説明

音声障害検出装置および音声自動切替装置

【課題】簡単且つ早期に音声障害を判定し、正常な系統に早期に切り替えることのできる音声障害検出装置および音声自動切替装置を提供する。
【解決手段】2重化映像信号を用いて2系統間の伝送遅延差を検出する遅延差検出部1と、該遅延差検出部1で検出された遅延差が補償されるように、前記2系統の音声復号信号を遅延調整する音声遅延調整部2,3と、前記2系統の音声遅延調整部2,3からの出力により、各系統の音声が無音であるか否かを検出する音声障害検出部6とを具備し、前記音声障害検出部6は、両系統の一方の音声信号のみが無音である場合に、音声信号に障害が発生したと判定する両系統の一方の音声信号のみが無音である場合に、音声信号に障害が発生したと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冗長2重化伝送路の音声障害検出装置および音声自動切替装置に関し、特に映像伝送サービスで使用している映像音声コーデック等の故障あるいは一時的な動作不良等により、音声信号が断となる障害が発生した場合に、該障害を検出することができる音声障害検出装置および健全な系へ自動的に切り替えることのできる音声自動切替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テレビ信号の高信頼性伝送を目的とした2重化伝送では、同一の映像/音声信号を2系統の回線に分けて伝送し、受信側ではいずれか一方の回線を選択して受信する。このような2重化伝送において、受信中の回線で障害が発生した場合に正常回線への切替を自動化し、出力信号の障害時間をできるだけ短くする技術が研究開発されている。
【0003】
前記した技術を開示した公知文献として、例えば下記の特許文献1、2がある。該特許文献1には、次のような技術が開示されている。現用系、予備系それぞれで伝送された音声信号の小領域ごとの特徴量を抽出し、各系統における障害領域の特徴量と正常領域の特徴量との差分を演算する。そして、この演算により得られた差分が大きい方の系統に障害が発生していると判定し、障害が発生していないと判定された系統を音声切替スイッチで選択して、正常な音声信号を受信できるようにする。また、前記特許文献2には、複数の伝送装置の縦列接続からなる伝送路において、該伝送路上の複数地点で音声信号の特徴量を抽出し、該特徴量の情報量を抑制して劣化尺度計算装置に送り、音声信号の劣化尺度を計算する旨の開示がある。
【0004】
前記特許文献1の従来技術によれば、各系統それぞれの音声信号の小領域ごとの特徴量の差分に基づいて障害が発生した系統を判定するので、特徴量そのものの値を比較する方法に比べて伝送エラーの多少によらず安定した判定をして、正常回線に切り替えることが可能になる。また、前記特許文献2の従来技術によれば、特徴量の情報量を低く抑えることが可能になり、特徴量伝送用の監視回線の帯域を抑制して、監視にかかるコストを低減させることができるようになる。
【特許文献1】特開2005−136803号公報
【特許文献2】特開2006−157789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した従来技術は、音声信号の特徴量を演算するものであり、映像音声コーデック等の故障あるいは一時的な動作不良等により発生した音声信号が断となる障害を、簡易に判定する点に格別の配慮がなされていなかった。
【0006】
本発明は、前記した事情に鑑みなされたものであり、その目的は、簡単且つ早期に音声障害を判定し、正常な系統に早期に切り替えることのできる音声障害検出装置および音声自動切替装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するために、本発明は、2系統の回線により伝送される2重化映像音声信号の音声障害検出装置において、前記2重化映像信号を用いて前記2系統間の伝送遅延差を検出する遅延差検出部と、前記遅延差検出部で検出された遅延差が補償されるように、前記2系統の音声復号信号を遅延調整する音声遅延調整部と、前記2系統の音声遅延調整部からの出力により、各系統の音声が無音であるか否かを検出する音声障害検出部とを具備し、前記音声障害検出部は、両系統の一方の音声信号のみが無音である場合に、音声信号に障害が発生したと判定するようにした点に特徴がある。
【0008】
また、前記音声障害検出部は、短時間タイマと長時間タイマとを有し、音声の遅延調整が完了している場合には前記短時間タイマの完了後に両系統が無音であるかどうかを比較し、一方前記音声の遅延調整が完了していない場合には前記長時間タイマの完了後に両系統が無音であるかどうかを比較するようにした点に他の特徴がある。
【0009】
また、前記音声障害検出装置により音声信号に障害が発生したと判定された場合に、障害が発生したと判定された回線から他方の回線に切り替える切替スイッチを具備した音声自動切替装置を提供する点に他の特徴がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、音声信号の障害を早期に且つ高性能で検出することができるという効果がある。
【0011】
また、音声障害検出部に短時間タイマを設けて現用系が無音であるか否かの判定をするようにしたので、映像と音声のタイミングが不一致(リップシンクずれ)の場合にも、無音の音声障害と誤判定することがなくなる。また、音声障害検出部に長時間タイマを設けて現用系が無音であるか否かの判定をするようにしたので、両系統の遅延差に依存せずに音声障害の誤判定を回避することができるようになる。
【0012】
さらに、前記音声障害検出に従って障害系から正常系へ切り替えることにより、音声信号に障害が発生しても速やかに正常な音声信号に切り替えることができるようになり、信頼性の高い音声自動切替装置を提供できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。まず、本発明の前提である冗長2重化伝送系の概要について、図3を参照して説明する。
【0014】
図示されているように、送信側は、A系統の映像符号化部A1および音声符号化部A2と、B系統の映像符号化部B1および音声符号化部B2を有し、一方受信側は、A系統の映像復号部A3および音声復号部A4と、B系統の映像復号部B3および音声復号部B4を有し、A系統の送信側と受信側はA伝送路で接続され、一方B系統の送信側と受信側はB伝送路で接続されている。いま、A系統が現用系、B系統が予備系であるとすると、連動切替スイッチSWにより、A系統の映像復号部A3および音声復号部A4とが選択される。
【0015】
前記した構成の冗長2重化伝送系の動作について、以下に簡単に説明する。音声/映像入力信号10が送信側の入力端子に入力すると、該音声/映像入力信号10は2分岐され、一方はA系統の映像符号化部A1および音声符号化部A2に入力し、他方はB系統の映像符号化部B1および音声符号化部B2に入る。A系統、B系統に入力した音声/映像入力信号10は、それぞれの符号化器で音声および映像が符号化され、それぞれA、B伝送路を経て、それぞれの受信側に送られる。受信側では、A伝送路を経てきた音声/映像信号はA系統の映像復号部A3および音声復号部A4に入力し復号される。また、B伝送路を経てきた音声/映像信号はB系統の映像復号部B3および音声復号部B4に入力し復号される。復号された映像および音声信号は、切替スイッチSWにより選択されて図示されていない装置へ出力される。
【0016】
いま、現用系に何らかの障害が発生し、音声または映像に障害が発生したとすると、図示されていない障害検出器により該障害が検出され、切替スイッチSWの切替信号11が生成される。そうすると、該切替スイッチSWはこの切替信号11により予備系(B系統)に瞬時に切り替えられ、切替スイッチSWを通って正常な音声および映像が図示されていない装置に送られる。この結果、該装置は何らの支障なく正常な音声および映像を受信できるようになる。
【0017】
次に、本発明の一実施形態の音声障害検出装置および音声自動切替装置について、図1を参照して詳細に説明する。なお、図1は受信側の構成を示すものであり、図1の図3と同じ符号は、同一または同等物を示す。
【0018】
本発明の原理は、現用系の受信側の復号出力が無音になった場合に、現用系の音声コーデックや伝送路等に故障が発生したとして予備系に切り替えるものであるが、静止画が入力している場合には、遅延調整が完了していない可能性があり、遅延調整が未了であるのと同時に長時間タイマを用いた障害判定を行うようにした。図1の実施形態は、このような要請に応えるものであり、以下に構成および動作を説明する。
【0019】
A系統の映像復号部A3およびB系統の映像復号部B3は、遅延差検出部1に入力する。一方、A系統の音声復号部A4およびB系統の音声復号部B4は、それぞれ遅延調整メモリ2,3に入力する。
【0020】
前記遅延差検出部1は、A,B系統のコーデックの動作速度の違いや、A,B伝送路の距離や伝送媒体の違い等により生ずる、両伝送路間の伝送遅延差を検出するものであり、公知のもの、例えば特開2003−234726号公報に開示されている技術を用いることができる。この技術は、映像信号に含まれているタイムコードを基に遅延差を計算するものである。該遅延差検出部1は、遅延差の検出が完了したか否かを示す遅延調整完了信号aを出力すると共に、遅延差の検出が完了すると、遅延調整データbを前記遅延調整メモリ2、3に送出する。該遅延調整メモリ2、3は、前記遅延調整データbを受信すると該遅延調整データbに基づいてA、B系統の音声信号の遅延差を調整し、該遅延差が無くなるようにする。
【0021】
前記遅延差を調整されたA,B系統の音声信号は、それぞれA系統の音声レベル検出部4とB系統の音声レベル検出部5に入力する。該音声レベル検出部4、5は、音声信号の変化量により、音声レベルを検出する。そして、該音声信号の変化量が少ない場合、音声レベルが小さい、つまり無音であると判定する。周知のように、音声は、正極性と負極性を交互に繰り返す交流成分であり、正常な音声は正極性の成分と負極性の成分の差が大きくなる。一方、無音の場合は、符号化雑音があるため音声は完全に平らにはならず、正極性の成分と負極性の成分との間に小さな差を生ずる。そこで、本実施形態では、音声信号を一定の小領域に分割し(例えば、33m秒の小領域)、該小領域ごとに多点サンプリングして、その変化量が少ない場合に無音であると判定する。
【0022】
前記音声レベル検出部4,5の検出信号は、音声障害検出部6に入力する。該音声障害検出部6は、現用系の音声信号に障害が発生した場合に、切替スイッチSWに切替信号11を速やかに出力するものである。また、該音声障害検出部6は、図示されない、短時間タイマと長時間タイマとを含んでいる。
【0023】
次に、該音声障害検出部6の機能を、図2のフローチャートを参照して説明する。ステップS1では、現用系、例えば、A系統の音声レベル検出部4からの出力が無音を示すか否かの判断を行う。この判断が否定の場合には、現用系は正常と判断し、ステップS1の検出を続行する。一方、この判断が肯定になるとステップS2に進んで、前記遅延調整が完了しているか否かの判断をする。この判断は、前記遅延調整完了信号aにより判定することができる。ステップS2の判断が肯定(遅延調整完了)になるとステップS3に進み、短時間タイマをスタートさせる。一方、否定(遅延調整未完了)の場合にはステップS4に進んで長時間タイマをスタートさせる。前記短時間タイマは、例えば100m秒程度、前記長時間タイマは、例えば、1000m秒程度とすることができる。
【0024】
ステップS5,S6では、各々のタイマが完了したか否かの判断がなされ、該タイマが完了した場合にはステップS7に進んで、予備系統、例えばB系統は無音であるか否かの判断をする。B系統が無音であるか否かは、音声レベル検出部5の出力信号により判断することができる。そして、ステップS7の判断が否定の場合には、現用系のみが無音であるので障害と判定し、ステップS9に進んで切替指示を行う。一方、ステップS7の判断が肯定の時には、両系統とも無音であるので、静止画であるとして正常の判断をする。なお、図1の音声遅延部7,8は、A、B両系統の音声信号の遅延調整をするものであり、従来から存在するものであるので説明を省略する。この遅延調整は、一例としては、前記遅延差検出部1から出力される遅延調整データbを用いて行うことができる。
【0025】
前記ステップS3、S5およびS7で短時間タイマをスタートさせ、該タイマの完了後に予備系統が無音であるか否かの判断をする理由は、いわゆる「リップシンクずれ」を配慮したためである。すなわち、コーデック等の映像伝送装置では、通常、映像と音声の出力タイミングが一致するように制御されているが、希に、この制御が完全でない場合などに、映像と音声のタイミングが不一致(リップシンクずれ;数フレーム程度のずれ)になる状態になることがある。リップシンクが発生している状態では、現用および予備の両系が同時無音であるかどうかを判定できない可能性があるため、前記短時間タイマ、いわゆる音声障害様子見タイマを設けて、暫時両系が無音であるかどうかを監視し、様子見タイマを超えてもなお片系のみが無音である場合に、障害と判定するようにした。
【0026】
また、ステップS4,S6およびS7で長時間タイマをスタートさせ、該タイマの完了後に予備系統が無音であるか否かの判断をする理由は、長時間タイマには想定される最大遅延時間が設定されているので、該長時間タイマが完了した時点では、現用系統で無音を検出した時間またはそれ以降の時間の音声信号が予備系統に届いていることになるからである。
【0027】
以上のように、本実施形態では、前記音声障害検出部6で音声断などの音声障害を早期にかつ高性能で検出することができるようになる。
【0028】
なお、前記実施形態で説明された遅延差検出部1および音声レベル検出部4、5などの各検出の方法は一つの例に過ぎず、当業者であれば他の公知の検出方法を用いることができることは明らかであり、これらの検出方法も本発明に含まれることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の音声障害検出部の概略の動作を示すフローチャートである。
【図3】冗長2重化伝送系の概要を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0030】
1・・・遅延差検出部、2,3・・・遅延調整メモリ、4,5・・・音声レベル検出部、6・・・音声障害検出部、10・・・音声/映像入力信号、11・・・切替信号、SW・・・切替スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2系統の回線により伝送される2重化映像音声信号の音声障害検出装置において、
前記2重化映像信号を用いて前記2系統間の伝送遅延差を検出する遅延差検出部と、
前記遅延差検出部で検出された遅延差が補償されるように、前記2系統の音声復号信号を遅延調整する音声遅延調整部と、
前記2系統の音声遅延調整部からの出力により、各系統の音声が無音であるか否かを検出する音声障害検出部とを具備し、
前記音声障害検出部は、両系統の一方の音声信号のみが無音である場合に、音声信号に障害が発生したと判定することを特徴とする音声障害検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音声障害検出装置において、
前記音声障害検出部は、短時間タイマと長時間タイマとを有し、音声の遅延調整が完了している場合には前記短時間タイマの完了後に両系統が無音であるかどうかを比較し、一方前記音声の遅延調整が完了していない場合には前記長時間タイマの完了後に両系統が無音であるかどうかを比較することを特徴とする音声障害検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の音声障害検出装置によって音声信号に障害が発生したと判定された場合に、障害が発生したと判定された回線から他方の回線に切り替える切替スイッチを具備したことを特徴とする音声自動切替装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−56625(P2010−56625A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216604(P2008−216604)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】