説明

音声信号再生装置

【課題】 音声付き早見再生等の音声信号の特殊再生時においても、音声のサンプルレートを通常再生時と同様としながら、聴取に対し違和感のない音声を再生する。
【解決手段】 複数用意された窓関数から指示された再生スピードに応じた窓関数を選択する選択手段(11)と、読み出された符号化音声信号の音声符号化単位に対して、選択された窓関数により演算処理を行う窓関数演算手段(12)と、窓関数により演算処理された符号化音声信号における各音声符号化単位の重ね合わせ処理を、重ね合わせ後の音声符号化単位のサンプルレートが通常再生スピード時と等しくなるように、指示された再生スピードに応じた重ね合わせ幅に調整して行う合成手段(13)とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声信号の再生装置に関し、特に特殊再生時の音質を改善する音声信号再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理技術の進展により、音響・映像情報をディジタル領域でデータ圧縮し、情報記録媒体に記録することが行われている。特にBSディジタル放送の開始等に伴い、ディジタルの信号形態で記録媒体に記録する機会がますます増えてゆくと考えられる。
【0003】
このような用途のための機器として、DVD等の記録型光ディスクを用いることが考えられる。このような光ディスクはディジタルの信号形態で記録が可能であり、可搬性や容量の面で本用途のためにふさわしいと考えられる。
【0004】
光ディスクに記録される映像信号は、相関のある複数のビデオフレームを1つの圧縮単位(映像符号化単位)として纏めて記録することが通常行われている。一方、映像信号とともに記録される音声信号に関しては、圧縮の効率を高めるために入力信号を一定時間間隔で区切ったオーディオフレームを圧縮単位(音声符号化単位)として記録することが行われる。この際、時間的に隣り合うオーディオフレームは部分的に同一時点での音声サンプルをともに含み、かつ窓関数によって処理された後に圧縮処理が行われる。
【0005】
このように記録された音声信号を再生する場合は、図5に示されるように、圧縮されたオーディオフレームを伸長し、さらに窓関数処理によってオーディオフレーム内の音声サンプル列のゲインを調整し、隣り合うオーディオフレームを半分重ね合わせるように合成した後に出力を行う。
【0006】
このような、光ディスクを応用した再生装置では早送り再生等の特殊再生機能を有していることが一般的である。特殊再生において、映像の観点からは、ある時点で表示を行いたい画像が記録されているディスク上の位置からデータを読み取り、伸長処理を行った上で表示を行うという動作が繰り返し行われ、特殊再生が実現されている。結果として離散的に画像が更新され表示されることになるが、視聴者の違和感は少ない。
【0007】
特殊再生時の音声は、出力されないことが多い。これは早送り再生等の目的が視聴したいシーンを探すことにあるため、映像のみで十分と考えられるからである。しかしながら近年「早見再生」等と称して、視聴時間の短縮のために1.5倍速再生等が行われている。この場合は目的が異なるため音声付きであることが望ましい。音声付き早見再生時には再生装置の音声再生動作を全体的に高速とする。
【0008】
上記以外の方法として、例えば特許3081469号公報に記載されているように、早見再生時の音声サンプルレートが通常再生と等しくなるように再生サンプルを部分的に捨てて再生することが考えられる。
【0009】
また、早見再生時に良好な音声を得るために「符号化デジタルオーディオ信号の変速再生装置」(特開2003-255999公報)が提案されている。ここでは周波数スペクトルの加工を行っている。
【特許文献1】特許3081469号公報
【特許文献2】特開2003−255999公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、早見再生時に再生装置の音声再生動作を全体的に高速とする場合、音声のサンプルレートが上昇し、アナログ変換が困難になる恐れがある。さらに再生音のピッチが上昇するため、視聴にふさわしくない状態となってしまうことがある。
【0011】
早見再生時の音声サンプルレートが通常再生と等しくなるように再生サンプルを部分的に捨てて再生する場合には、部分的ではあるが音声が不連続となるため知覚可能な雑音が発生し、やはり視聴にふさわしくない状態となってしまうことがある。
【0012】
また、特開2003-255999公報に記載の発明では、変速再生装置を実現するためには周波数スペクトルを加工する機能を有することが必須であり、装置が大変複雑化する恐れがあった。
【0013】
本発明は上記の問題点を解決し、音声付き早見再生等の音声信号の特殊再生時においても、音声のサンプルレートを通常再生時と同様としながら、聴取に対し違和感のない音声を提供する音声再生装置を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、上記課題を解決するために本発明は、下記の装置を提供するものである。
(1) 記録媒体から読み出した符号化音声信号における時間的に隣接する各音声符号化単位の隣接部分を、窓関数による演算処理後に重ね合わせ処理を行い、前記符号化音声信号の再生を行う音声信号再生装置において、
前記記録媒体から読み出す前記符号化音声信号の再生レートを、複数の選択可能な再生スピードの内から指示された再生スピードに応じた再生レートとする再生レート制御手段(1,2,3)と、
複数用意された窓関数から前記指示された再生スピードに応じた窓関数を選択する選択手段(11)と、
読み出された前記符号化音声信号の音声符号化単位に対して、選択された前記窓関数により演算処理を行う窓関数演算手段(12)と、
前記窓関数により演算処理された前記符号化音声信号における各音声符号化単位の重ね合わせ処理を、重ね合わせ後の音声符号化単位のサンプルレートが通常再生スピード時と等しくなるように、前記指示された再生スピードに応じた重ね合わせ幅に調整して行う合成手段(13)と、
を備え、
前記複数用意された各窓関数は、前記複数の選択可能な各再生スピードにおける、前記重ね合わせ処理後の前記符号化音声信号のゲインがそれぞれ等しくなるように設定された窓関数である、
ことを特徴とする音声信号再生装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、従来の音声信号再生装置に対し、回路構成の大幅な複雑化を招くことなく、音声信号の特殊再生時において、音声のサンプルレートを通常再生時と同様としながら、再生音声が不連続とならず、聴取者に対し違和感のない高品位な特殊再生音声を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例として早見再生を行う映像音声再生装置について説明する。図1は本発明の一実施例である映像音声再生装置を示すブロック図である。この実施例は、再生スピードとして、通常再生以外に、1.3倍速再生、1.5倍速再生が選択可能である。ここでは、早見再生である1.5倍速再生を再生スピードとして指示した場合について説明する。記録媒体としてはDVDに代表される読み出し専用、もしくは書き込み可能な光ディスクを想定している。
【0018】
記録媒体ドライブ1は上記光ディスクを装着する。情報読み出し部2は指示された再生スピードに応じて記録媒体ドライブ1に対し読み取り命令を発行し、通常再生時の1.5倍速以上の速度で記録情報を読み取る。読み出された情報は読み出しバッファ3へ書き込まれる。読み出しバッファ3は、その出力点で通常再生の1.5倍のレート(指示された再生スピードである1.5倍速再生に応じた再生レート)で情報が読み出される場合においても、出力データが途切れないように情報読み出し部2、及び記録媒体ドライブ1と協調して動作する。多重分離部4においては、音声データと映像データが分離され、それぞれ音声復号部5、動画像復号部6へデータが転送される。
【0019】
動画像復号部6においては1.5倍のレートで転送される動画像データに対して復号を行うが、表示装置への映像出力としては、通常再生と同様のフレームレートとなるように画像を取捨選択して出力する。(もちろん、視聴者には1.5倍再生として見える。)
一方、音声復号部5においては圧縮されたオーディオフレーム(音声符号化単位)が通常再生時の1.5倍の速度で入力されている。
【0020】
音声復号部5の内部では、オーディオフレーム(音声符号化単位)の伸長処理、窓関数処理、重ね合わせを行う合成処理が行われる。1.5倍速再生時、伸長処理は全てのオーディオフレームを処理するように、通常時に1.5倍の処理速度で動作する。図4に音声復号部5内の、窓関数処理回路14と合成処理を行う合成回路13とを示す。
【0021】
ここで、説明を容易にするために、窓関数処理の説明に先立ち、本実施例による合成回路13での合成処理について図2と共に説明する。
前述したように、通常再生時の合成処理は隣り合うオーディオフレームのサンプルデータがちょうど半分重なり合うように合成が行われる。しかしながら、1.5倍速再生時には同様の処理を行うと音声出力(オーディオフレーム)のサンプルレートが1.5倍に上昇してしまう。そこで、本実施例の合成処理ではオーディオフレームの重なり幅を変更し、合成後の音声出力(オーディオフレーム)のサンプルレートが通常再生時と等しくなるように処理する。この様子を図2に示す。
【0022】
図示するように、通常再生時の2つのオーディオフレームが処理される期間において、1.5倍速再生時は3つのオーディオフレームが合成されるように動作する。この結果、1.5倍速再生時においても音声を不連続とすることなく、しかも、合成処理後の出力オーディオフレームのサンプルレートを通常再生時と等しく保つことができる。
【0023】
次に、窓関数処理について説明する。通常の窓関数処理は合成処理による重ね合わせの部分で、隣り合うオーディオフレームからのサンプルの和を取った結果のゲインが、オーディオフレームの中央部分のサンプルに対するゲインと常に等しくなるように、フレーム内のサンプル値を変更する処理である。
【0024】
1.5倍速再生における合成処理では、図2に示したように、隣り合うオーディオフレームの重なり部分が増加するため、サンプル値の加算結果のゲインが増大しており、この結果が出力信号の低域ノイズとなって現れる。
【0025】
従って、本発明の実施例の窓関数処理回路14は、図3に示すように、指示された再生スピードに応じた窓関数ある1.5倍速再生時用の窓関数を用いて、隣り合うオーディオフレームの合成処理後のゲインが、通常再生時と等しいゲインとなるように窓関数処理を行う。
【0026】
図4に示すように、窓関数処理回路14はオーディオフレームデータを入出力とし、内部に係数設定可能な乗算器12を持ち、オーディオフレーム内の各サンプルに対応した係数値をROM化したテーブルとして実装することで実現可能である。通常再生に加えて本実施例による早見再生時(特殊再生時)の音声再生を実現するためには、早見再生(特殊再生)のスピードに応じた乗算係数テーブルを複数追加で実装する。そして、指示された再生スピードに応じた乗算係数をテーブル選択回路11によって選択し、その選択された乗算係数を用いて乗算器12によってオーディオフレーム(音声符号化単位)に対して演算処理を行えばよい。
【0027】
即ち、複数用意された窓関数から、指示された再生スピードに応じた窓関数を選択手段により選択し、オーディオフレーム(音声符号化単位)に対して、選択された窓関数により演算処理を行えばよい。
【0028】
なお、複数用意された各乗算係数テーブル(各窓関数)は、選択可能な各再生スピードにおける、前記重ね合わせ処理後のオーディオフレーム(符号化音声信号の音声符号化単位)のゲインが、各再生スピードにおいてそれぞれ等しくなるように設定された乗算係数テーブル(各窓関数)である。
【0029】
また、窓関数処理回路14は、回路構成自体は比較的簡単なものであり、回路規模の複雑化を招くことなく実現可能である。
このように、本実施例は、回路構成の大幅な複雑化を招くことなく、音声信号の特殊再生時において、音声のサンプルレートを通常再生時と同様としながら、再生音声が不連続とならず、聴取者に対し違和感のない高品位な特殊再生音声を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】実施例の合成処理を説明するための図である。
【図3】実施例の窓関数処理を説明するための図である。
【図4】実施例の窓関数処理回路を示す図である。
【図5】従来の窓関数処理と合成処理とを説明するための図である。
【符号の説明】
【0031】
1 記録媒体ドライブ
2 情報読み出し部
3 読み出しバッファ
4 多重分離部
5 音声復号部
6 動画像復号部
11 テーブル選択回路
12 乗算器
13 合成回路
14 窓関数処理回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体から読み出した符号化音声信号における時間的に隣接する各音声符号化単位の隣接部分を、窓関数による演算処理後に重ね合わせ処理を行い、前記符号化音声信号の再生を行う音声信号再生装置において、
前記記録媒体から読み出す前記符号化音声信号の再生レートを、複数の選択可能な再生スピードの内から指示された再生スピードに応じた再生レートとする再生レート制御手段と、
複数用意された窓関数から前記指示された再生スピードに応じた窓関数を選択する選択手段と、
読み出された前記符号化音声信号の音声符号化単位に対して、選択された前記窓関数により演算処理を行う窓関数演算手段と、
前記窓関数により演算処理された前記符号化音声信号における各音声符号化単位の重ね合わせ処理を、重ね合わせ後の音声符号化単位のサンプルレートが通常再生スピード時と等しくなるように、前記指示された再生スピードに応じた重ね合わせ幅に調整して行う合成手段と、
を備え、
前記複数用意された各窓関数は、前記複数の選択可能な各再生スピードにおける、前記重ね合わせ処理後の前記符号化音声信号のゲインがそれぞれ等しくなるように設定された窓関数である、
ことを特徴とする音声信号再生装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−39347(P2006−39347A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221371(P2004−221371)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】