説明

靴下編機

【課題】 1台の靴下編機で左右の靴下を同等に編成することができ、左右の切換えも容易に行うことができるようにする。
【解決手段】 靴下の踵部を後針床12bと前針床12aとで編成可能にするために、後針床12b用のピッカ21とともに、前針床12a用のピッカ41を設ける。添糸用のヤーンフィーダ15au2,15adを、ピッカ21,41とともに、左足用と右足用とで切換えて使用する。使用しない方を休止させ、糸端を保持しておくために、他の編糸用の固定ルーパ42とは別に、添糸の糸端保持のための固定ルーパ43が設けられている。編糸または添糸となる編地からヤーンフィーダの給糸口まで伸びる編糸の途中を捕捉する際には、両方の固定ルーパ42,43に対してカッタ44を共通に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、つま先に指袋を有し、踵部で部分的な編目の増減が行われ、全体的には筒状の靴下を、添糸編みの編地を含むように編成する靴下編機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、図4に示すような靴下1が2枚ベッドの横編機で筒状に編成されている。図4の(a)はたとえば前針床、(b)は後針床でそれぞれ編成する編地部分を示す。編糸を前針床と後針床とに周回させながら編成することによって、前針床で編成する編地部分と後針床で編成する編地部分とが編幅の両端で連結される筒状の編地が得られる。靴下1の編出しは、手の親指に相当する第1指用の第1指袋2aの先端から開始される。第1指袋2aの根本まで編成すると、手の人差指に相当する第2指用の第2指袋2bの先端の編成を開始する。以下、同様にして、手の中指および薬指に相当する第3指用の第3指袋2cおよび第4指用の第4指袋2dをそれぞれ編成する。4つの指袋を編成すると、第1指から第4指までの4本指をまとめた部分の筒状編地を編成した後、手の小指に相当する第5指用の第5指袋2eの先端の編出しを開始し、第5指袋の編成が終了すると、5本指全体をまとめた足甲部3aおよび足裏部3bを全体的に筒状に編成する。次に、後針床のみで、編幅の両側を目減らししながら、踵部3cを編成し、さらに編幅の両側を目増やししながら踵部3dを編成する。編幅が足裏部3bに戻れば、足首部4a,4bを全体的に筒状に編成する。足首部4a,4bの終端付近に、色縞部5a,5bを付加することもできる。足首部4a,4bの次は、ゴム糸を挿入するゴム部6a,6bを全体的に筒状に編成し、最後に解れ止め部7a,7bを編成する。
【0003】
色縞部5a,5b、ゴム部6a,6bおよび解れ止め部7a,7bを除く靴下1の編地の主要部分は、主糸と添糸とを用い、添糸がほとんど表面には出なくなるような添糸編みで編成される。添糸としては、たとえばフィラメント・ツイステッド・ヤーン(FTY)やウーリーナイロンなどと呼ばれる高弾性糸が使用される。色縞部5a,5bは、たとえば主糸とは異なる色の編糸のみで編成される。ゴム部6a,6bは、高弾性のゴム糸を挿入して編成される。解れ止め部7a,7bは、熱溶融糸などの解れ止め糸で編成される。なお、靴下1の製品としては、解れ止め部7a,7bでの解れ止めが最終処理ではなく、編成後に、解れ止め部7a,7bを内側に折込んで縫い合せる仕上げ処理が行われる。
【0004】
図5は、図4に示すような靴下1を編成する専用の靴下編機10の構成を示す。靴下編機10では、選針ドラム11a,11bを前針床12aおよび後針床12bにそれぞれ設けて、歯口13で靴下1を筒状編地として編成するために使用する編針を選択する。選針ドラム11a,11bは、たとえばオルゴールのようにドラム体にピンを立てて、編針の選針を行う(たとえば、特許文献1参照。)。歯口13の上方には、2列2段の移動レール14au,14ad,14bu,14bdがそれぞれ前針床12aおよび後針床12bの長手方向に平行に架設されている。各移動レールには、ヤーンフィーダが往復移動可能に支持される。前針床12a側の上段の移動レール14auには、2つのヤーンフィーダ15au1,15au2が支持されている。前針床12a側の下段の移動レール14ad、後針床12b側の上下の移動レール14bu,14bdには、ヤーンフィーダ15ad,15bu,15bdがそれぞれ支持されている。ヤーンフィーダ15ad,15bu,15bdには、上方から、編糸16ad,16bu,16bdとして、解れ止め糸、ゴム糸および色糸がそれぞれ供給される。前針床12aおよび後針床12bには、キャリッジ17a,17bがそれぞれ設けられ、連動して長手方向に往復移動可能である。各ヤーンフィーダ15au1,15au2,15ad,15bu,15bdは、キャリッジ17a,17bに立設される支持スタンド18a,18bから出没する連行ピン19で選択的に連行されて、キャリッジ17a,17bに従って往復移動する。
【0005】
ヤーンフィーダ15au1,15au2に上方から給糸される編糸16au1,16au2は、主糸および添糸である。ヤーンフィーダ15au1,15au2から歯口13に進出する編針への給糸位置は、主糸となる編糸16au1が添糸となる編糸16au2に一定の間隔を保って先行するように、キャリッジ17aの移動方向に応じて、移動状態が切換えられる(たとえば、特許文献2参照。)。なお、主糸給糸用のヤーンフィーダと添糸給糸用のヤーンフィーダとを別の移動レールに設けることもできるけれども(たとえば、特許文献3参照。)、移動状態を切換える必要があることは同様である。
【0006】
主糸給糸用のヤーンフィーダ15au1が添糸給糸用のヤーンフィーダ15au2を追越す際には、歯口13で下端の給糸口が前針床12a側にずれた位置を通過する。各キャリッジ17a,17bには、選針ドラム11a,11bによって選針された編針を駆動して編成動作を行わせるためのカム20a,20bがそれぞれ搭載されている。後針床12b側のキャリッジ17bには、ピッカ21も搭載されている。ピッカ21は、選針ドラム11bで選針されている編針に対し、後針床12bの長手方向の両側から順次目減らしを行い、また順次目増やしを行い(たとえば、特許文献4参照。)、図4(b)に示す踵部3c,3dを編成するために使用される。図4に示す親指袋2aなどの編出しは、可動ルーパ22で糸端を保持したり、切断したりしながら行う(たとえば、特許文献5参照。)。前針床12aおよび後針床12bの長手方向の一端には、固定ルーパ23も設けられ、解れ止め糸および色糸としての編糸16ad,16bdをそれぞれ保持し、カッタ24で切断することができる(たとえば、特許文献6参照。)。
【0007】
図6は、図5の前針床12a,および後針床12bにそれぞれ並設される編針30の概略的な構成を示す。編針30では、ニードル31とジャック32とが一体的に連結されている。ニードル31は、先端にフック33を有し、ラッチ34でフック33の開口部を開閉することができる。ニードル31には、図5のキャリッジ17a,17bに搭載されるカム20a,20bの作用を受けるニードルバット35とともに、止めバット36が設けられている。ジャック32にも、カム20a,20bの作用を受けるジャックバット37が設けられている。各編針30は、前針床12aおよび後針床12bの長手方向に沿って設けられる針溝にそれぞれ収容され、選針ドラム11a,11bによる選針で、ニードルバット35およびジャックバット37がカム20a,20bの作用を受けるように、針溝から突出する。ピッカ21による目減らしは、選針されている編針30を歯口13側に進出させて、ニードルバット35およびジャックバット37をカム20a,20bによる編成動作用の作用を受ける位置から外すようにして行われる。止めバット36は、編針30がピッカ21による目減らしで歯口13へ進出する際に、その編針30で係止している編目がシンカの作用を受けないようにするために設けられている。靴下編機10には、キャリッジ17a,17bにシンカを駆動するカムも搭載され、編針30に係止されている編目を押圧する。ピッカ21による目減らしで休止している編針30に係止されている編目は、シンカによって繰返して押圧され、切断などが生じるおそれがある。止めバット36を、休止状態の編針30でシンカが作用する位置に設けておくことによって、休止している編針30が係止する編目を、シンカが作用する範囲よりも上方に退避させ、押圧の繰返しを避けることができる。
【0008】
ただし、ピッカ21による目減らしの対象となった編針30に主糸および添糸となる編糸16au1,16au2を給糸している状態では、止めバット36の側部に編糸16au1,16au2が掛っている。添糸編みの踵部3c,3dの編地中では主糸となる編糸16au1の上部に添糸となる編糸16au2が位置しているけれども、ピッカ21によって歯口に進出させた編針30では、止めバット36に編糸16au1,16au2が掛って、添糸となる編糸16au2の方が主糸となる編糸16au2よりも細いので、横にずれてしまう。ヤーンフィーダ15au1,15au2が移動方向を転換する際には、特許文献2,3に示すように、主糸給糸用の給糸口が添糸給糸用の給糸口よりも先行するように、給糸口の追越しが必要となる。追越しの方向は、止めバット36での編糸16au1,16au2の位置関係に合っている必要がある。
【特許文献1】特許第2931589号公報
【特許文献2】特公昭61−58576号公報
【特許文献3】特公昭61−58577号公報
【特許文献4】特許第2779862号公報
【特許文献5】特公昭48−24421号公報
【特許文献6】特公昭62−53620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図4に示すような5本の指袋付の靴下1は、手袋の形状を変形したものと考えることもできる。手袋を専用に編成する手袋編機も、基本的に図5に示すような靴下編機10と同様な構成で実現される。図5に示す靴下編機10のような編機は、選針ドラム11a,11bに設定した編地パターン以外は編成することはできない。異なる編地パターンの編地を編むためには、ドラムのピン設定を機械的に変更する必要がある。また、可動ルーパ22の動作範囲や固定ルーパ23およびカッタ24の位置も、いったん設定した後の変更は困難となる。したがって、図5に示すような選針ドラム11a,11bで編針の選針を行う靴下編機10や手袋編機を効率的に運転させるためには、いったん設定した状態で連続的に同一の靴下1を編成する必要がある。
【0010】
ただし、手袋には、靴下1のような踵部3c,3dは不要であり、手袋の掌側と甲側とは等しい編地組織とすることができる。したがって、同一の編地を2つ編上げれば、手袋の左右が揃う。しかし、靴下1では足裏側に踵部3c,3dが必要となる。踵部3c,3dの編成には、ピッカ21が必要となるので、図5に示すようにピッカ21が後針床12b側に配置されていれば、後針床12bは足裏側、前針床12aは足甲側の編地をそれぞれ専用に編成することとなり、このような配置では靴下1は右足用のみとなる。左足用の靴下を編成するためには、選針ドラム11a,11bのピン設定を左右逆にして、さらに可動ルーパ22と、固定ルーパ23およびカッタ24の配置も左右逆にしなければならない。このような設定変更を行いながら1台の靴下編機10で左右の靴下を編成することは生産性を低下させてしまうので、たとえば針床の右側で第1指袋を編成し、順次左側に指袋を編成する順序は共通として選針ドラム11a,11bの設定は共通化し、踵部を後針床12bで編むためにキャリッジ17bにピッカ21を搭載する右足用、および踵部を前針床12aで編むためにキャリッジ17aにピッカ21を搭載する左足用の2台の靴下編機10が用いられている。
【0011】
図5のピッカ21を、前針床12a側のキャリッジ17aにも搭載すれば、前針床12aで足裏側を編成し、選針ドラム11a,11bのピン配置や、可動ルーパ22と、固定ルーパ23およびカッタ24の配置は右足用の設定状態から変更しないでも、理論的には左足用の靴下を編成することができると考えられる。しかしながら、目減らしの際に、ピッカ21によって歯口側に上げられる編針30は前針床12a側となるので、止めバット36に掛る編糸16au1,16au2の位置関係は左右が逆となり、後針床12b側の編針30を休止させる場合に適合する追越しの関係では、主糸と添糸とに交差部が生じてしまう。交差部は、踵部3c,3dの編幅から離れた位置に形成されるために、以降の編成コースに交差部を含む編糸16au1,16au2が供給されると、踵部3c,3dとして編成される編地中に交差部が編込まれてしまい、風合いを損ってしまう。
【0012】
本発明の目的は、1台の靴下編機で左右の靴下を同等に編成することができ、左右の切換えも容易に行うことができる靴下編機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、歯口を挟んで山形に頂部を対向させた一対の平針床に並設される編針を選針ドラムに予め設定されるパターンに従って選択し、各平針床に設けられて編針の並設方向に往復走行するキャリッジに搭載されるカムで編成動作を行わせ、つま先側に指袋を有し、全体的には筒状となる靴下を、添糸編みの編地を含むように編成する靴下編機において、
両方の平針床で踵部付加用の編針の増減が可能なように、各平針床に設けられるキャリッジにそれぞれ搭載され、いずれかが作動して踵部を編成するように切換えられる一対のピッカと、
歯口に添糸編みの主糸を給糸するように、キャリッジの走行に合わせて往復移動可能な主糸用ヤーンフィーダと、
歯口に添糸編みの添糸を給糸し、キャリッジの走行に合わせて往復移動可能であり、移動方向の切換え時の主糸用ヤーンフィーダによる追越し軌跡が一方の平針床側でのピッカの作動に適合して、該一方の平針床側のピッカへの切換え時に選択される一方の添糸用ヤーンフィーダと、
歯口に添糸編みの添糸を給糸し、キャリッジの走行に合わせて往復移動可能であり、移動方向の切換え時の主糸用ヤーンフィーダによる追越し軌跡が他方の平針床側でのピッカの作動に適合して、該他方の平針床側のピッカへの切換え時に選択される他方の添糸用ヤーンフィーダと、
選択されない添糸用ヤーンフィーダから給糸される添糸の糸端を保持し、添糸用ヤーンフィーダの選択切換え時に、保持していた添糸の糸端を解放し、選択から非選択に切換えられた添糸用ヤーンフィーダから給糸される添糸の糸端を保持するように切換えられる添糸用糸端保持機構とを、
含むことを特徴とする靴下編機である。
【0014】
また本発明では、前記主糸用ヤーンフィーダと前記一方の添糸用ヤーンフィーダとを、往復移動可能に支持する第1の移動レールと、
前記他方の添糸用ヤーンフィーダを往復移動可能に支持する第2の移動レールとを、
含むことを特徴とする。
【0015】
また本発明で、前記第2の移動レールは、前記第1の移動レールの下方に架設されることを特徴とする。
【0016】
また本発明では、前記第1の移動レールおよび前記第2の移動レールに平行するように架設され、前記主糸および前記添糸とは異なる編糸を給糸可能なヤーンフィーダを往復移動可能に支持する第3の移動レールと、
該第3の移動レールに支持されて往復移動するヤーンフィーダから給糸される編糸の糸端を保持して解放可能な編糸用糸端保持機構と、
該編糸用糸端保持機構および前記添糸用糸端保持機構に対して共通に設けられ、編糸用保持機構および添糸用保持機構で編地からヤーンフィーダに渡る編糸および添糸をそれぞれ捕捉して保持する際に、編地側を切断する切断機構とを、
含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、歯口を挟んで山形に頂部を対向させた一対の平針床の両方のキャリッジに、踵部付加用の編針の増減が可能なピッカを設け、主糸用ヤーンフィーダに対して、添糸用ヤーンフィーダを、追越し軌跡がピッカの作動に適合するように選択することができるので、1台の靴下編機で左右の靴下の編地を同等に編成することができる。左右の切換えは、ピッカおよび添糸用のヤーンフィーダに対して行えばよいので、容易に行うことができる。同一の靴下編機で左右の靴下を編成するので、編成条件は左右で同等とすることができる。
【0018】
また本発明によれば、主糸用ヤーンフィーダと2つの添糸用ヤーンフィーダとの3つのヤーンフィーダを、2本の移動レールで往復移動可能に支持することができる。2つの添糸用ヤーンフィーダは異なる移動レールで支持するので、主糸用ヤーンフィーダに対する追越し軌跡が異なる状態を容易に実現することができる。
【0019】
また本発明によれば、上下の移動レールの上方で主糸用ヤーンフィーダおよび添糸用ヤーンフィーダが支持されるので、特許文献2に記載されているようにして、添糸編みを行うことができる。また、下方の移動レールで添糸用ヤーンフィーダが支持されるので、特許文献3に記載されているようにして、添糸編みを行うことができる。
【0020】
また本発明によれば、第3の移動レールで支持されるヤーンフィーダから給糸する編糸と、添糸編みには使用しないで休止する添糸用ヤーンフィーダから給糸する添糸とを、編糸用糸端保持機構と添糸用糸端保持機構とで、別に保持して解放可能であるので、添糸の切換え時の糸端の保持と解放とを円滑に行うことができる。切断機構は、編糸および添糸を捕捉して保持する際に切断するので、共通化し、設置スペースを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1〜図4を参照して、本発明の実施の一形態としての靴下編機40に関連する技術的な事項を説明する。なお、以下の説明で、先に説明している部分と対応する部分は、同一の参照符を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
図1は、本実施形態の靴下編機40の概略的な構成を示す。靴下編機40では、図5に示す靴下編機10を基礎とし、前針床12a側のキャリッジ17aにもピッカ41を搭載している。前述のように、前針床12a側にピッカ41を設けるだけでは、前針床12aで編成する踵部3c,3dの風合いを損ねるおそれがあるので、前針床12aの上方に架設される2段の移動レール14au,14adのうちの上段に主糸用のヤーンフィーダ15au1および添糸用のヤーンフィーダ15au2を割当てるだけではなく、下段にも添糸用のヤーンフィーダ15adを割当てている。新たに割当てる添糸用のヤーンフィーダ15adは、給糸口が主糸用のヤーンフィーダ15au1の給糸口に追越される軌跡の位置関係が添糸用のヤーンフィーダ15au2とは異なる側となるように設定される。
【0023】
添糸用のヤーンフィーダ15au2,15adを右足用と左足用とで切換えて使用する場合、使用しない方を休止させ、糸端を保持しておく必要がある。このため、図5の固定ルーパ23と同様な固定ルーパ42とともに、添糸用糸端保持装置としての固定ルーパ43が設けられている。ただし、編糸、または添糸となる編糸が編地からヤーンフィーダの給糸口まで伸びる途中で捕捉して糸端を保持するタイミングは、編糸と添糸とで異なるので、両方の固定ルーパ42,43に対してカッタ44を共通に使用しても、切断は異なるタイミングに合わせて、それぞれ別に行うことができる。ヤーンフィーダの割当てに関して、図5では解れ止め糸用に使用しているヤーンフィーダ15adを添糸の給糸用に使用するので、ピッカ21,41を切換えて、後針床12bまたは前針床12aのいずれかで踵部3c,3dを編成することができる。
【0024】
すなわち、ヤーンフィーダ15adを添糸の給糸用に使用する場合は、給糸口の主糸用のヤーンフィーダ15au1の給糸口に対する追越し軌跡が、ヤーンフィーダ15au2の給糸口のヤーンフィーダ15au1の給糸口に対する追越し軌跡とは逆になるようにすればよい。前針床12a側のピッカ41で前針床12aの編針30を上昇させて目減らしを行う場合、後針床12b側のピッカ21で後針床12bの編針30を上昇させて目減らしを行う場合とで、止めバット36での主糸となる編糸16au1と添糸となる編糸16adとの位置関係は、左右が逆となる。この結果、ヤーンフィーダ15au1,15adの移動方向を転換する際に交差部を生じさせないためには、主糸用のヤーンフィーダ15au1の給糸口が添糸用のヤーンフィーダ15adのたとえば編機正面から見て奥側を通過する軌跡で追越さなければならない。主糸用のヤーンフィーダ15au1と同一の移動レール14auで支持される添糸用のヤーンフィーダ15au2では、編機正面から見て手前側を通過する追越し軌跡となるようにすれば、2つの添糸用ヤーンフィーダ15au2,15adでは主糸用ヤーンフィーダ15au1の追越し時の軌跡が逆側となる。このように、後針床12b側のピッカ21と添糸用としてヤーンフィーダ15au2を使用して図4に示すような右足用の靴下1を編成するとともに、前針床12a側のピッカ41と、添糸用としてヤーンフィーダ15adを使用して左足用の靴下を編成することができる。
【0025】
図2は、図1の靴下編機40で編成可能な右足用の靴下1を(a)で、左足用の靴下51を(b)でそれぞれ示す。(a)に示す靴下1は、前針床12aで足甲部3aおよび前側の足首部4aを編成し、踵部3c,3dは後針床12bで編成する。(b)に示す靴下51は、後針床12bで足甲部53aおよび前側の足首部4aを編成し、踵部3c,3dは前針床12aで編成する。靴下51の足甲部53aは、図4(b)に示すように、靴下1の足裏部3bと基本的に同一である。足甲部53aと表裏の関係にある靴下51の足裏部は、靴下1の足甲部3aと基本的に同一である。踵部3c,3dを除けば、(a)で示す靴下1と(b)で示す靴下51とは表裏の関係にあり、選針ドラム11a,11bの設定は共通に使用することができる。
【0026】
また、図1の靴下編機40では、後針床12b側のピッカ21とともに前針床12a側にもピッカ41を設けているので、前針床12aと後針床12bとで踵部3c,3dをそれぞれ編成し、同一の5本指付靴下の両側に踵部3c,3dを設けるようにすることもできる。このように、両側に踵部3c,3dを設ける靴下は、5本指付でも右足用と左足用とを兼用することができる。
【0027】
図3は、主糸用のヤーンフィーダ15au1が往復移動する移動レール14auとは異なる移動レール14adで添糸用のヤーンフィーダ15adが休止する場合に、ヤーンフィーダ15adに上方から添糸として給糸される編糸16advが移動するヤーンフィーダ15au1と干渉しないように退避させる方法を示す。各ヤーンフィーダ15au1,15adでは、フィーダロッド46au1,46adが移動レール14au,14adに支持されて摺動変位する支持体45au1,45adから垂下するように設けられている。フィーダロッド46au1,46adの下端には給糸口47au1,47adがそれぞれ設けられる。各支持体45au1,45adには、上方給糸される編糸を受入れて給糸口47au1,47adまで中継する糸ガイド48au1,48adがそれぞれ取付けられている。ヤーンフィーダ15adが休止するときに、ヤーンフィーダ15au1と干渉する編糸16adの上下部分16advは、二点鎖線で示すように、糸ガイド48adから上方に向う部分である。
【0028】
上側のヤーンフィーダ15au1の支持体45au1には、案内部材である連行片49が取付けられる。また、下側のヤーンフィーダ15adが移動レール14adの一端側、または途中で休止する場合に、移動レール14adの他端側には、中継部材であるフック部材50が設けられる。連行片49の高さは、フック部材50よりも低くなっている。ヤーンフィーダ15au1,15adの先端の給糸口47au1,47adから給糸される編糸は、編地中の編目ループに連なるか、またはルーパなどで一時的に保持される。
【0029】
ヤーンフィーダ15adの休止開始時には、二点鎖線で示すように、編糸の上下部分16advが上側のヤーンフィーダ15au1の移動で干渉を生じる位置にある。連行片49は、ヤーンフィーダ15au1が破線で示す状態を経て左方に移動する際に、編糸の上下部分16advを案内して、実線で示すように、フック部材50に係止させることができる。フック部材50と休止するヤーンフィーダ15adの糸ガイド48adとの間の編糸は、水平部分16adhとなり、往復移動するヤーンフィーダ15au1とは干渉しなくなる。ヤーンフィーダ15adを休止状態から使用状態に切換える際には、ヤーンフィーダ15adをいったんフック部材50の位置まで移動させて、編糸の係止を解除させ、上方給糸の状態で使用する。
【0030】
なお、移動レール14adを往復移動するヤーンフィーダ15adを添糸の給糸用に使用すると、図4に示すような靴下編機1で使用する解れ止め糸を使用することができない。しかしながら、靴下1,51は、編成後に解れ止め部7a,7bを内側に折込んで縫いつける仕上げ処理を行うので、解れ止めは一時的なものでもよく、たとえば添糸のみを使用して有効な解れ止めを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の一形態である靴下編機40の主要部分の概略的な構成を簡略化して示す斜視図である。
【図2】図1の靴下編機40で編成可能な右足用の靴下1および左足用の靴下51の平面図である。
【図3】図1の下側のヤーンフィーダ15adに上方から給糸される編糸の上下部分16advが上側を往復移動するヤーンフィーダ15au1と干渉しないように退避させる構成を示す模式的な正面図である。
【図4】従来からの右足用の靴下1の平面図および背面図である。
【図5】図4の靴下1を編成する靴下編機10の主要部分の略的な構成を簡略化して示す斜視図である。
【図6】図5の靴下編機1に使用する編針30の側面図である。
【符号の説明】
【0032】
1,51 靴下
2a 第1指袋
2b 第2指袋
2c 第3指袋
2d 第4指袋
2e 第5指袋
3c,3d,53c,53d 踵部
11a,11b 選針ドラム
12a,12b 針床
13 歯口
14au,14ad,14bu,14bd 移動レール
15au1,15au2,15ad,15bu,15bd ヤーンフィーダ
16au1,16au2,16ad,16bu,16bd 編糸
17a,17b キャリッジ
20a,20b カム
21,41 ピッカ
30 編針
36 止めバット
40 靴下編機
42,43 固定ルーパ
44 カッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯口を挟んで山形に頂部を対向させた一対の平針床に並設される編針を選針ドラムに予め設定されるパターンに従って選択し、各平針床に設けられて編針の並設方向に往復走行するキャリッジに搭載されるカムで編成動作を行わせ、つま先側に指袋を有し、全体的には筒状となる靴下を、添糸編みの編地を含むように編成する靴下編機において、
両方の平針床で踵部付加用の編針の増減が可能なように、各平針床に設けられるキャリッジにそれぞれ搭載され、いずれかが作動して踵部を編成するように切換えられる一対のピッカと、
歯口に添糸編みの主糸を給糸するように、キャリッジの走行に合わせて往復移動可能な主糸用ヤーンフィーダと、
歯口に添糸編みの添糸を給糸し、キャリッジの走行に合わせて往復移動可能であり、移動方向の切換え時の主糸用ヤーンフィーダによる追越し軌跡が一方の平針床側でのピッカの作動に適合して、該一方の平針床側のピッカへの切換え時に選択される一方の添糸用ヤーンフィーダと、
歯口に添糸編みの添糸を給糸し、キャリッジの走行に合わせて往復移動可能であり、移動方向の切換え時の主糸用ヤーンフィーダによる追越し軌跡が他方の平針床側でのピッカの作動に適合して、該他方の平針床側のピッカへの切換え時に選択される他方の添糸用ヤーンフィーダと、
選択されない添糸用ヤーンフィーダから給糸される添糸の糸端を保持し、添糸用ヤーンフィーダの選択切換え時に、保持していた添糸の糸端を解放し、選択から非選択に切換えられた添糸用ヤーンフィーダから給糸される添糸の糸端を保持するように切換えられる添糸用糸端保持機構とを、
含むことを特徴とする靴下編機。
【請求項2】
前記主糸用ヤーンフィーダと前記一方の添糸用ヤーンフィーダとを、往復移動可能に支持する第1の移動レールと、
前記他方の添糸用ヤーンフィーダを往復移動可能に支持する第2の移動レールとを、
含むことを特徴とする請求項1記載の靴下編機。
【請求項3】
前記第2の移動レールは、前記第1の移動レールの下方に架設されることを特徴とする請求項2記載の靴下編機。
【請求項4】
前記第1の移動レールおよび前記第2の移動レールに平行するように架設され、前記主糸および前記添糸とは異なる編糸を給糸可能なヤーンフィーダを往復移動可能に支持する第3の移動レールと、
該第3の移動レールに支持されて往復移動するヤーンフィーダから給糸される編糸の糸端を保持して解放可能な編糸用糸端保持機構と、
該編糸用糸端保持機構および前記添糸用糸端保持機構に対して共通に設けられ、編糸用保持機構および添糸用保持機構で編地からヤーンフィーダに渡る編糸および添糸をそれぞれ捕捉して保持する際に、編地側を切断する切断機構とを、
含むことを特徴とする請求項2または3記載の靴下編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−7917(P2008−7917A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182605(P2006−182605)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】