音響インクジェットヘッド構造
【課題】超音波を低出力で発生させ、インク液面からインクミストを高効率で飛翔させて印字品質を向上させることができる音響インクジェットヘッド構造を得る。
【解決手段】ライン集束超音波生成器1とエレクトロウエッティング(EWOD)による濡れ性を制御可能な超音波透過率が90〜70%の材料で構成されているミスト発生機構2を備える。ミスト発生機構は、液面に対しライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部のエレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されている。
【解決手段】ライン集束超音波生成器1とエレクトロウエッティング(EWOD)による濡れ性を制御可能な超音波透過率が90〜70%の材料で構成されているミスト発生機構2を備える。ミスト発生機構は、液面に対しライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部のエレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク自由表面に集束する超音波ビームの圧力によりインク液面から霧状化したインクを飛翔させて記録媒体上に付着させることにより画像を形成する音響インクジェット記録装置における音響インクジェットヘッド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インク自由表面に集束する超音波ビームの圧力により、インクの液面から霧状化したインクを飛翔させ、記録媒体上に付着させることにより画像形成する音響インクジェット記録装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−108336
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような従来の音響インクジェット記録装置によれば、インクミストを液面から飛翔させるには高出力の超音波が必要であった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、低出力で超音波を発生させ、インク液面からインクミストを飛翔させて印字品質を向上させることができる音響インクジェットヘッド構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係る音響インクジェットヘッド構造は、ライン集束超音波生成器とエレクトロウエッティングによる濡れ性を制御可能な超音波透過率が90〜70%の材料で構成されているミスト発生機構を備え、ミスト発生機構は、液面に対しライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部の、エレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されていることを特徴とする。
【0007】
本発明(請求項2記載の発明)に係る音響インクジェットヘッド構造は、ライン集束超音波生成器と2枚の超音波透過材料で電解液剤を挟み込んだ形状のエレクトロウエッティング部材で、移動液剤、電極ともに超音波透過率が90%以上になるような材料で構成され、上部大気側の透過材の音響インピーダンスは超音波透過率が90%から70%になるように選定されており、超音波の軸とエレクトロウエッティング電極の位置が重なるように構成されており、ミスト発生機構は、液面に対しライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部のエレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明(請求項3記載の発明)に係る音響インクジェットヘッド構造は、ライン集束超音波生成器と2枚の超音波透過材料で電解液剤を挟み込んだ形状のミスト選択機構、つまりエレクトロウエッティング部材で、移動液剤、液側透過材ともに超音波透過率が90%以上になるような材料で構成され、集束超音波集束位置にミスト選択機構は液面との角度θで設置されている場合に発生するメニスカスの高さをmhとし、移動液剤の厚みをehとしたときに、液剤厚みehはeh≧mh/2×cosθを満たすようにつくられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明に係る音響インクジェットヘッド構造によれば、集束超音波により薄層インク液面から高効率にミストを発生しdot形成する記録ヘッドであって、EWOD効果を使用し、ミスト生成時はEWOD基板上にインクを浸透させ、そうでない場合はインク液を浸透させないことにより、インクのミスト化を選択的に行うようにしているから、ライン上に集束する単一の超音波発生器を使用することが可能になると同時に、超音波発生器に印加する電圧の低減を可能とする等の利点がある。
【0010】
また、本発明によれば、集束超音波により薄層インク液面から高効率にミストを発生させる場合に、EWOD効果を使用し、ミスト生成時はサンドイッチ構造のEWODにより挟まれた透過液を超音波通過個所まで移動させ、超音波を透過するようにし、そうでない場合には、EWOD内部の透過液を該当個所まで移動させないことにより超音波を透過させず、これによりインクのミスト化を選択的に行うようにしているから、ライン上に集束する単一の超音波発生器を使用することが可能になると同時に、超音波発生器に印加する電圧の低減を可能とする等の利点がある。
【0011】
さらに、これに加えて、インク薄層を生成する機能と超音波を照射しミスト化する機能を分離したことにより、安定したミスト生成を容易とする等の利点もある。
【0012】
また、本発明によれば、集束超音波により薄層インク液面から高効率にミストを発生させる場合に、EWOD効果を使用し、ミスト生成時はサンドイッチ構造のEWODにより挟まれた透過液を超音波通過個所まで移動させず、超音波を反射するようにし、そうでない場合には、EWOD内部の透過液を該当個所まで移動させることにより超音波を透過させ、これによりインクのミスト化を選択的に行うようにしているから、ライン上に集束する単一の超音波発生器を使用することが可能になると同時に、超音波発生器に印加する電圧の低減を可能にすることができる。
【0013】
さらに、インク薄層を生成する機能と超音波を照射しミスト化する機能を分離したことにより、安定したミスト生成を容易にするとともに、ミスト発生時の超音波の減衰を減少させているため、より低エネルギーでのミスト生成を可能にし、ミスト生成の方向の自由度を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1ないし図6は本発明に係る音響インクジェットヘッド構造の一実施形態を示す。
これらの図において、初めに、音響インクジェットヘッドによる作動原理を、図1を用いて説明する。
【0015】
すなわち、図中符号1は、音響インクジェットヘッドを構成するライン超音波発生器であり、このライン超音波発生器1から照射されたライン超音波はライン状の集束をミスト選択部2の位置で収束している。これにより、ミスト3が発生する。
【0016】
ここで、ミスト選択部2はエレクトロウエッティング効果(Electro Wetting On Dielectric;EWOD)を利用した構造になっている。
このエレクトロウエッティングは、図4(a),(b)に示されるように、誘電体5上の液体(電解液6)と電極7間に電圧を印加すると、液体(6)と誘電体5間の濡れ性が増加し、同図(b)に示すように接触角が小さくなり、液体(6)の厚みが薄くなるのである。
【0017】
なお、この電極7を、図5に示すように分割し、それぞれを独立に制御できるようにしてもよい。
【0018】
図2は図1を側方から見た構造を示すものであり、図1では図示されていないが、ライン超音波発生器1とミスト選択部2の間は、液体(インク4または通常は水部+インク部の二構成)で満たされている。
また、図2ではライン超音波発生器1とEWODによるミスト選択部2の間にインク部と図示されていないがインク部と超音波発生器1の間は水で満たされている。
【0019】
図2のEWODによるミスト選択部を、図3に示す。
既に説明したようにEWOD電極に電圧を印加していない状態では、図3(a)に示すように、インク4はミスト選択部2にこんもりと厚みをもって存在している。
これに対して、電極に電圧を印加した状態では、図3(b)に示すように、インク4は薄層に広がっている。
【0020】
ここで、このようなインク4の接触角の変化の様子は、図6に示したように、他の論文(J.Appl.Phys,Vol.92,No.7,1;October 2002;4080-4087)においても示されている。なお、この図6は、誘電体厚みによる接触角と印加電圧の理論値と実験値を示すグラフであり、3本の実線は理論値、ブロットは実験値である。
これにより、ミスト3を発生したい個所の電極7にのみ電圧を印加すると、その電極7上の誘電体上のインクの濡れ性が増加することになる。
【0021】
ここで、ライン超音波発生器1から発射された超音波により、EWODミスト選択部2にはメニスカスによる液のもりあがりが存在するが、電圧を印加した個所は濡れ性の増加に伴い、インク液が力の方向に押され薄層に生成されることになる。
たとえば図5のような複数電極を使用した場合、電圧を印加しない個所(off)では図3(a)の状態、電圧を印加した個所(on)では図3(b)の状態にすることができるのである。
【0022】
ここで、使用するミスト選択部2の電極7は導電性高分子等をその他基材は樹脂等、液体との音響インピーダンスが大きく異ならず、超音波音圧透過率が90〜70%になるよう選択するとよい。
また、ミスト化は液を薄層化することにより気界面と透過材との間での定在波により超音波エネルギーが低くてもミスト化することが可能になることが確認されている。
【0023】
これにより、EWOD効果を利用しインク液を選択的にミスト選択部2に薄膜化することができ、照射している超音波により薄膜化された個所のみがミスト化されることになる。
【0024】
以上の構成において、ライン集束超音波生成器とEWODによる濡れ性を制御可能な超音波透過率が90〜70%の材料で構成されているミスト発生機構を、液面に対しライン集束超音波照射によって、ミスト発生機構上部のEWOD用電極7の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置するようにしているから、ミスト生成時はEWOD基板上にインクを浸透させ、そうでない場合はインク液を浸透させないことにより、インクのミスト化を選択的に行うことができ、ライン上に集束する単一の超音波発生器を使用することが可能になると同時に、超音波発生器に印加する電圧の低減を可能にすることができるのである。
【0025】
図7ないし図10は本発明の第2の実施形態を示すものである。
これらの図において、図7はEWODによる液移動現象を示すものであり、電極Aへ電圧を印加することにより濡れ性が変化し、図中右側への液滴移動圧力は、下記式1で与えられることが知られている。
【0026】
P=(γLG/d)・(3cosθt+cosθb)・・・式1
【0027】
図8は具体的には図7に示すように電極等が構成されているものである。
同図(a)において、エレクトロウエッティング(EWOD)により下部透過材11は誘電体で構成されており、移動液剤12(電解質)、電極13とともにインク14との音響インピーダンスが透過率90%以上になるよう選択されており、上部透過材15の音響インピーダンスは透過率90〜70%になるよう選択されている。
【0028】
これにより、図8(a)の状態(電極Aに電圧が印加された)では、移動液剤12は電極Aの位置まで移動しており、発射された集束超音波は電極13、下部透過材11、移動液剤12、上部透過材15と透過する。
【0029】
発生するメニスカスは周囲インク14を上部透過材15上に乗り上げさせ、上部透過材15上にインク14の薄層を生成しており、透過してきた集束超音波により、上部にミストを発生する。
【0030】
図8(b)の状態(電極Aに電圧が印加されていない)では、移動液剤12は電極Aの位置まで移動せず、電極Aの位置の移動液剤層部には空気で満たされる。
これにより、発射された集束超音波は空気層で99%以上反射され、ミストは発生しない。
【0031】
以上の構成により、電極Aへの電圧on/offで該当位置においてミストの出射on/offの制御が可能である。
【0032】
ここで、図8(a)で説明したEWODを利用した超音波透過/反射の部材は、インク液材中に、超音波のメニスカスに、インク水平面に角度をもって設置されており、メニスカスによる部材へのインク乗り上げ範囲が、電極Aの位置と同等になるように設置されている。
【0033】
すなわち、この実施形態では、ライン集束超音波生成器と2枚の超音波透過材料で電解液剤を挟み込んだ形状のエレクトロウエッティング部材で、移動液剤12、電極13ともに超音波透過率が90%以上になるような材料で構成され、上部大気側の透過材15の音響インピーダンスは超音波透過率が90%から70%になるように選定されており、超音波の軸とエレクトロウエッティング電極の位置が重なるように構成されており、ミスト発生機構は液面に対し、ライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部のエレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されている。
【0034】
このような構成によれば、ライン上に集束する単一の超音波発生器17を使用することが可能になると同時に、超音波発生器17に印加する電圧を低減することができるのである。これに加え、インク薄層を生成する機能と超音波を照射しミスト化する機能を分離しているから、安定したミスト生成を容易に行える。
【0035】
なお、上述した図8では、点集束超音波発生器17を示しているが、図9に示すように超音波選択部をマルチ構成としてもよく、また超音波を線集束の超音波発生器を使用し、前述した図1のような構成にすることも可能である。
【0036】
図10は本発明の第3の実施形態を示す。
この実施形態では、集束超音波により薄層インク液面から高効率にミストを発生させる場合に、EWOD効果を使用し、ミスト生成時はサンドイッチ構造のEWODにより挟まれた透過液を超音波通過個所まで移動させず、超音波を反射するようにし、そうでない場合には、EWOD内部の透過液を該当個所まで移動させることにより超音波を透過させ、これによりインクのミスト化を選択的に生成するものである。
【0037】
すなわち、上述した第2の実施形態では、ミスト選択部2の透過材の構成は超音波を透過し上部にミストを発生するよう構成されているが、この第3の実施形態では、図10において、下部透過材21の音響インピーダンスは透過率が90%以上となるようにポリスチレン等を選択し、内部透過液材(移動液剤22)は水等、透過率が90%以上になるように選択する。なお、上部透過材23(誘電体)および電極24の音響インピーダンスはいかようでもよい。
【0038】
ここで、上部透過材23と下部透過材21の間隔つまり移動液剤22の厚みは0.7mm以上とする。
【0039】
図11は図10の拡大図であって、電極等の詳細は図示していない。
この図において、集束超音波集束位置にミスト選択機構を液面との角度θで設置している。ここで発生するメニスカスの高さmhは最大で2mmである。
【0040】
また、液剤の間隔をehとし、移動液剤22がない場合の超音波反射位置をA、移動液剤22がある場合の超音波反射位置をBとする。移動液剤22がない場合に超音波が反射し、図10(a)のようにミストが発生するが、その位置はメニスカス25の高さmhに対しmh/2よりも上部に発生する。
【0041】
移動液剤22が存在する場合の反射位置Bによるミスト発生位置がmhよりも上部になるためには、ah≧mh/2であればよい。
したがって、液剤の厚さは、
eh≧(mh/2)×cosθ・・・式2
ミストを発生するためにはπ/4≦θ≦π/2である必要があるため、eh≧cos(π/4)≒0.7を満たすことが必要である。
【0042】
以上の構成から、液剤の厚さが式2を満たすことにより、図11のような構成において選択的にミストを効果的に生成することが可能になる。
【0043】
すなわち、ミストを選択的に生成する記録装置において、ライン上に集束する単一の超音波発生器を使用することが可能になると同時に、超音波発生器に印加する電圧を低減することができる。さらに、これに加えて、インク薄層を生成する機能と超音波を照射してミスト化する機能を分離したことにより、安定したミスト生成を容易にするとともに、ミスト発生時の超音波の減衰を減少させているため、より低エネルギーでのミスト生成を可能にし、ミスト生成の方向の自由度を増大させることができる。
【0044】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、音響インクジェットヘッド構造を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る音響インクジェットヘッド構造の一実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】図1を側方から見た概略側面図である。
【図3】(a),(b)は音響インクジェットヘッド構造におけるEWODによるミスト選択部の要部構造を示す概略説明図である。
【図4】(a),(b)はEWODによるミスト選択部での作動原理を説明するための説明図である。
【図5】EWODによるミスト選択部での電極の変形例を示す図である。
【図6】誘電体厚みによる接触角と印加電圧の理論値と実験値とを示すグラフである。
【図7】本発明に係る音響インクジェットヘッド構造の第2の実施形態において、EWODによる液移動現象を示す説明図である。
【図8】本発明に係る音響インクジェットヘッド構造の第2の実施形態を示し、(a),(b)はその要部構造を示す概略説明図である。
【図9】(a),(b)は超音波ミスト選択部の変形例を説明するための図である。
【図10】本発明に係る音響インクジェットヘッド構造の第3の実施形態を示し、(a),(b)はその要部構造を示す概略説明図である。
【図11】図10の音響インクジェットヘッド構造の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0046】
1…ライン超音波発生器、2…ミスト選択部、3…ミスト、4…インク、5…誘電体、6…電解液、7…電極、11…下部透過材、12…移動液剤、13…電極、14…インク、15…上部透過材、17…超音波発生器、21…下部透過材、22…移動液剤、23…上部透過材、24…電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク自由表面に集束する超音波ビームの圧力によりインク液面から霧状化したインクを飛翔させて記録媒体上に付着させることにより画像を形成する音響インクジェット記録装置における音響インクジェットヘッド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インク自由表面に集束する超音波ビームの圧力により、インクの液面から霧状化したインクを飛翔させ、記録媒体上に付着させることにより画像形成する音響インクジェット記録装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−108336
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような従来の音響インクジェット記録装置によれば、インクミストを液面から飛翔させるには高出力の超音波が必要であった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、低出力で超音波を発生させ、インク液面からインクミストを飛翔させて印字品質を向上させることができる音響インクジェットヘッド構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係る音響インクジェットヘッド構造は、ライン集束超音波生成器とエレクトロウエッティングによる濡れ性を制御可能な超音波透過率が90〜70%の材料で構成されているミスト発生機構を備え、ミスト発生機構は、液面に対しライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部の、エレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されていることを特徴とする。
【0007】
本発明(請求項2記載の発明)に係る音響インクジェットヘッド構造は、ライン集束超音波生成器と2枚の超音波透過材料で電解液剤を挟み込んだ形状のエレクトロウエッティング部材で、移動液剤、電極ともに超音波透過率が90%以上になるような材料で構成され、上部大気側の透過材の音響インピーダンスは超音波透過率が90%から70%になるように選定されており、超音波の軸とエレクトロウエッティング電極の位置が重なるように構成されており、ミスト発生機構は、液面に対しライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部のエレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明(請求項3記載の発明)に係る音響インクジェットヘッド構造は、ライン集束超音波生成器と2枚の超音波透過材料で電解液剤を挟み込んだ形状のミスト選択機構、つまりエレクトロウエッティング部材で、移動液剤、液側透過材ともに超音波透過率が90%以上になるような材料で構成され、集束超音波集束位置にミスト選択機構は液面との角度θで設置されている場合に発生するメニスカスの高さをmhとし、移動液剤の厚みをehとしたときに、液剤厚みehはeh≧mh/2×cosθを満たすようにつくられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明に係る音響インクジェットヘッド構造によれば、集束超音波により薄層インク液面から高効率にミストを発生しdot形成する記録ヘッドであって、EWOD効果を使用し、ミスト生成時はEWOD基板上にインクを浸透させ、そうでない場合はインク液を浸透させないことにより、インクのミスト化を選択的に行うようにしているから、ライン上に集束する単一の超音波発生器を使用することが可能になると同時に、超音波発生器に印加する電圧の低減を可能とする等の利点がある。
【0010】
また、本発明によれば、集束超音波により薄層インク液面から高効率にミストを発生させる場合に、EWOD効果を使用し、ミスト生成時はサンドイッチ構造のEWODにより挟まれた透過液を超音波通過個所まで移動させ、超音波を透過するようにし、そうでない場合には、EWOD内部の透過液を該当個所まで移動させないことにより超音波を透過させず、これによりインクのミスト化を選択的に行うようにしているから、ライン上に集束する単一の超音波発生器を使用することが可能になると同時に、超音波発生器に印加する電圧の低減を可能とする等の利点がある。
【0011】
さらに、これに加えて、インク薄層を生成する機能と超音波を照射しミスト化する機能を分離したことにより、安定したミスト生成を容易とする等の利点もある。
【0012】
また、本発明によれば、集束超音波により薄層インク液面から高効率にミストを発生させる場合に、EWOD効果を使用し、ミスト生成時はサンドイッチ構造のEWODにより挟まれた透過液を超音波通過個所まで移動させず、超音波を反射するようにし、そうでない場合には、EWOD内部の透過液を該当個所まで移動させることにより超音波を透過させ、これによりインクのミスト化を選択的に行うようにしているから、ライン上に集束する単一の超音波発生器を使用することが可能になると同時に、超音波発生器に印加する電圧の低減を可能にすることができる。
【0013】
さらに、インク薄層を生成する機能と超音波を照射しミスト化する機能を分離したことにより、安定したミスト生成を容易にするとともに、ミスト発生時の超音波の減衰を減少させているため、より低エネルギーでのミスト生成を可能にし、ミスト生成の方向の自由度を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1ないし図6は本発明に係る音響インクジェットヘッド構造の一実施形態を示す。
これらの図において、初めに、音響インクジェットヘッドによる作動原理を、図1を用いて説明する。
【0015】
すなわち、図中符号1は、音響インクジェットヘッドを構成するライン超音波発生器であり、このライン超音波発生器1から照射されたライン超音波はライン状の集束をミスト選択部2の位置で収束している。これにより、ミスト3が発生する。
【0016】
ここで、ミスト選択部2はエレクトロウエッティング効果(Electro Wetting On Dielectric;EWOD)を利用した構造になっている。
このエレクトロウエッティングは、図4(a),(b)に示されるように、誘電体5上の液体(電解液6)と電極7間に電圧を印加すると、液体(6)と誘電体5間の濡れ性が増加し、同図(b)に示すように接触角が小さくなり、液体(6)の厚みが薄くなるのである。
【0017】
なお、この電極7を、図5に示すように分割し、それぞれを独立に制御できるようにしてもよい。
【0018】
図2は図1を側方から見た構造を示すものであり、図1では図示されていないが、ライン超音波発生器1とミスト選択部2の間は、液体(インク4または通常は水部+インク部の二構成)で満たされている。
また、図2ではライン超音波発生器1とEWODによるミスト選択部2の間にインク部と図示されていないがインク部と超音波発生器1の間は水で満たされている。
【0019】
図2のEWODによるミスト選択部を、図3に示す。
既に説明したようにEWOD電極に電圧を印加していない状態では、図3(a)に示すように、インク4はミスト選択部2にこんもりと厚みをもって存在している。
これに対して、電極に電圧を印加した状態では、図3(b)に示すように、インク4は薄層に広がっている。
【0020】
ここで、このようなインク4の接触角の変化の様子は、図6に示したように、他の論文(J.Appl.Phys,Vol.92,No.7,1;October 2002;4080-4087)においても示されている。なお、この図6は、誘電体厚みによる接触角と印加電圧の理論値と実験値を示すグラフであり、3本の実線は理論値、ブロットは実験値である。
これにより、ミスト3を発生したい個所の電極7にのみ電圧を印加すると、その電極7上の誘電体上のインクの濡れ性が増加することになる。
【0021】
ここで、ライン超音波発生器1から発射された超音波により、EWODミスト選択部2にはメニスカスによる液のもりあがりが存在するが、電圧を印加した個所は濡れ性の増加に伴い、インク液が力の方向に押され薄層に生成されることになる。
たとえば図5のような複数電極を使用した場合、電圧を印加しない個所(off)では図3(a)の状態、電圧を印加した個所(on)では図3(b)の状態にすることができるのである。
【0022】
ここで、使用するミスト選択部2の電極7は導電性高分子等をその他基材は樹脂等、液体との音響インピーダンスが大きく異ならず、超音波音圧透過率が90〜70%になるよう選択するとよい。
また、ミスト化は液を薄層化することにより気界面と透過材との間での定在波により超音波エネルギーが低くてもミスト化することが可能になることが確認されている。
【0023】
これにより、EWOD効果を利用しインク液を選択的にミスト選択部2に薄膜化することができ、照射している超音波により薄膜化された個所のみがミスト化されることになる。
【0024】
以上の構成において、ライン集束超音波生成器とEWODによる濡れ性を制御可能な超音波透過率が90〜70%の材料で構成されているミスト発生機構を、液面に対しライン集束超音波照射によって、ミスト発生機構上部のEWOD用電極7の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置するようにしているから、ミスト生成時はEWOD基板上にインクを浸透させ、そうでない場合はインク液を浸透させないことにより、インクのミスト化を選択的に行うことができ、ライン上に集束する単一の超音波発生器を使用することが可能になると同時に、超音波発生器に印加する電圧の低減を可能にすることができるのである。
【0025】
図7ないし図10は本発明の第2の実施形態を示すものである。
これらの図において、図7はEWODによる液移動現象を示すものであり、電極Aへ電圧を印加することにより濡れ性が変化し、図中右側への液滴移動圧力は、下記式1で与えられることが知られている。
【0026】
P=(γLG/d)・(3cosθt+cosθb)・・・式1
【0027】
図8は具体的には図7に示すように電極等が構成されているものである。
同図(a)において、エレクトロウエッティング(EWOD)により下部透過材11は誘電体で構成されており、移動液剤12(電解質)、電極13とともにインク14との音響インピーダンスが透過率90%以上になるよう選択されており、上部透過材15の音響インピーダンスは透過率90〜70%になるよう選択されている。
【0028】
これにより、図8(a)の状態(電極Aに電圧が印加された)では、移動液剤12は電極Aの位置まで移動しており、発射された集束超音波は電極13、下部透過材11、移動液剤12、上部透過材15と透過する。
【0029】
発生するメニスカスは周囲インク14を上部透過材15上に乗り上げさせ、上部透過材15上にインク14の薄層を生成しており、透過してきた集束超音波により、上部にミストを発生する。
【0030】
図8(b)の状態(電極Aに電圧が印加されていない)では、移動液剤12は電極Aの位置まで移動せず、電極Aの位置の移動液剤層部には空気で満たされる。
これにより、発射された集束超音波は空気層で99%以上反射され、ミストは発生しない。
【0031】
以上の構成により、電極Aへの電圧on/offで該当位置においてミストの出射on/offの制御が可能である。
【0032】
ここで、図8(a)で説明したEWODを利用した超音波透過/反射の部材は、インク液材中に、超音波のメニスカスに、インク水平面に角度をもって設置されており、メニスカスによる部材へのインク乗り上げ範囲が、電極Aの位置と同等になるように設置されている。
【0033】
すなわち、この実施形態では、ライン集束超音波生成器と2枚の超音波透過材料で電解液剤を挟み込んだ形状のエレクトロウエッティング部材で、移動液剤12、電極13ともに超音波透過率が90%以上になるような材料で構成され、上部大気側の透過材15の音響インピーダンスは超音波透過率が90%から70%になるように選定されており、超音波の軸とエレクトロウエッティング電極の位置が重なるように構成されており、ミスト発生機構は液面に対し、ライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部のエレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されている。
【0034】
このような構成によれば、ライン上に集束する単一の超音波発生器17を使用することが可能になると同時に、超音波発生器17に印加する電圧を低減することができるのである。これに加え、インク薄層を生成する機能と超音波を照射しミスト化する機能を分離しているから、安定したミスト生成を容易に行える。
【0035】
なお、上述した図8では、点集束超音波発生器17を示しているが、図9に示すように超音波選択部をマルチ構成としてもよく、また超音波を線集束の超音波発生器を使用し、前述した図1のような構成にすることも可能である。
【0036】
図10は本発明の第3の実施形態を示す。
この実施形態では、集束超音波により薄層インク液面から高効率にミストを発生させる場合に、EWOD効果を使用し、ミスト生成時はサンドイッチ構造のEWODにより挟まれた透過液を超音波通過個所まで移動させず、超音波を反射するようにし、そうでない場合には、EWOD内部の透過液を該当個所まで移動させることにより超音波を透過させ、これによりインクのミスト化を選択的に生成するものである。
【0037】
すなわち、上述した第2の実施形態では、ミスト選択部2の透過材の構成は超音波を透過し上部にミストを発生するよう構成されているが、この第3の実施形態では、図10において、下部透過材21の音響インピーダンスは透過率が90%以上となるようにポリスチレン等を選択し、内部透過液材(移動液剤22)は水等、透過率が90%以上になるように選択する。なお、上部透過材23(誘電体)および電極24の音響インピーダンスはいかようでもよい。
【0038】
ここで、上部透過材23と下部透過材21の間隔つまり移動液剤22の厚みは0.7mm以上とする。
【0039】
図11は図10の拡大図であって、電極等の詳細は図示していない。
この図において、集束超音波集束位置にミスト選択機構を液面との角度θで設置している。ここで発生するメニスカスの高さmhは最大で2mmである。
【0040】
また、液剤の間隔をehとし、移動液剤22がない場合の超音波反射位置をA、移動液剤22がある場合の超音波反射位置をBとする。移動液剤22がない場合に超音波が反射し、図10(a)のようにミストが発生するが、その位置はメニスカス25の高さmhに対しmh/2よりも上部に発生する。
【0041】
移動液剤22が存在する場合の反射位置Bによるミスト発生位置がmhよりも上部になるためには、ah≧mh/2であればよい。
したがって、液剤の厚さは、
eh≧(mh/2)×cosθ・・・式2
ミストを発生するためにはπ/4≦θ≦π/2である必要があるため、eh≧cos(π/4)≒0.7を満たすことが必要である。
【0042】
以上の構成から、液剤の厚さが式2を満たすことにより、図11のような構成において選択的にミストを効果的に生成することが可能になる。
【0043】
すなわち、ミストを選択的に生成する記録装置において、ライン上に集束する単一の超音波発生器を使用することが可能になると同時に、超音波発生器に印加する電圧を低減することができる。さらに、これに加えて、インク薄層を生成する機能と超音波を照射してミスト化する機能を分離したことにより、安定したミスト生成を容易にするとともに、ミスト発生時の超音波の減衰を減少させているため、より低エネルギーでのミスト生成を可能にし、ミスト生成の方向の自由度を増大させることができる。
【0044】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、音響インクジェットヘッド構造を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る音響インクジェットヘッド構造の一実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】図1を側方から見た概略側面図である。
【図3】(a),(b)は音響インクジェットヘッド構造におけるEWODによるミスト選択部の要部構造を示す概略説明図である。
【図4】(a),(b)はEWODによるミスト選択部での作動原理を説明するための説明図である。
【図5】EWODによるミスト選択部での電極の変形例を示す図である。
【図6】誘電体厚みによる接触角と印加電圧の理論値と実験値とを示すグラフである。
【図7】本発明に係る音響インクジェットヘッド構造の第2の実施形態において、EWODによる液移動現象を示す説明図である。
【図8】本発明に係る音響インクジェットヘッド構造の第2の実施形態を示し、(a),(b)はその要部構造を示す概略説明図である。
【図9】(a),(b)は超音波ミスト選択部の変形例を説明するための図である。
【図10】本発明に係る音響インクジェットヘッド構造の第3の実施形態を示し、(a),(b)はその要部構造を示す概略説明図である。
【図11】図10の音響インクジェットヘッド構造の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0046】
1…ライン超音波発生器、2…ミスト選択部、3…ミスト、4…インク、5…誘電体、6…電解液、7…電極、11…下部透過材、12…移動液剤、13…電極、14…インク、15…上部透過材、17…超音波発生器、21…下部透過材、22…移動液剤、23…上部透過材、24…電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライン集束超音波生成器とエレクトロウエッティングによる濡れ性を制御可能な超音波透過率が90〜70%の材料で構成されているミスト発生機構を備え、
ミスト発生機構は、液面に対しライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部の、エレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されていることを特徴とする音響インクジェットヘッド構造。
【請求項2】
ライン集束超音波生成器と2枚の超音波透過材料で電解液剤を挟み込んだ形状のエレクトロウエッティング部材で、移動液剤、電極ともに超音波透過率が90%以上になるような材料で構成され、
上部大気側の透過材の音響インピーダンスは超音波透過率が90%から70%になるように選定されており、
超音波の軸とエレクトロウエッティング電極の位置が重なるように構成されており、
ミスト発生機構は、液面に対しライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部のエレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されていることを特徴とする音響インクジェットヘッド構造。
【請求項3】
ライン集束超音波生成器と2枚の超音波透過材料で電解液剤を挟み込んだ形状のミスト選択機構、つまりエレクトロウエッティング部材で、移動液剤、液側透過材ともに超音波透過率が90%以上になるような材料で構成され、
集束超音波集束位置にミスト選択機構は液面との角度θで設置されている場合に発生するメニスカスの高さをmhとし、移動液剤の厚みをehとしたときに、液剤厚みehはeh≧mh/2×cosθを満たすようにつくられていることを特徴とする音響インクジェットヘッド構造。
【請求項1】
ライン集束超音波生成器とエレクトロウエッティングによる濡れ性を制御可能な超音波透過率が90〜70%の材料で構成されているミスト発生機構を備え、
ミスト発生機構は、液面に対しライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部の、エレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されていることを特徴とする音響インクジェットヘッド構造。
【請求項2】
ライン集束超音波生成器と2枚の超音波透過材料で電解液剤を挟み込んだ形状のエレクトロウエッティング部材で、移動液剤、電極ともに超音波透過率が90%以上になるような材料で構成され、
上部大気側の透過材の音響インピーダンスは超音波透過率が90%から70%になるように選定されており、
超音波の軸とエレクトロウエッティング電極の位置が重なるように構成されており、
ミスト発生機構は、液面に対しライン集束超音波照射によってミスト発生機構の上部のエレクトロウエッティング用電極の上部に触れる程度の位置に液がくるように斜めに配置されていることを特徴とする音響インクジェットヘッド構造。
【請求項3】
ライン集束超音波生成器と2枚の超音波透過材料で電解液剤を挟み込んだ形状のミスト選択機構、つまりエレクトロウエッティング部材で、移動液剤、液側透過材ともに超音波透過率が90%以上になるような材料で構成され、
集束超音波集束位置にミスト選択機構は液面との角度θで設置されている場合に発生するメニスカスの高さをmhとし、移動液剤の厚みをehとしたときに、液剤厚みehはeh≧mh/2×cosθを満たすようにつくられていることを特徴とする音響インクジェットヘッド構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−248545(P2009−248545A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103005(P2008−103005)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
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