非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法、そのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体及びシミュレーション装置
【課題】非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を高速且つ確実に収束することができる方法等を提供する。
【解決手段】解x(n)が属する非線形要素の動作区間を特定する動作区間特定処理と、動作区間における非線形要素の直線の傾き及び切片を計算し、傾き及び切片から非線形システムを表す方程式を線形化した式に基づいて、解x(n)を求める処理と、解x(n)が属する前記非線形要素の動作区間と、解x(n−1)が属する動作区間とが一致した場合に解x(n)を求める解とする処理とを備え、動作区間特定処理では、X軸を基準としたときの解x(n)が属する第1動作区間と、Y軸を基準としたときの解x(n)が属する第2動作区間とをそれぞれ求め、第1動作区間及び第2動作区間のうち解x(n−1)が属する動作区間に近い方を非線形要素の動作区間として特定する。
【解決手段】解x(n)が属する非線形要素の動作区間を特定する動作区間特定処理と、動作区間における非線形要素の直線の傾き及び切片を計算し、傾き及び切片から非線形システムを表す方程式を線形化した式に基づいて、解x(n)を求める処理と、解x(n)が属する前記非線形要素の動作区間と、解x(n−1)が属する動作区間とが一致した場合に解x(n)を求める解とする処理とを備え、動作区間特定処理では、X軸を基準としたときの解x(n)が属する第1動作区間と、Y軸を基準としたときの解x(n)が属する第2動作区間とをそれぞれ求め、第1動作区間及び第2動作区間のうち解x(n−1)が属する動作区間に近い方を非線形要素の動作区間として特定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法、そのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体及びシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの一例として、電力システム(電力系統)を例に挙げて説明する。なお、本発明は、電力システムに限らず、電気・電子回路を始めとするあらゆるシステムに適用することができるものである。
【0003】
近年、電力システムには、動力負荷、照明負荷、情報機器負荷など、負荷の多くがパワーエレクトロニクス(以下、PEと略記する。)回路を用いて接続されている。また、自然エネルギー発電設備や電力貯蔵装置もPE回路により電力システムに接続される場合がほとんどであり、また、PE技術を適用した系統安定化装置の導入も始まっている。
【0004】
PE回路はスイッチングデバイスを用いて高速に電流を入切することを動作原理とする。従って、PE回路を含む系統の解析には、従来の実効値レベルの解析だけでなく、波形レベルの解析、すなわち、瞬時値解析(他分野では過渡現象解析やトランジエント解析とも呼ばれる。)が必要となる。また、PE回路に関連する解析だけでなく、近年その重要性が認識されてきた電力品質に関する解析にも瞬時値解析が主に用いられる。さらに、従来より瞬時値解析を適用してきた各種過電圧、過電流、異常共振に関する解析についても、設備リプレースに伴う設計見直しを機にこれらの解析を実施する機会が増えている。
【0005】
瞬時値解析の一例としては、解析対象の電気回路について回路方程式を作成し、この回路方程式をNewton-Raphson法(以下、NR法とも略記する。)を用いて線形化して得られた連立一次方程式を解いて電気回路の動作点を求める方法がある(例えば、特許文献1参照。)。なお、非特許文献1には、非線形要素の特性が区分折れ線近似された電子回路にNR法を適用した旨が記載されている。
【0006】
しかしながら、NR法は、初期値によっては収束しない場合があり、特に、電気回路など、IGBT(Insulted Gate Bipolar Transistor)等の非線形素子を含むような非線形性の強い回路に係る回路方程式に適用する際には、この収束性の問題が顕著となる。一方、全ての非線形素子の特性が単調増加で区分折れ線近似されている場合には必ず収束するKatzenelson法(例えば、非特許文献2参照。)という手法があるが、収束に必要な反復回数が多く、実用的でないことが知られている。
【0007】
なお、このような問題は、非線形性の強い電気・電子回路に係る回路方程式にNR法を適用する場合のみではなく、一般に、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムについても同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−197401号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】L.O. Chua, “Efficient computer algorithms for piecewise-linear analysis of resistive nonlinear networks,” IEEE Trans., Circuit Theory, vol.CT-18, no.1, pp 73-85, Jan. 1971.
【非特許文献2】J.Katzenelson, “An Algorithm for solving nonlinear resistor networks,” Bell Syst. Tech. J., pp. 1605-1620, Oct. 1965.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑み、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を高速且つ確実に収束することができる方法、そのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体及びシミュレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を反復計算により求めるが、以降の説明では、各反復計算ステップ(求解処理)での解を単に「解」と称し、反復計算(収束判定処理)の結果、最終的に求めようとしている解を「求める解」と称する。
【0012】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を電子計算機により求める方法であって、非線形要素の特性を複数の動作区間ごとに直線で近似した特性情報及び前記非線形システムを表す方程式の初期解x(0)を入力する初期設定処理と、解x(n)が属する前記非線形要素の動作区間を特定する動作区間特定処理と、前記動作区間における前記非線形要素の直線の傾き及び切片を計算し、当該傾き及び切片から前記非線形システムを表す方程式を線形化した(a)式
【数1】
のF(n−1)の値及びy(n−1)の値を計算し、当該F(n−1)の値及びy(n−1)の値を用いて(a)式を解いて解x(n)を求める求解処理と、解x(n)が属する前記非線形要素の動作区間と、解x(n−1)が属する動作区間とが一致した場合に解x(n)を求める解とし、一致しない場合は前記動作区間特定処理及び前記求解処理を再実行させる収束判定処理とを備え、前記動作区間特定処理では、解x(n)(ただし、nは1以上)の動作区間を特定する際には、X軸を基準としたときの解x(n)が属する前記非線形要素の第1動作区間と、Y軸を基準としたときの解x(n)が属する前記非線形要素の第2動作区間とをそれぞれ求め、第1動作区間及び第2動作区間のうち解x(n−1)が属する前記非線形要素の動作区間に近い方を前記非線形要素の動作区間として特定することを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法にある。
【0013】
かかる第1の態様では、解x(n)が属する動作区間を特定する際に、一方の軸のみならず、X軸Y軸の両方について動作区間を求め、それらのうち、解x(n−1)の動作区間に近い方を動作区間として特定する。すなわち、本発明は、従来のNR法に比べて1回の反復で飛び越せる動作区間数が少ない。このため、本発明は、非線形要素の特性によっては求める解が属する動作区間からかけ離れた動作区間に解が移動してしまうということを回避することができ、収束性を高めることができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法において、前記初期設定処理実行後、Newton-Raphson法を用いて解を求め、所定の反復回数以内に解が求まらない場合に、前記動作区間特定処理から前記収束判定処理を実行することを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法にある。
【0015】
かかる第2の態様では、第1の態様で述べたように両軸についての動作区間を求めることで収束性を高めつつ、計算時間の少ない従来NR法を併用することで全体的に計算時間を短縮することができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法において、前記収束判定処理では、所定の回数以内に収束しない場合に、Katzenelson法に切り替えて解を求めることを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法にある。
【0017】
かかる第3の態様では、収束する保証のあるKatzenelson法を併用することで確実に解が得られることを担保すると共に、Katzenelson法のみを用いた場合よりも計算時間を短縮することができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか一つの態様に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を電子計算機に実行させるプログラムにある。
【0019】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載するプログラムを記録した電子計算機で読み取り可能な記録媒体にある。
【0020】
本発明の第6の態様は、第1〜第3の何れか一つの態様に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を実行するように構成されたコンピュータを有することを特徴とするシミュレーション装置にある。
【0021】
かかる第4〜第6の態様では、いずれも、これらを用いて上記非線形システムの動作点を求めるに際し、計算時間を短縮するとともに、収束性を向上することができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載するシミュレーション装置において、前記非線形システムは、非線形素子を含む仮想的な電気・電子回路であり、前記電気・電子回路の制御を行う前記制御装置からの制御信号がA/Dコンバータを介して前記電気・電子回路のシミュレーションに用いられる入力データとして入力され、前記電気・電子回路の所定部分の電圧又は電流に関する計算値をD/Aコンバータによりその電圧又は電流に変換して前記制御装置に出力し、前記制御装置の動作に合わせて実時間に同期させて前記電気・電子回路の動作を計算するように構成されたことを特徴とするシミュレーション装置にある。
【0023】
かかる第7の態様では、電気・電子回路の動作点を計算するにあたり、少ない計算時間で、かつ、高い収束性で解を得ることができるので、実機である制御装置等の動作をリアルタイムで検証することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を高速且つ確実に収束することができる方法、そのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体及びシミュレーション装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】電子回路Iの回路図及び非線形抵抗の電圧−電流特性を示す図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るシミュレーション装置に係るコンピュータのハードウェア構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法のフローを示す図である。
【図5】電子回路Iの電圧−電流特性を示す図である。
【図6】従来NR法における動作区間選定方法を示す図である。
【図7】従来NR法の収束性を示す図である。
【図8】本発明の実施形態1に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法の収束性を示す図である。
【図9】Katzenelson法の収束性を示す図である。
【図10】本発明の実施形態2に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法のフローを示す図である。
【図11】電子回路II及び電子回路IIIに係る非線形抵抗の電圧−電流特性を示す図である。
【図12】電子回路IIにおける反復計算の軌跡を示す図である。
【図13】電子回路IIIにおける反復計算の軌跡を示す図である。
【図14】太陽光発電設備のパワーコンディショナ回路図である。
【図15】ダイオードとIGBTのモデルを示す図である。
【図16】太陽光発電設備のパワーコンディショナ回路に係る各素子の非線形特性を示す図である。
【図17】本発明の実施形態2に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法により求められたインバータ出力電圧・電流波形である。
【図18】1周期の反復回数の変化を示す図である。
【図19】IGBTの電圧波形と反復回数の関係を示す図である。
【図20】本発明と従来NR法とでそれぞれ計算したインバータ出力電圧波形を比較した図である。
【図21】本発明の実施形態3に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〈実施形態1〉
本発明の実施形態に係る「非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を電子計算機により求める方法(以下、動作点求解方法とも記載する)」が対象とする非線形システムは、非線形の連立方程式で表すことができる系であり、一般に、次の(1)式で導出できる。
【0027】
【数2】
【0028】
xは求めるべきN個の未知変数からなるベクトル、f(・)はN本の非線形方程式を与えるベクトル関数である。(1)式は非線形の連立方程式であるから、これを解くには反復計算が必要となる。(1)式をxについて線形化すれば、反復計算の(2)式が得られる。
【0029】
【数3】
【0030】
変数右肩の括弧内の数字は、反復ステップを示し、Fはf(・)をxに対して偏微分して得られるN×N行列である。初期値x(0)からスタートして、逐次、(2)式の連立一次方程式を解いていくことにより更新された解x(n)を得る。ただし、F(n−1),y(n−1)は、1つ前の反復ステップにおける解x(n−1)から算出することができる。解x(n)が収束すれば、その値を求める解とし、反復計算を終了する。
【0031】
実際には、(1)式を構成することはなく、直接(2)式を構成して反復計算を行うことが普通である。例えば電気・電子回路の場合、(2)式を構成する一つの方法としてスパースタブロー法がある。もちろん、(1)式を(2)式の形式で構成することができれば、スパースタブロー法以外の手法でもよい。
【0032】
本発明に係る動作点求解方法は、非線形システムに含まれる非線形要素の特性が区分折れ線近似されていることを前提とし、上記反復計算により非線形システムを表す方程式を解く。なお、非線形要素の特性が区分折れ線近似されているとは、非線形要素の特性が複数の直線から構成されていることをいう。
【0033】
以降、非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの一例として、電子回路を例に挙げ説明する。図1に、非線形抵抗を含む電子回路Iと、非線形要素の一例である非線形抵抗の特性(v−i特性)を示す。
【0034】
図1(a)に示すように、非線形システムの一例である電子回路Iは、直流電源、抵抗、及び非線形要素の一例である非線形抵抗から構成されている。また、図1(b)には、非線形抵抗RNのv−i特性が示されている。この非線形抵抗RNのv−i特性は、区分折れ線近似されている。すなわち、v−i特性が複数の直線から構成されている。各直線の電圧軸v方向及び電流軸i方向の範囲を動作区間という。図1(b)の例では、非線形抵抗RNのv−i特性は、動作区間1(v<−1、i<−1)における直線部分と、動作区間2(−1≦v<1、−1≦i<1)における直線部分と、動作区間3(1≦v、1≦i)における直線部分とから構成されている。
【0035】
このような非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を電子計算機により求める方法及び当該方法を実行するよう構成されたシミュレーション装置について詳細に説明する。
【0036】
シミュレーション装置1は、図2に示すように、後述する初期設定処理、動作区間特定処理、求解処理及び収束判定処理を実行する各手段11〜14を備えたコンピュータ20を有する装置である。図3に示すように、コンピュータ20は、CPU21、RAM22、ROM23、ハードディスク24等の記憶手段を備え、キーボードや記憶媒体読み取り装置などの入力装置30と、ディスプレイ、プリンタ等の出力装置40が接続されている。
【0037】
図2に示すように、コンピュータ20が実行可能な各手段11〜14は、後述する動作点求解方法における各処理を実行する手段であり、具体的には、初期設定手段11と、動作区間特定手段12と、求解手段13と、収束判定手段14とを有している。これらの各手段11〜14は、動作点求解方法をコンピュータ20に実行させるためのプログラム10として作成したものを読み込んで実行可能としたものである。なお、これらの各手段11〜14は電子回路として実装されていても良い。
【0038】
ここで、図4を用いて、動作点求解方法の処理を説明する。図示するように、まず、非線形要素の特性を複数の動作区間ごとに直線で近似した特性情報及び非線形システムを表す方程式の初期解x(0)(反復子n=0)を入力する初期設定処理を行う(ステップS1)。非線形要素の数は、1ないし複数であり、非線形要素ごとの特性情報を入力する。また、この初期設定処理では、回路の構成に応じて電源などの他の要素についての特性情報も入力する。
【0039】
この処理は初期設定手段11により実行され、具体的には、ハードディスク24に記録された特性情報及び初期解x(0)、又は、入力装置30を介して特性情報及び初期解x(0)をRAM22に記録する。特性情報は、各動作区間の電圧値v及び電流値iの範囲と、各動作区間の直線を表す傾き及び切片からなり、動作区間が特定されれば、その動作区間の直線の傾きと切片が得られるようにRAM22に記録されている。
【0040】
次に、動作区間特定手段12が、解x(n)(最初の動作区間特定処理の実行時では反復子nは0)が属する各非線形要素の動作区間を特定する動作区間特定処理を行う(ステップS2)。この処理により、非線形要素ごとに、非線形要素の複数の動作区間のうち、次の求解処理で用いる動作区間が特定されることになる。なお、動作区間特定処理についての詳細は後述する。
【0041】
次に、求解手段13が反復子nをインクリメントし、(2)式を解いて解x(n)(最初の求解処理の実行時では反復子nは1)を求める求解処理を行う(ステップS3)。詳言すると、動作区間特定処理において特定された動作区間における各非線形要素の直線の傾き及び切片を計算する。この計算は、初期設定処理で入力された特性情報から計算することができる。そして、各非線形要素の傾き及び切片から(2)式のF(n−1)及びy(n−1)の値を計算する。これにより得られたF(n−1)及びy(n−1)を用いて(2)式を解き、解x(n)を求め、解x(n)をRAM22に記録しておく。
【0042】
次に、収束判定手段14が、解x(n)が収束したか否かを判定する収束判定処理を行う(ステップS4)。詳言すると、複数ある非線形要素ごとに、解x(n)が属する非線形要素の動作区間と、解x(n−1)が属する動作区間とが一致するか否かを判定する。全ての非線形要素について、動作区間が一致する場合(ステップS5:Yes)、解x(n)を求める解とし、動作区間が一致しない非線形要素が一つでもあれば、解は収束していないとして(ステップS5:No)、動作区間特定処理(ステップS2)、求解処理(ステップS3)を再実行する。つまり、収束するまで、動作区間特定処理、求解処理、収束判定処理を繰り返し実行する。
【0043】
以上のようにして、非線形システムを表す方程式の解を得ることができるのであるが、動作区間特定処理において、非線形要素の動作区間の特定方法により収束性や計算量が異なる。本発明に係る動作点求解方法は、この動作区間の特定方法を工夫し、従来のNR法よりも高い収束性を有することとなった。以下、図1に示した電子回路Iを表す方程式を解く場合において、動作区間の特定方法に焦点を当てて説明するとともに、従来NR法よりも収束性が良いことを示す。
【0044】
[従来NR方法]
図1(a)に示した電子回路Iは、スパースタブロー法、あるいは、別の定式化手法を用いた場合でも次の(3)式、(4)式に帰着できる。
【0045】
【数4】
【0046】
【数5】
【0047】
ただし、eは電源電圧、Rは直列抵抗の値、v,iは非線形抵抗の電圧、電流である。また、g(・)は非線形抵抗のv−i特性である(図1(b)参照)。これらの(3)式、(4)式を重ねたものを図5に示す。(3)式、(4)式の交点が電子回路Iの解を与えることが分かる。
【0048】
まず、非線形抵抗の特性情報と初期解x(0)(反復子n=0)を入力し、RAM22に記録しておく(初期設定処理)。次に、解x(n)(最初の動作区間特定処理の実行時では反復子nは0)が属する非線形抵抗の動作区間を特定する(動作区間特定処理)。この動作区間の特定方法を、図6を用いて説明する。図6には、非線形抵抗のv−i特性が示されており、v−i特性は複数の直線からなり、区分折れ線近似されている。このようなv−i特性の電圧軸vに着目し、解x(n)が各動作区間のいずれの範囲にあるかを計算することで、解x(n)が属する動作区間を特定する。つまり、複数ある動作区間のうち解x(n)の電圧値vを含む動作区間を求める。この例では、解x(n)の電圧値vと、RAM22に記録された各動作区間とを比較することで、解x(n)は動作区間S1に属していることが求められる。
【0049】
ただし、必ずしも電圧軸vに着目する必要はなく、電流軸iに着目しても良い。すなわち、複数ある動作区間のうち、解x(n)の電流値iを含む動作区間を求めても良い。いずれにせよ、従来NR法では、動作区間を特定するに際し、いずれか一方の軸のみを用いる。
【0050】
次に、反復子nをインクリメントし、解x(n)(最初の求解処理の実行時では反復子nは1)を計算する(求解処理)。区分折れ線近似された非線形抵抗のv−i特性のうち、動作区間特定処理において特定した動作区間の直線の傾き及び切片を求める。そして、この傾き及び切片から(2)式のF(n−1)、y(n−1)を算出し、これらのF(n−1)、y(n−1)を用いて(2)式を解き、解x(n)を求める。そして、解x(n)が属する動作区間と、解x(n−1)が属する動作区間とが同一であるならば収束したとして、計算を終了し、同一でないならば、動作区間特定処理から繰り返す。
【0051】
上記の動作区間特定処理、求解処理、収束判定処理を図7を用いて視覚的に説明する。図7は、(3)式及び(4)式を表したグラフであり、(4)式は、3つの動作区間(図中、「区間1」、「区間2」、「区間3」と表記してある。)ごとの直線から構成されている。初期解x(0)が予め与えられるので、解x(0)が属する動作区間が定まる。図示するように、動作区間3が特定される。
【0052】
次に、非線形抵抗のv−i特性のうち、動作区間3の直線の傾きと切片を求め、F(n−1)、y(n−1)を計算する。これにより、(4)式が、av+b=iのように線形化され、この線形化された式と(3)式とからなる連立方程式を解いて、解x(1)を得る。解x(1)が属する動作区間は、動作区間1であるので、解x(0)の動作区間3と異なるため、収束していないと判定し、次のステップに進む。
【0053】
解x(1)が属する動作区間を求めると、動作区間1が得られる。非線形抵抗のv−i特性のうち、動作区間1の直線の傾きと切片を求め、F(n−1)、y(n−1)を計算し、(4)式を線形化したav+b=iと(3)式とからなる連立方程式を解いて、解x(2)を得る。そして、この解x(2)について収束判定処理を行う。
【0054】
以上に説明したように、解x(n)が求解されていくのであるが、さらに続けて、解x(2)から解x(3)を求めると、解x(2)は初期解x(0)と同じ動作区間3に属するため、解x(3)は、解x(1)と同じになってしまい、結局、永久に収束しない。このように、従来NR法では、解が収束しない場合がある。この非線形抵抗の場合、電流軸により動作区間を選定するようにすれば収束する。しかしながら、非線形抵抗の特性が電圧に対して電流が飽和する特性でなく(図1(b)参照)、電流に対して電圧が飽和する特性の場合、やはり巡回的に解の軌跡を辿るだけで、永久に解に到達できない。
【0055】
[動作点求解方法(両軸NR法)]
上述した従来NR法では、解x(n)が属する動作区間を特定するに際し、X軸(電圧軸v)についてのみ考慮して動作区間を特定していたが、本発明に係る動作点求解方法では、X軸(電圧軸v)及びY軸(電流軸i)のそれぞれについて動作区間を考慮する点が異なっている。このような特徴から本発明に係る動作点求解方法を両軸NR法とも表記する。
【0056】
図8を用いて、両軸NR法における動作点の特定方法について説明する。解x(1)を求めるところまでは、従来NR法と同様である(図7参照)。解x(1)から解x(2)を求めるに際して、解x(1)の動作区間を求めるとき、X軸(電圧軸v)を基準としたときの解x(n)が属する非線形要素の第1動作区間を求めるとともに、Y軸(電流軸i)を基準としたときの解x(n)が属する非線形要素の第2動作区間も求める。
【0057】
つまり、複数ある動作区間のうち、解x(1)の電圧値vを含む動作区間を第1動作区間とし、解x(1)の電流値iを含む動作区間を第2動作区間とする。図8に示した例では、解x(1)が属する第1動作区間は区間1であり、解x(1)が属する第2動作区間は区間2である。一方、解x(0)が属する動作区間は、区間3であるので、この区間3に近い方である第2動作区間を動作区間として特定する。
【0058】
以降、このように特定した動作区間(区間2)における非線形抵抗の直線の傾きと切片を求め、F(n−1)、y(n−1)を計算する。これにより、(4)式が、av+b=iのように線形化され、この線形化された式と(3)式とからなる連立方程式を解いて、解x(2)を得る。この解x(2)が属する動作区間は、区間2の直線上にあり、解x(1)の動作区間は、先に特定したように区間2であるので、ここで収束したと判定する。
【0059】
以上に説明したように、両軸NR法は、従来NR法では収束しないような非線形抵抗を含む電子回路に対しても収束することができる。両軸NR法は、動作区間の特定に際し、前ステップの動作区間に近い方を選択するため、従来のNR法に比べて1回の反復で飛び越せる動作区間数が少ない。このため、両軸NR法は、非線形要素の特性によっては求める解が属する動作区間からかけ離れた動作区間に解が移動してしまうということを回避することができる。このような両軸NR法の特徴によれば、例えば、図1(b)に示すような急峻に変化する特性を有する非線形要素を含む系に対して巡回的な軌跡に陥らずに求める解を得ることができ、従来NR法よりも収束性が良くなる。
【0060】
[Katzenelson法]
Katzenelson法は、全ての非線形素子の特性が区分折れ線近似で表現され、かつ、単調増加の場合、いかなる初期値から出発しても必ず求める解に収束するアルゴリズムである(詳細は、非特許文献2参照)。この手法の概略を図9を用いて説明する。
【0061】
従来NR法とKatzenelson法の差異は動作区間を選定する部分に加えて、次の反復ステップにおける解を修正する部分にある。
【0062】
従来NR法では、現在の動作区間と新しく選定される動作区間がどれだけ離れていようとも、解が与える非線形抵抗の電圧(若しくは電流)からそのまま新しい動作区間を決定する。一方、Katzenelson法では、解が与える電圧(電流)が属する動作区間の方向に移動はするものの、最初に横切る区間と区間の境界で停止して、その向こう側を新しい動作区間とする。さらに、次の反復ステップにおける解をその境界点に修正する。すなわち、Katzenelson法は、新しい動作区間を選定する際に、一足飛びに区間を移動せずに、必ず区間の境界で停止する手法である。
【0063】
図9に示すように、従来NR法と同様に、最初の反復ステップにおける解を求めると、点Cとなる。しかしながら、点Cを解として採用せず、初期値が属する動作区間と点C方向の隣の動作区間の境界、すなわち、区間3と区間2の境界を更新された解x(1)とする。また、新たな動作区間は解x(1)の向こう側に位置する区間2とする。区間2には求める解が存在するため、次の反復ステップにおいてこの解に到達し、反復計算が終了する。
【0064】
このように、Katzenelson法は数学的に収束が保証されている。しかし、解の更新に加えて、区間の境界に位置する新たな解を計算すること、反復ステップごとに一つずつしか区間を移動できないことの理由により、従来NR法よりも計算量が増大する。また、両軸NRは、従来NR法よりも計算量が増大するが、Katzenelson法のように一つずつしか区間を移動できないわけではなく、複数の動作区間を飛び越すことができるため、両軸NR法は、Katzenelson法よりも計算量は少ない。表1に、従来NR法、両軸NR法、Katzenelson法の収束性と計算量を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
以上に説明した、非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法及びシミュレーション装置によれば、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点をKatzenelson法よりも高速に、且つ従来NR法とは異なり確実に収束することができる。
【0067】
〈実施形態2〉
非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を求めるに際し、両軸NR法のみならず、従来NR法とKatzenelson法を併用しても良い。この各方法を併用して非線形システムを表す方程式を解く方法について、図10を用いて説明する。
【0068】
まず、現在の反復子nを0で初期化する(ステップS10)。次に、初期設定処理を行う(ステップS11)。次に、反復子nをインクリメントする(ステップS12)。そして、反復子nが閾値NB以上であるか否かを比較する(ステップS13)。閾値NBは、従来NR法での計算を打ち切り、両軸NR法に切り替えるステップ数を定めた所定値である。
【0069】
反復子nが閾値NB未満であるならば(ステップS13:No)、従来NR法を用いて、反復計算を1ステップ分(動作点特定処理〜収束判定処理)行う(ステップS14)。従来NR法での計算結果が収束したならば(ステップS15:Yes)、処理を終了し、収束しないならば(ステップS15:No)、ステップS12の処理に戻る。
【0070】
一方、反復子nが閾値NB以上であるときは(ステップS13:Yes)、反復子nが閾値NK以上であるか否かを比較する(ステップS16)。閾値NKは、両軸NR法での計算を打ち切り、Katzenelson法に切り替えるステップ数を定めた所定値である。
【0071】
反復子nが閾値NK未満であるならば(ステップS16:No)、両軸NR法を用いて、反復計算を1ステップ分(動作点特定処理〜収束判定処理)行う(ステップS17)。両軸NR法での計算結果が収束したならば(ステップS15:Yes)、処理を終了し、収束しないならば(ステップS15:No)、ステップS12の処理に戻る。
【0072】
一方、反復子nが閾値NK以上であるときは(ステップS16:Yes)、Katzenelson法を用いて、反復計算を1ステップ分(動作点特定処理〜収束判定処理)行う(ステップS18)。Katzenelson法での計算結果が収束したならば(ステップS15:Yes)、処理を終了し、収束しないならば(ステップS15:No)、ステップS12の処理に戻る。
【0073】
以上のように、最初は従来NR法を用いることで、短い計算時間で解を求めようとし、一定の反復回数を超えたら、従来NR法よりも高い収束性を有する両軸NR法で解を求めようとし、さらに、一定の反復回数を超えたら、Katzenelson法を用いることで、確実に解を求めようとする。このように反復回数に基づいて、従来NR法、両軸NR法、Katzenelson法を切り替えて用いることにより、非線形システムを表す方程式について、高速且つ確実に収束するように解を得ることができる。
【0074】
〈実施例1〉
以下、本発明に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法及びシミュレーション装置を、種々の回路に適用した実施例を示す。
【0075】
本実施例1では、二つの電子回路について説明する。2つの電子回路とも、回路構成は図1(a)に示したものと同じであり、非線形抵抗RNの特性が異なる。図11(a)に示す非線形抵抗RNを含むものを電子回路II、図11(b)に示す非線形抵抗RNを含む物を電子回路IIIと表記する。
【0076】
図12(a)は、電子回路IIについて従来NR法を適用したときの解x(n)の推移を示し、図12(b)は、電子回路IIについて実施形態2に係る動作点求解方法を適用したときの解x(n)の推移を示す図である。
【0077】
図12(a)に示すように、従来NR法では、初期解x(0)(点0)から開始した場合、点1,2,3,4,5,6,・・・を追って反復計算が行われ、解x(0)、x(1)、x(2)、x(3)、・・・と更新されていく。点6の次は、点3に移動するため、6→3→4→5→6という無限ループに陥り、解x(3)とx(2)の値を交互に取るだけで、永久に求める解に収束しない。
【0078】
一方、NB−1回目までの反復では、上述の軌跡を辿るが、両軸NR法に切り替わると、1回、若しくは2回の反復で求める解に収束する。NB−1回目の反復ステップで解がx(0)、x(1)、x(2)、x(3)のいずれにあるかによって、その後の軌跡は異なるが、これら4種類の軌跡を図12(b)に示す。電子回路IIでは、両軸NR法で求める解に収束したため、Katzenelson法を適用するには至らなかった。
【0079】
図13(a)は、電子回路IIIについて従来NR法を適用したときの解x(n)の推移を示し、図13(b)は、電子回路IIについて実施形態2に係る動作点求解方法を適用したときの解x(n)の推移を示す図である。
【0080】
図13(a)に示すように、従来NR法では、初期解x(0)(点0)から開始した場合、点1,2,3,4,5,6,7,・・・を追って反復計算が行われ、解x(0)、x(1)、x(2)、x(3)、x(4)、・・・と更新されていく。点7の次は、初期値付近に戻るため、0→1→2→・・・→6→7→0という無限ループに陥る。
【0081】
一方、図13(b)に示すように、両軸NR法に切り替わると、1回、若しくは2回の反復で求める解に収束する。電子回路IIIにおいても、両軸NR法で求める解に収束したため、Katzenelson法を適用するには至らなかった。
【0082】
〈実施例2〉
本実施例では、実施形態2に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を、単相インバータ回路の解析に対して適用することで、実用的な解析例における当該方法の収束性能を確認する。解析に用いたインバータ回路を図14に、また、ダイオードモデルおよびIGBTモデルの内部を図15に示す。ダイオードは、SiCを用いたSBD(ショットキーバリアダイオード)であり、図15に示すように静的な整流特性を非線形抵抗Rstで、接合容量の変化による動的な特性を非線形キャパシタンスCjで模擬している。RstとCjの非線形特性をそれぞれ図16(a)、(b)に示す。IGBTはSiを用いたものであり、図15(b)に示すKrausのモデルで模擬している。このモデルでは、IGBTが内包するMOSFETに対応する部分の非線形な静特性を制御電圧源Vmosで表現し、酸化膜が有する容量の変化を非線形キャパシタンスCoxで模擬している。また、ベース電荷の変化により発生するベース通過電流の動特性を制御電流源Iqで模擬し、テール電流の動特性を制御電流源Ipcで模擬している。上記Coxの非線形特性を図16(c)に示す。ダイオードを模擬するD1はオン抵抗10-4Ω、オフ抵抗1014Ωの理想スイッチの特性を有する非線形抵抗、D2も同様にオン抵抗10-5Ω、オフ抵抗1013Ωの非線形抵抗とした。なお、Vmos、Iq、Ipcの計算については、文献「岡田有功、菊間俊明、高崎昌洋、竹中清、小谷和也、葛巻淳彦、松本寿彰、「インバータシミュレーションプログラムの開発(その2)−実測比較による解析精度の検証−」、電力中央研究所 研究報告 R07016,2008」に詳しく記載されている。平滑用の電解コンデンサとフィルムコンデンサは、ディスクリートの部品2並列で構成されている。これらコンデンサや回路各部の配線については、実測結果から見積もった寄生インダクタンスや寄生キャパシタンスも考慮している。この回路の過渡現象をXTAP(eXpandable Transient Analysis Programの略。電力中央研究所 研究報告 H06002,H07004,H07005,R06017,R07016を参照。)にて解析した結果は、実測結果と良好に一致する。
【0083】
図15では非線形特性を有する素子を点線で囲っているが、これからも分かるように本回路は多数の非線形要素を含むため、その収束が容易ではない。計算時間刻みをΔt=10ns、反復計算手法を切り替えるパラメータをNB=100、NK=200に設定して、実施形態2に係る動作点求解方法により1周期分の過渡解析を行った。過渡解析であるから、計算時間ステップごと(Δtごと)に非線形回路の解を求めるという作業を繰り返すことになる。ここで、従来NR法から両軸NR法に切り替える反復回数をNB=100と非常に大きな値に設定しているため、両軸NR法に切り替わった場合には従来NR法が無限ループに陥って収束しなかったものと見なしてよい。
【0084】
図17に、実施形態2に係る動作点求解方法により求められた1周期分のインバータ出力電圧および電流の波形を示す。所期の正弦波が得られ、インバータ回路の動作が正常にシミュレーションされていることが確認できる。この計算における、各計算時間ステップでの反復回数をグラフ化したものを図18に示す。同図より、ほとんどの計算時間ステップにおいて反復回数は6回程度であるが、所々、100回を超えている計算時間ステップが存在することが見て取れる。反復回数が100回を超えている計算時間ステップは、先述のように、従来NR法が収束しないケースであり、100回目以降に反復計算手法が両軸NR法に切り替わることにより、その後数回の反復で直ちに収束している。なお、100回という回数は、同図のグラフにおいて従来NR法から両軸NR法に切り替えたとき反復回数の差異が判別しやすくなるように敢えて大きな値を設定したものであり、実際には、10〜20回の反復回数で足りる。
【0085】
どのような場合に従来NR法が収束しないのかを調べるため、左下アームおよび右下アームのIGBT両端電圧波形と反復回数を時刻を揃えてプロットしたものを図19に示す。同図より、従来NR法が収束しないのはIGBT両端電圧が急変する時刻、すなわち、スイッチングの瞬間であることが分かる。IGBTがスイッチングをしなければ、回路中の電圧・電流は急変せず、各非線形素子の動作区間も大きく動くことは無いが、スイッチングにより電圧・電流が大きく変わると各非線形素子の動作区間も大きく動くこととなり、その収束過程に無限ループが形成されれば従来NR法は収束しなくなる。本回路において、従来NR法が収束しない場合、反復計算手法が両軸NR法に切り替わった直後に少なくとも6回の反復で収束しており、前出の電子回路I〜IIIと同様、Katzenelson法が用いられることはなかった。つまり、電子回路I〜IIIおよび本インバータ回路のいずれにおいても両軸NR法の段階で収束しており、両軸NR法は非常に良い収束特性を有していると言える。また、Katzenelson法は滅多に用いられることはないが、両軸NR法が数学的に収束保証された手法でない以上、保険の意味で後段に用意されていると言える。
【0086】
図20に、インバータ出力電圧波形について、実施形態2に係る動作点求解方法による結果と従来NR法による結果の比較を示す。既に図17で示したように、実施形態2に係る動作点求解方法を用いた場合、各時間ステップにおいて反復計算が正常に収束しており、問題無く1周期の計算を終了している。一方、従来NR法を用いた場合、時刻2.3ms付近で反復計算が収束せず(図20の+印)、解析の続行が不可能となっている。
【0087】
以上に説明したように、本発明に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法、そのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体及びシミュレーション装置では、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を高速且つ確実に収束することができる。
【0088】
〈実施形態3〉
上述した実施形態1及び実施形態2では、電気・電子回路について、本発明に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を、コンピュータ20に実行させたが、このような態様に限られない。本発明の実施形態としては、例えば、コンピュータ20で仮想的に構築した電気・電子回路と、実機とを接続し、実機の動作の検証等を行うためのリアルタイムシミュレータ装置であってもよい。
【0089】
図21に、本実施形態に係るシミュレーション装置の一例を示す。なお、実施形態1と同一のものには同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0090】
図示するように、コンピュータ20は、電気・電子回路の各素子についての特性情報や初期解が予め設定されており、電気・電子回路の所定の素子や節点における電圧電流を計算するようになっている。この計算した電圧や電流の値は、D/Aコンバータ51により電流、電圧に変換され、電圧電流アンプ201で増幅されて制御装置200に流れる。一方、制御装置200が出力する制御信号は、A/Dコンバータ50により電気・電子回路における一素子の電圧、電流を表すデータとしてプログラム10に入力される。
【0091】
コンピュータ20では、本発明に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を実行するに際し、制御装置200の動作に合わせて実時間に同期させて電気・電子回路の動作を計算する。つまり、電気・電子回路の一部をコンピュータ20で模擬し、当該電気・電子回路に接続される制御装置200の動作を検証することができる。
【0092】
〈他の実施形態〉
実施形態1〜実施形態3では、いずれも非線形システムとして電気・電子回路を対象としたが、電気・電子回路に限られず、本発明は、非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステム全般に適用できるものである。
【0093】
また、実施形態2では、従来NR法、両軸NR法、Katzenelson法を併用したが、必ずしも、この構成に限らず、従来NR法と両軸NR法とを併用する場合や、両軸NR法とKatzenelson法とを併用する場合など、3つの方法のうち何れか2つを併用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を求めることを必要とする産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1、100 シミュレーション装置
10 プログラム
11 初期設定手段
12 動作区間特定手段
13 求解手段
14 収束判定手段
20 コンピュータ
21 CPU
22 RAM
23 ROM
24 ハードディスク
30 入力装置
40 出力装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法、そのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体及びシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの一例として、電力システム(電力系統)を例に挙げて説明する。なお、本発明は、電力システムに限らず、電気・電子回路を始めとするあらゆるシステムに適用することができるものである。
【0003】
近年、電力システムには、動力負荷、照明負荷、情報機器負荷など、負荷の多くがパワーエレクトロニクス(以下、PEと略記する。)回路を用いて接続されている。また、自然エネルギー発電設備や電力貯蔵装置もPE回路により電力システムに接続される場合がほとんどであり、また、PE技術を適用した系統安定化装置の導入も始まっている。
【0004】
PE回路はスイッチングデバイスを用いて高速に電流を入切することを動作原理とする。従って、PE回路を含む系統の解析には、従来の実効値レベルの解析だけでなく、波形レベルの解析、すなわち、瞬時値解析(他分野では過渡現象解析やトランジエント解析とも呼ばれる。)が必要となる。また、PE回路に関連する解析だけでなく、近年その重要性が認識されてきた電力品質に関する解析にも瞬時値解析が主に用いられる。さらに、従来より瞬時値解析を適用してきた各種過電圧、過電流、異常共振に関する解析についても、設備リプレースに伴う設計見直しを機にこれらの解析を実施する機会が増えている。
【0005】
瞬時値解析の一例としては、解析対象の電気回路について回路方程式を作成し、この回路方程式をNewton-Raphson法(以下、NR法とも略記する。)を用いて線形化して得られた連立一次方程式を解いて電気回路の動作点を求める方法がある(例えば、特許文献1参照。)。なお、非特許文献1には、非線形要素の特性が区分折れ線近似された電子回路にNR法を適用した旨が記載されている。
【0006】
しかしながら、NR法は、初期値によっては収束しない場合があり、特に、電気回路など、IGBT(Insulted Gate Bipolar Transistor)等の非線形素子を含むような非線形性の強い回路に係る回路方程式に適用する際には、この収束性の問題が顕著となる。一方、全ての非線形素子の特性が単調増加で区分折れ線近似されている場合には必ず収束するKatzenelson法(例えば、非特許文献2参照。)という手法があるが、収束に必要な反復回数が多く、実用的でないことが知られている。
【0007】
なお、このような問題は、非線形性の強い電気・電子回路に係る回路方程式にNR法を適用する場合のみではなく、一般に、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムについても同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−197401号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】L.O. Chua, “Efficient computer algorithms for piecewise-linear analysis of resistive nonlinear networks,” IEEE Trans., Circuit Theory, vol.CT-18, no.1, pp 73-85, Jan. 1971.
【非特許文献2】J.Katzenelson, “An Algorithm for solving nonlinear resistor networks,” Bell Syst. Tech. J., pp. 1605-1620, Oct. 1965.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑み、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を高速且つ確実に収束することができる方法、そのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体及びシミュレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を反復計算により求めるが、以降の説明では、各反復計算ステップ(求解処理)での解を単に「解」と称し、反復計算(収束判定処理)の結果、最終的に求めようとしている解を「求める解」と称する。
【0012】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を電子計算機により求める方法であって、非線形要素の特性を複数の動作区間ごとに直線で近似した特性情報及び前記非線形システムを表す方程式の初期解x(0)を入力する初期設定処理と、解x(n)が属する前記非線形要素の動作区間を特定する動作区間特定処理と、前記動作区間における前記非線形要素の直線の傾き及び切片を計算し、当該傾き及び切片から前記非線形システムを表す方程式を線形化した(a)式
【数1】
のF(n−1)の値及びy(n−1)の値を計算し、当該F(n−1)の値及びy(n−1)の値を用いて(a)式を解いて解x(n)を求める求解処理と、解x(n)が属する前記非線形要素の動作区間と、解x(n−1)が属する動作区間とが一致した場合に解x(n)を求める解とし、一致しない場合は前記動作区間特定処理及び前記求解処理を再実行させる収束判定処理とを備え、前記動作区間特定処理では、解x(n)(ただし、nは1以上)の動作区間を特定する際には、X軸を基準としたときの解x(n)が属する前記非線形要素の第1動作区間と、Y軸を基準としたときの解x(n)が属する前記非線形要素の第2動作区間とをそれぞれ求め、第1動作区間及び第2動作区間のうち解x(n−1)が属する前記非線形要素の動作区間に近い方を前記非線形要素の動作区間として特定することを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法にある。
【0013】
かかる第1の態様では、解x(n)が属する動作区間を特定する際に、一方の軸のみならず、X軸Y軸の両方について動作区間を求め、それらのうち、解x(n−1)の動作区間に近い方を動作区間として特定する。すなわち、本発明は、従来のNR法に比べて1回の反復で飛び越せる動作区間数が少ない。このため、本発明は、非線形要素の特性によっては求める解が属する動作区間からかけ離れた動作区間に解が移動してしまうということを回避することができ、収束性を高めることができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法において、前記初期設定処理実行後、Newton-Raphson法を用いて解を求め、所定の反復回数以内に解が求まらない場合に、前記動作区間特定処理から前記収束判定処理を実行することを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法にある。
【0015】
かかる第2の態様では、第1の態様で述べたように両軸についての動作区間を求めることで収束性を高めつつ、計算時間の少ない従来NR法を併用することで全体的に計算時間を短縮することができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法において、前記収束判定処理では、所定の回数以内に収束しない場合に、Katzenelson法に切り替えて解を求めることを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法にある。
【0017】
かかる第3の態様では、収束する保証のあるKatzenelson法を併用することで確実に解が得られることを担保すると共に、Katzenelson法のみを用いた場合よりも計算時間を短縮することができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか一つの態様に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を電子計算機に実行させるプログラムにある。
【0019】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載するプログラムを記録した電子計算機で読み取り可能な記録媒体にある。
【0020】
本発明の第6の態様は、第1〜第3の何れか一つの態様に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を実行するように構成されたコンピュータを有することを特徴とするシミュレーション装置にある。
【0021】
かかる第4〜第6の態様では、いずれも、これらを用いて上記非線形システムの動作点を求めるに際し、計算時間を短縮するとともに、収束性を向上することができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載するシミュレーション装置において、前記非線形システムは、非線形素子を含む仮想的な電気・電子回路であり、前記電気・電子回路の制御を行う前記制御装置からの制御信号がA/Dコンバータを介して前記電気・電子回路のシミュレーションに用いられる入力データとして入力され、前記電気・電子回路の所定部分の電圧又は電流に関する計算値をD/Aコンバータによりその電圧又は電流に変換して前記制御装置に出力し、前記制御装置の動作に合わせて実時間に同期させて前記電気・電子回路の動作を計算するように構成されたことを特徴とするシミュレーション装置にある。
【0023】
かかる第7の態様では、電気・電子回路の動作点を計算するにあたり、少ない計算時間で、かつ、高い収束性で解を得ることができるので、実機である制御装置等の動作をリアルタイムで検証することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を高速且つ確実に収束することができる方法、そのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体及びシミュレーション装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】電子回路Iの回路図及び非線形抵抗の電圧−電流特性を示す図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るシミュレーション装置に係るコンピュータのハードウェア構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法のフローを示す図である。
【図5】電子回路Iの電圧−電流特性を示す図である。
【図6】従来NR法における動作区間選定方法を示す図である。
【図7】従来NR法の収束性を示す図である。
【図8】本発明の実施形態1に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法の収束性を示す図である。
【図9】Katzenelson法の収束性を示す図である。
【図10】本発明の実施形態2に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法のフローを示す図である。
【図11】電子回路II及び電子回路IIIに係る非線形抵抗の電圧−電流特性を示す図である。
【図12】電子回路IIにおける反復計算の軌跡を示す図である。
【図13】電子回路IIIにおける反復計算の軌跡を示す図である。
【図14】太陽光発電設備のパワーコンディショナ回路図である。
【図15】ダイオードとIGBTのモデルを示す図である。
【図16】太陽光発電設備のパワーコンディショナ回路に係る各素子の非線形特性を示す図である。
【図17】本発明の実施形態2に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法により求められたインバータ出力電圧・電流波形である。
【図18】1周期の反復回数の変化を示す図である。
【図19】IGBTの電圧波形と反復回数の関係を示す図である。
【図20】本発明と従来NR法とでそれぞれ計算したインバータ出力電圧波形を比較した図である。
【図21】本発明の実施形態3に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〈実施形態1〉
本発明の実施形態に係る「非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を電子計算機により求める方法(以下、動作点求解方法とも記載する)」が対象とする非線形システムは、非線形の連立方程式で表すことができる系であり、一般に、次の(1)式で導出できる。
【0027】
【数2】
【0028】
xは求めるべきN個の未知変数からなるベクトル、f(・)はN本の非線形方程式を与えるベクトル関数である。(1)式は非線形の連立方程式であるから、これを解くには反復計算が必要となる。(1)式をxについて線形化すれば、反復計算の(2)式が得られる。
【0029】
【数3】
【0030】
変数右肩の括弧内の数字は、反復ステップを示し、Fはf(・)をxに対して偏微分して得られるN×N行列である。初期値x(0)からスタートして、逐次、(2)式の連立一次方程式を解いていくことにより更新された解x(n)を得る。ただし、F(n−1),y(n−1)は、1つ前の反復ステップにおける解x(n−1)から算出することができる。解x(n)が収束すれば、その値を求める解とし、反復計算を終了する。
【0031】
実際には、(1)式を構成することはなく、直接(2)式を構成して反復計算を行うことが普通である。例えば電気・電子回路の場合、(2)式を構成する一つの方法としてスパースタブロー法がある。もちろん、(1)式を(2)式の形式で構成することができれば、スパースタブロー法以外の手法でもよい。
【0032】
本発明に係る動作点求解方法は、非線形システムに含まれる非線形要素の特性が区分折れ線近似されていることを前提とし、上記反復計算により非線形システムを表す方程式を解く。なお、非線形要素の特性が区分折れ線近似されているとは、非線形要素の特性が複数の直線から構成されていることをいう。
【0033】
以降、非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの一例として、電子回路を例に挙げ説明する。図1に、非線形抵抗を含む電子回路Iと、非線形要素の一例である非線形抵抗の特性(v−i特性)を示す。
【0034】
図1(a)に示すように、非線形システムの一例である電子回路Iは、直流電源、抵抗、及び非線形要素の一例である非線形抵抗から構成されている。また、図1(b)には、非線形抵抗RNのv−i特性が示されている。この非線形抵抗RNのv−i特性は、区分折れ線近似されている。すなわち、v−i特性が複数の直線から構成されている。各直線の電圧軸v方向及び電流軸i方向の範囲を動作区間という。図1(b)の例では、非線形抵抗RNのv−i特性は、動作区間1(v<−1、i<−1)における直線部分と、動作区間2(−1≦v<1、−1≦i<1)における直線部分と、動作区間3(1≦v、1≦i)における直線部分とから構成されている。
【0035】
このような非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を電子計算機により求める方法及び当該方法を実行するよう構成されたシミュレーション装置について詳細に説明する。
【0036】
シミュレーション装置1は、図2に示すように、後述する初期設定処理、動作区間特定処理、求解処理及び収束判定処理を実行する各手段11〜14を備えたコンピュータ20を有する装置である。図3に示すように、コンピュータ20は、CPU21、RAM22、ROM23、ハードディスク24等の記憶手段を備え、キーボードや記憶媒体読み取り装置などの入力装置30と、ディスプレイ、プリンタ等の出力装置40が接続されている。
【0037】
図2に示すように、コンピュータ20が実行可能な各手段11〜14は、後述する動作点求解方法における各処理を実行する手段であり、具体的には、初期設定手段11と、動作区間特定手段12と、求解手段13と、収束判定手段14とを有している。これらの各手段11〜14は、動作点求解方法をコンピュータ20に実行させるためのプログラム10として作成したものを読み込んで実行可能としたものである。なお、これらの各手段11〜14は電子回路として実装されていても良い。
【0038】
ここで、図4を用いて、動作点求解方法の処理を説明する。図示するように、まず、非線形要素の特性を複数の動作区間ごとに直線で近似した特性情報及び非線形システムを表す方程式の初期解x(0)(反復子n=0)を入力する初期設定処理を行う(ステップS1)。非線形要素の数は、1ないし複数であり、非線形要素ごとの特性情報を入力する。また、この初期設定処理では、回路の構成に応じて電源などの他の要素についての特性情報も入力する。
【0039】
この処理は初期設定手段11により実行され、具体的には、ハードディスク24に記録された特性情報及び初期解x(0)、又は、入力装置30を介して特性情報及び初期解x(0)をRAM22に記録する。特性情報は、各動作区間の電圧値v及び電流値iの範囲と、各動作区間の直線を表す傾き及び切片からなり、動作区間が特定されれば、その動作区間の直線の傾きと切片が得られるようにRAM22に記録されている。
【0040】
次に、動作区間特定手段12が、解x(n)(最初の動作区間特定処理の実行時では反復子nは0)が属する各非線形要素の動作区間を特定する動作区間特定処理を行う(ステップS2)。この処理により、非線形要素ごとに、非線形要素の複数の動作区間のうち、次の求解処理で用いる動作区間が特定されることになる。なお、動作区間特定処理についての詳細は後述する。
【0041】
次に、求解手段13が反復子nをインクリメントし、(2)式を解いて解x(n)(最初の求解処理の実行時では反復子nは1)を求める求解処理を行う(ステップS3)。詳言すると、動作区間特定処理において特定された動作区間における各非線形要素の直線の傾き及び切片を計算する。この計算は、初期設定処理で入力された特性情報から計算することができる。そして、各非線形要素の傾き及び切片から(2)式のF(n−1)及びy(n−1)の値を計算する。これにより得られたF(n−1)及びy(n−1)を用いて(2)式を解き、解x(n)を求め、解x(n)をRAM22に記録しておく。
【0042】
次に、収束判定手段14が、解x(n)が収束したか否かを判定する収束判定処理を行う(ステップS4)。詳言すると、複数ある非線形要素ごとに、解x(n)が属する非線形要素の動作区間と、解x(n−1)が属する動作区間とが一致するか否かを判定する。全ての非線形要素について、動作区間が一致する場合(ステップS5:Yes)、解x(n)を求める解とし、動作区間が一致しない非線形要素が一つでもあれば、解は収束していないとして(ステップS5:No)、動作区間特定処理(ステップS2)、求解処理(ステップS3)を再実行する。つまり、収束するまで、動作区間特定処理、求解処理、収束判定処理を繰り返し実行する。
【0043】
以上のようにして、非線形システムを表す方程式の解を得ることができるのであるが、動作区間特定処理において、非線形要素の動作区間の特定方法により収束性や計算量が異なる。本発明に係る動作点求解方法は、この動作区間の特定方法を工夫し、従来のNR法よりも高い収束性を有することとなった。以下、図1に示した電子回路Iを表す方程式を解く場合において、動作区間の特定方法に焦点を当てて説明するとともに、従来NR法よりも収束性が良いことを示す。
【0044】
[従来NR方法]
図1(a)に示した電子回路Iは、スパースタブロー法、あるいは、別の定式化手法を用いた場合でも次の(3)式、(4)式に帰着できる。
【0045】
【数4】
【0046】
【数5】
【0047】
ただし、eは電源電圧、Rは直列抵抗の値、v,iは非線形抵抗の電圧、電流である。また、g(・)は非線形抵抗のv−i特性である(図1(b)参照)。これらの(3)式、(4)式を重ねたものを図5に示す。(3)式、(4)式の交点が電子回路Iの解を与えることが分かる。
【0048】
まず、非線形抵抗の特性情報と初期解x(0)(反復子n=0)を入力し、RAM22に記録しておく(初期設定処理)。次に、解x(n)(最初の動作区間特定処理の実行時では反復子nは0)が属する非線形抵抗の動作区間を特定する(動作区間特定処理)。この動作区間の特定方法を、図6を用いて説明する。図6には、非線形抵抗のv−i特性が示されており、v−i特性は複数の直線からなり、区分折れ線近似されている。このようなv−i特性の電圧軸vに着目し、解x(n)が各動作区間のいずれの範囲にあるかを計算することで、解x(n)が属する動作区間を特定する。つまり、複数ある動作区間のうち解x(n)の電圧値vを含む動作区間を求める。この例では、解x(n)の電圧値vと、RAM22に記録された各動作区間とを比較することで、解x(n)は動作区間S1に属していることが求められる。
【0049】
ただし、必ずしも電圧軸vに着目する必要はなく、電流軸iに着目しても良い。すなわち、複数ある動作区間のうち、解x(n)の電流値iを含む動作区間を求めても良い。いずれにせよ、従来NR法では、動作区間を特定するに際し、いずれか一方の軸のみを用いる。
【0050】
次に、反復子nをインクリメントし、解x(n)(最初の求解処理の実行時では反復子nは1)を計算する(求解処理)。区分折れ線近似された非線形抵抗のv−i特性のうち、動作区間特定処理において特定した動作区間の直線の傾き及び切片を求める。そして、この傾き及び切片から(2)式のF(n−1)、y(n−1)を算出し、これらのF(n−1)、y(n−1)を用いて(2)式を解き、解x(n)を求める。そして、解x(n)が属する動作区間と、解x(n−1)が属する動作区間とが同一であるならば収束したとして、計算を終了し、同一でないならば、動作区間特定処理から繰り返す。
【0051】
上記の動作区間特定処理、求解処理、収束判定処理を図7を用いて視覚的に説明する。図7は、(3)式及び(4)式を表したグラフであり、(4)式は、3つの動作区間(図中、「区間1」、「区間2」、「区間3」と表記してある。)ごとの直線から構成されている。初期解x(0)が予め与えられるので、解x(0)が属する動作区間が定まる。図示するように、動作区間3が特定される。
【0052】
次に、非線形抵抗のv−i特性のうち、動作区間3の直線の傾きと切片を求め、F(n−1)、y(n−1)を計算する。これにより、(4)式が、av+b=iのように線形化され、この線形化された式と(3)式とからなる連立方程式を解いて、解x(1)を得る。解x(1)が属する動作区間は、動作区間1であるので、解x(0)の動作区間3と異なるため、収束していないと判定し、次のステップに進む。
【0053】
解x(1)が属する動作区間を求めると、動作区間1が得られる。非線形抵抗のv−i特性のうち、動作区間1の直線の傾きと切片を求め、F(n−1)、y(n−1)を計算し、(4)式を線形化したav+b=iと(3)式とからなる連立方程式を解いて、解x(2)を得る。そして、この解x(2)について収束判定処理を行う。
【0054】
以上に説明したように、解x(n)が求解されていくのであるが、さらに続けて、解x(2)から解x(3)を求めると、解x(2)は初期解x(0)と同じ動作区間3に属するため、解x(3)は、解x(1)と同じになってしまい、結局、永久に収束しない。このように、従来NR法では、解が収束しない場合がある。この非線形抵抗の場合、電流軸により動作区間を選定するようにすれば収束する。しかしながら、非線形抵抗の特性が電圧に対して電流が飽和する特性でなく(図1(b)参照)、電流に対して電圧が飽和する特性の場合、やはり巡回的に解の軌跡を辿るだけで、永久に解に到達できない。
【0055】
[動作点求解方法(両軸NR法)]
上述した従来NR法では、解x(n)が属する動作区間を特定するに際し、X軸(電圧軸v)についてのみ考慮して動作区間を特定していたが、本発明に係る動作点求解方法では、X軸(電圧軸v)及びY軸(電流軸i)のそれぞれについて動作区間を考慮する点が異なっている。このような特徴から本発明に係る動作点求解方法を両軸NR法とも表記する。
【0056】
図8を用いて、両軸NR法における動作点の特定方法について説明する。解x(1)を求めるところまでは、従来NR法と同様である(図7参照)。解x(1)から解x(2)を求めるに際して、解x(1)の動作区間を求めるとき、X軸(電圧軸v)を基準としたときの解x(n)が属する非線形要素の第1動作区間を求めるとともに、Y軸(電流軸i)を基準としたときの解x(n)が属する非線形要素の第2動作区間も求める。
【0057】
つまり、複数ある動作区間のうち、解x(1)の電圧値vを含む動作区間を第1動作区間とし、解x(1)の電流値iを含む動作区間を第2動作区間とする。図8に示した例では、解x(1)が属する第1動作区間は区間1であり、解x(1)が属する第2動作区間は区間2である。一方、解x(0)が属する動作区間は、区間3であるので、この区間3に近い方である第2動作区間を動作区間として特定する。
【0058】
以降、このように特定した動作区間(区間2)における非線形抵抗の直線の傾きと切片を求め、F(n−1)、y(n−1)を計算する。これにより、(4)式が、av+b=iのように線形化され、この線形化された式と(3)式とからなる連立方程式を解いて、解x(2)を得る。この解x(2)が属する動作区間は、区間2の直線上にあり、解x(1)の動作区間は、先に特定したように区間2であるので、ここで収束したと判定する。
【0059】
以上に説明したように、両軸NR法は、従来NR法では収束しないような非線形抵抗を含む電子回路に対しても収束することができる。両軸NR法は、動作区間の特定に際し、前ステップの動作区間に近い方を選択するため、従来のNR法に比べて1回の反復で飛び越せる動作区間数が少ない。このため、両軸NR法は、非線形要素の特性によっては求める解が属する動作区間からかけ離れた動作区間に解が移動してしまうということを回避することができる。このような両軸NR法の特徴によれば、例えば、図1(b)に示すような急峻に変化する特性を有する非線形要素を含む系に対して巡回的な軌跡に陥らずに求める解を得ることができ、従来NR法よりも収束性が良くなる。
【0060】
[Katzenelson法]
Katzenelson法は、全ての非線形素子の特性が区分折れ線近似で表現され、かつ、単調増加の場合、いかなる初期値から出発しても必ず求める解に収束するアルゴリズムである(詳細は、非特許文献2参照)。この手法の概略を図9を用いて説明する。
【0061】
従来NR法とKatzenelson法の差異は動作区間を選定する部分に加えて、次の反復ステップにおける解を修正する部分にある。
【0062】
従来NR法では、現在の動作区間と新しく選定される動作区間がどれだけ離れていようとも、解が与える非線形抵抗の電圧(若しくは電流)からそのまま新しい動作区間を決定する。一方、Katzenelson法では、解が与える電圧(電流)が属する動作区間の方向に移動はするものの、最初に横切る区間と区間の境界で停止して、その向こう側を新しい動作区間とする。さらに、次の反復ステップにおける解をその境界点に修正する。すなわち、Katzenelson法は、新しい動作区間を選定する際に、一足飛びに区間を移動せずに、必ず区間の境界で停止する手法である。
【0063】
図9に示すように、従来NR法と同様に、最初の反復ステップにおける解を求めると、点Cとなる。しかしながら、点Cを解として採用せず、初期値が属する動作区間と点C方向の隣の動作区間の境界、すなわち、区間3と区間2の境界を更新された解x(1)とする。また、新たな動作区間は解x(1)の向こう側に位置する区間2とする。区間2には求める解が存在するため、次の反復ステップにおいてこの解に到達し、反復計算が終了する。
【0064】
このように、Katzenelson法は数学的に収束が保証されている。しかし、解の更新に加えて、区間の境界に位置する新たな解を計算すること、反復ステップごとに一つずつしか区間を移動できないことの理由により、従来NR法よりも計算量が増大する。また、両軸NRは、従来NR法よりも計算量が増大するが、Katzenelson法のように一つずつしか区間を移動できないわけではなく、複数の動作区間を飛び越すことができるため、両軸NR法は、Katzenelson法よりも計算量は少ない。表1に、従来NR法、両軸NR法、Katzenelson法の収束性と計算量を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
以上に説明した、非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法及びシミュレーション装置によれば、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点をKatzenelson法よりも高速に、且つ従来NR法とは異なり確実に収束することができる。
【0067】
〈実施形態2〉
非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を求めるに際し、両軸NR法のみならず、従来NR法とKatzenelson法を併用しても良い。この各方法を併用して非線形システムを表す方程式を解く方法について、図10を用いて説明する。
【0068】
まず、現在の反復子nを0で初期化する(ステップS10)。次に、初期設定処理を行う(ステップS11)。次に、反復子nをインクリメントする(ステップS12)。そして、反復子nが閾値NB以上であるか否かを比較する(ステップS13)。閾値NBは、従来NR法での計算を打ち切り、両軸NR法に切り替えるステップ数を定めた所定値である。
【0069】
反復子nが閾値NB未満であるならば(ステップS13:No)、従来NR法を用いて、反復計算を1ステップ分(動作点特定処理〜収束判定処理)行う(ステップS14)。従来NR法での計算結果が収束したならば(ステップS15:Yes)、処理を終了し、収束しないならば(ステップS15:No)、ステップS12の処理に戻る。
【0070】
一方、反復子nが閾値NB以上であるときは(ステップS13:Yes)、反復子nが閾値NK以上であるか否かを比較する(ステップS16)。閾値NKは、両軸NR法での計算を打ち切り、Katzenelson法に切り替えるステップ数を定めた所定値である。
【0071】
反復子nが閾値NK未満であるならば(ステップS16:No)、両軸NR法を用いて、反復計算を1ステップ分(動作点特定処理〜収束判定処理)行う(ステップS17)。両軸NR法での計算結果が収束したならば(ステップS15:Yes)、処理を終了し、収束しないならば(ステップS15:No)、ステップS12の処理に戻る。
【0072】
一方、反復子nが閾値NK以上であるときは(ステップS16:Yes)、Katzenelson法を用いて、反復計算を1ステップ分(動作点特定処理〜収束判定処理)行う(ステップS18)。Katzenelson法での計算結果が収束したならば(ステップS15:Yes)、処理を終了し、収束しないならば(ステップS15:No)、ステップS12の処理に戻る。
【0073】
以上のように、最初は従来NR法を用いることで、短い計算時間で解を求めようとし、一定の反復回数を超えたら、従来NR法よりも高い収束性を有する両軸NR法で解を求めようとし、さらに、一定の反復回数を超えたら、Katzenelson法を用いることで、確実に解を求めようとする。このように反復回数に基づいて、従来NR法、両軸NR法、Katzenelson法を切り替えて用いることにより、非線形システムを表す方程式について、高速且つ確実に収束するように解を得ることができる。
【0074】
〈実施例1〉
以下、本発明に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法及びシミュレーション装置を、種々の回路に適用した実施例を示す。
【0075】
本実施例1では、二つの電子回路について説明する。2つの電子回路とも、回路構成は図1(a)に示したものと同じであり、非線形抵抗RNの特性が異なる。図11(a)に示す非線形抵抗RNを含むものを電子回路II、図11(b)に示す非線形抵抗RNを含む物を電子回路IIIと表記する。
【0076】
図12(a)は、電子回路IIについて従来NR法を適用したときの解x(n)の推移を示し、図12(b)は、電子回路IIについて実施形態2に係る動作点求解方法を適用したときの解x(n)の推移を示す図である。
【0077】
図12(a)に示すように、従来NR法では、初期解x(0)(点0)から開始した場合、点1,2,3,4,5,6,・・・を追って反復計算が行われ、解x(0)、x(1)、x(2)、x(3)、・・・と更新されていく。点6の次は、点3に移動するため、6→3→4→5→6という無限ループに陥り、解x(3)とx(2)の値を交互に取るだけで、永久に求める解に収束しない。
【0078】
一方、NB−1回目までの反復では、上述の軌跡を辿るが、両軸NR法に切り替わると、1回、若しくは2回の反復で求める解に収束する。NB−1回目の反復ステップで解がx(0)、x(1)、x(2)、x(3)のいずれにあるかによって、その後の軌跡は異なるが、これら4種類の軌跡を図12(b)に示す。電子回路IIでは、両軸NR法で求める解に収束したため、Katzenelson法を適用するには至らなかった。
【0079】
図13(a)は、電子回路IIIについて従来NR法を適用したときの解x(n)の推移を示し、図13(b)は、電子回路IIについて実施形態2に係る動作点求解方法を適用したときの解x(n)の推移を示す図である。
【0080】
図13(a)に示すように、従来NR法では、初期解x(0)(点0)から開始した場合、点1,2,3,4,5,6,7,・・・を追って反復計算が行われ、解x(0)、x(1)、x(2)、x(3)、x(4)、・・・と更新されていく。点7の次は、初期値付近に戻るため、0→1→2→・・・→6→7→0という無限ループに陥る。
【0081】
一方、図13(b)に示すように、両軸NR法に切り替わると、1回、若しくは2回の反復で求める解に収束する。電子回路IIIにおいても、両軸NR法で求める解に収束したため、Katzenelson法を適用するには至らなかった。
【0082】
〈実施例2〉
本実施例では、実施形態2に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を、単相インバータ回路の解析に対して適用することで、実用的な解析例における当該方法の収束性能を確認する。解析に用いたインバータ回路を図14に、また、ダイオードモデルおよびIGBTモデルの内部を図15に示す。ダイオードは、SiCを用いたSBD(ショットキーバリアダイオード)であり、図15に示すように静的な整流特性を非線形抵抗Rstで、接合容量の変化による動的な特性を非線形キャパシタンスCjで模擬している。RstとCjの非線形特性をそれぞれ図16(a)、(b)に示す。IGBTはSiを用いたものであり、図15(b)に示すKrausのモデルで模擬している。このモデルでは、IGBTが内包するMOSFETに対応する部分の非線形な静特性を制御電圧源Vmosで表現し、酸化膜が有する容量の変化を非線形キャパシタンスCoxで模擬している。また、ベース電荷の変化により発生するベース通過電流の動特性を制御電流源Iqで模擬し、テール電流の動特性を制御電流源Ipcで模擬している。上記Coxの非線形特性を図16(c)に示す。ダイオードを模擬するD1はオン抵抗10-4Ω、オフ抵抗1014Ωの理想スイッチの特性を有する非線形抵抗、D2も同様にオン抵抗10-5Ω、オフ抵抗1013Ωの非線形抵抗とした。なお、Vmos、Iq、Ipcの計算については、文献「岡田有功、菊間俊明、高崎昌洋、竹中清、小谷和也、葛巻淳彦、松本寿彰、「インバータシミュレーションプログラムの開発(その2)−実測比較による解析精度の検証−」、電力中央研究所 研究報告 R07016,2008」に詳しく記載されている。平滑用の電解コンデンサとフィルムコンデンサは、ディスクリートの部品2並列で構成されている。これらコンデンサや回路各部の配線については、実測結果から見積もった寄生インダクタンスや寄生キャパシタンスも考慮している。この回路の過渡現象をXTAP(eXpandable Transient Analysis Programの略。電力中央研究所 研究報告 H06002,H07004,H07005,R06017,R07016を参照。)にて解析した結果は、実測結果と良好に一致する。
【0083】
図15では非線形特性を有する素子を点線で囲っているが、これからも分かるように本回路は多数の非線形要素を含むため、その収束が容易ではない。計算時間刻みをΔt=10ns、反復計算手法を切り替えるパラメータをNB=100、NK=200に設定して、実施形態2に係る動作点求解方法により1周期分の過渡解析を行った。過渡解析であるから、計算時間ステップごと(Δtごと)に非線形回路の解を求めるという作業を繰り返すことになる。ここで、従来NR法から両軸NR法に切り替える反復回数をNB=100と非常に大きな値に設定しているため、両軸NR法に切り替わった場合には従来NR法が無限ループに陥って収束しなかったものと見なしてよい。
【0084】
図17に、実施形態2に係る動作点求解方法により求められた1周期分のインバータ出力電圧および電流の波形を示す。所期の正弦波が得られ、インバータ回路の動作が正常にシミュレーションされていることが確認できる。この計算における、各計算時間ステップでの反復回数をグラフ化したものを図18に示す。同図より、ほとんどの計算時間ステップにおいて反復回数は6回程度であるが、所々、100回を超えている計算時間ステップが存在することが見て取れる。反復回数が100回を超えている計算時間ステップは、先述のように、従来NR法が収束しないケースであり、100回目以降に反復計算手法が両軸NR法に切り替わることにより、その後数回の反復で直ちに収束している。なお、100回という回数は、同図のグラフにおいて従来NR法から両軸NR法に切り替えたとき反復回数の差異が判別しやすくなるように敢えて大きな値を設定したものであり、実際には、10〜20回の反復回数で足りる。
【0085】
どのような場合に従来NR法が収束しないのかを調べるため、左下アームおよび右下アームのIGBT両端電圧波形と反復回数を時刻を揃えてプロットしたものを図19に示す。同図より、従来NR法が収束しないのはIGBT両端電圧が急変する時刻、すなわち、スイッチングの瞬間であることが分かる。IGBTがスイッチングをしなければ、回路中の電圧・電流は急変せず、各非線形素子の動作区間も大きく動くことは無いが、スイッチングにより電圧・電流が大きく変わると各非線形素子の動作区間も大きく動くこととなり、その収束過程に無限ループが形成されれば従来NR法は収束しなくなる。本回路において、従来NR法が収束しない場合、反復計算手法が両軸NR法に切り替わった直後に少なくとも6回の反復で収束しており、前出の電子回路I〜IIIと同様、Katzenelson法が用いられることはなかった。つまり、電子回路I〜IIIおよび本インバータ回路のいずれにおいても両軸NR法の段階で収束しており、両軸NR法は非常に良い収束特性を有していると言える。また、Katzenelson法は滅多に用いられることはないが、両軸NR法が数学的に収束保証された手法でない以上、保険の意味で後段に用意されていると言える。
【0086】
図20に、インバータ出力電圧波形について、実施形態2に係る動作点求解方法による結果と従来NR法による結果の比較を示す。既に図17で示したように、実施形態2に係る動作点求解方法を用いた場合、各時間ステップにおいて反復計算が正常に収束しており、問題無く1周期の計算を終了している。一方、従来NR法を用いた場合、時刻2.3ms付近で反復計算が収束せず(図20の+印)、解析の続行が不可能となっている。
【0087】
以上に説明したように、本発明に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法、そのプログラム、当該プログラムを記録した記録媒体及びシミュレーション装置では、非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を高速且つ確実に収束することができる。
【0088】
〈実施形態3〉
上述した実施形態1及び実施形態2では、電気・電子回路について、本発明に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を、コンピュータ20に実行させたが、このような態様に限られない。本発明の実施形態としては、例えば、コンピュータ20で仮想的に構築した電気・電子回路と、実機とを接続し、実機の動作の検証等を行うためのリアルタイムシミュレータ装置であってもよい。
【0089】
図21に、本実施形態に係るシミュレーション装置の一例を示す。なお、実施形態1と同一のものには同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0090】
図示するように、コンピュータ20は、電気・電子回路の各素子についての特性情報や初期解が予め設定されており、電気・電子回路の所定の素子や節点における電圧電流を計算するようになっている。この計算した電圧や電流の値は、D/Aコンバータ51により電流、電圧に変換され、電圧電流アンプ201で増幅されて制御装置200に流れる。一方、制御装置200が出力する制御信号は、A/Dコンバータ50により電気・電子回路における一素子の電圧、電流を表すデータとしてプログラム10に入力される。
【0091】
コンピュータ20では、本発明に係る非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を実行するに際し、制御装置200の動作に合わせて実時間に同期させて電気・電子回路の動作を計算する。つまり、電気・電子回路の一部をコンピュータ20で模擬し、当該電気・電子回路に接続される制御装置200の動作を検証することができる。
【0092】
〈他の実施形態〉
実施形態1〜実施形態3では、いずれも非線形システムとして電気・電子回路を対象としたが、電気・電子回路に限られず、本発明は、非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステム全般に適用できるものである。
【0093】
また、実施形態2では、従来NR法、両軸NR法、Katzenelson法を併用したが、必ずしも、この構成に限らず、従来NR法と両軸NR法とを併用する場合や、両軸NR法とKatzenelson法とを併用する場合など、3つの方法のうち何れか2つを併用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を求めることを必要とする産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1、100 シミュレーション装置
10 プログラム
11 初期設定手段
12 動作区間特定手段
13 求解手段
14 収束判定手段
20 コンピュータ
21 CPU
22 RAM
23 ROM
24 ハードディスク
30 入力装置
40 出力装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を電子計算機により求める方法であって、
非線形要素の特性を複数の動作区間ごとに直線で近似した特性情報及び前記非線形システムを表す方程式の初期解x(0)を入力する初期設定処理と、
解x(n)が属する前記非線形要素の動作区間を特定する動作区間特定処理と、
前記動作区間における前記非線形要素の直線の傾き及び切片を計算し、当該傾き及び切片から前記非線形システムを表す方程式を線形化した(a)式
【数1】
のF(n−1)の値及びy(n−1)の値を計算し、当該F(n−1)の値及びy(n−1)の値を用いて(a)式を解いて解x(n)を求める求解処理と、
解x(n)が属する前記非線形要素の動作区間と、解x(n−1)が属する動作区間とが一致した場合に解x(n)を求める解とし、一致しない場合は前記動作区間特定処理及び前記求解処理を再実行させる収束判定処理とを備え、
前記動作区間特定処理では、解x(n)(ただし、nは1以上)の動作区間を特定する際には、X軸を基準としたときの解x(n)が属する前記非線形要素の第1動作区間と、Y軸を基準としたときの解x(n)が属する前記非線形要素の第2動作区間とをそれぞれ求め、第1動作区間及び第2動作区間のうち解x(n−1)が属する前記非線形要素の動作区間に近い方を前記非線形要素の動作区間として特定する
ことを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法。
【請求項2】
請求項1に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法において、
前記初期設定処理実行後、Newton-Raphson法を用いて解を求め、所定の反復回数以内に解が求まらない場合に、前記動作区間特定処理から前記収束判定処理を実行することを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法。
【請求項3】
請求項2に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法において、
前記収束判定処理では、所定の回数以内に収束しない場合に、Katzenelson法に切り替えて解を求める
ことを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を電子計算機に実行させるプログラム。
【請求項5】
請求項4に記載するプログラムを記録した電子計算機で読み取り可能な記録媒体。
【請求項6】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を実行するように構成されたコンピュータを有することを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項7】
請求項6に記載するシミュレーション装置において、
前記非線形システムは、非線形素子を含む仮想的な電気・電子回路であり、
前記電気・電子回路の制御を行う前記制御装置からの制御信号がA/Dコンバータを介して前記電気・電子回路のシミュレーションに用いられる入力データとして入力され、
前記電気・電子回路の所定部分の電圧又は電流に関する計算値をD/Aコンバータによりその電圧又は電流に変換して前記制御装置に出力し、
前記制御装置の動作に合わせて実時間に同期させて前記電気・電子回路の動作を計算するように構成されたことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項1】
非線形要素の特性が区分折れ線近似された非線形システムの動作点を電子計算機により求める方法であって、
非線形要素の特性を複数の動作区間ごとに直線で近似した特性情報及び前記非線形システムを表す方程式の初期解x(0)を入力する初期設定処理と、
解x(n)が属する前記非線形要素の動作区間を特定する動作区間特定処理と、
前記動作区間における前記非線形要素の直線の傾き及び切片を計算し、当該傾き及び切片から前記非線形システムを表す方程式を線形化した(a)式
【数1】
のF(n−1)の値及びy(n−1)の値を計算し、当該F(n−1)の値及びy(n−1)の値を用いて(a)式を解いて解x(n)を求める求解処理と、
解x(n)が属する前記非線形要素の動作区間と、解x(n−1)が属する動作区間とが一致した場合に解x(n)を求める解とし、一致しない場合は前記動作区間特定処理及び前記求解処理を再実行させる収束判定処理とを備え、
前記動作区間特定処理では、解x(n)(ただし、nは1以上)の動作区間を特定する際には、X軸を基準としたときの解x(n)が属する前記非線形要素の第1動作区間と、Y軸を基準としたときの解x(n)が属する前記非線形要素の第2動作区間とをそれぞれ求め、第1動作区間及び第2動作区間のうち解x(n−1)が属する前記非線形要素の動作区間に近い方を前記非線形要素の動作区間として特定する
ことを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法。
【請求項2】
請求項1に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法において、
前記初期設定処理実行後、Newton-Raphson法を用いて解を求め、所定の反復回数以内に解が求まらない場合に、前記動作区間特定処理から前記収束判定処理を実行することを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法。
【請求項3】
請求項2に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法において、
前記収束判定処理では、所定の回数以内に収束しない場合に、Katzenelson法に切り替えて解を求める
ことを特徴とする非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を電子計算機に実行させるプログラム。
【請求項5】
請求項4に記載するプログラムを記録した電子計算機で読み取り可能な記録媒体。
【請求項6】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載する非線形要素の特性が区分折れ線近似されたシステムの動作点を電子計算機により求める方法を実行するように構成されたコンピュータを有することを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項7】
請求項6に記載するシミュレーション装置において、
前記非線形システムは、非線形素子を含む仮想的な電気・電子回路であり、
前記電気・電子回路の制御を行う前記制御装置からの制御信号がA/Dコンバータを介して前記電気・電子回路のシミュレーションに用いられる入力データとして入力され、
前記電気・電子回路の所定部分の電圧又は電流に関する計算値をD/Aコンバータによりその電圧又は電流に変換して前記制御装置に出力し、
前記制御装置の動作に合わせて実時間に同期させて前記電気・電子回路の動作を計算するように構成されたことを特徴とするシミュレーション装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−81674(P2011−81674A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234549(P2009−234549)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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