説明

非水電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法

【課題】Ni含有量が比較的高く、かつ、体積抵抗率が適度な値を示す正極活物質を提供し、高容量でありながら安全性にも優れた非水電解質二次電池を実現する。
【解決手段】リチウムとリチウム以外の金属Mとを含む複合酸化物を含み、MがNi、MnおよびCoを含み、NiとMnとCoとの合計に対するNiのモル比が0.45〜0.65であり、NiとMnとCoとの合計に対するMnのモル比が0.15〜0.35であり、60MPaで加圧された状態での圧縮密度が3.3g/cm3以上、4.3g/cm3以下であり、60MPaで加圧された状態での体積抵抗率が100Ω・cm以上、1000Ω・cm未満である、非水電解質二次電池用正極活物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池をはじめとする非水電解質二次電池の正極活物質の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質二次電池用正極活物質として、Li、Ni、MnおよびCoを含む複合酸化物が注目されている。
例えば特許文献1は、40MPaで加圧された状態での体積抵抗率が5×105Ω・cm以下であり、含有炭素濃度C(重量%)とBET比表面積S(m2/g)との比:C/S値が0.025以下であるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を提案している。体積抵抗率を規定値以下とし、更に含有炭素濃度を著しく低減させた正極活物質を用いることにより、電池性能の向上が図られている。特許文献2、3も40MPaで加圧された状態での体積抵抗率が5×105Ω・cm以下の複合酸化物を提案している。
【0003】
特許文献1〜3では、噴霧乾燥法により、複合酸化物が製造されている。噴霧乾燥法で得られた複合酸化物は、圧縮密度を向上させることが困難であり、電池の高容量化が困難となる。Ni含有量を高くすれば高容量な正極活物質が得られるが、Ni含有量が高くなると、正極活物質の体積抵抗率が過度に低下する。特に体積抵抗率が100Ω・cm未満になると、電池の安全性が大きく損なわれる。一方、体積抵抗率が過度に高くなると、複合酸化物内の電子伝導性が低下し、電極の反応性が低下するため、サイクル特性が低下する。
【特許文献1】特開2005−340186号公報
【特許文献2】特開2006−172753号公報
【特許文献3】特開2006−253119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、Ni含有量が比較的高く、かつ、体積抵抗率が適度な値を示す正極活物質を提供し、高容量でありながら安全性にも優れた非水電解質二次電池を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質に関し、その正極活物質は、リチウムとリチウム以外の金属Mとを含む複合酸化物を含み、以下の特徴を有する。
まず、Mは、Ni、MnおよびCoを含む。
NiとMnとCoとの合計に対するNiのモル比は0.45〜0.65である。
NiとMnとCoとの合計に対するMnのモル比は0.15〜0.35である。
正極活物質の60MPaで加圧された状態での圧縮密度は、3.3g/cm3以上、4.3g/cm3以下である。
正極活物質の60MPaで加圧された状態での体積抵抗率は、100Ω・cm以上、1000Ω・cm未満である。
【0006】
NiとMnとCoとの合計に対するCoのモル比は、0.15〜0.25であることが好ましい。
Liに対するNiとMnとCoとの合計のモル比は、0.9以上であることが好ましい。
【0007】
本発明の一態様において、リチウムとリチウム以外の金属Mとを含む複合酸化物は、一般式:LiaNixMnyCoz2+bで表される。
ただし、上記一般式は、0.97≦a≦1.05、−0.1≦b≦0.1、0.45≦x≦0.65、0.15≦y≦0.35、0.15≦z≦0.25およびx+y+z=1を満たす。また、より好ましくは、0.49≦x≦0.56、0.24≦y≦0.31および0.18≦z≦0.22を満たす。
【0008】
正極活物質のタップ密度は、2.3g/cm3以上、3.0g/cm3以下が好適である。
正極活物質の比表面積は、0.2m2/g以上、1.0m2/g以下が好適である。
【0009】
Mは、更に、例えば、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、イットリウム、イッテルビウムおよび鉄よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0010】
本発明は、また、上記の正極活物質を含む正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解質と、を具備する非水電解質二次電池に関する。
【0011】
本発明は、更に、上記の正極活物質の製造方法に関する。
その製造方法は、
(i)リチウム以外の金属Mを含み、MがNi、MnおよびCoを含み、NiとMnとCoとの合計に対するNiのモル比が0.45〜0.65であり、NiとMnとCoとの合計に対するMnのモル比が0.15〜0.35であり、NiとMnとCoとの合計に対するCoのモル比が0.15〜0.25である遷移金属化合物と、リチウム塩とを、Mに対するLiのモル比が1.00〜1.05となるように混合し、
(ii)得られた混合物を、ロータリーキルン炉内で流動させながら、酸素中または空気中で、650℃〜850℃の第1焼成温度で第1焼成し、
(iii)第1焼成で得られた第1焼成物を、焼成炉内で、酸素中または空気中で、第1焼成温度よりも50℃以上高い第2焼成温度で第2焼成して、前記複合酸化物を得る工程を含む。
【0012】
原料として用いるリチウム塩は、平均粒径6μm以下の炭酸リチウムであることが好ましい。
原料として用いる遷移金属化合物は、水酸化物または酸化物であることが好ましい。
水酸化物は、Niイオン、MnイオンおよびCoイオンを含む水溶液に、アルカリを加えて、Ni、MnおよびCoを共沈させることにより得ることが好ましい。
酸化物は、Niイオン、MnイオンおよびCoイオンを含む水溶液に、アルカリを加えて、Ni、MnおよびCoを共沈させることにより得られる水酸化物を、酸素を含む雰囲気中で焼成して得ることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
正極活物質の原料に含まれるNi含有量が高くなると、原料の酸化反応が進行しにくくなり、複合酸化物の結晶構造に酸素欠損が生じる傾向が強くなる。複合酸化物の酸素欠損が多くなると、正極活物質の体積抵抗率が減少する。このような体積抵抗率の低い正極活物質を用いると、電池の安全性は低くなる。
一方、本発明では、例えば、正極活物質の製造工程において、原料に含まれるNiとMnとCoとのモル比、ならびに、リチウムとリチウム以外の金属とのモル比を、比較的厳密に制御する。これにより、酸素欠損の発生を抑制できることが判明しつつある。よって、本発明によれば、高容量でありながら安全性にも優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、リチウムとリチウム以外の金属Mとを含む複合酸化物を含む。Mは、必須元素として、Ni、MnおよびCoを含む。このような複合酸化物の結晶構造は、通常、層状構造を有し、酸素の最密充填構造を有する。より詳しくは、結晶構造は、六方晶であり、R−3mの空間群に帰属される対称性を有することが好ましい。ただし、本発明の正極活物質は、これらの結晶構造を有するものに限られるわけではない。なお、Mは、任意元素として、Ni、MnおよびCoの他に、本発明の効果を損なわない範囲で、少量の様々な添加元素を含むことができる。
【0015】
NiとMnとCoとの合計に対するNiのモル比(以下、Ni比)は0.45〜0.65に制限される。Ni比が0.45未満では、望ましい容量を有する正極活物質が得られず、また、正極活物質の体積抵抗率が過度に高くなる場合がある。一方、Ni比が0.65を超えると、正極活物質の体積抵抗率が過度に低くなり、電池の安全性を確保することが困難になる。
また、Ni比の高い正極活物質を得る場合、原料に含まれるNi含有量が高くなるため、原料の酸化反応も進行しにくくなる。更に、Ni比の高い正極活物質は、水分に対する耐性が低く、空気中の水分と接触することにより劣化しやすい。
【0016】
Ni比は、0.49〜0.56の範囲であることが好ましい。この範囲のNi比を有する正極活物質は、水分に対する耐性が高く、高容量であり、かつ体積抵抗率の制御が比較的容易である。Ni比が0.49〜0.56であっても体積抵抗率は大きく変化するが、焼成条件を適正に制御すれば、望ましい体積抵抗率を達成できる。
【0017】
なお、Ni含有量の高い原料は、空気中では焼成が困難であり、酸素雰囲気中で焼成する必要がある。一方、Ni比が0.49〜0.56の正極活物質は、焼成条件を適正に制御すれば、空気雰囲気中でも十分に酸化反応を進行させることができる。結果として、酸素欠損量が少なく、適度な体積抵抗率を有する正極活物質が安価で得られる。
【0018】
NiとMnとCoとの合計に対するMnのモル比(以下、Mn比)は0.15〜0.35に制限される。Mn比が0.15未満では、体積抵抗率が過度に低下する。一方、Mn比が0.35を超えると、体積抵抗率が過度に高くなる。Mn比は0.24〜0.31であることが好ましい。
【0019】
NiとMnとCoとの合計に対するCoのモル比(以下、Co比)は、0.15〜0.25であることが好ましい。Co比が0.15未満では、焼成により十分な結晶性を有する複合酸化物を合成することが困難となり、活物質の容量が低下する。一方、Co比が0.25を超えると、複合酸化物の結晶性が過度に高くなり、材料物性の制御が困難になる。特に、活物質の比表面積が低下する。Co比は0.18〜0.22であることが好ましい。
【0020】
Liに対するNiとMnとCoとの合計のモル比(以下、NMC比)は、0.90以上、更には、0.95以上であることが好ましく、1.0であることが特に好ましい。NMC比が0.90未満になると、望ましい容量を有し、かつ安全性の高い活物質を得ることが困難になる場合がある。
【0021】
NMC比が1.0の場合、リチウムとリチウム以外の金属Mとを含む複合酸化物は、例えば一般式:LiaNixMnyCoz2+b(ただし、0.97≦a≦1.05、−0.1≦b≦0.1、0.45≦x≦0.65、0.15≦y≦0.35、0.15≦z≦0.25、x+y+z=1)で表されることが好ましい。また、0.49≦x≦0.56、0.24≦y≦0.31および0.18≦z≦0.22であることが好ましい。
【0022】
ここで、a値は、合成直後の正極活物質における値、もしくは電池に組み込まれる前の正極活物質における値を表す。a値は電池の充放電に伴って変化する。完全放電状態の電池に含まれる正極活物質においても、a値は0.97≦a≦1.05の範囲となる。
【0023】
b値は、正極活物質に含まれる過剰もしくは不足の酸素量を表す。b値が−0.1より小さくなると、酸素欠損量が多くなり、適度な体積抵抗率を有する正極活物質が得られない場合がある。
【0024】
正極活物質の60MPaで加圧された状態での圧縮密度は、3.3g/cm3以上、4.3g/cm3以下であることが必要となる。圧縮密度が3.3g/cm3未満では、望ましい容量を有する正極板を得ることができない。一方、圧縮密度が4.3g/cm3を超えると、正極板内の空隙が過度に小さくなり、電極反応性が低下する場合がある。より優れた高性能を得る観点から、圧縮密度は、3.4g/cm3以上、4.1g/cm3以下であることが好ましい。
【0025】
正極活物質の60MPaで加圧された状態での体積抵抗率は、100Ω・cm以上、1000Ω・cm未満であることが必要となる。体積抵抗率が100Ω・cm未満では、電池の安全性を確保することが困難になる。一方、体積抵抗率が1000Ω・cmを超えると、そのような正極活物質を含む電池の充放電特性や、サイクル特性が劣化する。より優れた高性能を得る観点から、体積抵抗率は、200Ω・cm以上、900Ω・cm以下であることが好ましい。
【0026】
正極活物質のタップ密度は、2.3g/cm3以上、3.0g/cm3以下が好適であり、2.4g/cm3以上、2.8g/cm3以下が更に好適である。タップ密度が上記範囲であれば、好適な圧縮密度および体積抵抗率を有する正極活物質となりやすい。
【0027】
正極活物質の比表面積は、0.2m2/g以上、1.0m2/g以下が好適であり、0.3m2/g以上、0.8m2/g以下が更に好適である。比表面積が上記範囲であれば、好適な圧縮密度および体積抵抗率を有する正極活物質となりやすい。
【0028】
正極活物質の平均粒径は、5μm以上、15μm以下が好適である。平均粒径が上記範囲であれば、好適な圧縮密度および体積抵抗率を有する正極活物質となりやすい。
【0029】
Mは、Ni、MnおよびCoの他に、更に、様々な添加元素を含むことができる。添加元素は特に限定されないが、例えば、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、イットリウム、イッテルビウムおよび鉄よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。これらの添加元素は、正極活物質の熱的安定性を高める作用等を有すると考えられる。特にMがアルミニウムやマグネシウムを含む場合、熱的安定性を高める効果が高くなる。また、Mが鉄を含む場合、電池の放電末期における分極が低減される。Mに占める添加元素の割合は、10モル%未満が好ましく、5モル%未満が更に好ましい。
【0030】
次に、正極活物質の物性の測定方法について説明する。
正極活物質の60MPaで加圧された状態での圧縮密度は、下記の要領で測定される。
まず、既知重量Wの正極活物質を60MPaで加圧し、円柱状のペレットに成型する。得られた円柱状ペレットの底面積と高さから、ペレット体積Vを求める。そして、活物質重量のペレット体積に対する割合(W/V)を算出することにより、圧縮密度を求める。
【0031】
正極活物質の60MPaで加圧された状態での体積抵抗率は、下記の要領で測定される。
粉体抵抗率測定装置を用い、粉体用プローブユニット(四探針・リング電極)により、印加電圧リミッタを所定値に設定して、種々加圧下の試料の体積抵抗率(Ω・cm)を測定する。そして、60MPaの圧力下における体積抵抗率の値を求める。
【0032】
正極活物質のタップ密度は、下記の要領で測定される。
試料を所定容量のガラス製メスシリンダーに入れ、所定ストローク(20mm)で十分な回数(500回)のタッピングを行い、その後、試料の充填密度を求める。
【0033】
正極活物質の比表面積は、下記の要領で測定される。
粉体比表面積測定装置を用い、吸着ガスに窒素、キャリアガスにヘリウムを用い、連続流動法によるBET1点法により測定を行う。具体的には、試料をヘリウムと窒素との混合ガス雰囲気下、所定温度で加熱脱気する。次いで、液体窒素温度まで冷却して窒素ガスを試料に吸着させる。その後、試料を水により室温まで加温して、吸着された窒素ガスを脱着させる。脱着した窒素ガスの量を熱伝導度検出器により検出し、検出値から試料の比表面積を算出する。
【0034】
正極活物質の平均粒径は、下記の要領で測定される。
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により、体積基準の粒度分布を測定し、粒度分布におけるメディアン径(D50)を読み取り、D50を平均粒径とする。
【0035】
次に、正極活物質の製造方法について説明するが、製造方法は下記に限られない。
工程(i)
本発明では、原料に含まれるNiとMnとCoとのモル比、ならびに、リチウムとリチウム以外の金属とのモル比を、かなり厳密に制御している。
具体的には、リチウム以外の金属Mを含む遷移金属化合物と、リチウム塩(Li塩)とを、Mに対するLiのモル比(以下、Li比)が1.00〜1.05となるように混合する。このとき、Li比が1.00未満になると、体積抵抗率が過度に大きい正極活物質が生成しやすくなる。これは、リチウム量が少ないと、結晶内でリチウムイオン欠損が生じ、結晶内に電荷不足が生じるためと考えられる。
一方、Li比が1.05を超えると、体積抵抗率が過度に小さい正極活物質が生成しやすくなる。これは、リチウム量が多いと、結晶内でリチウムイオンが過剰となり、結晶内に電荷過剰が生じるためと考えられる。
【0036】
遷移金属化合物において、Mは、Ni、MnおよびCoを含み、NiとMnとCoとの合計に対するNiのモル比は、0.45〜0.65であり、NiとMnとCoとの合計に対するMnのモル比は、0.15〜0.35である必要がある。また、NiとMnとCoとの合計に対するCoのモル比は、0.15〜0.25であることが好ましい。
【0037】
原料として用いる遷移金属化合物は、水酸化物または酸化物であることが好ましい。水酸化物および酸化物は、副生成物が生じにくく、反応時に有害な副生成ガス(NOx、SOxなど)が発生しないという点で有利である。
水酸化物は、Ni、MnおよびCoを含む共沈水酸化物であることが望ましい。共沈水酸化物とリチウム塩とを混合し、所定の方法で焼成することで、NiとMnとCoとが原子レベルもしくはナノレベルで均一に分散した複合酸化物を得ることができる。
また、酸化物は、上記のような共沈水酸化物を、酸素を含む雰囲気中で焼成して得ることが好ましい。
【0038】
共沈水酸化物は、Niイオン、MnイオンおよびCoイオンを含み、必要に応じて任意元素を含む水溶液に、アルカリを加えれば生成する。アルカリには、NaOH水溶液、NH3水溶液などを用いることができるが、これに限定されない。
【0039】
共沈水酸化物は、図1に示すような設備を用いて合成する。
原料となる水溶液を所定の速度で反応槽1に同時に投入する。反応槽1の中には円筒状のチューブ2が設置されており、チューブの中には撹拌棒3が備えられている。このチューブの中で共沈水酸化物が得られるが、同時にチューブの中に設置されている攪拌棒で下向き(反応槽の底向き)の力が加えられる。この力で得られた水酸化物の微結晶が互いに衝突して結晶成長し、結晶粒子を形成する。得られた粒子は、図1の矢印で示すように、チューブの外側を通過し、オーバーフローによって系外に取り出される。
【0040】
例えば、Ni塩の水溶液、Mn塩の水溶液およびCo塩の水溶液を、目標の組成比になるように、それぞれの液の投入量を調整しながら反応槽に導入する。その際、中和のためのアルカリ水溶液も同時に反応槽に導入する。このとき、ニッケル、マンガンおよびコバルトの元素は、2価の状態でMe(OH)2(Me:ニッケル、マンガンまたはコバルト)を生成することが好ましい。Ni(OH)2、Co(OH)2およびMn(OH)2は、同様の層構造を有する。よって、2価の状態でニッケル、マンガンおよびコバルトを含む水酸化物中では、3種の元素がナノレベルで均一に分散された状態になる。
【0041】
共沈法で水酸化物を製造する際、マンガンは非常に酸化されやすい。マンガンは、水溶液中にわずかに存在する溶存酸素によっても、容易に酸化され、3価のマンガンイオンになる。3価のマンガンイオンはMnOOHを形成する。MnOOHは、Ni(OH)2、Co(OH)2およびMn(OH)2とは異なる構造を有するため、3種の元素は均一に分散されにくい。これを抑制するために、水溶液中に不活性ガス、例えば窒素ガスやアルゴンガスをバブリングして溶存酸素を追出すことが好ましい。もしくは、アスコルビン酸などの還元剤をあらかじめ水溶液中に添加することが好ましい。
【0042】
Ni塩には、硫酸ニッケルを用いることができるが、これに限定されない。
Mn塩には、硫酸マンガンを用いることができるが、これに限定されない。
Co塩には、硫酸コバルトを用いることができるが、これに限定されない。
【0043】
Li塩には、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウムなどを用いることができる。これらのうちでは、炭酸リチウムが安価であり、取り扱いも容易な点で有利である。 また、本発明は、比較的高温で原料を焼成するため、炭酸リチウムが好適である。
【0044】
炭酸リチウムの平均粒径は、6μm以下であることが望ましく、2.5〜5μmであることが更に望ましい。平均粒径の小さい炭酸リチウムを用いることにより、複合酸化物の結晶成長が促進され、Niのリチウムサイトへの混入が抑制されると考えられる。
【0045】
工程(ii)
次に、リチウム以外の金属Mを含む遷移金属化合物と、リチウム塩との混合物を、ロータリーキルン炉内で流動させながら、酸素中または空気中で、650℃〜850℃の第1焼成温度で第1焼成する。すなわち、第1焼成は流動式で行う。
【0046】
原料の第1焼成の条件は、最終生成物である複合酸化物の性能に大きく影響する。正極活物質の原料に含まれるNi含有量が高くなると、原料の酸化反応が進行しにくくなり、複合酸化物の結晶構造に酸素欠損が生じる傾向が強くなる。これを防ぐためには、ロータリーキルン炉内で流動している状態の混合物を焼成することが極めて有効である。
【0047】
焼成雰囲気は、酸素よりも空気の方が製造コストの観点から有利である。本発明では、最終生成物のNi比を比較的高くしているが、Ni比が0.65以下であり、ロータリーキルン炉内で流動させながら焼成する場合には、空気中での焼成が可能である。ロータリーキルン炉内で混合物を流動させることにより、原料への酸素の供給状態を適正に制御することが可能となる。流動条件や空気の供給速度は、目標とする体積抵抗率により異なる。ただし、目標とする体積抵抗率を指標とすれば、複数回の実験により好適な条件を見出すことができる。
【0048】
第1焼成温度が650℃未満では、最終生成物の結晶性を十分に上げることが困難である。最終生成物のNi含有量が高くなるほど、この傾向は大きくなる。一方、第1焼成温度が850℃を超えると、リチウムイオンとニッケルイオンとが置き換わるディスオーダーが生じやすくなる。その場合、本来リチウムイオンが占めるサイトにニッケルイオンが混在するため、充放電に伴うリチウムイオンの移動が阻害され、容量が低下する。
【0049】
第1焼成は、様々なタイプのロータリーキルン炉を用いて行うことができる。図2は、ロータリーキルンの一例の構造を示す断面概念図である。
ロータリーキルン炉20は、本体21と筒状炉23とを具備する。筒状炉の回転速度および回転方向は任意に制御可能である。本体21の内部には加熱ヒータ22が内蔵されている。加熱ヒータ22は、複数ゾーンに区切られている。各ゾーンは独立に温度制御が可能である。筒状炉23の端部23yからは、送気配管28が筒状炉の内部に挿入されている。ポンプ29から供給される酸素または空気は、送気配管28を通過して、筒状炉の内部に導入される。
【0050】
筒状炉23の一端部23xには、混合物26の導入路24が設けられている。筒状炉23の内面には、螺旋状の溝またはリブ27が形成されている。溝またはリブ27は、混合物を筒状炉23の一端部23xから他端部23yに移動させる機能を有する。焼成後の反応物は筒状炉23の端部23yから排出され、回収容器25に回収される。
【0051】
第1ゾーン21aおよび第2ゾーン21bは、例えば、混合物の温度を所定温度領域まで到達させるための昇温段階に用いられる。第1ゾーン21aの温度域よりも第2ゾーン21bの温度域の方が高く設定される。
第1ゾーン21aおよび第2ゾーン21bの温度は、筒状炉23の温度が端部23xから内部に向かって徐々に高くなるように制御される。筒状炉23の回転方向が正方向のとき、溝またはリブ27の作用により、混合物は端部23yの方向に移動する。一方、回転方向が逆方向のとき、混合物は端部23xの方向に移動する。よって、筒状炉23の回転方向が正方向のとき、混合物の温度は昇温し、逆方向のときは降温する。
【0052】
第3ゾーン21cおよび第4ゾーン21dでは、遷移金属化合物とLi塩との反応が進行する。第3ゾーン21cおよび第4ゾーン21dの温度は、筒状炉の中央部から端部23yに向かう混合物の温度が、ほぼ一定(650〜850℃)になるように制御される。あるいは、筒状炉の中央部から所定の位置までは、混合物の温度がほぼ一定(650〜850℃)になるように制御され、その後、端部23yに至るまでは混合物の温度が徐々に低くなるように制御される。
【0053】
定期的に筒状炉23の回転方向を切り替える場合、1回あたりの正方向の回転時間を1回あたりの逆方向の回転時間よりも長く設定することにより、混合物は全体的に端部23yの方向に移動する。このとき1回あたりの正方向の回転時間Taとすると、Taは0.8分〜1.2分の範囲が好ましい。また、1回あたりの逆方向の回転時間Tbは、例えば0.6Ta≦Tb≦0.9Taを満たすことが好ましい。このように、回転方向を切り替えることにより、材料の混合状態の均一性を向上させることができる。その結果、反応性が向上する。
【0054】
混合物の温度を第1焼成温度まで到達させるための昇温段階において、筒状炉中の混合物の平均的な昇温速度は、例えば1℃/分〜8℃/分、更には2℃/分〜5℃/分が好適である。第1焼成温度に達してからは、第1焼成を5時間〜15時間程度行う。
【0055】
工程(iii)
第1焼成で得られた第1焼成物は、引き続き、焼成炉内で、酸素中または空気中で、第1焼成温度よりも50℃以上高い第2焼成温度、好ましくは100℃以上高い第2焼成温度で第2焼成する。第1焼成物を、より高温で加熱することにより、最終生成物の結晶性が高められる。その結果、最終生成物として、高性能の複合酸化物が得られる。第2焼成は、様々な焼成炉中で行うことができる。第2焼成の雰囲気は、酸素でも空気中でもよい。
【0056】
第1焼成温度と第2焼成温度との差が50℃未満では、最終生成物の結晶性を高める効果が小さくなる。ただし、第2焼成温度が1000℃を超えると、リチウムイオンとニッケルイオンとが置き換わるディスオーダーが生じやすくなる。よって、第2焼成温度は1000℃以下が好ましく、950℃以下が更に好ましい。また、第2焼成は8〜25時間行うことが好ましく、10〜20時間が更に好ましい。
【0057】
以下、非水電解質二次電池の一般的構成について述べる。
正極は、通常、正極集電体およびそれに担持された正極合剤を含む。正極合剤は、正極活物質の他に、結着剤、導電剤などを含むことができる。正極は、例えば、正極活物質と任意成分からなる正極合剤を液状成分と混合して正極合剤スラリーを調製し、得られたスラリーを正極集電体に塗布し、乾燥させて作製する。
【0058】
負極も同様に、負極活物質と任意成分からなる負極合剤を液状成分と混合して負極合剤スラリーを調製し、得られたスラリーを負極集電体に塗布し、乾燥させて作製する。負極活物質としては、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物、各種合金材料等を用いることができる。炭素材料としては、例えば各種天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、非晶質炭素などの炭素材料が用いられる。また、珪素(Si)や錫(Sn)などの単体、珪素や錫を含む合金、珪素や錫を含む化合物もしくは固溶体などが容量密度の大きい点から好ましい。例えば珪素化合物としては、SiOx(0.05<x<1.95)が好ましい。
【0059】
正極または負極の結着剤には、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。またこれらのうちから選択された2種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
電極に含ませる導電剤には、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが用いられる。
【0061】
正極活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、それぞれ、正極活物質80〜97重量%、導電剤1〜20重量%、結着剤1〜10重量%の範囲とすることが望ましい。また、負極活物質および結着剤の配合割合は、それぞれ、負極活物質93〜99重量%、結着剤0.5〜10重量%の範囲とすることが望ましい。
【0062】
集電体には、長尺の導電性基板が使用される。正極集電体としては、例えばステンレス鋼、アルミニウム、チタンなどが用いられる。負極集電体としては、例えばステンレス鋼、ニッケル、銅などが用いられる。これら集電体の厚さは、特に限定されないが、1〜500μmが好ましく、5〜20μmがより望ましい。
【0063】
正極と負極との間に介在するセパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度と、絶縁性とを兼ね備えた微多孔薄膜、織布、不織布などが用いられる。セパレータの材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが耐久性に優れ、かつシャットダウン機能を有しているため、安全性の観点から好ましい。セパレータの厚さは、15〜30μmが好ましく、10〜25μmが更に好ましい。微多孔薄膜は、1種の材料からなる単層膜であってもよく、1種または2種以上の材料からなる複合膜または多層膜であってもよい。セパレータの空隙率(見かけ体積に占める孔部の体積の割合)は、30〜70%であることが好ましく、35〜60%が更に好ましい。
【0064】
非水電解質としては、液状、ゲル状または固体状の物質を使用することができる。液状非水電解質(非水電解液)は、非水溶媒に溶質(例えばリチウム塩)を溶解させることにより得られる。溶質の非水溶媒に対する溶解量は、0.5〜2モル/Lの範囲内とすることが望ましい。ゲル状非水電解質は、非水電解質と、この非水電解質が保持される高分子材料とを含む。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキサイド、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が好適に使用される。
【0065】
溶質を溶解する非水溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどが用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
非水溶媒に溶解させる溶質には、例えばLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、イミド塩類などを用いることができる。イミド塩類としては、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム((CF3SO22NLi)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO2)(C49SO2))、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム((C25SO22NLi)等が挙げられる。溶質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
非水電解質は、様々な添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、4−メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、4−エチルビニレンカーボネート、4,5−ジエチルビニレンカーボネート、4−プロピルビニレンカーボネート、4,5−ジプロピルビニレンカーボネート、4−フェニルビニレンカーボネート、4,5−ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、ジビニルエチレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、およびジビニルエチレンカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0068】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
《実施例1》
(a)複合酸化物の合成
工程(i)
濃度1.2モル/Lの硫酸ニッケル水溶液、硫酸マンガン水溶液および硫酸コバルト水溶液を調製した。これらの水溶液を、モル比がNi:Mn:Co=5:3:2となるように調整しながら、内容量が5Lの反応槽に導入した。水溶液の合計の導入速度は1.5ml/分とした。その際、同時に、4.8モル/LのNaOH水溶液を0.75ml/分の導入速度で反応槽に導入した。反応槽中の水溶液中に、アルゴンガスをバブリングして、溶存酸素を追出しながら、共沈反応を進行させた。
また、図1に示すように、反応槽の下から上に水溶液の流れを作り、共沈で沈降してくる結晶核に混合溶液を衝突させることにより、ある程度結晶が成長した水酸化物だけを捕集部に沈降させた。その結果、Ni0.5Mn0.3Co0.2(OH)2で表される共沈水酸化物が得られた。
【0069】
得られた共沈水酸化物と、炭酸リチウム(平均粒径6μm)とを、(Ni+Mn+Co):Liのモル比が1:1.03となるように混合した。
なお、炭酸リチウムの平均粒径(D50)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により得られる体積基準のメディアン径である。
【0070】
工程(ii)
得られた混合物2kgを、図2に示すような筒状炉(内容量10L)を具備するロータリーキルンに導入した。筒状炉の内部には空気を流量20L/分で導入した。筒状炉の温度は、導入された混合物が筒状炉の中央部付近で800℃に至るように制御した。すなわち、水酸化物と炭酸リチウムとの混合物は、回転する筒状炉中を溝に沿って移動し、平均的に約10℃/分の昇温速度で800℃まで昇温された。
その後、混合物は、筒状炉中の800℃付近に維持された領域を10時間かけて移動し、筒状炉から第1焼成物として排出された。
【0071】
工程(iii)
工程(ii)で得られた第1焼成物を、粗く粉砕し、セラミックス製容器に充填した。これを静置式のマッフル炉中に導入し、空気中で、900℃で、20時間、第2焼成し、焼成物の結晶性を高めた。その際、昇温および降温の速度は5℃/分とした。その後、複合酸化物を解砕し、ローラで予備粉砕し、更に10μmの平均粒径になるよう調整した。
上記により、Li1.03Ni0.5Mn0.3Co0.22で表される複合酸化物が得られた。
【0072】
[正極活物質(複合酸化物)の評価]
(結晶構造)
得られた複合酸化物のXRD測定を行ったところ、R−3mの空間群に属する層状岩塩構造を有することが確認された。
【0073】
(圧縮密度)
正極活物質の60MPaで加圧された状態での圧縮密度を測定した。
【0074】
(体積抵抗率)
試料重量を3gとした。粉体抵抗率測定装置(ダイヤインスツルメンツ社製レスターGP粉体抵抗率測定システムPD51)を用い、粉体用プローブユニット(四探針・リング電極、電極間隔5mm、電極半径1.0mm、試料半径10.0mm)を用いた。印加電圧リミッタを90Vに設定して、種々の加圧下で、試料の体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。そして、60MPaの圧力下における体積抵抗率の値を求めた。
【0075】
(タップ密度)
試料50gを100mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク20mmで500回タッピングを行った時の試料の充填密度を求めた。
【0076】
(比表面積)
全自動粉体比表面積測定装置(マウンテック社製の比表面積測定装置HM−1201)を用い、吸着ガスに窒素、キャリアガスにヘリウムを用い、連続流動法によるBET1点法により測定を行った。具体的には、試料をヘリウムと窒素との混合ガス雰囲気下、200℃の温度で加熱脱気した。次いで、液体窒素温度まで冷却して窒素ガスを試料に吸着させた。その後、試料を水により室温まで加温して、吸着された窒素ガスを脱着させた。脱着した窒素ガスの量を熱伝導度検出器により検出し、検出値から試料の比表面積を算出した。
【0077】
(平均粒径)
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(ホリバ製作所製のLA−920)により、体積基準の粒度分布を測定し、粒度分布におけるメディアン径(D50)を読み取った。ただし、0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に試料を5分間超音波分散させ、その後に測定を行った。
【0078】
(b)正極の作製
上記(a)で得た複合酸化物を正極活物質に用いた。
100重量部の正極活物質と、導電剤として3重量部のアセチレンブラックと、結着剤として4重量部のポリフッ化ビニリデン(PTFE)と、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を混合し、正極合剤ペーストを調製した。得られた正極合剤ペーストを、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥させ、圧延して、総厚160μmの正極を得た。
【0079】
(c)負極の作製
100重量部の黒鉛(平均粒径20μm)と、結着剤として1重量部のスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤として1重量部のカルボキシメチルセルロースと、適量の水とを混合し、負極合剤ペーストを調製した。得られた負極合剤ペーストを、厚さ10μmの銅箔の両面に塗布し、乾燥させ、圧延して、総厚180μmの負極を得た。
【0080】
(d)多孔質耐熱層の形成
平均粒径0.3μmのアルミナ970gと、変性ポリアクリロニトリルゴム30gと、適量のNMPとを混合し、耐熱ペーストを調製した。耐熱ペーストを、負極合剤層の表面に塗布し、真空下、120℃で10時間乾燥し、厚さ5μmの多孔質耐熱層を形成した。
【0081】
(e)非水電解質の調製
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)との体積比1:1:1の混合溶媒に、1モル/リットルの濃度でLiPF6を溶解させ、さらに全体の3重量%相当のビニレンカーボネートを添加して、非水電解質を得た。
【0082】
(f)円筒型電池の作製
上記の正極、負極、非水電解液およびセパレータを用いて、図3に示すような円筒型電池を作製した。
正極35と、両面に多孔質耐熱層(図示せず)が設けられた負極36とを、これらの間に介在させた厚さ20μmのポリエチレン製の微多孔質フィルムからなるセパレータ37(セルガード(株)製のA089(商品名))とともに捲回し、円柱状の電極群を構成した。続いて、ニッケルめっきを施した鉄製の円筒型の電池缶31(内径18mm)に、電極群を挿入した。なお、電極群の上下にはそれぞれ絶縁板38aおよび38bを配置した。正極35には正極リード35aの一端を接続し、他端は、安全弁を有する封口板32の下面に溶接した。負極36には負極リード36aの一端を接続し、他端は、電池缶31の内底面に溶接した。その後、電池缶31の内部に非水電解質を5.5g注入し、電極群に非水電解質を含浸させた。次に、電池缶31の開口に封口板32を配置し、電池缶31の開口端部を封口板32の周縁部にガスケット33を介してかしめた。その結果、内径18mm、高さ65mm、設計容量2400mAhの円筒型リチウム二次電池が完成した。
【0083】
[電池の評価]
得られた電池に対し、慣らし充放電を2度行った後、45℃環境下で7日間保存した。その後、以下の評価を行った。
(サイクル特性)
20℃環境下で、以下の条件で充放電を行い、初期放電容量を求めた。
定電流充電:充電電流値0.7C(1680mA)/充電終止電圧4.2V
定電圧充電:充電電圧値4.2V/充電終止電流100mA
定電流放電:放電電流値1.0C(2400mA)/放電終止電圧3V
次に、上記と同じ充放電を500回繰り返した。初期放電容量に対する最終回の放電容量の割合が70%未満の場合は「不合格(×)」、70%以上の場合は「合格(○)」とした。
【0084】
(釘刺し試験)
電池に対して、充電電流値1680mAで、終止電圧4.35Vまで充電を行った。20℃環境下において、充電状態の電池の側面に、直径2.7mmの鉄釘を5mm/秒の速度で突き刺し、電池温度を電池の側面に付した熱電対で測定した。90秒後の到達温度を求めた。到達温度が130℃以上の場合は「不合格(×)」、130℃未満の場合は「合格(○)」とした。
【0085】
《実施例2》
原料水酸化物の粒径を小さくし、複合酸化物の平均粒径を8μmに変更したこと以外、実施例1と同様に正極活物質を合成し、同様の電池を作製し、同様に評価した。
【0086】
《実施例3》
原料水酸化物の粒径を大きくし、複合酸化物の平均粒径を12μmに変更したこと以外、実施例1と同様に正極活物質を合成し、同様の電池を作製し、同様に評価した。
【0087】
《比較例1》
特許文献1と同様の噴霧乾燥法により、正極活物質を合成した。
Ni(OH)2、Mn34およびCo(OH)2を、Ni:Mn:Co=1:1:1のモル比となるように秤量し、混合した。得られた混合物に純水を加えてスラリーを調製した。このスラリーを攪拌しながら、スラリー中の固形分を平均粒径0.15μmに粉砕した。その後、スラリーをスプレードライヤーにより噴霧乾燥し、粒子状粉末を得た。得られた粒子状粉末に、平均粒径20μm以下に粉砕したLiOH粉末をLi/(Ni+Mn+Co)のモル比が1.03となる比で添加した。この混合粉末約6gを100mL広口ポリ瓶に入れ、密栓してストローク約20cm、1分間当たり約160回で20分間手振り混合した。
その後、混合粉末をアルミナ製るつぼに仕込み、空気流通下、マッフル炉中で、800℃で10時間、第1焼成し、引き続き、900℃で、20時間、第2焼成した。その際、昇降および温速度は5℃/分とした。得られた複合酸化物を解砕し、ローラで予備粉砕し、更に10μmの平均粒径になるよう調整した。
上記により、Li1.03Ni1/3Mn1/3Co1/32で表される複合酸化物が得られた。
【0088】
《比較例2》
共沈水酸化物と炭酸リチウムとを、(Ni+Mn+Co):Liのモル比が1.00:1.10となるように混合したこと以外、実施例1と同様に正極活物質を合成し、同様の電池を作製し、同様に評価した。
【0089】
《比較例3》
共沈水酸化物と炭酸リチウムとを、(Ni+Mn+Co):Liのモル比が1.00:0.95となるように混合したこと以外、実施例1と同様に正極活物質を合成し、同様の電池を作製し、同様に評価した。
【0090】
《比較例4》
共沈水酸化物と炭酸リチウムとの混合物を、ロータリーキルン炉ではなく、マッフル炉に導入した。そして、空気流通下、マッフル炉中で、800℃で10時間、第1焼成し、引き続き、900℃で、20時間、第2焼成した。その際、昇降および温速度は5℃/分とした。上記以外、実施例1と同様に正極活物質を合成し、同様の電池を作製し、同様に評価した。
実施例1〜3および比較例1〜4の評価結果を表1および表2に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
表1および表2の結果より、体積抵抗率によって、電池のサイクル特性および安全性に大きな差が生じることがわかる。また、噴霧乾燥法で得た正極活物質は、嵩密度が小さく、圧縮密度も小さくなるため、望ましい高容量が得られないことがわかる。また、体積抵抗率が100Ω・cm未満の比較例2および比較例4では、電池の安全性を確保することが困難であり、体積抵抗率が1000Ω・cmを超える比較例3では、サイクル特性が不十分になることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、リチウム二次電池をはじめとする非水電解質電池の分野に適用できる。非水電解質二次電池は、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラなどの電子機器の駆動電源、さらには高出力を要求される電力貯蔵用や電気自動車の電源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】共沈法により水酸化物を合成する装置の概略図である。
【図2】ロータリーキルン炉の一例の構造を示す概略断面図である。
【図3】実施例に係る円筒型リチウム二次電池の一例の縦断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1 反応槽
2 チューブ
3 撹拌棒
20 ロータリーキルン炉
21 本体
22 加熱ヒータ
21a 第1ゾーン
21b 第2ゾーン
21c 第3ゾーン
21d 第4ゾーン
23 筒状炉
23x、y 端部
24 導入路
25 回収容器
26 混合物
27 溝またはリブ
28 送気配管
29 ポンプ
31 電池缶
32 封口板
33 ガスケット
35 正極
35a 正極リード
36 負極
36a 負極リード
37 セパレータ
38a、38b 絶縁板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記正極活物質が、リチウムとリチウム以外の金属Mとを含む複合酸化物を含み、
MがNi、MnおよびCoを含み、
NiとMnとCoとの合計に対するNiのモル比が0.45〜0.65であり、
NiとMnとCoとの合計に対するMnのモル比が0.15〜0.35であり、
前記正極活物質の60MPaで加圧された状態での圧縮密度が3.3g/cm3以上、4.3g/cm3以下であり、
前記正極活物質の60MPaで加圧された状態での体積抵抗率が100Ω・cm以上、1000Ω・cm未満である、正極活物質。
【請求項2】
NiとMnとCoとの合計に対するCoのモル比が0.15〜0.25である、請求項1記載の正極活物質。
【請求項3】
Liに対するNiとMnとCoとの合計のモル比が0.9以上である、請求項1または2記載の正極活物質。
【請求項4】
前記複合酸化物が、一般式:LiaNixMnyCoz2+bで表され、ただし、0.97≦a≦1.05、−0.1≦b≦0.1、0.45≦x≦0.65、0.15≦y≦0.35、0.15≦z≦0.25およびx+y+z=1を満たす、請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項5】
0.49≦x≦0.56、0.24≦y≦0.31および0.18≦z≦0.22を満たす、請求項4記載の正極活物質。
【請求項6】
前記正極活物質のタップ密度が2.3g/cm3以上、3.0g/cm3以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項7】
前記正極活物質の比表面積が0.2m2/g以上、1m2/g以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項8】
Mは、更に、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、イットリウム、イッテルビウムおよび鉄よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項9】
リチウムとリチウム以外の金属Mとを含む複合酸化物を含む非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
(i)リチウム以外の金属Mを含み、MがNi、MnおよびCoを含み、
NiとMnとCoとの合計に対するNiのモル比が0.45〜0.65であり、
NiとMnとCoとの合計に対するMnのモル比が0.15〜0.35であり、
NiとMnとCoとの合計に対するCoのモル比が0.15〜0.25である遷移金属化合物と、リチウム塩とを、Mに対するLiのモル比が1.00〜1.05となるように混合し、
(ii)得られた混合物を、ロータリーキルン炉内で流動させながら、酸素中または空気中で、650℃〜850℃の第1焼成温度で第1焼成し、
(iii)第1焼成で得られた第1焼成物を、焼成炉内で、酸素中または空気中で、第1焼成温度よりも50℃以上高い第2焼成温度で第2焼成して、前記複合酸化物を得る、正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記リチウム塩が、平均粒径が6μm以下の炭酸リチウムである、請求項9記載の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属化合物が、水酸化物であり、前記水酸化物は、Niイオン、MnイオンおよびCoイオンを含む水溶液に、アルカリを加えて、Ni、MnおよびCoを共沈させることにより得られる、請求項9または10記載の正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記遷移金属化合物が、酸化物であり、前記酸化物は、Niイオン、MnイオンおよびCoイオンを含む水溶液に、アルカリを加えて、Ni、MnおよびCoを共沈させることにより得られる水酸化物を、酸素を含む雰囲気中で焼成して得られる、請求項9または10記載の正極活物質の製造方法。
【請求項13】
請求項1記載の正極活物質を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、非水電解質と、を具備する非水電解質二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−108771(P2010−108771A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279944(P2008−279944)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】