説明

非脂質エンベロープウイルスの除去を高めるためのVWFの精製

本発明は、非脂質エンベロープウイルスの除去を高めるための、フォンウィルブランド因子(VWF)を精製するための方法を提供する。例えば、タンパク質含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、前記タンパク質の等電点よりも高いpHの前記溶液を、陽イオン交換樹脂に適用することと、前記陽イオン交換樹脂を第1の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、前記第1の洗浄緩衝液は、前記陽イオン交換樹脂に適用される前記溶液以下であるpHを有することと、を含む、方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)項に基づき、2009年8月20日に出願された米国仮出願第61/235,570号の優先権の利益を主張するものであり、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
概して、本発明は、非脂質エンベロープウイルスの除去を高めるための、VWFを精製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フォンウィルブランド因子(VWF)は、大きさが約500〜20,000kDの範囲である一連の多量体として、血漿中を循環する糖タンパク質である。VWFの多量体形態は、ジスルフィド結合によって結合している250kDのポリペプチドサブユニットから成る。VWFは、損傷を受けた血管壁の内皮下層への初期の血小板粘着を媒介する。より大きい多量体だけが止血活性を呈する。内皮細胞が大きい重合体形態のVWFを分泌し、低分子量を有するVWFの形態のもの(低分子量のVWF)がタンパク質切断によって生じると考えられる。大きい分子質量を有する多量体は、内皮細胞のバイベル−パラーデ小体の中に貯蔵されており、刺激に応じて遊離される。
【0004】
VWFは、大部分が繰り返し領域から成るプレプロVWFとして、内皮細胞および巨核球によって合成される。シグナルペプチドの開裂に応じて、そのC末端領域でのジスルフィド結合を通してプロVWFが二量体化する。二量体は、多量体化のためのプロトマーとしての役割を果たし、遊離末端間のジスルフィド結合によって制御される。多量体への組立の後には、プロペプチド配列のタンパク質分解除去が続く(非特許文献1)。
【0005】
VWFのクローン化cDNAから予測される一次翻訳産物は、2813残基の前駆体ポリペプチド(プレプロVWF)である。プレプロVWFは、22アミノ酸シグナルペプチドおよび741アミノ酸プロペプチドから成り、成熟VWFは、2050アミノ酸を含む(非特許文献2)。
【0006】
VWFにおける欠陥は、フォンウィルブラント病(VWD)の原因であり、多少に関わらず、顕著な出血表現型によって特徴付けられる。VWD3型は、VWFが完全に欠損している最も重篤な型であり、VWD1型は、VWFの量的な喪失に関連し、その表現型は非常に軽度なものであり得る。VWD2型は、VWFの質的な欠陥に関連し、VWD3型と同程度に重篤である。VWD2型は、多くの亜型を有し、いくつかは、高分子量多量体の喪失または減少に関連付けられる。フォンウィルブランド症候群2a型(VWS−2A)は、中間および大きい多量体の双方の喪失によって特徴付けられる。VWS−2Bは、最も高い分子量の多量体の喪失によって特徴付けられる。VWFに関連する他の病気および疾患は、当技術分野において知られている。
【0007】
治療用タンパク質溶液からの非脂質エンベロープウイルスの除去または不活性化は、従来、高温(例えば、乾熱、蒸気加熱、低温殺菌)、高エネルギー光線を伴う照射(例えば、紫外(UV)線またはベータ放射線)、低pH、ナノ濾過のような物理的な方法を伴う処理によって、またはクロマトグラフィ法、特に親和性クロマトグラフィによって達成されてきた。しかしながら、これらの方法は、ナノフィルタを通過しない、および/または熱もしくは放射線で処理するとその効力または分子完全性を喪失する、VWF等の高分子量タンパク質を精製する時には、しばしば効果がない。
【0008】
現在の規制上のガイドラインは、製造業者に対して、組換え医薬品のための、脂質エンベロープウイルスおよび非脂質エンベロープウイルスの双方の低減および/または不活性化の問題に取り組むことを求めている。ICHの「Guideline on Viral Safety Evaluations of Biotechnology Products」(Federal Register,1998,63(185):51074−51084)は、製造業者に対して、製品の種類、製造プロセス、および潜在的なウイルス汚染の危険性を考慮して、ウイルス問題にどのように対処するか、柔軟性を与えている。これらのガイドラインは、ウイルス汚染の危険性が、細胞株に由来する全てのバイオテクノロジー製品に共通する特徴であると指摘している。そのような汚染は、深刻な臨床結果を招くことがあり、また、細胞株源自体(細胞基質)の汚染、または製造中の偶発的なウイルスの導入から生じ得る。
【0009】
脂質エンベロープウイルスの不活性化は、有機溶媒/界面活性剤(S/D)処理法によって極めて効果的に行うことができるが、非脂質エンベロープウイルス(NLEV)の不活性化または除去は、それらの小さいサイズおよび物理的安定性のため、困難であり得る。
【0010】
したがって、従来の技術には、VWFの精製中に非脂質エンベロープウイルスを効率的に不活性化または除去するための方法を開発する必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Leyte et al.,Biochem.J.274(1991),257−261
【非特許文献2】Ruggeri Z.A.,and Ware,J.,FASEB J.,308−316(1993)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、非脂質エンベロープウイルスの除去を高めるための、VWFを精製するための有効な方法を提供する。本発明は、高pHで製品の充填ステップおよび洗浄ステップを行うことで、NLEVの除去を高めるための、VWF精製の新規の方法を提供する。
【0013】
当技術分野において知られている、NLEVからポリペプチドを精製するための1つの方法は、ナノ濾過の使用を伴う。ナノ濾過を使用したタンパク質およびウイルスの有効な分離の背景にある原則は、ポリペプチドとウイルスとの間のサイズ差を利用することである。有効な分離には、ポリペプチドがウイルスよりも小さい有効サイズを有することが必要とされ、これで、ポリペプチドがナノフィルタの細孔を通過することを可能にする一方で、ウイルスは保持される。しかしながら、ポリペプチドおよびウイルスが互いに同程度のサイズである場合は、ポリペプチドおよびウイルスの双方がナノフィルタの細孔を通過してしまう、またはどちらも通過しないので、分離に問題が生じる。本明細書に開示する方法は、ウイルスからポリペプチドを分離するために、ナノ濾過ではなく陽イオン交換樹脂を使用し、十分に高いpHで樹脂を充填および/または洗浄することによって、この問題を解決する。
【0014】
理論に束縛されるものではないが、本明細書に開示する方法は、ポリペプチドが特定のサイズおよび/または立体配座であるポリペプチド溶液からのNLEVの改善された除去に有用である。十分に大きいサイズのポリペプチドは、ポリペプチドの等電点以上の局所的な帯電特性を有する可能性がある。すなわち、ポリペプチドの領域は、局所的な正電荷または負電荷を保持する可能性があり、それによって、ポリペプチドがカラム樹脂に吸着する一方で、ウイルスが通過することを可能にする。ポリペプチドの長さにわたるこの不均等な電荷分配は、高pHでの樹脂の充填および/または洗浄にもかかわらず、ポリペプチドを樹脂に付着させたままにすることを可能にする。
【0015】
本発明は、タンパク質含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、溶液中のタンパク質を陽イオン交換樹脂上に充填することと、該樹脂を、タンパク質の等電点よりも高いpHの緩衝液で洗浄して、ウイルスを溶出することとを含む、方法を提供する。1つの態様において、ウイルスを溶出するために、タンパク質は、該タンパク質の等電点よりも高いpHの緩衝液中で樹脂上に充填される。別の態様において、タンパク質は、洗浄ステップで使用される緩衝液ではない緩衝液中で樹脂上に充填され、該樹脂は、その後、該タンパク質の等電点よりも高いpHである緩衝液で洗浄される。
【0016】
一実施形態では、タンパク質含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、該タンパク質の等電点よりも高いpHの溶液を、陽イオン交換樹脂に適用することと、陽イオン交換樹脂を第1の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、該第1の洗浄緩衝液は、陽イオン交換樹脂に適用される溶液以下であるpHを有することと、を含む、方法を提供する。
【0017】
1つの態様において、溶液のpHは、タンパク質の等電点を約1pH単位超える。他の態様において、溶液のpHは、約1.1、または約1.2、または約1.3、または約1.4、または約1.5、または約1.6、または約1.7、または約1.8、または約1.9、または約2.0、または約2.1、または約2.2、または約2.3、または約2.4、または約2.5、または約2.6、または約2.7、または約2.8、または約2.9、または約3.0、または約3.1、または約3.2、または約3.3、または約3.4、または約3.5、または約3.6、または約3.7、または約3.8、または約3.9、または約4.0、または約4.1、または約4.2、または約4.3、または約4.4、または約4.5、または約4.6、または約4.7、または約4.8、または約4.9、または約5.0、または約5.1、または約5.2、または約5.3、または約5.4、または約5.5、または約5.6、または約5.7、または約5.8、または約5.9、または約6.0以上のpH単位であるか、またはタンパク質の等電点を超える。これらの実施形態において、pHは、約7よりも大きい。関連する態様において、タンパク質含有溶液のpHは、約7.0である。他の態様において、タンパク質含有溶液のpHは、約7.1、または約7.2、または約7.3、または約7.4、または約7.5、または約7.6、または約7.7、または約7.8、または約7.9、または約8.0、または約8.1、または約8.2、または約8.3、または約8.4、または約8.5、または約8.6、または約8.7、または約8.8、または約8.9、または約9.0、または約9.1、または約9.2、または約9.3、または約9.4、または約9.5、または約9.6、または約9.7、または約9.8、または約9.9、または約10.0、または約10.1、または約10.2、または約10.3、または約10.4、または約10.5、または約10.6、または約10.7、または約10.8、または約10.9、または約11.0、または約11.1、または約11.2、または約11.3、または約11.4、または約11.5、または約11.6、または約11.7、または約11.8、または約11.9、または約12.0、または約12.1、または約12.2、または約12.3、または約12.4、または約12.5、または約12.6、または約12.7、または約12.8、または約12.9、または約13.0以上である。
【0018】
別の実施形態では、タンパク質含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、溶液を陽イオン交換樹脂に適用することと、陽イオン交換樹脂を、陽イオン交換樹脂に適用される溶液のpHよりも高いpHの第1の洗浄緩衝液で洗浄することと、陽イオン交換樹脂を第2の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、第1の溶離液は、第1の洗浄緩衝液以下であるpHを有することと、を含む、方法を提供する。1つの態様において、第1の洗浄緩衝液のpHは、陽イオン交換樹脂に適用される溶液のpHを約1pH単位超える。他の態様において、第1の洗浄緩衝液のpHは、約0.1、または約0.2、または約0.3、または約0.4、または約0.5、または約0.6、または約0.7、または約0.8、または約0.9、または約1.1、または約1.2、または約1.3、または約1.4、または約1.5、または約1.6、または約1.7、または約1.8、または約1.9、または約2.0、または約2.1、または約2.2、または約2.3、または約2.4、または約2.5、または約2.6、または約2.7、または約2.8、または約2.9、または約3.0、または約3.1、または約3.2、または約3.3、または約3.4、または約3.5、または約3.6、または約3.7、または約3.8、または約3.9、または約4.0、または約4.1、または約4.2、または約4.3、または約4.4、または約4.5、または約4.6、または約4.7、または約4.8、または約4.9、または約5.0、または約5.1、または約5.2、または約5.3、または約5.4、または約5.5、または約5.6、または約5.7、または約5.8、または約5.9、または約6.0、または約6.1、または約6.2、または約6.3、または約6.4、または約6.5、または約6.6、または約6.7、または約6.8、または約6.9、または約7.0、または約7.1、または約7.2、または約7.3、または約7.4、または約7.5、または約7.6、または約7.7、または約7.8、または約7.9、または約8または約8.1、または約8.2、または約8.3、または約8.4、または約8.5、または約8.6、または約8.7、または約8.8、または約8.9、または約9、または約9.1、または約9.2、または約9.3、または約9.4、または約9.5、または約9.6、または約9.7、または約9.8、または約9.9、または約10以上のpH単位であるか、またはタンパク質の等電点を超える。これらの実施形態において、第1の洗浄緩衝液のpHは、約7よりも大きい。他の態様において、第1の洗浄緩衝液のpHは、約7.1、または約7.2、または約7.3、または約7.4、または約7.5、または約7.6、または約7.7、または約7.8、または約7.9、または約8.0、または約8.1、または約8.2、または約8.3、または約8.4、または約8.5、または約8.6、または約8.7、または約8.8、または約8.9、または約9.0、または約9.1、または約9.2、または約9.3、または約9.4、または約9.5、または約9.6、または約9.7、または約9.8、または約9.9、または約10.0、または約10.1、または約10.2、または約10.3、または約10.4、または約10.5、または約10.6、または約10.7、または約10.8、または約10.9、または約11.0以上である。
【0019】
ある実施形態において、溶液中のタンパク質は、少なくとも約150キロダルトンの分子質量を有するポリペプチドである。種々の態様において、溶液中のタンパク質は、少なくとも約175キロダルトン、または約180キロダルトン、または約190キロダルトン、または約200キロダルトン、または約210キロダルトン、または約220キロダルトン、または約230キロダルトン、または約240キロダルトン、または約250キロダルトン、または約260キロダルトン、または約270キロダルトン、または約280キロダルトン、または約290キロダルトン、または約300キロダルトン、または約310キロダルトン、または約320キロダルトン、または約330キロダルトン、または約340キロダルトン、または約350キロダルトン、または約360キロダルトン、または約370キロダルトン、または約380キロダルトン、または約390キロダルトン、または約400キロダルトン、または約410キロダルトン、または約420キロダルトン、または約430キロダルトン、または約440キロダルトン、または約450キロダルトン、または約460キロダルトン、または約470キロダルトン、または約480キロダルトン、または約490キロダルトン、または約500キロダルトン以上の分子質量を有するポリペプチドである。本明細書に記載されるように、ポリペプチドはまた、多量体構造から成り、そのような多量体構造は、種々の態様において、少なくとも約500キロダルトンの分子量を有する。関連する態様において、多量体構造は、少なくとも約510、または約520、または約530、または約540、または約550、または約560、または約570、または約580、または約590、または約600、または約610、または約620、または約630、または約640、または約650、または約660、または約670、または約680、または約690、または約700、または約710、または約720、または約730、または約740、または約750、または約760、または約770、または約780、または約790、または約800、または約810、または約820、または約830、または約840、または約850、または約860、または約870、または約880、または約890、または約900、または約910、または約920、または約930、または約940、または約950、または約960、または約970、または約980、または約990キロダルトン、または約1メガダルトン、または約1.1メガダルトン、または約1.2メガダルトン、または約1.3メガダルトン、または約1.4メガダルトン、または約1.5メガダルトン、または約1.6メガダルトン、または約1.7メガダルトン、または約1.8メガダルトン、または約1.9メガダルトン、または約2.0メガダルトン、または約2.1メガダルトン、または約2.2メガダルトン、または約2.3メガダルトン、または約2.4メガダルトン、または約2.5メガダルトン、または約2.6メガダルトン、または約2.7メガダルトン、または約2.8メガダルトン、または約2.9メガダルトン、または約3.0メガダルトン、または約3.1メガダルトン、または約3.2メガダルトン、または約3.3メガダルトン、または約3.4メガダルトン、または約3.5メガダルトン、または約3.6メガダルトン、または約3.7メガダルトン、または約3.8メガダルトン、または約3.9メガダルトン、または約4.0メガダルトン、または約4.1メガダルトン、または約4.2メガダルトン、または約4.3メガダルトン、または約4.4メガダルトン、または約4.5メガダルトン、または約4.6メガダルトン、または約4.7メガダルトン、または約4.8メガダルトン、または約4.9メガダルトン、または約5.0メガダルトン以上の分子質量を有する。
【0020】
いくつかの実施形態において、陽イオン交換樹脂は、カルボキシメチル(CM)、スルホアルキル(SP、SE)、硫酸、およびメチルスルホネート(S)から成る群より選択される、負に帯電した基、ならびに他の任意の負に帯電したリガンドを有する。
【0021】
さらなる実施形態において、タンパク質は、血液凝固タンパク質である。種々の態様において、血液凝固タンパク質は、第VIII因子、フォンウィルブランド因子、FI(フィブリノゲン)、FV(プロアクセレリン)、FXI(血漿−トロンボプラスチン前駆体)、およびFXIII(フィブリン安定化因子)からなる群より選択される。
【0022】
ある実施形態では、フォンウィルブラント(VWF)含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、タンパク質の等電点よりも高いpHの溶液を、陽イオン交換樹脂に適用することと、陽イオン交換樹脂を第1の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、該第1の洗浄緩衝液は、陽イオン交換樹脂に適用される溶液以下であるpHを有することと、を含む、方法を提供する。
【0023】
別の実施形態では、VWF含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、溶液を陽イオン交換樹脂に適用することと、陽イオン交換樹脂を、陽イオン交換樹脂に適用される溶液のpHよりも高いpHの第1の洗浄緩衝液で洗浄することと、陽イオン交換樹脂を第2の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、第1の溶離液は、第1の洗浄緩衝液以下であるpHを有することと、を含む、方法を提供する。
【0024】
さらなる実施形態では、VWF含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、タンパク質の等電点よりも高いpHの溶液を、陽イオン交換樹脂に適用することと、陽イオン交換樹脂を、陽イオン交換樹脂に適用されるタンパク質の等電点よりも高いpHの第1の洗浄緩衝液で洗浄することと、陽イオン交換樹脂を第2の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、第1の溶離液は、第1の洗浄緩衝液以下であるpHを有することと、を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】SDS−PAGE分離の後に、(A)銀染色、および(B)残存するrFVIIIに対するウエスタンブロット法分析を行った結果を示す図である。
【図2】MMVおよびレオウイルスをスパイクした試料による、UNO Sラン(runs)の染色されたゲルを示す図である。
【図3】MMVおよびレオウイルスをスパイクした試料による、UNO Sランの染色されたゲルを示す図である。
【図4】プロセス変形により得たrVWFの精製品を、天然状態のV8プロテアーゼでタンパク質消化し、生じたペプチドをRP−HPLCで分離した結果を示す図である。
【図5】プロセス変形により得たrVWFの精製品を、変性状態のトリプシンでタンパク質消化し、生じたペプチドをRP−HPLCで分離した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、非脂質エンベロープウイルスの除去を高めるための、VWFを生成する方法に関する。本発明の方法は、カラム(すなわち、クロマトグラフィ)にも、バッチ(すなわち、カラムハードウェアを伴わない)モードにも適用可能である。
【0027】
本発明の方法は、非脂質エンベロープウイルスの除去を高めるための、陽イオン交換樹脂に関する精製方法を利用する。陽イオン交換クロマトグラフィを使用したVWF精製の以前の方法は、中性のpHで行われていた。これらの方法は、良好な収率および純度の精製VWFの製造を可能にするが、驚くべきことに、このプロセスは、非脂質エンベロープウイルスを除去する能力が全くなかった。
【0028】
用語の定義
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。以下の参考文献は、本発明で使用される多くの用語の一般的な定義を当業者に提供する。Singleton他、DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY(2nd ed.1994);THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY(Walker ed.,1988);THE GLOSSARY OF GENETICS、5TH ED.,R.Rieger et al.(eds.),Springer Verlag(1991);およびHale and Marham,THE HAPPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY(1991)。
【0029】
本明細書に引用される各刊行物、特許出願、特許、および他の参照文献は、それが本開示と矛盾しない範囲で、参照によりその全体が組み込まれる。
【0030】
また、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈に明示されていない限り、複数の参照先を含むことに留意されたい。
【0031】
本明細書で使用される場合、以下の用語は、特に明記しない限り、それらに帰する意味を有する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「発現する」、「発現している」、および「発現」という用語は、遺伝子またはDNA配列の中の情報を明らかにすることを可能にする、または明らかにさせることを意味し、例えば、対応する遺伝子またはDNA配列の転写および翻訳に関与する細胞機能を活性化することによってタンパク質を生成することを意味する。DNA配列は、細胞内で、または細胞によって発現して、タンパク質等の「発現産物」を形成する。発現産物自体、例えば、結果として生ずるタンパク質も、「発現した」と言われる場合がある。発現産物は、細胞内の、細胞外の、または分泌型として特徴付けることができる。「細胞内」という用語は、細胞の内側を意味する。「細胞外」という用語は、細胞の外側を意味し、例えば、特定の種類の膜貫通タンパク質である。物質は、それが細胞上または細胞の内側のどこかから、大部分が細胞の外側に現れる場合に、細胞によって「分泌される」。
【0033】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」は、アミノ酸残基で構成されるポリマー、その構造変異体、関連する自然発生の構造変異体、およびペプチド結合を介して連結されたその合成非自然発生の類似体を指す。合成ポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成機を使用して調製することができる。「タンパク質」という用語は、一般的に、大きいポリペプチドを指す。「ペプチド」という用語は、一般的に、短いポリペプチドを指す。「ポリペプチド」という用語は、重合体構造も含む。したがって、「ポリペプチド」は、単量体、二量体、三量体、またはそれよりも大きい多量体構造であってもよい。これらの多量体構造は、最高5メガダルトン以上になり得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、「等電点」は、水溶液中のポリペプチドの正味の電荷がゼロである、pH値である。
【0035】
本明細書で使用される場合、ポリペプチドの「フラグメント」は、完全長ポリペプチドまたはタンパク質発現産物よりも小さいポリペプチドまたはタンパク質の任意の部分を指すことを意味する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「類似体」は、構造が実質的に類似しており、かつ同じ生物活性を有するが、分子の全体またはそのフラグメントのいずれかに対して、様々な活性の程度を有することができる、2つ以上のポリペプチドのうちのいずれかを指す。類似体は、1つ以上のアミノ酸の他のアミノ酸への置換を伴う1つ以上の突然変異に基づいて、それらのアミノ酸配列の組成が異なる。置換は、置換されているアミノ酸およびそれを置換するアミノ酸の物理化学的または機能的関連性に基づいて、保存的または非保存的であり得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、「変異体」は、通常は分子の一部ではない付加的な化学的部分を含むように修飾された、ポリペプチド、タンパク質、またはその類似体を指す。そのような部分は、分子の溶解性、吸収、生物学的半減期等を調節することができる。あるいは、この部分は、分子の毒性を低下させ、分子の望ましくない任意の副作用を除去または軽減する等が可能である。そのような効果を媒介できる部分については、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1980)に開示されている。そのような部分を分子に連結するための手順は、当技術分野において周知である。例えば、変異体は、インビボでより長い半減期をタンパク質に与える、化学的修飾を有する血液凝固因子であってもよい。種々の態様において、ポリペプチドは、グリコシル化、ペグ化、および/またはポリシアル化によって修飾される。
【0038】
組換え型VWF
プレプロVWFのポリヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1および配列番号2で示され、それぞれGenBank登録番号NM_000552およびNP_000543で入手することが可能である。成熟VWFタンパク質に対応するアミノ酸配列は、配列番号3で示される(完全長プレプロVWFアミノ酸配列のアミノ酸764−2813に対応する)。
【0039】
有用なrVWFの1つの形態は、少なくとも1つの第VIII因子(FVIII)分子をインビボで安定化する(例えば、結合する)特性、および任意に、薬理的に許容されるグリコシル化パターンを有するという特性を少なくとも持つ。その具体的な例には、A2ドメインを伴わないためタンパク質分解に耐性があるVWF(Lankhof et al,Thromb.Haemost.77:1008−1013,1997)、および糖タンパク質Ib結合ドメインと、コラーゲンおよびヘパリンの結合部位とを含むVal449からAsn730までのVWFフラグメントが挙げられる(Pietu et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.164:1339−1347,1989)。VWFが少なくとも1つのFVIII分子を安定化する能力の測定は、当技術分野の状態において知られている方法に従って、VWF欠損哺乳動物で行うことができる。
【0040】
本発明のrVWFは、当技術分野において知られている任意の方法によって生成されてもよい。1つの具体的な実施例は、組換え型VWFを生成する方法に関して参照により本明細書に組み込まれる、1986年10月23日に公開された国際公開第WO86/06096号、および1990年7月23日に出願された米国特許出願第07/559,509号に開示されている。したがって、(i)例えばRNAの逆転写および/またはDNAの増幅を介した、遺伝子操作による組み換えDNAの生成、(ii)例えばエレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションを介した、トランスフェクションによる組換えDNAの原核細胞または真核細胞への導入、(iii)例えば連続培養またはバッチ培養での、該形質転換された細胞の培養、(iv)例えば構成的または誘発によるVWFの発現、(v)例えば培地から、または形質転換された細胞を採取することによる該VWFの単離、(vi)例えば陰イオン交換クロマトグラフィまたは親和性クロマトグラフィを介して、精製されたrVWFを得ること、に関する方法は、当技術分野でよく知られている。組換え型VWFは、当技術分野においてよく知られている組換えDNA技術を使用して、形質転換された宿主細胞の中に作製してもよい。例えば、ポリペプチドをコードする配列は、適切な制限酵素を使用して、DNAから切除することができる。
【0041】
あるいは、DNA分子は、ホスホルアミド化法等の化学合成技術を使用して合成することができる。また、これらの技術の組み合わせを使用することができる。
【0042】
本発明はまた、適切な宿主の中で本発明のポリペプチドをコードするベクターも提供する。ベクターは、適切な発現制御配列に操作可能に連結されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。ポリヌクレオチドをベクターの中に挿入する前または後のいずれかにこの操作可能な連結を生じさせる方法は、よく知られている。発現制御配列は、プロモーター、アクティベーター、エンハンサー、オペレーター、リボソーム結合部位、開始シグナル、停止シグナル、キャップシグナル、ポリアデニル化シグナル、および転写または翻訳の制御に関与する他のシグナルを含む。ポリヌクレオチドをその中に有する、結果として生じるベクターは、適切な宿主を形質転換するために使用される。この形質転換は、当技術分野においてよく知られている方法を使用して行うことができる。
【0043】
本発明の実践に際しては、数多くの入手可能でかつよく知られている宿主細胞のうちのいずれかを使用してもよい。特定の宿主の選択は、例えば、選択した発現ベクターとの適合性、DNA分子によってコードされるペプチドの毒性、形質転換率、ペプチドの回収の容易さ、発現特性、生物学的安全性、およびコストを含む、当技術分野で認識される数多くの要因に依存する。全ての宿主細胞が個々のDNA配列の発現効率について同等とは限らないことを理解して、これらの要因のバランスを取らなければならない。これらの一般的なガイドラインの範囲内で、有用な微生物宿主細胞には、細菌、酵母および他の真菌、昆虫、植物、哺乳動物(ヒトを含む)の培養細胞、または当技術分野で知られている他の宿主が挙げられる。
【0044】
次に、形質転換した宿主を培養して、精製する。宿主細胞は、所望の化合物が発現するように、従来の発酵条件で培養することができる。そのような発酵条件は、当技術分野においてよく知られている。最後に、当技術分野でよく知られている方法によって、培養物からポリペプチドを精製する。
【0045】
本発明の化合物を発現させるために利用される宿主細胞に応じて、炭水化物(オリゴ糖)群を、タンパク質の中のグリコシル化部位であることが知られている部位に都合よく付着させてもよい。一般にオリゴ糖が配列Asn−X−Ser/Thrの一部であり、Xがプロリン以外の任意のアミノ酸であり得る場合、O−結合型オリゴ糖は、セリン(Ser)またはトレオニン(Thr)残基に付着し、N−結合型オリゴ糖はアスパラギン(Asn)残基に付着する。Xは、好ましくは、プロリンを除く19の天然アミノ酸のうちの1つである。N−結合型およびO−結合型オリゴ糖、ならびに各型に見られる糖残基の構造は異なる。双方の型に一般的に見られる糖の1つの型は、N−アセチルノイラミン酸(シアル酸と称される)である。シアル酸は、通常、N−結合型オリゴ糖およびO−結合型オリゴ糖の双方の末端残基であり、その負電荷によって、グリコシル化化合物に酸性質を与え得る。そのような部位は、本発明の化合物のリンカーに組み込まれてもよく、好ましくは、ポリペプチド化合物の組換え体の生成中に、細胞によって(例えば、CHO、BHK、COS等の哺乳動物細胞内で)グリコシル化される。しかしながら、そのような部位は、当技術分野において知られている合成または半合成手順によって、さらにグリコシル化されてもよい。
【0046】
あるいは、化合物は合成法によって作製してもよい。例えば、固相合成技術を使用してもよい。適切な技術は、当技術分野においてよく知られており、Merrifield(1973),Chem.Polypeptides,pp.335−61(Katsoyannis and Panayotis eds);Merrifield(1963),J.Am.Chem.Soc.85:2149;Davis et al.(1985),Biochem.Intl.10:394−414;Stewart and Young(1969),Solod Phase Peptide Synthesis;米国特許第3,941,763号;Finn et al.(1976),The Proteins(3rd ed.)2:105−253;およびErickson et al.(1976),The Proteins(3rd ed.)2:257−527に記載されているものが挙げられる。固相合成は、小さいペプチドを作成する最も対費用効果の高い方法であるので、個々のペプチドを作成する好適な技術である。
【0047】
VWFのフラグメント、変異体、および類似体
ポリペプチドフラグメント、変異体、または類似体を調製するための方法は、当技術分野でよく知られている。
【0048】
ポリペプチドのフラグメントは、酵素的切断(例えば、トリプシン、キモトリプシン)を使用し、さらに、特定のアミノ酸配列を有するポリペプチドフラグメントを産生する組換え手段を使用して調整されるが、これに限定されない。多量体化ドメインまたは当技術分野において知られている任意の他の識別可能なVWFドメイン等の、特定の活性を有するタンパク質の領域を含む、ポリペプチドフラグメントを産生してもよい。
【0049】
ポリペプチドの変異体は、ヒト形態およびヒト以外の形態のVWF(例えば、マウスVWF)を含むことを意図している。また、例えばマウス/ヒト融合ポリペプチドを含む、キメラポリペプチドも、本明細書の方法によって意図されている。
【0050】
ポリペプチド類似体を作製する方法もよく知られている。ポリペプチドのアミノ酸配列類似体は、置換類似体、挿入類似体、付加類似体、または欠失類似体とすることができる。ポリペプチドのフラグメントを含む欠失類似体は、機能または免疫原性活性に必須ではない、天然タンパク質の1つ以上の残基が欠損している。挿入類似体は、例えばポリペプチドの非末端でのアミノ酸の付加を伴う。この類似体は、免疫反応性エピトープの挿入、または単に単一の残基の挿入を含み得る。ポリペプチドのフラグメントを含む付加類似体は、タンパク質の両末端のうちのどちらかでの1つ以上のアミノ酸の付加を含み、例えば、融合タンパク質を含む。
【0051】
置換類似体は、一般的に、タンパク質内の1つ以上の部位において一方の野生型のアミノ酸をもう一方のアミノ酸と交換するものであり、ポリペプチドの1つ以上の特性を、他の機能または特性を失うことなく、調節するように設計してもよい。1つの態様において、置換は、保存的置換である。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸を、類似した化学的特性の側鎖を有するアミノ酸と置換することを意味する。保存的置換を行うための類似したアミノ酸には、酸性側鎖(グルタミン酸、アスパラギン酸)を有するもの、塩基性側鎖(アルギニン、リジン、ヒスチジン)を有するもの、極性アミド側鎖(グルタミン、アスパラギン)を有するもの、疎水性脂肪族側鎖(ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、グリシン)を有するもの、芳香族側鎖(フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)を有するもの、小さい側鎖(グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、メチオニン)を有するもの、または脂肪族ヒドロキシル側鎖(セリン、トレオニン)を有するもの、が挙げられる。
【0052】
類似体は、それらが由来する組換え型VWFと実質的に相同であっても、または実質的に同一であってもよい。好適な類似体は、野生型ポリペプチドの生物活性(例えば、血液凝固活性)のうちの少なくとも一部を維持しているものである。
【0053】
意図しているポリペプチド変異体は、ユビキチン化、ポリシアル化を含むグリコシル化、治療剤または診断剤との接合、標識化、ペグ化(ポリエチレングリコールによる誘導体化)等の共有結合重合体の付着、非加水分解性結合の導入、および通常はヒトタンパク質には生じないオルニチン等のアミノ酸の化学合成による挿入または置換等の技術によって化学修飾されるポリペプチドを含む。変異体は、本発明の非修飾分子と同じまたは本質的に同じ結合特性を維持している。そのような化学修飾には、VWFポリペプチドへの作用物質の直接的または間接的な(例えば、リンカーを介した)付着が挙げられる。間接的な付着の場合、リンカーは加水分解性であっても、または非加水分解性であってもよいと考えられる。
【0054】
ペグ化ポリペプチド類似体の調製は、一般に、(a)結合構築体ポリペプチドが1つまたは複数のPEG基に付着する条件下でポリペプチドを、ポリエチレングリコール(PEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体等)と反応させるステップと、(b)反応生成物を得るステップとを含む。一般に、アシル化反応のための最適な反応条件は、既知のパラメータおよび所望の結果に基づいて決定される。例えば、PEG:タンパク質の比率が大きくなるにつれて、ポリペグ化された生成物の割合が高くなる。いくつかの実施形態において、結合構築体は、N末端に単一のPEG部分を有する。ポリエチレングリコール(PEG)は、インビボでより長い半減期を提供するために、血液凝固因子に付着させてもよい。PEG基は、好都合な任意の分子量であってもよく、直鎖であっても、または分鎖でもよい。PEGの平均分子量は、約2キロダルトン(「kD」)〜約100kDa、約5kDa〜約50kDa、または約5kDa〜約10kDaの範囲である。PEG基は、血液凝固因子の反応基(例えば、アルデヒド基、アミノ基、またはエステル基)に対するPEG部分上の天然または人工の反応基(例えば、アルデヒド基、アミノ基、チオール基、またはエステル基)を通して、アシル化または還元的アルキル化を介して、または当技術分野において知られている任意の他の技術によって、血液凝固因子に付着する。
【0055】
ポリシアル酸化されたポリペプチドを調製するための方法は、米国特許出願公開第20060160948号,Fernandes et Gregoriadis;Biochim.Biophys.Acta 1341:26−34,1997、およびSaenko et al.,Haemophilia 12:42−51,2006に記載されている。簡単に説明すると、0.1MのNaIOを含むコロミン酸溶液を暗所で室温にて撹拌してCAを酸化する。この活性化CA溶液を、例えば、暗所で0.05Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)に対して透析し、この溶液をrVWF溶液に加えて、緩やかに振盪しながら暗所で室温にて18時間インキュベートする。次いで、限外濾過/ダイアフィルトレーションによって、このrVWF−ポリシアル酸接合体から遊離試薬を分離することができる。rVWFとポリシアル酸との接合はまた、架橋剤としてグルタルアルデヒドを使用して行ってもよい(Migneault et al.,Biotechniques 37:790−796,2004)。
【0056】
本発明のポリペプチドは、ポリペプチドである第2の作用物質との融合タンパク質であってもよいことをさらに意図している。一実施形態において、ポリペプチドである第2の作用物質は、酵素、成長因子、抗体、サイトカイン、ケモカイン、細胞表面受容体、細胞表面受容体の細胞外ドメイン、細胞接着分子、または前述のタンパク質のフラグメントもしくは活性ドメインであるが、これに限定されない。関連する実施形態において、第2の作用物質は、第VIII因子、第VII因子、第IX因子等の、血液凝固因子である。意図している融合タンパク質は、当技術分野でよく知られている化学的技術または組換え技術によって作製される。
【0057】
さらに、プレプロVWFポリペプチドおよびプロVWFポリペプチドが、本発明の製剤において治療効果を提供してもよいことも意図している。例えば、米国特許第7,005,502号は、インビトロで血小板の存在下でのトロンビン産生を誘発する、大量のプロVWFを含む医薬製剤を記載している。本発明は、天然の成熟VWFの組換え型、生物活性フラグメント、変異体、または類似体に加えて、本明細書に記載される製剤で、プレプロVWF(配列番号2で示す)またはプロVWFポリペプチド(配列番号2のアミノ酸残基23〜764)の組み換え型、生物活性フラグメント、変異体、または類似体を使用することを意図している。
【0058】
熟練者であれば、天然分子と同一または類似の生物活性を有する、天然分子の生物活性フラグメント、変異体、または類似体をコードするために、フラグメント、変異体、および類似体をコードするポリヌクレオチドを容易に産生することができる。これらのポリヌクレオチドは、PCR技術、分子をコードするDNAの消化/連結等を使用して調製することができる。したがって、当業者は、部位特異的突然変異誘発が挙げられるが、これに限定されない、当技術分野で知られている任意の方法を使用して、改変されたコドンおよびミスセンス突然変異をもたらすために、DNA鎖に単一塩基の変化を生じさせることが可能になるであろう。本明細書で使用する場合、「適度に厳重なハイブリッド化条件」という句は、例えば、50%のホルムアミド中で、42℃でハイブリッド化し、0.1×SSC、0.1%のSDS中で、60℃で洗浄することを意味する。当業者であれば、ハイブリッド化する配列の長さおよびGCヌクレオチド塩基含有量に基づいて、これらの条件に変化が生じること理解するであろう。当技術分野出の標準的な配合は、正確なハイブリッド化条件を決定するのに適している。Sambrook et al.,9.47−9.51 in Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989)を参照されたい。
【0059】
VWFを生成する方法
産業的に、VWF、特にヒト組換え型VWF(rVWF)は、遺伝子操作されたCHO細胞株の中でrFVIIIとともに合成されて発現する。共発現したrVWFの機能は、細胞培養プロセスでrFVIIIを安定化することである。rVWFは、細胞の中でプロ形態として合成され、N末端に付着した大きいプロペプチドを含有する。小胞体およびゴルジ体の成熟に応じて、プロペプチドは、細胞プロテアーゼフリンの作用によって開裂され、同一のサブユニットの同種重合体として分泌され、発現したタンパク質の二量体から成る。
【0060】
VWFの精製
本明細書では、タンパク質含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、タンパク質の等電点よりも高いpHの溶液を、陽イオン交換樹脂に適用することと、陽イオン交換樹脂を第1の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、該第1の洗浄緩衝液は、陽イオン交換樹脂に適用される溶液以下であるpHを有することと、を含む、方法を提供する。
【0061】
1つの態様において、溶液のpHは、タンパク質の等電点を約1pH単位超える。他の態様において、溶液のpHは、約1.2、または約1.4、または約1.6、または約1.8、または約2.0、または約2.2、または約2.4、または約2.6、または約2.8、または約3.0、または約3.2、または約3.4、または約3.6、または約3.8、または約4.0、または約4.2、または約4.4、または約4.6、または約4.8、または約5.0、または約5.5、または約6.0pH単位であるか、またはタンパク質の等電点を超える。
【0062】
これらの実施形態において、pHは、約7よりも大きい。他の態様において、pHは、約7.1、または約7.2、または約7.3、または約7.4、または約7.5、または約7.6、または約7.7、または約7.8、または約7.9、または約8.0、または約8.1、または約8.2、または約8.3、または約8.4、または約8.5、または約8.6、または約8.7、または約8.8、または約8.9、または約9.0、または約9.1、または約9.2、または約9.3、または約9.4、または約9.5、または約9.6、または約9.7、または約9.8、または約9.9、または約10.0、または約10.1、または約10.2、または約10.3、または約10.4、または約10.5、または約10.6、または約10.7、または約10.8、または約10.9、または約11.0、または約11.1、または約11.2、または約11.3、または約11.4、または約11.5、または約11.6、または約11.7、または約11.8、または約11.9、または約12.0、または約12.1、または約12.2、または約12.3、または約12.4、または約12.5、または約12.6、または約12.7、または約12.8、または約12.9、または約13.0以上である。
【0063】
別の実施形態では、タンパク質含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、溶液を陽イオン交換樹脂に適用することと、陽イオン交換樹脂を、陽イオン交換樹脂に適用される溶液のpHよりも高いpHの第1の洗浄緩衝液で洗浄することと、陽イオン交換樹脂を第2の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、該第2の洗浄緩衝液は、第1の洗浄緩衝液以下であるpHを有することと、を含む、方法を提供する。1つの態様において、第1の洗浄緩衝液のpHは、陽イオン交換樹脂に適用される溶液のpHを約1pH単位超える。このステージに関して、イオン交換媒体は、UNOsphere(商標)S(BioRad Laboratories,Inc.,Hercules,CA)であることを意図しているが、本方法の実践には、他の陽イオン交換システムを使用してもよい。これらの陽イオン交換系は、当業者に知られている。
【0064】
他の態様において、第1の洗浄緩衝液のpHは、約1.1、または約1.2、または約1.3、または約1.4、または約1.5、または約1.6、または約1.7、または約1.8、または約1.9、または約2.0、または約2.1、または約2.2、または約2.3、または約2.4、または約2.5、または約2.6、または約2.7、または約2.8、または約2.9、または約3.0、または約3.1、または約3.2、または約3.3、または約3.4、または約3.5、または約3.6、または約3.7、または約3.8、または約3.9、または約4.0、または約4.1、または約4.2、または約4.3、または約4.4、または約4.5、または約4.6、または約4.7、または約4.8、または約4.9、または約5.0、または約5.1、または約5.2、または約5.3、または約5.4、または約5.5、または約5.6、または約5.7、または約5.8、または約5.9、または約6.0pH単位であるか、またはタンパク質の等電点を超える。これらの実施形態において、第1の洗浄緩衝液のpHは、約7よりも大きい。他の態様において、第1の洗浄緩衝液のpHは、約7.1、または約7.2、または約7.3、または約7.4、または約7.5、または約7.6、または約7.7、または約7.8、または約7.9、または約8.0、または約8.1、または約8.2、または約8.3、または約8.4、または約8.5、または約8.6、または約8.7、または約8.8、または約8.9、または約9.0、または約9.1、または約9.2、または約9.3、または約9.4、または約9.5、または約9.6、または約9.7、または約9.8、または約9.9、または約10.0、または約10.1、または約10.2、または約10.3、または約10.4、または約10.5、または約10.6、または約10.7、または約10.8、または約10.9、または約11.0、または約11.1、または約11.2、または約11.3、または約11.4、または約11.5、または約11.6、または約11.7、または約11.8、または約11.9、または約12.0、または約12.1、または約12.2、または約12.3、または約12.4、または約12.5、または約12.6、または約12.7、または約12.8、または約12.9、または約13.0以上である。
【0065】
以下の実施例は、限定することを意図したものではなく、本発明の具体的な実施形態の例示に過ぎない。
【実施例】
【0066】
実施例1
以下に記載されるアッセイで使用されるウイルスおよび細胞は、以下の通りである。
【0067】
レオ−3(レオウイルス科;非エンベロープdsRNAウイルス)、Dearing株(ATCC VR−824)は、ATCCから入手した。ウイルスは、増殖させて、ECACC(84113001)から入手したベロ細胞上に滴定した。MMV(パルボウイルス科;非エンベロープssDNAウイルス)、原型株(ATCC VR−1346))は、American Type Culture Collection,Rockvill,Marylandから入手した。ウイルスは、増殖させて、A9細胞(ATCC CCL−1.4)上に滴定した。PPV(パルボウイルス科;非エンベロープssDNAウイルス)、テネシー株(BRFF #PP951024)は、Biological Research Faculty&Facility,Ijamsville,Marylandから入手した。ウイルスは、増殖させて、PK−13細胞(ATCC CRL−6489)上に滴定した。EMCV(ピコルナウイルス科;非エンベロープssRNA)(ATCC #VR−129B)は、American Type Culture Collectionから入手した。ウイルスは、増殖させて、ベロ細胞(European Collection of Cell Cultures,ECACC,#84113001)上に滴定した。HadV(アデノウイルス科;非エンベロープdsDNA)、アデノイド75株(ATCC VR−5)は、American Type Culture Collectionから入手した。ウイルスは、増殖させて、HeLa細胞(ATCC CCL−2)上に滴定した。
【0068】
例示的なVWF精製プロセスに関係するステップは、以下を含む:
● 細胞培養上清の免疫親和性クロマトグラフィ
i.フロースルー画分
● 陰イオン交換(例えば、トリメチルアミノエチル陰イオン交換カラム)
● 濾過(0.45/0.2μm)
● 陰イオン交換(例えば、MustangQ(Pall Corporation))
● ウイルス不活性化(例えば、有機溶媒/界面活性剤処理を使用)
● 濾過(0.8/0.65μm)
● 陽イオン交換(例えば、UNO Sカラム)
● 限外濾過/濃縮
● 濾過(0.45/0.2μm)
● ゲル濾過(Superose 6 prep grade(GE Life Sciences))
【0069】
UNO Sステップの最適化。UNO Sステップ中は、rVWFが強陽イオン交換樹脂に結合される一方で、不純物の一部は通過する。伝導性を高めた緩衝液でカラムを洗浄した後に、結合したrVWFは、塩ステップでカラムから放出される。初期のウイルス除去実験中、このステップは、モデルのレオウイルスについては少なくとも顕著な除去率を示した。適用したパラメータの条件および対応する結果を、下記表1に列記する。
【0070】
【表1】

【0071】
表1で分かるように、プロセスパラメータ(伝導性の調節、pH8.0、および洗浄緩衝液に対する添加物)の適度な変更は、MMV除去率の顕著な改善をもたらさなかった。再現的にpHをさらに9.0まで高めたところ、MMVならびにレオウイルスについて2logを超える顕著な除去率をもたらした。このプロセスの変更を実行することは、技術的に容易であり、rVWFの高pH環境への曝露を比較的に短く(最高6時間)保つことができる。結合したrVWFの溶出は、中性条件の下で行う。
【0072】
プロセスのウイルス不活性化能の分析は、以下の式を使用して、CPMPガイドライン268/95の勧告に従って行った。
【0073】
【数1】

【0074】
ここで、
R=ウイルス低減率
V1=出発材料の容積[ml]
T1=出発材料中のウイルス濃度[TCID50/ml]
V2=ステップ後の材料の容積[ml]
T2=ステップ後のウイルス濃度[TCID50/ml]
【0075】
Rを計算するために、処理前および処理後の各スパイクした試料の容積および力価を使用した。ウイルスが検出できなかった時は常に、検出限界を計算のためのウイルス力価とみなした。計算は、小数第2位で与えられるウイルス力価によって行い(log10[TCID50/ml])、最終結果、すなわち低減率(R)だけ、小数第1位に丸めた。
【0076】
実施例2
UNO S溶出液は、不純物および生成物変異体の微量成分分析を容易にするために、30kDaカットオフの変性セルロース膜を使用した限外濾過によって、約800μgのrVWF抗原/mlに濃縮した。
【0077】
rVWFの試験
リストセチン活性。リストセチン補因子活性は、安定化した血小板および抗生物質「リストセチン」を含有するフォンウィルブラント試薬を使用した比濁分析によって測定する。試料(=リストセチン補因子)中に含有されるフォンウィルブランド因子は、リストセチンの存在下で、安定化した血小板の凝集を引き起こす。凝集は、試薬調製物の濁度を低減し、吸光度の変化は、比濁分析計によって測定する。較正は、WHO濃縮標準品#00/514によって行う。
【0078】
VWF抗原。VWF試料は、ELISAアッセイ(2つのポリクローナル抗体によるダブルサンドイッチ方式)において、それらのvWF−抗原の含有量を検査する。マイクロタイタープレート上での呈色反応の測定は、490nmで光度計によって行う。各試料の濃度は、コンピュータ支援のELISA分析プログラム(曲線アルゴリズム:3次回帰)によって標準曲線に対して計算する。全ての読み取り値は、ブランクに対して補正する。
【0079】
FVIII結合活性。静的条件下でのrVWFのFVIII結合は、希釈されたVWF含有試料で一定量のrFVIIIをインキュベートすることによって、ELISA発色アッセイ(ECA)によって決定した。形成されたVWF−FVIIIの複合物は、次いで、市販のポリクローナルウサギ抗ヒトVWF抗体で被覆されたマイクロタイタープレートへ移した。インキュベーションの後、結合していないFVIIIを、以降の洗浄ステップによって除去した。結合したFVIIIは、市販のFVIII発色アッセイ(Technochrom FVIII:C試薬キット、Technoclone、Austria)によって定量化した。ブランク補正吸光度(405nmでのmOD/min)を、対数目盛で、VWF:Ag濃度に対してプロットした。
【0080】
SDS−PAGE分析。還元的条件下での従来の8%SDS−PAGE分析、ならびにクーマシーブルーおよび銀染色によるゲルの染色は、rVWFのタンパク質組成の見識を提供することができる。分離したタンパク質バンドをニトロセルロース膜に移して、該タンパク質を、それぞれVWF、FVIII、およびフリンに対する適切な抗体で免疫学的に染色した後に、全タンパク質に対するVWF関連タンパク質の比較を行うことができる。
【0081】
多量体分析。VWFの多量体構造は、高密度水平SDSアガロースゲル電気泳動法によって分析する。簡潔には、試料を、0.3〜1.0IU/mlのVWF:Agの範囲で、同じ濃度に希釈し、トリス−EDTA−SDS緩衝液およびアガロースゲル上で非還元的条件下で分離される多量体とともにインキュベートする。VWF多量体は、ALP発色現像キットを使用して、ポリクローナルウサギ抗ヒトVWF抗体、その後の、アルカリホスファターゼ(ALP)接合ヤギ抗ウサギIgGによるゲル内免疫染色によって視覚化した。あるいは、アガロースゲルをブロット膜上にブロットし、ポリクローナルウサギ抗ヒトVWF抗体、その後の、西洋ワサビペルオキシダーゼ接合抗ウサギIgGによって染色を行った。視覚化のために、VWFの検出感度を少なくとも2桁高める、電気化学発光を使用した。VWF多量体および多量体構造のサイズ分布をそれぞれ分析するために、低分解能(1%のアガロース)および高分解能(2.5%のアガロース)条件を使用した。
【0082】
HPLC分析。組換え型VWFは、逆転位相HPLC C4−カラム上で分離される2つの主要なフラグメント(N末端およびC末端ホモ二量体フラグメント)を与えるために、自然条件下でGluC(V8プロテアーゼ)によって開裂することができる。フラグメントは、280nmでUV吸光度をモニタリングすることによって検出する。
【0083】
ペプチドマッピング。rVWFの一次構造を、ペプチドマッピング手法を使用して調査した。精製されたrVWFの試料を、ジチオスレイトール(DTT)で還元し、遊離スルフヒドリル基を、4−ビニルピリジンで閉鎖した。配列決定用グレードのトリプシンをrVWFに加えて、18時間にわたって反応させた。結果として生じたペプチド混合物を、逆相クロマトグラフィによって分離した。溶出ペプチドを、214nmでのオンラインUV検出、およびオンラインエレクトロスプレーイオン化質量分析法によって検出した。
【0084】
脱アミド化されたrVWFの試験。イソアスパラギン酸(アスパラギンの脱アミド化に由来する1つの反応生成物)を検出するための分析法は、トリプシン消化、その後の、Promega社によって供給されるISOQUANT Isoaspartate Detection Kitを使用した、タンパク質イソアスパラギン酸メチル基転移酵素(PIMT)の酵素反応を用いている。PIMTは、カルボキシル位置で、基質S−アデノシル−Lメチオニン(SAM)からイソアスパラギン酸へのメチル基の転移を触媒し、S−アデノシルホモシステイン(SAH)を産生する。化学量論的に放出されたSAHは、RP−HPLC法によって260nmの波長で検出する。
【0085】
異なるプロセスによって得られた製品の分析データを表2に要約する。
【0086】
【表2】

【0087】
表2から分かるように、異なるプロセス変形によって精製されたrVWFの生化学的性質は、同等である。
【0088】
rVWFタンパク質の主なバンドは、全ての生成物において極めて類似しているが、不純物の程度は、残存するrFVIIIに対する銀染色およびウエスタンブロット分析の両方で、試料#1(図1で、VWF#07と記されている)においてより低い。rFVIIIのバンドパターンは、全てのバッチ間で同等であり、これは、pH9.0という条件に起因するいかなる劣化も起こっていないことを示唆する。
【0089】
低分解能および高分解能アガロースゲル電気泳動は、rVWF調製物の高い類似性を明らかにした。低分解能多量体分析による多量体組成に、違いは見られなかった。図2は、MMVおよびレオウイルスをスパイクした試料による、UNO Sランの染色されたゲルを示す。また、高分解能多量体分析は、pH9.0という条件に起因するいかなる損傷もrVWF多量体に起こっていないことを示唆する、無傷の多量体パターンを明らかにした。図3は、MMVおよびレオウイルスをスパイクした試料による、UNO Sランの染色されたゲルを示す。
【0090】
ISOQUANTアッセイでは、pH9.0でのrVWFの滞留時間のため、脱アミド化促進は検出されなかった。一般に、脱アミド化したrVWFのモル百分率は極めて低い。プロセス変形によって得られたrVWFの精製された調製物を、自然状態のV8プロテアーゼ(図4を参照)または変性状態のトリプシン(図5を参照)のいずれかによるタンパク質消化に供し、結果として生じたペプチドをRP−HPLCによって分離することで、全ての試料について類似したクロマトグラムをもたらした。
【0091】
ピークパターンの中の僅かな差異は、調整物中の異なる量の不純物(図1で分かるように、主に残存するrVWFプロペプチド)の存在に起因するものであり、これは、質量分析法またはN末端配列分析によって確認した。
【0092】
実施例3
MMVのスパイクを伴う高pHの陽イオン交換クロマトグラフィによるrVWFの精製。
【0093】
カラムの中に詰められたUNOsphere S樹脂は、1CVの2MのNaClで活性化し、25CVの緩衝液(pH=9.0)で平衡化した。その後に、15mS/cmの伝導性および9.0のpHに調整し、かつマウス微小ウイルス(MMV)でスパイクしたrVWF含有溶液を、約10.0cm/hの線流速でカラム上に充填した。次いで、カラムを、10CVの平衡緩衝液(pH=9.0)で洗浄し、生成物を、65cm/hの線流速で、3.5CVの溶出緩衝液(pH=7.5)で溶出させた。充填および洗浄段階中に上昇したpHは、樹脂に対するウイルス粒子の結合を大幅に低減したが、生成VWFの結合は完全に維持した。その結果、充填したウイルス粒子の大部分は、非結合(フロースルー)に見つかり、その生成物から分離した洗浄画分は、高収率で溶出液プールに回収された。表3の結果は、この手順を適用することによって、非エンベロープウイルスのマウス微小ウイルス(MMV)で2logのウイルス除去能力を得ることができたことを示している。
【0094】
TCID50アッセイは、以下のように行った。簡潔には、試料の連続1/2log希釈物を、適切な組織培養培地の中で調製し、100μlの各希釈物を、指標細胞叉を播種したマイクロタイタープレートの8つのウエルのそれぞれに加えた。次いで、細胞を、顕微鏡の下での細胞の視覚的検査によって細胞変性効果が評価される前に、36℃±2℃で7日間インキュベートした。50%組織培養感染量(TCID50)は、ポアソン分布に従って計算し、log10[TCID50/ml]で表した。
【0095】
【表3】

【0096】
精製は、15mmの直径および14cmのベッド高さを伴うカラムを使用して行った。示されるデータは、活性マウス微小ウイルスのウイルス力価である。
【0097】
実施例4
レオ3型ウイルスのスパイクを伴う高pHの陽イオン交換クロマトグラフィによるrVWFの精製。
【0098】
カラムの中に詰められたUNOsphere S樹脂は、1CVの2MのNaClで活性化し、25CVの緩衝液(pH=9.0)で平衡化した。その後に、15ms/cmの伝導性および9.0のpHに調整し、かつ種々の非エンベロープウイルスでスパイクしたrVWF含有溶液を、約100cm/hの線流速でカラム上に充填した。次いで、カラムを、10CVの平衡緩衝液(pH=9.0)で洗浄し、生成物を、65cm/hの線流速で、3.5CVの溶出緩衝液(pH=7.5)で溶出させた。充填および洗浄段階中に上昇したpHは、樹脂に対するウイルス粒子の結合を大幅に(significantely)低減したが、生成VWFの結合は完全に維持した。その結果、充填したウイルス粒子の大部分は、非結合(フロースルー)に見つかり、その生成物から分離した洗浄画分は、高収率で溶出液プールに回収された。表4の結果は、この手順を適用することによって、非エンベロープウイルスのマウスレオウイルス3型(レオ−III)で2logのウイルス除去能力を得ることができたことを示している。
【0099】
【表4】

【0100】
精製は、15mmの直径および14cmのベッド高さを伴うカラムを使用して行った。示されるデータは、活性マウスレオウイルスIII型(レオ−III)のウイルス力価である。
【0101】
実施例5
標準的な手順(中性pH)に従ったUNOsphere SでのrVWFの精製。
【0102】
カラムの中にパックされるUNOsphere S樹脂は、1CVの2MのNaClで活性化し、25CVの緩衝液(pH=6.5)で平衡化した。その後に、15mS/cmの伝導性および6.5のpHに調整し、かつ非エンベロープウイルスでスパイクしたrVWF含有溶液を、約100cm/hの線流速でカラム上に充填した。次いで、カラムを、10CVの平衡緩衝液(pH=6.5)で洗浄し、生成物を、65cm/hの線流速で、3.5CVの溶出緩衝液(pH=7.5)で溶出させた。試験を行った種々のウイルスのウイルス力価を、異なるクロマトグラフィ画分(充填、カラムフロースルー、洗浄、溶出、ポスト溶出液)で評価し、低減率を計算した。表5の結果は、VWFのための標準的な精製手順をUNOsphere Sに適用することによる、非エンベロープウイルスの除去能力は、非脂質エンベロープウイルスの除去のための頑健なクロマトグラフィステップを主張するために試験を行った異なる型のウイルスには不十分であったことを示している。
【0103】
【表5】

【0104】
低減率は、対数値において表され、充填画分中の総ウイルス充填量を溶出液画分中の総ウイルス充填量で割って計算される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、
前記タンパク質の等電点よりも高いpHの前記溶液を、陽イオン交換樹脂に適用することと、
前記陽イオン交換樹脂を第1の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、前記第1の洗浄緩衝液は、前記陽イオン交換樹脂に適用される前記溶液以下であるpHを有することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記陽イオン交換樹脂に適用される前記溶液は、前記タンパク質の前記等電点を少なくとも1pH単位超えるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、
前記溶液を陽イオン交換樹脂に適用することと、
前記陽イオン交換樹脂を、前記陽イオン交換樹脂に適用される前記溶液の前記pHよりも高いpHの第1の洗浄緩衝液で洗浄することと、
前記陽イオン交換樹脂を第2の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、第1の溶離液は、前記第1の洗浄緩衝液以下であるpHを有することと、
を含む、方法。
【請求項4】
前記第1の洗浄緩衝液の前記pHは、前記陽イオン交換樹脂に適用される前記タンパク質の前記等電点を少なくとも1pH単位超えるものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、
前記タンパク質の前記等電点よりも高いpHの前記溶液を、陽イオン交換樹脂に適用することと、
前記陽イオン交換樹脂を、前記陽イオン交換樹脂に適用される前記タンパク質の前記等電点よりも高いpHの第1の洗浄緩衝液で洗浄することと、
前記陽イオン交換樹脂を第2の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、前記第1の溶離液は、前記第1の洗浄緩衝液以下であるpHを有することと、
を含む、方法。
【請求項6】
前記陽イオン交換樹脂に適用される前記溶液は、前記タンパク質の前記等電点を少なくとも1pH単位超えるものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の洗浄緩衝液の前記pHは、前記陽イオン交換樹脂に適用される前記溶液の前記pHを少なくとも1pH単位超えるものである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記pHは、7.0よりも大きい、請求項2、4、6、または7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶液中の前記タンパク質は、少なくとも約150キロダルトンの分子質量を有するポリペプチドである、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記陽イオン交換樹脂は、カルボキシメチル(CM)、スルホアルキル(SP、SE)、セルロースの硫酸化エステル、ヘパリン、およびメチルスルホネート(S)から成る群より選択される、負に帯電した基を有する、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質は、血液凝固タンパク質である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記血液凝固タンパク質は、第VIII因子およびフォンウィルブランド因子から成る群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
フォンウィルブラント(VWF)含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、
前記タンパク質の等電点よりも高いpHの前記溶液を、陽イオン交換樹脂に適用することと、
前記陽イオン交換樹脂を第1の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、前記第1の洗浄緩衝液は、前記陽イオン交換樹脂に適用される前記溶液以下であるpHを有することと、
を含む、方法。
【請求項14】
VWF含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、
前記溶液を陽イオン交換樹脂に適用することと、
前記陽イオン交換樹脂を、前記陽イオン交換樹脂に適用される前記溶液の前記pHよりも高いpHの第1の洗浄緩衝液で洗浄することと、
前記陽イオン交換樹脂を第2の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、前記第1の溶離液は、前記第1の洗浄緩衝液以下であるpHを有することと、
を含む、方法。
【請求項15】
VWF含有溶液から非脂質エンベロープウイルスを除去するための方法であって、
前記タンパク質の前記等電点よりも高いpHの前記溶液を、陽イオン交換樹脂に適用することと、
前記陽イオン交換樹脂を、前記陽イオン交換樹脂に適用される前記タンパク質の前記等電点よりも高いpHの第1の洗浄緩衝液で洗浄することと、
前記陽イオン交換樹脂を第2の洗浄緩衝液で洗浄して、溶出液を形成することであって、前記第1の溶離液は、前記第1の洗浄緩衝液以下であるpHを有することと、
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−502434(P2013−502434A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525731(P2012−525731)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/046180
【国際公開番号】WO2011/022657
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】