説明

非水電解液型二次電池の製造方法

【課題】短時間で負極合材層の表面に好適に被膜を形成することのできる非水電解液型二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】バッテリの初期充電工程は,予備充電工程D1と,充放電繰り返し工程D2と,定電流充電工程D3とを有する。予備充電工程D1では,バッテリの電圧が負極合材層の表面にSEI被膜が形成される被膜形成電圧領域Rの範囲内に入るまでバッテリを充電する。充放電繰り返し工程D2では,被膜形成電圧領域Rの範囲内で充電と放電とを繰り返す。すなわち,被膜形成電圧領域Rの上限電圧VUに達したら,充電を停止するとともに,放電を開始する。そして,被膜形成電圧領域Rの下限電圧VLに達したら,放電を停止するとともに,充電を開始する。そして,定電流充電工程D3では,バッテリの電圧が満充電電圧となるまでバッテリの電圧を充電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,非水電解液型二次電池の製造方法に関する。さらに詳細には,電極の表面に好適に被膜を形成することのできる非水電解液型二次電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池は,携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器,ハイブリッド車両や電気自動車等の車両など,多岐にわたる分野で利用されている。これらのうち,車両や大型電子機器類には,単電池を直列または並列につないだ組電池が搭載されることが一般的である。
【0003】
このような電池には,非水電解液を用いる非水電解液型二次電池がある。非水電解液型二次電池には,リチウムイオンが電気伝導を担うリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池では,負極側の活物質として炭素系の材料が用いられることが一般的である。負極側の活物質に炭素系材料を用いた場合,負極合材層の表面の炭素系材料は電解液と反応する。これにより,負極合材層の表面にSEI(Solid Electrolyte Interface)被膜が形成されることとなる。
【0004】
このSEI被膜は,負極合材層の炭素系材料にリチウムイオンの吸蔵・放出を行わせるために必須のものである。したがって,好適にSEI被膜を形成する技術が開発されてきている。例えば特許文献1には,負極合材層の表面に被膜を形成する第1の充電工程と,満充電電圧まで充電する第2の充電工程とを有する初期充電方法が開示されている(特許文献1の段落[0019]および図2等参照)。これにより,負極合材層の表面に安定な被膜を少量生成することができるとしている(特許文献1の段落[0011]等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−325988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,特許文献1に記載の初期充電方法では,被膜が形成されるまでに要する時間が長い。充電電流値を0.1C以下と,小さい電流値を用いているためである(特許文献1の段落[0049]等参照)。この条件では,被膜を形成するために,1〜2時間という時間を要することとなる(特許文献1の段落[0017]および図2等参照)。これでは,サイクルタイムが長い。つまり,生産性は高くない。
【0007】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,短時間で負極合材層の表面に好適に被膜を形成することのできる非水電解液型二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の一態様における非水電解液型二次電池の製造方法は,電池容器の内部に電極体を収容するとともに非水電解液を注入して非水電解液型二次電池とする電池組立工程と,非水電解液型二次電池を充電する初期充電工程とを有する方法である。また,初期充電工程は,非水電解液型二次電池に充電と放電とを繰り返す充放電繰り返し工程を有している。そして,充放電繰り返し工程では,非水電解液型二次電池の電圧が,電極体の少なくとも一部にSEI被膜を形成する被膜形成電圧領域の範囲内にある。かかる非水電解液型二次電池の製造方法では,非水電解液型二次電池の負極の表面にSEI被膜を好適に形成することができる。このSEI被膜を形成するための所要時間は,十分に短い。
【0009】
上記に記載の非水電解液型二次電池の製造方法において,充放電繰り返し工程では,非水電解液型二次電池の電圧が予め定めた上限電圧に達した場合に,充電を停止するとともに放電を開始し,非水電解液型二次電池の電圧が予め定めた下限電圧に達した場合に,放電を停止するとともに充電を開始するとよい。下限電圧から上限電圧までの充電容量および放電容量の評価をサイクル毎に行うことができるからである。
【0010】
上記に記載の非水電解液型二次電池の製造方法において,充放電繰り返し工程では,予め定めた上限電圧として,被膜形成電圧領域の上限電圧を用いるとともに,予め定めた下限電圧として,被膜形成電圧領域の下限電圧を用いるとよい。被膜形成電圧領域の範囲内の電圧領域を有効に活用して,充放電繰り返し工程を行うことができるからである。
【0011】
上記に記載の非水電解液型二次電池の製造方法において,充放電繰り返し工程では,下限電圧から上限電圧まで充電したときの充電容量が,予め定めた充電容量閾値以下である場合に,充放電繰り返し工程を終了するとよい。一方,下限電圧から上限電圧まで充電したときの充電容量が,予め定めた充電容量閾値より大きい場合に,充放電繰り返し工程を継続して行う。負極の表面にSEI被膜が好適に形成された後に,充放電繰り返し工程を終了することができるからである。したがって,非水電解液型二次電池のロット毎に生じうる,SEI被膜の形成の度合いのばらつきを抑制することができるからである。
【0012】
上記に記載の非水電解液型二次電池の製造方法において,充放電繰り返し工程では,下限電圧から上限電圧までの範囲内で充放電を行った場合の充放電効率が,予め定めた充放電効率閾値以上である場合に,充放電繰り返し工程を終了するとよい。一方,下限電圧から上限電圧までの範囲内で充放電を行った場合の充放電効率が,予め定めた充放電効率閾値未満である場合に,充放電繰り返し工程を継続して行う。負極の表面にSEI被膜が好適に形成された後に,充放電繰り返し工程を終了することができるからである。したがって,非水電解液型二次電池のロット毎に生じうる,SEI被膜の形成の度合いのばらつきを抑制することができるからである。
【0013】
上記に記載の非水電解液型二次電池の製造方法において,充放電繰り返し工程の前に,非水電解液型二次電池を被膜形成電圧領域の上限電圧まで充電する予備充電工程を有するとよい。そして,充放電繰り返し工程を,非水電解液型二次電池の放電から開始するとよい。充放電繰り返し工程を,好適に開始することができるからである。
【0014】
上記に記載の非水電解液型二次電池の製造方法において,充放電繰り返し工程の前に,非水電解液型二次電池を被膜形成電圧領域の下限電圧まで充電する予備充電工程を有するとよい。そして,充放電繰り返し工程を,非水電解液型二次電池の充電から開始するとよい。充放電繰り返し工程を,好適に開始することができることに変わりないからである。
【0015】
上記に記載の非水電解液型二次電池の製造方法において,初期充電工程は,充放電繰り返し工程の後に,2C以上5C未満の電流値で非水電解液型二次電池を充電する充電工程を有するとなおよい。電池容量を低下させることなく,初期充電工程の所要時間を短いものとすることができるからである。
【0016】
上記に記載の非水電解液型二次電池の製造方法において,充放電繰り返し工程では,充電および放電を定電流で行うとよい。充電および放電の制御を行いやすいからである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,短時間で負極合材層の表面に好適に被膜を形成することのできる非水電解液型二次電池の製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係るバッテリパックの概略構成を説明するための斜視図である。
【図2】実施形態に係るバッテリの概略構成を説明するための断面図である。
【図3】実施形態に係るバッテリの捲回電極体を説明するための斜視図である。
【図4】実施形態に係るバッテリの捲回電極体の捲回構造を説明するための展開図である。
【図5】実施形態に係るバッテリの正極板(負極板)の断面構造を説明するための斜視断面図である。
【図6】第1の実施形態に係るバッテリの製造方法における初期充電工程を説明するためのグラフである。
【図7】従来のバッテリの製造方法における初期充電工程を説明するためのグラフである。
【図8】第1の実施形態に係るバッテリの製造方法における別の初期充電工程を説明するためのグラフ(その1)である。
【図9】第1の実施形態に係るバッテリの製造方法における別の初期充電工程を説明するためのグラフ(その2)である。
【図10】第1の実施形態に係るバッテリの製造方法における別の初期充電工程を説明するためのグラフ(その3)である。
【図11】第1の実施形態に係るバッテリの製造方法における定電流充電工程の電流値と電池容量とを比較するグラフである。
【図12】第2の実施形態に係る充放電繰り返し工程における充電と放電の繰り返し回数(サイクル数)と充電容量もしくは放電容量との関係を示すグラフである。
【図13】第2の実施形態に係る充放電繰り返し工程における充電と放電の繰り返し回数(サイクル数)と充放電効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,非水電解液型二次電池であるリチウムイオン二次電池の製造方法について,本発明を具体化したものである。
【0020】
(第1の実施形態)
1.電池の構造
1−1.バッテリパック
本形態のバッテリパックBPは,図1に示すように,バッテリ100を直列に接続した組電池である。バッテリ100は,角型の単電池である。バッテリパックBPでは,図1に示すように,バッテリ100の正極端子と,そのバッテリ100に隣り合うバッテリ100の負極端子とが,バスバー190を介して締結されている。この締結は,ボルトとナットによりなされている。
【0021】
1−2.バッテリセル
バッテリ100の概略構成を図2の断面図に示す。図2は,図1に示したバッテリパックBPからバッテリ100を取り出して描いたものである。バッテリ100は,電池容器110の内部に図3に示す扁平形状の捲回電極体10を有するものである。電池容器110は,図2に示すように,電池容器本体120と,封口板130とを備えるものである。電池容器110の内部には,捲回電極体10が配置されている。この捲回電極体10は,実際に発電に寄与する発電要素である。封口板130は,電池容器本体120の開口部を塞ぐためのものである。そのため,電池容器本体120に接合されている。
【0022】
電池容器110の内部には,電解液が注入されている。この電解液は,有機溶媒に電解質を溶解させたものである。有機溶媒として例えば,プロピレンカーボネート(PC),エチレンカーボネート(EC),ジメチルカーボネート(DMC),ジエチルカーボネート(DEC),エチルメチルカーボネート(EMC),1,2−ジメトキシエタン,1,2−ジエトキシエタン,テトラヒドロフラン,2−メチルテトラヒドロフラン,ジオキサン,1,3−ジオキソラン,エチレングリコールジメチルエーテル,ジエチレングリコールジメチルエーテル,アセトニトリル,プロピオニトリル,ニトロメタン,N,N−ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド,スルホラン,γ−ブチロラクトン等の非水系溶媒またはこれらを組み合わせた溶媒を用いることができる。
【0023】
また,電解質である塩として,過塩素酸リチウム(LiClO)やホウフッ化リチウム(LiBF),六フッ化リン酸リチウム(LiPF),六フッ化砒酸リチウム(LiAsF),LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO,LiIなどのリチウム塩を用いることができる。
【0024】
図2に示すように,バッテリ100は,正極端子50と,負極端子60と,絶縁部材150と,絶縁部材160とを有している。絶縁部材150は,正極端子50と封口板130とを絶縁するための部材である。絶縁部材160は,負極端子60と封口板130とを絶縁するための部材である。
【0025】
図2に示すように,封口板130には注液孔140が設けられている。注液孔140は,封口板130を貫通する貫通孔である。そして,電解液を電池容器110の内部に注入するためのものである。蓋体170は,封口板130の注液孔140を塞ぐための注液孔用蓋体である。したがって,蓋体170は,注液孔140の開口部分を覆っている。蓋体170は,封口板130の外側から封口板130に溶接されている。
【0026】
1−3.捲回電極体の構造
図3は,捲回電極体10を示す斜視図である。図3に示すように,捲回電極体10は扁平形状をしている。捲回電極体10の一方の端部には,正極端部30が突出している。正極端部30は,後述するように,正極板の正極芯材が突出している箇所である。捲回電極体10の他方の端部には,負極端部40が突出している。負極端部40は,後述するように,負極板の負極芯材が突出している箇所である。
【0027】
図4は,捲回電極体10の捲回構造を示す展開図である。捲回電極体10は,図4に示すように,内側から正極板P,セパレータS,負極板N,セパレータTの順に積み重ねた状態で捲回されたものである。すなわち,捲回電極体10は,正極板Pと負極板Nとをこれらの間にセパレータS,Tを介在させて交互に配置したものである。
【0028】
正極板Pは,正極芯材であるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含む合材を塗布したものである。正極活物質として,ニッケル酸リチウム(LiNiO),マンガン酸リチウム(LiMn),コバルト酸リチウム(LiCoO),リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウム複合酸化物などが用いられる。負極板Nは,負極芯材である銅箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含む合材を塗布したものである。負極活物質として,非晶質炭素,難黒鉛化炭素,易黒鉛化炭素,黒鉛等の炭素系物質が用いられる。
【0029】
図4に示すように正極板Pには,正極塗工部P1と,正極非塗工部P2とがある。正極塗工部P1は,正極芯材に正極活物質等を含む正極合材層を形成した箇所である。正極非塗工部P2は,正極芯材に正極合材層を形成していない箇所である。負極板Nには,負極塗工部N1と,負極非塗工部N2とがある。負極塗工部N1は,負極芯材に負極活物質等を含む負極合材層を形成した箇所である。負極非塗工部N2は,負極芯材に負極合材層を形成していない箇所である。
【0030】
図4中の矢印Aは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの幅方向(図3でいえば横方向)を示している。図4中の矢印Bは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの長手方向(図3の捲回電極体10の周方向)を示している。
【0031】
セパレータS,Tは,ポリエチレンやポリプロピレン等の多孔性フィルムである。セパレータS,Tの厚みは,10〜50μm程度である。ここで,セパレータSとセパレータTとは同じ材質のものである。上記の捲回順の理解のために符号をS,Tとして区別しただけである。
【0032】
図5は,正極板P(もしくは負極板N)の斜視断面図である。図5中の括弧外の各符号は,正極の場合の各部を,括弧内の各符号は,負極の場合の各部を示している。図5中の矢印Aが示す方向は,図4中の矢印Aが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の幅方向である。図5中の矢印Bが示す方向は,図4中の矢印Bが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の長手方向である。
【0033】
図5に示すように,正極板Pは,帯状の正極芯材PBの両面の一部に正極合材層PAが形成されたものである。図5中左側には,正極板Pの正極非塗工部P2が幅方向に突出している。正極非塗工部P2は,帯状に形成されている。正極非塗工部P2は,正極芯材PBの両面ともに正極活物質が塗布されていない領域である。したがって正極非塗工部P2では,正極芯材PBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,正極非塗工部P2に対応するような突出部はない。正極塗工部P1では,正極芯材PBの両面に一様の厚みで正極合材層PAが形成されている。
【0034】
正極合材層PAは,正極芯材PBであるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質の他に,導電材,結着材,増粘材を含む合材を塗布して形成された層である。正極活物質として,ニッケル酸リチウム(LiNiO),マンガン酸リチウム(LiMn),コバルト酸リチウム(LiCoO),リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウム複合酸化物などが用いられる。
【0035】
正極用の導電材として,カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。例えば,アセチレンブラック,ファーネスブラック,ケッチェンブラック等のカーボンブラック,グラファイト粉末,などのカーボン粉末である。
【0036】
正極用の結着材は,電解液に不溶性(または難溶性)であって,正極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであるとよい。例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂,酢酸ビニル共重合体,スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス),アラビアゴム等のゴムを用いることができる。または,これらの組み合わせを用いてもよい。結着材は,必ずしも上記のポリマーに限定されない。
【0037】
正極用の増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC),酢酸フタル酸セルロース(CAP),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースが用いられる。ただし,必ずしも上記したようなセルロースに限らず用いることができる。
【0038】
溶媒として,水が挙げられる。その他に,N−メチル−2−ピロリドン(NMP,以下NMPという)を用いてもよい。また,その他の低級アルコールや低級ケトンを用いることもできる。
【0039】
図5の括弧内の符号で示すように,負極板Nは,帯状の負極芯材NBの両面の一部に負極合材層NAが形成されたものである。図5中左側には,負極板Nの負極非塗工部N2が幅方向に突出している。負極非塗工部N2は,帯状に形成されている。負極非塗工部N2は,負極芯材NBの両面ともに負極活物質が塗布されていない領域である。したがって負極非塗工部N2では,負極芯材NBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,負極非塗工部N2に対応するような突出部はない。負極塗工部N1では,負極芯材NBの両面に一様の厚みで負極合材層NAが形成されている。ただし,図4に示したように,捲回時には,正極非塗工部P2と負極非塗工部N2とは,反対側に突出した状態で捲回されることとなる。
【0040】
負極合材層NAは,負極芯材NBである銅箔に負極活物質,結着材,増粘材を含む合材を塗布して乾燥させた層である。負極活物質は,リチウムイオンを吸蔵・放出可能な物質である。負極活物質として,少なくとも一部にグラファイト構造を含む炭素系物質が用いられる。例えば,非晶質炭素,難黒鉛化炭素(ハードカーボン),易黒鉛化炭素(ソフトカーボン),黒鉛(グラファイト),またはこれらを組み合わせた構造を有する炭素材料を用いることができる。
【0041】
負極用の結着材は,電解液に不溶性(または難溶性)であって,負極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであるとよい。例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂,酢酸ビニル共重合体,スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス),アラビアゴム等のゴムを用いることができる。または,これらの組み合わせを用いてもよい。結着材は,必ずしも上記のポリマーに限定されない。
【0042】
負極用の増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC),酢酸フタル酸セルロース(CAP),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースが用いられる。ただし,必ずしも上記したようなセルロースに限らず用いることができる。
【0043】
溶媒として,水が挙げられる。NMPを用いてもよい。また,その他の低級アルコールや低級ケトンを用いることもできる。
【0044】
2.初期充電工程
本形態における電池の製造方法は,初期充電工程に特徴点を有する。したがって,本形態の電池の製造方法における初期充電工程について説明する。この初期充電工程は,組み立てたバッテリ100に初期充電を施す工程である。そしてその際に,負極合材層NAの表面にSEI被膜を形成する。したがって,この初期充電工程により,電池性能に差が生じることがある。
【0045】
本形態における初期充電工程は,図6に示すように,(D−1)予備充電工程と,(D−2)充放電繰り返し工程と,(D−3)定電流充電工程とを有する。ここで,予備充電工程とは,充放電繰り返し工程を行う電圧領域(被膜形成電圧領域R)までバッテリ100を充電する工程である。充放電繰り返し工程とは,被膜形成電圧領域Rの範囲内で充電と放電とを繰り返す工程である。この充放電繰り返し工程により,負極合材層NAの表面にSEI被膜が形成されることとなる。定電流充電工程とは,SEI被膜を形成済みのバッテリ100を満充電電圧VFまで充電する工程である。
【0046】
2−1.被膜形成電圧領域
まず,被膜形成電圧領域Rについて説明する。これは,負極合材層NAの表面にSEI被膜を形成するのに好適な電圧領域のことである。バッテリ100の電圧が,この被膜形成電圧領域Rの範囲内にあるときに,SEI被膜が好適に形成される。
【0047】
そのため,未だSEI被膜の形成されていないバッテリ100に被膜形成電圧領域Rで充電を行うと,その充電エネルギーの一部は,バッテリ100自体の充電に用いられる。充電エネルギーの残部は,主にSEI被膜の形成に用いられる。または,その他の反応が生じ,電池容器110の内部でガスが発生することがある。
【0048】
このSEI被膜は負極合材層NAの表面に形成されるものである。しかし,その被膜形成電圧領域Rは,正極合材層PAに含まれる正極活物質の種類によって異なっている。したがって,以下にその例を示す。
【0049】
2−1−1.LiCoO
正極活物質が,LiCoOまたはCoの一部を他の元素で置換したリチウムコバルト複合酸化物を含む場合には,被膜形成電圧領域Rは,3.1〜3.7Vである(特許文献1の段落[0052]参照)。
被膜形成電圧領域Rの下限電圧VL: 3.1V
被膜形成電圧領域Rの上限電圧VU: 3.7V
【0050】
2−1−2.LiMn系またはLiNiO
正極活物質が,LiMn,LiNiOまたはMnもしくはNiの一部を他の元素で置換したリチウム複合酸化物を含む場合には,被膜形成電圧領域Rは,2.8〜3.6Vである(特許文献1の段落[0053]参照)。
被膜形成電圧領域Rの下限電圧VL: 2.8V
被膜形成電圧領域Rの上限電圧VU: 3.6V
【0051】
2−1−3.LiFePO
正極活物質が,LiFePOまたはFeの一部を他の元素で置換したオリビン系複合酸化物を含む場合には,被膜形成電圧領域Rは,2.5〜2.9Vである(特許文献1の段落[0054]参照)。
被膜形成電圧領域Rの下限電圧VL: 2.5V
被膜形成電圧領域Rの上限電圧VU: 2.9V
【0052】
このように,被膜形成電圧領域Rの下限電圧VLおよび上限電圧VUは,正極活物質に応じて定まるものである。本形態の初期充電工程は,被膜形成電圧領域Rに応じて以下のように行う。
【0053】
2−2.(D−1)予備充電工程
この段階では,バッテリ100自体は組み立てられている。しかし,負極合材層NAの表面にはSEI被膜は未だ形成されていない。そこで,まず,バッテリ100に定電流充電を行う。これは,充放電繰り返し工程を行うための予備的な充電である。このときの定電流は0.1Cである。これにより,バッテリ100の電圧は徐々に上昇する。そして,図6に示すように,被膜形成電圧領域Rの上限電圧VUまで,バッテリ100の電圧を上昇させる。
【0054】
なお,この予備充電に要する所要時間は10分程度である。ここでは定電流0.1Cを流すこととしたが,もちろんこれ以外の値でもよい。ただし,未だSEI被膜は形成されていないため,電流値としてあまり大きな値を設定しないほうがよい。そして,ここでは定電流としたが,必ずしも一定の電流値とする必要はない。例えば,この予備充電工程の初期の電流値の値として,やや小さい値を用いることとしてもよい。
【0055】
2−3.(D−2)充放電繰り返し工程
次に,バッテリ100に定電流充電と定電流放電とを繰り返す充放電繰り返し工程を施す。図6では,放電から開始している。なお,この工程では,バッテリ100の電圧は,被膜形成電圧領域Rの範囲内にある。つまり,バッテリ100の電圧が被膜形成電圧領域Rの上限電圧VUに達した場合に,定電流充電を停止するとともにバッテリ100に定電流放電を開始する。このときの定電流放電の電流値は,例えば1Cである。この定電流放電により,バッテリ100の電圧は下降する。そして,バッテリ100の電圧が被膜形成電圧領域Rの下限電圧VLに達した場合に,定電流放電を停止するとともにバッテリ100に定電流充電を開始する。このときの定電流充電の電流値は,例えば1Cである。この定電流充電により,バッテリ100の電圧は上昇する。そして,バッテリ100の電圧が,再び上限電圧VUに達したら,再び定電流放電を行う。
【0056】
このように,被膜形成電圧領域Rの上限電圧VU,下限電圧VLに到達する度に,定電流充電と定電流放電とを交互に切り替えるのである。これにより,バッテリ100の電圧は,図6の(D−2)の領域に示すように,上昇と下降とを繰り返す。そして,これらの定電流充電および定電流放電を予め定めた所定の回数だけ繰り返した後,この充放電繰り返し工程を終了する。
【0057】
この定電流充電と定電流放電とを交互に繰り返すことにより,負極合材層NAの表面にSEI被膜が形成されることとなる。つまり,捲回電極体10の少なくとも一部にSEI被膜が形成される。なお,この充放電繰り返し工程に要する所要時間は15〜45分程度である。この所要時間は,定電流充電と定電流放電とを繰り返す回数によって変わる。もちろん,定電流の電流値1Cを変えた場合にも変わる。
【0058】
2−4.(D−3)定電流充電工程
続いて,定電流充電を行う。この段階では,負極合材層NAの表面にSEI被膜が形成済みである。そのため,やや高い電流値で高速充電をしても,SEI被膜の形成には影響を及ぼさない。図6に示すように,この工程の初期電圧は,被膜形成電圧領域Rの上限電圧VUである。そこて,バッテリ100に定電流充電を施す。このときの定電流充電の電流値は,例えば2Cである。もちろん,これ以外の電流値を用いてもよい。そして,ここでは定電流としたが,必ずしも一定の電流値とする必要はない。
【0059】
これにより,バッテリ100は満充電電圧VFに到達する。つまり,SEI被膜が形成されているとともに,満充電電圧VFとなっているバッテリ100が製造される。なお,この定電流充電工程に要する所要時間は,30分程度である。そのため,本形態における初期充電工程に要する時間は,55〜70分程度である。
【0060】
2−5.従来技術との比較
2−5−1.(E−1)予備充電工程
ここで,本形態における初期充電工程と従来における初期充電工程との比較について説明する。従来における初期充電工程について,図7により説明する。従来においてはまず,図7に示すように,定電流充電を行う。このときの電流値は0.1C程度である。これにより,バッテリ100の電圧は,被膜形成電圧領域Rに入る。そして,バッテリ100の電圧が被膜形成電圧領域Rの範囲内の中央値付近の電圧となったときに予備充電を終了する。
【0061】
2−5−2.(E−2)定電圧充電工程
次に,バッテリ10に定電圧充電を行う。これにより,SEI被膜を形成する。しかし,この工程に要する時間は1〜2時間程度である(特許文献1の段落[0017]および図2参照)。これは,本形態に比べて十分に長い。
【0062】
2−5−3.(E−3)定電流充電工程
そして,この後,定電流充電を行う。このときの電流値は1C程度である。この工程に要する時間は1時間程度である。このように,従来における初期充電工程に要する所要時間は2〜3時間程度である。これは,本形態に比べて十分に長い。
【0063】
3.電池の製造方法
ここで,本実施の形態に係る電池の製造方法について説明する。本形態の電池の製造方法は,以下に示す工程を有する。本形態の電池の製造方法は,前述した初期充電工程を行うことに特徴のある方法である。
(A)電極板作成工程
(B)電極体作成工程
(C)電池組立工程
(D)初期充電工程
(D−1)予備充電工程
(D−2)充放電繰り返し工程
(D−3)定電流充電工程
【0064】
3−1.(A)電極板作成工程
まず,正極芯材PBであるアルミニウム箔に正極用塗工液を塗工して正極用ペースト層とする。この正極用塗工液は,溶媒に上記の正極活物質等を混練したものである。次に,正極用ペースト層の形成された正極芯材PBを乾燥炉の内部に搬送しつつその正極用ペースト層を乾燥させる。これにより,正極芯材PBに正極合材層PAが形成される。正極合材層PAは,正極活物質を含む層である。なお,正極芯材PBの両面に正極合材層PAを形成することが好ましい。これにより,正極板Pが作成される。負極板Nについても同様である。なお,正極板Pおよび負極板Nにスリット工程やプレス工程を適宜施してもよい。
【0065】
3−2.(B)電極体作成工程
続いて,捲回電極体10を作成する。その際に,図4に示したように,正極板Pおよび負極板Nに,これらの間にセパレータS,Tを介在させて捲回する。これにより,円筒形状の捲回電極体が作成される。この円筒形状の捲回電極体を円筒側面方向から圧縮することにより,図3に示したような扁平形状の捲回電極体10が作成される。
【0066】
3−3.(C)電池組立工程
次に,正極端子50,負極端子60をそれぞれ,捲回電極体10の正極端部30,負極端部40に溶接する。そして,その溶接された捲回電極体10を電池容器本体120の内部に収容する。次に,封口板130を電池容器本体120に溶接する。続いて,注液孔140から上記の非水電解液を電池容器110の内部に注入する。そして,蓋体170を封口板130に溶接する。これにより,バッテリ100が組み立てられる。しかし前述したように,この段階では,負極合材層NAの表面にSEI被膜は未だ形成されていない。
【0067】
3−4.(D)初期充電工程
次に,組み立てられたバッテリ100に初期充電を施す。前述したように,(D−1)予備充電工程と,(D−2)充放電繰り返し工程と,(D−3)定電流充電工程とを,この順序で行う。これにより,負極合材層NAの表面にSEI被膜が形成されるとともに,バッテリ100が充電される。その後に,高温エージング工程等を施してもよい。また,その他の各種の検査工程を行ってもよい。以上の工程を経ることにより,本形態のバッテリ100が製造される。その後,必要に応じてバッテリ100を組み合わせてバッテリパックBPとすればよい。
【0068】
3−5.製造されたバッテリ
以上述べたように,本形態の製造方法では,初期充電工程の所要時間が従来の初期充電工程の所要時間に比べて短い。すなわち,サイクルタイムが短い。また,本形態における電池の製造方法により製造されたバッテリ100では,負極合材層NAの表面にSEI被膜が好適に形成されている。したがって,バッテリ100の電池性能はよい。
【0069】
4.変形例
4−1.充電側からの充放電繰り返し工程の開始
本形態では,図6に示したように,充放電繰り返し工程を放電から開始することとした。しかし,図8に示すように,充電から開始することとしてもよい。その場合には,バッテリ100の電圧が被膜形成電圧領域Rの下限電圧VLに達したときに,予備充電工程を終了すればよい。つまり,被膜形成電圧領域Rの下限電圧VLからの充電により,充放電繰り返し工程を開始することとすればよいのである。
【0070】
図8に,定電流充電と定電流放電とを3サイクル繰り返した場合を示す。この場合には,定電圧充電工程も,被膜形成電圧領域Rの下限電圧VLから開始することとなる。このようにしても,負極合材層NAの表面にSEI被膜が好適に形成されることに変わりない。
【0071】
4−2.定電流以外の充放電
本形態では,充放電繰り返し工程において,充電と放電とを定電流で行うこととした。しかし,必ずしも定電流でなくともよい。充電と放電とを繰り返すのであれば,途中で電流値を変えても構わない。例えば,充電および放電の初期および終期において,電流値として小さい値を設定することができる。その場合には,図9に示すように,バッテリ100の電圧は,より滑らかに変化する。
【0072】
4−3.切替上限電圧および切替下限電圧
本形態では,充電と放電とを切り替える電圧として,被膜形成電圧領域Rの上限電圧VUと下限電圧VLとを採用することとした。前述のとおり,上限電圧VUおよび下限電圧VLは,正極活物質の種類により決まった値をとるものである。そして,本形態では,充電と放電とを切り替える電圧として,上限電圧VUおよび下限電圧VLを選択したのである。
【0073】
しかし,充電と放電とを切り替えるために予め定めた上限電圧および下限電圧を,被膜形成電圧領域Rの上限電圧VUと下限電圧VL以外の電圧としてもよい。すなわち,予め定めた下限電圧として,図10に示す切替下限電圧V1を用いることができる。同様に,予め定めた上限電圧として,切替上限電圧V2を用いることができる。ただし,図10に示すように,その切替下限電圧V1および切替上限電圧V2は,被膜形成電圧領域Rの範囲内にあることが好ましい。この場合であっても,被膜形成電圧領域Rの範囲内で充電と放電とが繰り返されることに変わりない。すなわち,SEI被膜が好適に形成される。
【0074】
4−4.上限電圧および下限電圧なし
前述の変形例では,切替上限電圧V2および切替下限電圧V1を定めた。しかし,充電と放電との繰り返しに,切替上限電圧V2および切替下限電圧V1を用いないで充電と放電とを繰り返したとしても,SEI被膜を形成することは可能である。例えば,バッテリ100の電圧が被膜形成電圧領域Rの範囲内にあれば,充電時間および放電時間を予め定めておくこととしてもよい。このようにしても,SEI被膜を好適に形成することができることに変わりない。
【0075】
4−5.急速充電工程
本形態では,充放電繰り返し工程において,2Cの電流値で充電することとした。しかし,より大きな定電流で充電することとしてもよい。SEI被膜は既に形成されているからである。もちろん,大きな定電流で充電することにより,充電時間は短縮される。
【0076】
図11は,定電流充電工程において採用した定電流の電流値と,電池容量との関係を示すグラフである。図11から分かるように,5C以上の電流値で充電すると,電池容量が小さくなってしまう。そこで,2C以上5C未満の電流値で充電するとよい。電池性能に悪影響を及ぼさないで,急速で充電できるからである。例えば,電流値4Cで充電するとよい。その場合にはもちろん,2Cで充電した場合の約半分の所要時間で充電を行うことができる。
【0077】
4−6.組み合わせ
もちろん,上記の変形例を自由に組み合わせて適用してもよい。
【0078】
5.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る電池の製造方法では,初期充電工程において,所定の電流値で充電と放電とを繰り返す充放電繰り返し工程を実施する。充放電繰り返し工程では,充電と放電とを繰り返すため,バッテリ100の電圧は,上昇もしくは下降する。しかし,この電圧は,被膜形成電圧領域Rの範囲内に入っている。これにより,短時間で負極合材層NAの表面にSEI被膜を形成することができる。したがって,短時間で電池の初期充電を行うことのできる電池の製造方法が実現されている。
【0079】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,扁平形状の捲回電極体10を有する電池に限らない。円筒形状の電極体を有する円筒型電池にも適用することができる。また,捲回しないで正極板と負極板とを平積みした電極体を用いる電池にも適用することができる。これらも,積層した電極体に変わりない。平積みした電極体を用いる場合には,電極板等を捲回する工程や,捲回した円筒形状の電極体を扁平形状にするプレス工程等も必須ではない。
【0080】
また,正極活物質の種類によって被膜形成電圧領域Rの範囲が異なっている点について説明した。もちろん,この相違点にかかわらず,本形態の電池の製造方法を適用することができる。
【0081】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では,充放電繰り返し工程における充電と放電との繰り返し回数を予め定めておくこととした。本形態では,SEI被膜の形成の度合いに応じて充放電繰り返し工程を終了することとする。したがって,その異なる点のみについて説明する。
【0082】
1.充放電繰り返し工程と被膜形成の度合い
第1の実施形態では,充放電繰り返し工程において,予め定めた所定の回数だけ定電流充電と定電流放電とを繰り返すこととした。しかし,異なるロットに,充放電繰り返し工程の繰り返し回数を同じ回数だけ実施したとする。その場合,SEI被膜の形成の度合いは,ロット間にばらつきが生じる。したがって,このロット間のばらつきを抑制することが好ましい。
【0083】
そのために本形態では,SEI被膜が十分に形成されていると判断した後に,充放電繰り返し工程を終了することとするのである。ロット間におけるSEI被膜の形成の度合いのばらつきを小さいものとすることができるからである。
【0084】
2.充放電繰り返し工程の終了条件
本形態では,充放電繰り返し工程において測定される充放電効率の値を,充放電繰り返し工程の終了条件とするのである。ここで,充放電効率とは,充電容量に対する放電容量の比である。
充放電効率 = 放電容量 / 充電容量 ………(1)
【0085】
このとき用いられる充電容量は,バッテリ100を被膜形成電圧領域Rの下限電圧VLから上限電圧VUまで充電した場合の充電容量である。一方,放電容量は,バッテリ100を被膜形成電圧領域Rの上限電圧VUから下限電圧VLまで放電した場合の放電容量である。これらの充電容量および放電容量は,容易に測定することができる。ただし,第1の実施形態における切替上限電圧V2および切替下限電圧V1を用いる場合には,これらの切替上限電圧V2から切替下限電圧V1までの間で充電もしくは放電した充電容量もしくは放電容量を用いる。
【0086】
図12は,充放電繰り返し工程において行った繰り返し回数(サイクル数)と充電容量および放電容量との関係を示すグラフである。これは,被膜形成電圧領域Rの下限電圧VLから上限電圧VUまでの範囲内で,1Cの定電流充電と1Cの定電流放電とを繰り返した場合の結果である。これは,あるロットについての一例であって,別のロットでは図12のグラフからはずれることがある。図12の横軸は,サイクル数である。図12の縦軸は,充電容量もしくは放電容量の値である。なお,図12のグラフを描くにあたって,3サイクル目の放電容量の値を基準(100%)とした。
【0087】
図12に示すように,放電容量は,サイクル数によらずほぼ一定である。一方,充電容量は,サイクル数の増加とともに減少している。そして,サイクル数が多いと,充電容量と放電容量との差はほとんどなくなる。1サイクル目における充電容量は,3サイクル目における放電容量の4倍程度である。3サイクル目では,充電容量と放電容量とがほぼ同じであることから,1サイクル目の充電容量が非常に大きいといえる。
【0088】
前述したように,充放電繰り返し工程の初期においては,充電時にSEI被膜が形成される。つまり,図12における1サイクル目では,バッテリ100に供給した充電エネルギーのうちの一部が,SEI被膜の形成に用いられたと考えられる。したがって,充放電繰り返し工程の充電時には,バッテリ100にエネルギーを余分に供給することとなるのである。
【0089】
この場合,充放電繰り返し工程において行った繰り返し回数(サイクル数)と充放電効率との関係は図13に示すグラフのようになる。これは,あるロットについての一例であって,別のロットでは図13のグラフからはずれることがある。図13の横軸は,サイクル数である。図13の縦軸は,充放電効率である。図13に示すように,サイクル数が増えるほど,充放電効率は高くなる。これは,初期のサイクル数では,充電容量の値が大きいからである(式(1)参照)。
【0090】
したがって,充放電効率の値を,充放電繰り返し工程の終了条件とすることができる。つまり,充放電繰り返し工程における充放電効率の値が予め定めた充放電効率閾値以上である場合に,充放電繰り返し工程を終了することとすればよい。もちろん,充放電繰り返し工程における充放電効率の値が予め定めた充放電効率閾値未満である場合には,充放電繰り返し工程を継続する。
【0091】
この充放電効率閾値として70%を採用した場合には,充放電繰り返し工程を2回のサイクル数で終了することとなる。充放電効率閾値として80%を採用した場合には,充放電繰り返し工程を3回のサイクル数で終了することとなる。このように,3サイクル以上,充電と放電とを繰り返したほうが,SEI被膜を形成する上で好ましい。ただし,その分だけサイクルタイムは長いものとなる。とはいえ,前述した従来技術に比べれば,サイクルタイムは十分に短い。
【0092】
3.変形例
3−1.充電容量閾値
本形態では,充放電繰り返し工程の終了条件を,予め定めた充放電効率閾値により決定することとした。しかし,充放電効率の代わりに,充電容量の値を基準としてもよい。図12からも明らかなように,SEI被膜を形成している間では,余分なエネルギーを供給しているからである。そして,サイクル数が増えるにしたがって,充電容量は一定値に近づく。
【0093】
したがって本形態では,その一定値よりもわずかに大きい値を予め定めた充電容量閾値とする。そして,バッテリ100を被膜形成電圧領域Rの下限電圧VLから上限電圧VUまで充電した場合の充電容量が,予め定めた充電容量閾値以下である場合に,充放電繰り返し工程を終了することとすればよい。一方,バッテリ100を被膜形成電圧領域Rの下限電圧VLから上限電圧VUまで充電した場合の充電容量が,予め定めた充電容量閾値より大きい場合には,充放電繰り返し工程を継続する。
【0094】
このようにしても,負極合材層NAにSEI被膜を好適に形成することができることに変わりない。また,この場合,放電容量を測定する必要がない。したがって,充放電繰り返し工程を充電で終了させることができる。例えば,図8では,充放電繰り返し工程の最後に放電を行っているが,この放電を行う必要はない。したがって,サイクルタイムは,より短い。なおこの場合,充放電繰り返し工程における充電の回数は,放電の回数より1回だけ多い。
【0095】
もしくは,閾値として,Nサイクル目の充電容量と(N−1)サイクル目の充電容量との差を用いてもよい。または,Nサイクル目の充電容量とNサイクル目の放電容量との差を,閾値として用いても同様である。
【0096】
5.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る電池の製造方法では,初期充電工程において,所定の電流値で充電と放電とを繰り返す充放電繰り返し工程を実施する。充放電繰り返し工程では,充電と放電とを繰り返すため,バッテリ100の電圧は,上昇もしくは下降する。しかし,この電圧は,被膜形成電圧領域Rの範囲内に入っている。これにより,短時間で負極合材層NAの表面にSEI被膜を形成することができる。そして,SEI被膜の形成の度合いにより,この充放電繰り返し工程を終了させることとしている。したがって,短時間で電池の初期充電を行うとともに,SEI被膜の形成の度合いにばらつきのほとんど生じない電池の製造方法が実現されている。
【0097】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,扁平形状の捲回電極体10を有する電池に限らない。円筒形状の電極体を有する円筒型電池にも適用することができる。また,捲回しないで正極板と負極板とを平積みした電極体を用いる電池にも適用することができる。これらも,積層した電極体に変わりない。平積みした電極体を用いる場合には,電極板等を捲回する工程や,捲回した円筒形状の電極体を扁平形状にするプレス工程等も必須ではない。
【0098】
また,正極活物質の種類によって被膜形成電圧領域Rの範囲が異なっている点について説明した。もちろん,この相違点にかかわらず,本形態の電池の製造方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10…捲回電極体
50…正極端子
60…負極端子
100…バッテリ
110…電池容器
120…電池容器本体
130…封口板
140…注液孔
150…絶縁部材
160…絶縁部材
170…蓋体
BP…バッテリパック
P…正極板
P1…正極塗工部
P2…正極非塗工部
N…負極板
N1…負極塗工部
N2…負極非塗工部
S,T…セパレータ
R…被膜形成電圧領域
V1…切替下限電圧
V2…切替上限電圧
VL…下限電圧
VU…上限電圧
VF…満充電電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池容器の内部に電極体を収容するとともに非水電解液を注入して非水電解液型二次電池とする電池組立工程と,
前記非水電解液型二次電池を充電する初期充電工程とを有し,
前記初期充電工程は,
前記非水電解液型二次電池に充電と放電とを繰り返す充放電繰り返し工程を有し,
前記充放電繰り返し工程では,
前記非水電解液型二次電池の電圧が,前記電極体の少なくとも一部にSEI被膜を形成する被膜形成電圧領域の範囲内にあることを特徴とする非水電解液型二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解液型二次電池の製造方法であって,
前記充放電繰り返し工程では,
前記非水電解液型二次電池の電圧が予め定めた上限電圧に達した場合に,
充電を停止するとともに放電を開始し,
前記非水電解液型二次電池の電圧が予め定めた下限電圧に達した場合に,
放電を停止するとともに充電を開始することを特徴とする非水電解液型二次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の非水電解液型二次電池の製造方法であって,
前記充放電繰り返し工程では,
前記予め定めた上限電圧として,前記被膜形成電圧領域の上限電圧を用いるとともに,
前記予め定めた下限電圧として,前記被膜形成電圧領域の下限電圧を用いることを特徴とする非水電解液型二次電池の製造方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の非水電解液型二次電池の製造方法であって,
前記充放電繰り返し工程では,
前記下限電圧から前記上限電圧まで充電したときの充電容量が,予め定めた充電容量閾値以下である場合に,
前記充放電繰り返し工程を終了し,
前記下限電圧から前記上限電圧まで充電したときの充電容量が,予め定めた充電容量閾値より大きい場合に,
前記充放電繰り返し工程を継続して行うことを特徴とする非水電解液型二次電池の製造方法。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の非水電解液型二次電池の製造方法であって,
前記充放電繰り返し工程では,
前記下限電圧から前記上限電圧までの範囲内で充放電を行った場合の充放電効率が,予め定めた充放電効率閾値以上である場合に,
前記充放電繰り返し工程を終了し,
前記下限電圧から前記上限電圧までの範囲内で充放電を行った場合の充放電効率が,予め定めた充放電効率閾値未満である場合に,
前記充放電繰り返し工程を継続して行うことを特徴とする非水電解液型二次電池の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の非水電解液型二次電池の製造方法であって,
前記充放電繰り返し工程の前に,前記非水電解液型二次電池を前記被膜形成電圧領域の上限電圧まで充電する予備充電工程を有し,
前記充放電繰り返し工程を,前記非水電解液型二次電池の放電から開始することを特徴とする非水電解液型二次電池の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の非水電解液型二次電池の製造方法であって,
前記充放電繰り返し工程の前に,前記非水電解液型二次電池を前記被膜形成電圧領域の下限電圧まで充電する予備充電工程を有し,
前記充放電繰り返し工程を,前記非水電解液型二次電池の充電から開始することを特徴とする非水電解液型二次電池の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれかに記載の非水電解液型二次電池の製造方法であって,
前記初期充電工程は,
前記充放電繰り返し工程の後に,2C以上5C未満の電流値で前記非水電解液型二次電池を充電する充電工程を有することを特徴とする非水電解液型二次電池の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれかに記載の非水電解液型二次電池の製造方法であって,
前記充放電繰り返し工程では,
充電および放電を定電流で行うことを特徴とする非水電解液型二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−227035(P2012−227035A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94698(P2011−94698)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】