説明

音声信号秘話化方法及び秘話通信方式

【課題】デジタル信号及びアナログ信号の入出力に対応し、特に低品質のアナログ記録媒体・伝送媒体でも十分にその機能を発揮できるよう高い圧縮レートの符号化手法を実現する
【解決手段】エンコード部のA/D変換部2により量子化された音声信号は、音声符号化処理部3、ビット列の縮小写像処理部4、および変調部5において秘話キー設定部1により入力された秘話キー毎のパラメータを用いて秘話化される。D/A 変換部6により出力される秘話化されたアナログ信号は、元の音声波形をとどめていない。また、デコードの際は秘話キー設定部7により入力された秘話キーに基づいて、A/D変換部8、復調部9、音声復号化部10、ビット列復元処理部11の順に復元される。また残留雑音が存在する場合、残留雑音推定および雑音抑制部12 により音声強調を行う。アナログ音声信号はD/A変換部13から出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声信号をアナログ信号及びデジタル信号で伝送・蓄積する際にスクランブルをかけて音声情報を秘話化する音声信号秘話化方法及び装置並びに秘話通信方式に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より通信情報の盗聴が問題となっており、これまでアナログ伝送方式の音声秘話化装置においては、入力アナログ信号にA/D変換を施し、次にデジタルフィルタバンクを用いて周波数領域上で帯域分割し、分割された帯域を入れ換える帯域分割置換法による秘話化が一般的に行われている。このような音声秘話化装置として、特許文献1に記載されたものがある。また、デジタル伝送方式では、ビット列の暗号化技術が用いられている。
【特許文献1】特開平6−232845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
帯域分割置換法は、伝送効率はよいものの、秘話音声の了解度に問題があるばかりでなく、音声の時間軸上でのパワースペクトラムなどの特性が保持されるため、抑揚等の情報から完全な情報の保護を行うことが困難であることが実験的に確かめられている。
【0004】
また、デジタル伝送方式における、ビット列の暗号化技術では、ビット列の暗号化手法に基づく電話音声の秘話化手法も提案されているが、十分な伝送帯域を確保するためには半二重通信路の確保が必須である。従って、低ビットレート記録媒体への秘話化音声を記録したり蓄積したりすることは困難であり、非対向伝送路における伝送も実現困難であった。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、デジタル信号及びアナログ信号の入出力に対応し、特に低品質のアナログ記録媒体・伝送媒体でも十分にその機能を発揮できるよう高い圧縮レートの符号化手法を実現できる音声信号秘話化方法及び秘話通信方式を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の音声信号秘話化方法の第1の特徴は、デジタル音声信号を差分PCM処理によって一次圧縮するステップと、前記一次圧縮された信号をその概周期性及び秘話キーに基づいて複数周期波形の単一符号化処理によって複数同期パターンの組み合わせからなる秘話信号に二次圧縮するステップとを含むことにある。
本発明の音声信号秘話化方法の第2の特徴は、前記第1の特徴に記載された音声信号秘話化方法において、前記秘話キーに基づいて前記秘話信号のビット列の部分列に対して縮小写像による聴覚特性を加味した圧縮処理を行なうステップを備えたことにある。
【0007】
本発明の音声信号秘話化方法の第3の特徴は、前記第2の特徴に記載された音声信号秘話化方法において、アナログ記録媒体およびアナログ非対向型伝送路での利用を想定して、前記秘話キーに基づいて同期信号を変調するステップを備えたことにある。
【0008】
本発明の音声信号秘話化方法の第4の特徴は、前記第2又は第3の特徴に記載された音声信号秘話化方法において、前記秘話信号を復号する時に残留雑音の推定処理及び雑音抑制処理を行なうステップを備えたことにある。
【0009】
本発明の秘話通信方式の第1の特徴は、アナログ音声信号を入力する音声信号入力手段と、秘話キーをユーザーが任意に設定できる秘話キー入力手段と、音声信号を秘話キーに基き前記請求項1に記載された音声信号秘話化方法によってデジタル信号処理を施して秘話データに変換する秘話化手段と、秘話データをデジタル信号もしくはアナログ音声信号に変換して出力する秘話信号出力手段とを備えたことにある。
【0010】
本発明の秘話通信方式の第2の特徴は、前記秘話通信方式の第1の特徴に記載された秘話通信方式によって秘話化されたデジタル信号又はアナログ信号を入力する秘話信号入力手段と、秘話キーを入力する秘話キー入力手段と、前記秘話信号を前記秘話キーに基きデジタル信号処理して音声データに変換する復号化手段と、復号化された音声をアナログ音声信号に変換して出力するアナログ音声出力手段とを備えたことにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、デジタル信号及びアナログ信号の入出力に対応し、特に低品質のアナログ記録媒体・伝送媒体でも十分にその機能を発揮できるよう高い圧縮レートの符号化手法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の音声信号秘話化方法及び装置の一実施の形態について、図面を用いて説明する。音声秘話化装置は、ユーザが任意に設定する暗証番号を基にマイクロホンにより入力された音声信号を秘話化するエンコード部と、入力された秘話音声信号を暗証番号に基づいて解読し、ヘッドセットにより元の音声信号を提示するデコード部とにより構成される。図1は、エンコード部の詳細構成を示す図であり、図2はデコード部の詳細構成を示す図である。図1のエンコード部と図2のデコード部を用いて秘話通信方式が構成される。
【0013】
エンコード部は、図1に示すように、入力された音声信号をA/D変換部2でデジタル信号に変換し、音声符号化部3に出力する。音声符号化部3は、適応差分PCMによる一次圧縮処理と音響信号が持つ概周期性と呼ばれる短時間波形で見ると同じような波形が繰り返し現れる性質に基く複数周期波形の単一符号化による二次圧縮処理をおこなう。
【0014】
図3は、音声信号秘話化方法のデータフローの一例を示す図である。図に示すように、ステップS31では、入力信号をフレーム毎にバッファリングし、過去のサンプル値と現在サンプル値の差分を出力値とする適応差分PCM処理による一次圧縮処理を行う。次にステップS32では、適応差分PCM処理後の信号について、有音/無音区間の判定処理行い、無音区間の場合にはステップS33に進み、有音区間の場合はステップS34に進む。
【0015】
ステップS33では、無音区間識別信号を生成する。ステップS34では、一次圧縮により得られたデジタル信号の有音区間について、概周期性が有るか無いか、その有無を判定し、概周期性がある場合はステップS35に進み、概周期性が無い場合はステップS37に進む。ステップS35では、人間の音声のピッチ周期に相当するビット長でフレーム内を探索する。ステップS36では、一次圧縮により得られたデジタル信号も音響信号の概周期性に基づき、ある一定のビットパターンが存在するため、連続するビットパターンが最も相関性の強い場合に前のビットパターンをコピーするようにフラグを立てる。すなわち、ピッチ周期に相当するビット列の複製処理を行なう。一方、ステップS37では、概周期性が無く相関性が見られないので、秘話キーに基づいて固定長ビットパターンをそのままコピーして使用する。このとき立てるフラグを利用者が入力した秘話キーに基づいて可変とすることで秘話化機能を持つ高圧縮レート符号化による二次圧縮を実現することができる。このようにして、音声符号化部3は秘話化された符号化音声を出力する。
【0016】
音声符号化部3によって音声符号化されたデータは、さらに秘話強度を高めるため、ビット列縮小写像処理部4に出力される。ビット列縮小写像処理部4は、利用者の秘話キー入力に対応した暗号化パターンに基づいてビット列の置換演算を行う。ビット列縮小写像処理部4における出力値Yは次式で示される。
Y=MX
(Y:出力,M:秘話キーに対応した行列,X:入力ビット列)
秘話キーが一致しない場合、音声の復元が不可能となるように行列を設定することで、音声の高度秘話化を実現する。なお、デコードされたビット列Xは逆行列を用いて
X=M-1
(M-1:秘話キーに対応した逆行列)
で表される。
【0017】
ビット列縮小写像処理部4は、このようにして秘話化されたデータをデジタル信号もしくはアナログ信号として出力する。アナログ信号として出力する場合は秘話化されたデータのビット列を変調部5で変調し、それをD/A変換部6でアナログ信号に変換して出力するが、この時の変調方式は、例えばQAM変調のような一般的に用いられている、比較的低ビットレートの変調方式の利用も可能である。変調部5が用いる復調方式の同期信号は、秘話キー設定部1の秘話キーに基づいて個々に設定を行なう。
【0018】
図4は、秘話化される前の音声信号(原信号)の一例及び秘話化後の音声信号(高圧縮レート符号化された信号)の一例を示す図である。この実施の形態によれば、図4(B)に示す秘話化された音声データの変調信号は、図4(A)に示す元の音声波形(原信号)の形をとどめておらず、利用者の情報を十分に保護する秘話化を実現している。
【0019】
デコード部は、図2に示すように、入力される秘話信号がアナログ信号である場合、アナログの秘話信号をA/D変換部8でデジタル信号に変換し、復調部9にて秘話化されたデータのビット列として取り出し、ビット列復元処理部10へ出力する。また、入力される秘話信号がデジタル信号の場合は、ビット列を直接ビット列復元処理部10へ出力する。
【0020】
ビット列復元処理部10は、ユーザーによって入力される秘話キーに対応した逆行列を用いてビット列の復元および置換演算を行う。ビット列復元処理部10によって復元されたビット列は、音声復号化部11に出力される。音声復号化部11は、音響信号の概周期性に基づき高圧縮レート符号化された信号の復号を行う。ここで二次圧縮におけるコピーされたビットパターンを検出するフラグを秘話キー設定部7によって設定された秘話キーより得る。秘話キーが一致した場合、フラグに基づいてビット列を復元し、正常に復号化が行われる。秘話キーが一致しない場合、正常にフラグが検出されずノイズ性の信号を出力する。この時、正常に復号化された信号波形の例を図5(A)に、キーが一致しなかった場合の信号波形の一例を図5(B)にそれぞれ示す。
【0021】
音声復号化部11で復号化されたデータは、残留雑音推定及び雑音抑制部12に渡され、復号化で発生した量子化ノイズや伝送路の外乱により背景雑音が大きい場合、まず量子化ノイズ低減のためにディザー処理を行う。こうすることで、音声帯域に存在する量子化ノイズを白色化することができる。次に白色ノイズを含む音響信号から号強調を行うため、スペクトルサブトラクション法によりノイズ低減を行う。こうすることで歪みの少ない音響信号を再現することができる。このように、デコードされた音声信号に秘話化による残留雑音が存在する場合には、残留雑音推定および抑制処理を行うことにより、明瞭な音声信号を出力することが可能である。雑音を取り除かれた信号は、D/A変換部13でアナログ信号に変換され、元の音声データ(出力音声信号)として出力され、発音処理される。
【0022】
以上のように、この実施の形態によれば、図5に示すように秘話化された音声データの変調信号は元の音声波形の形をとどめておらず、利用者の情報保護を実現することができる。また秘話キーを用いることで解読キーが多数存在し、解読耐性も備える。秘話化された信号はデジタルおよびアナログ出力に対応し、低品質のアナログ記録媒体・伝送媒体にて録音されたアナログ信号からも音声をデコードする。以上より、オンライン、オフラインでの音声通信、テレビ会議システム等での利用が可能である。
【0023】
なお、上述の実施の形態では、エンコード部の音声符号化部3及びビット列縮小写像処理部4を直列に接続する場合について説明したが、これらは、その直前の切り換え手段によって適宜切り換え可能な構成になっている。すなわち、音声符号化部3のみで音声信号秘話化の処理を行なってもよいし、ビット列縮小写像処理部4のみで音声信号秘話化の処理を行なってもよい。同じく、デコード部のビット列復元処理部10及び音声復号化部11についてもエンコード部の構成に応じて直前の切り換え手段によって適宜切り換え可能な構成とする。また、残留雑音推定及び雑音抑制部12についても、直前の切り換え手段によって適宜切り換え可能な構成となっている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の音声信号秘話化装置のエンコード部の詳細構成を示す図である。
【図2】本発明の音声信号秘話化装置のデコード部の詳細構成を示す図である。
【図3】音声信号秘話化方法のデータフローの一例を示す図である。
【図4】秘話化される前の音声の原信号及び秘話化(高圧縮レート符号化)された音声信号の一例を示す図である。
【図5】音声復号化された信号の秘話キーが一致する場合及び不一致の場合の音声波形の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1,7…秘話キー設定部
2…A/D変換部
3…音声符号化部
4…ビット列縮小写像処理部
5…変調部
6…D/A変換部
8…A/D変換部
9…復調部
10…ビット列復元処理部
11…音声復号化部
12…残留雑音推定及び雑音抑制部
13…D/A変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル音声信号を差分PCM処理によって一次圧縮するステップと、
前記一次圧縮された信号をその概周期性及び秘話キーに基づいて複数周期波形の単一符号化処理によって複数同期パターンの組み合わせからなる秘話信号に二次圧縮するステップと
を含むことを特徴とする音声信号秘話化方法。
【請求項2】
請求項1に記載された音声信号秘話化方法において、前記秘話キーに基づいて前記秘話信号のビット列の部分列に対して縮小写像による聴覚特性を加味した圧縮処理を行なうステップを備えたことを特徴とする音声信号秘話化方法。
【請求項3】
請求項2に記載された音声信号秘話化方法において、アナログ記録媒体およびアナログ非対向型伝送路での利用を想定して、前記秘話キーに基づいて同期信号を変調するステップを備えたことを特徴とする音声信号秘話化方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載された音声信号秘話化方法において、前記秘話信号を復号する時に残留雑音の推定処理及び雑音抑制処理を行なうステップを備えたことを特徴とする音声信号秘話化方法。
【請求項5】
アナログ音声信号を入力する音声信号入力手段と、
秘話キーをユーザーが任意に設定できる秘話キー入力手段と、
音声信号を秘話キーに基き前記請求項1に記載された音声信号秘話化方法によってデジタル信号処理を施して秘話データに変換する秘話化手段と、
秘話データをデジタル信号もしくはアナログ音声信号に変換して出力する秘話信号出力手段と
を備えたことを特徴とする秘話通信方式。
【請求項6】
請求項2に記載された秘話通信方式によって秘話化されたデジタル信号又はアナログ信号を入力する秘話信号入力手段と、
秘話キーを入力する秘話キー入力手段と、
前記秘話信号を前記秘話キーに基きデジタル信号処理して音声データに変換する復号化手段と、
復号化された音声をアナログ音声信号に変換して出力するアナログ音声出力手段と
を備えたことを特徴とする秘話通信方式。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate