035】
前記のジスルホン酸エステル化合物は、ビニルエステル誘導体及び構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物と併用すると、負極とセパレータの密着性がより向上し低温サイクル特性を更に改善することができる。中でも、1,2−エタンジオール ジメタンスルホネート、1,3−プロパンジオール ジメタンスルホネート、1,4−ブタンジオール ジメタンスルホネート、1,5−ペンタンジオール ジメタンスルホネートがより好ましく、1,5−ペンタンジオール ジメタンスルホネートが特に好ましい。
ジスルホン酸エステル化合物の含有量は、5質量%を超えると低温サイクル特性が低下する場合があり、また、0.1質量%に満たないと低温サイクル特性を改善する効果が十分に得られない場合がある。したがって、該ジスルホン酸エステル化合物の含有量の下限は、非水電解液に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。また、その上限は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0036】
前記のジニトリル化合物は、ビニルエステル誘導体及び構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物と併用すると、負極とセパレータの密着性がより向上し低温サイクル特性を更に改善することができる。中でも、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリルがより好ましく、アジポニトリル、ピメロニトリルが特に好ましい。
ジニトリル化合物の含有量は、5質量%を超えると低温サイクル特性が低下する場合があり、また、0.1質量%に満たないと低温サイクル特性を改善する効果が十分に得られない場合がある。したがって、該ジニトリル化合物の含有量の下限は、非水電解液に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。また、その上限は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0037】
前記の芳香族化合物は、ビニルエステル誘導体及び構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物と併用すると、負極とセパレータの密着性がより向上し低温サイクル特性を更に改善することができる。中でも、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、アニソールがより好ましい。
芳香族化合物の含有量は、5質量%を超えると低温サイクル特性が低下する場合があり、また、0.1質量%に満たないと低温サイクル特性を改善する効果が十分に得られない場合がある。したがって、該芳香族化合物の含有量の下限は、非水電解液に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。また、その上限は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0038】
上記の非水溶媒は通常、適切な物性を達成するために、混合して使用される。その組合せは、例えば、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類とラクトン類との組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類とエーテル類の組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類と鎖状エステル類との組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類とニトリル類との組み合わせ等が挙げられる。
これらの中でも、少なくとも環状カーボネート類と鎖状カーボネート類を組合せた非水溶媒を用いると、低温サイクル特性が向上するため好ましい。このときの環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の割合は、特に制限されないが、環状カーボネート類:鎖状カーボネート類(容量比)が10:90〜40:60が好ましく、15:85〜35:65がより好ましく、20:80〜30:70が更に好ましい。
【0039】
〔電解質塩〕
本発明に使用される電解質としては、LiPF、LiBF、LiClO等のLi塩、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCF3SO3、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso−C7、LiPF(iso−C7)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF(SONLi、(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、及びLiN(SOである。これらの電解質塩は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましい。
【0041】
〔非水電解液の製造〕
本発明の非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩及び該非水電解液に対して前記一般式(I)で表されるビニルエステル誘導体を0.1〜5質量%、更に構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を0.1〜5質量%溶解することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒及び非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0042】
本発明の非水電解液は、リチウム一次電池及びリチウム二次電池に使用することができる。更に本発明の非水電解液は電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ用電解液としても使用できる。中でもリチウム二次電池用として用いることが最も適している。
【0043】
〔第1の電気化学素子(リチウム電池)〕
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池及びリチウム二次電池を総称する。本発明のリチウム電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液からなる。非水電解液以外の正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
例えば、リチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン、およびニッケルから1種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiCo1−xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn3/2、LiCo0.98Mg0.02等が挙げられる。また、LiCoOとLiMn、LiCoOとLiNiO、LiMnとLiNiOのように併用してもよい。
【0044】
また、過充電時の安全性やサイクル特性を向上したり、4.3V以上の充電電位での使用を可能にするために、リチウム複合金属酸化物の一部は他元素で置換してもよい。例えば、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも1種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、またはこれらの他元素を含有する化合物を被覆することもできる。
これらの中では、LiCoO、LiMn、LiNiOのような満充電状態における正極の充電電位がLi基準で4.3V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物が好ましく、LiCo1−x(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cuから表される少なくとも1種類以上の元素、0.001≦x≦0.05)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn3/2のような4.4V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物がより好ましい。高充電電圧のリチウム複合金属複合酸化物を使用すると、充電時における電解液との反応により低温サイクル特性を改善する効果が低下しやすいが、本発明に係るリチウム二次電池ではこれらの電池特性の低下を抑制することができる。
【0045】
更に、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。特に鉄、コバルト、ニッケルおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種以上含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W及びZr等から選ばれる1種以上の元素で置換したり、またはこれらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePOまたはLiMnPOが好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0046】
また、リチウム一次電池用正極としては、CuO、Cu2O、Ag2O、Ag2CrO4、CuS、CuSO4、TiO2、TiS2、SiO2、SnO、V25、V612、VOx、Nb25、Bi23、Bi2Pb25,Sb23、CrO3、Cr23、MoO3、WO3、SeO2、MnO2、Mn23、Fe23、FeO、Fe34、Ni23、NiO、CoO3、CoOなどの、一種もしくは二種以上の金属元素の酸化物あるいはカルコゲン化合物、SO2、SOCl2などの硫黄化合物、一般式(CFxnで表されるフッ化炭素(フッ化黒鉛)などが挙げられる。中でも、MnO2、V25、フッ化黒鉛などが好ましい。
【0047】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類等が挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類を適宜混合して用いてもよい。導電剤の正極合剤への添加量は、1〜10質量%が好ましく、特に2〜5質量%が好ましい。
【0048】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレンプロピレンジエンターポリマー等の結着剤と混合し、これに1−メチル−2−ピロリドン等の高沸点溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製のラス板等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
正極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.5g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは2g/cm以上であり、さらに好ましくは、3g/cm以上であり、特に好ましくは、3.6g/cm以上である。なお、上限としては、4g/cm以下が好ましい。
【0049】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料が使用される。これらの負極活物質は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
リチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料としては、易黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などが好ましい。
これらの中では、リチウムイオンの吸蔵及び放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用することが更に好ましく、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm(ナノメータ)以下、特に0.335〜0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが特に好ましい。
複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合或いは結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、例えば鱗片状天然黒鉛粒子に圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、球形化処理を施した黒鉛粒子を用いることにより、負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cmの密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上となると一段と低温サイクル特性が向上するので好ましく、0.05以上となることが更に好ましく、0.1以上となることが特に好ましい。また、過度に処理し過ぎて結晶性が低下し電池の放電容量が低下する場合があるので、上限は0.5以下が好ましく、0.3以下が更に好ましい。
また、高結晶性の炭素材料は低結晶性の炭素材料によって被膜されていると、低温サイクル特性が良好となるので好ましい。高結晶性の炭素材料を使用すると、充電時において非水電解液と反応し、界面抵抗の増加によって低温サイクル特性を低下させる傾向があるが、本発明に係るリチウム二次電池では低温サイクル特性が良好となる。
【0050】
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
負極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.1g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは1.5g/cm以上であり、特に好ましくは1.7g/cm以上である。なお、上限としては、2g/cm以下が好ましい。
【0051】
リチウム電池の構造には特に限定はなく、単層または複層のセパレータを有するコイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート式電池等を適用できる。
電池用セパレータとしては、特に制限はされないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの単層または積層の多孔性フィルム、織布、不織布等を使用できる。
【0052】
本発明におけるリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にも低温サイクル特性に優れ、更に、4.4V以上においても特性は良好である。放電終止電圧は、通常2.8V以上、更には2.5V以上とすることが出来るが、本願発明におけるリチウム二次電池は、2.0V以上とすることが出来る。電流値については特に限定されないが、通常0.1〜3Cの範囲で使用される。また、本発明におけるリチウム電池は、−40〜100℃、好ましくは−10〜80℃で充放電することができる。
【0053】
本発明においては、リチウム電池の内圧上昇の対策として、電池蓋に安全弁を設けたり、電池缶やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を電池蓋に設けることができる。
【0054】
〔第2の電気化学素子(電気二重層キャパシタ)〕
電解液と電極界面の電気二重層容量を利用してエネルギーを貯蔵する電気化学素子である。本発明の一例は、電気二重層キャパシタである。この電気化学素子に用いられる最も典型的な電極活物質は、活性炭である。二重層容量は概ね表面積に比例して増加する。
【0055】
〔第3の電気化学素子〕
電極のドープ/脱ドープ反応を利用してエネルギーを貯蔵する電気化学素子である。この電気化学素子に用いられる電極活物質として、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化銅等の金属酸化物や、ポリアセン、ポリチオフェン誘導体等のπ共役高分子が挙げられる。これらの電極活物質を用いたキャパシタは、電極のドープ/脱ドープ反応にともなうエネルギー貯蔵が可能である。
【0056】
〔第4の電気化学素子(リチウムイオンキャパシタ)〕
負極であるグラファイト等の炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵する電気化学素子である。リチウムイオンキャパシタ(LIC)と呼ばれる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気二重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。電解液には少なくともLiPFなどのリチウム塩が含まれる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の非水電解液を用いた実施例を示す。
実施例1〜12、比較例1〜3
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
LiNi1/3Mn1/3Co1/3;94質量%、アセチレンブラック(導電剤);3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);3質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き、正極シートを作製した。正極の集電体を除く部分の密度は3.6g/cmであった。また、低結晶性の炭素材料によって被膜された人造黒鉛(d002=0.335nm、負極活物質)95質量%を、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤)5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き負極シートを作製した。負極の集電体を除く部分の密度は1.5g/cmであった。また、この電極シートを用いてX線回折測定した結果、I(110)/I(004)は0.1であった。そして、正極シート、微孔性ポリエチレンフィルム製セパレータ、負極シートの順に積層し、表1に記載の組成の非水電解液を加えて、2032型コイン電池を作製した。
【0058】
〔低温サイクル特性の評価〕
上記の方法で作製したコイン電池を用いて25℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で終止電圧4.2Vまで3時間充電し、次に1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電することでプレサイクルを行った。
次に、0℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で終止電圧4.2Vまで3時間充電し、次に1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電した。これを50サイクルに達するまで繰り返した。そして、以下の式により50サイクル後の放電容量維持率を求めた。
放電容量維持率(%)=(50サイクル後の放電容量/1サイクル後の放電容量)×100
電池の作製条件及び電池特性を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例13、比較例4〜5
実施例2、比較例1〜2で用いた負極活物質に変えて、Si(負極活物質)を用いて、負極シートを作製した。Si;80質量%、アセチレンブラック(導電剤);15質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き、負極シートを作製したことの他は、実施例2、比較例1〜2と同様にコイン電池を作製し、電池評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例14、比較例6〜7
実施例2、比較例1〜2で用いた正極活物質に変えて、非晶質炭素で被覆されたLiFePO(正極活物質)を用いて、正極シートを作製した。非晶質炭素で被覆されたLiFePO;90質量%、アセチレンブラック(導電剤);5質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き、正極シートを作製したこと、電池評価の際の充電終止電圧を3.6V、放電終止電圧を2.0Vとしたことの他は、実施例2、比較例1〜2と同様にコイン電池を作製し、電池評価を行った。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
上記実施例1〜12のリチウム二次電池は何れも、酢酸ビニルを単独添加した比較例1、エチレンサルファイトを単独添加した比較例2のリチウム二次電池に比べ、低温サイクル特性が顕著に向上している。また、ビニルエステル誘導体と構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が4である化合物を組み合わせた比較例3に比べても低温サイクル特性が顕著に向上している。以上より、本発明の効果は、ビニルエステル誘導体と構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である特定の化合物を組み合わせた場合に特異的であることが判明した。
また、実施例13と比較例4〜5の対比、実施例14と比較例6〜7の対比から、負極にSiを用いた場合や、正極にリチウム含有オリビン型リン酸鉄塩を用いた場合にも同様な効果がみられる。従って、本発明の効果は、特定の正極や負極に依存した効果でないことは明らかである。
【0065】
更に、本発明の非水電解液は、リチウム一次電池の低温の負荷特性を改善する効果も有する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、本発明の非水電解液を使用すれば、低温サイクル特性に優れた電気化学素子を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、非水電解液中に、下記一般式(I)で表されるビニルエステル誘導体を0.1〜5質量%含有し、更に構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を0.1〜5質量%含有することを特徴とする非水電解液。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素を示す。)
【請求項2】
前記のビニルエステル誘導体が酢酸ビニルであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記の構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物が、下記一般式(II)〜(IV)で表されることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【化2】

(式中、R2及びR3は炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を示す。R2及びR3は互いに結合して環を形成しても良い。)
【化3】

(式中、Rは炭素数3〜6の直鎖又は分枝のアルキレン基を示す。)
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜3の直鎖又は分枝のアルキレン基を示す。)
【請求項4】
前記一般式(II)で表されるが、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、1−エチルエチレンサルファイト、1,2−ジメチルエチレンサルファイト、及び1,2−シクロヘキサンジオールサイクリックサルファイトから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液。
【請求項5】
前記一般式(III)で表される化合物が、1,3−プロパンスルトン、及び1,4−ブタンスルトンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液。
【請求項6】
前記一般式(IV)で表される化合物が、メタンスルホン酸2−プロピニルであることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液。
【請求項7】
更に、1,2−エタンジオール ジメタンスルホネート、1,3−プロパンジオール ジメタンスルホネート、1,4−ブタンジオール ジメタンスルホネート、及び1,5−ペンタンジオール ジメタンスルホネートから選ばれる少なくとも一種を非水電解液に対して、0.1〜5質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【請求項8】
更に、ビフェニル、o−テルフェニル、シクロヘキシルベンゼン、アニソール、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、及びナフタレンから選ばれる少なくとも一種を非水電解液中に、0.1〜5質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【請求項9】
更に、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、及びアゼラニトリルから選ばれる少なくとも一種を非水電解液中に、0.01〜5質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【請求項10】
非水溶媒が環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含む請求項1に記載の非水電解液。
【請求項11】
鎖状カーボネートが少なくともメチル基を有することを特徴とする請求項10に記載の非水電解液。
【請求項12】
鎖状カーボネートが対称鎖状カーボネート及び非対称鎖状カーボネートを含む請求項10に記載の非水電解液。
【請求項13】
正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた電気化学素子であって、非水電解液中に、前記一般式(I)で表されるビニルエステル誘導体を0.1〜5質量%含有し、更に構造中にS−O結合(A)とS=O結合(B)を有し、且つ(A)と(B)の合計数が3である化合物を0.1〜5質量%含有することを特徴とする電気化学素子。
【請求項14】
正極が、正極活物質として、
コバルト、マンガン、及びニッケルから選ばれる少なくとも1種を含有するリチウム複合金属酸化物並びに、鉄、コバルト、ニッケル及びマンガンから選ばれる少なくとも1種を含むリチウム含有オリビン型リン酸塩
から選ばれる1種以上を含む請求項13に記載の電気化学素子。
【請求項15】
負極が、負極活物質として、
リチウム金属、リチウム合金、リチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料、並びにSn又はSiの少なくとも1種を含むリチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物
から選ばれる1種以上を含む請求項13に記載の電気化学素子。
【請求項16】
前記のリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料が、負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cmの密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上0.5以下となることを特徴とする請求項15に記載の電気化学素子。

【公開番号】特開2011−171282(P2011−171282A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256944(P2010−256944)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】