説明

顔料粒子、インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法

【課題】発色性及び耐光性に優れたイエローの色相を有する画像を記録可能であるインクに好適な顔料粒子を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構造を有し、かつ、200nm以上800nm以下の波長領域における吸収スペクトルの最大吸収波長が340nm以上360nm以下の範囲内に存在することを特徴とする顔料粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イエローの色相を有する顔料粒子、この顔料粒子を用いたインク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方法によって記録される画像について、耐光性に対する要求が高まっている。かかる要求に対応すべく、顔料を色材として用いるインクの検討が精力的に行われている。しかし、顔料を色材として用いるインクは、染料を色材として用いるインクに比べて、記録される画像の発色性が低い。特に、イエローインクを用いて記録される画像では、耐光性と発色性の両立が課題となっている。
【0003】
また、イエロー色材の色調は、CIEL***表示系における色相角が90°となることが理想である。しかし、実際には顔料の吸光特性などによって、緑みのイエロー(色相角が90°より大きい)や、赤みのイエロー(色相角が90°より小さい)というように、色相の偏りが生ずる。インクジェット記録に用いるイエロー色材の場合、緑みのイエローは人の目にはくすんだ色として認識されやすく、画像の鮮やかさが低い印象を与える。このため、発色性の観点では、緑みのイエローよりも赤みのイエローのほうがより好適である。
【0004】
さらに、インクジェット記録においては、記録媒体として、普通紙や、コート層を有する記録媒体(光沢紙、アート紙)も使用されるようになっている。このため、インクジェット記録に用いられるインクに対しては、これらの多様な記録媒体のいずれにおいても、高い発色性を実現できることが要求されている。耐光性と発色性を両立させるために、色材としてC.I.ピグメントイエロー213、185、及び155のうちの1種以上の顔料を用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、マイクロリアクターを用いて顔料の微粒子を製造する方法に関する提案がある(特許文献2)。特許文献2には、かかるマイクロリアクターを用いて処理することによって顔料の結晶型を変え得ることが開示されており、α型やγ型のキナクリドン顔料を製造したことが記載されている。一方、特許文献3には、銅フタロシアニン顔料について特許文献2で開示された処理を行うと、結晶型は変わらないものの、可視光領域の吸収特性が従来のものとは異なるようになることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−266568号公報
【特許文献2】国際公開第2009/008338号
【特許文献3】国際公開第2010/035861号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らによる検討の結果、特許文献1に記載のインクを用いた場合、記録される画像の耐光性は確保されるものの、発色性は不十分であることがわかった。また、赤みのイエローの色相を有する顔料として、C.I.ピグメントイエロー183、191などが知られている。しかし、本発明者らによる検討の結果、これらの顔料を含有するインクを用いて記録された画像は彩度が低く、発色性が得られないことがわかった。また、特許文献2及び3には、顔料を特定の方法で処理することにより、結晶型や吸収特性を変え得ることが開示されてはいる。しかし、キナクリドン顔料や銅フタロシアニン顔料についての検討が主であり、どのような顔料において結晶型や吸収特性が変化し得るのかも、また、その変化の方向性も不明である。
【0008】
したがって、本発明の目的は、発色性及び耐光性に優れたイエローの色相を有する画像を記録可能であるインクに好適な顔料粒子、それを用いたインクジェット用に好適なインク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明によれば、下記式(1)で表される構造を有し、かつ、200nm以上800nm以下の波長領域における吸収スペクトルの最大吸収波長が340nm以上360nm以下の範囲内に存在することを特徴とする顔料粒子が提供される。
【0010】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発色性及び耐光性に優れたイエローの色相を有する画像を記録可能であるインクに好適な顔料粒子、それを用いたインクジェット用に好適なインク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好適な実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本明細書の記載において、「C.I.」とは、「カラーインデックス」の略語を意味する。また、「最大吸収波長(λmax)」とは、200nm以上800nm以下(可視領域)における吸収スペクトルのピークのうち、最も長波長側に存在するピークの波長をいう。
【0013】
本発明者らの検討により、下記式(1)で表される構造を有し、かつ、λmaxが340nm≦λmax≦360nmの範囲内に存在する顔料粒子によって、上記の効果が得られることがわかった。
【0014】

【0015】
上記式(1)で表される構造を有する化合物(顔料)は、C.I.ピグメントイエロー213として知られている。従来の一般的なC.I.ピグメントイエロー213の顔料粒子のλmaxは370〜390nmの範囲に存在する。そして、C.I.ピグメントイエロー213は、他のイエロー顔料に比べて耐光性は高いが、発色性の面でやや劣ることが知られている。また、C.I.ピグメントイエロー213の色相は、やや緑みのイエローである。
【0016】
本発明者らの検討の結果、C.I.ピグメントイエロー213の分子構造を維持しながら、顔料粒子の可視領域におけるλmaxを、従来のものよりも短波長側である340〜360nmの範囲に存在させることによって、以下の効果が得られることを見出した。すなわち、色相が緑みに偏るのが抑えられるとともに、耐光性を維持しつつ発色性を向上させた画像を記録可能な顔料粒子が得られる。λmaxが360nmよりも長波長側に存在すると、色相が緑領域に偏ってしまい、λmaxが340nmよりも短波長側に存在すると、色相がオレンジ領域に偏ってしまう。つまり、上記範囲を外れると、いずれの場合も、記録される画像が好ましいイエローの色調を有さなくなる。可視領域におけるλmaxを340〜360nmの範囲に存在させることによって、色相が赤みのイエローになる理由は、λmaxが短波長側にシフトすることで、高波長領域(黄〜赤色領域)の吸収を抑えることができるためと考えられる。
【0017】
<顔料粒子>
本発明の顔料粒子は、従来から存在する汎用的な顔料粒子の調製方法によって得ることができる。顔料粒子の調製方法は、ブレークダウン法とビルドアップ法の2つに大別できる。ブレークダウン法は、バルク原料や原料化合物と、分散剤及び溶媒の混合物を、ビーズミルなどの分散装置を用いて機械的に磨砕して顔料粒子を得る方法である。また、ビルドアップ法は、溶媒に溶解させた原料化合物から、化学反応や析出などの工程を経て顔料粒子を得る方法である。本発明の顔料粒子を得るためには、上記の原料として、上記式(1)で表される構造を有する化合物(顔料)を用いる。
【0018】
ブレークダウン法において汎用的に使用される分散装置としては、メディア型分散機、超音波分散機、高圧衝突型分散機などを挙げることができる。また、分散装置を用いる前に、分散装置のノズルや経路内での目詰まりを防止するために、予め回転剪断型撹拌機などを使用して混合物の前処理を行うことも好ましい。
【0019】
メディア型分散機としては、撹拌軸にディスク、ピン、又はリングが設けられたものや、ロータが回転するものなどを挙げることができる。なお、撹拌軸に設けられるディスクは穴開きディスクであってもよく、切り込みや溝が形成されたディスクであってもよい。このようなメディア型分散機の具体例としては、サンドミル;ダイノミル;ビーズミルなどの従来公知の装置を挙げることができる。
【0020】
超音波分散機としては、以下商品名で「US−300T」、「US−1200TCVP」(以上、日本精機製)、「Digital Sonifier 250D」(BRANSON製)など、従来公知のものを用いることができる。
【0021】
高圧衝突型分散機としては、混合物を高圧フランジャーポンプで加圧して小径のノズルから放出させるチャンバーを備えた分散機などを用いることができる。具体的には、ホモジナイザーなどのメディアレス分散機が好適である。高圧衝突型分散機を用いる際の加圧圧力は、100MPa以上とすることが好ましい。また、高圧衝突型分散機による処理回数は2回以上とすることが好ましい。
【0022】
前処理に用いる回転剪断型撹拌機としては、混合物中の原料に対して剪断力を加えることができる撹拌機であればよく、従来公知のバッチ式などの撹拌機を用いることができる。ここでいう「剪断力」には、ずり応力以外にも、衝撃力やキャビテーションなど、粉末や微粒子を分散させうる機械的エネルギーが含まれる。原料には可能なかぎり高い剪断力を加えることが好ましい。具体的には、ずり速度を104/秒以上とすることが好ましく、105/秒以上とすることがさらに好ましい。このように高い剪断力は、回転翼と固定部とを備え、この回転翼と固定部との間隙が小さく設定されており、高速回転可能な撹拌機を用いることにより加えることができる。このような撹拌機の具体例としては、以下商品名で「ウルトラタラックス」(IKA製)、「T.K.ホモミクサー」、「T.K.フィルミックス」(以上、プライミクス製)、「クレアミックス」(エム・テクニック製)などを挙げることができる。
【0023】
一方、ビルドアップ法において汎用的に使用される分散装置としては、マイクロ化学プロセスなどで用いられる微小間隙式液体処理装置(マイクロリアクター)などを挙げることができる。マイクロリアクターの具体例としては、以下商品名で「マイクロミキサー」、「マイクロリアクター」(以上、IMM製)、「マイクロリアクター」(CPCテクノロジー製)、「ULREA SS−11」(エム・テクニック製)などを挙げることができる。
【0024】
λmaxが340nm以上360nm以下の範囲に存在する本発明の顔料粒子を調製する場合には、原料となる顔料から、その結晶構造に何らかの変化を生じさせることが好ましいと考えられる。ここで、ブレークダウン法により顔料の結晶構造を変化させることは可能である。ただし、ブレークダウン法により顔料粒子を調製する場合には、磨砕により生じた顔料粒子の表面が活性をもちやすいので、活性な表面を核にして複数の顔料粒子が凝集を起こしやすく、粗大粒子ができやすい。このため、顔料粒子を含む液体(顔料分散体やインク)が増粘するなどの経時変化を起こしやすく、分散安定性がやや不十分になる場合がある。このため、本発明の顔料粒子を調製するのにあたっては、ブレークダウン法よりもビルドアップ法を利用することがより好ましい。
【0025】
ビルドアップ法によりλmaxが340nm以上360nm以下の範囲に存在する本発明の顔料粒子を調製する場合には、以下の手順とすることが好ましい。まず、前述のマイクロリアクターなどを用いて、原料(顔料粗体)を溶解した液体から顔料粒子を微粒子として析出させて、顔料粒子を含むウェットケーキを調製する。その後、樹脂分散剤などの存在下で後処理(顔料粒子の分散)を行う。この後処理には、インクジェット用のインクの調製の際に一般的に利用される装置、例えば、前述のメディア型分散機、超音波分散機、高圧衝突型分散機、回転剪断型撹拌機などを使用することができる。ただし、後処理の際には、分散処理による顔料粒子のλmaxの変化が生じないようにすることが好ましい。このため、分散の際には、分散時間、周速、必要に応じて使用するメディアの種類や粒径などの条件は、先に述べたブレークダウン法により本発明の顔料粒子を得る際の分散条件と比べて、穏和な条件とする。また、前述のマイクロリアクターで、原料(顔料粗体)及び分散剤を含む混合物を処理して顔料粒子を低濃度で含む顔料分散体を得た後、得られた顔料分散体を限外ろ過などの処理で濃縮するとともに不純物を除去することも好ましい。
【0026】
ところで、本発明者らは、λmaxが340nm以上360nm以下に存在する顔料粒子を用いて記録した画像はその耐光性が、一般的な吸光特性を有するC.I.ピグメントイエロー213と比してやや低下する場合があることを確認した。耐光性がやや低下した原因としては、顔料粒子の結晶性の変化などが考えられる。そして、本発明者らの検討により、以下に示す方法で得られた顔料粒子を用いることで、記録される画像の耐光性の低下を抑制できることがわかった。すなわち、本発明の顔料粒子は、相対的に回転する2つの処理用面を、間隔1mm以下として対向して配置することにより形成される流路に、原料となる顔料を溶解させた液体を供給して、流路中で顔料粒子を微粒子として析出させて得られたものであることが好ましい。このような方法を具現化しうるマイクロリアクターとしては、例えば、商品名「ULREA SS−11」(エム・テクニック製)を挙げることができる。
【0027】
本発明者らは、上記の方法で得られた顔料粒子を用いて記録した画像の耐光性が向上する理由を以下のように推測している。上記「ULREA SS−11」などの装置は、いわゆる強制薄膜型のマイクロリアクターであり、接近・離反可能に設置された、2つのディスク(処理用面)の相対的な回転によって流路内を流れる液体に速度勾配が生じる。このため、他の方法と比較して非常に球形度の高い顔料粒子を製造することができる。このような球形度の高い顔料粒子を用いると、記録媒体において顔料粒子がより密な状態で定着する。これにより、記録される画像の耐光性の低下を効果的に抑制できると考えられる。
【0028】
本発明の顔料粒子の平均粒子径は、10nm以上300nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることがさらに好ましく、10nm以上50nm以下であることが特に好ましい。なお、本明細書における平均粒子径とは、体積基準の平均粒子径(d50)を意味する。平均粒子径が10nm未満であると、複数の顔料粒子間の相互作用が強くなり、特にインクとした場合には、高いレベルの保存安定性が十分に得られない場合がある。また、平均粒子径が300nm超であると、顔料分散体やインクとした場合に、顔料粒子の沈降が生じやすくなる場合がある。後述の実施例においては、動的光散乱方式の粒子径測定装置(商品名「UPA−UT151」、日機装製)を使用し、測定条件は粒子透過性:透過、粒子形状:非球形として、顔料粒子の平均粒子径を測定した。平均粒子径の測定には、顔料粒子を純水で適切な倍率に希釈して得た試料を用いることができるが、必要に応じて、顔料粒子の分散を補助するための界面活性剤や樹脂、また、水溶性有機溶剤などを試料に添加してもよい。通常、これらの成分を試料に添加しても、測定される平均粒子径には実質的に影響しない。後述の実施例においては、樹脂分散剤により分散された状態の顔料分散体を試料として、顔料粒子の平均粒子径を測定した。
【0029】
前述の通り、「最大吸収波長(λmax)」の定義は、200nm以上800nm以下(可視領域)における吸収スペクトルのピークのうち、最も長波長側に存在するピークの波長である。顔料粒子を含む水性の液体の吸収スペクトルを測定する場合には、200nm付近に溶媒や樹脂などの顔料以外の成分に由来するピークが存在しうる。このため、本発明においては、可視領域の最も長波長側に存在するピークを与える波長をλmaxと定義する。特に、本発明では、イエロー色材である式(1)で表される構造を有する顔料粒子についてのλmaxを規定している。したがって、λmaxのより厳密な定義を、300nm以上500nm以下(イエロー領域)における吸収スペクトルのうち、最も大きい吸収ピークを与える波長と考えることもできる。
【0030】
顔料粒子の吸収スペクトルの最大吸収波長(λmax)は、一般的な方法にしたがって測定することができる。後述の実施例においては、分光光度計(商品名「U−3310」、日立ハイテクノロジーズ製)を使用して、本発明の顔料粒子を含む液体について吸収スペクトルのλmaxを測定した。なお、測定の際のサンプリング間隔は0.5nm、ピーク検出の条件は、閾値0.01、感度1とした。測定には、λmaxにおける吸光度が1.0程度となるように顔料粒子を純水で適切な倍率に希釈して得た液体を試料として用いることが好ましい。必要に応じて、顔料粒子の分散を補助するための界面活性剤や樹脂、また、水溶性有機溶剤などを試料に添加してもよい。通常、これらの成分を試料に添加しても、測定されるλmaxには実質的に影響しない。後述の実施例においては、樹脂分散剤により分散された状態の顔料分散体を試料として、顔料粒子のλmaxを測定した。一方、可視領域に吸収波長をもつ色材などの成分は、式(1)で表される構造を有する顔料粒子について測定するλmaxに影響を与える可能性があるため、測定試料に含まれないようにする必要がある。つまり、測定対象の試料に不要な成分(別の色材など)の混入が考えられる場合には、そのような成分を除去した試料を調製し、測定を行う。
【0031】
<インク>
本発明のインクは、上述した本発明の顔料粒子を含有するものである。以下、本発明のインクを構成する成分などについて詳細に説明する。
【0032】
(顔料粒子)
本発明のインクには、上述した本発明の顔料粒子を含有させる。インク中の顔料粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5.0質量%以下であることがさらに好ましい。なお、インクの色材として、上述した本発明の顔料粒子の他に、これとは異なる顔料や、染料を併用してもよい。
【0033】
本発明のインク中においては、顔料粒子はどのような状態で分散されていてもよい。具体的には、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料、界面活性剤により分散された顔料、顔料粒子の表面の少なくとも一部を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを挙げることができる。なかでも、分散剤である樹脂を顔料粒子の表面に物理的に吸着させ、該樹脂の作用により顔料粒子を分散させる樹脂分散顔料とすることが好ましい。このような樹脂分散剤としては、アニオン性基やノニオン性基の作用によって顔料粒子を水性媒体に分散させることができるものが好ましい。樹脂分散剤としては、インクジェット用のインクに使用可能な従来公知の共重合体やその塩を用いることができる。より好適な樹脂分散剤としては、以下に挙げるような親水性ユニット及び疎水性ユニットを有する共重合体が挙げられる。親水性ユニットとしては、(メタ)アクリル酸などのカルボキシ基を有する単量体やその塩などの親水性単量体に由来するユニットが挙げられる。また、疎水性ユニットとしては、スチレンやその誘導体;ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する単量体、(メタ)アクリル酸エステルなどの脂肪族基を有する単量体などの疎水性単量体に由来するユニットが挙げられる。
【0034】
(1,2−アルカンジオール)
本発明者らの検討によると、上述した本発明の顔料粒子を含有するインクを用いると、記録媒体としてアート紙を用いて記録した画像の発色性(彩度)がやや低下する場合があるという新たな課題が見出された。アート紙はコート層を有する記録媒体の一種であるが、いわゆる光沢紙と比べてコート層の細孔径が大きいため、顔料粒子が沈み込みやすく、光沢紙よりも発色性が低くなりやすい傾向がある。かかる課題を解決すべく本発明者らが検討したところ、1,2−アルカンジオールをインクに添加することで、アート紙においても、記録した画像の発色性が向上することを見出した。
【0035】
通常、1,2−アルカンジオールを含有するインクを用いると、記録媒体へのインクの浸透性が高まり、顔料粒子が記録媒体に沈み込みやすくなるため、記録媒体としてアート紙を用いて記録した画像の発色性は低下する。これとは逆に、本発明のインクにおいては、1,2−アルカンジオールを添加することで、記録媒体としてアート紙を用いて記録した画像の発色性の低下を抑制することができる。このように1,2−アルカンジオールの添加によって画像の発色性の低下を抑制できるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。
【0036】
分散処理によって、顔料粒子の表面には何らかの物理的ないしは化学的な変化が生ずる。その表面に何らかの変化が生じた顔料粒子は、記録媒体に沈み込みやすいので、画像の発色性が低下すると考えられる。1,2−アルカンジオールは、その構造中に親水部と疎水部を有する化合物である。すなわち、1,2−アルカンジオールは、界面活性剤のような構造を有する化合物であるが、一般的な界面活性剤に比べて非常に分子量が小さい。このため、1,2−アルカンジオールは、樹脂分散剤によって分散されている顔料粒子を使用する場合、顔料粒子の表面には樹脂が吸着しているが、その表面のわずかな隙間に入り込んで、顔料粒子の表面と適度な吸着・脱離の平衡状態を保った状態で存在する。そして、1,2−アルカンジオールの作用によって、顔料粒子が凝集しやすくなることによって、記録媒体への顔料粒子の沈み込みが抑えられると考えられる。
【0037】
以上より、本発明のインクには1,2−アルカンジオールを含有させることが好ましい。1,2−アルカンジオールとしては、インクを構成する水性媒体に溶解しやすく、上述の作用が生じやすいため、例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオールなどの常温(25℃)で液体のものが好ましい。
【0038】
1,2−アルカンジオールを使用する場合、インク中の1,2−アルカンジオールの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.2質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であることがさらに好ましい。1,2−アルカンジオールの含有量が0.2質量%未満になると、記録媒体への顔料粒子の沈み込みを抑制する作用が生じづらく、発色性を向上する効果が得られ難くなる傾向にある。一方、1,2−アルカンジオールの含有量が10.0質量%より多くなると、インク中においても顔料粒子が凝集しやすくなることによってインクの吐出性が低下しやすくなる傾向があり、結果として十分な発色性が得られない場合がある。
【0039】
(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)
本発明のインクには、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを界面活性剤として含有させることが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有させることにより、特に記録媒体として光沢紙を用いて記録した画像の発色性をさらに向上させることができる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、記録媒体におけるインク滴の浸透及び乾燥を遅らせる作用がある。このため、記録媒体に先に付与されたインクのドットと、後に付与されたインクのドットとの相溶性が高くなる。その結果、記録媒体に形成される顔料層がより平滑となり、画像の光沢性を向上させるとともに、発色性を向上させることができる。高精細な画像を記録する際に有効な多パス記録(1バンドや1画素などの単位領域の画像を記録ヘッドの複数回の走査によって記録する方法)を行う場合には、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有するインクを使用することが特に効果的である。これは、多パス記録を行う場合には、複数のドットが形成される時間的な間隔が大きくなるため、画像が平滑となりにくい。しかし、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用することで、多パス記録を行う場合であっても画像を平滑にすることができるためである。
【0040】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ある程度高い分子量を有する化合物である。このため、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの、記録媒体からの蒸発速度や、記録媒体への浸透速度は緩やかである。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、その構造中にポリオキシエチレン鎖と炭化水素鎖を有する化合物であるので、親水性物質と親油性物質のいずれともなじみ易い。その結果、インクのドット同士が液体の状態で重なり合い、かつ記録媒体ともなじみやすいので、ドット高さを低く抑えられ、画像の光沢性及び発色性を向上させることができる。さらに、ポリオキシエチレンアルキルエーテルはノニオン性の化合物であるため、記録媒体に含まれるカチオン性物質とインク中のアニオン性成分(樹脂分散剤など)との反応を阻害せず、両者を効率的に結合させることができる。このため、顔料粒子を記録媒体の表面やその近傍で定着させることが可能となる。
【0041】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、一般式:R−O−(CH2CH2O)mHで表される構造を有する。前記一般式中のRは炭化水素基であり、mは整数である。本発明のインクに含有させるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、その疎水性基である前記一般式中のR(アルキル基)の炭素数が、12乃至22であることが好ましい。より具体的には、前記一般式中のRは、ラウリル基(12)、セチル基(16)、ステアリル基(18)、オレイル基(18)、ベヘニル基(22)などであることが好ましい(括弧内の数値は炭化水素基の炭素数である)。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの親水性基であるエチレンオキサイド基の数を表す前記一般式中のmは、10以上50以下であることが好ましく、10以上40以下であることがさらに好ましい。
【0042】
インク中のポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下であることがさらに好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量が0.05質量%未満になると、記録媒体の表面上で複数のドットの相溶性を高める効果が不十分となる傾向にある。このため、記録媒体の表面に形成される顔料層の平滑性がやや低下することによって画像の光沢性が低下し、結果的に記録媒体として光沢紙を用いて記録した画像の発色性の低下につながる場合がある。一方、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量が2.0質量%より多くなると、顔料粒子の表面へのポリオキシエチレンアルキルエーテルと樹脂分散剤の競争吸着が顕著となり、顔料粒子の表面のノニオン性が強くなる傾向にある。その結果、顔料粒子を分散するためのアニオン性基を有する樹脂分散剤と、記録媒体に含まれるカチオン性物質との結合が弱くなり、特にアート紙や普通紙において顔料粒子が記録媒体に沈み込みやすくなることで、発色性がやや低下する場合がある。
【0043】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルのグリフィン法により求められるHLB値は、13.0以上であることが好ましく、15.0以上であることがさらに好ましい。HLB値が13.0未満であると、ドットの定着を緩和する作用が小さくなり、発色性を向上させる効果が得られない場合がある。なお、HLB値の上限は後述する通り20.0である。このため、本発明で好適に用いられるポリオキシエチレンアルキルエーテルのHLB値の上限も20.0以下である。
【0044】
ここで、界面活性剤のHLB値を規定するグリフィン法について説明する。グリフィン法によるHLB値は、界面活性剤の親水基の式量と分子量から、下記式(2)により求められる。このHLB値は、界面活性剤の親水性や親油性の程度を0.0から20.0の範囲で示す。このHLB値が低いほど、界面活性剤の親油性(疎水性)が高いことを示す。一方、HLB値が高いほど、界面活性剤の親水性が高いことを示す。
【0045】

【0046】
(水性媒体)
本発明のインクには、水、又は水と水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては脱イオン水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。本発明のインクは、水性媒体として少なくとも水を含む、水性のインクであることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この水溶性有機溶剤の含有量は、必要に応じて使用する1,2−アルカンジオールを含む値である。
【0047】
(その他の成分)
本発明のインクには、上記成分の他に、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。インク中の常温で固体の水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じて、その他の界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0048】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、インク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。又は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0049】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。また、記録媒体としては、どのようなものを用いてもよいが、普通紙や、コート層を有する記録媒体(光沢紙やアート紙)などの、浸透性を有する紙を用いることが好ましい。特に、インク中の顔料粒子の少なくとも一部を記録媒体の表面やその近傍に存在させることができる、コート層を有する記録媒体を用いることが好ましい。このような記録媒体は、画像を記録した記録物の使用目的などに応じて選択することができる。例えば、写真画質の光沢感を有する画像を得るのに適している光沢紙や、絵画、写真、及びグラフィック画像などを好みに合わせて表現するために、基材の風合い(画用紙調、キャンバス地調、和紙調など)を生かしたアート紙などが挙げられる。
【0050】
本発明のインクは、別のインクと組み合わせて、インクセットとしても用いることができる。別インクの色相は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、レッド、グリーン、及びブルーなどのインクから1種又は2種以上を選択することができる。また、インクセットを構成するインクとして、上記のインクと互いに同じ色相を有し、顔料の含有量がそれぞれ異なる複数のインクを用いてもよい。
【実施例】
【0051】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、成分の使用量の記載についての「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。また、C.I.ピグメントイエロー213としては、商品名「HOSTAPERM Yellow H5G」(クラリアント製)を用いた。また、C.I.ピグメントイエロー183としては、商品名「PALIOTOLE Yellow K2270」(BASF製)を用いた。
【0052】
<顔料粒子を含有するウェットケーキの調製>
(ウェットケーキ1)
A液として、メタノールに酢酸を溶解した溶液(1.0%酢酸溶液)を1,500mL準備した。また、B液として、2.0部のC.I.ピグメントイエロー213を、ジメチルスルホキシド(試薬特級)78.4部と0.5mol/Lの水酸化カリウム(エタノール溶液)19.6部の混合液に溶解した溶液を90mL準備した。A液の温度を5℃、B液の温度を25℃に設定し、A液の流量を50mL/分、B液の流量を3mL/分とし、マイクロリアクター(商品名「ULREA SS−11」、エム・テクニック製)を使用してビルドアップ法による処理を行った。処理後、ブフナー漏斗でろ過してペーストを得た。得られたペーストをイオン交換水で3回洗浄した後、適量のイオン交換水を加えて、顔料粒子(固形分)の含有量が15.0%であるウェットケーキ1を調製した。
【0053】
(ウェットケーキ2)
前述の「ウェットケーキ1」を調製した際に用いたものと同様のA液とB液を準備した。A液の流量を10mL/分、B液の流量を0.6mL/分とし、マイクロリアクター(商品名「CYTOS Lab System−2000」、CPCテクノロジー製)を使用してビルドアップ法による処理を行った。処理後、ブフナー漏斗でろ過してペーストを得た。得られたペーストをイオン交換水で3回洗浄した後、適量のイオン交換水を加えて、顔料粒子(固形分)の含有量が15.0%であるウェットケーキ2を調製した。
【0054】
(ウェットケーキ3)
前述の「ウェットケーキ1」を調製した際に用いたものと同様のA液とB液を準備した。A液の流量を10mL/分、B液の流量を0.6mL/分として、マイクロミキサー(商品名「HPIMM−Las45250」、IMM製)を使用してビルドアップ法による処理を行った。処理後、ブフナー漏斗でろ過してペーストを得た。得られたペーストをイオン交換水で3回洗浄した後、適量のイオン交換水を加えて、顔料粒子(固形分)の含有量が15.0%であるウェットケーキ3を調製した。
【0055】
(ウェットケーキ4)
C.I.ピグメントイエロー213に代えて、C.I.ピグメントイエロー183を用いたこと以外は、前述の「ウェットケーキ1」の場合と同様にしてB液を調製した。そして、このように調製したB液を用いたこと以外は、前述の「ウェットケーキ1」の場合と同様にして、顔料粒子(固形分)の含有量が15.0%であるウェットケーキ4を調製した。
【0056】
原料として用いた顔料と、上記で得られた各ウェットケーキのNMR分析を行った。その結果、処理の前後で、1H及び13Cのスペクトルが一致することが確認された。これにより、調製されたウェットケーキ中の各顔料粒子は、原料として用いた顔料と同一の分子構造を有することが確認された。なお、NMR分析は、原料として用いた粉末状の顔料、又は、顔料粒子を含むウェットケーキを、DMSO−d6及び0.5mol/Lの水酸化カリウム(エタノール溶液)の混合物に溶解させたものを試料とし、常温(25℃)、400MHzの条件で行った。
【0057】
<顔料分散体の調製>
(顔料粒子1を含有する顔料分散体)
ウェットケーキ1を70.0部、樹脂分散剤1の水溶液(樹脂〔固形分〕の含有量25.0%)24.0部、及び水6.0部を混合した。なお、樹脂分散剤1は、スチレン−アクリル酸共重合体(商品名「ジョンクリル680」、酸価215mgKOH/g、重量平均分子量4,900、BASF製)を、中和当量0.85となるように水酸化カリウムで中和したものである。そして、回転剪断型撹拌機(商品名「CLM−2.2S」、エム・テクニック製)を使用し、60分間、3,500rpmで分散処理を行った後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。イオン交換水で希釈して、平均粒子径が18nm、最大吸収波長λmaxが351nmの顔料粒子1を含有する顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の顔料粒子1の含有量は10.0%であった。
【0058】
(顔料粒子2を含有する顔料分散体)
ウェットケーキ1を70.0部、樹脂分散剤2(樹脂〔固形分〕の含有量40.0%)15.0部、及び水15.0部の配合としたこと以外は、前述の「顔料粒子1」の場合と同様にした。なお、樹脂分散剤2は、スチレン−アクリル酸ブチル−アクリル酸共重合体(酸価120mgKOH/g、重量平均分子量10,000)を、中和当量0.85となるように水酸化カリウムで中和したものである。これにより、平均粒子径が20nm、最大吸収波長λmaxが352nmの顔料粒子2を含有する顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の顔料粒子2の含有量は10.0%であった。
【0059】
(顔料粒子3を含有する顔料分散体)
ウェットケーキ1を60.0部、樹脂分散剤1の水溶液(樹脂〔固形分〕の含有量25.0%)24.0部、及び水16.0部を混合した。超音波分散機(商品名「US−300T」、日本精機製)を使用し、出力300ワットにて60分間分散処理を行った後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。イオン交換水で希釈して、平均粒子径が22nm、最大吸収波長λmaxが350nmの顔料粒子3を含有する顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の顔料粒子3の含有量は10.0%であった。
【0060】
(顔料粒子4を含有する顔料分散体)
ウェットケーキ1に代えて、ウェットケーキ2を用いたこと以外は、前述の「顔料粒子1」の場合と同様にして、平均粒子径が16nm、最大吸収波長λmaxが341nmの顔料粒子4を含有する顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の顔料粒子4の含有量は10.0%であった。
【0061】
(顔料粒子5を含有する顔料分散体)
C.I.ピグメントイエロー213を10.5部、樹脂分散剤1の水溶液(樹脂〔固形分〕の含有量25.0%)24.0部、及び水65.5部を混合した。得られた混合物を、0.1mm径のジルコニアビーズの充填率を80.0%としたビーズミル(商品名「LMZ2」、アシザワファインテック製)に入れ、周速12m/sで5時間分散処理を行った。その後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。イオン交換水で希釈して、平均粒子径が48nm、最大吸収波長λmaxが358nmの顔料粒子5を含有する顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の顔料粒子5の含有量は10.0%であった。
【0062】
(顔料粒子6を含有する顔料分散体)
ウェットケーキ1に代えて、ウェットケーキ3を用いたこと以外は、前述の「顔料粒子1」の場合と同様にして、平均粒子径が18nm、最大吸収波長λmaxが338nmの顔料粒子6を含有する顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の顔料粒子6の含有量は10.0%であった。
【0063】
(顔料粒子7を含有する顔料分散体)
C.I.ピグメントイエロー213を10.5部、樹脂分散剤1の水溶液(樹脂〔固形分〕の含有量25.0%)24.0部、及び水65.5部を混合した。得られた混合物について、高圧衝突型分散機(商品名「ナノマイザー」、吉田機械工業製)を使用し、150MPaの圧力で分散処理を3パス行った。その後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。イオン交換水で希釈して、平均粒子径が55nm、最大吸収波長λmaxが362nmの顔料粒子7を含有する顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の顔料粒子7の含有量は10.0%であった。
【0064】
(顔料粒子8を含有する顔料分散体)
C.I.ピグメントイエロー213を10.5部、樹脂分散剤1の水溶液(樹脂〔固形分〕の含有量25.0%)24.0部、及び水65.5部を混合した。得られた混合物を、0.3mm径のジルコニアビーズの充填率を50.0%としたガラス容器に入れ、簡易分散機(ペイントシェイカー、商品名「DAS200−K」、LAU製)を使用して8時間分散処理を行った。その後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。イオン交換水で希釈して、平均粒子径が125nm、最大吸収波長λmaxが382nmの顔料粒子8を含有する顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の顔料粒子8の含有量は10.0%であった。
【0065】
(顔料粒子9を含有する顔料分散体)
C.I.ピグメントイエロー213を10.5部、樹脂分散剤3の水溶液(樹脂〔固形分〕の含有量38.0%)34.5部、及び水55.0部を混合した。なお、樹脂分散剤3は、スチレン−アクリル酸共重合体(酸価210mgKOH/g、重量平均分子量10,000)を、中和当量0.85となるようにアンモニア水で中和したものである。得られた混合物に1.7mm径のガラスビーズを加え、サンドミル(安川製作所製)を使用して2時間分散処理を行った。その後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。イオン交換水で希釈して、平均粒子径が95nm、最大吸収波長λmaxが378nmの顔料粒子9を含有する顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の顔料粒子9の含有量は10.0%であった。
【0066】
(顔料粒子10を含有する顔料分散体)
ウェットケーキ4を60.0部、樹脂分散剤1の水溶液(樹脂〔固形分〕の含有量25.0%)24.0部、及び水16.0部を混合した。得られた混合物について、超音波分散機(商品名「US−300T」、日本精機製)を使用し、出力300ワットにて1時間分散処理を行った。その後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。イオン交換水で希釈して、平均粒子径が22nm、最大吸収波長λmaxが360nmの顔料粒子10を含有する顔料分散体を得た。得られた顔料分散体中の顔料粒子10の含有量は10.0%であった。
【0067】
[インクの調製(実施例1〜20、比較例1〜5)]
表1−1〜1−3に示す各成分(単位:%)を混合して十分撹拌した後、ポアサイズが1.2μmであるメンブレンフィルター(商品名「HDCIIフィルター」、ポール製)を用いて加圧ろ過して各インクを調製した。なお、表1−1〜1−3中の商品名の詳細を以下に示す。
・「プロキセルGXL(S)」:防腐剤、アーチケミカルズ製
・「プロキセルXL2」:防腐剤、アーチケミカルズ製
・「NIKKOL BC−20」:ポリオキシエチレンセチルエーテル、日光ケミカルズ製、HLB値15.7、エチレンオキサイド基の付加モル数20
・「NIKKOL BO−50」:ポリオキシエチレンオレイルエーテル、日光ケミカルズ製、HLB値17.8、エチレンオキサイド基の付加モル数50
・「NIKKOL BL−9EX」:ポリオキシエチレンラウリルエーテル、日光ケミカルズ製、HLB値13.6、エチレンオキサイド基の付加モル数9
・「アセチレノールE100」:アセチレングリコール系の界面活性剤、川研ファインケミカル製
・「BYK348」シリコーン系のノニオン性界面活性剤、ビックケミー製
【0068】

【0069】

【0070】

【0071】
[評価]
上記で得られた各インクを充填したインクカートリッジを、熱エネルギーによりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置(商品名「PIXUS Pro9500 MarkII」、キヤノン製)にセットした。このインクジェット記録装置では、解像度が600dpi×600dpiで、1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.5ナノグラムのインク滴を8滴付与する条件で記録した画像が「記録デューティが100%」であると定義される。光沢紙及びアート紙に、記録デューティが50%と100%の2種のベタ画像を含むパターンをそれぞれ記録した。なお、光沢紙としては、商品名「キヤノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード] PT101」(キヤノン製)を用いた。また、アート紙としては、商品名「ファインアートペーパー・フォトラグ」(キヤノン製)を用いた。得られた記録物を24時間自然乾燥した後、以下に示す各評価を行った。なお、画像の測色には、CIEL***表色系に基づく分光光度計(商品名「Spectrolino」、Gretag Macbeth製)を使用した。本発明においては、下記の各評価項目における評価基準で「C」が許容できないレベル、「B」が許容できるレベル、「A」が優れているレベルとした。評価結果を表2に示す。
【0072】
(光沢紙における発色性)
光沢紙を用いて得られた記録物における記録デューティが100%のベタ画像について、光源D50の条件で色相角(h)及び彩度(c*)の値を測定し、光沢紙における発色性を評価した。評価基準は以下の通りである。
A:色相角が75°以上90°以下であり、かつ、彩度が95以上であった。
B:色相角が75°以上90°以下であり、かつ、彩度が95未満であった。
C:色相角が75°未満又は90°を超えていた。
【0073】
(アート紙における発色性)
アート紙を用いて得られた記録物における記録デューティが100%のベタ画像について、光源D50の条件で彩度(c*)の値を測定し、アート紙における発色性を評価した。評価基準は以下の通りである。
A:彩度が85以上であった。
B:彩度が82以上85未満であった。
C:彩度が82未満であった。
【0074】
(耐光性)
光沢紙を用いて得られた記録物をキセノンウエザオメーター(商品名「Ci4000」、アトラス製)に入れ、キセノン光を、照射強度0.39W/m2、ブラックパネル温度63℃、相対湿度70%の条件で200時間照射した。照射前後の記録物における記録デューティが50%のベタ画像について光学濃度の値を測定し、光学濃度の残存率(%)=(照射後の光学濃度/照射前の光学濃度)×100の値を算出して耐光性を評価した。評価基準は以下の通りである。
A:光学濃度の残存率が80%以上であった。
B:光学濃度の残存率が70%以上80%未満であった。
C:光学濃度の残存率が70%未満であった。
【0075】

【0076】
なお、実施例8のアート紙における発色性は、実施例9のアート紙における発色性よりもやや劣っていた。また、実施例15の光沢紙における発色性は、実施例16の光沢紙における発色性よりもやや劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を有し、かつ、200nm以上800nm以下の波長領域における吸収スペクトルの最大吸収波長が340nm以上360nm以下の範囲内に存在することを特徴とする顔料粒子。

【請求項2】
相対的に回転する2つの処理用面を、間隔1mm以下として対向して配置することにより形成される流路に、原料となる顔料を溶解させた液体を供給して、前記流路中で前記顔料粒子を微粒子として析出させて得られたものである請求項1に記載の顔料粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の顔料粒子を含有することを特徴とするインク。
【請求項4】
1,2−アルカンジオールをさらに含有する請求項3に記載のインク。
【請求項5】
インク中の前記1,2−アルカンジオールの含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.2質量%以上10.0質量%以下である請求項4に記載のインク。
【請求項6】
界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルをさらに含有する請求項3乃至5のいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
インク中の前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.05質量%以上2.0質量%以下である請求項6に記載のインク。
【請求項8】
前記インクがインクジェット用である請求項3乃至7のいずれか1項に記載のインク。
【請求項9】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項3乃至8のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項10】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項3乃至8のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2013−67781(P2013−67781A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−170743(P2012−170743)
【出願日】平成24年8月1日(2012.8.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】