説明

非経口製剤の組織刺激を軽減させる方法及び組成物

治療用化合物及びデキストリンを含む組成物並びにその組成物の製造法を開示する。さらに、その化合物を投与することによる治療用化合物の注射からもたらされる局所刺激及び疼痛の軽減法を含む、組成物の使用方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
背景
ある薬物は、静脈中に投与すると、血流がその薬物を十分に迅速に希釈しない場合、組織損傷及び/又は疼痛をもたらすことがある。末梢静脈にエファプロキシラル注射(エファプロキシラルは置換α−フェノキシカルボン酸である)を受けたヒトにおける初期の研究では、注射を受けたヒトのいくらかが注射部位近辺の疼痛を訴えた。将来の研究でこの疼痛を回避するために、薬物を中心線(central line)より投与した。血流が中心線でより大きく、注射に関連した事の報告はない。しかし、中心線は高価であり、配置に外科手順を必要とする。末梢投与できるような、薬物と組織との良くない相互関係を減少させる方法は望ましい。
【0002】
発明の概要
本発明は、治療用化合物及びデキストリンを含む組成物を提供する。本発明は、治療用化合物とデキストリンとを混合することを含む、治療用化合物及びデキストリンを含む組成物の製造方法も提供する。
【0003】
本発明は、治療用化合物及びデキストリンを含む組成物を治療用化合物の必要な患者に投与することによるこのような患者の治療方法も提供する。
本発明は、さらに、治療用化合物及びデキストリンを含む組成物を投与することによる治療用化合物の注射からもたらされる局所刺激と疼痛とを軽減する方法を提供する。
【0004】
発明の詳細な記述
本発明は、刺激軽減量のデキストリン化合物(デキストリンを含む)、及び治療用化合物を含む新規な組成物を提供する。いくつかの実施態様では、デキストリンは置換デキストリンである。本明細書で使用する、抗−刺激有効量は、化合物(細胞毒性薬物、抗生物質またはアルカロイド)と組み合わせ(賦形剤が存在または不存在下で)、対象に投与したとき、化合物(細胞毒性薬物、抗生物質またはアルカロイド)単独(賦形剤が存在または不存在下で)で対象に投与したときの当該化合物の同量と比較して起こる(起こる場合)刺激の程度を顕著に軽減する物質の量を意味する。
【0005】
本明細書では、刺激物は、投与位置若しくはその付近又は投与される静脈の通路に沿って疼痛又は炎症(静脈炎)をもたらし得る治療剤を含むことを意味する。刺激物である抗癌化学療法剤の例には、カームスチン、ダカルバジン、エトポシド、プリカマイシン、エトポサイス、ストレプトゾシン及びテノポシド等があるが、これらに限定されない。
【0006】
本明細書中で、デキストリンは、酸、熱、若しくは酵素の澱粉における作用により一般的に生成される炭水化物である。環状デキストリンはシクロデキストリンとして知られている。本明細書中で、線状デキストリンは、環状デキストリンでないデキストリンである。一般に、デキストリン(C10は、主にα−(1→4)結合により結合されたd−グルコースから主に構成されるが、しかし、場合により、α−(1→6)結合により結合された幾つかの分岐部分を有することもある。デキストリンの分子量は、数百程度の低さから100,000程度の高さであることができる。本発明には、線状デキストリンがシクロデキストリンと同程度の効果である結果を包含される。本発明で提案される解決は、疼痛又は組織損傷を引き起こす薬物の製剤化の際に、デキストリン、又は修飾デキストリンを含ませることである。デキストラン(主にα−(1→6)結合により特徴付けられるd−グルコースのポリマー)が所望の効果を奏しないことは興味のあることである。
【0007】
アロステリックヘモグロビン修飾物質である、ある化合物は刺激物であり、投与時に疼痛及び/又は炎症をもたらし得る。したがって、本発明は、デキストリン化合物及びアロステリックヘモグロビン修飾物質を含む組成物を包含する。
【0008】
エファプロキシラル(2−[4−[2−[3,5−ジメチルフェニル]アミノ]−2−オキソエチル]フェノキシ)−2−メチル−プロピオン酸及び/又はその生理学的に許容できる塩)が例である。(2−[4−[2−[3,5−ジメチルフェニル]アミノ]−2−オキソエチル]フェノキシ)−2−メチル−プロピオン酸及び/又はその生理学的に許容できる塩の製造又は使用は、米国特許第5,049,695号、5,122,539号、5,290,803号、5,432,191号、5,525,630号、5,648,375号、5,661,182号、5,677,330号、5,705,521号、5,872,888号及び5,927,283号並びに、2002年2月25日出願、米国特許出願番号10/082,130号に記載されている。
【0009】
エファプロキシラルは、デキストリンの存在下で、エファプロキシラル−デキストリン複合体を形成する。エファプロキシラルとの複合化により、デキストリンは、下記の幾つかの可能なメカニズムにより血液中のエファプロキシラルの濃度が下がるまで充分に長期間エファプロキシラルから静脈を保護するように作用する。すなわち、そのメカニズムは、(1)血液量による希釈、(2)(アルブミンに対するような)タンパク結合によるエファプロキシラルの減量、及び(3)エファプロキシラルが赤血球中に入りヘモグロビンと結合する等である。
【0010】
概して、本発明は、注射したときに刺激をもたらす可能性のあるいずれかの化合物とデキストリンの複合体を含む組成物を提供する。多くのこのような化合物は細胞毒性化合物であるが、本発明の組成物は細胞毒性化合物に限定されない。
【0011】
本発明のデキストリン及び化合物の複合体を含む組成物は、種々の治療目的のために使用する種々の異なる化合物を含むことができる。本発明のこのような組成物は、デキストリンと、抗癌化合物、抗新生物化合物、抗真菌抗生物質、抗細菌抗生物質又は化学化合物を包含する。
【0012】
デキストリンと、化学療法抗癌剤である化合物との複合体を含む組成物に関して、この抗癌剤は発疱剤又は刺激剤として分類できる。発疱剤は、局所毒性を示す化学療法剤を意味する。静脈の外部に誤って放出された場合、発疱剤は、疼痛、蜂窩織炎を含む細胞損傷、組織破壊(ネクロシス)を引き起こす可能性があり、痛み若しくは潰瘍の形成、拡張性で皮膚移植が必要となり得る皮膚の腐肉(sloughing)を伴う。発疱剤である抗癌化学療法剤の例には、アマサクリン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドクソルビシン、イダルビシン、メクロレタミン、マイトマイシンC、RH−1(2,5−ジアジニジニル−3−ヒドロキシメチル−3−ヒドロキシメチル−6−メチル−1,4−ベンゾキノン)、ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビンデシン等があるが、これらに限定されない。刺激物である抗癌化学療法剤の例には、カルムスチン、デカルバジン、エトポシド、プリカマイシン、ストレプトゾシン及びテノポシド等があるが、これらに限定されない。エファプロキシラルは化学療法剤ではないが、高濃度で与えたときに刺激性である化合物の例である。
【0013】
概して、本発明の組成物は、IV投与したときにその所望の薬理効果を発揮するのに充分な量の化合物(それは、例えば、鎮静作用、抗真菌作用、抗新生物作用である)と、デキストリン化合物の不存在下で同様の量のその化合物をIV投与した場合起こるであろう刺激の程度を顕著に軽減するのに足る量のデキストリン化合物を含む。例えば、本発明の組成物は、目標癌細胞に対して所望の細胞毒性作用を発揮するのに足る量の抗癌化合物及び抗刺激作用量のデキストリンを、賦形剤の存在又は不存在下で含む。
【0014】
本発明の組成物は、デキストリン及び治療用化合物の複合体に加えて、キャリヤー、緩衝剤、稀釈剤、及びマンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクロース等のその他の製薬学的に許容できる賦形剤も包含することができる。エファプロキシラルに言及すると、適切な処方は、継続中の米国特許出願番号10/120,848号に記載されている(当該出願を参照としてその総てを本明細書に含める)。
【0015】
本発明の一定の実施態様では、デキストリンを化学的に修飾又は置換する。デキストリンポリマーのグルコピラノース単位(結合1→4)の2、3及び6ヒドロキシル基における化学置換は、デキストリン化合物の溶解性を増加させることができる。
【0016】
本発明の一定の実施態様では、本発明の組成物のデキストリンはマルトデキストリン化合物である。マルトデキストリンは、約900〜9000の平均分子量を有する線状デキストリンの混合物を意味する。マルトデキストリンは、安全で、容易に代謝され、そして医薬グレード(USP又はEP)で入手できるという利点がある。一定の実施態様では、修飾デキストリンは、所望のデキストリン種の非選択的アルキル化により製造される。この目的のための適切なアルキル化剤には、プロピレンオキシド、エチレンオキシド、グリシドール、ヨードアクタミド、クロロアセテート、及び2−ジエチルアミノエチルクロリド等があるがこれらに限定されない。反応は、複数の成分を含有する混合物を得るように行い、それにより、デキストリンの結晶化を防止する。種々のアルキル化デキストリンを製造でき、勿論、デキストリンの出発種及び使用するアルキル化剤に依存して変動する。本発明に従う組成物を形成する特定の治療用化合物と共に使用される特定のデキストリン又はアルキル化デキストリンは、治療用化合物の分子サイズ及びその治療用化合物と当該デキストリン化合物の複合体形成能に基づいて選択する。本発明の組成物中の特定のデキストリンと治療用化合物若しくは治療用化合物及び賦形剤との使用は、勿論、刺激を軽減するのに有効であることを基準に最適化できる。一定の実施態様では、デキストリンには、ヒドロキシプロピル−マルトデキストリン、エトキシプロピルマルトデキストリン、ヘプタマルトース、及びマルトデキストリン等がある。
【0017】
デキストリン及び治療用化合物の複合体の抗刺激作用を決定する別の重要なファクターは、デキストリン分子における置換基の置換度である。置換度は、デキストリン分子当たりの置換分子の数を意味する。
【0018】
上述したように、本発明の組成物は治療用化合物とデキストリンとを含む。治療用化合物とデキストリンとの相対量は化合物の相対毒性及び当該化合物におけるデキストリンの作用に依存して変動し得る。通例、治療用化合物対デキストリン化合物の比は、1:0.1〜1:20の範囲であり得る。他の実施態様では、1:0.25〜1:5の治療用化合物対デキストリン化合物が、多くの治療用化合物のために有効であると思われる。
【0019】
本発明の組成物は、活性医薬化合物及びデキストリン化合物を含む粉末又は溶液として供給できる。組成物を非経口的に、例えば静脈内に投与しようとするとき、組成物はこのような投与の前に殺菌する。このような医薬製剤を殺菌するためのいずれかの公知手段を、活性医薬化合物が不活性にならない限り使用できる。活性医薬化合物が熱に安定な場合、本発明の組成物は熱により殺菌できる。あるいは、本発明の組成物を、例えば、0.2ミクロンフィルターを使用して濾過殺菌できる。組成物が水性液である場合、無菌容器中に充填し、さらに稀釈するかそのまま注射するための即時使用可能な無菌液として供給できる。あるいは、このような無菌液は無菌溶液中で凍結乾燥し、蓋をすることができる。
【0020】
概して、本発明の組成物は、水にデキストリンを溶解させ、このデキストリン水溶液に活性化合物を加えることにより製造する。所望の場合、賦形剤を活性化合物と共に加えることができる。得られた溶液は、活性化合物を保存するのに適切な公知の方法のいずれかを使用して殺菌することができる。あるいは、水に混合する前に活性化合物を保存するのに適切な公知方法のいずれかにより各成分を殺菌できる。公知の方法、すなわち、凍結乾燥又は噴霧乾燥により反応混合物から水を除去できる。例えば、溶液を無菌容器中で凍結乾燥し、蓋をすることができる。凍結乾燥した組成物を、使用前に注射用水(0.9%食塩水又は5%デキストローズ)のような無菌稀釈剤を使用して再構成できる。
【0021】
本発明の組成物は多くの医薬化合物の静脈注射に伴う刺激を制御又は軽減する新規な方法を提供することが了解されよう。本発明の組成物は、刺激をもたらす可能性のある少なくとも1種の化合物と抗刺激有効量のデキストリンを含む製剤を対照に投与することにより、非経口的、特に静脈注射により投与するときに、刺激を引き起こす可能性のある化合物を用いて非経口治療の必要な対照の刺激の可能性を軽減する方法を提供する。
【0022】
本発明は、一定の治療用化合物の投与により引き起こされる刺激と疼痛の実質的軽減のための組成物及び方法の双方を提供することが了解されよう。
したがって、本発明は、抗刺激有効量のデキストリン及び投与するときにさもなければ疼痛及び/又は刺激を引き起こす化合物を含む組成物に関する。このような化合物は水溶液に可溶性であることができるか、あるいは凍結乾燥でき、結果として水溶液中に析出する傾向にある。したがって、本発明はデキストリン及びこのような不溶性化合物を含む組成物を提供し、当該不溶性化合物はデキストリンと複合化することにより可溶化され、投与時の刺激を促進しない。
【0023】
本発明を下記の実施例によりより良く理解されようが、単に例証を目的とし、制限されることを意図していない。
本発明の特定例――エファプロキシラル:
【0024】
【化1】

【0025】
複合形成現象を確認するのにエファプロキシラルのNMRは有用である。炭水化物複合体を形成するときエファプロキシラルのNMRスペクトルに数変化があるが、数化合物とエファプロキシラルの13Cスペクトルにおける最も特徴的なシグナルはカルボン酸に対する二つのαメチル基によるシグナルであった。これら二つのメチルはエファプロキシラルにおいて等価であり、一つのシグナルを与える。例えば、シクロデキストリンと複合化するとき、等価が壊れ、二つの等しいシグナルがもたらされる。溶液中の数種の炭水化物とのこのシグナルの分離を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
これらの結果は、シクロデキストリンのような線状デキストリンは、エファプロキシラルの酸に対する二つのαメチル基の等価を壊すエファプロキシラルとの複合体を形成する。単純小炭水化物ダイマーであるトレハロースの結果は、より大きなデキストリンが要求される二つのメチル基を示唆するシグナルに影響を示さない。
【0028】
NMRに見られる作用が、保護する組織に対するデキストリンの能力に相関したかを決定するために、動物モデルを設定した。動物の病理組織学的評価で組織損傷が観察されるまで、ラットの尾静脈において一連の濃度のエファプロキシラルを試験した。38mg/mLエファプロキシラル溶液を陽性対照として使用した。食塩水を陰性対照として使用した。数試験組成物の結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
ラット尾に38mg/mLのエファプロキシラル−Naを投与したとき、(食塩水対照で観察された損傷)投与よりも顕著な損傷を観察した。38mg/mLのエファプロキシラルに250mg/mLマルトデキストリンを加えたとき、その損傷は陰性対照の損傷と区別つかなかった。1:1のモル比で修飾β−シクロデキストリンを加えた溶液も同じ結果が得られた。マルトデキストリンの特性は、環状物よりもより安全な分子である。
【0031】
単純線状炭水化物の添加は刺激を軽減できる。動物モデルは、線状炭水化物であるマルトデキストリンの存在がエファプロキシラルの刺激を減少することを示す。加えて、NMRデータは作用のメカニズムとしてマルトデキストリン−エファプロキシラル複合体の形成の可能性を裏付ける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デキストリン及び治療用化合物を含み、非刺激性である組成物。
【請求項2】
治療用化合物が刺激性特性を有することが知られている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
治療用化合物がアロステリックヘモグロビン修飾物質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
治療用化合物がエファプロキシラルである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
デキストリンがマルトデキストリンである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
組成物が、デキストリンを含まないエファプロキシラルの組成物と比較して、注射時に疼痛を減少させる、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
治療用化合物が2,5−ジアジリジニル−3−ヒドロキシメチル−6−メチル−1,4−ベンゾキノンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
デキストリンがマルトデキストリンである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
組成物が、デキストリンを含まない2,5−ジアジリジニル−3−ヒドロキシメチル−6−メチル−1,4−ベンゾキノンの組成物と比較して、注射時に疼痛を減少させる、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
薬物製品を製造中に凍結乾燥させる、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
デキストリンが、抗刺激有効量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
デキストリンが線状デキストリンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
デキストリンが、ヒドロキシプロピル−マルトデキストリン、エトキシプロピル−マルトデキストリン、ヘプタマルトース、及びマルトデキストリンからなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
エファプロキシラルをデキストリンと混合することを含む請求項4に記載の組成物の製造法。
【請求項15】
請求項4に記載の組成物を投与することによるエファプロキシラルの必要な患者の治療方法。
【請求項16】
請求項4に記載の組成物を投与することによるエファプロキシラルの注射からの局所刺激と疼痛を軽減させる方法。

【公表番号】特表2008−509141(P2008−509141A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524908(P2007−524908)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2005/027397
【国際公開番号】WO2006/017491
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(504380286)アロス・セラピューティクス・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】