説明

音響用ダイナミック型変換器

【課題】音響用ダイナミック型変換器において、振動板とユニットフレームとの接着部における端反射波に起因する異常共振を防止する。
【解決手段】センタードームおよびサブドームを有する振動板と、振動板を振動可能に支持するユニットフレーム30とを含み、サブドームの周縁に形成されている平坦なフランジ部がユニットフレーム30の支持面33に接着材を介して取り付けられている音響用ダイナミック型変換器において、上記フランジ部の支持面33に、その内端33aに沿って第1ボス331aを所定の間隔で配置してなる第1ボス群331と、第1ボスよりも大径な第2ボス332aを第1ボス群331の周りに所定の間隔をもって配置してなる第2ボス群332とを設けて、支持面33の上記フランジ部に対する接着面積を支持面33の内端側33aから外端側33bにかけて漸次増大させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックマイクロホンやダイナミックヘッドホンに適用される音響用ダイナミック型変換器に関し、さらに詳しく言えば、振動板の周縁部をユニットフレームに取り付ける技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
まず、図5を参照して、音響用ダイナミック型変換器は、基本的な構成として、振動板10と、磁気回路部20と、これらを支持するユニットフレーム30とを備えている。
【0003】
振動板10は、センタードーム11と、センタードーム11の周りに一体に連設されたサブドーム12とを有し、その全体が合成樹脂の薄膜フィルムよりなる。振動板10の裏面側で、センタードーム11とサブドーム12との境界部分にボイスコイル13が接着材により固定されている。なお、サブドーム12はエッジと呼ばれることもある。
【0004】
磁気回路部20は、皿状に形成されたヨーク21と、ヨーク21内の中央に配置された円盤状の永久磁石22と、永久磁石22の上に配置されたセンターポールピース23とを備えている。永久磁石22は、板厚方向に着磁されており、これにより、センターポールピース23とヨーク21の開口端部との間に磁気ギャップGが形成されている。
【0005】
ユニットフレーム30は、中央部分に磁気回路部20が嵌合される円筒部31を有する円盤体からなり、その外周部に振動板10を位置決めするためのリブ32が環状に形成されている。また、リブ32の内側には平坦な支持面33が形成されている。
【0006】
図6と図7を参照して、サブドーム12の周縁には、平坦なフランジ部12aが設けられており、振動板10は、ボイスコイル13が磁気ギャップG内で振動し得るように、フランジ部12aが支持面33に対して接着材40により固定される。
【0007】
ヘッドホンやスピーカ(電気音響変換器)の場合には、外部から与えられる音声信号によってボイスコイル13が振動板10を振動させる駆動コイルとして機能し、振動板10から放音される。マイクロホン(音響電気変換器)の場合には、ボイスコイル13が発電コイルとして機能し、ボイスコイル13から音声信号が出力される。
【0008】
いずれの場合においても、制御方式が質量制御である場合、収音もしくは再生することができる低域限界は低域の共振周波数によって決められる。そのため、振動板10のスチフネスが低くなるようにサブドーム12が設計される。
【0009】
しかしながら、サブドーム12の機械強度が低いことから、フランジ部12aのユニットフレーム30への接着時に、接着材40の収縮により、あるいはフランジ部12aに応力がかけられた状態で接着されると、図7に示すように、サブドーム12に内部応力F1,F2が残ることがある。この内部応力F1,F2は、特に接着材40のはみ出した部分で生じやすい。
【0010】
このような内部応力によって、振動板10全体がピストン様の動きをしなくなり、ヘッドホンではいわゆるビリ音(異常共振)が発生し、マイクロホンでは中高域での周波数応答の劣化をもたらす。また、やっかいなことに内部応力は均一に発生せず、個体差を持つ。
【0011】
そこで、接着材として、好ましくは硬化後においても弾力性を示す紫外線硬化樹脂を用い、振動板10をユニットフレーム30に内部応力が残らないようにして載せたのちに、フレーム部12aをユニットフレーム30に上記のような紫外線硬化樹脂にて接着したり、また、特許文献1に記載された発明では、フレーム部12aと支持面33との間に硬化することのない粘性液体を介在させるようにしている。
【0012】
このように、サブドーム12の接着部を機械的に制動することにより、サブドーム12の異常共振を防止するようにしているが、依然として、サブドーム12側から見ると接着部での機械インピーダンスが急激に高くなるため、センタードーム11側から伝播する進行波(図1の矢印A)が接着部の端面で反射されることによる端反射波(図1の矢印B)が発生しやすく、異常共振を確実に防止できないでいた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実用新案登録第2548580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の課題は、振動板とユニットフレームとの接着部における端反射波に起因する異常共振を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、センタードームおよび上記センタードームの周りに連設されたサブドームを有する振動板と、上記振動板を振動可能に支持するユニットフレームとを含み、上記サブドームの周縁に平坦なフランジ部が形成され、上記ユニットフレームに上記フランジ部に対応する平坦な支持面が形成されており、上記フランジ部が上記支持面に接着材を介して取り付けられている音響用ダイナミック型変換器において、上記支持面の上記フランジ部に対する接着面積が、上記支持面の内端側から外端側にかけて漸次増大していることを特徴としている。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、上記支持面には、複数の第1ボスを上記支持面の内端に沿って所定の間隔で配置してなる第1ボス群と、上記第1ボスよりも大径な第2ボスを上記第1ボス群の外側で所定の間隔をもって配置してなる第2ボス群とが含まれる。また、上記接着材には、硬化後においても弾性を示す接着材が好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サブドームのフランジ部とユニットフレームの支持面との接着部における機械インピーダンスが、支持面の内端側から外端側に向けて所定の勾配をもって高くなるため、センタードームから伝播する進行波が接着部で吸収され、異常共振の原因となる端反射波の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の要部であるユニットフレームの支持面の一部を拡大して示す平面図。
【図2】図1のI−I線に沿った断面図。
【図3】上記ユニットフレームの支持面にサブドームのフランジ部を接着した状態を示す図2と同様の断面図。
【図4】本発明の別の実施形態を示す平面図。
【図5】従来技術による音響用ダイナミック変換器を示す断面図。
【図6】図5におけるユニットフレームの支持面を示す拡大断面図。
【図7】図5における接着部を示す図6と同様の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図1ないし図4により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
図1には、本発明の要部であるユニットフレーム30の支持面33の一部分しか示されていないが、本発明の音響用ダイナミック変換器も、先の図5で説明した従来例と同じく、振動板10と、磁気回路部20と、これらを支持するユニットフレーム30とを備え、また、図2に示すように、サブドーム12の周縁には、支持面33に接着される平坦なフランジ部12が形成されている。
【0021】
図1において、ユニットフレーム30の中心から見て、支持面33の内端側を33a,外端側を33bとして、本発明によると、接着部での端反射波の発生を防止することを意図して、フランジ部12に対する支持面33の接着面積が内端側33aから外端側33bにかけて漸次増大するようにし、これによって、接着部における機械インピーダンスが、支持面33の内端側33aから外端側33bに向けて所定の勾配をもって高くなるようにしている。なお、支持面33の外端側33bは、ユニットフレーム30の外周側に設けられているリブ32の内周側でもある。
【0022】
そのための一例として、この実施形態では、フランジ部12の支持面33には、もっとも小さな接着面積を有する第1ボス群331と、その次に大きな接着面積を有する第2ボス群332と、もっとも広い接着面積を有する平坦部333とが含まれている。
【0023】
第1ボス群331には、小径である複数の第1ボス331aが含まれ、各第1ボス331aは、支持面33の内端側33aに沿って所定の間隔で環状の点在されている。
【0024】
第2ボス群332には、第1ボス331aよりも大径である複数の第2ボス332aが含まれ、各第2ボス332aは、第1ボス群331を囲むように第1ボス群331の外側で所定の間隔をもって環状に点在されている。
【0025】
平坦部333は、支持面33の外端側33bに配置され、第2ボス群332を囲むようにリブ32の内周面に沿って一連の環状体として形成されている。
【0026】
第1ボス331a,第2ボス332aおよび平坦部333の各上面は、同一平面上に存在し、フランジ部12の支持面33を形成している。
【0027】
図3に示すように、支持面33にサブドーム12のフランジ部12が接着材40を介して接着される。接着材40には、好ましくは硬化後においても弾性を有する紫外線硬化型樹脂が用いられる。
【0028】
これによれば、第1ボス群331,第2ボス群332および平坦部333の順にフランジ部12に対する接着面積が漸次増大し、これに伴って、接着部の機械インピーダンスも内端側33aから外端側33bに向けて所定の勾配をもって高くなるため、センタードーム11(図5参照)から伝播する進行波が接着部で吸収され、異常共振の原因となる端反射波の発生が効果的に防止される。
【0029】
また、接着材40の余剰分は、各ボス間の空隙内に入り込み自らの濡れ性によって、その空隙内に止まろうとするため、接着材40のはみ出しも少なくなる。
【0030】
なお、接着部の機械インピーダンスに上記したよう圧力勾配を持たせるとともに、フランジ部12に対する接着部を均一に分散させるうえで、図1に示すように、第1ボス群331の各第1ボス331aと第2ボス群332の各第2ボス332aとを互い違いの配列(千鳥配列)にするとともに、平坦部333の各第2ボス332aと対向する面に、第2ボス332aとほぼ同曲率の凹曲面333aを形成することが好ましい。
【0031】
なお、上記実施形態における各ボス331a,332aは円柱状であるが、多角形のボスとしてもよい。
【0032】
また、ボスに代えて、図4に例示するように、フランジ部12の支持面33として、リブ32側からユニットフレーム30の中心に向く複数の三角形状の支持台座334を形成してもよく、これによっても、接着部の機械インピーダンスに上記したよう圧力勾配を持たせることができる。
【符号の説明】
【0033】
10 振動板
11 センタードーム
12 サブドーム
12a フランジ部
20 磁気回路部
30 ユニットフレーム
32 リブ
33 支持面
331 第1ボス群
331a 第1ボス
332 第2ボス群
332a 第2ボス
333 平坦部
40 接着材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センタードームおよび上記センタードームの周りに連設されたサブドームを有する振動板と、上記振動板を振動可能に支持するユニットフレームとを含み、上記サブドームの周縁に平坦なフランジ部が形成され、上記ユニットフレームに上記フランジ部に対応する平坦な支持面が形成されており、上記フランジ部が上記支持面に接着材を介して取り付けられている音響用ダイナミック型変換器において、
上記支持面の上記フランジ部に対する接着面積が、上記支持面の内端側から外端側にかけて漸次増大していることを特徴とする音響用ダイナミック型変換器。
【請求項2】
上記支持面には、複数の第1ボスを上記支持面の内端に沿って所定の間隔で配置してなる第1ボス群と、上記第1ボスよりも大径な第2ボスを上記第1ボス群の外側で所定の間隔をもって配置してなる第2ボス群とが含まれていることを特徴とする請求項1に記載の音響用ダイナミック型変換器。
【請求項3】
上記接着材には、硬化後においても弾性を示す接着材が用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の音響用ダイナミック型変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−135431(P2011−135431A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294266(P2009−294266)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】