説明

音声信号変換装置

【課題】サンプリング化された音声データを32Bit浮動小数点フォーマットにより伝送するために使用する音声信号変換装置を提供する。
【解決手段】A/D変換装置1で、入力されたLチャンネルとRチャンネルのアナログ音声信号を、サンプリング周波数192kHz、量子化ビット数24Bitで、サンプリングして、デジタル信号を生成する。A/D変換装置1の出力側には、信号処理装置2を接続する。この信号処理装置2は、(1)周波数を1/4(48kHz)にダウンサンプリングする、(2)タウンサンプリングされた信号を量子化ビット数32Bitの浮動小数点フォーマットに変換する、という処理を行う。音声信号変換装置に接続された音声処理装置に対して、32Bit浮動小数点フォーマットの信号を出力することができ、音声処理装置での高ビットへの変換処理が不要となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプリング化された音声データを32Bit浮動小数点フォーマットにより伝送するために使用する音声信号変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル化された音声信号を伝送するフォーマットとして、AES−3(Audio Engineering Society )、SPDIF(Sony Philips Digital Interface )などが知られている。また、最近のネットワークオーディオにおいても、同様の伝送方式が採用されている。これらの音声フォーマットでは、オーディオデータは固定小数点方式に変換されて送信される。一般的には、CDフォーマットの制限から16bit/44.1kHzや、より高音質の装置でも24bit/96kHzで送信される。なお、24bitのデータは16bitのデータの256倍の分解能を有する。
【0003】
他方で、オーディオデータに種々の処理を加えるイコライザ、エフェクター、アンプなどの音声処理装置としては、32Bit以上相当の装置が実用化されており、今後もそのビット数が増加する傾向にある。しかし、前記のようにオーディオシステムに使用されているビット数は最大でも24bitであるため、ADあるいはDA変換するための装置として、一般には、24bitの固定小数点フォーマットのものが使用されている。そのため、仮に、音声処理装置が32Bitなどの高ビット数を使用しても、伝送経路のビット数(最大24Bit)により制度が制限されてしまう。同様なことは、音声調整卓でイコライザなどの音声信号処理を32Bit浮動小数点フォーマットで行う場合にも生じる。
【0004】
すなわち、A/DあるいはD/A変換装置に入出力するためには、24Bitの固定少数点フォーマットが必要である。これらのデバイスを使用すると、144.48dB(24Bit×6.02dB)のダイナミンクレンジが理論的に可能である。実際にはデバイス自体の量子化雑音のため、理論的なダイナミックレンジが確保できない。また、A/DあるいはD/A変換装置自体は固定小数点フォーマットのため、変換処理時に量子化雑音が発生する。
【0005】
特許文献1や特許文献2のように、入力信号をオーバーサンプリングやダウンサンプリングして所望のサンプリング周波数を得る変換装置も知られている。しかし、これらの装置も、得られるデジタル信号としては24bitの固定小数点フォーマットを使用することを前提としており、32Bitなどの高ビット数を使用する音声処理装置においては、音声処理装置内部で必要とする高ビット数の量子化データに変換する必要がある。
【0006】
さらに、従来は、A/DあるいはD/A変換装置や音声処理装置の内部と、これら各装置間のインターフェイスで同期を取ることにより、同じサンプリング周波数で各装置間の信号を伝送し、各装置内ではその装置独自の高い周波数でサンプリング処理を行っていた。しかし、そのような手法ではサンプリング周波数を上げるためにA/DあるいはD/A変換装置内部で変換誤差が生じたり、音声処理装置に供給される信号のサンプリング周波数が適切でないため、音声処理装置の機能が十分に発揮されない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−160267号公報
【特許文献2】特開2005−173607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであって、その目的は、高ビット処理を行う音声処理装置の入力信号として適した32Bit浮動小数点フォーマットによるデジタル信号を生成することのできる音声信号変換装置を提供することにある。
特に、本発明は、音声処理装置内部のサンプリング周波数と、各装置間を接続するインターフェイスのサンプリング周波数を異なるものとし、さらに同期を適切に実行できるように、両サンプリング周波数を整数倍としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明の音声信号変換装置は、次のような構成を採用したことを特徴とする。
(1) 本発明の実施例1は、アナログ音声信号を、サンプリング周波数192kHz、量子化ビット数24BitでサンプリングするA/D変換装置と、
前記A/D変換装置から出力されたデジタル信号の周波数を1/4(48kHz)にダウンサンプリングすると共に、その量子化ビット数を32bitに変換する信号処理装置と、を備えていることを特徴とする。
(2) 本発明の実施例2は、アナログ音声信号を、サンプリング周波数192kHz、量子化ビット数24BitでサンプリングするA/D変換装置と、
前記A/D変換装置から出力されたデジタル信号の周波数を64倍にアップサンプリングし、このアップサンプリングされたデジタル信号を1/256の周波数である48kHzにダウンサンプリングすると共に、その量子化ビット数を32bitに変換する信号処理装置と、を備えていることを特徴とする。
(3) 本発明の実施例3は、アナログ音声信号を、サンプリング周波数49.152MHz(1024FS)、量子化ビット数24BitでサンプリングするA/D変換装置と、
前記A/D変換装置から出力されたデジタル信号を1/256の周波数である48kHzにダウンサンプリングすると共に、その量子化ビット数を32bitに変換する信号処理装置と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
また、前記実施例1から3の実施例に示す音声信号変換装置において、生成された32Bit浮動小数点フォーマットのデジタル信号をアップサンプリングすると共に、その量子化ビット数を32Bit浮動小数点フォーマットから24Bit固定小数点フォーマットに変換して出力する信号処理装置と、
前記信号処理装置によりアップサンプリングされたデジタル信号を、2チャンネルのアナログ音声信号に変換するD/A変換装置と、を備えている音声信号変換装置も本発明の一態様である。
【0011】
更に、前記実施例1から3に記載されたA/D変換装置を備えた音声変換装置と、前記D/A変換装置を備えた音声変換装置を組み合わせた装置も、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の音声信号変換装置では、アナログ信号を32Bit浮動小数点フォーマットのデジタル信号に変換することができるため、この変換装置からの出力を32Bitの分解能を有する音声処理装置に直接供給することが可能になる。その結果、変換後のデジタル信号が高精度の32Bit浮動小数点フォーマットを維持することができ、個々の音声処理装置側で24bit固定小数点フォーマットから32Bitフォーマットに変換する処理が不要になり、信号品質が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1の構成を示すブロック図。
【図2】本発明の実施例2の構成を示すブロック図。
【図3】本発明の実施例3の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1を図1に従って具体的に説明する。本実施例の音声信号変換装置は、次のような構成を有する入力側と出力側の2つの変換装置からなる。
(a) 入力側の音声信号変換装置
図1において、符号1はA/D変換装置(ADC)で、入力されたLチャンネルとRチャンネルのアナログ音声信号を、サンプリング周波数192kHz、量子化ビット数24Bitで、サンプリングして、デジタル信号を生成する。この場合、A/D変換装置1から出力される情報量は、
192kHz×24bit×2ch=9216kbps
である。
【0015】
前記A/D変換装置1の出力側には、信号処理装置(FPGA:Field Programmable Gate Array)2が接続されている。この信号処理装置2は、次の処理を行う。
(1) 周波数を1/4(48kHz)にダウンサンプリングする。
(2) ダウンサンプリングする過程で、量子化ビット数32Bitの浮動小数点フォーマットに変換する。
【0016】
この信号処理装置2から出力されるデジタル信号のサンプリング周波数が1/4になることは、A/D変換装置1から出力される情報量9216kbpsを基準に考えれば、量子化ビット数(分解能)を2Bit分向上できることを意味する。同時に、図示の例では、A/D変換装置1にLチャンネルとRチャンネルの2チャンネルが入力されていることから、これら2チャンネルを合わせて使用すると、更に分解能を1Bit分向上させることができる。
【0017】
このようにして、本実施例の信号処理装置2では、ダウンサンプリングにより使用可能とする量子化ビット数を向上させて音声品質を確保すると同時に、この48kHz、27Bitのデジタル信号を32Bit浮動小数点フォーマットによるデジタル信号に変換し、出力する。その結果、本実施例の変換装置から、各音声処理装置に対して、32Bit浮動小数点フォーマットの信号を出力することができ、各音声処理装置での高ビットへの変換処理が不要となる。
【0018】
(b) 出力側の音声信号変換装置
図1に示すように、出力側の音声信号変換装置は、信号処理装置(FPGA:Field Programmable Gate Array)3と、その出力側に接続されたD/A変換装置(DAC)4とを有する。
【0019】
信号処理装置3は、前記入力側の信号処理装置2でダウンサンプリングされた48kHz、量子化ビット数32Bitの浮動小数点フォーマットの信号をアップサンプリングして、サンプリング周波数192kHz、量子化ビット数24Bitの信号に変換する。
【0020】
D/A変換装置(DAC)4は、信号処理装置3によってアップサンプリングされたデジタル信号を、LチャンネルとRチャンネルの2チャンネルのアナログ信号に変換して、出力する。
【0021】
このように、出力側の音声信号変換装置を使用することにより、入力側の変換装置で変換された高ビットのデジタル信号を、一般に使用されている192kHz、24Bit対応のD/A変換装置4を使用して、アナログ信号として出力することができる。
【実施例2】
【0022】
本発明の実施例2を図2に従って説明する。本実施例の音声信号変換装置も前記実施例1と同様に、次のような構成を有する入力側と出力側の2つの変換装置からなる。
【0023】
(a) 入力側の音声信号変換装置
図2において、符号1はA/D変換装置(ADC)で、入力されたLチャンネルとRチャンネルのアナログ音声信号を、サンプリング周波数192kHz、量子化ビット数24Bitで、サンプリングして、デジタル信号を生成する。このA/D変換装置1の構成並びに作用は、前記実施例1と同様である。
【0024】
前記A/D変換装置1の出力側には、信号処理装置(FPGA)2が接続されている。この信号処理装置2は、次の処理を行う。
(1) 周波数を64倍(12.288MHz)にアップサンプリングする。
(2) アップサンプリングされたデジタル信号を、1/256の周波数である48kHzにダウンサンプリングすると共に、その量子化ビット数32Bitの浮動小数点フォーマットに変換する。
【0025】
すなわち、A/D変換装置1において、サンプリング周波数192kHz、量子化ビット数24Bitで、サンプリングしされたデジタル信号を12.288MHzにアップサンプリングすることは、実質的には、アナログ信号を12.288MHzでサンプリングすることと同等とみなすことができる。その結果、信号処理装置2でアップサンプリングされた状態のデジタル信号は、サンプリング周波数12.288MHz、量子化ビット数24Bitである。なお、アップサンプリングを行っただけでは、量子化ビット数24Bitに変化はない。
【0026】
その後、サンプリング周波数12.288MHz、量子化ビット数32Bitのデジタル信号を1/256にダウンサンプリングして、そのサンプリング周波数を48kHzにすると、その量子化ビット数を8Bit分増加させることができる。PCM音源においては、周波数を2倍にするとその分解能も2倍になる性質を持つことから、12.288MHz、24Bitのデジタル信号は48kHz、32Bitに相当する分解能を持つことになる。そこで、この32Bitの分解能を持つデジタル信号を、信号処理装置2において量子化ビット数32Bitの浮動小数点フォーマットに変換し、出力する。これにより、前記実施例1と同様の作用効果を得られる。
【0027】
(b) 出力側の音声信号変換装置
図2に示すように、出力側の音声信号変換装置は、信号処理装置(FPGA:Field Programmable Gate Array)3と、その出力側に接続されたD/A変換装置(DAC)4とを有する。
信号処理装置3は、前記入力側の信号処理装置2でダウンサンプリングされた48kHz、量子化ビット数32Bitの浮動小数点フォーマットの信号をアップサンプリングして、サンプリング周波数12.288MHz、量子化ビット数24Bitのデジタル信号または1BitのDSD信号などに変換する。
D/A変換装置(DAC)4は、信号処理装置3によってアップサンプリングされたデジタル信号を、LチャンネルとRチャンネルの2チャンネルのアナログ信号に変換して、出力する。
【0028】
このように、出力側の音声信号変換装置を使用することにより、入力側の変換装置で変換された高ビットのデジタル信号を、一般に使用されている12.288MHz、24Bit対応のD/A変換装置4を使用して、アナログ信号として出力することができる。
【実施例3】
【0029】
本発明の実施例3を図3に従って説明する。本実施例の音声信号変換装置も前記実施例1と同様に、次のような構成を有する入力側と出力側の2つの変換装置からなる。
【0030】
(a) 入力側の音声信号変換装置
実施例3のA/D変換装置1は、アナログ音声信号を、サンプリング周波数49.152MHz(1024FS)、量子化ビット数24Bitでサンプリングする。この場合、デシメーション及び補間フィルタによる処理は行わず、高周波数(49.152MHz)のサンプリング周波数によりアナログ信号から直接デジタル信号を得る。
【0031】
アナログ信号のサンプリングの場合、サンプリング周波数をDVDオーディオなどで使用する192kHzに比較して、MHzレベルの高いものとすることは、Super Audio CDやDSDレコーダーなどにおいても実施されている。一方、192kHzより高いサンプリング周波数の下で量子化ビット数を32Bitとすることは、処理するデータ量が膨大なものになり、処理時間や必要とするメモリ量が極めて大きくなることから、実用的ではない。そこで、本実施例では、サンプリング周波数は高レベルとしながら、量子化ビット数は24BitというようにDVDオーディオの水準とし、デジタル化における負荷の増大を防止する。
【0032】
次に、本実施例の信号処理装置2は、前記A/D変換装置1から出力されたデジタル信号を1/256の周波数である48kHzにダウンサンプリングする。この場合も、前記A/D変換装置1と同様に、デシメーション及び補間フィルタによる処理は行わない。このようにすると、前記実施例2の場合と同様に、分解能を256倍(8Bit分)とすることができ、量子化ビット数が32Bitのデジタル信号を得ることができる。同時に、この32Bitの分解能を持つデジタル信号を、信号処理装置2において量子化ビット数32Bitの浮動小数点フォーマットに変換し、出力する。これにより、前記実施例1と同様の作用効果を得られる。
【0033】
(b) 出力側の音声信号変換装置
図1に示すように、出力側の音声信号変換装置は、信号処理装置(FPGA:Field Programmable Gate Array)3と、その出力側に接続されたD/A変換装置(DAC)4とを有する。
【0034】
信号処理装置3は、前記入力側の信号処理装置2でダウンサンプリングされた48kHz、量子化ビット数32Bitの浮動小数点フォーマットの信号をアップサンプリングして、サンプリング周波数192kHz、量子化ビット数24Bitの信号に変換する。
【0035】
D/A変換装置(DAC)4は、信号処理装置3によってアップサンプリングされたデジタル信号を、LチャンネルとRチャンネルの2チャンネルのアナログ信号に変換して、出力する。
【0036】
このように、出力側の音声信号変換装置を使用することにより、入力側の変換装置で変換された高ビットのデジタル信号を、一般に使用されている192kHz、24Bit対応のD/A変換装置4を使用して、アナログ信号として出力することができる。
【0037】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、サンプリング周波数、アップサンプリングやダウンサンプリングの度合いは適宜変更可能である。
また、入力側あるいは出力側の音声信号変換装置を単独で使用することも可能である。
【符号の説明】
【0038】
1…A/D変換装置
2…信号処理装置
3…信号処理装置
4…D/A変換装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ音声信号を、所定のサンプリング周波数と量子化ビット数でサンプリングするA/D変換装置と、
前記A/D変換装置から出力されたデジタル信号の周波数をダウンサンプリングすると共に、その量子化ビット数を32bitに変換し、32Bit浮動小数点フォーマットのデジタル信号として出力する信号処理装置と、を備えていることを特徴とする音声信号変換装置。
【請求項2】
アナログ音声信号を、所定のサンプリング周波数と量子化ビット数でサンプリングするA/D変換装置と、
前記A/D変換装置から出力されたデジタル信号の周波数を前記量子化ビット数を保ったままアップサンプリングし、このアップサンプリングされたデジタル信号を出力対象となる低レベルの周波数にダウンサンプリングすると共に、その量子化ビット数を32bitに変換し、32Bit浮動小数点フォーマットのデジタル信号として出力する信号処理装置と、を備えていることを特徴とする音声信号変換装置。
【請求項3】
アナログ音声信号を、所定のサンプリング周波数と量子化ビット数でサンプリングするA/D変換装置と、
前記A/D変換装置から出力されたデジタル信号を出力対象となる低レベルの周波数にダウンサンプリングすると共に、その量子化ビット数を32bitに変換し、32Bit浮動小数点フォーマットのデジタル信号として出力する信号処理装置と、を備えていることを特徴とする音声信号変換装置。
【請求項4】
入力された32Bit浮動小数点フォーマットのデジタル信号をアップサンプリングすると共に、その量子化ビット数を32Bit浮動小数点フォーマットから24Bit固定小数点フォーマットに変換して出力する信号処理装置と、
前記信号処理装置によりアップサンプリングされたデジタル信号を、2チャンネルのアナログ音声信号に変換するD/A変換装置と、を備えていることを特徴とする音声信号変換装置。
【請求項5】
前記請求項1〜3のいずれかに記載された音声信号変換装置によって変換したデジタル信号を、前記請求項4に記載の音声信号変換装置によって2チャンネルのアナログ音声信号に変換することを特徴とする音声信号変換装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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