説明

音楽装置およびその制御方法を実現するためのプログラム

【課題】入力した音響信号を予め設定された時間長毎に重ねて容易にループ再生することが可能となる音楽装置と制御方法を実現するためのプログラムを提供する。
【解決手段】第1のループ再生開始処理により、再生中の各クリップは、クリップメモリ105bから加算器100bでミキシングされ、加算器100cを通って音響出力部107に供給される。ストアメモリ105cに4つのクリップが格納された状態で、クリップSWのいずれかが押下されると、第2のループ再生開始処理が加わって、両処理が実行される。第2のループ再生開始処理によってループ再生が開始されたクリップは、加算器100cによって加算器100bからの出力と加算されて、音響出力部107に供給される。加算器100bには、第2のループ再生開始処理によってループ再生が開始されたクリップの個数だけ減らされたクリップがクリップメモリ105bから供給され、クリップが出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力した音響信号をループ再生する音楽装置およびその制御方法を実現するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
入力した音響信号をループ再生する音楽装置は、従来から知られている。
【0003】
このような装置として、記録媒体に記録された楽曲信号を再生し、再生した楽曲信号をメモリに蓄積し、メモリに蓄積される楽曲信号の無音区間を検出し、無音区間を検出したとき、当該無音区間より前の一定区間の楽曲信号を自動ループ区間としてループ再生するようにした再生装置がある(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−76151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の再生装置では、入力される楽曲信号に対して途切れのないループ再生を行うことはできるが、そのループ区間を常に無音区間を基準にして決定しているために、ループ区間の選択の幅(自由度)が限定的であり、かつ、複数の楽曲信号を重ねてループ再生することは困難である。また、決定されるループ区間も無音区間より前の一定区間であり、さらに、無音区間が検出されると自動的に、当該一定区間におけるループ再生が開始されるので、無音区間より前の適当な区間をループ再生することは困難である。
【0006】
本発明は、この点に着目してなされたものであり、入力した音響信号を予め設定された時間長毎に重ねて容易にループ再生することが可能となる音楽装置およびその制御方法を実現するためのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の音楽装置は、周囲の音声を集音し、音響信号として入力する入力手段と、前記入力手段によって入力された音響信号を予め設定された時間長分、順次クリッピングしておく複数のクリップメモリと、前記複数のクリップメモリにそれぞれ格納された音響信号を規定された回数、ループ再生するとともに、規定回数ループ再生された音響信号がクリッピングされているクリップメモリをクリアするように制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の音楽装置は、請求項1の音楽装置において、ユーザ指示に応じて、前記複数のクリップメモリにクリッピングされている音響信号をストアするストアメモリと、前記ストアメモリにストアされた音響信号をループ再生する再生手段とを有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の音楽装置は、請求項2の音楽装置において、前記ストアメモリは、複数のストア領域を備え、前記再生手段は、ユーザ操作に応じて、前記複数のストア領域にストアされた複数の音響信号のいずれかを選択し、選択した音響信号をループ再生することを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するため、請求項4に記載のプログラムは、請求項1と同様の技術的思想によって実現できる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1または4に記載の発明によれば、周囲の音声が集音されて、音響信号として入力され、該入力された音響信号が予め設定された時間長分、順次クリッピングされて複数のクリップメモリに格納され、該格納された各音響信号が規定された回数、ループ再生されるとともに、規定回数ループ再生された音響信号がクリッピングされているクリップメモリがクリアされるので、入力した音響信号を予め設定された時間長毎に重ねて容易にループ再生することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る音楽装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の表示・操作I/Fの具体的な構成例を示す図である。
【図3】図1の音楽装置の機能構成を示すブロック図である。
【図4】図1の音楽装置が実行する制御処理を説明するための図である。
【図5】図1の音楽装置、特にCPUが実行するメインルーチンの手順を示すフローチャートである。
【図6】図1の音楽装置、特にCPUが実行する割込み処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係る音楽装置100の概略構成を示すブロック図である。
【0015】
同図に示すように、音楽装置100は、周囲の音響を集音し、集音して得られたアナログ音響信号をデジタル音響信号(以下、「音響データ」という)に変換して入力する音響入力部101と、各種情報を表示および入力するための表示・操作インターフェース(I/F)102と、装置全体の制御を司るCPU103と、該CPU103が実行する制御プログラムや、各種テーブルデータ等を記憶するROM104と、各種入力情報および演算結果等を一時的に記憶するRAM105と、通信ネットワーク200を介して、サーバコンピュータ(以下、「サーバ」と略していう)300、他の音楽装置400やPC(パーソナルコンピュータ)500などとデータの送受信を行う通信インターフェース(I/F)106と、音響データをアナログ音響信号に変換し、さらに音響に変換して外部に出力する音響出力部107とにより構成されている。
【0016】
上記構成要素101〜107は、バス108を介して相互に接続され、通信I/F106には通信ネットワーク200が接続されている。
【0017】
音響入力部101は、集音マイクやアンプ、ADC(analog-to-digital converter)等によって構成されている。音響入力部101から入力された音響データは、バス108を通ってRAM105に供給され、RAM105内に設けられたバッファメモリ(図3参照)に一時的に格納される。ここで、音響入力部101から音響データとして入力する音響は、音であればどのような種類のものでも構わないが、たとえば、楽器の演奏音、身近にあるものを叩いたり擦ったりしたときに発生する音、歌声、動物の鳴き声などを挙げることができる。
【0018】
表示・操作I/F102は、表示器としてLCD(liquid crystal display)およびLED(light emitting diode)を、入力操作子として複数のスイッチ(SW)を備えている。図2は、表示・操作I/F102の具体的な構成例を示す図である。同図に示すように、表示・操作I/F102は、1分間当たりの拍数(BPM)で定義したテンポの値を表示する小型LCD102aと、現在設定されているテンポを点滅間隔の長短で表示するLED102bと、ストアメモリ(図3参照)内に設けられた4つの領域(領域1〜4)にそれぞれ記憶(ストア)された各ストアクリップが再生中であるかどうかを点灯(再生中)/消灯(停止中)で表示するLED102c1〜102c4と、「テンポを速く/遅く」を指示するためのテンポアップ/ダウン(BPM)SW102d1,102d2と、クリップメモリ(図3参照)に記憶されているクリップをストアメモリに書き込む(ストアする)ストア(STORE)SW102eと、上記各ストアクリップの再生/停止をトグルで指示可能なクリップ(CLIP)1〜4SW102f1〜102f4とを備えている。
【0019】
図1に戻り、CPU103は内蔵タイマを備えている。内蔵タイマは、本実施の形態では、割込み処理(図6参照)の起動間隔である割込み間隔の計時に用いられるが、もちろん、前記LED102bの点滅間隔などのその他の時間の計時にも用いられる。
【0020】
RAM105には、少なくとも、バッファメモリ105a、クリップメモリ105bおよびストアメモリ105cが設けられている。バッファメモリ105aは、音響入力部101が出力した音響データを、たとえば4拍分格納可能な容量を備えている。ただし、1拍の時間長はテンポによって変動するので、バッファメモリ105aには、当該時間長を最長に指定した場合でも、その4拍分の音響データを格納できる十分な容量が予め採られている。クリップメモリ105bは、バッファメモリ105aに格納された4拍分の音響データ(以下、「クリップ」という)を5つ格納可能なメモリ領域(以下、「クリップメモリA〜E」という)を備えている。ストアメモリ105cは、前述のように4つの領域(領域1〜4)を備え、クリップメモリ105bに格納された5つのクリップのうちの4つを記憶する。本実施の形態では説明の便宜上、4拍が1小節に相当するものとするが、この拍数は任意に選択し得るものである。上記クリップは、1小節分の音響データのことである。
【0021】
なおRAM105としては、通常通り揮発性のものを採用すればよいが、これに限らず、不揮発性のもの、たとえばフラッシュメモリを採用してもよい。フラッシュメモリを採用した場合には、ROM104に記憶するプログラムやデータもフラッシュメモリに格納するようにして、各内容を書き換え可能にしてもよい。
【0022】
音響出力部107は、DAC(digital-to-analog converter)、アンプおよびスピーカ等によって構成されている。音響出力部107は、本実施の形態では、クリップメモリ105b(ストアメモリ105cが加わることがある)に格納されているクリップが重ねて(ループ)再生されて生成された音響データをアナログ音響信号に変換し、さらに音響に変換して外部に出力する。
【0023】
本発明は、音楽装置100のみによって実現できるので、音楽装置100と協働して用いられるもの、つまり図1の構成例では、通信I/F106、通信ネットワーク200、サーバ300、他の音楽装置400やPC500などは、省略することができる。このため、各ブロック106,200,300,400および500は、破線で表現されている。省略可能なものについては、これ以上説明しない。
【0024】
なお音楽装置100は、本実施の形態では単体の装置として構成したが、これに限らず、複数の装置を組み合わせて構成してもよい。たとえば、音響入力部101および音響出力部107からなる入出力デバイスと、CPU103、ROM104、RAM105および通信I/F106からなるクレードルとによって構成し、両者を無線または有線などの任意の接続方法で接続するという実施形態が考えられる。
【0025】
以上のように構成された音楽装置100が実行する制御処理を、まず図3を参照してその概要を説明し、次に図4〜図6を参照して詳細に説明する。
【0026】
図3は、音楽装置100の機能構成を示すブロック図であり、同図において、制御部100aは、CPU103、ROM104およびRAM105によって構成されている。制御部100aは、主として、
クリップメモリ書込み処理:バッファメモリ105aにクリップが格納される度に、格納されたクリップを読み出して、クリップメモリA〜Eのうちのいずれか1つに順次書き込んで行く処理;
第1のループ再生開始処理:クリップメモリ書込み処理によってクリップメモリA〜Eに書き込まれたクリップのループ再生を開始する処理;
ストアメモリ書込み処理:前記ストアSW102eが押下されたことに応じて、クリップメモリA〜Eに記憶された5つのクリップのうちの4つ(制御処理の詳細で後述するように、4つ未満の場合もある)を読み出して、ストアメモリ105cに書き込む処理;
第2のループ再生開始処理:ストアメモリ書込み処理によってストアメモリ105cに記憶された4つのストアクリップのうち、前記クリップ1〜4SW102f1〜102f4の押下に応じて指定されたストアクリップのループ再生を開始する処理;
第2のループ再生停止処理:第2のループ再生開始処理によってループ再生が開始したストアクリップのループ再生を、クリップ1〜4SW102f1〜102f4のうちの対応するSWの再押下に応じて停止する処理;
を実行する。
【0027】
第1のループ再生開始処理によってループ再生が開始されたクリップを含む再生中の各クリップは、加算器100bによって加算(ミキシング)され、加算器100cを通って音響出力部107に供給される。なおクリップメモリA〜Eには、合計5つのクリップが格納されるので、5つのクリップが同時に再生されてミキシングされるが、5つのクリップのうち、1つはフェードイン再生され、1つはフェードアウト再生されるので、同時に再生されるクリップの個数は、実質的には4つである。
【0028】
ストアメモリ書込み処理によって、ストアメモリ105cに上記5つのクリップのうち4つのクリップがストアクリップとして格納され、この状態で、クリップ1〜4SW102f1〜102f4のいずれかが押下されると、第1のループ再生開始処理に第2のループ再生開始処理が加わって、両処理が実行される。第2のループ再生開始処理によってループ再生が開始されたストアクリップは、加算器100cによって加算器100bからの出力と加算されて、音響出力部107に供給される。このとき加算器100bには、第2のループ再生開始処理によってループ再生が開始されたストアクリップの個数だけ減らされたクリップがクリップメモリ105bから供給されるよう制御され、加算器100cからは、再生された5つ(実質的には、上述のように4つ)のクリップが出力される。
【0029】
このように本実施の形態では、ユーザは、音響入力部101の周辺で音響を発生させるだけで、自動的にその音響に応じた音響データが入力され、予め設定された時間長毎にクリッピングされて、クリップとして複数保持するとともに、各クリップを重ねてループ再生するようにしたので、入力した音響信号を予め設定された時間長毎に重ねて容易にループ再生することができる。
【0030】
次に、この制御処理を詳細に説明する。
【0031】
図5は、音楽装置100、特にCPU103が実行するメインルーチンの手順を示すフローチャートであり、本メインルーチンは、音楽装置100への電源がオンされたときに起動する。
【0032】
本メインルーチンが起動すると、起動時処理(ステップS1,S2)が1回実行された後、SWイベントの検知処理(ステップS3,S4)により、いずれかのSWが押下されるまで待機状態となる。そして、SWイベントが検知されると、そのSWイベントの発生原因である押下SWに応じた処理(ステップS5〜S11)が実行された後、再度SWイベントの検知処理に戻って、新たなSWイベントの待機状態となる。その後、これらの処理が、電源がオフされるまで適宜繰り返し実行される。
【0033】
起動時処理では、まずCPU103は、初期化処理(ステップS1)を実行する。この初期化処理では、CPU103は、前記RAM105をクリアした後、RAM105の所定位置に確保したBPM記憶領域(図示せず)にBPMの初期値(たとえば“120”)を記憶させるとともに、このBPM記憶領域に記憶されたBPM値に基づいて、割込み処理(後述)の割込み間隔を算出し、RAM105の所定位置に確保した割込み間隔記憶領域(図示せず)に、算出した割込み間隔を記憶させる。
【0034】
今、BPM記憶領域には“120”が記憶されているので、割込み間隔=1小節分の時間=4拍×1拍当たりの時間(秒)=4×(60÷120)=2(秒)と算出され、“2”が割込み間隔記憶領域に記憶される。なお、割込み間隔は算出せずに、BPMの各値に割込み間隔を対応付けたテーブルを設け、このテーブルからBPM記憶領域に記憶されたBPM値に対応する割込み間隔を読み出して、割込み間隔記憶領域に記憶するようにしてもよい。
【0035】
次にCPU103は、クリップ&出力処理を開始させる(ステップS2)。このクリップ&出力処理では、CPU103は、タイマ割込みを許可して、前記内蔵タイマによる割込み間隔の計時を開始させる。内蔵タイマは、自己の計時時間と割込み間隔記憶領域に記憶された割込み間隔とを比較し、一致すると、割込み信号を出力するとともに計時時間をリセットする。CPU103は、割込み信号が出力される度に割込み処理を起動する。
【0036】
図6は、この割込み処理の手順を示すフローチャートであり、本割込み処理は、上述のように計時時間と割込み間隔とに基づいて、1小節分の時間毎に起動されて実行される。本割込み処理では、CPU103は、前記クリップメモリ書込み処理(ステップS21,S22)および前記第1のループ再生開始処理(ステップS22,S23)を実行する。
【0037】
本割込み処理が終了すると、CPU103は、本割込み処理が起動される直前に実行していたメインルーチンの処理に戻る。
【0038】
図5に戻り、前記SWイベントの検知処理によってSWイベントが検知されると、CPU103は、検知されたSWイベントに従った処理に、次のように分岐する。すなわち、
ストアSW102eの押下イベント:前記ストアメモリ書込み処理(ステップS5)
クリップ1〜4SW102f1〜102f4の押下イベント:前記第2のループ再生開始処理(ステップS7,S8)または前記第2のループ再生停止処理(ステップS9,S10)のいずれか一方
テンポアップ/ダウン(BPM)SW102d1,102d2の押下イベント:BPM値更新処理(ステップS11)
というように分岐する。
【0039】
上記BPM値更新処理では、CPU103は、テンポアップ/ダウン(BPM)SW102d1,102d2によって変更指示されたBPM値で前記BPM記憶領域の記憶値を更新するとともに、前述のようにして、このBPM値に基づいて割込み間隔を算出し、算出した割込み間隔で前記割込み間隔記憶領域の記憶値を更新する。BMP値更新処理が実行されて、BPM値が変更されると、CPU103は、割込み処理でなされる処理、つまりクリップメモリ書込み処理および第1のループ再生開始処理を一旦停止して、バッファメモリ105aおよびクリップメモリ105bをクリアした後、変更後の割込み間隔に従って、割込み処理を再スタートする。なお、このような処理を採るのは、専ら制御処理の簡単化のためであり、このような処理を採らずに、BPM値が変更されても、割込み処理でなされる処理をそのまま継続して行うこともできる。ただしこの場合には、図5および図6のフローチャートに追加して、再生対象のクリップ(あるいはストアクリップ)に対して、タイムストレッチやリサンプリングなどの処理を施し、そのピッチが変動しないようにした上で、変更後のBPM値に対応する再生時間(BPM値変更後の1小節分の時間)にて再生されるように制御することが望ましい。
【0040】
以下、クリップメモリ書込み処理、第1のループ再生開始処理、ストアメモリ書込み処理、第2のループ再生開始処理および第2のループ再生停止処理を、図4の具体例に基づいて説明する。
【0041】
図4は、音楽装置100が実行する制御処理を説明するための図であり、同図(a)は、第2のループ再生開始処理が実行されていない場合の制御処理を説明するためのものであり、同図(b)は、第2のループ再生開始処理が実行された場合の制御処理を説明するためのものである。
【0042】
図4(a)において、CL1〜CL10の入力音声のブロック列は、バッファメモリ105aに格納される各1小節(=4拍)分の音響データ、つまりクリップを示している。図示例では、クリップCL1より古いものがあるように描かれているが、ここでは、クリップCL1が(メインルーチンの起動後)最初に取得されたクリップとする。
【0043】
タイマ割込みが最初に許可されてから、4拍の時間長(=2秒)が経過すると、割込み処理が起動される。割込み処理では、まずCPU103は、処理をクリップメモリ書込み処理に進め、バッファメモリ105aから直前1小節分のクリップを取得する(ステップS21)。これにより、クリップCL1が取得される。そしてCPU103は、最も古いクリップメモリ105bの内容を、取得したクリップCL1で上書きする(ステップS22の前段)。このとき、クリップメモリ105bはクリア状態であるので、取得されたクリップCL1は、書き込み順位が最初のクリップメモリAに書き込まれる。なお、取得したクリップをクリップメモリ105bに書き込むとき、そのクリップに付随させて現在のBPM値も書き込まれる。
【0044】
次にCPU103は、処理を第1のループ再生開始処理に進め、ループ再生を開始する(ステップS22の後段)。これにより、クリップCL1のクリップメモリAへの書き込みと並行して、クリップCL1のループ再生が開始される。このとき、クリップCL1はフェードイン再生される。図示例では、「フェードイン再生」は“★”で表現されている。そしてCPU103は、2番目に古いクリップ(次のタイミングの割込み処理にて、取得したクリップにて内容が上書きされるクリップメモリに保持されているクリップ)の再生をフェードアウトした(ステップS23)後、割込み処理を終了する。今、クリップメモリ105bにはクリップCL1が1つ格納されているだけなので、実質的にはステップS23の処理はなされない。
【0045】
割込み処理が終了すると、処理はメインルーチンに復帰するが、いずれのSWも押下されないので、SWイベントの待機状態となる(ステップS3)。この待機状態で、内蔵タイマは次の割込み間隔を計時するので、再び割込み処理が起動されて、クリップメモリ書込み処理および第1のループ再生開始処理が実行される。これにより、クリップCL2がクリップメモリBに書き込まれ、クリップCL2がフェードイン再生される一方、クリップCL1は先頭からの通常再生となる。つまり、クリップCL1は第1回目のループ再生となる。なお、ループ再生の開始が指示された後のフェードイン再生処理(上記通常再生やフェードアウト再生も含む)は、図示されていないが、図6の割込み処理とは別の割込み処理で実行されているものとする。
【0046】
このような処理が繰り返し実行され、第5回目の割込み処理が起動されると、クリップCL5がクリップメモリEに書き込まれて、クリップCL5がフェードイン再生され、クリップCL2〜CL4は通常再生されるが、前記ステップS23の処理により、クリップCL1はフェードアウト再生される。図示例では、「フェードアウト再生」は“☆”で表現されている。
【0047】
次の割込み処理が起動されるまでの期間中の時刻t1に、前記ストアSW102eが押下されると、CPU103は、処理をストアメモリ書込み処理(ステップS4)に進める。このストアメモリ書込み処理では、CPU103は、クリップメモリ105bの内容を、ストアメモリ105c内の前記4領域のうち、非再生中の領域に書き込む。時刻t1(の直前)では、ストアメモリ105cはクリア状態で、どの領域にもストアクリップは記憶されていないので、領域1〜4はすべて、非再生中の領域である。このため、ストアメモリ105cの領域1〜4のすべてに、クリップメモリ105bの内容が書き込まれる。ただし前述のように、クリップメモリ105bはクリップメモリA〜Eの5領域を備えており、その5領域のすべてに1つずつクリップが記憶されているので、この中から4つを選択して、逆に言えば、いずれか1つのクリップを除外してストアメモリ105cに書き込む。本実施の形態では、フェードイン再生中のもの、つまりクリップCL5を除外している。これは、ユーザは1回以上ループ再生したものをストアメモリ105cに記憶しておきたいと推測されるからである。その結果、ストアメモリ105cの領域1〜4にはそれぞれ、クリップCL1〜CL4が記憶される。もちろんこれに限らず、フェードアウト再生中のものを除外するようにしてもよい。
【0048】
この後、第7回目の割込み処理が起動されると、最も古いクリップを保持するクリップメモリ105bの領域はクリップメモリBであるので、取得したクリップCL7がクリップメモリBに書き込まれ(上書きされ)、フェードイン再生が開始される。また2番目に古いクリップは、クリップメモリCのクリップCL3であるので、そのクリップCL3のフェードアウト再生が開始される。そして、時刻t2に、ストアSW102eが押下されると、前記時刻t1におけるストアSW102eの押下に応じた処理と同様にして、クリップメモリ105bに記憶されているクリップCL3〜CL7のうち、フェードイン再生中のクリップCL7を除外した4つのクリップがストアメモリ105cに書き込まれる。
【0049】
このように、クリップされた音響データは、それぞれ4回ずつループ再生されるとともに、他のクリップと混合して出力される。
【0050】
次に図4(b)においては、時刻t1に、ストアSW102e、クリップ1SW102f1、クリップ3SW102f3が押下され、時刻t2に、ストアSW102eが押下され、時刻t3に、クリップ1SW102f1が押下された場合の例を示す。
【0051】
図4(b)の時刻t1で、ストアSW102eが押下された場合の処理は、前記図4(a)の時刻t1で、ストアSW102eが押下された場合の処理と同じであるので、その説明は省略する。
【0052】
ストアSW102eに続いてクリップ1SW102f1が押下されると、CPU103は、処理を第2のループ再生開始処理に進める。この第2のループ再生開始処理では、まずCPU103は、ストアメモリ105c内の領域1〜4のうち、再生開始が指示されたSW番号に対応する領域内のストアクリップのフェードイン再生を開始する(ステップS7)。これにより、ストアメモリ105cの領域1に記憶されているストアクリップ(クリップCL1)のフェードイン再生が開始される。次にCPU103は、クリップメモリ105bのうち、最も古いクリップを保持している領域(この場合、クリップメモリA)への書き込みを停止し、併せてそのクリップ(この場合、クリップCL1)の再生をフェードアウトする(ステップS8)。クリップメモリAへの書き込みが停止されたので、次の割込み処理が起動された場合、取得したクリップCL6は、書き込み可能なクリップメモリ105bのうち、最も古いクリップを保持している領域(クリップメモリB)に書き込まれることになる。クリップメモリBが次にクリップが上書きされる領域となるので、クリップメモリBのクリップCL2のフェードアウト再生が開始される。この結果、クリップループ回数は“4”から“3”に減少する。
【0053】
クリップ1SW102f1に続いて、クリップ3SW102f3が押下されると、クリップ1SW102f1が押下されたときの処理と同様の処理が実行される。その結果、ストアメモリ105cの領域3に記憶されているクリップCL3のフェードイン再生が開始される。また、クリップメモリBへの書き込みが停止され、書き込み可能なクリップメモリ105bのうち、クリップメモリCが次にクリップが上書きされる領域となり、クリップメモリCのクリップCL3のフェードアウト再生が開始され、クリップループ回数は“3”から“2”に減少する。したがって、次の割込み処理が起動された場合、書き込み可能なクリップメモリ105bのうち、最も古いクリップを保持したクリップメモリCのクリップCL3が、取得したクリップCL6で上書きされた後、フェードイン再生が開始され、その次に古いクリップメモリDのクリップCL4のフェードアウト再生が開始される。
【0054】
なお、ストアメモリ105cのストアクリップの再生が開始される場合、そのストアクリップに付随して記憶されているBPM値が現在のBPM値と異なることがある。このときは、クリップメモリ105bのクリップが再生中にBPM値が変更された場合について前述した処理、つまり、そのストアクリップに対して、タイムストレッチやリサンプリングなどの処理を施して、ピッチが変動しないようにした上で、現在のBPM値に対応する再生時間(BPM値変更後の1小節分の時間)にて再生されるように制御する。
【0055】
次に時刻t2で、図4(a)の時刻t2と同様に、ストアSW102eが押下されると、CPU103は、処理を前記ストアメモリ書込み処理(ステップS5)に進める。このとき、ストアメモリ105cの領域1および3にそれぞれ記憶されているクリップCL1およびCL3は再生中であるので、非再生中の領域2および4に、フェードイン再生中のクリップCL7を除外した2つのクリップCL5およびCL6が書き込まれる。
【0056】
次に時刻t3で、クリップ1SW102f1が押下されると、このとき、ストアメモリ105cの領域1のストアクリップ(クリップCL1)はループ再生中であるので、CPU103は、処理を第2のループ再生停止処理に進める。この第2のループ再生停止処理では、まずCPU103は、ストアメモリ105c内の領域1〜4のうち、再生停止が指示されたSW番号に対応する領域内のストアクリップのフェードアウト再生を開始する(ステップS9)。これにより、ストアメモリ105cの領域1に記憶されているストアクリップ(クリップCL1)のフェードアウト再生が開始される。
【0057】
次にCPU103は、割込み処理におけるクリップメモリ105bに保持されているクリップのうち、フェードアウト再生されているものをフェードイン再生に切り替え、さらに、書き込みが停止されていたクリップメモリ105bの領域のうち1への書き込みを再開する(ステップS10)。この結果、クリップループ回数は“2”から“3”に増加する。
【0058】
時刻t3において、フェードアウト再生されているクリップは、クリップメモリCのクリップCL6であるので、クリップCL6がフェードイン再生に切り替えられる。図示例では、「フェードアウト再生からフェードイン再生への切り替え」は“◆”で表現されている。
【0059】
なお、図4(b)の時刻t1に例示したように、クリップメモリ105bの各領域に保持されたクリップのうち、フェードアウト再生されているクリップが複数ある場合、最も若いクリップ(時刻t1の場合であれば、クリップメモリCのクリップCL3)がフェードイン再生に切り替えられる。
【0060】
また、時刻t2において、書き込みが停止されていた領域はクリップメモリAおよびBである。このように書き込みを再開し得る領域が複数ある場合、いずれか1つへの書き込みを再開する。書き込みを再開する領域の選択は、たとえば、最も古く書き込みが停止された領域、あるいは予め設定された優先順位に基づいて選択する等、任意の方法を用いればよい。
【0061】
なお、ストアメモリ105c内の領域1〜4すべてのストアクリップが再生されている状態においては、クリップメモリ105bの領域A〜Eのうち1の領域のみが書き込み可能であるが、バッファメモリ105aの内容が順次この1の領域に上書きされる。そのため、クリップメモリ105bにはループ再生すべきクリップが存在しない状態となり、ループ回数は“0”となる。この場合、CPU103は、図6の割込み処理のうち、クリップメモリ書込み処理(ステップS21およびS22の前段)のみを実行することになる。
【0062】
以上の説明から明らかな通り、本実施の形態では、クリップのループ回数は、書き込み可能なクリップメモリ105bの領域の個数に基づいて規定される(ループ回数=書き込み可能な領域数−1)。これに代えて、ループ回数を規定するパラメータを設け、当該パラメータの値を適宜設定・更新することにより、各クリップのループ回数を制御するようにしてもよい。
【0063】
また本実施の形態では、フェードイン再生処理およびフェードアウト再生処理におけるフェード時間については、特に言及されていないが、1〜4拍の間で適宜選択すればよい。選択される値は、固定であってもよいし、ユーザが変更可能としてもよい。
【0064】
さらに本実施の形態では、本発明を音楽装置100のみによって実現するようにしたが、これに限らず、前記通信I/F106を介して、他の音楽装置(前記サーバ300あるいは他の音楽装置400あるいはPC500)に対してストアしたデータを送信し、また、他の音楽装置からデータを受信し、音楽セッションを行うようにしてもよい。この場合、ストアメモリ105cが拡張され、受信したクリップを保持するメモリが追加される。もちろん任意の記憶媒体に、ストアしたデータを書き出すようにしてもよい。
【0065】
さらに、エコー、リバーブ、コーラス、ディストーション他、各種エフェクタを備えるようにしてもよい。エフェクタを複数備え、各クリップメモリA〜Eやストアメモリ105cの領域1〜4毎に異なるエフェクタをかけるようにしてもよい。
【0066】
また本実施の形態では、表示・操作I/F102を一般的な表示器とハードウェアSWによって構成したが、これに限らず、タッチパネルによって構成してもよい。
【0067】
なお、上述した実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システムまたは装置に供給し、そのシステムまたは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読出し実行することによっても、本発明の目的が達成されることは言うまでもない。
【0068】
この場合、記憶媒体から読出されたプログラムコード自体が本発明の新規な機能を実現することになり、そのプログラムコードおよび該プログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0069】
プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、たとえば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどを用いることができる。また、通信ネットワークを介してサーバコンピュータからプログラムコードが供給されるようにしてもよい。
【0070】
また、コンピュータが読出したプログラムコードを実行することにより、上述した実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているOSなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0071】
さらに、記憶媒体から読出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
101…音響入力部(入力手段),103…CPU(制御手段、再生手段),105…RAM(入力手段、クリップメモリ、ストアメモリ),105b…クリップメモリ,105c…ストアメモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の音声を集音し、音響信号として入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力された音響信号を予め設定された時間長分、順次クリッピングしておく複数のクリップメモリと、
前記複数のクリップメモリにそれぞれ格納された音響信号を規定された回数、ループ再生するとともに、規定回数ループ再生された音響信号がクリッピングされているクリップメモリをクリアするように制御する制御手段と
を有することを特徴とする音楽装置。
【請求項2】
ユーザ指示に応じて、前記複数のクリップメモリにクリッピングされている音響信号をストアするストアメモリと、
前記ストアメモリにストアされた音響信号をループ再生する再生手段と
を有することを特徴とする請求項1に記載の音楽装置。
【請求項3】
前記ストアメモリは、複数のストア領域を備え、
前記再生手段は、ユーザ操作に応じて、前記複数のストア領域にストアされた複数の音響信号のいずれかを選択し、選択した音響信号をループ再生する
ことを特徴とする請求項2に記載の音楽装置。
【請求項4】
周囲の音声を集音し、音響信号として入力する入力手段と、前記入力手段によって入力された音響信号を予め設定された時間長分、順次クリッピングしておく複数のクリップメモリとを備えた音楽装置を制御する制御方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記制御方法は、
前記複数のクリップメモリにそれぞれ格納された音響信号を規定された回数、ループ再生するとともに、規定回数ループ再生された音響信号がクリッピングされているクリップメモリをクリアするように制御する制御ステップを有する
ことを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−98375(P2012−98375A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244176(P2010−244176)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】