説明

非水電解質二次電池

【課題】充放電サイクル寿命が向上された非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質とを具備する非水電解質二次電池であって、前記負極は、細孔直径10μm以下の細孔容積が0.15cc/g〜0.35cc/gで、増加容積細孔分布において細孔直径0.4〜3.5μmにピークを有し、かつ細孔直径0.001μm〜10μmの範囲での累積細孔分布曲線の累積40%〜60%での傾きが1.5〜4.5の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、VTR、携帯電話、パソコンなどの各種電子機器、コードレスの携帯型電子機器の小型、軽量化に伴い、それら機器の電源の高エネルギー密度の要求が高まり、負極活物質に金属リチウムを使用したリチウム二次電池や、負極にカーボンを用いた軽量の二次電池(例えば特許文献1)などの非水電解質二次電池が提案されている。
【0003】
負極に使用するカーボンとして、コークス、グラファイト、樹脂焼成体、熱分解気相炭素等、種々の炭素質材料を用いることが提案されており、この負極を用いると共に正極にLiCoO2、LiNiO2、LiMn24等のカルコゲン化合物を用いたリチウムイオン二次電池が実用化されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、負極の炭素質材料の素材によって種々の特徴を有する。例えば、特許文献2のように繊維径の断面方向にラメラ構造を持つ炭素繊維を負極活物質として含むリチウムイオン二次電池は優れた充放電特性を有する。また、黒鉛度の高いグラファイトを負極活物質として含むリチウムイオン二次電池は高い充電エネルギーを有する。
【0005】
前記リチウムイオン二次電池は、金属リチウムを負極として用いた二次電池に比べて安全性が高く、各種の携帯端末の電源として広く利用されている。特に、小形携帯端末用の二次電池の需要が多くなり、二次電池に対するますますの容量アップが要求されている。一方では、小形で軽量との要求もあり、これらの要求は相反している。
【0006】
これらの要求を満たすためには、電極の充填密度を上げることが望ましい。
【0007】
しかしながら、電極の充填密度を高くすると、電極への非水電解質の浸透が遅くなり、また、充放電に伴う電極の膨張収縮、特に負極の膨張収縮によるストレスで充放電サイクル維持率が劣化するという問題点を生じる。特に、特許文献3に記載されているようなアモルファスなコークスで被覆された黒鉛系炭素質物を負極活物質として使用した際に、サイクル寿命が著しく低下した。
【特許文献1】特開昭63−121260号公報
【特許文献2】特開平5−89879号公報
【特許文献3】特開2001−229924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、充放電サイクル寿命が向上された非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質とを具備する非水電解質二次電池であって、前記負極は、細孔直径10μm以下の細孔容積が0.15cc/g〜0.35cc/gで、増加容積細孔分布において細孔直径0.4〜3.5μmにピークを有し、かつ細孔直径0.001μm〜10μmの範囲での累積細孔分布曲線の累積40%〜60%での傾きが1.5〜4.5の範囲であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質とを具備する非水電解質二次電池であって、前記負極は、細孔直径10μm以下の細孔容積が0.15cc/g〜0.35cc/gで、増加容積細孔分布曲線において細孔直径0.4〜3.5μmの範囲にピークを有し、かつ細孔直径0.001μm〜10μmの範囲での累積細孔分布曲線の累積80%,70%,60%,20%での細孔直径が下記(1)〜(4)式を満足することを特徴とするものである。
【0011】
80≧0.2 (1)
70≧0.3 (2)
60≧0.4 (3)
1.5≧R20≧0.8 (4)
但し、R80は前記累積細孔分布曲線の累積80%での細孔直径(μm)、R70は前記累積細孔分布曲線の累積70%での細孔直径(μm)、R60は前記累積細孔分布曲線の累積60%での細孔直径(μm)、R20は前記累積細孔分布曲線の累積20%での細孔直径(μm)である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、充放電サイクル寿命が向上された非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質を備えるものである。
【0014】
以下、負極、正極及び非水電解質について説明する。
【0015】
1)負極
この負極は、集電体と、集電体に形成され、負極活物質を含有する負極材料層とを含む。また、前記負極は、細孔直径10μm以下の細孔容積が0.15cc/g〜0.35cc/gで、増加容積細孔分布において細孔直径0.4〜3.5μmにピークを有する。このような負極は、細孔直径0.001μm〜10μmの範囲での累積細孔分布曲線の累積40%〜60%での傾きが1.5〜4.5の範囲であるか、あるいは前記累積細孔分布曲線の累積80%,70%,60%,20%での細孔直径が下記(1)〜(4)式を満足することが望ましい。負極の細孔直径は、例えば、水銀圧入法により測定される。
【0016】
80≧0.2 (1)
70≧0.3 (2)
60≧0.4 (3)
1.5≧R20≧0.8 (4)
但し、R80は前記累積細孔分布曲線の累積80%での細孔直径(μm)、R70は前記累積細孔分布曲線の累積70%での細孔直径(μm)、R60は前記累積細孔分布曲線の累積60%での細孔直径(μm)、R20は前記累積細孔分布曲線の累積20%での細孔直径(μm)である。
【0017】
細孔直径10μm以下の細孔容積を前記範囲に規定する理由を説明する。細孔容積を0.15cc/g未満にすると、充放電に伴う負極活物質の膨張収縮を負極内で十分に吸収ことができず、充放電サイクルの進行に従って負極が膨らむため、充放電サイクル寿命が短くなる。一方、細孔容積が0.35cc/gを超えると、高い負極容量を得られなくなる。細孔容積のより好ましい範囲は、0.18〜0.35cc/gである。
【0018】
増加容積細孔分布において細孔直径0.4〜3.5μmにピークを有するものは、直径が0.4〜3.5μmの細孔の占める割合が高い。このような負極において、細孔直径0.001μm〜10μmの範囲での累積細孔分布曲線の累積40%〜60%での傾きを1.5〜4.5の範囲にすることによって、充放電に伴う活物質の膨張収縮を負極内の空隙で最も効率よく緩和することができ、充放電サイクルに伴う負極中の活物質と結着剤の接触からなる構造の変化を最小限に留めることができる。その結果として、サイクル中に活物質の新しい面が現れて非水電解質と接触することが妨げられ、サイクル効率を向上させることができる。また、活物質と非水電解質との反応が抑制されることから二次電池の安全性も改善される。なお、傾きが前記範囲を外れると充放電サイクル寿命が短くなるのは、傾きが1.5よりも小さいと細孔直径のばらつきが大きく、また、傾きが4.5を超えるものは小さい細孔と大きな細孔の割合が少ないことが関係していると推測されるが、詳細は明らかでない。良好な充放電サイクル寿命を得るために、傾きは2.0〜4.5の範囲にすることがより好ましい。
【0019】
ここで、細孔直径0.001μm〜10μmの範囲での累積細孔分布曲線では、横軸の細孔直径を0.001〜10μmとし、対応する縦軸の累積細孔分布(%表示)0〜120%で表示する。なお、細孔直径が10μmから小さい方向へ向って空隙率を積算し、空隙率が50%に達するところを累積50%とする。横軸と縦軸の比率を横軸:縦軸=2:1とする。累積細孔分布が40〜60%の範囲内での傾きは、分布曲線が累積40%の軸と交差する点から累積60%の軸と交差する点までの区間において、X軸についての変化量とY軸についての変化量を測定し、累積40%〜60%における曲線の傾き{Y軸変化量/X軸変化量}を算出する。
【0020】
また、傾きを規定する代わり、あるいは傾きと共に、前記累積細孔分布曲線の累積80%,70%,60%,20%での細孔直径R80、R70、R60、R20が前記(1)〜(4)式を満足することが望ましい。このような負極は、充放電に伴う活物質の膨張収縮を負極内の空隙で最も効率よく緩和することができると共に、充放電サイクルに伴う負極中の活物質と結着剤の接触からなる構造の変化を最小限に留めることができる。その結果として、サイクル中に活物質の新しい面が現れて非水電解質と接触することが妨げられ、サイクル効率を向上させることができる。細孔直径R80、R70、R60、R20のさらに好ましい範囲は、下記(1)’〜(4)’に示す通りである。
【0021】
0.8≧R80≧0.3 (1)’
1.0≧R70≧0.4 (2)’
1.1≧R60≧0.5 (3)’
1.2≧R20≧0.9 (4)’
負極活物質としては、例えば、黒鉛質材料粒子の表面の少なくとも一部にこの粒子よりも結晶性の低い炭素材料層を形成した複合黒鉛材料、メソフェーズピッチ系炭素繊維、メソフェーズピッチ系小球体等を挙げることができる。複合黒鉛材料を用いるのが容量面から好ましい。
【0022】
前記負極活物質は、下記(5)〜(8)式を満たす粒度分布を有することが望ましい。
【0023】
1.5×D50−3≦D80≦1.5×D50+3 (5)
50/2−2≦D20≦D50/2+2 (6)
50/3−2≦D10≦D50/3+2 (7)
50/5−2≦D5≦D50/5+2 (8)
但し、D80は累積80%での負極活物質粒子径(μm)、D50は累積50%での負極活物質粒子径(μm)、D20は累積20%での負極活物質粒子径(μm)、D10は累積10%での負極活物質粒子径(μm)、D5は累積5%での負極活物質粒子径(μm)である。
【0024】
上記(5)〜(8)式を満足するような粒度分布に適度な幅が存在する負極活物質によると、充放電サイクル寿命をより向上することができる。
【0025】
前記増加容積細孔分布曲線におけるピーク位置(P)と前記D50とが下記(9)式を満たすことが望ましい。
【0026】
0.1×D50−1.5≦P≦0.1×D50+1.5 (9)
前述した複合黒鉛材料は、活物質粒子1個当りの膨張体積が直径の10%程度であるため、(0.1×D50±1.5)で表わされる直径の細孔によると、活物質の膨張収縮を十分に吸収することができる。従って、増加容積細孔分布曲線におけるピーク位置(P)が前述した(9)式を満たすことによって、充放電サイクル時の負極の厚み増加をさらに抑えることができ、充放電サイクル寿命をより向上することができる。
【0027】
累積50%での負極活物質粒子径D50は、10〜25μmの範囲にすることが望ましく、さらに好ましい範囲は15〜25μmである。
【0028】
負極活物質は、アスペクト比が1〜1.8の範囲である球形状を有していることが望ましい。これにより、充電による活物質の膨張を三次元的に均一な方向に近づけることができ、前記細孔による膨張緩和効果をさらに高めることができる。
【0029】
負極活物質は、ラマンスペクトル測定によるR値が強度比で0.3以上、面積比で1以上であることが望ましい。これにより、充電時に起こる活物質表面での反応および副反応が均等に生じ、充電による活物質の膨張をさらに三次元的に均一な方向に近づけることができる。また、強度比が1.5より大きくなり、かつ面積比が4より大きくなると、活物質中の低結晶性構造領域の比率が高くなるために高容量を得られない恐れがあることから、強度比の上限を1.5にし、かつ面積比の上限を4にすることが望ましい。面積比のさらに好ましい範囲は1〜3である。
【0030】
負極活物質は、BET法による比表面積が、1.5m2/g以上、5m2/g以下の範囲内であり、粉末X線回折測定において、面間隔d002が0.336nm以下であり、かつCuKα線を用いた測定において、回折角2θが42.8°〜44.0°と45.5°〜46.6°にピークが現れることが好ましい。これにより、サイクル特性と同時に高容量を達成することができる。なお、面間隔d002の下限値は、完全な黒鉛結晶における(002)面の面間隔d002、すなわち0.3354nmにすることが好ましい。
【0031】
負極は、広角X線回折により得られる(100)面の回折を表すピークの強度I100に対する、(004)面の回折を表すピークの強度I004の比を(I004/I100)とした際に、(I004/I100)≦0.28にすることが望ましい。これにより、充電による負極の膨張を三次元的に均一な方向に近づけることができ、前記細孔による膨張緩和の効率を高くすることができる。
【0032】
前記集電体としては、例えば、銅板、銅箔等を挙げることができる。
【0033】
前記負極材料層に含まれる結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
【0034】
前記負極材料層には、導電剤を含有させることができる。導電剤としては、例えば、鱗片状黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック等を挙げることができる。
【0035】
前記負極は、例えば、負極活物質と結着剤と導電剤とを溶媒の存在下で混練し、得られたスラリーを集電体に塗布し、乾燥した後、所望の圧力で1回プレスもしくは2〜5回多段階プレスすることにより作製されるが、負極の細孔分布は負極活物質の粒度分布とスラリーの分散状態(スラリー固形分量)等を調整することによりプレス前の電極密度を高くして細孔分布を均一にすることで目的範囲内に設定することができる。
【0036】
2)正極
この正極は、集電体と、集電体の片面もしくは両面に担持され、活物質を含む正極材料層とを含む。
【0037】
前記正極材料層は、正極活物質、結着剤及び導電剤を含む。
【0038】
前記正極活物質としては、種々の酸化物、例えば二酸化マンガン、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム含有ニッケル酸化物、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物、リチウム含有鉄酸化物、リチウムを含むバナジウム酸化物や、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどのカルコゲン化合物などを挙げることができる。中でも、リチウム含有コバルト酸化物(例えば、LiCoO2 )、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えば、LiNi0.8 Co0.2 2 )、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、LiMn2 4 、LiMnO2 )を用いると、高電圧が得られるために好ましい。なお、正極活物質としては、1種類の酸化物を単独で使用しても、あるいは2種類以上の酸化物を混合して使用しても良い。
【0039】
前記導電剤としては、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等を挙げることができる。
【0040】
前記結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリエーテルサルフォン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。
【0041】
前記正極活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、正極活物質85〜98重量%、導電剤1〜10重量%、結着剤1〜5重量%の範囲にすることが好ましい。
【0042】
前記集電体としては、多孔質構造の導電性基板か、あるいは無孔の導電性基板を用いることができる。これら導電性基板は、例えば、アルミニウム、ステンレス、またはニッケルから形成することができる。
【0043】
前記正極は、例えば、正極活物質に導電剤および結着剤を適当な溶媒に懸濁し、この懸濁物を集電体に塗布、乾燥してプレスを施すことにより作製される。
【0044】
上記正極と負極の間にはセパレータか、ゲル状もしくは固体状の電解質層を配置することができる。
【0045】
このセパレータとしては、微多孔性の膜、織布、不織布、これらのうち同一材または異種材の積層物等を用いることができる。セパレータを形成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合ポリマー、エチレン−ブテン共重合ポリマー等を挙げることができる。セパレータの形成材料としては、前述した種類の中から選ばれる1種類または2種類以上を用いることができる。
【0046】
前記セパレータの厚さは、30μm以下にすることが好ましく、さらに好ましい範囲は25μm以下である。また、厚さの下限値は5μmにすることが好ましく、さらに好ましい下限値は8μmである。
【0047】
前記セパレータは、120℃、1時間での熱収縮率を20%以下であることが好ましい。前記熱収縮率は、15%以下にすることがより好ましい。
【0048】
前記セパレータは、多孔度が30〜60%の範囲であることが好ましい。多孔度のより好ましい範囲は、35〜50%である。
【0049】
前記セパレータは、空気透過率が600秒/100cm3 以下であることが好ましい。空気透過率は、100cm3の空気がセパレータを透過するのに要した時間(秒)を意味する。空気透過率の上限値は500秒/100cm3 にすることがより好ましい。また、空気透過率の下限値は50秒/100cm3 にすることが好ましく、さらに好ましい下限値は80秒/100cm3 である。
【0050】
3)非水電解質
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解されるリチウム塩のような電解質とを含むものである。この非水電解質には、ゲル化を主たる目的として高分子材料を添加することができる。
【0051】
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート{エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)など}、鎖状カーボネート{メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)など}、スルトン化合物(環内に少なくとも一つの二重結合を有するスルトン化合物、1,3−プロパンスルトン(PS)など)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フェニルエチレンカーボネート(phEC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン(VL)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、2−メチルフラン(2Me−F)、フラン(F)、チオフェン(TIOP)、カテコールカーボネート(CATC)、エチレンサルファイト(ES)、12−クラウン−4(Crown)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(Ether)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、2,4−ジフルオロアニソール(DFA)等を挙げることができる。非水溶媒の種類は、1種類もしくは2種類以上にすることができる。
【0052】
電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6 )、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[(LiN(CF3 SO2 2 ]、LiN(C25SO22などのリチウム塩を挙げることができる。使用する電解質の種類は、1種類または2種類以上にすることができる。
【0053】
前記電解質の前記非水溶媒に対する溶解量は、0.5〜2.5モル/Lとすることが望ましい。さらに好ましい範囲は、1〜2.5モル/Lである。
【0054】
非水電解質には、セパレータとの濡れ性を良くするために、トリオクチルフォスフェート(TOP)のような界面活性剤を含有させることが望ましい。界面活性剤の添加量は、3%以下が好ましく、さらには0.1〜1%の範囲内にすることが好ましい。
【0055】
非水電解質の量は、電池単位容量100mAh当たり0.2〜0.6gにすることが好ましい。非水電解質量のより好ましい範囲は、0.25〜0.55g/100mAhである。
【0056】
本発明に係る非水電解質二次電池の形態は、特に限定されず、薄型、角形、円筒形、コイン型等の様々な形態にすることができるが、薄型や角形のように扁平形状の電極群を使用する二次電池に好適である。
【0057】
以下、薄型非水電解質二次電池の一例を図1〜図2に示す。
【0058】
図1に示すように、矩形のカップ状をなす容器本体1内には、電極群2が収納されている。電極群2は、正極3と、負極4と、正極3と負極4の間に配置されるセパレータ5を含む積層物が偏平形状に捲回された構造を有する。非水電解質は、電極群2に保持されている。容器本体1の縁の一部は幅広になっており、蓋板6として機能する。容器本体1と蓋板6は、それぞれ、ラミネートフィルムから構成される。このラミネートフィルムは、外部保護層7と、熱可塑性樹脂を含有する内部保護層8と、外部保護層7と内部保護層8の間に配置される金属層9とを含む。容器本体1には蓋体6が内部保護層8の熱可塑性樹脂を用いてヒートシールによって固定され、それにより容器内に電極群2が密封される。正極3には正極タブ10が電気的に接続され、負極4には負極タブ11が電気的に接続され、それぞれ容器の外部に引き出されて、正極端子及び負極端子の役割を果たす。
【0059】
なお、図1,図2に例示される薄型非水電解質二次電池では、カップ状の容器を用いる例を説明したが、容器の形状は特に限定されず、例えば袋状等にすることができる。
【0060】
[実施例]
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0061】
(実施例1)
<負極活物質>
粒度調整し、球状化処理した天然黒鉛に、黒鉛よりも結晶性の低い炭素材料を表面コートした複合黒鉛材料を主たる負極活物質として用いた。この活物質はアスペクト比が1.3であり、平均粒径D50が19μmであった。この負極活物質の粒子径分布は、D80が30μm、D50が19μm、D20が10μm、D10が6μm、D5が4.5μmであった。粒子径の相対度数分布の概略を図3に示す。図3の横軸は粒子径(μm)で、縦軸が粒子径毎の相対粒子量(%)である。平均粒径D50が19μmの際、前述した(5)式で表わされるD80の範囲は25.5〜31.5μmで、前述した(6)式で表わされるD20の範囲は7.5〜11.5μmで、前述した(7)式で表わされるD10の範囲は4.3〜8.3μmで、前述した(8)式で表わされるD5の範囲は1.8〜5.8μmであるため、実施例1で使用する負極活物質の粒子径分布は前述した(5)〜(8)式を満足する。
【0062】
また、負極活物質は、BET法による比表面積が3m2/gであり、粉末X線回折測定において、面間隔d002が0.336nm以下であり、かつ、回折角2θが42.8°〜44.0°と45.5°〜46.6°にピークがあらわれた。なお、(002)面の面間隔d002は、粉末X線回折スペクトルから半値幅中点法により求めた値である。この際、ローレンツ散乱等の散乱補正は、行なわなかった。
【0063】
負極活物質のラマンスペクトル測定によるR値は、強度比で0.39、面積比で1.58であった。
【0064】
負極活物質の粒子径、アスペクト比、比表面積、R値は以下に説明する方法で測定した。
【0065】
(負極活物質の粒子径)
負極活物質の粒子径はマイクロトラック法で測定した粒度分布から求められる値で、例えば、D50は粒子径が小さい粒子からその体積を積算して50%に達した粒子の粒子径を示すものとする。実際の測定は、レーザー光散乱型粒度分布計を用いて行った。これは、粒子にレーザー光をあてたときに起る光の散乱現象を利用した測定で、散乱光の強度および散乱角度が粒子の大きさに大きく依存することから、この散乱光の強度および散乱角度を光学検出器で測定し、これをコンピューター処理することによって粉体の粒度分布が得られる。
【0066】
(負極活物質のアスペクト比)
負極活物質のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察された粒子形状(楕円)の長径/短径比を計測し、その平均値をとることによって求められる値を用いた。
【0067】
(BET法による比表面積の測定)
測定装置には、ユアサアイオニクス製の商品名がカンタソーブを用いた。サンプル量は、0.5g前後に設定し、また、試料に前処理として120℃−15分の脱気を行った。
【0068】
(R値の測定)
負極活物質についてのラマンスペクトルについてピーク分離を行い、D(A1g):1360cm−1付近のグラファイトの構造の乱れに由来するピーク、D’(A1g):1620cm−1付近のグラファイトの構造の乱れに由来するピーク、D:アモルファスカーボンのグラファイト構造の乱れに由来するピーク、G(E2g):1580cm−1付近のグラファイト構造に由来するピーク、G:アモルファスカーボンのグラファイト構造に由来するピークを得た。
【0069】
各ピークの強度を算出し、Dバンドに由来するピークの強度を合計したものIDと、Gバンドに由来するピークの強度を合計したものIGとの比(ID/IG)を強度比とした。また、各ピークの面積を算出し、Dバンドに由来するピークの面積値を合計したものSDと、Gバンドに由来するピークの面積値を合計したものSGとの比(SD/SG)を面積比とした。
【0070】
<負極の作製>
負極活物質90重量部と鱗片状黒鉛10重量部の合計100重量部に対して、エーテル化度の分布が0.6〜0.8で、重量平均分子量の分布が20万〜25万のカルボキシメチルセルロース(CMC)を1.8重量部と、スチレンブタジエンゴム(SBR)を1.5重量部とを添加し、水の存在下で混練することにより固形分量が50重量%のペーストを調製した。得られたペーストを厚さが12μmの銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、乾燥し、プレスすることにより、電極密度が1.45g/cm3で、負極集電体の両面に負極材料層が担持された構造を有する負極を作製した。
【0071】
得られた負極の細孔直径分布を以下に説明する方法で測定した。
【0072】
(細孔直径分布測定)
カンタクローム社製で、型番がAUTOSCAN−33の測定装置を使用して水銀圧入法により細孔直径を測定した。細孔直径10μm以下の細孔容積(cc/g)を下記表2に示す。測定結果から増加容積細孔分布を求め、図4に示す。増加容積細孔分布は、細孔直径に対する累積細孔容積の直径毎の変化量を示したもので、横軸が細孔直径(μm)で、縦軸が各細孔直径における累積細孔容積(cc/g)である。図4に示すように、細孔直径100μm以下において、細孔直径が0.5〜3.0μmの間にシャープなピークが現れた。ピークトップの位置(P)は0.7μmであるため、負極活物質のD50との間に前述した(9)式の関係(P=0.1×D50±1.5)が成立していた。
【0073】
また、測定結果から、細孔直径が0.001〜10μmにおける累積細孔分布を算出し、図5に示した。横軸の細孔直径を0.001〜10μmとし、対応する縦軸の累積細孔分布(%表示)0〜120%で表示した。なお、細孔直径が10μmから小さい方向へ向って空隙率を積算し、空隙率が50%に達するところを累積50%とした。横軸と縦軸の比率を横軸:縦軸=2:1とした。累積細孔分布が40〜60%の範囲内での傾きを算出したところ、2.5であった。なお、傾きは、分布曲線が累積40%の軸と交差する点Aから累積60%の軸と交差する点Bまでの区間において、X軸についての変化量とY軸についての変化量をmm単位で測定し、累積40%〜60%における曲線の傾き{Y軸変化量(mm)/X軸変化量(mm)}を算出した。
【0074】
また、累積細孔分布曲線の累積80%,70%,60%,20%での細孔直径R80,R70,R60,R20を下記表1に示す。
【0075】
<正極の作製>
まず、12重量%濃度のポリフッ化ビニリデン樹脂(PVdF)のN−メチルピロリドン溶液41.7重量部に活物質としてのLiCoO2粉末100重量部、導電フィラーとしてのグラファイト粉末(ロンザ社製商品名;KS4)5重量部を混合し、混練した。つづいて、この混合物にN−メチルピロリドン15重量部をさらに添加し、ビーズミルを用いて前記固形物を分散させて正極塗工スラリーを調製した。
【0076】
次いで、前記正極塗工スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔(集電体)の両面にそれそれ194g/m2になるように塗工し、乾燥した後、プレス、スリット加工を施すことにより厚さ130μm、幅49.5mmの帯状正極を作製した。
【0077】
次いで、前記正負極の集電体にリードタブをそれぞれ接合し、自動捲回機を用いてポリエチレン製多孔膜を2枚介してスパイラル状に巻き上げ、さらにプレスすることにより扁平状の電極群を作製した。
【0078】
次いで、厚さ25μmの延伸ナイロンフィルムと厚さ40μmのアルミニウムシートと厚さ30μmの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルムとをこの順序でウレタン系接着剤を介して積層・接着した厚さ3.6mmの外装材用フィルム素材を二つ折りにし、一方の面にカップ部を絞り加工し、このカップ部に電極群を挿入し、他方の面を前記カップ部を有する面の周辺に注液口を除いて熱シールし、非水電解液を注入した後、前記注液口を熱シールして封口することによって、前述した図1,図2に示す構造を有し、厚さが3.6mm、幅が35mm、高さが62mmの薄型リチウムイオン二次電池を組立てた。なお、非水電解液はエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを1:2の重量比で混合した混合非水溶媒にLiPF6を1.2モル/Lの濃度で溶解した組成を有する。
【0079】
(実施例2〜10及び比較例1〜3)
負極活物質の粒度分布、アスペクト比、比表面積、負極ペースト固形分量、R値の強度比と面積比を下記表1に示すように設定すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして薄型非水電解質二次電池を作製した。なお、表2に示す通りに実施例2〜10で使用した負極活物質の粒度分布は前述した(5)〜(8)式の関係を満足するものであるが、比較例1〜3で使用した負極活物質の粒度分布はこの(5)〜(8)式の関係を満足するものではなかった。また、表2におけるアスペクト比が「不定」とは、粒子によりアスペクト比がまちまちで、数値として特定できなかったことを意味する。
【0080】
実施例2〜10及び比較例1〜3の二次電池の負極について、細孔容積、ピーク位置、曲線傾き、R80〜R20を前述した実施例1で説明したのと同様にして測定し、その結果を下記表2に示す。
【0081】
また、実施例2〜10及び比較例1〜3の二次電池について、50サイクル後並びに500サイクル後の電池容器の膨れと容量維持率とを以下に説明する方法で測定し、その結果を下記表2に示した。
【0082】
各二次電池について、初充放電工程として、室温で0.2Cで4.2Vまで定電流・定電圧充電を10時間行い、その後、室温で0.2Cで3.0Vまで放電した。
【0083】
次に、室温で1.0Cで4.2Vまで定電流・定電圧充電を3時間行い、その後、室温で1.0Cで3.0Vまで放電した。その後、電池容器の厚みt0を測定した。
【0084】
次に前述の充放電レート1C、充電終止電圧4.2V、放電終止電圧3.0Vの充放電を室温にて500回繰り返した後、5サイクル目と500サイクル目において放電状態のまま電池容器の厚みt1を測定し、下記(A)式よりサイクル後の電池容器の厚み変化率を求めた。また、50サイクル時と500サイクル時の放電容量を測定し、1サイクル目の放電容量を100%として50サイクル時及び500サイクル時の容量維持率を算出し、その結果を下記表1〜2に示す。
【0085】
((t1−t0)/t0)×100(%) (A)
ただし、前記t0はサイクル試験前の電池容器の厚さで、前記t1は、50サイクル後または500サイクル後の電池容器の厚さを示す。
【0086】
ここで、1Cとは公称容量(Ah)を1時間で放電するために必要な電流値である。
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
表1〜表2から明らかなように、細孔容積が0.15cc/g〜0.35cc/gで、ピーク位置が0.4〜3.5μmの範囲内に存在し、傾きが1.5〜4.5で、かつ累積細孔分布曲線の累積80%,70%,60%,20%での細孔直径が前述した(1)〜(4)式を満足する実施例1〜10の二次電池は、500サイクル時の電池膨れが比較例1〜3に比べて小さく、50サイクル時及び500サイクル時の容量維持率が比較例1〜3に比べて高いことが理解できる。
【0089】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に係わる非水電解質二次電池の一例である薄型非水電解質二次電池を示す斜視図。
【図2】図1の薄型非水電解質二次電池をII−II線に沿って切断した部分断面図。
【図3】実施例1の非水電解質二次電池で用いられる負極活物質の粒度分布の概略を示す特性図。
【図4】実施例1〜4及び比較例1〜3の非水電解質二次電池の負極の増加容積細孔分布を示す特性図。
【図5】実施例1〜4及び比較例1〜3の非水電解質二次電池の負極についての細孔直径が0.001〜10μmにおける累積細孔分布を示す特性図。
【符号の説明】
【0091】
1…容器本体、2…電極群、3…正極、4…負極、5…セパレータ、6…蓋板、7…外部保護層、8…内部保護層、9…金属層、10…正極タブ、11…負極タブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質とを具備する非水電解質二次電池であって、前記負極は、細孔直径10μm以下の細孔容積が0.15cc/g〜0.35cc/gで、増加容積細孔分布において細孔直径0.4〜3.5μmにピークを有し、かつ細孔直径0.001μm〜10μmの範囲での累積細孔分布曲線の累積40%〜60%での傾きが1.5〜4.5の範囲であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質とを具備する非水電解質二次電池であって、前記負極は、細孔直径10μm以下の細孔容積が0.15cc/g〜0.35cc/gで、増加容積細孔分布曲線において細孔直径0.4〜3.5μmの範囲にピークを有し、かつ細孔直径0.001μm〜10μmの範囲での累積細孔分布曲線の累積80%,70%,60%,20%での細孔直径が下記(1)〜(4)式を満足することを特徴とする非水電解質二次電池。
80≧0.2 (1)
70≧0.3 (2)
60≧0.4 (3)
1.5≧R20≧0.8 (4)
但し、R80は前記累積細孔分布曲線の累積80%での細孔直径(μm)、R70は前記累積細孔分布曲線の累積70%での細孔直径(μm)、R60は前記累積細孔分布曲線の累積60%での細孔直径(μm)、R20は前記累積細孔分布曲線の累積20%での細孔直径(μm)である。
【請求項3】
前記負極活物質は、下記(5)〜(8)式を満たす粒度分布を有することを特徴とする請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
1.5×D50−3≦D80≦1.5×D50+3 (5)
50/2−2≦D20≦D50/2+2 (6)
50/3−2≦D10≦D50/3+2 (7)
50/5−2≦D5≦D50/5+2 (8)
但し、D80は累積80%での負極活物質粒子径(μm)、D50は累積50%での負極活物質粒子径(μm)、D20は累積20%での負極活物質粒子径(μm)、D10は累積10%での負極活物質粒子径(μm)、D5は累積5%での負極活物質粒子径(μm)である。
【請求項4】
前記増加容積細孔分布曲線におけるピーク位置(P)と前記負極活物質の累積50%での負極活物質粒子径(D50)とが下記(9)式を満たすことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の非水電解質二次電池。
0.1×D50−1.5≦P≦0.1×D50+1.5 (9)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−59690(P2006−59690A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240879(P2004−240879)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】