説明

非水電解質二次電池

【課題】低コストでサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】負極活物質として天然黒鉛を用い、正極活物質として、鉄を10〜100ppm含むLiCo1−x−yTi(0<a≦1.1、0.0001≦x≦0.005、0.001≦y≦0.03、MはMg,Alの少なくとも1種)で示されるリチウムコバルト複合酸化物及び/又は鉄を10〜100ppm含むLiNiCoMn(0<b≦1.1、0.1≦s≦0.5、0<t≦0.8、0.1≦u≦0.5、s+t+u=1)で示されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、詳しくは非水電解質二次電池の活物質の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源として、高いエネルギー密度を有し、高容量である非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池において、従来、正極活物質としては、リチウムコバルト複合酸化物が用いられ、負極活物質としては黒鉛が用いられている。
【0004】
近年、非水電解質二次電池には、放電容量やサイクル特性等の放電特性を高めることとともに、低コスト化もまた求められている。
【0005】
非水電解質二次電池用負極活物質としての黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛とがあるが、天然黒鉛は安価である点で有用である。しかしながら、天然黒鉛は、人造黒鉛よりもサイクル特性に劣るという問題がある。
【0006】
他方、正極活物質としてのリチウムコバルト複合酸化物には、次のような問題がある。すなわち、鉄は地殻中に多く存在する元素であるので、リチウムコバルト複合酸化物の合成に用いるリチウム源やコバルト源中に鉄が不純物として含まれ、これによりリチウムコバルト複合酸化物中にも鉄が含まれてしまう。リチウムコバルト複合酸化物中の鉄の含有量が多くなると、正極活物質のサイクル劣化が起き易くなるという問題がある。このため、鉄をなるべく除去したリチウム源やコバルト源を用いてリチウムコバルト複合酸化物を合成する必要がある。
【0007】
ところで、非水電解質二次電池に関する技術としては、特許文献1〜4がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-42620号公報
【特許文献2】特開2000-58054号公報
【特許文献3】特開2005-135849号公報
【特許文献4】特開平6-290781号公報
【0009】
特許文献1は、粉末X線回折による黒鉛構造の(002)面の面間隔d(002)が0.335〜0.337nmの天然黒鉛または人造黒鉛を用いた黒鉛質材料からなる負極活物質と、平均繊維径1〜200nmで、内部に中空構造を有し、繊維の長さ方向に対して垂直方向にグラフェンシートが積層した構造を持ち、粉末X線回折による黒鉛構造の(002)面の面間隔d(002)が0.336〜0.345nmの範囲にある気相法炭素繊維からなる導電性炭素材料とからなる負極であって、気相法炭素繊維が10μm以上の大きさの凝集体を形成することなく負極全体の0.1〜10質量%含まれているリチウム二次電池用負極を用いる技術である。この技術によると、長寿命で大電流特性に優れた電池が得られるとされる。
【0010】
特許文献2は、平均粒径が10μm以下、かつ比表面積が1.0m/g以上の炭酸リチウム(LiCo)と、比表面積が1.0〜3.5m/gの酸化コバルト(Co)とを混合してなる原料粉にバインダーを加えて混合しつつ造粒し、ついで酸素含有雰囲気下で前記造粒物を焼成した後、該焼成物を超硬合金製のピンおよび表面硬化されたステンレス鋼製の円盤より構成されるピンミルを用いて粉砕して、比表面積が0.3〜3.8m/gで、Fe含有量が100ppm以下のリチウムコバルト複酸化物を製造する技術である。この技術によると、生産時において初期不良の少ないサイクル安定性に優れた非水電解質電池が供給できるとされる。
【0011】
特許文献3は、正極活物質粉体5gを2Nの塩酸水溶液15gに加え、液温25℃にて10分間攪拌して正極活物質を濾別した時の塩酸水溶液中の鉄量(2N塩酸溶出鉄量)が、正極活物質粉体全量の5ppm以下に相当する量である正極活物質を用いる技術である。この技術によると、電池寿命特性に優れたリチウム電池を実現できるとされる。
【0012】
特許文献4は、1800°C以上の温度で加熱処理された天然黒鉛を負極活物質として用いる技術である。この技術によると、天然黒鉛の不純物が少ないので、充放電時及び保存中の電解液の分解が起こりにくく、また不純物に原因する自己放電も少なくでき、サイクル特性及び保存特性を向上できるとされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者が非水電解質二次電池のサイクル特性について鋭意研究したところ、次のような知見を得た。正極活物質の劣化速度が負極活物質の劣化速度よりも速い場合、劣化した正極活物質の界面での分極が大きくなり、充電時にリチウムイオンが過剰に引き抜かれるようになるため、正極活物質の劣化がさらに進行する。また、負極活物質の劣化速度が正極活物質の劣化速度よりも速い場合、負極界面での分極が大きくなり、充電時に負極電位がリチウム電位よりも低くなるため、リチウムの析出を招き、負極活物質の劣化がさらに進行する。このように正負極の性能のアンバランスにより、サイクル特性が顕著に低下する。
【0014】
これらに対し、正極活物質の劣化速度と負極活物質の劣化速度とがほぼ同等であると、正負極ともにリチウムイオンの過剰な受け入れや過剰な引き抜きが起こらない。このため、さらなる正負活物質の劣化が起きず、正負極の性能のバランスが保たれ、サイクル特性が高まる。しかしながら、単に良質な正極活物質を提案する上記特許文献2,3の技術や、良質な負極活物質を提案する上記特許文献1,4の技術では、正負極活物質の劣化のバランスについてなんら考慮されていない。
【0015】
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものであって、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池において、前記負極活物質が天然黒鉛であり、前記正極活物質が、鉄を10〜100ppm含むLiCo1−x−yTi(0<a≦1.1、0.0001≦x≦0.005、0.001≦y≦0.03、MはMg,Alの少なくとも1種)で示されるリチウムコバルト複合酸化物及び/又は鉄を10〜100ppm含むLiNiCoMn(0<b≦1.1、0.1≦s≦0.5、0<t≦0.8、0.1≦u≦0.5、s+t+u=1)で示されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であることを特徴とする。
【0017】
上記構成のようにリチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質に鉄が不純物として含まれると、正極活物質の劣化が早まる。また、負極活物質として用いる天然黒鉛は、人造黒鉛よりもサイクル劣化が起き易い。ここで、異種元素としてTiとともにMgやAlが添加されたリチウムコバルト複合酸化物や、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物に含まれる鉄の量が、10〜100ppmに規制されていれば、正極活物質の劣化速度と、天然黒鉛からなる負極活物質の劣化速度と、をほぼ同等にできる。よって、正負極の性能のアンバランスによるサイクル特性の低下が防止され、サイクル特性が飛躍的に高まる。なお、複合酸化物中の鉄の含有量は、上記複合酸化物質量に占める鉄の質量割合を意味する。
【0018】
ここで、リチウムコバルト複合酸化物に含まれるTiは、充放電サイクル時や高温時における正極の劣化を抑制するように作用する。また、リチウムコバルト複合酸化物に含まれるMgやAlは、正極の劣化を抑制するとともに、熱安定性を高めるようにも作用する。リチウムコバルト複合酸化物中のTiやM(Mg、Al)の含有量が過少であると、正極活物質の劣化が早まるため、正負極の性能のアンバランスを防止できず、サイクル特性が悪くなる。また、TiやM(Mg、Al)の含有量が過大であると、正極容量が低下し、正負極の性能のアンバランスが生じて、サイクル特性が悪くなる。よって、リチウムコバルト複合酸化物LiCo1−x−yTiのTiの量x及びM(Mg、Al)の量yは、上記範囲内とする。
【0019】
また、リチウムニッケルコバルトマンガンの劣化速度と、天然黒鉛の劣化速度とのバランスをとるためには、LiNiCoMnにおいて、ニッケルの含有量sは0.1≦s≦0.5とし、コバルトの含有量tは、0<t≦0.8とし、マンガンの含有量uは0.1≦u≦0.5とする。
【0020】
上記構成において、前記負極の比表面積が、3.5〜4.5m/gであるとすることができる。
【0021】
負極の比表面積が3.5m/gより小さいと、充電時の負極のリチウムイオン受け入れ性が低下し易くなり、サイクル特性がわずかに低下し易くなる。他方、比表面積が4.5m/gより大きいと、負極の表面での非水電解質の皮膜形成反応が促進され易くなるため、不可逆容量がわずかに増加し易くなる。このため、負極の比表面積は、3.5〜4.5m/gとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、低コストな手法で非水電解質二次電池のサイクル特性を飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態を、実施例を用いて詳細に説明する。なお、本発明は下記の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。
【0024】
(実施例1)
〈正極活物質の作製〉
リチウム源としての炭酸リチウムと、コバルト源としての炭酸コバルトと、チタン源としての酸化チタンと、異種元素M(マグネシウム及び/又はアルミニウム)源としての塩化マグネシウム及び塩化アルミニウムと、を用意し、これらの化合物に含まれる鉄の量を、ICP(プラズマ発光分析)により分析した。
【0025】
上記炭酸リチウムと、上記炭酸コバルトと、上記酸化チタンと、上記塩化マグネシウムと、鉄粉と、を混合し、空気雰囲気下、850℃で20時間焼成して、鉄、チタン及びマグネシウムを含むリチウムコバルト複合酸化物(LiCo1−x−yTi、a=1、x=0.0005、y=0.01、MはMg)からなる正極活物質を作製した。この正極活物質に含まれる鉄の質量を、ICP(プラズマ発光分析)により分析したところ、正極活物質の質量に対して10ppmであった。
【0026】
この正極活物質と、導電剤としての炭素粉末と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを、質量比90:5:5で混合し、さらにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合して正極活物質スラリーとした。この正極活物質スラリーを、アルミニウム製の正極集電体(厚み20μm)の両面に塗布した。この極板を、100〜150℃で真空処理し、スラリー調製時に必要であったNMPを揮発除去した。この後、厚みが0.14mmとなるように圧延し、55×500(mm)のサイズに裁断して正極を作製した。
【0027】
〈負極の作製〉
負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを、質量比95:5で混合し、さらにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合して負極活物質スラリーとした。この後、この負極活物質スラリーを銅箔製の負極集電体(厚み12μm)の両面に塗布した。この極板を、100〜150℃で真空処理し、スラリー調製時に必要であったNMPを揮発除去した。この後、厚みが0.14mmとなるように圧延し、57×550(mm)のサイズに裁断して負極を作製した。
【0028】
この負極の比表面積を、BET(窒素吸着)法により測定したところ、4.1m/gであった。
【0029】
〈電極体の作製〉
上記正極及び負極を、ポリプロピレン製微多孔膜からなるセパレータを介して巻回することにより、渦巻電極体を作製した。
【0030】
〈非水電解質の調製〉
非水溶媒としてのエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比5:5(25℃、1気圧)で混合し、電解質塩としてのLiPFを1M(モル/リットル)となるように溶解して、非水電解質となした。
【0031】
〈電池の組み立て〉
円筒型外装缶に上記電極体を挿入した後、上記電解液を注液し、外装缶の開口部を封口することにより、直径18mm、高さ65mmの実施例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0032】
(実施例2)
正極活物質に含まれる鉄の量を52ppmとしたこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0033】
(実施例3)
正極活物質に含まれる鉄の量を100ppmとしたこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例3に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0034】
(実施例4)
正極活物質を以下の方法で作製したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例4に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0035】
リチウム源としての炭酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガン源としてのNi0.5Co0.3Mn0.2(OH)で示される共沈水酸化物と、を用意し、これらの化合物に含まれる鉄の量を、ICP(プラズマ発光分析)により分析した。
【0036】
上記炭酸リチウムと、上記共沈水酸化物と、鉄粉と、を混合し、空気雰囲気下、850℃で20時間焼成して、鉄を含むリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNiCoMn、b=1、s=0.5、t=0.3、u=0.2)からなる正極活物質を作製した。この正極活物質に含まれる鉄の質量を、ICP(プラズマ発光分析)により分析したところ、正極活物質の質量に対して11ppmであった。
【0037】
(実施例5)
正極活物質に含まれる鉄の量を49ppmとしたこと以外は、上記実施例4と同様にして、実施例5に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0038】
(実施例6)
正極活物質に含まれる鉄の量を97ppmとしたこと以外は、上記実施例4と同様にして、実施例6に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0039】
(実施例7)
Mgの量yを0.001としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例7に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0040】
(実施例8)
Mgの量yを0.03としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例8に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0041】
(実施例9)
LiCo1−x−yTiのMとして、Mgに代えてAlを用いた(異種元素M源として上記塩化アルミニウムを用いた)こと以外は、上記実施例7と同様にして、実施例9に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0042】
(実施例10)
Alの量yを0.01としたこと以外は、上記実施例9と同様にして、実施例10に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0043】
(実施例11)
Alの量yを0.03としたこと以外は、上記実施例9と同様にして、実施例11に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0044】
(実施例12)
Tiの量xを0.0001としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例12に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0045】
(実施例13)
Tiの量xを0.005としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例13に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0046】
(実施例14)
負極の比表面積を3.2m/gとしたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例14に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0047】
(実施例15)
負極の比表面積を3.5m/gとしたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例15に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0048】
(実施例16)
負極の比表面積を4.5m/gとしたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例16に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0049】
(実施例17)
負極の比表面積を4.7m/gとしたこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例17に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0050】
(比較例1)
正極活物質に含まれる鉄の量を5ppmとしたこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0051】
(比較例2)
正極活物質に含まれる鉄の量を154ppmとしたこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0052】
(比較例3)
正極活物質に含まれる鉄の量を7ppmとしたこと以外は、上記実施例4と同様にして、比較例3に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0053】
(比較例4)
正極活物質に含まれる鉄の量を113ppmとしたこと以外は、上記実施例4と同様にして、比較例4に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0054】
(比較例5)
Mgの量yを0.0001としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、比較例5に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0055】
(比較例6)
Mgの量yを0.04としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、比較例6に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0056】
(比較例7)
Alの量yを0.0001としたこと以外は、上記実施例9と同様にして、比較例7に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0057】
(比較例8)
Alの量yを0.04としたこと以外は、上記実施例9と同様にして、比較例8に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0058】
(比較例9)
Tiの量xを0.00001としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、比較例9に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0059】
(比較例10)
Tiの量xを0.01としたこと以外は、上記実施例2と同様にして、比較例10に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0060】
〔サイクル特性試験〕
上記実施例1〜17、比較例1〜10と同一の条件で、電池をそれぞれ作製した。これらの電池を、定電流1It(1500mA)で電圧が4.2Vとなるまで充電し、その後定電圧4.2Vで電流が0.02It(30mA)となるまで充電した。この後、定電流1It(1500mA)で電圧が2.75Vとなるまで放電した。この充放電を300サイクル行い、以下の式によりサイクル特性を算出した。この結果を下記表1〜3に示す。
【0061】
サイクル特性(%)=300サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量×100
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
上記表1から、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoTi)を用いた実施例1〜3、比較例1,2を比較すると、鉄の含有量が10〜100ppmである実施例1〜3は、サイクル特性が90〜93%であったのに対し、鉄の含有量が5ppmである比較例1では85%、鉄の含有量が154ppmである比較例2では82%と、実施例1〜3よりも劣っていることがわかる。
【0066】
また、正極活物質としてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNiCoMn)を用いた実施例4〜6、比較例3,4を比較すると、鉄の含有量が11〜97ppmである実施例4〜6は、サイクル特性が88〜91%であったのに対し、鉄の含有量が5ppmである比較例3では81%、鉄の含有量が113ppmである比較例4では78%と、実施例4〜6よりも劣っていることがわかる。
【0067】
これらのことは、次のように考えられる。正極活物質の劣化速度が負極活物質の劣化速度よりも速い場合、劣化した正極活物質の界面での分極が大きくなり、充電時にリチウムイオンが過剰に引き抜かれるようになるため、正極活物質の劣化がさらに進行する。また、負極活物質の劣化速度が正極活物質の劣化速度よりも速い場合、負極界面での分極が大きくなり、充電時に負極電位がリチウム電位よりも低くなるため、リチウムの析出を招き、負極活物質の劣化がさらに進行する。このように正負極の性能のアンバランスによって、サイクル特性の低下が促進される。これらに対し、正極活物質の劣化速度と負極活物質の劣化速度とがほぼ同等であると、正負極活物質の劣化が促進されにくくなるため、サイクル特性が高まる。
【0068】
ここで、リチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質に鉄が不純物として含まれると、正極活物質のサイクル劣化が早まるが、これに組み合わせる負極活物質である天然黒鉛は人造黒鉛よりもサイクル劣化し易い。リチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物中の鉄の含有量が10〜100ppmに規制されていれば(実施例1〜6)、正極活物質の劣化速度と天然黒鉛からなる負極活物質の劣化速度とをほぼ同等にできるため、サイクル特性が高まる。これに対し、鉄の含有量が10ppmよりも少ない場合(比較例1,3)、負極活物質の劣化速度が正極活物質の劣化速度よりも速くなり、また鉄の含有量が100ppmよりも多い場合(比較例2,4)、正極活物質の劣化速度が負極活物質の劣化速度よりも速くなり、上述した問題が生じてしまう。
【0069】
また、上記表2から、リチウムコバルト複合酸化物(LiCo1−x−yTi)中のTiの量xが、0.0001〜0.005である実施例2,12,13は、サイクル特性が90〜93%であるのに対し、Tiの量xが0.00001である比較例9はサイクル特性が83%、Tiの量xが0.01である比較例10はサイクル特性が80%と、実施例2,12,13よりも劣っていることがわかる。
【0070】
リチウムコバルト複合酸化物に含まれるTiは、充放電サイクル時や高温時における正極の劣化を抑制するように作用する。ここで、Tiの含有量が過少であると、正極活物質の劣化が早まるため、サイクル特性が低下する。また、Tiの含有量が過大であると、正極の容量が減少してしまうため、正負極の性能のアンバランスが生じて、サイクル特性が低下する。よって、リチウムコバルト複合酸化物LiCo1−x−yTiのTiの量xは、0.0001〜0.005の範囲内とする。
【0071】
また、表2から、リチウムコバルト複合酸化物(LiCo1−x−yTi、MはMg,Alの少なくとも一種)中のMの量yが、0.001〜0.03である実施例2、7〜11は、サイクル特性が90〜93%であるのに対し、Mの量yが、0.0001である比較例5,7は、サイクル特性が84%,86%、Mの量yが、0.04である比較例6,8は、サイクル特性が86%,82%と、実施例2、7〜11よりも劣っていることがわかる。
【0072】
リチウムコバルト複合酸化物に含まれるMgやAlは、正極の劣化を抑制するとともに、熱安定性を高めるようにも作用する。ここで、MgやAlの含有量が過少であると、正極活物質の劣化が早まるため、サイクル特性が低下する。また、MgやAlの含有量が過大であると、正極の容量が減少してしまうため、正負極の性能のアンバランスが生じて、サイクル特性が低下する。よって、リチウムコバルト複合酸化物LiCo1−x−yTiのM(Mg、Al)の量yは、0.001〜0.03の範囲内とする。
【0073】
また、表3から、負極の比表面積が3.5〜4.5m/gである実施例2,15,16は、サイクル特性が92〜93%であるのに対し、負極の比表面積が3.2m/gである実施例14は、サイクル特性が89%、負極の比表面積が4.7m/gである実施例14は、サイクル特性が90%と、実施例2,15,16よりもわずかに劣っていることがわかる。
【0074】
このことは、次のように考えられる。比表面積が3.5m/gより小さい場合、充電時のリチウムイオン受け入れ性が低下し易くなり、サイクル特性がわずかに低下し易くなる。他方、比表面積が4.5m/gより大きい場合は、負極の表面での電解液の皮膜形成反応が促進されし易くなるため、不可逆容量がわずかに増加し易くなる。このため、負極の比表面積が、3.5〜4.5m/gとすることが好ましい
【0075】
(追加事項)
非水電解質の溶媒としては、プロピレンカーボネート・エチレンカーボネート・ブチレンカーボネート・ビニレンカーボネート・フルオロエチレンカーボネートに代表される環状カーボネート、γ−ブチロラクトン・γ−バレロラクトンに代表されるラクトン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートに代表される鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン・1,2−ジメトキシエタン・ジエチレングリコールジメチルエーテル・1,3−ジオキソラン・2−メトキシテトラヒドロフラン・ジエチルエーテルに代表されるエーテル等を単独で、あるいは二種以上混合して用いることができる。また、非水電解質の電解質塩としては、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上に説明したように、本発明によれば、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を低コストで実現できるという優れた効果を奏する。したがって、産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池において、
前記負極活物質が天然黒鉛であり、
前記正極活物質が、鉄を10〜100ppm含むLiCo1−x−yTi(0<a≦1.1、0.0001≦x≦0.005、0.001≦y≦0.03、MはMg,Alの少なくとも1種)で示されるリチウムコバルト複合酸化物及び/又は鉄を10〜100ppm含むLiNiCoMn(0<b≦1.1、0.1≦s≦0.5、0<t≦0.8、0.1≦u≦0.5、s+t+u=1)で示されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、
前記負極の比表面積が、3.5〜4.5m/gである、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2011−233397(P2011−233397A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103562(P2010−103562)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】