説明

非経口的、特に血管内薬物放出用の薬物デポー

【課題】本発明は、なかんずく、非経口的、特に血管内薬物放出のための薬物デポーに関係する。本発明の目的は、塩基として又は対応するプロトン化塩として存在することができ、その塩基は2〜6の範囲のpKb値を有する少なくとも一つの薬物の非経口的、特に血管内放出に適した薬物デポーを供給することである。
【解決手段】この目的のために、この薬物デポーはバイオコロジブルの形のマグネシウム元素を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非経口的、特に血管内薬物放出用の薬物デポー(drug depot)に関係する。
【背景技術】
【0002】
医薬品技術における主な関心は、長時間に亘り薬物の持続的に均一量の投与を行うために、薬物の放出を制御する、特に放出を遅延させる薬品剤形の薬物を開発することである。これは、例えば、最初は不活性であり、体内において初めて活性化され得る予備的段階の薬物の供給、又は薬物の吸収を遅延させる賦形剤の添加により達成することができる。さらに、薬物の非経口適用も考えられ、例えば、注射した薬物を徐々に放出する注射用微結晶懸濁剤又は生分解性薬物デポーの埋め込みも考えられる。
【0003】
薬物デポーは、数ミリメートル又は数センチメートルの大きさの生分解性材料、例えば、ポリ‐DL‐ラクチド‐コ‐グリコリドなどの天然起源の生分解性ポリマー又は合成法により得られるポリマーからなるブランク(blank)である。薬物は、生分解性材料と混合されるか、コーティングとして用いられるか又は生分解性材料の外被の中に取り込まれる。埋め込み後、その物質が分解するにしたがって、薬物は徐々に放出される。
【0004】
薬物の放出動態は、薬物と使用した生分解性材料との相互作用、並びに、適用可能でも、その分解産物に大きく依存する。換言すると、非経口薬物放出、特に血管内薬物放出を最適化する必要があるときには、この種の相互作用を考慮しなければならないであろう。親水性/疎水性、pH値、流量比又は酸素含量などの放出に影響する因子にかなり、局所的相違が表れることがあるので、身体での放出部位を考慮しなければならない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要約
本発明の目的は、非経口、特に血管内の少なくとも一つの薬物(この薬物は塩基又はそれに対応するプロトン化塩として存在することができ、その塩基は2〜6の範囲のpKb値を持つ)の放出に適した薬物デポーを供給することにある。
【0006】
非経口の、特に血管内薬物放出のための本発明による薬物デポーはこの目的を達成する。この薬物デポーは、生分解性の剤形中にマグネシウム元素を含有する。本発明は、2〜6の範囲のpKb値を持つ塩基又はそれに対応するプロトン化塩として存在することができる薬物が、生理的環境において少なくとも大部分は塩の形態で存在するという知識に基づいている。薬物が塩基として存在する場合には、薬物がその塩の形態に変換されるにしたがって親水性がかなり増加するので、生理的環境において薬物の放出は促進される。薬物が塩の形態で既に薬物デポー中に存在する場合には、例えば、塩は一般的に処理し易く、塩基の形態は室温において水性若しくは油性コンシステンシィー(consistency)を有するために、薬物は生理的環境においてやはり極めて速やかに放出される。
【0007】
生理的環境、特に血中においては、本発明に従って存在するマグネシウム元素は分解されて高度に塩基性の水酸化マグネシウムになる。これにより、薬物の塩型は再び脱プロトンされそして平衡は疎水性のより高い薬物の塩基型の方向に移行することが確保される。薬物の親水性塩型から薬物の疎水性塩基型への変化により、体内の薬物の吸収動態に影響を及ぼすことができる。したがって、そのような薬物デポーが血管内薬物放出に適用されるならば、血中への薬物の親水性塩型の速い放出を防ぐか、又は少なくとも減少させることができる。さらに、薬物デポーが血管壁に残るならば、血管腔内を流れる血液よりも本質的にずっと疎水性であるので、血管壁に対して特異的適用が可能であると考えられる。これが薬物のより疎水性の塩基型の浸透を助けるはずである。
【0008】
pKb値は、電気的解離


の解離平衡定数の負の十進法の対数と定義され、式中Bは塩基を示す。室温における薬物の塩基性はこれを示すために使用されている。
【0009】
薬物とは、ここでは、身体の状態又は機能に影響を与えるための治療用の医薬品として使用することができる物質のことである。塩基の機能を発揮する薬物は好ましくは有機窒素化合物であるが、硫黄又はリン化合物でもあり得る。さらに薬物は、特に血液中においてプロトン化により主に対応する塩の形態で存在することが特徴である。正常のpH値は、動脈血中では約7.40であり、静脈血中では約7.37である。2〜6の範囲、好ましくは3〜6の範囲のpKb値を持つ薬物は、本発明の目的に適している。
【0010】
上記タイプの薬物は好ましくは脂肪族アミンを含む。特に好ましい薬物はベラパミル(5−[N−(3,4−ジメトキシフェネチル)−N−メチルアミノ]−2−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−イソプロピル−バレロニトリル)である。ベラパミルはカルシウム拮抗薬であり、5.4のpKb値を持っている。ベラパミルは、室温では油性である非イオン性アミンの基質よりも塩のほうがより有効に処理できるので、薬物デポーの製造には塩酸塩として使用されることが望ましい。
【0011】
マグネシウム元素の生分解性形態が存在すると薬物デポーの移植の後に体内の過程によりマグネシウムの分解が生じる。分解は主として加水分解過程により調整され、その間に強い塩基水酸化マグネシウムが形成される。マグネシウム元素の生分解性は、最大6ヶ月、特に好ましくは3ヶ月の後に、埋め込み前に存在したマグネシウム元素の総量に対して好ましくは90重量%以上終了する。
【0012】
マグネシウム元素が、生分解性マグネシウム合金の一部を形成することも好ましく、この場合この合金は、マグネシウムが少なくとも50重量%の比率を有する合金である。この生分解性マグネシウム合金は、好ましくはイットリウム3.7〜5.5重量%、希土類1.5〜4.4重量%及びその他<1重量%、100重量%になる合金が作られる比率のマグネシウムという組成の合金である。このマグネシウム合金は、その取り扱いが容易で、本発明の目的にあった好ましい分解動態が特徴である。
【0013】
マグネシウムの分解により生成する水酸化マグネシウムの薬物に対するモル比を変えることにより、放出動態に影響を及ぼすことができる。薬物に比較して水酸化マグネシウムの比率が増加すると、親水性媒体中の放出は遅延する。特に本発明の目的にとって、(i)薬物の親水性塩型との平衡を、薬物の疎水性塩基型で置換可能な期間にわたり、(ii)薬物の遅延ポイントで局所限定的に、マグネシウムの分解により生成する水酸化マグネシウムの薬物に対するモル比が、1:1から50:1の範囲であることが好ましく、1:1から10:1の範囲であることが特に好ましいことは明らかである。これにより、薬物デポーの埋め込み後本発明による遅延様式で薬物の遅延が生じることを確実にすることができる。
【0014】
上記期間は、血管内に薬物デポーの埋め込みを開始してから好ましくは1から90日に、特に好ましくは3から30日に亘る。遅延ポイント(the point of retardation)とは、薬物と体液(一般的には血液)が接触する薬物デポーの領域のことである。
【0015】
遅延ポイントは一般的に、体液と固体若しくは油状の薬物の間又は薬物を含む製剤の間に作られる接触面に相当するであろう。水酸化マグネシウムの濃度、したがって遅延ポイントにおける薬物に対するそのモル比は、(i)マグネシウム元素が水酸化マグネシウムに変換される速度、及び(ii)マグネシウムの分解の場所と遅延ポイントの局所的近接度(local proximity)に本質的に依存する。ここでも再び、変換の速度はマグネシウム元素が存在する形態に主として依存する。したがって、生分解性マグネシウム合金の変換は、純粋なマグネシウムに比較して遅延する。さらに、適当なマグネシウム合金の組成によりそれに含まれるマグネシウムの変換速度が決定される。すなわち、合金の組成を調節することにより、最適化を行うことができ、望ましい薬物の放出動態が達成される。遅延ポイントからマグネシウムの分解のポイントが離れるほどそれだけ、遅延ポイントにおける望ましい濃度比を設定するためにマグネシウムの水酸化マグネシウムへの変換を高くしなければならない。
【0016】
本発明の一態様は、非経口、特に血管内薬物放出のための薬物デポーを製造するための方法であって、
生分解性の形態のマグネシウム元素を、2〜6の範囲のpKb値を有する塩基又はそれに対応するプロトン化塩として存在することができる少なくとも一つの薬物、及び必要があればさらに賦形剤とともに混合又はコーティングするステップを含む、方法に関する。
【0017】
したがって、マグネシウム元素(純粋な形態又は生分解性マグネシウム合金としてのいずれか)は、粉末又は粒子として薬物と混合することができ、そして必要があればさらに賦形剤と混合することができる。既知の製剤技術を使用して、混合物は意図した目的に適した形及び条件を持つブランクを製造するために使用される。
【0018】
その他に、この混合物は、基質、例えば血管内薬物デポー、ペースメーカー又は埋め込み式電子治療機器の電極のコーティングとして適用することができる。次いで、この態様によるコーティングは本発明の意図する範囲内の薬物デポーとして働く。賦形剤は、ブランク又はコーティングの製造を補助するために使用される既知医薬製剤の現在の添加物を全て含むことができる。
【0019】
その他の態様によれば、薬物デポーはマグネシウム又は生分解性マグネシウム合金の固体を取り込むことができる。この変法によると、薬物は、必要があれば他の賦形剤と共に本体(body)に対するコーティングとして適用される。これは、例えば、適当な溶媒の薬物の溶液でスプレーするか又はその中に本体を漬けることにより行うことができる。
【0020】
本発明の第3番目の態様は、2〜6の範囲のpKb値を持つ塩基又は対応するプロトン化塩として存在することができる少なくとも一つの薬物の非経口、特に血管内放出のための薬物デポーを製造するための、マグネシウム元素(純粋な形態又は生分解性マグネシウム合金のいずれかで)の使用に関係する。出願人の知るところによると、マグネシウム元素は、好ましくは生分解性マグネシウム合金の形態において、これまで塩基性薬物の非経口適用のための薬物デポーに使用されたことはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
例示的態様の参照による詳細な説明
図1は、非経口的、血管内薬物放出のための薬物デポー10を示す。その薬物デポーは、イットリウム3.7〜5.5重量%、希土類1.5〜4.4重量%及びその他<1重量%、100重量%の合金を形成する比率を示すマグネシウムの組成を持つマグネシウム合金により形成されている。薬物デポー10は、血管内に使用するために最適化されている。すなわち、その中側を血液が流れることができるように管状の基本的構造を持っている。薬物デポー10は、適当な手段、例えば小型のフック又は釘で血管の管壁に固定することができる。
【0022】
薬物デポー10をアセトン中の約1モルの塩酸ベラパミル溶液で湿らせ、次いで減圧下に溶媒を蒸発させる。この操作を繰り返し、塩酸ベラパミルに対するマグネシウムのモル比をほぼ30:1から50:1の範囲にする。コーティングした後であっても、マグネシウム合金の固型基体の一表面は未だアクセスすることができ、マグネシウム合金を分解し、水酸化マグネシウムの放出を生じることができる。薬物に対するマグネシウムの示された比については、マグネシウムの分解により生じた水酸化マグネシウムの薬物に対するモル比が、所望の値であると考えられる。ベラパミルの親水性塩型との間の平衡がベラパミルの疎水性塩基型に置換される期間は、血管内に薬物デポーを埋め込んでから約3から30日でなければならない。ベラパミルに対する水酸化マグネシウムのモル比は、この場合、言及した期間の間遅延ポイントにおいて1:1から10:1でなければならない。
【0023】
図2及び3はそれぞれ、二つの変形による薬物デポーのパート12を通る断面を示す。示されたパート12の形状は余り重要ではなく、薬物デポーの構造的必要性によって適合されなければならない。基本的構造のみがここでは示されるであろう。
【0024】
図2による変形において、示された薬物デポーのパート12は主に、(粒子により示された)薬物及び(粒子の間の隙間により示された)この薬物を取り巻くマトリックスとしてのマグネシウム元素の均一な混合物からなる。例えば、薬物はその塩酸塩の形態のベラパミルである。埋め込み後、表面14は体液、一般的には血液と接触し、薬物デポーの表面14と体液の間の接触面において水酸化マグネシウムの局所濃度は増加する。これは、翻って、ベラパミルを塩酸塩からその油性の非イオン型に変換させる。後者は血液のような水性液中に無視できる程度にだけ溶解することができる。
【0025】
図3による変形において、示された薬物デポーのパート12は二つの要素を持つように設計されている。生分解性マグネシウム合金からなる固型の基体(basic body)16は、薬物を含有する多孔性コーティング18で覆われている。
【0026】
薬物は、例えば再度塩酸塩として存在するベラパミルでありうる。薬物は、例えば再度塩酸塩として存在するベラパミルでありうる。薬物のための通常の基質(substrate)はまたコーティング18に加えられるが、その場合コーティング18の充分な多孔性が保証されていなければならない。
【0027】
埋め込み後、体液はコーティング18を介してのみ基体16に浸透することができる。すなわち、図3に示された側面及び固型基体16の底には構造的に接近することができない(例えば、薬物デポーは基体として内部の核を持つ球状に設計される)。基体16の表面20は、埋め込み後体液と接触する。
【0028】
その後、表面20の上でマグネシウムの水酸化マグネシウムへの変換がある。これはコーティング18中へ拡散により分配され、ベラパミルの塩酸塩を含有するコーティング18の表面との接触面において水酸化マグネシウムの局所濃度が増加する。これが、翻って、ベラパミルを塩酸塩から油性の非イオン型に変換させる。後者は血液のような水性液中に無視できる程度にだけ溶解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、血管に適用するための薬物デポーの模式図を示す。
【図2】図2は、第1の変形による薬物デポーの部分の断面を示す。
【図3】図3は、第2の変形による薬物デポーの部分の断面を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)塩基として又は対応するプロトン化塩として存在することができ、該塩基が2〜6の範囲のpKb値を有する、少なくとも一つの薬物と、(ii)生分解性形態のマグネシウム元素とを含む、非経口的、特に血管内の薬物放出のための薬物デポー(drug depot)。
【請求項2】
前記マグネシウム元素がマグネシウム合金の構成成分であることを特徴とする請求項1に記載の薬物デポー。
【請求項3】
前記薬物がベラパミルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬物デポー。
【請求項4】
塩基として又は対応するプロトン化塩として存在することができ、該塩基が2〜6の範囲のpKb値を有する少なくとも一つの薬物の非経口的、特に血管内放出のための薬物デポーを製造するための、生分解性形態のマグネシウム元素の使用。
【請求項5】
生分解性形態のマグネシウム元素を、塩基として又は対応するプロトン化塩として存在することができ、その塩基は2〜6の範囲のpKb値を有する少なくとも一つの薬物、及び必要があればさらに賦形剤と混合するか、又は該薬物、及び必要があればさらに賦形剤でコーティングするステップを含む、
非経口的、特に血管内薬物放出のための薬物デポーの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−16028(P2007−16028A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183662(P2006−183662)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(506218000)バイオトロニック ブイアイ パテント エージー (4)
【Fターム(参考)】