鞄用カード錠
【課題】カード鍵を押し込むだけで施錠開錠できる鞄用カード錠を、TSA鍵で開錠できるようにする。
【解決手段】カード鍵1を、差込口2に差し込んで押し込むと、スライダーがカード鍵1の先端部に押されて移動する。合鍵が挿入された場合にのみスライダーの移動を可能にする複数のタンブラーが、カード鍵1の符号孔4に対応して設けられている。開錠状態においてカード鍵1を押し込むと、トグル機構が施錠状態に遷移する。施錠状態においてカード鍵1を押し込むと、トグル機構が開錠状態に遷移する。施錠状態では、トグル機構が閂バネを押して、閂バネが閂棒を押し、閂棒のフック部が鞄の蓋部の舌板に係合して蓋を閉鎖する。TSA鍵で開錠できる回転式のTSAシリンダー錠11の押出部は閂棒の駆動端部を押して、施錠状態にある閂棒を閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させ、鞄の蓋部の舌板をフック部から解放する。
【解決手段】カード鍵1を、差込口2に差し込んで押し込むと、スライダーがカード鍵1の先端部に押されて移動する。合鍵が挿入された場合にのみスライダーの移動を可能にする複数のタンブラーが、カード鍵1の符号孔4に対応して設けられている。開錠状態においてカード鍵1を押し込むと、トグル機構が施錠状態に遷移する。施錠状態においてカード鍵1を押し込むと、トグル機構が開錠状態に遷移する。施錠状態では、トグル機構が閂バネを押して、閂バネが閂棒を押し、閂棒のフック部が鞄の蓋部の舌板に係合して蓋を閉鎖する。TSA鍵で開錠できる回転式のTSAシリンダー錠11の押出部は閂棒の駆動端部を押して、施錠状態にある閂棒を閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させ、鞄の蓋部の舌板をフック部から解放する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞄用カード錠に関し、特に、鞄の把手の下に取り付けてカード鍵の押し込み操作で施錠と開錠を行いTSA鍵で開錠できる鞄用カード錠に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鞄用錠前の一種に、鞄の把手の下に取り付けるセンター錠がある。特に、TSAセンター錠は、税関で旅行鞄の内容物を検査するために、TSA鍵で強制開錠できるようになっている。TSA鍵は、TSA(Transportation Security Administration: アメリカ運輸保安局)が治安維持のために保有する特別の鍵である。旅行鞄に固定されたセンター錠の番号を開錠番号からずらすと施錠される。番号錠の番号を開錠番号に合わせてつまみを回すと、ロックが外れる。税関で検査する場合は、TSA鍵でシリンダー錠を開錠すると番号錠が無効化され、つまみを回すとロックが外れる。
【0003】
通常の錠前では、合鍵を差し込んで回転させて施錠開錠する。あるいは、南京錠などのように、施錠する際は単にシャックルを閉じる操作を行い、開錠する場合には合鍵を差し込んでから回転などの操作を行う。または、合鍵を差し込んでからレバーなどを動かすようにする錠前もある。このように、片手または両手で複数の操作を行って施錠開錠する錠前は、施錠が確実に行えるが操作がめんどうである。それをさけるために、鍵を押し込むだけで施錠開錠できる錠前がある。片手による単一操作で施錠開錠できるので、非常に便利である。合鍵を回転させたり、カード鍵をスライドさせたりする必要がない。このように、施錠開錠の操作は簡単化されてきた。以下に、これに関連する従来技術の例をあげる。
【0004】
特許文献1に開示された「スライドファスナー用カードロック」は、スライドファスナーのスライダーをカードキーで施解錠する際に、カードキーをその差込口に差し込む操作のみによって行うようにして、カードキーの磨耗や毀損を防止してその耐久性を向上するものである。図10(a)に示すように、カードキーを、その差込溝内に差し込むことによって、シリンダーが第1スプリングに抗して押し込まれる。シリンダーの前進に伴って、同方向へ第2スプリングの反発力で前進して、スライドファスナー用スライダーの突子にラッチが係合する。シリンダーの前進した位置を保持し、且つ再度のカードキーを差し込んでシリンダーを僅かに押し込むことによって、ノック式係止機構は保持状態を解除してシリンダーを復動する。
【0005】
特許文献2に開示された「カードロック錠つきのトランク錠」は、カード型キーの挿入口からのゴミの侵入を防ぎ、解錠時にみだりに施錠されないようにしたものである。図10(b)に示すように、カードロック錠では、シリンダーガイド中にシリンダーが回動可能に保持されている。シリンダー中に、操作ピンが挿入保持されている。シリンダーガイドには、シリンダーの施錠位置では施錠ピン及びピンスプリングが、又解錠位置では第2の施錠ピン及びピンスプリングが夫々保持されている。カード型キーの挿入口には、シャッターがシャッタースプリングを介してキー挿入溝に対して約60度の角度で取り付けられている。カード型キーの先端斜面部でシャッターを押しのけながらキーを挿入する。
【0006】
特許文献3に開示された「カード式錠前」は、操作が簡便で、構造が堅牢であって、かつ、安全性も高いものである。図10(c)に示すように、カードキーを上方から差し込むと、合い鍵であればカムの突起と、カードキーのスリットが合致し、カムの下端の基部が開き、カードキーはホルダーの斜孔に嵌め込まれた長軸を押すことができ、それによりスライダーを左方に押し、ラチェットでロック体の係止体を90度づつ回転させ、錠前を施錠又は解錠できる。鋭利な薄いものをキー挿入窓から差し込んでロック作動体をいじろうとしても、リンクのスリットを抜けてプレートのスリットに入り、動かなくなるので、ロック作動体をいじることはできなくなる。
【0007】
特許文献5に開示された「非接触作動式の施錠機構を備えた鞄」は、施錠・開錠操作が簡単で使い易い無線キーを活用したものである。図10(d)に示すように、IDカード等の無線キーに電磁波を照射することにより、記録された特定情報を呼び出せる。無線キーからの情報が所定の特定情報と同一か否かを、特定情報同定手段で判別する。電動式の錠前作動手段に同定信号が入力されると、施錠用ロック部材を施錠位置又は開錠位置に交互に変位させる。電源断続回路は、電源スイッチを同定信号に基づいてオン作動させ、所定時間経過後にオフ作動させる。施錠機構の不調時の為に、機械的開錠手段を付設する。
【0008】
特許文献5に開示された「操作輪付きダイヤル錠」は、操作が容易で、数字の指示も明瞭な、かばん錠に使用されるダイヤル錠である。図10(e)に示すように、操作輪付きダイヤル錠をセンターロックとして備えたかばん錠である。キーを用いる錠である。外周面に暗証番号用の数字を付したダイヤルがある。ダイヤルより径が大きくダイヤルと一体化されている操作輪がある。ダイヤルの数字が見える窓がある。操作輪が露出している孔がある。操作輪を付けたことにより、数字の見える窓は数字1つが見えればよく、数字の指示が明瞭になる。またダイヤルを直接操作しないので外周面を汚したり、摩滅によって数字が消えたりするおそれもない。
【0009】
特許文献6に開示された「複合ダイヤル錠前」は、施錠された不特定多数のダイヤル錠を一つの共通の鍵で解錠するものである。図10(f)に示すように、ダイヤル軸に遊嵌された複数個のダイヤルナンバーがある。止め金具を着脱する施錠板を有するダイヤル錠がある。共通の鍵でカム操作できるカムを有するシリンダー錠がある。ダイヤル錠とシリンダー錠とは、ダイヤル錠のダイヤル軸の一端がシリンダー錠のカムにカム係合できるように取り付けられている。ダイヤル錠の施錠板をダイヤルナンバーのダイヤル操作と鍵によるカム操作のいずれでも解錠状態にしてダイヤル錠を解錠する。
【0010】
特許文献7に開示された「ジッパーロック」は、小型化で確実にロックでき、TSA鍵で解錠できるものである。図11(a)に示すように、ジッパーロックの係止拘束部において、ジッパー引き手の環状部をスライド爪で係止する。番号錠を施錠するとロックボルトが下がり、ストッパーの動きを止め、スライド爪のスライド移動を阻止する。番号錠を解錠すると、ロックボルトは上がり、スライド爪はロックボルトに妨げられることなくスライドできるので、つまみを回してスライド爪からジッパー引き手を解放できる。TSA鍵で解錠すると、可動規制子が後退して、ストッパーを後退させる。スライド爪はスライドできるようになるので、つまみを回してスライド爪からジッパー引き手を解放できる。
【0011】
特許文献8に開示された「シリンダー錠付番号錠」は、強制解錠された状態を容易に通常の施錠状態に戻せるTSA錠である。図11(b)に示すように、番号錠が施錠されると、回転つまみはロックされる。番号錠の番号を合わせることにより解錠できる。回転つまみの把手を回して鈎を解いて、かばんを開ける。シリンダー錠が円筒内にあり、タンブラーで円筒に係合されている。強制解錠鍵で、シリンダー錠の係合を解除できる。シリンダー錠が解錠されると回転つまみのロックは無効になり、かばんを開けることができる。円筒に、タンブラーを強制解錠位置から通常位置に戻せるスロープ部を設けてある。シリンダー錠が強制解除状態のまま、かばんが返されても、ドライバーなどでシリンダー錠を回すと、シリンダー錠は通常位置に戻る。
【0012】
特許文献9に開示された「かばん用センターロック」は、TSA鍵でどのように操作しても異常状態にならないものである。図11(c)に示すように、番号錠の番号を合わせることにより、開閉用の回転つまみを回して解錠できる。番号錠の施錠に応じて、回転つまみの回転が阻止される。シリンダー錠がTSA鍵で解錠されると、回転つまみとの係合が解除されて回転し、リンク部を開方向にスライドさせ、かばんを開閉するためのロック用ハンドルを開放する。シリンダー錠が回転つまみに対して、通常施錠状態とTSA解錠状態との間の90度の範囲でしか回転しないように、回転制限機構を設けてある。シリンダー錠は、通常解錠状態から施錠方向には回転しないので、誤ってTSA鍵で施錠されることはない。また、通常解錠状態から過剰解錠方向に回転しないように、リンク部の動きを制限するリンク制限機構を設けてあるので、過剰解錠方向に回してロックを破損することはない。
【0013】
特許文献10に開示された「ジッパー錠」は、小型で容易に操作できる旅行鞄用のTSA錠である。ジッパー錠の裏板の連結穴を、ジッパーの第1のスライダーの頭部に結合する。図11(d)に示すように、ジッパー錠の施錠窓に、ジッパーの第2のスライダーの頭部を挿入して押さえ込むと、2個のロック用ボールで頭部が弾性的に挟まれて仮留めされる。シリンダー錠を鍵で施錠操作すると、カンヌキがスライドして、ロック腕が板バネと本体の側壁の間に入り、ロック用ボールが動かなくなるので、頭部が外れなくなる。施錠状態と解錠状態は、表示窓に表示される。シリンダー錠のマスタ鍵をTSA鍵とすれば、TSA錠として使用できる。ジッパー錠が引き手を兼ねるので小型である。ジッパー錠を押したり引いたりするだけで、仮留めと取外しができるので、操作が容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平06-088462号公報
【特許文献2】特開2001-140524号公報
【特許文献3】特開2001-241224号公報
【特許文献4】特開2002-168015号公報
【特許文献5】特開2006-225849号公報
【特許文献6】特開2006-348728号公報
【特許文献7】特開2009-068166号公報
【特許文献8】特開2009-121163号公報
【特許文献9】特開2009-281098号公報
【特許文献10】特開2010-248818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、従来の鞄用錠前では、次のような問題がある。単一操作で施錠開錠できる錠前はあるけれど、鍵を押し込むだけで施錠開錠できる錠前をTSA錠とすることができなかった。また、従来のTSA錠は、複数部品の組合せによって強制的に開錠させていたので、構成が複雑になりコスト高であったし、信頼性も低かった。
【0016】
本発明の目的は、上記従来の問題を解決して、鍵を押し込むだけで施錠開錠できる上下にスライドする錠前機構と回転式の強制開錠機構を組み合わせてTSA錠とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明では、鞄用カード錠を、カード鍵を差し込むための差込口と、カード鍵の先端部に押されてカード鍵挿入方向に移動するスライダーと、カード鍵の符号孔に対応して設けられており正規のカード鍵が挿入された場合にスライダーの移動を可能にする複数のタンブラーと、施錠状態において鞄の蓋部の舌板に係合して蓋を閉鎖する閂棒と、開錠状態においてスライダーを押し込むことにより施錠状態に遷移し、施錠状態においてスライダーを押し込むことにより開錠状態に遷移し、施錠状態と開錠状態に交互に遷移するトグル機構と、施錠状態のトグル機構に押されて閂棒を押して施錠状態にする閂バネと、施錠状態にある閂棒を閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させる押出部を有しTSA鍵で開錠できる回転式のTSAシリンダー錠とを具備する構成とした。
【0018】
あるいは、閂バネにより常に施錠方向に押されており、トグル機構が施錠状態になると閂バネに押されて施錠方向にスライドして鞄の蓋部のフック板に係合して蓋を閉鎖する施錠状態になりトグル機構が開錠状態になるとトグル機構に押されて開錠方向にスライドして開錠状態になる閂棒とを備える構成とした。また、トグル機構の状態を表示する状態表示窓を備え、カード鍵の押し込み操作に連動して変わる施錠開錠状態を表示する機構を設けた。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成したことにより、鍵を押し込むだけで施錠開錠できる鞄用カード錠をTSA錠とすることができる。また、直接的に閂棒を操作して強制開錠するため、機構が単純で低コスト化できるとともに、信頼性が高まり誤作動を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1における鞄用カード錠の外観斜視図である。
【図2】本発明の実施例1における鞄用カード錠の内部の斜視図である。
【図3】本発明の実施例1における鞄用カード錠の分解斜視図である。
【図4】本発明の実施例1における鞄用カード錠の分解斜視図である。
【図5】本発明の実施例1における鞄用カード錠の施錠開錠動作の説明図である。
【図6】本発明の実施例1における鞄用カード錠を強制開錠する方法の説明図である。
【図7】本発明の実施例2における鞄用カード錠の分解斜視図である。
【図8】本発明の実施例2における鞄用カード錠の施錠開錠動作を示す分解斜視図である。
【図9】本発明の実施例2における鞄用カード錠の施錠開錠動作の説明図である。
【図10】従来の錠前の概念図である。
【図11】従来の錠前の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図9を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1は、カード鍵を押し込んでスライダーとトグル機構と閂バネを介して閂棒のフック部で鞄の蓋の舌板を鎖錠し、カード鍵を再度押し込んで開錠し、TSA鍵で閂バネの弾力に抗して閂棒のフック部を上げて鎖錠を強制解除する鞄用カード錠である。
【0023】
図1に、鞄用カード錠の外観図を示す。図2〜図4に、鞄用カード錠の内部の構成を示す。図5に、鞄用カード錠の施錠開錠動作を示す。図6に、鞄用カード錠の強制開錠の方法を示す。
【0024】
図1〜図6において、カード鍵1は、平板状の部材に複数の孔が開けられた鍵である。差込口2は、カード鍵を挿入する穴である。スライダー3は、正規のカード鍵が挿入された場合にのみ動くようにタンブラーが設けられており、カード鍵で押されて動くとトグル機構を駆動する部材である。符号孔4は、カード鍵に固有の孔または凹みである。タンブラー5は、カード鍵の孔に対応して設けられており、正規のカード鍵の場合にのみ、スライダーを移動可能にするピンである。舌板6は、鞄の蓋に取り付けられている係止部材である。閂棒7は、トグル機構により閂バネを介して駆動され、先端のフック部が舌板に係合する係止部材である。舌板に係合するフック部の反対側に強制開錠のための駆動端部があるシーソー型の機構であり、駆動端部を押して強制開錠するようになっている。
【0025】
トグル機構8は、スライダーにより駆動され、施錠状態と開錠状態との間を交互に遷移して、閂バネを介して閂棒を駆動する機構である。閂バネ9は、トグル機構の状態に応じて閂棒を押す弾性部材である。押出部10は、TSAシリンダー錠により駆動され、閂棒を閂バネの弾力に抗して開錠方向に押す部材である。TSAシリンダー錠11は、TSA鍵により開錠されると押出部を介して閂棒の駆動端部を押して強制開錠する回転式のシリンダー錠である。状態表示窓12は、施錠開錠状態を表示する窓である。
【0026】
上記のように構成された本発明の実施例1における鞄用カード錠の機能と動作を説明する。最初に、図1を参照しながら、鞄用カード錠の概要を説明する。カード鍵1を差込口2に差し込む。カード鍵1は、平板状の樹脂板または金属板に複数の孔を開けたものか、平らな棒状の金属に複数の凹みを設けたものなどである。カード鍵1の符号孔4に対応して複数のタンブラーが設けられており、合鍵である正規のカード鍵1が挿入された場合にスライダーのカード鍵挿入方向への移動を可能にする。スライダーは、カード鍵1の先端部に押されて移動する。
【0027】
トグル機構は、施錠状態と開錠状態との間を交互に遷移する。開錠状態においてスライダーを押し込むと開錠状態に遷移する。施錠状態においてスライダーを押し込むと開錠状態に遷移する。施錠状態のトグル機構が閂バネを押し、閂バネが閂棒を押して、閂棒が鞄の蓋部の舌板に係合して蓋を閉鎖する。施錠状態か開錠状態かは、状態表示窓12に表示される。回転式のTSAシリンダー錠11の押出部で、施錠状態にある閂棒を閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させることで、TSA鍵で開錠できる。
【0028】
次に、図2〜図4を参照しながら、鞄用カード錠の内部の構成を説明する。裏板の上に、TSAシリンダー錠11が取り付けられている。また、ホルダーを介して、トグル機構8とスライダー3と閂棒7も取り付けられている。スライダー3には、タンブラー5が取り付けられている。タンブラー5は、カード鍵1の符号孔4に対応している。スライダー3は、トグル機構8と連携しており、スライダー3が移動するごとに、ラチェットによりトグル機構8は1/4回転する。円盤や押し部も1/4回転する。スライダー3はまた、トグル機構8と閂バネを介して閂棒7と連携している。閂バネは図示を省略してある。
【0029】
スライダー3は、図示していない保持バネにより、常に上側(カード鍵側)に付勢されている。また、タンブラー5により、ホルダーに係止して動かないようになっている。合鍵が挿入されると、タンブラー5が動いて係合が外れ、下方向(裏板方向)に動くようになる。カード鍵1が押し込まれると、トグル機構8が遷移する。図示の状態は、施錠状態でカード鍵1を挿入して、まだ押し込んでいない状態である。
【0030】
開錠状態では、閂棒7は、閂バネに押されていないので、上方向(カード鍵方向)にあがっている。蓋部の舌板は鞄用カード錠の裏板の窓部に自由に出入りできる。この状態でTSAシリンダー錠11を操作しても当然何も変化しない。ただし、TSAシリンダー錠11を強制開錠状態にしておくと、カード鍵1で施錠しようとしても施錠できない。施錠状態では、閂棒7は、閂バネに押されていて、下方向(裏板方向)にさがっている。蓋部の舌板は鞄用カード錠の裏板の窓部に固定されて自由に出入りできない。
【0031】
TSAシリンダー錠11は、閂棒7と駆動端部で連携している。TSAシリンダー錠11が回転すると、押出部により閂棒7の駆動端部が下方向(裏板方向)に押されて、閂棒7のフック部が閂バネの弾力に抗して上方向(カード鍵方向)にあがる。閂棒7はシーソーのように動いて強制開錠される。押出部は、この例では、円筒の側面の斜面である。
【0032】
次に、図5を参照しながら、鞄用カード錠の動作を説明する。図5(a)〜(d)は、鞄用カード錠の機構を模式的に示した概念図である。スライダー3は、不図示の保持バネで図の上方向に付勢されている。カード鍵の符号孔に対応して複数のタンブラーが設けられており、正規のカード鍵が挿入された場合にスライダー3のカード鍵挿入方向への移動が可能であるが、この機構は周知のものであるので、省略してある。図5(a)に示すように、開錠状態では、閂棒7の左端のフック部は、鞄の蓋の舌板6から外れており、鞄の蓋を開けることができる。正規のカード鍵を差し込むと、図5(b)に示すように、スライダー3を押し込むことができる。スライダー3が押し込まれると、トグル機構8は施錠状態に遷移する。トグル機構8も周知のものであるので、詳細は省略してある。
【0033】
トグル機構8の動きを見えるようにすることで、施錠状態を表示することができる。トグル機構8の回転する円盤の周上に、施錠開錠状態を表示する文字または記号または色などを描いておき、カード鍵の挿入操作に応じて円盤が1/4回転するごとに、状態表示窓に施錠開錠状態を表示する文字などが見えるようにする。ただし、円盤による状態表示は強制開錠には連動しない。これ以外の周知の状態表示機構を採用することもできる。例えば、閂棒7の位置を示して施錠開錠状態を表示するようにしてもよい。
【0034】
施錠状態になると閂バネ9がトグル機構8の押し部により下に押されて、閂棒7の左端のフック部が下にさがり、舌板6に係合する。閂バネ9は、バネ軸で回転可能に保持されている。閂棒7は、回転軸で回転可能に保持されている。カード鍵を引いて戻しても、図5(c)に示すように、トグル機構8の施錠状態は維持される。施錠状態で、正規のカード鍵を挿入して押し込むと、図5(d)に示すように、スライダー3が下にさがって、トグル機構8が開錠状態に遷移する。開錠状態になると、閂バネ9が戻されて閂棒7の左端のフック部が上にあがり、舌板6が解放される。カード鍵を引いて戻しても、図5(a)に示すように、トグル機構8の開錠状態は維持される。
【0035】
次に、図6を参照しながら、鞄用カード錠をTSA鍵で強制的に開錠する場合の動作を説明する。図6(a)に示すように、鞄用カード錠が施錠状態になっているとき、TSAシリンダー錠11の押出部10は、上にあがっている。TSAシリンダー錠11の構成は周知のものであるので、詳細は省略してある。TSA鍵でTSAシリンダー錠11を回すと、図6(b)に示すように、押出部10は下にさがる。押出部10が閂バネ9の弾力に抗して閂棒7の右端の駆動端部を下に押すので、閂棒7の左端のフック部は上にあがり、舌板6は解放される。強制開錠状態にあることは状態表示窓には表示されないが、TSAシリンダー錠11の向きを見れば強制開錠状態か通常状態かがわかる。
【0036】
上記のように、本発明の実施例1では、鞄用カード錠を、カード鍵を押し込んでスライダーとトグル機構と閂バネを介して閂棒のフック部で鞄の蓋の舌板を鎖錠し、カード鍵を再度押し込んで開錠し、TSA鍵で閂バネの弾力に抗して閂棒のフック部を上げて鎖錠を強制解除する構成としたので、カード鍵を押し込むだけで施錠開錠できる鞄用カード錠をTSA錠とすることができる。
【実施例2】
【0037】
本発明の実施例2は、カード鍵を押し込んでスライダーとトグル機構を介して閂棒をスライドさせて蓋のフック板を鎖錠し、カード鍵を再度押し込んで開錠し、TSA鍵で閂バネの弾力に抗して閂棒をスライドさせて鎖錠を強制解除する鞄用カード錠である。
【0038】
図7に、鞄用カード錠の内部の構成を示す。図8に、鞄用カード錠の施錠開錠動作を示す。図9に、鞄用カード錠の施錠開錠方法を示す。図10に、鞄用カード錠の強制開錠の方法を示す。
【0039】
図7〜図10において、閂棒7は、閂バネにより施錠方向に押されており、トグル機構が施錠状態のとき孔部がフック板に係合し、トグル機構が開錠状態になるとき開錠方向に駆動されてスライドしてフック板との係合が解除される係止部材である。フック板は、鞄の蓋に取り付けられている係止部材である。フック板に係合する孔部の反対側に強制開錠のための駆動端部があり、駆動端部を押して強制開錠するようになっている。トグル機構8は、スライダーにより駆動され、施錠状態と開錠状態との間を交互に遷移して、円盤の押し部で閂棒をスライド駆動する機構である。閂バネ9は、閂棒を施錠方向に押す弾性部材である。押出部10は、TSAシリンダー錠により駆動され、閂棒を閂バネの弾力に抗して開錠方向に押す部材である。その他の部材は実施例1と同じである。
【0040】
上記のように構成された本発明の実施例2における鞄用カード錠の機能と動作を説明する。最初に、図7を参照しながら、鞄用カード錠の概要を説明する。実施例2における鞄用カード錠の外観は、図1に示した実施例1とほぼ同じである。実施例2では、閂棒7がカード鍵の移動方向に直交する方向にスライド移動する構造となっているところが、実施例1と異なる。カード鍵を差し込んで、トグル機構の円盤を1/4回転させるところまでは、実施例1と同じである。
【0041】
図7には図示していないが、閂バネは閂棒7を常に施錠方向に押している。実施例2の閂バネは、単に閂棒7を押すだけであるので、バネ定数の調整は実施例1の閂バネより容易である。トグル機構8が施錠状態であると、閂棒7は閂バネで最奥まで押されていて施錠状態にあり、閂棒7が鞄の蓋部のフック板に係合して蓋を閉鎖できる。トグル機構8が開錠状態になると、トグル機構8の円盤の押し部が閂棒7を開錠方向に押して、閂棒7が鞄の蓋部のフック板と外れて蓋を開くことができる。施錠状態か開錠状態かは、状態表示窓に表示される。回転式のTSAシリンダー錠11の押出部で、施錠状態にある閂棒7を閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させることで、TSA鍵で開錠できる。
【0042】
次に、図8を参照しながら、鞄用カード錠の施錠開錠動作を説明する。図8(a)に示すように、開錠状態では、閂棒7は、トグル機構8により左側に押されており、閂棒7の孔部は鞄の蓋のフック板から外れているので、鞄の蓋を開けることができる。閂棒7の孔部とフック板の関係を、裏側を見た図で示す。正規のカード鍵を差し込むと、図8(b)に示すように、トグル機構8の円盤が回転して、閂棒7が閂バネ9に押されて右方に移動する。施錠状態では、図8(c)に示すように、閂棒7が右端まで移動して、閂棒7の孔部は鞄の蓋のフック板に係合する。施錠状態でTSAシリンダー錠11をTSA鍵で開けると、TSAシリンダー錠11の押出部10が回転して、閂棒7の右端を押すので、閂棒7が左方に移動して、閂棒7の孔部は鞄の蓋のフック板から外れる。
【0043】
次に、図9を参照しながら、鞄用カード錠の施錠開錠方法を説明する。図9(a)〜(d)は、鞄用カード錠の機構を模式的に示した概念図である。スライダー3は、不図示の保持バネで図の上方向に付勢されている。カード鍵1の符号孔に対応して複数のタンブラーが設けられており、正規のカード鍵1が挿入された場合にスライダー3のカード鍵挿入方向への移動が可能であるが、この機構は周知のものであるので、省略してある。図9(a)に示すように、開錠状態では、閂棒7の左端の孔部は、鞄の蓋のフック板から外れており、鞄の蓋を開けることができる。正規のカード鍵1を差し込むと、図9(b)に示すように、スライダー3を押し込むことができる。スライダー3が押し込まれると、トグル機構8は施錠状態に遷移する。トグル機構8も周知のものであるので、詳細は省略してある。
【0044】
トグル機構8の動きを見えるようにすることで、施錠状態を表示することができる。トグル機構8の回転する円盤の周上に、施錠開錠状態を表示する文字または記号または色などを描いておき、カード鍵の挿入操作に応じて円盤が1/4回転するごとに、状態表示窓に施錠開錠状態を表示する文字などが見えるようにする。ただし、円盤による状態表示は強制開錠には連動しない。これ以外の周知の状態表示機構を採用することもできる。例えば、閂棒7の位置を示して施錠開錠状態を表示するようにしてもよい。
【0045】
施錠状態になると、トグル機構8の円盤の押し部が縦方向になり、閂棒7が閂バネ9により右に押されて、閂棒7の左端の孔部が右に動くので、フック板に係合する。カード鍵1を引いて戻しても、図9(c)に示すように、トグル機構8の施錠状態は維持される。施錠状態で、正規のカード鍵1を挿入して押し込むと、図9(d)に示すように、スライダー3が下にさがって、トグル機構8が開錠状態に遷移する。開錠状態になると、閂棒7がトグル機構8の円盤の押し部により左に押されて、閂棒7の左端の孔部が左に動くので、フック板が解放される。カード鍵1を引いて戻しても、図9(a)に示すように、トグル機構8の開錠状態は維持される。
【0046】
次に、鞄用カード錠の強制開錠方法を説明する。図9(c)に示すように、鞄用カード錠が施錠状態になっているとき、TSAシリンダー錠11の押出部10は、右側に引っ込んでいる。TSAシリンダー錠11の構成は周知のものであるので、詳細は省略してある。TSA鍵でTSAシリンダー錠11を回すと、図9(e)に示すように、押出部10が左側に出てくる。押出部10が閂バネ9の弾力に抗して閂棒7の右端の駆動端部を押すので、閂棒7は左にスライドし、フック板は解放される。強制開錠状態にあることは状態表示窓には表示されないが、TSAシリンダー錠11の向きを見れば強制開錠状態か通常状態かがわかる。
【0047】
上記のように、本発明の実施例2では、鞄用カード錠を、カード鍵を押し込んでスライダーとトグル機構を介して閂棒をスライドさせて蓋のフック板を鎖錠し、カード鍵を再度押し込んで開錠し、TSA鍵で閂バネの弾力に抗して閂棒をスライドさせて鎖錠を強制解除する構成としたので、カード鍵を押し込むだけで施錠開錠できる鞄用カード錠をTSA錠とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の鞄用カード錠は、旅行鞄のTSA錠として最適である。その他の鞄やケースなどの錠前としても利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 カード鍵
2 差込口
3 スライダー
4 符号孔
5 タンブラー
6 舌板
7 閂棒
8 トグル機構
9 閂バネ
10 押出部
11 TSAシリンダー錠
12 状態表示窓
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞄用カード錠に関し、特に、鞄の把手の下に取り付けてカード鍵の押し込み操作で施錠と開錠を行いTSA鍵で開錠できる鞄用カード錠に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鞄用錠前の一種に、鞄の把手の下に取り付けるセンター錠がある。特に、TSAセンター錠は、税関で旅行鞄の内容物を検査するために、TSA鍵で強制開錠できるようになっている。TSA鍵は、TSA(Transportation Security Administration: アメリカ運輸保安局)が治安維持のために保有する特別の鍵である。旅行鞄に固定されたセンター錠の番号を開錠番号からずらすと施錠される。番号錠の番号を開錠番号に合わせてつまみを回すと、ロックが外れる。税関で検査する場合は、TSA鍵でシリンダー錠を開錠すると番号錠が無効化され、つまみを回すとロックが外れる。
【0003】
通常の錠前では、合鍵を差し込んで回転させて施錠開錠する。あるいは、南京錠などのように、施錠する際は単にシャックルを閉じる操作を行い、開錠する場合には合鍵を差し込んでから回転などの操作を行う。または、合鍵を差し込んでからレバーなどを動かすようにする錠前もある。このように、片手または両手で複数の操作を行って施錠開錠する錠前は、施錠が確実に行えるが操作がめんどうである。それをさけるために、鍵を押し込むだけで施錠開錠できる錠前がある。片手による単一操作で施錠開錠できるので、非常に便利である。合鍵を回転させたり、カード鍵をスライドさせたりする必要がない。このように、施錠開錠の操作は簡単化されてきた。以下に、これに関連する従来技術の例をあげる。
【0004】
特許文献1に開示された「スライドファスナー用カードロック」は、スライドファスナーのスライダーをカードキーで施解錠する際に、カードキーをその差込口に差し込む操作のみによって行うようにして、カードキーの磨耗や毀損を防止してその耐久性を向上するものである。図10(a)に示すように、カードキーを、その差込溝内に差し込むことによって、シリンダーが第1スプリングに抗して押し込まれる。シリンダーの前進に伴って、同方向へ第2スプリングの反発力で前進して、スライドファスナー用スライダーの突子にラッチが係合する。シリンダーの前進した位置を保持し、且つ再度のカードキーを差し込んでシリンダーを僅かに押し込むことによって、ノック式係止機構は保持状態を解除してシリンダーを復動する。
【0005】
特許文献2に開示された「カードロック錠つきのトランク錠」は、カード型キーの挿入口からのゴミの侵入を防ぎ、解錠時にみだりに施錠されないようにしたものである。図10(b)に示すように、カードロック錠では、シリンダーガイド中にシリンダーが回動可能に保持されている。シリンダー中に、操作ピンが挿入保持されている。シリンダーガイドには、シリンダーの施錠位置では施錠ピン及びピンスプリングが、又解錠位置では第2の施錠ピン及びピンスプリングが夫々保持されている。カード型キーの挿入口には、シャッターがシャッタースプリングを介してキー挿入溝に対して約60度の角度で取り付けられている。カード型キーの先端斜面部でシャッターを押しのけながらキーを挿入する。
【0006】
特許文献3に開示された「カード式錠前」は、操作が簡便で、構造が堅牢であって、かつ、安全性も高いものである。図10(c)に示すように、カードキーを上方から差し込むと、合い鍵であればカムの突起と、カードキーのスリットが合致し、カムの下端の基部が開き、カードキーはホルダーの斜孔に嵌め込まれた長軸を押すことができ、それによりスライダーを左方に押し、ラチェットでロック体の係止体を90度づつ回転させ、錠前を施錠又は解錠できる。鋭利な薄いものをキー挿入窓から差し込んでロック作動体をいじろうとしても、リンクのスリットを抜けてプレートのスリットに入り、動かなくなるので、ロック作動体をいじることはできなくなる。
【0007】
特許文献5に開示された「非接触作動式の施錠機構を備えた鞄」は、施錠・開錠操作が簡単で使い易い無線キーを活用したものである。図10(d)に示すように、IDカード等の無線キーに電磁波を照射することにより、記録された特定情報を呼び出せる。無線キーからの情報が所定の特定情報と同一か否かを、特定情報同定手段で判別する。電動式の錠前作動手段に同定信号が入力されると、施錠用ロック部材を施錠位置又は開錠位置に交互に変位させる。電源断続回路は、電源スイッチを同定信号に基づいてオン作動させ、所定時間経過後にオフ作動させる。施錠機構の不調時の為に、機械的開錠手段を付設する。
【0008】
特許文献5に開示された「操作輪付きダイヤル錠」は、操作が容易で、数字の指示も明瞭な、かばん錠に使用されるダイヤル錠である。図10(e)に示すように、操作輪付きダイヤル錠をセンターロックとして備えたかばん錠である。キーを用いる錠である。外周面に暗証番号用の数字を付したダイヤルがある。ダイヤルより径が大きくダイヤルと一体化されている操作輪がある。ダイヤルの数字が見える窓がある。操作輪が露出している孔がある。操作輪を付けたことにより、数字の見える窓は数字1つが見えればよく、数字の指示が明瞭になる。またダイヤルを直接操作しないので外周面を汚したり、摩滅によって数字が消えたりするおそれもない。
【0009】
特許文献6に開示された「複合ダイヤル錠前」は、施錠された不特定多数のダイヤル錠を一つの共通の鍵で解錠するものである。図10(f)に示すように、ダイヤル軸に遊嵌された複数個のダイヤルナンバーがある。止め金具を着脱する施錠板を有するダイヤル錠がある。共通の鍵でカム操作できるカムを有するシリンダー錠がある。ダイヤル錠とシリンダー錠とは、ダイヤル錠のダイヤル軸の一端がシリンダー錠のカムにカム係合できるように取り付けられている。ダイヤル錠の施錠板をダイヤルナンバーのダイヤル操作と鍵によるカム操作のいずれでも解錠状態にしてダイヤル錠を解錠する。
【0010】
特許文献7に開示された「ジッパーロック」は、小型化で確実にロックでき、TSA鍵で解錠できるものである。図11(a)に示すように、ジッパーロックの係止拘束部において、ジッパー引き手の環状部をスライド爪で係止する。番号錠を施錠するとロックボルトが下がり、ストッパーの動きを止め、スライド爪のスライド移動を阻止する。番号錠を解錠すると、ロックボルトは上がり、スライド爪はロックボルトに妨げられることなくスライドできるので、つまみを回してスライド爪からジッパー引き手を解放できる。TSA鍵で解錠すると、可動規制子が後退して、ストッパーを後退させる。スライド爪はスライドできるようになるので、つまみを回してスライド爪からジッパー引き手を解放できる。
【0011】
特許文献8に開示された「シリンダー錠付番号錠」は、強制解錠された状態を容易に通常の施錠状態に戻せるTSA錠である。図11(b)に示すように、番号錠が施錠されると、回転つまみはロックされる。番号錠の番号を合わせることにより解錠できる。回転つまみの把手を回して鈎を解いて、かばんを開ける。シリンダー錠が円筒内にあり、タンブラーで円筒に係合されている。強制解錠鍵で、シリンダー錠の係合を解除できる。シリンダー錠が解錠されると回転つまみのロックは無効になり、かばんを開けることができる。円筒に、タンブラーを強制解錠位置から通常位置に戻せるスロープ部を設けてある。シリンダー錠が強制解除状態のまま、かばんが返されても、ドライバーなどでシリンダー錠を回すと、シリンダー錠は通常位置に戻る。
【0012】
特許文献9に開示された「かばん用センターロック」は、TSA鍵でどのように操作しても異常状態にならないものである。図11(c)に示すように、番号錠の番号を合わせることにより、開閉用の回転つまみを回して解錠できる。番号錠の施錠に応じて、回転つまみの回転が阻止される。シリンダー錠がTSA鍵で解錠されると、回転つまみとの係合が解除されて回転し、リンク部を開方向にスライドさせ、かばんを開閉するためのロック用ハンドルを開放する。シリンダー錠が回転つまみに対して、通常施錠状態とTSA解錠状態との間の90度の範囲でしか回転しないように、回転制限機構を設けてある。シリンダー錠は、通常解錠状態から施錠方向には回転しないので、誤ってTSA鍵で施錠されることはない。また、通常解錠状態から過剰解錠方向に回転しないように、リンク部の動きを制限するリンク制限機構を設けてあるので、過剰解錠方向に回してロックを破損することはない。
【0013】
特許文献10に開示された「ジッパー錠」は、小型で容易に操作できる旅行鞄用のTSA錠である。ジッパー錠の裏板の連結穴を、ジッパーの第1のスライダーの頭部に結合する。図11(d)に示すように、ジッパー錠の施錠窓に、ジッパーの第2のスライダーの頭部を挿入して押さえ込むと、2個のロック用ボールで頭部が弾性的に挟まれて仮留めされる。シリンダー錠を鍵で施錠操作すると、カンヌキがスライドして、ロック腕が板バネと本体の側壁の間に入り、ロック用ボールが動かなくなるので、頭部が外れなくなる。施錠状態と解錠状態は、表示窓に表示される。シリンダー錠のマスタ鍵をTSA鍵とすれば、TSA錠として使用できる。ジッパー錠が引き手を兼ねるので小型である。ジッパー錠を押したり引いたりするだけで、仮留めと取外しができるので、操作が容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平06-088462号公報
【特許文献2】特開2001-140524号公報
【特許文献3】特開2001-241224号公報
【特許文献4】特開2002-168015号公報
【特許文献5】特開2006-225849号公報
【特許文献6】特開2006-348728号公報
【特許文献7】特開2009-068166号公報
【特許文献8】特開2009-121163号公報
【特許文献9】特開2009-281098号公報
【特許文献10】特開2010-248818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、従来の鞄用錠前では、次のような問題がある。単一操作で施錠開錠できる錠前はあるけれど、鍵を押し込むだけで施錠開錠できる錠前をTSA錠とすることができなかった。また、従来のTSA錠は、複数部品の組合せによって強制的に開錠させていたので、構成が複雑になりコスト高であったし、信頼性も低かった。
【0016】
本発明の目的は、上記従来の問題を解決して、鍵を押し込むだけで施錠開錠できる上下にスライドする錠前機構と回転式の強制開錠機構を組み合わせてTSA錠とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明では、鞄用カード錠を、カード鍵を差し込むための差込口と、カード鍵の先端部に押されてカード鍵挿入方向に移動するスライダーと、カード鍵の符号孔に対応して設けられており正規のカード鍵が挿入された場合にスライダーの移動を可能にする複数のタンブラーと、施錠状態において鞄の蓋部の舌板に係合して蓋を閉鎖する閂棒と、開錠状態においてスライダーを押し込むことにより施錠状態に遷移し、施錠状態においてスライダーを押し込むことにより開錠状態に遷移し、施錠状態と開錠状態に交互に遷移するトグル機構と、施錠状態のトグル機構に押されて閂棒を押して施錠状態にする閂バネと、施錠状態にある閂棒を閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させる押出部を有しTSA鍵で開錠できる回転式のTSAシリンダー錠とを具備する構成とした。
【0018】
あるいは、閂バネにより常に施錠方向に押されており、トグル機構が施錠状態になると閂バネに押されて施錠方向にスライドして鞄の蓋部のフック板に係合して蓋を閉鎖する施錠状態になりトグル機構が開錠状態になるとトグル機構に押されて開錠方向にスライドして開錠状態になる閂棒とを備える構成とした。また、トグル機構の状態を表示する状態表示窓を備え、カード鍵の押し込み操作に連動して変わる施錠開錠状態を表示する機構を設けた。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成したことにより、鍵を押し込むだけで施錠開錠できる鞄用カード錠をTSA錠とすることができる。また、直接的に閂棒を操作して強制開錠するため、機構が単純で低コスト化できるとともに、信頼性が高まり誤作動を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1における鞄用カード錠の外観斜視図である。
【図2】本発明の実施例1における鞄用カード錠の内部の斜視図である。
【図3】本発明の実施例1における鞄用カード錠の分解斜視図である。
【図4】本発明の実施例1における鞄用カード錠の分解斜視図である。
【図5】本発明の実施例1における鞄用カード錠の施錠開錠動作の説明図である。
【図6】本発明の実施例1における鞄用カード錠を強制開錠する方法の説明図である。
【図7】本発明の実施例2における鞄用カード錠の分解斜視図である。
【図8】本発明の実施例2における鞄用カード錠の施錠開錠動作を示す分解斜視図である。
【図9】本発明の実施例2における鞄用カード錠の施錠開錠動作の説明図である。
【図10】従来の錠前の概念図である。
【図11】従来の錠前の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図9を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1は、カード鍵を押し込んでスライダーとトグル機構と閂バネを介して閂棒のフック部で鞄の蓋の舌板を鎖錠し、カード鍵を再度押し込んで開錠し、TSA鍵で閂バネの弾力に抗して閂棒のフック部を上げて鎖錠を強制解除する鞄用カード錠である。
【0023】
図1に、鞄用カード錠の外観図を示す。図2〜図4に、鞄用カード錠の内部の構成を示す。図5に、鞄用カード錠の施錠開錠動作を示す。図6に、鞄用カード錠の強制開錠の方法を示す。
【0024】
図1〜図6において、カード鍵1は、平板状の部材に複数の孔が開けられた鍵である。差込口2は、カード鍵を挿入する穴である。スライダー3は、正規のカード鍵が挿入された場合にのみ動くようにタンブラーが設けられており、カード鍵で押されて動くとトグル機構を駆動する部材である。符号孔4は、カード鍵に固有の孔または凹みである。タンブラー5は、カード鍵の孔に対応して設けられており、正規のカード鍵の場合にのみ、スライダーを移動可能にするピンである。舌板6は、鞄の蓋に取り付けられている係止部材である。閂棒7は、トグル機構により閂バネを介して駆動され、先端のフック部が舌板に係合する係止部材である。舌板に係合するフック部の反対側に強制開錠のための駆動端部があるシーソー型の機構であり、駆動端部を押して強制開錠するようになっている。
【0025】
トグル機構8は、スライダーにより駆動され、施錠状態と開錠状態との間を交互に遷移して、閂バネを介して閂棒を駆動する機構である。閂バネ9は、トグル機構の状態に応じて閂棒を押す弾性部材である。押出部10は、TSAシリンダー錠により駆動され、閂棒を閂バネの弾力に抗して開錠方向に押す部材である。TSAシリンダー錠11は、TSA鍵により開錠されると押出部を介して閂棒の駆動端部を押して強制開錠する回転式のシリンダー錠である。状態表示窓12は、施錠開錠状態を表示する窓である。
【0026】
上記のように構成された本発明の実施例1における鞄用カード錠の機能と動作を説明する。最初に、図1を参照しながら、鞄用カード錠の概要を説明する。カード鍵1を差込口2に差し込む。カード鍵1は、平板状の樹脂板または金属板に複数の孔を開けたものか、平らな棒状の金属に複数の凹みを設けたものなどである。カード鍵1の符号孔4に対応して複数のタンブラーが設けられており、合鍵である正規のカード鍵1が挿入された場合にスライダーのカード鍵挿入方向への移動を可能にする。スライダーは、カード鍵1の先端部に押されて移動する。
【0027】
トグル機構は、施錠状態と開錠状態との間を交互に遷移する。開錠状態においてスライダーを押し込むと開錠状態に遷移する。施錠状態においてスライダーを押し込むと開錠状態に遷移する。施錠状態のトグル機構が閂バネを押し、閂バネが閂棒を押して、閂棒が鞄の蓋部の舌板に係合して蓋を閉鎖する。施錠状態か開錠状態かは、状態表示窓12に表示される。回転式のTSAシリンダー錠11の押出部で、施錠状態にある閂棒を閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させることで、TSA鍵で開錠できる。
【0028】
次に、図2〜図4を参照しながら、鞄用カード錠の内部の構成を説明する。裏板の上に、TSAシリンダー錠11が取り付けられている。また、ホルダーを介して、トグル機構8とスライダー3と閂棒7も取り付けられている。スライダー3には、タンブラー5が取り付けられている。タンブラー5は、カード鍵1の符号孔4に対応している。スライダー3は、トグル機構8と連携しており、スライダー3が移動するごとに、ラチェットによりトグル機構8は1/4回転する。円盤や押し部も1/4回転する。スライダー3はまた、トグル機構8と閂バネを介して閂棒7と連携している。閂バネは図示を省略してある。
【0029】
スライダー3は、図示していない保持バネにより、常に上側(カード鍵側)に付勢されている。また、タンブラー5により、ホルダーに係止して動かないようになっている。合鍵が挿入されると、タンブラー5が動いて係合が外れ、下方向(裏板方向)に動くようになる。カード鍵1が押し込まれると、トグル機構8が遷移する。図示の状態は、施錠状態でカード鍵1を挿入して、まだ押し込んでいない状態である。
【0030】
開錠状態では、閂棒7は、閂バネに押されていないので、上方向(カード鍵方向)にあがっている。蓋部の舌板は鞄用カード錠の裏板の窓部に自由に出入りできる。この状態でTSAシリンダー錠11を操作しても当然何も変化しない。ただし、TSAシリンダー錠11を強制開錠状態にしておくと、カード鍵1で施錠しようとしても施錠できない。施錠状態では、閂棒7は、閂バネに押されていて、下方向(裏板方向)にさがっている。蓋部の舌板は鞄用カード錠の裏板の窓部に固定されて自由に出入りできない。
【0031】
TSAシリンダー錠11は、閂棒7と駆動端部で連携している。TSAシリンダー錠11が回転すると、押出部により閂棒7の駆動端部が下方向(裏板方向)に押されて、閂棒7のフック部が閂バネの弾力に抗して上方向(カード鍵方向)にあがる。閂棒7はシーソーのように動いて強制開錠される。押出部は、この例では、円筒の側面の斜面である。
【0032】
次に、図5を参照しながら、鞄用カード錠の動作を説明する。図5(a)〜(d)は、鞄用カード錠の機構を模式的に示した概念図である。スライダー3は、不図示の保持バネで図の上方向に付勢されている。カード鍵の符号孔に対応して複数のタンブラーが設けられており、正規のカード鍵が挿入された場合にスライダー3のカード鍵挿入方向への移動が可能であるが、この機構は周知のものであるので、省略してある。図5(a)に示すように、開錠状態では、閂棒7の左端のフック部は、鞄の蓋の舌板6から外れており、鞄の蓋を開けることができる。正規のカード鍵を差し込むと、図5(b)に示すように、スライダー3を押し込むことができる。スライダー3が押し込まれると、トグル機構8は施錠状態に遷移する。トグル機構8も周知のものであるので、詳細は省略してある。
【0033】
トグル機構8の動きを見えるようにすることで、施錠状態を表示することができる。トグル機構8の回転する円盤の周上に、施錠開錠状態を表示する文字または記号または色などを描いておき、カード鍵の挿入操作に応じて円盤が1/4回転するごとに、状態表示窓に施錠開錠状態を表示する文字などが見えるようにする。ただし、円盤による状態表示は強制開錠には連動しない。これ以外の周知の状態表示機構を採用することもできる。例えば、閂棒7の位置を示して施錠開錠状態を表示するようにしてもよい。
【0034】
施錠状態になると閂バネ9がトグル機構8の押し部により下に押されて、閂棒7の左端のフック部が下にさがり、舌板6に係合する。閂バネ9は、バネ軸で回転可能に保持されている。閂棒7は、回転軸で回転可能に保持されている。カード鍵を引いて戻しても、図5(c)に示すように、トグル機構8の施錠状態は維持される。施錠状態で、正規のカード鍵を挿入して押し込むと、図5(d)に示すように、スライダー3が下にさがって、トグル機構8が開錠状態に遷移する。開錠状態になると、閂バネ9が戻されて閂棒7の左端のフック部が上にあがり、舌板6が解放される。カード鍵を引いて戻しても、図5(a)に示すように、トグル機構8の開錠状態は維持される。
【0035】
次に、図6を参照しながら、鞄用カード錠をTSA鍵で強制的に開錠する場合の動作を説明する。図6(a)に示すように、鞄用カード錠が施錠状態になっているとき、TSAシリンダー錠11の押出部10は、上にあがっている。TSAシリンダー錠11の構成は周知のものであるので、詳細は省略してある。TSA鍵でTSAシリンダー錠11を回すと、図6(b)に示すように、押出部10は下にさがる。押出部10が閂バネ9の弾力に抗して閂棒7の右端の駆動端部を下に押すので、閂棒7の左端のフック部は上にあがり、舌板6は解放される。強制開錠状態にあることは状態表示窓には表示されないが、TSAシリンダー錠11の向きを見れば強制開錠状態か通常状態かがわかる。
【0036】
上記のように、本発明の実施例1では、鞄用カード錠を、カード鍵を押し込んでスライダーとトグル機構と閂バネを介して閂棒のフック部で鞄の蓋の舌板を鎖錠し、カード鍵を再度押し込んで開錠し、TSA鍵で閂バネの弾力に抗して閂棒のフック部を上げて鎖錠を強制解除する構成としたので、カード鍵を押し込むだけで施錠開錠できる鞄用カード錠をTSA錠とすることができる。
【実施例2】
【0037】
本発明の実施例2は、カード鍵を押し込んでスライダーとトグル機構を介して閂棒をスライドさせて蓋のフック板を鎖錠し、カード鍵を再度押し込んで開錠し、TSA鍵で閂バネの弾力に抗して閂棒をスライドさせて鎖錠を強制解除する鞄用カード錠である。
【0038】
図7に、鞄用カード錠の内部の構成を示す。図8に、鞄用カード錠の施錠開錠動作を示す。図9に、鞄用カード錠の施錠開錠方法を示す。図10に、鞄用カード錠の強制開錠の方法を示す。
【0039】
図7〜図10において、閂棒7は、閂バネにより施錠方向に押されており、トグル機構が施錠状態のとき孔部がフック板に係合し、トグル機構が開錠状態になるとき開錠方向に駆動されてスライドしてフック板との係合が解除される係止部材である。フック板は、鞄の蓋に取り付けられている係止部材である。フック板に係合する孔部の反対側に強制開錠のための駆動端部があり、駆動端部を押して強制開錠するようになっている。トグル機構8は、スライダーにより駆動され、施錠状態と開錠状態との間を交互に遷移して、円盤の押し部で閂棒をスライド駆動する機構である。閂バネ9は、閂棒を施錠方向に押す弾性部材である。押出部10は、TSAシリンダー錠により駆動され、閂棒を閂バネの弾力に抗して開錠方向に押す部材である。その他の部材は実施例1と同じである。
【0040】
上記のように構成された本発明の実施例2における鞄用カード錠の機能と動作を説明する。最初に、図7を参照しながら、鞄用カード錠の概要を説明する。実施例2における鞄用カード錠の外観は、図1に示した実施例1とほぼ同じである。実施例2では、閂棒7がカード鍵の移動方向に直交する方向にスライド移動する構造となっているところが、実施例1と異なる。カード鍵を差し込んで、トグル機構の円盤を1/4回転させるところまでは、実施例1と同じである。
【0041】
図7には図示していないが、閂バネは閂棒7を常に施錠方向に押している。実施例2の閂バネは、単に閂棒7を押すだけであるので、バネ定数の調整は実施例1の閂バネより容易である。トグル機構8が施錠状態であると、閂棒7は閂バネで最奥まで押されていて施錠状態にあり、閂棒7が鞄の蓋部のフック板に係合して蓋を閉鎖できる。トグル機構8が開錠状態になると、トグル機構8の円盤の押し部が閂棒7を開錠方向に押して、閂棒7が鞄の蓋部のフック板と外れて蓋を開くことができる。施錠状態か開錠状態かは、状態表示窓に表示される。回転式のTSAシリンダー錠11の押出部で、施錠状態にある閂棒7を閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させることで、TSA鍵で開錠できる。
【0042】
次に、図8を参照しながら、鞄用カード錠の施錠開錠動作を説明する。図8(a)に示すように、開錠状態では、閂棒7は、トグル機構8により左側に押されており、閂棒7の孔部は鞄の蓋のフック板から外れているので、鞄の蓋を開けることができる。閂棒7の孔部とフック板の関係を、裏側を見た図で示す。正規のカード鍵を差し込むと、図8(b)に示すように、トグル機構8の円盤が回転して、閂棒7が閂バネ9に押されて右方に移動する。施錠状態では、図8(c)に示すように、閂棒7が右端まで移動して、閂棒7の孔部は鞄の蓋のフック板に係合する。施錠状態でTSAシリンダー錠11をTSA鍵で開けると、TSAシリンダー錠11の押出部10が回転して、閂棒7の右端を押すので、閂棒7が左方に移動して、閂棒7の孔部は鞄の蓋のフック板から外れる。
【0043】
次に、図9を参照しながら、鞄用カード錠の施錠開錠方法を説明する。図9(a)〜(d)は、鞄用カード錠の機構を模式的に示した概念図である。スライダー3は、不図示の保持バネで図の上方向に付勢されている。カード鍵1の符号孔に対応して複数のタンブラーが設けられており、正規のカード鍵1が挿入された場合にスライダー3のカード鍵挿入方向への移動が可能であるが、この機構は周知のものであるので、省略してある。図9(a)に示すように、開錠状態では、閂棒7の左端の孔部は、鞄の蓋のフック板から外れており、鞄の蓋を開けることができる。正規のカード鍵1を差し込むと、図9(b)に示すように、スライダー3を押し込むことができる。スライダー3が押し込まれると、トグル機構8は施錠状態に遷移する。トグル機構8も周知のものであるので、詳細は省略してある。
【0044】
トグル機構8の動きを見えるようにすることで、施錠状態を表示することができる。トグル機構8の回転する円盤の周上に、施錠開錠状態を表示する文字または記号または色などを描いておき、カード鍵の挿入操作に応じて円盤が1/4回転するごとに、状態表示窓に施錠開錠状態を表示する文字などが見えるようにする。ただし、円盤による状態表示は強制開錠には連動しない。これ以外の周知の状態表示機構を採用することもできる。例えば、閂棒7の位置を示して施錠開錠状態を表示するようにしてもよい。
【0045】
施錠状態になると、トグル機構8の円盤の押し部が縦方向になり、閂棒7が閂バネ9により右に押されて、閂棒7の左端の孔部が右に動くので、フック板に係合する。カード鍵1を引いて戻しても、図9(c)に示すように、トグル機構8の施錠状態は維持される。施錠状態で、正規のカード鍵1を挿入して押し込むと、図9(d)に示すように、スライダー3が下にさがって、トグル機構8が開錠状態に遷移する。開錠状態になると、閂棒7がトグル機構8の円盤の押し部により左に押されて、閂棒7の左端の孔部が左に動くので、フック板が解放される。カード鍵1を引いて戻しても、図9(a)に示すように、トグル機構8の開錠状態は維持される。
【0046】
次に、鞄用カード錠の強制開錠方法を説明する。図9(c)に示すように、鞄用カード錠が施錠状態になっているとき、TSAシリンダー錠11の押出部10は、右側に引っ込んでいる。TSAシリンダー錠11の構成は周知のものであるので、詳細は省略してある。TSA鍵でTSAシリンダー錠11を回すと、図9(e)に示すように、押出部10が左側に出てくる。押出部10が閂バネ9の弾力に抗して閂棒7の右端の駆動端部を押すので、閂棒7は左にスライドし、フック板は解放される。強制開錠状態にあることは状態表示窓には表示されないが、TSAシリンダー錠11の向きを見れば強制開錠状態か通常状態かがわかる。
【0047】
上記のように、本発明の実施例2では、鞄用カード錠を、カード鍵を押し込んでスライダーとトグル機構を介して閂棒をスライドさせて蓋のフック板を鎖錠し、カード鍵を再度押し込んで開錠し、TSA鍵で閂バネの弾力に抗して閂棒をスライドさせて鎖錠を強制解除する構成としたので、カード鍵を押し込むだけで施錠開錠できる鞄用カード錠をTSA錠とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の鞄用カード錠は、旅行鞄のTSA錠として最適である。その他の鞄やケースなどの錠前としても利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 カード鍵
2 差込口
3 スライダー
4 符号孔
5 タンブラー
6 舌板
7 閂棒
8 トグル機構
9 閂バネ
10 押出部
11 TSAシリンダー錠
12 状態表示窓
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カード鍵を差し込むための差込口と、前記カード鍵の先端部に押されてカード鍵挿入方向に移動するスライダーと、前記カード鍵の符号孔に対応して設けられており正規のカード鍵が挿入された場合に前記スライダーの移動を可能にする複数のタンブラーと、施錠状態において鞄の蓋部の舌板に係合して蓋を閉鎖する閂棒と、開錠状態において前記スライダーを押し込むことにより施錠状態に遷移し、施錠状態において前記スライダーを押し込むことにより開錠状態に遷移し、施錠状態と開錠状態に交互に遷移するトグル機構と、施錠状態の前記トグル機構に押されて閂棒を押して施錠状態にする閂バネと、施錠状態にある前記閂棒を前記閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させる押出部を有しTSA鍵で開錠できる回転式のTSAシリンダー錠とを具備することを特徴とする鞄用カード錠。
【請求項2】
カード鍵を差し込むための差込口と、前記カード鍵の先端部に押されてカード鍵挿入方向に移動するスライダーと、前記カード鍵の符号孔に対応して設けられており正規のカード鍵が挿入された場合に前記スライダーの移動を可能にする複数のタンブラーと、開錠状態において前記スライダーを押し込むことにより施錠状態に遷移し、施錠状態において前記スライダーを押し込むことにより開錠状態に遷移し、施錠状態と開錠状態に交互に遷移するトグル機構と、閂バネと、前記閂バネにより常に施錠方向に押されており前記トグル機構が施錠状態になると前記閂バネに押されて施錠方向にスライドして鞄の蓋部のフック板に係合して蓋を閉鎖する施錠状態になり前記トグル機構が開錠状態になると前記トグル機構に押されて開錠方向にスライドして開錠状態になる閂棒と、施錠状態にある前記閂棒を前記閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させる押出部を有しTSA鍵で開錠できる回転式のTSAシリンダー錠とを具備することを特徴とする鞄用カード錠。
【請求項3】
前記トグル機構の状態を表示する状態表示窓を備え、前記カード鍵の押し込み操作に連動して変わる施錠開錠状態を表示する機構を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の鞄用カード錠。
【請求項1】
カード鍵を差し込むための差込口と、前記カード鍵の先端部に押されてカード鍵挿入方向に移動するスライダーと、前記カード鍵の符号孔に対応して設けられており正規のカード鍵が挿入された場合に前記スライダーの移動を可能にする複数のタンブラーと、施錠状態において鞄の蓋部の舌板に係合して蓋を閉鎖する閂棒と、開錠状態において前記スライダーを押し込むことにより施錠状態に遷移し、施錠状態において前記スライダーを押し込むことにより開錠状態に遷移し、施錠状態と開錠状態に交互に遷移するトグル機構と、施錠状態の前記トグル機構に押されて閂棒を押して施錠状態にする閂バネと、施錠状態にある前記閂棒を前記閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させる押出部を有しTSA鍵で開錠できる回転式のTSAシリンダー錠とを具備することを特徴とする鞄用カード錠。
【請求項2】
カード鍵を差し込むための差込口と、前記カード鍵の先端部に押されてカード鍵挿入方向に移動するスライダーと、前記カード鍵の符号孔に対応して設けられており正規のカード鍵が挿入された場合に前記スライダーの移動を可能にする複数のタンブラーと、開錠状態において前記スライダーを押し込むことにより施錠状態に遷移し、施錠状態において前記スライダーを押し込むことにより開錠状態に遷移し、施錠状態と開錠状態に交互に遷移するトグル機構と、閂バネと、前記閂バネにより常に施錠方向に押されており前記トグル機構が施錠状態になると前記閂バネに押されて施錠方向にスライドして鞄の蓋部のフック板に係合して蓋を閉鎖する施錠状態になり前記トグル機構が開錠状態になると前記トグル機構に押されて開錠方向にスライドして開錠状態になる閂棒と、施錠状態にある前記閂棒を前記閂バネの弾力に抗して開錠状態の位置に強制的に移動させる押出部を有しTSA鍵で開錠できる回転式のTSAシリンダー錠とを具備することを特徴とする鞄用カード錠。
【請求項3】
前記トグル機構の状態を表示する状態表示窓を備え、前記カード鍵の押し込み操作に連動して変わる施錠開錠状態を表示する機構を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の鞄用カード錠。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−207514(P2012−207514A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167930(P2011−167930)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000152664)株式会社日乃本錠前 (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000152664)株式会社日乃本錠前 (24)
【Fターム(参考)】
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