説明

顕微鏡観察用切片の再包埋方法および再包埋治具

【課題】厚切り切片を再び樹脂に包埋してから再びスライスして薄切切片とし、これを電子顕微鏡によって観察する方法で、効率の向上を図り、短時間で生物の細胞の観察ができる顕微鏡観察用切片の再包埋方法を提供する。
【解決手段】生物の細胞13を樹脂に包埋した樹脂包埋試料11を厚くスライスして厚切り切片14を作製する第1の工程と、厚切り切片14をスライドガラス15に載置して乾燥する第2の工程と、樹脂16を収容したカプセル17を用意し、スライドガラス15を裏返して厚切り切片14を樹脂16が収容されたカプセル17の上部に位置合わせする第3の工程と、カプセル17内の樹脂16が硬化するまで加熱・待機し、厚切り切片14を樹脂16に再包埋させる第4の工程と、スライドガラス15から樹脂とともにカプセル17を剥離し、厚切り切片14が再包埋された試料ブロックを電子顕微鏡観察可能にスライスして薄切りする第5の工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物の内部組織を顕微鏡を用いて分子レベルで観察するための顕微鏡観察用切片の再包埋方法および再包埋治具に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の内部構造を分子レベルで観察するには電子顕微鏡が用いられている。生物は単細胞、多細胞と各種あるが、電子顕微鏡は内部が真空であるため、生物を生かせたまま観察することは殆んど不可能であり、細胞の生命現象を停止させてから観察している。
【0003】
生物の生命現象を停止させるには、物理的あるいは化学的な方法がある。一般的には化学的にホルマリンなどのアルデヒドを用いて生命現象をより早く停止させる方法が用いられているが、これを固定と呼んでいる。アルデヒドで固定された細胞は軽元素の炭素・水素・酸素などからなり、アルデヒド固定のみでの電子顕微鏡観察は不十分なので、前記細胞構成成分にさらに重金属を付加させている。
【0004】
前述の処理後の細胞を電子顕微鏡で観察しても、生物の内部構造を分子レベルで観察は不可能で、細胞の大きさを1/100mmとすれば、この細胞を100枚にスライスして初めて分子レベルの観察が可能となる。細胞1個を100枚にスライスするには、樹脂に埋め込み包埋する必要がある。そのために、前述のように固定してからアルコールで水分を取り除いて樹脂に埋め込む。
【0005】
従来、図4に示すように、樹脂包埋試料aに埋め込まれた細胞bを観察する際、樹脂包埋試料aの先端部側cから100枚に薄切片d…にスライスする。次に、薄切片d…の全てを見る連続切片観察の方法が主流である。
【0006】
また、樹脂包埋した厚い切片の再包埋方法としては、包埋用カプセルに樹脂を満たしラベルを入れ、スライド上の切片の上に逆に立てる方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】 平成2年3月30日に丸善株式会社から発行された書籍「透過電子顕微鏡生物試料作製ハンドブック」の第99頁〜第100頁。
【0007】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、樹脂包埋試料aに埋め込まれた細胞bが一部であるにも拘らず、樹脂包埋試料aを100枚に薄切片d…にスライスするには、極めて効率が悪く、連続切片観察に多くの時間を費やしているのが実情である。
【0009】
非特許文献1は、樹脂包埋した厚い切片の再包埋方法であり、厚切り切片を再包埋して再びスライスして薄切切片を作製する技術については記載されていない。
【0010】
本発明は、前記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、目的観察部位が樹脂包埋試料の一部にしかない場合には、樹脂包埋試料を厚くスライスして厚切り切片を作り、この厚切り切片を光学顕微鏡で目的観察部位を探し、目的観察部位が入っている1枚の厚切り切片を再び樹脂に包埋してから再びスライスして薄切切片とし、これを電子顕微鏡によって観察する方法で、効率の向上を図り、短時間で生物の細胞の観察ができる顕微鏡観察用切片の再包埋方法と再包埋治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、請求項1は、生物の細胞を樹脂に包埋した樹脂包埋試料を厚くスライスして厚切り切片を作製する第1の工程と、前記厚切り切片をスライドガラスに載置して乾燥する第2の工程と、樹脂を収容したカプセルを用意し、前記スライドガラスを裏返して前記厚切り切片を樹脂が収容されたカプセルの上部に位置合わせする第3の工程と、前記カプセル内の樹脂が硬化するまで加熱・待機し、厚切り切片を樹脂に再包埋させる第4の工程と、前記スライドガラスから樹脂とともにカプセルを剥離し、厚切り切片が再包埋された試料ブロックを電子顕微鏡観察可能にスライスして薄切りする第5の工程とからなる顕微鏡観察用切片の再包埋方法にある。
【0012】
請求項2は、前記厚切り切片は、厚さが、2/1000mm〜5/1000mmであり、前記薄切り切片は、厚さが、約1/10000mmであることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡観察用切片の再包埋方法にある。
【0013】
請求項3は、生物の細胞を樹脂に包埋した樹脂包埋試料を厚くスライスした厚切り切片を載置するスライドガラスと、樹脂を収容するカプセルと、前記カプセルを載置する載置面を有する基台およびこの基台上に設けられ、前記スライドガラスを裏返して前記厚切り切片を前記カプセル内の樹脂に位置合わせ可能な一対のガイド片を有し、前記厚切り切片を前記樹脂に再包埋させる再包埋治具本体とを具備したことを特徴とする顕微鏡観察用切片の再包埋治具にある。
【0014】
請求項4は、前記カプセルは、ゼラチンカプセル等であり、底部に貫通穴を有するカプセルホルダーに収納されていることを特徴とする請求項3に記載の顕微鏡観察用切片の再包埋治具にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生物の細胞を観察する際、その前処理が簡単で作業効率の向上を図ることができ、短時間で生物の細胞の観察ができ、また、治具によって熟練度を要することなく簡単に作業できる顕微鏡観察用切片の再包埋方法と再包埋治具を提供できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図3は顕微鏡観察用切片の再包埋方法と再包埋治具の第1の実施形態を示し、図1は樹脂包埋試料の側面図、図2は再包埋治具と工程を示す図、図3は再包埋治具と工程を示す図である。
【0017】
図1に示すように、樹脂包埋試料11はトリミングされた四角柱部12を有し、四角柱部12の内部には複数の細胞13が包埋されている。この細胞13はアルデヒドで固定された細胞に重金属を付加させて電子顕微鏡観察に可能にしたものである。樹脂包埋試料11を公知のウルトラミクロトーム装置にセットし、四角柱部12を例えば、2μ〜5μ(2/1000mm〜5/1000mm)にスライスして厚切りすると、目的観察部位としての細胞13が入った厚切り切片14…が得られる。
【0018】
次に、図2(a)に示すように、前記厚切り切片14をナイフボート水面よりスライドガラス15の上面15aに載置して乾燥する。同図(b)はエポキシ樹脂等の熱硬化性の樹脂16を8分収容したゼラチンカプセル17であり、このゼラチンカプセル17を例えばアルミニウム製のカプセルホルダー18に収納する。カプセルホルダー18は円筒状で、底部18aを有しており、底部18aの中央部には貫通穴18bが穿設されている。
【0019】
同図(c)は再包埋治具本体19であり、再包埋治具本体19は円板状の例えばステンレス製の基台20を有し、この基台20の上面には一対の例えばステンレス製のガイド片21が互いに対向して垂直方向に立設されている。一対のガイド片21の間隔gは前記スライドガラス15の幅Wに略等しく、上端部にはスライドガラス15を案内する傾斜したガイド面21aが設けられている。さらに、一対のガイド片21の間で、基台20の上面にはカプセルホルダー18の載置面20aが設けられている。
【0020】
そこで、図3(a)に示すように、基台20の載置面20aにゼラチンカプセル17を収納したカプセルホルダー18を載置し、スライドガラス15を裏返しして、つまりスライドガラス15の上面15aの厚切り切片14を下向きにして、スライドガラス15を水平状態のまま一対にガイド片21の間に挿入する。そして、厚切り切片14がゼラチンカプセル17の上部に位置するようにスライドガラス15を移動して位置合わせする。
【0021】
次に、同図(b)に示すように、再包埋治具本体19を反転してスライドガラス15を基台20の載置面20aから外してテーブル等に載置すると、ゼラチンカプセル17もカプセルホルダー18とともに反転する。同図(c)に示すように、スライドガラス15上で、ゼラチンカプセル17もカプセルホルダー18とともに反転し、この状態で加熱して樹脂16が硬化するまで待機すると、厚切り切片14が樹脂16に包埋された状態で硬化する。
【0022】
さらに、スライドガラス15と樹脂16との接着部に熱と力を加えると、ゼラチンカプセル17はスライドガラス15から剥離される。また、カプセルホルダー18の底部18aの貫通穴18bからピン等を差し込むと、カプセルホルダー18とゼラチンカプセル17とが簡単に分離され、ゼラチンカプセル17の上面に厚切り切片14が重合した状態(再包埋)となる。次に、厚切り切片14が再包埋された試料ブロックをウルトラミクロトーム装置にセットし、例えば、0.1μ(1/10000mm)にスライスして薄切りして、電子顕微鏡で観察する。
【0023】
このように、厚切り切片14をゼラチンカプセル17に重合して再包埋することにより、観察目的する細胞を電子顕微鏡で観察する前処理作業が簡単で、作業能率の向上が図れる。しかも、再包埋用治具を用いることにより、熟練度が要求されないという効果がある。
【0024】
なお、本発明は、前記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態を示し、樹脂包埋試料の側面図。
【図2】同実施形態を示し、(a)〜(c)は再包埋治具と工程を示す図。
【図3】同実施形態を示し、(a)〜(c)は再包埋治具と工程を示す図。
【図4】従来の樹脂包埋試料を先端部側から薄切片にスライスする状態を示す側面図。
【符号の説明】
11…樹脂包埋試料、13…細胞、14…厚切り切片、15…スライドガラス、16…樹脂、17…ゼラチンカプセル、18…カプセルホルダー、19…再包埋治具本体、20…基台、21…ガイド片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物の細胞を樹脂に包埋した樹脂包埋試料を厚くスライスして厚切り切片を作製する第1の工程と、
前記厚切り切片をスライドガラスに載置して乾燥する第2の工程と、
樹脂を収容したカプセルを用意し、前記スライドガラスを裏返して前記厚切り切片を樹脂が収容されたカプセルの上部に位置合わせする第3の工程と、
前記カプセル内の樹脂が硬化するまで加熱・待機し、厚切り切片を樹脂に再包埋させる第4の工程と、
前記スライドガラスから樹脂とともにカプセルを剥離し、厚切り切片が再包埋された試料ブロックを電子顕微鏡観察可能にスライスして薄切りする第5の工程と、
からなる顕微鏡観察用切片の再包埋方法。
【請求項2】
前記厚切り切片は、厚さが、2/1000mm〜5/1000mmであり、前記薄切り切片は、厚さが、約1/10000mmであることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡観察用切片の再包埋方法。
【請求項3】
生物の細胞を樹脂に包埋した樹脂包埋試料を厚くスライスした厚切り切片を載置するスライドガラスと、
樹脂を収容するカプセルと、
前記カプセルを載置する載置面を有する基台およびこの基台上に設けられ、前記スライドガラスを裏返して前記厚切り切片を前記カプセル内の樹脂に位置合わせ可能な一対のガイド片を有し、前記厚切り切片を前記樹脂に再包埋させる再包埋治具本体と、
を具備したことを特徴とする顕微鏡観察用切片の再包埋治具。
【請求項4】
前記カプセルは、ゼラチンカプセル等であり、底部に貫通穴を有するカプセルホルダーに収納されていることを特徴とする請求項3に記載の顕微鏡観察用切片の再包埋治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−300408(P2009−300408A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177347(P2008−177347)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(594084837)有限会社マイクロスター (1)
【Fターム(参考)】