説明

顕微鏡画像撮像装置

【課題】試料が存在する撮像対象エリアを所定方向にスキャンさせる際、該撮像対象エリア内に設定される撮像位置に撮像部の焦点を確実に合わせていくことが可能な顕微鏡画像撮像装置を提供する。
【解決手段】対物レンズ(42A)の光軸に直交するスキャン平面に対して傾いた試料載置面(33A)を有する試料載置ステージ(33)を備え、試料載置ステージ(33)を撮像部(43)と試料載置面(33A)の光軸方向の距離が変化するようにスキャン平面に沿って移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料載置ステージに載置された試料表面を所定方向にスキャンしながら該試料表面の局所顕微鏡画像を順次撮像していく顕微鏡画像撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、対物レンズの光軸に直交する平面(スキャン平面)に沿って移動可能な試料載置ステージを備えた顕微鏡画像撮像装置が知られている。このような顕微鏡画像撮像装置は、試料が載置された試料載置ステージをスキャン平面に沿って移動させながら該試料表面の局所顕微鏡画像を順次撮像していく。この際、撮像部の焦点は、試料載置ステージの移動に合わせて試料表面における所望の撮像位置に逐次一致するよう微調整される。
【0003】
また、上述のような構造を有する顕微鏡画像撮像装置に適用可能なフォーカシング装置としては、例えば特許文献1に記載されたフォーカシング装置が知られている。この特許文献1に記載されたフォーカシング装置は、試料表面における任意の3点X、Y、Zの座標情報から予め該試料表面に相当する仮想平面の数式情報を求め、この数式情報に基づいて該試料面の傾き成分が補正された観察点のZ座標情報を求め、そして、このZ座標情報に基づいて対物レンズをZ軸方向に駆動することにより観察点に焦点を合わせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−304703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、従来の顕微鏡画像撮像装置について検討した結果、以下のような課題を発見した。具体的には、上記特許文献1に記載されたような従来の顕微鏡画像撮像装置において、対物レンズをZ軸方向(対物レンズの光軸方向)に駆動するフォーカス用アクチュエータとして例えばステッピングモータなどが採用された場合、以下のような課題が発生する。
【0006】
すなわち、ステッピングモータにより構成された対物レンズの駆動系には、モータの正逆回転時の誤差、ギヤのバックラッシュ、ボールネジ機構の捩じれ剛性による誤差などに起因するロストモーションがある。そのため、対物レンズをZ軸方向に沿って一方向(プラス側)へ駆動した直後に逆方向(マイナス側)に駆動する場合、あるいは、マイナス側へ駆動した直後にプラス側に駆動する場合、対物レンズがリアルタイムに追従できなくなり、撮像対象エリア内に設定される各撮像位置にCCDカメラなどの撮像部の焦点を確実に合わせることができなくなる。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、フォーカス用アクチュエータの種類によらず、試料が存在する撮像対象エリア内において撮像部の撮像可能エリアを所定方向にスキャンさせる際、該撮像対象エリア内に設定される撮像位置に撮像部の焦点を確実に合わせていくことが可能な構造を備えた顕微鏡画像撮像装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る顕微鏡画像撮像装置は、撮像部の撮像可能エリアを所定方向にスキャンしながら試料表面の局所顕微鏡画像を順次撮像していく顕微鏡画像撮像装置に関し、試料載置ステージと、CCDカメラなどの撮像部と、対物レンズと、第1駆動機構と、第2駆動機構と、そして、制御部を備える。試料載置ステージは、顕微鏡観察用試料が載置可能な試料載置面を有する。撮像部は、試料載置面に対面するよう配置され、該試料載置面上の撮像対象エリアのうち撮像可能エリア(撮像部が一度に撮像可能な領域)内に存在する試料の一部を順次撮像する。対物レンズは、撮像部と試料載置面との間に配置され、撮像対象エリアのうち撮像可能エリアの像(撮像部の撮像対象となった試料の局所顕微鏡画像)を撮像部に結像する。第1駆動機構は、試料載置ステージ及び対物レンズの少なくともいずれかを該対物レンズの光軸に直交するスキャン平面に沿って移動させる。これにより、第1駆動機構は、試料載置ステージ及び対物レンズの相対位置を調節する。第2駆動機構は、試料載置ステージ及び対物レンズの少なくともいずれかを該対物レンズの光軸方向に沿って移動させる。これにより、第2駆動機構は、試料載置ステージ及び対物レンズの相対位置を調節する。そして、制御部は、第1及び第2駆動機構を制御することで、撮像対象エリアにおける撮像部の焦点位置を調節しながら該撮像部の撮像可能エリアを所定のスキャン方向に沿って相対的に移動させる。
【0009】
特に、この発明に係る顕微鏡画像撮像装置において、試料載置ステージの試料載置面は、スキャン平面に対して傾いている。より具体的には、試料載置ステージの試料載置面は、対物レンズの光軸と交差する該試料載置面上の直線がスキャン平面と所定角度で交差する程度の傾きを有する。
【0010】
上述のように、この発明に係る顕微鏡画像撮像装置は、試料載置ステージと対物レンズとが所定のスキャン方向に相対的に移動するのに伴い、撮像対象エリアに対して撮像部の撮像可能エリアが該所定のスキャン方向に移動していくよう構成されている。この際、制御部は、撮像対象エリア内において撮像部の撮像可能エリアが所定のスキャン方向に相対的に移動している間、該撮像部の焦点位置が対物レンズの光軸方向に沿って一方向のみに単調に調節されるよう、第1駆動機構を制御する。なお、この「焦点位置の単調な調節」には、焦点位置が一定に維持されている状態も含まれる。そのため、対物レンズを撮像部の焦点位置に微調整する方向は、試料表面に対して焦点位置を浅くするマイナス方向又は試料表面に対して焦点位置を深くするプラス方向のいずれかとなる。
【0011】
また、この発明に係る顕微鏡画像撮像装置において、試料載置ステージの試料載置面は、試料載置面上に試料、例えば組織片が配置されたスライドガラスが載置されたとき、該スライドガラスの対物レンズを介して撮像部に対面する面がスキャン平面に対して傾斜する程度の傾きを有するのが好ましい。試料載置面上に載置される試料の体積及び形状は一定ではなく、したがって、該組織片を覆うカバーガラスの表面の傾斜は、試料載置面の傾斜に依存しない場合がある。この場合、撮像部の焦点位置を微調整する方向が一方向のみに安定しなくなる可能性がある。そのため、スキャン面に対する試料載置面の傾斜角θは、少なくとも、試料載置面上の試料表面が該試料載置面の傾斜方向に一致する程度(必ずしも傾斜角は一致しなくてもよい)必要となる。
【0012】
なお、この発明に係る各実施例は、以下の詳細な説明及び添付図面によりさらに十分に理解可能となる。これら実施例は単に例示のために示されるものであって、この発明を限定するものと考えるべきではない。
【0013】
また、この発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明及び特定の事例はこの発明の好適な実施例を示すものではあるが、例示のためにのみ示されているものであって、この発明の思想及び範囲における様々な変形及び改良はこの詳細な説明から当業者には自明であることは明らかである。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る顕微鏡画像撮像装置によれば、撮像部の撮像可能エリアが撮像対象エリア内を所定のスキャン方向に移動していく間、該撮像部の焦点距離は、試料載置面の傾斜に応じて単調変化する(なお、この単調変化には、撮像部の焦点距離が維持されている状態も含む)。その結果、対物レンズの光軸方向に沿って該対物レンズの位置を微調整する方向は、一定方向のみに制限される。
【0015】
上記構成により、この発明の顕微鏡画像撮像装置は、フォーカス用アクチュエータとしてステッピングモータが適用された場合であっても、該ステッピングモータによる駆動系でのロストモーションの発生が効果的に抑制され、撮像対象エリア内に設定される各撮像位置に撮像部の焦点を正確に合わせることが可能になる(試料表面における特定部位の明瞭な局所顕微鏡画像が得られる)。
【0016】
また、この発明に係る顕微鏡画像撮像装置によれば、試料載置ステージの試料載置面は、試料載置面上に試料が載置されたとき、該試料の対物レンズを介して撮像部に対面する面がスキャン平面に対して傾斜する程度の傾きを有する。この場合、試料の体積及び形状によらず、対物レンズの光軸方向に沿って該対物レンズの位置を微調整する方向を、一定方向のみに制限することが可能になる。
【0017】
上記構成により、この発明に係る顕微鏡画像撮像装置は、フォーカス用アクチュエータとしてステッピングモータが採用された場合であっても、該ステッピングモータによる駆動系でのロストモーションの発生が確実に防止され、撮像対象エリア内に設定される各撮像位置に撮像部の焦点を正確に合わせることが可能になる(試料表面における特定部位の明瞭な局所顕微鏡画像が得られる)。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係る顕微鏡画像撮像装置の一実施例の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示されたスライドガラス収納部(カセットホルダ含む)の構成を示す斜視図であって、カセットホルダのホルダ部が傾斜した状態を示す。
【図3】図2に示されたカセット部へスライドガラスカセットを装着する作業を説明するための斜視図である。
【図4】図2に示されたスライドガラス搬送部のX軸ステージの構成を示す部分斜視図である。
【図5】図1に示されたスライドガラス載置部の、マクロ観察ポジションにおける平面図である。
【図6】図1に示されたスライドガラス載置部の、スキャンポジションにおける平面図である。
【図7】図1に示されたスライドガラス撮像部の構成を示す模式図である。
【図8】図7に示されたスライドガラス内のサンプル試料の撮像対象エリアが、それぞれ撮像部の撮像可能エリアと同程度のサイズである複数の撮像単位に区分された第1例を示す模式図である。
【図9】図7に示されたように傾斜した試料載置面上に一列に並んだ撮像単位に対する撮像部の焦点位置を、図8に示されたスキャニング方向に沿って示すグラフである。
【図10】比較例として、水平な試料載置面上に一列に並んだ撮像単位に対する撮像部の焦点位置を、図8に示されたスキャニング方向に沿って示すグラフである。
【図11】図7に示されたスライドガラス内のサンプル試料の撮像対象エリアが、それぞれ撮像部の撮像可能エリアよりも大きいサイズである複数の撮像単位に区分された第2例を示す模式図である。
【図12】撮像対象エリアにおける焦点位置の他の決定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明に係る顕微鏡画像撮像装置の一実施例を、図1〜図12を用いて詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一部分、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の説明では、図面の上部及び下部が装置上部及び下部にそれぞれ対応しているものとして説明する。
【0020】
図1は、この発明に係る顕微鏡画像撮像装置の一実施例の概略構成を示す斜視図である。
【0021】
図1に示された顕微鏡画像撮像装置は、サンプル試料、例えば、病理組織試料の組織片が密封されたスライドガラス(プレパラート)などの顕微鏡画像を撮像する装置である。この顕微鏡画像撮像装置は、サンプル試料が密封された複数のスライドガラスを収納するスライドガラス収納部1と、スライドガラス収納部1からスライドガラスを1枚ずつ取り出し、順次搬送するスライドガラス搬送部2と、スライドガラス搬送部2により搬送されたスライドガラスを載置し、該スライドガラスを所定方向に移動させるスライドガラス載置部3と、スライドガラス載置部3上のサンプル試料の顕微鏡画像を撮像するスライドガラス撮像部4を、少なくとも備える。
【0022】
スライドガラス収納部1は、図2に示されたように、支持枠11、ホルダ部12、スライドガラスカセット13を備える。なお、少なくとも支持枠11及びホルダ部12によりカセットホルダが構成されている。ホルダ部12は、水平軸AXを中心に矢印S1で示された方向に回転可能な状態で支持枠11に保持されており、支持枠11は、スライドガラスの取り出し口が図2に示されたように上方を向くようにスライドガラスカセット13が傾けられた姿勢(第1姿勢)でホルダ部12を保持するとともに、スライドガラスの取り出し口が垂直に位置するようスライドガラスカセット13が起立している姿勢(第2姿勢)でホルダ部12を保持する。これら第1及び第2姿勢間では、ホルダ部12が水平軸AXを中心に一定の回転速度で回動する。また、縦長のボックス形状を有するスライドガラスカセット13には、図3に示されたように、複数のスライドガラスSGが正面の開口部から取出し可能な状態で積層されている。
【0023】
図2に示されたように、スライドガラス搬送部2は、スライドガラス収納部1の手前側に配置されており、左右のY軸方向に延びるY軸ステージ21と、Y軸ステージ21により左右のY軸方向に位置制御されるZ軸ステージ22と、Z軸ステージ22により上下のZ軸方向に位置制御されるX軸ステージ23とを備える。X軸ステージ23には、図4に示されたように、スライドガラス収納部1の各スライドガラスカセット13に収納されたスライドガラスSGを1枚ずつ引き出すように前後のX軸方向に進退駆動される引出しハンド23Aが設けられている。
【0024】
ここで、図5及び図6に示されたように、スライドガラス載置部3は、ステップ送りステージ32と、スキャン送りステージ33を備える。ステップ送りステージ32は、ベースステージ31に付設されたステッピングモータ31Aによりボールねじ機構を介してX軸方向に位置制御される。また、スキャン送りステージ33は、ステップ送りステージ32に付設されたステッピングモータ32Aによりボールねじ機構を介してY軸方向に位置制御される。なお、このスキャン送りステージ33が試料載置ステージとして機能する。
【0025】
試料載置ステージとしてのスキャン送りステージ33には、スライドガラスSGを載置したスライドガラス搬送部2の引出しハンド23A(図4参照)が上下に通過できる切欠きが形成されている。この切欠きの両側の部分が引出しハンド23Aより幅広のスライドガラスSGの左右の側縁部を支持することで、スライドガラスSGを載置する試料載置面が構成されている。
【0026】
スキャン送りステージ33上には、引出しハンド23Aにより試料載置面に載置されたスライドガラスSGの例えば左側の側辺を受け止める位置決めブロック34が固定されている。また、スキャン送りステージ33上には、スライドガラスSGの例えば右側の側辺を位置決めブロック34側に押圧してスライドガラスSGを所定位置に保持するためのスライドガラス押さえアーム35がピン36を介して回転可能な状態で支持されている。
【0027】
スライドガラス押さえアーム35は、スライドガラスSGの左側の側方に向かって延びる受動部35Aと、スライドガラスSGの右側の側方に向かって延びる押動部35Bにより構成され、U字状の平面形状を有する。また、スライドガラス押さえアーム35は、ピン36を中心に反時計方向に回動するようにばね付勢されている。
【0028】
このスライドガラス押さえアーム35において、スキャン送りステージ33が図5に示されたように左端側のマクロ観察ポジションに移動すると、受動部35Aは、ベースステージ31側の不動部材である当て板37に当接することでピン33Cを中心に時計方向に回動する。このとき、押動部35Bは、スライドガラスSGの右側の側辺から離間する。
【0029】
また、スライドガラス押さえアーム35において、スキャン送りステージ33が図6に示されたように右端側のスキャンポジションに移動すると、受動部35Aは、当て板37から離間することでピン33Cを中心に反時計方向に回動する。このとき、押動部35Bは、スライドガラスSGの右側の側辺を位置決めブロック34側に押圧し、該スライドガラスSGを所定位置に保持するよう機能する。
【0030】
図1に示されたスライドガラス撮像部4は、図7に模式的に示されたように、
スキャン光源41と、光学系42と、撮像部であるCCDカメラ43と、ステージ用XY軸駆動機構38(第1駆動機構)と、フォーカス用Z軸駆動機構44(第2駆動機構)と、制御装置5(制御部)とを備える。スキャン光源41は、スキャン送りステージ33(図6参照)の試料載置面33Aに載置されたスライドガラスSGに下方から撮像光を照射する。光学系42は、スライドガラスSGを透過した撮像光が入射される対物レンズ42Aを含む。CCDカメラ43は、光学系42を介して撮像光を受光する。ステージ用XY軸駆動機構38は、スキャン送りステージ33を、対物レンズ42Aの光軸に直交するスキャン面に沿って移動させる。フォーカス用Z軸駆動機構44は、CCDカメラ43とともに光学系42の対物レンズ42AをZ軸の光軸方向に位置制御することでスライドガラスSGに対するCCDカメラ43の焦点位置を調整するとを備えている。
【0031】
CCDカメラ43は、2次元画像の取り込み動作が可能な構成を有する。また、フォーカス用Z軸駆動機構44は、汎用性の高いステッピングモータにボールねじ機構を組み合わせた構成を有する。そして、これらCCDカメラ43及びフォーカス用Z軸駆動機構44は、制御装置5により、上述のスキャン送りステージ33(図6参照)をX軸方向及びY軸方向に駆動するステッピングモータ31A、32Aなどを含むステージ用XY軸駆動機構38とともに制御される。
【0032】
制御装置5は、例えばパーソナルコンピュータのハードウェア及びソフトウェアを利用して構成され、入出力インターフェースI/O、A/Dコンバータ、プログラム及びデータを記憶したROM(Read OnlyMemory)、入力データ等を一時記憶するRAM(Random Access Memory)、プログラムを実行するCPU(CentralProcessing Unit)等をハードウェアとして備える。
【0033】
この制御装置5は、スライドガラスSGを載置したスキャン送りステージ33をY軸方向のスキャン方向及びX軸方向のステップ送り方向に移動させるようにステージ用XY軸駆動機構38を制御する。その際、スライドガラスSGに密封されたサンプル試料を含む撮像対象エリア内に設定される各撮像位置に順次CCDカメラ43の焦点が合うように対物レンズ42AをZ軸の光軸方向に位置制御する(CCDカメラ43の焦点位置の微調整)。そして、制御装置5は、対物レンズ42Aを介して試料表面の局所顕微鏡画像を順次取り込むようにCCDカメラ43を制御する。
【0034】
ここで、フォーカス用Z軸駆動機構44は、ステッピングモータにボールねじ機構を組み合わせた構造を有するので、駆動方向が反転する際には、モータの正逆回転時の誤差、ギヤのバックラッシュ、ボールネジ機構の捩じれ剛性による誤差などに起因するロストモーションが発生する虞がある。その結果、対物レンズ42AはZ軸の光軸方向にリアルタイムに追従できなくなり、スライドガラスSGに密封されたサンプル試料の各部(CCDカメラ43の撮像可能エリアが位置する部分)に順次CCDカメラ43の焦点を合わせゆくのが困難になることが予測される。
【0035】
そこで、このような事態を回避して対物レンズ42Aがサンプル試料の各部(像対象エリア内における撮像位置)に順次焦点を合わせることができるようにする必要がある。そこで、この実施例において、スキャン送りステージ33の試料載置面33Aは、対物レンズ42Aの光軸に直行するスキャン平面に対して所定の傾斜角θだけ傾斜している。この試料載置面33Aの傾きは、サンプル試料が密封されたスライドガラスSGの表面の傾斜よりも大きくなるように設定されている。
【0036】
図8には、サンプル試料を含む撮像対象エリアFを例えば一辺が25mmの正方形とし、この撮像対象エリアFを縦横10×10の格子状に区分することにより、一辺が2.5mmの正方形の撮像単位F00〜F99で撮像対象エリアFが構成されている第1例が示されている。なお、図中、撮像単位F00から撮像F09へ向かう実線矢印の縦方向がスキャン方向を示し、撮像単位F00から撮像単位F90へ向かう実線矢印の横方向がステップ送り方向を示す。また、この図8の例では、CCDカメラ43の撮像可能エリアのサイズは各撮像単位と略同じであり、したがって、符号Pは各撮像単位の中心点Pの位置が各撮像単位に対するCCDカメラ43の焦点位置となっている。また、この明細書では、光学系42を介してCCDカメラ43に結像される撮像可能エリアの像を局所顕微鏡画像と規定しているので、この図8の第1例の場合、得られる局所顕微鏡画像それぞれが一撮像単位となる。
【0037】
ここで、サンプル試料が病理組織試料である場合、撮像単位F00から撮像単位F09までの一列のスキャン方向の長さ25mm内における撮像対象エリアFの高所と低所とを結ぶ最大傾斜は、通常、10〜20μm/25mm程度である。そこで、この実施例においては、試料載置面33Aの傾きの大きさは、25〜50μm/25mm(=1〜2μm/mm)の範囲のうち、例えば50μm/25mm(200μm/100mm)に設定されている。なお、試料載置面33Aの傾斜は、スキャン方向に沿って傾斜するように、例えばスキャンの開始位置が高く、終了位置が低くなるように設定されている。
【0038】
次に、以上のように構成された顕微鏡画像撮像装置の動作について説明する。なお、この顕微鏡画像撮像装置では、図7に示されたスキャン送りステージ33の傾斜した試料載置面33Aに載置されたスライドガラスSGを対象とし、これに密封されたサンプル試料を含む撮像対象エリアF(図8参照)における各撮像単位F00〜F99の局所顕微鏡画像が順次撮像されるものとする。
【0039】
まず、制御装置5は、図8に示された撮像単位F00〜F99それぞれの中心点Pにおける焦点位置データを取得し、これをフォーカスマップとして記憶しておく。
【0040】
フォーカスマップの作成に当たり、制御装置5は、ステージ用XY軸駆動機構38へ制御信号を出力することにより、図8に示された撮像単位F00〜F99の順にCCDカメラ43の撮像位置が一致するようスキャン方向及びステップ送り方向に順次スキャン送りステージ33を移動させる。すなわち、スキャン送りステージ33は、撮像単位F00〜F99それぞれが順番に対物レンズ42Aの直下に位置するよう移動する。
【0041】
その間、制御装置5は、対物レンズ42Aの直下に位置する撮像単位F00〜F99それぞれの中心点PにおけるCCDカメラ43の焦点データを取得する。すなわち、制御装置5は、フォーカス用Z軸駆動機構44へ制御信号を出力し、対物レンズ42AをCCDカメラ43の焦点位置の前後でZ軸(対物レンズ42Aの光軸方向)に沿って連続的に移動させる。同時に、制御装置5は、CCDカメラ43へ制御信号を出力し、焦点位置の異なる複数の顕微鏡画像を該CCDカメラ43に撮像させる。
【0042】
そして、制御装置5は、焦点位置の異なる複数の顕微鏡画像のコントラスト、明度など画像特性を比較評価し、鮮明な画像が得られた焦点位置を撮像単位F00〜F99それぞれの中心点PにおけるCCDカメラ43の焦点データとして取得し、撮像単位F00〜F99のフォーカスマップを作成する。
【0043】
撮像単位F00〜F99のフォーカスマップを作成した後、制御装置5は、ステージ用XY軸駆動機構38への制御信号を出力し、撮像単位F00〜F99それぞれが順次CCDカメラ43の撮像可能エリアに一致していくよう、スキャン送りステージ33を図8に示されたように移動させる(図8に示されたスキャン方向及びステップ送り方向にスキャン送りステージ33を順次移動させることで、撮像単位F00〜F99それぞれの直上に対物レンズ42Aが位置するように移動させる)。その間、制御装置5は、フォーカス用Z軸駆動機構44への制御信号を出力し、フォーカスマップに記憶されたCCDカメラ43の焦点位置に一致させるよう対物レンズ42AをZ軸方向に移動させ。そして、制御装置5は、所定の焦点位置でCCDカメラ43へ制御信号を出力し、撮像単位F00〜F99それぞれの局所顕微鏡画像を順次該CCDカメラ43に撮像させる。
【0044】
ここで、図9は、上述のフォーカスマップにデータとして記憶された撮像対象エリアFの任意一列のスキャン方向に沿って焦点位置を結んだグラフである。図中、2点鎖線で示す斜線は、上述のように例えば50μm/25mm(200μm/100mm)の傾斜を有する試料載置面33A(基準面)を示している。
【0045】
この図9に示されたように、任意一列のスキャン方向に沿ったCCDカメラ43の焦点位置は、プラス100μm〜マイナス100μmの間で階段状に順次減少している。これは、各撮像単位の中心PにCCDカメラ43の焦点を合わせるようにフォーカス用Z軸駆動機構44が対物レンズ42AをZ軸の光軸方向に微調整する方向がマイナス方向の一方のみに制限されることを示している。
【0046】
したがって、この実施例に係る顕微鏡画像撮像装置によれば、フォーカス用Z軸駆動機構44がステッピングモータにボールねじ機構を組み合わせた構造を有するにも拘わらず、フォーカス用Z軸駆動機構44にはロストモーションが発生しなくなる。その結果、対物レンズ42Aを介して撮像可能エリアと一致したサンプル試料の一部にCCDカメラ43の焦点を正確に合わせることができるようになる。
【0047】
一方、図10は、比較例として、水平な試料載置面上に一列に並んだ局所領域に対する撮像部の焦点位置を、図8に示されたスキャニング方向に沿って示すグラフである。この図10に示されたグラフでは、任意一列のスキャン方向に沿った各撮像単位の焦点位置は、プラス20μm〜マイナス20μmの間でノコギリ歯状に増減している。これは、各撮像単位の中心PにCCDカメラ43の焦点を合わせるようにフォーカス用Z軸駆動機構44が対物レンズ42AをZ軸方向(対物レンズ42Aの光軸方向)に微調整する方向がプラス方向からマイナス方向へ、また、マイナス方向からプラス方向へと変化することを示している。この場合、フォーカス用Z軸駆動機構44にロストモーションが発生し、その結果、対物レンズ42Aが捉えるサンプル試料の各部、具体的には各撮像単位の中心PにCCDカメラ43の焦点を正確に合わせることができなくなる。
【0048】
なお、この発明に係る顕微鏡画像撮像装置は、上述の実施例に限定されるものではない。例えば、図7に示されたフォーカス用Z軸駆動機構44は、スキャン送りステージ33を対物レンズ42Aの光軸方向に一致したZ軸方向に位置制御してもよい。また、スキャン送りステージ33に替え、XY軸駆動機構又はXYZ軸駆動系が光学系42及びCCDカメラ43に設けられてもよい。
【0049】
また、図7に示されたCCDカメラ43は、一次元画像の取り込み動作を行う一次元CCDカメラであってもよい。例えば、一般的なラインセンサやTDIセンサなどが適用されてもよい。すなわち、一次元CCDカメラなどの撮像部による顕微鏡画像の撮像動作は、以下のように行われる。なお、図11は、図7に示されたスライドガラス内のサンプル試料全体を含む撮像対象エリアが、それぞれ撮像部の撮像可能エリアよりも大きいサイズである複数の撮像単位に区分された第2例を示す模式図である。
【0050】
図11に示されたように、撮像対象エリアFは、複数のストリップ状撮像単位F1〜F9に区分されている。一次元CCDカメラの撮像可能エリアは、図11中の撮像単位F1内に斜線で示したX軸方向を長手方向とする領域である。試料が載置されたスキャン送りステージ43上において、撮像可能エリアがスキャン方向(Y軸の負の方向)に走査されることにより、順次結像され取得される該撮像可能エリアの複数の局所顕微鏡画像がY軸方向に並べられた撮像単位F1の画像(ストリップ形状を有する画像)が得られる。このように、この撮像単位F1のストリップ状画像が図11の第2例における一撮像単位となる。さらに、図11に示されたように、撮像単位F1で行われた撮像可能エリアのスキャニングが、撮像対象エリアFの長手方向(X軸の正の方向)に沿ってステップしながら複数回繰り返されることにより、撮像単位F1〜F9のストリップ状画像がそれぞれ得られる。このようにして得られた撮像単位F1〜F9のストリップ状画像をX軸方向に並べた状態で合成することで、試料の全体画像(撮像対象エリアF全体の顕微鏡画像)が生成される。
【0051】
また、上述の実施例では、対物レンズ42Aの光軸に直交するスキャン平面に対して傾斜した試料載置面33Aを有するスキャン送りステージ33が例示されているが、これに限定されるものではなく、例えば、市販のスキャン送りステージが、その試料載置面がスキャン平面に対して傾斜するように固定されてもよい。あるいは、傾斜角度を可変可能な傾斜ステージやチルトステージが適用されてもよい。傾斜角度が可変可能なステージが適用される場合には、試料載置面の傾斜が無い状態で載置された試料について作成されたフォーカスマップに基づいて、試料載置面のスキャン平面に対する傾斜角度が設定されるのが好ましい。
【0052】
また、フォーカスマップの作成に関し、図8では、撮像単位F00〜F99それぞれの中心点Pにおける焦点位置データが取得されたが、これに限定されるものではない。図12は、試料の撮像対象エリアF全体に対する焦点情報の取得方法の他の例を示す模式図である。この図12に示された焦点情報の取得方法では、撮像対象エリアFに対して3点の焦点計測位置PFが設定されている。そして、3点の焦点計測位置PFのそれぞれについて上述の方法で焦点計測が行われることで、合焦点位置が求められる。このとき、3点の焦点計測位置PFに基づいて求められた合焦点位置から、直線補完によって撮像対象エリアF内の任意の位置に対する合焦点位置が求められる。このような方法によっても、撮像対象エリアFの各部に対する合焦点位置などの焦点情報が効率的に取得され得る。また、撮像対象エリアF内において4点以上の焦点計測位置PFを設定し、最小二乗法によって撮像対象エリアF内の任意の位置に対する合焦点位置を求める場合、さらに精度良く焦点位置の制御が可能なる。
【0053】
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。そのような変形は、本発明の思想及び範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
この発明に係る顕微鏡画像撮像装置は、細胞分析などの検査装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…スライドガラス収納部(カセットホルダ)、2…スライドガラス搬送部、3…スライドガラス載置部、31…ベースステージ、32…ステップ送りステージ、33…スキャン送りステージ、33A…試料載置面、38…ステージ用XY軸駆動機構(第1駆動機構)、4…スライドガラス撮像部、41…スキャン光源、42…光学系、43…CCDカメラ(撮像部)、44…フォーカス用Z軸駆動機構(第2駆動機構)、45…制御装置、SG…スライドガラス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が載置可能な試料載置面を有する試料載置ステージと、
前記試料載置面に対面するよう配置され、前記試料載置面上の撮像対象エリア内の各部を順次撮像する撮像部と、
前記撮像部と前記試料載置面との間に配置された、前記撮像対象エリアのうち前記撮像部の撮像可能エリアの局所顕微鏡画像を前記撮像部に結像するための対物レンズと、
前記試料載置ステージ及び前記対物レンズの少なくともいずれかを前記対物レンズの光軸に直交するスキャン平面に沿って移動させることにより、前記試料載置ステージ及び前記対物レンズの相対位置を調節する第1駆動機構と、
前記試料載置ステージ及び前記対物レンズの少なくともいずれかを前記対物レンズの光軸方向に沿って移動させることにより、前記試料載置ステージ及び前記対物レンズの相対位置を調節する第2駆動機構と、そして、
前記第1及び第2駆動機構を制御することで、前記撮像対象エリアにおける前記撮像部の焦点位置を調節しながら前記撮像部の撮像可能エリアを所定のスキャン方向に沿って相対的に移動させる制御部と、を備え、
前記試料載置ステージの試料載置面は、前記スキャン平面に対して傾いていることを特徴とする顕微鏡画像撮像装置。
【請求項2】
請求項1記載の顕微鏡画像撮像装置において、
前記制御部は、前記撮像対象エリア内において前記撮像部の撮像可能エリアが前記所定のスキャン方向に相対的に移動している間、前記撮像部の焦点位置が前記対物レンズの光軸方向に沿って一方向のみに単調に調節されるよう、前記第1駆動機構を制御する。
【請求項3】
請求項1記載の顕微鏡画像撮像装置において、
前記試料載置ステージの試料載置面は、前記対物レンズの光軸と交差する該試料載置面上の直線が前記スキャン平面と所定角度で交差する程度の傾きを有する。
【請求項4】
請求項1記載の顕微鏡画像撮像装置において、
前記試料載置ステージの試料載置面は、前記所定のスキャン方向に沿って1〜2μm/mmの傾斜を有する。
【請求項5】
請求項1記載の顕微鏡画像撮像装置において、
前記試料載置ステージの前記試料載置面は、前記試料載置面上に試料が載置されたとき、該試料の前記対物レンズを介して前記撮像部に対面する面を前記スキャン平面に対して傾斜させる程度の傾きを有する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−42970(P2012−42970A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217896(P2011−217896)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【分割の表示】特願2007−508232(P2007−508232)の分割
【原出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】