説明

靭性と耐摩耗性に優れたダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具

【課題】CFRP等の難削材の高速切削加工において、すぐれた靭性を備え、すぐれた耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具を提供する。
【解決手段】Coを3〜15質量%含有するWC基超硬合金を基体とするダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、該WC基超硬合金基体の表面から、その内部へ表面から10μmの縦断面領域にわたるCoの結晶構造を電子線後方散乱回折装置で測定した場合、Coの総占有面積に占める六方晶(hcp)構造のCoの占有面積割合が、0.2〜0.8の範囲内であり、また、好ましくは、ダイヤモンド膜の平均圧縮残留応力値が、2.2〜3GPaの範囲内であり、また膜厚をDとし、刃先稜線部の断面におけるダイヤモンド膜の圧縮残留応力が、膜厚の中央位置の圧縮残留応力をSmとした時に、界面から0.25Dの部分でSmの1.2〜2.0倍の範囲であり、界面から0.75Dの部分でSmの0.5〜0.8倍の範囲であるダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、CFRP等の難削材の高速切削加工において、すぐれた靭性を備えるとともに、すぐれた耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化タングステン基(WC基)超硬合金からなる基体に、ダイヤモンド膜を被覆したダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具が知られているが、従来のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具においては、超硬合金基体とダイヤモンド膜の密着性が十分でないため、これを改善するために種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1に示すように、ダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、該超硬合金の表面から100μmまでの間の結合相を該超硬合金内部の結合相に比較して減少させ、一方、超硬合金表面から5〜100μmの間に存在する結合相富化層の結合相量を合金内部の結合相量に対して1.2〜5倍に富化することが提案されており、これによって、ダイヤモンド膜と超硬合金基体の密着性が改善されるとされている。
【0004】
また、例えば、特許文献2に示すように、ダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、熱処理により、超硬合金の表面からその内部に向って少なくとも1μm(好ましくは3〜100μm、特に好ましくは10〜50μm)の表面層における平均結合相量を、該合金内部における平均結合相量よりも減少させ、該表面層における結合相量を、該合金の表面で最小とするとともに、該合金の内部に向って漸増させて、内部の平均結合相量に達するようにすることによって、ダイヤモンド膜と超硬合金の密着性改善を図ることが提案されている。
【0005】
さらに、例えば、特許文献3に示すように、WC基超硬合金製工具基体をダイヤモンドで被覆するにあたり、その表面を、ムラカミ(Murakami)試薬中でエッチングし、次いで、硫酸と過酸化水素の溶液中でエッチングすることにより、工具基体とダイヤモンド膜の密着性を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2539922号明細書
【特許文献2】特開平3−115571号公報
【特許文献3】特許第3504675号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の切削加工の技術分野における省力化および省エネ化、さらに低コスト化に対する要求は強く、これに伴い、切削加工は益々高速化の傾向にあるが、上記の従来ダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具(以下、単にダイヤモンド被覆工具という)を、例えば、CFRP材等の難削材のドリル加工の様な鋭利な刃先が要求される切削加工に供した場合には、超硬合金製工具基体の靭性が十分でないためチッピングを発生しやすく、また、ダイヤモンド膜も剥離も生じやすいため、長期の使用に亘って、満足できる耐摩耗性を発揮することはできず、その結果、早期に比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、例えば、CFRPの高速穴あけ加工のように、切れ刃に高負荷が作用する切削条件に用いた場合でも、すぐれた靭性を備えるとともに、長期の使用に亘って、すぐれた耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆工具を提供すべく鋭意検討を重ねたところ、次のような知見を得た。
【0009】
一般に、Coの結晶構造として、六方晶(hcp)構造と立方晶(fcc)構造があること、また、六方晶(hcp)構造は立方晶(fcc)構造に比して、脆弱であることはよく知られている。
しかしながら、WC基超硬合金を工具基体とするダイヤモンド被覆工具においては、工具基体の塑性変形はできるだけ小さい方が良いことから、WC基超硬合金の結合相主体を構成するCoについては、工具基体の耐塑性変形性を高め、ダイヤモンド膜の剥離発生を防止する同時に、工具基体に所定の靭性を有していることが必要であるが、工具基体の表層近傍においては、六方晶(hcp)構造のCoと立方晶(fcc)構造のCoを共存させることにより、耐塑性変形性を向上させつつ、靱性を確保することが可能である。
一方、工具基体表面に被覆するダイヤモンド膜については、その耐摩耗性を高めるためには、ダイヤモンド膜中には、所定の圧縮残留応力が形成されることが望まれる。
【0010】
そこで、本発明者らは、工具基体に所定の靭性、耐塑性変形性を付与し、しかもダイヤモンド膜に所定の圧縮残留応力を付与する手段について鋭意研究を進めたところ、WC基超硬合金へ特定の前処理(工具基体表面近傍からのCo除去)を施すとともに、ダイヤモンド膜成膜後、特定の熱処理によって工具基体内部からCoを表面に向かって拡散させることで、成膜前に除去したCoを戻し、かつCo結晶構造の変化とダイヤモンド膜への圧縮残留応力付与を施すことによって、靭性と耐摩耗性に優れたダイヤモンド被覆工具が得られることを見出したのである。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステンとコバルトを主成分とし、かつ、3〜14質量%のコバルトを含有する炭化タングステン基超硬合金を基体とし、該基体上に平均膜厚5〜30μmのダイヤモンド膜を被覆形成したダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、
上記炭化タングステン基超硬合金基体の表面から、その内部へ表面から10μmの縦断面領域にわたるコバルトの結晶構造を電子線後方散乱回折装置で測定した場合、コバルトの総占有面積に占める六方晶(hcp)構造のコバルトの占有面積割合が、0.2〜0.8の範囲内にあることを特徴とするダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。
(2) 上記ダイヤモンド膜の平均圧縮残留応力値が、2.2〜3GPaの範囲内にあることを特徴とする前記(1)に記載のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。
(3) 上記ダイヤモンド膜の刃先稜線部における断面における圧縮残留応力は、膜厚をDとし、膜厚の中央位置0.5Dの圧縮残留応力値をSmとした場合、母材界面からの距離が0.25Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの1.2から2.0倍であり、母材界面からの距離が0.75Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの0.5から0.8倍であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。」
を特徴とするものである。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のダイヤモンド被覆工具の工具基体は、硬質相成分としての炭化タングステン(WCで示す)と結合相成分としてのCoを少なくとも含有し、かつ、Co含有量は3〜14質量%とする。
Co成分には、結合相を形成して基体の強度および靭性を向上させる作用があるが、WC基超硬合金中のCo含有量が3質量%未満では、特に靭性の向上が望めず、一方、Co含有量が14質量%を越えると、塑性変形が起り易くなって、偏摩耗の進行が促進されるようになることから、WC基超硬合金中のCo含有量は3〜14質量%と定める。
【0014】
また、工具基体表面に被覆するダイヤモンド膜は、その厚さが5μm未満では、長期の使用に亘って十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、ダイヤモンド膜厚が30μmを超えると、チッピング、欠損、剥離が発生しやすくなることから、ダイヤモンド膜の膜厚は、5〜30μmと定めた。
【0015】
本発明のダイヤモンド被覆工具の工具基体は、その表面近傍、即ち、工具基体表面から10μmの深さの領域において、コバルトの総占有面積に占める六方晶(hcp)構造のCoの占有面積割合が、0.2〜0.8の範囲内となるように六方晶(hcp)構造のCoと立方晶(fcc)構造のCoの共存領域を形成する。ここで、工具基体表面から1〜10μmの深さの領域における六方晶(hcp)構造のCoの占有面積割合が、0.2未満であると、塑性変形性が大きくなりすぎてダイヤモンド膜の剥離が生じやすくなり、一方、これが0.8を超えるようになると、クラックの発生による欠損が生じやすくなるとともに、工具基体の靭性が低下することから、工具基体表面から10μmの深さの領域におけるCoの総占有面積に対する六方晶(hcp)構造のCoの占有面積割合は、0.2〜0.8の範囲に定めた。
【0016】
上記六方晶(hcp)構造のCoの占有面積割合は、WC基超硬合金基体の表面から、その内部へ表面から10μmの縦断面において、例えば、10μm×10μmの領域について電子線後方散乱回折装置でCoの結晶構造を測定することによって求めることができる。
【0017】
本発明のダイヤモンド被覆工具のダイヤモンド膜は、その平均圧縮残留応力値が2.2〜3GPaの範囲内にあることが望ましいが、この値が2.2GPaより低い場合には、長期の使用に亘っての耐摩耗性の向上効果が少なく、一方、この値が3GPaを超えると、ダイヤモンド膜が剥離しやすくなることから、ダイヤモンド膜の平均圧縮残留応力値は2.2〜3GPaの範囲内に定めた。
【0018】
本発明のダイヤモンド膜の平均圧縮残留応力は、Coを管球とするX線回折による2θ−sinφ法により求めることができる。
【0019】
本発明のダイヤモンド被覆工具のダイヤモンド膜は、刃先稜線部における断面における圧縮残留応力が、膜の中央部の圧縮残留応力値をSmとし、膜厚をDとした場合、母材界面からの距離が0.25Dの圧縮残留応力値は、Smの1.2〜2.0倍であり、母材界面からの距離が0.75Dの圧縮残留応力値は、Smの0.5〜0.8倍であることが望ましいが、界面から0.25Dの部分の圧縮残留応力値がSmの1.2倍よりも小さいと耐摩耗性向上の効果が小さく、一方その値が2.0倍を超えると、ダイヤモンド膜が剥離しやすくなる。また、界面から0.75Dの部分の圧縮残留応力がSmの0.5倍よりも小さいと、熱収縮差による圧縮残留応力の増加量が大きいことを意味するため、ダイヤモンド膜が剥離しやすくなり、一方その値が0.8倍を超えると、耐摩耗性向上の効果が小さくなることから、上記のような範囲にあることが望ましい。
【0020】
本発明のダイヤモンド膜の刃先稜線部における残留応力(σ)分布は、断面をCP研磨(クロスポリシング)により形成し、ビーム径1ミクロンのアルゴンイオンレーザーによるラマン分光により、ダイヤモンドに由来する1333cm-1付近のピークのラマンシフト量(Δν)から、以下の式を用いて換算した。
σ(GPa)=1.080×Δν
【0021】
工具基体表面から10μmの深さの領域におけるCoの総占有面積に対する六方晶(hcp)構造のCoの占有面積割合が0.2〜0.8であり、工具基体表面に被覆形成されたダイヤモンド膜の平均残留応力が2.2〜3GPaであり、また、ダイヤモンド膜の刃先稜線部における断面における圧縮残留応力は、膜厚をDとし、膜厚の中央位置0.5Dの圧縮残留応力値をSmとした場合、母材界面からの距離が0.25Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの1.2から2.0倍であり、母材界面からの距離が0.75Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの0.5から0.8倍であるダイヤモンド被覆工具は、例えば、以下の製造法によって製造することができる。
まず、WCとCoを主成分とし、Coを3〜14質量%含有する超硬合金焼結体からなるWC基超硬合金工具基体を作製した後、該超硬合金基体の表面近傍のCoを化学的なエッチング(硫酸+過酸化水素)によって除去し、その後、熱フィラメントCVD装置にて、ダイヤモンド膜を成膜し、成膜終了後に、真空下でフィラメントの電流値を高めて、工具基体温度を1000℃以上に上昇させ、1時間程度保持後、炉冷することによって、本発明のダイヤモンド被覆工具を製造することができる。
【0022】
そして、上記の製造工程において、工具基体の温度を、一旦、1000℃以上の高温に昇温させることによって、ダイヤモンド成膜前に、エッチングでCoが除去されていた工具基体の表面近傍に、超硬合金の内部からCoが拡散してくる。
さらに、工具基体は、一旦、1000℃以上の高温に昇温されていたことで、炉冷時には、成膜されたダイヤモンド膜の圧縮応力が高くなるとともに、炉冷時に発生する熱応力によって、工具基体の表面近傍に拡散してきたCoの一部の結晶構造が、立方晶(fcc)構造から六方晶(hcp)構造に変態する。
このような、ダイヤモンド膜中の圧縮応力の発生、Co結晶構造の変態によって、コバルトの総占有面積に占める六方晶(hcp)構造のコバルトの占有面積割合が、0.2〜0.8の範囲内にあり、また、ダイヤモンド膜の平均圧縮残留応力値が、2.2〜3GPaの範囲内であり、またダイヤモンド膜の刃先稜線部における断面における圧縮残留応力は、膜厚をDとし、膜厚の中央位置0.5Dの圧縮残留応力値をSmとした場合、母材界面からの距離が0.25Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの1.2から2.0倍であり、母材界面からの距離が0.75Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの0.5から0.8倍であるダイヤモンド被覆工具を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のダイヤモンド被覆工具は、WC基超硬合金基体の表面近傍(基体表面から、その内部へ表面から10μmの縦断面領域)における六方晶(hcp)構造のCoの占有面積割合が、同領域におけるCoの総占有面積の0.2〜0.8を占め、また、ダイヤモンド膜の平均圧縮残留応力値が、2.2〜3GPaの範囲内であり、またダイヤモンド膜の刃先稜線部における断面における圧縮残留応力は、膜厚をDとし、膜厚の中央位置0.5Dの圧縮残留応力値をSmとした場合、母材界面からの距離が0.25Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの1.2から2.0倍であり、母材界面からの距離が0.75Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの0.5から0.8倍であることから、CFRP等の難削材の高速切削加工において、すぐれた靭性、耐塑性変形性を示すとともに、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
つぎに、本発明のダイヤモンド被覆工具について、実施例により具体的に説明する。
なお、ここでは、ダイヤモンド被覆工具の具体例としてダイヤモンド被覆超硬合金製ドリルについて述べるが、本発明はこれに限られるものではなく、ダイヤモンド被覆超硬合金製インサート、ダイヤモンド被覆超硬合金製エンドミル等、各種のダイヤモンド被覆工具に適用できるものである。
【実施例】
【0025】
(a) 原料粉末として、いずれも0.5〜3μmの範囲内の所定の平均粒径を有するWC粉末、Co粉末、Cr粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、TiC粉末およびZrC粉末を、表1に示される割合に配合し、さらにバインダーと溶剤を加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、いずれも100MPaの圧力でプレス成形して、直径が10mmの丸棒圧粉体とし、これらの丸棒圧粉体を、1Paの真空雰囲気中、1380〜1450℃の温度で1〜2 時間保持後、炉冷の条件で焼結することにより、WC基超硬合金焼結体1〜5を製造した。
ついで、上記WC基超硬合金焼結体1〜5を、溝形成部の外径寸法が8mmとなるように研削加工することにより、WC基超硬合金製ドリル基体(以下、単に「ドリル基体」という)1〜5を製造した。
【0026】
(b) ついで、上記ドリル基体1〜5を、硫酸と過酸化水素と水を1:20:100(容積比)で混合したエッチング液に2〜4秒浸漬して、ドリル基体1〜5の表面近傍のCoを数ミクロンの深さまでエッチングで除去する。
【0027】
(c) ついで、このドリル基体1〜5を、熱フィラメントCVD装置に装入し、装置内に水素ガスとメタンガスを導入し、該雰囲気ガス中でドリル基体1〜5の温度を約800℃に維持してダイヤモンド膜を所定の膜厚に成膜する。
【0028】
(d) 所定の膜厚にまでダイヤモンドを成膜した後、水素ガスとメタンガスの導入を停止し、真空雰囲気中にて、フィラメント電流を増加させ、ドリル基体1〜5の温度を1050〜1150℃にまで上げ、この温度範囲に1時間保持した後に炉冷して、表2に示す本発明のダイヤモンド被覆WC基超硬合金製ドリル(以下、単に、「本発明ドリル」という)1〜5を製造した。
【0029】
比較のため、本発明ドリル1〜5の上記製造工程における工程(a)〜(c)により、表3に示す比較例のダイヤモンド被覆WC基超硬合金製ドリル(以下、単に、「比較例ドリル」という)1〜5を製造した。(即ち、比較例ドリル1〜5については、上記工程(d)を行っていない。)
【0030】
ついで、上記で製造した本発明ドリル1〜5および比較例ドリル1〜5について、電子線後方散乱回折装置を用いて、各ドリルの超硬合金基体表面から、その内部へ表面から10μmの縦断面領域の10μm×10μmの領域について、Coの総占有面積と、該面積に占める六方晶(hcp)構造のCoの占有面積を測定し、Coの総占有面積に占める六方晶(hcp)構造のCoの占有面積割合を求めた。また、ダイヤモンド膜の膜厚については、ダイヤモンドカッター等を用いて切り込みを入れた後に工具刃先部分の破断面を作製し、その破断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより測定し、その破断面における膜厚を刃先近傍の稜線より1mmの範囲で5点測定を行い、その平均値を膜厚とした。
表2、3にこれらの値を示す。
【0031】
また、本発明ドリル1〜5および比較例ドリル1〜5について、ダイヤモンド膜の圧縮残留応力を以下の測定法で測定し、平均圧縮残留応力の値を求めた。
X線回折装置にて、40mA、200kVの電流と電圧にてCo管球を用いて、X線を発生させ、ダイヤモンドの(311)のピークに関し、2θ−sinψ法により、ψ角を0から39度まで変化させることで、測定を行った。
【0032】
また、本発明ドリル1から5および比較ドリル1から5について、ダイヤモンド膜の圧縮残留応力(σ)の分布を以下の測定法で測定し、膜厚Dに対する界面からの距離0.25D、0.5Dおよび0.75Dの位置における圧縮残留応力値を求めて、膜中央位置に対する相対値を求めた。
ラマン分光装置にて、アルゴンイオンレーザーの488.0nmを用い、ビーム径を1ミクロンとし、ラマンスペクトルを得、1333cm−1付近のピークのシフト量(Δν)を求め、換算式 σ(GPa)=1.080×Δν により、応力値を計算した。
表2、3にこれらの値を示す。
【0033】
【表1】



【0034】
【表2】



【0035】
【表3】



【0036】
つぎに、上記本発明ドリル1〜5および比較例ドリル1〜5を用いて、以下の条件で、CFRPの高速ドリル穴開け試験を行った。
切削速度: 105 m/min,
送り: 0.12 mm/rev.,
穴深さ: 20 mm,
上記の切削試験において、正常摩耗の場合は切れ刃の最大逃げ面摩耗幅が、0.3mmを超えた時点で使用寿命とし、それまでの穴あけ加工数を測定した。
また、ドリル折損等が原因で使用寿命に至った場合には、それまでの穴あけ加工数を測定した。
表4にこれらの測定結果を示す。
【0037】
【表4】

【0038】
表2〜表4の結果からも明らかなように、本発明ドリル1〜5は、WC基超硬合金基体の表面近傍(基体表面から、その内部へ表面から10μmの縦断面領域)における六方晶(hcp)構造のCoの占有面積割合が、同領域におけるCoの総占有面積の0.2〜0.8を占め、また、ダイヤモンド膜の平均圧縮残留応力値が、2.2〜3GPaの範囲内であり、ダイヤモンド膜の刃先稜線部における断面における圧縮残留応力は、膜厚をDとし、膜厚の中央位置0.5Dの圧縮残留応力値をSmとした場合、母材界面からの距離が0.25Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの1.2から2.0倍であり、母材界面からの距離が0.75Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの0.5から0.8倍であることから、CFRP等の難削材の高速ドリル穴開け切削加工において、すぐれた靭性、耐塑性変形性を示すとともに、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮している。
これに対して、WC基超硬合金基体の表面近傍の六方晶(hcp)構造のCoの占有面積割合が、同領域におけるCoの総占有面積の0.2未満であり、また、ダイヤモンド膜の平均圧縮残留応力値が、1.5〜2GPa程度である比較例ドリル1〜5は、靱性、耐摩耗性に劣ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具は、ダイヤモンド被覆超硬合金製ドリルばかりでなく、ダイヤモンド被覆超硬合金製インサート、ダイヤモンド被覆超硬合金製エンドミル等、各種のダイヤモンド被覆工具に適用できるものであり、すぐれた靱性と耐摩耗性を発揮することから、切削加工の省エネ化、低コスト化に十分満足に対応できるものである。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステンとコバルトを主成分とし、かつ、3〜14質量%のコバルトを含有する炭化タングステン基超硬合金を基体とし、該基体上に平均膜厚5〜30μmのダイヤモンド膜を被覆形成したダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、
上記炭化タングステン基超硬合金基体の表面から、その内部へ表面から10μmの縦断面領域にわたるコバルトの結晶構造を電子線後方散乱回折装置で測定した場合、コバルトの総占有面積に占める六方晶(hcp)構造のコバルトの占有面積割合が、0.2〜0.8の範囲内にあることを特徴とするダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。
【請求項2】
上記ダイヤモンド膜の平均圧縮残留応力値が、2.2〜3GPaの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。
【請求項3】
上記ダイヤモンド膜の刃先稜線部における断面における圧縮残留応力は、膜厚をDとし、膜厚の中央位置0.5Dの圧縮残留応力値をSmとした場合、基体界面からの距離が0.25Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの1.2から2.0倍であり、基体界面からの距離が0.75Dの部分の圧縮残留応力値は、Smの0.5から0.8倍であることを特徴とする請求項1または2に記載のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。