音響構造体
【課題】音響構造体の利用者がその吸音効果と散乱効果を調整できるようにする。
【解決手段】音響構造体10では、複数のパイプ20−i(i=1〜6)が、紐27L,27Rにより連結されている。音響構造体10におけるパイプ20−i(i=1〜6)間の距離は伸縮することができる。音響構造体10を音響空間内において吊り下げると、パイプ20−i(i=1〜6)が吸音効果および散乱効果を発生させる。そして、この吸音効果および散乱効果の大きさが、パイプ20−i間の距離に応じて変化する。
【解決手段】音響構造体10では、複数のパイプ20−i(i=1〜6)が、紐27L,27Rにより連結されている。音響構造体10におけるパイプ20−i(i=1〜6)間の距離は伸縮することができる。音響構造体10を音響空間内において吊り下げると、パイプ20−i(i=1〜6)が吸音効果および散乱効果を発生させる。そして、この吸音効果および散乱効果の大きさが、パイプ20−i間の距離に応じて変化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響空間における音響障害を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホールや劇場などの壁に囲まれた音響空間では、平行対面する壁面間で音が繰り返し反射することによりブーミングやフラッターエコーなどの音響障害が発生する。特許文献1には、この種の音響障害の防止に好適な技術の開示がある。同文献に開示された音響構造体は、音響空間の内壁や天井などに設置して利用される。この音響構造体は、全体として平面をなすように並列配置された複数の角筒状のパイプを有している。これらのパイプは、同じ方向を向いた開口部を各々有している。そして、音響構造体は、各パイプの開口部を音響空間の中央に向けた状態で、音響空間の内壁や天井などに設置される。
【0003】
音響空間内において発生した音は、音響構造体の各パイプの開口部を介して各々の内部の空洞に入射する。各パイプの空洞に入射した音はそれらのパイプの共鳴周波数に応じた定在波を発生させる。各パイプの空洞内で発生した定在波は各パイプの開口部から音響空間に向けて放射される。この結果、開口部の近傍において、吸音効果および散乱効果が発生し、音響空間から音響構造体のパイプに向かって伝搬される音の音響エネルギーがパイプにおいて散逸される。その結果、音響空間内における音響障害の発生が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−30744号公報
【特許文献2】特開2010−84509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の音響構造体は、複数のパイプが互いに固定されており、全体として大型であるため、未使用時に場所を取り、また、運搬に不便であるという問題があった。
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、収納や運搬に便利な音響構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、各々の内部に空洞が形成され前記空洞を包囲する側面に開口部が設けられた複数のパイプと、前記複数のパイプにおける隣り合ったパイプ間を連結する手段であって、それ自体の折り曲げが可能な連結手段とを具備する音響構造体を提供する。本発明によれば、利用者は、収納や運搬が容易になるように、連結手段により連結された複数のパイプからなる音響構造体の全体としての形状を変えることができる。それ自体の折り曲げが可能な連結手段としては、例えば紐が挙げられる。連結手段は、音響構造体の収納時または運搬時に各パイプがばらばらにならないように各パイプ間の連結を行う役割を担う他、音響構造体の音響空間内での使用時に、各パイプの相対的な位置関係を固定する役割を担うものであってもよい。
【0007】
また、本発明は、各々の内部に空洞が形成され前記空洞を包囲する側面に開口部が設けられた複数のパイプと、前記複数のパイプにおける隣り合ったパイプ間を連結する手段であって、それ自体の分離及び結合が可能な連結手段とを具備する音響構造体を提供する。本発明によっても、利用者は、収納や運搬が容易になるように、連結手段により連結された複数のパイプからなる音響構造体の全体としての形状を変えることができる。それ自体の分離及び結合が可能な連結手段としては、例えばボタンや面ファスナーが挙げられる。この連結手段も、音響構造体の収納時または運搬時に各パイプがばらばらにならないように各パイプ間の連結を行う役割を担う他、音響構造体の音響空間内での使用時に、各パイプの相対的な位置関係を固定する役割を担うものであってもよい。
【0008】
また、隣り合うパイプ間の距離を調整する手段を設けてもよい。この態様によれば、音響構造体の音響空間での使用時における各パイプの配置の自由度を高め、吸音効果および散乱効果の調整を行うことが可能になる。
【0009】
また、連結手段に加えて、前記複数のパイプに所定の位置関係を持たせて前記複数のパイプを固定する固定部材を設けてもよい。この態様において、連結手段は、各パイプの相対的な位置関係を固定する役割を果たすものである必要はなく、単に音響構造体の収納時または運搬時に各パイプがばらばらにならないように各パイプ間の連結を行う役割を果たすものであればよい。
【0010】
固定部材は、各パイプの端部の位置において各パイプの固定を行うものであってもよく、各パイプの途中の位置において各パイプの固定を行うものであってもよい。前者の場合において、各パイプの端部が内部の空洞に連通する開口端である場合には、固定部材がこの開口端を塞いでもよい。また、前者の場合において、各パイプの開口端を塞ぐ手段として、ヘルムホルツ共鳴器を固定部材に設けてもよい。この態様によれば、各パイプの共鳴特性を調整し、吸音効果および散乱効果の調整を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の第1実施形態である音響構造体の構成を示す図である。
【図2】同音響構造体の紐によるパイプの連結の態様を示す図である。
【図3】同音響構造体のパイプを巻いて束ねた状態を示す図である。
【図4】同音響構造体におけるパイプの縦断面図である。
【図5】同音響構造体による吸音効果および散乱効果の発生の原理を示す図である。
【図6】この発明の第2実施形態である固定部材の構成を示す図である。
【図7】同固定部材のパイプへの装着の仕方を示す図である。
【図8】この発明の第3実施形態である音響構造体のパイプおよび紐の構成を示す図である。
【図9】この発明の第3実施形態である音響構造体の固定部材の構成を示す図である。
【図10】同音響構造体の固定部材の縦断面図である。
【図11】同音響構造体のパイプとキャップの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態である音響構造体11の構成を示す図である。
この音響構造体11において、パイプ20−i(i=1〜6)は、スチール材などの高い剛性を有する素材を円筒状に成形したものである。パイプ20−i(i=1〜6)における各パイプ20−iの内部には空洞23−iがある。パイプ20−iにおける空洞23−iを包囲する側面21−iには空洞23−iと外部空間とを連通する開口部22−iが設けられている。また、空洞23−iの左端および右端は、パイプ20−iの延在方向における左側の端面1L−iおよび右側の端面1R−iによって塞がれている。
【0013】
パイプ20−i(i=1〜6)は、各々の両端の位置を揃え且つ各々を平行にして、全体として簾状に並べられ、連結手段である紐30L,30Rによって連結されている。本実施形態では、複数のパイプ20−i(i=1〜6)は、隣り合う2本のパイプ20−i間の距離を調整できるような態様で紐30L,30Rにより連結されている。そのような連結手段の態様としては、たとえば、以下に示すものがある。
【0014】
図2に示す態様では、紐30Lを2本の紐30La,30Lbとし、紐30Rを2本の紐30Ra,30Rbとする。この態様では、紐留め具13L−k(k=1〜12)によって紐30La,30Lbにおける所望の位置を束ね、紐留め具13R−k(k=1〜12)によって紐30Ra,30Rbにおける所望の位置を束ねる。そして、紐30La,30Lbにおける紐留め具13L−k,13L−(k+1)によって束ねられた位置の間にできる輪と紐30Ra,30Rbにおける紐留め具13R−k,13R−(k+1)によって束ねられた位置の間にできる輪にパイプ20−iが嵌め込まれる。この態様では、紐30La,30Lb,30Ra,30Rbにおける紐留め具13L−k(k=1〜12),13R−k(k=1〜12)の位置を変えることにより、パイプ20−i(i=1〜6)間の距離を調整することができる。
【0015】
また、紐留め具13L−k(k=1〜12)および13R−k(k=1〜12)としては、例えば2本の紐30La,30Lbまたは30Ra,30Rbが挿通される貫通孔を有するとともに、この貫通孔と直角をなすように空けられた雌ネジ孔と、この雌ネジ孔に螺合される雄ネジとを有する構成のものが考えられる。この態様によれば、貫通孔に2本の紐30La,30Lbまたは30Ra,30Rbを挿通させた状態で雄ネジを締めることにより、雄ネジの先端が貫通孔内の2本の紐を押さえ、貫通孔内の2本の紐を固定する。また、雄ネジを緩めることにより、雄ネジの先端が貫通孔内の2本の紐を押える力が弱まり、貫通孔に対して2本の紐を滑らせることができる。従って、2本の紐に対する紐留め具13L−k(k=1〜12)および13R−k(k=1〜12)の位置を自由に調整することができる。
【0016】
以上が、音響構造体11の構成の詳細である。利用者は、音響構造体11を使用しないときは、図3に示すように、パイプ20−i(i=1〜6)を紐30L,30Rにより連結したまま簀巻き状に巻き束ねて収納スペースに収納しておくことができる。そして、利用者は、音響空間において音響構造体11を使用するときは、音響構造体11を収納スペースから音響空間に運び出し、以下のようにして設置する。まず、音響構造体11における巻き束ねられたパイプ20−i(i=1〜6)を伸展する。次に、伸展したパイプ20−i(i=1〜6)間の距離を所望の距離へと調整する。その上で、音響構造体11のパイプ20−i(i=1〜6)の開口部22−i(i=1〜6)を音響空間の中央に向けた状態で、紐30L,30Rの一端を音響空間内の壁のフックなどに結びつけることにより、音響構造体11を吊り下げる。このようにして音響空間内に設置された音響構造体11におけるパイプ20−i(i=1〜6)は、各々吸音効果および散乱効果を発生させる。以下、パイプ20−i(i=1〜6)のうちパイプ20−1を例にとり、吸音効果および散乱効果の発生の原理について説明する。
【0017】
図4(A)は、音響構造体11におけるパイプ20−1の縦断面図である。図4(B)は、パイプ20−1の横断面図である。図4(B)に示すように、パイプ20−1の側面21−1は湾曲している。よって、音響空間からパイプ20−1の側面21−1へ入射する音波の多くは、パイプ20−1の側面21−1での反射により、音響空間における入射波の入射方向と異なる方向に向けて放射される。これにより、散乱効果が発生する。
【0018】
また、図4(A)に示すように、音響構造体10における開口部22−1の奥の空洞23−1には、開口部22−1を開口端とし空洞23−1の左側の端部を閉口端とする音響管CP−aと、開口部22−1を開口端とし空洞23−1の右側の端部を開口端とする音響管CP−bとが形成されているとみなすことができる。音響空間から開口部22−1を介して空洞23−1内に音波が入射すると、空洞23−1内では、音響管CP−aの開口端(開口部22−1)から閉口端(空洞23−1の左側の端部)に向かう進行波と、音響管CP−bの開口端(開口部22−1)から閉口端(空洞23−1の右側の端部)に向かう進行波とが発生する。そして、前者の進行波は、音響管CP−aの閉口端において反射され、その反射波が開口部22−1へ戻る。また、後者の進行波は、音響管CP−bの閉口端において反射され、その反射波が開口部22−1へ戻る。
【0019】
そして、音響管CP−aでは、下記式(1)に示す共鳴周波数fan(n=1、2、…)において共鳴が発生し、音響管CP−a内において進行波と反射波とを合成した音波は、音響管CP−aの閉口端に粒子速度の節を有し、開口端に粒子速度の腹を有する定在波となる。また、音響管CP−bでは、下記式(2)に示す共鳴周波数fbn(n=1、2、…)において共鳴が発生し、音響管CP−b内において進行波と反射波とを合成した音波は、音響管CP−bの閉口端に粒子速度の節を有し、開口端に粒子速度の腹を有する定在波となる。なお、下記式(1)および(2)において、Laは音響管CP−aの延在方向の長さ(空洞23−1の左側の端部から開口部22−1までの長さ)、Lbは音響管CP−bの延在方向の長さ(空洞23−1の右側の端部から開口部22−1までの長さ)、cは音波の伝搬速度、nは1以上の整数である。
fan=(2n−1)・(c/(4・La)) (n=1,2…)…(1)
fbn=(2n−1)・(c/(4・Lb)) (n=1,2…)…(2)
【0020】
ここで、音響空間から開口部22−1および側面21−1における開口部22−1の近傍に入射する音波のうち共鳴周波数fanの成分に着目すると、音響管CP−aの閉口端において反射されて開口部22−1から音響空間へと放射される音波は、音響空間から開口部22−1に入射する音波に対して逆相の音波となる。一方、側面21−iにおける開口部22−1の近傍では、音響空間からの入射波が位相回転を伴うことなく反射される。
【0021】
よって、図5に示すように、共鳴周波数fan(n=1、2、…)の成分を含む音波が開口部22−1を介して空洞23−1に入射した場合、開口部22−1から見て入射方向(図5の吸音領域)に対しては、音響管CP−aから開口部22−1を介して放射される音波と側面21−1における開口部22−1の近傍の各点から反射される音波が逆相となって互いの位相が干渉し合い、吸音効果が発生する。また、開口部22−1からの音波と側面21−1からの反射波とが互いに隣接する散乱領域では、開口部22−1からの音波と側面21−1からの反射波の位相が不連続となる。このような位相差のある波が隣接することにより、散乱領域付近では、位相の不連続を解消しようとする気体分子の流れが発生する。この結果、散乱領域付近では、入射方向に対する鏡面反射方向以外の方向への音響エネルギーの流れが発生し、散乱効果が発生する。同様に、共鳴周波数fbn(n=1、2、…)の成分を含む音波が開口部22−1を介して空洞23−1に入射した場合、開口部22−1への入射方向に鏡面反射する方向(図5の吸音領域)に対しては、吸音効果が発生する。また、散乱領域付近では、散乱効果が発生する。
【0022】
また、共鳴周波数fanおよびfbnの各々の近傍の周波数帯域においては、共鳴周波数fanまたはfbnからずれていたとしても、周波数がある程度近ければ、開口部22−1から音響空間に放射される音波の位相と側面21−1から音響空間に放射される反射波の位相とが逆相に近い関係になる。このため、共鳴周波数fanおよびfbnの各々の近傍の周波数帯域では、共鳴周波数fanまたはfbnに対する周波数の近さに応じた程度の吸音効果および散乱効果が発生する。
【0023】
以上が、吸音効果および散乱効果の発生の原理である。音響構造体11におけるパイプ20−i(i=1〜6)がこの吸音効果および散乱効果を発生させることにより、音響空間からパイプ20−i(i=1〜6)に入射する音波の音響エネルギーの鏡面反射成分がパイプ20−i(i=1〜6)において散逸される。
【0024】
ここで、本実施形態における音響構造体11は6つのパイプ20−i(i=1〜6)を簾状に並べたものであるため、音響構造体11全体としての吸音効果および散乱効果の程度はパイプ20−i間の距離に依存して変化する。その理由は、次の通りである。各パイプ20−i(例えば、パイプ20−1とする)に入射する音波は、パイプ20−1の音響間CP−a及びCP−bから開口部20−1を介して放射される音波だけでなく、他のパイプ20−i(i≠1)において反射した音波とも干渉する。パイプ20−1とパイプ20−i(i≠1)との距離が近いほどこの干渉は起こりやすくなる。そして、パイプ20−1を介して放射される音波とパイプ20−i(i≠1)において反射した音波との間の干渉が大きいほど、パイプ20−1に入射する音波の鏡面反射成分の散逸量が大きくなる。
【0025】
音響構造体11全体としての吸音効果および散乱効果の程度がパイプ20−i間の距離に依存して変化する理由は、以上の通りである。本実施形態では、音響構造体11のパイプ20−i(i=1〜6)間の距離を調整することができる。よって、このパイプ20−i(i=1〜6)間の距離の調整を通じて、吸音効果および散乱効果を所望の大きさへと変化させることができる。
【0026】
また、本実施形態では、音響構造体11のパイプ20−i(i=1〜6)を巻き束ねることもできるし、巻き束ねたパイプ20−i(i=1〜6)を伸展することもできる。よって、音響構造体11を使用しないときは、パイプ20−i(i=1〜6)を簀巻き状に巻き束ねて狭小なスペースに収納することができる。
【0027】
また、本実施形態では、部屋等の剛壁に囲まれた音響空間における剛壁の前に音響構造体11を設置した場合、音響構造体11のパイプ20−i間を通り抜けて剛壁に到達し、剛壁に到達した音波の反射波が再びパイプ20−i間を通り抜けて音響空間に伝搬される。このパイプ20−i間を通り抜ける反射波の特性を決めるパラメータは、パイプ20−i(i=1〜6)の間から背後を見た音響インピーダンスである。そして、この音響インピーダンスは、パイプ20−i間の距離に依存する。よって、部屋等の剛壁に囲まれた音響空間における剛壁の前に音響構造体11を設置した場合、パイプ20−i自体によって反射される反射音の特性と、パイプ20−i間を通り抜け、その背後の剛壁によって反射される反射音の特性とを、パイプ20−i(i=1〜6)間の距離の調整を通じて変化させることができる。
【0028】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態では、第1実施形態のパイプ20−i(i=1〜6)(図1)に固定部材12L,12Rまたは13L,13R(図6)を装着したものを音響構造体11とし、その音響構造体11を音響空間に設置する。上述した第1実施形態では、紐30L,30Rにおいてパイプ20−i(i=1〜6)を収容する各輪の位置が音響空間内での使用時におけるパイプ20−i(i=1〜6)間の相対的位置関係(より具体的には、隣り合った2本のパイプ20−i間の距離)を決定した。これに対し、本実施形態では、固定部材12L,12Rまたは13L,13Rが音響空間内での使用時におけるパイプ20−i(i=1〜6)の相対的位置関係を決定する。
【0029】
本実施形態では、音響構造体11の音響空間内での使用時、固定部材12L,12Rまたは13L,13Rによりパイプ20−i間の相対的な位置関係が固定される。従って、各パイプ20−iが上下方向に並ぶような姿勢のみならず、各パイプ20−iが水平方向に並ぶような姿勢、各パイプ20−iが鉛直方向に対して斜めの方向に並ぶような姿勢等、任意の姿勢で音響構造体11を音響空間内に配置することが可能である。
【0030】
固定部材12Lは、板体2L上に6つのキャップ3L−i(i=1〜6)を固定したものであり、固定部材12Rは、板体2R上に6つのキャップ3R−i(i=1〜6)を固定したものである。また、固定部材13Lは、板体6L上に6つのキャップ7L−i(i=1〜6)を固定したものであり、固定部材13Rは、板体6R上に6つのキャップ7R−i(i=1〜6)を固定したものである。
【0031】
図6に示すように、固定部材12Lと12Rは対称な構成となっており、固定部材13Lと13Rは対称な構成となっている。固定部材12L,12Rと固定部材13L,13Rとでは、キャップ3L−i,3R−i,7L−i,7R−iの配列が異なる。すなわち、固定部材12L,12Rでは、キャップ3L−i,3R−iが一直線状に並んでおり、隣り合うキャップ3L−i,3R−i間の距離が均一である。一方、固定部材13L,13Rでは、キャップ7L−i,7R−iは一直線状に並んでおらず、隣り合うキャップ7L−i,7R−i間の距離も不均一である。
【0032】
キャップ3L−i,3R−i,7L−i,7R−iは、各々の空洞4L−i,4R−i,8L−i,8R−i内にパイプ20−iの端部を収容する構造になっている。キャップ3L−iを例にとり、その構造について具体的に説明する。キャップ3L−iは円筒状をなしており、キャップ3L−i内の空洞4L−iの内周径は、パイプ20−iの外周径よりも僅かに大きくなっている。そして、この空洞4L−iはキャップ3L−iにおける板体2Lに固定された側の反対側に開放されている。
【0033】
利用者は、音響構造体11を使用するときは、固定部材12L,12Rまたは13L,13Rのうち一方(たとえば、固定部材12L,12Rとする)を選ぶ。そして、以下のようにしてパイプ20−i(i=1〜6)に固定部材12Lおよび12Rを装着した上で、音響空間内に設置する。図7に示すように、まず、音響構造体11のパイプ20−i間の距離を、固定部材12L,12Rのキャップ3L−i,3R−i間の距離と同じかそれ以上の長さになるように拡げる。次に、パイプ20−iの左端をキャップ3L−iの空洞4L−iに収容させ、パイプ20−iの右端をキャップ3R−iの空洞4R−iに収容させる。
【0034】
本実施形態では、音響構造体11のパイプ20−i(i=1〜6)に固定部材12L,12Rまたは13L,13Rを装着した場合、パイプ20−i間の距離はその装着された固定部材12L,12Rまたは13L,13Rによって固定される。よって、音響構造体11を音響空間内に設置する度にパイプ20−i(i=1〜6)に同じ固定部材12L,12R(または固定部材13L,13R)を装着することにより、常に同じ大きさの吸音効果および散乱効果を発生させることができる。
【0035】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態である音響構造体11は、上述した固定部材12L(図6)と、図8に示すパイプ20’−i(i=1〜6)およびそれらの連結手段である紐30L,30Rと、図9に示す固定部材12’Rとを有する。本実施形態では、パイプ20’−i(i=1〜6)に固定部材12Lおよび12’Rを装着したものを音響構造体11として音響空間に設置する。本実施形態でも、上記第2実施形態と同様、音響構造体11の音響空間内での使用時、固定部材12L,12R’によりパイプ20’−i(i=1〜6)間の相対的な位置関係が固定される。従って、任意の姿勢で音響構造体11を音響空間内に配置することが可能である。
【0036】
図8において、図1に示されたものと同じ要素には同じ符号を付してある。図8に示すように、各パイプ20’−i内の空洞23−iの左端はパイプ20’−iの延在方向における左側の端面1L−iによって塞がれており、空洞23−iの右端は右側の端面1R’−iを貫いてその外側に開放されている。
【0037】
図9に示すように、固定部材12R’は、板体2R’上に6つのキャップ3R’−i(i=1〜6)を固定したものである。固定部材12L(図6)と同様に、固定部材12R’では、キャップ3R’−i(i=1〜6)が一直線上に並んでいる。そして、キャップ3R’−i間の距離(より具体的には、隣り合うキャップ3R’−iの軸同士の距離)は、キャップ3L−i間のそれと同じである。そして、キャップ3R’−iは、パイプ20’−iの延在方向における右端を収容するヘルムホルツ共鳴器となっている。より具体的に説明すると、図10の縦断面図に示すように、キャップ3R’−iは、小径部ST−iと大径部BT−iとを有している。キャップ3R’−i内の空洞4R’−iにおける小径部ST−iに包囲された部分の内周径はパイプ20−iの外周径よりも僅かに大きくなっており、その奥の大径部BT−iに包囲された部分の内周径は小径部ST−iに包囲された部分の内周径よりも十分に大きくなっている。そして、この空洞4R’−iは、キャップ3R’−iにおける板体2R’に固定された側の反対側に開放されている。
【0038】
ここで、このキャップ3R’−iは、下記式(3)に示す共鳴周波数fcにおいて共鳴を発生する。なお、下記式(3)において、Lcは空洞4R’−iにおける小径部ST−iに包囲された部分の長さ、Vcは空洞4R’−iにおける大径部BT−iに包囲された部分の容積、Sは空洞4R’−iにおける小径部ST−iに囲まれた部分の断面積、cは音波の伝搬速度を示す。
fc=c/2π・(S/Lc・Vc)1/2 ・・・(3)
【0039】
よって、パイプ20−i(i=1〜6)に固定部材12Lおよび12R’を装着した場合、図11に示すように、パイプ20−iの開口部22−iの奥には、前掲の式(1)に示した周波数fanにおいて共鳴する音響管CP−a、および前掲の式(2)に示した周波数fbnの1/2の周波数fbn/2において共鳴する音響管CP’−bと前掲の式(3)に示した周波数fcにおいて共鳴する音響管HPとを連結した音響管CHPが形成されているとみなすことができる。利用者は、キャップ3R’−iの空洞4R’−i内に当該空洞4R’−iの内容積を調整する内容積調整物質(例えば、砂、水、液状化した樹脂など)を詰め込み、空洞4R’−iにおける大径部BT−iに包囲された部分の容積Vcを小さくすることにより、吸音効果を発生させる帯域をより高域側に移動させることができる。また、キャップ3R’−iをその空洞4R’−iにおける大径部ST−iに包囲された部分の体積Vcを十分に大きなものとすることにより、パイプ20−iの長さをそれほど長くすることなく、より低い帯域において吸音効果を発生させることができる。
【0040】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
【0041】
(1)上記第1実施形態では、複数のパイプ20−i(i=1〜6)のすべてが紐30L,30Rに連結されていた。しかし、複数のパイプ20−i(i=1〜6)のうち隣り合うパイプ20−i,20−(i±1)の各々を紐30L−n(n=1〜5),30R−n(n=1〜5)により個別に連結するようにしてもよい。この場合において、パイプ20−i(i=1〜6)の側面21−i(i=1〜6)にボタンを固定するとともに、隣り合うパイプ20−i,20−(i±1)の各々を連結する紐30L−n(n=1〜5),30R−n(n=1〜5)の一端および他端にボタンを固定し、ボタンの嵌合によりパイプ20−iとパイプ20−(i±1)を連結するようにしてもよい。
【0042】
(2)隣り合った2本のパイプパイプ20−i間の連結を行う連結手段として、紐のようなそれ自体の折り曲げが可能な連結手段の他、それ自体の結合及び分離が可能な連結手段を用いてもよい。例えば各パイプ20−i(i=1〜6)の側面にその周回方向に沿って複数のボタン(雄と雌)を並べてもよい。すなわち、隣り合った2本のパイプ20−iの一方の雄ボタンと他方の雌ボタンを結合させることにより2本のパイプ20−i間の連結を行うのである。ここで、3本のパイプ20−iを順次連結する場合に、真ん中のパイプ20−iにおいて直径方向に並んだ各ボタンを隣の各2本のパイプ20−iとの連結に用いれば、3本のパイプ20−iを直線状に並べて連結することができる。一方、真ん中のパイプ20−iにおいて中心に対して直角をなす位置にある各ボタンを隣の各2本のパイプ20−iとの連結に用いれば、並びが直角に曲がるように3本のパイプ20−iを連結することができる。従って、収納時または運搬時には、全体としての音響構造体の形状を折り畳みベッドのようにコンパクトに畳んだ状態とすることができる。それ自体の結合/分離が可能な連結手段としては、ボタンの他、例えば面ファスナを利用してもよい。
【0043】
(3)上記第1実施形態において、紐30L,30Rの各々に6つのボタンを並べて固定するとともに、パイプ20−i(i=1〜6)の側面21−i(i=1〜6)にボタンを固定し、紐30L,30Rのボタンの各々にパイプ20−i(i=1〜6)のボタンを嵌合してもよい。
【0044】
(4)上記第2実施形態において、キャップ3L−i(i=1〜6),3R−i(i=1〜6)に代えて板体2L,2Rの各々の全面に面ファスナーを貼付したものを固定部材12L”,12R”とし、パイプ20−i(i=1〜6)の端面1L−i(i=1〜6),1R−i(i=1〜6)にも面ファスナーを固定してもよい。この態様によると、固定部材12L”,12R”とパイプ20−i(i=1〜6)の各々の面ファスナー同士を貼り合わせることによりパイプ20−i(i=1〜6)間の距離を固定できるだけでなく、板体2L,2Rの面ファスナーの前面におけるパイプ20−i(i=1〜6)側の面ファスナーの貼り合わせ箇所を変えることによってパイプ20−i(i=1〜6)間の距離を調整することもできる。
【0045】
(4)上記第1および第2実施形態では、パイプ20−i内の空洞23−iの左端および右端がパイプ20−iの左の端面1L−iおよび右の端面1R−iによって塞がれていた。しかし、パイプ20−iの空洞23−iをその左端および右端のうち一方または両方の側において開放させてもよい。そして、パイプ20−iの空洞23−iを左右の両方の側において開放させた場合における第2実施形態では、パイプ20−iの左側の端部だけに支持部材12Lまたは13Lを装着してもよいし、右側の端部だけに支持部材12Rまたは13Lを装着してもよい。また、左右の両方の端部に支持部材12L,12Rまたは13L,13Rを装着してもよい。
【0046】
(5)上記第3実施形態では、パイプ20’−i内の空洞23−iの左端がパイプ20’−iの左側の端面1L−iによって塞がれ、空洞23−iの右端が開放されていた。しかし、パイプ20’−i内の空洞23−iをその左端および右端の両方において開放させてもよい。そして、パイプ20−iの空洞23−iを左端および右端の両方において開放させた場合において、パイプ20−iの左側および右側の端部のうちの一方をヘルムホルツ共鳴器となるキャップに収容してもよいし、両方を収容してもよい。
【0047】
(6)上記第1〜第3実施形態において、紐30L,30Rに替えて金属製の鎖や革製のベルトによりパイプ20−i(i=1〜6),パイプ20’−i(i=1〜6)を連結してもよい。また、パイプ20−i(i=1〜6)における隣り合うパイプ20−i,20−(i±1)の側面21−i,21−(i±1)同士やパイプ20’−i(i=1〜6)における隣り合うパイプ20’−i,20’−(i±1)の側面21’−i,21’−(i±1)同士を剛体(たとえば、板や棒)により連結してもよい。
(7)上記第1〜第3実施形態において、パイプ20−i(i=1〜6)やパイプ20’−i(i=1〜6)の数を5つ以下にしてもよいし、7つ以上にしてもよい。
【0048】
(8)上記第2および第3実施形態において、パイプ20−i,20’−iの側面21−iの断面とキャップ3L−i,3R−i,7L−i,7R−i、3R’−iにおける空洞4L−i,4R−i,8L−i,8R−i、4R’−iの入口の断面を楕円形や矩形としてもよい。この実施形態によると、キャップ3L−i,3R−i,7L−i,7R−i、キャップ3R’−iの空洞4L−i,4R−i,8L−i,8R−i、4R’−i内に収納されたパイプ20−i,20’−iの回転が阻止される。よって、パイプ20−i(i=1〜6),20’−i(i=1〜6)に固定部材12L,13L,13R,12Rを装着した場合に、パイプ20−i(i=1〜6),20’−iの開口部22−i(i=1〜6)が同じ方向を向いた状態を維持することができる。
【0049】
(9)上記第1実施形態において、パイプ20−i(i=1〜6)の開口部22−i(i=1〜6)のうちの少なくとも一つ(たとえば、開口部22−1)におけるパイプ20−1の延在方向と平行な切断面の面積Soを空洞23−1におけるパイプ20−1の延在方向と直交する切断面の面積Spよりも小さくするとよい。面積Soを面積Spより小さくした音響構造体によると、より広い帯域において吸音効果を発生させることができるからである。
【0050】
面積Soを面積Spより小さくすることにより、広い帯域において吸音効果を発生させることができる理由は、次の通りである。上述したように、吸音効果は、パイプ20−i内の共鳴管CP−aおよびCP−bの共鳴周波数fanおよびfbnとその近傍の周波数の音波がパイプ20−iに入射した場合に、開口部22−iから音響空間に放射される音波の位相と側面21−iから音響空間に放射される反射波の位相とが逆相に近い関係になることにより発生する効果である。従って、パイプ20−iの開口部22−iを介してパイプ20−i内に入射する音波と開口部22−iからその音波の入射方向に向かって反射される反射波とが逆相関係に近くなるような周波数帯域が広いほど、吸音効果が発生する帯域も広くなるはずである。
【0051】
ここで、第1の媒質(たとえば、開口部22−i内の空気やパイプ20−iの材料である剛体)に向かって第2の媒質(たとえば、音響空間内の空気)から音波が垂直に入射した場合に両媒質の境界面bsurから入射方向に反射される反射波の振幅及び位相は、境界面bsurの比音響インピーダンス比ζ(ζ=r+jx:r=Re(ζ),x=Im(ζ))に依存して決まる。より具体的に説明すると、境界面bsurの比音響インピーダンス比ζの絶対値|ζ|が1未満である場合には、境界面bsurからは境界面bsurに入射する音波に対して±180°以内の位相差を持った反射波が放出される。そして、Im(ζ)>0であれば比音響インピーダンス比ζの虚部Im(ζ)の絶対値|Im(ζ)|が小さいほど位相差は+180°に近づいていき、Im(ζ)<0であれば比音響インピーダンス比ζの虚部Im(ζ)の絶対値|Im(ζ)|が小さいほど位相差は−180°に近づいていく。
【0052】
さらに、開口部22−iの切断面の面積Soと空洞23−iの切断面の面積Spの面積比rs(rs=So/Sp)が1より大きい(つまり、So>Sp)場合と面積比rsが1より小さい(つまり、So<Sp)場合の各々における比インピーダンス比ζの虚部Im(ζ)の周波数特性を比較すると、前者よりも後者の方が、周波数特性における虚部Im(ζ)がある値(例えば、Im(ζ)=1)以下となる帯域が広い(この面積比rsと虚部Im(ζ)の周波数特性との関係については、特許文献2(特に、図9)を参照されたい。)。よって、面積Soが面積Spよりも小さいほど、より広い帯域に渡って、開口部22−1に入射する音波に対して逆相に近い位相差を持った反射波を開口部22−iから放射することができる。以上の理由により、面積Soが面積Spよりも小さいくすることにより、より広い帯域において吸音効果を発生させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1,5,9,12…端面,2,6,6’…板体、3,7,7’…キャップ、4,8,11,23…空洞、11,11A…音響構造体、12L,12R,13L,13R…固定部材、20…パイプ、21…側面、22…開口部、30L,30R…紐。
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響空間における音響障害を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホールや劇場などの壁に囲まれた音響空間では、平行対面する壁面間で音が繰り返し反射することによりブーミングやフラッターエコーなどの音響障害が発生する。特許文献1には、この種の音響障害の防止に好適な技術の開示がある。同文献に開示された音響構造体は、音響空間の内壁や天井などに設置して利用される。この音響構造体は、全体として平面をなすように並列配置された複数の角筒状のパイプを有している。これらのパイプは、同じ方向を向いた開口部を各々有している。そして、音響構造体は、各パイプの開口部を音響空間の中央に向けた状態で、音響空間の内壁や天井などに設置される。
【0003】
音響空間内において発生した音は、音響構造体の各パイプの開口部を介して各々の内部の空洞に入射する。各パイプの空洞に入射した音はそれらのパイプの共鳴周波数に応じた定在波を発生させる。各パイプの空洞内で発生した定在波は各パイプの開口部から音響空間に向けて放射される。この結果、開口部の近傍において、吸音効果および散乱効果が発生し、音響空間から音響構造体のパイプに向かって伝搬される音の音響エネルギーがパイプにおいて散逸される。その結果、音響空間内における音響障害の発生が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−30744号公報
【特許文献2】特開2010−84509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の音響構造体は、複数のパイプが互いに固定されており、全体として大型であるため、未使用時に場所を取り、また、運搬に不便であるという問題があった。
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、収納や運搬に便利な音響構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、各々の内部に空洞が形成され前記空洞を包囲する側面に開口部が設けられた複数のパイプと、前記複数のパイプにおける隣り合ったパイプ間を連結する手段であって、それ自体の折り曲げが可能な連結手段とを具備する音響構造体を提供する。本発明によれば、利用者は、収納や運搬が容易になるように、連結手段により連結された複数のパイプからなる音響構造体の全体としての形状を変えることができる。それ自体の折り曲げが可能な連結手段としては、例えば紐が挙げられる。連結手段は、音響構造体の収納時または運搬時に各パイプがばらばらにならないように各パイプ間の連結を行う役割を担う他、音響構造体の音響空間内での使用時に、各パイプの相対的な位置関係を固定する役割を担うものであってもよい。
【0007】
また、本発明は、各々の内部に空洞が形成され前記空洞を包囲する側面に開口部が設けられた複数のパイプと、前記複数のパイプにおける隣り合ったパイプ間を連結する手段であって、それ自体の分離及び結合が可能な連結手段とを具備する音響構造体を提供する。本発明によっても、利用者は、収納や運搬が容易になるように、連結手段により連結された複数のパイプからなる音響構造体の全体としての形状を変えることができる。それ自体の分離及び結合が可能な連結手段としては、例えばボタンや面ファスナーが挙げられる。この連結手段も、音響構造体の収納時または運搬時に各パイプがばらばらにならないように各パイプ間の連結を行う役割を担う他、音響構造体の音響空間内での使用時に、各パイプの相対的な位置関係を固定する役割を担うものであってもよい。
【0008】
また、隣り合うパイプ間の距離を調整する手段を設けてもよい。この態様によれば、音響構造体の音響空間での使用時における各パイプの配置の自由度を高め、吸音効果および散乱効果の調整を行うことが可能になる。
【0009】
また、連結手段に加えて、前記複数のパイプに所定の位置関係を持たせて前記複数のパイプを固定する固定部材を設けてもよい。この態様において、連結手段は、各パイプの相対的な位置関係を固定する役割を果たすものである必要はなく、単に音響構造体の収納時または運搬時に各パイプがばらばらにならないように各パイプ間の連結を行う役割を果たすものであればよい。
【0010】
固定部材は、各パイプの端部の位置において各パイプの固定を行うものであってもよく、各パイプの途中の位置において各パイプの固定を行うものであってもよい。前者の場合において、各パイプの端部が内部の空洞に連通する開口端である場合には、固定部材がこの開口端を塞いでもよい。また、前者の場合において、各パイプの開口端を塞ぐ手段として、ヘルムホルツ共鳴器を固定部材に設けてもよい。この態様によれば、各パイプの共鳴特性を調整し、吸音効果および散乱効果の調整を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の第1実施形態である音響構造体の構成を示す図である。
【図2】同音響構造体の紐によるパイプの連結の態様を示す図である。
【図3】同音響構造体のパイプを巻いて束ねた状態を示す図である。
【図4】同音響構造体におけるパイプの縦断面図である。
【図5】同音響構造体による吸音効果および散乱効果の発生の原理を示す図である。
【図6】この発明の第2実施形態である固定部材の構成を示す図である。
【図7】同固定部材のパイプへの装着の仕方を示す図である。
【図8】この発明の第3実施形態である音響構造体のパイプおよび紐の構成を示す図である。
【図9】この発明の第3実施形態である音響構造体の固定部材の構成を示す図である。
【図10】同音響構造体の固定部材の縦断面図である。
【図11】同音響構造体のパイプとキャップの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態である音響構造体11の構成を示す図である。
この音響構造体11において、パイプ20−i(i=1〜6)は、スチール材などの高い剛性を有する素材を円筒状に成形したものである。パイプ20−i(i=1〜6)における各パイプ20−iの内部には空洞23−iがある。パイプ20−iにおける空洞23−iを包囲する側面21−iには空洞23−iと外部空間とを連通する開口部22−iが設けられている。また、空洞23−iの左端および右端は、パイプ20−iの延在方向における左側の端面1L−iおよび右側の端面1R−iによって塞がれている。
【0013】
パイプ20−i(i=1〜6)は、各々の両端の位置を揃え且つ各々を平行にして、全体として簾状に並べられ、連結手段である紐30L,30Rによって連結されている。本実施形態では、複数のパイプ20−i(i=1〜6)は、隣り合う2本のパイプ20−i間の距離を調整できるような態様で紐30L,30Rにより連結されている。そのような連結手段の態様としては、たとえば、以下に示すものがある。
【0014】
図2に示す態様では、紐30Lを2本の紐30La,30Lbとし、紐30Rを2本の紐30Ra,30Rbとする。この態様では、紐留め具13L−k(k=1〜12)によって紐30La,30Lbにおける所望の位置を束ね、紐留め具13R−k(k=1〜12)によって紐30Ra,30Rbにおける所望の位置を束ねる。そして、紐30La,30Lbにおける紐留め具13L−k,13L−(k+1)によって束ねられた位置の間にできる輪と紐30Ra,30Rbにおける紐留め具13R−k,13R−(k+1)によって束ねられた位置の間にできる輪にパイプ20−iが嵌め込まれる。この態様では、紐30La,30Lb,30Ra,30Rbにおける紐留め具13L−k(k=1〜12),13R−k(k=1〜12)の位置を変えることにより、パイプ20−i(i=1〜6)間の距離を調整することができる。
【0015】
また、紐留め具13L−k(k=1〜12)および13R−k(k=1〜12)としては、例えば2本の紐30La,30Lbまたは30Ra,30Rbが挿通される貫通孔を有するとともに、この貫通孔と直角をなすように空けられた雌ネジ孔と、この雌ネジ孔に螺合される雄ネジとを有する構成のものが考えられる。この態様によれば、貫通孔に2本の紐30La,30Lbまたは30Ra,30Rbを挿通させた状態で雄ネジを締めることにより、雄ネジの先端が貫通孔内の2本の紐を押さえ、貫通孔内の2本の紐を固定する。また、雄ネジを緩めることにより、雄ネジの先端が貫通孔内の2本の紐を押える力が弱まり、貫通孔に対して2本の紐を滑らせることができる。従って、2本の紐に対する紐留め具13L−k(k=1〜12)および13R−k(k=1〜12)の位置を自由に調整することができる。
【0016】
以上が、音響構造体11の構成の詳細である。利用者は、音響構造体11を使用しないときは、図3に示すように、パイプ20−i(i=1〜6)を紐30L,30Rにより連結したまま簀巻き状に巻き束ねて収納スペースに収納しておくことができる。そして、利用者は、音響空間において音響構造体11を使用するときは、音響構造体11を収納スペースから音響空間に運び出し、以下のようにして設置する。まず、音響構造体11における巻き束ねられたパイプ20−i(i=1〜6)を伸展する。次に、伸展したパイプ20−i(i=1〜6)間の距離を所望の距離へと調整する。その上で、音響構造体11のパイプ20−i(i=1〜6)の開口部22−i(i=1〜6)を音響空間の中央に向けた状態で、紐30L,30Rの一端を音響空間内の壁のフックなどに結びつけることにより、音響構造体11を吊り下げる。このようにして音響空間内に設置された音響構造体11におけるパイプ20−i(i=1〜6)は、各々吸音効果および散乱効果を発生させる。以下、パイプ20−i(i=1〜6)のうちパイプ20−1を例にとり、吸音効果および散乱効果の発生の原理について説明する。
【0017】
図4(A)は、音響構造体11におけるパイプ20−1の縦断面図である。図4(B)は、パイプ20−1の横断面図である。図4(B)に示すように、パイプ20−1の側面21−1は湾曲している。よって、音響空間からパイプ20−1の側面21−1へ入射する音波の多くは、パイプ20−1の側面21−1での反射により、音響空間における入射波の入射方向と異なる方向に向けて放射される。これにより、散乱効果が発生する。
【0018】
また、図4(A)に示すように、音響構造体10における開口部22−1の奥の空洞23−1には、開口部22−1を開口端とし空洞23−1の左側の端部を閉口端とする音響管CP−aと、開口部22−1を開口端とし空洞23−1の右側の端部を開口端とする音響管CP−bとが形成されているとみなすことができる。音響空間から開口部22−1を介して空洞23−1内に音波が入射すると、空洞23−1内では、音響管CP−aの開口端(開口部22−1)から閉口端(空洞23−1の左側の端部)に向かう進行波と、音響管CP−bの開口端(開口部22−1)から閉口端(空洞23−1の右側の端部)に向かう進行波とが発生する。そして、前者の進行波は、音響管CP−aの閉口端において反射され、その反射波が開口部22−1へ戻る。また、後者の進行波は、音響管CP−bの閉口端において反射され、その反射波が開口部22−1へ戻る。
【0019】
そして、音響管CP−aでは、下記式(1)に示す共鳴周波数fan(n=1、2、…)において共鳴が発生し、音響管CP−a内において進行波と反射波とを合成した音波は、音響管CP−aの閉口端に粒子速度の節を有し、開口端に粒子速度の腹を有する定在波となる。また、音響管CP−bでは、下記式(2)に示す共鳴周波数fbn(n=1、2、…)において共鳴が発生し、音響管CP−b内において進行波と反射波とを合成した音波は、音響管CP−bの閉口端に粒子速度の節を有し、開口端に粒子速度の腹を有する定在波となる。なお、下記式(1)および(2)において、Laは音響管CP−aの延在方向の長さ(空洞23−1の左側の端部から開口部22−1までの長さ)、Lbは音響管CP−bの延在方向の長さ(空洞23−1の右側の端部から開口部22−1までの長さ)、cは音波の伝搬速度、nは1以上の整数である。
fan=(2n−1)・(c/(4・La)) (n=1,2…)…(1)
fbn=(2n−1)・(c/(4・Lb)) (n=1,2…)…(2)
【0020】
ここで、音響空間から開口部22−1および側面21−1における開口部22−1の近傍に入射する音波のうち共鳴周波数fanの成分に着目すると、音響管CP−aの閉口端において反射されて開口部22−1から音響空間へと放射される音波は、音響空間から開口部22−1に入射する音波に対して逆相の音波となる。一方、側面21−iにおける開口部22−1の近傍では、音響空間からの入射波が位相回転を伴うことなく反射される。
【0021】
よって、図5に示すように、共鳴周波数fan(n=1、2、…)の成分を含む音波が開口部22−1を介して空洞23−1に入射した場合、開口部22−1から見て入射方向(図5の吸音領域)に対しては、音響管CP−aから開口部22−1を介して放射される音波と側面21−1における開口部22−1の近傍の各点から反射される音波が逆相となって互いの位相が干渉し合い、吸音効果が発生する。また、開口部22−1からの音波と側面21−1からの反射波とが互いに隣接する散乱領域では、開口部22−1からの音波と側面21−1からの反射波の位相が不連続となる。このような位相差のある波が隣接することにより、散乱領域付近では、位相の不連続を解消しようとする気体分子の流れが発生する。この結果、散乱領域付近では、入射方向に対する鏡面反射方向以外の方向への音響エネルギーの流れが発生し、散乱効果が発生する。同様に、共鳴周波数fbn(n=1、2、…)の成分を含む音波が開口部22−1を介して空洞23−1に入射した場合、開口部22−1への入射方向に鏡面反射する方向(図5の吸音領域)に対しては、吸音効果が発生する。また、散乱領域付近では、散乱効果が発生する。
【0022】
また、共鳴周波数fanおよびfbnの各々の近傍の周波数帯域においては、共鳴周波数fanまたはfbnからずれていたとしても、周波数がある程度近ければ、開口部22−1から音響空間に放射される音波の位相と側面21−1から音響空間に放射される反射波の位相とが逆相に近い関係になる。このため、共鳴周波数fanおよびfbnの各々の近傍の周波数帯域では、共鳴周波数fanまたはfbnに対する周波数の近さに応じた程度の吸音効果および散乱効果が発生する。
【0023】
以上が、吸音効果および散乱効果の発生の原理である。音響構造体11におけるパイプ20−i(i=1〜6)がこの吸音効果および散乱効果を発生させることにより、音響空間からパイプ20−i(i=1〜6)に入射する音波の音響エネルギーの鏡面反射成分がパイプ20−i(i=1〜6)において散逸される。
【0024】
ここで、本実施形態における音響構造体11は6つのパイプ20−i(i=1〜6)を簾状に並べたものであるため、音響構造体11全体としての吸音効果および散乱効果の程度はパイプ20−i間の距離に依存して変化する。その理由は、次の通りである。各パイプ20−i(例えば、パイプ20−1とする)に入射する音波は、パイプ20−1の音響間CP−a及びCP−bから開口部20−1を介して放射される音波だけでなく、他のパイプ20−i(i≠1)において反射した音波とも干渉する。パイプ20−1とパイプ20−i(i≠1)との距離が近いほどこの干渉は起こりやすくなる。そして、パイプ20−1を介して放射される音波とパイプ20−i(i≠1)において反射した音波との間の干渉が大きいほど、パイプ20−1に入射する音波の鏡面反射成分の散逸量が大きくなる。
【0025】
音響構造体11全体としての吸音効果および散乱効果の程度がパイプ20−i間の距離に依存して変化する理由は、以上の通りである。本実施形態では、音響構造体11のパイプ20−i(i=1〜6)間の距離を調整することができる。よって、このパイプ20−i(i=1〜6)間の距離の調整を通じて、吸音効果および散乱効果を所望の大きさへと変化させることができる。
【0026】
また、本実施形態では、音響構造体11のパイプ20−i(i=1〜6)を巻き束ねることもできるし、巻き束ねたパイプ20−i(i=1〜6)を伸展することもできる。よって、音響構造体11を使用しないときは、パイプ20−i(i=1〜6)を簀巻き状に巻き束ねて狭小なスペースに収納することができる。
【0027】
また、本実施形態では、部屋等の剛壁に囲まれた音響空間における剛壁の前に音響構造体11を設置した場合、音響構造体11のパイプ20−i間を通り抜けて剛壁に到達し、剛壁に到達した音波の反射波が再びパイプ20−i間を通り抜けて音響空間に伝搬される。このパイプ20−i間を通り抜ける反射波の特性を決めるパラメータは、パイプ20−i(i=1〜6)の間から背後を見た音響インピーダンスである。そして、この音響インピーダンスは、パイプ20−i間の距離に依存する。よって、部屋等の剛壁に囲まれた音響空間における剛壁の前に音響構造体11を設置した場合、パイプ20−i自体によって反射される反射音の特性と、パイプ20−i間を通り抜け、その背後の剛壁によって反射される反射音の特性とを、パイプ20−i(i=1〜6)間の距離の調整を通じて変化させることができる。
【0028】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態では、第1実施形態のパイプ20−i(i=1〜6)(図1)に固定部材12L,12Rまたは13L,13R(図6)を装着したものを音響構造体11とし、その音響構造体11を音響空間に設置する。上述した第1実施形態では、紐30L,30Rにおいてパイプ20−i(i=1〜6)を収容する各輪の位置が音響空間内での使用時におけるパイプ20−i(i=1〜6)間の相対的位置関係(より具体的には、隣り合った2本のパイプ20−i間の距離)を決定した。これに対し、本実施形態では、固定部材12L,12Rまたは13L,13Rが音響空間内での使用時におけるパイプ20−i(i=1〜6)の相対的位置関係を決定する。
【0029】
本実施形態では、音響構造体11の音響空間内での使用時、固定部材12L,12Rまたは13L,13Rによりパイプ20−i間の相対的な位置関係が固定される。従って、各パイプ20−iが上下方向に並ぶような姿勢のみならず、各パイプ20−iが水平方向に並ぶような姿勢、各パイプ20−iが鉛直方向に対して斜めの方向に並ぶような姿勢等、任意の姿勢で音響構造体11を音響空間内に配置することが可能である。
【0030】
固定部材12Lは、板体2L上に6つのキャップ3L−i(i=1〜6)を固定したものであり、固定部材12Rは、板体2R上に6つのキャップ3R−i(i=1〜6)を固定したものである。また、固定部材13Lは、板体6L上に6つのキャップ7L−i(i=1〜6)を固定したものであり、固定部材13Rは、板体6R上に6つのキャップ7R−i(i=1〜6)を固定したものである。
【0031】
図6に示すように、固定部材12Lと12Rは対称な構成となっており、固定部材13Lと13Rは対称な構成となっている。固定部材12L,12Rと固定部材13L,13Rとでは、キャップ3L−i,3R−i,7L−i,7R−iの配列が異なる。すなわち、固定部材12L,12Rでは、キャップ3L−i,3R−iが一直線状に並んでおり、隣り合うキャップ3L−i,3R−i間の距離が均一である。一方、固定部材13L,13Rでは、キャップ7L−i,7R−iは一直線状に並んでおらず、隣り合うキャップ7L−i,7R−i間の距離も不均一である。
【0032】
キャップ3L−i,3R−i,7L−i,7R−iは、各々の空洞4L−i,4R−i,8L−i,8R−i内にパイプ20−iの端部を収容する構造になっている。キャップ3L−iを例にとり、その構造について具体的に説明する。キャップ3L−iは円筒状をなしており、キャップ3L−i内の空洞4L−iの内周径は、パイプ20−iの外周径よりも僅かに大きくなっている。そして、この空洞4L−iはキャップ3L−iにおける板体2Lに固定された側の反対側に開放されている。
【0033】
利用者は、音響構造体11を使用するときは、固定部材12L,12Rまたは13L,13Rのうち一方(たとえば、固定部材12L,12Rとする)を選ぶ。そして、以下のようにしてパイプ20−i(i=1〜6)に固定部材12Lおよび12Rを装着した上で、音響空間内に設置する。図7に示すように、まず、音響構造体11のパイプ20−i間の距離を、固定部材12L,12Rのキャップ3L−i,3R−i間の距離と同じかそれ以上の長さになるように拡げる。次に、パイプ20−iの左端をキャップ3L−iの空洞4L−iに収容させ、パイプ20−iの右端をキャップ3R−iの空洞4R−iに収容させる。
【0034】
本実施形態では、音響構造体11のパイプ20−i(i=1〜6)に固定部材12L,12Rまたは13L,13Rを装着した場合、パイプ20−i間の距離はその装着された固定部材12L,12Rまたは13L,13Rによって固定される。よって、音響構造体11を音響空間内に設置する度にパイプ20−i(i=1〜6)に同じ固定部材12L,12R(または固定部材13L,13R)を装着することにより、常に同じ大きさの吸音効果および散乱効果を発生させることができる。
【0035】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態である音響構造体11は、上述した固定部材12L(図6)と、図8に示すパイプ20’−i(i=1〜6)およびそれらの連結手段である紐30L,30Rと、図9に示す固定部材12’Rとを有する。本実施形態では、パイプ20’−i(i=1〜6)に固定部材12Lおよび12’Rを装着したものを音響構造体11として音響空間に設置する。本実施形態でも、上記第2実施形態と同様、音響構造体11の音響空間内での使用時、固定部材12L,12R’によりパイプ20’−i(i=1〜6)間の相対的な位置関係が固定される。従って、任意の姿勢で音響構造体11を音響空間内に配置することが可能である。
【0036】
図8において、図1に示されたものと同じ要素には同じ符号を付してある。図8に示すように、各パイプ20’−i内の空洞23−iの左端はパイプ20’−iの延在方向における左側の端面1L−iによって塞がれており、空洞23−iの右端は右側の端面1R’−iを貫いてその外側に開放されている。
【0037】
図9に示すように、固定部材12R’は、板体2R’上に6つのキャップ3R’−i(i=1〜6)を固定したものである。固定部材12L(図6)と同様に、固定部材12R’では、キャップ3R’−i(i=1〜6)が一直線上に並んでいる。そして、キャップ3R’−i間の距離(より具体的には、隣り合うキャップ3R’−iの軸同士の距離)は、キャップ3L−i間のそれと同じである。そして、キャップ3R’−iは、パイプ20’−iの延在方向における右端を収容するヘルムホルツ共鳴器となっている。より具体的に説明すると、図10の縦断面図に示すように、キャップ3R’−iは、小径部ST−iと大径部BT−iとを有している。キャップ3R’−i内の空洞4R’−iにおける小径部ST−iに包囲された部分の内周径はパイプ20−iの外周径よりも僅かに大きくなっており、その奥の大径部BT−iに包囲された部分の内周径は小径部ST−iに包囲された部分の内周径よりも十分に大きくなっている。そして、この空洞4R’−iは、キャップ3R’−iにおける板体2R’に固定された側の反対側に開放されている。
【0038】
ここで、このキャップ3R’−iは、下記式(3)に示す共鳴周波数fcにおいて共鳴を発生する。なお、下記式(3)において、Lcは空洞4R’−iにおける小径部ST−iに包囲された部分の長さ、Vcは空洞4R’−iにおける大径部BT−iに包囲された部分の容積、Sは空洞4R’−iにおける小径部ST−iに囲まれた部分の断面積、cは音波の伝搬速度を示す。
fc=c/2π・(S/Lc・Vc)1/2 ・・・(3)
【0039】
よって、パイプ20−i(i=1〜6)に固定部材12Lおよび12R’を装着した場合、図11に示すように、パイプ20−iの開口部22−iの奥には、前掲の式(1)に示した周波数fanにおいて共鳴する音響管CP−a、および前掲の式(2)に示した周波数fbnの1/2の周波数fbn/2において共鳴する音響管CP’−bと前掲の式(3)に示した周波数fcにおいて共鳴する音響管HPとを連結した音響管CHPが形成されているとみなすことができる。利用者は、キャップ3R’−iの空洞4R’−i内に当該空洞4R’−iの内容積を調整する内容積調整物質(例えば、砂、水、液状化した樹脂など)を詰め込み、空洞4R’−iにおける大径部BT−iに包囲された部分の容積Vcを小さくすることにより、吸音効果を発生させる帯域をより高域側に移動させることができる。また、キャップ3R’−iをその空洞4R’−iにおける大径部ST−iに包囲された部分の体積Vcを十分に大きなものとすることにより、パイプ20−iの長さをそれほど長くすることなく、より低い帯域において吸音効果を発生させることができる。
【0040】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
【0041】
(1)上記第1実施形態では、複数のパイプ20−i(i=1〜6)のすべてが紐30L,30Rに連結されていた。しかし、複数のパイプ20−i(i=1〜6)のうち隣り合うパイプ20−i,20−(i±1)の各々を紐30L−n(n=1〜5),30R−n(n=1〜5)により個別に連結するようにしてもよい。この場合において、パイプ20−i(i=1〜6)の側面21−i(i=1〜6)にボタンを固定するとともに、隣り合うパイプ20−i,20−(i±1)の各々を連結する紐30L−n(n=1〜5),30R−n(n=1〜5)の一端および他端にボタンを固定し、ボタンの嵌合によりパイプ20−iとパイプ20−(i±1)を連結するようにしてもよい。
【0042】
(2)隣り合った2本のパイプパイプ20−i間の連結を行う連結手段として、紐のようなそれ自体の折り曲げが可能な連結手段の他、それ自体の結合及び分離が可能な連結手段を用いてもよい。例えば各パイプ20−i(i=1〜6)の側面にその周回方向に沿って複数のボタン(雄と雌)を並べてもよい。すなわち、隣り合った2本のパイプ20−iの一方の雄ボタンと他方の雌ボタンを結合させることにより2本のパイプ20−i間の連結を行うのである。ここで、3本のパイプ20−iを順次連結する場合に、真ん中のパイプ20−iにおいて直径方向に並んだ各ボタンを隣の各2本のパイプ20−iとの連結に用いれば、3本のパイプ20−iを直線状に並べて連結することができる。一方、真ん中のパイプ20−iにおいて中心に対して直角をなす位置にある各ボタンを隣の各2本のパイプ20−iとの連結に用いれば、並びが直角に曲がるように3本のパイプ20−iを連結することができる。従って、収納時または運搬時には、全体としての音響構造体の形状を折り畳みベッドのようにコンパクトに畳んだ状態とすることができる。それ自体の結合/分離が可能な連結手段としては、ボタンの他、例えば面ファスナを利用してもよい。
【0043】
(3)上記第1実施形態において、紐30L,30Rの各々に6つのボタンを並べて固定するとともに、パイプ20−i(i=1〜6)の側面21−i(i=1〜6)にボタンを固定し、紐30L,30Rのボタンの各々にパイプ20−i(i=1〜6)のボタンを嵌合してもよい。
【0044】
(4)上記第2実施形態において、キャップ3L−i(i=1〜6),3R−i(i=1〜6)に代えて板体2L,2Rの各々の全面に面ファスナーを貼付したものを固定部材12L”,12R”とし、パイプ20−i(i=1〜6)の端面1L−i(i=1〜6),1R−i(i=1〜6)にも面ファスナーを固定してもよい。この態様によると、固定部材12L”,12R”とパイプ20−i(i=1〜6)の各々の面ファスナー同士を貼り合わせることによりパイプ20−i(i=1〜6)間の距離を固定できるだけでなく、板体2L,2Rの面ファスナーの前面におけるパイプ20−i(i=1〜6)側の面ファスナーの貼り合わせ箇所を変えることによってパイプ20−i(i=1〜6)間の距離を調整することもできる。
【0045】
(4)上記第1および第2実施形態では、パイプ20−i内の空洞23−iの左端および右端がパイプ20−iの左の端面1L−iおよび右の端面1R−iによって塞がれていた。しかし、パイプ20−iの空洞23−iをその左端および右端のうち一方または両方の側において開放させてもよい。そして、パイプ20−iの空洞23−iを左右の両方の側において開放させた場合における第2実施形態では、パイプ20−iの左側の端部だけに支持部材12Lまたは13Lを装着してもよいし、右側の端部だけに支持部材12Rまたは13Lを装着してもよい。また、左右の両方の端部に支持部材12L,12Rまたは13L,13Rを装着してもよい。
【0046】
(5)上記第3実施形態では、パイプ20’−i内の空洞23−iの左端がパイプ20’−iの左側の端面1L−iによって塞がれ、空洞23−iの右端が開放されていた。しかし、パイプ20’−i内の空洞23−iをその左端および右端の両方において開放させてもよい。そして、パイプ20−iの空洞23−iを左端および右端の両方において開放させた場合において、パイプ20−iの左側および右側の端部のうちの一方をヘルムホルツ共鳴器となるキャップに収容してもよいし、両方を収容してもよい。
【0047】
(6)上記第1〜第3実施形態において、紐30L,30Rに替えて金属製の鎖や革製のベルトによりパイプ20−i(i=1〜6),パイプ20’−i(i=1〜6)を連結してもよい。また、パイプ20−i(i=1〜6)における隣り合うパイプ20−i,20−(i±1)の側面21−i,21−(i±1)同士やパイプ20’−i(i=1〜6)における隣り合うパイプ20’−i,20’−(i±1)の側面21’−i,21’−(i±1)同士を剛体(たとえば、板や棒)により連結してもよい。
(7)上記第1〜第3実施形態において、パイプ20−i(i=1〜6)やパイプ20’−i(i=1〜6)の数を5つ以下にしてもよいし、7つ以上にしてもよい。
【0048】
(8)上記第2および第3実施形態において、パイプ20−i,20’−iの側面21−iの断面とキャップ3L−i,3R−i,7L−i,7R−i、3R’−iにおける空洞4L−i,4R−i,8L−i,8R−i、4R’−iの入口の断面を楕円形や矩形としてもよい。この実施形態によると、キャップ3L−i,3R−i,7L−i,7R−i、キャップ3R’−iの空洞4L−i,4R−i,8L−i,8R−i、4R’−i内に収納されたパイプ20−i,20’−iの回転が阻止される。よって、パイプ20−i(i=1〜6),20’−i(i=1〜6)に固定部材12L,13L,13R,12Rを装着した場合に、パイプ20−i(i=1〜6),20’−iの開口部22−i(i=1〜6)が同じ方向を向いた状態を維持することができる。
【0049】
(9)上記第1実施形態において、パイプ20−i(i=1〜6)の開口部22−i(i=1〜6)のうちの少なくとも一つ(たとえば、開口部22−1)におけるパイプ20−1の延在方向と平行な切断面の面積Soを空洞23−1におけるパイプ20−1の延在方向と直交する切断面の面積Spよりも小さくするとよい。面積Soを面積Spより小さくした音響構造体によると、より広い帯域において吸音効果を発生させることができるからである。
【0050】
面積Soを面積Spより小さくすることにより、広い帯域において吸音効果を発生させることができる理由は、次の通りである。上述したように、吸音効果は、パイプ20−i内の共鳴管CP−aおよびCP−bの共鳴周波数fanおよびfbnとその近傍の周波数の音波がパイプ20−iに入射した場合に、開口部22−iから音響空間に放射される音波の位相と側面21−iから音響空間に放射される反射波の位相とが逆相に近い関係になることにより発生する効果である。従って、パイプ20−iの開口部22−iを介してパイプ20−i内に入射する音波と開口部22−iからその音波の入射方向に向かって反射される反射波とが逆相関係に近くなるような周波数帯域が広いほど、吸音効果が発生する帯域も広くなるはずである。
【0051】
ここで、第1の媒質(たとえば、開口部22−i内の空気やパイプ20−iの材料である剛体)に向かって第2の媒質(たとえば、音響空間内の空気)から音波が垂直に入射した場合に両媒質の境界面bsurから入射方向に反射される反射波の振幅及び位相は、境界面bsurの比音響インピーダンス比ζ(ζ=r+jx:r=Re(ζ),x=Im(ζ))に依存して決まる。より具体的に説明すると、境界面bsurの比音響インピーダンス比ζの絶対値|ζ|が1未満である場合には、境界面bsurからは境界面bsurに入射する音波に対して±180°以内の位相差を持った反射波が放出される。そして、Im(ζ)>0であれば比音響インピーダンス比ζの虚部Im(ζ)の絶対値|Im(ζ)|が小さいほど位相差は+180°に近づいていき、Im(ζ)<0であれば比音響インピーダンス比ζの虚部Im(ζ)の絶対値|Im(ζ)|が小さいほど位相差は−180°に近づいていく。
【0052】
さらに、開口部22−iの切断面の面積Soと空洞23−iの切断面の面積Spの面積比rs(rs=So/Sp)が1より大きい(つまり、So>Sp)場合と面積比rsが1より小さい(つまり、So<Sp)場合の各々における比インピーダンス比ζの虚部Im(ζ)の周波数特性を比較すると、前者よりも後者の方が、周波数特性における虚部Im(ζ)がある値(例えば、Im(ζ)=1)以下となる帯域が広い(この面積比rsと虚部Im(ζ)の周波数特性との関係については、特許文献2(特に、図9)を参照されたい。)。よって、面積Soが面積Spよりも小さいほど、より広い帯域に渡って、開口部22−1に入射する音波に対して逆相に近い位相差を持った反射波を開口部22−iから放射することができる。以上の理由により、面積Soが面積Spよりも小さいくすることにより、より広い帯域において吸音効果を発生させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1,5,9,12…端面,2,6,6’…板体、3,7,7’…キャップ、4,8,11,23…空洞、11,11A…音響構造体、12L,12R,13L,13R…固定部材、20…パイプ、21…側面、22…開口部、30L,30R…紐。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々の内部に空洞が形成され前記空洞を包囲する側面に開口部が設けられた複数のパイプと、
前記複数のパイプにおける隣り合ったパイプ間を連結する手段であって、それ自体の折り曲げが可能な連結手段と
を具備することを特徴とする音響構造体。
【請求項2】
各々の内部に空洞が形成され前記空洞を包囲する側面に開口部が設けられた複数のパイプと、
前記複数のパイプにおける隣り合ったパイプ間を連結する手段であって、それ自体の分離及び結合が可能な連結手段と
を具備することを特徴とする音響構造体。
【請求項3】
前記連結手段は連結対象であるパイプ間の距離を調整する手段を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の音響構造体。
【請求項4】
前記複数のパイプに所定の位置関係を持たせて前記複数のパイプを固定する固定部材を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載の音響構造体。
【請求項5】
前記複数のパイプ内の前記空洞は前記パイプの延在方向の端部を介して開放されており、
前記固定部材は、前記パイプを固定した状態において前記パイプ内の空洞と連通してヘルムホルツ共鳴器を構成することを特徴とする請求項3に記載の音響構造体。
【請求項1】
各々の内部に空洞が形成され前記空洞を包囲する側面に開口部が設けられた複数のパイプと、
前記複数のパイプにおける隣り合ったパイプ間を連結する手段であって、それ自体の折り曲げが可能な連結手段と
を具備することを特徴とする音響構造体。
【請求項2】
各々の内部に空洞が形成され前記空洞を包囲する側面に開口部が設けられた複数のパイプと、
前記複数のパイプにおける隣り合ったパイプ間を連結する手段であって、それ自体の分離及び結合が可能な連結手段と
を具備することを特徴とする音響構造体。
【請求項3】
前記連結手段は連結対象であるパイプ間の距離を調整する手段を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の音響構造体。
【請求項4】
前記複数のパイプに所定の位置関係を持たせて前記複数のパイプを固定する固定部材を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載の音響構造体。
【請求項5】
前記複数のパイプ内の前記空洞は前記パイプの延在方向の端部を介して開放されており、
前記固定部材は、前記パイプを固定した状態において前記パイプ内の空洞と連通してヘルムホルツ共鳴器を構成することを特徴とする請求項3に記載の音響構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−242493(P2011−242493A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112845(P2010−112845)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
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