説明

音響システム

【課題】出力対象が複数の場合でも、簡易な構成で指向性音を出力対象に向けて出力する。
【解決手段】音響システム1は、マトリクス状に並設された複数の超音波トランスデューサ31を含む超音波スピーカ3と、1又は複数の対象者を認識するためのカメラ4と、カメラ4による認識結果に基づいて指向性音Sの方向を制御するスピーカ制御部54と、を備えている。スピーカ制御部54は、カメラ4で認識された1又は複数の対象者の角度に応じて、複数の超音波トランスデューサ31に入力される音声信号Kのそれぞれにディレイタイムを付加する。これにより、音響システム1では、超音波スピーカ3自体を物理的に駆動すること無く、また、超音波スピーカ3を複数備えること無く、1又は複数の対象者を追尾するよう当該対象者のそれぞれに音源データD1,D2による指向性音Sをピンポイントで出力することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばデジタルサイネージ等に用いられる音響システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の音響システムとしては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この音響システムでは、広告表示面の前方をカメラにより撮影し、その撮影画像の人物を対象者(出力対象)として検出する。そして、対象者の検出結果に基づいて超指向性スピーカ(超音波スピーカ)を支持するスピーカ台座を可動させることで、指向性を有する指向性音を超指向性スピーカから対象者に向けて出力することが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−39094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記の音響システムにおいては、前述のように、出力対象に向けて指向性音を出力すべく超音波スピーカ自体を物理的に駆動することから、かかる駆動のための構造が必要となる。よって、音響システムの構成が複雑・煩雑になる虞があり、ひいては、音響システムの小型化及び省電力化が困難となってしまう。また、このように超音波スピーカを物理的に駆動する場合、複数の出力対象に指向性音を出力しようとすると、例えば超音波スピーカを複数備える必要があり、この点においても、音響システムの構成が複雑・煩雑になる虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、出力対象が複数の場合でも、簡易な構成で指向性音を出力対象に向けて出力することが可能な音響システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る音響システムは、マトリクス状に並設された複数の超音波トランスデューサを含んで構成され、指向性を有する指向性音を出力する超音波スピーカと、指向性音を出力する1又は複数の出力対象を認識するための出力対象認識手段と、出力対象認識手段による認識結果に基づいて、超音波スピーカから出力される指向性音の方向を少なくとも制御するスピーカ制御手段と、を備え、スピーカ制御手段は、出力対象認識手段で認識された1又は複数の出力対象の位置に関する情報に応じて、複数の超音波トランスデューサに入力される音声信号のそれぞれにディレイタイムを付加することにより、1又は複数の出力対象を追尾するよう当該出力対象に向けて、1又は複数の音源情報に基づく前記指向性音を出力させること、を特徴とする。
【0007】
この本発明の音響システムでは、出力対象認識手段により1又は複数の出力対象が認識され、そして、認識された1又は複数の出力対象の位置に応じて、複数の超音波トランスデューサに入力される各音声信号にディレイタイム(位相シフト量)が付加される。これにより、1又は複数の出力対象を追尾するよう当該出力対象に向けて、1又は複数の音源情報に基づく指向性音がピンポイントで出力されることとなる。従って、本発明では、複数の出力対象に対する場合であっても、指向性音の出力を簡易な構成で実現することが可能となる。
【0008】
また、スピーカ制御手段は、音声信号にディレイタイムを付加する前に音声信号に高速1bit信号処理を施す信号処理部を含んで構成されていることが好ましい。この場合、例えばmulti−bit信号等の音声信号にディレイタイムを付加する場合に比べ、ディレイタイムの高い時間分解能(つまり、指向性音の出力方向制御における高い角度分解能)を、簡易な構成で容易に実現することができる。
【0009】
また、1又は複数の音源情報を少なくとも格納する格納手段と、音声信号の内容を制御する音声制御手段と、を備え、音声制御手段は、出力対象認識手段による認識結果に基づいて1又は複数の出力対象の種別を判定し、判定した種別に応じて格納手段における1又は複数の音源情報から一の音源情報を選択し、選択した一の音源情報により音声信号を設定することが好ましい。この場合、出力対象の種別によって音声信号を変えることが可能となる。
【0010】
また、1又は複数の出力対象の位置に関する情報は、1又は複数の出力対象の基準方向からの角度である場合がある。また、出力対象は、人である場合がある。
【0011】
また、映像又は画像を表示させる表示手段と、表示手段の動作を制御する表示制御手段と、を備え、表示制御手段は、表示手段で表示させる映像又は画像を、超音波スピーカから出力される指向性音と同期するように表示させることが好ましい。これにより、例えば出力対象が人等の場合において、映像又は画像や指向性音に対しての出力対象の注目度合(関心度合)を高めることができる。
【0012】
また、出力対象は、複数存在する場合がある。この場合、スピーカ制御手段は、複数の出力対象のうち出力対象認識手段からの距離が近い一部の出力対象の位置に関する情報に応じて、複数の超音波トランスデューサに入力される音声信号のそれぞれにディレイタイムを付加することが好ましい。これにより、好適に選定された複数の出力対象に向けて指向性音を出力できると共に、スピーカ制御手段による制御の煩雑さを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、出力対象が複数の場合でも、簡易な構成で指向性音を出力対象に向けて出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る音響システムを示す正面図である。
【図2】図1の音響システムを示す概略構成図である。
【図3】図1の音響システムの動作を示すフローチャートである。
【図4】指向性音の方向と位相シフト量との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、「上」「下」「左」「右」の語は、図面に示す状態に基づいており、便宜的なものである。
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係る音響システムを示す正面図、図2は図1の音響システムを示す概略構成図である。本実施形態の音響システムは、音声を映像と共に出力する広告媒体としてのデジタルサイネージ等に用いられるものである。この音響システムは、特定方向に対し強く音波(音)を伝播させる性質である指向性を有する指向性音を、1又は複数の対象者(出力対象)に向けて出力する。
【0017】
図1,2に示すように、音響システム1は、ディスプレイ2、超音波スピーカ3、カメラ4、及びコントローラ5を備えている。ディスプレイ2は、その前面の画面2aに映像(動画)を表示させる表示手段である。ディスプレイ2としては、特に限定されるものではなく、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の種々の装置を用いることができる。
【0018】
超音波スピーカ3は、超音波を用いて鋭い指向性を有する指向性音Sを出力するものであり、ディスプレイ2の下方に配置されている。この超音波スピーカ3は、複数の超音波トランスデューサ31と、複数のアンプ32と、を有している。超音波トランスデューサ31は、超音波を発する素子であり、ここでは、発した超音波を空気によって復調させて可聴音を再生させる。超音波トランスデューサ31としては、例えば圧電セラミック素子等が用いられている。なお、可聴音の周波数域は、通常、約20Hz〜20kHzとされている。
【0019】
これら複数の超音波トランスデューサ31は、前方視において、前方に向けて超音波を発する姿勢でマトリクス状に並設(換言すると、縦方向及び横方向に並ぶよう配設)されている。すなわち、超音波スピーカ3にあっては、複数の超音波トランスデューサ31が平面状に並設されたパラメトリックアレイを構成し、超指向性を有するビーム状の可聴音としての指向性音Sを、1又は複数の対象者に向けて出力する。
【0020】
アンプ32は、複数の超音波トランスデューサ31に入力される音声信号を増幅するものであり、超音波トランスデューサ31の数と同じ数だけ(換言すると、複数の超音波トランスデューサ31毎に)設けられている。ここでは、後述するように音声信号に高速1bit信号処理が施されていることから、アンプ32は、汎用ロジックIC(Integrated Circuit)を用いたクラスDアンプとされている。
【0021】
カメラ4は、対象者を認識するための装置であり、ディスプレイ2の上方において左右方向の中央部に配置されている(図1参照)。このカメラ4は、機能的な構成要素として、撮像部41と、角度算出部42と、を有している。撮像部41は、カメラ4の前方側を撮像し、撮像画像から対象者を検出するためのものである。この撮像部41における対象者検出手法としては、顔認識アルゴリズムに基づくパターンマッチング手法等を採用してもよいし、その他の一般的な手法を採用してもよい。角度算出部42は、撮像部41で対象者を検出した場合、カメラ4方向(つまり、カメラ4のレンズの光軸に沿った方向:基準方向)からの対象者の角度(以下、単に「対象者の角度」ともいう)を位置に関する情報として算出し、この算出した角度を認識結果としてコントローラ5へ入力する。
【0022】
コントローラ5は、例えばCPU、ROM、及びRAM等から構成されており、機能的な構成要素として、格納部(格納手段)51と、音声制御部(音声制御手段)52と、表示制御部(表示制御手段)53と、スピーカ制御部(スピーカ制御手段)54と、を有している。
【0023】
格納部51は、可聴音の音源データ(音源情報)Dと、音声信号Kを生成するために音源データDにかけ合わされる超音波領域(例えば、40kHz)の搬送波Hと、を格納するものである。ここでの格納部51は、対象者の種別毎に関連づけられた第1及び第2音源データD1,D2と、第1及び第2音源データD1,D2それぞれにかけ合わされる搬送波H1,H2と、を格納する。なお、本実施形態では、第1音源データD1は子供向け音源データとされ、第2音源データD2は大人向け音源データとされている。
【0024】
音声制御部52は、カメラ4により認識された対象者の種別に基づいて音声信号Kの内容を制御する。具体的には、音声制御部52は、カメラ4で認識された対象者の角度に応じて格納部51に格納された音源データDから一の音源データDを選択し、選択した音源データDに搬送波Hをかけ合わせて音声信号Kを生成・設定し、当該音声信号Kをスピーカ制御部54へ入力する。
【0025】
表示制御部53は、ディスプレイ2の動作を制御する。具体的には、表示制御部53は、スピーカ制御部54に入力される音声信号Kに基づいて、超音波スピーカ3から出力される指向性音Sと同期(シンクロ)するように映像データD3をディスプレイ2の画面2a上に表示させる。
【0026】
スピーカ制御部54は、カメラ4による対象者の認識結果に基づいて、超音波スピーカ3から出力される指向性音Sの方向を制御する。このスピーカ制御部54は、ΔΣ変調部(信号処理部)54a、複数の位相シフト量加算部54b、及び複数の合成部54cを含んで構成されている。ΔΣ変調部54aは、入力された音声信号をΔΣ変調することにより当該音声信号Kに高速1bit信号処理を施す。このΔΣ変調部54aは、処理後の音声信号Kを複数の位相シフト量加算部54bへ分岐させて入力する。
【0027】
複数の位相シフト量加算部54bは、カメラ4で認識された対象者の角度に応じて、複数の超音波トランスデューサ31それぞれに互いに異なる位相シフト量(位相のズレ)を加算する。すなわち、位相シフト量加算部54bは、超音波スピーカ3から対象者に向けて指向性音Sを出力させるべく、複数の超音波トランスデューサ31に入力される高速1bit信号処理後の音声信号Kそれぞれについて、対象者の角度に応じて互いに異なる長さを有するディレイタイムを算出する。そして、算出した各ディレイタイムを当該音声信号それぞれに付加する。
【0028】
これら複数の位相シフト量加算部54bは、複数の超音波トランスデューサ31毎に設けられていると共に、モジュール55としてモジュール化されている。モジュール55は、格納部51に格納される音源データDの数だけ複数設けられている。ここでは、モジュール55は、2つのモジュール55a,55bを有している。
【0029】
複数の合成部54cは、複数の超音波トランスデューサ31毎に設けられている。この合成部54cは、モジュール55aの複数の位相シフト量加算部54bによりディレイタイムが付加された音声信号Kと、モジュール55bの複数の位相シフト量加算部54bによりディレイタイムが付加された音声信号Kと、を合成して合成音声信号K3を生成し、この合成音声信号K3をアンプ32へ入力する。
【0030】
次に、上述した音響システム1を用いて対象者に指向性音Sを出力する場合について、図3に示すフローチャートを参照しつつ詳細に説明する。なお、ここでの説明では、複数の対象者のそれぞれに指向性音Sを同時出力する場合を例示する。
【0031】
まず、カメラ4により前方側を撮像して撮像画像を取得し、この撮像画像中にて対象者が検出されるか否か(対象者が存在するか否か)を判定する(S1,S2)。続いて、互いに異なる位置に存在する複数の対象者が検出された場合、カメラ4方向から当該複数の対象者への各角度を算出し、算出した角度情報を音声制御部52及びスピーカ制御部54へ出力する。
【0032】
このとき、2人の対象者が検出された場合、第1対象者の角度を第1角度(θ、φ)として算出すると共に、第2対象者の角度を第2角度(θ、φ)として算出する。一方、3人以上の対象者が検出された場合、カメラ4から距離の近い2人を第1及び第2対象者として選定し、これら第1及び第2対象者の角度を第1角度(θ、φ)及び第2角度(θ、φ)として算出する(S3〜S6)。
【0033】
続いて、音声制御部52により、第1及び第2対象者の第1角度(θ、φ)及び第2角度(θ、φ)に基づいて、格納部51に格納された音源データDから音声信号Kを設定しスピーカ制御部54へ入力する。具体的には、まず、第1角度(θ、φ)及び第2角度(θ、φ)が、予め設定された設定角度より小さいか否かの判定を行う(S7)。
【0034】
上記S7において第1角度(θ、φ)が設定角度よりも小さい場合、第1対象者は子供であると判定し、子供用の音源データD1を選択し、当該音源データD1に搬送波H1を搬送波として周波数変調又は振幅変調をかけた第1音声信号K1を生成し、スピーカ制御部54に入力する(S8)。一方、上記S7において第1角度(θ、φ)が設定角度以上の場合、第1対象者は大人であると判定し、大人用の第2音源データD2を選択し、当該第2音源データD2に搬送波H2を搬送波として周波数変調又は振幅変調をかけた第1音声信号K1を生成し、スピーカ制御部54に入力する(S9)。
【0035】
これに加え、上記S7において、第2角度(θ、φ)が設定角度よりも小さい場合、前述と同様に、第1音源データD1及び搬送波H1から第2音声信号K2を生成してスピーカ制御部54に入力する一方、第2角度(θ、φ)が設定角度以上の場合、第2音源データD2及び搬送波H2から第2音声信号K2を生成してスピーカ制御部54に入力する。
【0036】
続いて、ΔΣ変調部54aにより、入力された音声信号KをΔΣ変調して音声信号Kに高速1bit信号処理を施す(S10)。そして、高速1bit信号処理後の第1音声信号K1をモジュール55aの各位相シフト量加算部54bへ分岐させて入力すると共に、高速1bit信号処理後の第2音声信号K2をモジュール55bの各位相シフト量加算部54bへ分岐させて入力する。
【0037】
続いて、モジュール55aにおける各位相シフト量加算部54bのそれぞれにより、カメラ4から入力された第1角度(θ,φ)及び第2角度(θ,φ)に応じてディレイタイムを算出し、当該ディレイタイムを第1音声信号K1に付加する。これと共に、モジュール55bにおける各位相シフト量加算部54bのそれぞれにより、カメラ4から入力された第1角度(θ,φ)及び第2角度(θ,φ)に応じてディレイタイムを算出し、当該ディレイタイムを第2音声信号K2に付加する(S11)。
【0038】
このディレイタイムは、複数の超音波トランスデューサ31に異なる位相シフト量τを与えるものであって、複数の超音波トランスデューサ31毎に互いに異なるよう算出される。位相シフト量τは、例えば下式(1)により求めることができる(図4参照)。例えば、複数の超音波トランスデューサ31間の距離が10mm、音速が343m/sのときにおいて、1.4度の精度で指向性音Sの出力方向制御を行うためには、1/1.4MHz=709nsの分解能でディレイタイムが付加される。
τ=1/c・cos(φ−atan(y/x))・cosθ・√(x+y)…(1)
但し、c:音速(定数)
x:基準となる超音波トランスデューサから、ディレイタイムを加える当該超音波トランスデューサへのx方向の距離
y:基準となる超音波トランスデューサから、ディレイタイムを加える当該超音波トランスデューサへのy方向の距離
【0039】
続いて、合成部54cにより、複数の超音波トランスデューサ31それぞれについて、ディレイタイムが付加された第1及び第2音声信号K1、K2を合成して合成音声信号K3を生成し、この合成音声信号K3をアンプ32を介して入力する(S12)。そして、上記S1〜S13の処理をループするよう繰り返し実行する。
【0040】
その結果、第1対象者を追尾するように当該第1対象者に向けて、第1対象者が子供の場合には第1音源に係る指向性音Sが、又は第1対象者が大人の場合には第2音源に係る指向性音Sが出力される。加えて、第2対象者を追尾するように当該第2対象者に向けて、第2対象者が子供の場合には第1音源に係る指向性音Sが、又は第2対象者が大人の場合には第2音源に係る指向性音Sが出力される(S13)。
【0041】
他方、上記S10〜S13に合わせて、表示制御部53により、スピーカ制御部54に入力される音声信号Kに基づいて、超音波スピーカ3から出力される指向性音Sと同期するように映像データD3をディスプレイ2の画面2a上に表示させる。その結果、画面2a上に指向性音Sとシンクロしたかたちで映像が映される。
【0042】
以上、本実施形態においては、カメラ4により認識された第1及び第2出力対象の角度(θ、φ),(θ、φ)に応じて、複数の超音波トランスデューサ31に入力される各音声信号K1,K2にディレイタイムが付加され、第1音源データD1及び第2音源データD2の少なくとも一方に基づく指向性音Sの方向が可変される。つまり、多数の超音波トランスデューサ31の位相を少しずつずらすことにより、指向性音Sの出力方向が所望にコントロールされる。
【0043】
従って、本実施形態では、超音波スピーカ3自体を物理的に駆動すること無く、また、超音波スピーカ3を複数備えること無く、第1及び第2対象者を追尾するよう当該第1及び第2対象者のそれぞれに指向性音Sをピンポイントで出力することができる。よって、複数の対象者に対する場合であっても、簡易な構成で指向性音Sを精度よく出力することが可能となる。
【0044】
ところで、例えばマルチビット信号等の音声信号にディレイタイムを付加する場合、指向性音Sの出力方向制御における角度分解能が低くなってしまう場合があり、かかる出力方向制御の精度が悪くなることがある。さらにこの場合、超音波トランスデューサ31の数だけDAコンバータ等を用意する必要があり、構成が大規模・高価になることが懸念される。
【0045】
これに対し、本実施形態では、上述したように、音声信号Kにディレイタイムを付加する前に、ΔΣ変調部54aによって音声信号Kに高速1bit信号処理を施すことから、次の作用効果が奏される。すなわち、高いサンプリング周波数(1.4MHz以上)を使用することができ、ディレイタイムの時間分解能(つまり、指向性音Sの出力方向制御の角度分解能)を容易に高めることができる。また、1bit信号自体が音声信号のスペクトルを有するため、上記のように、非常に安価な汎用ロジックICをアンプ32として使用できると共に、音声信号Kをそのまま超音波トランスデューサ31に入力して該超音波トランスデューサ31を駆動することができる。よって、指向性音Sの出力に係る構成の低コスト化、小型化及び省電力化が可能となる。従って、ディレイタイムの高い時間分解能を、簡易な構成で容易に実現することが可能となる。
【0046】
なお、本実施形態のように、超音波スピーカ3を用いる場合、超音波は指向性が鋭くて聞こえる幅が狭いことから、高い精度で指向性音Sの出力方向を角度指定する必要がある。この点において、本実施形態の高速1bit信号処理を施した音声信号Kは、特に有効なものとなる。
【0047】
また、本実施形態では、上述したように、カメラ4により認識された第1及び第2対象者の角度(θ、φ),(θ、φ)から、第1及び第2対象者が大人であるか子供であるかを判定している、つまり、第1及び第2対象者の種別を判定している。そして、この判定結果に基づいて第1及び第2音源データD1,D2を選択して音声信号K1,K2を設定すると共に、第1及び第2対象者の角度(θ、φ),(θ、φ)に応じて第1及び第2音声信号K1,K2にディレイタイムを付加し、当該第1及び第2音声信号K1,K2を合成した合成音声信号K3を複数の超音波トランスデューサ31のそれぞれに入力している。これにより、第1及び第2対象者の種別によって、音声信号K1,K2の基となる音源データDを第1及び第2音源データD1,D2の間で変えることができ、第1対象者の種別に応じた指向性音Sを第1対象者に向けて出力すると共に、第2対象者の種別に応じた指向性音Sを第2対象者に向けて出力することができる。
【0048】
また、本実施形態では、上述したように、表示制御部53により、ディスプレイ2上に指向性音Sと同期するよう映像を表示させている。よって、映像や指向性音に対しての対象者の注目度合(関心度合)を高めることができる。なお、本実施形態では、映像データD3に代えて若しくは加えて画像(静止画)データが備えられ、映像に代えて若しくは加えて画像をディスプレイ2上に表示させる場合もある。
【0049】
また、本実施形態では、上述したように、対象者が3人以上検出された場合、カメラ4からの距離が近い2人の対象者の角度(θ、φ),(θ、φ)に応じて音声信号Kにディレイタイムを付加している。これにより、複数の対象者から好適に選定された一部の対象者に向けて指向性音Sを出力することができると共に、コントローラ5における制御の煩雑さを抑制することが可能となる。
【0050】
なお、本実施形態では、音響システム1をデジタルサイネージに適用しているが、これの他に、例えばマルチプレイヤーゲーム機、車載音響システム、ヘッドフォン等にも適用することができる。マルチプレイヤーゲーム機に適用した場合、複数のプレイヤーが動いている場合でも、当該プレイヤーに向けて異なった指向性音Sを出力することができる。また、車載音響システムに適用した場合、ドライバと乗員とに向けて異なった指向性音Sを出力することができる。また、ヘッドフォンに適用することで、使用者は耳に取り付けるパッドやイヤフォンを装着せずに音を聴き取ることが可能となり、煩わしさを解消して自由に体を動かすことができる。
【0051】
ちなみに、指向性音Sを出力する出力対象は、本実施形態のように対象者(人)に限定されるものではなく、対象物(物)であってもよいし、人以外の動物や植物であってもよいし、これらの部位(箇所)であってもよい。
【0052】
また、本実施形態のスピーカ制御部54は、超音波スピーカ3からの指向性音Sの出力を好適に行うため、並設された複数の超音波トランスデューサ31のうち対象者に近い一方側領域に並設された複数の超音波トランスデューサ31に入力される音声信号Kにのみ当該対象者の角度に応じたディレイタイムを付加し、一方側領域における複数の超音波トランスデューサ31のみから指向性音Sを出力させてもよい。例えば、超音波スピーカ3の左側で第1対象者が検出され、右側で第2対象者が検出された場合、複数の超音波トランスデューサ31のうち左側領域に並ぶ複数の超音波トランスデューサ31から指向性音Sを第1対象者に向けて出力すると共に、右側領域に並ぶ複数の超音波トランスデューサ31から指向性音Sを第2対象者に向けて出力してもよい。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0054】
例えば、上記実施形態では、指向性音Sとして可聴音を出力しているが、指向性音Sは特に周波数制限されるものではなく、様々な周波数の音(音声)としてもよい。また、上記実施形態では、音声信号Kを高速1bit信号処理によって1bit信号へ変調しているが、かかる変調を行わず、音声信号Kをマルチビット信号のままとする場合もある。
【0055】
また、上記実施形態では、出力対象を2つ(2人)として2方向に指向性音Sを出力しているが、理論上、出力対象を3つ以上として3方向以上の方向に指向性音Sを出力することもできる。さらには、出力対象を1つとして1方向のみに指向性音Sを出力することもできる。
【0056】
また、上記実施形態では、音声信号Kを設定する際、音源データD及び搬送波Hをリアルタイム処理で生成しているが、音源データD及び搬送波Hを予め処理したものをメモリ等に保存していてもよい。また、出力対象認識手段としてカメラ4を用いているが、これに限定されず、例えばPIR(Passive Infrared Ray)等の人体検知センサを用いてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、格納部51に音源データD1,D2を格納し、これらの少なくとも一方に基づく指向性音Sを出力しているが、これに限定されるものではない。格納部51に1つの音源データを格納して当該1つの音源データに基づく指向性音Sを出力してもよいし、格納部51に3つ以上の音源データを格納して当該3つ以上の音源データの少なくとも1つに基づく指向性音Sを出力してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…音響システム、2…ディスプレイ(表示手段)、3…超音波スピーカ、4…カメラ(出力対象認識手段)、31…超音波トランスデューサ、51…格納部(格納手段)、52…音声制御部(音声制御手段)、53…表示制御部(表示制御手段)、54…スピーカ制御部(スピーカ制御手段)、54a…ΔΣ変調部(信号処理部)、D…音源データ(音源情報)、D1…第1音源データ(音源情報)、D2…第2音源データ(音源情報)、K…音声信号、K1…第1音声信号(音声信号)、K2…第2音声信号(音声信号)、S…指向性音。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス状に並設された複数の超音波トランスデューサを含んで構成され、指向性を有する指向性音を出力する超音波スピーカと、
前記指向性音を出力する1又は複数の出力対象を認識するための出力対象認識手段と、
前記出力対象認識手段による認識結果に基づいて、前記超音波スピーカから出力される前記指向性音の方向を少なくとも制御するスピーカ制御手段と、を備え、
前記スピーカ制御手段は、
前記出力対象認識手段で認識された1又は複数の前記出力対象の位置に関する情報に応じて、複数の前記超音波トランスデューサに入力される音声信号のそれぞれにディレイタイムを付加することにより、1又は複数の前記出力対象を追尾するよう当該出力対象に向けて、1又は複数の音源情報に基づく前記指向性音を出力させること、を特徴とする音響システム。
【請求項2】
前記スピーカ制御手段は、前記音声信号に前記ディレイタイムを付加する前に前記音声信号に高速1bit信号処理を施す信号処理部を含んで構成されていること、を特徴とする請求項1記載の音響システム。
【請求項3】
1又は複数の前記音源情報を少なくとも格納する格納手段と、
前記音声信号の内容を制御する音声制御手段と、を備え、
前記音声制御手段は、
前記出力対象認識手段による認識結果に基づいて1又は複数の出力対象の種別を判定し、判定した前記種別に応じて前記格納手段における1又は複数の前記音源情報から一の音源情報を選択し、選択した一の前記音源情報により前記音声信号を設定すること、を特徴とする請求項1又は2記載の音響システム。
【請求項4】
前記出力対象は、人であること、を特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の音響システム。
【請求項5】
1又は複数の前記出力対象の位置に関する情報は、1又は複数の前記出力対象の基準方向からの角度であること、を特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の音響システム。
【請求項6】
映像又は画像を表示させる表示手段と、
前記表示手段の動作を制御する表示制御手段と、を備え、
前記表示制御手段は、
前記表示手段で表示させる前記映像又は画像を、前記超音波スピーカから出力される前記指向性音と同期するように表示させること、を特徴とする請求項1〜5の何れか一項記載の音響システム。
【請求項7】
前記出力対象は、複数存在すること、を特徴とする請求項1〜6の何れか一項記載の音響システム。
【請求項8】
前記スピーカ制御手段は、
複数の前記出力対象のうち前記出力対象認識手段からの距離が近い一部の出力対象の位置に関する情報に応じて、複数の前記超音波トランスデューサに入力される前記音声信号のそれぞれにディレイタイムを付加すること、を特徴とする請求項7記載の音響システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−175162(P2012−175162A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32147(P2011−32147)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(599126800)株式会社エムティーアイ (17)
【Fターム(参考)】