説明

非水電解質二次電池用負極極板の製造方法

【課題】増粘剤としてCMCアンモニウム塩を使用する場合に、密着性と柔軟性に優れた非水電解質二次電池用負極極板を安定して得るための製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩と、分散媒としての水を混合し、増粘剤分散液を作製する第1混練工程と、負極活物質としての炭素質材料と結着剤を前記増粘剤分散液と混合、攪拌し、負極合剤を作製する第2混練工程と、前記負極合剤を集電体上へ塗布する塗布工程と、乾燥工程、及び所定の寸法に裁断する切断工程を備え、前記第1混練工程は、前記増粘剤分散液の温度を5〜15℃の範囲に制御することを特徴とする非水電解質二次電池用負極極板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の負極極板の製造方法に関し、特に活物質と集電体との密着性及び柔軟性に優れた負極極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコンといったモバイル電子機器の電源として、軽量で高エネルギー密度を有する非水電解質二次電池が広く普及している。非水電解質二次電池の活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できる材料が用いられ、負極活物質には黒鉛、難黒鉛化炭素又は易黒鉛化炭素などの炭素質材料が、正極活物質にはリチウム遷移金属複合酸化物が主として用いられている。
【0003】
非水電解質二次電池の負極極板の製造工程は、一般的に、負極活物質、結着剤及び増粘剤を分散媒中で攪拌してペースト状の負極合剤を得る混練工程、負極合剤を金属箔からなる集電体上へ塗布して活物質層を形成する塗布工程、乾燥工程及び切断工程から構成される。
【0004】
上記工程の中でも、混練工程での負極合剤の良否が負極合剤の集電体上への塗工性、活物質と集電体との密着性や負極極板の柔軟性に与える影響が大きい。密着性に乏しいと圧延工程、切断工程で活物質層の剥離や亀裂が生じてしまう。また、組立工程においても、製造設備の極板ガイドとの接触等で飛散した活物質粉末が極板上に付着することにより、電池組立後にセパレータを圧迫し、電圧不良や内部短絡の原因となる。このように、混練工程の成否は、電池の品質にまで大きく影響を及ぼしてしまう。
【0005】
特許文献1、2には結着剤にスチレンブタジエンゴム(SBR)ラテックスを、増粘剤にカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた負極極板が記載されている。特許文献3には、増粘剤にCMCのアンモニウム塩を用いた負極極板が記載されている。特許文献4、5には、黒鉛と増粘剤の混練条件を規定することで高分散かつ安定した負極合剤が得られる負極極板の製造方法が記載されている。特許文献6には、結着剤のガラス転移温度より10℃以上高温で、負極合剤の調製、塗工を行う負極極板の製造方法が記載されている。特許文献7には、粘度が規定された負極合剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−342966号公報
【特許文献2】特開平5−74461号公報
【特許文献3】特開平11−162451号公報
【特許文献4】特開2006−92760号公報
【特許文献5】特開2006−107896号公報
【特許文献6】特開2008−135262号公報
【特許文献7】特開2008−287924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記文献に記載されているように、非水電解質二次電池の増粘剤としてはCMCが主として用いられている。中でもカルボキシメチル基の末端がアンモニウムイオンで置換されたもの(以下、CMCアンモニウム塩という。)は、負極活物質のリチウムイオンの挿入脱離反応を阻害するナトリウムイオンなどを極板内に持ち込まないため、電池特性の観点からは好ましい。
【0008】
しかし、CMCアンモニウム塩は、水などの分散媒中で攪拌すると、分子同士が架橋しやすいという性質を有するため、増粘剤の偏在により密着強度、柔軟性の低下といった問題を起こしやすく、製造ロット毎による品質バラツキが発生しやすいとの問題がみられた。特許文献4〜7には、増粘剤としてCMCアンモニウム塩を用いた非水電解質二次電池用負極極板の製造方法が記載されているが、これらの製造方法は、CMCアンモニウム塩に特有の課題を解決したものとはいえず、密着性と柔軟性に優れた負極極板を安定して得るには満足できるものではない。
【0009】
本発明は、増粘剤としてCMCアンモニウム塩を使用する場合の、製造工程における極板の密着性や柔軟性に最も影響を与える因子を特定し、上記課題を解決した非水電解質二次電池用負極極板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、負極極板の製造工程、特に混練工程時の増粘剤としてのCMCアンモニウム塩を分散媒中で攪拌する際の温度が、負極合剤の良否に大きく影響するとの知見に基づき完成したものである。
【0011】
本発明は、増粘剤と分散媒としての水を混合し、増粘剤分散液を作製する第1混練工程と、負極活物質としての炭素質材料と結着剤を前記増粘剤分散溶液と混合、攪拌し、負極合剤を作製する第2混練工程と、前記負極合剤を集電体上へ塗布する塗布工程と、乾燥工程、及び所定の寸法に裁断する切断工程を備え、前記第1混練工程は、前記増粘剤分散溶液の温度が5〜15℃の範囲に制御され、前記増粘剤がCMCのアンモニウム塩であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極極板の製造方法である。
【0012】
負極合剤の混練工程を第1混練工程、第2混練工程と分離させることで、増粘剤が均一に分散した増粘剤分散液を得ることができ、後述する本発明の効果が十分に発揮される。第2混練工程では、前記増粘剤分散液に、負極活物質及び結着剤を所定量投入し、攪拌する混練工程を経て負極合剤が得られる。このとき、前記増粘剤分散媒に投入する前に、予め活物質と結着剤を混合しておくこともできる。
【0013】
第1混練工程で使用するCMCアンモニウム塩としては、数平均重合度が400〜1800のものが好ましく、CMCアンモニウム塩の分散液中の濃度は0.5〜2質量%の範囲であることが好ましい。この範囲内であれば、集電体上に塗布する負極合剤として適切な粘度を有する増粘剤分散液を得ることができる。分散媒としては、CMCアンモニウム塩や結着剤の分散性から水を使用することが好ましい。また、水中の不純物による影響を防ぐため、イオン交換水や蒸留水を使用することがより好ましい。なお、第1混練工程後、増粘剤分散液を第2混練工程へ投入するまでの保管時の温度については、特に限定されないが、5〜15℃の範囲で保管されることが好ましい。
【0014】
第2混練工程では、増粘剤分散液に負極活物質を所定量投入し、攪拌して負極合剤を作製する。このときの増粘剤分散液の温度は特に限定されないが、結着剤の機能の低下を防ぐため室温(23℃)で行うことが好ましい。結着剤としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)ラテックス、ニトリルブタジエンゴム(NBR)ラテックス、メチルメタクリレートブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス等のゴム系の結着剤が好ましく、特にSBRラテックスが好ましい。なお、第2混練工程で作製する負極合剤中の固形分の配合比として、負極活物質としての炭素質材料が90〜98質量部、結着剤が1〜5質量部、増粘剤としてのCMCアンモニウム塩が0.5〜3質量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、第1混練工程の分散媒の温度を5〜15℃に制御する点に、技術的な特徴を有する。CMCアンモニウム塩を分散媒中に混合、攪拌するときの温度を上記の範囲内に制御することで、CMCアンモニウム塩を分散媒に均一に分散させつつ、分子同士の架橋を抑えることができる。一旦、理想的な増粘剤分散液が作製されると、その後に活物質、結着剤を投入して室温(23℃)で混練しても、CMCアンモニウム塩の架橋による不具合は生じない。これは、CMCアンモニウム塩が活物質又は結着剤とも相互作用が働くことで、CMCアンモニウム塩同士の相互作用が弱められ、分子間の架橋が抑制されているものと推察される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本願発明を実施するための最良の形態を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術的思想を具体化するための非水電解質二次電池の製造方法の一例を例示するものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0017】
(実施例1)
1.第1混練工程
分散媒としての水を、攪拌容器へ投入し、分散媒温度が5℃になるように冷却した。水は、イオン交換水を使用した。そこへ、増粘剤としてのCMCアンモニウム塩(数平均重合度:600)を1質量%に相当する量を水中へ投入し、攪拌し、分散媒温度を5℃に保つようにしてCMCアンモニウム塩の分散液を作製した。
【0018】
2.第2混練工程
結着剤としてSBRラテックスを、活物質として天然黒鉛(平均粒径:20μm)を、負極合剤の固形分中の活物質:SBR:CMCアンモニウム塩(質量比)が95:3:2となるように、天然黒鉛及びSBRを秤量し、第1混練工程で作製した分散液に投入し、攪拌して負極合剤を作製した。第2混練工程は、すべて室温下(23℃)で行った。ここで平均粒径とは、レーザー回折法により求めた平均粒径(D50)をいう。
【0019】
3.塗布工程〜切断工程
集電体には、銅箔(厚み:10μm)を用いた。第2混練工程で作製した負極合剤をドクターブレード法により集電体両面に塗布し、乾燥させた。この乾燥負極極板を所定の厚み(片面73μm)に圧延したのち、所定寸法に切断してシート状負極極板を得た。
【0020】
(実施例2)
第1混練工程の分散媒温度を10℃とした場合を除き、実施例1と同様な方法でシート状負極極板を作製した。
【0021】
(実施例3)
第1混練工程の分散媒温度を15℃とした場合を除き、実施例1と同様な方法でシート状負極極板を作製した。
【0022】
(比較例1)
第1混練工程の分散媒温度を25℃とした場合を除き、実施例1と同様な方法でシート状負極極板を作製した。
【0023】
(比較例2)
第1混練工程の分散媒温度を40℃とした場合を除き、実施例1と同様な方法でシート状負極極板を作製した。
【0024】
(比較例3)
第1混練工程の分散媒温度を50℃とした場合を除き、実施例1と同様な方法でシート状負極極板を作製した。
【0025】
(極板密着強度評価)
実施例1〜3及び比較例1〜3の負極極板の活物質−集電体の密着強度を次のようにして評価した。
【0026】
それぞれの負極極板を20mm×50mmのサイズに切断し、試験台(アクリル板)上に両面テープで固定する。このとき、負極極板の長尺方向の一方の端部から5mmの部分に両面テープで固定されていない領域部を設ける。当該部を垂直方向に折り曲げ、引張試験機にて100mm/分で垂直に引き上げ、活物質−集電体が剥離するときの最大強度を極板密着強度とした。
【0027】
(極板柔軟性評価)
実施例1〜3及び比較例1〜3の負極極板について、以下のような方法で極板の柔軟性を評価した。
【0028】
それぞれの負極極板を20mm×50mmのサイズに切断し、試験台(アクリル板、幅30mm)の幅方向の両端(厚み3mm)のそれぞれの端面に、両面テープ、負極極板の長辺方向の端部、さらにその上部にビニールテープを貼り付けて、試験台上方に負極極板をアーチ状に固定する。そして上方から、長辺方向に垂直に線圧を100mm/分で印加したときの最大線圧を極板柔軟性の指標とした。線圧値が小さいほど、極板が柔軟性に富むことを示す。
【0029】
極板密着強度と極板柔軟性の評価結果を表1にまとめて示す。表中の実験結果は、比較例1の結果を100としたときの指数で表したものである。
【0030】
【表1】

【0031】
表1及び図1、2からCMC分散液の温度を5〜15℃の範囲に制御した場合に、密着強度、柔軟性に優れた極板が得られていることがわかる。また、当該温度範囲では、室温付近に比べて温度に対する密着強度、柔軟性の変化率が低くなっており、製造ロット間のバラツキを抑えるためにも好適な温度範囲であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したように、本発明によると密着性と柔軟性に優れた非水電解質二次電池用負極極板を安定して製造することができるため、産業上の利用可能性は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る負極極板の製造方法を示したフローチャートである。
【図2】極板密着強度とCMCアンモニウム塩分散液の温度との相関を示したグラフである。
【図3】極板柔軟性とCMCアンモニウム塩分散液の温度との相関を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩と、分散媒としての水を混合し、増粘剤分散液を作製する第1混練工程と、負極活物質としての炭素質材料と結着剤を前記増粘剤分散液と混合、攪拌し、負極合剤を作製する第2混練工程と、前記負極合剤を集電体上へ塗布する塗布工程と、乾燥工程、及び所定の寸法に裁断する切断工程を備え、
前記第1混練工程は、前記増粘剤分散液の温度を5〜15℃の範囲に制御することを特徴とする非水電解質二次電池用負極極板の製造方法。
【請求項2】
前記結着剤が、スチレンブタジエンゴムラテックスであることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用負極極板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−9269(P2012−9269A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144134(P2010−144134)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】