説明

風味・食感を向上させたじゃがバターの製造方法

【課題】本発明は、食中毒菌を除去できる条件を満たした加熱調理を行った際、煮崩れを生じさせること無く、尚且つ従来のじゃがバターよりも風味・食感の向上したじゃがバター、特に、馬鈴薯塊茎丸ごとを加熱加圧殺菌した際の煮崩れ防止を課題とする。
【解決手段】原料となる生鮮馬鈴薯を乾燥処理することによって、剥皮した馬鈴薯を加熱加圧殺菌しても煮崩れを生じず、従来のじゃがバターよりも風味・食感の向上した調理済みじゃがバターを製造できることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥皮した馬鈴薯を加熱加圧殺菌しても煮崩れを生じさせること無く、従来のじゃがバターよりも風味・食感の向上したじゃがバターとその製造方法に関する。詳しくは、生鮮馬鈴薯を乾燥する工程と、乾燥した馬鈴薯を剥皮する工程と、剥皮した馬鈴薯を、加熱加圧殺菌する工程を経ることを特徴とするじゃがバター及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食の多様化が進んでいる現代において、食品メーカーは消費者のニーズに合わせた商品開発を進める上で、多種多様な食品添加物を用いて商品の風味や食感の向上を図っている。
【0003】
しかし、昨今、食品の安全性について消費者の関心が高まっており、過剰な食品添加物の使用が忌避されている傾向にある。食品添加物を使用しない方法として、古来より食品の保存性向上や風味の変質・改良を実現するための様々な処理が行われている。
【0004】
例えば、一般的に多食される馬鈴薯を素材とした加工食品に関するもので、水分含量を調整したポテト素材を使用することによってポテト本来の好ましい食感を持ったポテトグラタンやポテトコロッケなどのポテト食品の製造法(特許文献1)が報告されている。馬鈴薯加工食品の中でも、生鮮馬鈴薯を皮付きのまま、バター、食塩とともに耐熱性のある包装資材に収容し加熱調理を施すことで手軽にじゃがバターを食せる調理済みじゃがバターが市販されている。しかし、当該じゃがバターは市場に多く流通しているにもかかわらず、その風味・食感の向上を目的とした充分な検討がなされていない。
【0005】
市販されているじゃがバター等の馬鈴薯加工食品は皮付きのまま密封して加熱調理を施してあり、皮が持つ特有の苦味や歯触りが消費者に忌避される傾向にある。そこで、最終製品の風味・食感を向上させるため、剥皮した馬鈴薯にて調理を行い、じゃがバターを提供する必要がある。
【0006】
しかし、最終製品の安全性を維持するためには工程の中で馬鈴薯を高温で加熱しなければならない。なぜならば、馬鈴薯のような根菜類には、その内部や表面に土壌由来の細菌類が存在しており、加工時に馬鈴薯の表面を洗浄したとしても全ての細菌類を完全に除去出来ない。さらに、土壌菌の中には食中毒菌であるボツリヌス菌のような嫌気性細菌も存在し、これらの除去のためには真空包装された食品は適切な殺菌処理を施されていなければならない。このボツリヌス菌の死滅には食品の中心温度が120℃の状態で4分間を要する。しかし、このような加熱条件を馬鈴薯に施すと煮崩れを生じさせてしまう。
【0007】
前述の特許文献1の方法は、馬鈴薯に割砕や成型などの加工処理を施したものを対象として好ましい食感を維持するために検討されたものであるが、じゃがバターの様に馬鈴薯の塊茎を丸ごと調理し、馬鈴薯本来の素材感を活かした加工食品を対象としての検討がなされたものではない。
【0008】
煮崩れを防止する方法としては、馬鈴薯を含む加工食品を対象として、ポテトをレトルト処理するに当たり、該ポテトに予めソーマチンを含浸させることを特徴とするポテトの処理方法(特許文献2)、加熱調理の前にアスコルビン酸や乳酸カルシウムや塩化カルシウムなどのカルシウム塩を添加した水溶液に10〜90分浸漬する方法(特許文献3)、剥皮したジャガイモを、0.2〜0.8%のマグネシウム塩水溶液で接液処理した後、1.0〜6.0%のマグネシウム塩水溶液中で加熱処理する方法(特許文献4)等が知られている。しかし、これらの方法は添加物を使用しているため、前述したように消費者に忌避されるという課題がある。加えて、馬鈴薯を丸ごと処理するためには、当該添加物が浸透するまでに時間を要する。
【0009】
添加物を使用せずに煮崩れを防止する方法としては、油ちょう加熱により部分的に水分を除去することにより、煮崩れを防止する方法(特許文献5)、湯煮した馬鈴薯を、具材、調味液などとパウチに充填し真空包装されている肉ジャガを冷凍初期、冷凍中期、冷凍後期での冷凍条件を経て凍結する方法(特許文献6)、製造工程の温度条件を設定し、冷凍・解凍による煮崩れ状態を防止する方法(特許文献7)等が知られている。これらの方法においても、じゃがバターを対象として検討が成されたものではないため、馬鈴薯の塊茎丸ごと処理するためには更なる検討を必要とする。例えば、特許文献5の方法では、高温の油で油ちょう加熱することによって、馬鈴薯塊茎の表面に褐変や焦げが生じてしまい馬鈴薯本来の色調が損なわれてしまう。さらに、油ちょう加熱によって、油から由来する独特の風味が馬鈴薯に付加されてしまうことで、じゃがバターに仕上げた際のバターの風味が覆い隠されてしまう。馬鈴薯をカットし、たれを加えることで色調を整えたり、より強い風味を加えたりすることが出来る肉じゃがのような加工食品では気にならないが、当該工程を元にじゃがバターを製造すると、じゃがバターの見た目・風味を著しく悪くすることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−332048
【特許文献2】特開平7ー147927
【特許文献3】特開平8−228712
【特許文献4】特開2007−089422
【特許文献5】特開平7−274889
【特許文献6】特開平10−057025
【特許文献7】特開2007−181422
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、食中毒菌を除去できる条件を満たした加熱加圧殺菌を行っても煮崩れを生じさせること無く、従来のじゃがバターよりも風味・食感の向上したじゃがバターを開発すること、特に、馬鈴薯塊茎丸ごとを加熱加圧殺菌した際の煮崩れ防止を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、原料となる生鮮馬鈴薯を乾燥処理することによって、剥皮した馬鈴薯を加熱加圧殺菌しても煮崩れを生じさせること無く、従来のじゃがバターよりも風味・食感の向上した調理済みじゃがバターを製造できることを見出して本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は馬鈴薯を剥皮し、加熱加圧殺菌する前段階として生鮮馬鈴薯を乾燥して製造したことを特徴とするじゃがバター及びその製造方法であり、以下詳述する。
【0014】
本発明は、
(1)生鮮馬鈴薯を乾燥する工程と、乾燥した馬鈴薯を剥皮する工程と、剥皮した馬鈴薯を加熱加圧殺菌する工程を経ることを特徴とするじゃがバターの製造方法、
(2)乾燥した馬鈴薯を剥皮する工程の後、耐熱性包装資材に収容し、その後加熱加圧殺菌することを特徴とする(1)記載のじゃがバターの製造方法、
(3) (1)又は(2)のいずれかで製造されたじゃがバター、
に関する。
【0015】
本発明での調理済みじゃがバターの製造方法は、例えば、次のようにして行われる。なお、本発明の対象であるじゃがバターとは、馬鈴薯の塊茎丸ごとをバターと共に調理した食品であり、馬鈴薯を主要な素材として、その他の食材、バター以外の調味料と共に調理したものも含む。
【0016】
まず、原料となる馬鈴薯を生のまま水洗し、異物、汚れを取り除く。次に、水洗後の馬鈴薯は、表面の水気をよく取り、熱風乾燥機等に投入する。乾燥によって馬鈴薯の重量が乾燥前より5%以上、全体の水分率で3%以上減少していることが望ましい。乾燥後にこの条件が果たされていなければ、乾燥による効果が十分に得られず、出来上がりの風味、食感を損なう原因となるので避けるべきである。本発明における乾燥とは、例えば熱風乾燥の他にマイクロ波加熱による乾燥や真空凍結乾燥、天日や天火による乾燥などの手段によっても行うことができる。
【0017】
そして、乾燥させた馬鈴薯の皮を剥く。その際、ソラニン等の有害物質が皮部の他に馬鈴薯の芽の部分にも多く含まれているため、剥皮と同時に、芽も全て取り除かなければならない。
【0018】
加えて、馬鈴薯の剥皮は、必ず乾燥処理後に行うこととする。剥皮した状態の馬鈴薯塊茎に乾燥処理を施すと、馬鈴薯表面が変色してじゃがバターに仕上げた際の見た目が著しく損なわれ、さらに、馬鈴薯表面が硬化し、食感も悪くなってしまう。
【0019】
剥皮後の馬鈴薯を食用油脂、調味料、馬鈴薯以外の食材とともに耐熱性を有する包装資材に収容し、減圧密封し、加熱加圧殺菌する。
本発明によってなる調理済みじゃがバターに用いる食用油脂、調味料としては、例えば、前述したバターや食塩があり、これによって簡易的なじゃがバターを製作することができる。尚、使用する食用油脂、調味料、馬鈴薯以外の食材は何か特定のものに限定する必要はない。
【0020】
包装資材としては、衛生上の問題が無く、加熱加圧殺菌時の加熱温度に耐性があり、減圧密封をするのでこれに耐えうるものであれば材質は問わない。しかし、本発明によってなる調理済みじゃがバターを食す際に、電子レンジでの加温を想定しているため、包装資材の素材にアルミニウムが含まれるものは避ける。
また、包装資材の中に収容する調味料等を工夫することで商品の幅を広げることが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のように、生鮮馬鈴薯を乾燥工程で処理することによって、剥皮した馬鈴薯を加熱加圧殺菌しても、煮崩れを生じさせること無く、馬鈴薯本来の風味・食感を維持することが可能となり、従来のじゃがバターよりも風味・食感の向上したじゃがバターを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の具体的な実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
(実施例)
馬鈴薯(キタアカリ)を室内温度95℃に設定した熱風乾燥機に投入して2時間乾燥させたものを用意し、乾燥後の馬鈴薯を冷却し、余熱を取り除いてから全ての皮を剥き、芽を取って、バター、食塩とともに耐熱性のある包装資材に収容し、減圧密封を施した後に、120℃-25分に設定したオートクレーブで加熱加圧殺菌を施してじゃがバターを得た。
【0024】
(比較例1)
市販されているレトルトタイプのじゃがバター(皮付き)を用意した。(市販品と表示)
【0025】
(比較例2)
本発明の工程の内、乾燥を実施せず、馬鈴薯を剥皮する工程と、加熱加圧殺菌する工程を経て製造したじゃがバターを用意した。
【0026】
(比較例3)
本発明の工程の内、馬鈴薯を剥皮する工程を、乾燥工程の前に行って製造したじゃがバターを用意した。
【0027】
(比較例4)
先行文献5と本発明の比較を行うために、本発明中の乾燥工程の代替として、油ちょう加熱処理を行い、製造したじゃがバターを用意した。油ちょう加熱に使用した油は市販の天ぷら油とゴマ油を用意し、油ちょう時の温度は、先行文献5に基づいて150℃-7分で実施し、じゃがバターを製造した。
【0028】
実施例、比較例で得られたじゃがバターの食味評価試験を実施した。
食味評価試験における評価者は20代女性5名であり、じゃがバターを食したときの外観、味、食感、香りおよび総合的なおいしさの評価を以下の表1〜5に示す5段階の評価点に基づいて評価させた。
【0029】
外観の評価
【表1】

【0030】
味の評価
【表2】

【0031】
食感の評価
【表3】

【0032】
香りの評価
【表4】

【0033】
総合的なおいしさ
【表5】

【0034】
比較例1の市販されているじゃがバターは皮付きのものであり、実施例で製造されたものと比較した結果、皮があることで食べづらいと評価され、さらに、皮は苦味や酸味といった独特の風味を有し、被験者はこれを忌避する傾向にあった。
【0035】
【表6】

【0036】
比較例2の乾燥処理を実施せずに製造したじゃがバターは、部分的に煮崩れを生じており、実施例と比較して甘味や旨味の点で評価が劣り、さらに水っぽさややわらかさが強く、食感も好ましくないと評価された。
【0037】
【表7】

【0038】
比較例3の乾燥工程前に剥皮する工程を経て得られたじゃがバターは、乾燥工程中に馬鈴薯塊茎に変色が生じたため、色調が悪くなる(図1参照)。さらに馬鈴薯表面が硬化し、食感も悪いと評価された。
【0039】
【表8】

【0040】
比較例4の、乾燥工程の代替として油ちょう加熱を行って製造したじゃがバターは、食べた時の油っぽさが強く、使用した油の香りが付加されたため、バターの香りが薄まり、じゃがバター本来の風味が損なわれてしまうと評価された。さらに、高温で油ちょうを行ったことにより、馬鈴薯表面に褐変が見られ、色調が悪いと評価された(図2参照)。加えて、味、香り、総合的なおいしさの面でも、本発明によって得られたじゃがバターより劣るとの評価を得た。
【0041】
【表9】

本発明は、以上に説明した通り、調理済みじゃがバターにおいて、加熱調理を行った際に、煮崩れを生じさせること無く、且つ風味・食感の良好なじゃがバターを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】乾燥工程後に剥皮工程を実施した場合と乾燥工程前に剥皮工程を実施した場合がじゃがバターの外観に及ぼす影響を示す図。
【図2】油ちょう加熱がじゃがバターの外観に及ぼす影響を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生鮮馬鈴薯を乾燥する工程と、乾燥した馬鈴薯を剥皮する工程と、剥皮した馬鈴薯を、加熱加圧殺菌する工程を経ることを特徴とするじゃがバターの製造方法。
【請求項2】
乾燥した馬鈴薯を剥皮する工程の後、耐熱性包装資材に収容し、その後加熱加圧殺菌することを特徴とする請求項1記載のじゃがバターの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかで製造されたじゃがバター。

【図1】
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【図2】
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