説明

頭蓋内圧診断装置

【課題】
診断の経験に影響されず、網膜中心静脈の拍動の有無を検査可能とし、頭蓋内圧亢進についての客観的な診断を可能とする。
【解決手段】
被検眼1眼底を照明する為の眼底照明系5と、眼底からの反射光により網膜中心静脈像を光電検出器上に形成する為の結像光学系7と、前記光電検出器からの信号に基づく網膜中心静脈像の経時変化より網膜中心静脈の拍動を検出する拍動検出部36とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼眼底の網膜中心静脈の拍動の有無により、頭蓋内圧亢進の有無を診断する為の頭蓋内圧診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、頭蓋内圧を測定する為には、観血的に頭蓋骨に穴を開けて測定するか、観血的に腰部背側より注射針を脊髄くも膜まで刺入して内圧を測定するしかなかった。然し乍ら、これらの方法はリスクが大きく、非観血的に内圧を診断する方法が望まれていた。一方、頭蓋内圧が正常な人は、網膜中心静脈の拍動が観察されるが、頭蓋内圧が異常に高くなっている人は、網膜中心静脈の拍動が観察されないということが知られている。その為、直像鏡により患者の眼底を観察し、網膜中心静脈の拍動を観察し、この拍動の有無で頭蓋内圧亢進の有無を検出することがなされていた。
【0003】
然し乍ら、直像鏡により、網膜中心静脈を観察し、拍動の有無を検査するには、経験が必要であり、経験の有無に関係なく客観的な診断をすることが難しいという問題を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は斯かる実情に鑑み、診断の経験に影響されず、網膜中心静脈の拍動の有無を検査可能とし、頭蓋内圧亢進についての客観的な診断を可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、被検眼眼底を照明する為の眼底照明系と、眼底からの反射光により網膜中心静脈像を光電検出器上に形成する為の結像光学系と、前記光電検出器からの信号に基づく網膜中心静脈像の経時変化より網膜中心静脈の拍動を検出する拍動検出部とを具備する頭蓋内圧診断装置に係り、又被検眼眼底を照明する為の照明光束は近赤外光である頭蓋内圧診断装置に係り、又前記光電検出器に形成される眼底像よりも広い視野の眼底像を撮像する為の撮像装置を有し、該撮像装置からの信号に基づき眼底像を表示する為の表示手段を有する頭蓋内圧診断装置に係り、又前記光電検出器上に網膜中心静脈の像を導く為に被検眼の視線を誘導させる為の移動可能な固視標を有する頭蓋内圧診断装置に係り、又前記拍動検出部は、網膜中心静脈像輝度の変化量に基づき網膜中心静脈の拍動を検出する頭蓋内圧診断装置に係り、更に又前記拍動検出部には、心電図測定装置又は脈波センサからの信号が入力されている頭蓋内圧診断装置に係るものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、被検眼眼底を照明する為の眼底照明系と、眼底からの反射光により網膜中心静脈像を光電検出器上に形成する為の結像光学系と、前記光電検出器からの信号に基づく網膜中心静脈像の経時変化より網膜中心静脈の拍動を検出する拍動検出部とを具備するので、検者の経験が無くとも、又個人差に影響されることなく網膜中心静脈の拍動を検出することができ、的確な頭蓋内圧診断を行うことができる。
【0007】
又本発明によれば、被検眼眼底を照明する為の照明光束は近赤外光であるので、被検者に眩しさを感じさせることが無く、被検者の負担が少ない。
【0008】
又本発明によれば、前記光電検出器に形成される眼底像よりも広い視野の眼底像を撮像する為の撮像装置を有し、該撮像装置からの信号に基づき眼底像を表示する為の表示手段を有するので、検査部位の特定が容易になる。
【0009】
又本発明によれば、前記光電検出器上に網膜中心静脈の像を導く為に被検眼の視線を誘導させる為の移動可能な固視標を有するので、検査部位を画像中に適切に位置する為の被検眼の視野の方向の調整が容易になる。
【0010】
又本発明によれば、前記拍動検出部は、網膜中心静脈像輝度の変化量に基づき網膜中心静脈の拍動を検出するので、網膜中心静脈の拍動による物理的変化が捉えられない場合でも、確実に反動を検出することができる。
【0011】
更に又本発明によれば、前記拍動検出部には、心電図測定装置又は脈波センサからの信号が入力されているので、拍動検出結果と脈波との因果関係が特定でき、検査結果の確実性が向上する等の優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施する為の最良の形態を説明する。
【0013】
図1に於いて、1は被検眼、2は頭蓋内圧診断装置を示している。
【0014】
該頭蓋内圧診断装置2は主に、光学系3、信号処理部4から成る。
【0015】
前記光学系3について説明する。
【0016】
該光学系3は主光軸9を有し、該主光軸9に関連して眼底照明系5、第1眼底結像系6、第2眼底結像系7、固視標投影系8が設けられている。
【0017】
前記眼底照明系5について説明する。
【0018】
前記主光軸9上に孔明きミラー11が配設され、前記主光軸9は前記孔明きミラー11の孔中心に合致している。該孔明きミラー11によって分岐される第1分岐光軸12上にタングステン等の発熱体を光源とする照明光源13、近赤外光である720nm近傍の光だけを透過する赤外フィルタ14、コンデンサレンズ15、リング状絞り16、リレーレンズ17が配設され、更に前記孔明きミラー11と前記被検眼1間の前記主光軸9上には対物レンズ18が配設されている。
【0019】
前記眼底照明系5は、720nm近傍の近赤外光によって前記被検眼1眼底を照明する。
【0020】
前記第1眼底結像系6について説明する。
【0021】
前記孔明きミラー11を通過した前記主光軸9上に、該主光軸9に沿って移動可能な合焦レンズ21、撮像レンズ22、ハーフミラー23、第1撮像装置24が配設され、前記第1眼底結像系6は、前記対物レンズ18、前記合焦レンズ21、前記撮像レンズ22、前記第1撮像装置24によって構成され、前記第1眼底結像系6は、前記被検眼1眼底からの反射光により眼底像を観察用の前記第1撮像装置24の受光部(光電検出器)(図示せず)に結像する。該第1撮像装置24は、後述するモニタ35に画像信号を出力する。
【0022】
前記固視標投影系8について説明する。
【0023】
前記ハーフミラー23は前記主光軸9を第2分岐光軸25に分岐し、該第2分岐光軸25にはフィールドレンズ26、可視光透過で720nm近傍の近赤外光を反射するダイクロイックミラー27、リレーレンズ28、固視標29が配設されている。
【0024】
該固視標29は、微小なLED等によって構成され、前記第2分岐光軸25に垂直な平面内を2次元的に移動可能となっている。
【0025】
前記固視標投影系8は、前記対物レンズ18、前記合焦レンズ21、前記撮像レンズ22、前記ハーフミラー23、前記フィールドレンズ26、前記リレーレンズ28、前記固視標29によって構成され、前記被検眼1に前記固視標29を注視させ、前記被検眼1の視線を所望の方向に誘導する。
【0026】
前記第2眼底結像系7について説明する。
【0027】
前記ダイクロイックミラー27は前記第2分岐光軸25を、更に第3分岐光軸31に分岐し、該第3分岐光軸31には結像レンズ32、測定用撮像装置33が配設されている。
【0028】
前記第2眼底結像系7は、前記対物レンズ18、前記合焦レンズ21、前記撮像レンズ22、前記ハーフミラー23、前記フィールドレンズ26、前記ダイクロイックミラー27、前記結像レンズ32、前記測定用撮像装置33によって構成され、眼底からの反射光により眼底像を拡大して前記測定用撮像装置33の受光部(光電検出器)に結像する。該測定用撮像装置33は、後述する演算処理部36に画像信号を出力する。
【0029】
前記信号処理部4について説明する。
【0030】
該信号処理部4は、主に前記モニタ35、前記演算処理部36、心電図測定装置37、脈波センサ38、操作部39等によって構成され、前記演算処理部36には、前記測定用撮像装置33からの画像信号が入力されると共に、被検者の心臓の拍動を検出する前記心電図測定装置37からの心臓拍動信号が入力され、或は被検者の指、腕等に装着した前記脈波センサ38からの脈波信号が入力される。又、前記操作部39は、例えばキーボード、マウスであり、検者は該操作部39から前記頭蓋内圧診断装置2に対して測定に必要な操作、指示を入力する。
【0031】
以下、作用について説明する。
【0032】
前記照明光源13を点灯して前記被検眼1の眼底を照明する。照明光として使用される光は、被検者に眩しさを感じさせない様に、近赤外光が使用される。検者は、前記モニタ35に表示される眼底像を観察し、前記合焦レンズ21の位置を調整して、前記被検眼1の眼底像が前記第1撮像装置24、前記測定用撮像装置33に結像される様にする。
【0033】
前記モニタ35に表示される眼底像は、例えば図2に示されるものである。
【0034】
更に、前記固視標29を点灯して、前記被検眼1に前記固視標29を注視させ、視線を所定の方向に誘導する。例えば、眼底像の視神経乳頭辺縁部41が表示画面の中央となる様に、前記被検眼1の視線を誘導する。
【0035】
前記視神経乳頭辺縁部41からは、網膜中心静脈42、網膜中心動脈43が現れており、前記第2眼底結像系7は前記視神経乳頭辺縁部41の、特に前記網膜中心静脈42部分を拡大して撮像する。尚、拡大は、光学的に拡大してもよく、或は画像処理で電子的に拡大してもよく、或は光学的と画像処理を併用して拡大してもよい。
【0036】
前記モニタ35には、前記測定用撮像装置33が撮像する範囲を示す指標44が表示されている。検者は、前記モニタ35の表示を、前記第1撮像装置24の撮像画像から前記測定用撮像装置33が撮像した画像に切換え、前記指標44が示す前記測定用撮像装置33の撮像箇所が、前記網膜中心静脈42部分となる様に前記固視標29の位置を調整する。図3は、前記測定用撮像装置33で撮像した画像の一例を示している。
【0037】
頭蓋内圧亢進が起ると前記網膜中心静脈42の拍動が無くなる、又は観察できなくなる。従って、頭蓋内圧亢進は、前記網膜中心静脈42についての拍動の有無によって判断され、又拍動の有無は前記網膜中心静脈42を流れる血球の量によって判断できる。
【0038】
該網膜中心静脈42を流れる血球の量の変化は、該網膜中心静脈42の輝度変化としても現れる。本発明では、この輝度変化を検出して該網膜中心静脈42の拍動の有無を検出する。
【0039】
該網膜中心静脈42の輝度変化を効果的に検出する為、静脈血流(酸化ヘモグロビン)が反射しやすい波長を前記被検眼1眼底を照明する光に使用する。静脈血流(酸化ヘモグロビン)が反射し易い波長は、415nm〜430nm、540nm〜570nmであるので、これらの波長域の光を使用するか、或は、できるだけ可視光に近い近赤外光を使用することが好ましい。近赤外光を使用する場合には、前記ダイクロイックミラー27は、720nm近傍の近赤外光を反射するものが選択される。
【0040】
前記測定用撮像装置33による撮像箇所が設定されると、3秒〜4秒程度の時間、即ち3〜4の脈波間の画像を所定時間間隔、例えば、0.1秒間隔程度で撮像する。画像信号は、前記演算処理部36の記憶部45に記憶される。
【0041】
前記演算処理部36は、記憶した画像を経時的に比較し、輝度の時間的な変化を検出する。
【0042】
図4は、前記網膜中心静脈42の輝度変化を例示したものであり、拍動の有無、強弱は輝度変化Hの有無、強弱に対応する。
【0043】
前記演算処理部36は、取得した網膜中心静脈42の画像から前記輝度変化Hを検出し、検出結果を前記モニタ35に表示すると共に前記輝度変化Hが所定量より大きいか、小さいか、或は前記輝度変化Hを検出できたか否かによって、頭蓋内圧亢進の可能性の有無を判断し、前記輝度変化Hが所定量より小さい場合、或は前記輝度変化Hを検出できなかった場合、頭蓋内圧亢進の可能性が高いことを前記モニタ35に表示警告する。
【0044】
又、前記心電図測定装置37、又は前記脈波センサ38からの脈動に同期して前記測定用撮像装置33での撮像を行うと、前記網膜中心静脈42の拍動が脈動に起因するものかどうかを判断でき、前記網膜中心静脈42の拍動の有無の判断がより、確実となる。
【0045】
尚、上記実施の形態では、広い範囲の眼底像を観察する為の低倍率の第1撮像装置と、網膜中心静脈42の反動を検出する為の高倍率の測定用撮像装置を設けているが、1つの撮像装置により、観察、測定を行う様にしてもよい。この場合、眼底像を形成する為の光学系を変倍光学系として、光学的変倍で高倍率狭視野の眼底像と低倍率広視野の眼底像を得られる様にしてもよく、或は、光学系としては低倍率で、電子変倍により、高倍率狭視野の眼底像を得る様にしてもよい。
【0046】
更に、前記網膜中心静脈42の輝度変化を検出する為の手段としては、画像を取得する測定用撮像装置ではなく、入射する光の総光量だけを検出するものであってもよく、例えば単一の光電素子であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】該実施の形態で得られる観察用の眼底像を示す図である。
【図3】該実施の形態で得られる測定用の眼底像を示す図である。
【図4】測定の対象となる網膜中心静脈の輝度変化を示す線図である。
【符号の説明】
【0048】
1 被検眼
2 頭蓋内圧診断装置
3 光学系
4 信号処理部
5 眼底照明系
6 第1眼底結像系
7 第2眼底結像系
8 固視標投影系
9 主光軸
11 孔明きミラー
13 照明光源
21 合焦レンズ
23 ハーフミラー
24 第1撮像装置
27 ダイクロイックミラー
29 固視標
33 測定用撮像装置
35 モニタ
36 演算処理部
37 心電図測定装置
38 脈波センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼眼底を照明する為の眼底照明系と、眼底からの反射光により網膜中心静脈像を光電検出器上に形成する為の結像光学系と、前記光電検出器からの信号に基づく網膜中心静脈像の経時変化より網膜中心静脈の拍動を検出する拍動検出部とを具備することを特徴とする頭蓋内圧診断装置。
【請求項2】
被検眼眼底を照明する為の照明光束は近赤外光である請求項1の頭蓋内圧診断装置。
【請求項3】
前記光電検出器に形成される眼底像よりも広い視野の眼底像を撮像する為の撮像装置を有し、該撮像装置からの信号に基づき眼底像を表示する為の表示手段を有する請求項1の頭蓋内圧診断装置。
【請求項4】
前記光電検出器上に網膜中心静脈の像を導く為に被検眼の視線を誘導させる為の移動可能な固視標を有する請求項1の頭蓋内圧診断装置。
【請求項5】
前記拍動検出部は、網膜中心静脈像輝度の変化量に基づき網膜中心静脈の拍動を検出する請求項1の頭蓋内圧診断装置。
【請求項6】
前記拍動検出部には、心電図測定装置又は脈波センサからの信号が入力されている請求項1の頭蓋内圧診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−301215(P2007−301215A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133785(P2006−133785)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】