説明

顕微鏡対物レンズおよび顕微鏡

【課題】簡易な構成により、特別な操作を必要とせずに塵埃の付着を確実に防止可能な顕微鏡の対物レンズ等を提供する。
【解決手段】対物レンズにおけるレンズ部24のレンズ表面24S上に、積層体30を設ける。積層体30は、撥水撥油性膜32、微細凹凸膜36、および帯電防止膜48を含む。撥水撥油性膜32により、水や油がレンズ表面24Sに付着することが抑制され、塵埃の付着も防止できる。さらに、微細凹凸膜36により撥水撥油性膜32の表面に微細な凹凸が形成されているため、分子間力による塵埃粒子のレンズ表面24Sへの付着を防止でき、帯電防止膜48により、静電気に起因した塵埃の付着も防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡対物レンズおよび顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡が、清浄でない環境下で使用されると、光学部材の表面に塵埃等が付着し、観察像の画質が低下するおそれがある。特に、被検体を観察するときにレンズ表面が露出する対物レンズにはこの傾向が強い。そこで、対物レンズ等の光学部材の表面に塵埃等が付着することを防止するために、対物レンズ群の開口部を閉じるシャッタを設けた顕微鏡(例えば特許文献1参照)や、ハーフミラーの上部に防塵ガラスを含む防塵ガラスユニットを着脱させる顕微鏡(例えば特許文献2参照)が知られている。
【0003】
また、塵埃等の他にも、対物レンズの周囲に液体が浸入することを防止するために、撥水性および撥油性を有する層で対物レンズの周辺部を覆うことが知られている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−298238号公報
【特許文献2】特開2006−98549号公報
【特許文献3】特開2005−31425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防塵のためにシャッタを設けた場合、顕微鏡の構造が複雑になり、付着してしまった塵埃等を対物レンズ群から除去する清掃作業が困難となる。また、シャッタを閉じるという、被検体観察とは関係のない操作を必要とする上に、この操作を忘れると防塵効果が発揮できない。そして、防塵ガラスユニットを着脱させる場合も同様に、顕微鏡の構造が複雑化し、着脱のための操作、および防塵ガラスユニットに付着した塵埃を除去する操作が必要となる。
【0005】
また、撥水性、撥油性を有する化合物で対物レンズの周辺にある部材の表面をコーティングした場合においても、対物レンズの表面に対する塵埃等の付着を防止することはできない。
【0006】
そこで本発明は、簡易な構成により、特別な操作を必要とせずに塵埃の付着を確実に防止可能な顕微鏡の対物レンズ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の対物レンズは、顕微鏡の対物レンズであって、被検体側のレンズ表面を覆う撥水撥油性膜を備えることを特徴とする。撥水撥油性膜は、フッ素含有有機ポリマーを含むことが好ましい。撥水撥油性膜の物理膜厚は、例えば0.4〜100nmである。また、対物レンズが積層体をさらに有し、撥水撥油性膜が、積層体の最も外側に設けられていることが好ましい。
【0008】
対物レンズは、レンズ表面を覆う反射防止膜をさらに有することが好ましい。また、対物レンズは、撥水撥油性膜の表面に凹凸を形成するための凹凸膜をさらに有することが好ましい。凹凸膜は、例えば、酸化ケイ素、アルミナ、アルミニウム水酸化物、亜鉛酸化物、および亜鉛水酸化物の少なくともいずれかを含み、これらのうちで酸化ケイ素により形成されていることが好ましい。また、凹凸膜の表面においては、凹部と凸部とが不規則に配置されていることが好ましい。
【0009】
対物レンズは、レンズ表面を覆う帯電防止膜をさらに有することが好ましい。
【0010】
本発明の顕微鏡は、被検体側のレンズ表面が撥水撥油性膜により覆われた対物レンズを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易な構成により、特別な操作を必要とせずに塵埃の付着を確実に防止可能な顕微鏡の対物レンズ等を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、第1の実施形態における顕微鏡を概略的に示す側面図である。図2は、本実施形態の顕微鏡において使用される対物レンズを拡大して示す側面図である。
【0013】
顕微鏡10は、試料18を拡大して観察するために用いられる。顕微鏡10は、光源12、反射鏡14、照準ハンドル16、対物レンズ20および接眼レンズ22を含む。試料18には、光源12から出射され、反射鏡14で反射された光が照射される。試料18は、合焦のために照準ハンドル16が操作された後、アーム26に取り付けられた対物レンズ20、および接眼レンズ22を介して観察される。
【0014】
対物レンズ20は、レンズ部24とマウント部28とを含む(図2参照)。レンズ部24は、対物レンズ20の先端に設けられたガラス製のレンズである。レンズ部24の外側の表面、すなわち、対物レンズ20の外側表面のうち試料18(被検体)側にあるレンズ表面24Sは、試料18からの光が入射する入射面である。マウント部28には、アーム26(図1参照)のねじ穴(図示せず)に螺合するねじ山28Mが設けられている。
【0015】
図3は、本実施形態の対物レンズ20におけるレンズ部24の周辺部を拡大して示す断面図である。
【0016】
対物レンズ20は、レンズ表面24Sを覆う積層体30を含む。積層体30は、以下のように、レンズ部24のレンズ表面24Sに塵埃が付着することを抑えるとともに、付着した場合には塵埃を除去し易くする。
【0017】
積層体30は、撥水撥油性膜32を含む。撥水撥油性膜32は、対物レンズ20の最も外側の表面、すなわちレンズ部24とは反対側の表面に設けられている。撥水撥油性膜32は、水や油がその表面32Sに付着することを抑制する。この結果、以下のように、塵埃粒子の表面32Sへの付着を防止することができる。
【0018】
レンズ部24と球形の塵埃粒子との間で、以下の式(1)で表される液架橋力F1が働く場合、塵埃粒子はレンズ表面24Sに付着し易い。
1=−2πγD・・・(1)(γは液体の表面張力であり、Dは塵埃粒子の粒径である)
このように液架橋力Fは、レンズ表面24Sと塵埃粒子との接触部に液体が凝集した場合の液架橋により生じる力である。よって、撥水撥油性膜32でレンズ表面24Sを覆い、撥水撥油性膜32の表面32Sへの水や油の付着を抑制すると、液架橋力F1による塵埃粒子の付着を低減できる。
【0019】
撥水撥油性膜32は、例えば、フッ素を含有する有機ケイ素ポリマー、フッ素を含有する有機、又は無機化合物、有機−無機ハイブリッドポリマー、フッ化ピッチ(例えばCFn(n:1.1〜1.6))、フッ化グラファイト等で形成される。これらのフッ素化合物の少なくともいずれかを含む撥水撥油性膜32は、撥水、および撥油性能に優れるからである。
【0020】
有機ケイ素ポリマーの例としては、フルオロカーボン基を有するフッ素含有シラン化合物を加水分解して得られるポリマーが挙げられる。フッ素含有シラン化合物としては、CF(CF) a(CH)SiRbXc・・・(2)(ただしRはアルキル基であり、Xはアルコキシ基又はハロゲン原子であり、aは0〜7の整数であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜3の整数であり、かつb + c = 3である)により表される化合物が挙げられる。
【0021】
式(2)により表される化合物の具体例として、CF(CH)Si(OCH)、CF(CH)SiCl、CF(CF)(CH)Si(OCH)、CF(CF)(CH)SiCl、CF(CF)(CH)Si(OCH)、CF(CF)(CH)SiCl、CF(CF)(CH)SiCH(OCH) 、CF(CF)(CH)SiCHCl等が挙げられる。有機ケイ素ポリマーとして市販品を用いてもよく、例えばXC98-B2472(GE東芝シリコーン株式会社製)等が使用可能である。
【0022】
フッ素含有有機化合物としては、例えばフッ素樹脂が挙げられる。フッ素樹脂としては、フッ素含有オレフィン系化合物の重合体、並びにフッ素含有オレフィン系化合物およびこれと共重合可能な単量体からなる共重合体が挙げられる。そのような(共)重合体として、ポリテトラフルオロエチレン、テトラエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリフッ化ビニル等が挙げられる。フッ素樹脂として市販のフッ素含有組成物を重合させたものを使用してもよい。市販のフッ素含有組成物としては、例えば、オプスター(ジェイエスアール株式会社製)、サイトップ(登録商標・旭硝子株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
フッ素含有無機化合物としては、例えば、LiF、MgF、CaF、AlF、BaF、YF、LaFおよびCaFなどが挙げられる。これらのフッ素含有無機化合物は、例えばキャノンオプトロン株式会社から入手できる。
【0024】
フッ素を含有する有機−無機ハイブリッドポリマーの例としては、フルオロ脂肪族基含有不飽和エステル単量体および不飽和シラン単量体の共重合体、フルオロカーボン基を有する有機ケイ素ポリマーが挙げられる。
【0025】
撥水撥油性膜32の物理膜厚は0.4〜100nmであることが好ましく、10〜80nmであることがより好ましい。撥水撥油性膜32の物理膜厚が0.4〜100nmの範囲内であれば、防塵性を保ちつつ、必要な光を十分に透過させることができる。これに対し、撥水撥油性膜32の物理膜厚が、0.4nm未満であると撥水撥油性が不十分となり、100nmを超えると、光透過性が不足し、さらに後述するように、撥水撥油性膜32の表面32Sにおける表面抵抗が大きくなって防塵性能が低下する可能性がある。
【0026】
撥水撥油性膜32の下側には、微細凹凸膜36(凹凸膜)が積層されている。微細凹凸膜36は、積層体30の表面、すなわち撥水撥油性膜32の表面32Sに微細な凹凸を形成するために設けられている。表面32Sに凹凸が形成されると、塵埃粒子と表面32Sとの距離が保たれ、両者間の分子間力が小さくなる。この結果、塵埃粒子の表面32Sへの付着を防止することができる。微細凹凸膜36は、撥水撥油性膜32の表面32Sに効果的に凹凸を形成するために、撥水撥油性膜32とレンズ表面24Sとの間において撥水撥油性膜32のすぐ下側に配置されることが好ましい。ただし、撥水撥油性膜32と微細凹凸膜36の間で、両者を密着させるためのバインダ膜(図示せず)を設けても良い。
【0027】
微細凹凸膜36の表面粗さは、撥水撥油性膜32の表面32Sにおける三次元平均表面粗さSRaが、1〜100nm、好ましくは8〜80nm、より好ましくは10〜50nmとなるように調整されている。これは、表面32SにおけるSRaが1nm以上であると、分子間力による塵埃粒子の表面32Sへの付着を十分に防止できるのに対し、100nmを超えると、積層体30に入射する光の散乱が発生してしまうおそれがあるためである。
【0028】
なお微細凹凸膜36は、例えばゾルゲル法により形成されている。このため、微細凹凸膜36の表面36Sにおいては、微細な凸部と、凸部間に設けられた溝状の凹部とは、不規則に配置されている。このため、積層体30を透過する光による生じる試料18(図1参照)の観察像において、モアレ発生が防止される。
【0029】
微細凹凸膜36は、酸化ケイ素、アルミナ、アルミニウム水酸化物、亜鉛酸化物、および亜鉛水酸化物等により形成されることが好ましく、特に好ましくは酸化ケイ素(シリカ)により形成される。これは、酸化ケイ素の微細凹凸膜36は撥水撥油性膜32との密着性が良好であるために、微細凹凸膜36と撥水撥油性膜32との間に上述のバインダ膜(段落[0026]参照)を設けることなしに、積層体30の構造の簡素化と耐久性の向上が可能だからである。
【0030】
積層体30は、反射防止膜40を含む。反射防止膜40は、可視光(波長域:380〜780nm)に対する分光反射率を3%以下程度に抑制する。この結果、試料18(図1参照)からの光が、反射によりレンズ表面24Sに入射しなくなることが防止される。なお、反射防止膜40の厚さは、例えば0.3μm程度である。
【0031】
積層体30は、さらに帯電防止膜48を含む。帯電防止膜48は、積層体30の表面抵抗を十分に小さくすることにより、レンズ部24(図2参照)の防塵性を向上させる。この帯電防止膜48により、表面32Sにおける表面抵抗は、1×1014Ω/□以下に抑えられることが好ましく、1×1012Ω/□以下であることがより好ましい。この結果、静電気により塵埃がレンズ部24に付着することが防止され、防塵性能が向上される。
【0032】
帯電防止膜48は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、ATO(Antimon Tin Oxide)などによる無機膜で形成されていることが好ましい。無機膜であれば、帯電防止膜48の耐熱性を向上させることができ、かつ積層体30の製造時において、上述の撥水撥油性膜32、微細凹凸膜36等とともに同時に積層させることができ、製造工程の効率化が図られるからである。
【0033】
ただし、帯電防止膜48が十分な光透過性を有する限り、他の材質を用いることもできる。例えば、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛からなる無機膜、あるいは金属酸化物粒子を含有する有機膜であっても良い。なお、帯電防止膜48の厚さは、用途に応じて適宜調整され、一般的には0.01〜3μm程度であることが好ましい。
【0034】
本実施形態においては、帯電防止膜48は、反射防止膜40とは別個の独立した膜部材であるが、これらを一体化させ、可視光の反射防止と表面抵抗の抑制とが可能な膜を設けても良い。また、上述のように層構造を有する反射防止膜40の層間に、帯電防止膜48を積層させても良い。
【0035】
以下、本実施形態の積層体30を構成する各膜部材の製造方法につき説明する。撥水撥油性膜32は、フッ素含有無機化合物を材料とする場合、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、熱CVD、プラズマCVD等の化学蒸着法等により形成される。また、フッ素含有有機化合物およびフッ素を含有する有機−無機ハイブリッドポリマーを材料とする場合は、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、ロールコート法、スクリーン印刷法等の塗布法により形成することができる。塗布法により形成する場合は、得られる膜の強度を増す目的で、塗布後、乾燥により溶媒等を除去することが好ましい。乾燥方法としては、風乾、熱風乾燥、加熱乾燥など、慣用されている方法を用いることができる。塗布法における乾燥条件は、基材の耐熱性等に応じて適宜選択すれば良い。
【0036】
微細凹凸膜36は、例えばゾルゲル法により製造可能である。この場合、例えば、アルミニウムアルコキシドと水と安定化剤とを含む塗布液を基板に塗布し、アルミナゲル膜を形成する。こうして得られたアルミナゲル膜を熱水で処理することにより、表面に凹凸が形成された花弁状アルミナ膜が得られる。ここで、必要に応じてアルミナにシリカ、ジルコニア、チタニア、亜鉛酸化物、亜鉛水酸化物などの任意成分を加えても良い。また、上述のように、シリカによる、もしくはシリカを主成分とした微細凹凸膜36をゾルゲル法で形成しても良い。
【0037】
アルミニウムアルコキシドとしては、例えばアルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリ-n-ブトキシド、アルミニウムトリ-sec-ブトキシド、アルミニウムトリ-tert-ブトキシド、アルミニウムアセチルアセテート、これらを部分加水分解して得られるオリゴマー等が挙げられる。
【0038】
塗布液には、安定化剤として、例えばアセチルアセトン、アセト酢酸エチル等のβ-ジケトン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類、金属アルコキシド等を添加することが好ましい。また、塗布液として溶媒を使用してもよい。溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等が挙げられる。
【0039】
金属アルコキシド、溶媒、安定化剤及び水の好ましい混合割合は、モル比で、(アルミニウムアルコキシド+任意成分):溶媒:安定化剤:水=1:10〜100:0.5〜2:0.1〜5程度である。
【0040】
塗布液には、アルコキシ基の加水分解を促進したり、脱水縮合を促進したりするための触媒を添加することができる。触媒としては、例えば硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、酢酸、アンモニア等が挙げられる。触媒の添加量は、金属アルコキシドに対して、モル比で0.0001〜1であることが好ましい。また、低温かつ短時間での花弁状アルミナ膜の生成を可能にすべく、塗布液に水溶性有機高分子を添加してもよい。
【0041】
塗布法としては、例えばディッピング法、スピンコート法、ノズルフローコート法、スプレー法、リバースコート法、フレキソ法、印刷法、フローコート法及びこれらを併用する方法等が挙げられる。中でもディッピング法は、膜の均一性、膜厚の制御等が容易であるため好ましい。得られるゲル膜の厚さは、例えば、ディッピング法における引き上げ速度やスピンコート法における基板回転速度の調整、塗布液の濃度の調整等により制御することができる。ディッピング法における引き上げ速度は、例えば約0.1〜3.0mm/秒程度とすることが好ましい。
【0042】
塗布膜の乾燥条件は特に制限されず、基板の耐熱性等に応じて適宜選択すればよい。一般的には、塗布後の基板を、室温から400℃程度の温度で5分〜24時間ほど処理する。
【0043】
アルミナゲル膜を形成した基板を処理する熱水の温度は、基板の耐熱性に応じて適宜調整される。一般的には、約50℃〜約100℃の温度で1〜240分間程度処理することが好ましい。熱水で処理した後、室温から400℃の温度で乾燥することが好ましく、100〜400℃の温度で焼成することがより好ましい。乾燥(焼成)時間は10分間〜24時間とすることが好ましい。以上のようにして形成される花弁状アルミナ膜は、通常無色で透明性が高い。
【0044】
また、アルミナ等を用いずに、亜鉛化合物等のゲル膜を形成し、得られたゲル膜を水で処理することにより、亜鉛化合物の微細凹凸膜36を形成しても良い。この場合、20℃以上の温度の水でゲル膜を処理すると、ゲル膜の表層が解膠作用を受け、構造の再配列が起こり、亜鉛酸化物および/または亜鉛水酸化物、またはこれらの水和物がゲル膜の表層に析出し、成長する。この結果、表面に微細な凹凸のある亜鉛化合物膜が形成される。
【0045】
反射防止膜40は、例えば、蒸着法によりSiO2とTiO2とを交互に積層させることにより形成される。
【0046】
帯電防止膜48は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、熱CVD、プラズマCVD、光CVD等の化学蒸着法等により形成することができる。
【0047】
また、撥水撥油性膜32と微細凹凸膜36とを密着させるためのバインダ膜を設ける場合(段落[0026]参照)、バインダ膜は、撥水撥油性膜32をフッ素含有無機化合物から形成する場合(段落[0035]参照)と同様の方法により形成することができる。なお、バインダ膜の物理膜厚は5〜500nmであることが好ましく、10〜400nmであることがより好ましい。バインダ膜の物理膜厚が5nmより薄いと密着性が十分に向上せず、500nmより厚いと光学特性に影響を与える可能性があるからである。
【0048】
なお、図3においては、積層体30を構成する部材は、説明の便宜上、厚さ方向、すなわちレンズ表面24Sに垂直な方向に拡大して示されている。後述する図4においても同様である。
【0049】
以上のように本実施形態によれば、対物レンズ20のレンズ表面24S上に、撥水撥油性膜32を含む積層体30を形成した簡易な構造の対物レンズ20において、特別な操作を必要とせずに、塵埃の付着を防止できる。そして、積層体30の表面32S(図3参照)に塵埃が付着した場合は、ブロア等により、付着した塵埃を容易に除去することができる。また、撥水撥油性膜32が撥水性および撥油性を備えることから、幅広い種類の異物の付着を防止できる。
【0050】
さらに、複数の膜部材を積層体30において組み合わせることにより、顕微鏡10の使用環境にも関わらず、レンズ部24の防塵性能を安定的に向上させることができる。すなわち、湿度の高い環境下では、静電気による塵埃の付着が少ないことから、帯電防止膜48の有用性が低下する一方、液架橋力に起因した塵埃の付着を防止することが重要となるため、微細な水滴等の付着を防止する撥水撥油性膜32が防塵性能の向上に大きく寄与する。反対に、乾燥した環境下では、撥水撥油性膜32よりも帯電防止膜48が塵埃の付着防止に大きな役目を果たす。このように、複数の膜部材を組み合わせる本実施形態においては、周辺環境に左右されず、常に優れた防塵性能を維持することができる。
【0051】
また、本実施形態では、積層体30を形成するという簡易な工程により防塵性能を向上させることができるため、塵埃が付着し易い既存の顕微鏡の対物レンズに対して積層体30を形成し、塵埃の付着を防止することも容易に可能である。
【0052】
次に、第2の実施形態につき、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。図4は、本実施形態の対物レンズ20におけるレンズ部24の周辺部を拡大して示す断面図である。
【0053】
本実施形態の対物レンズ20においては、レンズ表面24Sは、撥水撥油性膜32と反射防止膜40のみを有する積層体30によって覆われている。このように、撥水撥油性膜32と反射防止膜40のみを設けた場合でも、上述のように、表面32Sに塵埃が付着することを防止でき、かつ光の反射も防止できる。
【0054】
このように本実施形態によれば、さらに簡易な構造の積層体30を形成すれば良いため、より簡便に防塵効果が得られるという利点がある。
【0055】
積層体30に含まれる各部材の材質、配置、および製法は、いずれの実施形態にも限定されない。例えば、第1の実施形態における微細凹凸膜36もしくは帯電防止層48を、第2の実施形態の積層体30に加えても良い。また、積層体30を、顕微鏡10における対物レンズ20以外の光学部材、例えば接眼レンズ22(図1参照)、もしくはリレーレンズ(図示せず)等に設けても良い。
【0056】
微細凹凸膜36の製法としては、凹凸を不規則に配置することができる簡易なゾルゲル法が好ましいものの、他の製法、例えばフォトリソグラフィ法により製造されても良い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1の実施形態における顕微鏡を概略的に示す側面図である。
【図2】第1の実施形態の顕微鏡において使用される対物レンズを拡大して示す側面図である。
【図3】第1の実施形態の対物レンズにおけるレンズ部の周辺部を拡大して示す断面図である。
【図4】第2の実施形態の対物レンズにおけるレンズ部の周辺部を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
10 顕微鏡
20 対物レンズ
24 レンズ部
24S レンズ表面
30 積層体
32 撥水撥油性膜
36 微細凹凸膜(凹凸膜)
40 反射防止膜
48 帯電防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡の対物レンズであって、前記対物レンズの被検体側のレンズ表面を覆う撥水撥油性膜を備えることを特徴とする対物レンズ。
【請求項2】
前記撥水撥油性膜が、フッ素含有有機ポリマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項3】
前記撥水撥油性膜の物理膜厚が0.4〜100nmであることを特徴とする請求項1もしくは請求項2に記載の対物レンズ。
【請求項4】
前記対物レンズが積層体をさらに有し、前記撥水撥油性膜が、前記積層体の最も外側に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の対物レンズ。
【請求項5】
前記レンズ表面を覆う反射防止膜をさらに有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の対物レンズ。
【請求項6】
前記撥水撥油性膜の表面に凹凸を形成するための凹凸膜をさらに有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の対物レンズ。
【請求項7】
前記凹凸膜が、酸化ケイ素、アルミナ、アルミニウム水酸化物、亜鉛酸化物、および亜鉛水酸化物の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項6に記載の対物レンズ。
【請求項8】
前記凹凸膜が酸化ケイ素により形成されていることを特徴とする請求項7に記載の対物レンズ。
【請求項9】
前記凹凸膜の表面において、凹部と凸部とが不規則に配置されていることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の対物レンズ。
【請求項10】
前記レンズ表面を覆う帯電防止膜をさらに有することを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の対物レンズ。
【請求項11】
被検体側のレンズ表面が撥水撥油性膜により覆われた対物レンズを備えることを特徴とする顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−217049(P2009−217049A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61541(P2008−61541)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】