説明

非水電解質電池およびその製造方法

【課題】生産性を向上することができ、かつ、放電末期の電池特性の低下を抑制することができる電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】電池は、正極缶と、負極缶と、正極缶の面のうち、負極缶と対向する面に設けられた正極材と、負極缶の面のうち、正極缶と対向する面に設けられた負極材と、正極缶と負極缶との周縁部に介在されたガスケットと、正極材の側面を覆う正極リングとを備える。ガスケットは、正極材の位置決めをする複数の突出部、または延在部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池およびその製造方法に関する。詳しくは、正極缶と負極缶との間にガスケットが介在する非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動用電源としてリチウム電池等が使用されるようになり、大電流化の需要が増えている。コイン形リチウム電池では、負極活物質のリチウムが正極ペレットにリチウムイオンとして進入していくことで放電が行われる。したがって、この電池には、放電に伴い負極は体積が減少するのに対して、正極ペレットは体積が膨張するという特徴がある。放電に際して、負極の厚み方向の減少よりも正極ペレットの厚み方向の膨張が少ないと、両極間のコンタクトが不十分となり内部抵抗の上昇が起こり、負荷特性の低下が起こる。この問題を回避するために種々の電池構造が提案されているが、その代表的なものとして、正極リングを用いる電池構造がある(例えば特許文献1参照)。正極リングを用いると、正極ペレットの側面は剛性のある正極リングで固定されるために、放電に伴う正極ペレットの体積膨張分のほとんどが厚み方向に振り分けられ、厚み方向の膨張が増大し放電時における正負極間のコンタクトが向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−103109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記電池構成では、電池特性の観点から、正極リングと正極ペレットとのクリアランスを小さくする必要があるが、このようにクリアランスを小さくすると、組立工程で正極リングと正極ペレットとを別々に組み上げるのが困難となる。
【0005】
このような問題を回避する方法として、正極ペレットと正極リングとを組立工程前に予め一体化しておく方法が考えられる。しかし、このように正極ペレットと正極リングとを一体化したものは、組立工程において反転に注意して作業する必要性が生じるため、上記方法を採用した場合、正極リングを用いない電池と比べて生産性の低下を招くこととなる。
【0006】
そこで、このような生産性の低下を抑制すべく、正極缶と正極リングとを溶接し、これに正極ペレットを一体化して、電池を組み上げるという方法が考えられる。しかし、この方法では、正極ペレットに電解液を滴下したあとに、正極缶を反転させて組み立てるという工程が必要となる。この工程において、正極缶の反転により電解液の溢れが発生すると、歩留まり悪化を招くこととなる。製造ラインのスピードを抑えることにより、電解液の溢れを抑制することができるが、このように製造ラインのスピードを抑えると、生産性の低下を招いてしまう。
【0007】
また、上述の方法では、正極ペレットの側面と正極リングとが密着した状態にて電解液の滴下が行われるため、電池組み立てにおいて正極ペレットの電解液の吸収が不十分となる。その結果、電解液が消費する放電末期まで十分な電池特性を維持することができないという問題が生じる。
【0008】
本発明は、生産性を向上することができ、かつ、放電末期の電池特性の低下を抑制することができる非水電解質電池およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、第1の発明は、
正極缶と、
負極缶と、
正極缶の面のうち、負極缶と対向する面に設けられた正極材と、
負極缶の面のうち、正極缶と対向する面に設けられた負極材と、
正極缶と負極缶との周縁部に介在されたガスケットと、
正極材の側面を覆う正極リングと
を備え、
ガスケットは、正極材の位置決めをする複数の突出部、または延在部を有する電池である。
【0010】
第2の発明は、
負極缶の周縁部に、複数の突出部、または延在部を有するガスケットを配置する工程と、
複数の突出部、または延在部により正極材を位置決めして、負極缶上に配置する工程と、
正極材が配置された負極缶と、リング部材が接合された正極缶とを、正極材とリング部材とが対向するようにして重ね合わせ、重ね合わせた負極缶と正極缶との周縁部をかしめる工程と
を備える電池の製造方法である。
【0011】
本発明では、ガスケットの複数の突出部または延在部により正極材を位置決めして、負極缶上に配置した後、正極リングが予め接合された正極缶と、負極缶とを重ね合わせて電池を作製する。したがって、正極リングと正極材とを予め一体化する工程が不要となり、正極リングを用いる電池構成とした場合の生産性の低下を抑制することができる。また、正極リングを用いない電池とほぼ同様の生産性を実現することができる。
【0012】
また、ガスケットの突出部により正極材を位置決めして負極缶に配置した後、正極材の側面が正極リングに覆われず、露出した状態において、正極材に電解液を含浸させるので、正極材の電解液の含浸性を向上させることができる。したがって、放電末期での電池特性の低下を抑制することができる。すなわち、正極リングを用いる従来の電池に比して、優れた電池特性を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、正極リングと正極材とを予め一体化させる工程を省くことができるので、生産性を向上することができる。また、正極材の電解液の含浸性を向上することができるので、放電末期の電池特性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の一実施形態の非水電解質電池の構成の一例を示す断面図である。
【図2】図2Aは、ガスケットの形状の第1の例を示す平面図である。図2Bは、図2Aに示したA−A線における断面図である。
【図3】図3Aは、ガスケットの形状の第2の例を示す平面図である。図3Bは、図3Aに示したA−A線における断面図である。
【図4】図4Aは、正極リングの形状の一例を示す平面図である。図3Bは、図3Aに示したA−A線における断面図である。
【図5】図5A〜図5Cは、本発明の一実施形態による非水電解質電池の製造方法の一例について説明するための工程図である。
【図6】図6A〜図6Cは、本発明の一実施形態による非水電解質電池の製造方法の一例について説明するための工程図である。
【図7】図7Aは、正極リングの第1の変形例を示す断面図である。図7Bは、正極リングの第2の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[非水電解質電池の構成]
図1は、本発明の一実施形態による非水電解質電池の構成の一例を示す断面図である。この非水電解質電池は、いわゆるコイン型リチウム電池といわれるものであり、正極缶1と、正極ペレット(正極材)2と、負極カップ(負極缶)3と、負極材4と、セパレータ5と、ガスケット6と、正極リング7と、電解液とを備える。正極ペレット2は、正極缶1の面のうち、負極カップ3と対向する面に設けられ、負極材4は、負極カップ3の面のうち、正極缶1と対向する面に設けられている。ガスケット6は、正極缶1と負極カップ3との周縁部に介在され、正極缶1と負極カップ3と周縁部はガスケット6を介在させた状態にてかしめられている。正極リング7は、正極材2の側面を覆うととともに、正極缶1に接合している。正極缶1および負極カップ3の内部は、例えば液状の電解質である電解液により満たされている。また、必要に応じて、負極材4の正極ペレット側に、アルミニウム箔をさらに備えるようにしてもよい。このようにアルミニウム箔を備えることで、負荷特性をより向上させることができる。
以下、非水電解質電池を構成する正極缶1、負極カップ3、正極ペレット2、負極材4、セパレータ5、電解液、ガスケット6、および正極リング7について順次説明する。
【0016】
(正極缶、負極カップ)
正極缶1は、例えば、ステンレス等の金属により、負極カップ3は、例えば、ニッケルメッキを施した鉄もしくはステンレス等の金属によりそれぞれ構成されている。正極缶1は正極ペレット2の集電体として機能し、負極カップ3は負極材4の集電体として機能するようになっている。
【0017】
(正極ペレット)
正極ペレットは、例えば、円盤状の形状を有している。正極ペレット2は、例えば、正極活物質を含み、必要に応じて導電剤と結着剤(バインダ)とを含んでいる。正極活物質としては、例えば、焼成電解二酸化マンガン(β二酸化マンガン)が挙げられる。導電剤としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラックまたは炭素繊維等が挙げられる。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、スチレンブタジエンゴム等が挙げられる。
【0018】
(負極材)
負極材4は、例えば、円盤状の形状を有している。負極材4は、例えば、リチウムまたはリチウム合金を負極活物質として含んでいる。リチウム合金としては、例えば、リチウム以外の第2の構成元素として、アルミニウム(Al)、鉛(Pb)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銅(Cu)および鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0019】
(セパレータ)
セパレータ5は、正極ペレット2と負極材4とを隔離し、両極の接触による電極の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ5は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレンもしくはポリエチレン等よりなる合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック性の不織布等の無機材料よりなる多孔質膜により構成されている。
【0020】
(電解液)
電解質としての電解液は、有機溶媒に電解質塩としてリチウム塩を溶解させたものであり、リチウム塩が電離することによりイオン伝導性を示すようになっている。ここで、有機溶媒としては、例えば、エステル類、エーテル類、3置換−2−オキサゾリジノン類およびこれらの二種以上の混合溶媒が挙げられる。エステル類としては、例えば、アルキレンカーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、2−メチル−γ−ブチルラクトン等)が挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、環状エーテル、例えば5員環を有するエーテル〔テトラヒドロフラン;置換(アルキル,アルコキシ)テトラヒドロフラン例えば2−メチルテトラヒドロフラン、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、2−エチルテトラヒドロフラン、2,2’−ジメチルテトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン等;ジオキソラン等〕、6員環を有するエーテル〔1,4−ジオキサン、ピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン〕、ジメトキシエタン等が挙げられる。3置換−2−オキサゾリジノン類としては、例えば、3−アルキル−2−オキサゾリジノン(3−メチル−2−オキサゾリジノン、3−エチル−2−オキサゾリジノン等)、3−シクロアルキル−2−オキサゾリジノン(3−シクロヘキシル−2−オキサゾリジノン等)、3−アラルキル−2−オキサゾリジノン(3−ベンジル−2−オキサゾリジノン等)、3−アリール−2−オキサゾリジノン(3−フェニル−2−オキサゾリジノン等)が挙げられる。なかでも、プロピレンカーボネートや5員環を有するエーテル(特にテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2−エチルテトラヒドロフラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン)、3−メチル−2−オキサゾリジノン等が好ましい。
【0021】
電解質塩としては、例えば、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、リンフッ化リチウム、塩化アルミン酸リチウム、ハロゲン化リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等が使用可能であり、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム等が好ましい。
【0022】
(ガスケット)
ガスケットは、例えば、リング状の形状を有する。ガスケットは、本体部11と、この本体部11の内周側に設けられた複数の突出部12aまたは延在部12bとを備える。本体部11は、正極缶1と負極カップ3の周縁部に介在し、両者の間の隙間を封口するシール部である。この本体部11により、非水電解質電池内部から外部への電解液の液漏れや、非水電解質電池外部から内部への水分等の異物の混入を防止することができる。
【0023】
突出部12aまたは延在部12bは、非水電解質電池の製造時において、正極ペレット2の位置決めをするためのものである。突出部12aまたは延在部12bは、電池の中央部に向けて突出または延在され、その先端は正極ペレット2の側面に位置する。突出部12aまたは延在部12bの形状は、非水電解質電池の製造工程において、正極ペレット2の位置を固定できるものであればよく特に限定されるものではない。環状ガスケットの材料としては、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)等のフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0024】
図2Aは、ガスケットの形状の第1の例を示す平面図である。図2Bは、図2Aに示したA−A線における断面図である。ガスケット6は、リング状の本体部11と、この本体部11の内周側の先端部に設けられた複数の突出部12aとを備える。これらの突出部12aは、正極ペレット2の側面のうち、正極リング7により覆われず露出した露出領域に向けて突出している。非水電解質電池の製造時には、これらの突出部12aにより正極ペレット2の位置決めがなされる。突出部12aの個数は、非水電解質電池の製造時における正極ペレット2の位置決めを容易にする観点からすると、3個以上が好ましい。また、複数の突出部12aは、非水電解質電池の製造時における正極ペレット2の位置決めを容易にする観点からすると、リング状の本体部11の内周に等間隔で設けられることが好ましい。突出部12aの形状は、非水電解質電池の製造時において、正極ペレット2を位置決め可能な形状であればよく、特に限定されるものではない。
【0025】
図3Aは、ガスケットの形状の第2の例を示す平面図である。図3Bは、図3Aに示したA−A線における断面図である。ガスケット6は、リング状の本体部11と、この本体部11の内周側の先端部全体を一様に突出させたリング状の延在部12bとを備える。この延在部12bは、本体部11の内周から、正極ペレット2の側面のうち、正極リング7により覆われず露出した露出領域に向けて一様にリング状に延在されている。非水電解質電池の製造時には、この延在部12bにより正極ペレット2の位置決めがなされる。
【0026】
(正極リング)
図4Aは、正極リングの形状の一例を示す平面図である。図4Bは、図4Aに示したA−A線における断面図である。正極リング7は、例えばL字状の断面を有する金属リングである。具体的には、正極缶1に溶接等されるリング状の接合部21と、この接合部21の外周部に直角に立設された周壁部22とを備える。この接合部21は、電池の集電効果の向上の観点からすると、正極缶1に溶接されていることが好ましい。また、同様に電池の集電効果の向上の観点からすると、周壁部22と正極ペレット2の側面とが密着することが好ましい。正極リング7の材料としては、例えばステンレス等の金属が挙げられるが、特にこの材料に限定されるものではない。
【0027】
正極リング7の周壁部22の高さは適宜設計することができるが、ガスケット6の突出部12aまたは延在部12bと干渉しない範囲で充分大きくすることが好ましい。これは、正極リング7の周壁部22が正極ペレット2の径方向への膨張を抑制し、厚さ方向の簿長を大きくする効果が得られるためである。具体的には、正極ペレット2の高さHに対する正極リング7の周壁部22の高さhの割合((h/H)×100)が、40%以上であることが好ましい。正極リング7の内径DAとガスケット6の内径DBとの差が小さいほど、すなわち、正極リング7の内径DAと正極ペレット2の外径とのクリアランスが小さいほど、放電に伴うペレット膨張が高さ方向に振り分けられ、放電末期の特性がより向上する。
【0028】
正極リング7の内径DAと、ガスケット6の内径DBとの比率(DA/DB)が、好ましくは0.97以上1.10以下、より好ましくは1.00以上1.10以下の範囲内である。0.97未満であると、生産性が低下する傾向がある。一方、1.10を超えると、放電末期の電池特性が低下する傾向にある。また、1.00以上であると、歩留まりを向上させることができる。ここで、正極リング7の内径とは、図4Aに示すように、正極リング7の周壁部22の内径、すなわち正極リング7の周壁部22の内周面間の距離である。ガスケット6の内径DBとは、突出部間または延在部間の距離であり、具体的には以下のように定義される。図2Aに示すように、ガスケット6の本体部11に、複数の突出部12が設けられている場合には、突出部12の先端が位置する仮想的な円Cの直径DBである。図3Aに示すように、ガスケット6の本体部11に、一様に突出したリング状の延在部12bが設けられている場合には、リング状の延在部12bの直径DBである。
【0029】
(1−2)非水電解質電池の製造方法
以下、図5A〜図6Cを参照しながら、本発明の一実施形態による非水電解質電池の製造方法の一例について説明する。
【0030】
まず、図5Aに示すように、円盤状の負極材4を負極カップ3に収容する。次に、図5Bに示すように、負極材4上にセパレータ5を載置する。次に、図5Cに示すように、リング状のガスケット6を負極カップ3の周縁部に載置する。ガスケット6の成形方法としては、例えば射出成形法が挙げられる。次に、セパレータ5に対して電解液を滴下する。
【0031】
次に、図6Aに示すように、ガスケット6の突出部12aまたは延在部12bにより、正極ペレット2の位置決めをしながら、負極カップ3の所定位置に載置する。正極ペレット2は、例えば、焼成電解二酸化マンガンと、グラファイト等の導電材と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の結着剤と、水とを混合した後、加熱処理し水を蒸発乾燥させてペレット状に成形することにより得られる。次に、正極ペレット2に対して電解液を滴下する。
【0032】
次に、図6Bに示すように、負極カップ3との対向面に対して正極リング7が予め溶接された正極缶1を、正極カップ3に被せる。溶接の方法としては、例えば、抵抗溶接またはレーザー溶接などが挙げられる。次に、図6Cに示すように、正極缶1と負極カップ3との周縁部を、ガスケット7を介してかしめることにより密封する。以上により、目的とする非水電解質電池が得られる。
【0033】
[変形例]
正極リングの周壁部22のうち少なくとも先端部が、外側に向かって広がるようにしてもよい。このような形状を採用することで、生産性を向上することができる。具体的には例えば、図7Aに示すように、リング状の接合部21に対して周壁部22を傾斜させて、周壁部22がその先端部に向かうに従って外側に広がるようにしてもよい。また、図7Bに示すように、周壁部22の先端部のみを外側に向かって広げるようにしてもよい。正極リング7の周壁部22の先端部の内径DCと、正極リング7の接合部21の側の内径DAとの比率(DC/DA)が大きくなりすぎると、径方向への正極ペレット2の膨張が増えて、厚さ方向への正極ペレット2の膨張が少なくなり、放電深度80%閉路電圧が低下する傾向がある。よって、比率(DC/DA)は1.05以下が好ましい。
【0034】
上述したように、この一実施形態では、ガスケット6の複数の突出部12aまたは延在部12bにより正極ペレット2を負極カップ3の中央部等に位置決めしながら配置する。そして、負極カップ3上に、正極リング7が予め溶接された正極缶1を重ね合わせて、それらの周縁部をかしめることにより、非水電解質電池を作製する。したがって、正極リング7と正極ペレット2とを予め一体化する工程が不要となり、正極リング7を用いることによる組立速度および歩留まりの低下を抑制することができる。
【0035】
また、正極缶1と正極リング7とを予め溶接しておくことで、正極リング7を使用しないときの製造工程とほぼ同様にして、非水電解質電池を作製することができる。したがって、従来の生産ラインを大幅に改造することなく、正極リング7を有する非水電解質電池を作製することができる。
【0036】
さらに、正極ペレット2と正極リング7とを予め一体化して正極ペレット2の側面を正極リング7により覆った状態ではなく、正極ペレット2の側面を露出した状態において、電解液を正極ペレット2に滴下などして含浸させることができる。したがって、正極リング7を使用した従来の非水電解質電池に比して、正極ペレット2の電解液吸液性を向上させることができる。すなわち、正極リング7を使用した従来の非水電解質電池に比して、放電末期などの電池特性を向上することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
以下の実施例および比較例において、比率(DA/DB)は以下のようにして求めた。
まず、内側マイクロメータを用いて正極リングの内径DAを測定した。次に、工具顕微鏡(トプコン製、商品名:TUM)を用いてガスケットの内径DBを測定した。次に、測定した正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとを用いて、比率(DA/DB)を求めた。
【0039】
(実施例1)
まず、リチウムからなる直径φ20mmの円盤状の負極材を、ステンレス製負極カップに圧着した後、負極材上にポリプロピレン製セパレータを載置した。次に、負極カップの周縁部にポリプロピレン製ガスケットを配置した。ガスケットとしては、内周部に6個の突出部を均等に設けたものを用いた。次に、過塩素酸リチウムとプロピレンカーボネートとジメトキシエタンからなる電解液を、セパレータ上に滴下した。
【0040】
次に、ガスケットの突出部の内側に収まるようにして正極ペレットを負極カップに収容し、上記と同様の成分の電解液を正極ペレットに滴下した。正極ペレットとしては、二酸化マンガンを主成分とする合剤を加圧成型して作製したものを用いた。次に、レーザー溶接で予めリングが溶接された正極缶を準備した。なお、正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)は、1.00とした。次に、負極カップ上に正極缶を被せた後、正極缶と負極カップとの周縁部をガスケットを介してかしめることにより密封した。
以上により、電池外径φ24mm、総高5.0mmのコイン型リチウム電池を得た。
【0041】
(実施例2)
正極リング内径を大きくし、正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)を1.05とする以外は実施例1と同様にして、コイン型リチウム電池を得た。
【0042】
(実施例3)
正極リング内径を大きくし、正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)を1.10とする以外は実施例1と同様にして、コイン型リチウム電池を得た。
【0043】
(実施例4)
正極リング内径を大きくし、正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)を1.15とする以外は実施例1と同様にして、コイン型リチウム電池を得た。
【0044】
(実施例5)
正極リング内径を小さくし、正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)を0.97とする以外は実施例1と同様にして、コイン型リチウム電池を得た。
【0045】
(実施例6)
周壁部の先端部が外側に折り曲げられた正極リングを成形し、正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)を0.97とし、正極リング先端の内径DCとガスケットの内径DBとの比率(DC/DB)を1.00とした。ここで、正極リングの内径DAは、正極リングの周壁部のうち、折り曲げられた先端部よりも接合部側の部分の内径である。正極リング先端の内径DCは、正極リングの周壁部のうち、折り曲げられた先端部の最先端の内径である。これ以外のことは実施例1と同様にして、コイン型リチウム電池を得た。
【0046】
(比較例1)
ガスケットとして突出部のないリング状のものを用い、正極缶として正極リングが設けられていないものを用いる以外は実施例1と同様にして、コイン型リチウム電池を得た。
【0047】
(比較例2)
まず、リチウムからなる直径φ20mmの円盤状の負極材を、ステンレス製負極カップに圧着した後、負極材上にポリプロピレン製セパレータを載置した。次に、負極カップの周縁部にポリプロピレン製ガスケットを配置した。ガスケットとしては、突出部のないリング状のガスケットを用いた。次に、過塩素酸リチウムとプロピレンカーボネートとジメトキシエタンからなる電解液を、セパレータ上に滴下した。
【0048】
次に、レーザー溶接機にて正極リングが予め溶接した正極缶を準備し、正極リングに正極ペレットを挿入し、加圧成形を行うことで一体化した後、正極ペレットに電解液を滴下した。正極ペレットとしては、二酸化マンガンを主成分とする合剤を加圧成型して作製したものを用いた。次に、正極缶を反転させて、負極カップ上に被せ、正極缶と負極カップとの周縁部を、ガスケットを介してかしめることにより密封した。
以上により、電池外径φ24mm、総高5.0mmのコイン型リチウム電池を作製した。
【0049】
(生産性の評価)
実施例1〜6、比較例1、2のコイン型リチウム電池の組立速度、および歩留まりを評価した。表1にその結果を示す。なお、組立速度(ライン速度)は、比較例1の組立速度(ライン速度)を基準値「100」とした相対値で示した。また、歩留まり(歩留まり率ともいう。)は、比較例1の歩留まりを「100」とした相対値で示した。ここで、歩留まりは、所定時間に作製したコイン型リチウム電池のうち、所定の電池性能(所定電圧、所定電池寸法、および外観)を満たすものの比率である。
【0050】
(電池特性の評価)
実施例1〜6、比較例1、2のコイン型リチウム電池の放電深度0%と放電深度80%の23℃における電流30mA1秒後の閉路電圧を求めた。その結果を表2に示す。
【0051】
表1に、実施例1〜6、比較例1、2のコイン型リチウム電池の生産性の評価結果を示す。
【表1】

【0052】
表2に、実施例1〜6、比較例1、2のコイン型リチウム電池の電池特性の評価結果を示す。
【表2】

【0053】
表1から以下のことがわかる。
正極リングを正極缶に溶接した比較例2では、正極リングを用いない比較例1に対して組立速度および歩留まりが大きく低下する傾向がある。一方、正極ペレットの位置決めをするための突出部をガスケットに設けた実施例1〜4、6では、比較例1と同等の組立速度および歩留まりを達成できる。すなわち、正極リングを用いるコイン型リチウム電池を生産性の低下を抑制することができる。
【0054】
実施例5では、比較例1に比して歩留まりが低下する傾向にある。これは、実施例5では、ガスケットの内径DBが正極リングの内径DAより大きいため、正極缶に溶接された正極リングが正極ペレットに乗り上げるという不具合が発生したためである。なお、実施例6では、正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)が実施例5と同じであるが、正極リング先端の内径DCとガスケットの内径DBとの比率(DC/DB)が実施例5より大きいため、ペレットにリングが乗り上げるという不具合は発生しなかった。
【0055】
表2から以下のことがわかる。
ガスケットの突出部と正極リングとを用いた実施例1〜6では、正極リングなしの比較例1に比して、放電深度80%閉路電圧が大幅に向上している。
【0056】
また、ガスケットの突出部と正極リングとを用いた実施例1〜6では、正極リングを用いた比較例2に比して、放電深度80%閉路電圧が大きく改善している。このような効果の発現は以下の理由によるものと考えられる。比較例2では、作製工程において正極ペレットと正極リングとを密着させた状態において電解液を滴下しているため、正極ペレットの側面から電解液が吸収されず、また電解液を滴下した正極缶を反転させるために電解液がこぼれてしまうため、放電深度80%閉路電圧が低下する。これに対して、実施例1〜6では、正極ペレットと正極リングとの間にクリアランスを設けるとともに、正極ペレットを反転させるという工程もなくしているので、上述の比較例2のような問題を解消することができ、放電深度80%閉路電圧が比較例2に比して向上する。
【0057】
比率(DA/DB)を1.15とした実施例4では、比率(DA/DB)を1.10以下とした実施例1〜3、5、6に比して放電深度80%閉路電圧が低下する傾向がある。これは、正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)が大きくなりすぎて、すなわち、正極リングと正極ペレットのクリアランスが大きすぎて、径方向へのペレット膨張が増えてしまい、厚さ方向の膨張が少なくなったためである。
【0058】
なお、詳細な評価結果の記載は省略するが、比率(DA/DB)が0.97未満であると、比較例2よりも組立速度が低下してしまう。これは以下の理由による。すなわち、比率(DA/DB)が0.97未満であると、ガスケットの内径DBが大きすぎるため、正極ペレットの動ける範囲が広くなりすぎてしまう。その結果、正極缶を負極カップに被せたときに、正極リングが正極ペレットに乗り上げてしまう。このように正極リングが正極ペレットに乗り上げてしまった場合には、製造ラインを止めなければならなくなり、組立速度が低下することとなる。
【0059】
上記表2の評価結果を考慮すると、正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)は0.97以上1.10以下であることが好ましい。さらに、上記表1の評価結果(歩留まり)を考慮すると、正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)は1.00以上1.10以下であることが好ましい。
【0060】
正極リングの周壁部の先端部を外側に折り曲げた実施例6では、正極リングの周壁部を折り曲げていない実施例5と同等の電池特性が得られる。すなわち、正極リングの周壁部の先端部を外側に折り曲げることで、電池特性の低下を招くことなく、生産性を改善することができる。なお、正極リングの折り曲げは、上述した実施例6の正極リングの形状、すなわち、先端部のみを外側に折り曲げる形状(図7B)に限定されるものではない。例えば、正極リングの周壁部全体を外側に折り曲げる形状(図7A)とした場合にも実施例6と同様の効果を得ることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0062】
例えば、上述の実施形態において挙げた構成、方法、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、形状、材料および数値等を用いてもよい。
【0063】
また、上述の実施形態の各構成は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 正極缶
2 正極ペレット
3 負極カップ
4 負極材
5 セパレータ
6 ガスケット
7 正極リング
11 本体部
12a 突出部
12 延在部
21 接合部
22 周壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極缶と、
負極缶と、
上記正極缶の面のうち、上記負極缶と対向する面に設けられた正極材と、
上記負極缶の面のうち、上記正極缶と対向する面に設けられた負極材と、
上記正極缶と負極缶との周縁部に介在されたガスケットと、
上記正極材の側面を覆う正極リングと
を備え、
上記ガスケットは、上記正極材の位置決めをする複数の突出部、または延在部を有する電池。
【請求項2】
上記ガスケットは、リング状の形状を有し、
上記複数の突出部は、上記ガスケットの内周側に設けられ、上記負極缶の中央部に向けて突出している請求項1記載の電池。
【請求項3】
上記ガスケットは、リング状の形状を有し、
上記延在部は、上記ガスケットの内周から上記負極缶の中央部に向けて一様にリング状に延在されている請求項1記載の電池。
【請求項4】
上記正極リングは、
上記正極材の側面を覆う壁部と、
上記正極缶に接合される接合部と
を備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池。
【請求項5】
上記正極材の側面が、上記壁部から露出する露出領域を有し、
上記複数の突出部または延在部は、上記正極材の露出領域に向けて突出または延在されている請求項4記載の電池。
【請求項6】
上記正極リングの壁部のうち少なくとも先端部が、外側に向かって広げられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池。
【請求項7】
正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)が、0.97以上1.10以下の範囲内である請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池。
【請求項8】
正極リングの内径DAとガスケットの内径DBとの比率(DA/DB)が、1.00以上1.10以下の範囲内である請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池。
【請求項9】
負極缶の周縁部に、複数の突出部、または延在部を有するガスケットを配置する工程と、
上記複数の突出部、または延在部により正極材を位置決めして、上記負極缶上に配置する工程と、
上記正極材が配置された上記負極缶と、リング部材が接合された正極缶とを、上記正極材と上記リング部材とが対向するようにして重ね合わせ、重ね合わせた上記負極缶と正極缶との周縁部をかしめる工程と
を備える電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−38628(P2012−38628A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179050(P2010−179050)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】