説明

顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料及びその製造方法

【課題】複雑な形状の顎骨の欠損部の正確な修復を可能とし、治療後において、患者が疾患に冒される前のように正常な発声や咀嚼を行うことができるようにし、顎骨の治療に伴って顎骨の患部を除去するときに骨と一緒に歯も除去されたケースでは歯の修復をも同時に行うことができるようにする。
【解決手段】移植材料(C1)は、患者の顎骨の患部を除去する前に、患者の頭骨を撮像した撮像データ(D1)を基にして、患部を除去する前の顎骨の立体モデル(1)をつくり、立体モデル(1)から、想定される患部形状と同じ形状の擬似患部(2)を除去し、擬似患部(2)または立体モデル(1)の除去残部(3)から補填部形状情報を得て骨芯(60)をつくり、骨芯(60)の表面に患者の骨細胞を増殖させて得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料及びその製造方法に関するものである。更に詳しくは、複雑な三次元構造を有する顎骨の欠損部を再生するに当たり、移植のために患者の他の部位の骨を一部採取する必要がなく、移植した部分が感染症を起こすリスクをも低減できるものであって、移植材料の精密な成形による欠損部の正確な修復と、歯の修復をも同時に行うことができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、疾患に冒された顎骨の治療に伴い、顎骨の一部を除去し顎骨に欠損部を生じることになった場合、この欠損部を修復するための医療が必要になる。従来は、顎骨の欠損部を修復するために、患者の他の部位の骨(例えば、体積の大きい骨盤(腸骨)など)の一部を採取し、これを削って欠損部の形に合うように成形し、患部に移植していた。
【0003】
しかしながら、ヒトの顎骨の形状は複雑な三次元構造を有しており、前記のように欠損した部分の形状に合うように骨を削って成形し、それを患部に移植する手術を行うという治療は、極めて高度な技術を要する困難なものであった。さらには、骨を採取した部分については、多くの場合で金属などの補強材によって補強する必要があり、また、成形した骨を移植した部分が感染症を起こす可能性が高いなど、顎骨の欠損部の修復は困難を極めていた。
【0004】
ところで、近年においては、損傷した組織または疾患に冒された組織を修復させる骨の再生医療の研究とその成果にはめざましいものがある。骨の再生医療の分野においては、患者にとって負担の大きい患者自身の骨の採取を行わずに、細胞を媒介した代替材料での移植を可能とし、さらに修復部にその周りの部分と同等の機械的強度を付与することが大きな課題となっていた。
【0005】
骨組織としての十分な機械強度を有する移植治療のための骨組織を短期間で再生させることができる骨の再生方法を提供するものとしては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
特許文献1記載の骨の再生方法は、多分化能を有する間葉系幹細胞または骨芽細胞を当該細胞の足場となりうる繊維性材料または多孔性材料中にて増殖させることにより、特定の形状および大きさ、そして移植治療に適する骨組織を迅速に形成・再生させることができるようにしたものである。
【0006】
【特許文献1】WO2003/018077
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された骨の再生方法は、再生する骨の部位を特定しない、いわば汎用の技術であって、修復する骨の部位の特性などに細かく対応したものではなかった。このため、前記したように修復が極めて困難な顎骨の欠損部の再生に当該技術をそのまま利用しようとしても、次のような新たな課題を生じていた。
【0008】
顎の骨は複雑な三次元構造を有しており、この複雑な構造は、ヒトが声を発したり食べ物を咀嚼する際の動きに密接に関係している。このため、患者が治療後において、疾患に冒される前のように正常な発声や咀嚼を行うことができるようにするためには、欠損した部分に対応して極めて精密に成形した移植材料をつくる必要がある。
【0009】
また、疾患に冒された顎骨の治療に伴って顎骨の一部を除去する場合、骨と共に歯も除去されるケースが極めて多い。この場合は、顎骨の欠損部の修復と共に歯の修復も同時に行う必要があるが、このような技術は未だ提案されていない。
【0010】
そこで本発明の目的は、複雑な構造を有する顎骨のうち除去された患部の欠損部を再生する場合、移植のために患者の他の部位の骨を一部採取する必要がなく、移植した部分が感染症を起こすリスクをも低減できるものであって、移植材料の基となる骨芯を精密に成形することによって顎骨の欠損部の正確な修復を可能とし、治療後において、患者が疾患に冒される前のように正常な発声や咀嚼を行うことができるようにすることである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、前記目的に加えて、顎骨の治療に伴って顎骨の患部を除去するときに骨と一緒に歯も除去されたケースでは、歯の修復をも同時に行うことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
【0013】
本発明は、
患部を除去する前の患者の頭骨を撮像して得られた撮像データを基にしてつくられた患部を除去する前の顎骨の立体モデルから、想定される患部形状と同じ形状の擬似患部を除去した立体モデルの除去残部または前記擬似患部から補填部形状情報を得てつくられた骨芯の表面に前記患者の骨細胞が増殖させてある、顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料である。
【0014】
本発明は、
患部を除去した後の患者の頭骨を撮像して得られた撮像データを基にしてつくられた患部を除去した後の顎骨の立体モデルのうち、顎骨の欠損部を現す形状から補填部形状情報を得てつくられた骨芯の表面に前記患者の骨細胞が増殖させてある、顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料である。
【0015】
本発明の顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料は、
骨芯に歯科用インプラントを取り付けるためのソケットが設けられているのがより好ましい。
【0016】
本発明は、
患者の顎骨の患部を除去する前に患者の頭骨を撮像して得られた撮像データを基にして患部を除去する前の顎骨の立体モデルをつくり、該立体モデルから想定される患部形状と同じ形状の擬似患部を除去し、該擬似患部または立体モデルの除去残部から補填部形状情報を得て骨芯をつくり、該骨芯の表面に前記患者の骨細胞を増殖させる、顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料の製造方法である。
【0017】
本発明は、
患者の顎骨の患部を除去した後に患者の頭骨を撮像して得られた撮像データを基にして患部を除去した後の顎骨の立体モデルをつくり、該立体モデルのうち顎骨の欠損部を現す形状から補填部形状情報を得て骨芯をつくり、該骨芯の表面に前記患者の骨細胞を増殖させる、顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料の製造方法である。
【0018】
本発明の顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料の製造方法は、
骨芯に歯科用インプラントを取り付けるためのソケットを設けるのがより好ましい。
【0019】
なお、本発明の顎骨用移植材料は、
患者の顎骨の患部を除去する前に、該患者の頭骨を撮像して撮像データを得る工程、
該撮像データを基にして、患部を除去する前の顎骨の立体モデルをつくる工程、
該立体モデルから、想定される患部形状と同じ形状の擬似患部を除去する工程、
該擬似患部または立体モデルの除去残部から補填部形状情報を得て骨芯をつくる工程、
前記骨芯の表面に前記患者の骨細胞を増殖させて移植材料を得る工程、
該移植材料を前記患者の顎骨の欠損した部分に移植する工程、
を含む、顎骨の再生方法に使用することができる。
【0020】
また、本発明の顎骨用移植材料は、
患者の顎骨の患部を除去した後に、患者の頭骨を撮像して撮像データを得る工程、
該撮像データを基にして、患部を除去した後の顎骨の立体モデルをつくる工程、
該立体モデルのうち、顎骨の欠損部を現す形状から補填部形状情報を得て骨芯をつくる工程、
前記骨芯の表面に前記患者の骨細胞を増殖させて移植材料を得る工程、
該移植材料を前記患者の顎骨の欠損した部分に移植する工程、
を含む、顎骨の再生方法に使用することができる。
【0021】
前記顎骨の再生方法においては、
骨芯をつくる工程より後の工程で、骨芯に歯科用インプラントを取り付けるためのソケットを設けるようにしてもよい。
【0022】
また、前記顎骨の再生方法においては、
骨芯をつくる工程より後の工程で、骨芯と立体モデルを使用して移植のシミュレーションを行うようにしてもよい。
【0023】
頭骨(頭蓋骨)を撮像する手段としては、例えばCT(computed tomography)によるスキャンが一般的であるが、これに限定されるものではなく、他の方法として、例えばMRI(magnetic resonance imaging)の採用も可能である。
【0024】
歯科用インプラントを取り付けるためのソケットは、インプラント(人工歯根)をねじ込みなどによって固定するためのものである。歯科用インプラントとは、歯の欠損したあと、歯の機能を代用させる目的で顎骨に埋め込む人工的な物質(材料としては、チタンが多く使われる)である。
【0025】
骨芯の材料としては、生体不活性材料、例えばチタン、チタン合金、ステンレススチール、コバルト−クロム合金、コバルト10−クロム−モリブデン合金などの金属材料、またはアルミナセラミックス、カーボンセラミックス、ジルコニアセラミックス、炭化珪素セラミックス、窒化珪素セラミックス、ガラスセラミックスなどのセラミックス材料があげられるが、これらに限定はされない。なお、この中でもチタンは、室温では酸や食塩水(海水)などとは殆ど反応せず、プラチナ(白金)とほぼ同等の強い耐蝕性を持ち、軽量で引っ張り強度などの機械的性質にも優れており、さらには生体組織との親和性も高いので、骨芯の材料としてはより好ましい。
【0026】
骨芯の表面に増殖させる骨細胞としては、例えば患部の組織から直接採取した骨芽細胞の他、間葉系幹細胞や胚性幹細胞(ES細胞)から分化させた骨芽細胞があげられる。骨芽細胞は、増殖分化の足場となる骨基質(コラーゲン、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトなど)と共に使用することができる。
間葉系幹細胞は、骨、軟骨、筋肉、靭帯、腱及び間質などの間充織組織系の再生に重要な役割を果たしている。間葉系幹細胞は、生体の骨髄、骨膜などから比較的容易に単離することができ、幹細胞としては安定な細胞形態を示す。
【0027】
さらに間葉系幹細胞は、サイトカイン(細胞間情報伝達分子)や増殖因子によりインビトロ(体外)で骨芽細胞、軟骨細胞および筋芽細胞などの細胞に分化させることができる。特に、骨芽細胞への分化は骨形成因子を作用させることにより誘導することが可能であり、例えばコラーゲンを骨形成因子と共にヒトに移植すると、正常な骨組織を形成できる。
なお、間葉系幹細胞やES細胞は未分化細胞であるため、前記のように移植後に移植先の骨組織に応じた骨細胞へと分化することが予測できるが、移植する前に、あらかじめインビトロ培養などによって移植先の骨組織に応じた骨細胞へ分化させておくことが好ましい。
【0028】
間葉系幹細胞は、前記のように、この細胞を有する骨髄または骨膜から採取することができるが、その他、胸骨、上腕骨、大腿骨、脛骨及び腸骨などから採取することもできる。
また、単離された間葉系幹細胞は、そのまま播種して培養することもできるが、通常は適当な培地中にて培養した後に使用される。
【発明の効果】
【0029】
(a)本発明によれば、複雑な構造を有する顎骨のうち除去された患部の欠損部を再生する場合、患部の除去前または除去後において頭骨を撮像し、この撮像データを基に立体モデルをつくり、この立体モデルから補填部形状情報を得ることにより、移植材料を構成する骨芯を、顎骨から除去された患部の形状に極めて近い形状となるよう精密に成形することができる。
これにより、顎骨の欠損した部分を形状的に正確に補填することができるので、治療後において、患者が疾患に冒される前のように正常な発声や咀嚼を行うことができるようになることが期待できる。
【0030】
(b)骨芯に歯科用インプラントを取り付けるためのソケットを設けるようにしたものは、疾患に冒された顎骨の治療に伴って顎骨の患部を除去するときに骨と一緒に歯も除去されたケースにおいて、患者の顎骨の欠損部の修復と共に歯の修復も同時に行うことができ、咀嚼機能の迅速な回復を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明を図に示した実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0032】
まず、顎骨の欠損部を補填する形状情報を、顎骨の患部を除去する前の頭骨の立体モデルから得る場合を説明する。
図1は本発明に係る移植材料を使用した顎骨の再生方法の第1実施例を示す説明図、
図2は顎骨の再生部分を示す断面説明図である。
【0033】
(1)顎骨の患部を除去する前の患者の頭部をCTスキャンなどの撮像手段によって撮像し、頭骨の撮像データD1(三次元データ)を得る。
(2)患部を除去する前の撮像データD1を基に、顎骨の立体モデル1(三次元モデル)を作製する。
【0034】
(3)作製された顎骨の立体モデル1から、想定される患部の形状と同じ形状の擬似患部2を除去する。
(4)擬似患部2または立体モデルの除去残部3から補填部形状情報を得て、チタン製のメッシュを使用して中空のチタンメッシュトレイ6を作製する。また、チタンメッシュトレイ6の中空部の形状に合わせてチタン塊などの材料を削り出して人工骨4を作製する。
【0035】
(5)人工骨4に歯科用インプラントを取り付けるためのソケット5を設ける。ソケット5を設けるには、まず、前記撮像データ(除去される患部にある歯の撮像データを含む)を基にして、ソケット5を埋設する位置や角度などの必要な情報を得る。そして、この情報を基に人工骨4にソケット5を固定するための穴を開けるなどの必要な加工を施し、ソケット5を人工骨4に埋め込むようにする。なお、本実施例のように人工骨4がチタンあるいはセラミックなど強度と加工性に優れた材料で形成されている場合は、ソケット部となる雌ネジ部を直接形成してもよい。
【0036】
(6)前記ソケット5を設けた人工骨4をチタンメッシュトレイ6の中空部に組み込み、固定して、これを骨芯60とする。骨芯60の外郭となるチタンメッシュトレイ6は、骨芯としての十分な強度を有している。なお、この組み込みにおいて、人工骨4のソケット5の口部をチタンメッシュトレイ6の外部へ露出させて、ソケット5に歯科用インプラント8が固定できるようにすることはいうまでもない。
【0037】
(7)前記骨芯60と、擬似患部2を除去し欠損部がある顎骨の立体モデル1を使用して、施術者が移植のシミュレーションを行う。このシミュレーションの結果から、必要であればチタンメッシュトレイ6や人工骨4の形状の補正を行う。このように、施術者が移植のシミュレーションを行うことにより、骨芯60の形状的な不具合を実際の移植前に把握し補正できると共に、施術者にとっては移植の手順などがより具体的にイメージできるので、移植手術の正確性や迅速性に大きく寄与することができる。なお、このシミュレーションは、骨芯60の代わりに骨芯60の表面に骨細胞を増殖させた次述の移植材料C1を使用して、より実際条件に即した形で行うこともできる。
【0038】
(8)患者自身の骨から採取した間葉系幹細胞を含む細胞懸濁液9(例えば濃縮骨髄とハイドロキシアパタイトを含むものなど)をつくり、ここに前記骨芯60を浸漬して間葉系幹細胞を表面に付与する。なお、骨芯60のソケット5の口部にはあらかじめ栓(蓋)10をしておき、細胞懸濁液9がソケット5の内部に入らないようにする。そして、骨芯60の表面上で間葉系幹細胞を培養し、さらに骨芽細胞に分化させることにより、人工的に培養骨膜(骨細胞の層)をつくり、このようにして移植材料C1を得る。
【0039】
(9)そして、移植手術によって、前記移植材料C1を患者の顎骨11の欠損した部分に移植する。移植材料C1の表面にある培養骨膜は骨芽細胞を含み、時間の経過と共に新生骨7(図2参照)が形成される。また、培養骨膜は、顎骨11の欠損した部分の表面に対し組織としてなじみ、さらに新生骨7は人工骨4及び残存している顎骨11と連結され、移植材料C1は顎骨11の欠損した部分を形状的に補填して定着する。なお、間葉系幹細胞は、移植した後、周りの生体組織を成す細胞へと分化することが予測されるので、間葉系幹細胞を骨芯表面に付与した後、欠損した部分に移植して生体内で増殖させ骨芽細胞へと分化させるようにしてもよい。
【0040】
(10)移植材料C1が顎骨11の欠損した部分に定着し、所定の強度が確保された後、ソケット5の栓10を外して、歯科用インプラント8(人工歯根)を取り付ける。これにより、顎骨11の欠損部の再生と歯の修復が完了する。
【0041】
〔実験例〕
前記実施例1における、骨芯の表面に間葉系幹細胞を付与し、骨芯表面上で間葉系幹細胞を培養して人工的に培養骨膜をつくり移植材料を得る工程に準じて、ラットの皮下での骨の再生実験を行った。
【0042】
図3はラットの皮下での骨の再生実験の方法を示す説明図、
図4は実験結果(試料の形態変化)を示す説明図、
図5は実験結果(骨形成量)を示す説明図、
図6は実験結果(組織所見)を示す説明図である。
【0043】
(1)ラット大腿骨より骨髄を採取し、骨髄間質細胞を培養した。培養骨髄間質細胞を細胞A及びこれを骨芽細胞へ分化誘導した細胞を細胞Bとした。
(2)細胞Aと細胞Bをそれぞれ各種スキャフォールドと組み合わせた。スキャフォールドとして、コラーゲン(Col)、βリン酸カルシウム(βTCP)、ハイドロキシアパタイト(HA)を採用した。
【0044】
(3)チタンメッシュを用いて筒状のトレイを作製し、このトレイの中に細胞とスキャフォールドを組み合わせて填入して試料(7)〜(12)を作製した。また、比較例として細胞なしの試料(5),(6)も作製した。
これらの試料は、細胞なしでスキャフォールドだけの試料(5),(6)(コラーゲン(Col)、βリン酸カルシウム(βTCP)の二種類)、細胞Aを各スキャフォールドと組み合わせた試料(7)〜(9)(三種類)、細胞Bを各スキャフォールドと組み合わせた試料(10)〜(12)(三種類)とした。
【0045】
(4)さらに、比較例としてトレイを使用しない試料(1)〜(4)を作製した。これらは、細胞Aをスキャフォールドと組み合わせた試料(1),(2)(βリン酸カルシウム(βTCP)、ハイドロキシアパタイト(HA)の二種類)、細胞Bをスキャフォールドと組み合わせた試料(3),(4)(βリン酸カルシウム(βTCP)、ハイドロキシアパタイト(HA)の二種類)とした。
【0046】
試料は、以下の12種類である。
(トレイ) (細胞) (スキャフォールド)
試料(1) なし 細胞A コラーゲン(Col)
試料(2) なし 細胞A βリン酸カルシウム(βTCP)
試料(3) なし 細胞B βリン酸カルシウム(βTCP)
試料(4) なし 細胞B ハイドロキシアパタイト(HA)
試料(5) 有り なし コラーゲン(Col)
試料(6) 有り なし βリン酸カルシウム(βTCP)
試料(7) 有り 細胞A コラーゲン(Col)
試料(8) 有り 細胞A βリン酸カルシウム(βTCP)
試料(9) 有り 細胞A ハイドロキシアパタイト(HA)
試料(10) 有り 細胞B コラーゲン(Col)
試料(11) 有り 細胞B βリン酸カルシウム(βTCP)
試料(12) 有り 細胞B ハイドロキシアパタイト(HA)
【0047】
(5)前記試料を6試料ずつ(試料(1)〜(6)、試料(7)〜(12))2群に分け、各群をそれぞれ一匹のラットの皮下へ移植した(図3参照)。そして、六週間後に取り出して、各ラットの皮下での骨再生能を検討した。また、骨の再生(形成)状態を組織学的に観察した。
【0048】
(考察)
各試料の形態の変化について観察した。
図4に示すように、トレイを有する試料(5)ないし(12)については、試料を構成するトレイの表面に培養骨膜(骨細胞の層)が形成された。
【0049】
また、各試料の骨形成量について測定を行った。骨形成量は、最大割面の標本上での移植部の面積に対する骨形成部分の面積割合(%)で表した。
【0050】
骨形成量についての測定の結果は次のとおりであった(図5、図6参照)。
まず、チタンメッシュトレイを使用し、細胞なしの試料(5),(6)では、スキャフォールドがβリン酸カルシウムの試料(6)にわずかに骨の再生が認められただけで、スキャフォールドがコラーゲンの試料(5)では骨の再生はほとんど認められなかった。
【0051】
次に、細胞Aを付与した試料(1),(2)及び(7),(8),(9)のうちチタンメッシュトレイを使用しない試料(1),(2)では、わずかな骨の再生が認められただけであった。これに対し、チタンメッシュトレイを使用した試料(7),(8),(9)では、いずれも高い割合での骨の再生が認められた。
【0052】
細胞Bを付与した試料(3),(4)及び(10),(11),(12)のうちチタンメッシュトレイを使用しない試料(3),(4)では、スキャフォールドがハイドロキシアパタイトの試料(4)にわずかな骨の再生が認められただけで、スキャフォールドがβリン酸カルシウムの試料(3)では骨の再生はほとんど認められなかった。
【0053】
これに対し、チタンメッシュトレイを使用した試料(10),(11),(12)では、スキャフォールドがコラーゲンの試料(10)では骨の再生はわずかであったが、他のスキャフォールドがβリン酸カルシウムの試料(11)及びスキャフォールドがハイドロキシアパタイトの試料(12)では、いずれも非常に高い割合での骨の再生が認められた。
【0054】
上記実験により、細胞A、細胞Bを付与した各試料では、条件によって差はあっても、組織学的に皮質骨類似の層板骨と骨髄組織(図4、図6では新生骨と表示)がみられ、健常骨組織と類似していることが認められた。
また、骨再生能で比較すると、チタンメッシュトレイを使用した場合と使用しない場合では、使用した方が比較にならないほど優れていることが分かった。さらに、スキャフォールドの種類の違いでは、コラーゲン(Col)がやや劣るが、βリン酸カルシウム(βTCP)とハイドロキシアパタイト(HA)はいずれも高い骨再生能を有することが分かった。
【0055】
これにより、十分な骨再生能を得るには、前記実施例1で説明したように、骨芯60の作製に当たってチタンメッシュトレイ6を使用し、細胞Aまたは細胞Bを付与し、スキャフォールドとしてβリン酸カルシウム(βTCP)またはハイドロキシアパタイト(HA)を採用することが、より好ましいことが分かった。
【実施例2】
【0056】
次に、顎骨の欠損部を補填する形状情報を、顎骨の患部を除去した後の頭骨の立体モデルから得る場合を説明する。
図7は本発明に係る移植材料を使用した顎骨の再生方法の第2実施例を示す説明図、
図8は顎骨の再生部分を示す断面説明図である。
【0057】
(1)顎骨の患部を除去した後の患者の頭部をCTスキャンなどの撮像手段によって撮像し、頭骨の撮像データD2(三次元データ)を得る。
(2)患部を除去した後の撮像データD2を基に、顎骨の立体モデル1a(三次元モデル)を作製する。
(3)作製された顎骨の立体モデル1aのうち、顎骨の欠損部を現す形状から補填部形状情報を得て、チタン製のメッシュを使用して中空のチタンメッシュトレイ6aを作製する。
【0058】
(4)チタンメッシュトレイ6aに歯科用インプラントを取り付けるためのソケット5を直接固定し骨芯60aとする。チタンメッシュトレイ6aにソケット5を固定する際には、まず、前記撮像データ(除去される患部にある歯の撮像データを含む)を基にして、ソケット5を埋設する位置や角度などの必要な情報を得て、チタンメッシュトレイ6aに必要な加工を施す。骨芯60aの外郭となるチタンメッシュトレイ6aは、骨芯としての十分な強度を有している。なお、この組み込みにおいて、ソケット5の口部をチタンメッシュトレイ6aの外部へ露出させて、ソケット5に歯科用インプラント8が固定できるようにすることはいうまでもない。
【0059】
(5)前記骨芯60aと、前記顎骨の立体モデル1aを使用して、施術者が移植のシミュレーションを行う。このシミュレーションの結果から、必要であればチタンメッシュトレイ6aの形状の補正を行う。このように、施術者が移植のシミュレーションを行うことにより、骨芯60aの形状的な不具合を実際の移植前に把握し補正できると共に、施術者にとっては移植の手順などがより具体的にイメージできるので、移植手術の正確性や迅速性に大きく寄与することができる。なお、このシミュレーションは、骨芯60aの代わりに骨芯60aの表面に骨細胞を増殖させた次述の移植材料C2を使用して、より実際条件に即した形で行うこともできる。
【0060】
(7)患者自身の骨から採取した間葉系幹細胞を含む細胞懸濁液9(例えば濃縮骨髄とコラーゲンを含むものなど)をつくり、ここに前記骨芯60aを浸漬して間葉系幹細胞を表面に付与する。なお、骨芯60aのソケット5の口部にはあらかじめ(蓋)栓10をしておき、細胞懸濁液9がソケット5の内部に入らないようにする。そして、骨芯60aの表面上で間葉系幹細胞を培養し、さらに骨芽細胞に分化させることにより、人工的に培養骨膜(骨細胞の層)をつくり、このようにして移植材料C2を得る。
【0061】
(8)移植手術において、前記移植材料C2を患者の顎骨11の欠損した部分に移植する。移植材料C2の表面にある培養骨膜は骨芽細胞を含み、時間の経過と共に新生骨7が形成される(図8参照)。また、培養骨膜は、顎骨11の欠損した部分の表面に対し組織としてなじみ、さらに新生骨7は移植材料C2内の中空部内に再生されて残存している顎骨11と連結され、移植材料C2は顎骨11の欠損した部分を形状的に補填して定着する。なお、間葉系幹細胞は、移植した後、周りの生体組織を成す細胞へと分化することが予測されるので、間葉系幹細胞を骨芯表面に付与した後、欠損した部分に移植して生体内で増殖させ骨芽細胞へと分化させるようにしてもよい。
【0062】
(9)移植材料C2が顎骨11の欠損した部分に定着し、所定の強度が確保された後、ソケット5の栓10を外して、歯科用インプラント8を取り付ける。これにより、顎骨11の欠損部の再生と歯の修復が完了する。
【0063】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまで説明上のものであって限定的なものではなく、前記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。また、本発明は図示されている実施の形態に限定されるものではなく、技術思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る移植材料を使用した顎骨の再生方法の第1実施例を示す説明図。
【図2】顎骨の再生部分を示す断面説明図。
【図3】ラットの皮下での骨の再生実験の方法を示す説明図。
【図4】実験結果(試料の形態変化)を示す説明図。
【図5】実験結果(骨形成量)を示す説明図。
【図6】実験結果(組織所見)を示す説明図。
【図7】本発明に係る移植材料を使用した顎骨の再生方法の第2実施例を示す説明図。
【図8】顎骨の再生部分を示す断面説明図。
【符号の説明】
【0065】
D1 撮像データ
1 立体モデル
2 擬似患部
3 除去残部
4 人工骨
5 ソケット
6 チタンメッシュトレイ
60 骨芯
7 新生骨
8 歯科用インプラント
9 細胞懸濁液
10 栓
11 顎骨
C1 移植材料
D2 撮像データ
1a 立体モデル
6a チタンメッシュトレイ
60a 骨芯
C2 移植材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部を除去する前の患者の頭骨を撮像して得られた撮像データを基にしてつくられた患部を除去する前の顎骨の立体モデルから、想定される患部形状と同じ形状の擬似患部を除去した立体モデルの除去残部または前記擬似患部から補填部形状情報を得てつくられた骨芯の表面に前記患者の骨細胞が増殖させてある、
顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料。
【請求項2】
患部を除去した後の患者の頭骨を撮像して得られた撮像データを基にしてつくられた患部を除去した後の顎骨の立体モデルのうち、顎骨の欠損部を現す形状から補填部形状情報を得てつくられた骨芯の表面に前記患者の骨細胞が増殖させてある、
顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料。
【請求項3】
骨芯に歯科用インプラントを取り付けるためのソケットが設けられている、
請求項1または2の顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料。
【請求項4】
患者の顎骨の患部を除去する前に患者の頭骨を撮像して得られた撮像データを基にして患部を除去する前の顎骨の立体モデルをつくり、該立体モデルから想定される患部形状と同じ形状の擬似患部を除去し、該擬似患部または立体モデルの除去残部から補填部形状情報を得て骨芯をつくり、該骨芯の表面に前記患者の骨細胞を増殖させる、
顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料の製造方法。
【請求項5】
患者の顎骨の患部を除去した後に患者の頭骨を撮像して得られた撮像データを基にして患部を除去した後の顎骨の立体モデルをつくり、該立体モデルのうち顎骨の欠損部を現す形状から補填部形状情報を得て骨芯をつくり、該骨芯の表面に前記患者の骨細胞を増殖させる、
顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料の製造方法。
【請求項6】
骨芯に歯科用インプラントを取り付けるためのソケットを設ける、
請求項4または5の顎骨の再生に使用する顎骨用移植材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−307186(P2008−307186A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156716(P2007−156716)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】