説明

非真円形状の加工方法

【課題】非真円形状の研削加工において、加工精度を安定させ、加工能率を向上させる。
【解決手段】回転軸線に垂直な断面の輪郭が非真円形状であるワークの外周面を研削するにあたり、NC工作機を用い、ワーク主軸の回転位相に合わせてワークと砥石の相対位置を制御しつつクリープフィード研削する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、横断面が楕円形その他の非真円形状をしたワークの外周面を研削により加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、カムを有する揺動軸とワーク主軸を同期回転させることにより、非真円形状の加工を行う装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−181558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワーク主軸及び砥石切込み台にNCを搭載した工作機を用いて楕円円柱を加工する場合、ワーク主軸の回転位相に合わせて、砥石切込み台を同期制御することができるため、従来の非NC機での揺動軸やカム機構装置は不要となる。しかし、砥石切込み台を高速揺動しながら切込み動作を行うため、砥石切込み台は、指令に対する応答性が優れていることが要求される。楕円形状を高精度で安定して得るには、砥石切込み台の揺動を低速(主軸回転数を下げる)での加工が必要であり、加工能率が悪くなり、加工サイクル時間が増大する。
【0005】
この発明の目的は、非真円形状の研削加工において、加工精度を安定させ、加工能率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、回転軸線に垂直な断面が非真円形状であるようなワークの外周面を研削するにあたり、NC工作機を用い、ワーク主軸の回転位相に合わせてワークと砥石の相対位置を制御しつつクリープフィード研削することにより、課題を解決したものである。ここで、クリープフィード研削とは、砥石に所定の輪郭を形成しておき、低速で工作物を送って一度の切込みで仕上げ研削する作業をいう(JISB0106)。
【0007】
この発明は、トリポード型等速ジョイントのトラニオンにおける脚軸の加工に適用することができる(請求項10)。トラニオン脚軸の横断面形状に楕円(長径+短径)を採用したタイプの従来のトリポード型等速ジョイントでは、長径・短径比が約1.01であったが、新たに開発したトリポード型等速ジョイントは、超楕円タイプで長径・短径比が約1.17と大きいため、楕円研削時の揺動ストロークが長くなり、従来のトリポード型等速ジョイント用研削盤では加工対応不可であった。このため、NC円筒研削盤の砥石切込み台がNCであることに着目し、加えて主軸をNC化すれば、楕円形状加工が可能であるとの判断のもと、トリポード型等速ジョイントの脚軸加工方法の開発を始めたものである。そして、通常のプランジカット研削であれば、砥石切込み台の制御が複雑になることや高速揺動時の追従性に難ありとの問題点に着目して、クリープフィードを採用したものである。なお、砥石切込み台の高速揺動時の追従性を向上させるには、スライドを抵抗の少ないリニアモータにすることも考えられるが、コスト面その他で解決すべき問題点がある。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の非真円形状の加工方法において、ワーク主軸に対して砥石切込み台を移動させることを特徴とするものである。従来の非真円円柱加工研削盤は、主軸部に揺動軸を設けて、この揺動軸と主軸をカムにより同期させて、楕円形状を作っていたのに対して、砥石切込み台とワーク主軸をNC軸とし、これら2軸を同期制御させて、楕円形状を創造するのである。これによれば、従来の揺動軸およびカム機構装置を省略できるというメリットがある。また、通常のNC円筒研削盤であれば、切込み位置精度向上のため、砥石切込み台はNC化されており、したがってそれを共用するようにすれば新たなNC軸を追加せずに済む。ただし、主軸については、通常のNC円筒研削盤は非NCであるため、これはNC化する必要がある。加えて、従来の機構であれば、カム部接触部品の摩耗により、形状精度に悪影響を与えていたのに対して、NC駆動方式であれば、カムは不要であり、安定した形状精度が得られる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2の非真円形状の加工方法において、アンギュラフィードであることを特徴とするものである。アンギュラフィードとは、ワーク主軸に対して直角以外の角度をなす方向に砥石を切り込むことをいう。たとえば、ワーク主軸に対して直交する方向にといしを切り込むストレートフィードではワークやチャッキング装置と砥石が干渉する場合に、そのような干渉を避けるためにアンギュラフィードを採用することができる。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1、2または3の非真円形状の加工方法において、ワークの回転軸を含む断面における外周面形状が直線であることを特徴とするものである。前記直線は、ワークの外周面がストレートな円筒面形状である場合には一本の直線となるが、段付きの円筒面形状である場合には二本以上の直線となる。また、ワークの回転軸と平行な直線に限らず、回転軸に対して角度をなす直線も含まれる。後者の場合、ワークの外周面形状はテーパである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1、2または3の非真円形状の加工方法において、ワークの回転軸を含む断面における外周面形状が曲線であることを特徴とするものである。曲線の具体例としては凸円弧や凹円弧を挙げることができる。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1、2または3の非真円形状の加工方法において、ワークの回転軸を含む断面における外周面形状が直線と曲線の組み合わせであることを特徴とするものである。ここでも曲線の具体例としては凸円弧や凹円弧を挙げることができる。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか1項の非真円形状の加工方法において、ワークの回転軸に垂直な断面における外周面が楕円形状であることを特徴とするものである。ここで、楕円とは、字義通りの楕円に限らず、いわゆる卵形や長円形などと呼ばれる形状も含むものとする。
【0014】
請求項8の発明は、請求項1〜6のいずれか1項の非真円形状の加工方法において、ワークの回転軸に垂直な断面における外周面形状が真円と楕円の組み合わせであることを特徴とするものである。
【0015】
請求項9の発明は、請求項1〜8のいずれか1項の非真円形状の加工方法において、ワークの回転軸に垂直な断面における外周面の一部のみ加工することを特徴とするものである。
【0016】
請求項10の発明は、請求項1〜9のいずれか1項の方法において、前記ワークがトリポード型等速ジョイントのトラニオンにおける脚軸であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、クリープフィード研削を採用することで、ワーク1回転で加工が完了するため、切込み台の高速揺動は不要であり、非真円形状の形状精度が安定して容易に得られる。しかも、サイクルタイムが短縮されて加工能率も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ストレートフィードの説明図であって、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【図2】アンギュラフィードの説明図であって、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【図3】(A)はトラニオンの一部破断正面図、(B)は側面図、(C)は脚軸の平面図、(D)は図3(B)の脚軸根元部拡大図である。
【図4】(A)は軸端突起付きのトラニオンの一部破断正面図、(B)は側面図、(C)は図4(B)の脚軸先端部拡大図、(D)は脚軸の平面図、(E)は図4(B)の脚軸根元部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、トリポード型等速ジョイントの構成要素であるトラニオンの脚軸を研削加工する場合を例にとって、この発明の実施の形態を説明する。
【0020】
まず、ワークの例について述べるならば、図3はトリポード型等速ジョイントのトラニオン10を示す。トラニオン10は、軸心部にセレーション(またはスプライン、以下同じ)孔14を形成したボス12と、ボス12の円周方向に等間隔に配置した3本の脚軸16とからなり、図3(B)から分かるように各脚軸16はボス12から半径方向に突出している。
【0021】
図3(C)から分かるように、脚軸16の軸線に垂直な断面すなわち横断面の18b部は楕円形状である。18a部は非加工部(前加工残り部)であり、外周面の一部のみ楕円形状を加工してある。図3(D)に示すように、脚軸16の根元部18dは研削切り上がり逃げR部で凹円弧形状となっている。脚軸16の軸線を含む断面すなわち縦断面における外周面は、図3(A)(B)(D)から分かるように、軸線と平行な直線及び曲線である。
【0022】
図4に示すトラニオン10´は、脚軸16の軸端付近に突起18cが形成してある点で、図3のトラニオン10と相違している。図4(D)から分かるように、脚軸16の軸線に垂直な断面すなわち横断面の18b部は楕円形状である。18a部は非加工部(前加工残り部)であり、外周面の一部のみ楕円形状を加工している。突起18cは、脚軸16の外周面のうち、楕円部18bに設けてあり、楕円部と同心で、かつ、それよりもわずかに大径である。なお、この2つの直線は、軸線と角度なす直線で結ばれている。脚軸16の軸線を含む断面すなわち縦断面における外周面は、図4(A)(B)(E)から分かるように軸線と平行及び角度をなす直線、及び曲線である。図4の実施例の場合、外周面の母線は長短2本の直線とテーパ及び曲線の組み合わせである。
【0023】
次に、図1に概略構成を示す加工装置について述べる。この加工装置は、NC(数値制御)工作機の主要部を構成するワーク主軸20と砥石軸30を含んでいる。ワーク主軸20は、NC工作機の架台等の静止部材(図示省略)に固定してあり、一方の端部に、ワーク26を保持するためのチャッキング装置22を備えている。チャッキング装置22は図1(B)に矢印で示すように回転軸線28を中心にして回転自在である。ワーク主軸20のもう一方の端部(図1(A)では上端部)に、回転駆動装置として主軸用NCモータ24が取り付けてある。
【0024】
図1ではチャッキング装置22の詳細は省略してあるが、ワーク26は図3および図4に関連して上に述べたトラニオン10、10´であって、セレーション孔14の内径をコレットチャックにて把握し、さらにクランパーにて上部から固定するタイプである。そして、加工する脚軸16をワーク主軸20と同軸となるように位置決めする。
【0025】
砥石軸30は砥石切込み台32に固定してあり、その砥石切込み台32は、たとえばリニアスライド機構とボールねじ機構を利用して、符号38で示すX軸方向に往復移動可能に、上記静止部材に取り付けてある。砥石切込み台32を移動させるための駆動装置として砥石切込み台用NCモータ34が同じく静止部材に設置してある。砥石軸30はスピンドルを内蔵しており、モータで回転駆動される。砥石軸30は端面に砥石36を保持している。砥石36は、加工能率向上のため、CBN砥石を採用してもよい。砥石36の外周の断面形状は、ワーク26の仕上げ形状を転写した形状となっている。
【0026】
砥石の選定と対策について述べるならば、一般砥石であるWA砥石を用いてテストを行ったところ、研削抵抗大による砥石異常磨耗が発生し、砥石軸駆動動力異常となった。そこで、耐摩耗性に優れるCBN砥石に変更したところ、砥石軸駆動動力は安定し、加工精度は良好となった。しかし、CBN砥石は硬度大のためドレッシングに難があり、良好な切れ味は得られず、加工能率は必ずしも向上しない。その対策として、砥石及びダイヤモンドロールのスペック見直し、ドレス条件・加工条件の見直しを行うことにより、満足できる加工能率を得ることができる。
【0027】
図1に示す状態から、主軸用NCモータ24が始動すると、図1(B)に矢印で示すようにワーク主軸20が回転してチャッキング装置22とともにワーク26を回転させる。また、砥石軸30のスピンドルが回転して砥石36を回転させる。砥石切込み台用NCモータ34が始動すると、砥石切込み台32が、図1(A)ではX軸方向、NCモータ34の回転方向によって図1(A)の左または右方向に移動する。この砥石切込み台32の移動方向および移動量は、ワークの回転軸に同期させて、あらかじめNC制御装置にプログラムしてある。すなわち、所望の非真円形状を得るため、NC制御により、ワーク主軸20の回転と同期して砥石切込み台32を移動軸38方向に移動させ、ワーク主軸20の回転軸28の位相と砥石36の位置を関連付けている。
【0028】
加工は、クリープフィード方式で行い、ワーク26が1回転すると完了する。加工条件を例示するならば次のとおりである。
ワーク材料:SCM420H
ワーク接線方向の切込速度:30mm/s
砥石:ビトリファイドCBN砥石 粒度#100 集中度150
砥石周速 加工時:60m/s
砥石周速 ドレスツルーイング時:31m/s
研削液:水溶性エマルションタイプ
ドレッサー:トラバース方式のロータリーダイヤモンド
ドレッサー回転数:5000m-1
【0029】
図1はワーク主軸20の回転軸28に対して直交する方向(X軸38方向)に砥石36の切込みを与えるいわゆるストレートフィードの例である。これに対して、図2に示すように、ワーク主軸20の回転軸28に対して斜めに砥石36の切込みを与えるアンギュラフィードを採用することも可能である。たとえば、アンギュラフィードを採用することによって、ワーク主軸20のチャッキング装置22と砥石36の干渉を避けることができる。
【0030】
楕円長径の寸法管理用として、ポストプロセスゲージを採用してもよい。通常の研削盤で用いる寸法測定ゲージは、インプロセスゲージを用いるが、ここでは、ワーク1回転で加工完了するクリープフィードを採用しているため、通常のインプロセスは不可であり、加工した値をフィードバックして制御するポストプロセスとする。しかし、この方式では、ドレス直後や機械停止直後の寸法は、温度特性により不安定となる。その対策として、ワーク1軸を加工する際に、寸法公差内に入るまでn回転加工する方式を採用することが考えられる。1回転目は、正寸よりプラス目に測定しながら加工し、2回転目でその値を盛り込んで加工する方式である。これを寸法公差内に入るまでn回繰り返す。もっとも、このようにすることで寸法精度の安定化は図られるが、サイクルタイムが増えるため、前述した停止直後のみとするのが好ましい。
【符号の説明】
【0031】
10 トラニオン
12 ボス
14 セレーション孔
16 脚軸
18a 楕円の非加工部
18b 楕円の加工部
18c 突起
18d 脚軸根元部(研削切り上がり逃げR部)
18e 突起外側テーパ部
18f 突起内側テーパ部
20 ワーク主軸
22 チャッキング装置
24 NCモータ
26 ワーク
28 回転軸
30 砥石軸
32 砥石切込み台
34 NCモータ
36 砥石
38 移動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線に垂直な断面の輪郭が非真円であるようなワークの外周面を仕上げ研削するにあたり、NC工作機を用い、ワーク主軸の回転位相に合わせてワークと砥石の相対位置を制御しつつクリープフィード研削する非真円形状の加工方法。
【請求項2】
ワーク主軸に対して砥石切込み台を移動させる請求項1の非真円形状の加工方法。
【請求項3】
アンギュラフィードによる請求項1または2の非真円形状の加工方法。
【請求項4】
ワークの軸線を含む断面における外周面形状が直線である請求項1、2または3の非真円形状の加工方法。
【請求項5】
ワークの軸線を含む断面における外周面形状が曲線である請求項1、2または3の非真円形状の加工方法。
【請求項6】
ワークの軸線を含む断面における外周面形状が直線と曲線の組み合わせである請求項1、2または3の非真円形状の加工方法。
【請求項7】
ワークの軸線に垂直な断面における外周面形状が楕円形状である請求項1〜6のいずれか1項の非真円形状の加工方法。
【請求項8】
ワークの軸線に垂直な断面における外周面形状が真円と楕円の組み合わせである請求項1〜6のいずれか1項の非真円形状の加工方法。
【請求項9】
ワークの軸線に垂直な断面における外周面の一部のみ加工する請求項1〜8のいずれか1項の非真円形状の加工方法。
【請求項10】
前記ワークがトリポード型等速ジョイントのトラニオンである請求項1〜9のいずれか1項の非真円形状の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−56632(P2011−56632A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210328(P2009−210328)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】