説明

非滲出性抗菌ペプチドを含む医療デバイスおよびコーティング

抗菌ペプチドは、細菌の膜を標的にすることにより、抗菌コーティングを開発するための代わりのアプローチを可能にする。高い比活性は、ペプチドの抗菌末端が細菌と最大に接触するように、ペプチドを配向することにより達成される。一実施形態においては、ペプチドの一末端は、基質に共有結合で直接結合する。他の実施形態においては、ペプチドはカップリング剤又は係留分子を用いて基質に固定化される。非共有結合法には、ペプチドを基盤にコーティングするか、ビオチン/アビジン又はストレプトアビジン系のような非常に特異的な相互作用を用いて、基質にペプチドを生理的に固定化することが含まれる。組成物は、実質的に非滲出性、抗汚損性、及び非溶血性である。固定化ペプチドは、暴露により細菌、ウイルス、及び/又は真菌と相互作用し、取り込むために十分な柔軟性及び移動性を維持している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、固定化した生物活性のペプチドコーティング、特に静菌性かつ殺菌性特性を示すペプチドコーティングの分野にある。
【0002】
(関連出願)
この出願は、2006年2月15日に出願されたU.S.S.N.60/774,050、2006年11月17日に出願されたU.S.S.N.11/561,266および2007年1月18日に出願されたU.S.S.N.60/885,578への優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
院内感染は、薬剤耐性菌の拡散のために、ますます費用がかかり処置するのが困難になっている。外科手術の無菌性を向上させるための努力にもかかわらず、感染は普通に残っている。これらの感染は、しばしば医療デバイスと関連している。中心静脈カテーテル等の皮膚浸透器具、並びに導尿カテーテルは、身体に侵入する細菌のための経路を提供し、埋め込まれた器具は、細菌が増殖することのできるのに好都合な表面を形成する。
【0004】
細菌が、いったん医療デバイスにコロニーを形成すると、それらは扱いにくいバイオフィルムを形成する。バイオフィルムは、保護及び接着性マトリクスの排泄物によって特徴づけられる微生物の複雑な集合体である。バイオフィルムは、しばしば、表面接着、構造的不均質、遺伝的多様性、複雑な群間相互作用、及び高分子物質の細胞外マトリクスによっても特徴づけられる。バイオフィルムは、フィルムの内部において免疫システムから細菌を保護する。全身性の抗生物質は、バイオフィルムを浸透させる限られた能力のために、このような感染の治療には効果がない。これらの理由により、器具感染の治療は、しばしば、器具の除去、抗生物質の投与、それに続く新しい器具の挿入を必要とする。この処理は費用がかかり、有痛性であり、細菌が完全に除去されない場合、新しい器具が感染されてしまう場合がある。
【0005】
種々の制御放出型抗菌コーティング及び器具、細菌感染が特に問題となる、特に、中心静脈カテーテル(CVC)及び創傷包帯等の装置が開発されてきた。従来の抗菌コーティングは一般に、デバイス表面又はポリマーコーティングに取り込まれる抗菌剤及び金属イオンからなる。これらの薬剤の持続放出は、細菌のコロニー形成及び増殖の抑制に役立つ局所的な毒性濃度をもたらす。
【0006】
現在、臨床的に有意に用いられる3種類の抗菌性CVCがある。ARROWg+ard(登録商標)Blueカテーテル(Arrow International)は、クロルヘキシジン(Kuyyakanondら、FEMS Micro.Let.,100(1−3),211−215(1992))及びスルファジアジン銀を組み合わせて含有し、これの抗菌活性は、主に電子伝達鎖及びDNA複製の銀による破壊による(Silverら、J.Ind.Micro.Biotech.,33(7),627−634(2006);Foxら、Antimicrob.Agents & Chemotherapy,5(6),582−588(1974))。これらのカテーテルは、臨床研究においてカテーテルのコロニー形成を44%減少することが示されている(Veenstraら、J.Amer.Med.Assoc,281(3),261−267(1999))。しかし、クロルヘキシジンは、患者内で超過敏反応をもたらすことが知られており(Wuら、Biomaterials,27(1l):2450−67(2006))、クロルヘキシジン及びスルファジアジン銀のいずれもが菌耐性をもたらすかもしれない(Brooksら、Inf.Con.Hos.Epidem.,23(11):692−695(2002);Silverら、J.Ind.Micro.Biotech,33(7),627−634(2006))。
【0007】
Cook Critical Care’s Spectrum(登録商標)のカテーテルのラインは、タンパク質合成を阻害する徐放性ミノサイクリン(Speersら、Clin.Microbio.Rev.,5(4):387−399(1992))、及びRNAポリメラーゼを阻害するリファンピシン(Kimら、Sys.Appl.Microbiol,28(5):398−404(2005))を用いる。これらのカテーテルは、臨床研究においてカテーテルのコロニー形成を69%減少することが示されている(Raadら、Ann.Int.Med.,127(4):267(1997))。しかし、ミノサイクリン及びリファンピシンが菌耐性をもたらすことも知られている(Kimら、Sys.Appl.Microbiol.,28(5):398−404(2005);Speersら、Clin.Microbio.Rev.,5(4):387−399(1992))。
【0008】
Edwards Lifesciences’Vantex(登録商標)カテーテルは、銀、炭素、及び白金イオンを放出し、抗菌活性のほとんどは銀イオンに起因する。このカテーテルは、血流におけるアルブミンによる銀イオンのin vivoでの金属イオン封鎖において、ある程度は制限されるカテーテルコロニー形成を約35%減少することが示されている(Ranucciら、Crit.Care Med.,31(1):52−59(2003);Corral.,ら、J.Hos.Infec.,55(3):212−219(2003))。銀イオンに対する菌耐性も報告されている(Silverら、J.Ind.Micro.Biotech.,33(7),627−634(2006))。
【0009】
ConvaTec’s Aquacel(登録商標)のような、大部分が銀イオンの取り込みを基礎とする、多くの抗菌創傷包帯が開発されている。他の抗菌薬は、ヨウ素カデキソマー(Smith & Nephew’s Iodoflex(登録商標)及びIodosorb(登録商標))、CHG(Johnson &Johnson’s Biopatch(登録商標))、及びPHMB(Kendall Healthcare’s Kerlix(登録商標)AMD(登録商標))を含む。
【0010】
これらの薬剤に対する興味深い代替物は、抗菌性ペプチド(AmP)である。AmPは、膜の特性に基づいて哺乳動物細胞及び微生物を区別することができ、高速で非特異的な攻撃メカニズムを用いて微生物を死滅させる。膜の特性を変えるためには進化上の労力は大きく、攻撃は十分に早く細菌は生存し変異する機会がほとんどないので、このメカニズムは特定の酵素を標的とする抗生物質と比較して、薬剤耐性を誘導する可能性は劇的に小さい。天然のAmPは、グラム陽性及び陰性細菌、真菌、ウイルス、及びさらには癌性細胞に対して活性を有している可能性がある(Jenssen,Hamillら、Clin Microbiol Rev.,19(3):491−511(2006))。
【0011】
デバイス表面から放出されるAmPは、器具関連感染を予防する能力を有していることが示されている。Dacron移植片を、単にAmpデルマセプチン(dermaseptin)の溶液に浸し、ラットに移植し、細菌で攻撃することにより、デバイスのコロニー形成及び感染が減少する(Balabanら、Antimicrob.Agents & Chemother.,48:2544−2550(2004))。デルマセプチンの放出は、メチシリン耐性及びバンコマイシン中間体−耐性黄色ブドウ球菌に対して有効であった。Migenix及びCadenceの抗菌性ペプチド薬剤候補CPI−226は、医療デバイス感染に関連する細菌に対する臨床試験における徐放性クリーム製剤において、in vivo有効性を有する。
【0012】
徐放性コーティングは、いくつかの固有の限界に悩まされている。デザインに関しては、徐放性コーティングには寿命の制限がある。CVC及び透析カテーテルを含む多くのカテーテルの用途については、臨床医から保護の延長が望まれている。更に、徐放性抗生物質は、薬剤耐性の発生を促進し得る致死量以下の濃度の隣接する領域をもたらす。薬剤を血流に放出することにより、全身毒性に対する懸念が増加する。最後に、徐放性コーティングを生成するために必要な大量の薬剤のために、器具の構造的及び性能特性が影響されるかもしれない。
【0013】
Keelerらによる特許文献1、及びWilcox らによる特許文献2;及びWilcoxらによる特許文献3は、抗菌性器具を提供するための種々の物質に対するカップリング(coupling)抗菌性ペプチドを開示している。しかし、カップリング法はランダムであり、表面上のペプチドの配向性を制御することはできない。カップリング法は、抗菌性ペプチド中に頻繁に見出される塩基性側鎖内のアミンを含む、ペプチド上のいずれかのアミンによって基質にペプチドを固定する。従って、AmPは多くの異なる部位で係留され得るか、1個の分子は多くの位置で係留され得る。これは、殺菌性であることから表面を防止しないが、ペプチドの配向性及び柔軟性が、ペプチドあたりの抗菌活性を最大にし、潜在的に費用及び毒性を低くするのに適しているように、ペプチドが材料の表面に位置するかのように効果は大きい。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0065072号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0126409号明細書
【特許文献3】欧州特許第0 990 924号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、微生物の結合及び増殖を防止する効果を向上する、そこに結合した抗菌ペプチドを有する材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
特定の配向性を有する、基質上に固定化された1種以上のタイプの抗菌ペプチドを含む組成物、及びその製造及び使用方法が本明細書に開示される。抗菌ペプチドは、細菌の膜を標的とするための抗菌コーティングを開発する他のアプローチを可能にする。細菌細胞の内部でその標的に到達するように放出されなければならない従来の多くの抗生物質とは異なり、ほとんどのAmPは、有効であるために、細菌の外膜又は細胞壁とのみ接触しなければならない。本明細書に開示される方法を用いて固定化されるペプチドは、基質にランダムに結合する同一のペプチドと比べ、高い特異的抗菌活性を有する。
【0016】
ペプチドは、共有結合又は非共有結合法(covalent or non−covalent mathod)を用いて基質に固定化することができる。高い特異的抗菌活性は、AmPの重要部分と細菌の膜との効果的な相互作用を可能にするためにペプチドを配向することによって実現される。一実施形態において、ペプチドの一端は基質と直接共有結合している。他の実施形態において、ペプチドは、カップリング剤又は係留分子(tether)を用いて基質に固定化されている。適切なカップリング剤には、有機小分子、ポリマー、及びそれらの組み合わせが含まれる。他の実施形態においては、ペプチドは、基質に塗布されるポリマー薄膜上に固定化される。更なる他の実施形態においては、ペプチドは、基質に共有結合しているポリマーに固定化される。例えば、ペプチドは、基質に結合するヒドロゲルを形成する、ポリマーブラシ、デンドリマーポリマー、又は架橋ポリマーに固定化することができる。非共有結合法には、ビオチン/アビジン又はストレプトアビジン系等の非常に高い特異的相互作用を用いた、ペプチドの基質へのコーティング、ペプチドの基質への生理化学的固定が含まれる。タンパク質の結合を減少するために設計された化学を用いて、ペプチドは所望の密度及び配向で係留され得る。一実施形態において、係留分子は、タンパク質の結合を減少するための親水性基を含む。他の実施形態において、基質は親水性ポリマーで改変され、次いでAmPを係留することができる。この親水性ポリマーは、基質に共有結合するか、基質の絶縁保護コーティング(conformal coating)からなる。好ましい実施形態において、ペプチドは、少なくとも0.001、0.01、0.1、0.25、0.5、1、1.5、2.5、5、10、25又は50mgペプチド/基質表面積cmの濃度で基質に結合する。
【0017】
ペプチドは、代用血管、矯正デバイス、透析アクセス移植片、及びカテーテル等の医療用移植片;手術道具、手術用衣服;及び包帯を含む、異なる種々のタイプの基質にコーティングすることができる。基質は、金属材料、セラミック、ポリマー、繊維、シリコン等の不活性物質、及びそれらの組み合わせからなる。本明細書に開示される組成物は、実質的に非滲出性、抗汚損性、及び非溶血性である。固定化ペプチドは、ペプチドに暴露する場合、細菌、ウイルス、及び/又は真菌と相互作用するのに十分な柔軟性及び移動性を保持している。基質にペプチドを固定すると、基質表面における作用部位で高いペプチド濃度を示す一方、ペプチドの毒性及び抗菌耐性の発生に関する懸念は低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.定義
本明細書で用いられる場合、「アミノ酸残基」及び「ペプチド残基」は、そのカルボキシル基(C−末端に結合する)のOH、又はそのアミノ基(N−末端に結合する)の1個のプロトンを有しないアミノ酸又はペプチド分子を意味する。一般に、アミノ酸及び保護基を命名するために本明細書で用いられる略語は、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclatureの推奨に基づく(Biochemistry(1972)11:1726−1732)。ペプチド中のアミノ酸残基は、以下のように省略される:アラニンはAla又はAであり;システインはCys又はCであり;アスパラギン酸はAsp又はDであり;グルタミン酸はGlu又はEであり;フェニルアラニンはPhe又はFであり;グリシンはGly又はGであり;ヒスチジンはHis又はHであり;イソロイシンはIle又はIであり;リジンはLys又はKであり;ロイシンはLeu又はLであり;メチオニンはMet又はMであり;アスパラギンはAsn又はNであり;プロリンはPro又はPであり;グルタミンはGln又はQであり;アルギニンはArg又はRであり;セリンはSer又はSであり;スレオニンはThr又はTであり;バリンはVal又はVであり;トリプトファンはTrp又はWであり;チロシンはTyr又はYである。ホルミルメチオニンは、fMet又はFmと省略される。「残基」なる用語は、カルボキシル基のOH部分、及びα−アミノ基の1個のプロトンを除去することによる対応するα−アミノ酸に由来する基を意味する。「アミノ酸側鎖」なる用語は、K.D.Kopple,”Peptides and Amino Acids”,W.A.Benjamin Inc.,New York and Amsterdam,1966,pages 2 and 33に定義されるように、−CH(NH)COOH骨格を排除した、対応するα−アミノ酸の部分を意味し、このような一般的なアミノ酸の側鎖の具体例は、−CHCHSCH(メチオニンの側鎖)、−CH(CH)−CHCH(イソロイシンの側鎖)、−CHCH(CH(ロイシンの側鎖)、又は−H(グリシンの側鎖)である。
【0019】
本明細書で用いられる場合、「非天然アミノ酸」は、天然に検出されない、あらゆるアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸には、あらゆるD−アミノ酸(後述する)、天然に検出されない側鎖を有するアミノ酸、ペプチド模倣物(peptidomimetic)が含まれる。ペプチド模倣物の具体例には、β−ペプチド、γ−ペプチド、及びδ−ペプチド;ビピリジンセグメントを利用する骨格を有する化合物、疎溶媒性相互作用を利用する骨格を有する化合物、側鎖相互作用を利用する骨格を有する化合物、水素結合相互作用を利用する骨格を有する化合物、及び金属配位を利用する骨格を有する化合物のような、らせん又はシートコンフォメーションを採用し得る骨格を有するオリゴマーが含まれる。グリシンを除く、ヒト体内における全てのアミノ酸は、同じ分子の右巻き又は左巻きのいずれかのバージョンであり、これは、いくつかのアミノ酸において、カルボキシル基及びR−基の位置が切り替わることを意味する。天然のアミノ酸の大半は、分子の左巻きバージョン又はL型である。高等生物のタンパク質には、右巻きバージョン(D−型)は検出されないが、ある種の下等生物、例えば、細菌の細胞壁においては検出される。それらは、ストレプトマイシン、アクチノマイシン、バシトラシン、及びテトラサイクリン等のある種の抗生物質においても検出される。それらの抗生物質は、生存及び再生に必要なタンパク質の形成を妨害することによって、細菌を死滅させることができる。
【0020】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「オリゴペプチド」は、一般に、約10個より多く、好ましくは9個より多く150個未満、更に好ましくは100個未満、最も好ましくは9〜51個のアミノ酸を有するペプチド及びタンパク質を意味する。ポリペプチドは、「異種」である「外来性」であり得、すなわち、細菌細胞によって産生されるヒトポリペプチドのような、利用される宿主細胞に対して外来性であることを意味する。また、外来性は、細胞の外部から加えられ、内因性(細胞によって生産される)でない物質を意味する。ペプチドは、天然又は合成であろうと、ペプチド結合によって化学的に連結しているアミノ酸からなる有機化合物を包含する。ペプチド結合は、1個のアミノ酸のカルボキシル(酸素を有する炭素)と第二のアミノ酸のアミノ窒素の間の単一の共有結合を含む。約10個未満の構成アミノ酸を有する小さいペプチドは、通常オリゴペプチドと呼ばれ、10個より多いアミノ酸を有するペプチドはポリペプチドと呼ばれる。10,000ダルトンを超える分子量を有する化合物(50〜100アミノ酸)は通常タンパク質と呼ばれる。
【0021】
本明細書で用いられる場合、「抗菌ペプチド」(AmP)は、細菌、酵母、真菌、マイコプラズマ、ウイルス又はウイルス感染細胞、及び/又は原虫を含む微生物を死滅させる(殺菌)か、増殖を阻害(静菌)するオリゴペプチド、ポリペプチド、又はペプチド模倣物を意味する。例えば、AmPは抗癌活性を有することが報告されている。一般に、抗菌ペプチドは、親水性領域と電荷領域とが空間的に分離されているカチオン性分子である。具体的な抗菌ペプチドには、膜内でα−ヘリカル構造を形成する線状ペプチド、又は膜内のジスルフィド結合により場合により安定化されるβ−シート構造を形成するペプチドが含まれる。代表的な抗菌ペプチドには、カテリシジン、デフェンシン、デルミシジン、特にマガイニン(magainin)2、プロテグリン(protegrin)、プロテグリン−1、メリチン、ll−37、デルマセプチン01、セクロピン、カエリン(caerin)、オビスピリン(ovispirin)、及びアラメチシン(alamethicin)が含まれるが、これらに限定されない。天然の抗菌ペプチドには、植物、ヒト、真菌、微生物及び昆虫を含む脊椎動物及び非脊椎動物由来のペプチドが含まれる。
【0022】
本明細書で用いられる場合、「固定化」又は「固定する」は、基質に結合する抗菌ペプチドを意味する。ペプチドは、実質的に非滲出性であるように、共有結合又は非共有結合で基質に結合し得る。固定化ペプチドは、暴露による細菌、ウイルス、及び/又は真菌と相互作用する十分な柔軟性及び移動性を維持したままである。
【0023】
本明細書で用いられる場合、「抗菌」は、細菌、酵母、真菌、マイコプラズマ、ウイルス又はウイルス感染細胞、癌性細胞及び/又は原虫を含む微生物を死滅させる(殺菌)か、増殖を阻害する(静菌)分子を意味する。特に、本明細書で用いられる場合に、「殺菌性」は、細菌、酵母、真菌、マイコプラズマ、ウイルス又はウイルス感染細胞、及び/又は原虫を含む微生物を死滅する分子を意味する。
【0024】
本明細書で用いられる場合、「固定化抗菌」は、表面と接触する、細菌、酵母、真菌、マイコプラズマ、ウイルス又はウイルス感染細胞、及び/又は原虫を含む微生物を死滅させる(殺菌)か、増殖を阻害する(静菌)抗菌ペプチドが固定化された表面を意味する。
特に、本明細書で用いられる場合、「固定化殺菌活性」は、表面と接触する細菌、酵母、真菌、マイコプラズマ、ウイルス又はウイルス感染細胞、及び/又は原虫を含む、生存能力のある微生物の減少を意味する。細菌の標的に関して、殺菌活性は、固定化抗菌について、ASTM2149アッセイに基づく生存能力のある細菌の減少として定量することができ、以下のように、小量の試料に縮小することができる。Cation Adjusted Mueller Hinton Brothのような培地中での標的とする細菌の一晩の培養物を、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水で、OD600と細胞密度との間の所定のキャリブレーションを用い、約1×10cfu/mLに希釈する。0.5cmの固定化抗菌表面の試料を、0.75mLの細菌懸濁液に加える。試料を液体で覆い、固体表面が液体の間を回転するのが見えるように、液体を十分な混合量で37℃にてインキュベートすべきである。1時間インキュベーションした後、細菌懸濁液の連続希釈液を寒天プレートに播種し、生存能力のある細胞濃度を定量するために一晩増殖させる。好ましくは、細菌数(bacterial count)における少なくとも1の対数減少は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の細菌のコントロールと比較して固体の試料なしで生ずる。更に好ましくは、細菌数における少なくとも2の対数減少が生ずる。更に好ましくは、細菌数における少なくとも3の対数減少が生ずる。最も好ましくは、細菌数における少なくとも4の対数減少が生ずる。
【0025】
本明細書で用いられる場合、「実質的に非滲出性」は、組成物がpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水の存在下、溶液抗菌特性を示すか、放出した材料に由来する宿主内での毒性反応を生成するのに十分な量の抗菌ペプチドを滲出しないことを意味する。放出された材料由来の活性は、前述する固定化抗菌アッセイを実行し、上澄みを除去し、残存する細菌を遠心分離することにより評価することができる。次いで、上清を1×10cfu/mL懸濁物になるように細菌を接種し、37℃で1時間保持し、希釈及び播種により生存能力のある細胞濃度を定量する。好ましくは、生存能力のある細胞における10%、20%、又は50%の減少は、1時間、3時間、1日、3日、7日又は30日の間に発生しない。
より好ましくは、組成物は、1時間、1日、3日、7日、又は30日の間、血液、組織、及び/又はin vivo環境に、溶液抗菌特性を示すか、宿主内での毒性反応を生成するのに十分な量の抗菌ペプチドを放出しない。一実施形態において、組成物は、規定された時間内に、10μg/cmを超えるペプチド、好ましくは1μg/cmを超えるペプチドを放出しない。
【0026】
本明細書で用いられる場合、「接着」は、タンパク質、細胞、又は他の物質の表面への非共有結合的接着を意味する。接着した物質の量は、表面をTween又はSDSのような適切な再懸濁剤を用いて超音波処理及び/又は洗浄し、再懸濁した物質の量を定量することによって定量することができる
本明細書で用いられる場合、「実質的に細胞傷害性」は、組成物の表面と接触する哺乳動物細胞の代謝、増殖又は生存度を変化させる組成物を意味する。これは、抽出物試験、直接接触試験及び間接接触試験を含む、物質の細胞傷害性を評価するための3種の主要な試験を定義する国際標準化機構ISO10993−5により定量することができる。
【0027】
本明細書で用いられる場合、「実質的に非溶血性の表面」は、以下のアッセイを適用した場合に、組成物が、ヒト赤血球の50%、20%、10%、5%、又は最も好ましくは1%を溶解しないことを意味する。洗浄し、プールした10%赤血球(Rockland Immunochemicals Inc,Gilbertsville,PA)を、150mM NaCL及び10mM Tris pH7.0の溶血バッファーで0.25%に希釈する。0.5cmの抗菌試料を0.75mLの、0.25%赤血球懸濁液と、37℃で1時間インキュベートする。固体試料を除去し、細胞を6000gでスピンダウンし、上清を除去し、OD414を分光光度計で測定する。全溶血は、10%の洗浄しプールした赤血球を無菌DI水で0.25%に希釈し、37℃で1時間インキュベートすることにより定義され、0%溶血は、固体試料なしで、0.25%赤血球の溶血バッファー中での懸濁液によって定義される。
【0028】
本明細書で用いられる場合、「実質的に非汚損性(fouling)」は、ポリウレタンのような基準ポリマーに対する付着量と比較し、血液タンパク質、結晶、組織及び/又は細菌を含むタンパク質の基質への付着量を減少することを意味する。好ましくは、デバイス表面は、ヒト血液の存在下で、実質的に非汚損性である。好ましくは、付着量は、基準ポリマーに対し、20%、50%、75%、90%、95%、最も好ましくは99%減少する。
【0029】
本明細書で用いられる場合、「実質的に非毒性」は、実質的に非溶血性及び実質的に非細胞傷害性である表面を意味する。
【0030】
本明細書で用いられる場合、「生体適合性」は、実質的に無毒であり、免疫原性のない表面を意味する。更に広くは、生体適合性は、特定の状態において適切な宿主反応を遂行する材料の能力である(Williams,D.F.Definitions in Biomaterials.In:Proceedings of a consensus Conference of the European Society for Biomaterials.Elsevier:Amsterdam,1987)。
従って、生体適合性は、体内組織が、どのくらい良好に材料と相互作用するか、この相互作用が、特定の移植目的及び部位について意図される予想にどのように適合するかについての全体的な状態を表す(Von Recum,A.F.;Jenkins,ME.;Von Recum,H.A.Introduction:Biomaterials and Biocompatibility.In:Handbook of Biomaterials Evaluation:Scientific,Technical and Clinical Testing of Implant Materials.Von Recum,A.F.,Ed.;Taylor & Francis,1999,pp.1−8)。それ故、生体適合性は、絶対的概念よりもむしろ相対的であり、材料の最終的用途に大いに影響される。
【0031】
本明細書で用いられる場合、「密度」は、基質の表面積あたりに共有結合するペプチドの質量を意味する。
【0032】
本明細書で用いられる場合、「効果的な表面濃度」は、所望の抗菌反応を実現するのに十分な固定化ペプチドの密度を意味する。
【0033】
本明細書で用いられる場合、「配向性」は、暴露によって、細菌、ウイルス及び/又は真菌と相互作用を表わすペプチドの部分が、与えられたペプチドの全ての固定化分子について均一であるように、ペプチドが基質表面に固定化されることを意味する。更に、ペプチドが残基によって均一に連結するようなカップリング化学の選択によって、固定化されたペプチド中のアミノ酸残基が調節される。「均一に」は、ペプチドの70%以上、好ましくは90%以上、好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上が残基によって係留されることを意味する。理想的には、配向したペプチドは、単一のアミノ酸残基によって結合する。しかし、複数の結合残基は、結合の「配向性」に影響を及ぼさずにペプチドの同じ領域内に含まれ得ることは当業者に理解されるだろう。通常、ペプチドのN−末端は、最も高い活性のための標的細胞に対して示されるべきであるが、これはペプチドに依存して変化するかもしれない。
【0034】
本明細書で用いられる場合、「基質」は、ペプチドが固定化される材料を意味する。ペプチドは基質に直接固定化されるか、カップリング剤を用いて基質に結合してもよい。また、基質は、薄膜、膜又はゲルでコーティングされていてもよく、ペプチドは、薄膜、膜又はゲル上に固定化される。
【0035】
本明細書で用いられる場合、「システイン」は、アミノ酸システイン、又はその合成類似体を意味し、その類似体は遊離のスルフヒドリル基を含む。
【0036】
本明細書で用いられる場合、「コーティング」は、一時的、半永久的又は永久的のいずれかの、層、表面処理、被膜又は表面を意味する。コーティングは、下層基質の化学的改変であってもよく、基質表面への新しい材料の追加であってもよい。それには、基質への厚みの追加、又は基質の表面化学組成の変化のいずれもが含まれる。コーティングは、気相、蒸気、液相、ペースト、半固体又は固体であってもよい。更に、コーティングは液体として適用され、そして硬いコーティングへ固化し得る。コーティングの具体例には、艶出し剤、表面洗浄剤、充填材、接着剤、仕上げ、塗料、ワックス、重合可能な組成物(フェノール樹脂、シリコーンポリマー、塩化ゴム、コールタール及びエポキシの組み合わせ、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、エラストマー、アクリレートポリマー、フルオロポリマー、ポリエステル及びポリウレタン、及びラテックスを含む)が含まれる。
【0037】
本明細書で用いられる場合、「係留分子(tether)」又は「係留剤(tethering agent)」は、分子が最終的な化学組成物の一部として残存する材料においてペプチドを共有結合的に固定化するために用いられるあらゆる分子を意味する。
【0038】
本明細書で用いられる場合、「カップリング剤」は、ペプチド、又はそれが結合する材料のいずれかにおける化学的部分を活性化し、ペプチド間で共有結合を形成し、結合の後に最終的な組成物中で材料が残存しない、あらゆる分子又は化学物質を意味する。
【0039】
II.組成物
AmPは、当該技術分野において公知の種々の共有結合及び非共有結合手段を用いて、基質に結合され、又は取り込まれるように適用することができる。
【0040】
適切な共有結合手段には、基質表面へポリマーをグラフト重合又はコーティングし、ペプチドにカップリングするための反応性官能基を形成し、基質表面にペプチドを直接結合することが含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、ペプチドと基質との間のカップリング反応は、ペプチドが医療デバイスの表面で配向するように、抗菌ペプチド中の末端チオール基を必要とする。カップリングは、カップリング剤の使用、及び/又は連結剤の使用による直接反応により実施することができる。適切な非共有結合手段には、ビオチン/アビジン又はストレプトアビジン系のような、非常に特異的な相互作用を用いた、基質へのペプチドの生理化学的固定化が含まれるがこれらに限定されない。
【0041】
A.基質
ペプチドは、種々の異なる基質に塗布、吸収又はカップリングされる。適切な材料の具体例には、金属材料、セラミック、ポリマー、ファイバー、シリコン等の不活性材料、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0042】
適切な金属材料には、金属及びチタンをベースとする合金(ニチノール、ニッケルチタン合金、熱記憶合金材料)、ステンレス鋼、タンタル、ニッケル−クロム、又はELGILOY(登録商標)及びPHYNOX(登録商標)のようなコバルトークロムーニッケル合金を含む特定のコバルト合金が含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
適切なセラミック材料には、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化イリジウム、酸化クロム、酸化アルミニウム、及び酸化ジルコニウム等の遷移元素の酸化物、炭化物又は窒化物が含まれるが、これらに限定されない。シリカのようなケイ素をベースとする材料も用いられる。
【0044】
適切なポリマー材料には、スチレン及び置換スチレン、エチレン、プロピレン、ポリ(ウレタン)、アクリレート及びメタクリレート、アクリルアミド及びメタクリルアミド、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリエーテル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、それらのコポリマー、及びそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
基質は、フィルム、粒子(ナノ粒子、微小粒子、又はミリメートル径ビーズ)、ファイバー(創傷包帯、包帯、ガーゼ、テープ、パッド、織物及び不織布スポンジを含むスポンジ、特に歯科用又は眼科手術用にデザインされたスポンジ)、センサー、ペースメーカーリード、カテーテル、ステント、コンタクトレンズ、骨インプラント(人工股関節、ピン、リベット、プレート、骨セメント等)、又は組織再生又は細胞培養デバイス、又は身体内又は身体と接触して用いられる医療デバイスの形態、又は形態の一部であってもよい。
【0046】
1.有効表面積
基質の化学組成に加え、ペプチド結合に利用できる表面積を最大にするために、基質表面のマイクロ及びナノ構造が重要である。金属及びセラミック基質について、表面積の増加は、粗面処理、例えば、プラズマエッチング等のランダムプロセスによって実現することができる。また、フォトリソグラフィーを用いた、制御されたナノパターニングによって表面を改変することができる。また、ポリマー基質は、金属及びセラミック基質と同様に粗面処理することができる。更に、ペプチド結合のために利用できるポリマー基質上の表面積は、ポリマー自身の形態を調節することによって増加することができる。このアプローチの具体例には、ポリマーブラシ、デンドリマーポリマー、自己組織化ブロックコポリマー、及び形状記憶ポリマーが含まれる。
【0047】
B.ペプチド
基質に固定化された場合に抗菌特性を示すあらゆるペプチドを、本明細書に開示される組成物及び方法において用いることができる。固定化された場合、全てのペプチドが活性を有するわけではないため、固定化後に活性について確認することが必要である。固定化した場合に抗菌活性を示すペプチドを製造する方法及びシステムは、Stephanopoulosらに対する米国特許出願第2006/0035281号に開示されている。例えば、パターンQ.EAG.L.K.K.(配列番号1)(「.」はワイルドカードであり、パターンの位置におけるあらゆるアミノ酸で十分である)は90%超のセクロピン(昆虫で一般的なAmP)に存在する。抗菌活性を示すペプチドのライブラリーを作成するために、TEIRESIAS等の計算ツールを用いることができる。ペプチドは、好ましくは天然のタンパク質と限られた相同性を有するが、S.aureus、及びB.anthracisを含む数種の細菌に対する強い静菌活性を有している。ペプチドは、Fmoc化学のような通常の方法を用いて合成することができる。いったん製造されると、設計されたタンパク質及びペプチドは実験的に評価され、必要であれば、当業者に公知の従来の方法を用いて構造、機能及び安定性について試験される。適切なペプチドは、Wang,Z and G Wang,APD:the Antimicrobial Peptide Database,Nucleic Acids Research,2004,Vol.32,Database issue D590−D592に開示されており、セクロピン−メリチンハイブリッド(KWKLFKKIGAVLKVL−アミド化)(配列番号2)、セクロピンP1、テンポリンA、D28、D51、デルマセプチン、RIP、及びそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。
【0048】
抗菌活性を示すペプチド模倣物を用いてもよい。本明細書で用いる場合、ペプチド模倣物は、ペプチド構造を模倣する分子を意味する。ペプチド模倣物は、両親媒性のような、親構造、ポリペプチドに類似する一般的特徴を有する。このようなペプチド模倣物質の例は、Mooreら、Chem.Rev.101(12),3893−4012(2001)に開示されている。ペプチド模倣物質は、以下のカテゴリー、すなわち、α−ペプチド、β−ペプチド、γ−ペプチド、及びδ−ペプチドに分類することができる。これらのペプチドのコポリマーを用いることもできる。
【0049】
α−ペプチドペプチド模倣物には、N,N’−結合オリゴ尿素、オリゴピロリノン、オキサゾリジン−2−オン、アザチド及びアザペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
β−ペプチドの具体例には、β−ペプチドフォルダマー(foldamer)、α−アミノオキシ酸、イオウ含有β−ペプチドアナログ、及びヒドラジノペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
γ−ペプチドの具体例には、γ−ペプチドフォルダマー、オリゴ尿素、オリゴカルバメート、及びホスホジエステルが含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
δ−ペプチドの具体例には、ピラノースをベースとするカルボペプトイド及びフラノースをベースとするカルボペプトイドのような、アルケンをベースとするδ−アミノ酸及びペプトイドが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
ペプチド模倣物の他のクラスには、らせん又はシートコンフォメーションを採用し得る骨格を有するオリゴマーが含まれる。このような化合物の具体例には、ビピリジンセグメントを利用する骨格を有する化合物、疎溶媒性相互作用を利用する骨格を有する化合物、側鎖相互作用を利用する骨格を有する化合物、水素結合相互作用を利用する骨格を有する化合物、及び金属配位を利用する骨格を有する化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
ビピリジンセグメントを利用する骨格を含む化合物の具体例には、オリゴ(ピリジン−ピリミジン)、ヒドラザルリンカーを有するオリゴ(ピリジン−ピリミジン)及びピリジン−ピリダジンが含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
疎溶媒性相互作用を利用する骨格を含む化合物の具体例には、オリゴグアニジン、1,4,5,8−ナフタレン−テトラカルボキシルジイミド環及び1,5−ジアルコキシナフタレン環のようなエダマー(共有結合サブユニットの芳香族電子供与体−受容体相互作用のスタック(stacking)特性を利用する構造)、及び置換N−ベンジルフェニルピリジニウムシクロファンのようなシクロファンが含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
側鎖相互作用を利用する骨格を含む化合物の具体例には、キラルなp−フェニル−オキサゾリン側鎖を有するオリゴチオフェンのようなオリゴチオフェン、及びオリゴ(m−フェニレンのエチレン)が含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
水素結合相互作用を利用する骨格を含む化合物の具体例には、オリゴ(アシル化2,2’−ビピリジン−3,3’−ジアミン)及びオリゴ(2,5−ビス[2−アミノフェニル]ピラジン)のような芳香族アミド骨格、シアヌレートによって鋳型を形成するジアミノピリジン骨格、イソフタル酸によって鋳型を形成するフェニレン−ピリジン−ピリミジンエチレン骨格が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
金属配位を利用する骨格を含む化合物の具体例には、亜鉛ビリノン、Co(II)、Co(III)、Cu(II)、Ni(II)、Pd(II)、Cr(III)、又はY(III)と錯体形成したオリゴピリジン、金属配位したシアノ基を含むオリゴ(m−フェニレンエチニレン)及びヘキサピリンが含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
一実施形態において、ペプチドは、抗菌ペプチドD28(FLGVVFKLASKVFPAVFGKV)(配列番号3)及び/又はD51(FLFRVASKVFPALIGKFKKK)(配列番号4)である。他の実施形態において、ペプチドは、コーティングからゆっくりと放出されるか、バイオフィルム−阻害活性を有効にする方法で共有結合しているRNA−III阻害ペプチド(RIP)のような集団感知阻害剤である。更に他の実施形態において、ペプチドは、1種以上のAmP及び/又はRIPの組み合わせである。
【0060】
ペプチドは、後述するように、溶液、懸濁液又は固定化されて提供され得る。ペプチドは、in vivoでの半減期を延ばし、細網内皮系(RES)による取り込みを阻害するために、例えば、市販されている試薬及び方法を用いたペグ化により化学的に改変してもよい。また、ペプチドは、1種以上のタンパク質、脂質、又は化合物とカップリングすることもできる。
【0061】
基質とカップリングした場合、抗菌ペプチドは活性であるべきである。好ましくは、ペプチドの配向性及び連結の特性は、ペプチド配列及び密度についての抗菌活性を最大にするために設計される。ペプチドは、ペプチドの活性領域が、細菌、ウイルス及び/又は真菌と相互作用することができるように配向されるべきである。例えば、ペプチドは、暴露によって、ペプチドの活性末端が細菌、ウイルス、及び/又は真菌と相互作用することができるように配向するための特定の位置にシステイン残基が位置するように、設計することができる。
【0062】
組成物は高活性であり、広い抗菌スペクトル活性を示し、実質的に非溶血性である。組成物は、好ましくは抗汚損性であり、すなわち、組成物は、抗菌ペプチドの効果を低下することのできるタンパク質の付着を阻害する。これは、基質にペプチドをカップリングするための抗汚損特性を有するカップリング剤又は連結剤の使用によって達成することができる。また、好ましくは、組成物は、表面が、将来の感染を治療するのに再使用可能であるように、殺傷時に基質から細菌を放出すべきである。
【0063】
C.係留分子、リンカー及びスペーサー
係留分子、リンカー及びスペーサーは、基質へのペプチドの結合、及び/又は基質にコーティングされたポリマーフィルムへのペプチドの結合の両方に利用することができる。係留分子の組成は、基質、又は基質に共有結合した又はコーティングしたポリマーの表面化学に依存して変化し得る。表面と接触する細菌とのペプチドの相互作用を最適化し、表面に対する抗汚損特性を最大にするために、係留分子の長さと組成は変化し得る。また、生物学的活性を有するために表面に存在する場合、組成は、ペプチドが正しい配向性を保持するように選択されなければならない。好ましくは、係留分子は非滲出性表面を形成すべきである。特定の係留分子は、種々のカップリング法について以下に議論される。
【0064】
D.親水性ポリマー
抗汚損表面の製造は、医療デバイス及び移植片等の医用材料の開発における重要な要素である。このようなコーティングは、移植片と生理液との相互作用を制限する。異なるアプローチは、表面に共有結合した親水性係留分子、親水性ポリマー又はヒドロゲルの使用を含む、非汚損特性を有する表面を形成するために適用し得る。
【0065】
1.親水性の係留分子
一実施形態において、係留分子は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)等の親水性ポリマーを含む。図1は、PEGを通して基質表面に固定化されたペプチドを示す。ポリマー中の繰り返し単位の数は4〜100、最も好ましくは4〜16で変化し得る。PEGは、非汚損性表面を生成することを証明する(Michelら、Langmuir 2005,21,12327−12332)。最適化された係留分子の長さ及び組成は、基質組成及び係留した特定のペプチドの両方の関数である。多腕のPEGは、抗菌ペプチド固定化のための官能基の数を増加するために用いることができる。
他の実施形態において、係留分子は、デキストラン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、デンプン、セルロース、イヌリン、アルギン酸塩、アガロース、キサンタンのような多糖類である。好ましい実施形態において、多糖類はデキストランである。デキストランの表面コーティングは、タンパク質及び細胞の接着を制限することができる。デキストラン単層が銀表面に対するBSAの吸着を減少するのに非常に効果的であり、この効果がデキストランによる表面の被覆に依存し、単層の厚みには依存しないことが証明されている(Frazierら、Biomaterials 2000,21,957−966)。更に、Oesterbergら(J.Biomed.Mat.Res.1995,29,741−747)は、アミノ化ポリスチレン表面に結合したデキストランがフィブリノーゲンの接着を減少し、PEGよりも効果的であることを示した。タンパク質吸着が高分子層の厚みに非感受性のようである。デキストランは、抗菌ペプチドの固定化のために多くのヒドロキシル基を利用できるため、係留分子としてPEGよりも好ましい。
【0066】
2.別個の固定化親水性ポリマー
非汚損表面を生成するため、ペプチドに係留されていない親水性ポリマーを基質に固定化することができる。図2は、基質表面に共有結合したPEGを示す。この場合においては、親水性ポリマーは係留されないが、非汚損剤として作用する。先のセクションに記載された親水性ポリマーはこの目的のために用いることができる。
【0067】
3.ヒドロゲル
ヒドロゲルは、基質上において非汚損コーティングとして用いることができ、又は基質自身として用いることができる。図3は、基質にコーティングされたヒドロゲルに固定化されたAmPを示す。好ましい実施形態において、抗菌ペプチドは、ヒドロゲルの表面に固定化することができる。ヒドロゲルは三次元であり、親水性であり、大量の水又は体液を吸収することができるポリマー性ネットワークである(Peppasら、Eur.J.Pharm.Biopharm.2000,50,27−46)。これらのネットワークはホモポリマー又はコポリマーからなり、絡み合い又は結晶のような化学的架橋又は物理的架橋の存在のために不溶性である。ヒドロゲルは、側基の性質に基づき、中性又はイオン性として分類することができる。更に、それらは、非晶質、半結晶性、水素結合構造、超分子構造及びハイドロコロイド凝集体であり得る(Peppas,N.A.Hydrogels.In:Biomaterials science:an introduction to materials in medicine;Ratner,B.D.,Hoffman,A.S.,Schoen,F.J.,Lemons,J.E.,Eds;Academic Press,1996,pp.60−64;Peppasら、Eur.J.Pharm.Biopharm.2000,50,27−46)。ヒドロゲルは、合成又は天然のモノマー又はポリマーから製造することができる。
【0068】
医療デバイスは、噴霧、浸漬及びはけ塗り等の種々の技術を用いてヒドロゲルでコーティングすることができる。少量のゲル溶液(例えば、マイクロリットルの範囲)が、1cmの表面積を処理するために用いられる。単位面積あたりのゲル溶液の量、及び対応するコーティング溶液の濃度及び塗布速度は、あらゆる特定の用途について容易に決定することができる。
【0069】
ヒドロゲルは、特に、ポリ(アクリル酸)及びその誘導体[例えば、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート(pHEMA)]、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)及びそのコポリマー及びポリ(ビニルアルコール)(PVA)等の合成ポリマーから製造することができる(Bell,CL.; Peppas,N.A.Adv.Polym.Sci,1995,122,125−175.;Peppasら、Eur.J.Pharm.Biopharm.2000,50,27−46;Lee,K.Y.;Mooney,D.J.Chem.Rev.2001,101,1869−1879.)。合成ポリマーから製造されたヒドロゲルは、生理的条件下で一般的に非分解性である。ヒドロゲルは、多糖類、タンパク質及びペプチドを含むが、これらに限定されない天然のポリマーからも製造することができる。これらのネットワークは、一般的に、化学又は酵素的手段によって生理的条件下で分解される。
【0070】
一実施形態において、ヒドロゲルでは、関連するin vitro及びin vivo条件下で非分解性である。安定なヒドロゲルコーティングは、中心静脈カテーテルコーティング、心臓弁、ペースメーカー及びステントコーティングを含む特定の用途において必要である。他の場合において、ヒドロゲルの分解は、組織工学構築物等において好ましいアプローチである。
好ましい実施形態において、ゲルはデキストランによって生成される。デキストランは、基本的に、数%のα−1,2、α−1,3、又はα−1,4−結合の側鎖を有するα−1,6−結合D−グルコピラノース残基からなる細菌の多糖類である。デキストランは、その生体適合性、低毒性、比較的低い費用、及び単純な改変のために生物医学的応用において広く用いられている。この多糖類は、血漿増量剤、末梢血流促進剤及び抗血栓溶解剤として50年よりも長く臨床的に用いられてきた(Mehvar,R.J.Control.Release 2000,69,1−25)。更に、それは、主として血液循環における治療薬の寿命を延ばすために、薬剤及びタンパク質の送達のための高分子キャリアーとして用いられてきた。デキストランは、ゲルを製造するために、化学的又は酵素的手段を用いることによりビニル基で改変することができる(Ferreiraら、Biomaterials 2002,23,3957−3967)。
【0071】
デキストランをベースとするヒドロゲルは、非汚損材料として考えることができる。
デキストランをベースとするヒドロゲルは、血管内皮、平滑筋細胞、及び線維芽細胞の付着を防止し(Massia,S.P.;Stark,J.J.Biomed.Mater.Res.2001,56,390−399.Ferreiraら、2004,J.Biomed.Mater.Res.68A,584−596)、デキストラン表面はタンパク質の吸着を防止する(Oesterbergら、J.Biomed.Mat.Res.1995,29,741−747)。
【0072】
E.ポリマー微細構造
前述のように、AmPの最大の可能な表面負荷は、基質表面上における微細構造の形成によって増加することができる。ヒドロゲルネットワークを含むポリマー基質について、この表面形態は、デンドリマー及びブラシコポリマーのような適切なポリマー構造デザインを通じて形成することができる。これの1つの具体例は、デンドリマーポリマーを係留した表面の成長である。アクリル酸メチル及びエチレンジアミンの反応を交互に実施することにより、表面に存在するアミンからポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーを成長させることができる(Nguyenら、Langmuir,2006,22,7825−7832)。効率的に加えられたデンドリマーのそれぞれの生成は、ペプチド付着に利用できる部位の数を2倍にする。更に、アミド化工程の後、合成が終了した時に、得られた材料は、ポリ(エチレングリコール)と同様、抗汚損ヒドロゲルとして振る舞うことのできるアミンが存在するポリマーである(Champmanら、Langmuir,2001,17,1225−1233)。
【0073】
AmP表面負荷を増加するためにポリマー微細構造を調整することの他の具体例は、基質表面からのポリマーブラシの成長である。これらは基質の一端に係留し、基質から周囲の媒体に広がらないポリマー鎖である。このアプローチはペプチド付着のための多くの追加の部位を形成し、その数はブラシポリマーの分子量に依存する。1つのこのような系は、ポリ(アクリル酸メチル)(PMA)のブラシ成長である。均一に中程度の分子量のPMAの重合の後、材料を官能化することができ、直接的表面結合を通じて可能なAmPの表面提示よりも50〜100倍のAmPの表面提示を導く。アミド化ブラシの基質表面への共有結合の概略図を図4に示す。
【0074】
F.他の活性剤
抗菌ペプチドに加え、タンパク質、又は低分子量の有機又は無機分子であってもよい1種以上の治療薬、予防薬又は診断薬を基質にカップリングしてもよい。一実施形態において、基質には、固定化生物活性ペプチドと関係なく放出される生理活性剤が含まれる。
【0075】
例えば、基質上に、封入、瘢痕、及び/又は細胞増殖を阻害する薬剤を、抗菌ペプチドと一緒に固定化してもよい。生物活性分子の他の具体例には、細胞増殖抑制剤、細胞分裂停止又は細胞傷害性化学療法剤、抗菌剤、抗炎症剤、成長因子、及び細胞接着ペプチドが含まれる。
【0076】
他の実施形態において、薬剤が基質からゆっくりと放出されるように、例えば、医療デバイスの移植又は挿入部位に、加水分解性の結合を用いて1種以上の薬剤が基質に係留される。
【0077】
また、1種以上の薬剤は表面に非共有結合する。例えば、1種以上の薬剤は、ヒドロゲル材料中に取り込まれ、拡散、及び/又はヒドロゲル材料の分解によって放出される。
【0078】
II.抗菌ペプチドの固定化方法
標的細胞内へ拡散しなければならない従来の抗生物質と異なり、AmPは、基質に共有結合又は非共有結合で係留した時に抗菌活性を保持し得る。固定化した時、細菌と相互作用することができるAmPの一部は、表面の抗菌活性に影響を及ぼし得る。これは、ペプチドの配向性が、ペプチドの比活性を高めるために重要である主な理由である。
【0079】
後述する多数の方法が、種々の表面上のAmP係留のために必要な官能部分を生成するために用いられ得る。結合する基の密度は、結合するペプチドの密度に影響を及ぼす。分岐、分岐の長さ、分岐の化学的性質を変化し得る係留分子は、殺菌性を有する様式でAmPが存在する場合に、タンパク質の付着を減少するか、AmPの負荷を増加させるために用いることができる。
【0080】
結合密度に加え、ペプチドの配向性は、固定化AmPの生物活性において重要な因子である。配向したペプチドの結合は、多くの合成アプローチによって実現することができる。1つのアプローチは、ペプチド中に存在しない化学的部分を含むアミノ酸残基をペプチド中に取り込むことである。チオール基を含むシステインは一例である。他のシステイン残基がペプチド中に存在しない場合、この残基、及びその機能的部分の付加は、ペプチド配列中で化学的にユニークな部位を形成すると思われる。次いで、表面におけるペプチドの配向した固定化についての適切なカップリング化学により、この部位を利用することができる。約7〜約8.5のpHで、遊離のチオール基を脱プロトン化し、高いpHで脱プロトン化されるアミノ酸のアミン基と比べて強い求核試薬を形成する。従って、反応条件pHを調節することにより、システイン残基のチオール基を、基質又は係留分子に選択的にカップリングすることができる。
【0081】
この追加の残基は、最も好ましくは、ペプチドのC−末端又はN−末端のいずれかに含まれ、ペプチド配列のいずれかの部位にユニークな残基が存在する場合、配向した結合を達成することもできるであろうことに注目すべきである。結合の所望の部位において一緒に配置される同じ残基の複数のコピーは、このような単一の残基として、同一の「配向した結合」に影響を及ぼすことは当業者にも明らかである。AmPの配向する結合についての一つのアプローチには、ペプチドの表面への係留における選択的使用のための、ペプチドのN又はC−末端のいずれかの、ペプチド中に天然には存在しない反応部位を用いた官能化(例えば、エポキシド環)、及び/又は所望の結合の部位における保護を除く、所定の部分の全てのコピーの保護(Fmoc化学のような適切な保護基を用いた)、それに続く、結合のための未保護基の反応、及び脱保護が含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
A.基質へのペプチドのカップリングのための共有結合手順
1.基質表面へのペプチドの直接結合
カップリング剤又は係留分子を用いない、ペプチドの基質へのカップリング
一実施形態において、AmPは、基質表面に直接カップリングされる。基質にAmPをカップリングするために用いられる化学は、基質表面の化学組成に依存する。基質表面は当該技術分野で公知の種々の方法によって処理され、所望の官能基を導入することができる。表面改変は、プラズマ、コロナ放電、火炎処理、UV/オゾン、UV及オゾンのみが含まれるが、これらに限定されない気相技術、アミノ分解、加水分解、還元、塩化トシル及びそれに続く化学作用を用いたアルコール鎖末端の活性化、化学的イニシエーションによるビニル化合物のグラフト共重合、及びビニルモノマーの存在下におけるイオンビーム処理が含まれるが、これらに限定されない湿式化学により実現することができる。例えば、基質表面は、プラズマ、マイクロ波及び/又はコロナ源で処理され、ペプチドにおける官能基と反応することができる、ヒドロキシ、アミン、及び/又はカルボン酸基を基質表面に導入することができる。
【0083】
抗菌ペプチドは、配向させる方法において、それらのチオール基を直接に基質に固定化することができる。これは、種々の方法によって実現することができる。最初に、抗菌ペプチド中のチオール基は、共役付加反応(マイケル型付加反応とも呼ばれる)によって、医療デバイスの表面に存在する、マレイミド(Schelteら、Biocon.Chem.,11,118−123(2000))、ビニルスルホン(Masriら、J.Protein Chem.,1988,7,49−54;Morpurgoら、Biocon.Chem.,7,363−368(1996))、アクリルアミド(Romanowskaら、Meth.Enzym.,242,90−101(1994))及びアクリレート(Lutolfら、Biocon.Chem.,12,1051−1056(2001))のような、基質上の不飽和基と直接反応することができる。この反応は、生理的温度及び生理的pH(pH7.4)で実施することができ、生物学的アミンに対して選択的であると思われる(Elbertら、J.Controlled Release 2001,76,11−25;Lutolfら、Biomacromolecules,4,713−722(2003))。第二に、抗菌ペプチド中のチオール基は、基質表面のエポキシド官能基と反応することができる。チオール基はエポキシドと高い反応性を示す求核試薬であり、効率的なカップリングのためには7.5〜8.5の範囲のpHのバッファー系を必要とする。
【0084】
他の実施形態において、抗菌ペプチドは、ペプチド中に存在するあらゆる官能基(例えば、アミン、カルボニル、カルボキシル、アルデヒド、アルコール)によってデバイス表面に共有結合し得る。例えば、抗菌ペプチドにおける、1個以上のアミン又はアルコール又はチオール基は、イソチオシアネート、アシルアジ化物、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、アルデヒド、エポキシド、無水物、ラクトン、又はデバイス表面に導入された他の官能基と直接反応し得る。ペプチドのアミン基と器具のアルデヒド基との間に形成されたシッフ塩基は、シアノ水素化ホウ素ナトリウム等の試薬により還元され、加水分解に安定なアミノ結合を形成することができる(Ferreiraら、J.Molecular Catalysis B:Enzymatic 2003,21,189−199)。また、抗菌ペプチドの遊離のアミノ又はヒドロキシル基は、エポキシド官能基を含む表面と結合する。エポキシド官能基とヒドロキシルとの反応は、高いpH条件、通常は11〜12のpH範囲が必要である。アミン求核試薬は、更に中程度のアルカリ性pH値で反応し、通常は少なくともpH9のバッファー環境を必要とする。
【0085】
カップリング剤によるペプチドの基質へのカップリング
抗菌ペプチドは、基質表面の基を活性化する試薬又は反応の使用により基質に直接カップリングすることができ、抗菌ペプチドは、カップリング剤の導入なしでペプチド又は基質の官能基をそれぞれ反応性にする。一般に、抗菌ペプチドの固定化は配向性でない。例えば、カルボジイミドは、カルボキシレートとアミンとの間のアミド結合、及びホスフェートとアミンとの間のホスホラミデート結合の形成を媒介する。カルボジイミドの具体例は、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノ−プロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノ−エチル)カルボジイミド(CMC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、及びN,N’−カルボジイミダゾール(CDI)である。N−エチル−3−フェニルイソキサゾリウム−3’−スルホネート(ウッドワード試薬)は、カルボキシレートとアミンとの縮合によるアミド結合の形成を媒介する。また、CDIはアミノ基をヒドロキシル基にカップリングさせるために用いることができる。
【0086】
一実施形態において、末端カルボキシル基を含む器具の表面は、pH5.0のバッファー中で15〜30分間、EDCにより活性化され、次いで、活性化された表面は、PBS、pH7.4中、室温で2〜3時間、ペプチドと反応する。
【0087】
係留分子を用いたペプチドの基質へのカップリング
ペプチドの基質へのカップリングは、係留分子を用いて実施することもできる。係留分子は、表面アミン及びペプチド−スルフヒドリル基と反応する末端官能基を有する。この場合、抗菌ペプチドは、配向する方法で、表面に固定化される。これらの係留分子は、可変する数の原子を含んでいてもよい。係留分子の具体例には、N−スクシニミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP、3−及び7−原子スペーサー)、長鎖−SPDP(12−原子スペーサー)、(スクシニミジルオキシカルボニル−α−メチル−2−(2−ピリジルジチオ)トルエン)(SMPT、8−原子スペーサー)、スクシニミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート)(SMCC、11−原子スペーサー)及びスルホスクシニミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、(スルホ−SMCC、11−原子スペーサー)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS、9−原子スペーサー)N−(γ−マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル(GMBS、8−原子スペーサー)、N−(γ−マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドエステル(スルホ−GMBS、8−原子スペーサー)、スクシニミジル6−((ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノエート(SIAX、9−原子スペーサー)、スクシニミジル6−(6−(((4−ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ヘキサノエート(SIAXX、16−原子スペーサー)、及びp−ニトロフェニルヨードアセテート(NPIA、2−原子スペーサー)が含まれるが、これらに限定されない。当業者は、異なる原子数の他のカップリング剤も用いられることを理解するだろう。好ましい実施形態において、スルホ−GMBSのスクシンイミド基は基質表面のアミン基と反応する。次の工程において、スルホ−GMBSの末端マレイミド基は、ペプチドのスルフヒドリル基と反応する。スルホ−GMBSの構造を図5に示す。
【0088】
更に、スペーサー分子は係留分子に取り込まれ、末端における反応性官能基間の距離を広げ得る。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)をスルホ−GMBSに取り込むことができる。PEG等の親水性分子は、共有結合した時に表面の生物汚損(biofouling)を減少させることが証明されている。
【0089】
特定の実施形態において、抗菌ペプチドの遊離のアミン基は、反応性ヒドロキシル基を含む表面に、配向性のない様式で結合する。具体例として、N,N’−カルボニルジイミダゾール(CDI)は、イミダゾールカルバメートを同時に形成して表面のヒドロキシル基を活性化することができる。この反応は加水分解によるCDIの急速な分解のため、1%未満の水の非水性環境(例えば、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF))において実施しなければならない。最終的に、活性化された表面は、7〜10のpHのバッファー中で可溶化されるアミン含有ペプチドと反応することができる(Ferreiraら、J.Molecular Catalysis B:Enzymatic 2003,21,189−199)。
【0090】
他の実施形態において、抗菌ペプチドの遊離のアミン基は、反応性アミン基を含む表面と結合する。また、この化学を用いて、ペプチドの配向性における調節はされていない。ジチオビス(スクシニミジルプロピオネート)(DSP、8−原子スペーサー)、ジスクシニミジルスベレート(DSS、8−原子スペーサー)、グルタルアルデヒド(4−原子スペーサー)、ビス[2−(スクシニミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES、9−原子スペーサー)、及び当業者によって認識される他の物質等の係留分子を、この目的のために用いることができる。
【0091】
他の実施形態において、係留分子は、基質及びペプチドにおける官能基と反応するそれぞれの末端において、同一の官能基を含んでいてもよい。ホモ二官能性の係留分子は、最初に水溶液(例えばpH7.4のPBS)中でチオール表面と反応し、次いで、第二段階でペプチドは係留分子とカップリングする。ホモ二官能性スルフヒドリル−反応性係留分子の例には、1,4−ジ−[3’,2’−ピリジルジチオ)プロピオン−アミド]ブタン(DPDPB、16−原子スペーサー)、及びビスマレイミドヘキサン(BMH、14−原子スペーサー)が含まれるが、これらに限定されない。この特定の化学は、ペプチドの配向性の調節を可能にする。
【0092】
活性のために用いることのできる係留分子の濃度の選択は、所定の用途のために選択された容量、因子及び基質の関数として変化し、当業者によって理解されるだろう。
【0093】
ペプチドの固定化に続き、表面を水又はリン酸緩衝生理食塩水又は他のバッファーで洗浄し、未反応の抗菌ペプチド及び溶媒を除去し得る。バッファーは、共有結合で固定化されていない抗菌ペプチドの除去を促進するため、少量の界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、Tween(登録商標)、Triton(登録商標))を含んでいてもよい。ペプチドの除去は、HPLCまたはペプチド及びタンパク質の定量に用いられる市販のキット(例えば、SigmaのBCAキット)によって監視することができる。
【0094】
2.基質へのポリマーのグラフト化
他の実施形態において、ポリマーは基質にグラフト化され、AmPがポリマーに共有結合によりカップリングされる。ポリマーは、Ampを基質にカップリングするために用いられる所望の官能基をベースにして選択される。ポリマーにおける適切な官能基の具体例には、アミン、カルボン酸、エポキシド、及びアルデヒドが含まれるが、これらに限定されない。他の実施形態において、所望の官能基を含む反応性モノマーは、化学蒸着法法(CVD)のような技術を用いて基質に重合することができる。
【0095】
溶液中、又は基質表面からのポリマーの成長
ポリマーは、当該技術分野において公知の種々の技術を用いて基質にグラフト化することができる。例えば、ポリマーは溶液中で成長し、次いで、基質表面にカップリングすることができる。また、ポリマーは基質表面から成長することができる。ポリマーは、フリーラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、及び酵素的重合が含まれるが、これらに限定されない種々の重合技術を用いて、溶液中で、又は基質から成長することができる。基質から成長するポリマーは、デンドリマー合成を用いて製造することができる。フリーラジカル重合の具体例には、自発的なUV重合;1型又は2型UV開始重合;AIBN等の熱開始剤を用いる熱開始重合;又はレドックス対(redox−pair)開始重合が含まれる。基質表面から成長するポリマーの場合には、表面は、通常、重合に用いられるのと同一の部分(例えば、フリーラジカル重合についてのビニル基)で官能化される。
【0096】
適切なポリマーには、ポリ(ラクトン)、ポリ(無水物)、ポリ(ウレタン)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(エーテル)、ポリ(エステル)、ポリ(ホスファジン)、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(アミノ酸)、合成ポリ(アミノ酸)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ多糖類、セルロースポリマー、ゼイン、改変ゼイン、カゼイン、ゼラチン、グルテン、血清アルブミン、コラーゲン、アクチン、フェトプロテイン、グロブリン、マクログロブリン、コヘシン、ラミニン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、オステオカルシン、オステオポンチン、オステオプロテゲリンのようなタンパク質、及びそれらの混合物及びコポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
一実施形態において、Cにおいて単一の結合点を有する、システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)、KWKLFKKIGAVLKVLC−アミド(配列番号5)が、基質にカップリングしたアミド化ポリマーブラシ上に固定化された。ポリマーブラシは、ビニル基を提示する基質の存在下、ブラシモノマー、アミノエチルメタクリレートを重合することによって製造された。ペプチドは、スルホ−GMBS化学を用いて固定化された。
【0098】
また、ポリマーブラシは、カテーテルを製造するために通常に用いられるシリコーン又はポリウレタン等の材料に結合することができる。前述したように、ポリマーブラシの成長は、通常、基質上のビニル部分を必要とする。シリコーン基質表面にビニル基を導入するために、シリコーンを、純粋な酸素プラズマで処理し、次いでエタノールに浸漬し、事実上純粋なヒドロキシルである表面を形成することができる。ヒドロキシル化に次いで、表面を、気化した、トリクロロビニルシラン又はトリメトキシ−ビニルシランのようなビニルシランに暴露することができる。次いで、ビニル化された基質をブラシポリマーと結合するために用いることができる。CO、O、及びアンモニアを用いたプラズマ処理を用いた類似の方法で、ポリウレタン基質を処理することができる。得られたヒドロキシル及び/又はアミン基をアクリル化し、基質上にビニル部分を形成し、次いで、ポリマーブラシを係留することができる。通常、ポリマーブラシは、直接表面官能化により可能なものよりも、10〜100倍高い表面濃度で、アミン等の反応性官能基を有する。ポリマーブラシの向上した柔軟性も、生物汚損を減少するのに役立つ。
【0099】
化学蒸着法
モノマーは、化学蒸着法等の技術を用いて基質上に重合化することができる。化学蒸着法(CVD)は、気相から薄膜を、基質上に直接蒸着する方法である。100nm未満の厚みを有するフィルムは、あらゆるサイズ、形状、組成及び複雑さの基質に適用することができる。プラズマ/マイクロ波CVD、熱フィラメントCVD、開始CVD、光開始CVDを用いてポリマーを蒸着することができる。一実施形態において、重合可能なモノマー及び遊離のラジカル開始剤を、熱フィラメントを含むCVD反応チャンバーに同時に供給し、調節された化学のポリマー薄膜を形成する。チャンバー内で、ラジカル開始剤は、抵抗加熱フィラメントによって活性化される。得られたラジカルは、基質表面に吸収されるモノマー分子と反応してポリマー薄膜を形成する。CVDは、高い高次構造を有する、全ての形状、及びほとんど全ての組成の基質をコーティングするために用いることができる。開始剤を活性化するのに必要なフィラメント温度は、モノマー種の損傷を回避し、得られるフィルム中の反応性官能基の保持を可能にするのに十分なほど温和である。更に、基質温度は、フィルム特性、並びに広い範囲の基質への蒸着の更なる調整を独立して調節することができる。ティシュペーパーのようなデリケートな基質をコーティングするのに非常に穏和な基質条件(例えば、基質を室温に維持して)でCVDコーティングを蒸着することができる。重合可能なモノマーは、ポリマーをペプチドにカップリングするのに用いられる所望の官能基に基づいて選択される。
【0100】
コーティングされた基質は、シリコンウェハ等の基質をCVD反応器中に配置することにより製造される。GMA等の官能化されたモノマー、及びtert−アミルパーオキシド等の遊離のラジカル開始剤を反応器中に導入する。官能化されたモノマー及び開始剤の流速、並びにフィラメントの温度及び基質の温度は、薄膜の所望の厚みを実現するために独立して調節することができる。モノマーの流れは、一般に1〜50sccmであり、初期の流れは、モノマーに対して1:1〜1:20である。均一な蒸着を確実にするために、蒸着チャンバーを出る前に10%以下のモノマーが反応するように、反応器に対する全ての流れを調節すべきである。開始剤は、180〜650℃の温度でフィラメントによって分解される。5〜200Wの電力で、プラズマ又はパルス状プラズマによって開始することができる。1〜200nm/分のフィルム蒸着が証明されるが、通常、速度は5〜50nm/分である。これら、及び他のモノマーのCVD蒸着のために用いることのできる開始種の他の具体例には、tert−ブチルペルオキシド、アゾ−t−ブタン、及び、真空反応器中で>0.1sccmの流速を確立することのできるような蒸気圧を有する他のアゾ又はペルオキシド化合物が含まれるが、これらに限定されない。蒸着後、蒸着フィルムの化学組成は、IR分光法を用いて証明することができる。係留されるAmPの最終的な密度は、モノマー上の官能基の表面密度を変化させることによって調節することができる。例えば、エポキシ官能基を含まないスチレンはGMAで漸増され、結合部位で所望の密度を有するフィルムを製造することができる。
【0101】
適切な官能化モノマーには、反応性エポキシド基、アミノエチルメタクリレート、及びエチレンイミンを含むグリシジルメタクリレート(「GMA」)が含まれるが、これに限定されない。
【0102】
ペプチドの結合
感受性のある基質を損傷しない条件下における、CVDコーティングした表面へのペプチドの係留方法は、Murthyら、Langmuir,20,4774−4776(2004)に開示されている。
【0103】
ポリマーフィルムの蒸着に続き、ペプチドの結合のために、ポリマー上の官能基を活性化する。例えば、密封したガラス瓶中、エタノール中、60℃で5時間、pGMA上のエポキシド基をヘキサメチレンジアミンと反応させ、遊離のアミンを生成することができる。遊離のアミンをAMP上のカルボン酸基と反応させ、AMPを基質に固定することができる。一実施形態において、AMPのカルボン酸基を基質の遊離のアミンと結合させるために、市販のグルタルアルデヒドキット(Polyscience)が用いられる。係留したAMPの柔軟性は、共有結合した係留分子の長さを変えることによって最適化することができる。グルタルアルデヒド係留分子の場合においては、鎖は12炭素原子長である(遊離のアミン及びカルボキシル基を含む)。更なる柔軟性は、例えば、機能的配列及びグルタミン酸係留基の間のペプチドの係留末端へのグリシン残基の付加により、供給することができる。所望の柔軟性を達成するために、0、4、8及び12アミノ酸長のグリシンバッファーを加えることができる。ペプチドの表面密度は、安定な蛍光色素でペプチドを標識し、蛍光顕微鏡を用いて表面を評価することによりマッピングすることができる。
【0104】
ペプチドは、基質表面にペプチドを直接カップリングするための前述した、同一の化学を用いて、溶液中で成長したポリマーにカップリングするか、基質にカップリングし、又は基質表面から成長させることができる。
【0105】
B.ペプチドを基質にカップリングするための生理化学的方法
抗菌ペプチドは、基質又はデバイスに物理的に結合することができる。ペプチドを基質に固定化するための適切な生理化学的方法には、ビオチン/アビジン又はストレプトアビジン系のような非常に特異的な相互作用が含まれる。
【0106】
1.ビオチン/アビジン又はストレプトアビジン
ビオチン、及びその誘導体には、NHS−ビオチン、sulf−NHS−ビオチン、1−ビオチンアミド−4−[4’−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキサミド]ブタン(ビオチン−BMCC)、N−ヨードアセチル−N−ビオチニルヘキシレンジアミン、シス−テトラヒドロ−2−オキソチエノ[3,4−d]−イミダゾリン−4−吉草酸ヒドラジドが含まれるがこれらに限定されず、ペプチド中に存在するアミン(Hofmannら、PNAS1977,74,2697−2700;Gretchら、AnalBiochem.1987,163,270−277)、スルフヒドリル(Sutohら、J.Mol Biol.1984,178,323−339)、カルボニル又はカルボキシル基(O’Shannessyら、Immunol.Lett.1984,8,273−277;Rosenbergら、J.Neurochemistry 1986,46,641−648)を通して抗菌ペプチドに共有結合的に取り込まれ得る。抗菌ペプチドのビオチン化は、デバイス表面で固定化された場合にその配向性を支持する。タンパク質アビジン及びストレプトアビジンとのビオチンの相互作用は、公知の非共有結合親和性の中で最も強い(K=1015−1)。
【0107】
2.ポリヒスチジン−ニッケルキレートカップリング
安定した複合体は、三座のNi2+又はNi2+ニトリロ三酢酸が含まれるが、これらに限定されないキレート化ニッケルカチオンとのポリヒスチジンタグの反応によって形成することができる。一実施形態において、マトリクスは、三座のNi2+又はニトリロ三酢酸誘導体化生体分子との複合体を形成することができるポリヒスチジンタグリガンドと誘導体化することができる。
【0108】
3.サリチルヒドロキサム酸
サリチルヒドロキサム酸部分と結合し、それに続くペンダントフェニルボロン酸基を有する1種以上のペプチドとの結合/錯体形成するための基質の改変のために適した試薬は、以下に示す一般式:
【0109】
【化1】

(式中、Rはサリチルヒドロキサム酸分子とマトリクス材料との反応に適した、反応性の求電子性又は求核性部分であるか、又はレドックス法、例えば、ジスルフィド結合の形成において反応することのできる部分である)を有する。RはH、アルキル、又はメチレン、又は電気陰性置換基を有するエチレン部分である。R及びRは、それぞれ独立してH又はヒドロキシであり、Zは、場合により長さにおいて0〜6炭素と同等である飽和又は不飽和鎖を含むスペーサー分子であり、少なくとも1個の中間体アミン又はジスルフィド部分を有する、長さにおいて6〜18炭素と同等である非分岐又は分岐、飽和又は不飽和鎖、又は長さにおいて3〜12炭素と同等であるポリエチレングリコール鎖であってもよい。一実施形態において、サリチルヒドロキサム酸リガンドは、因子サリチルヒドロキシルアミンヒドラジドを通して、表面に結合する。他の実施形態において、サリチルヒドロキサム酸リガンドは、サリチルヒドロキシルアミンN−ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)エステル又はカルボン酸を有する表面と結合し得る。
【0110】
4.フェニルボロン酸
多くのものが当該技術分野において公知であるフェニルボロン酸試薬は、抗菌ペプチドに結合し、以下に示すような1種以上のペンダントフェニルボロン酸部分を有する複合体を提供することができる。
【0111】
【化2】

試薬には、長さにおいて6個以下の炭素と同等である脂肪族鎖、少なくともひとつの中間体アミド又はジスルフィドを有する、長さにおいて6〜18個の炭素と同等である非分岐脂肪族鎖、又は長さにおいて3〜12個の炭素と同等であるポリエチレンオキシド又はポリエチレングリコールのようなスペーサー分子を含む置換基が含まれる。ポリエチレンオキシド及びポリエチレングリコール等のスペーサー分子の使用は、水溶液中でのペプチドの高い移動度を可能にし得る。また、ペプチドには、スペーサー分子の不存在下で、ペプチドをフェニルボロン酸種に結合するために用いられる反応部位の一部が含まれる。フェニルボロン酸種は、芳香族環の周囲の種々の位置に結合している1、2又は3個のボロン酸基を含むことができる。
【0112】
III.使用方法
前述した材料は、コーティングとして抗菌ペプチドが適用された医療デバイスの形態であってもよい。適切な器具には、手術用、医療用又は歯科用器具、眼科用器具、創傷治療器具(絆創膏、縫合糸、細胞足場、骨セメント、粒子)、歯列矯正器具、インプラント、足場、縫合材料、弁、ペースメーカー、ステント、カテーテル、ロッド、インプラント、骨折固定器具、ポンプ、管、配線、電極、避妊用具、婦人衛生製品、内視鏡、創傷包帯、及び組織、特にヒトの組織と接触する他の器具が含まれるが、これらに限定されない。
【0113】
A.繊維状及び粒子状材料
一実施形態において、ペプチドは繊維状材料に適用され、又は繊維状材料に取り込まれるか、繊維状材料にコーティングされる。それらには、創傷被覆剤、包帯、ガーゼ、テープ、パッド、織布及び不織布スポンジを含むスポンジ、特に歯科又は眼科手術用に設計されたもの(米国特許第4,098,728号;第4,211,227号;第4,636,208号;第5,180,375号;及び第6,711,879号を参照されたい)、外科用ドレープ、使い捨ておむつ、テープ、絆創膏、婦人用製品、縫合糸として用いられる紙又はポリマー材料、及び他の繊維状材料が含まれる。固定化されたペプチドの利点の1つは、適用時に抗菌性であるだけでなく、処理後の材料による汚染を最小化するのに役立つことがあげられる。
【0114】
繊維状材料は、細胞培養及び組織工学機器においても有用である。細菌及び真菌の汚染は真核細胞培養において主な問題であり、これは、培地の汚染を最小化又は除去するのに安全かつ有効な方法を提供する。
【0115】
ペプチドは、細胞培養及び薬物送達を含む種々の用途に用いるナノ粒子、微小粒子及びミリメートルビーズを含む粒子にも容易に結合する。
【0116】
B.移植及び挿入される材料
ペプチドは、また、ポリマー、金属又はセラミック基質、例えば、カテーテル、管、心臓弁、薬物ポンプ、整形外科用インプラント、及び患者に挿入、移植又は適用される他の器具にも、イオン結合、共有結合又は水素結合によって直接カップリングするか取り込まれ得る。
【0117】
代表的な移植可能な材料には、心臓弁、ペースメーカー、ステント、中心静脈カテーテル(CVC)及び尿道カテーテルを含むカテーテル、補助人工心臓、骨修復器具、スクリュー、プレート、リベット、ロッド、骨セメント、及び人工関節が含まれる。
【0118】
研究は、ポリウレタン及びシリコーン、CVC等の器具に用いられる主な材料へのペプチドの直接的カップリングにより高い負荷が実現することを証明する。
【0119】
C.コーティング、塗布、浸漬、噴霧
ペプチドは、白カビ、細菌の汚染を防止するための塗料、及び他のコーティング及びフィルター、及び抗菌活性を付与するのが望ましい他の用途に加えることもできる。
【実施例】
【0120】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することにより更に理解されるだろう。
【0121】
(実施例1)固定化抗菌ペプチドの抗菌活性
材料及び方法
抗菌ペプチドの合成
抗菌ペプチドである、システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)を、Intavis Multipep Synthesizer(Intavis LLCから入手できる)を用いたフルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)化学を用いて合成した。
【0122】
NH−微小粒子(TentaGel S−NH樹脂、Anaspec.カタログ番号22795)を、係留分子N−[γ−マレイミドブチリル−オキシ]スクシンイミドエステルを通じた、システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)を固定化するための基質として用いた。遊離のアミノ基の数は、ニンヒドリンアッセイを用いて定量した。約6.7mgの微粒子を、12.5mgのニンヒドリン(Sigma)を含むpH5.0の1M酢酸バッファー1mLに懸濁させた。懸濁液を沸騰した水中に15分間維持した。15分後、試料を取り除き、15mLのエタノール/水混合物(1/1、v/v)を加えた。反応混合物を、光から離し1時間かけて室温まで冷却した。ニンヒドリンは遊離のアミノ基と反応し、青色の水溶性化合物を生成した。1時間冷却した後に、上清の吸光度を570nmで測定することによって、分光光度的にビーズ中の遊離のアミノ基の量を測定した。グリシンを基準物質として用いた。
【0123】
ペプチドの係留分子−官能化ビーズへのカップリング
3.4mgのスルホ−GMBSを、pH7.4のPBS0.5mL中に懸濁した15mgのNH−微粒子と、室温で2時間、軽く撹拌しながら(vortex、100rpm)反応させた。2時間後、ビーズを、2500rpmで2分間遠心分離し、1mLのPBSバッファーで5回洗浄した。最後の洗浄において、ビーズを0.5mLのPBSバッファーに再懸濁し、5mgのシステインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)と、室温で一晩、軽く撹拌しながら(100rpm)反応させた。ビーズを、再度0.5mLのPBSバッファーで5回洗浄し、1mLのPBSで再懸濁し、4℃に一晩保持した。翌朝、上清を除去し、ビーズを1mLのPBSバッファーで5回洗浄した。ビーズを1mLに再懸濁し、4℃に保存した。ビーズ中に固定化されたペプチドを、セクロピン−メリチンを標準物質として用いて、BCAアッセイ(Sigma)により定量した。ビーズに結合したペプチドの量を、ビーズに接触した最初の総ペプチド量と、何回かの洗浄において回収されたペプチドの量との差異から間接的に決定した。ビーズに結合したペプチドの濃度は、15mgのビーズあたり約0.91mgであり、ビーズの表面積72.7mmあたり0.060mgに相当し、ビーズは無孔性であると推測される。
【0124】
抗菌活性
ペプチド結合体化ビーズについて、標準的なMolecular Probes LIVE/DEADキット由来の30μMヨウ化プロピジウム及び6μM SYTO9染色を用いて染色したCMHB中の1×10cfu/mLのK12 E.coliとのインキュベートにより、Escherichia coliに対して試験した。蛍光顕微鏡により測定されるように、1時間後に、溶液中の50%の細菌が死滅した。死滅効果が、本当に固定化ペプチドによるのかどうかを評価するため、ビーズとインキュベートした培地を3000rpmで2分間遠心分離し、上清を除去し、上清を1時間、CMHB中の1×10cfu/mLのE.coliで接種した。死滅は観察されなかった。これは、固定化ペプチドが細菌に対して効果のある成分であることを示す。
【0125】
(実施例2)平面に固定化された抗菌ペプチドは抗菌特性を示す
システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)を、ペプチドの固相合成に用いられる末端アミン基を有する市販の膜(ピクリン酸アッセイにより測定されるように、0.340μモルのNH/cm)(Intavis製品番号30.100)に、固定化した。膜の末端アミン基は、スルホ−GMBSのスクシンイミド基と反応し、次の工程において、スルホ−GMBSのマレイミド基はシステイン取り込みペプチドのチオール基と反応した。膜に結合したペプチドの量は、ビーズに曝露させた最初の総ペプチドと、数回の洗浄で回収されたペプチド量との差異から、間接的に決定した。固定化ペプチドの量は、膜1cmあたり約2.0mgであった。このペプチドが結合した膜を、Escherichia coli ATCC2592に対して固定化抗菌活性について試験した。
【0126】
Cation Adjusted Mueller Hinton Brothのような培地中での標的細菌の一晩培養物を、OD600及び細胞密度の間で予め決められたキャリブレーションを用いて、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水で約1×10cfu/mLに希釈した。0.5cmの固定化抗菌表面の試料を、0.75mLの細菌懸濁液に加えた。試料を液体で覆い、固体表面が液体中で回転するのが見えるように、十分な量の混合物を用いて37℃でインキュベートした。1時間のインキュベーション後、細菌懸濁液の連続希釈液を寒天プレートに平板培養し、生存可能な細胞濃度を定量するために、一晩増殖させた。この方法を用い、ペプチドが結合した膜は、溶液中、1時間でE.coliの4.2の対数減少を生じた。固定化殺菌活性について結合した抗菌ペプチドを有しないアミン官能化膜の試験は、生存可能な細菌に有意な減少を示さなかった(<0.1の対数減少)。
【0127】
(実施例3)平面に固定化された抗菌ペプチドは、細菌の繰り返し攻撃を経てPBS中で3週間超保存した後に抗菌特性を示す。
【0128】
実施例2と同じ試料を生成し、pH7.4のPBS中に3週間超保存した。このペプチド結合膜を、Escherichia coliに対する固定化殺菌活性について試験した。1時間にわたり、溶液中の平均1.8の対数減少が生じた。次いで、試料を試験溶液から除去し、新鮮なPBSに入れた。試料を10分間の超音波処理にかけ、新鮮なPBSに代え、更に30分間超音波処理した。次いで、洗浄し再試験した。実施例2に記載したアッセイを用いて、洗浄した試料の固定化抗菌活性を、Escherichia coli ATCC25922に対して測定し、細菌において、1時間で平均3.3の対数減少が生じた。
【0129】
(実施例4)抗菌活性が滲出した因子からもたらされないことの確認
実施例3で用いられた試料が非滲出性でないか判定するために試験を実施した。実施例3で用いた試料が洗浄の前後の死滅の両方のラウンドの間に非滲出性であることを示すために、上清の評価を用いた。実施例3に記載された試料及び細菌の溶液の間の1時間のインキュベーションの終わりに、0.4mLの細菌溶液を取り出した。0.4mLを3000×gで5分間遠心分離し、残留する細菌を除去した。標準的な抗菌アッセイにおけるように、0.2mLの上清の試料を除去し、0.05mLの、5×10cfu/mLのEscherichia coli ATCC25922に、最終濃度が1×10cfu/mLになるように加えた。この混合物を、固定化殺菌活性アッセイにおけるような混合と同じ程度で、37℃でインキュベートし、1時間の終わりに、連続希釈液を平面培養した。
【0130】
死滅の1回目及び2回目のラウンドの両方に由来する上清は、死滅の測定可能な量を示さなかった(生存可能な細菌において<0.1の対数減少)。表面は死滅を示すが、表面上の上清は何ら死滅を示さないので、固定化抗菌表面は実質的に非滲出性である。
【0131】
(実施例5)抗菌ペプチドは、その抗菌特性を維持しながら、ゲルに共有結合で固定化され得る
デキストランゲルを、デキストランアクリレートマクロモノマーのUV架橋により製造した。23.3%(400mg)の置換の程度を有するデキストラン−アクリレート(詳細な製造については、Ferreiraら、Biomaterials 2002,23,3957−3967を参照されたい)をPBS(1.8mL)に溶解しIrgacure(5mg/mL、250μL)を溶液に穏やかに加えた。10分間にわたりUV−光に暴露することによって溶液の架橋を開始した。生検パンチを用いて、得られたゲルをいくつかのディスク(直径8mm)に切断し、水で一晩洗浄した。官能化反応前に、各デキストランディスクを95%エタノールに20分間浸し、ゲルを収縮させた。次いで、収縮したゲルを、穏やかに撹拌しながら(vortex、100rpm)PBS中の過ヨウ素酸ナトリウムの溶液(5.3mg/mL、1mL)に1時間浸した。この時間の後、ディスクをPBS中で洗浄し(5回)、未反応の過ヨウ素酸ナトリウムを除去した。次いで、ディスクを二塩酸エチレンジアミンの溶液(66mg/mL、1mL)に入れ、穏やかに撹拌しながら(vortex、100rpm)、反応を1.5時間継続させた。この工程の後、ディスクをPBS中でよく洗浄した(5回)。PBS中のシアノ水素化ホウ素ナトリウムの溶液(15mg/mL、1mL)を調製し、混合した後、室温で10分間冷却した。撹拌せずに、ディスクをシアノ水素化ホウ素ナトリウム溶液中で30分間反応させ、次いで、よく洗浄し、PBS中に一晩浸した。官能化したゲルを95%エタノールに20分間浸し、穏やかに撹拌しながら(vortex、100rpm)、スルホ−GMBS溶液(10mg/mL、0.4mL)に室温で2時間浸した。PBSで洗浄することにより(5回)、過剰のスルホ−GMBSを除去した。次いで、ディスクを再び95%エタノール中に2分間浸し、次いで、穏やかに撹拌しながら(vortex、100rpm)、システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)の溶液(5mg/mL)に一晩浸した。ディスクを、2日間、10回洗浄し(0.5mL、PBS)、ペプチドの放出の決定のために洗浄を続けた。BCAアッセイは、3.22mgのペプチドがデキストランディスクに固定化されたことを示した。
【0132】
固定化された殺菌活性についてアッセイした場合、システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチドで官能化されたゲルは、Escherichia coli ATCC25922において2.9の対数減少を示したが、セクロピン−メリチンハイブリッドペプチドを有しないゲルは、生存可能な細菌において有意な減少を示さなかった(<0.1の対数)。
【0133】
(実施例6)基質上の抗菌ペプチドの共有結合による固定化における配向性は、最終的な生物活性にとって重要である。
【0134】
固定化ペプチドの配向性が生物活性に重要であるかどうかを調べるため、システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)を、カルボキシル基を含む膜表面の複数のペプチドアミン基のカップリングによってランダムな配向性で固定化した。以下のプロトコールに従った。末端アミン基を含むセルロース膜(1×1cm)を、メチルN−スクシニミジルアジペート(MSA,Pierce)の溶液(pH7.4のPBS中、0.1mLのDMSO溶液中、1.54mg(1:9、v/v))中、室温で2時間インキュベートした。次いで、膜をPBSで数回(5×1mL)洗浄し、リン酸バッファー、pH9.5(2mL)で一晩インキュベートした。その後、膜をpH7.4のPBS(5×1mL)及び0.1Mクエン酸バッファーpH7.5(5×1mL)で洗浄した。膜を、0.5mLのN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチル−カルボジイミド塩酸塩(EDC)溶液(0.1Mクエン酸ナトリウムバッファーpH5.0中、4.8mg/mL)と30分間反応させ、次いで、PBSで洗浄(3×1mL)した。次いで、活性化された膜を、穏やかに撹拌しながら(100rpm)システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)(1mLのPBS中、5mg)と室温で一晩反応させ、最終的にPBSで洗浄(1mLで洗浄を10回)、使用するまで、PBS中、4℃で保存した。
【0135】
結果は、セルロース膜の末端アミン基のほとんどがMSAと反応することを示す。アミン基の含有量は、MSA反応の前後で、それぞれ0.340μモル/cm、及び0.039μモル/cmであった。
【0136】
EDC化学を用いて、MSAの末端COOH基を、抗菌ペプチドの末端NH基とカップリングした。膜上に固定化されたペプチドを、システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)を標準物質として用いて、BCAアッセイ(Sigma)により決定した。膜に結合したペプチドの量を、膜に曝露した最初の総ペプチドと、数回の洗浄において回収されたペプチドの量との差異から決定した。
【0137】
ペプチド含有量は1.84±0.27mg/cm(n=2)であった。表面積に対するペプチド含有量は、配向したペプチド(スルホ−GMBS化学)を用いた固定化されたもの(1.75±0.36mg/cm、n=3)と同様であった。同じ表面密度を有する、配向及び非配向の両方のペプチドを、E.coli ATCC25922に対する固定化殺菌活性について評価した。配向ペプチドは、生存可能な細菌において3.0の対数減少を示したが、非配向ペプチドはた1.6の対数減少を生成したのみであった。これは、配向する方法における抗菌ペプチドの固定化が、より高い生物比活性(specific biological activity)をもたらすことを示す。
【0138】
(実施例7)配向された固定化抗菌ペプチドは高い比活性を示す
溶液中のペプチド濃度を変えたことを除き、実施例2に記載したように、スルホ−GMBS化学を用いて、アミンを提示するセルロース膜に、システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)を固定化した。固定化工程の間の溶液中のペプチドの濃度は、0.125mg/mL〜5.0mg/mLで変化した。実施例2に記載されたようにして、試料を、固定化殺菌活性についてアッセイした。固定化の間に5mg/mLの濃度を用いた場合、得られた表面は、1時間にE.coli ATCCの2.0の対数減少を示した。しかし、固定化の間のペプチド濃度を0.125mg/mLに減少した場合、1.8の対数減少がなお生じ、これは、実施例6における非配向性ペプチドよりも有意に低い密度である。従って、ペプチドが配向されている場合に、用いられているペプチドの質量あたりの大きな固定化殺菌活性(高い比活性)が達成される。
【0139】
(実施例8)固定化抗菌ペプチド表面は実質的に非溶血性である。
【0140】
実施例2に記載したように、スルホ−GMBS化学を用いて、システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)を、アミンを提示するセルロース膜に固定化し、それが、実質的に非溶血性の表面であるかを判断するための試料を試験した。洗浄し、プールした10%赤血球(Rockland Immunochemicals Inc,Gilbertsville,PA)のストックを、150mM NaCl及び10mM Tris pH7.0の溶血バッファーで0.25%に希釈した。0.5cmの抗菌試料を、0.75mLの0.25%赤血球懸濁液で37℃にて1時間インキュベートした。固体試料を除去し、細胞を6000gでスピンダウンし、上清を除去し、分光光度計でOD414を測定した。全溶血は、洗浄し、プールした10%赤血球を無菌DI水で0.25%に希釈し37℃で1時間インキュベートすることによって定義し、0%溶血は、固体試料なしで溶血バッファー中への0.25%赤血球の懸濁により定義される。このアッセイを用いた、ほんの4.95%の溶血を生じるペプチド固定化試料は、試料が実質的に非溶血性の表面であることを証明する。
【0141】
(実施例9)抗菌ペプチドのアミド化ポリマーブラシへのカップリング
ブラシモノマー、アミノエチルメタクリレート(AEMA)を、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)と一緒に、緩衝化メタノール/水の溶液に入れた。溶液を、ビニルを提示する基質と、70℃以上で1時間インキュベートした。重合したAEMAとして、基質表面上のビニル単位を、成長するポリマー鎖に導入し、これらの鎖を基質に係留した。得られる材料の概略図を図2に示す。重合に続き、表面を繰り返し洗浄し、リン酸緩衝生理食塩水中で超音波処理し、グラフト化していないあらゆるポリマー鎖を除去した。次いで、試料を乾燥し、厚みを測定した。追加の超音波処理は、フィルム厚みをさらには減少しなかったが、これは、全ての残りのポリマーが共有結合で基質に結合していることを示す。ポリマー組成は、IR分光法により証明された。
【0142】
厚み及び組成の確認の後、システインを取り込んだセクロピン−メリチンハイブリッドペプチド(KWKLFKKIGAVLKVLC−NH)(配列番号5)を、実施例1に記載したスルホ−GMBS化学を用いて表面に固定化した。ポリマーブラシ表面を用いた初期の固定化実験は、平面基質と比較し、表面積当たりの固定化ペプチドの質量において4倍の増大を示した。全ての固定化ペプチドは表面に提示され、有効AmP濃度を劇的に増加させた。ポリマーブラシの分子量及び分岐の最適化は、固定化ペプチドの有効な表面濃度を更に増加させる。
【0143】
特に定義されない場合には、本明細書で用いられる全ての技術的及び化学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者に通常に理解されるのと同じ意味を有する。当業者は、通常の実験のみを用いて、本明細書に開示される発明の特定の実施形態に対する多くの同等物を認識し、又は確定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】親水性係留分子により、基質表面上に固定化されたAmPを示す。
【図2】基質表面に固定化された、AmPがカップリングした、又はカップリングしていない親水性係留分子を示す。
【図3】基質表面に固定化されたヒドロゲルに固定化されたAmPを示す。
【図4】ビニルを提示する基質にカップリングした、アミド化したポリマーブラシの概略を示す。
【図5】N−(γ−マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドエステル(スルホ−GMBS)の構造を示す。スルホン化N−ヒドロキシスクシンイミド残基は一級アミンと反応するが、マレイミド基はチオール基と反応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の抗菌ペプチドが固定化した基質を含む組成物であって、該抗菌ペプチドが特定の配向性で均一に係留される、組成物。
【請求項2】
前記抗菌ペプチドが、共有結合、非共有結合、及び共有結合及び非共有結合の組み合わせからなる群より選択される結合によって固定化されている、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記配向性のあるペプチドの固定化抗菌活性が、特定の配向性なく前記基質にランダムに係留された、同じ表面密度及びタイプのペプチドの固定化抗菌活性よりも大きい、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記表面が、0.2mg/cm以下、更に好ましくは0.1mg/cm以下、更に好ましくは0.05mg/cm以下、及び最も好ましくは0.01mg/cm以下の固定化抗菌活性を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記ペプチドが、それらのC−末端に特異的に結合することにより配向される、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記ペプチドが線状ペプチドである、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、実質的に非滲出性(non−leaching)及び生体適合性である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、実質的に抗汚損性である、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、実質的に非細胞傷害性である、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、実質的に非溶血性である、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記抗菌ペプチド配列が、9個を超え150個未満、好ましくは100個未満、最も好ましくは9〜51個のアミノ酸長である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記抗菌ペプチド配列が天然に存在しない、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
1つより多いペプチド配列が固定化されている、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
前記配向性ペプチドの固定化抗菌活性が抗細菌性である、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
前記ペプチドが、イオン結合により前記基質に結合している、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
前記ペプチドが、ストレプトアビジン(strepavidin)及びビオチン、ポリヒスチジン−ニッケルキレートカップリング、又はサリチルヒドロキサミン酸−フェニルボロン酸の相互作用により前記基質に結合している、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
前記基質の表面が、プラズマ、コロナ放電、火炎処理、UV/オゾン、UV及びオゾンのみ、アミノ分解、加水分解、還元、塩化トシル及びそれに続く化学作用を用いたアルコール鎖末端の活性化、化学的イニシエーションによるビニル化合物のグラフト共重合、又はビニルモノマーの存在下におけるイオンビーム処理からなる群より選択される気相技術により改変される、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
前記基質表面が、前記ペプチド上の官能基と反応することができる基を該基質表面に導入するために処理され、該基質上の基が、ヒドロキシル、アミン、ハライド、エポキシド、活性化エステル、スルフヒドリル、ビニル、及びカルボン酸基からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
前記ペプチド中のチオール又はアミノ基が、前記基質表面に存在するマレイミド、ビニルスルホン、アクリルアミド及びアクリレート等の不飽和基との共役付加反応によって直接反応することができる、請求項1記載の組成物。
【請求項20】
前記ペプチドが、アミン、チオール、カルボニル、カルボキシル、アルデヒド、ビニル、フェニル、及びアルコールからなる群より選択される該ペプチド内に存在する官能基によって前記基質に結合している、請求項1記載の組成物。
【請求項21】
前記ペプチド上の1個以上のアミン、アルコール又はチオール基が、イソチオシアネート、アシルアジ化物、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、アルデヒド、エポキシド、無水物、ハライド、スルフヒドリル、ビニル、及びラクトンからなる群より選択される前記基質表面上の官能基と直接反応する、請求項1記載の組成物。
【請求項22】
前記ペプチドの1個以上の遊離のアミノ、スルフヒドリル又はヒドロキシル基が、エポキシド官能基を含む表面に結合している、請求項1記載の組成物。
【請求項23】
前記ペプチドと基質との間に係留分子(tether)又はスペーサー分子を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項24】
前記係留分子が親水性ポリマーである、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
前記係留分子がポリエチレングリコール(PEG)である、請求項24記載の組成物。
【請求項26】
前記ペプチドが、ホモ二官能性スルフヒドリル−反応性カップリング剤を用いて前記基質に結合している、請求項23記載の組成物。
【請求項27】
前記ペプチドが、ヘテロ二官能性スルフヒドリル−反応性カップリング剤を用いて前記基質に結合している、請求項23記載の組成物。
【請求項28】
前記カップリング剤がスルホ−GMBSである、請求項27記載の組成物。
【請求項29】
ポリマーが前記基質上にグラフトされ、前記ペプチドが該ポリマーに共有結合している、請求項1記載の組成物。
【請求項30】
前記ポリマーが架橋してゲルを形成している、請求項29記載の組成物。
【請求項31】
前記架橋したポリマーがデキストランである、請求項30記載の組成物。
【請求項32】
前記ポリマーが、前記基質に結合したポリマーブラシである、請求項29記載の組成物。
【請求項33】
前記ポリマーが、前記基質に結合したデンドリマーポリマーである、請求項29記載の組成物。
【請求項34】
前記ポリマーが、化学蒸着法によって合成される、請求項29記載の組成物。
【請求項35】
前記ポリマーが、シリコーン又はポリウレタンからなる群より選択される材料から形成される基質に結合している、請求項29記載の組成物。
【請求項36】
前記ペプチドが、0.125〜50mg/cmの密度で前記基質に結合している、請求項1記載の組成物。
【請求項37】
前記ペプチドが、0.5mg/cm、更に好ましくは1mg/cm、更に好ましくは5mg/cm、更に好ましくは10mg/cm、最も好ましくは25mg/cmを超える密度で前記基質に結合している、請求項1記載の組成物。
【請求項38】
使用の間に有機又は水性溶媒中で、21日間の洗浄又は保存による繰り返し使用の間、前記抗菌活性が残存している、請求項1記載の組成物。
【請求項39】
前記基質が、ポリマー、セラミック又は金属である、請求項1記載の組成物。
【請求項40】
前記基質が、移植可能又は注入可能なデバイスの形態である、請求項39記載の組成物。
【請求項41】
前記デバイスが、ステント、カテーテル、管、針、ペースメーカー、人工器官、骨セメント、ねじ、バルブ、リベット、プレート、弁、移植片、センサー、手術器具、及びポンプからなる群より選択される、請求項40記載の組成物。
【請求項42】
前記基質が、組織工学又は組織培養支持体又はマトリクスである、請求項1記載の組成物。
【請求項43】
前記基質が繊維状である、請求項1記載の組成物。
【請求項44】
前記繊維状基質が、ガーゼ、パッド、創傷包帯、外科用ドレープ、外科用衣服、おむつ、及びスポンジからなる群より選択されるデバイスの形態である、請求項43記載の組成物。
【請求項45】
前記基質が膜である、請求項1記載の組成物。
【請求項46】
前記基質が、ナノ粒子、微小粒子又はビーズの形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項47】
前記基質が、前記表面に共有結合的に係留されているか、独立して固定化抗菌ペプチドを放出してもよい、1種以上の治療、予防又は診断薬を更に含む、請求項1記載の組成物。
【請求項48】
前記治療、予防又は診断薬が、抗増殖剤、細胞増殖抑制剤、又は細胞傷害性化学療法剤、抗菌剤、抗炎症剤、成長因子、抗血栓剤、及び細胞接着ペプチドからなる群より選択される、請求項47記載の組成物。
【請求項49】
前記治療、予防又は診断薬が前記基質からゆっくりと放出されるように、該治療、予防又は診断薬が、加水分解性結合を用いて該基質に係留されている、請求項47記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−526862(P2009−526862A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555414(P2008−555414)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/004394
【国際公開番号】WO2007/095393
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】