説明

面状発熱体及び面状発熱体製造方法

【課題】製造が容易であり、500〜1000℃の温度範囲において、安定した電気抵抗値と、優れた耐久性を発揮する面状発熱体を提供する。
【解決手段】面状発熱体10は、窒化アルミニウム製の基材11の表面11aに電熱被膜12がパターン模様に融着され、電熱被膜12が、珪素及び二珪化コバルトを含有する複数の発熱層で一体的に形成されている。電熱被膜12の両端部12a,12bは、四角板状の基材11の隣り合う角隅部に位置し、それぞれの端部12a,12bに給電用のターミナル13a,13bが導通状態で固着されている。基材11は窒化アルミニウムで形成され、電熱被膜12は、基材11の表面11aに珪素及び二珪化コバルトを含有する基礎発熱層を融着し、この基礎発熱層の表面に、珪素及び二珪化コバルトを含有する3層の発熱層を順次融着することによって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流を流すことによって発熱する略平面状の発熱面を有する面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱面が略平面形状をした面状発熱体に関しては、その材質、構造あるいは製造方法などについて多くの提案が行われているが、本願発明に関連するものとして、例えば、特許文献1記載の「電熱被膜融着体とその融着方法」がある。
【0003】
この電熱被膜融着体は、希土類元素化合物の焼結助剤を含む窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に、Bを含むSi合金からなる電熱被膜が融着された構造を有し、電熱被膜中に、セラミックス基材の燃結助剤の希土類元素化合物を供給源とする希土類元素が含まれたものである。
【0004】
また、特許文献1には、窒化アルミニウムセラミックス基材の表面に融着させた電熱被膜の層の上に、一層あるいは複数層のSi合金の被膜を重ねて融着させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−277285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の「電熱被膜融着体」は、800℃以上の加熱に使用しても抵抗変化が小さく、耐久性も良好である点では優れているが、電熱被膜及び窒化アルミニウムセラミックス基材の組成が複雑で、多種類の原材料を必要とし、製造工程においては、電熱被膜及び窒化アルミニウムセラミックス基材の両方の組成を細かく管理しなければならないので、煩雑である。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、500℃〜1000℃の温度範囲の加熱手段として使用される面状発熱体であって、製造が容易であり、前記温度範囲において安定した電気抵抗値と、優れた耐久性を発揮する面状発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の面状発熱体は、窒化アルミニウム製の基材の表面に電熱被膜がパターン模様に融着された面状発熱体であって、前記電熱被膜が、珪素及び二珪化コバルトを含有する複数の発熱層で形成されたことを特徴とする。
【0009】
このような構成とすれば、珪素及び二珪化コバルトを含有する複数の発熱層で形成された電熱被膜は緻密で均等な構造となるので、500〜1000℃の温度範囲において、安定した電気抵抗値と、優れた耐久性を発揮する。また、窒化アルミニウム製の基材に希土類元素化合物の焼結助剤などを含ませる必要がないので、基材の組成管理が不要で、原材料の種類も少なくて済み、製造が容易である。
【0010】
次に、本発明の面状発熱体製造方法は、窒化アルミニウム製の基材の表面に電熱被膜がパターン模様に融着された面状発熱体の製造方法であって、
珪素及び二珪化コバルトを含有する基礎発熱層を前記基材の表面に融着させる工程と、
珪素及び二珪化コバルトを含有する複数の発熱層を前記基礎発熱層の表面に順次融着させる工程と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
このような構成とすれば、焼結密度が高く、ピンホールなどが残存しない電熱被膜を形成することができるので、前記温度範囲において安定した電気抵抗値と、優れた耐久性を発揮する面状発熱体を提供することができる。
【0012】
ここで、前記基礎発熱層及び前記発熱層を焼成する工程が、珪素及び二珪化コバルトの粉末を含むペーストを真空中で焼成する工程を含むことが望ましい。
【0013】
このような構成とすれば、前記基礎発熱層及び前記発熱層における不要な酸化反応を回避することができるだけでなく、前記基礎発熱層及び前記発熱層の内部に不要な物質や空気中の気体成分などが残存するのを防止することができるため、緻密な電熱被膜を形成することが可能となり、電気抵抗値の安定性及び耐久性の向上に有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、製造が容易であり、500〜1000℃の温度範囲において、安定した電気抵抗値と、優れた耐久性を発揮する面状発熱体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態である面状発熱体を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線における部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、本実施形態の面状発熱体10は、窒化アルミニウム製の基材11の表面11aに電熱被膜12がパターン模様に融着され、電熱被膜12が、珪素及び二珪化コバルトを含有する複数の発熱層で一体的に形成されている。電熱被膜12の両端部12a,12bは、四角板状の基材11の隣り合う角隅部に位置し、それぞれの端部12a,12bに給電用のターミナル13a,13bが導通状態で固着されている。
【0017】
基材11は、窒化アルミニウムで形成され、電熱被膜12は、後述するように、基材11の表面11aに珪素及び二珪化コバルトを含有する基礎発熱層(図示せず)を融着し、この基礎発熱層の表面に、珪素及び二珪化コバルトを含有する3層の発熱層(図示せず)を順次融着することによって形成されている。本実施形態では、基材11の素材として、有明マテリアル株式会社製の窒化アルミニウム(製品名称MAN−170:焼結剤入り)を使用しているが、これに限定するものではない。
【0018】
ここで、面状発熱体10の製造方法について説明する。原材料である珪素(62〜64質量%)、二珪化コバルト(35〜37質量%)及びチタン(0.9〜1.1質量%)の混合物にIPA(イソプロピルアルコール)を添加したものを、炭化珪素製のボールを備えたボールミルに投入し、55〜65時間擂潰した後、ボールミルから取り出し、乾燥及びボール分離を行う。
【0019】
これによって得られた粉状体に透明糊状のバインダ(例えば、田中貴金属工業株式会社製のTMC−106:製品名称)を添加、混合してペーストにした後、スクリーン印刷法により、所定のパターン模様をした基礎発熱層(図示せず)を基材11の表面11aに形成する。基礎発熱層の厚みは120〜140μmであることが望ましい。この後、基礎発熱層が形成された基材11をホットプレート上に載置して仮乾燥し、基礎発熱層に含まれているバインダ成分を蒸発除去する。
【0020】
バインダ成分の除去が完了したら、基礎発熱層が形成された基材11を真空加熱炉(図示せず)に装入し、真空度7〜8Torrの真空雰囲気の下、1300〜1400℃の温度で5〜7時間程度焼成して、基礎発熱層を基材11の表面11aに融着させた後、そのまま真空加熱炉内で冷却する。焼成後の基材11が室温程度まで冷えたら、真空加熱炉から取り出し、基材11の表面11aに融着されている基礎発熱層の表面に、前記ペーストをスクリーン印刷法により塗布して発熱層(図示せず)を形成する。発熱層の厚みは前記基礎発熱層と同様、120〜140μmであることが望ましい。
【0021】
この後、前述と同様に、仮乾燥及び真空加熱炉内での焼成を行うことにより、基礎発熱層の表面に発熱層を融着させる。このような工程を繰り返すことにより、基礎発熱層の表面上に3層の発熱層を順次融着させると、面状発熱体10が完成する。
【0022】
このような工程で形成された面状発熱体10の電熱被膜12は、図2に示すように、珪素及び二珪化コバルトを含有する複数の発熱層が境界なく一体化した緻密で均等な構造となるので、500〜1000℃の温度範囲において、安定した電気抵抗値と、優れた耐久性を発揮する。また、窒化アルミニウム製の基材11に希土類元素化合物の焼結助剤などを含ませる必要がないので、基材11の組成管理が不要であり、原材料の種類も少なくて済み、製造が容易である。
【0023】
また、基材11の表面11aに融着された基礎発熱層上に3層の発熱層を順次融着させることにより、焼結密度が高く、ピンホールなどが残存しない電熱被膜12を形成することができるので、使用温度範囲(500〜1000℃)において安定した電気抵抗値と、優れた耐久性を発揮する。
【0024】
さらに、基礎発熱層及び発熱層を焼成する工程は、珪素及び二珪化コバルトの粉末を含むペーストを真空中で焼成する工程を含んでいるので、基礎発熱層及び発熱層における不要な酸化反応を回避することができ、また、基礎発熱層及び発熱層の内部に不要な物質や空気中の気体成分などが残存するのを防止することができるため、緻密な電熱被膜12を形成することが可能であり、電気抵抗値の安定性及び耐久性の向上に有効である。
【0025】
本実施形態においては、基材11の表面11aに、基礎発熱層及び3層の発熱層からなる電熱被膜12を形成しているが、発熱層の積層数は3層に限定しないので、3層未満若しくは4層以上の発熱層を形成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の面状発熱体は、各種加熱試験装置の加熱手段あるいは半導体製造工程における加熱手段として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
10 面状発熱体
11 基材
11a 表面
12 電熱被膜
12a,12b 端部
13a,13b ターミナル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム製の基材の表面に電熱被膜がパターン模様に融着された面状発熱体であって、前記電熱被膜が、珪素及び二珪化コバルトを含有する複数の発熱層で形成されたことを特徴とする面状発熱体。
【請求項2】
窒化アルミニウム製の基材の表面に電熱被膜がパターン模様に融着された面状発熱体の製造方法であって、
珪素及び二珪化コバルトを含有する基礎発熱層を前記基材の表面に融着させる工程と、
珪素及び二珪化コバルトを含有する複数の発熱層を前記基礎発熱層の表面に順次融着させる工程と、を備えたことを特徴とする面状発熱体製造方法。
【請求項3】
前記基礎発熱層及び前記発熱層を融着する工程が、珪素及び二珪化コバルトの粉末を含むペーストを真空中で焼成する工程を含むことを特徴とする請求項2記載の面状発熱体製造方法。

【図1】
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【図2】
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