説明

非水電解質二次電池とその製造方法および評価方法

【課題】 非水電解質二次電池の正極板に好適な導電パスが形成されているか否かを評価する非水電解質二次電池の評価方法および非水電解質二次電池とその製造方法を提供すること。
【解決手段】 正極板Pの正極合材層PAの導電パスの形成度合いを走査型プローブ顕微鏡1000により検査する。走査型プローブ顕微鏡1000の探針1210と正極芯材PBとの間に10Vの定電圧を印加しつつ,正極合材層PAの表面に探針1210を走査させるとともに,探針1210と正極芯材PBとの間に流れる電流値を測定する。測定領域全体の面積Wに対して,各測定点における電流値が50nA以上である高電流領域H1の面積Hが占める割合が,40%以上である場合に,その正極板Pを良品であると判断する。そうでない場合に,その正極板Pを不良品であると判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,非水電解質二次電池とその製造方法および評価方法に関する。さらに詳細には,内部抵抗の低い非水電解質二次電池とその製造方法および評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池は,携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器,ハイブリッド車両や電気自動車等の車両など,多岐にわたる分野で利用されている。二次電池には,リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池では,エネルギー密度が高く,メモリ効果がない。したがって,各種の機器に搭載する上で好適である。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極板は,正極芯材に正極合材層を形成されたものである。正極合材層には,少なくとも正極活物質が含まれている。正極活物質は,リチウムイオンを吸蔵・放出して電極反応を起こすためのものである。しかし,正極活物質は,ニッケル酸リチウム等のリチウム複合酸化物であり,電気抵抗の高い物質である。そのため,正極活物質に加えて炭素系物質を導電材として添加することが一般的である。正極合材層の電子伝導性を高いものとするためである。
【0004】
正極板の正極合材層における電子伝導性は,リチウムイオン二次電池の内部抵抗に直結する。したがって,正極合材層に導電パスを好適に形成するための技術が開発されてきている。例えば,特許文献1には,正極活物質の平均粒径の2/1000以下の粒径である導電材を添加した正極板を有するリチウムイオン二次電池が開示されている(特許文献1の段落[0009]参照)。これにより,正極活物質の表面の広い範囲に導電材をほぼ均一に付着させることができるとしている(特許文献1の段落[0010]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−250553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,正極板の内部抵抗を小さいものとするためには,正極合材層の表面から正極芯材にかけて形成される導電パスが,正極合材層の板面方向全体にわたって形成されているとよい。しかし,特許文献1に記載の製造方法を採用したところで,好適な導電パスが正極合材層の板面方向全体にわたって形成されているか否かについては必ずしも明確ではない。つまり,正極合材層のある領域では導電パスが十分に形成されているが,別の領域では導電パスが十分に形成されていないという場合がある。これでは,リチウムイオン二次電池の電池性能にばらつきが生じるおそれがある。
【0007】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,非水電解質二次電池の正極板に好適な導電パスが形成されているか否かを評価する非水電解質二次電池の評価方法および非水電解質二次電池とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の一態様における非水電解質二次電池の製造方法は,正極芯材に塗工液を塗工して乾燥させることにより正極芯材に正極合材層を形成して正極板とする正極板作成工程と,正極板と負極板とをこれらの間にセパレータを介在させて積層して積層電極体とする電極体作成工程と,積層電極体を電池容器に収容するとともに電池容器に電解液を注入して電池とする電池組立工程とを有する方法である。また,正極板作成工程の後から電極体作成工程までの間に,正極合材層に形成されている導電パスを走査型プローブ顕微鏡により検査する正極板検査工程を有する。そして,正極板検査工程は,走査型プローブ顕微鏡の探針と正極芯材との間に予め定めた定電圧を印加しつつ,正極合材層の表面に探針を走査させるとともに,探針と正極芯材との間に流れる電流値を測定して電流値マップを作成する電流値マップ作成工程と,電流値マップの測定領域全体の面積に対して,電流値マップの各測定点における電流値が予め定めた閾値電流以上である高電流領域の面積が占める割合(導電パス面積率)が,予め定めた導電パス面積閾値以上である場合に,正極板を電極体作成工程に用いることを決定し,導電パス面積率が,予め定めた導電パス面積閾値未満である場合に,正極板を電極体作成工程に用いないことを決定する正極板判断工程とを有する。かかる非水電解質二次電池の製造方法では,正極合材層に導電パスが好適に形成されている正極板を用いて非水電解質二次電池を製造することができる。そのため,製造される非水電解質二次電池の電池性能にほとんどばらつきがない。
【0009】
上記に記載の非水電解質二次電池の製造方法において,正極板検査工程では,走査型プローブ顕微鏡の測定モードとしてコンタクトモードを採用し,電流値マップ作成工程では,定電圧として10Vを採用し,正極板判断工程では,閾値電流として50nAを,導電パス面積閾値として40%を採用するとよい。正極合材層に導電パスがより確実に形成されている正極板を用いて非水電解質二次電池を製造することができるからである。
【0010】
また,本発明の別の態様における非水電解質二次電池の評価方法は,正極芯材に正極合材層の形成された正極板を走査型プローブ顕微鏡により検査する方法である。そして,走査型プローブ顕微鏡の探針と正極芯材との間に予め定めた定電圧を印加しつつ,正極合材層の表面に探針を走査させるとともに,探針と正極芯材との間に流れる電流値を測定して電流値マップを作成する電流値マップ作成工程と,導電パス面積率が,予め定めた導電パス面積閾値以上である場合に,正極板を良品であると判断し,導電パス面積率が,予め定めた導電パス面積閾値未満である場合に,正極板を不良品であると判断する正極板判断工程とを有する。かかる非水電解質二次電池の評価方法では,正極板の正極合材層に導電パスが好適に形成されているか否かを検査することができる。
【0011】
上記に記載の非水電解質二次電池の評価方法において,走査型プローブ顕微鏡の測定モードとしてコンタクトモードを採用し,電流値マップ作成工程では,定電圧として10Vを採用し,正極板判断工程では,閾値電流として50nAを,導電パス面積閾値として40%を採用するとよい。正極板の正極合材層に導電パスが好適に形成されているか否かをより確実に検査することができるからである。
【0012】
また,本発明のさらに別の態様における非水電解質二次電池は,正極芯材の少なくとも一方の面に正極合材層の形成された正極板と,負極板とが,これらの間にセパレータを介在させて積層された積層電極体と,積層電極体と電解液とを収容する電池容器とを有するものである。そして,正極板は,走査型プローブ顕微鏡の測定モードとしてコンタクトモードを採用して,走査型プローブ顕微鏡の探針と正極芯材との間に10Vの定電圧を印加しつつ,正極合材層の表面に探針を走査させるとともに,探針と正極芯材との間に流れる電流値を測定したときに,測定領域全体の面積に対して,各測定点における電流値が50nA以上である高電流領域の面積が占める割合が,40%以上である。かかる非水電解質二次電池には,正極合材層に導電パスが好適に形成されている正極板が用いられている。そのため,非水電解質二次電池の内部抵抗は小さい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,非水電解質二次電池の正極板に好適な導電パスが形成されているか否かを評価する非水電解質二次電池の評価方法および非水電解質二次電池とその製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係るバッテリパックの概略構成を説明するための斜視図である。
【図2】実施形態に係るバッテリの概略構成を説明するための断面図である。
【図3】実施形態に係るバッテリの捲回電極体を説明するための斜視図である。
【図4】実施形態に係るバッテリの捲回電極体の捲回構造を説明するための展開図である。
【図5】実施形態に係るバッテリの正極板(負極板)の断面構造を説明するための斜視断面図である。
【図6】実施形態で用いる走査型プローブ顕微鏡を説明するための概略構成図である。
【図7】実施形態で用いる走査型プローブ顕微鏡を用いて作成される電流値マップを例示する図である。
【図8】正極板の導電パス面積率とバッテリの内部抵抗との関係について行った実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池とその製造方法および評価方法について,本発明を具体化したものである。
【0016】
1.電池の構造
1−1.バッテリパック
本形態のバッテリパックBPは,図1に示すように,バッテリ100を直列に接続した組電池である。バッテリ100は,リチウムイオン二次電池の単電池である。バッテリパックBPでは,図1に示すように,バッテリ100の正極端子と,そのバッテリ100に隣り合うバッテリ100の負極端子とが,バスバー190を介して締結されている。この締結は,ボルトとナットによりなされている。
【0017】
1−2.バッテリセル
バッテリ100の概略構成を図2の断面図に示す。図2は,図1に示したバッテリパックBPからバッテリ100を取り出して描いたものである。電池容器110は,図2に示すように,電池容器本体120と,封口板130とを備えるものである。電池容器110の内部には,捲回電極体10が配置されている。この捲回電極体10は,実際に発電に寄与する発電要素である。封口板130は,電池容器本体120の開口部を塞ぐためのものである。そのため,電池容器本体120に接合されている。
【0018】
電池容器110の内部には,電解液が注入されている。この電解液は,有機溶媒に電解質を溶解させたものである。有機溶媒として例えば,プロピレンカーボネート(PC),エチレンカーボネート(EC),ジメチルカーボネート(DMC),ジエチルカーボネート(DEC),エチルメチルカーボネート(EMC),1,2−ジメトキシエタン,1,2−ジエトキシエタン,テトラヒドロフラン,2−メチルテトラヒドロフラン,ジオキサン,1,3−ジオキソラン,エチレングリコールジメチルエーテル,ジエチレングリコールジメチルエーテル,アセトニトリル,プロピオニトリル,ニトロメタン,N,N−ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド,スルホラン,γ−ブチロラクトン等の非水系溶媒またはこれらを組み合わせた溶媒を用いることができる。
【0019】
また,電解質である塩として,過塩素酸リチウム(LiClO)やホウフッ化リチウム(LiBF),六フッ化リン酸リチウム(LiPF),六フッ化砒酸リチウム(LiAsF),LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO,LiIなどのリチウム塩を用いることができる。
【0020】
図2に示すように,バッテリ100は,正極端子50と,負極端子60と,絶縁部材150と,絶縁部材160とを有している。絶縁部材150は,正極端子50と封口板130とを絶縁するための部材である。絶縁部材160は,負極端子60と封口板130とを絶縁するための部材である。
【0021】
図2に示すように,封口板130には注液孔140が設けられている。注液孔140は,封口板130を貫通する貫通孔である。注液孔140は,電解液を電池容器110の内部に注入するためのものである。蓋体170は,封口板130の注液孔140を塞ぐための注液孔用蓋体である。したがって,蓋体170は,注液孔140の開口部分を覆っている。蓋体170は,封口板130の外側から封口板130にシーム溶接されている。
【0022】
1−3.捲回電極体の構造
図3は,捲回電極体10を示す斜視図である。図3に示すように,捲回電極体10は扁平形状をしている。捲回電極体10の一方の端部には,正極端部30が突出している。正極端部30は,後述するように,正極板の正極芯材が突出している箇所である。捲回電極体10の他方の端部には,負極端部40が突出している。負極端部40は,後述するように,負極板の負極芯材が突出している箇所である。
【0023】
図4は,捲回電極体10の捲回構造を示す展開図である。捲回電極体10は,図4に示すように,内側から正極板P,セパレータS,負極板N,セパレータTの順に積み重ねた状態で捲回されたものである。すなわち,捲回電極体10は,正極板Pと負極板Nとをこれらの間にセパレータS,Tを介在させて交互に配置したものである。
【0024】
正極板Pは,正極芯材であるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含む合材を塗布したものである。負極板Nは,負極芯材である銅箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含む合材を塗布したものである。
【0025】
図4に示すように正極板Pには,正極塗工部P1と,正極非塗工部P2とがある。正極塗工部P1は,正極芯材に正極活物質等を含む正極合材層を形成した箇所である。正極非塗工部P2は,正極芯材に正極合材層を形成していない箇所である。負極板Nには,負極塗工部N1と,負極非塗工部N2とがある。負極塗工部N1は,負極芯材に負極活物質等を含む負極合材層を形成した箇所である。負極非塗工部N2は,負極芯材に負極合材層を形成していない箇所である。
【0026】
図4中の矢印Aは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの幅方向(図3でいえば横方向)を示している。図4中の矢印Bは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの長手方向(図3の捲回電極体10の周方向)を示している。
【0027】
セパレータS,Tは,ポリエチレンやポリプロピレン等の多孔性フィルムである。セパレータS,Tの厚みは,10〜50μm程度である。ここで,セパレータSとセパレータTとは同じ材質のものである。上記の捲回順の理解のために符号をS,Tとして区別しただけである。
【0028】
1−4.電極板の構造
図5は,正極板P(もしくは負極板N)の斜視断面図である。図5中の括弧外の各符号は,正極の場合の各部を,括弧内の各符号は,負極の場合の各部を示している。図5中の矢印Aが示す方向は,図4中の矢印Aが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の幅方向である。図5中の矢印Bが示す方向は,図4中の矢印Bが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の長手方向である。
【0029】
図5に示すように,正極板Pは,帯状の正極芯材PBの両面の一部に正極合材層PAが形成されたものである。図5中左側には,正極板Pの正極非塗工部P2が幅方向に突出している。正極非塗工部P2は,帯状に形成されている。正極非塗工部P2は,正極芯材PBの両面ともに正極活物質が塗布されていない領域である。したがって正極非塗工部P2では,正極芯材PBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,正極非塗工部P2に対応するような突出部はない。正極塗工部P1では,正極芯材PBの両面に一様の厚みで正極合材層PAが形成されている。
【0030】
正極合材層PAは,正極芯材PBであるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質の他に,導電材,結着材,増粘材を含む合材を塗布して形成された層である。正極活物質として,ニッケル酸リチウム(LiNiO),マンガン酸リチウム(LiMn),コバルト酸リチウム(LiCoO),LiNi1/3Co1/3Mn1/3等のリチウム複合酸化物などが用いられる。
【0031】
正極用の導電材として,カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。例えば,アセチレンブラック,ファーネスブラック,ケッチェンブラック等のカーボンブラック,グラファイト粉末,などのカーボン粉末である。
【0032】
正極用の結着材は,電解液に不溶性(または難溶性)であって,正極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであるとよい。例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂,酢酸ビニル共重合体,スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス),アラビアゴム等のゴムを用いることができる。または,これらの組み合わせを用いてもよい。結着材は,必ずしも上記のポリマーに限定されない。
【0033】
正極用の増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC),酢酸フタル酸セルロース(CAP),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースが用いられる。ただし,必ずしも上記したようなセルロースに限らず用いることができる。
【0034】
溶媒として,水が挙げられる。その他に,N−メチル−2−ピロリドン(NMP,以下NMPという)を用いてもよい。また,その他の低級アルコールや低級ケトンを用いることもできる。
【0035】
図5の括弧内の符号で示すように,負極板Nは,帯状の負極芯材NBの両面の一部に負極合材層NAが形成されたものである。図5中左側には,負極板Nの負極非塗工部N2が幅方向に突出している。負極非塗工部N2は,帯状に形成されている。負極非塗工部N2は,負極芯材NBの両面ともに負極活物質が塗布されていない領域である。したがって負極非塗工部N2では,負極芯材NBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,負極非塗工部N2に対応するような突出部はない。負極塗工部N1では,負極芯材NBの両面に一様の厚みで負極合材層NAが形成されている。ただし,図4に示したように,捲回時には,正極非塗工部P2と負極非塗工部N2とは,反対側に突出した状態で捲回されることとなる。
【0036】
負極合材層NAは,負極芯材NBである銅箔に負極活物質,結着材,増粘材を含む合材を塗布して乾燥させた層である。負極活物質は,リチウムイオンを吸蔵・放出可能な物質である。負極活物質として,少なくとも一部にグラファイト構造を含む炭素系物質が用いられる。例えば,非晶質炭素,難黒鉛化炭素(ハードカーボン),易黒鉛化炭素(ソフトカーボン),黒鉛(グラファイト),またはこれらを組み合わせた構造を有する炭素材料を用いることができる。
【0037】
負極用の結着材は,電解液に不溶性(または難溶性)であって,負極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであるとよい。例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂,酢酸ビニル共重合体,スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス),アラビアゴム等のゴムを用いることができる。または,これらの組み合わせを用いてもよい。結着材は,必ずしも上記のポリマーに限定されない。
【0038】
負極用の増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC),酢酸フタル酸セルロース(CAP),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースが用いられる。ただし,必ずしも上記したようなセルロースに限らず用いることができる。
【0039】
溶媒として,水が挙げられる。NMPを用いてもよい。また,その他の低級アルコールや低級ケトンを用いることもできる。
【0040】
2.走査型プローブ顕微鏡
2−1.走査型プローブ顕微鏡の構成
本実施の形態では,走査型プローブ顕微鏡を用いて,導電パス面積率を求め,その導電パス面積率に基づいて,正極板Pの品質を評価することに特徴を有する。したがってまず,走査型プローブ顕微鏡について説明する。導電パス面積率については,後で詳しく説明する。
【0041】
走査型プローブ顕微鏡は,正極合材層PAの表面から正極芯材PBに流れる電流を検出するためのものである。そして,予め定めた測定領域において,XY方向にプローブを走査しつつ測定を行う。これにより,正極合材層PAの表面から正極芯材PBに流れる電流について,マッピングを行うことができる。つまり,走査型プローブ顕微鏡を用いることで,正極合材層PAの表面から正極芯材PBに至る導電パスが好適に形成されている箇所と,そうでない箇所とをマッピングにより表示することができる。
【0042】
走査型プローブ顕微鏡の概略構成図を図6に示す。図6には,試料である正極板Pも描かれている。正極板Pはもちろん,試料であって,走査型プローブ顕微鏡1000を構成するものではない。図6に示すように,走査型プローブ顕微鏡1000は,試料台1110と,XY方向アクチュエータ1120と,Z方向アクチュエータ1130と,探針1210と,カンチレバー1220と,ミラー1230と,半導体レーザ発振器1310と,レーザ検出部1320と,電圧印加部1410と,XY駆動回路1420と,Z電圧フィードバック回路1430と,制御部1500と,表示部1600とを有している。
【0043】
試料台1110は,試料である正極板Pを載置するための台である。XY方向アクチュエータ1120は,試料台1110をXY方向に走査するためのものである。Z方向アクチュエータ1130は,試料台1110をZ方向に微小量だけ変位させるためのものである。後述するように,Z方向アクチュエータ1130は,プローブの走査時にカンチレバー1220の撓みを一定とするように調整するためのものである。
【0044】
探針1210は,試料である正極板Pの正極合材層PAの表面に接触するプローブである。カンチレバー1220は,その先端に探針1210が設けられている片持ち梁である。そのため,カンチレバー1220には,撓みが生じている。探針1210が正極板Pを走査する際には,正極合材層PAの表面形状の凹凸に応じて,カンチレバー1220の撓みの度合いは変化しうる。ただし,カンチレバー1220の撓みが一定となるように,フィードバック制御が行われる。
【0045】
ミラー1230は,半導体レーザ発振器1310により照射されるレーザを反射するためのものである。そしてミラー1230は,カンチレバー1220の背面に設けられている。半導体レーザ発振器1310は,ミラー1230に向けてレーザを発振するためのレーザ発振部である。レーザ検出部1320は,ミラー1230により反射されたレーザを検出するためのものである。このレーザ検出部1320で検出されたレーザの位置情報により,カンチレバー1220の撓みを検出することができる。
【0046】
電圧印加部1410は,試料である正極板Pの正極芯材PBと,探針1210との間に電圧を印加するためのものである。電圧印加部1410は,探針1210に流れる電流を測定することのできる電流測定部でもある。
【0047】
XY駆動回路1420は,XY方向アクチュエータ1120をXY方向に動かすための回路である。ここでXY方向とは,試料台1110に載置される正極板Pの板面方向に相当する方向である。XY方向アクチュエータ1120が実際にXY方向に動くことによって,試料台1110がXY方向に動くことになる。これにより,探針1210を試料に接触させた状態で探針1210を走査させることができる。
【0048】
Z電圧フィードバック回路1430は,Z方向アクチュエータ1130をZ方向に動かすフィードバック制御を行う回路である。ここでZ方向とは,試料台1110に載置される正極板Pの厚み方向に相当する方向である。Z方向アクチュエータ1130が実際にZ方向に動くことによって,試料台1110がZ方向に動くことになる。これにより,カンチレバー1220の撓み量を一定に保つことができる。つまり,探針1210の先端が正極合材層PAの表面の凹凸形状に沿うように,探針1210を走査することができる。したがって,電流値の測定に際して接触抵抗のばらつきはほとんどない。
【0049】
制御部1500は,各部を制御するためのものである。表示部1600は,測定された電流値に基づいてマッピングされた電流値マップなどのデータを表示するためのものである。
【0050】
2−2.走査型プローブ顕微鏡によるマッピング方法
本形態では,走査型プローブ顕微鏡1000を用いて,コンタクトモードにより導電パスのマッピング化を行う。コンタクトモードでは,カンチレバー1220に生じる撓みを一定となるようにフィードバック制御を行いつつ探針1210を走査する。
【0051】
マッピングを行う際には,電圧印加部1410が,試料である正極板Pの正極芯材PBと,探針1210との間に定電圧を印加する。この定電圧の印加を行いつつ,正極合材層PAの表面に探針1210を走査する。そして,探針1210の走査を行いつつ,電圧印加部1410は,探針1210が正極合材層PAの表面に接触するコンタクトモードで,探針1210と正極芯材PBとの間に流れる電流値を測定する。この電流は,正極合材層PAの表面から正極芯材PBまでの導電パスに流れるものである。前述のとおり,電圧印加部1410は,電流測定部も兼ねている。この測定により,測定領域の各点における電流値のデータが得られる。つまり,電流値マップが作成されるのである。
【0052】
続いて,測定領域の各点における電流値のデータについて閾値を用いて2値化する。まず,予め閾値電流を定めておく。そして,測定領域の各測定点を,予め定めた閾値電流以上の電流が流れる高電流領域H1と,予め定めた閾値電流未満の電流が流れる低電流領域L1とに分類する。これにより,2値化された画像データが得られる。図7に,2値化されたマッピング画像の一例を示す。図7中,高電流領域H1を白色で表している。低電流領域L1を黒色で表している。
【0053】
3.導電パス面積率
ここで導電パス面積率とは,走査型プローブ顕微鏡1000を用いて,探針1210と正極芯材PBとの間に予め設定した定電圧を印加したときに,電流値マップの測定領域の全面積Wに対して,高電流領域H1の面積Hが占める割合のことをいう。
【0054】
つまり,導電パス面積率Rを次式で表すことができる。
R = H / W
W = H + L
R: 導電パス面積率
H: 高電流領域H1の面積
L: 低電流領域L1の面積
W: 測定領域の全面積
ここで,高電流領域H1では,導電パスが十分に形成されている。低電流領域L1では,高電流領域H1に比べると,導電パスの形成は十分ではない。
【0055】
導電パス面積率Rは,正極合材層PAの内部における電子伝導性を表すものである。導電パス面積率Rが大きいほど,電子の伝導性はよい。導電パス面積率Rを高いものとするには,種々の方法がある。例えば,正極用塗工液に添加する導電材の添加量を増やすことである。ただし,導電パスの形成度合いは,このような原材料の組成比だけで決まるものではない。例えば,正極板Pをロールプレスするときに加える力を大きくすると,導電パス面積率Rの値は大きいものとなる。また,正極用塗工液を作成する際に,種々の分散処理を施すことで導電パス面積率Rは大きいものとなる。
【0056】
4.正極板の評価方法
ここで,正極板Pが良品であるか否かを判断する判断方法について説明する。本形態では,前述の走査型プローブ顕微鏡1000を用いて,正極板Pの導電パス面積率Rを測定する。導電パス面積率Rが予め定めた導電パス面積閾値以上である場合に,その正極板Pを良品であると判断する。一方,導電パス面積率Rが予め定めた導電パス面積閾値未満である場合に,その正極板Pを不良品であると判断する。
【0057】
本形態では,電圧印加部1410は,正極芯材PBと探針1210との間に10Vの電圧を印加する。そして,閾値電流を50nAとする。そのため,高電流領域H1の面積Hは,正極芯材PBと探針1210との間に10Vの電圧を印加したときに,50nA以上の電流が流れた領域の面積である。低電流領域L1の面積Lは,正極芯材PBと探針1210との間に10Vの電圧を印加したときに,50nA未満の電流が流れた領域の面積である。図7では,白い箇所の面積の総和がHに該当する。黒い箇所の面積の総和がLに該当する。
【0058】
本形態では,導電パス面積閾値として,40%を採用する。そして,上記の条件で算出した導電パス面積率Rが40%以上である場合に,正極板Pを良品であると判断するとともに,上記の条件で算出した導電パス面積率Rが40%未満である場合に,正極板Pを不良品であると判断する。なお,導電パス面積閾値の値は,以下に説明する実験(図8参照)の結果から決定した。
【0059】
5.実験
5−1.評価項目
ここで,本形態のリチウムイオン二次電池について行った実験について説明する。この実験では,作成したリチウムイオン二次電池について,二次電池とする前の正極板の導電パス面積率Rと,その正極板から作成した二次電池の内部抵抗との関係を調べた。
【0060】
5−2.実験の条件
実験に用いたリチウムイオン二次電池の正極板および負極板の材料を,表1に示す。これらの材料により作成した正極板と負極板とを,これらの間にセパレータを介在させて,円筒形状の捲回電極体を作成し,円筒型電池とした。正極板の導電パス面積率Rを,エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いてコンタクトモードにより測定した。なお,正極板の作成にあたり,各材料の配合比率や,塗工液の混練条件等を変えて複数の試料を作成した。
【0061】
[表1]
正極用塗工液
正極活物質 LiNi1/3Co1/3Mn1/3
導電材 アセチレンブラック(AB)
結着材 ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
溶媒 NMP
負極用塗工液
負極活物質 グラファイト
結着材 スチレンブタジエンゴム(SBR)
増粘材 カルボキシメチルセルロース(CMC)
溶媒 水
【0062】
5−3.実験結果
図8は,導電パス面積率と,内部抵抗との関係について行った実験結果を示すグラフである。このグラフにおいて,導電パス面積率を,前述したものと同様の基準を採用した。つまり,走査型プローブ顕微鏡を用いて,正極芯材PBと正極合材層PAとの間に印加する定電圧は10Vである。また,設定した閾値電流は50nAである。なお,導電パス面積率の最も小さいときの内部抵抗の値を,100%とした。
【0063】
実験の結果,図8のグラフでは,導電パス面積率が大きいほど,電池の内部抵抗が小さくなっている。つまり,導電パス面積率の大きい正極板ほど,電子伝導性が高い。そして,導電パス面積率が40%以上では,電池の内部抵抗はほぼ一定である。したがって,定電圧を10V,閾値電流を50nAとした場合,導電パス面積閾値を40%とするとよい。また,導電パス面積閾値を45%とすると,さらに電池の内部抵抗の小さいが得られる。
【0064】
6.電池の製造方法
本形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は,前述の正極板の評価方法により良品であると判断された正極板Pを用いてバッテリ100を製造することに特徴を有する。そして,本形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は,次に示す製造工程を有する。
(A)正極板作成工程
(B)正極板評価工程
(B−1)電流値マップ作成工程
(B−2)正極板判断工程
(C)負極板作成工程
(D)電極体作成工程
(E)電池組立工程
【0065】
6−1.(A)正極板作成工程
上記の正極活物質と,導電材と,増粘材と,結着材と,溶媒を用いて,正極用塗工液を作成する。次に,正極用塗工液を,正極芯材PBであるアルミニウム箔に塗工して正極用ペースト層とする。正極用ペースト層とは,正極合材層PAの乾燥前の層のことである。次に,正極用ペースト層の形成された正極芯材PBを乾燥炉の内部に搬送しつつその正極用ペースト層を乾燥させる。これにより,正極芯材PBに正極合材層PAが形成される。ここで,正極芯材PBの両面に正極合材層PAを形成することが好ましい。これにより,正極板Pが作成される。なお,正極板Pに適宜ロールプレス工程やスリット工程を施してもよい。
【0066】
6−2.(B)正極板評価工程
6−2−1.(B−1)電流値マップ作成工程
ここで,走査型プローブ顕微鏡1000を用いて,正極板Pの電流値マップを作成する。前述のとおり,走査型プローブ顕微鏡1000の探針1210と正極板Pの正極芯材PBとの間に定電圧を印加する。そして,定電圧の印加を行うとともに,探針1210を正極板Pの正極合材層PAの表面上に走査させる。そして,探針1210の走査を行うとともに,各位置における電流値を測定する。この電流値は,探針1210と正極芯材PBとの間に流れる電流である。これにより,電流値マップが作成される。
【0067】
6−2−2.(B−2)正極板判断工程
そして,閾値電流以上の電流が流れる高電流領域H1と,閾値電流未満の電流が流れる低電流領域L1とに分類する。これにより,2値化された電流値マップを作成することができる。続いて,2値化された電流値マップに基づいて,正極板Pの良否判断を行う。ここでは,良品と判断された正極板Pを捲回電極体10の作成に用いることを決定する。不良品と判断された正極板Pを捲回電極体10の作成に用いないことを決定する。この場合,不良品と判断された正極板Pについては廃棄することとすればよい。この良否判断には,前述のとおり,走査型プローブ顕微鏡1000を用いられる。そして,導電パス面積率Rが予め定めた導電パス面積閾値以上である場合に,その正極板Pを良品であると判断し,導電パス面積率Rが予め定めた導電パス面積閾値未満である場合に,その正極板Pを不良品であると判断する。なお,この正極板評価工程での検査を,正極板Pの少なくとも一部について,1箇所のみ行えば十分である。
【0068】
6−3.(C)負極板作成工程
負極板Nについても正極板Pと同様に作成する。上記の負極活物質と,増粘材と,結着材と,溶媒を用いて,負極用塗工液を作成する。そして,負極芯材NBに負極用塗工液を塗工して負極ペースト層とする。そして,負極ペースト層を乾燥炉内で乾燥させて負極合材層NAを形成する。これにより,負極板Nが作成される。ロールプレス工程やスリット工程を適宜施してもよい点は,正極板Pを作成する場合と同様である。
【0069】
6−4.(D)電極体作成工程
続いて,捲回電極体10を作成する。その際に,図4に示したように,正極板Pおよび負極板Nに,これらの間にセパレータS,Tを介在させて積み重ねた状態で捲回する。これにより,円筒形状の捲回電極体が作成される。この円筒形状の捲回電極体を円筒の径方向から圧縮することにより,図3に示したような扁平形状の捲回電極体10が作成される。
【0070】
6−5.(E)電池組立工程
次に,捲回電極体10を電池容器本体120に収容する。また,封口板130を電池容器本体120に接合する。この接合にレーザ溶接を用いるとよい。もちろん,その他の接合方法を用いてもよい。そして,注液孔140から電池容器本体120の内部に電解液を注入する。次に,蓋体170を封口板130に接合する。これにより,バッテリ100が組み立てられる。
【0071】
6−6.その他の工程
電池容器110の内部に電解液を注入した後,電解液は捲回電極体10の正極合材層PAおよび負極合材層NAに徐々に含浸していく。この電解液の含浸後に,初期充電工程や高温エージング工程等を施すこととするとよい。また,その他の各種の検査工程を行ってもよい。以上の工程を経ることにより,本形態のバッテリ100が製造される。
【0072】
6−7.バッテリの製造方法
本形態のリチウムイオン二次電池の製造方法では,正極板Pにおける導電パス面積率Rが予め定めた閾値以上であれば,その正極板Pを良品と判断し,そうでなければ,その正極板Pを不良品と判断することとした。そのため,本形態のリチウムイオン二次電池の製造方法では,製造される電池の電池性能のばらつきが小さい。ただし,正極板Pを作成する順序と負極板Nを作成する順序とは入れ替えてもよい。また,正極板評価工程については,正極板作成工程の後電極体作成工程の前であれば,いつ行ってもよい。
【0073】
6−8.製造されたバッテリ
本形態の電池の製造方法により製造されたバッテリ100では,正極板Pの正極合材層PAに導電パスが好適に形成されている。そのため,走査型プローブ顕微鏡1000を用いて,コンタクトモードで次の条件で測定すると,高電流領域H1の面積Hは,測定領域全体の面積Wに対して40%以上を占める。その条件とは,正極板Pの正極芯材PBと探針1210との間に印加する定電圧が10Vであり,閾値電流が50nAである。したがって,正極板Pの正極合材層PAでは,導電パスが好適に形成されている。
【0074】
7.変形例
7−1.定電圧
本形態における非水電解質二次電池の評価方法および製造方法では,高電流領域H1の面積Hを,正極芯材PBと探針1210との間に10Vの電圧を印加したときに,50nA以上の電流が流れた領域の面積とした。しかし,導電パスの評価において,正極芯材PBと探針1210との間に印加する定電圧として,別の値を採用してもよい。そして,その場合には,閾値電流を50nA以外の別の閾値を用いることとなる。
【0075】
7−2.複数箇所の測定
本形態では,正極板Pの一巻につき,1箇所の測定箇所を設定することとした。しかし,複数の測定箇所を設定すれば,より高い精度で正極板Pの良否判断を行うことができる。その場合,高電流領域H1の面積Hは,これらの複数箇所における各々の高電流領域H1の面積の和とするとよい。測定領域の面積Wは,これらの複数箇所における各々の測定領域の面積の和とすればよい。また,同様に,正極板Pの表裏面のそれぞれに測定領域を設定してもよい。この場合においても,導電パス面積率に基づいて,正極板Pの評価を行うことができることに変わりない。
【0076】
8.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る非水電解質二次電池の評価方法は,走査型プローブ顕微鏡1000を用いて,正極合材層PAの導電パスをマッピングし,電極板Pを評価する方法である。そして,正極合材層PAにおける導電パス面積率が予め定めた閾値以上である場合に,その正極板Pを良品であると判断し,そうでない場合に,不良品であると判断する。これにより,正極板Pにおける電子伝導性をより確実に評価することのできる非水電解質二次電池の評価方法が実現されている。
【0077】
また,本形態の非水電解質二次電池は,正極合材層PAにおける導電パス面積率が予め定めた閾値以上である正極板Pを備えるものである。そのため,電子伝導性はよい。また,本形態の非水電解質二次電池の製造方法を用いることで,上記のように,電子伝導性に優れた正極板Pを備える非水電解質二次電池を製造することができる。このように,電子伝導性に優れた正極板Pを備える非水電解質二次電池とその製造方法が実現されている。
【0078】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,扁平形状の捲回電極体10を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法について説明した。しかし,扁平形状の捲回電極体10を有する電池に限らない。円筒形状の捲回電極体を用いることもできる。また,捲回しないで正極板と負極板とを平積みした電極体を用いる電池にも適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
10…捲回電極体
30…正極端部
40…負極端部
50…正極端子
60…負極端子
100…バッテリ
110…電池容器
120…電池容器本体
130…封口板
140…注液孔
150…絶縁部材
160…絶縁部材
170…蓋体
1000…走査型プローブ顕微鏡
1110…試料台
1120…XY方向アクチュエータ
1130…Z方向アクチュエータ
1210…探針
1220…カンチレバー
1230…ミラー
1310…半導体レーザ発振器
1320…レーザ検出部
1410…電圧印加部
1420…XY駆動回路
1430…Z電圧フィードバック回路
1500…制御部
1600…表示部
BP…バッテリパック
P…正極板
P1…正極塗工部
P2…正極非塗工部
N…負極板
N1…負極塗工部
N2…負極非塗工部
S,T…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極芯材に塗工液を塗工して乾燥させることにより前記正極芯材に正極合材層を形成して正極板とする正極板作成工程と,
前記正極板と負極板とをこれらの間にセパレータを介在させて積層して積層電極体とする電極体作成工程と,
前記積層電極体を電池容器に収容するとともに前記電池容器に電解液を注入して電池とする電池組立工程とを有する非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記正極板作成工程の後から前記電極体作成工程までの間に,前記正極合材層に形成されている導電パスを走査型プローブ顕微鏡により検査する正極板検査工程を有し,
前記正極板検査工程は,
前記走査型プローブ顕微鏡の探針と前記正極芯材との間に予め定めた定電圧を印加しつつ,前記正極合材層の表面に前記探針を走査させるとともに,前記探針と前記正極芯材との間に流れる電流値を測定して電流値マップを作成する電流値マップ作成工程と,
前記電流値マップの測定領域全体の面積に対して,前記電流値マップの各測定点における電流値が予め定めた閾値電流以上である高電流領域の面積が占める割合(以下,「導電パス面積率」という)が,予め定めた導電パス面積閾値以上である場合に,
前記正極板を前記電極体作成工程に用いることを決定し,
前記導電パス面積率が,予め定めた導電パス面積閾値未満である場合に,
前記正極板を前記電極体作成工程に用いないことを決定する正極板判断工程とを有することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記正極板検査工程では,
前記走査型プローブ顕微鏡の測定モードとしてコンタクトモードを採用し,
前記電流値マップ作成工程では,
前記定電圧として10Vを採用し,
前記正極板判断工程では,
前記閾値電流として50nAを,前記導電パス面積閾値として40%を採用することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項3】
正極芯材に正極合材層の形成された正極板を走査型プローブ顕微鏡により検査する非水電解質二次電池の評価方法であって,
前記走査型プローブ顕微鏡の探針と前記正極芯材との間に予め定めた定電圧を印加しつつ,前記正極合材層の表面に前記探針を走査させるとともに,前記探針と前記正極芯材との間に流れる電流値を測定して電流値マップを作成する電流値マップ作成工程と,
導電パス面積率が,予め定めた導電パス面積閾値以上である場合に,
前記正極板を良品であると判断し,
導電パス面積率が,予め定めた導電パス面積閾値未満である場合に,
前記正極板を不良品であると判断する正極板判断工程とを有することを特徴とする非水電解質二次電池の評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の非水電解質二次電池の評価方法であって,
前記走査型プローブ顕微鏡の測定モードとしてコンタクトモードを採用し,
前記電流値マップ作成工程では,
前記定電圧として10Vを採用し,
前記正極板判断工程では,
閾値電流として50nAを,前記導電パス面積閾値として40%を採用することを特徴とする非水電解質二次電池の評価方法。
【請求項5】
正極芯材の少なくとも一方の面に正極合材層の形成された正極板と,負極板とが,これらの間にセパレータを介在させて積層された積層電極体と,
前記積層電極体と電解液とを収容する電池容器とを有し,
前記正極板は,
走査型プローブ顕微鏡の測定モードとしてコンタクトモードを採用して,
前記走査型プローブ顕微鏡の探針と前記正極芯材との間に10Vの定電圧を印加しつつ,前記正極合材層の表面に前記探針を走査させるとともに,前記探針と前記正極芯材との間に流れる電流値を測定したときに,
測定領域全体の面積に対して,各測定点における電流値が50nA以上である高電流領域の面積が占める割合が,40%以上であることを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−243415(P2012−243415A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109630(P2011−109630)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】