説明

非水電解質一次電池、およびその製造方法

【課題】低温で安定した動作をする非水電解質一次電池、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】正極活物質を含む正極活物質層12、Li金属を含む負極活物質層22、およびこれら活物質層12,22の間に配される電解質層を備える非水電解質一次電池100である。正極活物質層12は、正極活物質粒子と固体電解質粒子を含む粉体を加圧成形して得られた粉末成形体であり、電解質層は、気相法、固相法あるいは液相法で形成された固体電解質層(SE層)3である。負極活物質層22は、SE層3上に気相法により形成されたLi薄膜層22Aと、Li薄膜層22Aに圧接されたLi箔層22Bと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質を含む正極活物質層、Li金属を含む負極活物質層、およびこれら活物質層の間に配置される電解質層を備える非水電解質一次電池、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器などの電源として、正極活物質層と負極活物質層とこれら活物質層の間に配される電解質層とを備える非水電解質一次電池が利用されている。例えば特許文献1には、負極活物質としてLi金属やLi合金を使用し、電解質層としてセパレーターと有機電解液を使用した非水電解質一次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−277650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように、有機電解液を用いた非水電解質一次電池では、特に低温での動作が不安定であるという問題がある。一次電池の使用環境は種々多様であり、冬季の屋外や冷凍倉庫などの場合もあり得るため、低温で安定した動作をする非水電解質一次電池の開発が望まれている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、低温で安定して動作する非水電解質一次電池、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、非水電解質一次電池の低温での動作を安定させるために、一次電池に備わる電解質層を固体とすることを検討した。まず本発明者らは、電解質層を固体とすることに伴い、この固体電解質層にLi金属箔を圧接することで負極活物質層を形成することを検討した。その結果、出来あがる一次電池の全抵抗が、従来の有機電解液を用いた一次電池よりも高くなってしまうことがわかった。これは、固体電解質層と負極活物質層との密着性が十分に確保できないため、両層の間の界面抵抗が高くなってしまうからであると考えられる。上記知見に基づいて本発明を以下に規定する。
【0007】
(1)本発明非水電解質一次電池は、正極活物質を含む正極活物質層、Li金属を含む負極活物質層、およびこれら活物質層の間に配される電解質層を備える。本発明非水電解質一次電池における正極活物質層は、正極活物質粒子と固体電解質粒子を含む粉体を加圧成形して得られた粉末成形体であり、電解質層は固体である。そして、本発明非水電解質一次電池の負極活物質層は、固体電解質層上に気相法により形成されたLi薄膜層と、Li薄膜層に圧接されたLi箔層と、を備える。
【0008】
上記構成のように非水電解質一次電池に備わる電解質層を固体とすることで、有機電解液を使用した従来の一次電池よりも低温で安定して動作する一次電池とすることができる。これは、有機電解液のLiイオン伝導性が温度の影響を受け易いのに対して、固体電解質のLiイオン伝導性は温度の影響を受け難いからである。
【0009】
また、上記構成のように一次電池に備わる負極活物質層を、固体電解質層上に形成されるLi薄膜層と、このLi薄膜層に圧接されるLi箔層とで構成することで、固体電解質層と負極活物質層との間の界面抵抗の上昇を抑制できる。気相法で形成されるLi薄膜層は、固体電解質層に対して殆ど隙間なく密着するため、Li薄膜層と固体電解質層との間の界面抵抗の上昇は抑制される。また、そのLi薄膜層とLi箔層とは、両層の組成の類似性によって馴染み良く密着するし、仮に両層が全面で密着しなかったとしても、もともとLi薄膜層とLi箔層はLi金属を主体とする高導電性の層であるので、両層間での界面抵抗の上昇は抑制される。なお、一次電池におけるLi薄膜層とLi箔層の材質が全く同じであったとしても、両層を区別することができる。例えば、結晶構造の点で気相法により得られたLi薄膜層と、気相法ではない方法で得られたLi箔層とを区別することができる。
【0010】
さらに、負極活物質層をLi薄膜層とLi箔層とに分けることで、生産性良く作製された非水電解質一次電池とすることができる。この点に関しては、後述する非水電解質一次電池の製造方法についての説明で詳しく述べる。
【0011】
(2)本発明非水電解質一次電池の一形態として、Li薄膜層の平均厚さは、0.5〜1.0μmであることが好ましい。
【0012】
Li薄膜層の平均厚さが上記範囲にあれば、固体電解質層との密着性を十分に確保できる。この平均厚さは、Li薄膜層の異なる10点以上で厚さを測定し、それら測定結果を平均することで求められる。
【0013】
(3)本発明非水電解質一次電池の一形態として、正極活物質粒子が酸化物で、前記固体電解質層が硫化物を含む場合、正極活物質粒子の表面に、Liイオン伝導性の被覆膜を備えることが好ましい。
【0014】
正極活物質粒子が酸化物で、固体電解質層が硫化物の場合、両者の接触界面が高抵抗化する恐れがある。これに対して、正極活物質粒子をLiイオン伝導性の被覆膜で覆ってしまうことで、上記高抵抗化を抑制することができる。被覆膜の材質としては、例えば、LiNbOやLiTaOなどのLiイオン伝導性酸化物を好適に利用することができる。
【0015】
(4)一方、本発明非水電解質一次電池の製造方法は、正極活物質を含む正極活物質層、Li金属を含む負極活物質層、およびこれら活物質層の間に配される電解質層を備える非水電解質一次電池を製造するための非水電解質一次電池の製造方法であって、以下の工程を備える。
・正極活物質粒子と固体電解質粒子を含む粉体を加圧成形して正極活物質層を含む正極体を形成する工程。
・前記正極体の表面に、気相法、固相法あるいは液相法により固体電解質層を形成する工程。
・固体電解質層の表面に、気相法によりLi薄膜層を形成する工程。
・Li薄膜層の表面に、Li金属を含む箔体を圧接して、Li箔層を形成する工程。
【0016】
本発明非水電解質一次電池の製造方法によれば、低温で安定して動作する本発明非水電解質一次電池を作製することができる。
【0017】
また、本発明非水電解質一次電池の製造方法によれば、生産性良く本発明一次電池を作製することができる。例えば、本発明の製造方法とは異なり、負極活物質層全体を気相法により作製した場合でも固体電解質層と負極活物質層との密着性を改善することはできる。しかし、代表的な気相法である真空蒸着法の成膜レートは1μm厚/30秒程度であり、例えば、厚さ500μmの負極活物質層を作製するとすれば、4時間以上かかることになる。しかも、気相法では、蒸発原料が真空チャンバー内に分散し、蒸発原料の全てを負極活物質層にすることができないため、蒸発原料のロスが大きい。このロスは、膜厚を厚くすればするほど大きくなる。これに対して、本発明の製造方法のように、負極活物質層を形成するにあたり、気相法でLi薄膜層を形成し、そのLi薄膜層に箔体を圧接する手法とすることで、短時間で負極活物質層を形成できるし、その形成の際に蒸発原料が無駄になる割合も少なくできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明非水電解質一次電池は、低温においても安定して動作させることができる。また、本発明非水電解質一次電池の製造方法によれば、生産性良く本発明非水電解質一次電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態1に記載の非水電解質一次電池の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<非水電解質一次電池の全体構成>
図1に示す非水電解質一次電池100は、正極層1、固体電解質層(SE層)3、および負極層2を備える。正極層1は、正極集電体11と正極活物質層12を、負極層2は、負極集電体21と負極活物質層22とを備える。さらに、負極活物質層22は、Li薄膜層22AとLi箔層22Bとを備える。以下、この一次電池100の各構成を詳細に説明する。
【0021】
[正極集電体]
正極集電体11は、導電材料のみから構成されていても良いし、絶縁基板上に導電材料の膜を形成したもので構成されていても良い。後者の場合、導電材料の膜が集電体として機能する。導電材料としては、AlやNi、これらの合金、ステンレスから選択される1種が好適に利用できる。
【0022】
[正極活物質層]
正極活物質層12は、電池反応の主体となる正極活物質粒子を含む粉体を加圧成形することで形成される粉末成形体の層である。正極活物質粒子の材質としては、例えば、MnOや、FC、TiS、CuS、FeS、FeSなどを利用することができる。ここで、正極活物質粒子の材質に何を利用するかによって、正極活物質粒子の表面に、Liイオン伝導性の被覆膜を形成することが好ましい。被覆膜の詳しい構成については後述する。
【0023】
上記正極活物質層12はさらに、カーボンブラックなどの導電助剤粒子や、LiS−Pなどの電解質粒子、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの結着材を含んでいても良い。
【0024】
この正極活物質層12の厚さは特に限定されない。作製する一次電池100に要求される性能に応じて正極活物質層12の厚さを決定すれば良い。なお、一次電池100の容量は、この正極活物質層12の理論容量と、後述する負極活物質層22の理論容量のうち、小さい方の値によって決まる。
【0025】
[SE層]
SE層3は、低電子伝導性で、かつ高Liイオン伝導性の固体電解質からなる層である。固体電解質には、大きく分けて酸化物系と硫化物系の2系統があり、電池の性能を向上させる観点からすれば、特に硫化物系の固体電解質を利用することが好ましい。硫化物系の固体電解質として代表的には、LiS−Pを挙げることができる。LiS−Pは、耐還元性を向上させる効果のあるPなどの酸化物を含んでいても良い。
【0026】
ところで、SE層3が硫化物の固体電解質を含む場合、正極活物質に酸化物を利用すると、両者が反応して高抵抗化することがある。この高抵抗化を抑制するために、正極活物質粒子の表面にLiイオン伝導性の被覆層を形成しても良い。被覆層および中間層の材質としては、非晶質のLiイオン伝導性酸化物、例えば、LiNbOやLiTaOなどを利用できる。これら被覆層や中間層はあくまで上記高抵抗化を抑制するためのものであり、厚く形成しすぎれば一次電池の性能を損なう恐れがある。そこで、被覆層の厚さは5〜50nmとすることが好ましい。
【0027】
[負極活物質層]
負極活物質層22は、電池反応の主体となる負極活物質のLi金属を含む層であって、気相法により形成されたLi薄膜層22Aと、Li薄膜層22Aに圧接された箔体であるLi箔層22Bを備える。両層22A,22Bは、活物質としてLi金属を含んでいれば良く、全くの同一組成であっても良いし、異なる組成であっても良い。
【0028】
Li薄膜層22Aは、気相法で形成される極薄い膜である。Li薄膜層22Aを気相法で形成することで、SE層3に隙間なく密着したLi薄膜層22Aを形成でき、SE層3とLi薄膜層22Aとの間の界面抵抗を低く抑えることができる。
【0029】
このLi薄膜層22Aの厚さは特に限定されないが、0.5〜1μmとすることが好ましい。この範囲の厚さを有するLi薄膜層22Aであれば、SE層3の全面に亘って形成されたLi薄膜層22Aとすることができる。
【0030】
一方、Li箔層22Bは、Li薄膜層22Aとは別個に用意された箔体を、Li薄膜層22Aの形成後にLi薄膜層22Aに圧接することで形成された層である。このLi箔層22Bは、上記Li薄膜層22Aに密着していれば良く、接着している必要はない。もちろん、両層22A,22Bの間で原子の拡散が生じ、両層22A,22Bが接着していてもかまわない。
【0031】
Li箔層22Bの厚さは、作製する一次電池100の容量をどのくらいとするかによって適宜選択すれば良い。例えば、Li箔層22Bの厚さは、500μm〜1mm程度とすると良い。ここで、上記Li薄膜層22Aは極薄い層であり、一次電池100の容量に殆ど寄与しないため、一次電池100の容量は、Li箔層22Bの厚さによって決定される。
【0032】
Li薄膜層22AとLi箔層22Bとは、全く同一組成であったとしても区別することができる。典型的には、気相法で形成されたLi薄膜層22Aと、圧延などの機械加工で得られた箔体からなるLi箔層22Bとは、結晶構造の点で決定的に異なる。
【0033】
[負極集電体]
負極集電体21は、負極活物質層22の上に形成される導電材料からなる。導電材料としては、例えば、Cu、Ni、Fe、Cr、及びこれらの合金(例えば、SUS)から選択される1種が好適に利用できる。
【0034】
<非水電解質一次電池の効果>
以上説明した非水電解質一次電池100は、低温でもLiイオン伝導性が低下し難いSE層3を備えるため、低温で安定して動作する。また、負極活物質層22をLi薄膜層22AとLi箔層22Bから形成することで、SE層3と負極活物質層22との間の界面抵抗の上昇を抑制することができる。
【0035】
<非水電解質一次電池の製造方法>
上記非水電解質一次電池100は、以下の工程に従う本発明非水電解質一次電池の製造方法により作製できる。
(A)正極活物質層12を有する正極体を粉末成形法により作製する。
(B)正極体上にSE層3を形成する。
(C)SE層3上にLi薄膜層22Aを気相法により形成する。
(D)Li金属を含む箔体をLi薄膜層22Aの表面に圧接して、Li箔層22Bを形成する。
【0036】
≪工程A:正極体の作製≫
正極体は、正極活物質層12のみで構成されていても良いし、正極集電体11と正極活物質層12とで構成されていても良い。正極活物質層12のみの正極体を作製する場合、原料となる粉末を金型に充填し、その充填した粉末を加圧成形する。この場合、正極集電体11は後から正極活物質層12上に形成する。例えば、正極活物質層12からなる正極体に金属箔を圧接して正極集電体11を形成しても良いし、正極活物質層12からなる正極体に気相法により金属を蒸着させて正極集電体11を形成しても良い。
【0037】
一方、正極集電体11と正極活物質層12とが一体となった正極体を作製するには、正極集電体11となる基板を金型内に配置し、その基板の上に正極活物質層12の原料粉末を充填する。そして、基板と原料粉末を一体に加圧成形すると良い。
【0038】
≪工程B:SE層の作製≫
SE層3の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法などの気相法や、粉末成形法などの固相法、ゾルゲル法などの液相法を利用できる。特に気相法を利用すれば、緻密なSE層3を形成することができる。例えば、真空蒸着法であれば、工程Aで作製した正極体を真空チャンバーの中に配置し、その真空チャンバー内でSE層3の原料を蒸発させ、正極活物質層12の表面にSE層3を形成する。
【0039】
ここで、上記工程Bの後に、SE層3を有する正極体のうち、SE層3が形成される側とは反対側から正極活物質層12に有機電解液を含浸させ、正極活物質層12とSE層3との界面近傍における抵抗の低減を図っても良い。
【0040】
≪工程C:Li薄膜層の形成≫
Li薄膜層22Aの形成には、気相法を用いる。気相法であれば、SE層3の表面状態が粗くても、SE層3の表面全体に亘って密着したLi薄膜層22Aを形成できる。Li薄膜層22Aは、Li薄膜層22Aを上面視したときにSE層3が露出しない程度に形成すれば良い。例えば、Li薄膜層22Aの平均厚さは0.5μm以上あれば十分である。一方、Li薄膜層22Aを厚くしていくと、Li薄膜層22Aの形成に時間がかかるので、Li薄膜層22Aの平均厚さの上限は、1μm程度とすることが好ましい。
【0041】
≪工程D:Li箔層の形成≫
Li箔層22Bを形成するには、Li金属を主体とする箔体を用意し、この箔体をLi薄膜層22Aの表面に重ね合わせる。そして、圧力をかけて箔体をLi薄膜層22Aに押し付けて、Li薄膜層22Aに密着するLi箔層22Bを形成する。上記圧力は、3MPa程度とすることが好ましい。また、圧力をかける際に、箔体を加熱しても良く、その場合、加熱温度は80℃程度とすることが好ましい。
【0042】
以上説明した工程によれば、図1に示す非水電解質一次電池100を作製することができる。
【実施例】
【0043】
以下に示す非水電解質一次電池を作製し、各一次電池の全抵抗を側定することで、各一次電池の性能を評価した。
【0044】
<試料A>
試料Aの非水電解質一次電池は、以下のようにして作製した。
正極活物質層は、平均粒径5μmのMnO粒子、平均粒径1μmのLis−P粒子、および平均粒径35nmのカーボン粒子を質量%で66:28:6の割合で混合し、圧力360MPa、室温で加圧成形することで得た。正極活物質層の厚さは1.2mmであった。
SE層は、LiS−Pを真空蒸着することで得た。SE層の厚さ=10μmであった。
Li薄膜層は、Li金属を真空蒸着することで得た。Li薄膜層の厚さ=0.7μmであった。
Li箔層は、厚さ1mmのLi金属箔を、Li薄膜層の上に圧接することで得た。圧接時の圧力は3MPa、温度は室温であった。
【0045】
<試料B>
試料Bは、次に示す点以外は、試料Aと同様の構成を備える。
試料Bでは、正極活物質であるMnO粒子の表面に、平均厚さ7nmのLiNbOからなる被覆膜が形成されたものを使用した。LiNbOはLiイオン伝導性である。被覆膜の形成は、エトキシリチウム(LiOC)とペンタエトキシニオブ(Nb(OC))の等モル混合物をエタノール溶媒に溶解したアルコキシド溶液を用意し、その溶液をMnO粒子に噴霧・加熱することで得た。
【0046】
<試料C>
試料Cは、次に示す点以外は、試料Aと同様の構成を備える。
試料Cでは、正極活物質として、平均粒径5μmのFC(フッ化カーボン)粒子を使用した。
【0047】
<試料D>
試料Dは、次に示す点以外は、試料Aと同様の構成を備える。
試料Dでは、SE層の表面にLi薄膜層を形成することなく、SE層の表面に直接Li金属箔を圧接することで負極活物質層を形成した。圧接の条件は、試料Aと同様である。
【0048】
作製した試料A〜Dの全抵抗を、複素インピーダンス法により測定した。測定した各試料の全抵抗の結果を表1に示す。また、表1には、各試料の構成の相違を明確にするために、各試料の特徴の一部を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、試料A〜Cの全抵抗は、試料Dの全抵抗によりも格段に低く抑えられていた。試料Dの全抵抗が高いのは、単にSE層の上にLi金属箔を圧接させることで負極活物質層を形成した試料Dでは、SE層とLi金属箔からなる負極活物質層との接触面積が十分に確保できないからであると推察される。一方、試料A〜Cでは、SE層の上に気相法でLi薄膜層を形成することでSE層とLi薄膜層との接触面積が十分に確保されるため、試料A〜Cの全抵抗が低く抑えられると考えられる。また、Li薄膜層とLi箔層との接触は、金属同士の接触であるため、仮に両層の間に非接触の部分があったとしても、両層の間の界面抵抗が著しく上昇することがなく、そのことが試料A〜Cの全抵抗が低く抑えられた要因であると考えられる。
【0051】
試料Aと試料Bとを比較すれば、正極活物質粒子を酸化物、SE層を硫化物とした場合でも、正極活物質粒子の表面にLiイオン伝導性の被覆膜を形成することにより、一次電池の全抵抗を低く抑えられることがわかる。また、試料Aと試料Cとを比較すれば、SE層を硫化物としても、正極活物質が酸化物でなければ、一次電池の全抵抗を低く抑えられることがわかる。
【0052】
なお、本発明は上述の実施の形態に何ら限定されることはない。即ち、上述した実施形態に記載の非水電解質一次電池の構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明非水電解質一次電池は、電気機器の電源として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
100 非水電解質一次電池
1 正極層
11 正極集電体
12 正極活物質層
2 負極層
21 負極集電体
22 負極活物質層 22A Li薄膜層 22B Li箔層
3 固体電解質層(SE層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極活物質層、Li金属を含む負極活物質層、およびこれら活物質層の間に配される電解質層を備える非水電解質一次電池であって、
正極活物質層は、正極活物質粒子と固体電解質粒子を含む粉体を加圧成形して得られた粉末成形体であり、
電解質層は、固体であり、
負極活物質層は、固体電解質層上に気相法により形成されたLi薄膜層と、Li薄膜層に圧接されたLi箔層と、を備えることを特徴とする非水電解質一次電池。
【請求項2】
前記Li薄膜層の平均厚さは、0.5〜1.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質一次電池。
【請求項3】
前記正極活物質粒子が酸化物で、前記固体電解質層が硫化物を含む場合、
正極活物質粒子の表面に、Liイオン伝導性の被覆膜を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解質一次電池。
【請求項4】
正極活物質を含む正極活物質層、Li金属を含む負極活物質層、およびこれら活物質層の間に配される電解質層を備える非水電解質一次電池を製造するための非水電解質一次電池の製造方法であって、
正極活物質粒子と固体電解質粒子を含む粉体を加圧成形して正極活物質層を含む正極体を形成する工程と、
前記正極体の表面に、気相法、固相法あるいは液相法により固体電解質層を形成する工程と、
固体電解質層の表面に、気相法によりLi薄膜層を形成する工程と、
Li薄膜層の表面に、Li金属を含む箔体を圧接して、Li箔層を形成する工程と、
を備えることを特徴とする非水電解質一次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−94382(P2012−94382A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240938(P2010−240938)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】