説明

面実装コイル及び面実装コイルの製造方法

【目的】熱圧着接合時のコイルの巻回部と引出し部との接触による絶縁材の損傷を防止した面実装コイルと面実装コイルの製造方法を提供する。
【構成】 面実装コイル10は、α巻きした平角線12の両端部分が巻回部15の最外周部15aから折曲成形されて引出し部12a,12bが形成された空芯コイル20と、凹部24を有する箱形コア25と、その上面に接着固定された蓋コア28と、蓋コア28と一体の軸芯コア部26と、箱形コア25に取り付けた端子電極29とを備え、空芯コイル20の空芯部18が軸芯コア部26に隙間Sをもって挿通されるとともに、引出し部12a,12bの端末が端子電極29,29上に熱圧着にて導電接合された構造であり、特に、引出し部12a,12bと最外周部15aとの隙間部分には充填され、且つ空芯コイル20の内周面と軸芯コア部26との隙間Sは埋めないように絶縁樹脂7が充填硬化されている構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の基板に面実装されるチョークコイルなどの巻線タイプの面実装コイルの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の基板に面実装されるチョークコイルに代表される巻線タイプの面実装コイルの1つとして、1アンペア若しくはそれ以上の大きな電流を流すことができる所謂パワーチョークコイルがある。
【0003】
このパワーチョークコイルのような面実装コイルとして、例えば、図9のように垂直断面が長方形形状の導線13をポリウレタン樹脂などの絶縁材14で被覆した絶縁被覆導線の平角線12を、図10の従来のチョークコイルの構造を説明するための分解斜視図に示されるように、中側から外側に互いに逆方向に2段に巻回積層する所謂α巻きを施すとともに、導線13に電流を流して加熱して前記巻回積層した平角線12の絶縁材14の表面を融着固定して巻回部15全体を一体化し、前記平角線12の両端部分をそれぞれ前記巻回部15の最外周部15aから折曲成形して巻回部15の上面と略面一に引き出した引出し部12a,12bを形成した空芯コイル20と成し、これを前記空芯コイル20を収容する凹部24と該凹部24を囲む側壁23に設けられ前記凹部24から外側に通じる引き出し溝22とを備えたフェライトからなる箱形コア25の前記凹部24に収納し、前記箱形コア25の側壁23の引き出し溝22の底面から側壁23の外側面を介して前記箱形コア25の底面に亘って設けられた一対の端子電極29,29に、前記空芯コイル20の平角線12の両端の引出し部12a,12bの端末がそれぞれ位置するように載せ、図示されない600℃〜850℃程度の高温に加熱したヒータチップで上方から圧着して端末の絶縁材14を蒸散しつつ導線(銅線材など)を潰して前記端子電極29に瞬時に接合する熱圧着を行って導電接合し、フェライトからなる縦断面形状がT字形状の軸芯コア部26を一体に設けた蓋コア(蓋付軸芯コア)28を、前記軸芯コア部26が前記空芯コイル20の空芯部18を挿通するように前記箱形コア25の上面に被せて凹部24を閉じ、図示されない接着剤で固定した構造の面実装コイル30がある。
【0004】
また、図10に示される面実装コイル30と似た構造の前記平角線12を用いた面実装コイルの例として、下記[特許文献1]には、図11の(a)分解斜視図,(b)断面図に示されるような構造の面実装コイル40が示されている。
【0005】
即ち、端子電極37を有する所定形状のフェライト又はセラミックスのコアケース35の線輪収納凹部36に、貫通穴33が設けられたリード端子部32a,32bを有する円環状線輪32が収納され、前記リード端子部32a,32bはリード端子部導出用溝部の底面に平行となるように折り曲げられて引き出され、端子電極37とハンダ41により溶着され、前記円環状線輪32の中心穴38に軸芯コア34(円柱状磁性体)が挿入配置され、これらの上にコアケース35と同材の蓋コア31が接着剤等を用いて設けられた構造となっている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−41152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の面実装コイル30においては、前記端子電極29と空芯コイル20の引出し部12a,12bの端末との導電接合を、200℃〜250℃程度の加熱で済むハンダ付けではなく、600℃〜850℃という高温で端子電極29の金属と導線13の金属との合金を形成する熱圧着によって行っているために、熱圧着時に端子電極29上の平角線12の端末が潰れ、その潰れた部分が巻回部15側に押しやられて、折曲成形された前記引出し部12a,12bを巻回部15側に付勢して移動させる現象が起きる。この際、押しやられた引出し部12a,12bが巻回部15の最外周部15aに接触し、さらに押圧されてその部分の絶縁材14を損傷させる場合があり得る。
【0008】
この点、上記[引用文献1]の図11のような面実装コイル40では、ハンダ付けによる導電接合方法を特に採用しているので、上記熱圧着による導電接合方法の場合に生じる前記引出し部12a,12bの前記巻回部15との接触の問題は想定外となっている。
【0009】
ここに、熱圧着による巻線の引出し部の両端末と端子電極との導電接合方法の接合強度の高信頼性と作業スピードの有利性、電子基板への電子部品のリフローハンダ付けの際の熱に対する面実装コイルのハンダ付けされた導電接合部の軟化・再溶融の問題などを考慮すると、今後、熱圧着による面実装コイルの引出し部の端末と端子電極との導電接合が主流になると考えられる。
【0010】
そこで、熱圧着による導電接合方法を採用する場合に、前記引出し部12a,12bと巻回部15との接触による絶縁材の損傷発生の可能性を回避することが重要課題となる。
【0011】
絶縁材の損傷発生回避の手法として、前記空芯コイル20の最外周部15aに絶縁物質を別途に貼るか、前記箱形コア25の凹部24に収納した空芯コイル20の周囲すべてを絶縁樹脂若しくは絶縁溶剤(以下、絶縁樹脂等という。)に浸透させて固着することが考えられる。後者の手法は、古くより安定器や変圧トランスにおいて、板状鉄心とコイル全体をワニス含浸して絶縁する手法と相通じる。
【0012】
しかしながら、面実装コイルの製造時に、前記絶縁物質を貼ったり絶縁樹脂等に浸漬することは、新たに貼り付け或いは浸漬・硬化・フェライトコア組付けのプロセスが別途必要となり、その度に製品ハンドリングで時間を要し、品質不良を引き起こす恐れが大きい。
【0013】
また、前述の旧来より汎用されているワニスをコイル全体に漬浸して固める手法を面実装コイルに採用して本願のような箱形コア25と空芯コイル20との内周および外周の隙間全体を樹脂で埋めて固定する構造とすると、前記充填された絶縁樹脂と箱形コア25や軸芯コア部26との熱膨張係数の違いにより、温度上昇に伴う歪の発生によって応力が前記箱形コア25や軸芯コア部26に掛かってしまい、特にフェライトコアのような磁性コアの場合は磁気特性の低下が懸念されるので採用できない。
【0014】
また、上述の絶縁樹脂等を使用しないで、前記端子電極29と前記空芯コイル20の引出し線12a,12bの端末との熱圧着接合時の諸条件の操作により、絶縁材の損傷を防ぐ手法も考えられるが、確実な恒久対策ではない。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、熱圧着による端子電極と巻線(平角線)の導電接合方法を用いた面実装コイルの熱圧着時の絶縁材の損傷発生の恐れを確実に防止し、且つ、製造時の作業性に優れる面実装コイル及び面実装コイルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、
(1)絶縁材で被覆された平角線が中側から外側に巻回積層された空芯コイルと、該空芯コイルを収容する凹部と該凹部を囲む側壁に設けられ前記凹部から外側に通じる引き出し溝とを備えた箱形コアと、前記箱形コアの側壁の引き出し溝の底面から側壁の外側面を介して前記箱形コアの底面に亘って設けられるとともに前記空芯コイルの平角線の両端の引出し部がそれぞれ熱圧着接合される一対の端子電極と、前記空芯コイルの中心に挿入される軸芯コアと、該軸芯コアと一体又は別体に設けられ前記箱形コアの空芯コイルが収容された凹部を閉じる蓋コアと、を有する面実装コイルにおいて、
前記空芯コイルの前記引出し部と前記巻回部の最外周部との隙間部分には充填され、且つ、前記空芯コイルの内周面と前記軸芯コア部若しくは前記軸芯コアとの隙間は埋めないように絶縁樹脂が充填硬化されていることを特徴とする面実装コイルを提供することにより、上記課題を解決する。
【0017】
(2)また、面実装コイルの製造方法として、
絶縁材で被覆された平角線を内側から外側に巻回積層する工程、
空芯コイルを収容する凹部と該凹部を囲む側壁に設けられ前記凹部から外側に通じる引き出し溝とを備えた箱形コアを準備する工程、
空芯コイルの中心に挿入される軸芯コアを準備する工程、及び前記箱形コアの空芯コイルが収容される凹部を閉じる蓋コアを準備する工程、若しくは前記空芯コイルの中心に挿入される軸芯部と前記箱形コアの空芯コイルが収容される凹部を閉じる蓋部とを一体に備えた該蓋付軸芯コアを準備する工程、
前記箱形コアに該箱形コアの側壁の引き出し溝の底面から側壁の外側面を介して前記箱形コアの底面に亘る端子電極を設ける工程、
前記箱形コアの凹部に前記空芯コイルを挿入する工程、
前記箱形コアの凹部に前記空芯コイルを挿入する工程と前後して前記空芯コイルの巻回部の最外周部と前記空芯コイルの引出し部との隙間には充填され、且つ、前記空芯コイルの巻回部の内周面には至らないように、熱硬化型絶縁樹脂若しくは紫外線硬化型絶縁樹脂を塗布する工程、
前記塗布された絶縁樹脂に加熱又は紫外線照射を施し硬化させる工程、
前記巻回部の最外周部と前記引出し部との隙間に絶縁樹脂が充填・硬化された後の空芯コイルの前記引出し部の端部を前記端子電極に熱圧着接合する工程、
前記軸芯コアを前記空芯コイルの中心に挿入する工程、及び前記箱形コアの凹部を前記蓋コアで閉じて接着固定する工程、若しくは前記空芯コイルの中心に前記蓋付軸芯コアの軸芯を挿入するととも前記箱形コアの凹部を前記蓋付軸芯コアの蓋部で閉じて接着剤で固定する工程、
を少なくとも有することを特徴とする面実装コイルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る面実装コイル及びその製造方法は、上記のような構成のため、
(1)熱圧着による空芯コイルの引出し線と端子電極との導電接合の際に、熱圧着によって空芯コイル側に押し出された引出し部と空芯コイルの巻回部の最外周部とが接触して絶縁材の損傷が発生する恐れが、前記空芯コイルの引出し部と前記巻回部の最外周部との隙間部分に充填硬化された紫外線硬化性絶縁樹脂若しくは熱硬化性絶縁樹脂によってブロックされるとともに押圧力が熱圧着接合部と絶縁樹脂が充填硬化された部分との間及び空芯コイルの巻回部全体に拡散して防止される。
(2)空芯コイルは箱形コアの凹部内に絶縁樹脂等で完全に埋められて固定されているのではなく、絶縁樹脂等は、空芯コイルの引出し部と巻回部の最外周部との隙間部分には充填され、且つ、空芯コイルの内周面と軸芯コア部若しくは軸芯コアとの隙間は埋めないように充填硬化されているので、熱圧着によって空芯コイルの両端の引出し部が巻回部側に一方から又は両方から押し出された場合に、空芯コイル全体が移動又は僅かの変形が生じるのみで、軸芯コア部若しくは軸芯コアに対して押圧力が働かず、特にフェライトコアの磁気特性への悪影響が生じない。また、熱圧着接合部と絶縁樹脂が充填硬化された部分との間のコイル引出し部において、平角線の厚み方向に線材の撓み変形を生じることにより押圧力の一部が緩和される。
(3)特に、大きな電流を流すパワーチョークコイルのショート恒久対策品として有益である。
(4)空芯コイルの引出し部と巻回部の最外周部との隙間部分に紫外線硬化性絶縁樹脂若しくは熱硬化性絶縁樹脂を充填して硬化させるだけの簡単な工程を熱圧着工程の前に加えるだけなので、作業性に優れ、製造工程のコスト上昇や所要時間に殆ど影響しない。
(5)紫外線硬化性絶縁樹脂若しくは熱硬化性絶縁樹脂の充填硬化の工程付加によって、信頼性の向上、製造歩留まりの向上が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る面実装コイル及びその製造方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。なお、従来技術として公知の図9、図10、図11におけるものと同等の部材については同符号にて示す。
【0020】
図1は本発明に係る面実装コイルの構造を説明するための断面図である。図2は端子電極と空芯コイルの引出し部の端末との熱圧着による導電接合部近傍の状態を説明するための拡大図である。図3は本発明に係る面実装コイルで用いるフェライトコアの斜視図である。図4は端子電極の取り付け状態を説明するための斜視図である。図5は空芯コイルの構造を説明するための斜視図である。図6は本発明に係る面実装コイルの熱圧着時の空芯コイルの引出し部の受ける圧力と移動を説明するための断面図である。図7は本発明に係る面実装コイルの組み立てが完了した状態を示す平面図である。図8は本発明に係る面実装コイルの第2の実施の形態の構造を説明するための断面図である。
【0021】
図1に示される面実装コイル10は、図9のポリウレタン樹脂等の絶縁材14で被覆された所定の長さの平角線12が、図5の(a)に示されるように、中側から外側に所謂α巻によって巻回積層されるとともに通電することによって絶縁材表面を融着固定して一体化し、さらに、図5の(b)のように前記平角線12の両端部分をそれぞれ巻回部15の最外周部15aから折曲成形して巻回部15の上面と略面一に引出し部12a,12bを形成してなる空芯コイル20と、図3に示される前記空芯コイル20を収納する凹部24と該凹部24を囲む側壁23に設けられ前記凹部24から外側に通じる引き出し溝22とを備えたフェライト或いはセラミックスなどからなる箱形コア25と、前記箱形コア25の側壁23の引き出し溝22の底面から前記側壁23の外側面を介して前記箱形コア25の底面に亘って設けられるとともに前記空芯コイル20の平角線12の両端の引出し部12a,12bがそれぞれ熱圧着接合される一対の端子電極29,29と、前記空芯コイル20の中心に挿入される軸芯コア26と、該軸芯コア26と一体(図3参照)又は別体(図11参照)に設けられ前記箱形コア25の空芯コイル20が収容された凹部24を閉じるフェライト或いはセラミックスなどからなる蓋コア28と、を有し、前記空芯コイル20の空芯部18が前記箱形コア25又は前記蓋コア28に一体に設けられた軸芯コア部26若しくは別体の軸芯コア34に挿通されるとともに、前記引出し部12a,12bの端末がそれぞれ前記端子電極29,29上に熱圧着にて導電接合されてなる面実装コイルであって、特に、図1又は図2に示されるように、前記空芯コイル20の前記引出し部12a,12bと前記巻回部15の最外周部15aとの隙間部分には充填され、且つ、前記空芯コイル20の内周面と前記軸芯コア部26若しくは前記軸芯コア34との隙間Sは埋めないように絶縁樹脂(紫外線硬化性絶縁樹脂若しくは熱硬化性絶縁樹脂)7がディスペンサー6などによって塗布されて充填され、紫外線照射或いは加熱によって硬化されている構造を特徴とする。
【0022】
上記構造によれば、図2に示されるように、前記端子電極29と前記空芯コイル20の引出し部12b(及び12a)は、600℃〜850℃という高温に熱せられたヒータチップ5で端子電極29の金属と平角線12の導線13の金属(一般に銅)との合金を形成する熱圧着の際に、一点鎖線で表されるように前記端子電極29上の平角線12の端末が潰れ、その潰れた部分が巻回部15側に押しやられて、前記引出し部12b(12a)を巻回部15側に矢印Fの向きの押圧力で付勢して移動させる(撓ませる)現象が起きるが、熱圧着の前に前記巻回部15の最外周部15aとの隙間部分に紫外線硬化性若しくは熱硬化性の絶縁樹脂7が充填硬化されているために、押し出された前記引出し部12b(12a)は巻回部15の最外周部15aと接触せず、巻回部15側に損傷も生じず、絶縁性は保持されるのである。この時、上記押圧力は充填硬化された絶縁樹脂7によって空芯コイル20の巻回部15全体に分散する作用も担っている。
【0023】
押し出された前記引出し部12b(12a)は、一点鎖線で表されるように上に盛り上がるか、又はそのまま巻回部15を中心側に押し動かすことになる。この際に、空芯コイル20は箱形コア25の凹部24内に絶縁樹脂等で完全に埋められて固定されているのではなく、巻回部15の最外周15aと箱形コア25の凹部24の内壁及び空芯部18の内周と軸芯コア部26若しくは軸芯コア34との間に隙間Sが設けられているので、熱圧着によって空芯コイル20の両端の引出し部12a,12bが巻回部15側に一方から又は両方から押し出された場合でも、空芯コイル20全体が移動又はやや楕円に僅かの変形が生じるのみで、軸芯コア部26若しくは軸芯コア34に対して押圧力が働かず、特にフェライトコアのような磁性コアの場合には磁気特性への悪影響が生じない。
【0024】
次に、上記面実装コイル10のように端子電極29と巻線の平角線12との導電接合に熱圧着を用いた面実装コイルの製造方法は、少なくとも以下の工程(イ)〜(チ)から成り立っている。
(イ)絶縁材で被覆された平角線を内側から外側に巻回積層する工程。
【0025】
これは図9に示されるような導線13(銅、金、銀、ニッケル、アルミニウム、コバルト、又はそれらの合金など)をポリウレタン樹脂或いはポリエステル樹脂などの絶縁材14で被覆した平角線12を、例えば図5に示されるように、その中央から互いに反対方向に同心円状に2段に巻回積層(所謂α巻)するとともに必要によりコイルに通電して前記絶縁材14を融着したのち固化して固定し、前記平角線12の両端部分をそれぞれ巻回部15の最外周部15aから折曲成形して巻回部15の上面と略面一に引き出した引出し部12a,12bを形成した空芯コイル20を作るコイル本体の製造工程である。なお、上記平角線12の巻回の仕方は上記α巻以外も含まれる。例えば、従来技術の前記面実装コイル40の円環状線輪32のような内側から外側に単純に1段に巻回積層して一方の引出し部32aが内周面から引き出され、他方の引出し部32bが最外周面から引き出された構造の円環状線輪32(空芯コイル)も本発明の射程内である。
(ロ)空芯コイルを収容する凹部と該凹部を囲む側壁に設けられ前記凹部から外側に通じる引き出し溝とを備えた箱形コアを準備する工程と、空芯コイルの中心に挿入される軸芯コアを準備する工程、及び前記箱形コアの空芯コイルが収容される凹部を閉じる蓋コアを準備する工程、若しくは前記空芯コイルの中心に挿入される軸芯部と前記箱形コアの空芯コイルが収容される凹部を閉じる蓋部とを一体に備えた該蓋付軸芯コアを準備する工程。
【0026】
これは、図3に示されるような前記空芯コイル20を収納する凹部24を有するフェライト又はセラミックスからなる箱形コア25と、前記空芯コイル20の中心に挿入される軸芯部26と前記箱形コア25の空芯コイル20が収容される凹部24を閉じる前記箱形コア25と同材の蓋部27とを一体に備えた該蓋付軸芯コア28と、からなる一組のコアを成形するコア製造工程である。或いは、前記箱形コア25と、図11のような前記空芯コイル20の中心に挿入される箱形コア25と同材の円柱状の軸芯コア34と、該軸芯コア34と別体に設けられ前記箱形コア25の空芯コイル20が収容される凹部24を閉じる前記箱形コア25と同材の蓋コア31と、からなる一組のコアを成形するコア製造工程である。
【0027】
上記コアの製造は例えばフェライトを主成分とする混合材を型枠に入れて焼成したりフェライト焼成体を切削加工して作られる。
(ハ)箱形コアに該箱形コアの側壁の引き出し溝の底面から側壁の外側面を介して前記箱形コアの底面に亘る端子電極を設ける工程。
【0028】
これは、図4に示されるように、例えばニッケルメッキやスズメッキ等を施した銅フレームからなる一対の端子電極29を箱形コア25に、該箱形コア25の側壁23の引き出し溝22の底面から側壁23の外側面を介して前記箱形コア25の底面に亘って嵌着して取り付ける工程である。
(ニ)箱形コアの凹部に空芯コイルを挿入する工程。
【0029】
これは、図6の(a)に示されるように、前記箱形コア25の凹部24に前記空芯コイル20を挿入する工程であり、前記空芯コイル20の引出し部12a,12bの端部がそれぞれ端子電極29,29の上面に位置するように置く。挿入された前記空芯コイル20は完全に前記凹部24の中に収納されている。
(ホ)前記箱形コアの凹部に空芯コイルを挿入する工程(ニ)と前後して前記空芯コイルの巻回部の最外周部と前記空芯コイルの引出し部との隙間には充填され、且つ、前記空芯コイルの巻回部の内周面には至らないように、熱硬化型絶縁樹脂若しくは紫外線硬化型絶縁樹脂を塗布する工程。
【0030】
これは、本発明に特有な工程であり、図6の(a),(b)に示されるように、前記空芯コイル20を前記箱形コア25の前記凹部24に収納する前或いは後に、前記空芯コイル20の前記引出し部12a,12bと巻回部15の最外周部15aとの隙間部分に絶縁樹脂(紫外線硬化性絶縁樹脂若しくは熱硬化性絶縁樹脂であり、好ましくは耐熱性が良好なエポキシ樹脂)7をディスペンサー6などによって塗布する工程である。ここで注意すべきは上記絶縁樹脂7の充填硬化は空芯コイル20と箱形コア25の凹部24との隙間全体に及ぶのではなく、前記空芯コイル20の巻回部15の内周面には至っていない点である。この構造によって充填硬化した前記絶縁樹脂7とコア材の熱膨張係数差に起因する応力が軸芯コア部26又は軸芯コア34に及ばないのである。
(ヘ)塗布された絶縁樹脂に加熱又は紫外線照射を施し硬化させる工程。
【0031】
前記塗布された絶縁樹脂7は例えばエポキシ樹脂であれば紫外線照射することで速やかに硬化する。
(ト)巻回部の最外周部と引出し部との隙間に絶縁樹脂が充填・硬化された後の空芯コイルの引出し部の端部を端子電極に熱圧着接合する工程。
【0032】
これは、図2に示されるように、前記空芯コイル20の平角線の引出し部12a,12bの端末をそれぞれ前記端子電極29、29上に位置させた状態で、600℃〜850℃程度の高温に加熱したヒータチップ5の圧着による熱圧着にて導電接合する熱圧着工程である。熱圧着後は一点鎖線のように潰された部分が左右に移動して引出し部12a,12bは撓んで押圧力が矢印F方向に働くが充填硬化した絶縁樹脂7が介在しているので引出し線12a,12bが空芯コイル20の巻回部15の最外周部15aに接触してその部分の絶縁材が損傷する危険は防止される。
(チ)軸芯コアを空芯コイルの中心に挿入する工程、及び箱形コアの凹部を蓋コアで閉じて接着固定する工程、若しくは空芯コイルの中心に蓋付軸芯コアの軸芯を挿入するととも箱形コアの凹部を蓋付軸芯コアの蓋部で閉じて接着剤で固定する工程。
【0033】
これは、コア組立工程である。最終的に例えば図1の断面図に示されるように、前記箱形コア25の前記凹部24に収納され、熱圧着によって前記端子電極29に引きし部12a、12bが導電接合された空芯コイル20の空芯部18に前記蓋付軸芯コア28の軸芯26が挿入されるととも前記箱形コア25の凹部24を前記蓋付軸芯コア28の蓋部27で閉じてその周辺部を箱形コア25と接着剤9で固定する。
【0034】
本発明の面実装コイルの製造方法では、以上の(イ)〜(チ)の各工程を少なくとも有する。なお、上記工程に加えて最終ラインで品名番号などを前記蓋部27或いは前記蓋コア31の上面に印刷する表示印刷工程や特性選別テーピング工程を経て面実装コイルが完成する。
【0035】
上記製造工程から判るように、本発明の主旨である熱圧着時の空芯コイルの絶縁材の損傷発生の防止対策のために従来の工程に付加した工程は、絶縁樹脂7(紫外線硬化絶縁樹脂若しくは熱硬化性絶縁樹脂)を塗布・硬化する工程のみであり、極めて簡単で作業性に優れ、しかもその作用は空芯コイル20の巻回部15との接触による絶縁材の損傷発生の防止対策として確実且つ恒久的な効果が得られるものである。
【0036】
なお、上記絶縁樹脂7の紫外線硬化絶縁樹脂若しくは熱硬化性絶縁樹脂としては、耐熱性に優れ、作業性に有利なエポキシ樹脂が、熱硬化性であり且つ紫外線硬化性の樹脂として最適であるが、勿論、熱圧着時の熱伝導に対して耐熱性が十分な他の熱硬化性又はUV硬化性の樹脂であってもよい。
【0037】
次に、図8に示される本発明に係る面実装コイルの第2の実施の形態の面実装コイル50は、図11の従来の面実装コイル40に相当する場合の適用例である。
【0038】
図8において、空芯コイル21はα巻でではなく、単純に平角線12が中側から外側に1段に巻回積層されたものであり、巻回部15の中側から引出し部12aが、外側から引出し部12bが引き出されており、特に、この場合は先の実施の形態とは異なり、前記巻回部15の中側から引き出された引出し部12aについては絶縁樹脂7が前記引出し部12aと巻回部15の最外周部15aとが接するエッジ部分の隙間(引出し部12aの直下)に充填固化されている。
【0039】
上記構造の面実装コイル50においても、上記引出し部12a,12bと巻回部15の最外周部15aとが熱圧着時の押圧力による移動で接触して絶縁材が損傷する恐れのある箇所に絶縁樹脂7が予め充填固化されているので、前述の面実装コイル10と同様の作用効果が得られる。この面実装コイル50に製造方法についても上記(イ)〜(チ)の各工程を少なくとも有する面実装コイルの製造方法が適用できることは言うまでもない。
【0040】
なお、念のために付言すれば、本発明の面実装コイルの製造方法では、空芯コイルの引出し部と端子電極との熱圧着による導電接合工程の前に、前記空芯コイルの引出し部と巻回部の最外周部との隙間部分に紫外線硬化絶縁樹脂又は熱硬化性絶縁樹脂を塗布・硬化する工程を行うことが要件であり、他の工程の順序は適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る面実装コイルの構造を説明するための断面図である。。
【図2】端子電極と空芯コイルの引出し部の端末との熱圧着による導電接合部近傍の状態を説明するための拡大図である。
【図3】本発明に係る面実装コイルで用いるフェライトコアの斜視図である。
【図4】端子電極の取り付け状態を説明するための斜視図である。
【図5】空芯コイルの構造を説明するための斜視図である。
【図6】本発明に係る面実装コイルの熱圧着時の空芯コイルの引出し部の受ける圧力と移動を説明するための断面図である。
【図7】本発明に係る面実装コイルの組み立てが完了した状態を示す平面図である。
【図8】本発明に係る面実装コイルの第2の実施の形態の構造を説明するための断面図である。
【図9】平角線と称される絶縁被覆導線の構造を示す斜視図である。
【図10】従来のチョークコイルの構造を説明するための分解斜視図である。
【図11】[引用文献1]に記載された表面実装型コイルの(a)分解斜視図と、(b)断面図である。
【符号の説明】
【0042】
5 ヒータチップ
6 ディスペンサー
7 絶縁樹脂(紫外線硬化性絶縁樹脂若しくは熱硬化性絶縁樹脂)
9 接着剤
10、30、40、50 面実装コイル
12 平角線
12a,12b 引出し部
13 導線
14 絶縁材
15 巻回部
15a 最外周部
18 空芯部
20、21 空芯コイル
22 引き出し溝
23 側壁
24 凹部
25 箱形コア
26 軸芯コア部
27 蓋部
28 蓋付軸芯コア
29、37 端子電極
31 蓋コア
34 軸芯コア
F 矢印の向きの押圧力
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材で被覆された平角線が中側から外側に巻回積層された空芯コイルと、該空芯コイルを収容する凹部と該凹部を囲む側壁に設けられ前記凹部から外側に通じる引き出し溝とを備えた箱形コアと、前記箱形コアの側壁の引き出し溝の底面から側壁の外側面を介して前記箱形コアの底面に亘って設けられるとともに前記空芯コイルの平角線の両端の引出し部がそれぞれ熱圧着接合される一対の端子電極と、前記空芯コイルの中心に挿入される軸芯コアと、該軸芯コアと一体又は別体に設けられ前記箱形コアの空芯コイルが収容された凹部を閉じる蓋コアと、を有する面実装コイルにおいて、
前記空芯コイルの前記引出し部と前記巻回部の最外周部との隙間部分には充填され、且つ、前記空芯コイルの内周面と前記軸芯コア部若しくは前記軸芯コアとの隙間は埋めないように絶縁樹脂が充填硬化されていることを特徴とする面実装コイル。
【請求項2】
絶縁材で被覆された平角線を内側から外側に巻回積層する工程、
空芯コイルを収容する凹部と該凹部を囲む側壁に設けられ前記凹部から外側に通じる引き出し溝とを備えた箱形コアを準備する工程、
空芯コイルの中心に挿入される軸芯コアを準備する工程、及び前記箱形コアの空芯コイルが収容される凹部を閉じる蓋コアを準備する工程、若しくは前記空芯コイルの中心に挿入される軸芯部と前記箱形コアの空芯コイルが収容される凹部を閉じる蓋部とを一体に備えた該蓋付軸芯コアを準備する工程、
前記箱形コアに該箱形コアの側壁の引き出し溝の底面から側壁の外側面を介して前記箱形コアの底面に亘る端子電極を設ける工程、
前記箱形コアの凹部に前記空芯コイルを挿入する工程、
前記箱形コアの凹部に前記空芯コイルを挿入する工程と前後して前記空芯コイルの巻回部の最外周部と前記空芯コイルの引出し部との隙間には充填され、且つ、前記空芯コイルの巻回部の内周面には至らないように、熱硬化型絶縁樹脂若しくは紫外線硬化型絶縁樹脂を塗布する工程、
前記塗布された絶縁樹脂に加熱又は紫外線照射を施し硬化させる工程、
前記巻回部の最外周部と前記引出し部との隙間に絶縁樹脂が充填・硬化された後の空芯コイルの前記引出し部の端部を前記端子電極に熱圧着接合する工程、
前記軸芯コアを前記空芯コイルの中心に挿入する工程、及び前記箱形コアの凹部を前記蓋コアで閉じて接着固定する工程、若しくは前記空芯コイルの中心に前記蓋付軸芯コアの軸芯を挿入するととも前記箱形コアの凹部を前記蓋付軸芯コアの蓋部で閉じて接着剤で固定する工程、
を少なくとも有することを特徴とする面実装コイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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