説明

鞍乗り型車両及びエアショックアブソーバ

【課題】乗り心地への影響を抑え、内圧を調整可能なエアショックアブソーバを備えた鞍乗り型車両を提供する。
【解決手段】鞍乗り型車両に搭載されるエアショックアブソーバ20は、シリンダ201と、ピストン202と、ピストン202により区画されるガス室207及び208と、ピストンロッド203とを備える。ピストン202は、正面202Fと背面202Bとの間を貫通する貫通孔220と、バルブ230とを備える。バルブ230は、背面202Bに配置される接触部231を含む。バルブ230は、接触部231がガス室208の内壁208Iに押し当てられたとき、貫通孔220を開き、接触部231が内壁208Iと接触していないとき、貫通孔220を閉じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両及びエアショックアブソーバに関し、さらに詳しくは、エアショックアブソーバを備える鞍乗り型車両及びエアショックアブソーバに関する。
【背景技術】
【0002】
エアショックアブソーバは、たとえば、特開2008−25679号公報(特許文献1)に開示される。エアショックアブソーバは、鞍乗り型車両のフロントサスペンションやリアサスペンションとして利用される。エアショックアブソーバは、空気等のガスを内部に収納し、ガスを圧縮して反力を発生する。
【0003】
ガスは温度依存性が高い。エアショックアブソーバ内のガスが、温度変化に応じて膨張及び収縮すれば、内圧が変動する。そのため、エアショックアブソーバの反力特性が変化しやすい。
【0004】
特開2004−169923号公報(特許文献2)は、ガスの量や圧力を調整可能な気体ばね式緩衝器を提案する。この文献の気体ばね式緩衝器は、シリンダと、ピストンと、圧縮室と、膨張室とを備える。ピストンの外周には、シーリングが配置される。シリンダ内周面の所定位置には、シーリングの幅よりも大きい溝が形成される。ピストンが移動して、シーリングがシリンダの溝内に配置されたとき、圧縮室と膨張室とが連通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−25679号公報
【特許文献2】特開2004−169923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示された気体ばね式緩衝器では、シリンダ内周面に溝が形成される。そのため、ピストンとシリンダの間で生じる摩擦特性が、シリンダ内周面の溝部分とそれ以外の部分とで大きく変わる。具体的には、気体ばね式緩衝器が伸び、ピストンのシーリングが、シリンダ内周面の溝内に到達すると、ピストンとシリンダとの間の摩擦抵抗は0になる。そのため、反力は急速に小さくなる。一方、ピストンがストロークし、ピストンのシーリングがシリンダ内周面の溝以外の部分に進むと、シーリングがシリンダ内周面と接触する。そのため、摩擦抵抗が急速に増加し、反力が急増する。
【0007】
このようなピストンとシリンダとの間の摩擦特性の変動は、反力の急激な変動を引き起こす。反力の急激な変動は、乗り心地に影響する。
【0008】
本発明の目的は、乗り心地への影響を抑えつつ、内圧を調整可能なエアショックアブソーバを備えた鞍乗り型車両及びエアショックアブソーバを提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
本発明による鞍乗り型車両は、車体フレームと、車輪と、エアショックアブソーバとを備える。エアショックアブソーバは車体フレームと車輪との間に配置される。エアショックアブソーバは、シリンダと、ピストンと、第1及び第2ガス室と、ピストンロッドとを備える。シリンダは、ガスを収納する。ピストンは、シリンダ内に収納され、正面及び背面を有する。第1ガス室は、シリンダ内のピストンの正面側に配置される。第2ガス室は、シリンダ内のピストンの背面側に配置される。ピストンロッドは、ピストンの背面とつながり、第2ガス室を貫通する。ピストンは、貫通孔を有し、バルブを備える。貫通孔は、ピストンの正面と背面との間を貫通する。バルブは、ピストンの背面に配置される接触部を含む。バルブは、接触部が第2ガス室の内壁に押し当てられたとき貫通孔を開き、接触部が第2ガス室の内壁と接触していないとき貫通孔を閉じる。
【0010】
本発明による鞍乗り型車両では、第1及び第2ガス室と連通する貫通孔がピストンに形成される。そして、ピストンの貫通孔は、接触部が第2ガス室の内壁に押し当てられたときに開く。そのため、内圧を調整できる。さらに、ピストンとシリンダとの摩擦特性が変動しにくく、反力の急激な変動が発生しにくい。
【0011】
好ましくは、エアショックアブソーバはさらに、台座と、調整機構とを備える。台座は、第2ガス室の内壁に配置され、接触部と接触する。調整機構は、台座の配置位置を調整する。
【0012】
この場合、接触部が台座と接触する接触位置を調整できる。そのため、エアショックアブソーバの反力特性を調整できる。
【0013】
本発明によるエアショックアブソーバは、上述の鞍乗り型車両に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態による鞍乗り型車両の側面図である。
【図2】図1中のエアショックアブソーバの断面図である。
【図3】図2中のピストン及びその周辺部分の断面図である。
【図4】図3中のIV−IV線での断面図である。
【図5】エアショックアブソーバの図2と異なる断面図である。
【図6】図5中のピストン及びその周辺部分の断面図である。
【図7】第2の実施の形態による鞍乗り型車両に搭載されたエアショックアブソーバの部分断面図である。
【図8】図7に示すエアショックアブソーバの反力特性を示す図である。
【図9】第3の実施の形態による鞍乗り型車両に搭載されたエアショックアブソーバの部分断面図である。
【図10】第3の実施の形態において、伸びたときのエアショックアブソーバの部分断面図である。
【図11】第4の実施の形態による鞍乗り型車両に搭載されたエアショックアブソーバの部分断面図である。
【図12】第4の実施の形態において、伸びたときのエアショックアブソーバの部分断面図である。
【図13】第5の実施の形態による鞍乗り型車両に搭載されたエアショックアブソーバの部分断面図である。
【図14】第5の実施の形態において、伸びたときのエアショックアブソーバの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0016】
[第1の実施の形態]
[鞍乗り型車両の全体構成]
図1は本実施の形態による鞍乗り型車両1の前方向(FWD)に向かって左側面図を示す。「鞍乗り型車両」は、自動二輪車や、不整地走行用車両(All-Terrain Vehicle)、スノーモービル等を含む。「自動二輪車」は、スクータやモペットを含む。
【0017】
鞍乗り型車両1は、エンジン2と、前輪3と、後輪4と、ハンドル5と、シート6と、燃料タンク7と、車体フレーム8と、リアアーム11とを備える。
【0018】
車体フレーム8は、その先端にヘッドパイプ9を備える。車体フレーム8は、ヘッドパイプ9から後方に向かって斜め下方に延びる。ヘッドパイプ9は、燃料タンク7の前方に配置される。ヘッドパイプ9の上方には、ハンドル5が回転可能に配置される。ヘッドパイプ9の下方には、一対のフロントフォーク10が配置される。一対のフロントフォーク10の下端には、前輪3が回転可能に取り付けられる。車体フレーム8の下方には、エンジン2が配置される。燃料タンク7は、車体フレーム8の上方に配置される。シート6は、車体フレーム8の上方であって、燃料タンク7の後方に配置される。
【0019】
車体フレーム8の後方には、図示しないピボット軸が設けられる。リアアーム11は、その前端部でピボット軸周りに上下に揺動可能に支持される。リアアーム11の後端部には、後輪4が回転可能に取り付けられる。
【0020】
鞍乗り型車両1はさらに、エアショックアブソーバ20を備える。エアショックアブソーバ20は、車体フレーム8と、後輪4との間に配置され、車体フレーム8と、後輪4とに連結される。より具体的には、エアショックアブソーバ20の上端は、マウント21を介して、車体フレーム8の後端と連結される。エアショックアブソーバ20の下端は、リンク機構22を介して、リアアーム11と連結される。エアショックアブソーバ20の下端は、リンク機構22を介さずに車体フレーム8に直接連結されてもよい。
【0021】
[エアショックアブソーバ20の構成]
図2は、図1中のエアショックアブソーバ20の断面図である。図2を参照して、エアショックアブソーバ20は、シリンダ201と、ピストン202と、ピストンロッド203とを備える。シリンダ201の下端部201Lは、図1中のリンク機構22を介してリアアーム11に連結される。一方、ピストンロッド203の上端部203Tは、マウント21を介して車体フレーム8に連結される。
【0022】
シリンダ201は円筒状であり、内部にガスとピストン202とを収納する。本例では、ガスは空気である。しかしながら、ガスは空気に限られない。ピストン202は円柱状であり、正面202Fと、背面202Bとを有する。ピストン202は、シリンダ201の軸方向に移動(スライド)する。ピストン202の外周面には、円環状の複数のシーリング部材202A及び202Cが配置される。シーリング部材202Aはたとえば、ゴム製である。シーリング部材202Cはたとえば、樹脂製又は金属製である。シーリング部材202Aは、ピストン202とシリンダ201との間からガスが漏れるのを抑制する。
【0023】
シリンダ201は、ガス室207とガス室208とを含む。ガス室207は、ピストン202の正面202F側に配置される。ガス室208は、背面202B側に配置される。要するに、ガス室207とガス室208とはピストン202により区画される。
【0024】
ピストンロッド203は、ピストン202の背面202Bにつながる。本例では、ピストンロッド203は、ピストン202を貫通する。そのため、ピストンロッド203の先端は、ガス室207内に配置される。
【0025】
ライダが鞍乗り型車両1に乗車したとき、ライダの体重によりエアショックアブソーバ20に荷重が掛かる。このとき、ピストンロッド203はシリンダ201内に押し込まれる。ピストン202はシリンダ201の下端に向かってスライドする。その結果、ガス室207が収縮し、ガス室208が膨張する。ガス室207の収縮及びガス室208の膨張により、エアショックアブソーバ20の反力が増加する。このように、エアショックアブソーバ20は緩衝作用を有する。
【0026】
エアショックアブソーバ20はさらに、ダンパロッド204と、ダンパピストン205とを備える。ピストンロッド203は、円筒状であり、内部にオイルが収納される。つまり、ピストンロッド203はダンパシリンダとしても機能する。ダンパロッド204は、シリンダ201の底面201Bに立てて配置され、シリンダ201の軸方向に延びる。ダンパロッド204の上端は、ピストンロッド203内に配置される。ダンパロッド204の上端部には、ダンパピストン205が配置される。ダンパピストン205は円板状であり、ピストンロッド203の軸方向に移動(スライド)する。
【0027】
上述のとおり、ピストンロッド203はオイルを収納する。ピストンロッド203は、オイル室210及び211を含む。オイル室210とオイル室211とは、ダンパピストン205により区画される。オイル室210は、ダンパピストン205の背面側に配置され、オイル室211は、ダンパピストン205の正面側に配置される。
【0028】
ダンパピストン205は、複数のオリフィス205Aを有する。各オリフィス205Aは、ダンパピストン205の正面と背面との間を貫通する。各オリフィス205Aの開口にはプレートバルブが配置される。エアショックアブソーバ20に荷重が掛かるとき、ダンパピストン205は、ピストンロッド203の上方に押し込まれる。このとき、オイル室211内のオイルがオリフィス205Aを通ってプレートバルブをたわませ、オイル室210に移動する。そのため、エアショックアブソーバ20に掛かる力が減衰する。以上のとおり、エアショックアブソーバ20は、減衰作用も有する。
【0029】
エアショックアブソーバ20はさらに、チェックバルブ250とリリーフバルブ260とを備える。チェックバルブ250は、ガス室208とつながる。チェックバルブ250は、ガス室208の圧力が基準値よりも低くなったとき、外部の空気をガス室208内に流入する。チェックバルブ250は、周知の構成を有する。
【0030】
リリーフバルブ260は、ガス室208とつながる。リリーフバルブ260は、ガス室208の圧力が基準値よりも大きくなったとき、ガス室内のガスを外部に排出する。リリーフバルブ260は、周知の構成を有する。
【0031】
図2を参照して、ピストン202はさらに、貫通孔220を有する。貫通孔220は、正面202Fと背面202Bとの間を貫通する。ピストン202はさらに、バルブ230を備える。
【0032】
[バルブ230の構成]
図3は、図2中のバルブ230及びその周辺部分の拡大図である。図3を参照して、バルブ230は、接触部231と、蓋部232とを備える。
【0033】
接触部231は、貫通孔220内に挿入される。接触部231は、貫通孔220の軸方向にスライド可能である。接触部231は、先端部と後端部とを有する。接触部231の先端部は、ピストン202の背面202Bからガス室208内に突き出ている。つまり、接触部231の先端部は、ガス室208内に配置される。後端部は先端部の反対側に配置される。図4に示すとおり、接触部231の横断面は、貫通孔220の横断面よりも小さい。
【0034】
蓋部232は、接触部231の後端部に配置される。蓋部232の横断形状は、貫通孔220の横断形状よりも大きい。蓋部232は、正面202F側の貫通孔220の開口上に配置される。蓋部232は、貫通孔220の開口と対向する表面に、環状のシーリング部材233を備える。シーリング部材233はたとえば樹脂製又はゴム製である。シーリング部材233は、蓋部232が貫通孔220を閉じているとき、貫通孔220からガスが漏れるのを抑制する。
【0035】
バルブ230は、接触部231がガス室208の内壁208Iと接触していないとき、貫通孔220を閉じる。バルブ230はさらに、接触部231がガス室208の内壁208Iに押し当てられたとき、貫通孔220を開く。以下、バルブ230の動作を詳述する。
【0036】
たとえば、鞍乗り型車両を運転するライダがブレーキを掛けたとき、鞍乗り型車両が前のめりになり、エアショックアブソーバ20が伸びる。シリンダ201内におけるピストン202の配置が図2及び図3のとおりである場合、接触部231は、ガス室208の内壁208Iに接触していない。エアショックアブソーバ20が伸びきっていない場合、シリンダ201内のガス室207の圧力は、ガス室208の圧力以上である。より具体的には、貫通孔220が開いていない場合、ガス室207の圧力は、ガス室208の圧力よりも大きい。そのため、バルブ230はガス室207からガス室208方向への力を受ける。そのため、蓋部232は、貫通孔220を閉じる。
【0037】
エアショックアブソーバ20がさらに伸びた結果、図5に示すとおりにピストン202が配置された場合を想定する。このとき、ピストン202は、ガス室208方向にスライドし続ける。そのため、図6に示すとおり、接触部231がガス室208の内壁208I(シリンダ201の端部の内面)に押し当てられる。接触部231がガス室208の内壁208Iに押し当てられた後も、ピストン202はさらにガス室208方向にスライドする。そのため、蓋部232が貫通孔220の開口から離れ、貫通孔220が開く。
【0038】
以上のとおり、バルブ230は、接触部231がガス室208の内壁208Iに押し当てられたときに、貫通孔220を開く。貫通孔220が開かれると、ガス室207とガス室208とが連通する。そのため、圧縮されたガス室208内のガスがガス室207に流入し、ガス室207の圧力がガス室208の圧力と等しくなる。
【0039】
本実施の形態によるエアショックアブソーバ20は、バルブ230によりシリンダ201内の圧力を調整できる。従来のエアショックアブソーバでは、温度変化に応じてエアショックアブソーバの伸びきる位置が異なる場合がある。しかしながら、エアショックアブソーバ20では、接触部231がガス室208の内壁に押し当てられる位置で、ガス室207の圧力とガス室208の圧力とが等しくなる。そのため、エアショックアブソーバ20の伸びきり位置は温度変化に応じてずれにくい。
【0040】
さらに、エアショックアブソーバ20では、ピストン202とシリンダ201との間の摩擦特性が変化しにくい。そのため、摩擦特性の変動に基づく反力特性の変動は生じない。したがって、反力の急激な変動を抑制でき、良好な乗り心地を維持できる。
【0041】
[第2の実施の形態]
図7は、第2の実施の形態による鞍乗り型車両に搭載されるエアショックアブソーバ25の部分断面図である。図7では、エアショックアブソーバ25のうち、ピストンロッド203の外面とシリンダ201の内面との間の部分のみを示す。
【0042】
図7を参照して、エアショックアブソーバ25は、エアショックアブソーバ20と比較して、新たに、調整機構300を備える。エアショックアブソーバ25のその他の構成は、エアショックアブソーバ20と同じである。
【0043】
調整機構300は、台座320と、位置調整装置310とを備える。台座320は、円盤状であり、中央に貫通孔を有する。中央の貫通孔には、ピストンロッド203が挿入される。台座320は、接触部231の先端と接触する主面320Sを有する。台座320は、ピストン202の軸方向にスライド可能である。
【0044】
位置調整装置310は、台座320の主面320Sの配置位置を調整する。位置調整装置310は周知の構成を有する。位置調整装置310は、棒部材310Aと、押出機構310Bとを備える。棒部材310Aは、後端部に雌ねじを有する。押出機構310Bの外周には雄ねじが形成されている。棒部材310Aは、押出機構310Bの回転により、エアショックアブソーバ25の軸方向に押し出されたり、引き戻されたりする。要するに、押出機構310Bは、棒部材310Aの押出量を調整できる。
【0045】
調整機構300は、棒部材310Aの押出量を調整し、接触部231が主面320Sと接触する位置を調整する。つまり、調整機構300は、バルブ230により貫通孔220が開くときのピストン202の位置を調整できる。
【0046】
貫通孔220が開くときのピストン位置が調整できれば、エアショックアブソーバ25の反力特性を調整できる。図8は、エアショックアブソーバ25において、接触部231と主面320Sとの接触位置と、反力特性との関係を示す図である。図8の横軸は、伸びきり位置からのストローク量(mm)を示す。図8の縦軸は、エアショックアブソーバ25の反力(N)を示す。図8中の曲線C1(実線)は、伸びきり位置からのストローク量が1mmの位置で、接触部231が台座320の主面320Sと接触する場合の、反力特性曲線である。曲線C2(破線)は、伸びきり位置からのストローク量が3mmの位置で、接触部231が主面320Sと接触する場合の、反力特性曲線である。曲線C(一点鎖線)は、伸びきり位置からのストローク量が5mmの位置で、接触部231が主面320Sと接触する場合の、反力特性曲線である。
【0047】
図8を参照して、接触部231と主面320Sとの接触位置に応じて、反力特性曲線は変化する。具体的には、各曲線ともに、伸びきり位置から接触位置までの反力は一定である。つまり、この期間中は、ガス室207の圧力はガス室208の圧力と等しい。接触位置からさらにストローク量が増加すると、ガス室207の反力は増加する。このとき、反力が増加しはじめるときのガス室207の容量は、曲線C1で最も大きく、曲線C3で最も小さい。そのため、ストローク量が増加するにしたがって、曲線C3の反力が最も大きくなり、曲線C1の反力が最も小さくなる。
【0048】
以上のように、調整機構300は、接触部231と主面320Sとの接触位置を調整し、反力特性を調整できる。
【0049】
[第3の実施の形態]
図9は、第3の実施の形態による鞍乗り型車両に搭載されるエアショックアブソーバ30の一部断面図である。エアショックアブソーバ30は、エアショックアブソーバ20と比較して、ピストン202及びピストンロッド203に代えて、新たにピストン402と、ピストンロッド403とを備える。その他の構成はエアショックアブソーバ20と同じである。
【0050】
ピストン402は円環状であり、中央に開口402Aを有する。本例では、開口402Aは貫通孔である。ピストンロッド403は、開口402A内に挿入される。ピストンロッド403のうち、ピストン202内に配置される部分の外径D1は、ピストン202よりも下方(ガス室207側)に配置される部分の外径D2よりも大きい。つまり、ピストンロッド403は段差を有する。
【0051】
ピストン402は、外周面に複数のシーリング部材202A及び202Cを備える。ピストン402はさらに、貫通孔420と、バルブ430を備える。貫通孔420は、ピストンロッド403と隣接して形成される。貫通孔420は、ピストン202の軸方向に伸びる。バルブ430は、接触部431と、蓋部432Aと、ストッパ432Bとを備える。接触部431は、ピストン402の背面402Bに取り付けられる。接触部431は円筒状であり、側壁に貫通孔431Aが形成される。
【0052】
ストッパ432Bは、貫通孔420のうち、背面402B側の開口上に配置される。ストッパ432Bはリング状であり、リング幅は、貫通孔420の幅よりも大きい。ストッパ432Bは、ピストンロッド403の外面に取り付けられる。
【0053】
蓋部432Aは、ピストン402の開口402Aの周面に取り付けられる。蓋部432Aはリング状のシーリング部材である。蓋部432Aは、貫通孔420のうち、正面402F側の開口を塞ぐ。
【0054】
以上のとおり、蓋部432Aはピストン402に取り付けられる。ストッパ432Bはピストンロッド403に取り付けられる。ストッパ433は、リング状の部材であり、ピストンロッド403に取り付けられる。ストッパ433は、ピストン402の正面402Fの下方に配置される。
【0055】
エアショックアブソーバ30が伸びきる前は、図9に示すとおり、蓋部432Aにより、貫通孔420は閉じられる。ピストンロッド403は、開口部402Aにスライド可能に挿入されている。上述のとおり、貫通孔420が開いていないとき、ガス室207の圧力の方がガス室208の圧力よりも高い。そのため、ピストン402はガス室208方向の力を受け、ストッパ432Bに押し当てられる。ピストン402がストッパ432Bに押し当てられたまま、ピストンロッド403は上方(ガス室408方向)に移動する。そのため、ピストンロッド403はピストン402に対してスライドしない。
【0056】
エアショックアブソーバ30がさらに伸びたとき、図10に示すように、接触部431がガス室208の内壁208Iに押し当てられる。このとき、ピストン402は停止する。しかしながら、ピストンロッド403は、ピストン402に対して上方(ガス室208方向)にスライドする。ピストンロッド403がスライドすることにより、蓋部432Aは、ピストンロッド403のうち、外径D2を有する部分近傍に配置される。そのため、蓋部432Aも貫通孔420を開く。要するに、接触部431が内壁208Iに押し当てられたとき、ピストンロッド403がスライドすることにより、蓋部432Aは貫通孔420を開く。そのため、ガス室207とガス室208とが連通する。
【0057】
ストッパ433は、接触部431が内壁208Iに接触したとき、ピストン402の正面402Fと接触する。要するに、ストッパ433は、ピストン402が下方(ガス室207側)に移動するのを抑制する。ただし、貫通孔420が開いたとき、ガス室207の圧力は、ガス室208と等しい。そのため、ストッパ433がなくても、ピストン402は下方に移動しにくい。
【0058】
以上の動作により、エアショックアブソーバ30は、ガス室207の圧力とガス室208の圧力を調整できる。さらに、エアショックアブソーバ30では、ピストン402とシリンダ201との間の摩擦特性は変動しにくい。そのため、摩擦特性の変動に基づく反力の急速な変動を抑制できる。
【0059】
[第4の実施の形態]
図11は、第4の実施の形態による鞍乗り型車両に搭載されるエアショックアブソーバ35の一部断面図である。図11を参照して、エアショックアブソーバ35は、エアショックアブソーバ20と比較して、ピストン202に代えてピストン502を備える。エアショックアブソーバ35のその他の構成は、エアショックアブソーバ20と同じである。
【0060】
ピストン502は、円環状であり、中央に開口502Aを有する。ピストンロッド203は、開口502Aに挿入される。ピストン502は、外周面に複数のシーリング部材202A及び202Cを備える。ピストン502はさらに、貫通孔520と、バルブ530とを備える。貫通孔520は、ピストンロッド203に隣接して配置され、ピストン502の軸方向に延びる。
【0061】
バルブ530は、接触部531と、蓋部532とを備える。接触部531は円筒状であり、ピストン502の背面502Bに取り付けられる。接触部531の中央には、ピストンロッド203が挿入される。接触部531の周壁には貫通孔531Aが形成される。
【0062】
蓋部532は、円筒状であり、内部にピストンロッド203が挿入される。蓋部532の下端部はフランジを有する。蓋部532の下端部は、背面502B側の貫通孔520の開口上に配置される。ピストン502の背面502Bのうち、貫通孔520の開口近傍には、円環状のシーリング部材532Aが配置される。蓋部532とピストンロッド203との間には、シーリング部材532Bが配置される。蓋部532は、シーリング部材532Aと接触して貫通孔520を閉じる。蓋部532は、ピストンロッド203に取り付けられる。要するに、蓋部532は、ピストンロッド203と共に移動する。
【0063】
エアショックアブソーバ35の動作は次のとおりである。エアショックアブソーバ35が伸び始めるとき、ガス室207の圧力はガス室208の圧力よりも大きい。そのため、ピストン502はガス室208方向に力を受け、蓋部532と接触する。ピストン502は、ピストンロッド203と共に、ガス室207方向(上方)に移動する。
【0064】
エアショックアブソーバ35が伸びきる直前では、図12に示すように、接触部531がガス室208の内壁208Iに押し当てられる。このとき、ピストン502は停止する。しかしながら、ピストンロッド203はさらに上方(ガス室208方向)に移動する。そのため、ピストン202に対してピストンロッド203がスライドし、蓋部532がシーリング部材532Aから離れる。その結果、貫通孔520が開く。
【0065】
要するに、蓋部532は、接触部531が内壁208Iに押し当てられたとき、ピストンロッド203がピストン502に対してスライドすることにより、貫通孔520を開く。そのため、エアショックアブソーバ35は内部圧力を調整できる。
【0066】
[第5の実施の形態]
図13は第5の実施の形態による鞍乗り型車両に搭載されるエアショックアブソーバ40の一部断面図である。エアショックアブソーバ40は、エアショックアブソーバ20と比較して、ピストン202に代えて、ピストン602を備える。エアショックアブソーバ40はさらに、エアショックアブソーバ20と比較して、シリンダ201に代えて、シリンダ601を備える。エアショックアブソーバ40のその他の構成は、エアショックアブソーバ20と同じである。
【0067】
ピストン602は、円環状である。ピストン602の内部にはピストンロッド203が挿入され、固定される。ピストン602は、外周面に複数のシーリング部材202A及び202Cを備える。ピストン602はさらに、貫通孔620と、バルブ630とを備える。貫通孔620は、ピストン602の正面602Fと背面602Bとの間を貫通する。
【0068】
バルブ630は、接触部631と、支持部材632とを備える。バルブ630はプレートバルブである。接触部631は、第1端部631A及び第2端部631Bを有し、ピストン602の径方向に伸びる板である。第1端部631Aは、背面602B側の貫通孔620の開口上に配置され、貫通孔620に対応する貫通孔を有する。接触部631は、背面602Bと支持部材632との間に配置される。支持部材632は、接触部631を支持する。支持部材632のうち、接触部631と接する部分には、シーリング部材632Aが配置される。図14を参照して、シリンダ601は、ガス室208側の端部の内壁に段差601Aを有する。
【0069】
エアショックアブソーバ40の動作は次のとおりである。エアショックアブソーバ40が伸び始めるとき、図13に示すとおり、第2端部631Bは、シーリング部材632Aと接触して貫通孔620を塞ぐ。エアショックアブソーバ40が伸びきる直前において、図14に示すとおり、第2端部631Bは、ガス室208内の内壁208Iの段差601Aに押し当てられる。このとき、接触部631は湾曲し、貫通孔620を開く。以上の動作により、エアショックアブソーバ40は、内部圧力を調整できる。
【0070】
上述の実施の形態ではエアショックアブソーバを鞍乗り型車両の車体フレーム8と後輪4との間に配置した。しかしながら、エアショックアブソーバを車体フレーム8と前輪3との間に配置してもよい。たとえば、エアショックアブソーバをフロントフォークに利用してもよい。
また、第3の実施の形態及び第4の実施の形態では、ピストン402の開口402A及びピストン502の開口502Aが貫通孔である。しかしながら、開口402A及び502Aは非貫通孔でもよい。要するに、接触部431又は531がガス室208の内壁208Iに押し当てられたとき、ピストンロッド403又は203がピストン402又は502に対してスライドできればよい。
【0071】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 鞍乗り型車両
20,25,30,35,40 エアショックアブソーバ
201,601 シリンダ
202,402,502,602 ピストン
202B 背面
202F 正面
203,403,503 ピストンロッド
207,208 ガス室
208I ガス室208の内壁
220,420,520,620 貫通孔
230,430,530,630 バルブ
231,431,631 接触部
232,432A 蓋部
300 調整機構
310 位置調整装置
320 台座
320S 主面
402A 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと、
車輪と、
前記車体フレームと前記車輪との間に配置されるエアショックアブソーバとを備え、
前記エアショックアブソーバは、
ガスを収納するシリンダと、
前記シリンダ内に収納され、正面及び背面を有するピストンと、
前記シリンダ内の前記ピストンの正面側に配置される第1ガス室と、
前記シリンダ内の前記ピストンの背面側に配置される第2ガス室と、
前記背面とつながり、前記第2ガス室を貫通するピストンロッドとを備え、
前記ピストンは、
前記正面と前記背面との間を貫通する貫通孔と、
前記背面に配置される接触部を含み、前記接触部が前記第2ガス室の内壁に押し当てられたとき前記貫通孔を開き、前記接触部が前記第2ガス室の内壁と接触していないとき前記貫通孔を閉じるバルブとを備える、鞍乗り型車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鞍乗り型車両であって、
前記エアショックアブソーバはさらに、
前記第2ガス室の内壁に配置され、前記接触部と接触する主面を有する台座と、
前記台座の配置位置を調整する調整機構とを備える、鞍乗り型車両。
【請求項3】
請求項1に記載の鞍乗り型車両であって、
前記接触部は、前記貫通孔に挿入され、前記ピストンの背面から突き出た先端と、前記先端の反対側に配置される後端とを有する棒であり、
前記バルブは、
前記接触部と、
前記接触部の後端に取り付けられ、前記貫通孔よりも大きい横断面を有する蓋部とを備える、鞍乗り型車両。
【請求項4】
請求項1に記載の鞍乗り型車両であって、
前記ピストンはさらに、
前記ピストンロッドが前記ピストンの軸方向に挿入される開口を有し、
前記貫通孔は、前記ピストンロッドと隣接して形成され、
前記バルブは、
前記背面に取り付けられた前記接触部と、
前記ピストン又は前記ピストンロッドのいずれか一方に取り付けられ、前記接触部が前記第2ガス室の内壁に押し当てられていないときに前記貫通孔を閉じ、前記接触部が前記第2ガス室の内壁に押し当てられたときに前記ピストンロッドがスライドすることにより前記貫通孔を開く蓋部とを備える、鞍乗り型車両。
【請求項5】
請求項3及び請求項4に記載の鞍乗り型車両であって、
前記第1ガス室の圧力は、前記第2ガス室の圧力以上である、鞍乗り型車両。
【請求項6】
請求項1に記載の鞍乗り型車両であって、
前記接触部は、前記背面側の前記貫通孔の開口を塞ぐ板であり、
前記バルブは、前記接触部の端部が前記第2ガス室の内壁に接触することにより前記接触部が湾曲したとき、前記貫通孔を開く、鞍乗り型車両。
【請求項7】
ガスを収納するシリンダと、
前記シリンダ内に収納され、正面及び背面を有するピストンと、
前記シリンダ内の前記ピストンの正面側に配置される第1ガス室と、
前記シリンダ内の前記ピストンの背面側に配置される第2ガス室と、
前記ピストンの背面とつながり、前記第2ガス室を貫通するピストンロッドとを備え、
前記ピストンは、
前記正面と前記背面との間を貫通する貫通孔と、
前記ピストンの背面に配置される接触部を含み、前記接触部が前記第2ガス室の内壁に押し当てられたとき前記貫通孔を開き、前記接触部が前記第2ガス室の内壁と接触していないとき前記貫通孔を閉じるバルブとを備える、エアショックアブソーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−17778(P2012−17778A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154277(P2010−154277)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】