説明

非水電解質二次電池用負極及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池

【課題】初期効率が高くしかもサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】集電体と、該集電体から連続的に成膜された、リチウムを吸蔵・放出する周期律表第14族元素を含む活物質薄膜とからなる非水電解質二次電池用負極であって、前記活物質薄膜が、元素X(元素Xは、アルカリ土類元素及び周期律表第4族元素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上)を含む非水電解質二次電池用負極。集電体上に、この活物質薄膜を気相成膜する非水電解質二次電池用負極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極及びその製造方法と、この非水電解質二次電池用負極を用いた非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池などの非水電解質二次電池は、高電圧かつ小型で軽量であることから、携帯電話やノートパソコンなどの可搬型電子機器に最適な二次電池として普及しているが、更なる高容量化の期待は大きく、その要請に応えるべく種々研究開発が進められている。
【0003】
かかるリチウム二次電池の高容量化のためには、リチウムをより多く吸蔵・放出する電極活物質が必要となる。従来、負極活物質としては、理論放電容量が質量当り372mAh/g、体積当たり859mAh/ccである黒鉛化炭素材が用いられてきた。しかし、黒鉛化炭素材については、長年の改良研究により実用化での放電容量の向上が限界に近づいたことから、これに代わる高い理論容量をもつ材料、例えばシリコン、錫などの合金系材料についての検討がなされるようになってきている。
【0004】
このうちシリコンは4000mAh/gを超える大きな放電容量を示すため有望であるが、シリコン活物質は、充電・放電に伴う体積の膨張・収縮が著しいため、充放電を繰返すとシリコンが微粉化したり、基板となる集電体から脱落しやすく、充放電サイクル特性が悪いという欠点があった。このため、合金系負極の高容量を活かしつつサイクル特性に優れた負極の実現が求められている。
【0005】
非特許文献1には、SiO等の粉体状の酸化物系負極材について、放電容量は1200mAh/gで、サイクル特性に優れている旨の記載がある。しかし、このような酸化物系負極材は、非特許文献2の723ページに記載されているように、例えば錫酸化物系ではリチウムが酸素に消費されて不可逆容量が大きくなる問題があった。また、同非特許文献2の727ページには、合金系活物質においても膜中に存在する酸素のためにリチウムが消費されることや、合金表面で電解液が分解してリチウム化合物として表面皮膜を形成し、更に、クラックで生じた新鮮面でさらに電解液が分解し、この面に皮膜を形成することによりリチウムが消費されるため、初期効率が低いと言う問題があることが記載されている。
【0006】
特許文献1にはLiSi1-y負極活物質が記載されている。しかし、LiSi1-y負極活物質を、粒子間の結着や集電体基板との接着のためのバインダーと混合して負極合剤とし、これを集電体基板に塗布後、熱処理して得られる負極では、活物質が粒子状であるために、充放電を繰返すと、活物質とバインダーとの膨張率や塑性変形率の違いによって、負極活物質とバインダーとの間に隙間を生じ、電気的なパス切れを生じる問題がある。特許文献1には、この問題の改善について何ら触れられていない。
【特許文献1】特開2000−77075号公報
【非特許文献1】「第38回電池討論会(大阪)1997予稿集」P179〜180
【非特許文献2】「Electrochemistry 71,No.8(2003)」P723、P727
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の問題を解決するには、二次電池用負極において、
(i)活物質の形態として粉体系を使わず、集電体から連続した活物質薄膜を形成すること
(ii)初期のリチウムイオンが活物質中に取り込まれている充電状態からリチウムが電解液中に放出される放電状態に至るとき、リチウムイオンが活物質中の酸素や電解液と反応しLiOを形成して消費されることを抑制すること
が重要である。
【0008】
本発明の目的は、上記(i),(ii)の要件を実現して、初期効率が高くしかもサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、周期律表第14族元素と元素X(元素Xは、アルカリ土類元素及び周期律表第4族元素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上)を含む活物質薄膜を集電体から連続的に成膜した負極であれば、初期効率とサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を実現し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明(請求項1)の非水電解質二次電池用負極は、集電体と、該集電体から連続的に成膜された、リチウムを吸蔵・放出する周期律表第14族元素を含む活物質薄膜とからなる非水電解質二次電池用負極であって、前記活物質薄膜が、元素X(元素Xは、アルカリ土類元素及び周期律表第4族元素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上)を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項2の非水電解質二次電池用負極は、請求項1において、元素Xの活物質薄膜中での存在形態が酸化物であり、活物質薄膜中の元素Xの平均濃度が1〜25at%であることを特徴とする。
【0012】
請求項3の非水電解質二次電池用負極は、請求項1又は2において、元素Xの濃度が、活物質薄膜の厚み方向に、活物質薄膜の表面側で高くなるように傾斜していることを特徴とする。
【0013】
請求項4の非水電解質二次電池用負極は、請求項1ないし3のいずれか1項において、元素Xがマグネシウム及び/又はまたはカルシウムであることを特徴とする。
【0014】
本発明(請求項5)の非水電解質二次電池用負極の製造方法は、集電体上に活物質薄膜を気相成膜することによって、このような本発明の非水電解質二次電池用負極を製造することを特徴とする。
【0015】
本発明(請求項6,7)の非水電解質二次電池は、このような本発明の非水電解質二次電池用負極、或いは本発明の非水電解質二次電池用負極の製造方法で製造された非水電解質二次電池用負極を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の非水電解質二次電池用負極を用いることにより、高い初期効率が得られ、なおかつサイクル特性も良好な非水電解質二次電池を提供することができる。
【0017】
このような本発明の効果が得られる理由の詳細については明らかではないが、高い初期効率が得られるのは、次の(1),(2)の理由によるものと考えられる。
(1) 活物質薄膜中で、例えば、酸素によって結合した状態で含有されている活物質成分の周期律表第14族元素が、元素Xにより還元されることにより、活物質薄膜中の金属成分が増加する。
(2) 初期のリチウムイオンが活物質中に取り込まれている充電状態からリチウムが電解液中に放出される放電状態に至るとき、リチウムイオンが活物質薄膜中の酸素や電解液中の不純物と反応しLiOを形成して消費される前に、例えばマグネシウムのような強い還元力を持つ元素Xが酸素と反応し、酸素源を消費してLiOより安定な状態である例えばマグネシウム酸化物を生成することで、リチウムの酸化を防止するため、リチウムの消費が抑制される。
【0018】
また、サイクル特性が良好となるのは、元素Xが活物質薄膜中に取り込まれることにより、活物質薄膜中の活物質成分である周期律表第14族元素濃度が薄まり、充放電時の活物質薄膜の膨張・収縮が抑えられるためと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0020】
[1]非水電解質二次電池用負極
本発明の非水電解質二次電池用負極は、集電体と、該集電体から連続的に成膜された、リチウムを吸蔵・放出する周期律表第14族元素を含む活物質薄膜とからなる非水電解質二次電池用負極であって、前記活物質薄膜が、更に元素X(元素Xは、アルカリ土類元素及び周期律表第4族元素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上)を含むことを特徴とする。
【0021】
以下において、本発明の集電体上に連続的に形成された周期律表第14族元素と元素Xとを含む薄膜を有する負極を「本発明の薄膜負極」と称す場合がある。この薄膜負極において、集電体基板を除いた周期律表第14族元素と元素Xとを含む組成物よりなる薄膜が「活物質薄膜」である。
【0022】
[活物質薄膜]
(第14族元素)
本発明における活物質薄膜は、活物質成分として周期律表第14族元素を含むものである。第14族元素は、活物質薄膜中に単体として含まれていても良く、化合物として含まれていても良い。
【0023】
第14族元素としては、C、Si、Sn、Ge、Pbが挙げられる。この中でも、Si、Snは放電容量が高く好ましい。また、第14族元素の酸化物は、第14族元素の単体に比べて、充放電時の膨張・収縮が小さく特に好ましい。
【0024】
第14族元素は、活物質薄膜中に1種が単独で存在していても複数種が混在していても良い。また、第14族元素の単体と第14族元素の酸化物等の化合物とが混在していても良い。
【0025】
(元素X)
元素Xは、アルカリ土類元素及び周期律表第4族元素の1種又は2種以上である。
【0026】
元素Xの具体的な元素としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zrなどが挙げられる。中でも、アルカリ土類金属に属するMgやCaはリチウムより安定な化合物を形成し易く好ましい。元素Xは単独でも複数種でも良い。
【0027】
元素Xの活物質薄膜中での存在形態は酸化物であることが好ましい。元素Xが酸化物であるということは、活物質成分である第14族元素が酸化物でない場合には、リチウムの消費に関与する活物質薄膜中に存在する不純物の酸素が減少している、或いは、活物質成分である第14族元素が酸化物の場合はこの酸化物の酸素が減少し金属活物質が増加していることになり、この負極を用いた二次電池の初期効率が改善されるため、好ましい。
【0028】
元素Xの活物質薄膜中の平均濃度としては、下限として通常1at%以上、好ましくは5at%以上、上限として通常25at%以下、好ましくは22at%以下、特に好ましくは20at%以下である。この下限を下回ると元素Xの添加効果が認められず、高い初期効率が得られにくい。上限を上回ると第14族元素と化合物を生成し、サイクル特性が低下しやすい。
【0029】
元素Xは、活物質薄膜の膜厚方向に、活物質薄膜の表面側(集電体と反対側の面)で濃くなるように濃度が傾斜していることが好ましい。活物質薄膜中の元素Xの濃度が傾斜しているとは、集電体側である膜の内部から膜の表面側に向けて、元素Xの濃度が途中で跳ぶことなく連続的に変化(増加)して、活物質薄膜の表層部で、元素Xの高濃度層を形成していることを指す。
【0030】
なお、本発明において、活物質薄膜中の元素Xの平均濃度(Cave)は、後述のXPS分析により求められる値であり、活物質薄膜表層部の元素Xの高濃度層は、この平均濃度よりも高い元素X濃度を示す部分であり、この高濃度層も後述のXPS分析により検出することができる。
【0031】
本発明に係る活物質薄膜において、この高濃度層の厚さは通常5nm以上、好ましくは10nm以上で、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。また、この高濃度層において、後述のXPS分析で元素Xの強度のピークを示す濃度を最高濃度(Cmax)としたとき、この最高濃度(Cmax)は平均濃度(Cave)の通常1.1倍以上、好ましくは1.3倍以上で、より好ましくは1.9倍以上で、通常5倍以下である。
【0032】
なお、第14族元素と上述のような割合の元素X、更には酸素を含む薄膜を、後述する気相成膜法で形成した場合には、上述の如く、元素Xが膜の表面側で高濃度となるように膜厚方向に濃度が傾斜する薄膜が形成される。
【0033】
本発明において、活物質薄膜中の元素Xが膜厚方向に表面側で高濃度となるように傾斜していることが好ましい理由の詳細は定かではないが、充放電を繰返すことにより、活物質薄膜にクラックが生じ、クラック部分の新鮮面が電解液と接触する際、この部分の元素Xの濃度が高い方が有利なためと推定される。
【0034】
なお、活物質薄膜中に含まれる元素Xの濃度やその膜厚方向の濃度勾配は、XPS分析装置を用いて分析することができる。例えば、PHI社製のXPS分析装置(装置名「Quantum2000」)を用いて、活物質薄膜の表面からアルゴンでエッチングしながら元素Xの膜厚方向の濃度、及びその分布を求めることができる。表面近傍の元素Xの高濃度層の厚さは、XPS装置のアルゴンエッチング条件2KV(2×2mm)でのシリコン熱酸化膜(SiO)のエッチング速度6.3nm/分を基準として、元素Xの強度が活物質薄膜の表面部分でピークを示してから(この点が元素Xの最高濃度(Cmax)に相当する。)、膜中の平均的強度に至る時の変極点までのエッチング時間から算出する。また、元素Xの活物質薄膜中の平均濃度(膜内部濃度)についても、このXPS分析装置を用いて分析することができ、アルゴンで表面からエッチングしながら分析する際に、強度が一定している部分、通常、活物質薄膜の表面から200nm程度の深さのあたりの元素Xの濃度を平均濃度(Cave)とする。
【0035】
(構造)
本発明に係る活物質薄膜は、集電体上に連続的に成膜されたものである。ここで、集電体上に連続して成膜された活物質薄膜とは、活物質薄膜成分、即ち、酸化物等の化合物として存在していても良い第14族元素及び元素X以外の介在物を含まない、これらの成分のみの連続した膜を指す。ここで言う介在物とは、粒子状の活物質を電極とする際に用いられる結着剤(有機バインダー)や導電剤を指す。即ち、本発明に係る活物質薄膜は実質的に酸化物等の化合物として存在していても良い第14族元素と元素Xとで構成されることが好ましく、とりわけ、第14族元素酸化物中に、元素Xが酸化物の形態で存在していることが好ましい。活物質薄膜の組成は、例えばX線光電子分光器(XPS又はESCA、例えばPHI社製の「Quantum2000」)を用い、薄膜負極を活物質薄膜側を上にして、その表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、アルゴンスパッタを行いながらデプスプロファイル測定を行なうことで求めることができ、介在物が存在するかどうかが判別できる。
【0036】
本発明の薄膜負極中に成膜された活物質薄膜の構造としては、例えば、柱状構造、層状構造等が挙げられる。
【0037】
なお、この活物質薄膜は後述の製造方法に記述されるように、気相から成膜するのが好ましい。
【0038】
(膜厚)
活物質薄膜の膜厚は、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、また通常30μm以下、好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下である。活物質薄膜の膜厚がこの範囲を下回ると、本発明の薄膜負極の1枚当たりの容量が小さく、大容量の電池を得るには数多くの負極が必要となり、従って、併せて必要な正極、セパレータ、薄膜負極自体の集電体の総容積が大きくなり、電池容積当たりに充填できる負極活物質量が実質的に減少し、電池容量を大きくすることが困難になる。一方、この範囲を上回ると、充放電に伴う膨張・収縮で、活物質薄膜が集電体基板から剥離する虞があり、サイクル特性が悪化する可能性がある。
【0039】
[集電体]
(材質)
集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス等が挙げられ、中でも薄膜に加工しやすく、安価な銅が好ましい。銅箔には、圧延法による圧延銅箔と、電解法による電解銅箔があり、どちらも集電体として用いることができる。銅箔の片面又は両面には、粗面化処理や表面処理(例えば、クロメート処理、Ti下地処理など)がなされていても良い。
【0040】
(厚さ)
銅箔等よりなる集電体基板は、薄い方が薄い薄膜負極を製造することができ、同じ収納容積の電池容器内により広い表面積の薄膜負極を詰めることができる点で好ましいが、過度に薄いと、強度が不足し、電池製造時の捲回等で銅箔が切断する恐れがある。従って、集電体基板の厚さは、通常8μm以上、好ましくは10μm以上で、通常70μm以下、好ましくは35μm以下である。
【0041】
(表面平均粗さ:Ra)
表面平均粗さ(Ra)はJISB0601−1994に記載の方法で規定される。集電体基板の平均表面粗さ(Ra)は、特に制限されないが、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.15μm以上であり、通常1.5μm以下、好ましくは1.3μm以下、特に好ましくは1.0μm以下である。
【0042】
集電体基板の平均表面粗さ(Ra)を上記した下限と上限の間の範囲内とすることにより、良好な充放電サイクル特性が期待できる。即ち、上記下限値以上とすることにより、活物質薄膜との界面の面積が大きくなり、活物質薄膜との密着性が向上する。また、平均表面粗さ(Ra)の上限値は特に制限されるものではないが、平均表面粗さ(Ra)が1.5μmを超えるものは電池として実用的な厚みの箔としては一般に入手しにくいため、1.5μm以下のものが好ましい。
【0043】
[2]非水電解質二次電池用負極の製造方法
本発明の非水電解質二次電池用負極は、好ましくは、上述した銅やニッケルなどの集電体として用いられる金属箔上に、真空蒸着法やスパッタリング法により、活物質薄膜を連続的に成膜することにより製造される。
【0044】
真空蒸着法は、第14族元素及び/又はその化合物(例えばSiO)を第1の原料とし、元素Xを第2の原料として、不純物の混入を防ぐため通常1×10−4Torr(0.01Pa)以下の真空中で行なわれる。蒸着時の加熱は抵抗加熱や誘導加熱、電子線加熱によって行なわれ、蒸着物を融点或いは昇華点以上にしてその蒸気を集電体上に堆積させる。
【0045】
元素X(例えばマグネシウム)は、別の蒸着用ボートを用いて、第14族元素及び/又はその化合物と同時に加熱、蒸着させる。このときの元素Xの蒸着速度をコントロールすることにより、形成される活物質薄膜中の元素X濃度を制御することができる。蒸着用ボートから蒸発された元素X、例えばマグネシウムは、集電体基板に到達する間に、同時に蒸発された第14族元素及び/又はその化合物、例えばSiOの酸素と結合した状態で集電体上に酸化物として堆積される。このため、形成される活物質薄膜は、導入されたMgの分だけ、SiOの酸素が欠乏したものとなり、従って、活物質薄膜は理論的にはSiとSiOMgOとで構成されたものとなる。
【0046】
スパッタリング法による成膜は、内部にターゲットと基板とを対向して配置したチャンバーを、予め3×10−6Torr(4×10−4Pa)以下まで真空引きし、スパッタリング用ガスとしてアルゴンなどの不活性ガスを導入して行う。アルゴンは安価でスパッタ効率が良くスパッタリング用ガスとして一般的に用いられる。成膜時の真空度は、アルゴン流量をマスフローコントローラで一定量流しながら成膜装置の真空ポンプのメインバルブの開度を調整することにより1〜100mTorr(0.13〜13Pa)に制御される。活物質薄膜を形成するためのターゲットとしては、例えば第14族元素化合物としてSiOを、元素Xとしてマグネシウムを用いる場合、次の[1]又は[2]が挙げられる。
[1] 成膜される膜中のマグネシウム濃度(前述の平均濃度)が下限として通常1at%以上、好ましくは5at%以上、上限として通常25at%以下、好ましくは22at%以下、特に好ましくは20at%以下となるように、SiOとマグネシウムとを配合し、これを焼結又はホットプレスすることにより作製されたターゲット
[2] 成膜される膜中のマグネシウム濃度(前述の平均濃度)が下限として通常1at%以上、好ましくは5at%以上、上限として通常25at%以下、好ましくは22at%以下、特に好ましくは20at%以下となるように、SiOターゲット上にマグネシウムのチップを配置した複合ターゲット
【0047】
このようなターゲットを用いたスパッタリング法であっても、形成される活物質薄膜は、導入されたMgの分だけ、SiOの酸素が欠乏したものとなり、従って、活物質薄膜は理論的にはSiとSiOMgOとで構成されたものとなる。
【0048】
[3]非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池用負極はリチウム二次電池などの非水電解質二次電池の負極材料として極めて有用である。例えば、上記方法に従って製造した負極を使用し、通常使用される非水系電解質二次電池用の正極及びカーボネート系溶媒を主体とする有機電解液を組み合わせて構成した非水系電解質二次電池は、初期効率が高く、かつサイクル特性に優れている。
【0049】
このような非水電解質二次電池を構成する正極、電解液等の電池構成上必要な部材の選択については特に制限されない。
【0050】
以下において、本発明の非水電解質二次電池を構成する部材の材料等を例示するが、使用し得る材料はこれらの具体例に制限されるものではない。
【0051】
非水電解質二次電池を構成する正極は、集電体基板上に、正極活物質と、結着及び増粘効果を有する有機物(結着剤)を含有する活物質層を形成してなり、通常、正極活物質と結着及び増粘効果を有する有機物を水或いは有機溶媒中に分散させたスラリー状のものを、集電体基板上に薄く塗布・乾燥する工程、続いて所定の厚み・密度まで圧密するプレス工程により形成される。
【0052】
正極活物質としては、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物;二酸化マンガン等の遷移金属酸化物材料;フッ化黒鉛等の炭素質材料などのリチウムを吸蔵・放出可能な材料を使用することができる。具体的には、LiFeO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24及びこれらの非定比化合物、MnO2、TiS2、FeS2、Nb34、Mo34、CoS2、CoS2、V25、P25、CrO3、TeO2、GeO2等の1種又は2種以上を用いる事ができる。
【0053】
正極活物質層には、正極用導電剤を用いることができる。正極用導電剤は、用いる正極活物質材料の充放電電位において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば何でも良い。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカ−ボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウム等の金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物或いはポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを単独又はこれらの混合物として含ませることができる。これらの導電剤のなかで、人造黒鉛、アセチレンブラックが特に好ましい。導電剤の添加量は、特に限定されないが、正極活物質材料に対して1〜50重量%が好ましく、特に1〜30重量%が好ましい。カーボンやグラファイトでは、2〜15重量%が特に好ましい。
【0054】
正極活物質層の形成に用いられる結着及び増粘効果を有する有機物としては、特に制限はなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであっても良い。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体又は前記材料の(Na)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体又は前記材料の(Na)イオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体又は前記材料の(Na)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体又は前記材料の(Na)イオン架橋体を挙げることができ、これらの材料を単独又は混合物として用いることができる。これらの材料の中でより好ましい材料はポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0055】
正極活物質スラリーの調製には、水系溶媒又は有機溶媒が分散媒として用いられる。水系溶媒としては、通常、水が用いられるが、これにエタノール等のアルコール類、N−メチルピロリドン等の環状アミド類等の添加剤を水に対して、30重量%以下程度まで添加することもできる。
【0056】
また、有機溶媒としては、通常、N−メチルピロリドン等の環状アミド類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の直鎖状アミド類、アニソール、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類が挙げられ、中でも、N−メチルピロリドン等の環状アミド類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の直鎖状アミド類等が好ましい。
【0057】
正極活物質、結着剤である結着及び増粘効果を有する有機物及び必要に応じて配合される正極用導電剤、その他フィラー等をこれらの溶媒に混合して正極活物質スラリーを調製し、これを正極用集電体基板に所定の厚みとなるように塗布、乾燥、圧密することにより正極活物質層が形成される。
【0058】
なお、この正極活物質スラリー中の正極活物質の濃度の上限は通常70重量%以下、好ましくは55重量%以下であり、下限は通常30重量%以上、好ましくは40重量%以上である。正極活物質の濃度がこの上限を超えると正極活物質スラリー中の正極活物質が凝集しやすくなり、下限を下回ると正極活物質スラリーの保存中に正極活物質が沈降しやすくなる。
【0059】
また、正極活物質スラリー中の結着剤の濃度の上限は通常30重量%以下、好ましくは10重量%以下であり、下限は通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量以上である。結着剤の濃度がこの上限を超えると得られる正極の内部抵抗が大きくなり、下限を下回ると正極活物質層の結着性に劣るものとなる。
【0060】
正極集電体には、電解液中での陽極酸化によって表面に不動態皮膜を形成する弁金属又はその合金を用いるのが好ましい。弁金属としては、13族、14族、15族(3族、4族、5族)に属する金属及びこれらの合金を例示することができる。具体的にはAl、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta及びこれらの金属1種又は2種以上を含む合金などを例示することができ、Al、Ti、Ta及びこれらの金属を含む合金を好ましく使用することができる。特にAl及びその合金は軽量でエネルギー密度が高いため有利である。
【0061】
正極用集電体基板の厚みは特に限定されないが通常1〜50μm程度である。
【0062】
非水電解質二次電池に使用する電解質としては、電解液や固体電解質など、任意の電解質を用いることができる。なおここで電解質とはイオン導電体すべてのことをいい、電解液及び固体電解質は共に電解質に含まれるものとする。
【0063】
電解液としては、例えば、非水系溶媒に溶質(電解質)を溶解したものを用いることができる。溶質としては、アルカリ金属塩や4級アンモニウム塩などを用いることができる。具体的には、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(CF3CF2SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiCCF(CF3SO23からなる群から選択される化合物を用いるのが好ましい。
【0064】
電解液中のこれらの溶質の含有量は、0.2mol/L以上、特に0.5mol/L以上で、2mol/L以下、特に1.5mol/L以下であることが好ましい。
【0065】
非水系溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、γ−ブチロラクトンなどの環状エステル化合物;1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル;クラウンエーテル、2−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジメチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドルフラン等の環状エーテル;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の鎖状カーボネートなどを用いることができる。
【0066】
溶質及び溶媒はそれぞれ1種類を選択して使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも非水系溶媒が、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含有するものが好ましい。
【0067】
非水電解質二次電池には、非水系電解液、負極、正極の他に、必要に応じて、外缶、セパレータ、ガスケット、封口板、セルケースなどを用いることができる。
【0068】
非水電解質二次電池に使用するセパレータの材料は特に制限されない。セパレータは正極と負極が物理的に接触しないように分離するものであり、イオン透過性が高く、電気抵抗が低いものが好ましい。また、セパレータは電解液に対して安定で保液性が優れた材料の中から選択するのが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布をセパレータとして用いて、上記電解液を含浸されることができる。
【0069】
電解質、負極及び正極を少なくとも有する非水電解質二次電池を製造する方法は、特に限定されず、通常採用されている方法の中から適宜選択することができる。例えば、外缶上に負極を載せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を載せて、ガスケット、封口板と共にかしめて電池とすることができる。
【0070】
本発明の非水電解質二次電池の形状には特に限定されず、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等を採用することができる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0072】
なお、以下の実施例及び比較例において、成膜した活物質薄膜の厚さは、得られた薄膜負極の走査型電子顕微鏡(日立製作所製走査型電子顕微鏡「S−4100」)による断面観察から求めた。
【0073】
また、活物質薄膜中のマグネシウム濃度はXPS分析(PHI社製)により膜表面からアルゴンエッチングしながら求めた。
【0074】
[実施例1]
真空機工製の真空蒸着装置(VPC−260F)を用いて、真空蒸着法により以下の方法で集電体上に活物質薄膜を成膜することにより、本発明の薄膜負極を作製した。
【0075】
この真空蒸着装置は、チャンバー内に複数の抵抗加熱蒸着源を有する装置であり、この蒸着源に、SiOとマグネシウムを別々に2つのタンタルボート(ニラコ製「SS−3」)に入れてセットした。チャンバー内を真空度1×10−4Torr(0.01Pa)まで真空引きした後、同時蒸着を行い、基板ホルダーにセットした表面粗さ(Ra)が0.74μm、厚さ18μmの電解銅箔上に、活物質薄膜を堆積させた。
【0076】
得られた活物質薄膜のマグネシウム濃度は、マグネシウムを載せたタンタルボートに通電する電流量を変えて加熱温度を制御することにより、その蒸着速度を制御して調整することができる。マグネシウム蒸着用タンタルボートに流した電流量は、60〜63Aで、SiOとマグネシウムを足した成膜速度は、約21nm/秒、成膜時間は約4分間であった。
【0077】
蒸着後15分間冷却した後、窒素をチャンバーに導入して大気圧へ戻した。
【0078】
形成された活物質薄膜の膜厚は5.3μmであった。
【0079】
活物質薄膜中のマグネシウム濃度を、XPS分析(PHI社製)により膜表面からアルゴンエッチングしながら求めたところ、表面から200nm深さでのマグネシウム濃度(平均濃度:Cave)は4.6at%であった。マグネシウムの深さ方向プロファイルから、マグネシウム濃度は活物質薄膜表面から深さ50nmより膜内部側(集電体側)では均一であり、200nm時点での濃度を代表値として膜中平均濃度とした。また、表面近傍はマグネシウムが濃縮しておりマグネシウムの深さ方向プロファイルからそのピーク濃度は膜内部に比べ4.6倍の濃度であり(即ち、最高濃度(Cmax)は平均濃度(Cave)の4.6倍)、膜表面から15nmの厚みで分布していた。即ち、膜表層部に厚さ15nmの高濃度層が形成されていた。
【0080】
マグネシウムの存在状態は、Mgの2p軌道電子の束縛エネルギーからマグネシウム酸化物であることを確認した。
【0081】
このようにして作製された薄膜負極を用いて下記の方法に従ってリチウム二次電池を作製し、充放電初期効率及びサイクル維持率の評価を行い、結果を表1に示した。
【0082】
(リチウム二次電池の作製方法)
上記方法で作製した負極を10mmφに打ち抜き、110℃で真空乾燥した後、グローブボックスへ移し、アルゴン雰囲気下で、電解液としてエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=3/7(重量比)の混合液を溶媒とした1M−LiPF6電解液と、セパレータとしてポリエチレンセパレータと、対極としてリチウム金属対極とを用い、コイン電池(リチウム二次電池)を作製した。
【0083】
(初期効率測定方法)
1.23mA/cm2の電流密度でリチウム対極に対して10mVまで充電し、更に、10mVの一定電圧で電流値が0.123mAになるまで充電し、負極中にリチウムをドープした後、1.23mA/cm2の電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行う充放電サイクルを1回実施した。
【0084】
(充放電初期効率の計算方法)
下記式に従って充放電初期効率を計算した。
充放電初期効率(%)=
(初回放電容量(mAh)/初回充電容量(mAh))×100
【0085】
(サイクル維持率の計算方法)
上述の充放電サイクルを50回繰り返し、下記式に従ってサイクル維持率を計算した。
サイクル維持率(%)=
(50サイクル目の放電容量(mAh)/1〜50サイクルの最
大放電容量(mAh))×100
【0086】
[実施例2]
マグネシウム蒸着用タンタルボートの通電量を上げ、SiOとマグネシウムの同時蒸着時のマグネシウム蒸着速度を実施例1より上げて活物質薄膜を成膜したこと以外は実施例1と同様に成膜した。このときのマグネシウム蒸着用タンタルボートに流した電流量は、62〜67Aであった。
【0087】
得られた活物質薄膜のマグネシウムの平均濃度(Cave)は10.4at%で、膜厚は6.7μmであった。また、膜表面近傍のマグネシウムの高濃度層の厚さは22nmで、最高濃度(Cmax)は平均濃度(Cave)の3.6倍であった。
【0088】
作製された薄膜負極を用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、同様に充放電初期効率及びサイクル維持率を求め、結果を表1に示した。
【0089】
[実施例3]
マグネシウム蒸着用タンタルボートの通電量を上げ、SiOとマグネシウムの同時蒸着時のマグネシウム蒸着速度を実施例2より上げて活物質薄膜を成膜したこと以外は実施例1と同様に成膜した。このときのマグネシウム蒸着用タンタルボートに流した電流量は、69〜73Aであった。
【0090】
得られた活物質薄膜のマグネシウムの平均濃度(Cave)は17.1at%で、膜厚は6.0μmであった。また、膜表面近傍のマグネシウムの高濃度層の厚さは25nmで、最高濃度(Cmax)は平均濃度(Cave)の1.9倍であった。
【0091】
作製された薄膜負極を用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、同様に充放電初期効率及びサイクル維持率を求め、結果を表1に示した。
【0092】
[実施例4]
マグネシウム蒸着用タンタルボートの通電量を上げ、SiOとマグネシウムの同時蒸着時のマグネシウム蒸着速度を実施例3より上げて活物質薄膜を成膜したこと以外は実施例1と同様に成膜した。このときのマグネシウム蒸着用タンタルボートに流した電流量は、72〜77Aであった。
【0093】
得られた活物質薄膜のマグネシウムの平均濃度(Cave)は25.0at%で、膜厚は6.7μmであった。また、膜表面近傍のマグネシウムの高濃度層の厚さは17nmで、最高濃度(Cmax)は平均濃度(Cave)の1.2倍であった。
【0094】
作製された薄膜負極を用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、同様に充放電初期効率及びサイクル維持率を求め、結果を表1に示した。
【0095】
[実施例5]
マグネシウム蒸着用タンタルボートの通電量を上げ、SiOとマグネシウムの同時蒸着時のマグネシウム蒸着速度を実施例4より上げて活物質薄膜を成膜したこと以外は実施例1と同様に成膜した。このときのマグネシウム蒸着用タンタルボートに流した電流量は、79〜83Aであった。
【0096】
得られた活物質薄膜のマグネシウムの平均濃度(Cave)は37.0at%で、膜厚は6.7μmであった。また、膜表面近傍のマグネシウムの高濃度層の厚さは20nmで、最高濃度(Cmax)は平均濃度(Cave)の1.1倍であった。
【0097】
作製された薄膜負極を用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、同様に充放電初期効率及びサイクル維持率を求め、結果を表1に示した。
【0098】
[実施例6]
5インチ径の円盤状SiOターゲット上に10×10mm角のマグネシウムチップを8枚貼り付けたターゲットを用いて、スパッタリング法により、実施例1で用いたと同様の集電体上に活物質薄膜をRFスパッタ成膜した。
【0099】
チャンバー内は予め2×10−6Torr(2.7×10−4Pa)まで真空引き後、アルゴンガスを40sccm導入してメインバルブの開度を調整し、1.2×10−2Torr(1.6Pa)の雰囲気とした。ターゲットに600Wを印加して、成膜速度約4.27nm/秒で約26分成膜した。
【0100】
得られた活物質薄膜のマグネシウムの平均濃度(Cave)は9.0at%で、膜厚は5.7μmであった。また、膜表面近傍のマグネシウムの高濃度層の厚さは15nmで、最高濃度(Cmax)は平均濃度(Cave)の1.3倍であった。
【0101】
作製された薄膜負極を用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、同様に充放電初期効率及びサイクル維持率を求め、結果を表1に示した。
【0102】
[実施例7]
5インチ径の円盤状Siターゲット上に10×10mm角のマグネシウムチップを5枚貼り付けたターゲットを用いて、スパッタリング法により、実施例1で用いたと同様の集電体上に活物質薄膜をDCスパッタ成膜した。
【0103】
チャンバー内は予め2×10−6Torr(2.7×10−4Pa)まで真空引き後、アルゴンガスを40sccm導入してメインバルブの開度を調整し、1.2×10−2Torr(1.6Pa)の雰囲気とした。ターゲットに900Wを印加して、成膜速度5.1nm/秒で約23分成膜した。
【0104】
得られた活物質薄膜のマグネシウムの平均濃度(Cave)は7at%で、膜厚は7μmであった。また、膜表面近傍のマグネシウムの高濃度層の厚さは25nmで、最高濃度(Cmax)は平均濃度(Cave)の2.2倍であった。
【0105】
作製された薄膜負極を用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、同様に充放電初期効率及びサイクル維持率を求め、結果を表1に示した。
【0106】
[比較例1]
真空蒸着法において、マグネシウムの抵抗加熱電源をオフにしてマグネシウムを蒸発させなかったこと以外は実施例1と同様の方法でマグネシウムを含まないSiOの蒸着膜を6.7μmの厚さに集電体上に成膜して薄膜負極を作製した。
【0107】
作製された薄膜負極を用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、同様に充放電初期効率及びサイクル維持率を求め、結果を表1に示した。
【0108】
[比較例2]
マグネシウムチップの無いSiOのみのターゲットを用いたこと以外は実施例6と同様にして、マグネシウムを含まないSiO膜をRFスパッタ成膜した。この時の成膜速度は約2.44nm/秒で、約34分間成膜し、膜厚5.0μmの活物質薄膜を集電体上に形成した。
【0109】
作製された薄膜負極を用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、同様に充放電初期効率及びサイクル維持率を求め、結果を表1に示した。
【0110】
[比較例3]
マグネシウムチップの無いSiのみのターゲットを用いたこと以外は実施例7と同様にして、マグネシウムを含まないSi膜をDCスパッタ成膜した。この時の成膜速度は約3.9nm/秒で、約23分間成膜し、膜厚6μmの活物質薄膜を集電体上に形成した。
【0111】
作製された薄膜負極を用いて実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、同様に充放電初期効率及びサイクル維持率を求め、結果を表1に示した。
【0112】
【表1】

【0113】
表1より次のことが明らかである。蒸着法を採用した実施例1〜5及び比較例1の対比において、Mgを含む活物質薄膜を成膜した実施例1〜5では、Mgを添加することによって高いサイクル維持率を保ちつつ初期効率が改善されている。なかでもMg濃度が1〜25at%の範囲内にあり、かつ表面側で濃くなるように濃度が大きく傾斜している(Cmax/Caveが大きい)実施例1〜3は、特にサイクル維持率が高く、初期効率とのバランスも優れている。
【0114】
比較例1はMg無添加の蒸着膜であり、Mgを含有していないために初期効率が低い。
【0115】
RFスパッタ法により成膜した実施例6と比較例2においても、Mgを含む実施例6では、初期効率、サイクル維持率ともに改善されているが、Mg無添加の比較例2では、Mgを含有していないため初期効率が低い。
【0116】
DCスパッタ法により成膜したSi膜の実施例7と比較例3においても、Mgを含む実施例7では高い初期効率を保ちながらサイクル維持率が改善されているが、Mg無添加の比較例3では、Mgを含有していないためサイクル維持率が低い。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の非水電解質二次電池用負極を用いることにより、初期効率が高くサイクル特性が良好な非水電解質二次電池を効率良く製造することが可能であり、本発明の非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池は、非水電解質二次電池が適用される電子機器等の各種の分野において好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、該集電体から連続的に成膜された、リチウムを吸蔵・放出する周期律表第14族元素を含む活物質薄膜とからなる非水電解質二次電池用負極であって、前記活物質薄膜が、元素X(元素Xは、アルカリ土類元素及び周期律表第4族元素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上)を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
元素Xの活物質薄膜中での存在形態が酸化物であり、活物質薄膜中の元素Xの平均濃度が1〜25at%であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
元素Xの濃度が、活物質薄膜の厚み方向に、活物質薄膜の表面側で高くなるように傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
元素Xがマグネシウム及び/又はまたはカルシウムであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極を製造する方法であって、集電体上に活物質薄膜を気相成膜することを特徴とする非水電解質二次電池用負極の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極を有する非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項5に記載の非水電解質二次電池用負極の製造方法で製造された非水電解質二次電池用負極を有する非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2006−66370(P2006−66370A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376958(P2004−376958)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】