説明

顕微鏡内の照明光と検出光を分配する装置およびその方法

【課題】顕微鏡内の照明光と検出光を分配させるための装置およびその方法を提供する。
【解決手段】装置は、照明光14を試料18へと案内し、試料18からの検出光20を少なくとも1つの検出器へと案内する光分配光学系12を有する。光分配光学系12は、第1の光路内に配置され、試料18へと向けられた照明光14を第1の偏光状態に変換する偏光ユニット28、30、32と、第1の偏光状態に変換された照明光14を試料18へと案内し、試料18からの検出光の、第1の偏光状態を示す第1の部分20aを第1の光路へと戻すように案内する一方で、検出光の、第1の偏光状態とは異なる第2の偏光状態を有する第2の部分20bを第2の光路へと案内するような偏光依存性を有するビームスプリッタ34と、検出光の第1の部分20aと第2の部分20bを相互に合成して、これらを検出器へと案内するビームコンバイナ38と、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
顕微鏡内の照明光と検出光を分配する装置であって、照明光を試料へと案内し、試料からの検出光を検出器へと案内する光分配光学系を有する装置に関する。本発明はさらに、顕微鏡内で照明光と検出光を分配する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光源から発せられた照明光を画像化対象の試料へと案内し、試料からの検出光を検出器へと案内する機能を有する光ビームスプリッタが、しばしば顕微鏡に使用される。照明光は、たとえば蛍光顕微鏡では、蛍光発光を励起する役割を果たす。この機能において、これを以下、「励起光」とも呼ぶ。
【0003】
光ビームスプリッタは一般に、所定の波長域の光を透過させ、他の波長域の光を反射するように具現化される。したがって、それぞれの顕微鏡で使用される励起光と蛍光の波長の組合せに特に合わせて設計する必要がある。これは、かかるビームスプリッタのできるだけ広い応用という点において、不利である。
【0004】
これに対して、たとえば共焦点顕微鏡で使用される音響光学ビームスプリッタは、それが反射し、透過させる波長に関して、比較的広い限度内で調整することができる。たとえば、この種の音響光学ビームスプリッタは、いわゆる白色光レーザ源とともに使用して、広い波長スペクトルから、個々の励起波長を必要に応じて選択できる。しかしながら、音響光学ビームスプリッタを特定の波長に調整するには、特定の技術的支出が必要となり、たとえば、異なる周波数の電界の印加によりビームスプリッタを相応にプログラミングしなければならない。このことは、ビームスプリッタの調整を頻繁に変更する必要がある場合、たとえば、その出力波長が比較的厳しい温度ドリフトを示すような固体レーザ光源を使用する場合等に、特に不利である。また、レーザ光源の波長または波長スペクトルが不明、および/または可変である場合にも、特に不利である。音響光学ビームスプリッタはその上、比較的高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許第10 2010 047 237号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、顕微鏡内の照明光と検出光をできるだけ簡単かつ柔軟に分配できる装置を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の目的を、その装置内に設けられ、照明光を試料へと案内し、試料からの検出光を検出器へと案内する光分配光学系が、特許請求の範囲の請求項1の特徴部分に記載される構成要素、すわなち、第1の光路内に配置され、試料へと向けられた照明光を第1の偏光状態に変換するための偏光ユニットと、第1の光路内に配置され、第1の偏光状態に変換された照明光を試料へと案内し、試料からの検出光のうち、第1の偏光状態を示す第1の部分を第1の光路へと戻すように案内し、その一方で、検出光のうち、第1の偏光状態とは異なる第2の偏光状態を示す第2の部分を、第1の光路とは別の第2の光路へと案内するような偏光依存性を有するビームスプリッタと、検出光の第1の部分と第2の部分を相互に合成して、これらを検出器へと案内するビームコンバイナと、を包含することによって達成する。
【0008】
従来技術から知られている解決方法と異なり、本発明による装置では、顕微鏡内の照明光と検出光が、ほとんど波長に関係なく分配される。本発明において、光はそれゆえ、その波長に応じてではなく、その偏光状態に応じて分配される。特に、検出光の中の偏光状態の異なる成分は、異なる光路上で検出器へと案内される。
【0009】
これに関して、照明光はたとえば、レーザ光源から発せられる励起光であり、これは画像化対象の試料を刺激して、蛍光を発生させる。すると、検出光には、一方で蛍光を含むほか、試料で反射された励起光および、該当する場合はその他の光成分、たとえば燐光、ラマン散乱光等が含まれる。
【0010】
検出光のうち、試料へと向けられる照明光のように第1の偏光状態を示す部分は、偏光依存光分配器を通じて、照明光が試料へと向けられる第1の光路へと戻るように案内される。これに対して、検出光のうち、第2の偏光状態を示す部分は、第2の光路を経て、検出器へと案内される。それゆえ、偏光状態によって、検出光が検出器へと運ばれる光路が決まる。上記の偏光状態は、好ましくは直線偏光状態であり、これによって、光分配器による検出光の偏光依存分配が可能となる。
【0011】
使用される光分配器は好ましくは、たとえば偏光キューブという形の偏光ビームスプリッタであり、これは入射検出光を偏光に応じて反射し、透過させる。ビームスプリッタはたとえば、検出光のうち、試料へと向けられる照明光のように、第1の偏光状態にある部分を第1の光路へと戻すように透過させ、その一方で、検出光のうち、第2の偏光状態を示す部分を第2の光路へと反射するように具現化することができる。ここで考慮しなければならないのは、試料からの検出光(これは、たとえば蛍光顕微鏡の場合、試料で反射された励起光のほか、励起光がトリガとなった蛍光をその基本成分として含む)は実質的に無偏光であるという点である。この無偏光の検出光は、ビームスプリッタにより、異なる偏光状態の2つの成分に分割され、これらが2つの別の光路を経て、ビームコンバイナへと案内され、ここで最終的に2つの偏光の光成分が合成されて、無偏光の検出光へと戻される。
【0012】
本発明による光分配装置は、励起光と検出光の波長の特定の組合せのみに合わせて設計される従来の光ビームスプリッタと比較して、励起光と検出光を、所望のどの波長についても、所望の方法で、それぞれ試料または検出器へと案内するという利点を有する。特定の波長の組合せのための特定の設計は不要である。
【0013】
また、従来技術から知られている音響光学ビームスプリッタと比較しても有利である。本発明による装置の場合、たとえば、音響光学ビームスプリッタにおいては異なる励起波長を設定するために行われるプログラミング工程を実行する必要がない。このようなプログラミングに関連する技術的支出やコストもまた、相応に削減される。
【0014】
本発明により、どの波長の光でも、たとえば相応の反射および透過動作によって、所望の方法で分配することが可能となる。これは、手動で適応させることなく、所望のどの個々の波長にも、また所望のどの幅の波長域にも利用できる。たとえば、励起経路に使用される同じ波長域を、検出経路にも同時に使用できる。その結果、その波長域が励起光の波長域と重複するか、実際に完全にその中に含まれる場合、検出光の損失は発生しない。
【0015】
本発明による装置は特に、たとえば固体レーザ光源において温度に応じて発生するような波長変動の影響を受けない。この装置はまた、その波長非依存性により、特に有利な態様として、白色光レーザ源とともに使用して、広い波長域、たとえば400nm〜800nmの範囲にわたって蛍光励起を実現できる。
【0016】
本発明を蛍光顕微鏡法に応用した場合、2つの光路上で検出器へと案内される検出光には、前述のように、励起光がトリガとなった蛍光だけでなく、試料で反射された励起光のほか、おそらくは他の光成分も含まれる。通常、検出器においては、蛍光だけが有効な光として評価されることになる。その場合、残りの光成分、特に反射された励起光が(固有でない光として)検出光から取り除かれてから、その検出光が検出器へと案内されることになる。このために、ビームコンバイナの後ろには、好ましくはフィルタユニットが配置され、それによって検出光中の固有でない光(無関係の光)から有効な光(有益な光)を分離して、有効な光だけが検出器へと運ばれる。
【0017】
しかしながら、注意しなければならないのは、検出光から反射された励起光をフィルタ処理で取り除いてから、この検出光を検出器へと案内することが常に望ましいとはかぎらない点である。たとえば、蛍光に加え、反射された励起光またはその他の光成分(たとえば、ラマン散乱光)を評価すべき応用もありうる。本発明は、検出光を2つの別の光路を経て、波長に依存しない方法でビームコンバイナへと案内するようになされるため、ビームコンバイナの後ろに配置されたフィルタユニットにより、検出光のどの光成分を最終的に検出器まで運ぶかを随意に決定することが可能である。
【0018】
フィルタユニットは好ましくは、固有でない光、たとえば蛍光のトリガとなった励起光をフィルタ処理により取り除くためのノッチフィルタ、すなわち狭帯域遮断フィルタを包含する。このようなフィルタにより、非常に狭い波長域を検出光からフィルタ処理で確実に取り除くことができる。
【0019】
他の実施形態において、フィルタユニットは、たとえば、独国特許第10 2010 047 237号明細書(特許文献1)に記載されている方法に従って動作する、いわゆるタイムゲーティングユニットを包含する。この方法では、たとえば、蛍光発光試料から発せられた蛍光とその試料から反射された光は、検出器の下流にある電子システムによって相互に分離される。この方法は、2つの光成分が検出器に到達するのが同時ではなく、逐次的であるという事実に基づく。タイムゲーティングユニットは、特にパルスレーザ光源が使用される時に好ましい。
【0020】
しかしながら、検出光から固有でない光をフィルタ処理により取り除く他の可能性も考えられる。たとえば、変調された光源を使用した場合、相応の信号分離は復調によって行うことができる。
【0021】
他の好ましい実施形態において、偏光ユニットは、照明光の偏光方向を、所定の回転方向へ第1の角度量だけ回転させ第1の光路へと戻るように案内された検出光の部分の偏光方向を、同じ回転方向へ同じ第1の角度量だけ回転させる電気光学偏光素子を含む。したがって、この実施形態では、第1の光路で伝送される照明光と検出光はどちらも、電気光学偏光素子により、各々の場合において同じ回転方向へと変調された直線偏光である。第1の光路に戻るように案内された検出光を確実に所望の偏光状態とするために、第1の光路内に配置されたビームスプリッタは好ましくは、直線偏光させるように具現化される。これは、ビームスプリッタによって、試料からの検出光のうち、所望の偏光方向を示す部分だけが第1の光路へと反射により戻されるか、透過することを意味する。
【0022】
電気光学偏光素子は、好ましくはファラデー回転子である。この種のファラデー回転子を作製するための材料は、磁束が存在する時に、その材料を通過する光の偏光方向を所定の通りに変化できるような材料である。たとえば、ファラデー回転子が偏光方向を45度回転させる場合、ファラデー回転子を反対方向に2回通過した光の偏光方向は、合計90°回転される。本発明によれば、偏光方向のこのような同方向への回転を利用することによって、照明光の、および検出光の偏光状態を調整して、照明光の、および検出光の所望の空間分配を行うもので、すわなち、照明光と検出光が所望の方法でそれぞれ試料と検出器へと案内される。
【0023】
特に有利な実施形態において、偏光ユニットは遅延板を含み、これは、電気光学偏光素子を通過した照明光の偏光方向を所定の回転方向へ第2の角度量だけ回転させ、検出光のうち、第1の光路へと戻るように案内された直線偏光部分の偏光方向を、電気光学偏光素子を通過する前に、反対の回転方向へ同じ第2の角度量だけ回転させる。上記の第2の角度量は、好ましくは45°に等しい。
【0024】
電気光学偏光素子、たとえばファラデー回転子を遅延板と共に使用することによって、確実に装置の検出経路における偏光分散(polarization dispersion)を小さく抑えることができ、この分散は、検出光の偏光状態の異なる2つの成分が伝送される2つの別の光路によって定義される。「偏光分散」とは、ここでは、それぞれの偏光材料によって起こされる偏光方向の回転により示される波長依存性と理解するものとする。それゆえ、無視できない偏光分散とは、偏光材料が光の偏光方向を、すべての波長について所望の同じ角度量ではなく、異なる角度量だけ回転させることを意味する。したがって、偏光材料は通常、特定の動作波長についてのみ、光の偏光方向が所望の回転角度だけ回転され、その一方で、それ以外の波長については所望の回転角度からある程度逸脱するように設計される。
【0025】
上記の実施形態においては、この状況を利用して、偏光分散が検出器へと案内される検出光については無視できる程度となるようにする。電気光学偏光素子と遅延板はそれゆえ、検出光のうち、第1の光路で案内される第1の部分に関するその偏光分散が相互に打ち消し合うように具現化できる。その結果、装置によって実行される検出光の偏光の波長非依存性がさらに改善される。
【0026】
検出光に関する偏光分散を補償することにより、必然的に、照明経路内の回転分散(rotation dispersion)が増大する。その結果、照明光の損失がある程度(波長に依存する)発生するが、それでもこれは実際の構成においては有意なものではなく、それは、現在使用されているレーザ光源の出力が十分に高く、必要な量の照明光を利用できるからである。
【0027】
好ましい実施形態において、偏光ユニットは偏光入光素子を備え、これは、光源から発せられた照明光を電気光学偏光素子へと案内する。入光素子により、たとえば、光源から発せられた照明光が確実に直線偏光状態で電気光学偏光素子へと入射する。
【0028】
入光素子は好ましくは、検出光のうち、電気光学偏光素子を通過した部分をビームコンバイナへと案内する。この実施形態において、入光素子は、照明光だけでなく、第1の光路に戻るように案内された検出光にも作用して、検出光をライトコンバイナへ、その後、検出器へと到達させる。
【0029】
ビームスプリッタおよび/またはビームコンバイナおよび/または入光素子はそれぞれ、たとえば偏光キューブとして具現化される。この種の偏光キューブを利用して、所望の光分配を目的とした偏光による反射と透過を特に容易に実現できる。
【0030】
特に好ましい実施形態において、白色光レーザ源および/またはパルスレーザ光源および/または変調レーザ光源を設けて照明光を発生させる。本発明による装置では、照明光と検出光の空間分配を、従来技術で一般的であるような光の波長によってではなく、光の偏光状態によって制御するため、各々、程度の差はあるが広い波長スペクトルの光を放出する上述のレーザ光源をさまざまな用途に有利に使用することができる。たとえば、白色光レーザ源を使用すれば、可視波長スペクトルの全体を励起光として利用し、同時に、その波長スペクトル内の波長を持つ蛍光を評価することが可能である。
【0031】
本発明の他の態様によれば、上記のような種類の、照明光と検出光を分配する装置を包含する顕微鏡、特に共焦点蛍光顕微鏡が提供される。
本発明はさらに、顕微鏡内で照明光と検出光を分散させる方法を提供する。
【0032】
以下に、図面を参照しながら本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による光分配装置の例示的実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1による光分配装置に設置された光分配光学系を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本発明による光分配装置10の例示的実施形態を示しており、これは共焦点蛍光顕微鏡(図示せず)の一部である。図1のブロック図には、光分配装置10の基本的な動作方法だけが示されている。
【0035】
光分配装置10は光分配光学系12を包含し、これについて、図2を参照しながら後で詳しく説明する。光分配光学系12は、レーザ光源16から発せられた直線偏光励起光14を受ける。レーザ光源16は、たとえば、約400〜800nmの波長域の励起光14を出力する白色光源である。
【0036】
上記の波長域はもちろん、単なる例として理解するべきである。これは、上記の範囲より広くても狭くてもよく、または、上記以外の波長帯を含んでいてもよい。
【0037】
励起光14は、光分配光学系12によって蛍光発光試料18へと向けられる。光分配光学系12は、励起光14が衝突した試料18からの光のすべてを受け取る。この光は、一方で、励起光14がトリガとなった、図1において20で示される蛍光であり、もう一方で、試料18で反射された、図1において22で示される励起光である。蛍光20と反射励起光22を以下、まとめて「検出光」と呼ぶ。これに関して、図1に示されるような蛍光応用の場合、検出光はまた、蛍光20と反射光22と共に、他の光成分、たとえば燐光および/またはラマン散乱光を含んでいる可能性がある点に留意する。しかしながら、説明を簡単にするために、今後、これらを考慮しないものとする。
【0038】
試料18からの、蛍光20と反射励起光22から構成される検出光は、ほとんど無偏光の状態である。これは光分配光学系12の中で、まず、異なる直線偏光成分に分離され、その後、再び無偏光の光へと合成される。その結果、それゆえ、光分配光学系12は、無偏光の蛍光20と無偏光の反射励起光22をフィルタユニット24へと案内する。フィルタユニット24は、たとえばタイムゲーティングユニットまたはノッチフィルタであり、検出光から反射励起光22をフィルタ処理によって取り除く。以下、図1に示されるような蛍光応用の場合、反射励起光22は固有でない光とみなされると仮定する。しかしながら、前述のように、これは常に当てはまるとはかぎらない。たとえば、反射励起光22を蛍光20とともに評価するような用途も考えられる。この場合は、フィルタユニット24を省略できる。
【0039】
フィルタユニット24からの検出光は、反射励起光22がフィルタ処理によって取り除かれ、それゆえ、蛍光20のみで構成された状態で検出器26へと出力される。最後に、検出器26が、受け取った蛍光20を評価可能な信号へと変換する。
【0040】
図2は、光分配光学系12の動作方法を詳細に示している。これに関して、図を簡潔にするために、固有でない光、すなわち試料18で反射された励起光22は図2には描かれていない点に留意する。しかしながら、これは光分配光学系12の中で蛍光20と同様に処理される。
【0041】
光分配光学系12は、レーザ光源16から出力された直線偏光励起光14を受け取る入光素子として、第1の偏光ビームスプリッタキューブ28を含む。
【0042】
第1のビームスプリッタキューブ28は、入射面に対して垂直に直線偏光された励起光14を、高い反射率、たとえば99.99%で反射する。レーザ光源16から出力される励起光14の偏光方向は好ましくは、事前にこの目的のために相応の向きにしておく。図2において、光分配光学系12により各光分配段階で決定される励起光14と蛍光20の偏光方向は、円と矢印の記号で示される。
【0043】
ビームスプリッタキューブ28は、励起光14をファラデー回転子30へと反射し、ここで励起光14の偏光方向は第1の回転方向に45度回転される。励起光14は次に、λ/2遅延板32に入射し、これによって励起光14の偏光方向が同じ回転方向にさらに45°回転される。それゆえ、ファラデー回転子30と遅延板32により、励起光14の偏光方向は第1の回転方向に合計90°回転されることになる。
【0044】
光分配光学系12は第2の偏光ビームスプリッタキューブ34を備え、そこに、遅延板32を通過した励起光14が入射する。遅延板32から出力された励起光14は、第2のビームスプリッタキューブ34に関して平行に偏光されている。ビームスプリッタキューブ34はそれゆえ、励起光14を高い透過率、たとえば約98%で、試料18へと伝送する。
【0045】
試料18に入射した直線偏光励起光14は、試料18の中で蛍光20を発生させ、これが光分配光学系12へと入る。前述のように、蛍光20はほとんど無偏光の状態である。それゆえ、これには相互に対して垂直に偏光された2つの蛍光成分が含まれ、図2において20aと20bで示されている。第1の蛍光成分20aは、光入射面に対して平行に向けられ、第2の蛍光成分20bは前記平面に対して垂直に向けられるものとされる。
【0046】
第1の蛍光成分20aは、偏光ビームスプリッタキューブ34に続いて遅延板32を通過し、これによって蛍光成分20aは第2の回転方向へ45°回転され、第2の回転方向は、反対方向に伝播して試料18へと向けられている励起光14の偏光方向を遅延板32が回転させる第1の回転方向と反対である。遅延板32が偏光方向を回転させる回転方向はそれゆえ、光が遅延板32を通過する通過方向によって変化する。
【0047】
第1の蛍光成分20aは次に、ファラデー回転子30に入射し、これによって第1の蛍光成分20aの偏光方向は第1の回転方向に45°回転される。ファラデー回転子30の回転方向はそれゆえ、光の通過方向に依存しない。これは、ファラデー回転子30により、遅延板32が生じさせた第1の蛍光成分20aの偏光方向の変化が打ち消されることを意味する。その結果、第1の蛍光成分20aの偏光方向は、遅延板32とファラデー回転子30で構成されるユニットを通過しても変化しない。
【0048】
ファラデー回転子30を通過した後の第1の蛍光成分20aは、第1のビームスプリッタキューブ28で反射された励起光14の偏光方向に対して垂直な偏光方向を示す。それゆえ、後者がビームスプリッタキューブ28で反射されるのに対し、第1の蛍光成分20aはビームスプリッタキューブ28を通過してミラー36に入射する。ミラー36は、直線偏光された第1の蛍光成分20aを第三の偏光ビームスプリッタキューブ38へと反射する。ビームスプリッタキューブ38は、それが第1の蛍光成分20aをフィルタユニット24(図2には示さず)へと伝送するように具現化される。
【0049】
試料18からの第2の蛍光成分20bは、その偏光方向が第1の蛍光成分20aの偏光方向に対して垂直であり、偏光ビームスプリッタキューブ34でミラー40へと反射され、そこで第2の偏光成分20bはビームスプリッタキューブ38へと反射される。第2の蛍光成分20bの偏光方向は、それがビームスプリッタキューブ38でフィルタユニット24へと反射されるような向きである。
【0050】
それゆえ、光分配光学系12は、第1の蛍光成分20aを構成要素34、32、30、28、36によって画定される第1の光路で伝送し、第2の蛍光成分20bを、構成要素34、40によって画定される第2の光路で伝送する。これら2つの別の光路で伝送された蛍光成分20aと20bはその後、ビームスプリッタキューブ38により再び合成される。
【0051】
図2に示される例示的実施形態において、ファラデー回転子30と遅延板32は、それらの偏光分散が、上記の第1の光路でビームスプリッタキューブ38へと案内される第1の蛍光成分20aに関して、打ち消し合うように相互作用する。これによって、2つの蛍光成分20aと20b(および図2には示されていない反射励起光)の空間分配のために光分配光学系12により決定される図2のような偏光状態を、蛍光(および反射励起光)のすべての波長について実現できることになる。言い換えれば、ファラデー回転子30と遅延板32の偏光分散は、これらが検出器26までの検出経路の中で相互にちょうど打ち消し合うように選択される。
【0052】
反対に、その結果、試料18へと向かう励起経路での上記の偏光分散は、相互に強化し合う。それにより、今度は、レーザ光源16から発せられた励起光14の一部は、波長に応じて、第2のビームスプリッタキューブを通過せずに、そこで反射される。しかしながら、この反射された光成分は波長依存の光損失となるが、レーザ光源16が常に十分な光出力を供給できるという事実を考えれば、許容できる。したがって、その結果、検出経路の波長帯域を最大限広くするために、励起光14の励起経路への入射カップリング効率が低減される。
【0053】
図2に示される実施形態は、単に例として理解されるべきである。特に、光分配光学系12によって実現される励起光14と蛍光20の偏光状態に関して、さまざまな変形が考えられる。たとえば、検出対象の蛍光20の波長が非常に狭い波長域内にあれば、前述のような回転分散の補償もまた省略でき、これは、いずれの場合にも検出経路を波長帯域が広くなるように構成する必要がないからである。したがって、その場合は遅延板32を設けなくてよい。
【符号の説明】
【0054】
10 光分配装置
12 光分配光学系
14 照明光
16 光源
18 試料
20 検出光
20a 第1の蛍光成分
20b 第2の蛍光成分
22 反射励起光
24 フィルタユニット
26 検出器
28 入光素子
30 電気光学偏光素子
32 遅延板
34 ビームスプリッタ
36 ミラー
38 ビームコンバイナ
40 ミラー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡における照明光(14)と検出光(20)を分配する装置(10)にして、
前記照明光(14)を試料(18)へと案内し、前記試料(18)からの前記検出光(18)を少なくとも1つの検出器(26)へと案内する光分配光学系(12)を有し、
前記光分配光学系(12)は、第1の光路内に配置された偏光ユニット(28、30、32)と、前記第1の光路内に配置されたビームスプリッタ(34)と、ビームコンバイナ(38)とを包含し、
前記偏光ユニット(28、30、32)は、前記試料(18)へと向けられた前記照明光(14)を第1の偏光状態に変換するものであり、
前記ビームスプリッタ(34)は、前記第1の偏光状態に変換された前記照明光(14)を前記試料(18)へと案内し、前記試料(18)からの前記検出光(20)のうち、前記第1の偏光状態を示す第1の部分(20a)を前記第1の光路へと戻るように案内し、その一方で、前記検出光(20)のうち、前記第1の偏光状態とは異なる第2の偏光状態を示す第2の部分(20b)を、前記第1の光路とは別の第2の光路へと案内するような偏光依存性を有しており、
前記ビームコンバイナ(38)は、前記検出光(20)の前記第1の部分(20a)と前記第2の部分(20b)を相互に合成して、これらを前記検出器(26)へと案内するものである、装置。
【請求項2】
前記ビームコンバイナ(38)の後ろに配置されたフィルタユニット(24)が、前記検出光(20)における固有でない光から有効な光を分離することを特徴とする、請求項1に記載の装置(10)。
【請求項3】
前記フィルタユニット(24)が固有でない光を取り除くためのノッチフィルタを包含する、請求項2に記載の装置(10)。
【請求項4】
前記フィルタユニット(24)がタイムゲーティングユニットを包含する、請求項2に記載の装置(10)。
【請求項5】
前記偏光ユニット(28、30、32)が、前記照明光(14)の偏光方向を所定の回転方向へ第1の角度量だけ回転させる電気光学偏向素子(30)であって、前記第1の光路へと戻るように案内された前記検出光(20)の前記第1の部分(20a)の偏光方向を、同じ前記回転方向へ同じ前記第1の角度量だけ回転させる電気光学偏光素子(30)を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置(10)。
【請求項6】
前記電気光学偏光素子がファラデー回転子(30)である、請求項5に記載に装置(10)。
【請求項7】
前記第1の角度量が45°に等しい、請求項5または6に記載の装置(10)。
【請求項8】
前記偏光ユニット(28、30、32)が、前記電気光学偏光素子(30)を通過した前記照明光(14)の偏光方向を前記所定の回転方向へ第2の角度量だけ回転させる遅延板(32)であって、前記検出光(20)のうち、前記第1の光路へと戻るように案内された直線偏光である前記第1の部分(20a)の偏光方向を、前記電気光学偏光素子(30)を通過する前に、反対の回転方向へ同じ前記第2の角度量だけ回転させる遅延板(32)を含む、請求項5〜7のいずれか一項に記載の装置(10)。
【請求項9】
前記第2の角度量が45°に等しい、請求項8に記載の装置(10)。
【請求項10】
前記偏光ユニット(28、30、32)が、光源(16)から発せられた前記照明光(14)を前記電気光学偏光素子(30)に案内する偏光入光素子(28)を含む、請求項5〜9のいずれか一項に記載の装置(10)。
【請求項11】
前記入光素子(28)が、前記検出光(20)のうち、前記電気光学偏光素子(30)を通過した部分を前記ビームコンバイナ(38)へと案内する、請求項10に記載の装置(10)。
【請求項12】
前記ビームスプリッタ(34)および/または前記ビームコンバイナ(38)および/または前記入光素子(28)の各々が、偏光ビームスプリッタキューブとして具現化される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置(10)。
【請求項13】
前記電気光学偏光素子(30)と前記遅延板(32)が、前記検出光(20)の、前記第1の光路内で案内される前記第1の部分(20a)に関して、その偏光分散が相互に打ち消し合うように具現化される、請求項8〜12のいずれか一項に記載の装置(10)。
【請求項14】
前記照明光(14)を発生するための白色光レーザ源および/またはパルスレーザ光源および/または変調レーザ光源を特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置(10)。
【請求項15】
照明光(14)と検出光(20)を分配するために請求項1〜14のいずれか一項に記載の装置(10)を備える、顕微鏡、特に共焦点蛍光顕微鏡。
【請求項16】
顕微鏡内の照明光(14)と検出光(20)を分配する方法にして、
前記照明光(14)を試料(18)へと案内し、前記試料(18)からの前記検出光(20)を少なくとも1つの検出器(26)へと案内し、
第1の光路にて前記試料(18)へと向けられた前記照明光(14)を、第1の偏光状態に変換し、
前記第1の偏光状態へと変換された前記照明光(14)を、前記試料(18)へと案内し、前記試料(18)からの前記検出光(20)のうち、前記第1の偏光状態を示す第1の部分(20a)を、前記第1の光路へ戻るように案内し、その一方で、前記検出光(20)のうち、前記第1の偏光状態とは異なる第2の偏光状態を示す第2の部分(20b)を、前記第1の光路とは別の第2の光路へと案内し、
前記検出光(20)の前記第1の部分(20a)と前記第2の部分(20b)を、相互に合成し、前記検出器(26)へと案内する、方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−57931(P2013−57931A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−178023(P2012−178023)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【出願人】(500178876)ライカ マイクロシステムス ツェーエムエス ゲーエムベーハー (80)
【Fターム(参考)】