説明

風疹ウイルスタンパク質の製造方法

【課題】診療の現場で迅速に診断を下し、感受性者に対しては検査後即ワクチンを接種するために、抗風疹ウイルス抗体の検出方法及び検出キットを提供することである。
【解決手段】
本発明者らは、無細胞タンパク質合成方法特にコムギ胚芽抽出物を利用した系で、抗原性を維持したE2タンパク質、E1タンパク質の部分配列であるF12タンパク質、F15タンパク質の大量製造に成功し、該タンパク質を用いて抗風疹ウイルス抗体の検出方法及び検出キット作製に成功し、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無細胞タンパク質合成系特にコムギ胚芽抽出物を利用する無細胞タンパク質合成系による風疹ウイルスタンパク質の製造方法及び該製造方法より得られる風疹ウイルスタンパク質並びに該タンパク質を用いた抗風疹ウイルス抗体検出方法及び検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内におけるタンパク質合成を試験管等の生体外で行う方法としては、例えばリボソームやその他のタンパク質合成に必要な成分を生物体から抽出し(以下、これを「無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物」と称することがある)、これらを用いた試験管内での無細胞タンパク質合成法の研究が盛んに行われている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
【0003】
無細胞タンパク質合成系は、翻訳反応の正確性や速度において生細胞に匹敵する性能を保持し、かつ目的とするタンパク質を複雑な精製工程を実施することなく得ることができる有用な方法である。そのため該合成系をより産業上に適用するため、合成効率の上昇のみならず、合成用コムギ胚芽抽出物含有液やレディメイド型コムギ胚芽抽出物含有液を安定的に高品質を保持して提供することが必要である。
【0004】
風疹は、女性が妊娠初期に風疹に感染すると胎児に先天性風疹症候群(Congential Rubella Syndrome : CRS)をもたらすことが知られている。CRS患者は、2000年から2003年までは全国で各1名の報告で推移していたが、2004年には10名の報告があった。
風疹ワクチン(弱毒性ワクチン)は1977年から女子中学生を対象に定期接種が始まったが、1995年からは1歳から7歳の小児が定期接種の対象となった。そのため、現在20歳前後の女性の風疹抗体保有率が低い谷間(53%)を形成しており、この年齢層の風疹患者とCRSの増加が懸念されている。
【0005】
1999年頃から風疹患者数は激減し、また、ワクチン接種率が年々低下してきており(2001年のワクチン対象中学生(経過措置分)の接種率は接種対象人口の36.8%)、感受性者の増加にともない、風疹の流行は今後の動向に注意する必要がある。
厚生労働科学研究費補助金分担研究において風疹対策の緊急提言(厚生労働科学研究費補助金分担研究「風疹流行にともなう母児感染の予防対策機築に関する研究」(班長:平原史樹・横浜市立大学大学院医学研究科教授)「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」(平成16年8月))が取りまとめられたのを受けて、厚生労働省は各都道府県衛生主管部に対して、「風疹対策の強化について」(平成16年9月9日付け健感発第0909001号)を通知し、風疹対策の強化を重ねて要請している。今回の対策の概要は、予防接種の奨励であるが、予防接種を受ける前には、風疹抗体価の測定が必要である。
【0006】
風疹抗体価の測定は、Hamagglutination inhibition (HI)試験又はEnzyme immunoasaay (EIA)により、検査室診断が行われている。このため、被験者は検査結果を知るために一週間程度後の再来院が必要となる。
【0007】
風疹ウイルス感染の血清学的診断方法には、血清中に存在する風疹ウイルスに対する抗体を検出する方法が一般的であり、例えばウイルス中和試験法、赤血球凝集抑制試験法が知られている。
また、現在日本国内で使用されている抗風疹ウイルス抗体検出キット{HI試験(デンカ生研社製)、EIA法(日本ビオメリュー社製、デンカ生研社製、デイドベーリング社製、日本バイオラッド社製)、イムノクロマト法(ニチレイ社製)}は、いずれも培養ウイルスを精製したものを抗原として使用している。
しかし、ウイルスの培養や精製には、大掛かりな実験施設が必要であり、規制も数多い。さらに、十分な施設をもってしても研究者にとってこれらの精製には危険性が皆無であるとはいえない。さらに、培養ウイルス自体の取り扱いが難しい。しかも、ウイルス粒子に占める外被タンパク質であるE1タンパク質の割合が低いので、E1タンパク質を血清中に存在する抗風疹ウイルス抗体を検出に使用するためには、大量の感染細胞から該タンパク質を分離、精製する必要がある。また、精製されたウイルス粒子が相互に凝集しやすいことも知られている。加えて、グリコシル部位は、しばしばイムノアッセイにおいて、非特異的な反応を示す点においても問題がある。
【0008】
また、特許文献6、7では、E1タンパク質をBaculovirus expression vector systemの昆虫細胞で発現させている(特許文献6、7)。しかし、昆虫細胞での発現では、操作が繁雑であり、また発現するE1タンパク質合成量の割りにはコストが高い。
【特許文献1】特開平6−98790号公報
【特許文献2】特開平6−225783号公報
【特許文献3】特開平7−194号公報
【特許文献4】特開平9−291号公報
【特許文献5】特開平7−147992号公報
【特許文献6】特開平10−99082号公報
【特許文献7】特開平11−125636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みて、診療の現場で迅速に診断を下し、感受性者に対しては検査後即ワクチンを接種するために、培養ウイルス由来ではなく、無細胞タンパク質合成系特にコムギ胚芽抽出物を利用した無細胞タンパク質合成系により、安全かつ大量合成可能なE1タンパク質、E2タンパク質、E1タンパク質の部分配列であるF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質の製造方法並びに該タンパク質を用いた抗風疹ウイルス抗体の検出方法及び検出キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、無細胞タンパク質合成方法系特にコムギ胚芽抽出物を利用した無細胞タンパク質合成系で、風疹ウイルスの外被タンパク質である抗原性を維持したE1タンパク質、E2タンパク質、E1タンパク質の部分配列であるF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質の大量製造に成功し、該タンパク質を用いて抗風疹ウイルス抗体の検出方法及び検出キット作製に成功し、本発明を完成した。
【0011】
つまり本発明は以下よりなる。
「1.無細胞タンパク質合成方法を使用する風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持した以下のいずれか1のタンパク質の製造方法。
(1)配列番号4のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(2)配列番号5のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(3)配列番号6のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(4)配列番号8のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(5)上記(1)−(4)のいずれか1のタンパク質のアミノ酸配列において、置換 、欠失 、挿入 、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異 を含むアミノ酸配列を有するタンパク質
2.コムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法である前項1に記載の製造方法。
3.コムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法を使用する風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持した以下のいずれか1のタンパク質の製造方法。
(1)配列番号7のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(2)上記(1)のタンパク質のアミノ酸配列において、置換 、欠失 、挿入 、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異 を含むアミノ酸配列を有するタンパク質
4.胚乳及び低分子合成阻害物質が実質的に除去されたコムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法である前項1〜3のいずれか1に記載の製造方法。
5.無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号4に記載のアミノ酸配列の7〜438個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
6.無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号5に記載のアミノ酸配列の7〜118個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
7.無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号6に記載のアミノ酸配列の7〜70個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
8.無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号8に記載のアミノ酸配列の7〜216個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
9.コムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法である前項5−8のいずれか1に記載のタンパク質。
10.前項1−4のいずれか1に記載のタンパク質の製造方法で得られるタンパク質又は前項5−9のいずれか1に記載のタンパク質を認識する抗風疹ウイルス抗体。
11.前項1−4のいずれか1に記載のタンパク質の製造方法で得られるタンパク質又は前項5−9のいずれか1に記載のタンパク質を用いる抗風疹ウイルス抗体の検出方法。
12.前項1−4のいずれか1に記載のタンパク質の製造方法で得られるタンパク質又は前項5−9のいずれか1に記載のタンパク質を含む抗風疹ウイルス抗体検出試薬。
13.前項12に記載の抗風疹ウイルス抗体検出試薬を含む抗風疹ウイルス抗体検出キット。」
【発明の効果】
【0012】
本発明の無細胞タンパク質合成方法特にコムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法を使用する風疹ウイルス(Rubella virus)タンパク質の製造方法は、抗原性を維持したE2タンパク質、F6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質の大量合成を初めて可能にしたものである。さらに、E1タンパク質の部分配列であるF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質が、E1タンパク質と同様に抗風疹抗体を検出できる。
以上により、本発明では、上記タンパク質より得られる抗風疹ウイルス抗体並びに該タンパク質を用いて迅速・簡便な抗風疹ウイルス抗体の検出方法及び検出キットを提供した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有液の調製
本発明に用いられるコムギ胚芽抽出物含有液は、好適には市販のPROTEIOSTM(TOYOBO社製)が利用できる。
コムギ胚芽抽出物含有液の調製法における、コムギ胚芽の単離方法として、例えばJohnston,F.B.et al.,Nature,179,160-161(1957)に記載の方法等が用いられ、また単離した胚芽からのコムギ胚芽抽出物含有液の抽出方法としては、例えば、Erickson,A.H.etal.,(1996)Meth.In Enzymol., 96,38-50等に記載の方法を用いることができる。その他、国際特許出願WO 03/064671号公報に記載の方法が例示される。
【0014】
本発明で好適に利用されるコムギ胚芽抽出物は、原料細胞自身が含有する又は保持するタンパク質合成機能を抑制する物質(トリチン、チオニン、リボヌクレアーゼ等の、mRNA、tRNA、翻訳タンパク質因子やリボソーム等に作用してその機能を抑制する物質)を含む胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されている。ここで、胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されているとは、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳部分を取り除いた胚芽抽出物のことであり、また、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%以下、好ましくは1%以下になっていることをいう。
【0015】
(2)コムギ胚芽抽出物含有液からの潮解性物質の低減化
上記コムギ胚芽抽出物含有液は、抽出溶媒、あるいは抽出した後に行うゲルろ過に用いる緩衝液などが酢酸カリウム、酢酸マグネシウムなどの潮解性物質を含んでいる。このため、該コムギ胚芽抽出物含有液を使い翻訳反応溶液を調製し、そのまま乾燥製剤とした場合、凍結乾燥工程において溶解等が起こり、その結果該製剤の品質の低下が見られるという問題がある。品質の低下とは、該製剤に水を添加した際、製剤が完全に溶解せず、これを用いたタンパク質合成反応における合成活性も低下するものである。そこで、該コムギ胚芽抽出物含有液に含まれる潮解性物質の濃度を凍結乾燥した後に製剤の品質に影響を及ぼさない程度に低減する。潮解性物質の具体的な低減方法としては、例えば、予め潮解性物質を低減、または含まない溶液で平衡化しておいたゲル担体を用いたゲルろ過法、あるいは透析法等が挙げられる。このような方法により最終的に調製される翻訳反応溶液中の潮解性物質の終濃度として60mM以下となるまで低減する。具体的には、最終的に調製される翻訳反応溶液中に含まれる酢酸カリウムの濃度を60mM以下、好ましくは50mM以下に低減する。そして、さらに凍結乾燥処理された製剤における、潮解性を示す物質(潮解性物質)は、凍結乾燥状態での保存安定性を低下させない含有量は、当該凍結乾燥製剤中に含有されるタンパク質1重量部に対して、0.01重量部以下が好ましく、特に0.005重量部以下が好ましい。
【0016】
(3)夾雑微生物の除去
コムギ胚芽抽出物含有液には、微生物、特に糸状菌(カビ)などの胞子が混入していることがあり、これら微生物を除去しておくことが好ましい。特に長期(1日以上)の無細胞タンパク質合成反応中に微生物の繁殖が見られることがあるので、これを阻止することは重要である。微生物の除去手段は特に限定されないが、ろ過滅菌フィルターを用いるのが好ましい。フィルターのポアサイズとしては、混入する可能性のある微生物が除去可能なサイズであれば特に限定されないが、通常0.1〜1マイクロメーター、好ましくは0.2〜0.5マイクロメーターが適当である。
【0017】
(4)コムギ胚芽抽出物含有液から低分子合成阻害物質の除去方法
以上のような操作に加えて、コムギ胚芽抽出物含有液の調製工程の何れかの段階において低分子合成阻害物質の除去工程を加えることにより、より好ましい効果を有するE1タンパク質、E2タンパク質、F6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質の無細胞タンパク質合成を行うためのコムギ胚芽抽出物含有液とすることができる。
胚乳成分が実質的に除去され調製されたコムギ胚芽抽出物含有液は、タンパク質合成阻害活性を有する低分子の合成阻害物質(以下、これを「低分子合成阻害物質」と称することがある)を含んでおり、これらを取り除くことにより、タンパク質合成活性の高いコムギ胚芽抽出物含有液を取得することができる。具体的には、コムギ胚芽抽出物含有液の構成成分から、低分子合成阻害物質を分子量の違いにより分画除去する。低分子合成阻害物質は、コムギ胚芽抽出物含有液中に含まれるタンパク質合成に必要な因子のうち最も小さいもの以下の分子量を有する分子として分画することができる。具体的には、分子量50,000〜14,000以下、好ましくは14,000以下のものとして分画、除去し得る。低分子合成阻害物質のコムギ胚芽抽出物含有液からの除去方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法が用いられるが、具体的には、透析膜を介した透析による方法、ゲルろ過法、あるいは限外ろ過法等が挙げられる。このうち、透析による方法が、透析内液に対しての物質の供給のし易さ等の点において好ましい。
【0018】
低分子合成阻害物質の除去を行う際、コムギ胚芽抽出物含有液に不溶性成分が生成される場合には、この生成を阻害する(以下、これを「コムギ胚芽抽出物含有液の安定化」と称することがある)ことにより、最終的に得られるコムギ胚芽抽出物含有液あるいは翻訳反応溶液のタンパク質合成活性を高めることができる。コムギ胚芽抽出物含有液あるいは翻訳反応溶液の安定化の具体的な方法としては、上述した低分子合成阻害物質の除去を行う際に、コムギ胚芽抽出物含有液あるいは翻訳反応溶液を、少なくとも高エネルギーリン酸化合物、例えばATPまたはGTP等(以下、これを「安定化成分」と称することがある)を含む溶液として行う方法が挙げられる。高エネルギーリン酸化合物としては、ATPが好ましく用いられる。また、好ましくは、ATPとGTP、さらに好ましくはATP、GTP、及び20種類のアミノ酸を含む溶液中で行う。
【0019】
(5)コムギ胚芽抽出物含有液の還元剤濃度の低減方法
コムギ胚芽抽出物含有液に含まれる還元剤の濃度を低減させて無細胞タンパク質合成を行うことによれば、E1タンパク質の分子内に存在するジスルフィド結合が形成された状態でタンパク質を取得することができる。コムギ胚芽抽出物含有液中の還元剤の低減方法としては、コムギ胚芽抽出物含有液を調製するに至る工程の何れかにおいて還元剤低減工程を行う方法が用いられる。還元剤は、最終的に調製されるコムギ胚芽抽出物含有液中の濃度として、該コムギ胚芽抽出物含有液を用いた翻訳反応においてE1タンパク質が合成され得て、かつ分子内ジスルフィド結合が形成、保持され得る濃度に低減される。具体的な還元剤の濃度としては、ジチオスレイトール(以下、これを「DTT」と称することがある)の場合、コムギ胚芽抽出物含有液から調製された最終的な翻訳反応溶液中の終濃度が、20〜70μM、好ましくは30〜50μMに低減される。また、2−メルカプトエタノールの場合には、翻訳反応溶液中の最終濃度が、0.1〜0.2mMに低減される。さらに、グルタチオン/酸化型グルタチオンの場合には、翻訳反応溶液中の最終の濃度が30〜50μM/1〜5μMとなるように低減される。上述した具体的な還元剤の濃度は、これら限定されるものではなく、合成しようとするタンパク質、あるいは用いる無細胞タンパク質合成系の種類により適宜変更することができる。
【0020】
(6)翻訳反応溶液の調製
以上のように調製されたコムギ胚芽抽出物含有液は、これにタンパク質合成に必要な核酸分解酵素阻害剤、各種イオン、基質、エネルギー源等(以下、これらを「翻訳反応溶液添加物」と称することがある)および翻訳鋳型となるE1タンパク質、E2タンパク質、F6タンパク質、F12タンパク質、又はF15タンパク質をコードするmRNA及び所望によりイノシトール、トレハロース、マンニトールおよびスクロースーエピクロロヒドリン共重合体からなる群から選択される成分を含有する安定化剤を添加して翻訳反応溶液を調製する。各成分の添加濃度は、自体公知の配合比で達成可能である。
【0021】
翻訳反応溶液添加物として、具体的には、基質となるアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、3',5'−cAMP、葉酸塩、抗菌剤等が挙げられる。また、それぞれ濃度は、ATPとしては100μM〜0.5mM、GTPは25μM〜1mM、20種類のアミノ酸としてはそれぞれ25μM〜5mM含まれるように添加することが好ましい。これらは、翻訳反応系に応じて適宜選択して組み合わせて用いることができる。具体的には、コムギ胚芽抽出物含有液としてコムギ胚芽抽出液を用いた場合には、20mMHEPES-KOH(pH7.6)、100mM酢酸カリウム、2.65mM酢酸マグネシウム、0.380mMスペルミジン(ナカライ・テスク社製)、各0.3mML型アミノ酸20種類、4mMジチオスレイトール、1.2mMATP(和光純薬社製)、0.25mMGTP(和光純薬社製)、16mMクレアチンリン酸(和光純薬社製)、1000U/mlRNaseinhibiter(TAKARA社製)、400μg/mlクレアチンキナーゼ(Roche社製)を加え、十分溶解した後に、E1タンパク質、E2タンパク質、F6タンパク質、F12タンパク質、又はF15タンパク質をコードするmRNAを担持する翻訳鋳型mRNAを入れたもの等が例示される。
【0022】
ここで、目的タンパク質をコードするmRNAは、無細胞タンパク質合成系特にコムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成系において合成され得るE1タンパク質、E2タンパク質、F6タンパク質、F12タンパク質、又はF15タンパク質をコードするものが、適当なRNAポリメラーゼが認識する配列と、さらに翻訳を活性化する機能を有する配列の下流に連結された構造を有している。RNAポリメラーゼが認識する配列とは、T3またはT7RNAポリメラーゼプロモーター等が挙げられる。また、無細胞タンパク質合成系において翻訳活性を高める配列としてΩ配列又はSp6等をコーディング配列の5'上流側に連結させた構造を有するものが好ましく用いられる。
なお、本発明の好ましい翻訳鋳型となるmRNAは、融合タンパク質をコードする遺伝子DNA(Chiu, W. –L.,et al., Curr. Biol. 6, 325-330 (1996))が挿入されたpEU-ベクター(Sawasaki, T. et al.,PNAS, 99 (23), 14652-7(2002))を基に、Ω配列部分をWO03/056009号公報に記載の配列番号136の塩基配列に置き換えた環状プラスミドDNAを鋳型として、SP6 RNApolymerase(Promega社製)を用いて転写を行うこともできる。
【0023】
(7)風疹ウイルス
風疹ウイルスは、トルガウイルス科ルビウイルス属に属し、被膜をもつ直径50-60nmの球状RNAウイルスである。飛沫感染により小児に軽症な発疹性熱性疾患(風疹)を起こすが、妊娠3ヵ月以内の妊婦が感染すると胎児にも感染を起こし、先天性風疹症候群の子供を出産する危険性が高い。
風疹ウイルス(Rubella virus : RV)ゲノムは、9762塩基からなる一本鎖RNAである。構造タンパク質では、Capsid Protein (C)、Envelope Glycoprotein 1(E1)、Envelope Glycoprotein 2 (E2)の3種類が3'側の3189塩基にエンコードされている(Rubella virus replication and likes to teratogenecity. Clinical Microbiology Reviews. 13 : 571-587 (2000))。E1タンパク質は膜貫通部分を含めた481アミノ酸配列である。
また、E1は、E2やCよりも主要な抗原であることが知られており(Cellular and humoral immune responses to rubella virus structural protein E1,E2,C. Journal of Clinical Microbiology, 30:2323-2329(1992)、Mapping T-cell epitopes of rubella virus structural preotein E1, E2, C recognized by T-cell lines and clones derived from infected and immunized populations. Journal of Medical Virology, 40:175-183)、ウイルス中和(virus neutralizing : VN)やHAに関するエピトープは主にE1が担っている(Localization of the virus neutralizing and hemagglutinin epitopes of E1 glycoprotein of rubella virus. Virology. 189:483-492(1992)、A synthetic peptide ELISA for the screening of rubella virus neutralizing antibodies in order to ascertain immunity. Journal of Immunological Methods, 287:-11(2004)、Rubella virus antigens : localization of epitopes involved in hemagglutination and neutralization by using monoclonal antibodies. Journal of Virology, 57:893-898(1986)、Characterization of rubella-specific antibody response by using a new synthetic peptide based enzyme linked immunosorbent assay. Journal of Clinical Microbiology, 30:1841-1847(1992)、Monoclonal antibody-defined epitope map of expressed rubella virus protein domains. Journal of Virology, 65:3986-3994(1991))。また、E1タンパク質は、E1の2次構造(481aa)でS-S結合が10箇所で予測されている(Analyses of disulfides present in the rubella virus E1 glycoprotein. Virology, 230 :179-186)。
加えて、CHO(Chinese Hamster Ovary)培養細胞で発現させたE1タンパク質は、弱毒生ワクチンを接種できない免疫異常者へのワクチン候補として研究されている(A recombinant rubella virus E1 glycoprotein as a rubella vaccine candidate. Vaccine. 9 :480-488(2004))。また、E1の抗原性は、そのグリコシル化に依存しない(Ho-TerryおよびCohen、1984,Arch.Virol.79,139-146)。
以上のことから、風疹ウイルスの外被タンパク質であるE1タンパク質の部分配列を標的として、さらに、新規にE2を標的として、抗風疹ウイルス抗体の検出方法及び検出キット作製を行った。
【0024】
(8)無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出液を用いたタンパク質の合成方法
上記で調製された無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出液は、前記で低減した潮解性物質および水をタンパク質合成反応に適した濃度になるように添加した溶解液で溶解し、それぞれ選択されたそれ自体既知のシステム、または装置に投入してタンパク質合成を行うことができる。タンパク質合成のためのシステムまたは装置としては、バッチ法(Pratt,J.M.etal.,Transcription and Tranlation, Hames, 179-209,B.D.&Higgins,S.J.,eds,IRLPress,Oxford(1984))のように、本発明の無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出液を溶解した翻訳反応溶液を適当な温度に保って行う方法や、無細胞タンパク質合成系に必要なアミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成システム(Spirin,A.S.etal.,Science, 242,1162-1164(1988))、透析法(木川等、第21回日本分子生物学会、WID6)、あるいは無細胞タンパク質合成系に必要なアミノ酸、エネルギー源等を含む溶液を翻訳反応溶液上に重層する方法(重層法:Sawasaki,T., et al., FEBS LETTERS, 514, 102-105 (2002))等が挙げられる。
【0025】
ここで、還元剤濃度を低減した無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出液を用いた場合には、無細胞タンパク質合成系に必要なアミノ酸、エネルギー源等を供給する溶液についても同様の還元剤の濃度に調製する。さらに、翻訳反応をジスルフィド結合交換反応を触媒する酵素の存在下で行えば、分子内のジスルフィド結合が保持されたE1タンパク質を高効率で合成することができる。ジスルフィド結合交換反応を触媒する酵素としては、例えばタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ等が挙げられる。これらの酵素の上記無細胞翻訳系への添加量は、酵素の種類によって適宜選択することができる。具体的には、コムギ胚芽から抽出した無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有液であって、還元剤としてDTTを20〜70、好ましくは30〜50μM含有する翻訳反応溶液にタンパク質ジスルフィドイソメラーゼを添加する場合、翻訳反応溶液としての最終濃度で0.01〜10μMの範囲、好ましくは0.5μMとなるように添加する。また、添加の時期はジスルフィド結合が形成される効率から翻訳反応開始前に添加しておくことが好ましい。
【0026】
(9)風疹ウイルスの調製法
ウイルスを、自体公知のウイルス発現細胞(例えば、BHK-21細胞)で増殖する。その後、ウイルス感染細胞のCPE(cytopathic effect)を確認した後に、ウイルス感染細胞ごと凍結する。その後に、複数回の凍結融解を繰り返す。さらに、遠心分離により、細胞残渣を取り除いて、上清を培養ウイルス含有溶液とする。
【0027】
(10)F6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質、E2タンパク質の調製法
本発明者らが作製したF6タンパク質は、配列番号4で表される、メチオニンに続いてE1タンパク質の膜貫通部分を除く部分の1番目から437番目までのアミノ酸配列が結合したアミノ酸配列である。本発明者が作製したF12タンパク質は、配列番号5で表される主要エピトープ部分の188番目から305番目までのアミノ酸配列である。本発明者が作製したF15タンパク質は、配列番号6で表される主要エピトープの一部を欠く223番目から292番目までのアミノ酸配列である。
また、本発明者らが作製したE2タンパク質は、配列番号8で表される216個のアミノ酸配列である。
上記培養ウイルス含有溶液から、F6タンパク質をコ−ドする遺伝子領域と相補的な配列を有するDNA配列を含む配列を常法により調製し、そのDNAを制限酵素で処理し、得られたF6タンパク質cDNA断片を、自体公知のベクターに導入して、該ベクターを用いて無細胞タンパク質合成系好適にはコムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を用いてF6タンパク質を合成する。合成したF6タンパク質は、そのままでも使用でき、また必要に応じて、常法の生化学的な精製方法、例えば、カラム等を用いて、回収し、所望により、メンブレンフィルタ−で濾過する方法等により精製することができる。
F6タンパク質を構成するアミノ酸は、必ずしも配列番号4に記載のアミノ酸配列と同一である必要はなく、該アミノ酸配列と同様の抗原性を維持するものであれば、F6タンパク質のアミノ酸配列に、適宜、欠失、置換、付加、挿入、逆位などの変異を導入したアミノ酸配列であってもよいし、さらには85%以上、より好ましくは90%、最も好ましくは95%以上の相同性があるアミノ酸配列でもよい。このようなタンパク質は、ポリペプチド若しくはタンパク質の精製法として公知のあらゆる方法で容易に調製が可能である。抗原性を維持するのに必要なアミノ酸配列が同定できれば、組み変えタンパク質に自体公知のタグを付けて、該タグに対してのアフィニテイー精製、又はそのタンパク質に対する抗体を使ってアフィニテイークロマトグラフィーをすれば容易に回収可能である。
また、当業者であれば、自体公知のスクリーニング手法により、エピトープ部分を同定し、適宜少なくとも3個以上、好ましくは5個〜15個のポリペプチドを合成して抗原物質として利用可能である。
加えて、上記同様な方法で、F12タンパク質、F15タンパク質、E2タンパク質も調製することができる。
【0028】
本発明の風疹ウイルスタンパク質とは、E1タンパク質の部分配列であるF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質並びにE2タンパク質であり、さらに風疹ウイルスの抗原性を維持している。また、各タンパク質は、無細胞タンパク質合成方法、より好ましくはコムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法より得られることにより風疹ウイルスの抗原性を維持することができる。
より詳しくは、以下の通りである。
(1)無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号4に記載のアミノ酸配列の7〜438個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
(2)無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号5に記載のアミノ酸配列の7〜118個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
(3)無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号6に記載のアミノ酸配列の7〜70個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
(4)無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号8に記載のアミノ酸配列の7〜216個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
また、コムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法を使用する風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持した以下のいずれか1のタンパク質。
(1)配列番号7のアミノ酸配列で表されるE1タンパク質
(2)上記(1)のタンパク質のアミノ酸配列において、置換 、欠失 、挿入 、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異 を含むアミノ酸配列を有するタンパク質。ここで、「数個のアミノ酸」とは、2〜9のいずれか1のアミノ酸数を示す。
なお、本発明の「風疹ウイルスの抗原性を維持したタンパク質」とは、抗風疹ウイルス抗体に特異的に認識されるための立体構造を維持した状態のタンパク質を意味する。
【0029】
(11)抗風疹ウイルス抗体の調製法
本発明では、上記のように調製された風疹ウイルスの抗原性を維持したタンパク質を使って、免疫学的に認識する抗体すなわち抗風疹ウイルス抗体が調製できる。該抗体は、配列番号4〜8のいずれから1の抗原性を維持したタンパク質に対する抗体である。
抗風疹ウイルス抗体は、抗原性を維持したタンパク質によって、アジュバンドの存在下または非存在下で、 単独でまたは担体に連結して、細胞性応答および/または体液性応答による誘導によって調製される。抗原は、配列番号4〜8のいずから1の抗原性を維持したタンパク質をそのまま免疫原として使用してもよいが、またこれらにより設計して調製してもよい。通常5個程度のアミノ酸からなる断片が抗原性領域を特徴付けていることから、例えば配列番号4〜8の配列を中心として、少なくとも5個のアミノ酸配列を抗原とする。小さすぎて抗原性が十分でない場合には、この抗原を、適当な担体に結合させればよい。
このような結合を得るための多くの方法が当該分野で公知であり、 それには、Pierce Company,Rockford,Illinoisから入手されるN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルチオ)プロピオネート(SPDP)およびスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC) を用いてジスルフィド結合を形成する方法が包含される〔例えばImmun.Rev.(1982)62:185〕。担体としては、それ自身が宿主に対して有害な抗体の生産を誘導しないものであれば、いずれの担体も用いられ得る。適当な担体は、典型的には、タンパク、多糖体、重合アミノ酸、アミノ酸共重合体および不活性ウイルス粒子がある。特に有用なタンパク質には、血清アルブミン、 キーホールリンペットヘモシアニン、免疫グロブリン分子、 チログロブリン、卵アルブミン、 テタヌス毒素 および当業者に公知の他のタンパクがある。
【0030】
調製された風疹ウイルスの抗原性を維持したタンパク質は、ポリクローナルおよびモノクローナルの両抗体を生産するのに用いられる。ポリクローナル抗体が所望であれば、選択された哺乳動物(例えば、マウス、 ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫する。免疫された動物から得られた血清を回収し、公知の方法によって処理する。ポリクローナル抗体を含有する血清が所望以外の抗原に対する抗体を含んでいる場合には、このポリクローナル抗体は免疫アフィニティークロマトグラフィーによって精製され得る。ポリクローナルな抗血清を生産し、加工処理する方法は、 当該分野では公知である。 例えばMayer およびWalker(1987):IMMUNOCHEMICAL METHODS INCELLAND MOLECULAR BIOLOGY (Academic Press, London)等に記載の方法である。
モノクローナル抗体もまた、当業者により容易に生産され得る。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を調製する一般的な方法は公知である。永久増殖性の抗体産生細胞系は、細胞融合によって調製することができる。さらに、腫瘍原性DNAを用いたBリンパ球の直接形質転換、 あるいはEpstein-Barrウイルスを用いたトランスフェクションのような他の方法によってもまた調製することができる。例えば、J. Virol. 60:1153.Schreier, M.ら(1980); Virology 162:167.Hammerlingら(1981);BritishMedical J. 295:946.Kennett ら(1980)等に記載の方法である。また、ヒトの疾患の診断・治療に使用可能なように、これらのモノクローナル抗体をヒト化することをも含む。
【0031】
(12)E1タンパク質、F6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質又はE2タンパク質を含む抗風疹ウイルス抗体検出試薬
本発明に係る未精製又は精製F6タンパク質を含む抗風疹ウイルス抗体検出試薬は、抗原性を維持したF6タンパク質を固定化用担体(プレートも含む)あるいは標識物質に結合させて用いることによってできるが、特には限定されない。固定化用担体としては、ポリスチレン樹脂、アクリルアミド樹脂、ラテックス粒子、ゼラチン粒子等が挙げられる。標識物質としては、酵素(ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼなど;酵素免疫測定法)、蛍光発光物質(FITCなど;蛍光免疫測定法)、ラジオアイソトープ(125Iなど;ラジオイムノアッセイ)、化学発光物質(ルミノールなど;化学発光イムノアッセイ)、金コロイド等が挙げられる。なお、本発明に係るF6タンパク質と固定化用担体あるいは標識物質とを結合させるとき、これらの間にスペーサー構造物を共有結合等により介在させてもよい。得られたF6タンパク質固定化用担体は、検体との非特異的な吸着を防止するために、ウシ血清アルブミン等を含む溶液中に懸濁させてブロッキング処理を行うことが望ましい。これにより、本発明のF6タンパク質を含む抗風疹ウイルス抗体検出試薬が調製される。また、該試薬を用いる測定法としては、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、ラジオイムノアッセイ、化学発光イムノアッセイ、粒子凝集法、免疫クロマト法等、あらゆる免疫測定法に用いることができる。
さらに、上記に示したF6タンパク質を含む抗風疹ウイルス抗体検出試薬と、洗浄液等を組み合わせた抗風疹ウイルス抗体検出キットは、迅速かつ容易な診断ツールとして提供できる。
加えて、上記同様な方法で、E1タンパク質、F12タンパク質、E2タンパク質又はF15タンパク質を含む抗風疹ウイルス抗体検出試薬も調製することができる。
【0032】
(12)E1タンパク質、F6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質又はE2タンパク質を用いる抗風疹ウイルス抗体検出方法
本発明の未精製F6タンパク質又は本発明の試薬を用いた抗風疹ウイルス抗体検出方法は、粒子凝集法により、例えば、次のように使用される。被検者から採取した血清を、適当な緩衝液により希釈し、反応容器に添加し、続いて本発明の未精製F6タンパク質又は本発明の試薬である F6タンパク質固定化用担体も添加する。また、コントロール(予め、風疹 ウイルス非感染であることが確認された血清を希釈した液であり、凝集を生じない)も同様な操作を行う。
ここで、被験者から摂取した血清とコントロールの反応容器中の状態を確認、比較すると、風疹感染の診断、及びワクチン接種効果を判定することができる。
【0033】
本発明の未精製F6タンパク質又は本発明の試薬を用いた抗風疹ウイルス抗体検出方法は、ELISA法により、例えば、次のように使用される。被検者から採取した血清を、適当な緩衝液により希釈し、容器中の本発明の未精製F6タンパク質又は本発明の試薬である F6タンパク質固定化用担体(プレート)に添加する。続いて、標識抗ヒトIgG抗体を添加し、その後パーオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを添加し、最後に基質を添加して、吸光度を測定する。また、コントロール(予め、風疹ウイルス非感染であることが確認された血清を希釈した液)も同様な操作を行う。
ここで、被験者から採取した血清とコントロールのプレート中の状態を確認、比較すると、風疹感染の診断、及びワクチン接種効果を判定することができる。
【0034】
本発明の未精製F6タンパク質又は本発明の試薬を用いた抗風疹ウイルス抗体検出方法は、イムノクロマト法により、例えば、次のように使用される。被検者から採取した血清を、適当な緩衝液により希釈し、これを膜状の反応容器に添加する。添加した血清は、膜上を展開し、該反応溶液のF6タンパク質固定化用担体部位に到達する(未精製F6タンパク質を用いた場合には、適当な担体に未精製F6タンパク質を固定しておく)。ここで、F6タンパク質と血清中の抗風疹ウイルスF6タンパク質抗体との免疫複合体が形成される。次に、ヒト型イムノグロブリンに対する抗体を結合させた担体粒子を含む溶液を、血清を滴下した位置と同一の位置に滴下する。該溶液も同様に膜上を展開し、F6タンパク質と血清中の抗風疹ウイルスF6タンパク質抗体との免疫複合体が形成された部位に到達する。その位置で、膜−F6タンパク質−抗風疹ウイルスF6抗体−抗ヒト型イムノグロブリンタンパク質−担体粒子複合体が形成され、反応容器の膜上には該担体粒子の着色が肉眼で確認できる。一方、コントロール(予め、風疹ウイルス非感染であることが確認された血清を希釈した液)の場合には、該複合体が形成されず、着色は認められない。
加えて、上記同様な方法で、E1タンパク質、F12タンパク質、E2タンパク質又はF15タンパク質を用いる抗風疹ウイルス抗体検出方法とすることができる。
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
無細胞タンパク質合成
(1)コムギ胚芽抽出液の調製
北海道産チホクコムギ種子又は愛媛産チクゴイズミを1分間に100gの割合でミル(Fritsch社製:Rotor Speed Millpulverisette14型)に添加し、回転数8,000rpmで種子を温和に粉砕した。篩いで発芽能を有する胚芽を含む画分(メッシュサイズ0.7〜1.00mm)を回収した後、四塩化炭素とシクロヘキサンの混合液(容量比=四塩化炭素:シクロヘキサン=2.4:1)を用いた浮選によって、発芽能を有する胚芽を含む浮上画分を回収し、室温乾燥によって有機溶媒を除去した後、室温送風によって混在する種皮等の不純物を除去して粗胚芽画分を得た。
次に、ベルト式色彩選別機BLM−300K(製造元:株式会社安西製作所、発売元:株式会社安西総業)を用いて、次の通り、色彩の違いを利用して粗胚芽画分から胚芽を選別した。この色彩選別機は、粗胚芽画分に光を照射する手段、粗胚芽画分からの反射光及び/又は透過光を検出する手段、検出値と基準値とを比較する手段、基準値より外れたもの又は基準値内のものを選別除去する手段を有する装置である。
色彩選別機のベージュ色のベルト上に粗胚芽画分を1000乃至5000粒/cm2となるように供給し、ベルト上の粗胚芽画分に蛍光灯で光を照射して反射光を検出した。ベルトの搬送速度は、50m/分とした。受光センサーとして、モノクロのCCDラインセンサー(2048画素)を用いた。
まず、胚芽より色の黒い成分(種皮等)を除去するために、胚芽の輝度と種皮の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。次いで、胚乳を選別するために、胚芽の輝度と胚乳の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。吸引は、搬送ベルト上方約1cm位置に設置した吸引ノズル30個(長さ1cm当たり吸引ノズル1個並べたもの)を用いて行った。
この方法を繰り返すことにより胚芽の純度(任意のサンプル1g当たりに含まれる胚芽の重量割合)が98%以上になるまで胚芽を選別した。
得られたコムギ胚芽画分を4℃の蒸留水に懸濁し、超音波洗浄機を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄した。次いで、ノニデット(Nonidet:ナカライ・テクトニクス社製)P40の0.5容量%溶液に懸濁し、超音波洗浄機を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄してコムギ胚芽を得、以下の操作を4℃で行った。
洗浄した胚芽湿重量に対して2倍容量の抽出溶媒(80mM HEPES−KOH pH7.8、200mM酢酸カリウム、10mM酢酸マグネシウム、8mMジチオスレイトール、(各0.6mMの20種類のL型アミノ酸を添加しておいてもよい))を加え、ワーリングブレンダーを用い、5,000〜20,000rpmで30秒間ずつ3回の胚芽の限定破砕を行った。このホモジネートから、高速遠心機を用いた30,000×g、30分間の遠心により得られる遠心上清を再度同様な条件で遠心し、上清を取得した。本試料は、−80℃以下の長期保存で活性の低下は見られなかった。取得した上清をポアサイズが0.2μmのフィルター(ニューステラデイスク25:倉敷紡績社製)を通し、ろ過滅菌と混入微細塵芥の除去を行った。
次に、このろ液をあらかじめ溶液〔40mM HEPES-KOH(pH7.8)、それぞれ100mM酢酸カリウム、5mM酢酸マグネシウム、8mMジチオスレイトール、各0.3mMの20種類L型アミノ酸混液(タンパク質の合成目的に応じて、アミノ酸を添加しなくてもよいし、標識アミノ酸であってもよい)〕で平衡化しておいたセファデックスG−25カラムでゲルろ過を行った。得られたろ液を、再度30,000×g、30分間の遠心し、回収した上清の濃度を、A260nmが90〜150(A260/A280=1.4〜1.6)に調整した。
得られたタンパク質合成用コムギ胚芽抽出物含有液に20mM HEPES-KOH(pH7.6)、100mM酢酸カリウム、2.65mM酢酸マグネシウム、0.380mMスペルミジン(ナカライ・テクトニクス社製)、各0.3mML型アミノ酸20種類、4mMジチオスレイトール、1.2mMATP(和光純薬社製)、0.25mMGTP(和光純薬社製)、16mMクレアチンリン酸(和光純薬社製)、1000U/mlRnaseinhibitor(TAKARA社製)、400μg/mlクレアチンキナーゼ(Roche社製)を添加して翻訳反応溶液原料を調製した。
【0037】
(2)F6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質、E2タンパク質の転写鋳型の調製
国立感染研究所より分与を受けた風疹ウイルスM33株は、BHK-21細胞で増殖を行った。ウイルス感染細胞はCPE(cytopathic effect)を確認した後に、ウイルス感染培養細胞ごと-80℃で凍結し、さらに3回の凍結融解を繰り返した。さらに、遠心分離(5000rpm,10min)で細胞残渣を除き、上清をウイルス培養液とした。
該ウイルス培養液からのウイルスRNAの抽出は、QlAamp Viral RNA Mini kit (QIAGEN)を用いた。逆転写反応は、Omniscript RT(QIAGEN)を用いてプライマー5'-CTATGCAGCAACAGGTGC-3'(配列番号1)でcDNA合成を行った。
また、F6タンパク質(配列番号4)の遺伝子(cDNA)は、以下のプライマーを用いて増幅させた。
E11-E11311:5'-GAGGAGGCTTTCACCTACCTCTGCA-3'(配列番号2)、5'-CTGCCGGGTCTCCGACACAGCAGT-3'(配列番号3)。
さらに、F12(配列番号5)、F15(配列番号6)、E2(配列番号8)は、以下のプライマーを用いて転写鋳型を作成した。
F12の転写鋳型(E1565-E1915):5'-CACGGACAACTCGAGGTCCA-3'(配列番号9)、5'-CTCGGGCATTTCGACGGTAG-3'(配列番号10)、
F15の転写鋳型(E1670-E1876):5'-AATTGTCATGGCCCCGATTG-3(配列番号11)'、5'-ACGTATGTGGAGTCCGCACTTG-3'(配列番号12)。
E2の転写鋳型(E24-E2217):5'-GAGACTCGAGCCCCGCGCTGATATG-3'(配列番号13:)、5'-GAGAGGATCCTCAAGTCGCACGTCCCATG-3'(配列番号14)
【0038】
(3)転写鋳型の調製と翻訳
上記(2)で増幅されたF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質、E2タンパク質のcDNAをそれぞれTOPO-TA cloning vector (invitrogen)に挿入し、その塩基配列を確認した。そして、そのプラスミドを鋳型としてとし、1mlの系で37℃、3hr転写を行った(Proc Natl Acad Sci USA,2002, vol 99, p14652-14657 :Sawasaki,T et al.)。得られたmRNAのペレット全量を1mlの上記(1)のコムギ胚芽Extract(60O.D.)抽出液に添加し26℃、48hrタンパク質合成を行った。
【0039】
(4)F6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質の発現の確認
上記合成したF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質をカラムで精製し、オートラジオグラフィーにより、タンパク質のバンドの位置を確認した(図1)。
なお、上記と同様な方法でE2タンパク質が合成できていることを確認した。
【実施例2】
【0040】
(1)ヒト血清中における抗風疹ウイルス抗体の検出
すでにHI抗体価が判明しているヒト血清の検体1(血清HI抗体価≧1024)、検体2(血清HI抗体価≧512)を用いて抗風疹ウイルス抗体の検出を、以下のELISA法で行った。
なお、陰性コントロールはGFPを用いた。
1:実施例1で得られたF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質含有溶液(未精製)を、50mM炭酸バッファー(pH9.6)で100、300、900倍希釈した後、96穴イムノプレート(Nunc)に100μl/wellずつ添加し、一晩4℃で固相化した。
2:ブロッキングを37℃、1時間行った。
3:1000、3000、9000倍に希釈した検体1、2の100μlを、各Wellに添加し、37℃、1時間の反応を行った。
4:ビオチン標識抗ヒトIgGウサギポリクローナル抗体(DAKO)100μlを、各Wellに添加し、37℃、1時間の反応を行った。
5:パーオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(DAKO)100μlを、各Wellに添加し、37℃、1時間の反応を行った。
6:5.5mM OPD(o-phenylenediamine)、12mM H2O2含有クエン酸緩衝液(pH5.0)基質を、各Wellに添加し、37℃、1時間の反応を行った。
7:492nmの波長により、各Wellの吸光度を測定した。
なお、上記ステップ毎に、200μlのPBS Tween20(0.05%)で3回洗浄したが、ステップ6の前の洗浄だけは5回行った。
【0041】
(2)ヒト血清中における抗風疹ウイルス抗体の検出の結果
検体1(図2)及び検体2(図3)の結果では、コントロールとの比較により、F6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質は、精製することなく血清中の抗風疹ウイルス抗体の検出に利用できた。すなわち、E1タンパク質の部分配列であるF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質でも血清中の抗風疹ウイルス抗体の検出に利用することができる。さらに、F6タンパク質を用いた場合には、血清の希釈によるOD値の減少が確認できた。
【実施例3】
【0042】
(1)ヒト血清中における抗風疹ウイルス抗体の検出
血清HI抗体価が8倍未満から1024以上の既知検体138件を用いて、精製した合成タンパク質を抗原とした抗風疹ウイルス抗体の検出を、以下のELISA法で行った。
なお、陰性コントロールはGFPとブランクを用いた。
1:実施例1で得られた後に、グルタチオンカラムを用いて精製したF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質を、50mM炭酸バッファー(pH9.6)で希釈し、次のようにそれぞれのタンパク質分子数を一致させた。
(F6;1000ng/ml、F12;270ng/ml、F15;160ng/ml)
(F6;3700ng/ml、F12;1000ng/ml、F15;600ng/ml)
2:96穴イムノプレート(Nunc;MaxiSorp)に、1の希釈タンパク質溶液を50μl/wellずつ添加し、一晩4℃で固相化した。
3:ブロッキング剤(Nacalai;Blocking One)を200μl/wellずつ添加し、 37℃、1時間反応させた。
4:100倍および200倍に希釈した検体50μlを、各Wellに添加し、37℃、1時間の反応を行った。
5:パーオキシダーゼ標識抗ヒトIgGウサギポリクローナル抗体(DAKO)を、50μl/wellずつ添加し、37℃、1時間の反応を行った。
6:o-phenylenediamine(0.4mg/ml)と30% H2O2を0.02vol%含むクエン酸緩衝液(pH5.0)(0.1Mクエン酸の48.6容と0.2Mリン酸水素二ナトリウムの51.4容とを混合)を、50μl/wellずつ添加し、室温30分の反応を行った後、反応停止液として2M硫酸を50μl/wellずつ加えた。
7:492nmの波長により、各Wellの吸光度を測定した。
なお、上記ステップ毎に、300μlのPBS Tween20(0.05%)で3回ずつ洗浄したが、ステップ6の前の洗浄だけは5回行った。
【0043】
(2)ヒト血清中における抗風疹ウイルス抗体の検出の結果
F6;1000ng/ml、F12;270ng/ml、F15;160ng/mlの各タンパク質に100倍血清希釈を反応させた場合と、F6;3700ng/ml、F12;1000ng/ml、F15;500ng/mlの各タンパク質に200倍血清希釈を反応させた場合とでは、同じような結果が得られたが、血清希釈が200倍の方が良い反応性を示した(図4)。これにより、部分配列であるF6タンパク質、F12タンパク質、又はF15タンパク質を用いた場合であっても、血清中の抗風疹ウイルス抗体の検出を十分にできることが証明された。
さらに、各タンパク質を抗原として用いたELISA法の測定値は、HI抗体価と良い相関を示し、これらのタンパク質のいずれを用いても、血清中の抗風疹ウイルス抗体の定量検出ができることが分かった。
【実施例4】
【0044】
風疹ウイルスタンパク質から調製されたマウス免疫血清と風疹ウイルスタンパク質の反応性の確認
(1)マウス免疫血清の調製
実施例1で得られたF6タンパク質、F12タンパク質をそれぞれ10μg/50μl PBSに濃度調整し、75μl のフロイント完全アジュバント(和光純薬)と共に乳化させ、8週齢のBALB/c雌マウス(日本クレア)2匹の腹腔内に投与した。初回免疫から3週間後にフロイント不完全アジュバント(和光純薬)を用いて追加免疫を行い、以後2週間間隔で合計3回追加免疫を行った。合計4回目の免疫から2週間後にエーテル麻酔下で心臓から全採血を行った。採決後、血液を室温で1時間、さらに4度で一晩置き、翌日血清分離を行った。分離した血清は、-80度で実験に使用するまで凍結保存した。
(2)本発明の風疹ウイルスタンパク質とマウス免疫血清のELISA法による測定
1:実施例1で得られたF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質含有溶液(精製済み)を、50mM炭酸バッファー(pH9.6)でF6;3000ng/ml、F12;2000ng/ml、F15;3000ng/ml に調整した後、96穴イムノプレート(Nunc)に50μl/wellずつ添加し、一晩4℃で固相化した。
2:ブロッキングを37℃、1時間行った。
3:上記(1)で調製した2匹のマウスからそれぞれ得られた別々のマウス免疫血清(図5中の(1)、(2))を25倍〜12800倍までの2倍希釈マスターダィリューションを作成し、続いて各Wellに添加し、37℃、1時間の反応を行った。
4:パーオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリンヤギポリクローナル抗体50μlを、各Wellに添加し、37℃、1時間の反応を行った。
5:5.5mM OPD(o-phenylenediamine)、12mM H2O2含有クエン酸緩衝液(pH5.0)基質を、各Wellに添加し、37℃、1時間の反応を行った。
6:492nmの波長により、各Wellの吸光度を測定した。
なお、上記ステップ毎に、300μlのPBS Tween20(0.05%)で3回洗浄したが、ステップ5の前の洗浄だけは5回行った。
【0045】
(3)本発明の風疹ウイルスタンパク質とマウス免疫血清のELISA法による測定の結果
F6タンパク質、F12タンパク質のそれぞれから調製されたマウス免疫血清は、F6、F12、F15のいずれに対しても良好な特異的反応を示した(図5)。
以上の結果より、本発明の風疹ウイルスタンパク質から調製された免疫血清中には、風疹ウイルス抗原を特異的に認識できる抗体が生産できることがわかった。
【実施例5】
【0046】
E2タンパク質を用いてのヒト血清中における抗風疹ウイルス抗体の検出
1:実施例1で得られたF12タンパク質、E2タンパク質含有溶液(精製済み)を、50mM炭酸バッファー(pH9.6)でF12;2000ng/ml、E2;2000ng/mlに調整した後、96穴イムノプレート(Nunc)に100μl/wellずつ添加し、一晩4℃で固相化した。
2:ブロッキングを37℃、1時間行った。
3:実施例3で用いた血清を200倍に希釈した後、F12とE2の各Wellに50μlずつ添加し、37℃、1時間の反応を行った。
4:パーオキシダーゼ標識抗ヒトIgGウサギポリクローナル抗体(DAKO)50μlを、各Wellに添加し、37℃、1時間の反応を行った。
5:5.5mM OPD(o-phenylenediamine)、12mM H2O2含有クエン酸緩衝液(pH5.0)基質を、各Wellに添加し、37℃、1時間の反応を行った。
6:492nmの波長により、各Wellの吸光度を測定した。
なお、上記ステップ毎に、300μlのPBS Tween20(0.05%)で3回洗浄したが、ステップ5の前の洗浄だけは5回行った。
また、陽性基準としてデンカ生研(株)の「コントロール ルベラIgG」キットを使用した。該キットでは、陽性判断は4EIA価が示すOD値以上であり、陰性判断は2EIA価が示すOD値以下である。4EIA価を測定すると、OD値は0.21(平均)であった。よって、本発明ではOD値が0.21以上を陽性であると判断した。
【0047】
(2)E2タンパク質を用いてのヒト血清中における抗風疹ウイルス抗体の検出の結果
E2タンパク質においても陽性と判断されるOD値を0.2以上とした場合、E2タンパク質で0.2以上を示すすべてのヒト血清は、F12タンパク質でもOD値0.2以上を示した。
以上により、E2タンパク質は、F12タンパク質と同様に、抗原性を維持しており、さらに抗風疹ウイルス抗体を認識できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の産業上の利用可能性は、無細胞タンパク質合成方法特にコムギ胚芽抽出物を利用した無細胞タンパク質合成系で、抗原性を維持したF6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質、E2タンパク質の大量製造に成功し、該タンパク質を用いて抗風疹ウイルス抗体の検出方法及び検出キットを提供できることにある。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】F6タンパク質、F12タンパク質、F15タンパク質の合成及び精製の確認の結果を示す。矢印は、目的タンパク質のバンドを表す。
【図2】検体1の血清中の抗風疹ウイルス抗体の検出結果を示す。
【図3】検体2の血清中の抗風疹ウイルス抗体の検出結果を示す。
【図4】138検体の血清中の抗風疹ウイルス抗体の検出結果を示す。
【図5】本発明の風疹ウイルスタンパク質とマウス免疫血清のELISA測定の結果
【図6】E2タンパク質を用いてのヒト血清中における抗風疹ウイルス抗体の検出

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞タンパク質合成方法を使用する風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持した以下のいずれか1のタンパク質の製造方法。
(1)配列番号4のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(2)配列番号5のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(3)配列番号6のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(4)配列番号8のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(5)上記(1)−(4)のいずれか1のタンパク質のアミノ酸配列において、置換 、欠失 、挿入 、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異 を含むアミノ酸配列を有するタンパク質
【請求項2】
コムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
コムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法を使用する風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持した以下のいずれか1のタンパク質の製造方法。
(1)配列番号7のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(2)上記(1)のタンパク質のアミノ酸配列において、置換 、欠失 、挿入 、付加および逆位からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸の変異 を含むアミノ酸配列を有するタンパク質
【請求項4】
胚乳及び低分子合成阻害物質が実質的に除去されたコムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法である請求項1〜3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項5】
無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号4に記載のアミノ酸配列の7〜438個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
【請求項6】
無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号5に記載のアミノ酸配列の7〜118個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
【請求項7】
無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号6に記載のアミノ酸配列の7〜70個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
【請求項8】
無細胞タンパク質合成方法より得られる配列番号8に記載のアミノ酸配列の7〜216個の連続したアミノ酸からなる風疹ウイルス(Rubella virus)の抗原性を維持したタンパク質。
【請求項9】
コムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成方法である請求項5−8のいずれか1に記載のタンパク質。
【請求項10】
請求項1−4のいずれか1に記載のタンパク質の製造方法で得られるタンパク質又は請求項5−9のいずれか1に記載のタンパク質を認識する抗風疹ウイルス抗体。
【請求項11】
請求項1−4のいずれか1に記載のタンパク質の製造方法で得られるタンパク質又は請求項5−9のいずれか1に記載のタンパク質を用いる抗風疹ウイルス抗体の検出方法。
【請求項12】
請求項1−4のいずれか1に記載のタンパク質の製造方法で得られるタンパク質又は請求項5−9のいずれか1に記載のタンパク質を含む抗風疹ウイルス抗体検出試薬。
【請求項13】
請求項12に記載の抗風疹ウイルス抗体検出試薬を含む抗風疹ウイルス抗体検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−191477(P2007−191477A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346072(P2006−346072)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(503094117)株式会社セルフリーサイエンス (19)
【Fターム(参考)】