説明

非水電解質二次電池用正極およびそれを用いた非水電解質二次電池

【課題】高容量であり、かつ活物質層が集電体から剥がれにくい非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】長尺かつシート状の集電体と、集電体の一方の面に形成された第1活物質層と、を有し、第1活物質層の厚さが、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において、連続的または段階的に小さくなっており、第1活物質層が、Liおよび遷移金属元素Meを含む複合酸化物からなる活物質を含み、第1活物質層における活物質の充填率が85〜95%である、非水電解質二次電池用正極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極に関し、特に正極に含まれる活物質層の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話等の電子機器のモバイル化が急速に進んでいる。これらの電子機器の電源として、小型で軽量かつ高容量な二次電池が必要とされている。このような理由から、高エネルギー密度化が可能な非水電解質二次電池の開発が広くなされている。
【0003】
非水電解質二次電池は、正極、負極、正極と負極との間に介在する多孔質絶縁層、および非水電解質を具備する。また、正極と負極と前記多孔質絶縁層とが捲回されて電極群を構成している。正極は、シート状の集電体と、集電体の少なくとも一方の面に形成された活物質層とを有する。
【0004】
電極群の内周側では、捲回によって電極に生じる応力が大きい。そのため、活物質層の割れや、集電体からの活物質層の剥がれ等が起こりやすい。そこで、特許文献1および2では、活物質層の一部の厚さを小さくしている。これにより、捲回によって生じる応力を緩和できると述べられている。
【0005】
特許文献1および2では、活物質を含むペーストを集電体に塗布して、集電体に活物質層を形成している。このようなペースト塗布法では、活物質層の厚さを制御しやすいものの、活物質の充填率の向上に限界がある。
【0006】
そこで、活物質の充填率を向上させるために様々な取り組みが行われている。例えば、活物質の充填率を高めるために、導電剤や結着剤を用いずに、集電体表面に活物質を堆積させ、緻密な活物質層を形成することが提案されている(特許文献3および4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−303622号公報
【特許文献2】特開2009−181833号公報
【特許文献3】特開2007−5219号公報
【特許文献4】特開2002−298834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および2のようなペースト塗布法において、活物質の充填率を高くするには、塗膜をできるだけ大きい圧力で圧延することが重要になる。一方、活物質層の厚さを連続的または段階的に変化させるには、集電体に供給するペースト量や塗膜に印加される圧力を、連続的または段階的に変化させる必要がある。しかし、圧延の圧力が大きくなると、このような制御は困難になる。例えば、高い圧力が印加される部分で集電体が裂けたりするため、活物質層の厚さを変化させるのは非常に困難である。すなわち、ペースト塗布法では、活物質の充填率を向上させ、かつ剥がれにくい活物質層を形成することは困難である。
【0009】
特許文献3および4の活物質層は、活物質の充填率が高すぎるため、電極の柔軟性が不十分である。このような活物質層は、厚さを制御したとしても、捲回によって生じる応力を十分に緩和できない。
【0010】
そこで、本発明は、高容量であり、かつ活物質層が集電体から剥がれにくい非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の非水電解質二次電池用正極は、長尺かつシート状の集電体と、集電体の一方の面に形成された第1活物質層と、を有し、第1活物質層の厚さが、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において、連続的または段階的に小さくなっており、第1活物質層が、Liおよび遷移金属元素Meを含む複合酸化物からなる活物質を含み、第1活物質層における活物質の充填率が85〜95%である。
【0012】
また、本発明は、上記の正極、負極、正極と負極との間に介在する多孔質絶縁層、および非水電解質を具備し、正極と負極と多孔質絶縁層とが捲回されて電極群を構成しており、一方の端部が電極群の外周側に配置され、他方の端部が中心に配置されている、非水電解質二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の正極を用いることにより、高容量であり、かつ活物質層が集電体から剥がれにくい非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る正極の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】成膜装置の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図3】円筒型の非水電解質二次電池を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の正極は、長尺かつシート状の集電体と、集電体の一方の面に形成された第1活物質層とを有する。第1活物質層の厚さは、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において、連続的または段階的に小さくなっている。本発明の正極は、負極および多孔質絶縁層とともに捲回され、電極群を構成する。このとき、正極の一方の端部が電極群の外周側に配置され、他方の端部が中心に配置される。すなわち、曲率半径の小さい電極群の巻き始め側において、活物質層の厚さが最も小さくなり、曲率半径の大きい巻き終わり側において、第1活物質層の厚さが最も大きくなる。このとき、活物質層の厚さは、電極群の外周側から内周側に向かって平均的に小さくなっていればよく、局所的に厚さが大きくなっている領域が含まれていても良い。
【0016】
活物質層の厚さが連続的または段階的に小さくなっている状態とは、例えば、以下のような状態である。集電体を集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において3等分し、それぞれの領域において、任意の3点の厚さを測定する。これにより、活物質層の各領域の平均厚さを求める。一方の端部側の領域における活物質層の平均厚さをT1とし、中央の領域における活物質層の平均厚さをT2とし、他方の端部側の領域における活物質層の平均厚さをT3とする。T1、T2およびT3が、T1>T2>T3を満たすとき、活物質層の厚さが連続的または段階的に小さくなっているといえる。
【0017】
電極群を作製する際の捲回によって生じる応力は、外周側より内周側の方が大きい。そのため、外周側の活物質層の厚さを大きくし、内周側の活物質層の厚さを小さくすることで、電池の容量を維持しつつ、捲回によって生じる応力を効率よく緩和することができる。
【0018】
第1活物質層の一方の端部(第1端部)付近における平均厚さは、他方の端部(第2端部)付近における平均厚さの1.05〜4倍であることが好ましく、1.1〜2倍であることがより好ましい。第1活物質層の端部付近における平均厚さは、例えば端部付近の任意の3点の厚さを測定し、その平均を求めればよい。ここで、端部付近とは、活物質層の長手方向における寸法をLとするとき、最端部からL/10までの領域をいう。
【0019】
第1活物質層における活物質の充填率は、85〜95%である。活物質の充填率とは、活物質層全体に占める、活物質の体積割合である。活物質の充填率が高ければ高いほど、高容量な電池が得られるが、活物質層の割れや剥がれが起こりやすい。そのため、活物質層の厚さを、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において、連続的または段階的に小さくし、捲回によって生じる応力を効率よく緩和することが有効となる。活物質の充填率は、活物質層の重量と活物質層の厚みとを測定し、または、活物質層の厚みと活物質の存在量とを測定することで求められる。活物質の存在量は、ICP発光分光分析などにより測定することができる。活物質の充填率が85%未満であると、高容量な正極は得られない。活物質の充填率が95%を超えると、電極の柔軟性が不十分となり、活物質層の割れや剥がれが起こりやすい。
【0020】
本発明の正極は、集電体の他方の面に形成された第2活物質層を更に有することが好ましい。以下、本発明の実施の一形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る正極を概略的に示す断面図である。図1に示す正極は、シート状の集電体20と、集電体の一方の面に形成された第1活物質層21と、集電体の他方の面に形成された第2活物質層22とを有する。
【0021】
第2活物質層の厚さは、第1活物質層と同様に、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において、連続的または段階的に小さくなっていることが好ましい。第2活物質層においても、第1活物質層の第1端部23に対応する一方の端部付近における平均厚さは、同第2端部24に対応する他方の端部付近における平均厚さの1.1〜3倍であることが好ましく、1.1〜2倍であることがより好ましい。第2活物質層の端部の平均厚さは、第1活物質層と同様にして求めればよい。第2活物質層における活物質の充填率は、第1活物質層と同様に、85〜95%であることが好ましい。
【0022】
第1活物質層の平均厚さは、第2活物質層の平均厚さよりも小さいことが好ましい。このとき、局所的に第1活物質層の厚さの方が第2活物質層の厚さより大きくなっている領域が含まれていても良い。電極群において、第1活物質層は内側に配され、第2活物質層は外側に配される。
【0023】
第1活物質層の平均厚さは、第2活物質層の平均厚さの0.7〜0.95倍であることが好ましく、0.85〜0.95倍であることがより好ましい。
活物質層の平均厚さは、例えば長手方向における両方の端部付近の任意の3点の厚さ、および中央付近の任意の3点の厚さを測定し、その平均を求めればよい。ここで、中央付近とは、長手方向における中心から、左右にL/10までの領域をいう。
【0024】
活物質層の構造は特に限定されない。均質な膜であってもよく、柱状、樹枝状等の活物質粒子を含む構造であってもよい。
本発明の好ましい一形態において、活物質は、結着剤を含まない堆積膜を形成している。これにより、活物質の充填率を向上させることができる。また、結着剤は、樹脂成分からなり、充放電容量には寄与しない。よって、結着剤を含まない堆積膜を形成させることで、より高容量な非水電解質二次電池が得られる。
【0025】
堆積膜は、樹枝状の活物質粒子を含むことが好ましい。樹枝状の活物質粒子は、集電体側の底部から堆積膜の表面側に向かって、複数の枝部に分岐している。
【0026】
堆積膜が樹枝状の活物質粒子を含むことで、活物質層の比表面積が大きくなるため、活物質層と非水電解質とが接する面積が大きくなる。これにより、特に高電流密度で良好な充放電特性を有する非水電解質二次電池用正極が得られる。
【0027】
樹枝状の活物質粒子において、底部は集電体と結合している。樹枝状の活物質粒子の底部へ行くほど枝分かれが少なくなり、集電体と樹枝状の活物質粒子との接触面積が大きくなる。そのため、集電体と活物質層との間の電子抵抗が小さくなる。枝部の数は、活物質層の表面側へ行くほど多くなる。
【0028】
樹枝状の活物質粒子を含む場合、活物質層は優れた柔軟性を有するため、捲回しても活物質層が集電体から剥がれにくい。本発明の活物質層が樹枝状の活物質粒子を含むことで、捲回によって生じる応力を十分に緩和することができ、活物質層が集電体から更に剥がれにくくなる。
【0029】
樹枝状の活物質粒子には、樹枝状の他に、例えば珊瑚状、房状、ブロッコリー状等の活物質粒子も含まれる。
【0030】
上記の活物質層は、樹枝状の活物質粒子間に、イオン伝導性を有するポリマーゲルを含むことが好ましい。これにより、外部からの応力による活物質粒子の破損や、活物質層の剥がれを抑制できる。
【0031】
ポリマーゲルは、非水電解質、導電助材およびこれらを保持するポリマーを含む。ポリマーゲルが非水電解質を保持することでイオン伝導性が発現し、高電流密度での充放電特性がより良好になる。また、捲回によって生じる応力や、充放電に伴う活物質の体積膨張に由来する活物質層の剥がれをより良好に抑制できる。
【0032】
例えば、ポリマーゲルを活物質層の表面に塗布したり、活物質層を形成した正極をポリマーゲルに浸漬することにより、活物質層にポリマーゲルを含ませることができる。
【0033】
第1活物質層および第2活物質層を作製する方法は、特に限定されないが、熱プラズマ法により堆積膜を形成することが好ましい。熱プラズマ法によれば、活物質の充填率を90%以上と高くすることができ、かつ、適度の空隙を活物質層に形成することができる。
【0034】
熱プラズマを利用する成膜装置の一例について、図面を参照しながら説明する。
図2は、成膜装置の一例を概略的に示す断面図である。成膜装置は、成膜のための空間を与えるチャンバー1と、熱プラズマ発生源とを備える。熱プラズマ発生源は、熱プラズマを発生させる空間を与えるトーチ10と、トーチ10を囲む誘導コイル2とを備える。誘導コイル2には、電源9が接続されている。
【0035】
チャンバー1は、必要に応じて、排気ポンプ5を備えてもよく、無くてもよい。排気ポンプ5でチャンバー1内に残存する空気を除去してから、熱プラズマを発生させることで、活物質のコンタミネーションを抑制することができる。排気ポンプ5を用いることで、プラズマのガス流の形状を制御しやすくなる。さらに、チャンバー1内の圧力等、成膜条件の制御が容易となる。チャンバー1は、粉塵を採取するためのフィルタ(図示せず)等を備えてもよい。
【0036】
トーチ10の鉛直下方には、ステージ3が設置されている。ステージ3の材質は特に限定されないが、耐熱性に優れたものであることが好ましく、例えばステンレス鋼等が挙げられる。ステージ3には、集電体4が配置される。ステージ3は、必要に応じて、集電体を冷却する冷却部(図示せず)を有してもよい。また、ステージ3は、ロールになっていてもよい。この場合、ロールの回転速度を順次変化させながら集電体表面に成膜することで、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において厚さが連続的に小さくなっている活物質層を、容易に形成することができる。
【0037】
トーチ10の一方の端部は、チャンバー1側に解放されている。トーチ10は、例えばセラミックス(石英や窒化珪素)等からなることが好ましい。トーチの内径を大きくすることで、反応場をより広くすることができる。よって、効率よく活物質層を形成することができる。
【0038】
トーチ10の他端には、ガス供給口11と、原料供給口12とが配置されている。ガス供給口11は、ガス供給源6a、6bと、バルブ7a、7bを介して接続されている。原料供給口12は、原料供給源8と接続されている。ガス供給口11からトーチ10へガスを供給することで、熱プラズマを効率よく発生させることができる。
【0039】
熱プラズマを安定化させ、熱プラズマ中のガス流を制御する観点から、ガス供給口11は複数設けられていてもよい。ガス供給口11を複数設ける場合、ガスを導入する方向は特に限定されず、トーチ10の軸方向や、トーチ10の軸方向と垂直な方向等であってもよい。トーチ10の軸方向からのガス導入量が多いほど、熱プラズマ中のガス流は細くなり、ガス流の中心部分が高温となるため、原料を気化、分解し易くなる。熱プラズマを安定化させる観点から、マスフローコントローラ(図示せず)等を用いてガス導入量を制御することが好ましい。
【0040】
電源9から誘導コイル2に電圧を印加すると、トーチ10内で熱プラズマが発生する。印加する電圧は、高周波電圧であってもよく、直流電圧であってもよい。もしくは、高周波電圧と直流電圧とを併用してもよい。
【0041】
熱プラズマを発生させる際、誘導コイル2およびトーチ10は高温となる。よって、誘導コイル2およびトーチ10の周囲には、冷却部(図示せず)を設けることが好ましい。冷却部としては、例えば水冷冷却装置等を用いればよい。
【0042】
上記の装置を用いて、以下のようにして第1活物質層および第2活物質層を形成させることができる。
まず、熱プラズマを発生させる。熱プラズマは、アルゴン、ヘリウム、酸素、水素および窒素からなる群より選ばれる少なくとも1種のガスを含む雰囲気中で発生させることが好ましい。熱プラズマを安定かつ効率よく発生させる観点から、水素等の二原子分子を含む雰囲気中で熱プラズマを発生させることがより好ましい。酸素、水素、窒素、有機系ガスなどの反応性ガスと、希ガスなどの不活性ガスと、を併用する場合には、原料と反応性ガスとの反応を利用して活物質を生成させてもよい。
【0043】
高周波電磁場を利用する場合、熱プラズマは、RF電源によりコイルに高周波を印加することにより発生させる。このとき、電源の周波数は、例えば1000Hz以上であることが好ましく、例えば13.56MHzである。
【0044】
図2のような成膜装置を用いる場合、ガス供給口から噴出させるガスの噴射速度は、直流アーク放電でプラズマを発生させる場合(数1000m/s)よりも遅く、数10〜100m/s程度、例えば900m/s以下とすることができる。これにより、原料が熱プラズマ中に滞留する時間を比較的長くすることができ、熱プラズマ中で原料を十分に溶解、気化もしくは分解させることができる。そのため、活物質の合成および集電体への成膜を効率よく行うことができる。
【0045】
次に、熱プラズマ中に活物質層の原料を供給する。これにより、熱プラズマ中で活物質の前駆体となる粒子が生成される。原料を複数種用いる場合、それぞれの原料を別々に熱プラズマ中へ供給してもよいが、原料を十分に混合してから熱プラズマへ供給することが好ましい。
【0046】
熱プラズマ中で生成した粒子は、集電体の表面の略法線方向から供給されて集電体に堆積し、正極活物質層を形成する。例えば以下のようにして、活物質層の厚さを、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において、連続的または段階的に小さくすることができる。シート状の集電体において、活物質層を形成する面を任意の大きさの複数の領域に分けて、それぞれの領域に異なる厚さの活物質層を形成させる。これにより、活物質層の厚さを、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において、段階的に小さくすることができる。活物質層を成膜する領域以外の領域は、マスク等の遮蔽物で覆ってもよい。活物質層の厚さは、例えば成膜時間や、原料の熱プラズマ中への供給速度を制御することにより、それぞれの領域において変化させることができる。
【0047】
他にも、ステージ3がロールになっている場合、ロールの回転速度を順次変化させながら、集電体表面に活物質層を成膜してもよい。この方法によっても、活物質層の厚さを、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において、連続的または段階的に小さくすることができる。
【0048】
熱プラズマ中に供給する原料は、液体状態であっても、粉末状態であってもよい。ただし、原料を粉末状態で熱プラズマ中に供給する方が簡便であり、製造コスト上も有利である。粉末状態の原料は、また、液体状態の原料(例えば、アルコキシド等)よりも比較的安価である。
【0049】
原料を液体状態で熱プラズマ中に供給すると、溶媒や炭素等の不純物の除去が必要になる場合がある。一方、原料を粉末状態で熱プラズマ中に供給する場合、上記のような不純物がほとんど含まれないため、優れた電気化学特性を有する正極を得ることができる。
【0050】
原料を粉末状態で熱プラズマ中に供給する場合、原料のD50(体積基準のメディアン径)は、20μm未満であることが好ましい。原料のメディアン径が20μmを超えると、熱プラズマ中で原料が十分に気化もしくは分解せず、活物質が生成しにくい場合がある。
【0051】
原料の熱プラズマ中への供給速度は、装置の容積、プラズマの温度等によって異なるが、例えば、誘導コイルに印加する高周波電圧の出力1キロワットあたり0.0002〜0.05g/minであることが好ましい。
原料の熱プラズマ中への供給速度が、誘導コイルに印加する高周波電圧の出力1キロワットあたり0.05g/minを超えると、集電体との密着性が低くなる場合がある。
【0052】
原料の熱プラズマ中への供給速度により、活物質層の構造を制御することが可能である。よって、原料の熱プラズマ中への供給速度と、活物質層の構造との関係は、予め情報として求めることが好ましい。得られた情報に基づいて原料の熱プラズマ中への供給速度を制御することで、所望の構造を有する活物質層を形成することができる。
【0053】
活物質の原料には、様々な材料を用いることができる。例えば、(i)リチウム化合物と遷移金属元素Meを含む化合物とを含む原料、(ii)Liおよび遷移金属元素Meを含む複合酸化物を含む原料などが用いられる。
【0054】
リチウム化合物としては、例えば酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウムおよび硝酸リチウムが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
遷移金属元素Meを含む化合物としては、例えば、ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物および鉄化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ニッケル化合物としては、例えば、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケルなどが挙げられる。コバルト化合物としては、例えば、酸化コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルト、水酸化コバルトなどが挙げられる。マンガン化合物は、例えば、酸化マンガン、炭酸マンガンなどが挙げられる。鉄化合物としては、例えば、酸化鉄、炭酸鉄などが挙げられる。
【0056】
例えば、複合酸化物を含む正極活物質層を形成する場合、リチウム化合物と、遷移金属を含む化合物とを、活物質の原料として、熱プラズマ中へ供給する。これらの化合物は、別々に熱プラズマ中へ供給してもよいが、十分に混合してから熱プラズマへ供給することが好ましい。
【0057】
熱プラズマ中では、リチウムが蒸発しやすいため、原料におけるリチウム化合物の混合比は、目的とする活物質におけるリチウムの化学量論比よりも大きいことが好ましい。
【0058】
Liおよび遷移金属元素Meを含む複合酸化物(活物質自体)を、原料として用いることもできる。熱プラズマ中へ供給されたLiおよび遷移金属元素Meを含む複合酸化物は、溶解、気化、分解された後、再合成されて、集電体に堆積する。
【0059】
本発明の正極活物質層は、Liおよび遷移金属元素Meを含む複合酸化物(以下、単に複合酸化物ともいう)からなる正極活物質を含む。複合酸化物は、層状もしくは六方晶の結晶構造またはスピネル構造を有することが好ましい。遷移金属元素Meとしては、例えばCo、Ni、Mn、Fe等が挙げられる。具体的には、LiCoO2、LiNi1/2Mn1/22、LiNi1/2Co1/22、LiNiO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi1/2Fe1/22、LiMn24、LiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4、Li4/3Ti5/34等が挙げられる。また、複合酸化物は、Alを含んでいてもよい。Alを含む複合酸化物としては、LixMeyAl1-y1+a(MeはCo、Ni、Mn、Feよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、0.9≦x≦1.5、0.01≦y≦0.3、0≦a≦0.2)等が挙げられる。正極活物質は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
正極用集電体は、特に限定されず、例えば一般的に電気化学素子で使用される導電性材料を用いることができる。具体的には、Al、Ti、ステンレス鋼(SUS)、Au、Pt等を用いることが望ましい。これらの集電体は、3.5〜4.5V(vs. Li/Li+)程度までLiの脱離反応を行っても、集電体からの金属の溶出が比較的少ない点で好ましい。
【0061】
本発明の非水電解質二次電池について説明する。
本発明の非水電解質二次電池は、正極、負極、正極と負極との間に介在する多孔質絶縁層、および非水電解質を具備し、正極と負極と多孔質絶縁層とが捲回されて電極群を構成している。本発明の非水電解質二次電池は、上記の非水電解質二次電池用正極を含むものであり、その他の構成は特に限定されない。
【0062】
上記の非水電解質二次電池では、集電体の一方の端部が電極群の外周側に配置され、他方の端部が中心に配置される。つまり、曲率半径の小さい電極群の巻き始め側において、活物質層の厚さが最も小さくなっており、曲率半径の大きい巻き終わり側において、第1活物質層の厚さが最も大きくなっている。曲率半径の大きい巻き終わり側では、結着剤を含まなくても、活物質層が捲回時に集電体から剥れにくい。そのため、曲率半径の大きい巻き終わり側に向かって活物質層の厚さを大きくすることが可能である。本発明によれば、活物質層の剥がれを抑制しつつ高容量化が可能となる。
【0063】
正極は、正極集電体と、正極集電体に形成される正極活物質層とを含む。多孔質絶縁層には、非水電解質が含浸されている。正極、負極および多孔質絶縁層を収容するケースと封口板とは、ガスケットによって互いに絶縁されている。
【0064】
負極活物質としては、炭素材料、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物などが用いられる。炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などが好ましい。金属もしくは合金としては、リチウム単体、リチウム合金、ケイ素単体、ケイ素合金、スズ単体、スズ合金などが好ましい。金属酸化物としては、SiOx(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1.2)などが好ましい。
【0065】
負極用集電体としては、Cu、Ni、SUS等を用いることが望ましい。
【0066】
多孔質絶縁層には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、アミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド等からなる不織布や微多孔膜を用いることができる。不織布や微多孔膜は、単層であってもよく、多層構造であってもよい。多孔質絶縁層の内部または表面には、アルミナ、マグネシア、シリカ、チタニア等の耐熱性フィラーが含まれていてもよい。
【0067】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した溶質とを含む。溶質は、特に限定されず、活物質の酸化還元電位等を考慮して適宜選択すればよい。好ましい溶質としては、LiPF6、LiBF4等が挙げられる。
【0068】
非水溶媒も特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)等を用いればよい。これらは1種のみ単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。なお、これらの実施例および比較例は、本発明を限定するものではない。
《実施例1》
(i)正極の作製
成膜装置として、内容積6250cm3のチャンバーと、熱プラズマ発生源とを備える日本電子(株)製の高周波誘導熱プラズマ発生装置(TP−12010)を用いた。熱プラズマ発生源には、Φ42mmの窒化珪素管からなるトーチと、トーチを囲む銅製の誘導コイルとを用いた。
【0070】
ステージ上には、Alを含むシート状の集電体(5×20cm、厚さ20μm)を配置した。その後、アルゴンガスを用いてチャンバー内の空気を置換した。
チャンバーにアルゴンガスを流量50L/minで導入し、酸素ガスを流量30L/minで導入した。チャンバー内の圧力は18kPaとした。誘導コイルに42kW、周波数3.5MHzの高周波電圧を印加し、熱プラズマを発生させた。
【0071】
原料には、Li2OとCo34との混合物を用いた。Li2Oは30μm以下に分級した。Co34の(体積基準の)平均粒径D50は5μmとした。Li2OとCo34は、化学量論比でLi:Co=1.3:1となるように混合した。アルゴンガスを50L/min、酸素ガスを30L/minで一本の流路に導入し、これらの混合ガスを2方向からチャンバーに導入した。ここでは、トーチの軸方向からのガス導入量と、トーチの軸方向と略垂直な方向からのガス導入量との比率(以下、Dx:Dyとする)を35:45とした。
【0072】
集電体の一方の面をそれぞれ5×5cm程度の大きさである第1領域〜第4領域に分けて、活物質層Aの成膜を行った。原料の熱プラズマ中への供給速度は、0.10g/minとした。まず、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向における他方の端部(第2端部)側の領域(第4領域)に300分間成膜を行い、厚さ15μmの膜を形成させた。次に、第4領域と隣接する領域(第3領域)に450分間成膜を行い、厚さ22μmの膜を形成した。さらに、第3領域と隣接する領域(第2領域)に680分間成膜を行い、厚さ33μmの膜を形成させた。最後に、第2領域と隣接する、一方の端部(第1端部)側の領域(第1領域)に1015分間成膜を行い、厚さ50μmの膜を形成させた。これにより、厚さが集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において段階的に小さくなっている活物質層Aを形成させた。なお、活物質層Aの厚さは、それぞれの領域毎に3点の厚さを測定し、平均を求めた。
【0073】
その後、集電体の他方の面を、上記と同様に第1領域〜第4領域に分けて、活物質層Bの成膜を行った。原料の熱プラズマ中への供給速度は、第2活物質層と同様に0.10g/minとした。成膜の際の集電体付近の温度は、500℃程度とした。まず、活物質層Aの第4領域と対応する第4領域に200分間成膜し、厚さ10μmの膜を形成させた。活物質層Aの第3領域と対応する第3領域に300分間成膜し、厚さ15μmの膜を形成させた。さらに、活物質層Aの第2領域と対応する第2領域に450分間成膜し、厚さ22μmの膜を形成させた。最後に、活物質層Aの第1領域と対応する第1領域に675分成膜し、厚さ33μmの膜を形成させた。これにより、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において厚さが段階的に小さくなっている活物質層Bを形成させた。活物質層Bの厚さは、活物質層Aと同様にして求めた。上記において、活物質層Aは第2活物質層に相当し、活物質層Bは第1活物質層に相当する。
【0074】
X線回折測定により、実施例1において、LiCoO2を含む活物質層が形成されていることを確認した。
【0075】
正極における活物質の充填率を、活物質層の厚みおよび重量から求めたところ、90%であった。その後、円筒型の電池ケースに収容可能な幅に、正極を裁断した。
【0076】
[活物質層の割れおよび剥がれの評価]
Φ5mmのSUSの巻き芯に、作製した正極を巻きつけた。正極の第4領域側の端部から巻き始め、外周側に第1領域側の端部が配されるように巻きつけた。正極を確認したところ、活物質層の割れや剥がれは確認されなかった。
【0077】
(ii)負極の作製
負極活物質である150重量部の黒鉛と、負極結着剤である9重量部のSBRと、増粘剤である1.5重量部のCMCと、適量の水とを混合し、負極合剤ペーストを調製した。
【0078】
負極集電体である厚さ8μmの銅箔の両面に、負極剤ペーストを塗布し、乾燥させた。乾燥後の塗膜をローラで圧延して、シート状の集電体と、負極活物質層とを有する負極を作製した。集電体の厚さと負極活物質層の厚さの合計(負極の厚さ)両面は、190μmとした。その後、円筒型の電池ケースに収容可能な幅に、負極を裁断した。
【0079】
(iii)非水電解質の調製
非水溶媒に対して、溶質であるLiPF6を1.25mol/Lの濃度で溶解させて、非水電解質を調製した。非水溶媒には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)の体積割合1:1:8の混合溶媒に、添加剤として4体積%のビニレンカーボネート(VC)を添加したものを用いた。
【0080】
(iv)非水電解質二次電池の作製
以下に示す手順で、図3に示す円筒型の非水電解質二次電池を作製した。
正極35の集電体には、アルミの正極リード35aの一端を接続した。負極36の集電体には、銅の負極リード36aの一端を接続した。
正極35と負極36とを、これらの間にセパレータ37を介して捲回し、円柱状の電極群を作製した。このとき、正極35の集電体の一方の端部が電極群の外周側に配置され、他方の端部が中心に配置されるようにした。電極群において、第1活物質層を内側に配し、第2活物質層を外側に配した。
【0081】
得られた電極群の両端面を、上部絶縁板38aおよび下部絶縁板38bで挟み、所定の大きさの円筒型の電池ケース31に収容した。負極リード36aの他端を電池ケース31の内底面に接続した。その後、非水電解質5gを電池ケース31に注液し、減圧下で、電極群に非水電解質を含浸させた。
【0082】
その後、正極リード35aの他端を封口体32の下面に接続した。
電池ケース31の開口部の端部を、ガスケット33を介して封口体32にかしめつけた。これにより、設計容量が337mAhである円筒型の非水電解質二次電池を作製した。
【0083】
《実施例2》
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、(株)クレハ製の#7200)とアセチレンブラックを2:98:2の重量割合で混合して、樹脂溶液(以下、第1層溶液ともいう)を調製した。
【0084】
ECとEMCとジエチルカーボネート(DEC)とを、2:3:5の体積割合で含む混合溶媒に、溶質であるLiPF6を1.25mol/Lの濃度で溶解させて、液状の非水電解質を調製した。この液状の非水電解質と、PVDF((株)クレハ製の#8500)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:45:52重量割合で混合して、樹脂溶液(以下、第2層溶液ともいう)を調製した。
【0085】
実施例1と同様の正極を、上記の第1層溶液に10秒浸漬し、正極に第1層溶液を含浸させた後、80℃で15分間乾燥させた。その後、第2層溶液に浸漬し、活物質層にポリマーゲルを含ませた。これにより、実施例2の正極を作製した。
【0086】
作製した正極について、実施例1と同様に評価したところ、活物質層の割れや剥がれは確認されなかった。
【0087】
上記の正極を用いたこと以外、実施例1と同様にして、円筒型の非水電解質二次電池を作製した。
【0088】
《参考例》
集電体の両面を、実施例1の巻き外側と同様に成膜した。実施例1と同様にして、巻き芯に極板を巻きつけたところ、巻き始め側において活物質が剥がれ落ちた。そのため、円筒型の電池を作製することができなかった。
【0089】
《比較例1》
実施例1と同様のシート状の集電体の片面のほぼ全面に対して、実施例1と原料の供給速度で1320分間成膜し、厚さ22μm、の活物質層Aを形成した。その後、集電体の反対の面のほぼ全面に対して、実施例1と同様の原料の供給速度で1320分間成膜分間成膜し、厚さ22μmの活物質層Bを形成した。これにより、比較例1の正極を作製した。
比較例1の活物質層AおよびBの厚さは、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において、ほとんど変化していなかった。作製した正極について、実施例1と同様に評価したところ、活物質層が集電体から剥がれた。そのため、円筒型の電池を作製することができなかった。
【0090】
《比較例2》
ステージ上にAu板からなる集電体(厚さ1mm)を配置し、マグネトロンスパッタリング装置を用いて、集電体上に活物質層を形成した。ターゲットには、LiCoO2を用いた。ターゲットの径は3インチとした。ステージ上の集電体とターゲットとの距離は、3.5cmとした。
【0091】
ロータリーポンプと拡散ポンプとを用いて、チャンバー内の真空度を5×10-2Paとした。その後、チャンバー内の真空度が1Paとなるように、チャンバー内にアルゴンガスを流量8×10-2L/minで導入し、酸素ガスを流量2×10-2L/minで導入した。ターゲットに80W、周波数13.56MHzの高周波電圧を印加し、プラズマを発生させた。
【0092】
集電体付近の温度を300℃とし、集電体の一方の面をそれぞれ5×5cm程度の大きさである第1領域〜第4領域に分けて、活物質層Aの成膜を行った。まず、集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向における他方の端部(第2端部)側の領域(第4領域)に900分間成膜を行い、厚さ15μmの膜を形成させた。次に、第4領域と隣接する領域(第3領域)に1320分間成膜を行い、厚さ22μmの膜を形成した。さらに、第3領域と隣接する領域(第2領域)に1980分間成膜を行い、厚さ33μmの膜を形成させた。最後に、第2領域と隣接する、一方の端部(第1端部)側の領域(第1領域)に3000分間成膜を行い、厚さ50μmの膜を形成させた。これにより、厚さが集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において段階的に小さくなっている活物質層Aを形成させた。
【0093】
その後、集電体の他方の面を、上記と同様に第1領域〜第4領域に分けて、活物質層Bの成膜を行った。成膜の際の集電体付近の温度は、300℃程度とした。まず、活物質層Aの第4領域と対応する第4領域に600分間成膜し、厚さ10μmの膜を形成させた。活物質層Aの第3領域と対応する第3領域に900分間成膜し、厚さ15μmの膜を形成させた。さらに、活物質層Aの第2領域と対応する第2領域に450分間成膜し、厚さ22μmの膜を形成させた。最後に、活物質層の第1領域と対応する第1領域に675分成膜し、厚さ33μmの膜を形成させた。これにより、厚さが集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において段階的に小さくなっている活物質層Bを形成させた。上記において、活物質層Aは第2活物質層に相当し、活物質層Bは第1活物質層に相当する。その後、500℃で1時間焼成し、LiCoO2の結晶性を向上させ、正極を作製した。
【0094】
活物質層に対してICP分析を行ったところ、活物質層における元素比は、Li:Co=0.98:1であることが確認できた。
上記の正極を用いたこと以外、実施例1と同様にして円筒型電池を作製した。
【0095】
[電池の評価]
実施例1、2および比較例2の電池について、Li/Li+を基準として3.05〜4.25Vの範囲で20サイクルの充放電を行い、0.2C初期の放電容量および20サイクル目の放電容量を測定した。温度条件は20℃とした。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
充放電を行った後、各実施例および比較例の電池を分解して電極群を取り出し、正極の剥がれの有無を確認した。実施例1および実施例2のいずれにおいても、活物質層の割れや剥がれは確認されなかった。
【0098】
一方、比較例2の電池は、活物質層が集電体から剥がれていた。スパッタリングで形成した活物質層は、活物質の充填率が過剰に高い。そのため、電極の柔軟性が不十分となり、充放電に伴う膨張および収縮を緩和できず、活物質層が集電体から剥がれたと考えられる。
【0099】
比較例3に対し、実施例1〜2では、20サイクル目の放電容量が大きくなっていた。
比較例3は、活物質が緻密に成膜されたことにより、充放電に伴う膨張収縮に耐えられず集電体から活物質層が剥れ、容量が大幅に低下したと考えられる。活物質層がポリマーゲルを含む実施例2は、実施例1よりも更に20サイクル目の放電容量が向上していた。
【0100】
以上より、本発明の非水電解質二次電池用正極は、高容量であり、かつ活物質層が集電体から剥がれにくいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、高容量であり、かつ特に活物質層が集電体から剥がれにくい非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池を提供することができる。本発明の非水電解質二次電池は、携帯電話などの小型電子機器や、大型の電子機器等の電源として有用である。
【符号の説明】
【0102】
1 チャンバー
2 誘導コイル
3 ステージ
4 集電体
5 排気ポンプ
6a、6b ガス供給源
7a、7b バルブ
8 原料供給源
9 電源
10 トーチ
11 ガス供給口
12 原料供給口
20 集電体
21 第1活物質層
22 第2活物質層
23 第1端部
24 第2端部
31 電池ケース
32 封口体
33 ガスケット
35 正極
35a 正極リード
36 負極
36a 負極リード
37 セパレータ
38a 上部絶縁板
38b 下部絶縁板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺かつシート状の集電体と、前記集電体の一方の面に形成された第1活物質層と、を有し、
前記第1活物質層の厚さが、前記集電体の長手方向における一方の端部から他方の端部に向かう所定方向において、連続的または段階的に小さくなっており、
前記第1活物質層が、Liおよび遷移金属元素Meを含む複合酸化物からなる活物質を含み、
前記第1活物質層における前記活物質の充填率が85〜95%である、非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記集電体の他方の面に形成された第2活物質層、を更に有し、
前記第2活物質層の厚さが、前記所定方向において、連続的または段階的に小さくなっており、
前記第2活物質層が、Liおよび遷移金属元素Meを含む複合酸化物からなる活物質を含み、
前記第2活物質層における前記活物質の充填率が85〜95%である、請求項1記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記第1活物質層の平均厚さが、前記第2活物質層の平均厚さよりも小さい、請求項2記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記活物質が、結着剤を含まない堆積膜を形成している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記堆積膜が、樹枝状の活物質粒子を含み、前記樹枝状の活物質粒子が、前記集電体側の底部から前記堆積膜の表面側に向かって、複数の枝部に分岐している、請求項4記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
さらに、前記樹枝状の活物質粒子間に、イオン伝導性を有するポリマーゲルを含み、前記ポリマーゲルが、非水電解質、導電助材およびこれらを保持するポリマーを含む、請求項5記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在する多孔質絶縁層、および非水電解質を具備し、
前記正極と前記負極と前記多孔質絶縁層とが捲回されて電極群を構成しており、
前記正極が、請求項1記載の正極であり、
前記一方の端部が前記電極群の外周側に配置され、前記他方の端部が中心に配置されている、非水電解質二次電池。
【請求項8】
正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在する多孔質絶縁層、および非水電解質を具備し、
前記正極と前記負極と前記多孔質絶縁層とが捲回されて電極群を構成しており、
前記正極が、請求項2〜6のいずれか1項に記載の正極であり、
前記一方の端部が前記電極群の外周側に配置され、前記他方の端部が中心に配置されている、非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記電極群において、前記第1活物質層が内側に配され、前記第2活物質層が外側に配されている、請求項8記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−51028(P2013−51028A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297713(P2009−297713)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】