説明

非水電解質二次電池

本発明によれば、正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質物を含む負極と、非水溶媒を含む非水電解質とを具備した非水電解質二次電池であり、前記非水溶媒は、環内に少なくとも一つの二重結合を有するスルトン化合物を含み、前記炭素質物は、BET法による比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下で、粉末X線回折測定により得られる面間隔d002が0.3365nm以下で、CuKα線を用いるX線回折測定において回折角2θが42.8°〜44.0°と45.5°〜46.6°それぞれにピークが現れず、かつ下記(1)式及び(2)式を満足する黒鉛質材料を含む非水電解質二次電池が提供される。
1≦I(101)/I(100)≦2.2 (1)
3.7≦S(101)/S(100)≦5 (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
近年、移動体通信機、ノートブック型パソコン、パームトップ型パソコン、一体型ビデオカメラ、ポータブルCD(MD)プレーヤー、コードレス電話等の電子機器の小形化、軽量化を図る上で、これらの電子機器の電源として、特に小型で大容量の電池が求められている。
これら電子機器の電源として普及している電池としては、アルカリマンガン電池のような一次電池や、ニッケルカドミウム電池、鉛蓄電池等の二次電池が挙げられる。その中でも、正極にリチウム複合酸化物を用い、負極にリチウムイオンを吸蔵・放出できる炭素質物を用いた非水電解質二次電池が、小型軽量で単電池電圧が高く、高エネルギー密度を得られることから注目されている。
負極においては、炭素質物の代わりに、リチウムやリチウム合金を用いることも可能である。しかしながら、その場合には、二次電池の充放電操作を繰り返すことによって、リチウムの溶解・析出が繰り返され、やがて針状に成長したいわゆるデンドライトが形成され、そのデンドライトがセパレータを貫通することによる内部短絡を生じる恐れがある等の問題がある。一方、炭素質物を含む負極は、リチウムあるいはリチウム合金を含む負極と比較してデンドライトの形成が起き難い。また、黒鉛質材料を用いることにより負極容量を理論容量の372mAh/gに近づけることができ、高容量リチウムイオン二次電池を実現することが可能である。しかしながら、黒鉛質材料は、リチウムイオン二次電池に用いられる非水電解質の多くに対して活性が高く、材料自身の剥離による脱離とともに非水電解質の分解をひきおこすため、二次電池の初充放電効率、放電容量およびサイクル特性が低くなるという問題点がある。
【発明の開示】
本発明は、初充放電効率、放電容量およびサイクル特性を同時に満足する非水雷解質二次電池を提供することを目的とする。
本発明によれば、正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質物を含む負極と、非水溶媒を含む非水電解質とを具備した非水電解質二次電池であり、
前記非水溶媒は、環内に少なくとも一つの二重結合を有するスルトン化合物を含み、
前記炭素質物は、BET法による比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下で、粉末X線回折測定により得られる面間隔d002が0.3365nm以下で、CuKα線を用いるX線回折測定において回折角2θが42.8°〜44.0°と45.5°〜46.6°それぞれにピークが現れず、かつ下記(1)式及び(2)式を満足する黒鉛質材料を含む非水電解質二次電池が提供される。
1≦I(101)/I(100)≦2.2 (1)
3.7≦S(101)/S(100)≦5 (2)
但し、I(101)はX線回折スペクトルの(101)面の回折ピークの強度で、I(100)はX線回折スペクトルの(100)面の回折ピークの強度で、S(101)はX線回折スペクトルの(101)面の回折ピークの面積値で、S(100)はX線回折スペクトルの(100)面の回折ピークの面積値である。
また、本発明によれば、正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質物を含む負極と、非水溶媒を含む非水電解質とを具備した非水電解質二次電池であり、
前記非水溶媒は、環内に少なくとも一つの二重結合を有するスルトン化合物を含み、
前記炭素質物は、BET法による比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下で、粉末X線回折測定により得られる面間隔d002が0.3365nm以下で、前記(1)式及び前記(2)式を満足し、かつ菱面体晶系構造を持たない黒鉛質材料を含む非水電解質二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に係わる非水電解質二次電池の一例である薄型非水電解質二次電池を示す斜視図。
図2は、図1の薄型非水電解質二次電池をII−II線に沿って切断した部分断面図。
図3は、本発明に係る非水電解質二次電池の一例である円筒形非水電解質二次電池を示す部分断面図。
図4は、実施例1の非水電解質二次電池の非水電解質に含まれるPRSについてのHNMRスペクトルを示す特性図。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明に係る非水電解質二次電池の一例を説明する。
この非水電解質二次電池は、容器と、前記容器内に収納され、正極及び負極を含む電極群と、前記電極群に保持され、非水溶媒を含む非水電解質とを具備したものである。前記非水溶媒は、環内に少なくとも一つの二重結合を有するスルトン化合物を含み、かつ前記炭素質物は、BET法による比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下の黒鉛質材料を含む。
環内に少なくとも一つの二重結合を有するスルトン化合物は、炭素質物の表面に保護皮膜を形成することができる。本発明のように、BET法による比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下の黒鉛質材料を含む炭素質物を用いることによって、炭素質物の非水溶媒に対する活性を低くすることができるため、少量のスルトン化合物でも炭素質物中のリチウムイオンと非水溶媒との反応を抑えることが可能になる。その結果、初充放電効率、放電容量およびサイクル特性を同時に満足する非水電解質二次電池を提供することができる。
この炭素質物のうち、粉末X線回折測定により得られる面間隔d002が0.337nm以下であるか、菱面体晶系構造が存在しないか、もしくは(1)式(1≦I(101)/I(100)≦2.2)及び(2)式(3.7≦S(101)/S(100)≦5)を満足するものは、スルトン化合物とそれ以外の溶媒の分解反応により保護皮膜を形成することができるため、緻密性とリチウムイオン透過性の高い保護皮膜を得ることができる。従って、二次電池の初充放電効率と放電容量をさらに向上することができる。
特に、炭素質物として、比表面積が0.3m/g以上4m/g以下で、面間隔d002が0.3365nm以下で、前記(1)式及び前記(2)式を満足し、かつCuKα線を用いるX線回折測定において回折角2θが42.8°〜44.0°と45.5°〜46.6°それぞれにピークが現れないもしくは菱面体晶系構造を持たない黒鉛質材料を用いることによって、二次雷池の充放電サイクル寿命をさらに向上することができる。
すなわち、比表面積及び面間隔d002が前述した範囲で、かつ特定の回折ピークもしくは菱面体晶系構造を持たない黒鉛質材料は、スルトン化合物及びそれ以外の溶媒と反応して負極表面にリチウムイオン透過性を損なうことなく保護皮膜を形成することができる。また、この黒鉛質材料は、前述した(1)式と(2)式を満足するために黒鉛構造の炭素六角網面の重なり角度のばらつきが小さいことから、非水溶媒との反応が負極表面において均一に生じ、保護皮膜が負極表面に均一に形成される。その結果、充放電サイクル寿命をさらに改善することができる。
以下、前記電極群、正極、負極、セパレータ、非水電解質及び容器について説明する。
1)電極群
この電極群は、例えば、(i)正極及び負極をその間にセパレータを介在させて偏平形状または渦巻き状に捲回するか、(ii)正極及び負極をその間にセパレータを介在させて渦巻き状に捲回した後、径方向に圧縮するか、(iii)正極及び負極をその間にセパレータを介在させて1回以上折り曲げるか、あるいは(iv)正極と負極とをその間にセパレータを介在させながら積層する方法により作製される。
電極群には、プレスを施さなくても良いが、正極、負極及びセパレータの一体化強度を高めるためにプレスを施しても良い。また、プレス時に加熱を施すことも可能である。
2)正極
この正極は、集電体と、集電体の片面もしくは両面に担持され、活物質を含む正極層とを含む。
前記正極層は、正極活物質、結着剤及び導電剤を含む。
前記正極活物質としては、種々の酸化物、例えば二酸化マンガン、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム含有ニッケル酸化物、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物、リチウム含有鉄酸化物、リチウムを含むバナジウム酸化物や、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどのカルコゲン化合物などを挙げることができる。中でも、リチウム含有コバルト酸化物(例えば、LiCoO)、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えば、LiNi0.8Co0.2)、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、LiMn、LiMnO)を用いると、高電圧が得られるために好ましい。なお、正極活物質としては、1種類の酸化物を単独で使用しても、あるいは2種類以上の酸化物を混合して使用しても良い。
前記導電剤としては、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等を挙げることができる。
前記結着剤は、活物質を集電体に保持させ、かつ活物質同士をつなぐ機能を有する。前記結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリエーテルサルフォン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。
前記正極活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、正極活物質80〜95重量%、導電剤3〜20重量%、結着剤2〜7重量%の範囲にすることが好ましい。
前記集電体としては、多孔質構造の導電性基板か、あるいは無孔の導電性基板を用いることができる。これら導電性基板は、例えば、アルミニウム、ステンレス、またはニッケルから形成することができる。
前記正極は、例えば、正極活物質に導電剤および結着剤を適当な溶媒に懸濁し、この懸濁物を集電体に塗布、乾燥してプレスを施すことにより作製される。
3)負極
前記負極は、集電体と、集電体の片面もしくは両面に担持される負極層とを含む。
前記負極層は、リチウムイオンを吸蔵・放出する炭素質物及び結着剤を含む。
前記炭素質物は、BET法による比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下の黒鉛質材料Aを含む。すなわち、比表面積が0.3m/g未満の黒鉛質材料には、保護皮膜が厚く形成されるため、この黒鉛質材料のみを炭素質物として用いると、リチウムインターカレーション反応速度が低下し、放電容量が低くなる。一方、比表面積が4m/gを超える黒鉛質材料は、表面活性が高いため、この黒鉛質材料のみを炭素質物として用いると、炭素質物中のLiと非水溶媒との反応を保護皮膜で抑制できず、放電容量もしくはサイクル寿命が低下する。
比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下の黒鉛質材料Aを80重量%以上含有する炭素質物は、適度な表面活性を有するため、少量のスルトン化合物によって炭素質物中のLiと非水溶媒との反応を抑制することができ、初期充放電効率、放電容量および充放電サイクル寿命を同時に満足する二次電池を実現することができる。
黒鉛質材料Aの比表面積のより好ましい範囲は、0.5〜4m/gである。
比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下の黒鉛質材料Aを少なくとも1種類含む炭素質物は、比表面積が10m/g以上の黒鉛質材料Bをさらに含有することが望ましい。このような炭素質物によると、保護皮膜の分布の均一性を高くすることができる。黒鉛質材料Bの比表面積のさらに好ましい範囲は、10〜25m/gである。
黒鉛質材料Aは、粉末X線回折測定により得られる面間隔d002が0.337nm以下であることが好ましい。すなわち、面間隔d002が0.337nmを超えると、炭素質物の非水溶媒に対する反応性が著しく低下するため、スルトン化合物による保護皮膜の形成が生じなくなる恐れがある。粉末X線回折測定により得られる面間隔d002が0.337nm以下である黒鉛質材料Aは、スルトン化合物の分解電位幅を広くすることができるため、初充電時にスルトン化合物とそれ以外の非水溶媒とを分解して保護皮膜を形成することができる。その結果、緻密性とリチウムイオン透過性が高い保護皮膜を得ることができるため、二次電池の放電容量と充放電サイクル寿命をさらに向上することができる。面間隔d002のさらに好ましい範囲は、0.3365nm以下である。また、面間隔d002の下限値は、完全な黒鉛結晶における(002)面の面間隔d002、すなわち0.3354nmにすることが好ましい。
黒鉛質材料Aは、CuKα線を用いるX線回折測定において、回折角2θが42.8°〜44.0°と45.5°〜46.6°にピークが検出されないことが望ましい。このような黒鉛質材料Aは、菱面体晶系構造を持たないため、スルトン化合物の分解電位幅を広くすることができ、スルトン化合物とそれ以外の溶媒の分解反応による保護皮膜の形成が可能になることから、二次電池のサイクル寿命をさらに向上することができる。
黒鉛質材料Aは、下記(1)式及び(2)式を満足することが好ましい。
1≦I(101)/I(100)≦2.2 (1)
3.7≦S(101)/S(100)≦5 (2)
但し、I(101)はX線回折スペクトルの(101)面の回折ピークの強度で、I(100)はX線回折スペクトルの(100)面の回折ピークの強度で、S(101)はX線回折スペクトルの(101)面の回折ピークの面積値で、S(100)はX線回折スペクトルの(100)面の回折ピークの面積値である。
ピーク強度比(I(101)/I(100))を1未満にするか、もしくはピーク面積比(S(101)/S(100))が5を超えると、炭素の結晶構造の六角網面間の配列の規則性が損なわれ、面内方向のLiイオンの拡散を妨げる恐れがある。また、ピーク強度比(I(101)/I(100))が2.2を超えるか、もしくはピーク面積比(S(101)/S(100))を3.7未満にすると、六角網面の配列の規則性により、結晶子端部に電解液添加物に対して活性な構造が露出しやすくなる。
ピーク強度比(I(101)/I(100))のより好ましい範囲は、1.5〜2.2で、ピーク面積比(S(101)/S(100))のより好ましい範囲は、3.8〜4.8である。
特に、粉末X線回折測定により得られる面間隔d002が0.337nm以下で、前述した(1)式および(2)式を満足し、菱面体晶系構造を持たない黒鉛質材料Aを含む炭素質物は、二次電池の初充放電効率と放電容量とサイクル寿命とをさらに向上することができる。
本発明において用いる黒鉛質材料Aには、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解気相炭素質物、樹脂焼成体、メソフェーズピッチ焼成体などに属する黒鉛質材料を用いることができる。また、この黒鉛質材料Aは、例えば、コークス、ピッチ、熱硬化性樹脂などに2800〜3000℃で熱処理を施すか、あるいは天然黒鉛にコークス、ピッチ、熱硬化性樹脂等を添加し、これらに熱処理を施すことにより得ることができる。
前記結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
前記炭素質物及び前記結着剤の配合割合は、炭素質物90〜98重量%、結着剤2〜20重量%の範囲であることが好ましい。
前記集電体としては、多孔質構造の導電性基板か、あるいは無孔の導電性基板を用いることができる。これら導電性基板は、例えば、銅、ステンレス、またはニッケルから形成することができる。
前記負極は、例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出する炭素質物と結着剤とを溶媒の存在下で混練し、得られた懸濁物を集電体に塗布し、乾燥した後、所望の圧力で1回プレスもしくは2〜5回多段階プレスすることにより作製される。
4)セパレータ
このセパレータとしては、微多孔性の膜、織布、不織布、これらのうち同一材または異種材の積層物等を用いることができる。セパレータを形成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合ポリマー、エチレン−ブテン共重合ポリマー等を挙げることができる。セパレータの形成材料としては、前述した種類の中から選ばれる1種類または2種類以上を用いることができる。
前記セパレータの厚さは、30μm以下にすることが好ましく、さらに好ましい範囲は25μm以下である。また、厚さの下限値は5μmにすることが好ましく、さらに好ましい下限値は8μmである。
前記セパレータは、120℃、1時間での熱収縮率を20%以下であることが好ましい。前記熱収縮率は、15%以下にすることがより好ましい。
前記セパレータは、多孔度が30〜60%の範囲であることが好ましい。多孔度のより好ましい範囲は、35〜50%である。
前記セパレータは、空気透過率が600秒/100cm以下であることが好ましい。空気透過率は、100cmの空気がセパレータを透過するのに要した時間(秒)を意味する。空気透過率の上限値は500秒/100cmにすることがより好ましい。また、空気透過率の下限値は50秒/100cmにすることが好ましく、さらに好ましい下限値は80秒/100cmである。
セパレータの幅は、正極と負極の幅に比べて広くすることが望ましい。このような構成にすることにより、正極と負極がセパレータを介さずに直接接触するのを防ぐことができる。
5)非水電解質
前記非水電解質には、実質的に液状またはゲル状の形態を有するものを使用することができる。ゲル状非水電解質は、何らかの外力により容器が破損した場合に、非水電解質が外部へ漏洩する恐れを小さくすることができる。一方、液状非水電解質は、ゲル状非水電解質に比べてイオン伝導度を高くすることができるため、非水電解質二次電池を大電流で放電した際の容量と、低温で放電したときの容量を向上することができる。
前記非水電解質は、例えば、以下の(I)〜(VI)に説明する方法で調製される。
(I)前述した非水溶媒に電解質(例えば、リチウム塩)を溶解させることにより非水電解質を得る(液状非水電解質)。
(II)有機高分子化合物とリチウム塩を溶媒に溶解させ、ポリマー溶液を調製する。次いで、このポリマー溶液を電極(正極及び負極のうちの少なくとも一方)か、セパレータか、または電極とセパレータの両方に塗布または含浸させ、溶媒を蒸発させてキャストする。次いで、正極と負極をその間にセパレータを介在させて電極群を得る。これを容器に収容し、非水電解液を注液してキャストしたポリマー膜に保持させることにより、ゲル状非水電解質を備える二次電池を得る。
(III)前述した(II)の方法において、有機高分子化合物の代わりに、架橋ポリマーを用いても良い。例えば、(a)架橋性の官能基を有する化合物とリチウム塩と溶媒とからプレポリマー溶液を調製し、これを電極(正極及び負極のうちの少なくとも一方)か、セパレータか、または電極とセパレータの両方に塗布または含浸させた後、架橋性の官能基を有する化合物を架橋させる。次いで、正極と負極の間にセパレータを介在させて電極群を得る。架橋工程は、溶媒を揮発させる前に行っても後に行ってもよく、加熱により架橋させる場合などは溶媒を揮発させつつ架橋させてもよい。あるいは、(b)プレポリマー溶液を電極(正極及び負極のうちの少なくとも一方)か、セパレータか、または電極とセパレータの両方に塗布または含浸させた後、正極と負極をその間にセパレータを介在させて電極群を得る。その後、架橋工程を行うことも可能である。
架橋させる方法は特に限定されないが、装置の簡便性およびコスト面から考えて、加熱重合あるいは紫外線による光重合が好ましい。なお、加熱あるいは紫外線照射により架橋を行う場合には、重合方法に適した重合開始剤をプレポリマー溶液に添加しておく必要がある。また重合開始剤は、1種類に限られるものではなく、2種以上を混合して用いてもよい。
(IV)有機高分子化合物とリチウム塩とを直接非水電解液に溶解させ、ゲル状電解質を得る。このゲル状電解質を電極(正極及び負極のうちの少なくとも一方)か、セパレータか、または電極とセパレータの両方に塗布または含浸させ、ひきつづき、正極と負極の間にセパレータを介在させて電極群を得て、ゲル状非水電解質を備える二次電池を得る。
(V)前述した(IV)の方法において、有機高分子化合物の代わりに架橋ポリマーを用いることができる。例えば、架橋性の官能基を有する化合物とリチウム塩と電解液とからプレゲル溶液を調製し、これを電極(正極及び負極のうちの少なくとも一方)か、セパレータか、または電極とセパレータの両方に塗布または含浸させたのち、架橋性の官能基を有する化合物を架橋させる。この架橋工程は、電極群を作製する前に行っても作製後に行ってもよい。
架橋させる方法は特に限定されないが、装置の簡便性およびコスト面から考えて、加熱重合あるいは紫外線による光重合が好ましい。なお、加熱あるいは紫外線照射により架橋を行う場合には、重合方法に適した重合開始剤をプレゲル溶液に添加しておく必要がある。また重合開始剤は、1種類に限られるものではなく、2種以上を混合して用いてもよい。
(VI)正極と負極の間にセパレータを介在させた電極群を、容器に収容する。次いで、前述した(IV)のゲル状非水電解質を電極群に含浸させた後、容器を密封し、ゲル状非水電解質を備える二次電池を得る。あるいは、(V)のプレゲル溶液を電極群に含浸させた後、容器を封口する前か後にプレゲル溶液を架橋させ、ゲル状非水電解質を備える二次電池を得る。
前述した(II)と(IV)における有機高分子化合物には、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドまたはその誘導体を骨格とするポリマー; フッ化ビニリデン、6フッ化プロピレン、4フッ化エチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、またはその共重合体; ポリアクリロニトリルまたはポリアクリロニトリルを主成分とし、アクリル酸メチル、ビニルピロリドン、酢酸ビニルなどとの共重合体を骨格とするポリアクリレート系ポリマー; ポリエーテル系ポリマー; ポリカーボネート系ポリマー; ポリアクリロニトリル系ポリマー; ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはそれらの誘導体を骨格とし、メタクリル酸エチル、スチレン、酢酸ビニルなどとの共重合体であるポリエステル系ポリマー; フッ素樹脂; ポリオレフィン系樹脂;ポリエーテル系樹脂; およびこれらの2種以上からなる共重合体;等が挙げられる。また、これらの高分子の前駆体となるモノマーやオリゴマーからプレポリマー溶液(III)、プレゲル溶液(V)を作製できる。
本発明では、上述した電解質中に環内に少なくとも一つの二重結合を有するスルトン化合物が含まれていることを特徴とする。
ここで、環内に少なくとも1つの二重結合を有するスルトン化合物としては、下記化1に示す一般式で表わされるスルトン化合物Aか、もしくはスルトン化合物Aの少なくとも1つのHが炭化水素基で置換されたスルトン化合物Bを用いることができる。なお、本願では、スルトン化合物Aまたはスルトン化合物Bを単独で用いても、スルトン化合物Aとスルトン化合物Bの双方を使用しても良い。

化1において、Cは直鎖状の炭化水素基で、mとnは、2m>nを満たす2以上の整数である。
環内に二重結合を有するスルトン化合物は、負極との還元反応の際に二重結合が開いて重合反応が起こり、ガス発生を伴うことなく負極表面に緻密な保護皮膜を形成することができる。この際、EC及びPCが存在していると、リチウムイオン透過性に優れる緻密な保護被膜を形成することができる。
スルトン化合物の中でも好ましいのは、スルトン化合物Aのうちm=3、n=4である化合物、即ち1,3−プロペンスルトン(PRS)、または、m=4、n=6である化合物、即ち1,4−ブチレンスルトン(BTS)である。これら化合物に由来する保護被膜は、黒鉛質材料中のLiと非水電解質との接触による副反応を抑制する効果が最も高いからである。スルトン化合物としては、1,3−プロペンスルトン(PRS)あるいは1,4−ブチレンスルトン(BTS)を単独で用いても、これらPRSとBTSを併用しても良い。
スルトン化合物の比率は、10重量%以下にすることが望ましい。これは、スルトン化合物の比率が10重量%を超えると、保護被膜のリチウムイオン透過性が低下して負極のインピーダンスが増大し、充分な容量や充放電効率を得られない可能性がある。更に、電極の設計容量を維持し、初期充放電効率を高く保つためには、スルトン化合物の割合は5重量%以下(さらに好ましくは4重量%以下)であることが望ましい。また、保護被膜の形成量を十分に確保するためには、スルトン化合物の比率を最低でも0.01重量%確保することが望ましい。更に、スルトン化合物の比率が0.1重量%以上あれば、保護被膜による初充電時のガス発生を抑制するなどの保護機能を充分なものにすることができる。
非水溶媒中には、スルトン化合物の他に、他の溶媒を含有させることが好ましい。他の溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)のような環状カーボネート、鎖状カーボネート{例えば、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)}、γ−ブチロラクトン(GBL)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フェニルエチレンカーボネート(phEC)、γ−バレロラクトン(VL)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、2−メチルフラン(2Me−F)、フラン(F)、チオフェン(TIOP)、カテコールカーボネート(CATC)、エチレンサルファイト(ES)、12−クラウン−4(Crown)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(Ether)等を挙げることができる。他の溶媒の種類は、1種類または2種類以上にすることができる。
中でも、ビニレンカーボネートは、炭素質物のリチウムイオン透過性を大きく低下させずに、保護皮膜の緻密性を高めることができるため、初期充放電効率と放電容量とサイクル寿命とをさらに向上することができる。
非水溶媒中のビニレンカーボネートの重量比率は、10重量%以下の範囲内にすることが望ましい。これは、ビニレンカーボネートの重量比率を10重量%よりも多くすると、負極表面の保護皮膜のリチウムイオン透過性が低下するため、初期充放電効率、放電容量またはサイクル寿命が大幅に損なわれる可能性があるからである。ビニレンカーボネートの重量比率のさらに好ましい範囲は、5重量%以下で、最も好ましい範囲は0.01〜5重量%である。
非水溶媒の好ましい組成としては、(I)環状カーボネートと、γ−ブチロラクトン(GBL)と、スルトン化合物とを含む非水溶媒、(II)ECと、少なくともMECを含む鎮状カーボネートと、スルトン化合物とを含む非水溶媒、(III)少なくともEC及びPCを含む環状カーボネートと、スルトン化合物と、GBLとを含む非水溶媒、(IV)少なくともEC及びPCを含む環状カーボネートと、スルトン化合物とを含む非水溶媒等を挙げることができる。
非水溶媒(I)の環状カーボネートには、ECが含まれていることが好ましく、ECと併せてPCが含有されているとなお好ましい。非水溶媒(I)によると、二次電池の高温貯蔵特性とサイクル寿命をさらに向上することができる。この非水溶媒(I)にさらにビニレンカーボネート(VC)を添加すると、二次電池の低温放電特性も改善することができる。
非水溶媒(II)の鎖状カーボネートには、メチルエチルカーボネート(MEC)が必須成分として含まれ、MECのみを鎮状カーボネートとして用いても、MECに他の鎖状カーボネートを併用しても良い。非水溶媒(II)によると、初充電時のガス発生を抑制することができると共に、低温放電特性とサイクル寿命を向上することができる。
MECと併用する他の鎖状カーボネートは凝固点が低く、かつ粘度の低いものが望ましい。さらに、分子量の比較的小さい溶媒が望ましい。これは低温での放電特性が良好になるためである。他の鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)及びジメチルカーボネート(DMC)のうちの少なくとも一方が好ましい。特に、優れた充放電サイクル特性を得る観点からは、MECとDECを含む鎖状カーボートが好ましく、一方、優れた低温放電特性を得る観点からは、MECとDMCを含む鎖状カーボネートが望ましい。
非水溶媒(II)にさらにビニレンカーボネート(VC)を添加すると、二次電池のサイクル寿命をさらに改善することができる。
非水溶媒(III)は、二次電池の初充電時のガス発生量を少なくすることができ、同時に、高温貯蔵特性を向上することができる。非水溶媒(II)にさらにビニレンカーボネート(VC)を添加すると、二次電池の高温貯蔵特性をさらに改善することができる。
非水溶媒(IV)は、初充電時のガス発生量を抑制することができると共に、初充放電効率を向上することができる。非水溶媒(IV)にさらにビニレンカーボネート(VC)を添加すると、初充放電効率をさらに向上することができる。
非水溶媒に溶解される電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[(LiN(CFSO]、LiN(CSOなどのリチウム塩を挙げることができる。使用する電解質の種類は、1種類または2種類以上にすることができる。
中でも、LiPFあるいはLiBFを含むものが好ましい。また、(LiN(CFSOおよびLiN(CSOのうち少なくとも一方からなるイミド塩と、LiBF及びLiPFのうち少なくともいずれか一方からなる塩とを含有する混合塩Aか、あるいはLiBF及びLiPFを含有する混合塩Bを用いると、高温でのサイクル寿命をより向上することができる。また、電解質の熱安定性が向上されるため、高温環境下で貯蔵時の自己放電による電圧低下を抑えることができる。
前記電解質の前記非水溶媒に対する溶解量は、0.5〜25モル/Lとすることが望ましい。さらに好ましい範囲は、1〜2.5モル/Lである。
前記液状非水電解質には、セパレータとの濡れ性を良くするために、トリオクチルフォスフェート(TOP)のような界面活性剤を含有させることが望ましい。界面活性剤の添加量は、3%以下が好ましく、さらには0.1〜1%の範囲内にすることが好ましい。
前記液状非水電解質の量は、電池単位容量100mAh当たり0.2〜0.6gにすることが好ましい。液状非水電解質量のより好ましい範囲は、0.25〜0.55g/100mAhである。
6)容器(収納容器)
容器の形状は、例えば、有底円筒形、有底矩形筒型、袋状、カップ状等にすることができる。
この容器は、例えば、樹脂層を含むシート、金属板、金属フィルム等から形成することができる。
前記シートに含まれる樹脂層は、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド類から構成することができる。
前記金属板及び前記金属フィルムは、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウムから形成することができる。
容器の厚さ(容器の壁の厚さ)は、0.3mm以下にすることが望ましい。これは、厚さが0.3mmより厚いと、高い重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度を得られ難くなるからである。容器の厚さの好ましい範囲は、0.25mm以下で、更に好ましい範囲は0.15mm以下で、最も好ましい範囲は0.12mm以下である。また、厚さが0.05mmより薄いと、変形や破損し易くなることから、容器の厚さの下限値は0.05mmにすることが好ましい。
本発明に係る非水電解質二次電池の一例である薄型リチウムイオン二次電池と円筒型リチウムイオン二次電池を図1〜図3を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係わる非水電解質二次電池の一例である薄型リチウムイオン二次電池を示す斜視図、図2は図1の非水電解質二次電池の要部拡大断面図で、図3は本発明に係る非水電解質二次電池の一例である円筒形非水電解質二次電池を示す部分切欠斜視図である。
まず、薄型リチウムイオン二次電池を図1,2を参照して説明する。
図1に示すように、長箱型のカップ状をなす容器本体1内には、電極群2が収納されている。電極群2は、正極3と、負極4と、正極3と負極4の間に配置されるセパレータ5を含む積層物が偏平形状に捲回された構造を有する。非水電解質は、電極群2に保持されている。容器本体1の縁の一部は幅広になっており、蓋板6として機能する。容器本体1と蓋板6は、それぞれ、ラミネートフィルムから構成される。このラミネートフィルムは、外部保護層7と、熱可塑性樹脂を含有する内部保護層8と、外部保護層7と内部保護層8の間に配置される金属層9とを含む。容器本体1には蓋体6が内部保護層8の熱可塑性樹脂を用いてヒートシールによって固定され、それにより容器内に電極群2が密封される。正極3には正極タブ10が接続され、負極4には負極タブ11が接続され、それぞれ容器の外部に引き出されて、正極端子及び負極端子の役割を果たす。
次いで、円筒形リチウムイオン二次電池を図3を参照して説明する。
ステンレスからなる有底円筒状の容器21は、底部に絶縁体22が配置されている。電極群23は、前記容器21に収納されている。前記電極群23は、正極24、セパレータ25、負極26及びセパレータ25を積層した帯状物を前記セパレータ25が外側に位置するように渦巻き状に捲回した構造になっている。
前記容器21内には、非水電解液が収容されている。中央部が開口された絶縁紙27は、前記容器21内の前記電極群23の上方に配置されている。絶縁封口板28は、前記容器21の上部開口部に配置され、かつ前記上部開口部付近を内側にかしめ加工することにより前記封口板28は前記容器21に固定されている。正極端子29は、前記絶縁封口板28の中央に嵌合されている。正極リード30の一端は、前記正極24に、他端は前記正極端子29にそれぞれ接続されている。前記負極26は、図示しない負極リードを介して負極端子である前記容器21に接続されている。
以下、本発明の実施例を前述した図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
<正極の作製>
まず、リチウムコバルト酸化物(LiCoO;但し、Xは0<X≦1である)粉末90重量%に、アセチレンブラック5重量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%のジメチルフォルムアミド(DMF)溶液とを加えて混合し、スラリーを調製した。前記スラリーを厚さが15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布した後、乾燥し、プレスすることにより、正極層が集電体の両面に担持された構造の正極を作製した。なお、正極層の厚さは、片面当り60μmであった。
<負極の作製>
粉末X線回折による(002)面の面間隔(d002)が0.3360nmで、CuKα線を用いるX線回折測定において回折角2θが42.8°〜44.0°と45.5°〜46.6°にピークが検出されないために菱面体晶系を持たず、かつピーク強度比(I(101)/I(100))とピーク面積比(S(101)/S(100))が下記表1に示す値である人造黒鉛を用意した。なお、(002)面の面間隔d002は、粉末X線回折スペクトルから半値幅中点法により求めた値である。この際、ローレンツ散乱等の散乱補正は、行わなかった。
また、ピーク強度比(I(101)/I(100))とピーク面積比(S(101)/S(100))は、同様にCuKα線を用いて測定されたスペクトルから、ベースラインを差し引いた後決定した。
この黒鉛質材料について以下に説明する方法でBET法による比表面積の測定を行い、その結果を下記表1に示す。
(BET法による比表面積の測定)
測定装置には、ユアサアイオニクス製の商品名がカンタソーブを用いた。サンプル量は、0.5g前後に設定し、また、試料に前処理として120℃−15分の脱気を行った。
得られた黒鉛質材料粉末を95重量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%のジメチルフォルムアミド(DMF)溶液とを混合し、スラリーを調製した。前記スラリーを厚さが12μmの銅箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥し、プレスすることにより、負極層が集電体に担持された構造の負極を作製した。なお、負極層の厚さは、片面当り55μmであった。
<セパレータ>
厚さが25μmの微多孔性ポリエチレン膜からなるセパレータを用意した。
<非水電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とγ−ブチロラクトン(GBL)が体積比率(EC:GBL)で35:65で混合された混合溶液に対して、1,3−プロペンスルトン(PRS)を2重量%、ビニレンカーボネート(VC)を1重量%およびトリオクチルフォスフェート(TOP)を0.5重量%添加し、非水溶媒を調製した。得られた非水溶媒に四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)をその濃度が1.5モル/Lになるように溶解させて、液状非水電解質を調製した。
<電極群の作製>
前記正極の集電体に帯状アルミニウム箔(厚さ100μm)からなる正極リードを超音波溶接し、前記負極の集電体に帯状ニッケル箔(厚さ100μm)からなる負極リードを超音波溶接した後、前記正極及び前記負極をその間に前記セパレータを介して渦巻き状に捲回した後、偏平状に成形し、電極群を作製した。
アルミニウム箔の両面をポリエチレンで覆った厚さ100μmのラミネートフィルムを、プレス機により矩形のカップ状に成形し、得られた容器内に前記電極群を収納した。
次いで、容器内の電極群に80℃で真空乾燥を12時間施すことにより電極群及びラミネートフィルムに含まれる水分を除去した。
容器内の電極群に前記液状非水電解質を電池容量1Ah当たりの量が4.8gとなるように注入し、ヒートシールにより封止した後、前述した図1、2に示す構造を有し、厚さが3.6mm、幅が35mm、高さが62mmで、公称容量が0.65Ahの薄型非水電解質二次電池を組み立てた。
この非水電解質二次電池に対し、初充放電工程として以下の処置を施した。まず、室温で0.2Cで4.2Vまで定電流・定電圧充電を15時間行った。その後、室温で0.2Cで3.0Vまで放電し、非水電解質二次電池を製造した。
ここで、1Cとは公称容量(Ah)を1時間で放電するために必要な電流値である。よって、0.2Cは、公称容量(Ah)を5時間で放電するために必要な電流値である。
【実施例2〜5】
非水溶媒の組成および電解質の種類と濃度を下記表2に示すように変更すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして薄型非水電解質二次電池を製造した。
【実施例6】
粉末X線回折による(002)面の面間隔(d002)が0.3375nmで、CuKα線を用いるX線回折測定において菱面体晶系に由来するピーク(回折角2θが42.8°〜44.0°のピークと45.5°〜46.6°のピーク)が検出されず、かつピーク強度比(I(101)/I(100))とピーク面積比(S(101)/S(100))が下記表1に示す値の人造黒鉛を用意した。
この黒鉛質材料について前述した実施例1で説明したのと同様にしてBET法による比表面積の測定を行い、その結果を下記表1に示す。
この黒鉛質材料を炭素質物として用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして負極を作製した。
また、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)を体積比率(EC:PC)が50:50になるように混合した混合溶液に対して、1,3−プロペンスルトン(PRS)を2重量%およびトリオクチルフォスフェート(TOP)を0.5重量%添加し、非水溶媒を調製した。得られた非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)をその濃度が1モル/Lになるように溶解させて、液状非水電解質を調製した。
得られた負極と非水電解質を用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして薄型非水電解質二次電池を製造した。
【実施例7】
粉末X線回折による(002)面の面間隔(d002)が0.337nmで、CuKα線を用いるX線回折測定において菱面体晶系を示すピーク(回折角2θが42.8°〜44.0°のピークと45.5°〜46.6°のピーク)が検出されず、すなわち菱面体晶系を持たず、かつピーク強度比(I(101)/I(100))とピーク面積比(S(101)/S(100))が下記表1に示す値の人造黒鉛を成型し、黒鉛質材料を得た。
この黒鉛質材料について前述した実施例1で説明したのと同様にしてBET法による比表面積の測定を行い、その結果を下記表1に示す。
この黒鉛質材料を炭素質物として用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして負極を作製した。
また、前述した実施例6で説明したのと同様にして液状非水電解質を調製した。
得られた負極と非水電解質を用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして薄型非水電解質二次電池を製造した。
【実施例8〜10】
下記表1に示すパラメータを持つ人造黒鉛を黒鉛質材料として用いると共に下記表2に示す組成の非水電解質を用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして薄型非水電解質二次電池を製造した。
(比較例1)
粉末X線回折による(002)面の面間隔(d002)が0.3373nmで、CuKα線を用いるX線回折測定において回折角2θが42.8°〜44.0°と45.5°〜46.6°にピークが検出されず、かつピーク強度比(I(101)/I(100))とピーク面積比(S(101)/S(100))が下記表1に示す値の人造黒鉛(メソフェーズピッチ系炭素繊維)を用意した。
この炭素質物について前述した実施例1で説明したのと同様にしてBET法による比表面積の測定を行い、その結果を下記表1に示す。
このような炭素質物を用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして負極を作製した。
また、エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)が体積比率(EC:MEC)が35:65になるように混合した混合溶液に対して、1,3−プロペンスルトン(PRS)を0.5重量%およびビニレンカーボネート(VC)を0.5重量%添加し、非水溶媒を調製した。得られた非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)をその濃度が1モル/Lになるように溶解させて、液状非水電解質を調製した。
得られた負極と非水電解質を用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして薄型非水電解質二次電池を製造した。
(比較例2〜3)
非水溶媒の組成および電解質の種類と濃度を下記表2に示すように変更すること以外は、前述した比較例1で説明したのと同様にして薄型非水電解質二次電池を製造した。
(比較例4)
粉末X線回折による(002)面の面間隔(d002)が0.3375nmで、かつCuKα線を用いるX線回折測定において回折角2θが42.8°〜44.0°と45.5°〜46.6°とにピークが現れず、かつピーク強度比(I(101)/I(100))とピーク面積比(S(101)/S(100))が下記表1に示す値の人造黒鉛(メソフェーズピッチ系炭素繊維)を炭素質物として用意した。
この炭素質物について前述した実施例1で説明したのと同様にしてBET法による比表面積の測定を行い、その結果を下記表1に示す。
このような炭素質物を用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして負極を作製し、この負極を用いて前述した実施例1で説明したのと同様な構成の薄型非水電解質二次電池を製造した。
(比較例5)
下記表1に示すパラメータを有する天然黒鉛を黒鉛質材料として用い、かつ下記表2に示す組成の非水電解質を用いること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして薄型非水電解質二次電池を製造した。
得られた実施例1〜10および比較例1〜5の二次電池について、初充放電効率、電池容量および充放電サイクル特性を下記に説明する条件で評価し、その結果を下記表2に示す。
(初充放電効率)
各二次電池について、温度20℃の環境中において、充放電レート0.2C、充電終止電圧4.2Vの定電圧充電、放電カット電圧3.0Vの充放電試験を行い初充放電効率を評価し、その結果を下記表2に示す。
(電池容量)
初充放電時の放電カット電圧3.0Vでの放電容量を電池容量として比較し、その結果を下記表2に示す。
(充放電サイクル特性)
各二次電池について、充放電レート1C、充電終止電圧4.2V、放電終止電圧3.0Vの充放電試験を行い、温度20℃の環境中において充放電を300回及び500回繰り返した後の放電容量維持率(1回目の放電の容量を100%とする)を求め、その結果を下記表2に示す。


表1〜表2から明らかなように、BET法による比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下の範囲内である黒鉛質材料を用いる実施例1〜10の二次電池は、初充放電効率、放電容量および300サイクル時の容量維持率のいずれもが優れていることがわかる。中でも、粉末X線回折測定による面間隔d002が0.336nmで、菱面体晶系構造を持たない黒鉛質材料と、EC、PC、PRS及びVCを含有する非水電解質とを用いる実施例3の二次電池は、300サイクル時の容量維持率が最も高くなった。
これに対し、BET法による比表面積が0.3m/g未満の炭素質物を用いる比較例1〜3の二次電池は、放電容量と300サイクル時の容量維持率のいずれもが低くかった。また、比較例4の二次電池は、300サイクル時の容量維持率が高いものの、放電容量が低かった。さらに、菱面体晶系構造を持つ黒鉛質材料を備えた比較例5の二次電池では、初期効率、放電容量及び300サイクル時の容量維持率のいずれもが実施例1〜10に比較して低かった。これは、非水溶媒の分解反応が初充電時から継続して生じたためであると推測される。
また、実施例1〜10の500サイクル時の容量維持率を比較することによって、実施例6,7の二次電池は、実施例1〜5,8〜10の二次電池に比較して500サイクル時の容量維持率が低いことが理解できる。この主な原因は以下に説明するものである。
実施例6の二次電池では、面間隔d002が0.3375nmと大きい黒鉛質材料を備えているため、保護被膜が十分に形成されず、500サイクルという長期サイクルを施すとサイクル途中で急激な容量劣化を生じたものと考えられる。
一方、実施例7の二次電池では、黒鉛質材料の黒鉛結晶の完全性が低いために負極表面に保護皮膜が不均一に形成され、500サイクルという長期サイクルを施すとサイクル途中で急激な容量劣化を生じたものと考えられる。
なお、実施例9の二次電池は、300サイクルおよび500サイクルでは高い容量維持率を得られたものの、充放電サイクル初期における放電容量曲線の平坦性が不十分であった。これは、黒鉛質材料の面間隔d002が0.3358nmであるものの、比表面積が0.9m/gと小さいことから、充放電サイクル初期に負極表面の保護皮膜の抵抗上昇が生じたためであると推測される。
(PRSとVCの検出方法)
また、実施例1の二次電池について、前記初充放電工程後、5時間以上回路を開放して十分に電位を落ち着かせた後、Ar濃度が99.9%以上、かつ露点が−50℃以下のグローブボックス内で分解し、電極群を取り出した。前記電極群を遠沈管につめ、ジメチルスルホキシド(DMSO)−dを加えて密封し、前記グローブボックスより取り出し、遠心分離を行った。その後、前記グローブボックス内で、前記遠沈管から前記電解液と前記DMSO−dの混合溶液を採取した。前記混合溶媒を5mmφのNMR用試料管に0.5ml程度入れ、NMR測定を行った。前記NMR測定に用いた装置は日本電子株式会社製JNM−LA400WBであり、観測核はH、観測周波数は400MHz、ジメチルスルホキシド(DMSO)−d中に僅かに含まれる残余プロトン信号を内部基準として利用した(2.5ppm)。測定温度は25℃とした。HNMRスペクトルではECに対応するピークが4.5ppm付近、VCに対応するピークが7.7ppm付近に観測された。一方、PRSに対応するピークが、図4に示すスペクトルのように5.1ppm付近(P)、7.05ppm付近(P)及び7.2ppm付近(P)に観測された。これらの結果から、初充放電工程後の実施例1の二次電池に存在する非水溶媒中にVCとPRSが含まれていることを確認できた。
また、観測周波数を100MHzとし、ジメチルスルホキシド(DMSO)−d(39.5ppm)を内部基準物質として13CNMR測定を行ったところ、ECに対応するピークが66ppm付近、VCに対応するピークが133ppm付近、PRSに対応するピークが74ppm付近と124ppm付近と140ppm付近に観測され、この結果からも、初充放電工程後の実施例1の二次電池に存在する非水溶媒中にVCとPRSが含まれていることを確認できた。
さらに、HNMRスペクトルにおいて、ECのNMR積分強度に対するVCのNMR積分強度の比と、ECのNMR積分強度に対するPRSのNMR積分強度の比を求めたところ、非水溶媒全体に対するVCの割合、PRSの割合がいずれも二次電池組立て前より減少していることを確認することができた。
なお、本発明は、上記の実施例に止まるものではなく、他の種類の正極・負極・セパレータ・容器の組合わせにおいても同様に適用可能である。また、上記の実施例のようなラミネートフィルムから容器を形成した非水電解質二次電池以外にも、円筒形や角形の容器を有する二次電池においても本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
以上詳述したように本発明によれば、初充放電効率、放電容量および充放電サイクル寿命を同時に満足する非水電解質二次電池を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質物を含む負極と、非水溶媒を含む非水電解質とを具備した非水電解質二次電池であり、
前記非水溶媒は、環内に少なくとも一つの二重結合を有するスルトン化合物を含み、
前記炭素質物は、BET法による比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下で、粉末X線回折測定により得られる面間隔d002が0.3365nm以下で、CuKα線を用いるX線回折測定において回折角2θが42.8°〜44.0°と45.5°〜46.6°それぞれにピークが現れず、かつ下記(1)式及び(2)式を満足する黒鉛質材料を含む。
1≦I(101)/I(100)≦2.2 (1)
3.7≦S(101)/S(100)≦5 (2)
但し、I(101)はX線回折スペクトルの(101)面の回折ピークの強度で、I(100)はX線回折スペクトルの(100)面の回折ピークの強度で、S(101)はX線回折スペクトルの(101)面の回折ピークの面積値で、S(100)はX線回折スペクトルの(100)面の回折ピークの面積値である。
【請求項2】
正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質物を含む負極と、非水溶媒を含む非水電解質とを具備した非水電解質二次電池であり、
前記非水溶媒は、環内に少なくとも一つの二重結合を有するスルトン化合物を含み、
前記炭素質物は、BET法による比表面積が0.3m/g以上、4m/g以下で、粉末X線回折測定により得られる面間隔d002が0.3365nm以下で、下記(1)式及び(2)式を満足し、かつ菱面体晶系構造を持たない黒鉛質材料を含む。
1≦I(101)/I(100)≦2.2 (1)
3.7≦S(101)/S(100)≦5 (2)
但し、I(101)はX線回折スペクトルの(101)面の回折ピークの強度で、I(100)はX線回折スペクトルの(100)面の回折ピークの強度で、S(101)はX線回折スペクトルの(101)面の回折ピークの面積値で、S(100)はX線回折スペクトルの(100)面の回折ピークの面積値である。
【請求項3】
前記炭素質物は、BET法による比表面積が10m/g以上である黒鉛質材料Bをさらに含有する請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記黒鉛質材料BのBET法による比表面積は、10m/g以上、25m/g以下である請求項3記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記ピーク強度比{I(101)/I(100)}は、1.5以上2.2以下である請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記ピーク面積比{S(101)/S(100)}は、3.8以上4.8以下である請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記スルトン化合物は、1,3−プロペンスルトン(PRS)および1,4−ブチレンスルトン(BTS)のうちの少なくとも一方を含む請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記非水溶媒は、ビニレンカーボネート(VC)をさらに含有する請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記非水溶媒は、環状カーボネートと、γ−ブチロラクトンとをさらに含有する請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
前記非水溶媒は、エチレンカーボネートと、少なくともメチルエチルカーボネートを含む鎖状カーボネートとをさらに含有する請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項11】
前記非水溶媒は、少なくともエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを含む環状カーボネートと、γ−ブチロラクトンとをさらに含有する請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項12】
前記非水溶媒は、少なくともエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを含む環状カーボネートをさらに含有する請求項1または2記載の非水電解質二次電池。
【請求項13】
前記非水電解質は、LiPF及びLiBFのうち少なくとも一方のリチウム塩をさらに含有する請求項1または2記載の非水電解質二次電池。

【国際公開番号】WO2004/023590
【国際公開日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【発行日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−534123(P2004−534123)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011105
【国際出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】